(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】波長変換部材、発光装置、および波長変換部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20220119BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220119BHJP
H01S 5/022 20210101ALI20220119BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G02B5/20
H01L33/50
H01S5/022
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2018019579
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健一
(72)【発明者】
【氏名】和泉 真
(72)【発明者】
【氏名】福永 浩史
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩代
(72)【発明者】
【氏名】高橋 向星
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143742(JP,A)
【文献】特開2015-224299(JP,A)
【文献】特開2010-261048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
H01L 33/50
G03B 21/14
G02F 1/13357
H01S 5/00-5/50
F21S 2/00
F21V 8/00
H01L 31/04
C03C 4/12
C09K 11/08
H05B 33/00-33/28
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスの内部に、少なくともβサイアロン蛍光体が分散された波長変換部材であって、
波長400nmよりも短波長の励起光で励起された場合の発光スペクトルについて、波長440nm以上かつ470nm以下におけるピーク強度をP1とし、波長520nm以上かつ540nm以下におけるピーク強度をP2とした場合、P1/P2<0.2を満たすことを特徴とする、波長変換部材。
【請求項2】
前記P1/P2は、0.
03≦P1/P2≦0.18を満たす、請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
密度が1.7g/cm
3以上かつ2.0g/cm
3未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
密度が1.9g/cm
3以上かつ2.0g/cm
3未満であることを特徴とする、請求項3に記載の波長変換部材。
【請求項5】
上記βサイアロン蛍光体は、Eu賦活βサイアロン蛍光体であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
上記シリカガラスの内部に、上記βサイアロン蛍光体が発する蛍光の波長よりも長波長の蛍光を発する第2の蛍光体が含まれることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
上記第2の蛍光体は、αサイアロン蛍光体、Eu賦活CaAlSiN
3蛍光体、Eu賦活(Sr,Ca)AlSiN
3蛍光体、Ce賦活CALSON蛍光体、Ce賦活CaAlSiN
3蛍光体、Ce賦活JEM蛍光体、Eu賦活(Ca,Ba,Sr)
2Si
5N
8蛍光体、Ce賦活La
3Si
6N
11蛍光体、および、Mn賦活γ-AlON蛍光体からなる群から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の波長変換部材。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の波長変換部材と、
上記波長変換部材に励起光を照射する励起光源と、を備えることを特徴とする、発光装置。
【請求項9】
上記励起光のピーク波長は、350nm以上かつ480nm以下であることを特徴とする、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
上記励起光のピーク波長は、435nm以上かつ460nm以下であることを特徴とする、請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
上記励起光の単位面積当たりの光強度は、1W/mm
2以上であることを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項12】
シリカガラスの内部に、少なくともβサイアロン蛍光体が分散された波長変換部材の製造方法であって、
上記βサイアロン蛍光体を上記シリカガラスの内部に分散させる工程と、
上記βサイアロン蛍光体が分散した上記シリカガラスを圧力1MPa以上の高圧窒素雰囲気下で1000℃以上に加熱する工程と、を含むことを特徴とする、波長変換部材の製造方法。
【請求項13】
前記加熱する工程は、前記シリカガラスを圧力1MPa以上200MPa以下の高圧窒素雰囲気下で加熱する、請求項12に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項14】
前記加熱する工程は、熱間等方圧加圧炉または加圧電気炉を用いる、請求項12または13に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項15】
前記分散させる工程は、ゾルゲル法による、請求項12から14のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項16】
前記分散させる工程は、前記βサイアロン蛍光体に加えて、αサイアロン蛍光体、Eu賦活CaAlSiN
3蛍光体、Eu賦活(Sr,Ca)AlSiN
3蛍光体、Ce賦活CALSON蛍光体、Ce賦活CaAlSiN
3蛍光体、Ce賦活JEM蛍光体、Eu賦活(Ca,Ba,Sr)
2Si
5N
8蛍光体、Ce賦活La
3Si
6N
11蛍光体、および、Mn賦活γ-AlON蛍光体からなる群から選択される第2の蛍光体をさらに分散させる、請求項12から15のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項17】
前記βサイアロン蛍光体および前記第2の蛍光体の粒径は、5μm以
上20μm以下の範囲である、請求項16に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項18】
前記加熱する工程は、前記シリカガラスを窒化ホウ素製のるつぼ中で加熱する、請求項12から17のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項19】
前記分散させる工程は、シリコンアルコキシドを含有するゾルゲル溶液にβサイアロン蛍光体を添加し、攪拌し、湿潤ゲルを得る工程と、湿潤ゲルを乾燥し、乾燥ゲルを得る工程とをさらに包含する、請求項12から18のいずれか1項に記載の波長変換部材の製造方法。
【請求項20】
前記分散させる工程は、前記乾燥ゲルを大気中400℃以上800℃以下の温度で焼成し、有機成分を除去する工程をさらに包含する、請求項19に記載の波長変換部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、励起光を蛍光に変換する蛍光体を含む波長変換部材、当該波長変換部材を備えた発光装置、および当該波長変換部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光素子と、当該半導体発光素子からの励起光を蛍光に変換する波長変換部材とを組み合わせた発光装置が開発されている。当該発光装置は、小型であり、かつ、消費電力が白熱電球よりも少ないという利点を有しているため、各種表示装置または照明装置の光源として実用化されている。
【0003】
非特許文献1には、蛍光体粒子がシリカガラスに分散された構成を有する波長変換部材、およびその製造方法が開示されている。当該製造方法においては、蛍光体粒子を含むゲルを大気中にて1050℃で焼成することにより、波長変換部材が形成される。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に開示されている波長変換部材において、蛍光体粒子を構成する蛍光体材料は、1050℃での焼成によって劣化しないという条件を満たすものに限定される。実用化されている蛍光体材料の中で、上記の条件を満たすものは、非特許文献1に開示されているαサイアロン(SiAlON)蛍光体に限られる。従って、それぞれ異なる色の蛍光を発する複数種類の蛍光体粒子をシリカガラスに分散し、当該蛍光体粒子から発せられる各色の蛍光を混合させることができない。それゆえ、非特許文献1に開示された構成では、波長変換部材から発せられる光の色の設計自由度が低く、発光装置の演色性が低くなるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、ゾルゲル法を用いて、低温の焼成温度によってシリカガラスを焼成する方法が開示されている。具体的には、特許文献1では、大気中において400℃以上800℃以下の温度で焼成されたシリカガラス中に酸窒化物ないし窒化物からなる蛍光体粒子が分散されている。特許文献1の方法によれば、透明度の高いシリカガラス中に複数の酸窒化物ないし窒化物蛍光体が分散されるため、高い発光効率と光の色の設計自由度とを両立した波長変換部材が実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-143742号公報(2016年8月8日公開)
【非特許文献】
【0007】
【文献】“Fabrication of silica glass containing yellow oxynitride phosphor by the sol-gel process”,SCIENCE AND TECHNOLOGY OF ADVANCEDMATERIALS 12 (2011) 034407 (5pp).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、シリカガラスの収縮が不十分であるため、波長変換部材の熱伝導性が悪い。波長変換部材の熱伝導性が悪いと、レーザー等の高いエネルギー密度の励起光で蛍光体粒子を励起した場合に、当該蛍光体粒子が発する熱を外部へ放出できず、波長変換部材の波長変換効率が低下する、という課題を有する。
【0009】
本発明の一態様は、波長変換部材の波長変換効率を高め、かつ発光装置の演色性を向上させることが可能な波長変換部材などを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る波長変換部材は、シリカガラスの内部に、少なくともβサイアロン蛍光体が分散された波長変換部材であって、波長400nmよりも短波長の励起光で励起された場合の発光スペクトルについて、波長440nm以上470nm以下におけるピーク強度をP1とし、波長520nm以上540nm以下におけるピーク強度をP2とした場合、P1/P2<0.2を満たす。
【0011】
また、本発明の一態様に係る波長変換部材の製造方法は、シリカガラスの内部に、少なくともβサイアロン蛍光体が分散された波長変換部材の製造方法であって、上記βサイアロン蛍光体を上記シリカガラスの内部に分散させる工程と、上記βサイアロン蛍光体が分散した上記シリカガラスを圧力1MPa以上の高圧窒素雰囲気下で1000℃以上に加熱する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、波長変換部材の波長変換効率を高め、かつ発光装置の演色性を向上させることが可能な波長変換部材などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る波長変換部材の構成を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る波長変換部材をゾルゲル法によって製作する場合の流れを示す図である。
【
図3】Xeランプが発する光を分光して得られた波長395nmの単色光を励起光として用いた場合における波長変換部材の発光スペクトルを示すグラフであり、(a)が実施例1に、(b)が実施例2に、(c)が実施例3に、(d)が比較例1に、(e)が比較例4に、それぞれ対応する。
【
図4】実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材のデータを示した表である。
【
図5】(a)は、実施例1の波長変換部材の断面SEM像であり、(b)は、比較例1の波長変換部材の断面SEM像である。
【
図6】(a)は、
図5の(a)に示した断面SEM像のCLスペクトルの測定結果を示すグラフであり、(b)は、
図5の(b)に示した断面SEM像のCLスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】実施形態2に係る発光装置の構成を示す断面図である。
【
図8】(a)は、実施例5の発光装置から発せられる照明光の発光スペクトルを示すグラフであり、(b)は、比較例3の発光装置から発せられる照明光の発光スペクトルを示すグラフである。
【
図9】実施例5および比較例3の発光装置について、発光素子から発せられる励起光のエネルギー密度に対する発光装置の光束を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
(波長変換部材1の構成)
図1は、本実施形態に係る波長変換部材1の構成を示す図である。
図1に示すように、波長変換部材1は、シリカガラス10および蛍光体粒子11を含んでいる。シリカガラス10は、内部に蛍光体粒子11が分散される部材を形成しており、透光性を有している。
【0016】
本実施形態では、蛍光体粒子11は、第1蛍光体粒子11aと、第2蛍光体粒子11b(第2の蛍光体)とを含む。第2蛍光体粒子11bは、第1蛍光体粒子11aが発する蛍光のピーク波長とは異なるピーク波長の蛍光を発する蛍光体粒子である。すなわち、第1蛍光体粒子11aおよび第2蛍光体粒子11bは、互いに異なる色の蛍光を発する蛍光体粒子である。
【0017】
第1蛍光体粒子11aは、βサイアロン蛍光体の粒子である。近紫外および可視光で励起して可視光を発するβサイアロン蛍光体としては、Eu賦活βサイアロン蛍光体およびCe賦活βサイアロン蛍光体が存在する。第1蛍光体粒子11aは、半導体発光素子23の発光効率が高い青色光励起で高効率に緑色光を発光する為、Eu賦活βサイアロン蛍光体であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態では、第2蛍光体粒子11bは、αサイアロン蛍光体である。αサイアロン蛍光体は、安定性および発光効率に優れているため、第2蛍光体粒子11bの材料として好適に利用できる。αサイアロン蛍光体の具体例としては、Eu賦活αサイアロン、またはCe賦活αサイアロンなどが挙げられる。特に、Eu賦活αサイアロン蛍光体は、ピーク波長(第2ピーク波長)が590nm以上かつ610nm以下である橙色の蛍光を発するため、青色の励起光源とβサイアロン蛍光体との組み合わせで高効率に白色光を発することができる。そのため、Eu賦活αサイアロン蛍光体は、第2蛍光体粒子11bとしてより好ましい。
【0019】
また、蛍光体粒子11の粒径は、1μm以上かつ30μm以下の範囲であることが好ましい。当該数値範囲の粒径では、蛍光体粒子11の発光効率が向上し、かつ、蛍光体粒子11のハンドリング性に優れるためである。
【0020】
なお、本実施形態に係る蛍光体粒子11は、第2蛍光体粒子11bを含まなくともよい。すなわち、本実施形態に係る波長変換部材1は、βサイアロン蛍光体である第1蛍光体粒子11aだけを含んでいてもよい。ただし、光の色の設計自由度を高めるために、波長変換部材1は、2種類以上の蛍光体粒子11を含むことが好ましい。すなわち、波長変換部材1は、βサイアロン蛍光体である第1蛍光体粒子11aに加えて、少なくとも1種類以上の蛍光体粒子を含むことが好ましい。
【0021】
また、蛍光体粒子11の粒径は、5μm以上かつ20μm以下の範囲であることがより好ましい。当該数値範囲の粒径では、蛍光体粒子11の発光効率が特に向上するためである。この場合、波長変換部材1の励起光変換効率が特に向上するため、当該波長変換部材を用いた発光装置の発光効率が、さらに向上する。
【0022】
本実施形態では、波長変換部材の密度は1.7g/cm3以上かつ2.0g/cm3未満である。また、波長変換部材の密度は1.9g/cm3以上かつ2.0g/cm3未満であることが好ましい。波長変換部の密度が1.7g/cm3以上、または1.9g/cm3以上であることにより、波長変換部の熱伝導性が良くなる。このため、レーザー光等の高いエネルギー密度の励起光で励起した際に、高い波長変換効率を示す。
【0023】
(波長変換部材1の製造方法)
本実施形態の波長変換部材1は、ゾルゲル法によって製作されてよい。
図2は、波長変換部材1をゾルゲル法によって製作する場合の各工程S1~S7の流れを示す図である。以下、
図2を参照し、ゾルゲル法の各工程について説明する。
【0024】
ゾルゲル法では、シリカガラス10の出発原料を含んだゾルゲル溶液が、はじめに調製される。ゾルゲル溶液は、ガラス原料である化合物、加水分解に必要な水、溶媒、触媒を含んだものである。なお、必要に応じて、乾燥制御剤として働く化合物等を、ゾルゲル溶液に含めてもよい。
【0025】
ガラス原料である化合物としては、テトラエトキシシラン(Tetraethyl Orthosilicate,TEOS)、テトラメトキシシラン(Tetramethyl Orthosilicate,TMOS)等のシリコンアルコキシドが用いられてよい。
【0026】
溶媒としては、エタノールまたはメタノール等のアルコールが用いられてよい。また、触媒としては、塩酸等の酸性水溶液、または水酸化アンモニウム等の塩基性水溶液が用いられてよい。
【0027】
また、乾燥制御剤として働く化合物としては、高い沸点を有し、かつ表面張力の小さい化合物が用いられてよい。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(dimethylformamide,DMF)またはホルムアミド等が好適に用いられてよい。
【0028】
本実施形態では、例えば、TMOS、DMF、メタノール、純水、および水酸化アンモニウムを混合することによって、ゾルゲル溶液が調製される(工程S1)。続いて、調製したゾルゲル溶液に所定の量の蛍光体粒子の粉末を投入した後に、当該溶液を一定時間に亘り室温下で攪拌する(工程S2)。
【0029】
工程S2において、水酸化アンモニウムに含まれるアンモニウムイオンの触媒作用によってTMOSが加水分解されることでシラノールが形成される。そして、シラノールの縮重合によってシロキサン結合が形成される。その結果、ゾルゲル溶液よりも高い粘度を有する湿潤ゾルが得られる(工程S3)。工程S3では、室温下で放置した時に蛍光体粒子が沈降しない程度に、十分に粘度が高い湿潤ゾルを形成する。
【0030】
続いて、工程S3において得られた湿潤ゾルを、オーブンを用いて、150℃以下の温度において乾燥させる(工程S4)。これにより、蛍光体粒子がほぼ均一に分散した乾燥ゲルが得られる(工程S5)。ここで、工程S4の乾燥工程において100時間以上の時間をかけて湿潤ゲルをゆっくりと乾燥させることにより、工程S5において亀裂の少ない乾燥ゲルを得ることができる。
【0031】
続いて、工程S5において得られた乾燥ゲルをオーブンから取り出し、大気中にて400℃以上かつ800℃以下の温度で焼成炉により焼成する(工程S6)。これにより、乾燥ゲル中の有機成分が除去され、かつ蛍光体粒子11が分散されたシリカガラスが得られる(工程S7)。
【0032】
さらに、工程S7により得られたシリカガラスを、圧力1MPa以上の高圧窒素雰囲気下において、1000℃以上の温度で加熱する(工程S8)。工程S8により、1.7g/cm3以上の密度に収縮した(緻密化された)シリカガラス10中に、高効率で発光する蛍光体粒子11が分散された波長変換部材1が得られる(工程S9)。
【0033】
なお、工程S5で得た乾燥ゲルは、目視でも白濁していることが確認される。換言すれば、工程S5の段階では、波長変換部材のシリカガラス部において、光の散乱が多く生じている。そこで、工程S6において、400℃以上かつ800℃以下の温度において乾燥ゲルを焼成することにより、シリカガラス部が十分な光透過性を有するようになる。
【0034】
しかし、工程S6の焼成温度はシリカガラスを収縮させるには不十分である。このため、工程S7で得られるシリカガラスの密度は1.2g/cm3未満となる。シリカガラスの密度が低いと、シリカガラスの熱伝導率が低くなる。このため、波長変換部材を高密度の励起光で励起した場合に、蛍光体粒子から発せられる熱がシリカガラス内に留まることで、蛍光体粒子が高温になる。その結果、熱消光により波長変換部材の波長変換効率が低下し、発光装置の発光効率が低下する。そこで、工程S8において、1000°以上の温度でシリカガラスを加熱することにより、シリカガラスが緻密化され、十分な熱伝導率を示すようになる。
【0035】
上述したとおり、非特許文献1には、大気中でのシリカガラスの焼成温度を1050℃とする波長変換部材の製造方法が開示されている。シリカガラスの焼成温度を1050℃とすることにより、シリカガラスの密度は、真密度付近(例えば、密度2.0g/cm3以上)まで緻密化する。
【0036】
非特許文献1に記載の方法は、波長変換部材の製作が容易であるという点において利点がある。しかし、当該方法には、蛍光体としてβサイアロン蛍光体を用いた場合に発光効率が低下するという問題がある。具体的には、βサイアロン蛍光体からなる蛍光体粒子を含むシリカガラスを、大気中で1050℃の温度で焼成することにより、βサイアロン蛍光体に化学反応が生じ、蛍光体結晶の劣化や発光元素であるEuの状態変化に起因して、βサイアロン蛍光体の発光効率が低下する。
【0037】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、乾燥ゲルの焼成を1MPa以上の高圧窒素雰囲気下で行うことで、加熱温度を1000℃以上とした場合における蛍光体の劣化が抑制されることを見出した。本実施形態の波長変換部材1は、工程S8において、1000℃以上での加熱を高圧窒素雰囲気下で行うことで、(i)βサイアロン蛍光体シリカガラスが緻密化して高い密度を実現でき、かつ(ii)βサイアロン蛍光体が高温加熱中でも高い発光効率を維持して高い波長変換効率を実現できる。すなわち、波長変換部材1によれば、高い密度および高い波長変換効率の両立が可能となる。なお、乾燥ゲルの焼成を行う場合における窒素の圧力は、安全面を考慮して200MPa以下とすることが好ましい。
【0038】
乾燥ゲルの焼成を1MPa以上の高圧窒素雰囲気下で行う場合、当該焼成を大気圧(0.1MPa)などの低圧で行う場合と比較して、焼成後のシリカガラスの密度は小さくなる。シリカガラスの密度が小さくなる理由は不明確であるが、高いガス圧力がシリカガラスの収縮を阻害すると推測される。
【0039】
波長変換効率を低下させることなくシリカガラスを1.7g/cm3以上の密度に収縮させるには、高圧窒素雰囲気下での加熱は不可欠となる。このため、本実施形態における波長変換部材の密度の上限は、大気中で1000℃以上の温度で加熱したシリカガラスの密度よりも小さい、2.0g/cm3未満と設定される。
【0040】
なお、本開示の一態様に係る製造方法では、工程S6およびS7を省略し、工程S5で得た乾燥ゲルを直接高圧窒素雰囲気下で加熱してもよい。しかし、工程S5で得た乾燥ゲルは有機成分を含んでいる。このような乾燥ゲルを高圧窒素雰囲気下で加熱すると、有機成分が除去されずシリカガラス中に残存する虞がある。シリカガラス中に有機成分が残存すると、当該シリカガラスに不要な光吸収成分が生じる虞がある。したがって、乾燥ゲル中の有機成分を除去するために、工程S6およびS7を実行することが好ましい。
【0041】
また、特許文献1の方法は、工程S8のような、シリカガラスを高温で加熱する工程を含まない。このため、特許文献1の方法によれば、非特許文献1に記載の方法と同様、波長変換部材を容易に製造できる。しかし、特許文献1に記載の方法では、シリカガラスの焼成温度が800℃以下という低温であるため、シリカガラスは真密度の半分以下の密度までしか緻密化しない。換言すると、特許文献1に記載の方法では、シリカガラスは、非特許文献1のシリカガラスの密度(2.0g/cm3以上)と比較して、半分以下の低い密度となる。
【0042】
特許文献1の方法により製造された波長変換部材は、シリカガラスの密度が低いことで、(i)シリカガラスの屈折率が低いために光の取り出し効率が向上する、(ii)熱伝導性が悪いために外部の温度変化によって発光装置が受ける影響を低減できる、といった利点を有する。しかし、レーザー光等の高いエネルギー密度の励起光で蛍光体粒子を励起した場合には、蛍光体が発する熱を外部へ放出できず、波長変換効率が低下してしまう。
【0043】
これに対し、本実施形態のシリカガラス10は、上述の工程S8を含むことで、シリカガラスが収縮して高い密度を実現でき、かつβサイアロン蛍光体が高温加熱中でも高い発光効率を維持して高い波長変換効率を実現できる。すなわち、本実施形態のシリカガラス10によれば、高い密度と高い波長変換効率との両立が可能となる。
【0044】
(蛍光体粒子11の製造例)
以下、蛍光体粒子11の製造例である製造例1~3について説明する。
【0045】
(製造例1:Eu賦活βサイアロン蛍光体粒子の製造1)
製造例1として、Si6-zAlzOzN8-zで表される組成式において、z=0.06のものにEuが0.10at.%賦活されたEu賦活βサイアロン蛍光体を製造する。
【0046】
まず、45μmの篩を通した金属Si粉末が93.59重量%、窒化アルミニウム粉末が5.02重量%、酸化ユーロピウム粉末が1.39重量%の組成となるように、それぞれの材料を秤量した。窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用い、秤量した材料を10分以上にわたって混合することにより、粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。
【0047】
次に、当該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の加圧電気炉(富士電波工業:ハイマルチ5000)にセットし、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空として、室温から800℃まで毎時500℃の昇温速度で炉内を昇温した。炉内の温度が800℃になったところで、純度が99.999体積%の窒素を、炉内の圧力が0.5MPaになるように導入した。この状態で、毎時500℃の昇温速度で1300℃まで炉内を昇温し、その後毎分1℃の昇温速度で1600℃まで昇温し、その温度で8時間保持することで試料を合成した。合成した試料をメノウ製乳鉢によって粉末に粉砕することで粉末試料を得た。
【0048】
当該粉末試料を、窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いてさらに粉砕した後に、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。次に、当該るつぼを再度加圧電気炉にセットし、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の昇温速度で炉内を加熱した。炉内の温度が800℃になったところで、純度が99.999体積%の窒素を、炉内の圧力が1MPaとなるように導入した。この状態で、毎時500℃の昇温速度で2000℃まで炉内を昇温した。そして、温度2000℃を8時間保持することによって得られた粉末試料を、メノウ製乳鉢によって粉砕することで、蛍光体試料が得られた。
【0049】
次に、得られた蛍光体試料を再度窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。そして、当該るつぼを環状炉にセットし、拡散ポンプにより炉内を真空とした。この状態で、室温から800℃まで、毎時500℃の昇温速度で炉内を昇温した。続いて、純度99.999%のArガスを炉内に充填し、毎分1リットルの流速で炉内に流通させた状態で、毎時5℃の昇温速度で1700℃まで炉内を昇温した。炉を1700℃の状態で4時間保持した後、炉を冷却し、炉から取り出した蛍光体試料を、50%フッ化水素酸と70%硝酸との1:1混酸中において、60℃の温度で処理した。そして、処理された試料を純水によって洗浄した後に、目開き10μmの篩を用いて、粒径の小さい粒子を取り除いた。これにより、製造例1の蛍光体粉末が得られた。
【0050】
得られた蛍光体粉末に対して粉末XRD(X-Ray Diffraction、X線回折)測定を行った結果、蛍光体粉末がβサイアロンの結晶構造を有していることを確認することができた。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を蛍光体粉末に照射した結果、当該蛍光体粉末が緑色に発光することを確認することができた。
【0051】
(製造例2:Eu賦活βサイアロン蛍光体粒子の製造2)
製造例2として、Si6-zAlzOzN8-zで表される組成式において、z=0.23のものにEuが0.09at.%賦活されたEu賦活βサイアロン蛍光体を製造する。
【0052】
まず、α型窒化ケイ素粉末が95.82質量%、窒化アルミニウム粉末が3.37質量%、酸化ユーロピウム粉末が0.81質量%の組成となるように、それぞれの材料を秤量した。窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用い、秤量した材料を10分以上にわたって混合することにより、粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。
【0053】
次に、当該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の加圧電気炉にセットし、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空として、室温から800℃まで毎時500℃の昇温速度で炉内を昇温した。炉内の温度が800℃になったところで、純度99.999体積%の窒素を、炉内の圧力が0.5MPaになるように導入した。この状態で、毎時500℃の昇温速度で2000℃まで炉内を昇温し、温度2000℃を8時間保持することで試料を合成した。合成された試料を、メノウ製乳鉢によって粉末に粉砕することで蛍光体試料が得られた。
【0054】
次に、得られた蛍光体試料を再度窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。そして、当該るつぼを環状炉にセットし、純度99.999%のArガスを炉内に充填した状態で、室温から800℃まで毎時500℃の昇温速度で炉内を昇温した。続いて、Arガスを1l/minの流速で流通させた状態で、毎時5℃の温度上昇によって1900℃まで昇温し、1900℃で4時間保持して冷却したのち、さらに50%フッ化水素酸と70%硝酸との1:1混酸中において、60℃の温度で処理した。そして、処理された試料を純水によって洗浄した後に、目開き10μmの篩を用いて、粒径の小さい粒子を取り除いた。これにより、製造例2の蛍光体粉末が得られた。
【0055】
得られた蛍光体粉末に対して粉末XRD測定を行った結果、蛍光体粉末がβサイアロンの結晶構造を有していることを確認することができた。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を蛍光体粉末に照射した結果、当該蛍光体粉末が緑色に発光することを確認することができた。
【0056】
(製造例3:Eu賦活αサイアロン蛍光体粒子の製造)
製造例3として、(Cax,Euy)(Si12-(m+n)Alm+n)(OnN16-n)で表される組成式において、x=1.8、y=0.075、m=3.75、n=0.05であるEu賦活βサイアロン蛍光体を製造する。
【0057】
まず、α型窒化ケイ素粉末が59.8質量%、窒化アルミニウム粉末が24.3質量%、窒化カルシウム粉末が13.9質量%、酸化ユーロピウム粉末が0.9質量%、窒化ユーロピウム粉末が1.1質量%の組成となるように、それぞれの材料を秤量した。なお、窒化ユーロピウムは、金属ユーロピウムをアンモニア中において窒化し合成したものを用いた。窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用い、秤量した原料粉末を10分以上にわたって混合することにより、粉体凝集体が得られた。この粉体凝集体を、目開き250μmの篩を通過させた後、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに充填した。なお、粉体の秤量から充填までの各工程は全て、水分1ppm以下、酸素1ppm以下の窒素雰囲気を保持することが可能なグローブボックス内において行われた。
【0058】
次に、当該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の加圧電気炉にセットし、純度が99.999体積%の窒素を、炉内の圧力が1MPaになるように導入した。続いて、室温から1800℃まで毎時500℃の昇温速度で炉内を昇温した。そして、炉内を温度1800℃で2時間保持することで加熱処理を行った。
【0059】
次に、加熱処理によって得られた生成物を、メノウ製乳鉢によって粉砕し、50%フッ化水素酸と70%硝酸の1:1混酸中において、60℃の温度で処理した。そして、処理された生成物を純水によって洗浄した後に、目開き10μmの篩を用いて、粒径の小さい粒子を取り除いた。これにより、蛍光体粉末が得られた。
【0060】
得られた蛍光体粉末に対してXRD測定を行った結果、当該蛍光体粉末がαサイアロンの結晶構造を有していることを確認することができた。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を蛍光体粉末に照射した結果、当該蛍光体粉末が橙色に発光することを確認することができた。
【0061】
(波長変換部材1の製造例)
以下、波長変換部材1の製造例としての実施例1~3について説明する。また、実施例1~3の比較例としての比較例1および4についても説明する。
【0062】
(実施例1)
実施例1の波長変換部材1は、密度1.9g/cm3以上のシリカガラスに、5w%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子が分散された構成を有する。
【0063】
まず、TMOS(純正化学株式会社製):DMF(和光純薬工業株式会社製):メタノール(和光純薬工業株式会社製)=7.21g:2.891g:2.534gの重量比で混合した溶液を作成した。そして、混合した溶液を、フッ素樹脂製容器中に密閉して10分間攪拌した。その後、当該溶液に、試薬純水(和光純薬工業株式会社製)8.55mlと、10%の水酸化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)7.37μlとを加え、ゾルゲル溶液を調製した(S1)。
【0064】
密閉したフッ素容器中においてゾルゲル溶液を30分間攪拌した後、当該ゾルゲル溶液中に、製造例1において作製されたEu賦活βサイアロン蛍光体の粉末0.15gを混合した。そして、当該混合物を密閉容器中で1時間撹拌し(S2)、蛍光体分散湿潤ゲルを得た(S3)。
【0065】
次に、得られた蛍光体分散湿潤ゲルを、内径(直径)17mmのフッ素樹脂製からなる型に移し替えた。そして、型にアルミ箔を被せた後、当該型を乾燥機に投入した。乾燥機において、温度35℃を8時間にわたって保持した。そして、24時間かけて80℃まで昇温した後、温度80℃を120時間にわたって保持した。そして、96時間かけて温度150℃まで再度昇温した後に、温度150℃を24時間にわたって保持した。以上の手順により、型に移し替えられた蛍光体分散湿潤ゲルを乾燥させる(S4)ことにより、所望の形状の蛍光体分散乾燥ゲルを得た(S5)。
【0066】
得られた蛍光体分散乾燥ゲルを焼成炉に投入し、炉内の温度を30時間かけて室温から600℃まで昇温した。そして、温度600℃で2時間に亘って保持した。すなわち、焼成温度を600℃によってシリカガラスを焼成した(S6)。これにより、蛍光体分散乾燥ゲルから有機成分が除去されて、シリカガラスが形成される(S7)。続いて、焼成後のシリカガラスを、サンドペーパー等を用いて、直径10mm、厚さ1.3mmに成型した。これにより、蛍光体粒子がほぼ均一に分散されたシリカガラスが得られた。なお、得られたシリカガラスは円柱状の形状を有していた。
【0067】
さらに、得られたシリカガラスを、熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing:HIP)炉(コベルコ科研製:O2-Dr.HIP)を用いて高圧窒素雰囲気下で加熱することで(S8)、波長変換部材を得た(S9)。具体的な工程は以下の通りである。得られたシリカガラスを窒化ホウ素製のるつぼに入れ、当該るつぼをHIP炉に投入し、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とした。次に、純度が99.999体積%の窒素を、室温で圧力が50MPaになるように、密閉された炉内に導入した。その後、炉内を密閉した状態において、毎時500℃の昇温速度で炉内温度を1050℃まで昇温し、1050℃で2時間保持することにより、加熱処理を行った。炉内温度が1050℃の状態において、密閉された炉内の圧力は111MPaであった。得られた波長変換部材の密度は1.91g/cm3であった。
【0068】
実施例1において得られた波長変換部材は、室内の蛍光灯下において薄い緑色であることが確認された。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を実施例1の波長変換部材に照射した結果、強度の高い緑色の蛍光が波長変換部材から発せられることが確認された。
【0069】
(実施例2)
実施例2の波長変換部材1は、密度1.9g/cm3以上のシリカガラスに、5質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子が分散された構成を有する。具体的には、実施例2の波長変換部材1は、工程S2においてゾルゲル溶液中に混合するEu賦活βサイアロン蛍光体を、上述した製造例2のものにする以外は、実施例1の波長変換部材と同様の製造方法により製造された。得られた波長変換部材の密度は1.97g/cm3であった。
【0070】
実施例2において得られた波長変換部材は、室内の蛍光灯下において緑色であることが確認された。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を実施例2の波長変換部材に照射した結果、強度の高い緑色の蛍光が波長変換部材から発せられることが確認された。
【0071】
(実施例3)
実施例3の波長変換部材1は、密度1.7g/cm3以上のシリカガラスに、5質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子が分散された構成を有する。具体的には、実施例3の波長変換部材1は、工程S8におけるシリカガラスの加熱の方法以外は、実施例1の波長変換部材と同様の製造方法により製造され、同様の構成を有する。
【0072】
より具体的には、実施例3では、まず、工程S8において蛍光体粒子11の製造例1などにおいて用いられたものと同様の加圧電気炉を用いる。
【0073】
実施例1および2において用いたHIP炉と、実施例3において用いる加圧電気炉とは、以下の点で相違する。
・HIP炉:炉内が密閉されており、高圧窒素雰囲気下での加熱は密閉空間内で行う。
・加圧電気炉:炉内は密閉されておらず、高圧窒素雰囲気下での加熱中にガスが循環している。
【0074】
実施例3の工程S8における加熱の方法は以下の通りである。工程S7で得られたシリカガラスを窒化ホウ素製のるつぼに入れ、当該るつぼを加圧電気炉に投入し、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とする。この状態で、炉内温度を毎時500℃の昇温速度で温度600℃まで昇温する。温度が600℃の状態で、炉内の圧力が1MPaになるように窒素を導入し、当該圧力を維持した状態で炉内温度を毎時500℃の昇温速度で1050℃まで昇温する。さらに、炉内温度を1050℃の状態に2時間維持することにより加熱処理を行う。得られた波長変換部材の密度は1.71g/cm3であった。
【0075】
実施例3において得られた波長変換部材は、室内の蛍光灯下において緑色であることが確認された。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を実施例3の波長変換部材に照射した結果、緑色の蛍光が波長変換部材から発せられることが確認された。
【0076】
(比較例1)
比較例1の波長変換部材は、密度2g/cm3以上のシリカガラスに、5質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子(製造例1で製造)が分散された構成を有する。具体的には、比較例1の波長変換部材は、高圧窒素下での加熱工程を含まず、シリカガラスの焼成温度を1050℃とした点以外は、実施例1と同様にして製造された。得られた波長変換部材の密度は2.10g/cm3であった。
【0077】
比較例1の波長変換部材は、室内の蛍光灯下において白色であり、所々黒ずんでいることが確認された。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を比較例1の波長変換部材に照射した結果、青緑色の蛍光が波長変換部材からかすかに発せられることが確認された。すなわち、比較例1の波長変換部材では、実施例1~3の波長変換部材1とは異なり、強度の高い緑色の蛍光は発せられなかった。
【0078】
(比較例4)
比較例4の波長変換部材は、密度2g/cm3以上のシリカガラスに、5質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子(製造例1で製造)が分散された構成を有する。具体的には、比較例4の波長変換部材は、シリカガラスを1050℃で焼成する際の雰囲気を、大気圧(0.1MPa)のN2雰囲気とした点以外は、実施例1と同様にして製造された。得られた波長変換部材の密度は2.08g/cm3であった。
【0079】
比較例4の波長変換部材は、室内の蛍光灯下において白色であり、所々黒ずんでいることが確認された。また、Xeランプが発する光を分光して得られた波長365nmの光を比較例4の波長変換部材に照射した結果、青緑色の蛍光が波長変換部材からかすかに発せられることが確認された。すなわち、比較例4の波長変換部材では、実施例1~3の波長変換部材とは異なり、強度の高い緑色の蛍光は発せられなかった。
【0080】
(実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材の評価)
続いて、分光放射輝度計(大塚電子株式会社製:MCPD-7000)と積分球とを組み合わせた測定系により、実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材の評価を行った。
【0081】
図3は、Xeランプが発する光を分光して得られた波長395nmの単色光を励起光として用いた場合における波長変換部材の発光スペクトルを示すグラフであり、(a)が実施例1に、(b)が実施例2に、(c)が実施例3に、(d)が比較例1に、(e)が比較例4に、それぞれ対応する。
図3の(a)~(e)において、横軸は蛍光の波長(nm)であり、縦軸は蛍光の発光強度(任意単位(a.u.))である。
【0082】
図3の(a)~(c)に示すように、実施例1~3の波長変換部材の発光スペクトルは、いずれも波長520nm~540nmの範囲においてシャープな緑色発光のスペクトルを示す。一方、
図3の(d)および(e)に示すように、比較例1および4の波長変換部材の発光スペクトルは、波長440nm~470nm付近の範囲に青色発光の成分を含んでいる。
【0083】
発光スペクトルの波長440nm~470nmにおけるピーク強度をP1、波長520nm~540nmにおけるピーク強度をP2とする。
図3の(a)~(e)に示されている発光スペクトルにおいて、発光スペクトルのピーク強度比(P1/P2)を計算すると、実施例1の波長変換部材ではP1/P2=0.08、実施例2の波長変換部材ではP1/P2=0.05、実施例3の波長変換部材ではP1/P2=0.03、比較例1の波長変換部材ではP1/P2=0.25、比較例4の波長変換部材ではP1/P2=0.26であった。
【0084】
図4は、実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材のデータを示した表である。具体的には、
図4には、実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材について、蛍光体の種類、密度、発光スペクトルのピーク強度比、および波長変換効率が示されている。
図4には、励起光の波長を365nm、380nm、395nm、410nm、425nm、440nmとした場合のそれぞれについて、ピーク強度比(P1/P2)が示されている。
【0085】
図4に示すとおり、実施例1~3の波長変換部材1は、波長400nmよりも短波長の励起光で励起された場合の発光スペクトルについて、P1/P2<0.2を満たす。一方、比較例1および4の波長変換部材はP1/P2≧0.2である。すなわち、実施例1~3の波長変換部材1は、比較例1および4の波長変換部材と比較して緑色光の比率が大きい。
【0086】
また、
図4に示す「波長変換効率」は、波長変換部材を445nmの青色光で励起した場合の、青色光を緑色光に変換する波長変換効率である。この波長変換効率は、励起光を波長変換部材に照射した場合に、波長変換部材に吸収された励起光のフォトン数をPEx、波長変換部材が発する蛍光(緑色光)のフォトン数をPEmとして、PEm/PExにより計算される。
【0087】
図4に示すとおり、比較例1の波長変換部材の波長変換効率を100として表した場合、実施例1の波長変換部材の波長変換効率は224であり、実施例2の波長変換部材の波長変換効率は212であり、実施例3の波長変換効率は203であった。すなわち、実施例1~3の波長変換部材はいずれも、比較例1の波長変換部材と比較して2倍以上の波長変換効率を示している。一方で、比較例4の波長変換部材の波長変換効率は98であった。すなわち、比較例4の波長変換部材は、比較例1の波長変換部材とほぼ等しい波長変換効率を示している。
【0088】
図3および
図4から、実施例1~3の波長変換部材は、比較例1および4の波長変換部材と比較して、発光スペクトルにおいて青色光に対する緑色発光の相対強度が強く、かつ青色光を緑色光に変換する波長変換効率が高い。この結果は、比較例1および4の波長変換部材は製造工程において蛍光体の劣化が生じ、発光元素であるEuの状態が変化したのに対し、実施例1~3の波長変換部材はそのような劣化が抑制されていることを示すと考えられる。
【0089】
(断面SEM/CL測定結果を踏まえた考察)
実施例1~3の波長変換部材と比較例1の波長変換部材との差異をより詳細に考察するため、実施例1および比較例1の波長変換部に関して、断面SEM(Scanning Electron Microscope)像観察およびカソードルミネッセンス(Cathod Luminescence:CL)測定により、蛍光体の微細な発光を観察した。具体的な手順を以下に説明する。
【0090】
断面SEM/CL測定の具体的な手順を以下に説明する。まず、波長変換部材をエポキシ樹脂(日本電子製:G2)により包埋し、機械研磨によりガラスの断面を出す。続いて、機械研磨によって出されたガラス断面に対して、Arイオンビーム照射装置(日本電子製:SM-09010)を用いてエッチングを施すことにより、ガラスおよび蛍光体の断面が露出した断面を得る。最後に、得られた断面に対して、帯電防止のカーボン膜(厚さ20nm)をコートすることで、観察用の断面が得られた。得られた断面について、FE-SEM装置(日立ハイテクノロジーズ製:S4300)とCL装置(堀場製作所製:MP32S/M)を組み合わせた装置を用いて断面SEM像およびCLスペクトルを得た。
【0091】
図5の(a)は、実施例1の波長変換部材の断面SEM像である。
図5の(b)は、比較例1の波長変換部材の断面SEM像である。
図5の(a)および(b)より、比較例1の波長変換部材には、実施例1の波長変換部材には見られない大きな空孔が見られることがわかる。この空孔は、シリカガラスが収縮する過程で生じたものと考えられる。比較例1の波長変換部材では、1050℃の加熱でシリカガラスが収縮する過程で、蛍光体からの窒素抜けなどの化学反応が起き、蛍光体表面からガスが発生し、空孔を生成したと考えられる。一般に、蛍光体にガスの発生を伴う化学反応が起こった場合、当該化学反応は結晶の劣化を伴うため、蛍光体の発光効率は低下する。
【0092】
一方、実施例1の波長変換部材では、比較例1の波長変換部材に見られたような大きな空孔は見られない。このことから、1050℃での加熱における蛍光体の化学反応は軽微であったと考えられる。すなわち、実施例1の波長変換部材においては、比較例1の波長変換部材と比較して、ガス発生を伴う蛍光体の化学反応が抑制されたことが、
図5の(a)および(b)の断面SEM像により確認された。
【0093】
図6の(a)は、
図5の(a)に示した断面SEM像のCLスペクトルの測定結果を示すグラフである。
図6の(b)は、
図5の(b)に示した断面SEM像のCLスペクトルの測定結果を示すグラフである。
図6の(a)および(b)に示したCLスペクトルは、加速電圧10kVで測定されたものである。
【0094】
図6の(b)に示すように、比較例1の波長変換部材のCLスペクトルは、395nmの光で励起された発光スペクトル(
図3の(d)参照)と比較して、青色発光(波長440nm~470nm)のピークがより強調された形状となっている。一方、
図6の(a)に示すように、実施例1の波長変換部材のCLスペクトルは、395nmの光で励起された発光スペクトル(
図3の(a)参照)と同様、緑色発光(波長520nm~540nm)のピークが支配的な形状を有する。すなわち、断面CL測定によって、比較例1の波長変換部材ではβサイアロンに含まれるEuの状態が変化しているのに対し、実施例1の波長変換部材ではEuの状態変化が抑制されていることが、より明瞭に確認された。
【0095】
このように、実施例1の波長変換部材は、比較例1の波長変換部材と比較して、1050℃での加熱中における化学反応が蛍光体粒子に及ぼす影響(ガスの発生およびEuの状態変化)が極めて軽微である。このため、蛍光体粒子の発光効率が、1050℃における加熱前と比べて低下することなく、高い発光効率を維持している。
【0096】
実施例1と比較例1との、波長変換部材の製造方法における違いは、1050℃で加熱する際の雰囲気(比較例1:大気中、実施例1:高圧窒素中)である。比較例1の波長変換部材では、大気中での加熱によりβサイアロン蛍光体の表面から窒素が抜けてN2ガスとして放出されるなどして蛍光体の結晶が劣化するとともにEuの状態が変化しているため、励起光変換効率が低下している。この結果、比較例1の波長変換部材の発光スペクトルには、所望の緑色発光以外の青色発光のピークが生じる。対して、実施例1~3の波長変換部材は、高圧窒素雰囲気下で加熱する為、βサイアロン蛍光体の表面からの窒素抜けを伴う化学反応が抑制され、蛍光体の劣化およびEuの状態変化が抑制される為、高い励起光変換効率を示す。
【0097】
なお、比較例1の波長変換部材の密度は、2.1g/cm3と、実施例1~3の波長変換部材1の密度よりも大きい。この密度の差異も、βサイアロン蛍光体の劣化に起因するものと考えられる。このため、本実施形態の波長変換部材1の密度は、2.0g/cm3未満であることが好ましい。波長変換部材1の密度を2.0g/cm3未満とすることで、波長変換部材1に含まれる蛍光体粒子11の劣化を抑制することができる。
【0098】
(波長変換部材1の別の製造例)
波長変換部材1によって実現されるもう1つの効果は、波長変換部材1から発せられる光の色の設計自由度を高めることである。以下、この効果を実現するための構成である実施例4について述べる。また、実施例4の比較例である比較例2についても述べる。
【0099】
(実施例4)
実施例4の波長変換部材1は、密度1.9g/cm3以上である波長変換部に、(i)3.5質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子と、(ii)2.3質量%のEu賦活αサイアロン蛍光体粒子と、が分散された構成を有する。具体的には、実施例4の波長変換部材1は、工程S2においてゾルゲル溶液中に混合する蛍光体粒子を、製造例2において作製されたEu賦活βサイアロン蛍光体粉末0.11gと、製造例3において作製されたEu賦活αサイアロン蛍光体粉末0.07gとの混合粉末とした点以外は、実施例2の波長変換部材と同様の製造方法により製造された。得られた波長変換部材1の密度は1.98g/cm3であった。
【0100】
(比較例2)
比較例2の波長変換部材は、密度が1.7g/cm3未満であるシリカガラスに、(i)2.0質量%のEu賦活βサイアロン蛍光体粒子と、(ii)2.3質量%のEu賦活αサイアロン蛍光体粒子とが分散された構成を有する。具体的には、比較例2の波長変換部材は、工程S2においてゾルゲル溶液中に混合する蛍光体粒子を、(i)製造例2において作製されたEu賦活βサイアロン蛍光体粉末0.06gと、製造例3において作製されたEu賦活αサイアロン蛍光体粉末0.07gとの混合粉末とした点、および(ii)シリカガラスの焼成温度を600℃とした点、を除いて比較例1と同様にして製造された。このため、比較例2の波長変換部材の製造工程は、高圧窒素下での加熱工程を含まない。得られた波長変換部材の密度は0.90g/cm3であった。
【0101】
(実施例4と比較例2との比較)
上述したとおり、実施例4の波長変換部材1は、βサイアロン蛍光体とαサイアロン蛍光体という2種類の蛍光体を含む。このため、実施例4の波長変換部材1によれば、βサイアロン蛍光体のみを含む実施例1~3、比較例1および4の波長変換部材と比較して、光の色の設計自由度を向上させることができる。
【0102】
また、比較例2の波長変換部材も2種類の蛍光体を含む。しかしながら、比較例2の波長変換部材は、シリカガラスの焼成温度が実施例4の波長変換部材における焼成温度よりも低いため、シリカガラスの密度が低い。したがって、比較例2の波長変換部材におけるシリカガラスの熱伝導性は、実施例4の波長変換部材におけるシリカガラスの熱伝導性よりも悪い。このため、比較例2の波長変換部材を高いエネルギー密度の励起光で励起した場合、波長変換効率が低下する。
【0103】
なお、シリカガラスの熱伝導率が悪い波長変換部材を高いエネルギー密度の励起光で励起した場合に波長変換効率が低下する理由については、実施例2において述べる。
【0104】
以上のとおり、本実施形態に係る波長変換部材1は、密度が1.7g/cm3以上であることが好ましく、1.9g/cm3以上であることが特に好ましい。波長変換部材1の密度が上記の範囲内であることで、熱伝導率が向上するため、波長変換効率の低下が抑制される。
【0105】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。本実施形態では波長変換部材1を備える発光装置100について説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0106】
(発光装置100の構成)
図7は、本実施形態に係る発光装置100の構成を示す断面図である。
図7に示すように、発光装置100は、波長変換部材1、基体22および半導体発光素子23を備える。
【0107】
半導体発光素子23は、InGaAlN系結晶を含む半導体発光素子である。半導体発光素子23は、レーザーダイオードであってもよいし、またはLED等であってもよい。レーザーダイオードである場合は、CANパッケージにより封止されていることが好ましい。半導体発光素子23は、波長変換部材1に励起光26を照射する励起光源として機能する。
【0108】
なお、半導体発光素子23の発光層等の構成材料の組成を変化させることによって、励起光26の発光ピーク波長(発光スペクトルにおいてピークが形成される波長)を、300nm以上かつ500nm以下の範囲において変化させることができる。半導体発光素子23は、例えば、440nmの発光ピーク波長を有する励起光26を発するレーザーダイオードであってよい。
【0109】
半導体発光素子23は、基体22の上に配置されている。半導体発光素子23には、カソード電極23Aおよびアノード電極23Bが設けられている。また、基体22の上には、電極24A・24Bが設けられている。そして、(i)カソード電極23Aは電極24Aと、(ii)アノード電極23Bは電極24Bと、それぞれ電気的に接続されている。
【0110】
波長変換部材1は、基体22の一部である支持部25の上に接着されている。波長変換部材1は、半導体発光素子23から出射された励起光26を受ける。そして、励起光26によって、波長変換部材1に含まれる蛍光体粒子11が励起される。その結果、蛍光体粒子11から、蛍光27が発せられる。
【0111】
上述したとおり、波長変換部材1には、第1蛍光体粒子11aおよび第2蛍光体粒子11bという2種類の蛍光体粒子が含まれている。このため、第1蛍光体粒子11aおよび第2蛍光体粒子11bのそれぞれから発せられた蛍光が混合された光が、蛍光27となる。具体的には、
図7の蛍光27は、(i)第1蛍光体粒子11aから発せられた、ピーク波長が第1ピーク波長である蛍光と、(ii)第2蛍光体粒子11bから発せられた、ピーク波長が第2ピーク波長である蛍光と、が混合された光である。また、波長変換部材1が3種類以上の蛍光体粒子を含む場合においても、それぞれの蛍光体粒子から発せられた蛍光が混合された光が蛍光27となる、なお、波長変換部材1が1種類の蛍光体粒子のみを含む場合には、当該蛍光体粒子から発せられた蛍光が蛍光27となる。
【0112】
また、発光装置100において、蛍光27は、励起光26よりも長い波長を有している。すなわち、波長変換部材1は、励起光26をより長波長の蛍光27に変換する波長変換部材として機能する。発光装置100からは、励起光26と蛍光27とが混合された光が、照明光として外部に出射される。
【0113】
また、波長変換部材1に複数種類の蛍光体粒子が含まれている場合には、各種類の蛍光体粒子の混合比率を変化させることにより、発光装置100から発せられる照明光の色度を適宜調整することができる。特に、各種類の蛍光体粒子から発せられる異なる色の蛍光を混合することにより、照明光としての白色光が得られる場合には、発光装置100は、照明用発光装置の用途に好適である。
【0114】
このような白色光を発する発光装置100を製作する場合には、各蛍光体粒子の混合比率を調整することにより、蛍光灯の発光色に近い寒色系の照明用発光装置を実現することもできる。また、上記混合比率を調整することにより、電球の発光色に近い暖色系の照明用発光装置を実現することも可能である。なお、各蛍光体粒子の発光効率は製造ロット等によって変化することがあるため、各蛍光体粒子の混合比率については適宜調整する必要がある。
【0115】
なお、上述したように、半導体発光素子23から発せられる励起光26の発光ピーク波長は、350nm以上かつ480nm以下であることが好ましい。さらに、励起光26の発光ピーク波長は、435nm以上かつ460nm以下であることが特に好ましい。これは、当該波長範囲では半導体発光素子23の発光効率が、他の波長範囲に比べて高くなるためである。
【0116】
(発光装置100の実施例および比較例)
本実施形態の発光装置100の実施例としての実施例5、および実施例5と比較するための比較例3について以下に説明する。
【0117】
実施例5では、上述の実施例4において得られた波長変換部材を波長変換部材1として適用し、発光装置100を製作した。具体的には、実施例4の波長変換部材を支持部25に貼り付けることによって、発光装置100を製作した。半導体発光素子23としては、レーザーダイオードを用いた。半導体発光素子23から発せられる励起光26の発光ピーク波長は、445nmであった。
【0118】
比較例3では、上述の比較例2において得られた波長変換部材を波長変換部材1として適用した点以外は、実施例5と同様にして発光装置100を制作した。
【0119】
(実施例5および比較例3の発光装置の評価)
図8の(a)は、実施例5の発光装置から発せられる照明光の発光スペクトルを示すグラフである。
図8の(b)は、比較例3の発光装置から発せられる照明光の発光スペクトルを示すグラフである。上述したように、照明光は、励起光26と蛍光27とが混合された光である。
図8の(a)および(b)において、グラフの横軸は、照明光の波長(nm)を表す。また、グラフの縦軸は、照明光の発光強度(任意単位)を表す。また、
図8の(a)および(b)に示す発光スペクトルは、分光放射輝度計(大塚電子製:MCPD-7000)を用いて測定されたものである。
【0120】
図8の(a)に示す発光スペクトルを解析した結果、実施例5の発光装置から発せられる照明光は、色温度が4,800K付近の白色光であり、平均演色性能指数Raは57.4であった。また、
図8の(b)に示す発光スペクトルを解析した結果、比較例3の発光装置から発せられる照明光は、色温度が4,800K付近の白色光であり、平均演色性能指数Raは57.6であった。
【0121】
図9は、実施例5および比較例3の発光装置について、発光素子から発せられる励起光のエネルギー密度(単位面積当たりの光強度)に対する発光装置の光束を示したグラフである。
図9において、横軸は励起光のエネルギー密度(W/mm
2)を示し、縦軸は発光装置の光束(lm)を示す。
【0122】
本実施形態の発光装置においては、励起光のエネルギー密度は、1W/mm2以上であることが好ましい。また、励起光のエネルギー密度は、1.2W/mm2以上であることがより好ましい。
【0123】
図9に示すように、励起光のエネルギー密度が1W/mm
2未満である場合には、実施例5の発光装置よりも、比較例3の発光装置の方が、同じ光強度では高い光束を示す。しかし、比較例3の発光装置の光束は、励起光のエネルギー密度が0.8W/mm
2である場合に最大値を取る。そして、励起光のエネルギー密度が0.8W/mm
2よりも大きくなると、比較例3の発光装置の光束は、光強度の増大に伴って低くなる。
【0124】
これは、比較例3の発光装置の波長変換部材におけるシリカガラスの緻密度が低いために、波長変換部材の熱伝導率が悪いことに起因する。波長変換部材の熱伝導率が悪いと、波長変換に伴って蛍光体粒子から発生する熱が波長変換部材の外部に放出されにくくなる。その結果、(i)蛍光体粒子が高温になり、(ii)高温になった蛍光体の温度消光によって波長変換効率が低下し、(iii)波長変換効率の低下が更なる蛍光体の発熱を誘発する、という負のサイクルが生じる。
【0125】
一方、実施例5の発光装置の波長変換部材においては、シリカガラスがほぼ真密度まで緻密化しているために、熱伝導率が良い。このため、実施例5の発光装置の光束は、励起光のエネルギー密度が0.8W/mm
2よりも大きくなっても増大し続ける。その結果、励起光のエネルギー密度が1W/mm
2以上になると、実施例5の発光装置の光束は、同じ光強度における比較例3の発光装置の光束よりも高くなる。さらに、励起光のエネルギー密度が1.2W/mm
2以上であれば、
図9に示すように、実施例5の発光装置の光束は、比較例3の発光装置の光束の最大値(すなわち励起光のエネルギー密度を0.8W/mm
2とした場合における比較例3の発光装置の光束)よりも高くなる。ただし、実施例5の発光装置においても、あまりにも励起光のエネルギー密度が高くなりすぎると、蛍光体粒子の高温化が加速し波長変換効率の低下や劣化が生じうる。励起光のエネルギー密度の実用的な上限としては、例えば20W/mm
2程度が目安とされる。
【0126】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0127】
〔実施形態3〕
本開示のさらに別の実施形態について、以下に説明する。
【0128】
実施形態1において、第2蛍光体粒子11bはαサイアロン蛍光体であった。しかし、第2蛍光体粒子は、例えば以下の蛍光体であってよい。
(CASN系蛍光体):Eu賦活CaAlSiN3、Eu賦活(Sr,Ca)AlSiN3、Ce賦活CALSON、またはCe賦活CaAlSiN3など
(その他の蛍光体):Ce賦活JEM蛍光体、Eu賦活(Ca,Ba,Sr)2Si5N8蛍光体、Ce賦活La3Si6N11蛍光体、またはMn賦活γ-AlON蛍光体などの従来公知のもの
なお、Ce賦活CALSONとは、xCaAlSiN3・yLiSi2N3の一般式で表される化合物に酸素およびCe3+が固溶した固溶体結晶からなる蛍光体である。
【0129】
これらの蛍光体を適宜選択して第2蛍光体粒子として用いることで、波長変換部材、および当該波長変換部材を用いた発光装置が発する光の色の自由度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 波長変換部材
10 シリカガラス
23 半導体発光素子(励起光源)
11a 第1蛍光体粒子(βサイアロン蛍光体)
11b 第2蛍光体粒子(第2の蛍光体)
100 発光装置