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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】メタン合成装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/12 20060101AFI20220119BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20220119BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220119BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220119BHJP
【FI】
C07C1/12
C07C9/04
C25B1/04
C25B9/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017217736
(22)【出願日】2017-11-10
(65)【公開番号】P2019089713
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-11-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構 平成26年度戦略創造研究推進事業(CREST) 「再生可能エネルギーからのエネルギーキャリアの製造とその利用のための革新的基盤技術の創出」委託研究、及び平成27年度研究成果展開事業マッチングプランナープログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】597103023
【氏名又は名称】株式会社 ケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】曽根 理嗣
(72)【発明者】
【氏名】オマール メンドーサ
(72)【発明者】
【氏名】島 明日香
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝之
(72)【発明者】
【氏名】井上 光浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 広重
(72)【発明者】
【氏名】寺山 友規
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元彦
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513531(JP,A)
【文献】特開2005-281198(JP,A)
【文献】特表2017-507239(JP,A)
【文献】特表2013-532774(JP,A)
【文献】曽根理嗣,再生可能エネルギー利用による水素製造とエネルギーキャリアとしてのメタン製造技術の研究,第23回燃料電池シンポジウム講演予稿集,2016年05月26日,pp.109-111,B20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/12
C07C 9/04
C25B 1/04
C25B 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素側電極膜、電解質膜、酸素側電極膜、前記水素側電極膜及び酸素側電極膜のいずれかの側から前記電解質膜の表面へ液体の水を供給する水供給手段を含む水電解部と、
前記水電解部の前記水素側電極膜に隣接して設けられたサバチエ反応部と、
前記サバチエ反応部へ二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給部と、
前記水電解部における水の電気分解によって生成された水素ガスを前記サバチエ反応部へ供給する水素ガス供給部と、
を備え、
前記サバチエ反応部に供給された前記二酸化炭素含有ガスと前記水素ガスとのサバチエ反応によりメタンガスを合成する、メタン合成装置。
【請求項2】
前記水電解部、前記サバチエ反応部、前記二酸化炭素供給部、前記水素ガス供給部が積層されて一体化されており、
前記サバチエ反応部が、前記水電解部の前記水素側電極膜の側に積層されている、請求項1に記載のメタン合成装置。
【請求項3】
前記サバチエ反応部における反応熱が前記水電解部に供給される、請求項1又は2に記載のメタン合成装置。
【請求項4】
前記水素側電極膜には前記水素側電極膜の前記電解質膜と反対の側にガスセパレータが配置され、前記ガスセパレータの前記水素側電極膜と接する側に前記水素側電極膜の複数のスリットと整列するように複数の溝が形成され、前記水供給手段は、前記ガスセパレータの前記複数の溝及び前記水素側電極膜の前記複数のスリットを介して前記電解質膜の表面へ液体の水を供給する、請求項1~3の何れか一項に記載のメタン合成装置。
【請求項5】
前記水素側電極膜における前記複数のスリット間の梯子状部には他方の面まで貫通する通気孔が形成され、前記通気孔は、前記水電解部における水の電気分解によって生成された水素ガスを通過させて前記水素ガス供給部へ供給する、請求項4に記載のメタン合成装置。
【請求項6】
さらに、ガス混合部を備え、前記ガス混合部は、前記二酸化炭素供給部から供給される前記二酸化炭素含有ガスと前記水素ガス供給部から供給される前記水素ガスとを内部に形成されたガス流路で混合し、混合された二酸化炭素含有ガスと水素ガスとを前記サバチエ反応部へ供給する、請求項1乃至5の何れか一項に記載のメタン合成装置。
【請求項7】
前記サバチエ反応部と前記水素側電極膜との間に第1のガスセパレータが配置され、前記水供給手段は前記酸素側電極膜の側にあって前記酸素側電極膜の側から前記電解質膜の表面へ液体の水を供給し、前記第1のガスセパレータは、前記水素側電極膜と前記電解質膜との間で液体の水から分離された水素ガスを通過させて前記サバチエ反応部へ直接供給する、請求項1に記載のメタン合成装置。
【請求項8】
前記酸素側電極膜には複数のスリットと、スリットとスリットとの間の複数の梯子状部が形成され、前記酸素側電極膜の前記電解質膜と反対の側には液体の水から分離された酸素含有ガスを通過させる第2のガスセパレータが配置され、前記第2のガスセパレータの前記酸素側電極膜と接する側には前記酸素側電極膜の前記複数のスリットと整列するように複数の溝が形成され、前記水供給手段は、前記第2のガスセパレータの前記複数の溝及び前記酸素側電極膜の前記複数のスリットを介して前記電解質膜の表面へ液体の水を供給する、請求項7に記載のメタン合成装置。
【請求項9】
前記サバチエ反応部は、多孔性金属メッシュ及びこれにサバチエ触媒を担持させたものを含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のメタン合成装置。
【請求項10】
前記メタンガスが流通するメタンガス流通部が前記サバチエ反応部に隣接して設けられた、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のメタン合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解によって生成される水素を利用してメタンを合成するメタン合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの用途拡大が期待される中で、再生可能エネルギーを使用して水を電気分解して水素を生成させ、これを燃焼あるいは燃料電池反応により資源として活用する試みが進んでいる。さらに、水電解反応により生成された水素と、空気中の二酸化炭素とを反応させてメタンを合成し、これをエネルギーキャリアとすることが研究されている。メタンは天然ガスの代替としての使用が見込まれており、こうして得られたメタンを天然ガスの代替として利用して二酸化炭素が排出さても、元々空気中にあったものが空気中に戻るだけであるため、余分な二酸化炭素が排出されることはない。また、メタンは同じ体積の水素に対して密度として4分の3のエネルギーを保持することができる。このためメタンは、優れたエネルギーキャリアとしての利活用が期待されている。
【0003】
水素と二酸化炭素を反応させてメタンを合成する手法として、サバチエ反応が知られている。この反応は、水素と二酸化炭素を触媒反応させてメタンと水を生成させる手法であり、350℃程度で二酸化炭素の水素による還元率が100%近くに達する反応であるため、高効率の二酸化炭素ガス還元が可能である。またこの反応は発熱を伴う自律反応であり、外部からの熱エネルギー等の供給なしに反応を持続することが可能となるため、サバチエ反応を応用することにより、再生可能エネルギーからエネルギーキャリアへの効率的な変換が可能になることが期待される。
【0004】
水電解反応によって水素を生成し、これをサバチエ反応に利用してメタンを生成できることはこれまでも知られていたし、実際にこれらの反応を組み合わせてメタンを生成することが提案されている。これまで知られているものは、水電解反応とサバチエ反応について別々の反応槽を用意し、水電解槽で生成された水素を一旦貯蔵してからサバチエ反応槽へ供給するか、あるいは貯蔵をしなくても水電解槽で生成された水素を専用の配管を通してサバチエ反応槽へ供給してメタンを生成するという構造のものであり、装置全体が大きくかさばるものとなり、また、全体の構造も複雑なものとなっていた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-281198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述の課題を克服し、装置全体を小型化しかつ単純な構造としたメタン合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るメタン合成装置は、水素側電極膜、電解質膜、酸素側電極膜、前記水素側電極膜及び酸素側電極膜のいずれかの側から前記電解質膜の表面へ液体の水を供給する水供給手段を含む水電解部と、
前記水電解部の前記水素側電極膜に隣接して設けられたサバチエ反応部と、
前記サバチエ反応部へ二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給部と、
前記水電解部における水の電気分解によって生成された水素ガスを前記サバチエ反応部へ供給する水素ガス供給部と、
を備え、前記サバチエ反応部に供給された前記二酸化炭素含有ガスと前記水素ガスとのサバチエ反応によりメタンガスを合成することを特徴とする。
【0008】
前記水電解部、前記サバチエ反応部、前記二酸化炭素供給部、前記水素ガス供給部が積層されて一体化されており、前記サバチエ反応部が、前記水電解部の前記水素側電極膜の側に積層されているものとすることができる。
【0009】
前記サバチエ反応部における反応熱が前記水電解部に供給されるものとすることができる。
【0010】
前記水素側電極膜には複数のスリットと、スリットとスリットとの間の複数の梯子状部が形成され、前記水素側電極膜の前記電解質膜と反対の側にはガスセパレータが配置され、前記ガスセパレータの前記水素側電極膜と接する側には前記水素側電極膜の前記複数のスリットと整列するように複数の溝が形成され、前記水供給手段は、前記ガスセパレータの前記複数の溝及び前記水素側電極膜の前記複数のスリットを介して前記電解質膜の表面へ液体の水を供給するものとすることができる。
【0011】
前記水素側電極膜における前記複数のスリット間の梯子状部には他方の面まで貫通する通気孔が形成され、前記通気孔は、前記水電解部における水の電気分解によって生成された水素ガスを通過させて前記水素ガス供給部へ供給するものとすることができる。
【0012】
さらに、ガス混合部を備え、前記ガス混合部は、前記二酸化炭素供給部から供給される前記二酸化炭素含有ガスと前記水素ガス供給部から供給される前記水素ガスとを内部に形成されたガス流路で混合し、混合された二酸化炭素含有ガスと水素ガスとを前記サバチエ反応部へ供給するものとすることができる。
【0013】
前記サバチエ反応部と前記水素側電極膜との間に第1のガスセパレータが配置され、前記水供給手段は前記酸素側電極膜の側にあって前記酸素側電極膜の側から前記電解質膜の表面へ液体の水を供給し、前記第1のガスセパレータは、前記水素側電極膜と前記電解質膜との間で液体の水から分離された水素ガスを通過させて前記サバチエ反応部へ直接供給するものとすることができる。
【0014】
前記酸素側電極膜には複数のスリットと、スリットとスリットとの間の複数の梯子状部が形成され、前記酸素側電極膜の前記電解質膜と反対の側には液体の水から分離された酸素含有ガスを通過させる第2のガスセパレータが配置され、前記第2のガスセパレータの前記酸素側電極膜と接する側には前記酸素側電極膜の前記複数のスリットと整列するように複数の溝が形成され、前記水供給手段は、前記第2のガスセパレータの前記複数の溝及び前記酸素側電極膜の前記複数のスリットを介して前記電解質膜の表面へ液体の水を供給するものとすることができる。
【0015】
前記サバチエ反応部は、多孔性金属メッシュ及びこれにサバチエ触媒を担持させたものを含むものとすることができる。
【0016】
前記メタンガスが流通するメタンガス流通部が前記サバチエ反応部に隣接して設けられたものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、水電解部と、サバチエ反応部と、二酸化炭素供給部と、水素ガス供給部とを積層して一体化したことにより、装置全体を小型化しかつ単純な構造としたメタン合成装置を提供することができる。特に、各部品をプレート状に形成するようにすれば、装置全体の厚みを低減し、よりコンパクトにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態1に係るメタン合成装置100の正面図(同図(a))及び斜視図(同図(b))である。を示しており、図2図1に示したメタン合成装置100の各部品を図中の矢印101の方向に相互に離間して示した分解図である。
図2図1に示したメタン合成装置の各部品を相互に離間して示した分解図である。
図3図2に示したメタン合成装置における液体の水(H2O)が流れる全体的な経路を分かりやすく示した図である。
図4図2に示したガスセパレータの、図2の右側の面の一部を示した図である。
図5図4に示した溝及び板状部の部分のみを示した斜視図である。
図6図4のA-Aに沿って紙面に垂直かつ溝に平行な方向に切った断面図である。
図7】メタン合成装置を組み立てたときにガスセパレータとガスケットにはめ込まれる水素側電極膜とがどのような位置関係にあるかを示した平面図である。
図8図2に示したガスセパレータ、ガスケット、水素側電極膜、電解質膜、酸素側電極膜、ガスケット、酸素側のガスセパレータの各部品を密着して得られる水電解部を板状部と垂直に切った断面を模式的に示した拡大図である。
図9】水電解部で生成された水素ガスが一旦装置の外部へ排出される経路を示した図である。
図10】水電解部で生成された酸素ガスが装置の外部へ排出される経路を示した図である。
図11】水素ガスと二酸化炭素ガスとが混合される経路を示した図である。
図12】ガス混合プレートの正面図である。
図13】水素ガスと二酸化炭素ガスの混合ガスがサバチエ反応触媒に供給される経路を示した図である。
図14】サバチエ反応プレートの正面図である。
図15】サバチエ反応プレートにおけるガスの流れ方を説明する図である。
図16】本発明の実施形態2に係るメタン生成装置の一部を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るメタン合成装置100の正面図(同図(a))及び斜視図(同図(b))を示しており、図2図1に示したメタン合成装置100の各部品を図中の矢印101の方向に相互に離間して示した分解図である。メタン合成装置100は、図2に示す左側のエンドプレート2から右側のエンドプレート23までの各部品から構成され、複数のボルト及びナットを締着してこれらの各部品を互いに密着させルことによって、図1に示すようにコンパクトに組み立てられる。図2に示した各部品は、符号3~9のサバチエ反応部と、符号13~21の水電解部と、その他の部品とに分けることができる。
【0020】
まず、水電解部について説明する。図3は、図2に示したメタン合成装置100における液体の水(H2O)が流れる全体的な経路を示した図である。外部から供給される液体の水は、水入口110から入って水電解部のガスセパレータ13(第1のガスセパレータ)に送られて水電解反応に使用され、反応に使用されなかった水はガスセパレータ13から最終的に水出口111へ送られて外部へ排出される。
【0021】
図4は、図2に示したガスセパレータ13の、図2の右側の面(図2において見えない面)の一部を示した図である。ただし、この面に形成されている溝の数及び配置は実際のものとは異なる。図4に示すように、ガスセパレータ13の中央部には、その厚さ方向(図4の紙面に垂直な方向)に掘られた複数の平行な細長い溝601~606が形成されている。各溝601~606はガスセパレータ13を貫通していないが、それぞれの両端部が水流路631及び632に繋がっている。また、溝と溝の間には細長い板状部611~615が形成されている。図5は、図4に示した溝601~606及び板状部611~615の部分のみを示した斜視図である。図5に示すように、板状部611~615及びこれと平行な両側の縁には、細長いガス流路621~627が設けられている。各ガス流路621~627は、ガスセパレータ13の裏側まで貫通している。
【0022】
図6は、図4のA-Aに沿って紙面に垂直かつ溝601~606に平行な方向に切った断面図である。同図に示すように、ガスセパレータ13の内部には水流路631及び632がトンネル状に形成されている。水流路631の一方はガスセパレータ13の上部の孔を介して図1に示す水入口110に繋がり、他方は各溝601~606に繋がっている。また、水流路632の一方はガスセパレータ13の下部の孔を介して水出口111と繋がり、他方は各溝601~606に繋がっている。
【0023】
図7は、メタン合成装置100を組み立てたときにガスセパレータ13とガスケット14にはめ込まれる水素側電極膜15とがどのような位置関係にあるかを示した平面図である。図7に示すように、水素側電極膜15に設けられた各スリット451~456は、ガスセパレータ13に設けられた対応する溝601~606と整列する。水素側電極膜15のスリットとスリットの間の梯子状部材461~467は、ガスセパレータ13の対応する板状部611~615及びこれらと平行な両側の縁と整列し、板状部611~615及び両側の縁に設けられているガス流路621~627を塞いでいる。これにより、後述のようにガス流路621~627に水が入り込むことが防止される。
【0024】
液体の水は、図3に示すガスセパレータ13の上部に設けられた孔から、図4に示すガスセパレータ13内部の水流路631を通って、ガスセパレータ13に設けられた多数の溝601~606へ導入される。そして水は、この多数の溝601~606から電解質膜16に対してその表面から供給される。その後、余分な水はガスセパレータ13の反対側に設けられた水流路632及び下部に設けられた孔を経て水出口111から排出される。図3に示す水が流れる全体的な経路は矢印101と平行に延びているが、ガスセパレータ13の内部に形成された水流路631及び632は、矢印101と垂直な方向、すなわちメタン合成装置100の積層方向と垂直な方向に延びている。
【0025】
図8は、図2に示したガスセパレータ13、ガスケット14、水素側電極膜15、電解質膜16、酸素側電極膜17、ガスケット18、酸素側のガスセパレータ19(第2のガスセパレータ)の各部品を密着して得られる水電解部を、図6とは異なり、板状部611~615と垂直に切った断面を模式的に示した拡大図である。
【0026】
電解質膜16を構成する固体電解質としては、プロトン(H+)伝導性の多孔質電解質を使用することができる。具体的な材料としては、例えば特許第5759687号公報に示されている無機セラミックス(例えば含水酸化チタンナノ粒子)を好適に使用することができる。電解質膜16を構成する固体電解質の別の例として、緻密電解質であるプロトン伝導性のナフィオン(登録商標)等を使用することもできる。
【0027】
電解質膜16を挟む水素側電極膜15及び酸素側電極膜17の材料としては、例えば特許第5759687号公報に示されているテフロン(登録商標)修飾多孔質カーボンを好適に使用することができる。この材料を使用することにより、その内部を酸素ガス及び水素ガスが透過できるようにすることができる。また、水素側電極膜15及び酸素側電極膜17は、全体として撥水処理が施され、強い撥水性を有している。これにより、水が水素側電極膜15及び酸素側電極膜17の内部へ浸入することを防ぐことができる。
【0028】
水素側電極膜15及び酸素側電極膜17の電解質膜16と接合する側の表面には、それぞれ触媒層351及び361が形成されている。触媒材料としては、特許第5759687号公報に示されている白金担持カーボンを好適に使用することができる。触媒は、原子層で数層程度あれば十分であり、そのために例えばスプレーで触媒材料を噴霧状にして吹きつけるなどの方法を適用できる。また、ここでは水素側電極膜15及び酸素側電極膜17に触媒層を形成しているが、電解質膜16の表面に触媒層を形成するようにしてもよい。
【0029】
水の電気分解に際し、水素側電極膜15に負、酸素側電極膜17に正の電圧を印加すると、水素側電極膜15と電解質膜16との界面(触媒層)で発生した水素ガスは、水素側電極膜15の梯子状部材461~467を透過してガスセパレータ13に設けられた対応するガス流路621~627へ導かれ、さらにガス収集器11、12によって収集されたあと、図9に示す経路で、エンドプレート2に設けられたガス出口112、113へ送られ、一旦排出される。
【0030】
一方、酸素側電極膜17と電解質膜16との界面(触媒層)で発生した酸素ガスは、平面状の酸素側電極膜17の内部を拡散されながら透過し、ガスセパレータ19のガス流路64へ導かれ、ここを通ってガス収集器20、21によって収集されたあと、図10に示す経路で、エンドプレート2に設けられたガス出口114、115へ送られ、排出される。
【0031】
前述のように、水素側電極膜15及び酸素側電極膜17は強い撥水性を備えている。これにより、外部から水流路63、溝601~606、スリット451~456を通って電解質膜16へ供給される水が、水素側電極膜15、酸素側電極膜17へ入り込むことはない。したがって、酸素ガス、水素ガスの経路と、水の経路とは完全に分離され、これらが混ざり合うことはない。また、本実施形態の水電解部は、固体電解質からなる電解質膜16の表面に直接水が供給される。供給された水は、撥水性の水素側電極膜15、酸素側電極膜17によって塞ぎ止められ、水素側電極膜15、酸素側電極膜17の内部やガスセパレータ13、19の内部へは浸入しない。すなわち、水の経路、酸素ガスの経路、水素ガスの経路が完全に独立し、互いに切り離される。
【0032】
次に、サバチエ反応部について説明する。水電解部によって生成され、上述のガス出口112、113(図9参照)から一旦排出された水素ガスは、図11に示すように、ガス入口116から再び装置内部へ導入され、カバープレート8の一方の小孔118へと送られる。一方、これとは別にガス入口117から導入される二酸化炭素ガスは、カバープレート8の他方の小孔119へ送られる。図11に示すように、カバープレート8の隣にはガス混合プレート9が接するように配置されている。
【0033】
図12は、ガス混合プレート9の正面図である。同図に示すように、ガス混合プレート9の一方の表面にはほぼ全体にわたって細い溝が形成されている。この溝は、ガス混合プレート9とカバープレート8とを密着させることによって、ガスが流れるガス通路となる。ガス混合プレート9の符号120で示す部分はカバープレート9の小孔118の位置に対応し、ここから水素ガスが導入される。一方、ガス混合プレート9の符号121で示す部分はカバープレート9の小孔119の位置に対応し、ここから二酸化炭素ガスが導入される。導入された水素ガス及び二酸化炭素ガスは、細長いガス通路を流れるあいだに混合される。この混合ガスは、ガス混合プレート9の符号122で示す部分に到達すると、カバープレート8に設けられたもう一つの小孔(不図示)を経て、図11に示すようにガス出口125から一旦装置の外部へ排出される。
【0034】
サバチエ用ガスケット5には、図13に示すようにサバチエ反応プレート7が隣接して配置されている。図14は、サバチエ反応プレート7の正面図である。図14に示すようにサバチエ反応プレート7には、3つの長方形の凹部71、72、73が形成されており、図13等でサバチエ反応プレート7と分離して描かれている3枚のサバチエ反応触媒6(61、62、63)は、装置を組み立てるときにサバチエ反応プレート7の凹部71、72、73に嵌め込まれる。そして、サバチエ反応プレート7とサバチエ用ガスケット5とを密着させることによって、サバチエ反応触媒6(61、62、63)はこれらの間に挟まれて内部に密閉される。
【0035】
サバチエ反応触媒61、62、63は、多孔性金属メッシュにサバチエ触媒を担持させたものである。これは、一例として、多孔性金属メッシュに液状の触媒を含浸させたあと乾燥させることによって得られる。
【0036】
ガス出口125から一旦装置の外へ排出された水素と二酸化炭素の混合ガスは、再びガス入口126から装置内部へ導入され、図13に示すように、サバチエ用ガスケット5に設けられた小孔127へ送られる。図14に符号128で示す部分はサバチエ用ガスケット5の小孔127の位置に対応し、サバチエ用ガスケット5に設けられた小孔127へ送られた水素と二酸化炭素の混合ガスは、この部分からサバチエ反応プレート7に導入される。
【0037】
図15は、サバチエ反応プレート7におけるガスの流れ方を説明する図である。サバチエ反応プレート7に導入された水素と二酸化炭素の混合ガスは、まずサバチエ反応触媒61の下部に供給され、ここからサバチエ反応触媒61の内部を上に向かって流れる。サバチエ反応触媒61の上部に達した混合ガスは、図15に示すように、一旦サバチエ反応触媒61から出て、密着して設けられているカバープレート4及びガスケット5の内部に設けられたマニホールドを横方向にサバチエ反応触媒62へ向かって方へ流れ、その上部からサバチエ反応触媒62に供給される。サバチエ反応触媒62に入った混合ガスはサバチエ反応触媒62の内部を下に向かってに流れる。サバチエ反応触媒62の下部に達した混合ガスは、一旦サバチエ反応触媒62から出てカバープレート4及びガスケット5の内部のマニホールドを横方向にサバチエ反応触媒63へ向かって流れ、その下部からサバチエ反応触媒63に供給され、サバチエ反応触媒63内を上に向かって流れ、その上部に達する。
【0038】
このように、水素と二酸化炭素の混合ガスがサバチエ反応触媒61、62、63を通過して行く間に、
8H2+2CO2→2CH4+4H2
というサバチエ反応が起こり、メタンガスと水のガス(水蒸気)が生成される。前述のように、サバチエ反応プレート7において、ガスは十分に長い距離にわたってサバチエ反応触媒の中を流れることから、導入された水素と二酸化炭素はサバチエ反応によってほぼ完全にメタンガスと水のガスへと変わる。
【0039】
生成されたメタンガスと水のガスは、サバチエ反応プレートの図14に符号129で示した部分に導かれる。この位置は、サバチエ用ガスケット5に設けられた小孔130に対応し、図13に示すように、ここからエンドプレート2に設けられたガス出口131へ流れる。このように、生成されたメタンガスは、最終的に出口131から得られる。得られたメタンガスは、エネルギーキャリアとして貯蔵するなど種々の利用に供することができる。
【0040】
図3図9図10図11図13では、メタン合成装置100の構造及び各種流体の流れを説明するために各部品を矢印101方向に分解して示しているが、実際に組み立てられるメタン合成装置100は、図1(b)に示すように極めて薄くコンパクトであり、さらに水電解部とサバチエ反応部とが一体化されている。このように薄くコンパクトであることから、メタン合成装置100内部における矢印101と平行な方向における各種ガスや液体の流通経路は非常に短いことが理解される。このため、水分解部によって生成された水素は、その直後にガス混合プレート9において二酸化炭素と混合され、直ちにサバチエ反応触媒61、62、63に供給され、メタンの生成に供される。
【0041】
ところで、水電解反応は吸熱反応であり、サバチエ反応は発熱反応である。本実施形態のように、水電解部とサバチエ反応部とを密着させることによって、水電解に使用する水の潜熱を利用し、サバチエ反応による発熱を有効に利用し、水電解反応の効率向上とメタン合成装置全体の熱暴走の抑止とが可能となる。このようにして、水電解反応とサバチエ反応を同時並行的に進行させることで、熱力学的に矛盾なく、投入電気エネルギーを上回るエネルギー利用効率によりメタン合成が可能となる。
【0042】
[実施形態2]
図16は、本発明の実施形態2に係るメタン生成装置200の一部を示した概略断面図であり、実施形態1における図8に対応する図である。図16でも図8と同様に電解質膜216を挟んで上が水素側、下が酸素側となるが、本実施形態ではガスセパレータ213が図の下側、すなわち酸素側に設けられ、酸素側から電解質膜216へ水が供給される。このため酸素側電極膜217には、図7に示すようなスリットが設けられ、図7と同様にガスセパレータ213に設けられた対応する溝と整列するようにされている。そして、実施形態1の場合と同様にガスセパレータ213内部に設けられた水流路及び多数の溝を通して電解質膜216の表面へ水が供給される。水素側電極膜215及び酸素側電極膜217の電解質膜216と接合する側の表面に撥水処理が施された触媒層250、251が形成されている点も、実施形態1と同様である。
【0043】
水素側電極膜215の上には、これと接するようにサバチエ反応触媒膜252が配置されている。このサバチエ反応触媒膜252は、実施形態1におけるサバチエ反応触媒61、62、63と同様に、多孔性金属メッシュに液状の触媒を含浸させたあと乾燥させることによって得られる。
【0044】
水電解に際して水素側電極膜215に負、酸素側電極膜217に正の電圧を印加すると、酸素側電極膜217と電解質膜216との界面(触媒層)で発生した酸素ガスは、酸素側電極膜217の梯子状部材を透過してガスセパレータ213に設けられた対応するガス流路260及び261を通って、最終的に外部へ放出される。一方、水素側電極膜215と電解質膜216との界面(触媒層)で発生した水素ガスは、平面状の水素側電極膜215を透過して、サバチエ反応触媒膜252に浸透する。
【0045】
サバチエ反応触媒膜252には、図16に示すように、同図の側方から二酸化炭素ガスが供給される。サバチエ反応触媒膜252の内部では、外部から供給された二酸化炭素ガスと水電解によって発生した水素ガスとの間でサバチエ反応が起こり、メタンガスが生成される。生成されたメタンガスは、例えばサバチエ反応触媒膜252の上部に設けられたガス流路253(メタンガス流通部)を通して、外部へ取り出される。
【0046】
このように、サバチエ反応触媒膜252を水素側電極膜215と接するように配置するようにすれば、実施形態1との関連で述べたような、水電解に使用する水の潜熱を利用し、サバチエ反応による発熱を有効に利用し、水電解反応の効率向上とメタン合成装置全体の熱暴走の抑止とが可能となる。しかも、サバチエ反応触媒膜252と水素側電極膜215とをより密接に配置できるため、その効果もより高まる。
【0047】
なお、実施形態2では、図16の右側から二酸化炭素ガスを供給したが、両側から二酸化炭素を供給する構成も可能であるし、また、図16の上部からサバチエ反応触媒膜252の面全体に二酸化炭素を供給するよう構成することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
4 カバープレート
5 サバチエ用ガスケット
6,61,62,63 サバチエ触媒
7 サバチエ反応プレート
8 カバープレート
9 ガス混合プレート
13,19,213 ガスセパレータ
14,18 ガスケット
15,215 水素側電極膜
16,216 電解質膜
17,217 酸素側電極膜
351,361 触媒層
461~467 梯子状部材
601~606
611~615 板状部
621~627 ガス流路
631,632 水流路
100,200 メタン合成装置
110 水入口
111 水出口
112,113,114,115,125,131 ガス出口
116,117,126 ガス入口
250、251 触媒層
252 サバチエ反応触媒膜
260,261 ガス流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16