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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】成膜用又は焼結用粉末
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/34 20200101AFI20220119BHJP
   C04B 35/44 20060101ALI20220119BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20220119BHJP
   C23C 24/00 20060101ALI20220119BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220119BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20220119BHJP
【FI】
C01F17/34
C04B35/44
C04B35/10
C23C24/00
C23C26/00 C
C23C4/11
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021540476
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011176
【審査請求日】2021-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2020084052
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592097244
【氏名又は名称】日本イットリウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 賢人
(72)【発明者】
【氏名】楯岡 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小川 寛央
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-157916(JP,A)
【文献】特許第6659073(JP,B1)
【文献】特開2020-183576(JP,A)
【文献】特開2000-044235(JP,A)
【文献】特開2013-224226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/34
C04B 35/44
C04B 35/10
C23C 24/00
C23C 26/00
C23C 4/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折測定において直方晶YAlOのピークと、立方晶YAl12又は単斜晶YAlのピークとが観察され、
X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大ピーク強度を示すピークであり、
X線回折測定において直方晶YAlO の(112)ピークの半値幅から求められる結晶子サイズが50nm以上であり、
水銀圧入法を用いて測定した細孔径に対する細孔容積の分布において、細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲と、細孔径5μm以上50μm以下の範囲にそれぞれピークを少なくとも一つ有し、細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.1mL/g以上であり、細孔径5μm以上50μm以下の細孔容積が0.1mL/g以上であり、細孔径5μm以上50μm以下の細孔容積に対する細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積の比が0.3以上であり、
CuKα線を用いたX線回折測定において、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶YAl12の(420)ピーク強度をS3とし、単斜晶YAlの(-221)ピーク強度をS4としたとき、S1に対するS3の比であるS3/S1の値及びS1に対するS4の比であるS4/S1の値がそれぞれ独立に1未満である、成膜用又は焼結用粉末。
【請求項2】
X線回折測定において三方晶Alのピークが観察されないか、又は三方晶Alのピークが観察される場合には、CuKα線を用いたX線回折測定において、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、三方晶Alの(104)ピーク強度をS2としたとき、S1に対するS2の比であるS2/S1の値が1未満である請求項1に記載の成膜用又は焼結用粉末。
【請求項3】
X線回折測定において立方晶Yのピークが観察されないか、又は立方晶Yのピークが観察される場合には、CuKα線を用いたX線回折測定において、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶Yの(222)ピーク強度をS5としたとき、S1に対するS5の比であるS5/S1の値が1以下である請求項1又は2に記載の成膜用又は焼結用粉末。
【請求項4】
BET比表面積が1m/g以上5m/g以下である請求項1ないしのいずれか一項に記載の成膜用又は焼結用粉末。
【請求項5】
平均粒子径が15μm以上の顆粒である請求項1ないしのいずれか一項に記載の成膜用又は焼結用粉末。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の成膜用又は焼結用粉末を溶射法又はPVD法により成膜する、皮膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用又は焼結用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造におけるエッチング工程ではハロゲン系ガスが用いられる。ハロゲン系ガスによるエッチング装置の腐食を防止するために、エッチング装置の内部は一般に、耐食性の高い物質を溶射膜によってコーティングされている。そのような高耐食性物質の一つとして、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等のイットリウムとアルミニウムとの複合酸化物を含む材料が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、溶射用粉末のX線回折を測定したとき、複合酸化物中のガーネット相の(420)面に由来するX線回折ピークと、複合酸化物中のペロブスカイト相の(420)面に由来するX線回折ピークと、複合酸化物中の単斜晶相の(-122)面に由来するX線回折ピークのうちの最大ピークの強度に対するイットリアの(222)面に由来するX線回折ピークの強度の比率が20%以下である溶射用粉末が記載されている。
【0004】
特許文献2には、イットリウム及びアルミニウムを含む原料粉末を造粒及び焼結して得られるイットリウム-アルミニウム複合酸化物造粒-焼結粒子を含有する溶射用粉末であって、前記造粒-焼結粒子における直径6μm以下の細孔の総容積が0.06~0.25cm/gであることを特徴とする溶射用粉末が記載されている。
【0005】
また本出願人は先に、X線回折測定において立方晶Y3Al512のピークと直方晶YAlO3のピークが観察され、立方晶Y3Al512の(420)ピークに対する直方晶YAlO3の(112)ピークの強度比が0.01以上1未満である成膜用又は焼結用粉末を提案した。この粉末によれば、プラズマエッチングに対する耐食性の高い皮膜又は焼結体を容易に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2006/116274A1
【文献】US2006/182969A1
【文献】特許第6659073号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の粉末を溶射して得られる皮膜はハロゲン系プラズマに対する十分な耐食性を有するものでなかった。
特許文献3に記載の粉末においては、ハロゲン系プラズマ耐性の低い三方晶Alの生成を抑制することを主な目的として、イットリウム・アルミニウム・ガーネットYAl12に比してY/Al比を高く制御している。このことに起因して、同文献に記載の粉末においては酸化イットリウムのピークが観察される場合がある。しかしながら実際の製造プロセス上、酸化イットリウムの含有量を任意に制御することは難しい。その結果、アルミニウム及びイットリウムを含む複合酸化物粉末において酸化イットリウムの含有量にばらつきが生じることがある。例えば酸化イットリウムの含有量が高い場合には、ハロゲン系プラズマを使用するエッチング条件においてエッチングレートが増加するなどの問題点があった。
したがって、本発明の課題は、前述した従来技術よりもプラズマエッチングに対する耐食性が一層向上した成膜用又は焼結用粉末を提供することにある。
【0008】
本発明者はイットリウムとアルミニウムの複合酸化物粉末について、安定的な製品の製造が容易な組成、及びハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を効果的に高める組成について鋭意検討した。その結果、特定の組成を採用することで、耐食性を効果的に高め得ることを見出した。
【0009】
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、X線回折測定において直方晶YAlOのピークが観察され、
X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大のピークである、成膜用又は焼結用粉末を提供するものである。
【0010】
また本発明は、前記成膜用又は焼結用粉末を溶射法又はPVD法により成膜する、皮膜の製造方法、及び成膜用又は焼結用粉末を溶射法又はPVD法により成膜してなる、皮膜を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、X線回折測定において直方晶YAlOのピークが観察され、
X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大のピークである粉末の、成膜又は焼結のための使用を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1で得られた粉末のXRD回折線図である。
図2図2は、実施例1で得られた粉末の細孔径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の成膜用又は焼結用粉末(以下「本発明の粉末」ともいう。)は、イットリウムとアルミニウムとを含む複合酸化物を含有している。
【0014】
(成膜用又は焼結用粉末の組成)
本発明の粉末をX線回折測定に付すと、直方晶YAlOに由来する回折ピークが観察される。かかる回折ピークが観察される本発明の粉末は、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングにおいて高い耐食性を示す。YAlOには、立方晶及び直方晶の2つの相が存在することが知られている。これら2つの相のうち、直方晶であるYAlOを含む粉末を用いて形成された膜及び焼結体は、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対して極めて安定であることが本発明者によって見出された。
【0015】
本発明の粉末は、直方晶YAlOのみからなることが、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性が高くなる点から望ましい。尤も、耐食性が損なわれない範囲において、本発明の粉末が、直方晶YAlO以外の酸化物を含有していることは妨げられない。本発明の粉末に直方晶YAlO以外の酸化物が含まれている場合、該酸化物としては例えば立方晶YAl12、単斜晶YAl、三方晶Al及び立方晶Yなどが挙げられる。本発明の粉末に、立方晶YAl12、単斜晶YAl、三方晶Al及び立方晶Yが含まれるか否かは、本発明の粉末をX線回折測定に付すことで確認できる。
【0016】
本発明の粉末は、X線回折測定においてアルミナ相のピークが観察されないか、又は観察されてもごく小さいことがハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を高める点で好ましい。この観点から、本発明の粉末を、CuKα線を用いたX線回折測定に付したとき、直方晶YAlOのピークに加えて三方晶Alのピークが観察される場合、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、三方晶Alの(104)ピーク強度をS2としたとき、S1に対するS2の比であるS2/S1の値が1未満であることが好ましい。この理由は、S2/S1の値が1未満である粉末から得られる皮膜や焼結体においては、直方晶YAlOが安定相として出現しやすく、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性が高くなるからである。またYAlOが直方晶であると、ハロゲン系プラズマに対して安定な組成の皮膜又は焼結体が得やすいと考えられるからである。これらの利点を一層顕著なものとする観点から、S2/S1の値は0.1以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、三方晶Alの(104)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0017】
本発明の粉末を、CuKα線を用いたX線回折測定に付したとき、直方晶YAlOのピークに加えて立方晶YAl12のピーク又は単斜晶YAlのピークが観察される場合、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶YAl12の(420)ピーク強度をS3とし、単斜晶YAlの(-221)ピーク強度をS4としたとき、S1に対するS3の比であるS3/S1の値及びS1に対するS4の比であるS4/S1の値がそれぞれ独立に1未満であることが好ましい。この理由は、本発明の粉末においては、(a)直方晶YAlOが安定相として出現しやすいこと、(b)直方晶YAlOがイットリウムとアルミニウムの複合酸化物の中でも最も高密度であり、これを含む皮膜や焼結体が高硬度になること、つまり物理的エッチング耐性が高いこと、及び(c)同様に高硬度を有する立方晶YAl12の単一組成と比して、直方晶YAlOは、ハロゲン系プラズマ耐性が高いことで知られているイットリウム成分をより多く含有する組成であることによる。
ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を一層高める観点から、S3/S1及びS4/S1の値はそれぞれ独立に0.5未満であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましく、立方晶YAl12の(420)ピーク及び単斜晶YAlの(-221)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0018】
本発明の粉末はYを含まないか、又は含む場合には微量であることが、ハロゲン系プラズマに対する耐食性を十分に発現させる点から好ましい。この観点から、本発明の粉末を、CuKα線を用いたX線回折測定に付したとき、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、立方晶Yの(222)ピーク強度をS5としとき、S1に対するS5の比であるS5/S1の値が1以下であることが好ましい。
ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を更に一層高める観点から、S5/S1の値は0.1以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、立方晶Yの(222)ピークが観察されないことが最も好ましい。
【0019】
CuKα線を用いたX線回折測定において直方晶YAlOの(112)ピークは2θ=34°付近に観察される。具体的には2θ=34.2°±0.4°の範囲に観察される。
また、CuKα線を用いたX線回折測定において三方晶Alの(104)ピークは、通常2θ=35°に観察される。具体的には35.2°±0.4°に観察される。
また、CuKα線を用いたX線回折測定において立方晶YAl12の(420)ピークは、通常2θ=33°付近に観察される。具体的には33.3°±0.4°の範囲に観察される。
更に、CuKα線を用いたX線回折測定において単斜晶YAlの(-221)ピークは、通常2θ=30°付近に観察される具体的には29.6°±0.15°の範囲に観察される。
更に、CuKα線を用いたX線回折測定において立方晶Yの(222)ピークは、通常2θ=29°付近に観察される具体的には29.2°±0.15°の範囲に観察される。
【0020】
本発明の粉末は、CuKα線を用いた2θ=20°~60°の走査範囲のX線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOに由来するピークが最大ピーク強度を示すピークであることが好ましい。特に本発明の粉末は、X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大ピーク強度を示すピークであることが好ましい。
【0021】
耐食性を一層高める点から、本発明の粉末はX線回折測定においてYAlO、YAl12、Al9、Al及びY以外の成分に由来するピークが実質的に観察されないことが好ましい。2θ=20°~60°の走査範囲において、YAlO、YAl12、Al9、Al及びY以外の成分xに由来するピークの強度をSxとしたとき、直方晶YAlOの(112)ピーク強度S1に対するSxの比であるSx/S1の値は0.1以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましい。Sx/S1の値は0であることが最も好ましい。
【0022】
(結晶子サイズ)
本発明の粉末は、直方晶YAlOの(112)ピークの半値幅から求められる結晶子サイズが50nm以上であることが、得られる皮膜又は焼結体における直方晶YAlOの結晶性が高くなり、皮膜又は焼結体の耐食性が一層高まる点から好ましい。この観点から、前記の結晶子サイズは60nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることが特に好ましい。また、上記の結晶子サイズは、本発明の粉末の製造容易性や粒成長による細孔容積の低下を防止する点から、110nm以下であることが好ましく、105nm以下であることがより好ましい。結晶子サイズはシェラーの式により求められ、具体的には後述する実施例に記載の方法にて求めることができる。
【0023】
本発明の粉末が上述した組成及び結晶子サイズを有するためには、後述する本発明の粉末の好ましい製造方法において、原料となるイットリウム源の粉末とアルミニウム源の粉末の粒径を調整したり、原料粉末の焼成温度を調整したりすればよい。
【0024】
(細孔容積)
本発明の粉末を用いて得られる皮膜や焼結体の耐食性を一層向上させる観点から、水銀圧入法を用いて測定した細孔径に対する細孔容積の分布(横軸:細孔径、縦軸:log微分細孔容積)において、細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲にピークが少なくとも一つ観察されることが好ましい。より一層効果的に耐食性を向上させる観点から、細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲のピークは、詳細には、細孔径0.2μm以上0.9μm以下の範囲に少なくとも一つ観察されることがより好ましく、細孔径0.2μm以上0.8μm以下の範囲に少なくとも一つ観察されることが特に好ましい。以下では、細孔容積の分布における細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲のピークを細孔第1ピークと記載する場合がある。
【0025】
本発明の粉末は、水銀圧入法を用いて測定した細孔径に対する細孔容積の分布(横軸:細孔径、縦軸:log微分細孔容積)において、細孔径0.1μm以上1μm以下の範囲に加えて、細孔径5μm以上50μm以下の範囲にも少なくとも一つのピークを有することが耐食性を一層向上させる観点から好ましい。本発明の粉末の製造容易性や皮膜及び焼結体の耐食性を一層向上させる点から、細孔径5μm以上50μm以下の範囲のピークは、詳細には、細孔径7μm以上35μm以下の範囲に少なくとも一つ観察されることがより好ましく、細孔径8μm以上25μm以下の範囲に少なくとも一つ観察されることが特に好ましい。以下では、細孔容積の分布における細孔径5μm以上50μm以下の範囲のピークを細孔第2ピークと記載する場合がある。
【0026】
本発明者は、本発明の粉末の細孔容積を特定の範囲に設定すると、得られる皮膜の表面粗さや焼結体の緻密さを制御できることを見出した。特に本発明の粉末を顆粒にした場合に、その細孔容積を特定の範囲に設定することが有利であることを見出した。皮膜の表面粗さや焼結体の緻密さは、ハロゲン系プラズマに対する耐食性と相関がある。したがって、皮膜及び焼結体の耐食性を、本発明の粉末の細孔容積により制御できる。具体的には、本発明の粉末は、水銀圧入法を用いて測定した細孔径が0.1μm以上1μm以下の細孔容積が0.1mL/g以上であることが好ましい。細孔径が0.1μm以上1μm以下の細孔容積は、本発明の粉末における一次粒子間の空隙に由来する。この範囲の細孔径の細孔容積が0.1mL/g以上であると、得られる皮膜の表面粗さが低減され、また得られる焼結体が緻密なものとなる。この理由は明確ではないが、本発明者は、上記の範囲の細孔容積を有する本発明の粉末は、顆粒を構成する一次粒子が細かく、一定以上の細孔容積を持つことで、熱が効率よく伝播することで溶融しやすいことが理由の一つと推測している。これに対し特許文献2に記載の溶射用粉末は、同文献の図1に基づき細孔径が0.1μm以上1μm以下の細孔容積を求めると、0.05mL/gとなり、本発明の細孔容積の範囲外である0.1mL/g未満となる。
【0027】
本発明の粉末において、細孔径が0.1μm以上1μm以下の細孔容積V1は、0.05mL/g以上であることが好ましく、0.10mL/g以上であることがより好ましく、0.12mL/g以上であることが特に好ましい。また、細孔容積V1は0.5mL/g以下であること、特に0.4mL/g以下であること、とりわけ0.2mL/g以下であることが、一次粒子間の空隙が過度に広くなること防止して顆粒強度の低下を防止する観点から好ましい。
【0028】
本発明の粉末においては、細孔径5μm以上50μm以下の細孔容積V2が、0.1mL/g以上であることも、耐食性を向上させる点で好ましい。細孔径が5μm以上50μm以下の細孔容積は、本発明の粉末における二次粒子間の空隙に由来する。本発明の粉末における細孔容積V2は、0.15mL/g以上であることがより好ましく、0.20mL/g以上であることが特に好ましい。本発明の粉末は、流動性を確保する点から、細孔容積V2が0.5mL/g以下であることが好ましく、0.4mL/g以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の粉末を用いて得られる皮膜や焼結体の耐食性を一層向上させる観点から、本発明の粉末は、水銀圧入法を用いて測定した細孔容積V2に対する細孔容積V1の比であるV1/V2の値が0.3以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。V1/V2の値は、1.0以下であること、特に0.85以下であることが、適正な顆粒密度を保つことができる点で好ましい。
【0030】
本発明の粉末が上述した細孔容積を有するためには、後述する本発明の粉末の好ましい製造方法において、原料となるイットリウム源の粉末とアルミニウム源の粉末の粒径を調整したり、焼成温度を調整したりすればよい。
【0031】
(顆粒径)
本発明の粉末は、顆粒であることが、上記の特定の細孔容積を有すること又は上記の特定の組成を有することによる耐食性の向上効果を一層高める点で好ましい。上述した細孔容積分布を満たす本発明の粉末が容易に得られる点や溶射材料としたときの流動性が良好になる点から、顆粒は、平均粒子径が15μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上80μm以下であることがより好ましく、20μm以上60μm以下であることが特に好ましく、20μm以上50μm以下であることが最も好ましい。前記の平均粒子径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D50)であり、後述する実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0032】
(BET比表面積)
本発明の粉末は、BET比表面積が1.0m/g以上5.0m/g以下であることが、成膜及び焼結の際に粒子が程よいことに起因して溶融しやすく、緻密な皮膜や焼結体が得やすい点、及びかさ密度が程よいことに起因して取扱い時のハンドリングが良好になる点で好ましい。これらの観点から、本発明の粉末のBET比表面積は1.0m/g以上4.4m/g以下であることがより好ましく、1.2m/g以上3.8m/g以下であることが更に好ましく、1.4m/g以上3.2m/g以下であることが一層好ましい。BET比表面積はBET1点法で測定され、具体的には後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0033】
〔製造方法〕
次に本発明の粉末の好適な製造方法について説明する。本製造方法は好適には、以下の第1工程~第3工程を有するものである。以下、各工程について詳述する。
・第1工程:アルミニウム源の粒子とイットリウム源の粒子とを混合して粉砕を行いD50が0.05μm以上2.0μm以下である前駆体混合粒子のスラリーを得る。
・第2工程:第1工程で得られたスラリーをスプレードライヤーで造粒して造粒物を得る。
・第3工程:第2工程で得られた造粒物を800℃以上1700℃以下の温度で焼成してイットリウムとアルミニウムの複合酸化物の顆粒を得る。
これらの工程を有する製造方法によって、直方晶YAlOを安定相として生成させることができる。その理由は、(a)第1工程のアルミナ源の粒子とイットリア源の粒子を混合して粉砕を行い混合粒子のD50を制御することで、粒子が十分に微細化され反応性が高い状態になり且つ粒子の分散性が維持されて互いの粒子どうしが十分に隣接した状態にあること、及び(b)第3工程において前記のD50と相関した適正な温度で焼成を行うことによるものである。
【0034】
〔第1工程〕
本工程においては、アルミニウム源の粒子とイットリウム源の粒子を混合して粉砕を行い所定粒径であるスラリーを得る。前駆体混合粒子の粒径は、上述した組成及び細孔容積や比表面積を有する粉末を首尾よく得る観点から、レーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定器を用いて測定したD50が0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。前駆体混合粒子のD50は顆粒のD50と同様の方法で測定できる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、オキシ水酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0035】
第1工程の手順としては、アルミニウム源の粒子とイットリウム源の粒子を液媒と混合し、十分に撹拌・粉砕を行い、前駆体混合粒子のスラリーを得る。液媒の種類に特に制限はなく、例えば水や各種の有機溶媒を用いることができる。アルミニウム源としては、反応性の点から微粒子のアルミニウム源を使用することが好ましい。尤も高比表面積になるとスラリーの粘度が上昇するため、アルミニウム源の粒子の液媒との混合に伴い、各種の分散剤やバインダーをスラリーに添加してもよい。分散剤としては、例えばポリアクリル酸系重合体、カルボン酸系共重合体、酢酸、アンモニアなどを用いることができる。アルミニウム源の粒子のスラリーに分散剤を添加する場合は、アルミナ換算のアルミニウム源100質量部に対して0.001質量部以上1質量部以下であることが得られる粉末の品質や粘度の上昇を抑制する点等から好ましく、0.01質量部以上0.1質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
本工程においては、アルミニウム源とイットリウム源との混合比率は、アルミニウム源のアルミニウム1モルに対してイットリウム源のイットリウムが0.8モル超1.3モル以下であることが好ましく、0.95モル以上1.05モル以下であることがより好ましい。
【0037】
粉砕には乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれも適用可能である。粉砕は1段階で実施してもよく、あるいは2段階以上で実施してもよい。コストと手間の点から1段階で粉砕を行うことが好ましい。粉砕後に水等の液媒を加えてスラリー化することが好ましい。乾式粉砕を行う場合には、例えば擂潰機、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル及びピンミルなどの各種乾式粉砕機を用いることができる。一方、湿式粉砕を行う場合には、例えばボールミルやビーズミルなどの各種湿式粉砕機を用いることができる。
【0038】
本工程におけるスラリーの濃度はイットリウム源をイットリアに換算し、アルミニウム源をアルミナに換算したときのイットリウム源とアルミニウム源の合計の濃度を、50g/L以上1500g/L以下、特に100g/L以上1000g/L以下とすることが好ましい。スラリーの濃度をこの範囲内に設定することで、エネルギーの過度の消費を抑制することができ、またスラリーの粘度が適切なものになって噴霧を安定させることができる。
【0039】
〔第2工程〕
本工程においては、第1工程で得られたスラリーを、スプレードライヤーで造粒してイットリウム及びアルミニウムを含む造粒物を得る。スプレードライヤーを運転するときのアトマイザーの回転数は5000min-1以上30000min-1以下とすることが好ましい。回転数を5000min-1以上とすることで、スラリー中のイットリウム源の粒子とアルミナ源の粒子との分散を十分に行うことができ、それによって均一な造粒物を得ることができる。一方、回転数を30000min-1以下とすることで、上述した細孔第2ピークを有する顆粒が得やすくなる。これらの観点から、アトマイザーの回転数は6000min-1以上25000min-1以下とすることが更に好ましい。
【0040】
スプレードライヤーを運転するときの入口温度は150℃以上300℃以下とすることが好ましい。入口温度を150℃以上とすることで、固形分の乾燥を十分に行うことができ、残存する水分が少ない顆粒が得やすくなる。一方、入口温度を300℃以下とすることで、無駄なエネルギーの消費を抑制できる。
【0041】
〔第3工程〕
本工程においては、第2工程で得られた造粒物を焼成してイットリウムとアルミニウムの複合酸化物の顆粒を得る。この焼成の程度は、目的とする粉末の組成、細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積ピーク及び比表面積を制御する因子となる。詳細には、焼成温度は800℃以上1600℃以下であることが好ましい。焼成温度を800℃以上とすることで、目的の組成比率が得やすくなる。一方、焼成温度を1600℃以下とすることで、目的とする細孔径分布の第1ピークと比表面積を有する顆粒が得やすくなる。これらの観点から、焼成温度は900℃以上1550℃以下とすることが更に好ましく、1000℃以上1550℃以下とすることが一層好ましい。
【0042】
焼成時間は、焼成温度が上述の範囲内であることを条件として、1時間以上48時間以下とすることが好ましく。3時間以上24時間以下とすることがより好ましい。焼成の雰囲気は特に制限はないが、アルミニウム源の種類によっては焼成により酸化させる必要があるため、酸素(O)が必要となることから大気中などの含酸素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0043】
上記のようにして得られた本発明の粉末は、溶射法、物理気相成長(PVD)法、化学気相成長(CVD)法、エアロゾルディポジション(AD)法、コールドスプレー法など各種の成膜法に用いられ、例えば溶射法の一つであるプラズマ溶射法や、PVD法に好適に用いられる。プラズマ溶射は大気圧プラズマ溶射であってもよく、減圧プラズマ溶射であってもよい。またPVD法としては、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられる。成膜の対象となる基材としては、例えばアルミニウム等の各種の金属、アルミニウム合金等の各種の合金、アルミナ等の各種のセラミックス、石英などが用いられる。
【0044】
本発明の粉末は、セラミックス部品の材料としても好適に用いることができる。詳細には、本発明の成膜用又は焼結用粉末を、例えば通常の焼結法、プレス法、HP法、CIP法、HIP法、SPS法等で製造されるセラミックス部品の原料として用いると、平滑性や耐エッチング性などに優れたセラミックス部品を得ることができる。そのようなセラミックス部品は、例えば電子材料やその焼成時の治具、半導体製造装置用部材、プラズマを用いたエッチング及び成膜装置などに好適に用いられる。なお、本発明の成膜用又は焼結用粉末を焼結して作成した焼結体はイオンプレーティング法、真空蒸着法等のPVD法のターゲット(成膜用材料)としても好適に使用可能である。
【0045】
本発明の粉末を用いることで、従来知られていたイットリウムとアルミニウムとの複合酸化物の溶射材料を用いる場合に比べて、ハロゲン系プラズマに対する耐食性の高い溶射膜を得ることができる。また本発明の粉末によれば、PVD法等の溶射以外の方法においても同様に耐食性の高い膜を得ることができるほか、焼結体とした場合も同様に耐食性の高い焼結体を得ることができる。このように本発明の粉末を用いて得られた皮膜又は焼結体は耐食性が高く、該皮膜又は焼結体は、ハロゲン系プラズマを用いる半導体製造装置の構成部材やそのコーティング等に有用である。
【0046】
本発明の粉末を用いて得られた皮膜及び焼結体はハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングにおいてエッチングレートが低い。具体的には、該皮膜及び焼結体は、後述する実施例に記載の方法で測定したエッチングレートが3nm/分以下であることが好ましく、2nm/分以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明の粉末を原料として皮膜を製造する場合、当該皮膜はハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性を向上させるために、表面粗さが低いものであることが好ましい。皮膜の表面粗さは後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0049】
〔実施例1〕
(第1工程)
α-アルミナ6.2kgと酸化イットリウム13.8kgを純水とともに湿式撹拌・粉砕して500g/Lの前駆体混合粒子スラリーとした。前駆体混合粒子はマイクロトラックHRAにて測定したD50が0.4μmであった。
【0050】
(第2工程)
第1工程で得られたスラリーをスプレードライヤー(大川原加工機(株)製)を用いて造粒・乾燥し、造粒物を得た。スプレードライヤーの操作条件は以下に示すとおりとした。
・スラリー供給速度:75mL/min
・アトマイザー回転数:12500rpm
・入口温度:250℃
【0051】
(第3工程)
第2工程で得られた造粒物をアルミナ製の容器に入れ、大気雰囲気下、電気炉中で焼成して造粒顆粒を得た。焼成温度は1400℃、焼成時間は6時間とした。顆粒の形状は略球状であった。このようにして、目的とする粉末を得た。
【0052】
〔測定・皮膜の形成〕
実施例1で得られた粉末について以下に述べる方法でX線回折測定を行い、図1に示すX線回折図を得た。得られたX線回折図に基づき、直方晶YAlOの(112)ピーク、立方晶YAl12の(420)ピーク、単斜晶YAlの(-221)ピーク、三方晶Alの(104)ピーク、及び立方晶Yの(222)ピークについて相対強度を算出した。また、以下に述べる方法で細孔第1ピーク、細孔第2ピーク、細孔容積、結晶子サイズ、BET比表面積及び顆粒径(D50)を測定した。それらの結果を以下の表2に示す。細孔径分布の測定結果を図2に示す。
実施例1で得られた粉末に係る2θ=20°~60°の走査範囲のX線回折図では、YAlO、YAl12及びYAl以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0053】
〔X線回折測定〕
・装置:UltimaIV(株式会社リガク製)
・線源:CuKα線
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・スキャン速度:2度/min
・ステップ:0.02度
・スキャン範囲:2θ=20°~60°
【0054】
〔細孔第1ピーク、細孔第2ピーク、0.1μm以上1μm以下の細孔容積、5μm以上50μm以下の細孔容積〕
・装置:オートポアIV(マイクロメリティクス社製)
・第1細孔ピーク:通常、一次粒子で構成された顆粒の細孔径分布を測定すると2つのピークが得られるが、このピークのうち、小径側のピークを第1細孔ピークとする。
・第1細孔ピーク:前述のピークのうち、大径側のピークを第2ピークとする。
・0.1μm以上1μm以下の細孔容積:細孔径0.1μm以上1μm以下の細孔容積の積算値
・5μm以上50μm以下の細孔容積:細孔径5μm以上50μm以下の細孔容積の積算値
【0055】
〔結晶子サイズ測定〕
測定は前述項のX線回折測定をもとに、直方晶YAlOの(112)ピークの半値幅からシェラーの式により算出した。
【0056】
〔BET比表面積測定〕
マウンテック社製全自動比表面積計Macsorb model―1201を用いてBET1点法にて測定した。使用ガスは、窒素ヘリウム混合ガス(窒素30vol%)とした。
【0057】
〔顆粒径の測定〕
マイクロトラック・ベル社製Microtrac D.H.S(HRA)Version 4.0を用いた。0.2質量%ヘキサメタリン酸を溶解させた純水に、顆粒を適正濃度であると装置が判定するまで投入して、測定を行いD50の値を得た。
【0058】
〔溶射法による成膜条件〕
基材として20mm角のアルミニウム合金板を使用した。この基材の表面にプラズマ溶射を行った。粉末の供給装置として、プラズマテクニック製のTWIN-SYSTEM 10-Vを用いた。プラズマ溶射装置として、スルザーメテコ製のF4を用いた。撹拌回転数50%、キャリアガス流量2.5L/min、供給目盛10%、プラズマガスAr/H、出力35kW、装置-基材間距離150mmの条件で、膜厚約60μmになるようにプラズマ溶射を行った。
【0059】
実施例1で得られた皮膜を上記の方法のX線回折測定に供したところ、S2/S1は0、S3/S1は0.07、S4/S1は0.05であった。また、YAlO、YAl12、YAl9、Al及びY以外の成分に由来するピークは観察されなかった。
【0060】
〔実施例2〕
実施例1の第3工程における焼成温度を1500℃とした以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0061】
〔実施例3、実施例5〕
実施例1の第1工程におけるα-アルミナの量を、実施例3が6.5kg、実施例5が5.9kgとした以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0062】
〔実施例4〕
実施例3の第3工程における焼成温度を1500℃とした以外は実施例3と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例3と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0063】
〔実施例6〕
実施例5の第3工程における焼成温度を1500℃とした以外は実施例5と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例5と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0064】
〔実施例7〕
実施例1の第2工程におけるアトマイザー回転数を20000rpmとした以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0065】
〔実施例8〕
実施例1の第2工程におけるアトマイザー回転数を25000rpmとした以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0066】
〔実施例9〕
実施例1の第1工程におけるアルミニウム源をオキシ水酸化アルミニウムに変更した。オキシ水酸化アルミニウムの使用量は酸化アルミニウム換算で6.2kgとした。また第3工程における焼成温度を、1300℃とした。これらの点以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0067】
〔実施例10〕
実施例9の第3工程における焼成温度を1200℃とした以外は実施例9と同様にして粉末を得、実施例9と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0068】
〔実施例11〕
実施例1の第1工程におけるアルミニウム源を、水酸化アルミニウムに変更した。水酸化アルミニウムの使用量は酸化アルミニウム換算で6.2kgとした。その点以外は実施例1と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0069】
〔実施例12〕
実施例11の第3工程における焼成温度を1300℃とした以外は実施例11と同様にして複合酸化物の粉末を得、実施例11と同様に評価及び皮膜の形成を行った。
【0070】
〔比較例1〕
特許文献3の実施例1に記載の製造方法を用いて複合酸化物の粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の評価及び皮膜の形成を行った。ただし結晶子サイズの測定において、本比較例では、直方晶YAlOの(112)ピークではなく立方晶YAl12の(420)ピークから結晶子サイズを算出した。
【0071】
〔比較例2〕
実施例1の第1工程におけるα-アルミナの量を10kgとし且つ酸化イットリウムは加えなかった以外は実施例1と同様にしてα―アルミナ粉末を得、実施例1と同様に評価及び皮膜の形成を行った。ただし結晶子サイズの測定において、本比較例では、直方晶YAlOの(112)ピークではなく三方晶Alの(104)ピークから結晶子サイズを算出した。
【0072】
実施例及び比較例で形成された皮膜について以下に述べる方法で表面粗さ及びエッチングレートを測定した。
【0073】
〔皮膜の表面粗さの測定〕
皮膜を形成したアルミニウム合金板における該皮膜の表面粗さを以下の方法で測定した。
触針式表面粗さ測定器(JIS B0651:2001)を用いて、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ粗さ(Rz)(JIS B 0601:2001)を求めた。触針式表面粗さ測定器としては、KLA-Tencor社製の触針式プロファイラP-7を用いた。測定条件は、評価長さ:5mm、測定速度:100μm/sとした。3点の平均値を求めた。
【0074】
〔プラズマエッチングレートの測定〕
皮膜を形成したアルミニウム合金板における該皮膜の半分にカプトンテープを貼り、エッチング装置(SAMCO社製RIE-10NR)のチャンバーに皮膜が上を向いた状態で戴置してプラズマエッチングを行った。プラズマエッチング条件は以下のとおりにした。使用したエッチングガス(CF/O)は、特許文献3で使用したエッチングガス(CF/O/Ar)に比べてハロゲン系ガスが多く、より高いハロゲン系プラズマ耐性が求められる条件である。
エッチングレートの測定は、プラズマ暴露面と、プラズマ照射後テープをはがした非暴露面の段差を前述の表面粗さ測定によって計測した。測定点は皮膜1枚につき3点とし、3点の平均値を求めた。
・雰囲気ガス:CF/O=50/5(cc/min)
・高周波電力:RF 300W
・圧力:10Pa
・エッチング時間:5時間
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた粉末を用いて得られた皮膜は、比較例で得られた粉末を用いて得られた皮膜に比べてエッチングレートが低く、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性が高いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の成膜用又は焼結用粉末を用いると、ハロゲン系ガスを用いたプラズマエッチングに対する耐食性の高い皮膜又は焼結体を容易に形成することができる。
【要約】
本発明の成膜用又は焼結用粉末は、X線回折測定において直方晶YAlOのピークが観察される。X線回折測定において観察されたピークのうち、直方晶YAlOの(112)ピークが最大ピーク強度を示すピークである。CuKα線を用いたX線回折測定において、直方晶YAlOの(112)ピーク強度をS1とし、三方晶Alの(104)ピーク強度をS2としたとき、S1に対するS2の比であるS2/S1の値が1未満であることが好ましい。
図1
図2