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特許7010564被処理水の処理方法、及びその処理方法を含む排水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】被処理水の処理方法、及びその処理方法を含む排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20060101AFI20220119BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20220119BHJP
   B01D 19/00 20060101ALI20220119BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C02F1/52 E
B01D21/01 102
B01D19/00 F
C02F1/20 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021546295
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008709
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/014113
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596032177
【氏名又は名称】住友金属鉱山エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】村木 務
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-143897(JP,A)
【文献】特開2007-061773(JP,A)
【文献】特開平11-277096(JP,A)
【文献】特開昭58-153594(JP,A)
【文献】特開2006-281171(JP,A)
【文献】特開2003-112198(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110615579(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52- 1/56
C02F 11/00-11/20
B01D 21/01
B01D 19/00
C02F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液に対する処理方法であって、
前記被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、該無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、
固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、
を有する、処理方法。
【請求項2】
前記無機凝集剤としてアルミニウム塩を用いる、
請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記被処理液は、嫌気性消化液である、
請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記被処理液は、硫化物を含むものであり
前記被処理液に前記酸を添加するに先立ち、pHを中性領域とする条件下で該被処理液に含まれる硫化物沈殿を除去する、
請求項1乃至3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液の排水処理方法であって、
前記被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、該無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、
固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、
前記沈殿物を分離除去した後の分離液に対してアンモニアストリッピングの処理を施す工程と、
を有する、排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度にアンモニア性窒素やCOD成分を含有するとともに固形分を含む被処理液に対する処理方法に関する。より詳しくは、その被処理液の排水処理において、アンモニアストリッピングを有効に適用可能な清澄液を得るための処理方法、及びその処理方法を含む排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気性消化液とは、し尿、畜産廃棄物等の有機物を無酸素状態で生物処理し、メタン等のバイオガスをエネルギーとして回収し、その結果排出される排水のことをいう。嫌気性消化液には、数千~数万mg/L以上の高濃度の浮遊懸濁物質(SS分)と、蛋白質等に由来する数千mg/Lの高濃度のアンモニア性窒素が含まれているため、排水処理が必要となる。具体的に、その排水処理の方法としては、通常、生物学的処理方法が行われる。
【0003】
一般的な生物学的処理方法では、BOD:N=100:5程度が好適である。ところが、嫌気性消化液には、アンモニア性窒素が高濃度で存在しており、BOD:N=n:1程度となっていることが多く、一般的な適正比率に比べて窒素の比率が高いため、生物学的処理方法の適用を難しいものとしている。
【0004】
このことから、嫌気性消化液に対する排水処理として、アンモニアストリッピングを施すことで、窒素濃度を選択的に低下させてBOD/N比を改善することが考えられる。例えば特許文献1には、固形物及び有機物を含むアンモニア含有排水をpH7~12の範囲に制御してアンモニアガスを気散させるアンモニア気散工程と、気散したアンモニアガスを吸収水に吸収させるアンモニア溶解工程と、アンモニアガスを吸収したアンモニア水に対して亜硝酸化及び嫌気性アンモニア酸化により処理しアンモニアを分解除去する窒素生物除去工程と、を有する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のような方法では、固形物が含まれている状態でアンモニアストリッピングを行うため、一般的なアンモニアストリッピング塔(放散塔)を使用することができない。固形分が存在していると、装置内で閉塞等の障害が発生するためである。そのため、特許文献1には、ガス撹拌、機械撹拌、水蒸気注入、加温等の気散促進手段を適宜採用し、好ましくは加温手段によって被処理液を30℃~100℃の範囲に加温する方法が示されており、これにより、pH7~10の範囲で被処理液からのアンモニアガスの気散を効果的に行うことができ、アルカリ剤の使用量を削減することができる、としている。ところが、対象液と蒸気とを向流接触させる放散塔と比較すると、ストリッピングの効率低下が懸念される。
【0006】
また、放散させたアンモニアガスは、溶液中へ溶解させずにガスのまま触媒を用いて燃焼することが一般的であり、そのほうが低コストで処理できる。しかしながら、特許文献1の技術では、放散させたガスを溶液に吸収させ(アンモニア溶解工程)、その溶液に対し生物脱窒素処理を適用する(窒素生物除去工程)こととしている。これは、連続的な放散処理を前提としている一般的な放散塔での処理とは、ストリッピングの方式が異なるため、アンモニアガスの燃焼システムを適用することが困難であるためであると推測される。
【0007】
上述したように、効率的なアンモニア処理を行うためには、放散塔を適用し、放散させたアンモニアガスを燃焼させることが望ましい。そしてそのためには、前段階で固形分が分離され、清澄された分離液が得られていることが必要となる。しかしながら、嫌気性消化液は、SS濃度が高く、表面が負に帯電していて凝集性が悪い上に脱水性も悪く、固液分離が難しい。
【0008】
また、特許文献2には、し尿の嫌気性処理液(消化液)を水で15倍希釈した液を活性汚泥処理し、その処理水を凝集沈殿処理する方法が提案されている。この方法では、一定の処理効果が得られているが、嫌気性消化液を15倍に希釈し、それに活性汚泥処理を施してから凝集沈殿を行っているため、凝集沈殿の入口ではSS濃度が40mg/L程度まで低下している。嫌気性消化液を、SS濃度がこの程度に低下するまで希釈することは、大量の希釈水を必要とするだけでなく、後段の処理に使用する装置が大型化することになる。そのため、可能な限り希釈せずに固液分離することが望ましい。
【0009】
また、特許文献3には、SS中の有機態窒素の割合が高く、かつ排水中の有機態窒素濃度が高い排水の処理として、高分子凝集剤単独の処理によってSS分を凝集させ固液分離する方法が提案されている。消化液を含む有機性排水に対して、高分子凝集剤単独の処理によって凝集させ固液分離できることは望ましいといえる。
【0010】
ところが、特許文献3に記載の実施例によると、高分子凝集剤が当該排水の全蒸発残留物に対して概ね2%程度の割合で添加されている。嫌気性消化液の場合、事例によって異なるものの、全蒸発残留物の濃度は2質量%~3質量%が一般的であるため、仮に全蒸発残留物の濃度が2質量%としたとき、高分子凝集剤の添加量を全蒸発残留物量に対して2%の割合で添加する場合、添加後の高分子凝集剤濃度としては400mg/Lとなる。高分子凝集剤の添加量として400mg/Lという数値は、一般的な排水処理における高分子凝集剤の添加量からみて桁違いに大きい。高分子凝集剤は、無機凝集剤と比較して単価が高いため、高濃度の高分子凝集剤の添加はコスト上昇を招くことになる。また、上述した実施例では、原水中のSS濃度が数%に対して、SS回収率が82~99%となっていることから、分離液中には最小でも数百mg/LのSSが含まれていることになる。つまり、清澄液が得られているわけではない。
【0011】
このように、特許文献3で提案されている方法は、清澄液を得るための方法というよりも、効率よく固形分を回収する方法である、ということができる。高分子凝集剤を単独で用いた処理により固液分離が可能であるという技術的なメリットは大きいものの、コスト面及び分離液の清澄性を考慮すると、有効な方法とは言い切れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2010-000444号公報
【文献】特公昭53-041463号公報
【文献】国際公開第2018/199330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えば嫌気性消化液のような、アンモニア性窒素、COD成分、及びSS等の固形分を高濃度に含む被処理液に対する排水処理において、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液を効率的にかつ安定的に得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、被処理液に無機凝集剤と酸を添加して所定のpH以下に調整するとともに、その無機凝集剤の全部又は一部を溶解させて固液分離し、その後、分離液に中和処理を施すことで、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液が効率的にかつ安定的に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液に対する処理方法であって、前記被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、該無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、を有する、処理方法である。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記無機凝集剤としてアルミニウム塩を用いる、処理方法である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記被処理液は、嫌気性消化液である、処理方法である。
【0018】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記被処理液に硫化物が含まれる場合、前記被処理液に前記酸を添加するに先立ち、pHを中性領域とする条件下で該被処理液に含まれる硫化物沈殿を除去する、処理方法である。
【0019】
(5)本発明の第5の発明は、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液の排水処理方法であって、前記被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、該無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、前記沈殿物を分離除去した後の分離液に対してアンモニアストリッピングの処理を施す工程と、を有する、排水処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液を効率的にかつ安定的に得ることができる。また、固形分を有効に分離して清澄液を得ることができるため、COD濃度も効果的に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。また、本明細書にて、「x~y」(x、yは任意の数値)の表記は、特に断らない限り「x以上y以下」の意味である。
【0022】
≪1.被処理水の処理方法(アンモニアストリッピングの前処理方法)≫
本実施の形態に係る処理方法は、アンモニア性窒素を含有する被処理液に対する処理方法であり、アンモニアストリッピングの処理工程を含む排水処理方法における前処理工程の処理として好適な処理方法である。
【0023】
具体的に、その被処理液としては、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液である。そのような被処理液としては、例えば、嫌気性消化液が挙げられる。なお、嫌気性消化液とは、上述のように、し尿、畜産廃棄物等の有機物を無酸素状態で生物処理し、メタン等のバイオガスをエネルギーとして回収する処理を経て排出される排水をいう。
【0024】
嫌気性消化液等の被処理液に対する排水処理においては、生物学的処理による方法が一般的である。ところが、その被処理液には、特にアンモニア性窒素が高濃度に含まれている。そのため、生物学的処理に先立って、被処理液に対してアンモニアストリッピングの処理を施すことで、窒素濃度を選択的に低下させることが必要となる。
【0025】
アンモニアストリッピングの処理は、一般的に放散塔を使用してアンモニアガスを放散するが、SS等の固形分が含まれていると、装置内での閉塞等の障害発生の観点から有効に処理できないことがある。
【0026】
本実施の形態に係る被処理液の処理方法は、後工程でアンモニアストリッピングの処理を行う排水処理に先立つ前処理方法であって、被処理液中の固形分を有効に分離除去して、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液を効率的に得る方法である。具体的に、この処理方法は、被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、その無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、を有するものである。
【0027】
また、この処理方法においては、被処理液に硫化物が含まれる場合、被処理液に酸を添加するに先立ち、pHを中性領域とする条件下で被処理液に含まれる硫化物沈殿を除去するようにしてもよい。
【0028】
このような方法によれば、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液を効率的にかつ安定的に得ることができる。また、固形分を有効に分離して清澄液を得ることができるため、COD濃度も効果的に低減させることができる。以下、被処理液として嫌気性消化液を用いた場合を例に挙げて、各工程についてより詳細に説明する。
【0029】
[第1の工程]
第1の工程として、被処理液である嫌気性消化液に含まれる硫化物沈殿を除去する。本実施の形態に係る処理方法において、必須の工程ではないが、嫌気性消化液に硫化物が含まれる場合には、後述する第2の工程において、嫌気性消化液に酸を添加するに先立ち、pHを中性領域とする条件下で硫化物沈殿を除去する処理を行うことが好ましい。
【0030】
一般的に、嫌気性消化液を得る嫌気性処理においては、硫酸等が還元され硫化水素が生成されるが、これがガスとして排出されるとバイオガス(メタンガス)の品位が低下する。そのため、嫌気性処理においては、硫化水素ガスの発生を抑制する目的で鉄塩が添加される。このことから、嫌気性処理により得られる嫌気性消化液中には、添加した鉄塩に由来する鉄が硫化鉄として沈殿していることがある。
【0031】
このような嫌気性消化液に対する処理方法において、後述する第2の工程では、硫酸等の酸を添加することで嫌気性処理液のpHを下げて酸性側とするため、硫化物沈澱を事前に分離しておかないと、酸性側とした際に硫化水素ガスが発生してしまう。そこで、第1の工程では、硫化水素ガスの発生を防止するために、硫化鉄の溶解度が小さい中性領域とする条件で固液分離を行い、硫化物を除去する。
【0032】
硫化物の分離除去においては、例えばカチオン系高分子凝集剤等の凝集剤を添加することができる。また、中性領域の条件下とするために、適宜pH調整剤を添加することができる。なお、固液分離の方法は特に限定されず、遠心分離等により行うことができる。
【0033】
なお、上述したように、第1の工程は必須のものではなく、嫌気性消化液中に硫化物沈殿がそれほど存在していない場合には、省略することもできる。
【0034】
[第2の工程]
第2の工程では、被処理液である嫌気性消化液に無機凝集剤と酸を添加してpH3いかに調整するとともに、添加して無機凝集剤の全部又はその一部を溶解させ、固液分離する。この第2の工程での処理は、酸性条件下で溶解度が低い、あるいは凝集性がよいCOD成分の除去を主な目的としている。
【0035】
嫌気性消化液に含まれるCOD成分のうち、大半は固形分として存在している。その固形分は、表面が負に帯電しており凝集しにくく、固液分離を困難なものとしている。そこで、酸を添加して嫌気性消化液のpHを下げることによって固形分の表面電位を正の方向へ変位させ、さらに、併せて添加する無機凝集剤により表面電位を中和する。
【0036】
添加する酸としては、特に限定されないが、塩酸、硫酸等を用いることができる。
【0037】
第2の工程では、このように酸を添加してpHを低下させていることから、その過程で炭酸ガスが発生して脱炭酸が行われる。そのため、炭酸塩によるpH緩衝作用が除去され、これによって、後で実行するアンモニアストリッピング処理で消費するアルカリ薬剤量の低減を図ることができる。
【0038】
また、無機凝集剤としては、使用条件下で正の表面電荷を有するものであればよいが、特にアルミニウム塩が好ましい。また、カチオン系の高分子凝集剤と併用してもよい。
【0039】
ここで、第2の工程では、添加した無機凝集剤の全量又はその一部が溶解した状態となる。このように、添加した無機凝集剤が溶解し、正の多価イオンとして溶液中に存在するようになることで、固形分における負の表面電荷を中和する作用が生ずる。そして、この段階で固液分離を行うことにより、酸性で溶解度が低い、あるいは凝集性がよいCOD成分を効率的に分離することが可能となる。
【0040】
無機凝集剤の添加量としては、特に限定されないが、添加度の濃度として1000mg/L~3500mg/L程度(金属成分濃度換算)とすることができる。このように、本実施の形態では、酸を添加してpH3以下に調整するとともに無機凝集剤を添加して全部又は一部を溶解させることで固形分の表面電荷を中和していることから、無機凝集剤の添加量をより少ない範囲に制御して処理できる。
【0041】
なお、固液分離の方法は特に限定されず、遠心分離等により行うことができる。
【0042】
[第3の工程]
第3の工程では、第2の工程にて固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する。
【0043】
上述したように第2の工程での固液分離によって、酸性条件下で溶解度が低い、あるいは凝集性がよいCOD成分がすでに除去されているため、その固液分離後の分離液には、酸性条件下でも溶解性がある又は凝集しないCOD成分が主として残存している。また、無機凝集剤の大部分が溶解した状態で存在している。そこで、第3の工程では、その分離液を中和することで、無機凝集剤を沈殿物化して、それに伴って液中に残存するCOD成分を凝集させる。これにより、COD成分の除去をさらに進行させることができ、分離液を清澄化できる。また、このように有機性の固形分を分離することで、COD濃度も低下することとなる。
【0044】
中和に際しては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液等のpH調整剤を添加することで、分離液のpHを5~6.5程度の範囲に調整する。
【0045】
以上のようにして得られる分離液(処理後液)は、固形分が効果的に分離除去された清澄な溶液である。そのため、嫌気性消化液に対する排水処理として、その処理後液に対してアンモニアストリッピングの処理を好適に実行することができる。このように、本実施の形態に係る被処理液の処理方法は、アンモニアストリッピング工程を実行するための前処理方法として有効であり、無機凝集剤を含む凝集剤の添加量を抑えながら、安定的に清澄液を得ることができる。また、生成した固形分を分離することで、COD濃度も効果的に低下させることができる。
【0046】
≪2.被処理液の排水処理方法≫
本実施の形態に係る被処理液の排水処理方法は、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液の排水処理方法である。このような被処理液としては、嫌気性消化液が挙げられる。
【0047】
この排水処理方法は、アンモニアストリッピング処理の前処理工程であって被処理液の清澄化する工程(前処理工程)と、清澄化処理して得られた処理後液に対してアンモニアストリッピングを行う工程(アンモニアストリッピング工程)と、を含む。
【0048】
[前処理工程]
前処理工程は、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液から固形分を分離除去して清澄化するとともに、COD成分の濃度を低減させる処理工程である。
【0049】
具体的に、この前処理工程は、被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、を有する。
【0050】
各工程については、上述した被処理水の処理方法の工程と同様であるため、ここでの説明は省略する。このような前処理工程での処理を経ることで、無機凝集剤を含む凝集剤の添加量を抑えながら、安定的に清澄液を得ることができ、また、生成した固形分を分離することで、処理液中のCOD濃度も効果的に低下させることができる。
【0051】
[アンモニアストリッピング工程]
次に、アンモニアストリッピング工程は、上述の前処理工程を経て得られた処理後液を用いて、アンモニアストリッピングを行う処理工程である。
【0052】
アンモニアストリッピングは、一般的に、アンモニアストリッピング塔(放散塔)を使用して、被処理液に高濃度に含まれるアンモニア性窒素をアンモニアガスとして放散させる。これにより、アンモニア性窒素に由来する窒素濃度を効果的に低減できる。このとき、本実施の形態に係る排水処理方法では、アンモニアストリッピングに先立ち、上述した前処理工程を実行していることから、被処理液に含まれる固形分を有効に除去して清澄化している。そのため、アンモニアストリッピング塔に装入したときにも、塔内において閉塞塔の障害が発生することを抑制して、効果的に排水処理を行うことができる。
【0053】
なお、アンモニアストリッピングの処理については、特に限定されず公知の方法により行うことができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
下記表1に示す水質の嫌気性消化液100mlに対し、カチオン系高分子凝集剤を添加後の濃度で20mg/L添加して凝集させ、遠心分離を行った(第1の工程)。
【0056】
【表1】
【0057】
次に、得られた分離液に対し、ポリ塩化アルミニウム(PAC:アルミナ換算10%溶液)を2ml(アルミニウム濃度換算でおよそ1300mg/L)添加し、塩酸を加えてpH3に調整した。その過程で炭酸ガスが発生したためしばらく静置しておき、ガス発生が収まってから遠心分離を行った(第2の工程)。
【0058】
次に、得られた分離液に苛性ソーダ液を添加してpHを6に調整して中和し、沈殿物を生成させ、遠心分離を行った。遠心分離により固形物を分離することで、清澄な分離液が得られた(第3の工程)。
【0059】
このような操作により得られた清澄な分離液に対してアンモニアストリッピングを行い、処理後液を得た。下記表2に、得られた処理後液の測定結果を示す。
【0060】
なお、処理水の液量確保が困難であったため、固液分離の評価を透視度により行った。ここで、透視度とは、JIS K 0102に準拠した方法により、10mmごとに目盛を施した下口付きのガラス製のシリンダーであって、底部に二重十字を記した標識板を備えた透視度計を用いて測定した。具体的には、透視度計に測定試料を満たし、上部から底部を透視して、標識板の二重十字が明確に識別できるまで下口から試料を速やかに流出させたときの水面の目盛を読み、この操作を複数回行った場合の平均値を測定した。
【0061】
[実施例2]
第2の工程において、分離液のpHを2に調整したこと以外は、実施例1と同様にして試験を実施した。下記表2に、得られた分離液の測定結果を示す。
【0062】
[比較例1]
比較例1では、嫌気性消化液100mlに対し、カチオン系高分子凝集剤を添加後の濃度で20mg/L添加して凝集させ、遠心分離を行った。
【0063】
次に、得られた分離液に対し、ポリ塩化アルミニウム(アルミナ換算10%溶液)を2ml(アルミニウム濃度換算でおよそ1300mg/L)添加し、pH調整をせずに(中性のまま)、遠心分離を行った。
【0064】
このような処理の結果、清澄な分離液が得られなかった。そのため、アンモニアストリッピングは実施しなかった。下記表2に、分離液の測定結果を示す。
【0065】
[比較例2]
比較例2では、分離液に対し、ポリ塩化アルミニウム(アルミナ換算10%溶液)を6ml(アルミニウム濃度換算でおよそ3800mg/L)添加したこと以外は、比較例1と同様にして試験を実施した。
【0066】
その結果、比較例1よりも清澄な分離液が得られたものの、実施例1及び実施例2ほどに清澄した分離液は得られなかった。そのため、アンモニアストリッピングは実施しなかった。下記表2に、分離液の測定結果を示す。
【0067】
[比較例3]
比較例3では、実施例1と同じ条件で第1の工程を実施した後、得られた分離液に対し、ポリ塩化アルミニウム(PAC:アルミナ換算10%溶液)を2ml(アルミニウム濃度換算でおよそ1300mg/L)添加し、塩酸を加えてpH3に調整した。その過程で炭酸ガスが発生したためしばらく静置しておき、ガス発生が収まってから、遠心分離を行わずに、苛性ソーダ液を添加してpHを6に調整して中和し、沈殿物を生成させ、遠心分離を行った。つまり、比較例3では、実施例1とは異なり、第2の工程にて遠心分離による固液分離処理を行わずに、そのまま中和を行って沈殿物を生成させた。
【0068】
その結果、実施例1ほどに清澄な分離液は得られなかった。そのため、アンモニアストリッピングは実施しなかった。下記表2に、分離液の測定結果を示す。
【0069】
【表2】
【0070】
以上のように、実施例にて行った方法によれば、少ない無機凝集剤の添加量で清澄な分離液を得られることが確認された。そして、このように清澄化した処理後を得て、その処理後にアンモニアストリッピングの処理を行うことで、効果的に窒素濃度を低減できることが確認された。
【要約】
嫌気性消化液のような、アンモニア性窒素、COD成分、及びSS等の固形分を高濃度に含む被処理液に対する排水処理において、アンモニアストリッピングを適用可能な清澄液を効率的にかつ安定的に得る方法を提供する。
本発明は、濃度1000mg/L以上のアンモニア性窒素と、濃度2000mg/L以上のCODと、固形分とを含有する被処理液に対する処理方法であって、被処理液に無機凝集剤と酸を添加してpH3以下に調整するとともに、その無機凝集剤の全部又は一部を溶解させ、固液分離する工程と、固形分を分離除去した後の分離液を中和し、生成した沈殿物を分離する工程と、を有する。