(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化促進剤及びエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/62 20060101AFI20220119BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220119BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08G59/62
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2017114404
(22)【出願日】2017-06-09
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000106139
【氏名又は名称】サンアプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118061
【氏名又は名称】林 博史
(72)【発明者】
【氏名】陳 礼翼
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀基
(72)【発明者】
【氏名】舩山 淳
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-298794(JP,A)
【文献】特開平11-171981(JP,A)
【文献】特開2006-348283(JP,A)
【文献】国際公開第2011/111723(WO,A1)
【文献】特開2006-225630(JP,A)
【文献】特開2006-328283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
H01L 23/28-30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)もしくは(13)で示される四級化アミンカチオン(A)と、
下記式で示されるアニオン(B)からなる四級化アミン塩(S)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)。
【化1】
[式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、及び(13)中、R1は、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6~16の置換若しくは無置換のアリール基、または置換若しくは無置換のヘテロ環を表し、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6~16の置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロ環、ヒドロキシ基、カルボン酸
基、エステル基、アミノ基、アミド基、または水素を表す。それらのR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、
隣接する箇所間で環を形成して結合してもよい。]
【化2】
【請求項2】
エポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)と、請求項
1に記載のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
さらに無機充填材を含む請求項
2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
さらに他の機能性ある化合物を含む請求項
2又は3に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項
2~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物が硬化してなる硬化物。
【請求項6】
請求項
5に記載の硬化物により電子部品を封止してなる半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化促進剤及びエポキシ樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に適した、アンモニウムカチオンを有する塩からなるエポキシ樹脂硬化促進剤及びそれを含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エポキシ樹脂は成形性および硬化物の電気特性などに優れるため、例えば、半導体封止材などの電子部品の封止材用途に使用される。封止材樹脂としては、硬化剤としてフェノールノボラック類を用い、多量のフィラーなどを配合したエポキシ樹脂が広く使用されている。近年、半導体の高集積化、薄型化または実装方式の改良などに伴い、封止材の成形性、および封止された半導体の信頼性の向上などが強く要望されている。この要望に対して封止材の一成分である硬化促進剤の役割も大きくなっている。
これらエポキシ樹脂の硬化促進剤として、アミン系化合物、トリフェニルホスフィンが一般的に使用されている。配合物の流動性と保存安定性が悪いという問題がある。
【0003】
この問題の改良として、例えば、TPPの第4級化ホスホニウム塩、四級アミン塩(特許文献1および2参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、無機充填材を高濃度に配合する封止材組成では、前記四級塩を硬化促進剤として用いる場合、エポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤の混合物を加熱溶融させた配合液の粘度が高くなるため、モールド充填時に半導体チップの配線を押し流したり、配合物が隅々まで行き渡る前に粘度が上昇し、未充填部分ができたりする、いわゆる液流れ性不良の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-256643号公報
【文献】特開2005-162944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、モールド充填時に流動性に優れ、かつ触媒活性が高く硬化性に優れる、エポキシ硬化促進剤及びエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)もしくは(14)で示される四級化アミンカチオン(A)と、一般式(15)、(16)もしくは(17)で示されるアニオン(B)からなる四級化アミン塩(S)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂硬化促進剤(Q);及びエポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)と、該エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0008】
【0009】
[式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、及び(13)中、R1は、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6~16の置換若しくは無置換のアリール基、または置換若しくは無置換のヘテロ環を表し、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロ環、ヒドロキシ基、カルボン酸基、エーテル基、エステル基、アミノ基、アミド基、または水素を表す。それらのR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、及びR10は、互いに同一であっても異なっていてもよく、または結合してもよい。]
【0010】
【0011】
[式(14)中、R11、R12、R13及びR14は、炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数1~16の置置換若しくは無置換のアリール基、または置換若しくは無置換のヘテロ環を表す。それらのR1、R2、R3、R4は互いに同一であっても異なっていてもよく、または結合してもよい]
【0012】
【0013】
[式(15)中、R15及びR17は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、同一分子内のR15及びR17が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R16は、R15及びR17と結合する有機基である。R19及びR21は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のR19及びR21が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R20は、R19及びR21と結合する有機基である。R16及びR20は互いに同一であっても異なっていてもよく、R15、R17、R19及びR21は互いに同一であっても異なっていてもよい。R18は置換もしくは無置換の芳香環又は置換もしくは無置換の複素環を有する有機基或いは置換もしくは無置換の脂肪族基を表す。]
【0014】
【0015】
[式(16)中、R22及びR24は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、同一分子内のR22及びR24が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R23は、R22及びR24と結合する有機基である。R25及びR27は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のR25及びR27が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R26は、R25及びR27と結合する有機基である。R28及びR30は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のR28及びR30が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R29は、R28及びR30と結合する有機基である。R23、R26及びR29は互いに同一であっても異なっていてもよく、R22、R24、R25、R27、R28及びR30は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0016】
【0017】
[式(17)中、R31及びR33は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、同一分子内のR31及びR33がホウ素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R32は、R31及びR33と結合する有機基である。R34及びR36は、プロトン供与性置換基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内のR34及びR36がホウ素原子と結合してキレート構造を形成するものである。R35は、R34及びR36と結合する有機基である。R32及びR35は互いに同一であっても異なっていてもよく、R31、R33、R34及びR36は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、低温領域で前記シリケートアニオン部は解離することがなく、硬化反応の促進を抑制させることが可能となる。
さらに、アニオン部はキレート構造より熱安定性がよく、エポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤の混合物を加熱溶融する配合温度でも、アニオン部は解離することがなく、硬化反応を促進しないため、エポキシ樹脂組成物の流動性や保存安定性に優れた特性を同時に付与することができる。また、配合温度が高く設定することができるため、高融点、高軟化点のエポキシ樹脂、硬化剤、添加剤、他種類の樹脂および化合物を配合することができる。硬化反応で、加熱によりキレート結合を切断して解離し、活性が高いアニオンを遊離し、硬化反応を促進するため、優れた流動性と硬化性を同時に付与することができる。(参考文献:特開2005-298794号公報)
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、該エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)を有するため、その四級化アミンカチオン(A)とアニオンのイオン結合が強く、これによりエポキシ樹脂、硬化剤および硬化促進剤の混合物を加熱溶融する配合温度では、四級化アミン塩(S)が解離しにくいため硬化反応を抑制でき、モールド充填時の流動性が優れ、かつ高く硬化性に優れるため、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)及びエポキシ樹脂組成物について説明する。
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、四級化アミンカチオン(A)とキレートアニオン(B)からなる四級化アミン塩(S)を含むことを特徴とする。
【0020】
四級化アミンカチオン(A)は、上記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)もしくは(14)で示される。
【0021】
式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、及び(13)中、R1の炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、および2-プロピルペンチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
炭素数6~16の置換若しくは無置換のアリール基としては、単環式アリール基(フェニル等)、縮合多環式アリール基(ナフチル、アントラセニル、フェナンスレニル、アントラキノリル、フルオレニル及びナフトキノリル等)及び芳香族複素環炭化水素基(チエニル、フラニル、ピラニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル等単環式複素環;及びインドリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、キノキサリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、キサンテニル、チアントレニル、フェノキサジニル、フェノキサチイニル、クロマニル、イソクロマニル、クマリニル、ジベンゾチエニル、キサントニル、チオキサントニル、ジベンゾフラニル等縮合多環式複素環)が挙げられる。
置換若しくは無置換のヘテロ環としては、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、ピロリジン、アゼチジン、オキセタン、アジリジン、イミダゾール、イミダゾリンなどが挙げられる。
【0022】
R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10の炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6~16の置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロ環としては、R1で挙げられたものと同様である。
【0023】
式(14)中、R11、R12、R13及びR14の炭素数1~16の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数6~16の置置換若しくは無置換のアリール基、または置換若しくは無置換のヘテロ環としては、R1で挙げられたものと同様である。
【0024】
四級化アミンカチオン(A)の具体例として、以下の構造のものが挙げられる。
【0025】
【0026】
四級化アミンカチオン(A)の合成方法は、特に限定されないが、例えば、四級化アミンカチオン(A)のアルキル炭酸塩を使用する反応、および四級化アミンカチオン(A)の水酸化物を使用する反応等により得られる。
【0027】
四級化アミンカチオン(A)のアルキル炭酸塩は、例えば、対応するアミン化合物と炭酸ジエステル類とを反応させることで得られる。製造条件としては温度50~150℃にてオートクレーブ中10~200時間であり、反応を速やかに収率良く完結するために、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。溶媒の量は特に限定されるものではない。
【0028】
炭酸ジエステルとしては公知のものであればよく、特に限定するものではないが、具体的にはジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等が用いられる。
【0029】
四級化アミンカチオン(A)の水酸化物は、例えば、対応するアミン化合物とハロゲン化合物を反応させた後に、無機アルカリにより塩交換することで得られる。製造条件としては温度-10~150℃にて1~20時間であり、反応を速やかに収率良く完結するために、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒としては特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。溶媒の量は特に限定されるものではない。
【0030】
ハロゲン化合物しては、臭化エチル、塩化ブチル、2-エチルヘキシルブロマイド、2-ブチルエタノール、2-クロロプロパノール等が、ハロゲン化トルエンとしては、ブロベンジルブロマイド等が挙げられる。
無機アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、および水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0031】
キレートアニオン(B)は、上記一般式(15)、(16)もしくは(17)で表される。
【0032】
式(15)~(17)中のプロトン供与性置換基のプロトン供与体としては、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2’-ビフェノール、2,2’-ビナフトール、ピロガロール、トリヒドロキシ安息香酸、没食子酸エステル、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸の群から選ばれるフェノール系化合物;2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール、グリセリンの群から選ばれるアルコール系化合物;または、尿素、1-メチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジアミノ尿素、1,3-ジメチロール尿素、アロファンアミドチオ尿素、1-メチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、チオセミカルバジド、チオカルボヒドラジド、4-メチルチオセミカルバジド、グアニルチオ尿素の群から選ばれる尿素系化合物が好ましい。
【0033】
四級化アミン塩(S)の合成方法としては、例えば、前記の四級化アミンカチオン(A)と、アルコキシシラン類(もしくホウ酸、ホウ酸エステル類)、および珪素原子(もしくホウ素原子)とキレート結合を形成可能な前記プロトン供与体を一定な比率で反応させる方法が挙げられる。
【0034】
ここで前記アルコキシシラン類としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、及びテトラエドキシシラン等が挙げられる。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂硬化促進剤(Q)は、エポキシ樹脂組成物の他の成分との混合をしやすくするために、低粘度のフェノール樹脂、また低分子フェノール化合物でマスターバッチ化して軟化点を下げる方法、粉砕して粉末状にする方法等を行っても良い。
低粘度のフェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。マスターバッチ化の方法としては、公知の方法が利用できる。
低分子のフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。マスターバッチ化の方法としては、公知の方法が利用できる。
【0036】
エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)の軟化点は、通常70~180℃、好ましくは80~140℃、より好ましくは90~130℃である。これは、70℃よりも低いと、粉砕時の融着や粉末状にした促進剤の貯蔵中のブロック化が起こり易く好ましくなく、また、180℃を超えると、硬化促進剤がエポキシ樹脂と溶融混合できずに不均一になり、硬化不良の原因となり易いからである。
【0037】
粉砕して粉末状にする方法としては、例えば衝撃式粉砕機等で粉砕して粉末状の硬化促進剤を得ることができる。使用に際しては、この粉末状の硬化促進剤の粒径は、100メッシュパス(エアージェットシーブ法などにより測定)95%以上であることが好ましい。これは、95%未満のものではエポキシ樹脂組成物への均一溶解が妨げられ易くなり、硬化不良の原因となるからである。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)と、上記エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)を含むことを特徴とする。
【0039】
エポキシ樹脂(E)は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造は特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。
【0040】
エポキシ樹脂(E)の例としては、DIC株式会社製の:HP-4032、HP-4700、HP-7200、HP-820、HP-4770、HP-5000、EXA-850、EXA-830、EXA-1514、EXA-4850シリーズ;日本化薬株式会社製の:EPPN-201L、BREN-105、EPPN-502H、EOCN-1020、NC-2000-L、XD-1000、NC-7000L、NC-7300L、EPPN-501H、NC-3000;三菱ケミカル株式会社製の:XY-4000などが挙げられる。
【0041】
1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)は、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリフェノールメタン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ビスフェノール化合物等が挙げられ、これらは単独でも混合して用いても差し支えない。
【0042】
フェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)の例としては、明和化成株式会社製の:HFシリーズ、MEH-7500シリーズ、MEH-7800シリーズ、MEH-7851シリーズ、MEH-7600シリーズ、MEH-8000シリーズ;本州化学工業株式会社製の:TriP-PA、BisP-TMC、BisP-AP、OC-BP、TekP-4HBPA、CyRS-PRD4などが挙げられる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、これを硬化することにより、最終的に硬化エポキシ樹脂が得られる。エポキシ樹脂硬化促進剤(Q)の配合量はエポキシ樹脂や硬化剤の反応性に応じて調整されるが、エポキシ樹脂100重量部に対して通常1~25重量部、好ましくは2~20重量部である。最適な配合量は、要求される硬化特性などに合わせて設定すればよい。
【0044】
エポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)との配合比率も、特に限定されないが、エポキシ樹脂(E)のエポキシ基1当量に対し、前記化合物(P)のフェノール性水酸基が0.5~2当量となるように用いるのが好ましく、0.7~1.5当量となるように用いるのが、より好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物の諸特性のバランスを好適なものに維持しつつ、諸特性が、より向上する。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに無機充填材(H)を含むことが好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体素子などの電子部品の封止などに用いる場合、得られる半導体装置の耐半田性向上などを目的として、エポキシ樹脂組成物中に配合されるものであり、その種類については、特に制限はなく、一般に封止材料に用いられているものを使用することができる。
【0046】
また、無機充填材(H)の含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)との合計量100重量部あたり、200~2400重量部であるのが好ましく、400~1400重量部であるのが、より好ましい。無機充填材(H) の含有量は、前記範囲外でも使用できるが、前記下限値未満の場合、無機充填材(H)による補強効果が充分に発現しないおそれがあり、一方、無機充填材(H)の含有量が前記上限値を超えた場合、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下し、エポキシ樹脂組成物の成形時(例えば半導体装置の製造時等)に、充填不良等が生じるおそれがある。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに他の機能性ある化合物(機能性添加剤)を含むことが好ましい。
【0048】
機能性添加剤には、例えば、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン及びフェニルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類やチタネートエステル類及びアルミナートエステル類に代表されるカップリング剤;カーボンブラック等の着色剤;臭素化エポキシ樹脂、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛及びリン系化合物等の難燃剤;シリコーンオイル及びシリコーンゴム等の低応力成分;カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス;ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸、該高級脂肪酸の金属塩類及びパラフィン等の離型剤;マグネシウム、アルミニウム、チタン及びビスマス系等のイオンキャッチャー、ビスマス酸化防止剤等の各種添加剤;ベンゾオキサジン、シアネートエステル、ビスマレイミドのような耐熱性UPさせる変性化合物が挙げられる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(E)と、1分子内にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物(P)以外の樹脂成分を含むこともできる。
その以外の樹脂成分としては、酸無水物を用いるエポキシ樹脂、ポリイミド系樹脂成分、ナノコンポジット系成分、シアネートエステル系樹脂成分などが挙げられる。
【0050】
他の機能性ある化合物は、「総説エポキシ樹脂第一巻」、「総説エポキシ樹脂第一巻」、エポキシ樹脂技術協会、2003;エクトロニクス実装学会誌、14、204、2011;journal of Applied Polymer Science,109,2023-2028,2008;Polymer Preprints,Japan,60,1K19,2011;ネックワークポリマー,33,130,2012;Polym.Int.54,1103-1109,2005;Journal of Applied Polymer Science,92,2375-2386,2004;ネックワークポリマー,29,175,2008;高分子論文集,65,562,2008;高分子論文集,66(6),217,2009などに記載されている。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記成分、必要に応じて、その他の添加剤等を、ミキサーを用いて均一混合して得られ、さらには、常温で混合したものを、ロール、ニーダー、コニーダー及び二軸押出機等の混練機を用いて、加熱混練した後、冷却、粉砕することによっても得ることができる。また、上記で得たエポキシ樹脂組成物は、紛体である場合、使用にあたっての作業性を向上させるために、プレス等により加圧タブレット化して使用することもできる。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物の用い方としては、例えば、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造する場合には、トランスファーモールド、コンプレッションモールド及びインジェクションモールド等の従来からの成形方法により、硬化成形すればよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
なお、実施例、比較例で用いたエポキシ樹脂硬化促進剤(以下、硬化促進剤と記す。)の内容について以下に示す。
【0054】
<硬化促進剤1>
滴下ロート、および還流管を備え付けたガラス製丸底3つ口フラスコに、3-ヒドロキシピリジン9.6部、メタノール100部を投入後、ベンジルブロマイド17.0部を滴下し、6時間で反応させる。ついに、零度で4%NaOHのメタノール溶液100部を滴下し、1時間後に白い沈殿を濾過し、A-Be1を得られた。
【0055】
滴下ロート、および還流管を備え付けたガラス製丸底3つ口フラスコに、得られたA-Be1を投入後、フェニルメトキシシラン19.8部、ついで攪拌しながら、2、3-ジヒドロキシナフタレン32部を投入し、3時間で反応させた。濾過とメタノール洗浄を三回した後、固体の硬化促進剤(Q-1)を得た。
【0056】
<硬化促進剤2>
テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(東京化成工場株式会社製)20部を、200℃でフェノールノボラック樹脂H-4(明和化成株式会社製)80部に溶けたものを、比較例の硬化促進剤(Q’-1)を得た。
【0057】
実施例1
エポキシ樹脂1:日本化薬(株)製、商品名NC3000(軟化点58℃、エポキシ当量273)100部;フェノール樹脂系硬化剤1:明和化成(株)製、商品名MEH-7500(軟化点110℃、水酸基当量97)33部;硬化促進剤(Q-1)7部;1重量%のシランカップリング剤で処理した溶融シリカ粉末1000部、カルナバワックス1.5部、三酸化アンチモン4部およびカーボンブラック1部を均一に粉砕混合後、 130℃の熱ロールを用いて10分間溶融混練し、冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0058】
<性能評価>
<流動性(フロー値)>
前記の得られたエポキシ樹脂組成物について、EMMI 1-66 の方法に準じて175℃(70kg/cm2)でのスパイラルフローのフロー値(単位はcm)を測定し、流動性の指標とした。
【0059】
<ゲルタイム>
キュラストメーター7型(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名)を使用して、温度175℃、樹脂用ダイスP-200および振幅角度±1/4°の条件で、それぞれの上記エポキシ樹脂組成物について硬化トルクを測定し、硬化トルクの立ち上がる点をゲルタイム(単位は秒)とした。
【0060】
<硬化性(硬化トルク)>
上記のキュラストメーターでの測定で、測定開始から300秒後の硬化トルクの値(単位はkgf・cm)を硬化性(脱型時の強度および硬度)の指標とした。
【0061】
比較例1
エポキシ樹脂1:日本化薬(株)製、商品名NC3000(軟化点58℃、エポキシ当量273)100部;フェノール樹脂系硬化剤1:明和化成(株)製、商品名MEH-7500(軟化点110℃、水酸基当量97)33部;硬化促進剤(Q’-1)7部;1重量%のシランカップリング剤で処理した溶融シリカ粉末1000部、カルナバワックス1.5部、三酸化アンチモン4部およびカーボンブラック1部を均一に粉砕混合後、 130℃の熱ロールを用いて10分間溶融混練し、冷却後粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、上記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例2
エポキシ樹脂をエポキシ樹脂2に変更し、フェノール樹脂系硬化剤をフェノール樹脂系硬化剤2に変更した以外は、実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、上記の方法で評価した。結果を表1に示す。
エポキシ樹脂2:三菱ケミカル(株)製、商品名XY-4000H(軟化点80℃、エポキシ当量192)
フェノール樹脂系硬化剤2:明和化成(株)製、商品名MEH-7851SS(軟化点67℃、水酸基当量203)
【0063】
比較例2
エポキシ樹脂をエポキシ樹脂2に変更し、フェノール樹脂系硬化剤をフェノール樹脂系硬化剤2に変更した以外は、比較例1と同様に行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、上記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
表1から明らかなように、本発明の実施例1~2のエポキシ樹脂組成物は、溶融混練後の封止剤のフロー値が高く流動性に優れており、また硬化トルクも高く硬化性に優れていることが分かる。
一方、比較例1~2では、ホスホニウムカチオンの安定性が低いため溶融混連後の封止剤のフロー値が比較に低くなり、成形性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のエポキシ樹脂組成物はモールド充填時に流動性に優れ、かつ触媒活性が高く硬化性に優れるため、半導体などの電子部品用のエポキシ樹脂系封止材の製造に好適である。