(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】尿失禁治療用装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20220119BHJP
A61F 5/44 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A61N1/36
A61F5/44 S
(21)【出願番号】P 2018567530
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004732
(87)【国際公開番号】W WO2018147447
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017023817
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰行
【審査官】小河 了一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0352357(US,A1)
【文献】特公昭49-019599(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0013022(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103860334(CN,A)
【文献】尿失禁への低周波治療法(ウロマスター、のどか),独立行政法人国立病院機構 金沢医療センター リーフレット,日本,独立行政法人国立病院機構 金沢医療センター,2015年11月06日,http://www.kanazawa-hosp.jp/pv/pdf/leaflet/hinyou_teisyuha.pdf
【文献】ウロマスター(干渉低周波 頻尿・尿失禁治療器),医療機器の添付文書,独立行政法人 医薬品医療機器総合機構,2012年07月10日
【文献】小田垣 雅人 Masato ODAGAKI,電気刺激式および磁気刺激式尿失禁治療における刺激効率 -三次元下腹部コンピュータシミュレーションによ, Transactions of the Japanese Society for Medical and Biological Engineering,第41巻,日本エム・イー学会 上野 照剛,2003年09月10日,pp.213~220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61F 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿を検出するためのセンサと、
装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
を備え、
前記刺激パッドが、背面の仙骨上に貼り付けられるように構成された、尿失禁治療用装置。
【請求項2】
前記センサ、前記刺激パッド及び前記機械部が、おむつに取り付け可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
おむつをさらに備え、
前記センサ、前記刺激パッド及び前記機械部が前記おむつに取り付けられている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
排尿を検出するためのセンサを備えるおむつに取り付け可能な尿失禁治療用装置であって、
装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサを前記機械部に接続するためのセンサ素子接続部位と、
(iii)前記センサ素子接続部位に接続されており、前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
とを備え、
前記刺激パッドが、背面の仙骨上に貼り付けられるように構成された、尿失禁治療用装置。
【請求項5】
排尿を検出するためのセンサと、装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、を備えるおむつに取り付け可能な尿失禁治療用装置であって、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサを前記機械部に接続するためのセンサ素子接続部位と、
(iii)前記センサ素子接続部位に接続されており、前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
を備え、
前記刺激パッドが、背面の仙骨上に貼り付けられるように構成された、尿失禁治療用装置。
【請求項6】
前記機械部が、腹部上に位置するように構成された、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記刺激パッドを前記排尿から保護するための防水部材をさらに備える、請求項1~
6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記刺激発生ユニットは、電気信号を前記刺激パッドに供給し、
前記刺激パッドは、前記電気信号が供給されることにより、前記装着者に電気刺激を与えられるように構成されている電極パッドである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記電気信号の周波数は、10Hz~50Hzであり、
前記電極パッドは、出力電流が5~30mAであり、出力電圧が5~60Vである、請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
小児用である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
成人用である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
センサによって排尿の有無を検出するステップと、
前記センサが排尿を検出した場合に、
刺激発生ユニットが、刺激パッド
が装着者の背面の仙骨に刺激を与える
ための信号を発生するステップと、
を備える、尿失禁治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に尿失禁治療用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
尿失禁とは不随意に尿が漏れる状態であり、病的な場合には社会的、衛生的に問題を生じる。尿失禁は患者の日常生活の質(QOL)、さらには周囲の家族(親、介護者など)にも大きな影響を及ぼす。
【0003】
尿失禁の病態の1つに、夜尿症がある。夜尿症の代表的治療法には、国際小児尿禁制学会と日本夜尿症学会が推奨する薬剤療法とアラーム療法(非特許文献1~3)があり、日本のみならず世界で広く行われている。アラーム療法の概要を、
図1に示す。
【0004】
アラーム療法は、センサにより排尿を感知したアラームが音を発し、その音を聞いた母親が患者を起こすという作業を繰り返すこと(アラーム治療)で、夜間の膀胱容量が増大し夜尿の治癒につながるといわれている。
【0005】
患者は排尿(夜尿)をしながら、かつ睡眠を継続しながらもこの音を聞き、母により起こされるという刺激を感じることで膀胱容量が徐々に増大すると考えられている。つまり、アラーム治療の目的は、夜間に覚醒できるようにすることではなく、膀胱容量の増大により畜尿が朝までもつようにすることにある。
【0006】
非特許文献3には、アラーム療法により、1か月で130%の夜間の膀胱容量の増大が期待できることが記載されている。
【0007】
しかし、このアラーム治療の問題点は、母親など家族の協力なしには成立せず、夜間家中にアラーム音が響き渡ることに対する家族の理解を必要とする点にある。実際、臨床の現場ではアラーム治療を断念する原因が、母親のストレス、疲れ、及び、患者本人若しくは家族による拒否である。
【0008】
また、夜尿症、尿失禁の治療手段として電気刺激治療法(低周波治療法など)も知られている(非特許文献4~5、特許文献1)。
図2に、電気刺激療法の概要を示す。
【0009】
非特許文献5には、低周波治療により、夜間の膀胱容量の増大は、30日で約150%の増大率と記載されている。
【0010】
特許文献1には、骨盤部表面刺激電極装置及び骨盤部表面刺激電極装置装着用下着が記載されており、仙骨後面の両側第2~4後仙骨孔直上皮膚および/または臀部坐骨結節内側陰部神経皮膚上運動点を適切に刺激波により刺激することにより、排尿神経機構に対する神経調節を行い、排尿障害を治療するとともに、骨盤底筋群の劣化を防止し筋張力の増加をさせて骨盤底筋群強化訓練を図ることが記載されている。しかし、特定のタイミングで刺激することについては記載がない。
【0011】
また、薬剤療法としては、抗利尿ホルモン剤であるデスモプレシンの投与、抗コリン薬の投与、三環系抗うつ薬の投与などは、治療効果が確認されている。しかし、薬剤療法は副作用との関係で患者に適用できない場合も多い。
【0012】
例えば、昼間の尿失禁にも有効である抗コリン薬の投与は、のどの渇き、便秘、認知症の進行などの副作用があることが知られている。
【0013】
このような治療が容易でないとの観点や治療効果が十分でないとの観点から、夜尿症の新しい治療法の開発が求められているのが現状である。同様に、夜尿症以外の尿失禁についても新しい治療法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献】
【0015】
【文献】Oredsson, A.F. and Jorgensen, T.M. J Urol.; 160:166-9. 1998
【文献】Hvistendahl GM. J Urol.; 171:2611-4. 2004
【文献】河内明宏ら. 夜尿症研究; 14:65-69. 2009
【文献】中西公司ら. 夜尿症研究; 9:67-71, 2004.
【文献】中川晴夫ら. 夜尿症研究; 14:71-75, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、主に、尿失禁治療用装置を提供することを課題とする。
【0017】
具体的な課題の1つは、夜尿症の患者本人と家族(例えば、母親)の生活の質(Quality of Life;QOL)を低下させることなく、膀胱容量の増大というアラーム治療の効果を達成できる手段としての夜尿症治療用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねて、夜尿症の患者において、母親や家族の協力を得なくても、子供が夜尿をした瞬間に子供に刺激を与え、膀胱容量の増大というアラーム治療本来の目的を達成する方法を探索した。
【0019】
本発明者は、夜尿症の治療方法の一つとして知られている電気刺激治療法(低周波治療法など)に着目した。
図2に、電気刺激療法の概要を示す。
文献:中西公司ら、膀胱容量低下型夜尿症・尿失禁に対する干渉低周波の効果:夜尿症研究9, 67-71, 2004.
中川晴夫ら、難治性夜尿症に対する仙骨表面治療的電気刺激:夜尿症研究14, 71-75, 2009。
【0020】
電気刺激治療法は、膀胱容量増大を促し、夜尿を治癒に至らせると報告されており、その作用機序は、主に仙髄領域の求心路刺激により、排尿筋の収縮を抑制し膀胱容量を増加させることにあると考えられている。電気刺激治療法は、診察室で行う方法と、コンパクトな装置を家庭に持ち帰り行う方法がある。いずれも、通常は、時間帯を決めて一日に2回程度行い、電気刺激治療法の中でも、低周波治療は痛みを伴うことはなく、患者にはきわめて低侵襲な治療法である。しかしながら、電気刺激治療法は、夜尿症の治療効果が十分高くなく、優先的な治療手段とはされていない。
【0021】
斯かる状況下、本発明者は、アラーム治療における音の刺激と、母親による刺激の代わりに、この低周波により膀胱への刺激を加える方法を発想した。
【0022】
さらに、このような方法が夜尿症以外の尿失禁の治療に使用できることを見出した。
【0023】
本発明は、斯かる着想に基づき、さらに検討を重ねて完成したものである。
【0024】
本発明は、以下の態様を包含する:
【0025】
項1、排尿を検出するためのセンサと、
装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
を備えた、尿失禁治療用装置。
【0026】
項2、前記センサ、前記刺激パッド及び前記機械部が、おむつに取り付け可能である、項1に記載の装置。
【0027】
項3、おむつをさらに備え、
前記センサ、前記刺激パッド及び前記機械部が前記おむつに取り付けられている、項2に記載の装置。
【0028】
項4、排尿を検出するためのセンサを備えるおむつに取り付け可能な尿失禁治療用装置であって、
装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサを前記機械部に接続するためのセンサ素子接続部位と、
(iii)前記センサ素子接続部位に接続されており、前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
とを備える、尿失禁治療用装置。
【0029】
項5、排尿を検出するためのセンサと、装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッドと、を備えるおむつに取り付け可能な尿失禁治療用装置であって、
下記を備えた機械部:
(i)前記刺激パッドが前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニットと、
(ii)前記センサを前記機械部に接続するためのセンサ素子接続部位と、
(iii)前記センサ素子接続部位に接続されており、前記センサが排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニットに前記信号を発生させる制御ユニットと;
を備える、尿失禁治療用装置。
【0030】
項6、前記刺激パッドが、背面の仙骨上に貼り付けられるように構成された、項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【0031】
項7、前記機械部が、腹部上に位置するように構成された、項1~6のいずれか1項に記載の装置。
【0032】
項8、前記刺激パッドを前記排尿から保護するための防水部材をさらに備える、項1~7のいずれか1項に記載の装置。
【0033】
項9、前記刺激発生ユニットは、電気信号を前記刺激パッドに供給し、
前記刺激パッドは、前記電気信号が供給されることにより、前記装着者に電気刺激を与えられるように構成されている電極パッドである、項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【0034】
項10、前記電気信号の周波数は、10Hz~50Hzであり、
前記電極パッドは、出力電流が5~30mAであり、出力電圧が5~60Vである、項9に記載の装置。
【0035】
項11、小児用である、項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【0036】
項12、成人用である、項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【0037】
項13、センサによって排尿の有無を検出するステップと、
前記センサが排尿を検出した場合に、刺激パッドによって装着者に刺激を与えるステップと、
を備える、尿失禁治療方法。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、新たな尿失禁治療用装置が提供される。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、治療用装置を夜尿症の患者に適用して、尿をした瞬間に患者は寝たままで、低周波等の電気刺激のスイッチがはいり、排尿筋収縮抑制に刺激が加わる。
【0040】
アラーム治療法と電気刺激治療法とを組み合わせることによる相乗効果は、アラーム治療法の立場からは、患者にとって、耳を介した音の刺激や、母親に起こされるという間接的な刺激ではなく、直接膀胱の排尿筋の収縮抑制につながる神経を刺激することで、従来のアラーム治療以上の効果が期待できることである。
【0041】
また、電気刺激治療法の立場からは、単に一日のどこかの時間帯に低周波の刺激を与えるのではなく、排尿筋が収縮しているまさにそのタイミングに、排尿筋の収縮抑制につながる神経を刺激することで、従来の電気刺激治療の効果以上の結果が期待できることである。
【0042】
特に夜尿症の治療においては、実施例において実証するように、アラーム治療法及び電気刺激治療法のそれぞれ単独よりも顕著に高い治療効果が、短期間の治療により認められた。また、従来方法と比べて、患者本人と周囲の家族の双方の負担軽減に繋がる。
【0043】
このように、本発明は高い治療効果が期待できるのみならず、患者本人及び介助または介護を担う周囲の家族双方のQOLの向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】従来のアラーム治療のメカニズムの概要をフロー図により示す。
【
図2】従来の低周波治療のメカニズムの概要をフロー図により示す。
【
図7】本発明の装置による治療(夜尿感知型低周波治療)のメカニズム)概要をフロー図により示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
尿失禁
本発明の装置が治療対象とする疾患は、尿失禁である。なかでも、膀胱容量が不十分である場合に生じる尿失禁に対して、好適な治療効果を奏する。
【0046】
尿失禁の病態の1つとして、夜尿症が挙げられる。夜尿症(nocturnal enuresis)とは、尿失禁(遺尿)に関する疾患のうち、睡眠中の尿洩れ(特に、夜間の睡眠中の尿洩れ)だけのものをいう。すなわち、夜尿症は、覚醒中(昼間)の尿漏れだけの尿失禁症(昼間尿失禁症)及び夜間、昼間とも尿漏れのある遺尿症(尿失禁症)とは区別される。
【0047】
夜尿症は、生来持続している一次性夜尿症(primary nocturnal enuresis)と6月以上自立した後に見られる二次性夜尿症(secondary nocturnal enuresis)に分けることができる。通常は、5歳以上の幼児を夜尿症と診断することができ、概ね7歳前後以降(小学校入学以降)から治療の対象とすることができる。
【0048】
夜尿症の治療方法としては、生活指導、行動療法、薬物療法が挙げられる。中でも、行動療法のうちのアラーム治療、及び、三環系抗うつ剤、抗利尿ホルモン剤等の薬物の投与は、その効果が安定して有効なものであると知られている。必要に応じて(例えば、単独療法で奏功しなかった患者)には、治療法を併用することもできる。
【0049】
また、尿失禁を(1)腹圧性尿失禁、(2)切迫性尿失禁、(3)溢流性(いつりゅうせい)尿失禁、及び(4)機能性尿失禁に分類した場合の、(1)腹圧性尿失禁及び(2)切迫性尿失禁も本発明の好ましい治療対象である。腹圧性尿失禁とは、蓄尿の状態で腹圧がかかった場合に失禁を起こすものを指す。切迫性尿失禁は、蓄尿時に急に生じた尿意に耐え切れずに失禁を起こすものを指す。
【0050】
尿失禁は、脳血管障害、パーキンソン病、多系統委縮症、脳腫瘍や認知症などの中枢神経系の疾患の患者が呈する場合もある。また、尿失禁は、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄腫瘍、脊髄変性疾患、脊髄血管障害等の脊髄の疾患が呈する場合もある。このような中枢神経系の疾患の患者や脊髄の疾患の患者が呈する蓄尿障害に起因する尿失禁も、本発明の治療対象である。
【0051】
なお、本明細書において「治療」とは、例えば夜尿症の場合は、睡眠中の尿洩れの抑制を意味し、尿洩れの抑止及び頻度の減少を包含する。
【0052】
装置
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る尿失禁治療用装置1は、以下の構成を備えることを基本とする。
【0053】
排尿を検出するためのセンサ10;
装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッド20;
下記を備えた機械部30:
(i)前記刺激パッド20が前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニット31と、
(ii)前記センサ10が排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニット31に前記信号を発生させる制御ユニット32。
【0054】
センサ
本発明の一実施形態に係る装置1が備えるセンサ10は、排尿を検出することができるセンサであれば、特に限定されない。センサ10は、湿潤状態を、例えば抵抗値、インピーダンス、キャパシタンスなどの湿潤状態に応じて変化する電気特性(物性値)をモニタし、電気特性の変化により濡れを検出することで、排尿を検出する。具体例としては、一対の導電体(離間して配置される)を備えたセンサ素子と、導電体の各々と電気的に接続された検出回路とからなる。
【0055】
センサ10は、センサの検知領域(例えば、上記一対の導電体の間の領域)に尿(水分)が存在しない場合と存在する場合の電気特性の差異により、排尿を検出することができる。このような電気特性の差異は、尿(水分)が導電性であることに基づく。
【0056】
例えば、電気抵抗値により排尿を検出する場合は、尿(水分)が存在しない乾燥状態では電気抵抗値は比較的高く、排尿により湿潤状態になった場合には電気抵抗値は低下する。コンダクタンスにより排尿を検出する場合は、尿(水分)が存在しない乾燥状態ではコンダクタンスは比較的低く、排尿により湿潤状態になった場合にはコンダクタンスは上昇する。
【0057】
本発明の態様の1つでは、センサ素子は分離可能であり、センサ接続部位に向けて電気的に接続される。分離可能なセンサ素子は、後述するおむつに備えられていてもよい。
【0058】
本発明の装置の好ましい態様においては、センサ10のセンサ素子は、排尿部上またはその近傍に配置されるように構成されている。
【0059】
刺激
本発明の一実施形態に係る尿失禁治療用装置1が装着者に与える刺激は、電気刺激(例えば、低周波刺激や高周波刺激)、磁気刺激、温度刺激(例えば、温熱刺激、低感刺激)が例示される。
【0060】
尿失禁治療の治療効果が高いとの観点から、電気刺激及び磁気刺激が好ましく、電気刺激が特に好ましい。
【0061】
刺激パッド
本発明の一実施形態に係る装置1が備える刺激パッド20は、装着者に刺激を与えられるように構成されたものである。
【0062】
本発明の好ましい態様(刺激が電気刺激である場合)において、刺激パッド20は電極パッドである。電極パッドは、電気刺激を装着者に与えられるように構成されている。電極パッドは、公知の低周波治療等を実施するための電気治療器に用いられる電極パッドに準じた構成を有する。本発明の1つの態様においては、電極パッドは、電極素子と体の表面に貼り付けるゲル部とが一体成形されている。ゲル部は、粘着性及び導電性を有する材質(例えば、含水性ウレタン系ゲルや含水性アクリル系ゲルなど)で構成されているのが好適である。
【0063】
電極パッドは、例えばリード線を介して、後述の機械部30と電気的に接続され、機械部30から電気信号を供給され、貼り付けられた体部分へ電気信号を供給できるように構成されている。
【0064】
電極パッドは、対で備えられている。1対であっても、2以上の複数対であってもよく、好ましくは1対又は2対である。
【0065】
電極パッドは、膀胱を支配する神経群に刺激を与えられるように配置されていることが好ましい。具体的には、下腹部に1対、下臀部に1対、下腹部に1対及び下臀部に1対の計2対の配置が例示できる。特に下腹部の仙骨直上部位への配置が好ましい。この部位には、膀胱での排尿を支配する仙随領域の求心路が位置する。
【0066】
刺激が磁気刺激である場合、刺激パッド20は磁気刺激を装着者に与えられるように構成されている磁気刺激パッドである。磁気刺激パッドは、例えば、電流が流れることにより磁界を発生させることができる、電線を輪状に巻いたコイルを備えることができる。磁気刺激パッドは、公知の磁気治療装置に用いられる刺激パッドに準じた構成とすることができる。
【0067】
刺激が温度刺激である場合は、刺激パッド20は温度刺激を装着者に与えられるように構成されている温度刺激パッドである。例えば、温熱刺激の場合は、温度刺激パッドは公知のヒーター素子を備えることができる。
【0068】
本発明の装置1の好ましい態様においては、刺激パッド20は背面の仙骨上に配置されるように構成されている。
【0069】
機械部
機械部30は、刺激パッド20が前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニット31と、前記センサ10により検出された排尿に応じて、前記刺激発生ユニット31に刺激を発生させるように構成された制御ユニット32と備える。機械部30の主な機能は、前記センサ10により排尿が検出された場合に刺激を発生させ、前記刺激パッド20が装着者に刺激を与えることができるような状態にすることにある。刺激発生ユニット31および制御ユニット32は、例えば集積回路(ICチップ)上に形成された論理回路によってハードウェア的に実現することができる。あるいは、刺激発生ユニット31および制御ユニット32をソフトウェア的に実現してもよい。この場合、機械部30は、プログラムの命令を実行するCPU、CPUが上記プログラムを展開するためのメモリ、上記プログラムおよび各種データを格納する補助記憶装置などを備えており、CPUが上記プログラムを実行することにより、刺激発生ユニット31および制御ユニット32が実現される。
【0070】
本発明の装置1の好ましい態様においては、効果が高いとの観点から、機械部30は腹部上に配置されるように構成される。
【0071】
[刺激発生ユニット]
本発明の好ましい態様(刺激が電気刺激である場合)において、刺激発生ユニット31は電気信号発生ユニットである。電気信号発生ユニットは、制御ユニット32の制御に基づき、電源を電力源として、所定の周波数の電気信号(交流電圧信号、交流電流信号)を発生し、電極パッドの電極素子へと向けて供給する。
【0072】
周波数は、本発明の目的を損なわない範囲内で、当業者が適宜設定することができる。例えば、周波数は0.1Hzから5000Hz程度、好ましくは1~500Hz程度、より好ましくは5~100Hz程度、特に好ましくは10~50Hz程度とすることができる。周波数は、例えば、予め設定されている周波数、または、後述の制御ユニット32が備えることができる周波数入力手段を介して入力される周波数である。装置1を簡便なものとする観点からは、周波数は予め設定されていることが好ましい。
【0073】
出力電流及び出力電圧は、本発明の目的を損なわない範囲内で、当業者が適宜設定することができる。例えば、出力電流は1~100mA程度、好ましくは1~50mA程度、より好ましくは5~30mA程度とすることができる。出力電圧は1~100V程度、好ましくは2~80V程度、より好ましくは5~60V程度とすることができる。装置1を簡便なものとする観点からは、出力電流及び出力電圧は予め設定されていることが好ましい。
【0074】
周波数、出力電流及び出力電圧を上記のように設定することにより、装着者を起こすことなく、適切な刺激を与えることができる。
【0075】
本発明の態様の一つでは、電気信号発生ユニットは、公知の低周波治療等を実施するための電気治療器が備える電気信号を発生するための手段に準じた構成を有する。このような公知の電気治療器として、リンテック株式会社製の低周波治療器「のどか」、株式会社メディカル・タスクフォース製のウロマスターなどが例示される。
【0076】
刺激が磁気刺激、温度刺激である場合、刺激発生ユニット(信号発生ユニット)31は、制御ユニット32の制御に基づき、刺激パッド20が刺激を発生させるための信号(例えば、電流)を供給する。刺激が磁気刺激である場合の刺激発生ユニット31の具体例として、公知の磁気治療器が備える磁気を発生するための手段に準じた構成を有する。このような公知の磁気治療装置として、株式会社メディカル・タスクフォース製のウロマスター、NicoWaveが挙げられる。
【0077】
[制御ユニット]
制御ユニット32は、前記センサ10及び前記刺激発生ユニット31と電気的に接続されており、前記センサ10により検出された排尿に応じて、前記刺激発生ユニット31に前記刺激パッド20が前記装着者に刺激を与えるための信号を発生させる。
【0078】
例えば、本発明の好ましい態様(刺激が電気刺激である場合)において、制御ユニット32は、前記センサ10及び電気信号発生ユニット(刺激発生ユニット31)と電気的に接続されており、前記センサ10により検出された排尿に応じて、前記電気信号発生ユニットに電気信号を発生させる。具体的には、前記センサ10が所定の閾値以上の排尿(湿潤状態)を検出した場合に、制御ユニット32は、前記電気信号発生ユニットに所定時間電気信号を発生させるための制御シグナルを、前記電気信号発生ユニットへ向けて送る。
【0079】
電気信号を発生させる時間は、本発明の目的を損なわない範囲内で当業者が適宜設定することができる。例えば、電気信号を発生させる時間は10秒~30分程度、好ましくは5分から20分程度、特に好ましくは15分程度とすることができる。電気信号を発生させる時間は、例えば、予め設定されている時間、または、制御ユニット32が備えることができる後述する時間入力手段を介して入力される時間である。装置1を簡便なものとする観点からは、電気信号を発生させる時間は予め設定されていることが好ましい。
【0080】
制御ユニット32はさらに、以下の手段を備えることもできる:
電気信号の周波数を入力するための、周波数入力手段(各々の患者に合わせ周波数を設定できるようにする);
電気信号を発生させる時間を入力するための、時間入力手段(各々の患者に合わせ周波数を設定できるようにする);
前記センサの検出にかかわらず、強制的に電気信号を発生させるための制御シグナルを、前記電気信号発生ユニットへ向けて送るためのスイッチ(強制発生スイッチ);
前記センサの検出にかかわらず、電気信号を発生させるための制御シグナルの送信を、強制的に停止するためのスイッチ(強制停止スイッチ)。
【0081】
刺激が磁気刺激、温度刺激である場合、制御ユニット32は上記に準じた構成とすることができる。
【0082】
おむつ
本発明の好ましい態様において、前記センサ10、前記刺激パッド20及び前記機械部30は、おむつに取り付け可能である。あるいは、おむつに替えて、股下に着用する下着に取り付けることもできる。
【0083】
図4に示すように、前記センサ10、前記刺激パッド20及び前記機械部30をおむつ40に取り付けた態様も、本発明に包含される尿失禁治療用装置2である。この場合、尿失禁治療用装置2を尿失禁治療用おむつと換言することもできる。
【0084】
「おむつ」とは、着用者の股下に装着されて、尿などの液体を吸収し保持するための吸収性物品を指す。通常は、おむつ40は使い捨てである。
【0085】
おむつ40の構成は公知である。通常は、着用時に前身頃と後身頃となる外装体、及び、前身頃と後身頃の間に架橋された状態で保持される吸収体からなる。吸水体は、おむつ40の着用時おいて、着用者の股下部に位置し、着用者が排泄した尿などの液体を吸収保持する。吸水体は、高吸収性ポリマーなどの吸水性材料を備える。
【0086】
おむつ40は、小児用(乳児用、幼児用、学童用を含む。特に、学童期(6歳~12歳程度)の小児用)であっても、大人用であってもよい。
【0087】
おむつ40が小児用である場合、本発明の尿失禁治療用装置は、夜尿症の小児患者の治療に好適に使用することができる。本発明の尿失禁治療用装置を用いる場合、従来のアラーム療法と比べ、母親等が患者を起こす必要がなく、母親及び患者の双方の負担が大きく軽減される。
【0088】
おむつ40が大人用である場合、本発明の尿失禁治療用装置は、尿失禁症(昼間尿失禁症を含む)の患者、特に高齢の患者の治療に好適に使用することができる。本発明の尿失禁治療用装置を用いた治療を行うことで、尿失禁の頻度が減少し、患者がおむつを着用することを回避または着用の必要性を低下させることができる。このことにより、患者のやる気の減退、認知症の進行等を抑制することができる。さらに、尿失禁の頻度が減少することで、介護者の負担も大きく軽減される。
【0089】
また、
図5に示すように、おむつ40として排尿を検出するためのセンサ10を備えたおむつを用いることもできる。このようなおむつとしては、株式会社アワジテック製の夜尿症トレーニングシステム「ビスコール」を構成するトレーニングパッドが例示される。
【0090】
この場合、おむつ40に取り付け可能な尿失禁治療用装置3は、装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッド20と、機械部30とを備え、前記機械部30は、(i)前記刺激パッド20が前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニット31と、(ii)前記センサ10を前記機械部30に接続するためのセンサ素子接続部位33と、(iii)前記センサ素子接続部位33に接続されており、前記センサ10が排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニット31に前記信号を発生させる制御ユニット32とを備える。機械部30(再利用する)を、使い捨てのセンサ10を備えたおむつ40に装着することで、本発明の装置3の日常的な使用が簡便となる。
【0091】
なお、
図5に示すセンサ10は、帯状の一対の導電体を備えており、各導電体の一端は、おむつ40の端部に達している。これらの導電体の間の領域に尿(水分)が存在しない場合と存在する場合の電気特性の差異により、センサ10は排尿を検出することができる。また、センサ素子接続部位33は、クリップに準じた形状を有しており、前記導電体の一端をおむつ40とともに挟み込むことができる。これにより、センサ素子接続部位33は、センサ10を機械部30に接続する。刺激パッド20と機械部30とは、
図5に示すように、ケーブル等で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。
【0092】
また、装置3は、刺激パッド20を前記排尿から保護するための防水部材21をさらに備えることが好ましい。これにより、刺激パッド20が信号を発生したときに、装着者の感電事故を防ぐことができる。本実施形態では、防水部材21は刺激パッド20の全体を覆うシート状に形成されている。
【0093】
また、
図6に示すように、おむつ40として、排尿を検出するためのセンサ10と、装着者に刺激を与えられるように構成されている刺激パッド20と、を備えたおむつを用いることもできる。
【0094】
この場合、おむつ40に取り付け可能な尿失禁治療用装置4は、機械部30を備え、前記機械部30は、(i)前記刺激パッド20が前記装着者に刺激を与えるための信号を発生する刺激発生ユニット31と、(ii)前記センサ10を前記機械部30に接続するためのセンサ素子接続部位33と、(iii)前記センサ素子接続部位33に接続されており、前記センサ10が排尿を検出した場合に、前記刺激発生ユニット31に前記信号を発生させる制御ユニット32とを備える。
【0095】
図6では、刺激パッド20と機械部30とが無線で接続されているが、
図5と同様に、これらをケーブル等で接続してもよい。
【実施例】
【0096】
【0097】
尿失禁治療用装置2は、おむつ型であり、機械本体(機械部30)は腹部に位置する。尿の出る部分にセンサ部(センサ10)があり、仙骨に当たる位置に低周波刺激部(刺激パッド20)がある。
【0098】
機械部30とセンサ10と、及び、機械部30と刺激パッド20とは、それぞれ図示しない電気回線により接続されている。
【0099】
一体型とすることで、睡眠中の体動により位置がずれることを防いでいる。
【0100】
具体的には、市販のアラーム療法に使用する機器、及び、市販のニューロモデュレーション(低周波治療)に使用する機器を合体させる要領で作成した。
【0101】
本装置2は、排尿を感知したセンサ10によりアラーム音が鳴るのではなく、仙骨部にセットしたニューロモデュレーションが動作する。これにより、夜尿時(排尿時)に患者が受けていたアラーム音と母親による起こさせるという刺激に代わり、ニューロモデュレーション(低周波治療)による膀胱刺激がされ、アラームと同等ないしそれ以上の膀胱容量増大が達成される。
図7にその概略を示す。
【0102】
図7に示すように、本発明の一実施形態に係る尿失禁治療方法では、ステップS1において、センサによって排尿の有無を検出する。装着者が夜尿をして(ステップS2)、前記センサが排尿を検出した場合(ステップS3)、刺激パッドによって装着者に刺激を与える(ステップS4)。この刺激は、仙髄領域の求心路刺激であることが好ましい。刺激により、排尿筋の収縮が抑制され(ステップS5)、膀胱容量が増える(ステップS6)。これにより、短期間で夜尿が治る(ステップS7)。
【0103】
実施例2
本発明の装置2の模した試験例を実施した。
【0104】
対象
被験者は8歳の女児である。主訴は毎晩の夜尿。2016年1月より、デスモプレッシン療法に取り組むも効果なく京都府立医科大学泌尿器科を受診した。
【0105】
治療開始時における夜尿時の膀胱容量を計測すると90-110ml程度であった。夜尿時の夜間膀胱容量は、定法に従い、夜尿前後のおむつの重量から算出し、夜尿治癒後の夜間膀胱容量は起床時直後の排尿量とした。
【0106】
当該患者は、夜尿以外に症状はなく、既往症もない。
【0107】
方法
被験者に、アラーム治療のアラーム(ちっちコール、石黒メディカルシステム社製)と、低周波治療器(ウロマスター、日本メディクス社製)の電極をセットして就寝させた。
【0108】
夜尿を検出しアラームが鳴り、即座に母親により子供を起こす刺激は一切与えずに(子供は睡眠を継続したまま)、低周波治療のスイッチを入れる作業をした。周波数は20Hzで、出力電流は10mA、出力電圧は45Vであり、10分間の刺激を与えた。
【0109】
結果
この方法を3週間継続した結果、週に2回しか夜尿をしなくなり、睡眠時の膀胱容量は250mlに増加したことが確認できた。
【0110】
また、昼間の膀胱容量(機能的膀胱容量)が、270mlから350mlに増加していた。
【0111】
睡眠時の膀胱容量は、夜尿がなかった朝の起床直後の排尿量を測定した。昼間の膀胱容量(機能的膀胱容量)は、昼間に限界まで我慢したときの排尿量を測定した。
【0112】
以上の結果は、アラーム治療法と電気刺激治療法とを組み合わせることで、睡眠時の膀胱容量及び昼間覚醒しているときの膀胱容量の増加が達成されることを示している。
【0113】
実施例3
実施例2と同様にして、夜尿症を訴える10歳の男児(患者B)及び9歳の女児(患者C)に対して、本発明の装置2の模した試験例を実施した。
【0114】
結果を、実施例2(患者A)の結果と併せて下記表に示す。
【0115】
【0116】
(考察)
非特許文献1~5などに記載されているように、各々の治療を単独で行った場合位には130-150%の夜間の膀胱容量増大が期待される。一方、本発明の方法によれば、最大250%(160~250%)の夜間の膀胱容量増大が確認され、治療法を単独で行った場合に比して2倍の夜間の膀胱容量増大であった。
【0117】
また、従来方法では夜尿症の治療は6ヶ月程度を要する。しかし、本発明の方法によれば、従来方法の最大1/3短い期間である2~4週間の治療期間で高い治療効果を得ることができた。
【0118】
単に一日のどこかの時間帯に低周波の刺激を与えるのではなく、排尿筋が収縮しているまさにそのタイミングに、排尿筋の収縮抑制につながる神経を刺激することで、このような格別の効果を奏することは、驚くべき結果である。
【0119】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、電気刺激治療法の効果として挙げられる膀胱壁の無抑制収縮を抑制する効果が、排尿筋が収縮しているまさにそのタイミングの電気刺激により、特に顕著に発揮されたと考えられる。無抑制収縮とは、膀胱が尿を十分に充満することができずに排尿をしてしまう、膀胱壁が柔軟性を失い不安定化した状態をいう。すなわち、無抑制収縮を抑制する効果とは、膀胱壁が安定化する効果と換言することができる。
【0120】
また、従来のアラーム療法では、センサにより排尿を感知したアラーム音を聞いた母親等が、患者を起こすことが必要であり、母親及び患者(子ども)の双方に負担があった。一方、本発明の方法を行った場合、子供は寝たままでの治療であったため、子供にとってストレスのない治療であったとのコメントを母親から受けた。
【0121】
また、本発明により夜間のみならず昼間の膀胱容量を増大させる効果が確認されたことから、昼間の尿失禁に対しても効果が期待できる。
【符号の説明】
【0122】
1~4 尿失禁治療用装置
10 センサ(尿センサ部)
20 刺激パッド(低周波刺激部、電極パッド)
21 防水部材
30 機械部
31 刺激発生ユニット
32 制御ユニット
33 センサ素子接続部位
40 おむつ