(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20220203BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220203BHJP
A23K 30/00 20160101ALI20220203BHJP
A01F 25/13 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
G01N33/00 A
A23K10/30
A23K30/00
A01F25/13 Z
(21)【出願番号】P 2018011512
(22)【出願日】2018-01-26
【審査請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】391028122
【氏名又は名称】株式会社ガステック
(73)【特許権者】
【識別番号】000192903
【氏名又は名称】神奈川県
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 四郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 脩
(72)【発明者】
【氏名】折原 健太郎
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-208405(JP,A)
【文献】国際公開第2005/066625(WO,A1)
【文献】池田四郎、外3名,パッシブインジケータ法を用いた調製直後のサイレージから放散される酸性および塩基性ガスのスクリーニング,日本草地学会誌,日本,2017年03月20日,Vol.63,Page.133
【文献】中川脩、外3名,パウチサイロを用いたサイレージの発酵品質に影響を及ぼす因子の推定,日本草地学会誌,Vol.63,日本,2017年03月20日,Page.132
【文献】池田四郎、外4名,調製直後のサイレージから放散されるガス状物質の測定方法に関する検討,日本草地学会誌,日本,2017年03月20日,Vol.63,Page.67
【文献】池田四郎,アンモニアを対象とした室内環境学研究のこれまでと今後,室内環境,日本,2018年,Vol.21,No.2,Page.129-138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
A23K 10/30
A23K 30/00
A01F 25/13
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牧草を所定の形状に押し固めて合成樹脂製のフィルムで被覆したサイレージの飼料の品質評価方法であって、
前記フィルムの外側
に放散ガス測定器を貼り付け、前記サイレージの内部から
前記フィルムを透過して放出される放散ガスを
前記放散ガス測定器によって経時的に測定し、前記放散ガスの放散アンモニアの量の変化によって、前記サイレージの飼料の品質を
評価し、
前記放散アンモニアの量が経時的に増加する場合又は経時的に微増する場合は高品質であると評価し、経時的に減少する場合は劣悪品質であると評価すること
を特徴とする放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法。
【請求項2】
前記フィルムの外側にパッシブフラックスサンプラーを取り付けて、前記サイレージの内部から放出される放散ガスを測定すること
を特徴とする請求項1に記載の放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法。
【請求項3】
パッシブインジケーターを使用して、前記放散ガスの存在を色の変色で定量的に確認できるパッシブインジケーター法により、前記サイレージの内部から放出される前記放散ガスを測定すること
を特徴とする請求項1に記載の放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放散ガスを利用したサイレージ(牧草を所定の形状に押し固めて合成樹脂製のフィルムで被覆して外気を遮断するように形成したものを「サイレージ」と称する。以下、特許請求の範囲を含めて同じ。)の品質評価方法とそのための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サイレージの飼料の発酵品質評価は、農林水産省の関連団体から出版されている「粗飼料の品質評価ガイドブック(自給飼料品質評価研究会編)」に示された手法にしたがって、Vスコア値を算出しておこなわれるのが一般的な方法である(非特許文献1参照)。
【0003】
Vスコア値は、飼料に含有されるアンモニアや乳酸、酢酸、酪酸等の化学成分、あるいは抽出液のpHを定量して、それぞれの数値を基に算出される。
【0004】
なお、本願出願人は、サイレージの飼料の発酵品質評価方法について、特許情報プラットフォームの特許・実用新案テキスト検索で、「サイレージ」「品質」「放散ガス」「ガス」「漏出ガス」「牧草」「発酵」等のキーワードを用いて先行技術の検索を行ったが、サイレージの飼料の発酵品質評価方法及びそのための装置についての出願例あるいは登録例は全く見当たらない。
【0005】
サイレージの飼料の品質を向上させるための出願としては、特開2003-276123号公報「牧草用フィルム」(特許文献1参照)、特開2017-35031号公報「発酵飼料の製造方法」(特許文献2参照)、特開2004-261025号公報「サイレージの調製方法」(特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「粗飼料の品質評価ガイドブック」自給飼料品質評価研究会編
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-276123号公報
【文献】特開2017-35031号公報
【文献】特開2004-261025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の「粗飼料の品質評価ガイドブック」に示された手法による、サイレージの飼料の発酵品質評価においては、被覆するフィルムを切って、内部の飼料を取り出してサンプリングを行い、溶媒抽出等して化学成分を測定するが、評価に供されたサイレージは商品価値がなくなってしまうという問題点を有している。
【0009】
また、サイレージは、直径が約1.5m、高さが約1m程度のサイズであるが、全量を分析するのではないために、サンプルを抽出した位置の違いによって、その分析結果と実際の商品の品質とが一致しないことがある。その場合は、分析結果の信頼性が揺らぐこととなるという問題点を有している。
【0010】
飼料の分析には、高価な分析装置が必要であり、また、専門的な知識が必要であることから、一般の畜産農家や流通業者等が、必要な時に簡単に飼料の分析をすることができないという問題点を有している。
【0011】
サイレージは、畜産農家等へ販売されるが、変敗が見つかるのは使用時であることが多い。その場合は、品質保証上の責任の所在が、生産者にあるのか、流通業者にあるのか、あるいは、購入後の保管に問題があって購入者に責任があるのかが不明確であるという商品取引上の問題点を有している。
【0012】
従って、従来例における場合においては、評価に供されたサイレージの商品価値が失われないことと、サンプルを抽出した位置の違いによる分析結果のバラツキを防ぎ信頼性を向上させることと、畜産農家等が必要な時に簡単に飼料の分析をできるようにすることと、飼料の変敗が発見された場合の責任の所在を明確にできることとに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、牧草を所定の形状に押し固めて合成樹脂製のフィルムで被覆したサイレージの飼料の品質評価方法であって、前記フィルムの外側に放散ガス測定器を貼り付け、前記サイレージの内部から前記フィルムを透過して放出される放散ガスを前記放散ガス測定器によって経時的に測定し、前記放散ガスの放散アンモニアの量の変化によって、前記サイレージの飼料の品質を評価し、前記放散アンモニアの量が経時的に増加する場合又は経時的に微増する場合は高品質であると評価し、経時的に減少する場合は劣悪品質であると評価することである。
【0014】
前記フィルムの外側にパッシブフラックスサンプラーを取り付けて、前記サイレージの内部から放出される放散ガスを測定すること、;
パッシブインジケーターを使用して、前記放散ガスの存在を色の変色で定量的に確認できるパッシブインジケーター法により、前記サイレージの内部から放出される前記放散ガスを測定すること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法によれば、フィルムの外側でサイレージの内部から放出される放散ガスを放散ガス測定器によって経時的に測定し、放散ガスの放散アンモニアの量の変化によって、サイレージの飼料の品質を評価することにより、従来の複雑かつ専門性を要する評価方法が、本発明の簡易でかつ定量性、信頼性を備える評価方法に置き換わることとなる。
したがって、サイレージの品質向上や変敗が起こるメカニズムの解明及び対策等に関する知見の増加が期待される。
また、化学分析せずパッシブサンプラーで捕集したガス濃度を目視で判定できるパッシブパッシブインジケーター法によれば、分析機器が不要となり、分析に要する費用が大幅に削減できるだけでなく、現地での評価が可能となるという種々の優れた効果を奏する。
【0018】
簡易な方法で同時多検体の測定が可能になるために、従来の部分的にサンプルを抽出した位置の違いによる分析結果のバラツキを防止できることとなり、より正確な品質評価の情報が得られるようになるという優れた効果を奏する。
【0019】
一般に市販されている放散ガス測定器によって簡易な測定ができるので、測定の費用が安価になるだけでなく、サイレージの生産者、流通業者、購入者がそれぞれ簡単に品質評価を実施することが可能である。したがって、品質の高い商品の安定供給に資するだけでなく、不良品返品の減少や品質劣化に伴うトラブルの低減も期待できるという優れた効果を奏する。
【0020】
サイレージの品質評価は、従来のように被覆するフィルムを切って飼料のサンプリングを行わないので、評価に供されたサイレージの商品価値は失われないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のサイレージの品質評価方法、及び従来のVスコア測定において、高品質の場合の説明図である。
【
図2】本発明のサイレージの品質評価方法、及び従来のVスコア測定において、劣悪品質(変敗)の場合の説明図である。
【
図5】実施例1のVスコア測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法は、
図1及び
図2に示すように、フィルム1で被覆されたサイレージ2の外側で、当該サイレージ2の内部から放出される放散ガスを放散ガス測定器3によって経時的に測定し、放散ガスの放散アンモニアの量の変化によって、サイレージ2の飼料の品質を評価する品質評価方法である。
放散ガス測定器3(例えば、パッシブインジケーター)は、フィルム1の外側に貼り付けてもよく、あるいは、最上層のフィルム1の内側に挟み込んで取り付けてもよい。
【0023】
即ち、
図1に示すように、放散アンモニアの量が経時的に増加する場合、微増する場合又は変化がない場合は、サイレージの飼料の品質が高品質であると評価される。また、
図2に示すように、放散アンモニアの量が経時的に減少する場合は、サイレージの飼料の品質が劣悪品質(変敗)であると評価される。
【0024】
次に、良質サイレージの発酵過程について、
図3に示して説明する。
(1)サイレージの内部では、植物(牧草)の呼吸により酸素が消費される。
(2)好気性細菌の作用でアミノ酸が分解されたアンモニアが生成される。ただし、(1)の過程での酸素の減少でアンモニアの生成は終息する。代わりに嫌気性細菌である乳酸菌がはたらき、乳酸が生成されて、pHが低下する。
(3)pHが好気性細菌の活動を抑えられる程度まで下がると、安定した乳酸発酵がなされる。
(4)生成されたアンモニアは、気体となり、フィルムを透過して大気中に放出される。
このような過程を経るので、サイレージの放散アンモニアの量が経時的に増加する場合、微増する場合は、サイレージの飼料の品質が高品質であると評価される。
【0025】
次に、不良サイレージの発酵過程について、
図4に示して説明する。
(1)サイレージの内部では、植物(牧草)の呼吸による酸素の消費が不十分である。
(2)好気性細菌の作用でアミノ酸が分解されてアンモニアが生成される。嫌気性細菌である乳酸菌がはたらき、乳酸が生成されるが、pHの低下が不十分であると酪酸等が生成されて、酸の量が増加する。
(3)相対的に酸が増えるため、アンモニアは酸との塩を生成してフィルム内で固定される。
(4)気体状のアンモニアの放出量は経時的に減少する。
このような過程を経るので、サイレージの放散アンモニアの量が経時的に減少する場合は、サイレージの飼料の品質が劣悪品質(変敗)であると評価される。
【実施例1】
【0026】
次に、実施例1を説明し、その結果を
図5のグラフに示す。
〈方法〉:神奈川県内で栽培したイタリアンライグラスを刈り取って、即日ロールベーラーを用いてサイレージを2つ調製した。
この調製したサイレージの側面にアンモニア捕集用のパッシブフラックスサンプラー
(放散ガス測定器3)を貼り付け、3時間放散ガスを捕集した。
この捕集操作を調製日から33日目まで継続的に実施した後に、サンプラーに捕集されたアンモニアを液体クロマトグラフ法により定量分析した。
33日後に、各サイレージを開封して中身の牧草を常法により処理して抽出液を作成し、抽出液のpH、揮発性塩基窒素、乳酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸を測定し、この測定値からVスコアを算出した。
【0027】
〈結果〉:
図5のグラフに示すとおり、Vスコア測定の結果、サンプル1ではVスコアが100となり、良性発酵であ
り、サイレージのフィルムの外側に貼り付けたパッシブフラックスサンプラーは、良性発酵サンプルでは経時的に増加し
た。
一方、サンプル2ではVスコアが0となり、不良発酵であり、サイレージのフィルムの外側に貼り付けたパッシブフラックスサンプラーは、不良発酵サンプルでは経時的に減少した。
このような結果から、サイレージの放散アンモニアの量が経時的に増加する場合、微増する場合は、サイレージの飼料の品質が高品質であると評価される。また、放散アンモニアの量が経時的に減少する場合は、サイレージの飼料の品質が劣悪品質(変敗)であると評価される。
【実施例2】
【0028】
次に、実施例2について、
図6に示して説明する。
図6は、サイレージの飼料の品質評価方法とそのための装置であって、フィルムの外側でサイレージの内部から放出される放散ガスを測定する放散ガス測定器を示している。
放散ガス測定器は具体的には、貼付タブレット型、又は貼付シート型であり、これらはサイレージのフィルムの外側に貼付して使用する。
【実施例3】
【0029】
次に、実施例3について、
図7に示して説明する。
図7は、サイレージを袋又は容器等に収納して、その袋等の中で、サイレージの内部から放出される放散ガスを測定する方法と放散ガス測定器を示す。
放散ガス測定器は具体的には、タブレット型、検知管、ガスモニター、あるいはガスセンサーである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の放散ガスを利用したサイレージの品質評価方法とそのための装置は、ロールベールサイレージに限ることなく、固定式サイロであるバンカーサイロや地下式サイロ、仮設サイロであるスタックサイロ、あるいは、様々なタイプの可搬サイロ等に応用して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 フィルム
2 サイレージ
3 放散ガス測定器