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特許7010568植物の葉への画像の転写方法および画像を転写した葉の保存方法
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  • 特許-植物の葉への画像の転写方法および画像を転写した葉の保存方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】植物の葉への画像の転写方法および画像を転写した葉の保存方法
(51)【国際特許分類】
   G03C 1/00 20060101AFI20220203BHJP
   A01N 3/00 20060101ALI20220203BHJP
   B44C 5/06 20060101ALI20220203BHJP
   B41M 3/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
G03C1/00 Z
A01N3/00
B44C5/06 B
B41M3/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019152447
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021033029
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2019-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】519307182
【氏名又は名称】根本 千尋
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】根本 千尋
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-040035(JP,A)
【文献】特開2006-111598(JP,A)
【文献】特開平07-277901(JP,A)
【文献】特開2009-039087(JP,A)
【文献】特開2001-302403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0014469(US,A1)
【文献】キヤノンサイエンスラボ・キッズ,日本,キヤノン株式会社,2012年,https://global.canon/ja/technology/kids/pdf/e_01_07.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03C 1/00
A01N 3/00
B44C 5/06
B41M 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の葉への画像の転写方法であって、
(1)画像が描かれた、または、印刷された透明若しくは半透明の平版を準備し、
(2)(1)の平版を植物の葉に密着させ、そして、
(3)光源にさらされた部分が白色になるまで、青色光ではない光源に曝露する、
ことを含み、ヨウ素液を使用しない、前記転写方法。
【請求項2】
(3)の光源への曝露を、1時間~10日間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(3)の光源への曝露を、1日~7日間行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(2)または(3)の工程において、葉の乾燥を防ぐための処置を行う、請求項1-3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(2)の工程において、さらに、防水性シートまたは保水性シートを、葉に密着させることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
植物が、大きさが5cm以上の葉を有するものである、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
植物が、サトイモ科、イチョウ科、クワ科、マメ科、モクレン科、ブナ科、パパイア科、ラン科、ショウガ科、ハス科、トウダイグサ科、カキノキ科、キク科、バショウ科、ウコギ科、バラ科、キジカクシ科、トベラ科、バラ科、マタタビ科およびアオイ科からなる科から選択される植物である、請求項1-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
植物が、クワズイモ、イチョウ、イチジク、クズ、コブシ、クリ、パパイア、シラン、ミョウガ、ハス、ハマイヌビワ、シマグワ、アカメガシワ、ゲットウ、オオバギ、カキ、キク、バナナ、ヤツデ、ウメ、ギボウシ、トベラ、サクラ、アコウ、キウイ、サトイモ、ルドベキアおよびフヨウ、からなる群から選択される、請求項1-7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
平版が、ビニール、ガラス、印刷用紙、プラスチック、塩化ビニール板、ゲル及びゼラチンからなる群から選択される、請求項1-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
画像を転写した葉の保存方法であって、
請求項1-9のいずれか1項に記載の方法により画像を転写した葉を、アルコール、防腐剤および水を含む液に浸漬し、次いで、余分な液剤を除き、さらに、密封処理を行う、ことを含む、保存方法。
【請求項11】
アルコールが多価アルコールである、請求項10に記載の保存方法。
【請求項12】
アルコールが、グルセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項10に記載の保存方法。
【請求項13】
防腐剤が、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、安息香酸、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項10-12のいずれか1項に記載の保存方法。
【請求項14】
転写した葉の、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬を、1日~10日間行う、請求項10-13のいずれか1項に記載の保存方法。
【請求項15】
転写した葉の、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬を、冷暗所で行う、請求項10-14のいずれか1項に記載の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉への画像の転写方法および画像を転写した葉の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葉への図像の転写
植物の生の葉に、ヨウ素デンプン反応を利用して、写真または絵などの図像を焼き付ける技術が知られている。まず、葛などの生きている植物の葉に、あらかじめ光を通さないインクで図像を描いた、透明のネガフィルムを張り付ける。それを日光または日光ライトにさらすと、フィルムを透過して、葉に光が当たる部分のみ、葉緑体で光合成が行われる。十分に光にあてたのち、葉を摘み取り、脱色処理を施して緑色色素を抜く。漂白された葉をヨウ素液につけ、液と光合成によって生成されたデンプンと反応させる。ヨウ素デンプン反応の結果、ネガフィルムの透明部分、光の当たっていた部分のみ赤紫色になり、遮光性のインクの影になった部分は脱色されたままになる。その結果、フィルムと反転した図像を葉に転写することができる。図像が転写された葉を素早く乾燥させ、空気の触れないよう密閉して押し花と同様に保存する。ヨウ素液の色素が不安定で長期保存に適さないため、主に、学校教育現場での理科の実験、社会教育現場での科学ワークショップなどに利用されている。
【0003】
葉の保存
植物の葉の保存方法としては、以下のようなものが知られている。
特表平9-512789は、保存される植物材(葉を含む)を萎縮あるいは捩れから実質的に回避せしめる方法について記載している。当該文献に記載の方法は、1種またはそれ以上のC~Cジヒドロキシアルコールを40~95重量%で含有する水溶液中に40~95℃で植物材を浸漬する工程からなる(請求項1)。
【0004】
特開2003-12402は、水に0.1~3重量%のL-アスコルビン酸および/またはその塩類と、5~30重量%の塩化ナトリウムとを溶解したことを特徴とする葉の保存液(請求項1)を記載している。当該文献はさらに、当該保存液に葉を浸漬する工程と、前記葉を保存液に浸漬したままの状態で0~15℃に保持する工程とを具備したことを特徴とする、葉の退色防止方法についても記載している(請求項2)。
【0005】
特開2016―220563は、植物の葉緑素に作用して緑色に処理する葉緑素緑化金属で植物の緑色を復元しあるいは緑色に保持する方法を記載している。当該文献に記載の方法は、葉緑素緑化金属をイオン結合してなる金属結合タンパク質を加水分解して、葉緑素緑化金属をイオン結合してなるアミノ酸の金属塩とし、このアミノ酸の金属塩を溶解してなる有機金属塩溶液に植物を接触させる、ことを含む。
【0006】
特開2003―26501は、植物の葉の組織水を脱水溶媒に浸漬して脱水した後、ポリエチレングリコールとアセトンを含む浸漬溶液に浸漬して。組織水をポリエチレングリコールによって置換し、色素により染色を行う、植物の葉の保存処理方法を記載している。当該文献に記載の保存処理方法は、脱水溶媒として、アセトンにエチルアルコールを混合したものを使用することを特徴とする(請求項1)。
【0007】
特開2003-277201は、植物標本の製造方法を記載している。当該文献に記載の製造方法は、花びらあるいは葉の脱落しやすい植物、毛状の体の作りを持つ花、葉あるいは海藻、または脆い組織の茸類を脱水乾燥し、シアノアクリレートを溶媒に溶解した溶液に浸漬して取り出し、これを乾燥した後、イソシアネートとアクリルポリオールの混合液に浸漬して取り出し、硬化させて被膜を形成させることを特徴とする(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平9-512789
【文献】特開2003-12402
【文献】特開2016―220563
【文献】特開2003―26501
【文献】特開2003-277201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
植物の生の葉に、ヨウ素デンプン反応を利用して図像を焼き付け、保存することは、植物という地域性のある素材を用いること、また、銀塩などの現像液を用いることなく、葉に含まれる機能を利用して生み出す製品であることなどから、人にとって親しみやすい要素であり注目される。しかしながら、製品化するためには、従来技術の方法では、下記のような複数の課題を検討する必要がある。
【0010】
-葉が新鮮なうちに光源に十分さらす必要があるため、摘み取った葉では、図像の鮮明さにおいて十分な結果が得られない。そのため、使用する植物を身近で生育する必要がある。費用がかかるうえ、限られた植物の使用に限られる。
【0011】
-図像をネガフィルムとして用意する必要があるため、あらかじめ図像をデジタル処理によって白黒反転させる必要があり、完成する図像のイメージがつきにくい。
-夜間には生成されたデンプンがなくなるため、日中の十時間ほどで十分な光合成を行えない種類の葉などは、使用に適さない。
【0012】
-脱色に用いる無水アルコールが大量に必要である。
-ヨウ素液による現像は、色素が不安定であるため、長期間の保存が困難である。
-転写後の葉自体の劣化を避けられない。
【0013】
本発明は、新規な植物の葉への画像の転写方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、画像を転写した葉の、新規な保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明らは上記問題解決のため鋭意研究に務めた結果、フィチン酸エステル誘導体を合成し、本発明を想到した。
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
植物の葉への画像の転写方法であって、
(1)画像が描かれた、または、印刷された透明若しくは半透明の平版を準備し、
(2)(1)の平版を植物の葉に密着させ、そして、
(3)光源に曝露する、
ことを含む、前記転写方法。
[態様2]
(3)の光源への曝露を、1時間~10日間行う、態様1に記載の方法。
[態様3]
(3)の光源への曝露を、1日~7日間行う、態様1または2に記載の方法。
[態様4]
(2)または(3)の工程において、葉の乾燥を防ぐための処置を行う、態様1-3のいずれか1項に記載の方法。
[態様5]
(2)の工程において、さらに、防水性シートまたは保水性シートを、葉に密着させることを含む、態様4に記載の方法。
[態様6]
植物が、大きさが5cm以上の葉を有するものである、態様1-5のいずれか1項に記載の方法。
[態様7]
植物が、サトイモ科、イチョウ科、クワ科、マメ科、モクレン科、ブナ科、パパイア科、ラン科、ショウガ科、ハス科、トウダイグサ科、カキノキ科、キク科、バショウ科、ウコギ科、バラ科、キジカクシ科、トベラ科、バラ科、マタタビ科およびアオイ科からなる科から選択される植物である、態様1-6のいずれか1項に記載の方法。
[態様8]
植物が、クワズイモ、イチョウ、イチジク、クズ、コブシ、クリ、パパイア、シラン、ミョウガ、ハス、ハマイヌビワ、シマグワ、アカメガシワ、ゲットウ、オオバギ、カキ、キク、バナナ、ヤツデ、ウメ、ギボウシ、トベラ、サクラ、アコウ、キウイ、サトイモ、ルドベキアおよびフヨウ、からなる群から選択される、態様1-7のいずれか1項に記載の方法。
[態様9]
平版が、ビニール、ガラス、印刷用紙、プラスチック、塩化ビニール板、ゲル及びゼラチンからなる群から選択される、態様1-8のいずれか1項に記載の方法。
[態様10]
画像を転写した葉の保存方法であって、
態様1-9のいずれか1項に記載の方法により画像を転写した葉を、アルコール、防腐剤および水を含む液に浸漬し、次いで、余分な液剤を除く、ことを含む、保存方法。
[態様11]
アルコールが多価アルコールである、態様10に記載の保存方法。
[態様12]
アルコールが、グルセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される、態様10に記載の保存方法。
[態様13]
防腐剤が、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、安息香酸、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される、態様10-12のいずれか1項に記載の保存方法。
[態様14]
転写した葉の、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬を、1日~10日間行う、態様10-13のいずれか1項に記載の保存方法。
[態様15]
転写した葉の、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬を、冷暗所で行う、態様10-14のいずれか1項に記載の保存方法。
[態様16]
余分な液剤の除去後、さらに、密封処理を行う、態様10-15のいずれか1項に記載の保存方法。
【発明の効果】
【0015】
ヨウ素液を使わないことで、葉そのものに含まれる色素の濃淡のみで、より自然な表現が可能になり、また写し取った図像の長期保存が可能になった。保存に関しては、従来技術よりも簡易に、どこでも手に入る材料によって製作が可能になった。このことによって、世界各地のどの国でも製品の製作が可能になり、地域性を備えることによって製品としての価値がより向上した。保存が可能になったことで、従来技術が実施されてきた教育現場での活用に加え、製品として販売できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、植物の葉への画像の転写方法の一態様を図解したものである。
図2図2は、イチョウの葉に転写を行い、約20℃の条件下で約700日~750日間保存したものである。
図3図3は、イチジクの葉に転写を行い、約20℃の条件下で約700日~750日間保存したものである。
図4図4は、クズの葉に転写を行い、約20℃の条件下で約700日~750日間保存したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.植物の葉への画像の転写方法
本発明は、植物の葉への画像の転写方法に関する。本発明の方法は、
(1)画像が描かれた、または、印刷された透明若しくは半透明の平版を準備し、
(2)(1)の平版を植物の葉に密着させ、そして、
(3)光源に曝露する、
ことを含む。
【0018】
転写方法に使用する植物の葉の種類は特に限定されない。非限定的に、一態様において、植物は、大きさが3cm以上、4cm以上、5cm以上、6cm以上の葉を有するものである。一態様において、植物は、大きさが5cm以上の葉を有するものである。
【0019】
非限定的に、一態様において、植物は、サトイモ科、イチョウ科、クワ科、マメ科、モクレン科、ブナ科、パパイア科、ラン科、ショウガ科、ハス科、トウダイグサ科、カキノキ科、キク科、バショウ科、ウコギ科、バラ科、キジカクシ科、トベラ科、バラ科、マタタビ科およびアオイ科からなる科から選択される植物である。一態様において、植物が、クワズイモ(サトイモ科)、イチョウ(イチョウ科)、イチジク(クワ科)、クズ(マメ科)、コブシ(モクレン科)、クリ(ブナ科)、パパイア(パパイア科)、シラン(ラン科)、ミョウガ(ショウガ科)、ハス(ハス科)、ハマイヌビワ(クワ科)、シマグワ(クワ科)、アカメガシワ(トウダイグサ科)、ゲットウ(ショウガ科)、オオバギ(トウダイグサ科)、カキ(カキノキ科)、キク(キク科)、バナナ(バショウ科)、ヤツデ(ウコギ科)、ウメ(バラ科)、ギボウシ(キジカクシ科)、トベラ(トベラ科)、サクラ(バラ科)、アコウ(クワ科)、キウイ(マタタビ科)、サトイモ(サトイモ科)、ルドベキア(キク科)およびフヨウ(アオイ科)、からなる群から選択される。
【0020】
転写方法の工程(1)において、画像が描かれた、または、印刷された透明若しくは半透明の平版を準備する。画像は、平版に直接描かれていても、または、印刷されていてもよい。画像を描く、または、印刷するための、インク、塗料等の種類、色は特に限定されない。
【0021】
「平板」は、透明若しくは半透明であれば種類は特に限定されない。非限定的に、光を透過する性質を有することが望ましい。一態様において、平版は、ビニール、ガラス、印刷用紙、プラスチック、塩化ビニール板、ゲル及びゼラチンからなる群から選択される。平版は、硬い強度を有する板に限定されず、ラミネートのように柔軟なフィルムも含む。非限定的に、平板としては、例えば、株式会社ピクトリコ社製のピクトリコ、コクヨ株式会社製のOHPフィルム等が利用可能である。
【0022】
転写方法の工程(2)において、工程(1)で準備した平版を、植物の葉に密着させる。植物の葉は、植物から採取したものであっても、生育している植物中の葉であってもよい。非限定的に、一態様において、植物の葉は、植物から採取してから、30分以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、6時間以上のもの、1日以上経過のものを使用してもよい。例えば、比較的大きな葉(例えば、クワズイモなど)は、凹凸は激しい場合が多い。このような葉の場合、例えば、水分を抜き、保存処理することにより、凹凸をなくすまたは減少させてから、(2)の工程に供してもよい。その場合、植物の葉は、植物から採取してから長期間(例えば、1日以上、3日以上、1週間以上、1ヶ月以上、半年以上、1年以上)経過したものであってもよい。
【0023】
非限定的に、一態様において、植物の葉は、植物から採取してから、あまり時間が経過しないものが望ましい。一態様において、植物の葉は、植物から採取してから、3日以内、2日以内、1日以内のもの使用してもよい。
【0024】
一態様において、(2)の工程において、さらに、防水性シートまたは保水性シートを、葉に密着させることを含む。防水性シートまたは保水性シートは、葉と平版の間に密着させてもよい。あるいは、植物の葉に密着させた平版をさらに防水性シートまたは保水性シートに密着させてもよい(即ち、平版をさらに防水性シートまたは保水性シートで包む)。防水性シート、保水性シートの種類は特に限定されない。葉又は平板へ密着させることが可能であり、かつ、葉に対して防水、保水以外の作用を及ぼさない性質のものが望ましい。非限定的に、防水性シート、保水性シート、例えば、株式会社ケーヨー製のミネートフィルム 、アイリスオーヤマ社製のラミネートフィルム等が利用可能である。
【0025】
転写方法の工程(3)において、植物の葉に密着させた平板を光源に曝露する。光源への曝露は、使用する葉の種類、葉を採取する植物中の場所、葉を植物から採取してからの時間、季節、温度、湿度、光の強度等の条件により適宜選択される。例えば、薄い葉については、平板の外側(平版の裏、表)から結像度合い(焼け具合い)を確認しながら、光源への曝露時間を決定してもよい。厚い葉については、例えば、同様の場所から採取した葉を実験用として平板に挟み、適時平板を開いて状況を確認し、光源への曝露時間を決定してもよい。
【0026】
一態様において、(3)の光源への曝露を、1時間~10日間行う。一態様において、(3)の光源への曝露を、1日~7日間行う。
光源の種類は特に限定されない。一態様において、非限定的に、日光、白色光、LEDライト、紫外線ライト、白熱電球等が含まれる。一態様において、光源は日光である。光源への曝露を行う温度は特に限定されない。非限定的に、一態様において、光源への曝露は、葉の緑は茶変する条件下で行うことが望ましい。葉の緑を茶変させるためには、例えば、一定の気温以上、例えば、15℃以上、20℃以上、22℃以上、25℃以上、28℃以上で光曝露を行う。あるいは、光源曝露後に緑色のまま保存した葉を用い、密封処理の際に、例えば、蝋引きの際に葉を熱しながら蝋を染み込ませることで、茶変を生じさせても良い。
【0027】
一態様において、(2)または(3)の工程において、葉の乾燥を防ぐための処置を行っても良い。「葉の乾燥を防ぐための処置」の一態様は、防水性シートまたは保水性シートを、葉に密着させること、である。「葉の乾燥を防ぐための処置」としては、非限定的に、その他に、事前に葉に水分を噴霧すること、保水性シートに水分を含ませておくこと、ゼラチン質のシートなどで被うことなどが含まれる。
【0028】
理論に縛られるわけではないが、葉緑素には、許容値を越える強い光によって、細胞壁が破損するという性質がある。細胞壁が破壊されると、緑色を保つことができず、光にさらした部分が白色になる、と考えられる。本発明の転写方法は、その性質を利用し、摘み取った葉でも図像を焼き付ける、というものである。光合成を利用する従来技術の方法と比較して、利用できる植物の範囲は広い。また、本発明の転写方法では、平板上の透明部分が葉の像の白い部分になるため、ネガフィルムを使用する必要がない。また、透明の平板(シート)に油性ペンで絵をかき、そのまま転写する、ことも可能である。また、葉を長時間植物本体から摘み取って光源にさらした場合、葉に残った緑色色素は茶変し、安定する。このため、十分に長期保存が可能な製品の提供も可能である。
【0029】
植物の葉への画像の転写方法の一態様を図解して説明する(図1)。
1-転写前の原版。透明ビニールやガラスに遮光性のインクで描画する。または、OHPシートなどの透明印刷用紙に図像を印刷し、ラミネート加工などの耐水加工をする。
【0030】
2-転写する葉
3-防水性のシートなど。葉の乾燥を防ぐため、防水性、保水性のあるものを葉の下に敷く。1,2,3を密着させ、1日~1週間ほど、光源にさらす。
【0031】
4-1によって葉に転写したもの。
5-葉の緑色色素が残っている部分
6-葉緑体が光によって破壊され、退色した部分
II.画像を転写した葉の保存方法
本発明は、画像を転写した葉の保存方法に関する。本発明の保存方法は、「植物の葉への画像の転写方法」により画像を転写した葉を、アルコール、防腐剤および水を含む液に浸漬し、次いで、余分な液剤を除く、ことを含む。
【0032】
「アルコール」の種類は特に限定されない。非限定的に、一態様において、アルコールは多価アルコールである。一態様において、アルコールは、グルセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。一態様において、アルコールは、グリセロールまたはエチレングリコールである。
【0033】
「「防腐剤」の種類は特に限定されず、公知の防腐剤を使用可能である。非限定的に、防腐剤は、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、安息香酸、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらの組み合わせ、からなる群から選択される。一態様において、防腐剤は、パラオキシ安息香酸エステルである。
【0034】
アルコール、防腐剤および水を含む液における、アルコール、防腐剤および水の割合は特に限定されない、一態様において、アルコール、水および防腐剤の割合は、1:1:0.01~1:3:0.5の範囲、より好ましくは、1:1:0.05~1:2:0.1の範囲である。
【0035】
一態様において、転写した葉の、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬を行う時間は特に限定されない。葉の種類、厚み等の条件等により適宜選択可能である。一態様において、葉の状態を確認しながら、葉の色が変化せず安定した、と思われる状況まで液浸することが望ましい。一態様において、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬は、1日~10日間、好ましくは2日日-7日間、行う。
【0036】
一態様において、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬は、冷暗所で行うことが好ましい。一態様において、冷暗所は、15℃以下、好ましくは10℃以下、5℃以下である。
【0037】
葉の保存方法において、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬に次いで、余分な液剤を除く。余分な液剤を除く手段は特に限定されない、例えば、余分な液剤を吸水素材に吸わせてもよい。非限定的に一態様において、例えば、以下のように、押し花の同様の要領で、液剤を吸水素材に吸わせることが可能である。「重り→板→スポンジシート→紙(吸水素材)→転写した葉→紙(吸水素材)→スポンジシート→板(床、机)」。重りは、例えば、5kg以上のものを使用してもよい。スポンジシートは、例えば、5mm-2cm程度のものを使用可能である。葉から厚みが抜けるまで、紙(吸水素材)を複数回取り替えてもよい。非限定的に、上記押し花様の状態に、例えば、1日以上、2日以上、3日以上、7日以上供する。液剤は完全に取り除かれるのではなく、葉に浸透したまま残っていてもよい。あるいは、余分な液剤の除去は、単純に吸水素材に葉を挟み込み、両側から圧迫することによって行ってもよい。
【0038】
あるいは、アルコールおよび防腐剤を含む液への浸漬させた葉を、適宜、乾燥させることにより、余分な液剤を除いてもよい。
非限定的に、一態様において、余分な液剤の除去後、さらに、密封処理を行ってもよい。密封処理によりより長期間の(例えば、永続的、半永続的な)保存が可能である。非限定的に、密封処理は、例えば、蝋引き、ラミネート加工、透明樹脂、液剤への封入、透明平版に挟み込み、四方を閉じて密閉する等の方法によって行うことができる。蝋引きとは、蝋を熱源に溶かし、対象物に薄い皮膜を形成させる技術である。あるいは、アクリルなどの透明硬化剤に封入してもよい。
【0039】
非限定的に、本発明の保存方法により、画像を転写した葉を好ましくは2週間以上、1ヶ月以上、3ヶ月以上、半年以上、1年以上、3年以上、5年以上、8年以上、10年以上、半永久的に保存可能である。
【実施例
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0041】
実施例1 各種の葉を用いた転写および保存
本実施例では、各種の葉を用いて転写および保存を行った。
平板としては、KOKUYO社製のインクジェットプリンタ用OHPフィルム、アイリスオーヤマ社製のラミネートフィルムを使用した。光は日光で、気温30℃程度、晴天の下、午前9時から転写を開始した。液浸に使用したアルコール、防腐剤は各々グリセリン、パラオキシ安息香酸エステルである。アルコール、水および防腐剤の割合は、重量比で1:1:0.01であった。
【0042】
用いた葉の種類、光曝露時間及び液浸日数を以下の表1に示す。各葉は、採取してから、およそ1時間~1日経過したものを使用した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1において、8時間までは時間表記、8時間以上を1日と表記している。曇った場合は、露光時間が最長一週間ほどまで延びる場合がある。同じ種類であっても、採取する場所、葉によっても焼け方に差が出るため、上記時間は目安であり、最終的には「表裏から焼け具合を視認」して確実に結像するまで光曝露した。液浸日数は、葉の厚みごとにおおよその最低液浸日数である。液浸は、冷暗所(冷蔵庫)で行った。液浸日数も、現物を確認し、しなやかで柔軟な状態であることを確認し、最終的に判断した。
【0045】
液浸後、転写した葉を「重り(1kg~5kg、葉の大きさや状態により適宜採用)→板→スポンジシート(5mm-2cm)→紙(吸水素材)→転写した葉→紙(吸水素材)→スポンジシート→板(床、机)」の状態に供し、葉から厚みが抜けるまで、紙(吸水素材)を取り替えることにより(2日-7日)、余分な液剤を除去した。
【0046】
余分な液剤の除去後、各葉に蝋引きの密封処理を施した。その後、約20℃の条件下に700~750日間保存した。
調べた葉のうち、クワズイモ、イチョウ、イチジク、クズ、コブシ、クリ、パパイア、シラン、ミョウガ、ハス、ハマイヌビワ、シマグワ、アカメガシワ、およびゲットウは、美しく転写され、保存の利く葉が得られた。オオバギ、カキ、キク、バナナ、ヤツデ、ウメ、ギボウシ、トベラ、サクラ、アコウ、キウイおよびサトイモは、葉によってややバラツキが見られたが、これらについても転写され、保存の利く葉が得られた。
【0047】
なお、表1に記載の植物の他に、アオキ、ツタ、ツワブキ、ツバキ、フクギ、コバテイシ、アジサイ、モミジ、イチゴについて実験を行ったがこれらについては、行った実験の条件下では、美しく転写されず、保存の利く葉は得られなかった。
【0048】
イチョウ、イチジクおよびクズの結果を、各々図2-4に示す。図2-4は各葉を約700日~750日程度保存したものである。
実施例2 液浸のエチレングリコールを使用した場合の保存性
本実施例では、液浸のアルコールとして、グリセリンではなくエチレングリコールを使用し、保存性を調べた。防腐剤の種類、アルコール、防腐剤および水の割合は、実施例1と同条件であった。
【0049】
葉は、ルドベキアと芙蓉に二種類、採取してから、およそ10分経過したものを使用した。液浸5日、余分な液剤の除去を3日かけて行った。
実施例1の場合と同様に、余分な液剤の除去後、各葉に蝋引きの密封処理を施した。その後、15℃の条件下に30日間保存した。その結果、液浸のアルコールとしてエチレングリコールを使用した場合も、葉を安定して保存できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により種々の植物の葉への画像の転写、転写された葉の保存が可能になった。本発明を適用すれば、例えば、土地の植生をその土地の風景と共に持ち帰る、より思い出を残す土産物としての発展が可能である。ポストカードでは表現することのできなかった、地域性を特徴とした新しい工芸品としての利用も可能である。
図1
図2
図3
図4