(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ヒト化抗RAGE抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220119BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220119BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220119BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220119BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220119BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20220119BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220119BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220119BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20220119BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20220119BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220119BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220119BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220119BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220119BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220119BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220119BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220119BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220119BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220119BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220119BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220119BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220119BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220119BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220119BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220119BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 N
A61P3/10
A61P7/00
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P13/12
A61P21/02
A61P21/04
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P27/02
A61P27/06
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P31/04
A61P35/00
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/08
G01N33/48 P
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2018554475
(86)(22)【出願日】2017-04-11
(86)【国際出願番号】 US2017026902
(87)【国際公開番号】W WO2017180555
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-03-18
(32)【優先日】2016-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518360944
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・コランビア・ユニバーシティー・イン・ザ・シティー・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】テカベ、ヤレド
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、リン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/053707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C07K1/00-19/00
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト化抗ヒト終末糖化産物受容体(RAGE)モノクローナル抗体であって、
(a) 配列番号7に示す抗体の重鎖を構成する連続アミノ酸、および
(b) 配列番号8に示す抗体の軽鎖を構成する連続アミノ酸、
を含むヒト化抗ヒトRAGE抗体、
またはヒトRAGEに結合する前記ヒト化抗ヒトRAGE抗体の断片。
【請求項2】
前記断片がF(ab’)2断片である、請求項1に記載のヒト化抗ヒトRAGE抗体の断片。
【請求項3】
請求項1に記載のモノクローナル抗体を発現する真核細胞。
【請求項4】
配列を配列番号9に示した連続ヌクレオチドを含むベクターと、配列を配列番号10に示した連続ヌクレオチドを含むベクターと、を含む、請求項
3に記載の真核細胞。
【請求項5】
前記真核細胞が哺乳動物細胞である、請求項
3に記載の真核細胞。
【請求項6】
前記哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項
5に記載の哺乳動物細胞。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項
5に記載の哺乳動物細胞。
【請求項8】
前記ヒト細胞がヒト腎臓293細胞である、請求項
7に記載のヒト細胞。
【請求項9】
ヒト化抗ヒトRAGEモノクローナル抗体を産生するための方法であって、請求項
3に記載の真核細胞を、ヒト化抗ヒトRAGEモノクローナル抗体を発現させる条件下で培養することと、そうして発現させた前記抗体を回収することと、を含む方法。
【請求項10】
前記真核細胞が哺乳動物細胞である、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒト細胞がヒト腎臓293細胞である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載のヒト化抗体またはその断片と、薬学的に許容できる担体と、を含む組成物。
【請求項15】
障害または状態を患う対象を治療するための医薬組成物であって、請求項
14に記載の組成物の有効な量を含む医薬組成物。
【請求項16】
前記障害または状態が、筋萎縮性側索硬化症、腕神経叢損傷、外傷性脳損傷を含む脳損傷、脳麻痺、フリードライヒ運動失調、ギランバレー、白質ジストロフィー、多発性硬化症、ポリオ後症候群、二分脊椎、脊髄損傷、脊髄性筋萎縮症、脊髄腫瘍、脳卒中、横断性脊髄炎、認知症、老人性認知症、軽度認知障害、アルツハイマー関連認知症、ハンチントン舞踏病、遅延性ジスケネジア、運動過多症、躁病、Morbusパーキンソン、steel-Richard症候群、ダウン症候群、重症筋無力症、神経の外傷、血管アミロイドーシス、アミロイドーシスを伴う脳出血I型、脳炎症、フリードライヒ運動失調、急性錯乱障害、筋萎縮性側索硬化症、アテローム動脈硬化、緑内障、アルツハイマー病、糖尿病性腎障害、敗血症、関節リウマチおよび関連の炎症性疾患、炎症、虚血、がん、血小板減少、化学療法誘発性血小板減少、幹細胞移植誘発性血小板減少、糖尿病、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病性大血管性疾患、糖尿病性腎障害、糖尿病性ニューロパチー(nephropathy)、糖尿病性網膜症および糖尿病性心不全からなる群から選ばれる、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のヒト化抗体または断片と、前記抗体または断片につながっている検出可能な標識と、を含む、検出可能に標識されている抗体または断片。
【請求項18】
ヒト組織においてヒトRAGEを検出するための方法であって、前記組織中に存在するヒトRAGEに抗体または断片が結合するのを許容する条件下で、前記組織を請求項
17に記載の標識されている抗体または断片と接触させることと、前記組織に結合している前記標識されている抗体または断片を検出して、前記組織中のヒトRAGEの存在を検出することと、を含む方法。
【請求項19】
ヒト組織中のヒトRAGEの画像を生成するための方法であって、請求項
17に記載の標識されている抗体または断片が前記組織中に存在するヒトRAGEに結合するのを許容する条件下で、前記ヒト組織を前記標識されている抗体または断片と接触させることを含み、前記標識されている抗体または断片は、画像化可能であり、かつ画像化可能に標識されている抗体または断片を使用して、前記組織中のヒトRAGEの前記画像を生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【導入】
【0001】
本出願は、2016年4月11日出願の米国仮特許出願第62/321,118号の優先権を主張し、この仮出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本出願全体を通して、特定の特許および刊行物を参照する。それらの刊行物の完全な引用が、特許請求の範囲の直前にある本明細書の終わりに列挙されているのを見出すことができる。本発明が関係する技術水準をより完全に記載するために、全ての参照する特許公報の開示は、それらの全体が参照により本出願に組み込まれている。
【0003】
本出願においては、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列が参照により組み込まれており、これらの配列は、「170411_87899_PCT_Sequence_Listing_DH.txt」と名付けた、17.0キロバイトのサイズのファイル中に存在し、このファイルは、2017年4月10日に、MS-Windows基本ソフト対応IBM-PC機械フォーマットで作成され、本出願の一部として、2017年4月11日に出願したテキストファイル中に収容されている。
【発明の背景】
【0004】
終末糖化産物受容体(RAGE)の過剰発現が、いくつかの、とりわけ、アテローム動脈硬化、虚血、がん、アルツハイマー病および糖尿病を含めた、慢性疾患の発症および進行に関与する。多様な動物モデルにおいて、モノクローナル抗体がRAGEを標的にするのに使用されてきたが、これらの抗体の「ヒト化」バージョンはまだ、開発されるに至っていない。この技術は、同等のレベルのRAGE結合活性を維持する、マウス抗RAGE抗体のヒト化バージョンである。さらなる研究および開発が進行中であり、やがて、多くの疾患のための新たな診断用および治療用ツールをもたらすことができる。
【0005】
終末糖化産物受容体(RAGE)は、細胞表面分子の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである(Buckleyら)。RAGEは、多種多様な範囲のリガンドに結合することが可能なパターン認識受容体であり、ほとんどの正常組織において低いレベルで発現する。(Buckleyら)。RAGEの過剰発現は、アテローム動脈硬化、虚血、がん、アルツハイマー病、糖尿病およびその他の疾病の発症および進行に関与し、このことは、RAGEは潜在的な治療標的であることを意味している。研究により、モノクローナル抗RAGEマウス抗体は、マウスにおいてもブタにおいても、関連疾患部位における取込みが増加することに起因して、有用な診断用および画像化ツールであることが示されている(Johnson LLら、2012;Johnson LLら、2014)。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ヒト化抗ヒト終末糖化産物受容体(RAGE)モノクローナル抗体であって、
(a)そのような抗体の重鎖を構成する連続アミノ酸であって、配列を配列番号7に示した連続アミノ酸と、
(b)そのような抗体の軽鎖を構成する連続アミノ酸であって、配列を配列番号8に示した連続アミノ酸と、
を含むか、或いは、ヒトRAGEに結合する、そのような抗体の断片を含むヒト化抗ヒトRAGE抗体を提供する。
【0007】
本発明はさらに、連続アミノ酸を含み、抗体の重鎖として機能することが可能であるポリペプチドであって、そのような連続アミノ酸の配列を配列番号7に示したポリペプチドも提供する。
【0008】
本発明はその上さらに、連続アミノ酸を含み、抗体の軽鎖として機能することが可能であるポリペプチドであって、そのような連続アミノ酸の配列を配列番号8に示したポリペプチドも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】精製したキメラのSDS-PAGEによる分析。10mgの精製した組換えマウス-ヒトキメラ抗体を、SDS-PAGEにより分離し、クマシーブリリアントブルーを用いて染色し、脱染した。精製した抗RAGEキメラ抗体の、重鎖および軽鎖が明らかに存在し、混入物は認められなかった。
【
図2】マウスおよびキメラ抗体についての親和性の決定。希釈した抗原の複製物を、抗体によりコーティングされているウエルに添加した。HRPストレプトアビジンおよびTMB基質を用いて、結合している抗原を検出した。OD450における読取りを、Graphpad Prismソフトウエアを用いて、非線形回帰によるフィットを使用して解析した。R2は、両方の曲線について1.0であり、このことは、完璧なフィットを示した。
【
図3】ヒト生殖系列VH4-34配列およびO8生殖系列配列とともに示されるクローニングされたHCおよびLC可変領域それぞれのアラインメント。CDR領域に、下線を付している。同一の残基は、残基の下にアステリスクを用いてマークしている。矢印および肉太の下線により示す残基は、コンピュータによるモデル化によって、ヒト化抗体中に保持すべきであることが同定されている。(IGHV4-34=配列番号11;Yared HC=配列番号12;Yared LC=配列番号13;O8=配列番号14)。
【
図4】精製したヒト化抗体のSDS-PAGEによる分析。10mgの精製したヒト化抗体を、SDS-PAGEにより分離し、クマシーブリリアントブルーを用いて染色し、脱染した。
【
図5】ヒト化、キメラおよびマウス抗体についての親和性の決定。希釈した抗原の複製物を、抗体によりコーティングされているウエルに添加した。HRP-ストレプトアビジンおよびTMB基質を用いて、結合している抗原を検出した。OD450における読取りを、Graphpad Prismソフトウエアを用いて、非線形回帰によるフィットを使用して解析した。R2の値は、3つの曲線全てについて1.0であり、このことは、これらの曲線の完璧なフィットを示した。
【
図6】還元および非還元条件を使用するSDS-PAGEゲル。投入された消化反応物、インキュベーション後、および透析後の試料は、還元および非還元条件を使用したSDS-PAGEゲルを用いて分析された。
【
図7】4本のチューブから得られた精製された完全長IgG抗体、およびSECにより精製したF(ab’)2のSDS-PAGEゲル。
【
図8】精製されたIgGおよびF(ab’)2抗体についての親和性の決定。希釈した抗原の複製物を、抗体によりコーティングされているウエルに添加した。HRP-ストレプトアビジンおよびTMB基質を用いて、結合している抗原を検出した。OD450における読取りを、Graphpad Prismソフトウエアを用いて、非線形回帰によるフィットを使用して解析した。R2は、3つの曲線全てについて1.0であり、このことは、これらの曲線の完璧なフィットを示した。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本発明は、ヒト化抗ヒト終末糖化産物受容体(RAGE)モノクローナル抗体であって、
(a)そのような抗体の重鎖を構成する連続アミノ酸であって、配列を配列番号7に示した連続アミノ酸と、
(b)そのような抗体の軽鎖を構成する連続アミノ酸であって、配列を配列番号8に示した連続アミノ酸と、
を含むか、或いは、ヒトRAGEに結合する、そのような抗体の断片を含むヒト化抗ヒトRAGE抗体を提供する。
【0011】
終末糖化産物受容体(RAGE)は、免疫グロブリンスーパーファミリーの35kDaの膜貫通型受容体である。本発明のヒト化抗ヒト終末糖化産物受容体(RAGE)モノクローナル抗体は、ヒトRAGEに結合する。用語「ヒト化」は、タンパク質配列が改変されて、ヒトにおいて天然に産生される抗体バリアントに対する類似性が増加している、非ヒト種に由来する抗体を意味する(Reichmannら)。このようにして産生された抗体のタンパク質配列は、ヒトにおいて天然に存在する相同な抗体とは部分的に区別される。
【0012】
「そのような抗体の断片」は、ここで記載する抗ヒトRAGE抗体の抗原結合性部分を含む。抗体断片の例として、これらに限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ(diabodies);直鎖状の抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。抗体断片の産生のために、抗体のタンパク質消化および宿主細胞中での組換えによる産生を含めた、多様な技法が開発されてきたが、抗体断片の産生のためのその他の技法が当業者に明らかになるであろう。いくつかの態様では、最適な抗体断片は、単鎖Fv断片(scFv)である。「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHおよびVLドメインを含み、この場合、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、このことにより、scFvを抗原に結合させるのに望ましい構造を形成することが可能になる。scFvおよびその他の抗体断片の総説については、James D.Marks、Antibody Engineering、Chapter 2、Oxford University Press(1995)(Carl K.Borrebaeck編)を参照されたい。
【0013】
本発明は、本発明のヒト化抗ヒトRAGE抗体の断片を提供し、この場合、断片は、F(ab’)2断片である。
【0014】
本発明はさらに、連続アミノ酸を含み、抗体の重鎖として機能することが可能であるポリペプチドであって、そのような連続アミノ酸の配列を配列番号7に記載するポリペプチドも提供する。本発明はその上さらに、そのようなポリペプチドをコードするベクターも提供する。ベクターは、配列を配列番号9に記載する連続ヌクレオチドを含む。
【0015】
本発明はさらに、連続アミノ酸を含み、抗体の軽鎖として機能することが可能であるポリペプチドであって、そのような連続アミノ酸の配列を配列番号8に記載するポリペプチドも提供する。本発明はその上さらに、そのようなポリペプチドをコードするベクターも提供する。ベクターは、配列を配列番号10に記載する連続ヌクレオチドを含む。
【0016】
「ベクター」は、レプリコン、例えば、プラスミド、ファージ、コスミドまたはウイルスであり、この中には、別の核酸セグメントを作動可能に挿入して、そうしたセグメントの複製または発現をもたらしてもよい。ベクターは、1つ以上の追加の配列、例えば、これらに限定されないが、調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー)、選択マーカー、およびポリアデニル化シグナルを含有していてもよい。多種多様な宿主細胞の形質転換を行うためのベクターが、当業者に周知である。それらとして、これらに限定されないが、プラスミド、ファージミド、コスミド、バキュロウイルス、バクミド、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ならびにその他の細菌、酵母およびウイルスベクターが挙げられる。ここで記載するベクターは、宿主ゲノム内に組み入れてもよく、または細胞もしくは核中で独立に保持されてもよい。用語「発現する」および「産生する」は、ここでは同義的に使用し、遺伝子産物の生合成を指す。これらの用語は、遺伝子のRNAへの転写を包含する。これらの用語はまた、RNAの1つ以上のポリペプチドへの翻訳も包含し、さらに、天然に存在する転写後および翻訳後修飾も全て包含する。抗体または抗原結合性断片は、細胞の細胞質内で発現/産生させることができ、および/または細胞外環境、例えば、細胞培養の増殖培地で発現/産生させることができる。
【0017】
本記載の範囲に属することが企図される組換え発現ベクターは、少なくとも1つの組換えタンパク質をコードする、合成の、ゲノムのまたはcDNA由来核酸断片を含み、これらの核酸断片は、適切な調節エレメントに作動可能に連結していてもよい。そのような調節エレメントは、転写プロモーター、mRNAのリボゾームの適切な結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列を含んでいてもよい。発現ベクター、とりわけ、哺乳動物発現ベクターはまた、転写されないエレメント、例えば、複製開始点、発現させようとする遺伝子に連結している適切な、プロモーターおよびエンハンサー、転写されないその他の5’もしくは3’隣接配列、翻訳されない5’もしくは3’配列(例えば、リボゾームへの結合に必要な部位)、ポリアデニル化部位、スプライスドナーおよびアクセプター部位、または転写終結配列を1つ以上含んでいてもよい。また、宿主中で複製する能力を付与する複製開始点を組み込んでもよい。そのようなベクターは、宿主ゲノム内に組み入れてもよく、または細胞もしくは核中で独立に保持されてもよい。
【0018】
ここで記載するベクターを使用して、開示するポリペプチドをコードする遺伝子を用いて、多様な細胞の形質転換を行うことができる。したがって、別の側面は、ポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクターを用いて形質転換された宿主細胞を特徴とする。多数の宿主細胞が、当技術分野で公知であり、本開示の範囲に属すると考えられる。
【0019】
本発明は、ここで記載するモノクローナル抗体を発現する真核細胞を提供する。
【0020】
本発明はその上さらに、配列を配列番号9に記載する連続ヌクレオチドを含むベクターを含み、配列を配列番号10に記載する連続ヌクレオチドを含むベクターを含む真核細胞も提供する。本発明の一側面では、本発明の真核細胞は、哺乳動物細胞である。本発明の一側面では、真核細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。本発明の一側面では、真核細胞は、ヒト細胞である。本発明の一側面では、真核細胞のヒト細胞は、ヒト腎臓293細胞である。
【0021】
外来遺伝子を細胞内に導入するための多数の技法が当技術分野で公知であり、ここで記載し、例示する多様な態様に従って、発明の方法を実施し、ここでの記載に従うポリペプチドを産生する目的で、それらの技法を使用して、組換え細胞を構築してもよい。使用する技法は、異種の遺伝子配列の宿主細胞への安定な移入をもたらすはずであり、その結果、異種の遺伝子配列は、遺伝可能であり、細胞の子孫により発現可能であり、したがって、レシピエント細胞の必要な、発生および生理的機能は混乱しない。使用してもよい技法として、これらに限定されないが、染色体移入(例えば、細胞融合、染色体媒介型遺伝子移入、微小核細胞媒介型遺伝子移入(micro cell mediated gene transfer))、物理的方法(例えば、トランスフェクション、スフェロプラスト融合、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソーム担体)、ウイルスベクターによる移入(例えば、組換えDNAウイルス、組換えRNAウイルス)等が挙げられる。また、リン酸カルシウム沈殿、および細菌プロトプラストの哺乳動物細胞とのポリエチレングリコール(PEG)誘発型融合を使用して、細胞の形質転換を行うこともできる。
【0022】
本発明はさらに、ヒト化抗ヒトRAGEモノクローナル抗体を産生するための方法であって、配列を配列番号9に記載する連続ヌクレオチドを含む第1のベクターおよび配列を配列番号10に記載する連続ヌクレオチドを含む第2のベクターを含む真核細胞を、ヒト化抗ヒトRAGEモノクローナル抗体を発現させる条件下で培養することと、そうして発現させた抗体を回収することとを含む方法も提供する。適切な真核細胞は、哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびヒト細胞、例えば、ヒト腎臓293細胞である。
【0023】
本発明はさらに、本発明の、ヒト化抗体またはそのような抗体の断片、および薬学的に許容できる担体を含む組成物も提供する。
【0024】
説明される抗体または断片は、そのような組成物の形態をとって前記対象に投与することができる。説明される抗体または断片はそれぞれ、そのような組成物中に含めることができる。そのような組成物はまた、その他の薬剤、例えば、防腐剤、抗菌剤、賦形剤等も含むことができる。
【0025】
ここで説明されるのは、開示された抗体または断片、および薬学的に許容できる担体のうち少なくとも1つ含む組成物である。組成物は、ここで記載するものを含めた、当技術分野において公知かつ適切である多様な調製物のうちの何れかとして製剤化することができる。いくつかの態様では、組成物は、水性製剤である。水または適切な生理的緩衝液中で抗体または断片を混合し、適切な、着色剤、香料、防腐剤および安定化剤を任意に添加することによって、水溶液を調製することができる。
【0026】
ここで使用する場合、「薬学的に許容できる担体」は、生理的に適合性であるあらゆる、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。薬学的に許容できる担体の例として、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等のうちの1つ以上、およびそれらの組合せが挙げられる。多くの場合、組成物中に、等張化剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含めるのが好ましいであろう。薬学的に許容できる物質、例えば、湿潤物質または微量の補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、防腐剤または緩衝剤は、抗体または抗体断片の有効期間または有効性を増強する。
【0027】
本発明の組成物は、多様な剤型をとっていてもよい。これらとして、例えば、液体、半固体および固体投与剤型、例えば、液剤(例えば、注射用および注入用溶液)、分散剤または懸濁剤、錠剤、丸剤、散剤、リポソーム、ならびに坐薬が挙げられる。好ましい剤型は、意図する、投与様式および治療への適用に依存する。典型的な好ましい組成物は、注射用または注入用溶液の剤型をとり、例えば、その他の抗体を用いてヒトの受動免疫化を行うために使用されるものに類似する組成物である。好ましい投与様式は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。好ましい態様では、抗体は、静脈内からの、注入または注射により投与する。別の好ましい態様では、抗体は、筋肉内または皮下注射により投与する。
【0028】
治療用組成物は典型的には、製造および保管の条件下で無菌かつ安定でなければならない。組成物は、高い薬物濃度に適切な、溶液、マイクロエマルジョン、分散剤、リポソームまたはその他の秩序ある構造として製剤化することができる。無菌の注射用溶液は、適切な溶媒中に、必要な量の活性化合物(すなわち、抗体または抗体断片)を、必要に応じて上記に列挙した成分のうちの1つまたは組合せと共に組み込み、続いて、ろ過滅菌を行うことによって調製することができる。一般に、分散剤は、基剤の分散媒、および上記に列挙した成分に属する必要なその他の成分を含有する無菌の賦形剤(vehicle)内に、活性化合物を組み込むことによって調製する。無菌の注射用溶液を調製するための無菌の散剤の場合には、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、それらにより、あらかじめ無菌ろ過した、活性成分と任意の追加の所望される成分との溶液から、それらの散剤がもたらされる。溶液の適切な流動性を、例えば、コーティング、例えば、レシチンを使用すること、分散剤の場合には必要な粒子サイズを維持すること、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。注射用組成物の吸収の延長を、組成物中に、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンを含めることによってもたらすことができる。
【0029】
本発明の、抗体および抗体断片は、治療に適用する多くの場合、好ましい投与の経路/様式は、静脈内注射または注入であるが、当技術分野で公知の多様な方法により投与することができる。当業者であれば理解するであろうが、投与の経路および/または様式は、所望される結果に応じて変化させうる。特定の態様では、活性化合物は、化合物を迅速な放出から保護するであろう担体と共に、例えば、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムを含めた、制御放出性製剤として調製してもよい。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物(polyanhydrides)、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用することができる。そのような製剤を調製するための多くの方法が、特許権を有するか、または一般に、当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems、J.R.Robinson編、Marcel Dekker,Inc.、New York、1978を参照されたい。
【0030】
特定の態様では、本発明の抗体または抗体断片は、例えば、不活性な希釈剤または吸収可能な食用の担体を用いて、経口投与してもよい。また、化合物(および所望により、その他の成分)を、硬質もしくは軟質シェルゼラチンカプセル剤中に収容してもよく、錠剤に圧縮してもよく、または対象の食品内に直接組み込んでもよい。治療のために経口投与する場合、化合物を、賦形剤と共に組み込み、摂取可能な、錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、オブラート等の剤型で使用してもよい。本発明の化合物を非経口投与以外により投与するためには、その不活性化を阻止するための材料を用いて化合物をコーティングするか、またはその不活性化を阻止するための材料と共に化合物を同時投与することを必要としてもよい。
【0031】
対象は、任意の動物であり得、好ましくは、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ロバ、ウシ、ウマ、ブタ等である。本発明の一側面では、哺乳動物は、ヒトである。本発明の一側面では、哺乳動物は、ヒト以外である。
【0032】
本発明はその上さらに、障害または状態を被る対象を治療するための方法であって、対象を治療するのに有効な量の請求項20に記載の組成物を対象に投与することを含む方法も提供する。本発明の一側面では、障害または状態は、筋萎縮性側索硬化症、腕神経叢損傷、外傷性脳損傷を含む脳損傷、脳麻痺、フリードライヒ運動失調、ギランバレー、白質ジストロフィー、多発性硬化症、ポリオ後症候群、二分脊椎、脊髄損傷、脊髄性筋萎縮症、脊髄腫瘍、脳卒中、横断性脊髄炎、認知症、老人性認知症、軽度認知障害、アルツハイマー関連認知症、ハンチントン舞踏病、遅延性ジスケネジア、運動過多症、躁病、Morbusパーキンソン、steel-Richard症候群、ダウン症候群、重症筋無力症、神経の外傷、血管アミロイドーシス、アミロイドーシスを伴う脳出血I型、脳炎症、フリードライヒ運動失調、急性錯乱障害、筋萎縮性側索硬化症、アテローム動脈硬化、緑内障、アルツハイマー病、糖尿病性腎障害、敗血症、関節リウマチおよび関連の炎症性疾患、炎症、虚血、がん、血小板減少、化学療法誘発性血小板減少、幹細胞移植誘発性血小板減少、糖尿病、糖尿病性腎臓疾患、糖尿病性大血管性疾患、糖尿病性腎障害、糖尿病性ニューロパチー(neurophathy)、糖尿病性網膜症、ならびに糖尿病性心不全からなる群から選ばれる。
【0033】
本発明はさらに、本発明の、ヒト化抗体または断片、およびそのような抗体または断片につながっている検出可能な標識を含む、検出可能に標識されている抗体も提供する。
【0034】
ここで使用する場合、「検出可能な標識」は、X線撮影、蛍光、化学発光、酵素活性、光吸収等を含めた、当技術分野で公知の方法を使用して検出することが可能な分子を指す。検出可能な標識は、放射性同位体、フルオロフォア(fluorophores)、発色団(chromophores)、酵素、染料、金属イオン、リガンド、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、およびハプテン、量子ドット等を含む。
【0035】
本発明はさらに、ヒト組織においてヒトRAGEを検出するための方法であって、抗体または断片が組織中に存在するヒトRAGEに結合することを許容する条件下で、組織を本発明の標識されている抗体または断片と接触させることと、組織に結合している標識されている抗体または断片を検出して、組織中のヒトRAGEの存在を検出することとを含む方法も提供する。
【0036】
本発明はさらに、ヒト組織中のヒトRAGEの画像を生成するための方法であって、標識されている抗体または断片が組織中に存在するヒトRAGEに結合するのを可能にする条件下で、ヒト組織を本発明の標識されている抗体または断片と接触させることを含み、この場合、標識されている抗体または断片は、イメージアブル(imageable)であり、かつ組織中のヒトRAGEの画像を、イメージアブルな標識されている抗体または断片を使用して生成することを含む方法も提供する。
【0037】
ここで使用する場合、「イメージアブル」は、画像化可能であることを意味する。
その他の刊行物または参考文献および実験の詳細への参照
【0038】
本発明は、いかなる理論によっても制限されるものではない。本発明は、以下の実験の詳細を参照することによってより良好に理解されるであろうが、詳述する具体的な実験は本発明を例示するに過ぎず、本発明はその後に続く特許請求の範囲における定義に従うことを当業者であれば容易に理解するであろう。
[実施例]
実験の詳細
【0039】
本発明のより完全な理解を促進するために、例を下記に提供する。以下の例により、本発明を作製および実行する模範的な様式を例示する。しかし、本発明の範囲は、これらの例において開示する具体的な態様に限定されず、これらの例は、例示のためのものに過ぎない。
例1
抗RAGE抗体の分子クローニングおよびクローニングされた抗体のヒト化
1.凍結ハイブリドーマ細胞からの、抗RAGEの軽鎖および重鎖の可変領域のクローニング
【0040】
抗RAGEモノクローナル抗体(mAb)(カッパ軽鎖を有するIgG2aアイソタイプ)を発現する凍結ハイブリドーマ細胞の細胞ペレットから、全RNAを調製し、cDNAをRT-PCRにより産生した。次いで、cDNAを、抗体の軽鎖および重鎖可変領域のPCR増幅を行うための鋳型として使用した。
a.抗体可変領域のクローニング
【0041】
マウスカッパ軽鎖定常領域に基づくリバースプライマーを、軽鎖可変領域を増幅するための5’-RACE PCRに使用した。マウスIgG2a重鎖定常領域に基づくリバースプライマーを、重鎖可変領域を増幅するための5’-RACE PCRのために使用した。増幅したPCR産物を、配列解析のためのTOPOベクター中に導入してクローニングした。
b.クローニングされた可変領域の配列解析
【0042】
各可変領域に関する、10個のクローンについて配列決定した。10個の重鎖クローンが全て、重鎖について同一のコーディング領域を示し、10個の軽鎖クローンが全て、軽鎖について同一のコーディング領域を示し、このことから、同定した重鎖および軽鎖可変領域配列は、抗RAGE抗体をコードする本物の遺伝子である可能性が高いことが示唆される。重鎖および軽鎖遺伝子の可変領域配列を、下記に示す。
【0043】
重鎖ヌクレオチド配列(配列番号1):
ATGAAAGTGTTGAGTCTGTTGTACCTGTTGACAGCCATTCCTGGTATCCTGTCTGATGTACAGCTTCAGGAGTCAGGACCTGGCCTCGTGAAACCTTCTCAGTCTCTGTCTCTCAACTGCTCTGTCACTGGCTCCTCCATCACCAGTGGTTATTACTGGAACTGGATCCGGCAGTTTCCAGGAAACAAACTGGAATGGATGGGCGACATAAGCTACGATGGTAGCAATAACTACAACCCATCTCTCAAAAATCGAATCTCCATCACTCGTGACACATCTAAGAACCAGGTTTTCATGAAGTTGAATTCTGTGACTACTGAGGACACAGCCATATATAAATGTGTAAGAGAAGACAGGTCGGGCTACCCCCCGTTTGCTAACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCA
【0044】
重鎖アミノ酸配列(配列番号2):
MKVLSLLYLLTAIPGILSDVQLQESGPGLVKPSQSLSLNCSVTGSSITSGYYWNWIRQFPGNKLEWMGDISYDGSNNYNPSLKNRISITRDTSKNQVFMKLNSVTTEDTAIYKCVREDRSGYPPFANWGQGTLVTVSA
【0045】
軽鎖ヌクレオチド配列(配列番号3):
ATGATGTCCTCTGCTCAGTTCCTTGGTCTCCTGTTGCTCTGTTTTCAAGGTACCAGATGTGATGTCCAGATGACACAGACTACATCCTCTTTGTCTGCCTCTCTGGGAGACAGAGTCACCATCAATTGCAGGGCAAGTCAGGACATTAGCAATTATTTAAACTGGTATCAGCAGAAACCAGATGGAACTGTTAAACTCCTGATCTACTACACATCAAGATTACACTCAGGAGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGAACAGATTATTCTCTCACCATTAGCAACCTGGAGCAAGAAGATATTGCCACTTACTTTTGCCAACAGGGTAATACGCTTCCGTGGACGTTCGGTGGAGGCACGAAGCTGGAAATCAAA
【0046】
軽鎖アミノ酸配列(配列番号4):
MSSAQFLGLLLLCFQGTRCDVQMTQTTSSLSASLGDRVTINCRASQDISNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPWTFGGGTKLEIK
2.哺乳動物発現ベクター内への軽鎖および重鎖可変領域のクローニング、ならびにインビトロでの抗体産生
【0047】
軽鎖可変領域を、軽鎖TOPOクローンからPCR増幅し、pcDNA3.4-カッパベクターのAfl IIおよびAcc65 I部位にクローニングし、配列決定により確認した。
【0048】
マウス-ヒトキメラの軽鎖配列全体を、下記に示す(配列番号5):
METGLRWLLLVAVLKGVQCDIQMTQTTSSLSASLGDRVTINCRASQDISNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0049】
同様に、重鎖可変領域も、対応する重鎖TOPOクローンからPCR増幅し、pcDNA3.4-IgG1ベクターのBamH IおよびApa I部位にクローニングし、配列決定により確認した。
【0050】
マウス-ヒトキメラの重鎖配列全体を、下記に示す(配列番号6):
MDTRAPTQLLGLLLLWLPGSRCDVQLQESGPGLVKPSQSLSLNCSVTGSSITSGYYWNWIRQFPGNKLEWMGDISYDGSNNYNPSLKNRISITRDTSKNQVFMKLNSVTTEDTAIYKCVREDRSGYPPFANWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKAYACAVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0051】
大規模なプラスミド調製物を調製し、ヒト腎臓293細胞のトランスフェクションのために使用した。プロテインA親和性クロマトグラフィーを使用して、トランスフェクションから5日後の培養培地(culture medium)から、分泌された抗体を精製した。精製した抗体を、SDS-PAGEゲルにより分析して、抗体の純度を決定し、抗体は、95%超純粋であると推定されている(
図1)。抗体の濃度は、ローリー(Lowry)タンパク質アッセイを用いて決定した。
3.精製したキメラ抗体およびオリジナルのマウス抗体の親和性の決定
【0052】
96ウエルELISAプレートのウエル内で、250ngの精製したキメラ抗体またはオリジナルのマウス抗体によるコートを一晩かけて行った。sRAGE抗原を、ビオチンを用いて標識して、タンパク質分子1つ当たり2.3個のビオチンの最終ビオチン密度を得た。次いで、標識されている抗原の段階希釈物を、抗体によりコーティングされているウエルに添加した。捕捉された抗原を、HRP-コンジュゲート化ストレプトアビジンを用いて検出した。
図2に、マウスおよびキメラ抗体のsRAGEに対する抗原結合曲線を示す。Prismソフトウエアを使用する曲線適合解析により、マウス抗体のsRAGEに対する親和性は58nMであり、キメラの当該抗原に対する親和性は40nMであることが示され、このことから、クローニングされた抗体遺伝子は、正しい遺伝子であり、抗RAGE可変領域を発現することが示唆される。
【0053】
0.5mgの精製したキメラ抗体を試験した。試験により、クローニングされたキメラ抗体の活性が確認された。したがって、出願人らは次に、このクローニングされた抗体のヒト化を行った。
4.クローニングされた抗体のヒト化
【0054】
クローニングされたマウス重鎖(HC)および軽鎖(LC)可変領域とヒト生殖系列抗体可変領域とのアラインメントを実施して、マウスHCおよびLCについてのアクセプターとしての最良のフレームワークを同定した。アラインメント解析に基づいて、ヒトVH4-34を、HCのヒト化のために選択し、O8軽鎖を、LCのヒト化のために選択した。整列させた配列を、
図3に示す。
【0055】
コンピュータによるモデル化および解析を、マウス抗体ならびに選択されたヒト抗体フレームワークおよびマウス抗体CDRを有するヒト化抗体について実施した。マウス抗体の軽鎖と、O8抗体の軽鎖とはほとんど同一であり、ヒト抗体とマウス抗体との間のフレームワーク中での違いは、LC CDRの形状に影響する可能性が低く、したがって、移植(grafted)されたヒト化LCの活性を修復するために、LCフレームワークにマウス残基を導入する必要はないと考えられた。
【0056】
VH4-34は、マウス抗RAGEのHCと比較して、CDRH1の直前において、アミノ酸を1つ欠く。CDRを移植したVH4-34フレームワーク中の、マウスmAbと比較したこの欠失は、CDRH1の形状を変化させたり、抗原結合性ポケットの形状を直接的に変え、CDRH3の立体構造に影響したりするであろう。したがって、モデル化から、移植されたヒト化配列において活性を保持するためには、矢印を用いてかつ肉太の文字により示すCDRH1の前の2つの残基(
図3)をヒト化抗体中に含めるべきであることが示された。
【0057】
マウス抗RAGE抗体HC中の残基71は、モデル化により、CDRH2の立体構造を維持するのに重要であることが予測され、したがって、マウス残基R71は残した。
【0058】
抗体のモデル化に基づいて、ヒト化抗体HCおよびLCの配列を設計し、下記に示す。
ヒト化HCおよびLCのアミノ酸配列
【0059】
下線を付した残基は、マウス抗体から取り入れた残基である。下線を付さない残基は、ヒト生殖系列に由来する。
【0060】
重鎖(配列番号7):
QVQLQESGPGLVKPSQTLSLTCAVYGGSITSGYYWNWIRQPPGKGLEWIGDISYDGSNNYNPSLKSRVTISRDTSKNQFSLKLSSVTAADTAVYYCVREDRSGYPPFANWGQGTLVTVSS
【0061】
軽鎖(配列番号8):
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQDISNYLNWYQQKPGKAPKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDFTFTISSLQPEDIATYYCQQGNTLPWTFGQGTKV
【0062】
下記に示す、ヒト化アミノ酸をコードするDNA断片を合成し、抗体発現ベクター中にクローニングした。
ヒト化HCおよびLCのヌクレオチド配列
【0063】
合成したHC(配列番号9):
GGATCCAGATGCCAGGTGCAGCTGCAGGAAAGCGGCCCTGGCCTGGTGAAACCCAGCCAGACCCTGAGCCTGACCTGCGCCGTGTACGGCGGCAGCATCACCAGCGGCTACTACTGGAACTGGATCAGACAGCCCCCTGGCAAGGGCCTGGAATGGATCGGCGACATCAGCTACGACGGCAGCAACAACTACAACCCCAGCCTGAAGTCCAGAGTGACCATCAGCCGGGACACCAGCAAGAACCAGTTCAGCCTGAAGCTGAGCAGCGTGACAGCCGCCGACACCGCCGTGTACTACTGCGTGCGCGAGGACAGAAGCGGCTACCCCCCCTTCGCCAATTGGGGCCAGGGCACCCTGGTGACAGTGTCCAGCGCCAGCACCAAGGGCCCC
【0064】
合成したLC(配列番号10):
CTTAAGGGCGTGCAGTGCGACATCCAGATGACCCAGAGCCCCAGCAGCCTGAGCGCCAGCGTGGGCGACAGAGTGACCATCACCTGTCAGGCCAGCCAGGACATCAGCAACTACCTGAACTGGTATCAGCAGAAGCCCGGCAAGGCCCCCAAGCTGCTGATCTACTACACCTCCCGGCTGCACAGCGGCGTGCCCAGCAGATTTTCTGGCAGCGGCAGCGGCACCGACTTCACCTTCACCATCAGCAGCCTGCAGCCCGAGGATATCGCCACCTACTACTGCCAGCAGGGCAACACCCTGCCCTGGACCTTCGGCCAGGGTACC
【0065】
大規模なプラスミド調製物を作製し、上に説明したトランスフェクションのために使用した。精製した抗体は、95%超純粋であると推定されている(
図4)。
5.精製したヒト化、キメラおよびオリジナルのマウスのモノクローナル抗RAGE抗体の親和性の決定
【0066】
親和性の決定を、ヒト化、キメラおよびオリジナルのマウスの抗RAGE抗体について、上記の記載に従って実施した。マウス抗体のRAGEに対する親和性は88.4nMであることを決定し、キメラのRAGE抗原に対する親和性は38.7nMであり、ヒト化抗体のRAGE抗原に対する親和性は42.14nMであった(
図5);ヒト化抗体の親和性は、キメラ抗体の親和性とほとんど同一であり、提案に記載した3倍のシフト(3 fold shift)内である。
【0067】
この場合には、0.5mgの精製したヒト化抗体を試験した。
結論
【0068】
我々は、上記に示したデータに基づいて、オリジナルの凍結ハイブリドーマ細胞からの、マウス抗RAGE抗体のHCおよびLC可変領域のクローニング、ならびに抗体の首尾よいヒト化に至り、かつヒト化抗体の結合活性は、キメラ抗RAGE抗体の結合活性の2倍以内に保持されていると結論付けている。
例2
ヒト化抗RAGE抗体の完全長IgGおよびF(ab)2’の大規模な産生
1.緒言
【0069】
抗RAGEモノクローナル抗体(mAb)(カッパ軽鎖を有するIgG2aアイソタイプ)を発現する凍結ハイブリドーマ細胞の細胞ペレットから、全RNAを調製し、cDNAをRT-PCRにより産生した。次いで、cDNAを、軽鎖および重鎖可変領域のPCR増幅を行うための鋳型として使用した。クローニングされた抗体遺伝子を、マウス-ヒトキメラとして発現させた。次いで、このクローニングされた抗体をヒト化した。
【0070】
ELISAにより、マウス抗体のRAGEに対する親和性は62.6nMであることを決定し、キメラの当該抗原に対する親和性は103.6nMであり、ヒト化抗体の場合のビオチン化sRAGEに対する親和性は133.4nMであった。
【0071】
プロジェクトのこの最終段階の目標は、100mgのヒト化抗体の完全長IgG1および10mgのF(ab’)2を産生することである。
2.方法
a.完全長IgGの産生
【0072】
293F細胞に、pCDNA3.4-HCおよびpCDNA3.4-LCをトランスフェクトした。トランスフェクションの5~6日後に、培養培地を収集し、抗体を、プロテインAカラム(MabSelect SuRe、GE)を使用して精製し、0.1Mのグリシン pH3を用いて溶出し、1Mのトリス pH8を使用して中和した。溶出された抗体を、1×PBSを用いて透析に付した。タンパク質濃度を、適切なIgGの吸光係数をもたらすA280における光吸収を使用して決定した。
b.F(ab’)2の調製
【0073】
60mgの完全長IgGを、1.5mlの固定化されたペプシン(ThermoScientific)を用いて消化した。消化反応物を、37℃で2.5時間インキュベートした。次いで、溶液を1,000gで3分間遠心分離して、固定化されたペプシンから消化溶液を分離した。試料を、(還元条件および非還元条件下における)SDS-PAGEにより分析し(
図1)、10kDaのカットオフの透析チューブを使用して、1×PBSを用いて透析に付した。タンパク質濃度は、A280を使用して決定した。
【0074】
別の60mgの完全長IgGも同様に消化した。次いで、溶液を1,000gで3分間遠心分離して、固定化されたペプシンから消化溶液を分離した。試料を、SECカラムを用いてさらに精製し、F(ab’)2に関する画分を、プールし、濃縮し、1×PBSを用いて透析した。
c.精製した、IgG1およびF(ab’)2の親和性の決定
【0075】
96ウエルELISAプレートのウエル内で、250ngの精製したIgG1またはF(ab’)2抗体によるコートを一晩かけて行った。sRAGE抗原を、ビオチンを用いて標識して、タンパク質1つ当たり4.2個のビオチンの最終密度を得た。次いで、標識されている抗原の段階希釈物を、抗体によりコーティングされているウエルに添加した。捕捉された抗原を、HRP-コンジュゲート化ストレプトアビジンを用いて検出した。Graphpad Prismソフトウエアを用いて、データを解析した。
結果
【0076】
消化後のF(ab’)2は80~85%純粋であり、これには、プロテインA樹脂でも透析でも除去することができない小型のFc断片に対応する追加の7kDaの断片が伴った(
図6)。一定分量の消化された抗体を、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いてさらに精製して、7kDaの断片を除去した。SECの工程により、純度が約99%に増加した(
図7)。
図8に示す親和性のデータから、精製した完全長IgGも2つのバッチのF(ab’)2も、55~66nMの十分な抗体結合親和性を保持したことが示されており、この親和性は、マウス抗体について以前に観察された親和性に類似するが、以前の実験で観察されたヒト化抗体の親和性よりも高い。その理由は、抗原の品質に起因し得るであろう;というのは、異なるバッチの抗原を使用したからである。
結論
【0077】
上記に示したデータに基づくと、精製した完全長IgGもF(ab’)2も十分な活性を保持した。全部で、100mgの完全長IgG、ならびに30mgの85%純度のF(ab’)2および9.0mgの99%純度のF(ab’)2を産生した。
参考文献
【0078】
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【配列表】