(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ヘリサート
(51)【国際特許分類】
F16B 37/12 20060101AFI20220203BHJP
F16F 1/06 20060101ALI20220203BHJP
F16F 1/02 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
F16B37/12 B
F16F1/06 A
F16F1/02 A
F16F1/02 B
(21)【出願番号】P 2020528661
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2018025760
(87)【国際公開番号】W WO2020008639
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】391016680
【氏名又は名称】株式会社松尾工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】507346889
【氏名又は名称】株式会社iMott
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】松尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩本 喜直
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-509115(JP,A)
【文献】特開2018-007751(JP,A)
【文献】特開2010-240161(JP,A)
【文献】特許第4677625(JP,B2)
【文献】特許第6006872(JP,B2)
【文献】特許第6071895(JP,B2)
【文献】特開2002-038912(JP,A)
【文献】特開2010-255759(JP,A)
【文献】特許第5980788(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B23/00-43/02
F16F1/00-6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状のヘリサートであって、Ti-Nb系合金を用いて形成されて
なり、かつコイル部はその軸線方向の一方の端部側を低ヤング率、反対側の端部側を高ヤング率として、途中のコイル部のヤング率を連続的に傾斜させたことを特徴とするヘリサート。
【請求項2】
該Ti-Nb系合金がTi
3(Nb,Ta,V)+(Zr,Hf)+Oで表される請求項1に記載のヘリサート。
【請求項3】
該Ti-Nb系合金が、Ti-23Nb-2Zr-0.7Ta-O(mol%)、Ti-12Ta-9Nb-3V-6Zr-O(mol%)、またはTi-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)である請求項2に記載のヘリサート。
【請求項4】
ヘリサートのコイルにおいて締結の応力を受ける面にDLC膜を被覆した請求項1~3のいずれか一項に記載のヘリサート。
【請求項5】
Ti-Nb系合金を用いて形成されかつコイル状のヘリサートに、ヘリサートのコイル部の軸線方向の一方の端部側から反対側の端部側に向かって不均一な熱処理を施し、
コイル部は該一方の端部側を低ヤング率、該反対側の端部側を高ヤング率として、途中のコイル部のヤング率を連続的に傾斜させたヘリサートを得ることを特徴とするヘリサートの製造方法。
【請求項6】
該Ti-Nb系合金がTi
3
(Nb,Ta,V)+(Zr,Hf)+Oで表される請求項5に記載のヘリサートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結用のネジ山に均等に負荷を分担させるヘリサートに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部材を組み合わせてなる構造体では、互いに蝶合する雄ネジと雌ネジを利用して部材同士を固定する方法がある。例えば、雄ネジの一種であるボルトを一方の部材に貫通させ、他の部材に形成した雌ネジにそのボルトを差し込み締め付ければ、ネジ作用により二つの部材が固定される。また、ボルトを二つの部材に貫通させ、ナットを利用して、ボルトをナットに嵌合し、締め付け、同様にボルト・ナットのネジ作用により、二つの部材は固定される。
【0003】
このような構造体の固定においては、負荷荷重を想定し、安全率を考慮して部材の素材や寸法などが決定される。しかし、雌ネジ部材の素材が限定されることがあり、例えば、プラスティック材や、非鉄金属、例えば、アルミニウム材などを雌ネジとして固定する場合、例えば、ボルトに鉄系材料を用いると、両部材の強度が過度に違いすぎ、部材間に衝撃荷重が度々印加されると、柔らかい側の部材のネジ山は破損し、締結ができなくなることがある。このような場合、ヘリサートがよく使用される。ヘリサートは例えばステンレス製など、硬度の高い素材が用いられる。
【0004】
通常、ネジによる締結では、たとえばナットにおいては、ナットの締結側(被締結物に接する側)の3ネジ山程度が負荷を分担し、残りのネジ山、特に開放側(ナットの締結側と反対側)のネジ山は負荷の分担にほとんど寄与していない。ヘリサートによる締結においても同様で、締結側の3コイル程度までが負荷を分担し、残りのコイルは余り負荷分担に寄与していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヘリサートのコイル毎の荷重負荷をより均等にし得るヘリサートを提供することにある。すなわち、本発明は、従来の非均等負荷分担を改良する均等負荷分担型のヘリサートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の問題を解決するために、以下の発明を提供するものである。
(1)Ti-Nb系合金を用いて形成されてなることを特徴とするヘリサート。
(2)該Ti-Nb系合金がTi3(Nb,Ta,V)+(Zr,Hf)+Oで表される上記(1)に記載のヘリサート。
(3)該Ti-Nb系合金が、Ti-23Nb-2Zr-0.7Ta-O(mol%)、Ti-12Ta-9Nb-3V-6Zr-O(mol%)、またはTi-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)である上記(2)に記載のヘリサート。
(4)ヘリサートのコイルにおいて応力を受ける面にDLC膜を被覆した上記(1)~(3)のいずれかに記載のヘリサート。
(5)ヘリサートのコイル断面に垂直な高さ方向にヤング率を傾斜させてなるヘリサート。
(6)ヘリサートのコイル断面に垂直な高さ方向に不均一な熱処理を施し、高さ方向にヤング率を傾斜させたヘリサートを得ることを特徴とするヘリサートの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のヘリサートの一例の外観を示す。従来の一般的なヘリサートと同様な外観のものとすることができる。
【
図2】従来のステンレス材(SUS304)と本発明の一例である超弾性Ti-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)を用いたヘリサートのそれぞれの歪―応力特性を比較して示す。
【
図3】本発明のヘリサートが、基材へのネジ加工のために基材ネジ穴にセットされる様子を示す図。
【
図4】本発明のヘリサートにおいて、ヘリサート断面に垂直な高さ方向のヤング率を変化させた、すなわち、高さ方向にヤング率を傾斜させた例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のヘリサートは、Ti-Nb系合金を用いて形成されてなる。このTi-Nb系合金はヤング率が45~90GPa程度(時効硬化処理条件で可変)であり、鉄鋼系材料の約200~210GPaに比較して小さい。他方、硬度は冷間加工時 HV≒400、引張強度は900~1100MPa程度であり変形しやすいが破断しにくい。また、冷間加工しやすい特徴を持つ。
【0009】
ヘリサートは、断面が菱形形状の線材をコイル状に巻いて形成されるのが通常である。断面の菱形の頂角は通常60度である。通常、ステンレス材(たとえばSUS304)が使用される。
【0010】
図1は、本発明の一実施態様を示すヘリサートの外観図である。外観は、従来のヘリサートの外観と同じであってもよい。
図1において、1は、ヘリサート、2は、コイルの線材、3は、突起(タングともいわれる)、4は、コイル断面に垂直方向を示す。2のコイル線材は、頂角60度の菱形形状に加工される。3は、ヘリサートを締結用基材に装着するときに使用する突起で、この突起(挿入セット後に切り取る)を用いて基材ネジ穴に回転して装着するために用いられる。
図1では突起3を有する例を示したが、ヘリサート1をネジ穴に装着するのに有用な他の方法、たとえばコイルの一部に工具掛け用の溝を形成してもよい。
【0011】
本発明のヘリサートは、断面が頂角60度の菱形の線状に作製したTi-Nb系超弾性材料、例えば、Ti3(Nb,Ta,V)+(Zr,Hf)+O、好適にはTi-23Nb-2Zr-0.7Ta-O(mol%)、Ti-12Ta-9Nb-3V-6Zr-O(mol%)、またはTi-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)をコイル状に所定の高さとなるように巻くことで達成される。幾何寸法は従来のステンレス製ヘリサートと同様でよい。
【0012】
図2は、従来のステンレス材(SUS304)と本発明の一例である超弾性Ti-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)を用いたヘリサートの歪―応力特性を比較して示す。
図2において、(a) はステンレス材(SUS304)、(b)は超弾性Ti-36Nb-2Ta-3Zr-O(mol%)の歪―応力特性を示す。(b)で示す超弾性Ti-Nb系材料は、非常に広い弾性変形能を有するのが特徴である。
【0013】
通常のステンレス製のヘリサートでは締結側(被締結物に接する側)の1コイル目が最大の負荷を分担し、2段目になると負荷分担が減り、精々3コイル程度までが締結負荷を分担し、それ以外のコイルはほとんど締結時の負荷を分担しない。本発明のTi-Nb系材料で作製したヘリサートを締結用のナットに使用すると、締結側のコイルに負荷が与えられると容易に弾性変形し、弾性変形状態が負荷される荷重に応じて変わり、自立的に全コイルで負荷を分散して分担するようになる。
【0014】
図3は、本発明のヘリサートが、基材へのネジ加工のために基材ネジ穴にセットされる様子を示す図である。
図3において、////部分はボルトが入る部分を示す。後述するように、コイル断面に垂直な高さ方向にヤング率を傾斜させてなるヘリサートとする場合、図のボルト挿入側(すなわち下方)のヤング率を低くする。
【0015】
更に時効硬化熱処理を施した場合、ヤング率は上昇し、弾性変形能は小さくなる。ネジ山で考えれば硬くなる様に変化する。高さ方向で熱処理条件を変えることによりネジ山のヤング率が傾斜し、ボルト入口側のヘリサートコイル部は低ヤング率、逆の反対側のボルト出口側のヘリサートコイル部は相対的に高ヤング率として、途中のヘリサートコイル部を連続的にヤング率を傾斜させたネジ山となる。
【0016】
ボルト入口側では高負荷を負担しているがコイルの低ヤング率により負荷に応じてネジ山は弾性変形して、次のネジ山に負荷応力を渡し、順次ボルト出口側のネジに負荷応力を渡していく。出口に近づくに従いヤング率が高まるため、弾性変形が少なくなり負荷を多く負担することができる。このようにして従来締結側3ネジ山程度で締結負荷を分担していた状態から、多くのネジ山で締結負荷を分散して分担できるように改善することができる。さらに、結果的に負荷分散することによって、全体としてより多くの負荷を受けることが可能となる。
【0017】
図4は、ヘリサートのコイル断面に垂直な高さ方向にヤング率を傾斜させたイメージ図を示しているが、Ti-Nb系合金を用いたヘリサートでは、45~90GPa程度が得られる。
図4においては、ヤング率を高さ方向に直線的に変化させた例を示すが、曲線的に変化させることもできる。
【0018】
一般的な時効硬化の方法は、真空熱処理炉に投入し、全体を同じ温度にして所要時間保持し、ヤング率、硬度を均一にする方法をとる。本発明の好適な態様においては、コイル状のヘリサートを、不活性ガス雰囲気中で、片側は冷却、他方側を加熱し、一定時間保持してコイル面に垂直な高さ方向に不均一な熱処理を施すことでヘリサートコイルの断面に垂直な高さ方向に傾斜したヤング率を有するヘリサートが得られる。
【0019】
不均一な熱処理としては、たとえば、不活性ガス雰囲気中で1~3分間、高さ方向の一方側を誘導加熱して600~800℃程度に保持し、そして他方側を流水に曝して冷却して行われる。
【0020】
これによりボルト側ネジ山及びネジ谷底で受ける締結応力がナットの応力負担している部分全体に分散するため、ネジ山・谷底への応力集中が少なくなる。ボルト・ナットの多くの山で負荷を分散して受けるため外力への許容が大きくなることで締結の安定が増加する。
【0021】
本発明の好適な態様において、締結負荷を受けるヘリサートのコイル面がDLC(ダイヤモンド状炭素)膜を被覆される。DLC膜の堆積法としては気相堆積法が好適であり、たとえば直流、交流もしくは高周波等を電源とするプラズマCVDまたはマグネトロンスパッタもしくはイオンビームスパッタ等のスパッタ法が挙げられる。PVD(物理的気相堆積法)も使用され得る。これらのDLC膜の膜厚は通常50nm~500μm程度から選択される。
【0022】
さらに、本発明の好適な態様において、コイル断面に垂直な高さ方向(
図1の4の方向)にヤング率を傾斜させてなるヘリサートが提供される。ここで高さ方向のヤング率の傾斜は、Ti-Nb系合金を用いて製作したヘリサートでは45~90GPa程度が得られる。
【0023】
このようなヘリサートは、一実施態様において、ヘリサートのコイル面に垂直な高さ方向に不均一な熱処理を施して得られる。
【0024】
不均一な熱処理は、上記のように、たとえば、不活性ガス雰囲気中で1~3分間、ヘリサートの高さ方向の一方側を誘導加熱して600~800℃程度に保持し、そして他方側を流水に曝して冷却して行われる。
【0025】
このようなヘリサートの材質は、好適には上記のTi-Nb系合金を用いて製作されるが、これらに限定されず、鉄鋼系、高分子系材料等であってもよい。
【0026】
本発明では、Ti-Nb系材料を用いたヘリサートについて適用した場合を述べたが、これに限らない。本発明のヘリサートは、イリサート(登録商標)やエンザートなどの、他のいわゆるインサートナットを含む。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、従来の非均等負荷分担を改良する均等負荷分担型のヘリサートを提供し得る。
【符号の説明】
【0028】
1 ヘリサート
2 コイルの線材
3 突起
4 コイル断面に垂直方向