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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】層間熱接続部材、および層間熱接続方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20220119BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017156920
(22)【出願日】2017-08-15
(65)【公開番号】P2019036632
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】村上 睦明
【審査官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-122813(JP,A)
【文献】特開2016-143830(JP,A)
【文献】特開2015-002199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02 - 23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および柔軟性物質層からなる層間熱接合材であり、
柔軟性物質層が、アクリル系高分子、エポキシ系樹脂およびシリコーン系高分子からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含み、
金属の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、
柔軟性物質層の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、
層間熱接合材の厚さが0.3μm以上20μm以下であり、
金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材。
【請求項2】
柔軟性物質層が、シリコーン系高分子を含む請求項に記載の層間熱接合材。
【請求項3】
Raが5μm以下、かつ、Rzが20μm以下の部材間を、請求項1または2に記載の層間熱接合材を用いて接合する事を特徴とする熱接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発熱源からの熱を速やかに冷却・放熱部に伝達するための層間熱接合部材、および層間熱接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプロセッサの高速化やLEDチップの高性能化に伴う発熱量の上昇により、電子機器やLED照明などにおける熱問題は課題となっている。発熱源を効果的に冷却するには、発熱源から発生する熱を回路基板や冷却フィン、ヒートシンクなどの放熱・冷却部に効率よく伝達する必要がある。そのためには、発熱源と放熱・冷却部の間の熱抵抗を低減する事が重要である。温度差が存在する場合の2つの部材の間(層間)を熱的に接合する材料は、一般的には、層間熱接合材、あるいは、Thermal Interface Materialと呼ばれている。層間熱接合材は、この様な層間の熱抵抗を下げるために用いられ、金属-金属間、金属-セラミック間、セラミック-セラミック間等の部材間に挟持して使用される。
【0003】
層間熱接合材の特性を示す熱抵抗値の単位は℃・cm/Wである。層間熱接合材全体の熱抵抗値は、層間熱接合材自体(バルク)の熱抵抗と界面での熱抵抗の和であり、例えば、高分子材料と高熱伝導性無機フィラーを組み合わせた複合型層間熱接合材の場合は通常3~0.6℃・cm/W程度である。
【0004】
層間熱接合材の特性は上記の様に層間熱接合材自体(バルク)の熱抵抗と層間熱接合材と部材界面での界面熱抵抗からなっている。一般的に、この二種類の熱抵抗の値を分離して評価するには以下に述べる方法が用いられる。図2にはその評価方法の原理を示す。これは保護熱板法(GHP法)と呼ばれるものである。(JIS A1412-1、ASTM D5470参照)層間熱接合材の熱抵抗特性は、図3に示す様に2本の金属ロッド間に層間熱接合材を狭持し、その時の温度勾配の「ずれ」を熱抵抗値とする。
【0005】
測定された熱抵抗値からバルク熱抵抗値と界面熱抵抗値を分離し、それぞれの値を推定するためには、図3で示す様に、同じ組成で厚さの異なる層間熱接合材を準備し、それぞれの熱抵抗値を測定する。厚さをX軸に、測定された熱抵抗値をY軸に取り、測定値を直線で結んで、直線がX軸と交わる切片を求める。この切片は層間熱接合材の厚さをゼロと仮定した場合の熱抵抗値であり、これが界面熱抵抗値となる。これは層間熱接合材の組成が同じであればその界面熱抵抗値も同じであると言う仮定に基づいており、その事は厚さを変えて測定した各測定値を直線で結ぶ事が出来る、と言う事によって支持される。
【0006】
また、特許文献1には、金属を単独で層間熱接合材として用いる半導体製造装置、およびその製法の開示がある。特許文献1には放熱のための金属層を含み、この金属層が基板の下面よりも大きい面積を持ち、放熱部材の上面を覆い、その金属層の厚さが1nm~10μmの範囲であるとする層間熱接合材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-122813
【文献】特開2006-073550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高性能で高耐熱・耐久性の層間熱接合材を提供する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の層間熱接合材は、[1]金属からなる層間熱接合材であり、金属の厚さが0.2μm以上10μm以下であり、金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材に関する。
[2]金属のビッカース硬度が5以上50以下である[1]に記載の層間熱接合材に関する。
[3]金属の厚さが0.5μm以上3μm以下であり、かつ、金属のビッカース硬度が5以上30未満である[1]に記載の層間熱接合材に関する。
[4]金属の厚さが0.3μm以上1.5μm以下であり、かつ、金属のビッカース硬度が30以上50未満である[1]に記載の層間熱接合材に関する。
[5]金属および柔軟性物質層からなる層間熱接合材であり、 柔軟性物質層が、アクリル系高分子、エポキシ系樹脂およびシリコーン系高分子からなる群より選ばれる少なくとも1種類を含み、金属の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、柔軟性物質層の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、層間熱接合材の厚さが0.3μm以上20μm以下であり、金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材に関する。
[6]柔軟性物質層が、シリコーン系高分子を含む[5]に記載の層間熱接合材に関するに関する。
[7]Raが1μm以下、かつ、Rzが3μm以下の部材間を、[1]~[4]の何れかに記載の層間熱接合材を用いて接合する事を特徴する熱接合方法。
[8]Raが5μm以下、かつ、Rzが20μm以下の部材間を、[5]~[6]の何れかに記載の層間熱接合材を用いて接合する事を特徴とする熱接合方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、すぐれた熱接合特性を有し、しかも耐熱性を始めとする環境安定性にすぐれた層間熱接合部材が提供され、これらの層間熱接合材を用いる事で低熱抵抗接続が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】高分子/無機複合型層間熱接合材
図2】熱抵抗測定の原理(保護熱板法(GHP法)JIS A1412-1 ASTM D5470)。
図3】熱抵抗値から、界面熱抵抗値とバルク熱抵抗値推算する方法。厚さの異なる層間熱接合材の熱抵抗値を測定し、厚さを0としたときの熱抵抗値が界面抵抗値となる。
図4】金属からなる層間熱接合材。
図5】金属と柔軟性物質からなる層間熱接合材。
図6】金属からなる層間熱接合材の熱抵抗値
図7】層間熱接合材の耐久性評価装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図4は、本発明の第一の実施形態に係る金属からなる層間熱接合材であり、厚さが0.2μm以上10μm以下であり、かつ、ビッカース硬度が5以上80以下である金属からなる層間熱接合材を示す。
【0013】
<第一の実施形態:金属からなる層間熱接合材>
本発明の第一の実施形態において、金属の厚さは、熱抵抗の低さとの観点から、0.2μm以上10μm以下であり、かつ、金属のビッカース硬度は5以上80以下である。
【0014】
熱抵抗をさらに低くし、かつ、取り扱い性を良くする観点から、ビッカース硬度が5以上30未満の場合、金属の厚みは0.5μm以上3μm以下が好ましく、あるいは、ビッカース硬度が30以上50未満の場合、金属の厚みは0.3μm以上1.5μm以下が好ましい。
【0015】
本発明の金属としては、空気中の酸素や水による自然酸化膜が形成されていてもよい。
本発明者らは、金属の厚みとビッカース硬度が上記所定の範囲内とすることにより、界面熱抵抗値を小さくすることが可能であることを見出した。
【0016】
従来、界面抵抗値は、部材と層間熱接合材の素材によって一義的に決まると考えられてきた。この事は、図3に示した様に、一般の層間熱接合材では試料の厚さを変えて熱抵抗値を測定すると、界面抵抗値は変化せず熱抵抗値は厚さに対して直線状に変化し、厚さゼロに外挿すれば界面抵抗値を示す事から支持される。しかしながら、図6の銅箔膜の例で示した様に金属薄膜の場合にはその厚さによっても変化し、その現象は10μm以下の厚さになると顕著に現われることを見出した。図6に、厚さの異なる銅、アルミ、金箔を用いてその熱抵抗測定を測定した結果をまとめて示す。荷重はいずれも10Nである。図6からは、金属の種類によらず一般的に10μm以下の厚さになると直線的な変化からはずれて特異的に界面熱抵抗値が小さくなり、その現象は特に5μm以下で顕著になる事が分かる。
【0017】
<第二の実施形態:金属および柔軟性物質層からなる層間熱接合材>
次に、本発明の第二の実施形態について述べる。第一の実施形態である金属からなる層間熱接合材について、基材の表面粗度が問題となることがある。
【0018】
図5は、本発明の第二の実施形態に係る金属および柔軟性物質層からなる層間熱接合材であり、厚さが0.1μm以上10μm以下である金属と、厚さが0.1μm以上10μm以下である柔軟性物質層、その層間熱接合材の厚さが0.3μm以上20μm以下であり、その金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材を示す。
【0019】
図6の実験結果は、高性能熱抵抗測定装置(日立テクノロジーアンドサービス製 精密熱抵抗測定装置)を用いた測定結果であり、基材の表面粗度が小さい。本発明の第一の実施形態の金属からなる層間熱接合材は、表面粗度の小さな基材の熱接続には有効であるが、比較的大きな凹凸の存在する基材の熱接合には有効でない場合がある。
【0020】
本発明の第二の実施形態は、金属と柔軟性物質層からなる層間熱接合材であり、金属の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、柔軟性物質層の厚さが0.1μm以上10μm以下であり、層間熱接合材の厚さが0.3μm以上20μm以下であり、金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材である。本発明の第二の実施形態の層間熱接合材は、低い熱抵抗を有し、取り扱い性も良好で、耐熱耐久性に優れる。
【0021】
下記のブリーディング防止やポンプアウト抑制の観点から、好ましくは、金属の厚さが0.2μm以上5μm以下であり、柔軟性物質層の厚さが0.2μm以上5μm以下であり、その層間熱接合材の厚さが0.5μm以上10μm以下であり、その金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材である。
【0022】
下記のブリーディング防止やポンプアウト抑制の観点から、さらに好ましくは、その金属の厚さが0.3μm以上3μm以下であり、その柔軟性物質層の厚さが0.3μm以上3μm以下であり、その層間熱接合材の厚さが1μm以上5μm以下であり、その金属のビッカース硬度が5以上80以下である層間熱接合材である。
【0023】
この柔軟性物質層を設けることによって、基材との接合が良好となり、優れた熱抵抗特性の層間熱接合材となる。柔軟性物質層を部材間に狭持して圧力を加える事によって、柔軟性物質層が部材の凹凸部分に入り込んで充填し、その凹凸部分の空気を除き、界面熱抵抗値を小さくできる。
【0024】
従来、シリコーングリース等が層間熱接合材として用いられているが、耐久性に課題があった。しかしながら、金属と柔軟性物質層の多層構造とすることで、柔軟性物質層のみの場合と比べて、層間熱接合材の耐久性が向上することを見出した。柔軟性物質のみの場合は、小さな熱抵抗となる。日立精密熱抵抗測定装置を用いて、柔軟性物質であるシリコーングリースのみで測定すると、荷重10Nの条件下で、0.13℃cm/Wと低い熱抵抗値であった。しかし、凹凸の存在する基材間では、柔軟性物質層の厚い部分と薄い部分が存在し、薄い部分に熱が集中し、熱分解やそれに伴う気泡の発生といったブリーディングが起こりやすい。
【0025】
これに対して、本発明の第二実施形態は、金属および柔軟性物質層からなる層間熱接合材であり、金属による熱拡散効果により熱の集中が起こりにくく、それに伴うブリーディング現象も起こりにくくなると考えられる。金属層が薄いかつ柔軟である場合には、ブリーディング防止効果が顕著に現われると考えられる。この効果が測定可能となるのは、金属層が10μm以下の場合である。金属層の厚さが10μm以上である場合には、金属の柔軟性が失われる結果、ブリーディング防止効果は現われない。
【0026】
さらに、本発明の第二の実施形態は、ポンプアウト現象を著しく改善できる。ポンプアウトとは、グリースに含まれる液状オイル成分が分離し電子部品と熱放散部材の間からしみ出して、グリースが固化してしまい、亀裂やボイドが発生する現象である。例えば熱伝導性グリースは室温から電子部品動作温度(60~120℃)間でのヒートサイクルを長期間にわたって受けた場合に、ポンプアウトが発生し結果的に熱抵抗の増加を招き電子部品の放熱ができなくなるという課題があった。
【0027】
本発明の第二の実施形態において、金属の厚さは、熱抵抗の低さとの観点から、0.1μm以上10μm以下であり、かつ、金属のビッカース硬度は5以上80以下である。
【0028】
熱抵抗をさらに低くし、かつ、取り扱い性を良くする観点から、ビッカース硬度が5以上30未満の場合、金属の厚みは0.5μm以上3μm以下が好ましく、あるいは、ビッカース硬度が30以上50未満の場合、金属の厚みは0.3μm以上1.5μm以下が好ましい。
本発明の金属としては、空気中の酸素や水による自然酸化膜が形成されていてもよい。
【0029】
<圧力・温度>
本発明の柔軟性物質とは、常温で液体状の物質、あるいは常温で固体状の物質であって常温とは20℃の事である流動性を示す。
常温で液体状の物質は、150℃以上の沸点を有する。
常温で固体状の物質は、加熱および/または加圧することで用いることができる。常温で固体である物質の場合には、常温で無荷重の場合に示すその物質の厚さに対し、加熱および/または加圧したときの厚さが、半分以下になることが好ましい。
【0030】
前記圧力は、0.5MPa以下が好ましく、0.4MPa以下がより好ましく、0.3MPa以下がさらに好ましく、0.2MPa以下が特に好ましい。
前記温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0031】
本発明において、優れた熱抵抗特性の実現には、柔軟性物質層/金属の重量比率は、0.1~20の範囲であることが好ましい。柔軟性物質層/金属の重量比率が20を超えると、柔軟性物質層の熱抵抗のために層間熱接合材の熱抵抗は大きくなる。また、前記比率が0.1未満の場合、柔軟性物質層を形成する効果が小さい。最適な柔軟性物質層の厚さは、狭持されるべき部材の凹凸によっても変わり、凹凸が大きい部材では必要な柔軟性物質層は厚くなり、凹凸の少ない部材では薄くなる。低熱抵抗特性実現のために柔軟性物質層/金属重量比率は、0.2~16の範囲である事はより好ましく、0.3~12の範囲である事はさらに好ましく、0.4~10の範囲である事は最も好ましい。
【0032】
第二の実施形態において用いられる柔軟性物質には特に制限はないが、複合層間熱接合材で用いられるアクリル系高分子、エポキシ樹脂、シリコーン系高分子は柔軟性層を形成するための特に好ましい素材である。柔軟性層を形成する素材は常温での加圧、あるいは加圧と加熱の両方によって流動性を示し、熱接続されるべき部材の凹凸の中に入り込むが、これによって部在間に存在する空気層が除かれ、優れた熱抵抗特性が実現する。
【0033】
また、本発明においては柔軟性物質層を形成する素材として、その沸点が150℃以上の液状物質を使用する事も可能である。通常の複合型層間熱接合材の場合には高分子がマトリックスの役割を果たしているので常温で固体の物質(通常高分子)で膜を形成する必要があり、そのために液状物質を用いる事が出来ない。しかし、本発明の層間熱接合材には芯となる金属層が存在するために柔軟性物質がマトリックスの役目を担う必要がない。そのために常温で液状の柔軟性物質を用いる事が出来る。
【0034】
柔軟性物質が油である場合、鉱油、植物性油、合成油、精油食用油、動物性油、およびこれらの混合物である事は好ましい。例えば、オイルであれば鉱油、合成炭化水素油、エステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、フッ素油、キャノーラ油やこれらの混合物を好適に用いることができる。あるいは変性オイルであってもよく、例えばシリコーンオイルであれば、エポキシ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルを用いることができる。本発明の層間熱接合材の特徴の一つである高耐熱性、高耐久特性を失わないためには、蒸気圧の低い物質であることが望ましい。油状の物質である場合、沸点が200℃以上である事はより好ましく、250℃以上である事はより好ましく、300℃以上である事は最も好ましい。
【0035】
<層間熱接合方法>
本発明の層間熱接合材を用いた層間熱接続方法は、層間熱接合材を熱接続する部材間に設置する工程を含む。本発明の層間熱接合材を層間に狭持させることにより、熱発生源あるいは熱発生源と熱的に接続された部材から、それ以下の温度である第二の部材へ熱を伝える層間熱接続を行うことができる。
【0036】
本発明の第一形態である金属層のみからなる層間熱接合材の場合、熱源に近い部材と熱源から遠い部材の間に挟持されて設置され、金属膜とそれぞれの部材は直接接触している。接続の方法として単に機械的な圧力で固定しても良い。機械的に、ビスやネジ、あるいはバネ等によってか締める事は有効であり好ましい。しかしながら、本発明の層間熱接合材は低荷重(10N)でも低熱抵抗が実現できる点や、熱抵抗の圧力依存性が比較的小さい事を考慮すれば、必ずしも強くかしめる必要はない。万が一、かしめる圧力が変化した場合でもその影響が小さいために、実用的には極めて有効な層間熱接続が実現できる。10Nでの荷重下において1.0℃cm/W以下の特性を実現できる範囲は、部材の表面凹凸がRa表示で1μm以下、Rz表示で3μm以下程度の場合である。
【0037】
本発明の第二の形態である柔軟性物質で被覆された金属薄膜層間熱接合材の場合にも、その層間熱接合材を熱接続する部材間に設置する工程を含む。本発明の層間熱接合材を層間に狭持させることにより、熱発生源あるいは熱発生源と熱的に接続された部材から、それ以下の温度である第二の部材へ熱を伝える層間熱接続を行うことができる。第二の形態の場合、層間熱接合材は熱源に近い部材と熱源から遠い部材の間に挟持されて設置され、柔軟性物質と各部材が直接接触している。接続の方法はとしては、単に機械的な圧力で固定しても良い。機械的に、ビスやネジ、あるいはバネ等によってか締める事は有効であり好ましい。しかしながら、また柔軟性物質層に接着性をもたせる事により、単に狭持するだけで実用的には極めて有効な層間熱接続が実現できる。
【0038】
第二形態の層間熱接合材については、10Nでの加圧時において1.0Kcm/W以下の特性を実現できる範囲は、Ra表示で5μm以下、Rz表示で20μm以以下程度の場合であることが好ましい。
【実施例
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
(金属薄膜)
ビッカース硬度の異なる5種類の金属を用いて、17種類のA~Qの金属を評価した。
なお、E、F、Lは、スパッタリング法で自作した。スパッタ膜はキャストした高分子膜上に形成し、高分子膜にサポートされた状態で、有機溶媒に浸漬し、高分子層を除去した後、溶媒上に浮遊した金属膜を測定ロッド上にすくい上げた。また、上記3種類の試料以外はすべて市販の金属箔である。なお、試料の厚さは±10%程度の誤差を含んでいる。
【0041】
A(厚さ0.25μm、ビッカース硬度22の金、市販品)
B(厚さ2.5μm、ビッカース硬度22の金、市販品)
C(厚さ5.1μm、ビッカース硬度22の金、市販品)
D(厚さ10μm、ビッカース硬度22の金、市販品)
E(厚さ0.2μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、スパッタ法作製)
F(厚さ0.4μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、スパッタ法作製)
G(厚さ0.8μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
H(厚さ1.5μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
I(厚さ3.0μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
J(厚さ5.0μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
K(厚さ10μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
L(厚さ1.0μm、ビッカース硬度50~80の銅、スパッタ法作製)
M(厚さ2.0μm、ビッカース硬度50~80の銅、市販品)
N(厚さ5.0μm、ビッカース硬度50~80の銅、市販品)
O(厚さ10μm、ビッカース硬度50~80の銅、市販品)
P(厚さ2.5μm、ビッカース硬度400のニッケル、市販品)
Q(厚さ10μm、ビッカース硬度110の鉄、市販品)
R(厚さ0.1μm、ビッカース硬度40~50のアルミニウム、市販品)
S(厚さ30μm、ビッカース硬度50~80の銅、市販品)
(層間熱接合材特性の測定)
本発明の熱抵抗測定は、日立クノロジーアンドサービス製精密熱抵抗測定装置を用いて行なった。本測定装置は精密な熱抵抗測定が可能な装置であって、その誤差は±0.002℃cm/Wである。試料寸法は10×10mm.加圧圧力は10~50N(ほぼ1.0kgf/cm~5.0kgf/cmに相当)の範囲、測定温度は60℃である。具体的には、まず界面温度が60℃になる様に加えるワット数(W)を調節し、温度変化が一定になった後10回測定し、その平均値を測定値とした。
【0042】
(実施例1~15)
金属A~Oからなる層間熱接合材の熱抵抗特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【0043】
(比較例1・2)
金属P・Qからなる層間熱接合材の熱抵抗特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【0044】
(比較例3)
金属Rからなる層間熱接合材の熱抵抗特性を測定した。その測定結果を表1にまとめて示した。
【0045】
【表1】
【0046】
いずれの金属においても厚さが薄くなるのに従って熱抵抗値が減少し、例えばアルミでは10μmの厚さで0.72℃cm/W、5.1μmの厚さで0,63℃cm/W、3.0μmの厚さで0.51℃cm/W、1.5μmの厚さで0.28℃cm/W、0.8μmの厚さで0.19℃cm/W、0.4μmの厚さで0.17℃cm/W、0.2μmの厚さで0.15℃cm/Wの極めて小さな熱抵抗値となった。(いずれも荷重10Nの場合)また、圧力依存性は比較的小さく、50N印加時の熱抵抗値は10N印加時の60~80%程度であり、その圧力依存性は薄くなるに従って小さくなる傾向にあった。
【0047】
金の場合には10μmの厚さで0.46℃cm/W、5.0μmの厚さで0.38℃cm/W、2.5μmの厚さで0.20℃cm/W、0.25μmの厚さで0.18℃cm/Wであり、同じ厚さで比較するとアルミよりも優れた熱抵抗値を示した。
【0048】
また、銅箔の場合には10μmの厚さで1.19℃cm/W、5.0μmの厚さで1.00℃cm/W、2.0μmの厚さで0.66℃cm/W、1.0μmの厚さで0.38℃cm/Wの熱抵抗値となった。同じ厚さで比較すると銅は金やアルミと比較してその熱抵抗値は大きくなった。
【0049】
この様な実施例によって例えば、5μm以下の銅薄膜を用いれば、一般的な複合型層間熱接合材を凌駕する特性(具体的には1.0℃cm/W以下)の熱接合を実現する事が出来る事が分かった。さらに3μm以下の銅薄膜を用いれば0.8℃cm/W以下、2μm以下の銅薄膜を用いれば0.66℃cm/Wの以下、の一般的な複合型層間熱接合材をはるかに凌駕する熱抵抗特性が得られる事が分かった。また、アルミや金を用いれば、同じ厚さで銅を遥かに上回るすぐれた特性の層間熱接合材となる。無論の様な金属薄膜は複合型層間熱接合材とくらべてその耐熱性、耐久性が極めて優れている事は言うまでもない。また、表1には取り扱い性の項を記載した。表中○は取り扱いに問題ない場合、△は取り扱えるもののその取り扱いには十分な注意を必要とする場合である。
【0050】
(比較例1、2)
ニッケルと純鉄の薄膜を用いてその熱抵抗特性を測定した。荷重10Nの条件下測定した結果、2.5μm厚さのニッケル箔(ビッカース硬度400)の層間熱接合材特性は3.8℃・cm/Wであり、10μmの厚さの純鉄箔(ビッカース硬度110)の層間熱接合材の熱抵抗特性は4.2℃・cm/Wであった。
【0051】
この事から、ニッケルや鉄において実質的に自立膜として使用できると考えられる100nm以上の厚さでは、層間熱接合材として使用可能な熱抵抗値特性(例えば、1.0℃cm/W以下)は得られないと考えられる。
【0052】
(比較例3)
アルミニウム薄膜(R、厚さ0.1μm)をスパッタ法で作製した。高分子膜にサポートされたスパッタ膜を有機溶媒に浸漬し、高分子層を除去した後、溶媒上に浮遊したアルミニウム薄膜金属膜を測定ロッド上にすくい上げた。0.1μmのアルミニウム薄膜を自立膜として単独で取り扱う事は困難であった。
【0053】
(実施例16~24)
9種類の金属の両面に、柔軟性物質層としてシリコーングリース層を形成した。重量測定の結果、シリコーングリースの厚さは、両面の厚さ合計で、およそ2~4μmであった。それぞれの試料の熱抵抗特性を測定し、その結果を表2に示した。
【0054】
【表2】
【0055】
この結果から、この様にして作製された層間熱接合材はいずれも非常に優れた熱抵抗特性、および熱抵抗特性の圧力依存性を示す事が分かった。得られた熱抵抗特性は、いずれの金属薄膜を用いた場合でも0.14℃cm/W~0.20℃cm/Wの範囲(荷重10Nの場合)であり、荷重50Nの場合には0.10℃cm/W~0.13℃cm/Wの範囲であった。これらの結果は、熱抵抗特性が金属箔の厚さやその種類にはほとんど影響されない事を示している。この事は第二の実施形態である柔軟性物質で被覆された金属薄膜が極めて優れた特性の層間熱接合材となる事を示している。
【0056】
(実施例25)
アルミ(E、厚み0.2μm、ビッカース硬度40~50、市販品)の両面に、厚み0.4μmの柔軟性のアクリル高分子層を設けた層間熱接合材熱抵抗値を測定した結果、荷重10Nの場合、熱抵抗値1.0℃cm/W以下であった。層間熱接合材の取り扱い性は問題なく、評価としては○であった。
【0057】
(実施例26)
アルミ薄膜(H、厚み1.5μm、ビッカース硬度40~50、市販品)の両面に、厚み1.5μmの柔軟性のアクリル高分子層を設けた層間熱接合材熱抵抗値を測定した結果、荷重10Nの場合、熱抵抗値1.0℃cm/W以下であった。層間熱接合材の取り扱い性は問題なく、評価としては○であった。
【0058】
(実施例27)
アルミ薄膜(I、厚み3.0μm、ビッカース硬度40~50、市販品)の両面に、厚み2.0μmの柔軟性のアクリル高分子層を設けた層間熱接合材熱抵抗値を測定した結果、荷重10Nの場合、熱抵抗値1.0℃cm/W以下であった。層間熱接合材の取り扱い性は問題なく、評価としては○であった。
【0059】
(実施例28)
アルミニウム(R、厚さ0.1μm)を、スパッタ法で作製した。高分子膜にサポートされたスパッタ膜を有機溶媒に浸漬し、高分子層を除去した後、溶媒上に浮遊したアルミニウム薄膜を測定ロッド上にすくい上げた。有機溶媒中に、柔軟性物質層となる柔軟性のアクリル樹脂を溶解し、乾燥後にアルミ膜上にアクリル樹脂層が形成される様にした層間熱接合材料は、自立膜として取り扱う事が可能であった。アクリル樹脂からなる柔軟性物質層の厚さは、アクリル樹脂からなる柔軟性物質層の厚みが均一と仮定して重量から計算すると、0.2μmであった。荷重10Nにおける層間熱接合材の熱抵抗値は0.12℃cm/Wであった。
【0060】
(実施例29)
銅(L、厚さ1.0μm、ビッカース硬度50~80、市販品)の銅箔の両面に、柔軟性物質層として厚さ1.0μmのシリコーングリースを形成した層間熱接合材を作成した。荷重10Nにおける熱抵抗値は、0.15℃cm/Wであった。
図7の装置を用いた耐熱性・耐久性評価として、ヒーター温度を300℃とし、1時間経過後の測定点75と測定点76の温度差が10℃であり、48時間経過後の測定点75と測定点76の温度差を測定した結果、その温度差は10℃であった。1時間経過後の温度差に対し、48時間経過後の温度差は、0℃の増加であった。
【0061】
(比較例4)
厚さ2μmのシリコーングリースのみからなる層間熱接合材の熱抵抗値を測定した。荷重10Nにおける熱抵抗値は、0.13℃cm/Wであった。
図7の装置を用いた耐熱性・耐久性評価として、ヒーター温度を300℃とし、1時間経過後の測定点75と測定点76の温度差が10℃であり、48時間経過後の測定点75と測定点76の温度差を測定した結果、その温度差は16℃であった。1時間経過後の温度差に対し、48時間経過後の温度差は、6℃の増加であった。
【0062】
(比較例5)
銅(S、厚さ30μm、ビッカース硬度50~80、市販品)の両面に、柔軟性物質層として厚さ1.0μmのシリコーングリースを形成した層間熱接合材を作成した。荷重10Nにおける熱抵抗値は、0.18℃cm/Wであった。
図7の装置を用いた耐熱性・耐久性評価として、ヒーター温度を300℃とし、1時間経過後の測定点75と測定点76の温度差が10℃であり、48時間経過後の測定点75と測定点76の温度差を測定した結果、その温度差は15℃であった。1時間経過後の温度差に対し、48時間経過後の温度差は、5℃の増加であった。
【0063】
(比較例6)
銅(S、厚さ30μm、ビッカース硬度50~80、市販品)の両面に、柔軟性物質層として厚さ20μmのシリコーングリースを形成した層間熱接合材を作成した。荷重10Nにおける熱抵抗値は、0.28℃cm/Wであった。
図7の装置を用いた耐熱性・耐久性評価として、ヒーター温度を300℃とし、1時間経過後の測定点75と測定点76の温度差が10℃であり、48時間経過後の測定点75と測定点76の温度差を測定した結果、その温度差は19℃であった。1時間経過後の温度差に対し、48時間経過後の温度差は、9℃の増加であった。
【0064】
(比較例7)
市販の高性能熱伝導シート(親和産業(株)製、熱伝導度50W/mK、厚み0.2mm)の熱抵抗値を測定した。荷重10Nにおける熱抵抗値は、0.22℃cm/Wであった。
図7の装置を用いた耐熱性・耐久性評価として、ヒーター温度を300℃とし、1時間経過後の測定点75と測定点76の温度差が10℃であり、48時間経過後の測定点75と測定点76の温度差を測定した結果、その温度差は21℃であった。1時間経過後の温度差に対し、48時間経過後の温度差は、11℃の増加であった。
【0065】
<耐熱性・耐久性評価>
層間熱接合材図7に示した耐熱性、耐久性評価装置に、各種層間熱接合材を挟み、ヒーター温度を300℃に設定して、(この時、層間熱接合材の温度はおよそ180℃と推定される)1時間経過後2つの測定点(75、76)の温度差が一定となった時点でその温度差を確認した(本測定装置の場合、いずれの層間熱接合材でも温度差はおよそ10℃)。その後300℃でのヒーター加熱を48時間継続した。1時間経過後に対し、48時間経過後の温度差の増加は、層間熱接合材の劣化による層間熱接合材の熱抵抗の上昇層間熱接合材が原因と推察される。
【0066】
【表3】
【符号の説明】
【0067】
11 高分子
12 無機充填材
13 層間熱接合材
14 基材
21 層間熱接合材
22 銅
23 ヒーター
41 金属
51 金属
52 柔軟性物質層
71 ヒーター
72 銅
73 層間熱接合材
74 銅
75 温度測定点1
76 温度測定点2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7