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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】半導体素子用放熱部品
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20220203BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20220203BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 26/00 20060101ALI20220203BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20220203BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20220203BHJP
   C25D 5/30 20060101ALI20220203BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20220203BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220203BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20220203BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
H01L23/36 M
B22D18/02 L
B22D19/00 E
B22D19/00 J
C22C21/00 N
C22C26/00 Z
C22F1/04 Z
C25D5/12
C25D5/30
C25D7/00 Q
H05K7/20 D
C22C21/02
C22F1/00 613
C22F1/00 627
C22F1/00 650E
C22F1/00 650F
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016546655
(86)(22)【出願日】2015-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2015074843
(87)【国際公開番号】W WO2016035789
(87)【国際公開日】2016-03-10
【審査請求日】2018-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2014177850
(32)【優先日】2014-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 庸介
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健志
(72)【発明者】
【氏名】小柳 和則
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/015158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径の体積分布の第一ピークが5~25μmにあり、第二ピークが55~195μmにあり、粒子径が1~35μmである体積分布の面積と粒子径が45~205μmである体積分布の面積との比率が1対9ないし4対6であるダイヤモンド粉末を50体積%~80体積%含有し、残部がアルミニウムを含有する金属で構成される複合化部を備え、
該複合化部の両主面に、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する、膜厚0.03~0.2mmの表面層を備え、
少なくとも一方の表面層上に、(1)膜厚が0.5~6.5μmである結晶質のNi層、(2)膜厚が0.05μm以上であるAu層を更に備え
前記表面層に前記結晶質のNi層が形成されていることを特徴とする半導体素子用放熱部品。
【請求項2】
Ni層およびAu層がめっき処理により形成されるめっき膜であり、めっき膜のピール強度が50N/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子用放熱部品。
【請求項3】
搭載される半導体素子が、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子用放熱部品。
【請求項4】
前記複合化部が、溶湯鍛造法により製造されるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であり、温度25℃での熱伝導率が400W/mK以上、温度25℃から150℃の線熱膨張係数が5.0×10-6~10.0×10-6/K、両主面の表面粗さ(Ra)が、1μm以下であるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体素子用放熱部品。
【請求項5】
ダイヤモンド粉末の粒子が、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層の存在により特徴づけられるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体素子用放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子用放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光通信等に用いられる半導体レーザー素子や高周波素子等の半導体素子では、同素子から発生する熱を如何に効率的に逃がすかが、動作不良等を防止する為に非常に重要である。近年、半導体素子の技術の進歩に伴い、素子の高出力化、高速化、高集積化が進み、ますます、その放熱に対する要求は厳しくなってきている。この為、一般には、ヒートシンク等の放熱部品に対しても、高い熱伝導率が要求され、熱伝導率が390W/mKと高い銅(Cu)が用いられている。
【0003】
一方、個々の半導体素子は、高出力化に伴いその寸法が大きくなってきており、半導体素子と放熱に用いるヒートシンクとの熱膨張のミスマッチの問題が顕在化してきた。これらの問題を解決する為には、高熱伝導という特性と半導体素子との熱膨張率のマッチングを両立するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、金属とセラミックスの複合体、例えばアルミニウム(Al)と炭化珪素(SiC)の複合体が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、Al-SiC系の複合体においては、如何に条件を適正化しても熱伝導率は300W/mK以下であり、銅の熱伝導率以上の更に高い熱伝導率を有するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、ダイヤモンドの持つ高い熱伝導率と金属の持つ大きな熱膨張率とを組み合わせて、高熱伝導率で且つ熱膨張係数が半導体素子材料に近い、金属-ダイヤモンド複合体が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、特許文献3では、ダイヤモンド粒子の表面にβ型のSiC層を形成することで、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物の生成を抑えると共に、溶融金属との濡れ性を改善して、得られる金属-ダイヤモンド複合体の熱伝導率を改善している。
【0006】
更に、ダイヤモンドは非常に硬い材料である為、金属と複合化して得られる金属-ダイヤモンド複合体も同様に非常に硬く、難加工性材料である。このため、金属-ダイヤモンド複合体は、通常のダイヤモンド工具では、殆ど加工することが出来ず、小型で種々の形状が存在するヒートシンクとして、金属-ダイヤモンド複合体を使用するには、如何に低コストで形状加工を行うかが課題である。この様な課題に対して、レーザー加工、ウォータージェット加工、更には、金属-セラミックス複合体は、通電が可能であり、放電加工による加工方法も検討されている。
【0007】
【文献】特開平9-157773号公報
【文献】特開2000-303126号公報
【文献】特表2007-518875号公報
【発明の概要】
【0008】
半導体素子用の放熱部品では、素子との接合の為、放熱部品表面は、めっき等による金属層を付加する必要がある。通常の半導体素子の場合、はんだによる接合が中心であり、接合温度も300℃以下であったため、表面にNi-P合金等のめっき処理による金属層が設けられている。しかしながら、本発明のようなヒートシンク用材料の使用形態としては、通常、半導体素子の発熱を効率よく放熱する為に、半導体素子に対してヒートシンクがロウ材等で接合される形で接触配置されている。この為、接合面に金めっきを付加した多層めっき等が用いられている。さらに衛星用途では実環境を想定した厳しい信頼性が要求されており、従来のNi-P合金等の合金めっきでは接合温度で結晶化に伴うクラックが発生し、さらには冷熱サイクルに伴いクラックが伸展するといった課題がある。
【0009】
さらに、半導体素子に対してヒートシンクがロウ材等で接合される場合、接合界面の面精度が放熱に対して重要である。従来の金属-ダイヤモンド複合体の場合、接合面にダイヤモンド粒子が露出しているため、接合面の面粗さが粗く、その結果、接触界面の熱抵抗が増大して好ましくない。このため、ヒートシンク用材料に求められる特性として、表面の面粗さを如何に小さくするかといった課題がある。
【0010】
即ち、本発明の目的は、高い熱伝導率と半導体素子に近い熱膨張率を兼ね備え、さらには、半導体素子のヒートシンク等として使用するのに好適なように、表面の面粗さ平面度を改善し、且つ高負荷での実使用においても、表面金属層部分に膨れ、クラック等の発生のないアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、粒子径の体積分布の第一ピークが5~25μmにあり、第二ピークが55~195μmにあり、粒子径が1~35μmである体積分布の面積と粒子径が45~205μmである体積分布の面積との比率が1対9ないし4対6であるダイヤモンド粉末を50体積%~80体積%含有し、残部がアルミニウムを含有する金属で構成される複合化部を備え、該複合化部の両主面に、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する、膜厚0.03~0.2mmの表面層を備え、少なくとも一方の表面層上に、(1)膜厚が0.5~6.5μmである結晶質のNi層、(2)膜厚が0.05μm以上であるAu層を更に備えることを特徴とする半導体素子用放熱部品が提供される。
【0012】
本発明の一態様によれば、上記半導体素子用放熱部品において、Ni層およびAu層がめっき処理により形成されるめっき膜であり、めっき膜のピール強度が50N/cm以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様によれば、上記半導体素子用放熱部品において、搭載される半導体素子が、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様によれば、上記半導体素子用放熱部品において、前記複合化部が、溶湯鍛造法により製造されるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であり、温度25℃での熱伝導率が400W/mK以上、温度25℃から150℃の線熱膨張係数が5.0×10 ~10.0×10-6/K、両主面の表面粗さ(Ra)が、1μm以下であるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様によれば、上記半導体素子用放熱部品において、ダイヤモンド粉末の粒子が、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層の存在により特徴づけられるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、さらには、高負荷での実使用においても、表面金属層部分に膨れやクラック等の発生を抑制できるため、半導体素子の放熱用ヒートシンク等として好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る半導体素子用放熱部品の概念的な構造図である。
図2】本発明の実施形態に係る半導体素子用放熱部品の複合化部の複合化前の構造体の概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[用語の説明]
本明細書において、「~」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。例えば、「A~B」というのは、A以上でありB以下であるという意味である。
【0019】
本明細書において、「両面」とは、平板状の部材について、表面および裏面の両方の面を意味する。また本明細書において、「側面部」とは、平板状の部材について、上記両面の周囲をめぐり、両面に対して略垂直の部分を意味する。本明細書において、「主面」とは、平板状の部材について、表面および裏面のいずれかの面を意味する。
【0020】
以下、図1及び2を参照して、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体及びこれを用いた放熱部品、並びにこれらの製造方法について一実施形態を説明する。
【0021】
本実施形態に係る半導体素子用放熱部品は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(図1の1)と表面金属層(図1の2)から構成される。また、放熱部品に用いられるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、ダイヤモンド粒子とアルミニウムを含有する金属とを含む平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であって、上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体1は複合化部(図1の3)及び上記複合化部3の両面に設けられた表面層(図1の4)からなり、上記表面層4がアルミニウムを含有する金属を含む材料からなり、上記ダイヤモンド粒子の含有量が、上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体1全体の50体積%~80体積%である。
【0022】
上記構成からなる半導体素子用放熱部品は、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、高負荷での実使用においても、表面金属層部分の膨れ等の発生を抑制できる。このため、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、半導体素子の放熱用ヒートシンク等の放熱部品として好ましく用いられる。
【0023】
本実施形態に係る半導体素子用放熱部品は、結晶質のNi層(図1の5)及びAu層(図1の6)からなる表面金属層2を有していてもよい。
【0024】
以下、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体について、溶湯鍛造法による製造方法を説明する。
【0025】
ここで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製法は、大別すると含浸法と粉末冶金法の2種がある。このうち、熱伝導率等の特性面から、実際に商品化されているのは、含浸法によるものが多い。含浸法にも種々の製法が有り、常圧で行う方法と、高圧下で行う高圧鍛造法がある。高圧鍛造法には、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。
本実施形態に好適な方法は、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法であり、熱伝導率等の特性に優れた緻密な複合体を得るには溶湯鍛造法が好ましい。溶湯鍛造法とは、一般的に、高圧容器内に、ダイヤモンド等の粉末又は成形体を装填し、これにアルミニウム合金等の溶湯を高温、高圧下で含浸させて複合材料を得る方法である。
【0026】
[ダイヤモンド粉末]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の原料であるダイヤモンド粉末は、天然ダイヤモンド粉末もしくは人造ダイヤモンド粉末のいずれも使用することができる。また、該ダイヤモンド粉末には、必要に応じて、例えばシリカ等の結合材を添加してもよい。結合材を添加することにより、成形体を形成することができるという効果を得ることができる。
【0027】
ダイヤモンド粉末の粒度に関しては、熱伝導率の点から、粒子径の体積分布の第一ピークの粒子径が5μm~25μm、第二ピークの粒子径が55μm~195μmにあり、体積分布における第一ピークを含む1μm~35μmの体積分布の面積と第二ピークを含む45μm~205μmの体積分布の面積との比率が1対9ないし4対6であることが好ましい。
【0028】
粒子径の分布に関して更に好ましくは、第一ピークの粒子径は10μm~20μm、第二ピークの粒子径は100μm~180μmである。また、ダイヤモンドの充填量を上げるため、上記の比率となることが好ましいが、更に好ましくは、2対8ないし3対7である。粒度分布測定は、コールター法を用いて行う。
【0029】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体中のダイヤモンド粒子の含有量は、50体積%以上80体積%以下が好ましい。ダイヤモンド粒子の含有量が50体積%以上であれば、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の熱伝導率を十分に確保できる。また、充填性の面より、ダイヤモンド粒子の含有量が80体積%以下であることが好ましい。80体積%以下であれば、ダイヤモンド粒子の形状を球形等に加工する必要がなく、安定したコストでアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0030】
溶湯鍛造法によって得られる複合体は、適切な条件であれば溶湯が粉末同士の空隙間に行き渡るので、充填体積に対する粉末の体積の割合が、得られる複合体全体の体積に対する粉末材料の体積(粒子の含有量)とほぼ等しくなる。
【0031】
更に、上記ダイヤモンド粒子の表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用することにより、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物(Al)の生成を抑えることができ、且つ、溶湯アルミニウムとの濡れ性を改善することができる。その結果、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の熱伝導率が向上するという効果を得ることができる。
【0032】
溶湯鍛造の準備として、アルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材(図2の7)、離型剤を塗布した緻密な離型板(図2の8)及び上記ダイヤモンド粉末(図2の9)を図2に示すように配置することにより、型材7、離型板8及び充填されたダイヤモンド粉末9からなる溶湯鍛造のための構造体とする。
【0033】
ここで、図2は溶湯鍛造のための構造体の断面図であり、上記ダイヤモンド粉末が充填された部分についての断面図である。なお、溶湯鍛造法でアルミニウム合金とダイヤモンド粉末を複合化する際には、アルミニウム合金は、上記多孔質体からなる型材を通ってダイヤモンド粉末が充填される部分に到達する。
【0034】
[多孔質体からなる型材]
ここで、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材7の材料としては、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸できる多孔質体であれば特に制約はない。しかし、該多孔質体としては、耐熱性に優れ、安定した溶湯の供給が行える、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ繊維等の多孔質体等が好ましく用いられる。
【0035】
[離型板]
更に、緻密な離型板8としては、ステンレス板やセラミックス板を使用することができ、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸されない緻密体であれば特に制限はない。また、離型板に塗布する離型剤については、耐熱性に優れる、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ等の離型剤が好ましく使用できる。さらには、離型板の表面をアルミナゾル等によりコーティングした後、上記離型剤を塗布することにより、より安定した離型が行える離型板を得ることができる。
【0036】
[アルミニウム合金]
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体中のアルミニウム合金(アルミニウムを含有する金属)は、含浸時にダイヤモンド粉末の空隙中(ダイヤモンド粒子間)に十分に浸透させるために、なるべく融点が低いことが好ましい。このようなアルミニウム合金として、例えばシリコンを5~25質量%含有したアルミニウム合金が挙げられる。シリコンを5~25質量%含有したアルミニウム合金を用いることにより、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の緻密化が促進されるという効果を得ることができる。
【0037】
更に、上記アルミニウム合金にマグネシウムを含有させることにより、ダイヤモンド粒子及びセラミックス粒子と金属部分との結合がより強固になるので好ましい。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、アルミニウム合金の特性が極端に変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、銅等が含まれていても良い。
【0038】
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、複合化時のダイヤモンド粉末の充填量により厚みを調整することができ、その厚みは0.4~6mmが好ましい。該厚みが0.4mm未満の場合、ヒートシンク等として用いるのに十分な強度が得られず好ましくない。該厚みが6mmを超える場合、材料自体が高価となると共に、高熱伝導という効果が十分に得られなくなり好ましくない。
【0039】
本実施形態においては、複合化後に、両面に配置した離型板8を剥がすことを特徴とする。このような特有の構成により、非常に平滑な表面を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0040】
図2に示すように、上記構造体の両面に金属板(図2の10)を配置してもよい。また、複数枚の構造体を積層してブロックとする場合には、構造体の間に該金属板10を介して積層してもよい。このような離型板を配置することにより、溶湯を均一に含浸させることができ、また、含浸処理後のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の取り出し等の操作が容易に行えるようになる。
【0041】
得られた構造体は、複数枚を更に積層してブロックとし、このブロックを600~750℃程度で加熱する。そして、該ブロックを高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐために出来るだけ速やかに、融点以上に加熱したアルミニウム合金の溶湯を給湯して20MPa以上の圧力で加圧する。
【0042】
ここで、ブロックの加熱温度は、600℃以上であれば、アルミニウム合金の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。また、加熱温度が750℃以下であれば、アルミニウム合金との複合化時に、ダイヤモンド粉末表面のアルミニウムカーバイド(Al)の生成を抑制でき、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0043】
また、含浸時の圧力に関しては、20MPa以上であればアルミニウム合金の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。さらに好ましくは、含浸圧力は、50MPa以上である。50MPa以上であれば、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0044】
[アニール処理]
なお、上記操作により得られたアルミニウム-ダイヤモンド系成形体には、アニール処理を行ってもよい。アニール処理を行うことにより、上記アルミニウム-ダイヤモンド系成形体内の歪みが除去され、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0045】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系成形体の表面に影響を与えずに、成形体中の歪みのみを除去するには、上記アニール処理は、温度400℃~550℃の条件で10分間以上行うことが好ましい。
【0046】
[加工方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の加工方法の例を説明する。上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、非常に硬い難加工性材料である。このため、通常の機械加工やダイヤモンド工具を用いた研削加工が難しく、ウォータージェット加工、レーザー加工、放電加工によって加工する。
【0047】
なお、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系成形体は、通常のダイヤモンド工具等を用いた加工も可能ではあるが、非常に硬い難加工性材料であるため、工具の耐久性や加工コストの面から、ウォータージェット加工、レーザー加工又は放電加工による加工が好ましい。
【0048】
[表面層]
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体では、複合化部(図1の3)の両面がアルミニウムを含有する金属(アルミニウム合金)を含む材料からなる表面層(図1の4)で被覆されていることを特徴とする。
【0049】
ここで、上記表面層4は、主にアルミニウムを含有する金属を含む材料からなるが、アルミニウムを含有する金属以外の物質が含まれていてもよい。即ち、上記ダイヤモンド粒子や他の不純物等が含まれていてもよい。
【0050】
しかし、ダイヤモンド粒子は、表面層4の表面から0.01mmの部分には存在しないことが好ましい。このような構成により、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、研磨傷をつけることなく、表面層4を平滑にすることができる。
【0051】
また、上記表面層4は、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有している。アルミニウムを含有する金属の含有量が80体積%以上であれば、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、表面層4の研磨を行える。更には、アルミニウムを含有する金属の含有量が90体積%以上であることが好ましい。アルミニウムを含有する金属の含有量が90体積%以上であれば、表面の研磨時に、内部の不純物等が脱離して研磨傷をつけることがない。
【0052】
また、上記表面層4の厚みは、平均厚みで0.03mm以上0.2mm以下が好ましい。上記表面層4の平均厚みが0.03mm以上であれば、その後の処理において、ダイヤモンド粒子が露出してしまうことがなく、目標とする面精度及びめっき性を得ることが容易となる。また、表面層4の平均厚みが0.2mm以下であれば、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体1に占める複合化部3の十分な厚みが得られ、十分な熱伝導率を確保することができる。
【0053】
また、両面の表面層4の平均厚みの合計が、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体1の厚みの20%以下であることが好ましく、更に好ましくは10%以下である。両面の表面層4の平均厚みの合計が、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体1の厚みの20%以下であれば、面精度及びめっき性に加え、十分な熱伝導率を得ることができる。
【0054】
上記表面層4の厚みに関しては、ダイヤモンド粉末の充填時に、ダイヤモンド粉末と離型剤を塗布した緻密な離型板との間にアルミナ繊維等のセラミックス繊維を配置してアルミニウム合金を複合化することにより調整してもよい。また、セラミックス繊維の代わりにアルミニウム箔を用いることによっても調整できる。
【0055】
[表面層の加工]
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、両面がアルミニウムを含有する金属を含む材料からなる表面層4で被覆された構造を有しているため、この表面層4を加工(研磨)することにより、表面精度(表面粗さ:Ra)を調整することができる。この表面層4の加工は、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、例えばバフ研磨機等を用いて研磨を行い、表面粗さ(Ra)を1μm以下とすることができる。
【0056】
更に、この表面層4を加工することで、表面層の平均厚みを調整することもできる。本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、ヒートシンク等の放熱部品として使用する場合、接合面の熱抵抗を考慮すると、表面粗さが小さい平滑な面であることが好ましく、その表面粗さ(Ra)は1μm以下が好ましく、更に好ましくは、0.5μm以下である。表面粗さが1μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0057】
また、上記表面層4の平面度についても、50mm×50mmサイズに換算して、30μm以下であることが好ましく、更に好ましくは10μm以下である。該平面度が30μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0058】
[複合化部]
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体では、上記ダイヤモンド粒子とアルミニウム合金との複合化部(図1の3)を有する。このような構造のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体では、上記表面層4と複合化部3との間に応力が生じにくく、研磨等で力が加わった時に、表面層4が破損することがない。
【0059】
[表面金属層]
本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、半導体素子のヒートシンクとして用いる場合、半導体素子とロウ付けにより接合して用いられることが多い。よって、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の接合表面には、表面金属層を設ける必要がある。表面金属層の形成方法としては、めっき法、蒸着法、スパッタリング法等の方法を採用することができる。処理費用の面からは、めっき処理が好ましい。
以下、めっき処理について説明する。
【0060】
まずアルミニウム‐ダイヤモンド系複合体の表面のアルミニウムを含有する金属に膜厚が0.5~6.5μmの結晶質のNiめっきを施す。めっき法は、電気めっき処理法が好ましいが、結晶質のNiめっき膜が得られるのであれば、無電解めっき処理法を適用することもできる。Niめっきの膜厚が1μm未満では、めっき膜のピンホール(めっき未着部分)が発生し好ましくない。6.5μmを超えると、めっき膜中に発生する残留応力が増加し、本実施形態のような用途では、実使用時の温度負荷により、めっき膜の膨れ、剥離やクラック発生の問題があり好ましくない。
【0061】
さらに、アルミニウムにNiめっきを施す際には、亜鉛置換等の前処理が必要であり、めっき密着性に優れる亜鉛置換を施すことが好ましい。Niめっきの密着性に関しては、ピール強度が50N/cm以上であることが好ましく、さらに好ましくは78N/cm以上である。ピール強度が50N/cm未満では、半導体素子の放熱部品として用いる場合、実使用時の温度負荷により、めっき層が剥離する問題が発生することがあり好ましくない。
【0062】
また、本発明のアルミニウムーダイヤモンド系複合体はウォータージェット加工、レーザー加工又は放電加工による加工を行う為、側面にダイヤモンドが露出した構造であり、電気めっき処理によるNiめっき層の形成では、側面のダイヤモンド粒子上にめっき膜の形成が行われず、ピンホールが発生してしまうため、Niめっき表面の上に無電解めっき処理によるアモルファスなNi合金層の形成が必要である。但し、アモルファスのNi合金層が存在する場合には、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった問題があり、Ni合金層を極力薄くすることで改善を図ってきたが、特に衛星用途等に要求されるような冷熱サイクルでは、Ni合金層の厚みによらず温度負荷において、結晶化に伴い生じたクラックが伸展してしまうためアモルファスなNi合金層の形成は好ましくない。
【0063】
無電解めっき処理によるアモルファスなNi合金層の形成を行わないことで側面のダイヤモンド粒子上にめっき膜の形成が行われないが、衛星用途等では、パッケージ化後の気密性が重要視され、半導体素子が接合される両主面上にピンホールおよび実使用化においてクラックが存在しない金属層形成の方が優先されるて要求される。
【0064】
さらに、高出力の半導体素子の放熱部品として用いる用途では、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、アルミニウムを含有する表面層とめっき膜との熱膨張差により膨れが発生するといった問題がある。また、結晶質のNiめっき層はNi合金メッキ層よりもアルミニウムを含有する表面層との熱膨張差が小さく、硬度が低いNiめっき層を形成することで実使用時の温度負荷による膨れの発生を抑えることができる。
【0065】
また、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体はウォータージェット加工、レーザー加工又は放電加工による加工を行う為、側面にダイヤモンドが露出した構造であり、電気めっき処理によるNiめっき層の形成では、側面のダイヤモンド粒子上にめっき膜の形成が行われず、ピンホールの発生が見られる。
【0066】
高温でのロウ材接合を行う場合、最表面に電気めっき処理法又は無電解めっき処理法で、膜厚が0.05~4μmのAuめっきを施すことが好ましい。めっき膜厚が0.05μm未満では、接合が不十分となり好ましくない。上限に関しては、特性上の制約はないが、Auめっきは非常に高価であり、4μm以下であることが好ましい。
【0067】
また、本実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の温度が25℃のときの熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃における熱膨張係数が5.0~10.0×10-6/Kであることが好ましい。
【0068】
25℃での熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃の熱膨張係数が5.0~10.0×10-6/Kであれば、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低膨張率となる。そのため、ヒートシンク等の放熱部品として用いた場合、放熱特性に優れ、また、温度変化を受けても半導体素子と放熱部品との熱膨張率の差が小さいため、半導体素子の破壊を抑制できる。その結果、高信頼性の放熱部品として好ましく用いられる。
【0069】
[半導体素子]
本実施形態のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体放熱部品は、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低熱膨張率であり、GaN、GaAs、SiC等の高出力が要求される半導体レーザー素子又は高周波素子の放熱部品として好適である。特に、高周波素子であるGaN-HEMT素子、GaAs-HEMT素子の放熱部品として好適である。
【0070】
以上、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体及びこれを用いた放熱部品、並びにこれらの製造方法について、実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例
【0071】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1~13、比較例1~4]
表1に示す平均粒子径を持つ市販されている高純度ダイヤモンド粉末A(ダイヤモンドイノベーション社製/グレード MBG600)と高純度のダイヤモンド粉末B(ダイヤモンドイノベーション社製/グレード MBM)を7対3の重量比で混合した。各粉末の粒子径の体積分布のピークは平均粒子径と同位置に見られた。ダイヤモンド粉末Aとダイヤモンド粉末Bの混合粉末の粒度分布測定を行った結果、体積分布における1~35μmの体積分布の面積と45~205μmの体積分布の面積の比率が3対7であった。粒度分布の測定は、純水に各ダイヤモンド粉末を加えスラリーを作製して測定溶液とし、水の屈折率を1.33、ダイヤモンドの屈折率を2.42として、分光光度計(ベックマン・コールター社製:コールターLS230)により測定した。
【0073】
【表1】
【0074】
次に、40×40×2mmtのステンレス板(SUS430材)に、アルミナゾルをコーティングして350℃で30分間焼き付け処理を行った後、黒鉛系離型剤を表面に塗布して離型板(図2の9)を作製した。そして、60×60×8mmtの外形で、中央部に40×40×8mmtの穴を有する気孔率20%の等方性黒鉛治具(図2の7)に、表1の各ダイヤモンド粉末の上下に0.03mm厚の純アルミニウム箔を配置し離型板8で両面を挟む様に充填して構造体とした。
【0075】
上記構造体を、60×60×1mmtの黒鉛系離型剤を塗布したステンレス板(図2の10)を挟んで複数個積層し、両側に厚さ12mmの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0076】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度650℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを1質量%含有する温度800℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだステンレス板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得た。
【0077】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、両面を#600の研磨紙で研磨した後、バフ研磨を行った。
【0078】
続いて、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム-ダイヤモンド系複合体とした。
【0079】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の断面を、工業顕微鏡で観察し両面の表面層(図1の4)の中心点と両端を含む5ヶ所の厚みを等間隔に測定し平均厚みとした結果、いずれのサンプルも0.03mmであった。また、表面粗さ計による表面粗さ(Ra)を測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
また、ウォータージェット加工により熱膨張係数測定用試験体(3×2×10mm)、熱伝導率測定用試験体(25×25×2mmt)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃~150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM-8510B)で測定した。その結果を表2に示す。比較例1~4では、熱伝導率が400W/mK以下、熱膨張係数が10.0×10-6/K以上であった。
【0081】
また、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の室温25℃で密度をアルキメデス法により測定し、Vf(ダイヤモンド粒子の含有量)を複合則を用いて算出した。その結果を表2に示す。(ダイヤモンド密度:3.52g/cm、アルミニウム合金密度:2.7g/cm
【0082】
【表2】
【0083】
また、上記のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを行い、実施例1~13に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に6.5μm厚(Ni:2.5μm+Au:2.0μm)のめっき層を形成した。得られためっき品について、JIS 8504に準じてめっき品のピール強度を測定した結果、全てのめっき品で98N/cm以上であった。ピール強度測定は、めっき膜を形成したアルミニウムーダイヤモンド系複合体の表面に、耐熱テープで5mm幅の測定部以外をマスキングし、測定部に厚み0.25mm、幅5mmの銅板を半田付けし、デジタルフォースゲージにより銅板を真上に引っ張ることで引張り強度を測定しピール強度を算出した。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、膨れ等の異常は認められなかった。また、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【0084】
表2に示されるように、実施例1~13に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、表面粗さが1μm以下と非常に平滑であり、高熱伝導率及び半導体素子に近い熱膨張係数を有している。
【0085】
[実施例14~19、比較例5~7]
実施例1と同様の方法で作製したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に電気Niめっき、電気Auめっきの順に形成した。めっき膜厚みを表3に示す。また、比較例7では電気Niめっきの後に無電解Ni-Pめっき膜を形成させた。
【0086】
【表3】
【0087】
比較例5はめっき膜のピンホールが見られ、その後の評価は実施しなかった。得られためっき品について、ピール強度を測定した結果、全てのめっき品で80N/cm以上であった。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、実施例14~19、比較例7ではめっき表面に膨れの発生が認められた。比較例6ではめっき表面に膨れの発生が見られた。また、実施例14~19では-65℃~175℃のヒートサイクル1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかったが、比較例7ではめっき表面にクラックの発生が認められた。
【0088】
[実施例20~23、比較例8、9]
市販されている高純度のダイヤモンド粉末A(ダイヤモンドイノベーション社製/平均粒径:130μm)と高純度のダイヤモンド粉末B(ダイヤモンドイノベーション社製/平均粒子径:15μm)を表4に示す重量比で混合した。ダイヤモンド粉末Aとダイヤモンド粉末Bの混合粉末の粒度分布測定を行った結果、体積分布において15μmに第一ピーク、130μmに第二ピークを持ち、体積分布における1~35μmの体積分布の面積と45~205μmの体積分布の面積の比率は表4に示す値であった。粒度分布の測定は、純水に各ダイヤモンド粉末を加えスラリーを作製して測定溶液とし、水の屈折率を1.33、ダイヤモンドの屈折率を2.42として、分光光度計(ベックマン・コールター社製:コールターLS230)により測定した。
【0089】
【表4】
【0090】
得られた混合粉末50g、シリカ粉末(平均粒子径:5μm)16g、珪素粉末(平均粒子径:10μm):16gを混合した後、炭化珪素製のるつぼに充填し、アルゴン雰囲気下、温度1450℃で3時間加熱処理を行い、ダイヤモンド粉末表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を作製した。
【0091】
ダイヤモンド粉末として、表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用し、ダイヤモンド粉末の上下に0.045mm厚の純アルミニウム箔を配置し離型板8で両面を挟む様に充填して構造体とした以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0092】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の研磨、加工を行い、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム-ダイヤモンド系複合体とし、該アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の断面を工業顕微鏡で観察し両面の表面層(図1の4)の平均厚みを測定した結果、表面層4の平均厚みは、0.045mmであった。また、表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)を表5に示す。
【0093】
更に、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の特性評価を実施し、その結果を表5に示す。比較例8、9では、熱伝導率が400W/mK以下、熱膨張係数が10.0×10-6/K以上であった。
【0094】
【表5】
【0095】
また、上記のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを行い、実施例20~23に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に6.5μm厚(Ni:2.0μm+Au:2.5μm)のめっき層を形成した。得られためっき品について、実施例1と同様の方法でピール強度を測定した結果、全てのめっき品で80N/cm以上であった。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、膨れ等の異常は認められなかった。また、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【0096】
[実施例24~30、比較例10~12]
実施例1で、ダイヤモンド粉末の上下に表6に示す厚みの挿入材を配置し離型板8で両面を挟む様に充填して構造体とした以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。実施例29、30はアルミナ繊維(電気化学工業社製デンカアルセンボード/品種:BD-1600およびBD-1700LN)を、比較例12ではアルミナ繊維(電気化学工業社製/デンカアルセンボード/品種:BD1700)をプレス機で押しつぶし嵩密度を1.1g/cmにしたものを挿入材として配置した。使用したダイヤモンド粉末の粒度分布測定を行った結果、体積分布において15μmに第一ピーク、130μmに第二ピークを持ち、体積分布における1~35μmの体積分布の面積と45~205μmの体積分布の面積の比率は3対7であった。粒度分布の測定は、純水に各ダイヤモンド粉末を加えスラリーを作製して測定溶液とし、水の屈折率を1.33、ダイヤモンドの屈折率を2.42として、分光光度計(ベックマン・コールター社製:コールターLS230)により測定した。
【0097】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の研磨、加工を行い、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム-ダイヤモンド系複合体とし、該アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の断面を工業顕微鏡で観察し両面の表面層(図1の4)の平均厚みを測定した結果および表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)を表6に示す。
【0098】
更に、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の特性評価を実施し、その結果を表6に示す。
【0099】
【表6】
【0100】
比較例11ではダイヤモンド粒子の含有量が50体積%以下、熱伝導率が400W/mK以下、熱膨張係数が10.0×10-6/K以上であった。また、比較例12では研磨処理後の表面粗さが高く、また、セラミックス繊維の脱離により研磨傷が生じた。
【0101】
また、上記のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを行い、実施例24~28、比較例10に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に6.0μm厚(Ni:2.0μm+Au:2.0μm)のめっき層を形成した。比較例10ではめっき未着が見られその後の評価は実施しなかった。その他の得られためっき品について、実施例1と同様の方法でピール強度を測定した結果、全てのめっき品で80N/cm以上であった。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、膨れ等の異常は認められなかった。また、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0102】
1 アルミニウム-ダイヤモンド系複合体
2 表面金属層
3 複合化部
4 表面層
5 Ni層
6 Au層
7 多孔質体からなる型材
8 離型材を塗布した離型板
9 ダイヤモンド粉末
10 金属板
図1
図2