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特許7010525原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キット
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  • 特許-原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キット
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
C02F11/00 K ZAB
C02F11/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021098533
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2021-06-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509155014
【氏名又は名称】日本エコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松島 穣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 岳人
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 美智代
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110078184(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108706843(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0228229(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110054319(CN,A)
【文献】特開平09-201574(JP,A)
【文献】特開平08-170085(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095999(WO,A1)
【文献】特開2019-099423(JP,A)
【文献】特開2018-134597(JP,A)
【文献】Gang Chen(外6名),Synergistic effect of surfactant and alkali on thetreatment of oil sludge,Journal of Petroleum Scienceand Engineering,2019年,Vol.183, No.106420,pp.1-8
【文献】Bo Zhang(外5名),Highly efficient treatment of oily wastewater using magnetic carbon nanotubes/layered double hydroxidescomposites,Colloids and Surfaces A,Vol.586, No.124187,2020年,pp.1-12
【文献】日比野俊行,ハイドロタルサイトの環境親和的利用,粘土科学,2003年,Vol.42, No.3,pp.139-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
1/00
1/28
1/40
1/58
1/66
B01D 17/05
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で前記原油スラッジを処理する用途に用いられる原油スラッジ用処理剤であって、
グリーンラストを含有する、原油スラッジ用処理剤。
【請求項2】
金属及び金属フェライトの少なくとも一方をさらに含有し、前記金属、及び前記金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の原油スラッジ用処理剤。
【請求項3】
アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトから選ばれる少なくとも一種をさらに含有する、請求項1に記載の原油スラッジ用処理剤。
【請求項4】
原油スラッジの処理方法であって、
前記原油スラッジと水とグリーンラストとをアルカリ条件下で混合する混合工程を備える、原油スラッジの処理方法。
【請求項5】
前記混合工程は、バサルト繊維を配置した容器内で行われる、請求項4に記載の原油スラッジの処理方法。
【請求項6】
原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で前記原油スラッジを処理する用途に用いられる原油スラッジ用処理剤キットであって、
グリーンラストを含有する第1剤と、
金属及び金属フェライトの少なくとも一方を含有する第2剤と、を備え、
前記金属、及び前記金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である、原油スラッジ用処理剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キットに関する。
【背景技術】
【0002】
原油を貯蔵するタンク内には、原油スラッジと呼ばれる沈殿物が堆積する。原油スラッジは、ワックス、アスファルテン等の炭化水素系の物質とそれ以外の海水等の水分、微生物等の分解生成物及び砂、錆等により構成される。このような原油スラッジは、定期的に除去することが必要である。例えば、特許文献1,2には、界面活性剤を含有する原油スラッジ用処理剤が開示されている。
【0003】
一方、特許文献3,4に開示されるように、重金属等を含有する水溶液を処理する水処理剤の成分として、グリーンラストが知られている。また、特許文献5に開示されるように、汚泥の処理方法において、微生物を吸着するバサルト繊維を用いる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-170085号公報
【文献】特開平09-201574号公報
【文献】特開2019-099423号公報
【文献】国際公開第2020/095999号
【文献】特開2018-134597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような原油スラッジを分解可能な原油スラッジ用処理剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する原油スラッジ用処理剤は、原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で前記原油スラッジを処理する用途に用いられる原油スラッジ用処理剤であって、グリーンラストを含有する。
【0007】
上記原油スラッジ用処理剤は、金属及び金属フェライトの少なくとも一方をさらに含有し、前記金属、及び前記金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0008】
上記原油スラッジ用処理剤は、アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトから選ばれる少なくとも一種をさらに含有してもよい。
原油スラッジの処理方法は、前記原油スラッジと水とグリーンラストとをアルカリ条件下で混合する混合工程を備える。
【0009】
上記原油スラッジの処理方法において、前記混合工程は、バサルト繊維を配置した容器内で行われてもよい。
原油スラッジ用処理剤キットは、グリーンラストを含有する第1剤と、金属及び金属フェライトの少なくとも一方を含有する第2剤と、を備え、前記金属、及び前記金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原油スラッジを分解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の原油スラッジの処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キットの一実施形態について説明する。
<原油スラッジ用処理剤>
原油スラッジは、原油タンク等の原油貯蔵容器内の堆積物である。原油スラッジは、ワックス、アスファルテン等の炭化水素系の物質とそれ以外の海水等の水分、微生物等の分解生成物及び砂、錆等により構成される。
【0013】
原油スラッジ用処理剤は、原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で原油スラッジを処理する用途とに用いられる。原油スラッジ用処理剤は、グリーンラストを含有する。
【0014】
グリーンラストは、水酸化第一鉄と水酸化第二鉄とが層状をなす淡青透明色又は淡緑透明色の物質である。グリーンラストとしては、例えば、特許文献3、特許文献4等に記載されるものを用いることができる。
【0015】
原油スラッジ用処理剤は、金属及び金属フェライトの少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。金属、及び金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である。
【0016】
原油スラッジ用処理剤は、金属フェライトの中でも、アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0017】
<原油スラッジ用処理剤の製造方法>
原油スラッジ用処理剤の製造方法は、グリーンラスト生成工程を備えている。本実施形態のグリーンラスト生成工程では、まず、還元触媒体を存在させた水を準備する。
【0018】
還元触媒体は、黒鉛と、鉄及びフェライト鉄の少なくとも一方とを含有する。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛及び人造黒鉛が挙げられる。還元触媒体は、黒鉛を40質量部以上、70質量部以下の範囲内で含有し、鉄及びフェライト鉄の少なくとも一方を20質量部以上、50質量部以下の範囲内で含有することが好ましい。
【0019】
還元触媒体の形状としては、粉末状、塊状等が挙げられる。還元触媒体の形状は、表面積を大きくすることで反応性を高めるという観点から、粉末状であることが好ましい。
グリーンラスト生成工程では、還元触媒体を存在させた水のpHを2以上、5以下の範囲に調整し、撹拌することにより酸化還元反応を行う。酸化還元反応におけるpHは、3.5以上、4.5以下の範囲内であることが好ましい。
【0020】
次に、グリーンラスト生成工程では、上記のように還元触媒体を存在させた水中で酸化還元反応を行った後、第一鉄イオン及び第一鉄化合物の少なくとも一方を加えることにより、水中でグリーンラストを生成させる。グリーンラストの生成は、水を撹拌しながら行うことが好ましい。グリーンラストは、懸濁液として得られる。
【0021】
第一鉄イオン及び第一鉄化合物の少なくとも一方の配合量は、15質量部以上、300質量部以下の範囲内であることが好ましい。グリーンラストの生成は、pHを10.5±0.5の範囲に調整したときの酸化還元電位が-950mV以上、-400mV以下の範囲内であることを確認して終了することが好ましい。この酸化還元電位は、-950mV以上、-600mV以下の範囲内であることがより好ましい。
【0022】
原油スラッジ用処理剤に上述した金属及び金属フェライトの少なくとも一方を含有させる場合、原油スラッジ用処理剤の製造方法は、金属及び金属フェライトの少なくとも一方を配合する配合工程を備える。金属、及び金属フェライトの金属は、上述したようにアルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である。この配合工程は、グリーンラストに金属及び金属フェライトの少なくとも一方を配合する工程であってもよいし、グリーンラストを生成する前の水に金属及び金属フェライトの少なくとも一方を配合する工程であってもよい。金属及び金属フェライトの少なくとも一方の配合量は、2質量部以上、10質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0023】
金属フェライトとしては、例えば、常温フェライト法により得ることができる。常温フェライト法としては、例えば、特開2013-184983号公報(特許第5194223号公報)に開示される化学処理剤を用いる方法が挙げられる。
【0024】
<原油スラッジの処理方法>
原油スラッジの処理方法は、原油スラッジと水とグリーンラストとをアルカリ条件下で混合する混合工程を備えている。本実施形態の混合工程では、原油スラッジと水と上記原油スラッジ用処理剤とをアルカリ条件下で混合する。原油スラッジに対する水の配合量は、例えば、原油スラッジの質量の2倍以上、500倍以下の範囲内である。
【0025】
原油スラッジの処理方法について原油スラッジ処理装置の一例を挙げて説明する。
図1に示すように、原油貯蔵容器11内には、原油スラッジと水とを含む処理対象液12が貯蔵されている。処理対象液12は、原油貯蔵容器11内の原油を排出した後、原油スラッジが残留している原油貯蔵容器11内に水を供給することで得られる。
【0026】
原油スラッジ処理装置21は、処理対象液12にアルカリを供給することで、処理対象液12をアルカリ条件に調整するアルカリ供給装置31と、処理対象液12に原油スラッジ用処理剤を供給する原油スラッジ用処理剤供給装置41とを備えている。また、原油スラッジ処理装置21は、処理対象液12を撹拌する撹拌装置51を備えている。また、本実施形態の処理装置は、処理対象液12に浸漬されるバサルト繊維61を備えている。
【0027】
アルカリ供給装置31は、制御部32と、処理対象液12のpHを測定するpHセンサ33と、アルカリを送液する送液ポンプ34と、アリカリを処理対象液12に供給するアルカリ供給流路35とを備えている。制御部32は、pHセンサ33で測定した処理対象液12のpHに基づいて、送液ポンプ34及びアルカリ供給流路35を利用したアルカリの供給を制御する。混合工程では、処理対象液12の処理の進行に伴って処理対象液12のpHが低下する。このため、混合工程では、アルカリ供給装置31を用いて処理対象液12のpHが所定のpHの値以上となるようにpHの制御を行うことが好ましい。
【0028】
混合工程における処理対象液12のpHは、7.0を超え、12.0以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、7.0を超え、11.5以下の範囲内である。pH調整に用いるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。pH調整には、アルカリ水溶液を用いることが好ましい。
【0029】
原油スラッジ用処理剤供給装置41は、制御部42と、処理対象液12の酸化還元電位を測定する酸化還元電位センサ43とを備えている。原油スラッジ用処理剤供給装置41は、原油スラッジ用処理剤を送液する送液ポンプ44と、原油スラッジ用処理剤を処理対象液12に供給する原油スラッジ用処理剤供給流路45とを備えている。制御部42は、酸化還元電位センサ43で測定した処理対象液12の酸化還元電位に基づいて、送液ポンプ44及び原油スラッジ用処理剤供給流路45を利用した原油スラッジ用処理剤の供給を制御する。混合工程では、処理対象液12の処理の進行に伴って処理対象液12の酸化還元電位が上昇する。このため、混合工程では、原油スラッジ用処理剤供給装置41を用いて処理対象液12の酸化還元電位が所定の酸化還元電位の値以下となるように酸化還元電位の制御を行うことが好ましい。
【0030】
混合工程における処理対象液12の酸化還元電位は、-950mV以上、-500mV以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、-650mV以上、-550mV以下の範囲内である。混合工程における酸化還元電位の制御には、原油スラッジ用処理剤と、還元反応を促進する還元剤とを併用してもよい。還元剤としては、例えば、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0031】
原油スラッジの処理方法における混合工程は、例えば、4日以上行われることが好ましい。混合工程は、バサルト繊維61を配置した原油貯蔵容器11内で行われることが好ましい。バサルト繊維61の原料は、天然の玄武岩である。玄武岩は、二酸化ケイ素(SiO)を約50質量%含有している。また、玄武岩は、赤鉄鉱及び酸化鉄(Fe・FeO)を約15%含有している。このようなバサルト繊維61は、処理対象液12中のグリーンラストを吸着する。バサルト繊維61は、グリーンラストを添加した処理対象液12中で揺動されることで、バサルト繊維61とグリーンラストとの間で電子の授受が行われることにより、グリーンラストを吸着すると推測される。このようにグリーンラストがバサルト繊維61に吸着されることにより、グリーンラストが塊状の沈殿物になることを抑えることができる。これにより、グリーンラストと原油スラッジとの接触面積を増大することができるため、原油スラッジの分解反応を促進することが可能となる。
【0032】
バサルト繊維61の繊維径は、例えば、10μm以上、30μm以下の範囲内、10μm以上、15μm以下の範囲内等である。バサルト繊維61は、例えば、取り扱いが容易であるという観点から、バサルト長繊維であることが好ましい。バサルト繊維の繊維長は、例えば、100mm以上、220mm以下の範囲内であることが好ましい。また、バサルト繊維61は、バサルト担持体であることが好ましい。バサルト担持体は、バサルト繊維61を原油貯蔵容器11内に配置し易くするために、バサルト繊維61を集合させたものである。バサルト担持体としては、例えば、バサルト繊維61を縄状、房状、布状、網状等の形状に集合させたものが挙げられる。バサルト担持体は、例えば、原油貯蔵容器11内に吊り下げて配置することが好ましい。
【0033】
バサルト繊維61は、変性バサルト繊維であってもよい。変性バサルト繊維としては、例えば、フェライト鉄を含むフェライト鉄変性バサルト繊維、樹脂を含む樹脂変性バサルト繊維等が挙げられる。樹脂変性バサルト繊維としては、例えば、バサルト繊維と樹脂繊維と合わせた撚糸から構成される樹脂変性バサルト繊維、バサルト繊維の一部を結合する樹脂を有する樹脂変性バサルト繊維、バサルト繊維の一部をコーティングした樹脂を有する樹脂変性バサルト繊維等が挙げられる。
【0034】
バサルト繊維61は、例えば、水1L当たり、1g以上、1000g以下の範囲内で使用することが好ましい。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0035】
(1)原油スラッジ用処理剤は、原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で原油スラッジを処理する用途に用いられる。原油スラッジ用処理剤は、グリーンラストを含有している。この構成によれば、原油スラッジを分解することが可能となる。詳述すると、例えば、原油スラッジ中の油分を分解し、水に可溶化することができる。これにより、原油スラッジを原油貯蔵容器11から容易に排出することができる。
【0036】
(2)原油スラッジ用処理剤は、金属及び金属フェライトの少なくとも一方をさらに含有することが好ましい。金属、及び金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である。原油スラッジ用処理剤は、金属フェライトの中でも、アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトから選ばれる少なくとも一種を含有することがより好ましい。
【0037】
この場合、原油スラッジ中の油分の分解及び水への可溶化を促進することができる。このため、例えば、より短期間で原油スラッジの処理を行うことが可能となる。
(3)原油スラッジの処理方法は、原油スラッジと水とグリーンラストとをアルカリ条件下で混合する混合工程を備えている。この方法によれば、上記(1)欄で述べたように、原油スラッジを原油貯蔵容器11から容易に排出することができる。
【0038】
ここで、原油スラッジには、硫化水素及びチオール硫酸が含有される場合がある。このため、原油スラッジの処理では、硫化水素及びチオール硫酸を要因とする臭気対策が煩雑となるおそれがある。この点、本実施形態の原油スラッジの処理方法を用いることで、臭気の要因となる硫化水素及びチオール硫酸の濃度を速やかに低減することもできる。従って、臭気対策を簡素化して原油スラッジを処理することが可能となる。
【0039】
混合工程は、バサルト繊維61を配置した容器内で行われることが好ましい。この場合、原油スラッジ中の油分の分解及び水への可溶化を促進することができる。このため、例えば、より短期間で原油スラッジの処理を行うことが可能となる。
【0040】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0041】
・原油スラッジの処理方法は、バサルト繊維61を用いずに行うこともできる。
・原油スラッジ用処理剤は、第1剤と第2剤とを備える原油スラッジ用処理剤キットであってもよい。原油スラッジ用処理剤キットの第1剤は、グリーンラストを含有する。原油スラッジ用処理剤キットの第2剤は、上述した金属及び金属フェライトの少なくとも一方を含有する。原油スラッジ用処理剤キットは、第1剤と第2剤とを予め混合した後に原油スラッジと水とに混合する方法で用いてもよいし、第1剤と第2剤とを別々に原油スラッジと水とに混合する方法で用いてもよい。
【0042】
・原油スラッジの処理方法は、上述した原油スラッジ処理装置21を用いる方法に限定されない。原油スラッジの処理方法では、例えば、処理対象液12のpH及び酸化還元電位に基づいて、アルカリと原油スラッジ処理剤とを手動で加えてもよい。また、原油スラッジの処理方法では、処理の開始時に過剰量のアルカリと過剰量の原油スラッジ用処理剤とを加えて、数日間撹拌する方法であってもよい。
【0043】
・原油スラッジを処理する容器である原油貯蔵容器11は、陸上に設置されているタンクに限定されず、洋上のタンカーが備えるタンクであってもよい。
<試験例>
次に、試験例について説明する。
【0044】
(試験例1)
1.グリーンラストの調製
試験例1では、次のようにグリーンラストを調製した。グリーンラストの調製では、まず、黒鉛600gとフェライト鉄(Fe)400gを混合することで還元触媒体を調製した。次に、ろ過布内に入れた還元触媒体をパンチングステンレスからなる筒状容器内に収容し、10Lの水を入れた水槽内に固定した。このように還元触媒体を浸漬した水を反応用液として以下の操作を行った。
【0045】
反応用液を撹拌しながら、希硫酸を添加することで、pHを3.5以上、4.5以下の範囲に調整した後に、反応用液の撹拌を40時間継続した。次に、反応用液を撹拌しながら、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)1200gを加えた。硫酸第一鉄を添加したときの反応用液の酸化還元電位(ORP)は400mV以下であった。さらに、反応用液を40時間撹拌することで、グリーンラストの懸濁液を得た。
【0046】
次に、水酸化ナトリウム水溶液(48%(w/v))を添加することで、pHを10.5に調整した。このときの酸化還元電位が-800mV以上、-700mV以下の範囲であることを確認し、撹拌及びpH調整を終了した。得られた懸濁液の色が淡青透明色又は淡緑透明色の懸濁液であることにより確認した。得られたグリーンラスト懸濁液の全鉄量は、33000mg/Lである。
【0047】
2.原油スラッジの処理試験
試験例1では、得られたグリーンラスト懸濁液を原油スラッジ用処理剤として用いた。原油スラッジの処理試験では、まず、原油スラッジを1000mLビーカーに40g入れて精製水1000mLを加えることで、原油スラッジと水とを含有する処理対象液を調製した。原油スラッジの成分を分析した結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
次に、処理対象液のpHを11.0に調整した。このpH調整は、処理対象液を撹拌装置で撹拌しながら、水酸化ナトリウム水溶液(25%(w/v))を処理対象液に添加することにより行った。
【0049】
処理対象液のpHは、原油スラッジの処理が進行するにつれて低下する。このため、処理対象液のpH値が10.5未満となった場合、水酸化ナトリウム水溶液をpH値が11.0となるまで再度添加した。このようなpHの制御は、上述したアルカリ供給装置を用いて行うことができる。
【0050】
次に、pHを調整した処理対象液に原油スラッジ用処理剤を添加した。原油スラッジ用処理剤は、処理対象液の酸化還元電位が-600mVとなるように添加した。処理対象液の酸化還元電位は、原油スラッジの処理が進行するにつれて上昇する。このため、酸化還元電位が-600mVを超える場合、-630mVに達するまで原油スラッジ用処理剤を再度添加した。このような酸化還元電位の制御は、上述した原油スラッジ用処理剤供給装置を用いて行うことができる。
【0051】
3.分析項目
原油スラッジの処理試験を5日間行った後の処理対象液の試料について、以下の分析項目1~10の分析を行った。各分析項目の結果を表2に示す。
【0052】
分析項目1.TOC
TOCは、全有機炭素量(Total Organic Carbon、単位:mg/L)示す。試料中に含まれる有機物を二酸化炭素に酸化させた後、二酸化炭素量を測定することによってTOCを求める。TOCは、例えば、燃焼酸化方式により測定することができる。
【0053】
分析項目2.COD
CODは、化学的酸素要求量(Chemical Oxide Demand、単位:mg/L)を示す。CODは、試料中の被酸化性物質量を一定の条件下で酸化剤により酸化し、その際使用した酸化剤の量から酸化に必要な酸素量を求めて換算したものである。被酸化物質には、各種の有機物と亜硝酸塩、硫化物等の無機物があるが、主な被酸化物は有機物である。酸性高温過マンガン酸法で測定することができる。
【0054】
分析項目3.n-Hex
n-Hexは、ノルマルヘキサン抽出物質含有量(単位:mg/L)を示す。n-Hexは、試料中の成分において、ノルマルヘキサンを溶媒として抽出される不揮発性物質の含有量である。
【0055】
分析項目4.SS
SSは、浮遊物質(suspended solids、単位:mg/L)を示す。SSは、試料中に浮遊する粒子径2mm以下の不溶解性物質の総称である。
【0056】
分析項目5.T-N
T-Nは、全窒素(Total Nitrogen、単位:mg/L)を示す。T-Nは、試料中に含まれる窒素化合物の総量である。
【0057】
分析項目6.T-P
T-Pは、全リン(Total Phosphorus、単位:mg/L)を示す。T-Pは、試料中に含まれるリン化合物の総量である。
【0058】
分析項目7.Fe
Fe(単位:mg/L)は、試料中に含まれるFeの総量である。
分析項目8.Mn
Mn(単位:mg/L)は、試料中に含まれるMnの総量である。
【0059】
分析項目9.Cu
Cu(単位:mg/L)は、試料中に含まれるCuの総量である。
分析項目10.Cr
Cr(単位:mg/L)は、試料中に含まれるCrの総量である。
【0060】
(試験例2)
表2に示すように、試験例2では、グリーンラスト懸濁液95質量部とケイ素フェライト5質量部とを混合することにより原油スラッジ用処理剤を調製した。この原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を5日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表2に示す。
【0061】
(試験例3)
表2に示すように、試験例3では、グリーンラスト懸濁液95質量部とイットリウムフェライト5質量部とを混合することにより原油スラッジ用処理剤を調製した。この原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表2に示す。
【0062】
(試験例4)
表2に示すように、試験例4では、グリーンラスト懸濁液95質量部とアルミニウムフェライト5質量部とを混合することにより原油スラッジ用処理剤を調製した。この原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表2に示す。
【0063】
(試験例5)
表2に示すように、試験例5では、グリーンラスト懸濁液95質量部と亜鉛フェライト5質量部とを混合することにより原油スラッジ用処理剤を調製した。この原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表2に示す。
【0064】
(試験例6~8)
表3に示すように、試験例6~8では、グリーンラスト懸濁液とイットリウムフェライトとアルミニウムフェライトとを混合することにより、原油スラッジ用処理剤を調製した。この原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表3に示す。
【0065】
(試験例9)
1.アルミニウムフェライト分散液の調製
試験例9では、常温フェライト法で調製したアルミニウムフェライト分散液を用いた。アルミニウムフェライト分散液の調製について詳述すると、まず、2000mLの容器に硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を水1552gに314gを混入して撹拌した。次に、当量以上のアルカリ(48%水酸化ナトリウム水溶液)を添加して撹拌を行いながら、さらにアルミニウムを添加することにより、原料液を調製した。得られた原料液を2時間以上撹拌し、特開2013-184983号公報(特許第5194223号公報)に開示される化学処理剤を0.2mL添加することで酸化還元反応を行った。このとき、反応液の酸化還元電位を測定し、酸化還元電位がマイナス、すなわち還元側に推移したことを確認した。この酸化還元反応により、アルミニウムフェライト分散液を得た。
【0066】
2.原油スラッジ用処理剤の調製
黒鉛20gとフェライト鉄(Fe)80gを混合することで還元触媒体を調製した。次に、ろ過布内に入れた還元触媒体をパンチングステンレスからなる筒状容器内に収容し、13420Lの水を入れた水槽内に固定した。このように還元触媒体を浸漬した水を反応用液として以下の操作を行った。
【0067】
反応用液を撹拌しながら、希硫酸を添加することで、pHを3.5以上、4.5以下の範囲に調整した後に、反応用液の撹拌を40時間継続した。次に、反応用液を撹拌しながら、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)2700gと、上記アルミニウムフェライト分散液2000gとを加えた。このときの酸化還元電位(ORP)は400mV以下であった。さらに、反応用液を40時間撹拌することで、グリーンラストの懸濁液を得た。
【0068】
次に、水酸化ナトリウム水溶液(48%(w/v))を添加することで、pHを10.5に調整した。このときの酸化還元電位が-800mV以上、-700mV以下の範囲であることを確認し、撹拌及びpH調整を終了した。得られた懸濁液の色が淡青透明色又は淡緑透明色の懸濁液であることにより確認した。得られたグリーンラスト懸濁液の全鉄量は、33000mg/Lである。
【0069】
3.原油スラッジの処理試験及び分析
上記のように得られた原油スラッジ用処理液を用いて、試験例1と同様に原油スラッジの処理試験を行った。原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表3に示す。
【0070】
(試験例10)
試験例10では、バサルト繊維を用いた以外は、試験例9と同様に原油スラッジの処理試験を行った。詳述すると、原油スラッジ処理試験において、原油スラッジと水とを含有する処理対象液を調製した後、繊維径が13μmのバサルト繊維10gを房状にしたバサルト担持体を処理対象液に浸漬されるように吊り下げた状態で、以降の操作を行った。
【0071】
原油スラッジの処理試験を4日間行った後の処理対象液の試料について、上記各分析項目の結果を表3に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
試験例1~10では、4日間又は5日間の原油スラッジの処理により、原油スラッジの大部分を水への可溶化することができた。試験例2~10では、金属フェライトを含有させた原油スラッジ用処理剤を用いている。これらの試験例2~10では、金属フェライトを含有しない試験例1よりも、n-Hexの値が低い。この結果から、金属フェライトを含有する原油スラッジ用処理剤では、原油スラッジ中の油分の分解を促進できることが分かる。また、例えば、試験例2~5のn-Hexの値から、金属フェライトの中でも、アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトを原油スラッジ用処理剤に含有させた場合、原油スラッジ中の油分の分解をより促進できることが分かる。また、バサルト繊維を用いた試験例10では、バサルト繊維を用いない試験例9よりもn-Hexを低減できることが分かる。
【0074】
また、各試験例で用いた原油スラッジと水とを含有する処理対象液は、硫化水素を18mg/L含有する。硫化水素は、悪臭防止法施行規則第五条、特定悪臭物質の測定の方法における別表第二に掲げる方法により測定することができる。また、各試験例で用いた原油スラッジと水とを含有する処理対象液は、チオール硫酸(メチルカプタン類)を0.00029質量%含有する。チオール硫酸は、JIS K2276:2003に規定されるチオール硫黄分試験方法に準拠して測定することができる。各試験例では、原油スラッジと水と原油スラッジ用処理剤とをアルカリ条件下で混合する混合工程を開始した時点で、硫化水素及びチオール硫酸は検出されなかった。
【符号の説明】
【0075】
21…原油スラッジ処理装置
61…バサルト繊維
【要約】
【課題】原油スラッジを分解することを可能にした原油スラッジ用処理剤、原油スラッジの処理方法、及び原油スラッジ用処理剤キットを提供する。
【解決手段】原油スラッジ用処理剤は、原油スラッジと水とに混合され、アルカリ条件下で原油スラッジを処理する用途に用いられる。原油スラッジ用処理剤は、グリーンラストを含有する。原油スラッジ用処理剤は、金属及び金属フェライトの少なくとも一方をさらに含有してもよい。金属、及び金属フェライトの金属は、アルミニウム、イットリウム、亜鉛、銅、錫、クロム、及びケイ素から選ばれる少なくとも一種である。原油スラッジ用処理剤は、アルミニウムフェライト、イットリウムフェライト、及び亜鉛フェライトから選ばれる少なくとも一種をさらに含有してもよい。原油スラッジの処理方法は、原油スラッジと水とグリーンラストとをアルカリ条件下で混合する混合工程を備える。
【選択図】図1
図1