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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】電極、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220119BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220119BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220119BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220119BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/139
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017158643
(22)【出願日】2017-08-21
(65)【公開番号】P2019036497
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小関 和徳
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229406(JP,A)
【文献】特開平07-161352(JP,A)
【文献】特開2008-135376(JP,A)
【文献】国際公開第2009/096528(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024991(WO,A1)
【文献】特開2014-150013(JP,A)
【文献】特開2008-010253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/136
H01M 4/58
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電体と、電極活物質層と、絶縁粒子層とがこの順に積層された電極であって、
前記絶縁粒子層は、リチウムイオンを吸蔵放出しない粒子と、分子量が20000~300000であるセルロース系高分子を含有するバインダーを含み、
前記絶縁粒子層が形成された前記電極活物質層の表面に、高低差が5μm以上である凹凸が存在し、前記絶縁粒子層の一部が前記凹凸を被覆しており、
前記凹凸の頂部における前記絶縁粒子層の厚さが1μm以上5μm以下である、電極。
【請求項2】
前記凹凸の谷部の真上に位置する領域の前記絶縁粒子層が、前記谷部側に凹んでいる、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記電極活物質層がリン酸鉄リチウムを含む正極活物質層である、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の電極と、前記電極と対になる対極と、リチウムイオンを含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型、軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。これらリチウムイオン二次電池では、電解質としてリチウム塩を有機溶媒に溶解させた電解液を使用したものが主流となっている。
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極と、負極集電体上に負極活物質層が設けられた負極とを、セパレータを介して積層した積層体を外装体内に収容し、電解液を充填して密封することで製造される。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電極の表面に絶縁粒子層が設けられた構成も知られている。例えば特許文献1の実施例には、無機粒子と、分散剤として無機粒子100質量部に対して1質量部のポリカルボン酸塩と、無機粒子と分散剤の合計100質量部に対してバインダーであるスチレンブタジエンゴムを3質量部含む水系スラリーを正極の表面上に塗布し、溶媒である水を乾燥、除去して、厚さ2μmの絶縁粒子層が正極の表面に備えられたリチウムイオン二次電池が記載されている。
【0004】
正極表面の絶縁粒子層は、正極での反応によって生じた電解質の分解物をトラップするフィルタとして機能し、充放電サイクルに伴う正極活物質層の構造的な劣化を抑制する目的で設けられる。また、負極表面の絶縁粒子層は、正極活物質層から溶出した成分が負極活物質層の表面に析出することを抑制し、正極と負極を短絡させる原因になるリチウムデンドライトの発生を抑制する目的で設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5213534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図2に示すように、電極活物質層102の表面102aは必ずしも平滑ではなく、高低差sが5μm程度の凹凸が多数存在することがある。この場合、充放電に関する電気化学反応が凹凸の頂部102yにおいて優先的に起こり易い。この結果、頂部102yにおいて、正極活物質層の構造的な劣化、および負極活物質層の表面におけるリチウムデンドライトの発生、という第一の問題が起こり易い。
【0007】
電極活物質層の表面に絶縁粒子層が設けられていれば、電極活物質層の前記頂部における局所的な電気化学反応を抑制して、第一の問題を抑制できるように思われるが、実際にはその抑制は不十分である。
この原因を本発明者が鋭意検討したところ、図2に示すように、頂部102yにおける絶縁粒子層103の厚さhが局所的に薄くなっていることが原因である、という結論に達した。
さらに検討を進めたところ、上記のように絶縁粒子層103の厚さが局所的に薄くなる原因は、絶縁粒子層103の材料組成物を電極活物質層の表面102aに塗工した際に、前記凹凸の頂部102yに塗布された前記材料組成物が前記凹凸の谷部102zに流入して、頂部102yの上に形成される絶縁粒子層103の厚さhが薄くなる(谷部102zに形成される絶縁粒子層103の厚さkが相対的に厚くなる)ことにある、と考えられた。
そこで、第一の問題を解決するためには、前記材料組成物を多量に塗布し、谷部102zから前記材料組成物を溢れ出させ、頂部102yに前記材料組成物を留めることによって、頂部102の上に形成される絶縁粒子層103の厚さhを厚くすることが考えられた。
【0008】
しかしながら、絶縁粒子層103が電極活物質層102の表面に設けられると、電極活物質層102の表面における電解質の拡散および浸透が低下するため、セル抵抗が上昇してしまう、という第二の問題がある。第二の問題を最小限に抑えるためには、絶縁粒子層103の全体的な厚さを極力薄くすることが必要である。
したがって、絶縁粒子層103の局所的な薄さに起因する第一の問題と、絶縁粒子層103の全体的な厚さに起因する第二の問題とは、トレードオフの関係にある。
【0009】
本発明は、絶縁粒子層の厚さが、全体的には薄く保たれ、局所的に薄くなり過ぎることが抑制された電極、及びその電極の製造方法、並びにその電極を備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 電極集電体と、電極活物質層と、絶縁粒子層とがこの順に積層された電極であって、前記絶縁粒子層は、リチウムイオンを吸蔵放出しない粒子と、分子量が20000~300000であるセルロース系高分子を含有するバインダーを含む、電極。
[2] 前記絶縁粒子層が形成された前記電極活物質層の表面に、高低差が5μm以上である凹凸が存在し、前記絶縁粒子層の一部が前記凹凸を被覆している、[1]に記載の電極。
[3] 前記凹凸の頂部における前記絶縁粒子層の厚さが1μm以上5μm以下である、[2]に記載の電極。
[4] 前記凹凸の谷部の真上に位置する領域の前記絶縁粒子層が、前記谷部側に凹んでいる、[2]又は[3]に記載の電極。
[5] 前記電極活物質層がリン酸鉄リチウムを含む正極活物質層である、[1]~[4]の何れか一項に記載の電極。
[6] [1]~[5]の何れか一項に記載の電極と、前記電極と対になる対極と、リチウムイオンを含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
[7] リチウムイオンを吸蔵放出しない粒子と、分子量が20000~300000であるセルロース系高分子とを含むスラリーを、電極集電体上に形成された電極活物質層の表面に塗布する工程を有する、電極の製造方法。
[8] 前記スラリーのせん断時の粘度は1~500mPa・sであり、且つ、前記スラリーの静置時の粘度は100~10000mPa・sである、[7]に記載の電極の製造方法。
[9] 前記スラリーにおける前記セルロース系高分子の含有量が、前記粒子100質量部あたり0.5~10質量部である、[7]又は[8]に記載の電極の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極によれば、正極活物質層の劣化および負極活物質層におけるリチウムデンドライトの発生を抑制するとともに、セル抵抗の上昇を最小限に抑えることができる。
本発明の電極の製造方法によれば、本発明にかかる電極を容易に製造することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、耐久性に優れ、良好な充放電特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかる電極10の厚さ方向の模式的な断面図である。
図2】従来の電極100の厚さ方向の模式的な断面図である。
図3】本発明にかかるリチウムイオン二次電池20の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《電極》
本発明の第一態様は、電極集電体と、電極活物質層と、絶縁粒子層とがこの順に積層された電極であって、前記絶縁粒子層は、リチウムイオンを吸蔵放出しない粒子と、分子量が20000~300000であるセルロース系高分子を含有するバインダーを含む、電極である。以下、図面を参照してさらに詳述する。
【0014】
図1は、本発明の電極の第一実施形態である電極10を模式的に示す断面図である。電極10は、電極集電体1と、電極活物質層2と、絶縁粒子層3とがこの順に積層された積層体を有する。電極活物質層2及び絶縁粒子層3は、電極集電体1の片面にのみ形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
【0015】
〔正極集電体、正極活物質層〕
電極10が正極である場合、公知の二次電池に用いられる正極材料が適用され、例えば以下に例示するものが挙げられる。
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などの金属箔が挙げられる。
正極集電体の厚さとしては、例えば、5~50μmが挙げられる。正極集電体の平面視のサイズとしては、例えば、100~1万cmが挙げられる。
正極活物質層としては、例えば、正極活物質、導電助剤、および結着材を溶媒に分散させてなる正極用スラリーを正極集電体の表面上に塗布して乾燥することによって形成されたものが挙げられる。
正極活物質層の厚さとしては、例えば、1~1000μmが挙げられる。
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等が挙げられる。なかでも、リン酸鉄リチウムを用いると、正極活物質層の表面に高低差5μm以上の凹凸が多数形成され易いので、本実施形態の正極活物質として好適である。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0016】
〔負極集電体、負極活物質層〕
電極10が負極である場合、公知の二次電池に用いられる負極材料が適用され、例えば以下に例示するものが挙げられる。
負極集電体としては、例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などの金属箔が挙げられる。
負極集電体の厚さとしては、例えば、5~50μmが挙げられる。負極集電体の平面視のサイズとしては、例えば、100~1万cmが挙げられる。
負極活物質層としては、例えば、負極活物質、結着材、および必要に応じて加えられた導電助剤を溶媒に分散させてなる負極用スラリーを負極集電体の表面上に塗布して乾燥することによって形成されたものが挙げられる。
負極活物質層の厚さとしては、例えば、1~1000μmが挙げられる。
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る炭素系材料(炭素粉末、黒鉛粉末等)、金属酸化物等が挙げられる。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、スチレンブタジエンゴム等が挙げられる。
【0017】
〔絶縁粒子層〕
電極10の絶縁粒子層3の構成は、電極活物質層2が正極活物質層または負極活物質層のいずれの場合であっても、同じで構わない。
絶縁粒子層3は、リチウムイオンを吸蔵放出しない粒子と、分子量が20000~300000であるセルロース系高分子とを含む。セルロース系高分子は、粒子を結着するバインダーとして機能する。
【0018】
通常、二次電池に組み込まれた電極10の絶縁粒子層3は、電解液に接触している。電解液が絶縁粒子層3に浸潤することによって、バインダーと粒子の間に間隙が形成される。この間隙を通してリチウムイオン等が絶縁粒子層3を透過するので、絶縁粒子層3はイオン伝導性を有する。つまり、使用時の絶縁粒子層3は多孔質層である。
【0019】
(粒子)
前記粒子は、リチウムイオンを吸蔵放出しない絶縁性の粒子であることが好ましい。ここで、「リチウムイオンを吸蔵放出する」とは、電極10を備えたリチウムイオン二次電池において、その充放電の動作に干渉する程度に、リチウムイオンを吸蔵したり放出したりすることをいう。
前記粒子としては、例えば、無機粒子、有機粒子等が挙げられる。
絶縁粒子層3に含まれる粒子の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0020】
前記無機粒子としては、例えば、酸化マグネシウム粒子、酸化チタン粒子および酸化アルミニウム粒子、二酸化ケイ素、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等の無機粒子が挙げられる。
【0021】
前記有機粒子を構成する有機物質としては、例えば、ポリα-オレフィン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド、尿素樹脂等の高分子有機化合物が挙げられる。
【0022】
前記粒子の平均粒子径としては、電池の内部抵抗の上昇を抑制する観点から、0.01μm以上2.0μm以下が好ましく、0.05μm以上1.5μm以下がより好ましく、0.1μm以上1.0μm以下がさらに好ましい。
【0023】
前記粒子の「平均粒子径」は、個数基準の数平均粒子径である。前記粒子の平均粒子径は、測定対象の粒子をランダムに50個選択し、これらを電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、各粒子の長径(最も長い差し渡しの長さ)を測定し、それらの平均値を算出して求められる。また、レーザー回折式粒度分布測定器によって簡易的に求めてもよい。
【0024】
絶縁粒子層3の総質量(100質量%)に対する前記粒子の含有量は、60~99質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、イオン伝導性が高まり、セル抵抗の上昇が低減される。上記範囲の上限値以下であると、絶縁粒子層3の電極活物質層2に対する接着性がより高まる。
【0025】
(バインダー)
絶縁粒子層3に含まれるバインダーは、前記粒子同士を結着させるとともに、絶縁粒子層3の電極活物質層2に対する接着性を付与するポリマーである。
絶縁粒子層3は、バインダーとして、セルロース系高分子を含む。このセルロース系高分子の分子量は、20000~300000が好ましく、50000~290000がより好ましく、100000~280000がさらに好ましい。
上記の好適な範囲のセルロース系高分子を含むことにより、絶縁粒子層3が局所的に薄くなることを防ぎ、その全体的な厚さが適切となる。また、上記下限値以上であることにより、後述のスラリーの静置粘度の低下を抑制することができ、上記上限値以下であることにより、後述のスラリーの塗工時のせん断時の粘度の上昇を抑制することができる。
【0026】
セルロース系高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。なかでも、電極活物質層2に対する接着性が高く、適切な厚みの絶縁粒子層3が得られ易いことから、カルボキシメチルセルロースおよびその塩が好ましい。ここで、カルボキシメチルセルロース(CMC)の塩とは、CMCのカルボキシ基に対するカウンターカチオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等)を有する化合物をいう。
絶縁粒子層3に含まれるセルロース系高分子の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0027】
絶縁粒子層3におけるセルロース系高分子の含有量は、前記粒子100質量部あたり0.5~10質量部が好ましい。
上記下限値以上であると、絶縁粒子層3が局所的に薄くなることを防ぎ、その全体的な厚さが適切となり易い。また、後述のスラリーの静置時粘度、せん断時粘度を適切な当た値とすることが容易になる。
上記上限値以下であると、相対的に粒子の含有量が多くなり、イオン伝導性が良好となるので、セル抵抗の上昇を抑制し、出力特性を向上させることができる。
【0028】
絶縁粒子層3には、セルロース系高分子以外のバインダーが含まれていても構わない。前記バインダーとしては、例えば、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体(PVDF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリルニトリル(PAN)等のアクリル共重合体、ポリイミド(PI)等が例示できる。
絶縁粒子層3に含まれるセルロース系高分子以外のバインダーの種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0029】
絶縁粒子層3にセルロース系高分子以外のバインダーが含まれる場合、絶縁粒子層3に含まれるセルロース系高分子の含有量Aと、セルロース系高分子以外のバインダーの含有量Bの質量比(A:B)は、1:1.2~1:4が好ましく、1:1.4~1:3.5がより好ましく、1:1.6~1:2.5がさらに好ましい。
上記範囲であると、セルロース系高分子による絶縁粒子層3の厚さを整える効果を得るとともに、セルロース系高分子以外のバインダーによる絶縁粒子層3のイオン伝導性を高めたり、機械的強度を高めたり、電極活物質層2に対する接着性を高めたりする効果を得ることができる。
【0030】
絶縁粒子層3は、前記粒子およびバインダーの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有してもよい。
絶縁粒子層3における、その他の成分の合計の含有量は、前記粒子100質量部あたり、0~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましい。
【0031】
(電極活物質層の表面の凹凸)
図1に示すように、電極10において、絶縁粒子層3が形成された電極活物質層2の表面2aに、高低差Sが5μm以上である凹凸が多数存在する。これらの凹凸は電極活物質層2の形成時に自然に形成されたものである。凹凸の存在数は、平面視1cm当たり10個以上であり、50個以上であってもよいし、100個以上であってもよい。凹凸の存在数の上限値は特に限定されず、例えば、平面視1cm当たり1万個以下であることが好ましい。
電極活物質層2の表面2aの凹凸は1つの頂部2yと2つの谷部を少なくとも有する。凹凸の高低差Sは、絶縁粒子層3の厚さ方向の断面において、頂部2yと、頂部2yを挟む2つの谷部2zの何れか一方との、絶縁粒子層3の厚さ方向に沿う長さをいう。電極活物質層2の前記凹凸は、電極10の厚さ方向の任意の断面を電子顕微鏡で観察することにより測定される。
【0032】
(絶縁粒子層の厚さ)
絶縁粒子層3は、凹凸の頂部2y及び谷部2zを被覆している。凹凸の頂部2yにおける絶縁粒子層3の厚さHは、1.0μm以上5.0μm以下が好ましく、1.5μm以上5.0μm以下がより好ましく、2.0μm以上5.0μm以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲の厚さは、図2に示す従来の電極100における凹凸の頂部102yにおける絶縁粒子層103の厚さhよりも厚い。
上記の好適な範囲の厚さであると、セル抵抗の上昇を抑制してサイクル特性を向上させながら、頂部2yにおける電極構造の劣化又はリチウムイオンデンドライトの発生をより一層抑制し、二次電池のサイクル特性を向上することができる。
【0033】
上述の凹凸の頂部2yにおける絶縁粒子層3の厚さHは、電極10の厚さ方向の任意の断面を電子顕微鏡で観察し、無作為に高低差5μm以上の凹凸を30個選び、各凹凸の頂部2yにおける絶縁粒子層3の厚さを測定して得た30個の測定値の平均値である。
【0034】
凹凸の谷部2zの真上に位置する領域3jの絶縁粒子層3は、谷部2z側に凹んでいることが好ましい。
凹凸の谷部2zにおける絶縁粒子層3の厚さKは、0.1μm以上5μm以下が好ましく、2.0μm以上4.5μm以下がより好ましく、2.8μm以上3.7μm以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲の厚さは、図2に示す従来の電極100における凹凸の谷部102zの絶縁粒子層103の厚さkよりも薄い。
上記の好適な範囲の厚さであると、セル抵抗の上昇を抑制してサイクル特性を向上させながら、谷部2zにおける電極構造の劣化又はリチウムイオンデンドライトの発生をより一層抑制することができる。
従来の電極100における凹凸の谷部102zの真上に位置する領域103jの絶縁粒子層103が谷部102z側へ凹む程度は、本発明にかかる電極10の領域3jの絶縁粒子層3が谷部2z側へ凹む程度よりも小さい。
【0035】
上述の凹凸の谷部2zにおける絶縁粒子層の厚さKは、電極10の厚さ方向の任意の断面を電子顕微鏡で観察し、無作為に高低差5μm以上の凹凸を30個選び、各凹凸の谷部2zにおける絶縁粒子層3の厚さを測定して得た30個の測定値の平均値である。
【0036】
絶縁粒子層3が形成される電極活物質層2の表面2aは、凹凸を有する領域以外に、比較的平滑な領域を有していてもよい。
電極活物質層2の表面2aに形成された絶縁粒子層3の全体の平均の厚さは、1μm以上20μm以下が好ましく、2μm以上10μm以下がより好ましく、3μm以上5μm以下がさらに好ましい。
上記の好適な範囲の厚さであると、セル抵抗の上昇を抑制しつつ、電極活物質層2の劣化およびリチウムデンドライトの発生を抑制することがより一層容易となる。
【0037】
上述の絶縁粒子層3の全体の平均の厚みは、電極10の厚さ方向の任意の断面を電子顕微鏡で観察し、電極活物質層2の表面2aにおいて凹凸がある箇所と平滑な箇所を区別せずに、無作為に選択される30箇所で絶縁粒子層3の厚さを測定して得た30個の測定値の平均値である。
【0038】
<作用効果>
本実施形態の電極10においては、絶縁粒子層3に分子量が20000~300000であるセルロース系高分子が含まれる。この結果、電極活物質層2の表面の凹凸の頂部2yにおける絶縁粒子層3の厚さHが、従来の電極100の凹凸の頂部102yにおける絶縁粒子層103の厚さhよりも厚くなっている。これにより、本実施形態の電極10の頂部2yにおける電極活物質層2の構造的な劣化やリチウムデンドライトの発生を従来よりも抑制することができる。
本実施形態の電極10においては、絶縁粒子層3に分子量が20000~300000であるセルロース系高分子が含まれる。この結果、電極活物質層2の表面の凹凸の谷部2zにおける絶縁粒子層3の厚さKが、従来の電極100の凹凸の谷部102zにおける絶縁粒子層103の厚さkよりも薄くなっている。これにより、本実施形態の電極10の谷部2zにおけるイオン伝導率が向上し、セル抵抗の上昇を抑制することができる。
【0039】
《電極の製造方法》
本発明の第二態様は、前記粒子と、前記セルロース系高分子とを含むスラリーを、電極集電体上に形成された電極活物質層の表面に塗布する工程を有する、電極の製造方法である。以下、図1に示す電極10を参照して説明する。
【0040】
電極集電体1の片面又は両面に電極活物質層2を形成する方法は特に限定されず、公知方法によって形成することができる。例えば、電極活物質、導電助剤、結着材及び適当な分散媒(希釈溶媒)を混合してなるスラリー(塗布液)を電極集電体1の表面に塗工して乾燥することによって形成することができる。
【0041】
絶縁粒子層3は、前記粒子と、前記バインダーと、必要に応じてさらに、分散媒と、任意のその他の成分とを含むスラリーを、電極活物質層2の少なくとも一方の表面2aに塗布した後、乾燥させて分散媒を除去することによって形成することができる。
塗布方法は特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、種々のコーター法、印刷法等が適用される。
分散媒は、粒子及びバインダーを分散できるものであればよい。分散媒の含有量は、スラリーの粘度が適度となるように適宜調整できる。
【0042】
スラリーのせん断時の粘度は、1~500Pa・sが好ましく、5~350Pa・sがより好ましく、10~200Pa・sがさらに好ましい。
上記の下限値以上であると、スラリーの塗工時の分散性が均一となり易くなり、形成する絶縁粒子層3の厚みムラを抑制してサイクル特性を向上させることができる。
上記の上限値以下であると、スラリーの塗工時にスラリーが塗布面で流動することを抑制し易くなり、形成する絶縁粒子層3の厚みムラを抑制してサイクル特性を向上させることができる。
【0043】
スラリーのせん断時の粘度は、公知のレオメータを用いて、25℃、せん断速度10-4(1/s)の条件で測定される値である。
【0044】
スラリーの静置時の粘度は、100~10000Pa・sが好ましく、150~5000Pa・sがより好ましく、200~3000Pa・sがさらに好ましい。
上記の下限値以上であると、スラリーの均一性が向上し易く、サイクル特性を向上させることができる。
上記の上限値以下であると、塗工後のスラリーが塗布面で流動することを抑制し易くなり、塗布した位置で絶縁粒子層3を形成できるので、絶縁粒子層3の厚みムラを抑制してサイクル特性を向上させることができる。
【0045】
スラリーの静置時の粘度は、公知のB型粘度計を用いて、200mlのカップにスラリーの150mlを注ぎ入れて、25℃、6rpmの条件で測定される値である。
【0046】
スラリーのせん断時の粘度と静置時の粘度がそれぞれ上記の好適な範囲であると、前述した電極10のように、電極活物質層2の凹凸の頂部2yの上に比較的厚い絶縁粒子層3を形成し、且つ、凹凸の谷部2zの上に比較的薄い絶縁粒子層3を形成することがより一層容易となる。このメカニズムの詳細は未解明であるが、スラリーのせん断時の粘度と静置時の粘度がそれぞれ上記の好適な範囲であると、スラリーが適度なチクソ性を発揮するためであると推測される。
【0047】
スラリーのせん断時の粘度と静置時の粘度がそれぞれ上記の好適な範囲となるように、スラリーを調製する好ましい方法として、スラリーに含まれる前記粒子の含有量、前記セルロース系高分子の分子量、含有量を調整する方法が挙げられる。
【0048】
前記スラリーにおける前記セルロース系高分子の含有量は、前記粒子100質量部あたり0.5~10質量部であることが好ましい。この範囲であると、好適な粘度範囲に調整することが容易になる。
【0049】
スラリーに分散媒を含ませる場合、上記の好適な範囲の粘度とすることが容易である観点から、好ましい分散媒として、例えば、水、エタノール等が挙げられる。
スラリーの固形分濃度(分散媒を除いた成分の質量)は、スラリーの総質量に対して、10~50質量%が好ましい。この範囲であると、スラリーの粘度を好適にすることが容易になる。
【0050】
スラリーを塗布する際に、スラリーにせん断力をかける方法として、例えば、グラビア塗工でスラリーを塗工する方法が挙げられる。上記の方法であると、スラリーのせん断時の粘度を上記の好適な範囲にすることがより一層容易である。また、スラリーを塗布した後、数秒~数十秒が経過すると、静置時の粘度に変化させることができる。
【0051】
《リチウムイオン二次電池》
本発明の第三態様は、第一態様の電極(第一電極)と、前記電極と対になる対極(第二電極)と、リチウムイオンを含む電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池である。
第一電極が正極である場合は第二電極が負極であり、第一電極が負極である場合は第二電極が正極である。第二電極は、第一態様の電極と同様の絶縁粒子層を備えていてもよい。
【0052】
図3は、本発明のリチウムイオン二次電池の第一実施形態であるリチウムイオン二次電池20(以下、二次電池20という。)の模式的な断面図である。
二次電池20は、平面視矩形状のラミネート型電池であり、1枚の正極21と2枚の負極23と2枚のセパレータ22を、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に積層してなる積層体を有する。積層体は、電解質(図示せず)と共に外装体24内に収容され、封止されている。
二次電池20は、前述した第一態様の電極を用いること以外は、常法により組み立てられる。
【0053】
〔正極〕
正極21は、板状の正極集電体11と、その両面上に設けられた正極活物質層12とを有する。正極活物質層12は正極集電体11の表面の一部に設けられており、正極集電体11の表面の縁部には、正極活物質層12が存在しない正極集電体露出部13が設けられている。この露出した縁部の任意の箇所には図示しない引出配線(タブ)が設けられている。
【0054】
正極21において、絶縁粒子層14は正極活物質層12を覆うように設けられており、絶縁粒子層14の一部は正極集電体露出部13の表面上に延びている。図3では、xで示す領域に絶縁粒子層14の一部が延びている。この構成であると、仮に、セパレータ22の熱収縮や位置ずれ等が生じた場合においても、負極活物質層32と正極集電体露出部13とが接触して短絡が生じることを絶縁粒子層14によって防止することが容易になる。正極集電体露出部13の負極活物質層32に対向する面には、絶縁粒子層14が形成されていることが望ましい。
【0055】
〔負極〕
負極23は、板状の負極集電体31と、その両面上に設けられた負極活物質層32とを有する。負極活物質層32は負極集電体31の表面の一部に設けられており、負極集電体31の表面の縁部には、負極活物質層32が存在しない負極集電体露出部33が設けられている。この露出した縁部の任意の箇所には図示しない引出配線(タブ)が設けられている。
【0056】
〔セパレータ〕
セパレータ22は、任意の部材であり、二次電池20に備えられていなくてもよい。セパレータ22が備えられていない場合、絶縁粒子層14が正極21と負極23の短絡を防ぐ。セパレータ22が備えられていると、正極21と負極23の短絡をより一層確実に防止することができる。
【0057】
セパレータ22の材質としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、セルロース系の材料からなる微多孔性のシート材、ガラスファイバーからなる布等が挙げられる。
【0058】
セパレータ22の厚さは特に制限されず、充分な機械的強度を得る観点から、例えば、5μm~50μmとすることができる。
セパレータ22の縦×横のサイズは、電極集電体13,33のサイズよりも一回り大きいサイズであることが好ましい。
【0059】
〔電解質〕
二次電池20の電解質として、公知のリチウムイオン二次電池の電解質が適用される。電解質は、リチウム塩と非水溶媒の混合物である電解液でもよく、リチウム塩とポリマーの混合物である固体電解質でもよい。固体電解質には可塑剤として非水溶媒が含まれていてもよい。
【0060】
リチウム塩として、公知のリチウムイオン二次電池のリチウム塩が適用される。具体的には、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF、LiTFSI)等が挙げられる。電解質に含まれるリチウム塩の種類は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0061】
非水溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類等が挙げられる。具体的には、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ニトロメタン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。電解質に含まれる非水溶媒の種類は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0062】
<変形例>
二次電池20においては正極活物質層12に絶縁粒子層14が設けられている。絶縁粒子層は、負極活物質層32に設けられてもよいし、正極活物質層12と負極活物質層32の両方に設けられていてもよい。
二次電池20は、1枚の正極21と、2枚の負極23と、2枚のセパレータ22を有する。二次電池の構成はこれに限られず、負極と正極で構成されるユニットを任意の数で備えることができる。
二次電池の形状は、本実施形態の形状に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、任意の形状とすることができる。
【実施例
【0063】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
[製造例1]
正極活物質としてオリビン酸鉄リチウム100質量部と、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部と、溶媒としてNMPとを混合し、固形分45%に調整したスラリーを得た。このスラリーをアルミニウム箔の両面に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。得られた電極を4kNで加圧プレスし、更に電極寸法の40mm角に打ち抜き、正極を作成した。
正極の表面の凹凸を前述の方法で確認したところ、8μmの凹凸が多数あった。
【0065】
負極活物質として黒鉛100質量部と、結着材としてスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘材としてカルボキシメチルセルロースNaを1.5質量部と、溶媒として水とを混合し、固形分50%に調整したスラリーを得た。このスラリーを銅箔の両面に塗布し、100℃で真空乾燥した。得られた電極を2kNで加圧プレスし、更に電極寸法の42mm角に打ち抜き、負極を作成した。
負極の表面の凹凸を前述の方法で確認したところ、5μmの凹凸が多数あった。
【0066】
エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比で混合した溶媒に、電解質としてLiPFを1モル/リットルとなるように溶解して、電解液を調製した。
【0067】
[実施例1]
(絶縁粒子層の形成)
リチウムイオンを吸蔵放出しない無機粒子としてアルミナ粒子(日本軽金属社製、製品名:AHP200、平均粒子径0.4μm)を用いた。
セルロース系高分子として分子量270000のCMCを用いた。
セルロース系高分子以外のバインダーとして、SBRを用いた。
アルミナ粒子100質量部に対して、CMC3質量部、SBR7質量部の割合で混合し、分散媒として水を用い、固形分濃度が32質量%となるようにスラリーを調製した。
【0068】
得られたスラリーの静置時粘度を前述の方法で測定したところ、2000mPa・sであった。
得られたスラリーのせん断時の粘度を前述の方法で測定したところ、50mPa・sであった。
得られたスラリーを正極集電体の両側の正極活物質層の表面に塗布した。この際、グラビア塗工によって、せん断力をかけながら塗布した。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0069】
スラリーの塗布後、オーブンを用いて塗膜を90℃で10分間乾燥させた。さらに真空オーブンを用いて、80℃で2時間乾燥し、正極の両面に絶縁粒子層を形成した。乾燥後の絶縁粒子層の全体的な厚さはそれぞれ約5μmであった。
【0070】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは2.5μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは3.5μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0071】
(電池の製造)
セパレータとして、ポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。
製造例1で得た負極2枚と、上記で絶縁粒子層を形成した正極1枚と、セパレータ2枚とを、図3に示すように、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に積層した。正極集電体露出部および負極集電体露出部のそれぞれに、端子用タブを電気的に接続し、端子用タブが外部に突出するように、アルミラミネートフィルムで積層体を挟み、三辺をラミネート加工によって封止した。封止せずに残した一辺から、製造例1で得た電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型の二次電池を製造した。
【0072】
<評価>
バッテリハイテスタBT3562(製品名、日置電機社製)を用いて、製造した二次電池のセル抵抗を測定した。その結果、約150mΩであった。
製造した二次電池を60℃の恒温槽に置き、充電レートを2C、放電レートを3Cとして、充放電サイクルを繰り返した。1000サイクル後の放電容量を10サイクル後の放電容量と比較して容量維持率を求めて、以下の基準で評価した。
A:容量維持率 82%以上
B:容量維持率 80%以上82%未満
C:容量維持率 78%以上80%未満
D:容量維持率 78%未満
【0073】
容量維持率の評価はAであった。
また、1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するスラリーの材料として、CMCを用いず、SBRを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0075】
調製したスラリーの固形分濃度は40質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は20mPa・sであり、せん断時の粘度は5mPa・sであった。スラリーのチクソ性の発揮は見られなかった。
【0076】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは実施例1よりも薄い0.5μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは実施例1よりも厚い8.5μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層は、谷部側に凹んでおらず、ほとんど平坦であった。
【0077】
セル抵抗の測定値は約155mΩであった。容量維持率の評価はDであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面、特に凹凸の頂部において顕著な構造的な劣化が見られた。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するスラリーの固形分濃度を変えて、このスラリーを正極の表面ではなく、負極の表面に塗布して、負極の両面に絶縁粒子層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0079】
調製したスラリーの固形分濃度は30質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は2000mPa・sであり、せん断時の粘度は100mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0080】
形成した負極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、負極活物質層の表面に高低差5μm以上の凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは3.0μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは3.0μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0081】
セル抵抗の測定値は約160mΩであった。容量維持率の評価はAであった。
充放電を1000サイクル繰り返した後、二次電池を分解して正極活物質層の状態をSEMで観察した。その結果、負極活物質層の表面におけるリチウムデンドライトの発生は見当たらなかった。
【0082】
[比較例2]
実施例2において、絶縁粒子層を形成するスラリーの材料として、CMCを用いず、SBRを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0083】
調製したスラリーの固形分濃度は40質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は20mPa・sであり、せん断時の粘度は5mPa・sであった。スラリーのチクソ性の発揮は見られなかった。
【0084】
形成した負極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、負極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは実施例2よりも薄い0.3μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは実施例2よりも厚い5.3μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層は、谷部側に凹んでおらず、ほとんど平坦であった。
【0085】
セル抵抗の測定値は約165mΩであった。容量維持率の評価はCであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察した。その結果、負極活物質層の表面、特に凹凸の頂部においてリチウムデンドライトの発生が見られた。
【0086】
[実施例3]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの量を6質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0087】
調製したスラリーの固形分濃度は30質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は8000mPa・sであり、せん断時の粘度は150mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0088】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは3.5μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは2.5μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0089】
容量維持率の評価はCであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0090】
[実施例4]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を36000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更して、さらに粒子をアルミナ粒子ではなく、ポリメチル尿素粒子(PMU粒子)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0091】
調製したスラリーの固形分濃度は15質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は180mPa・sであり、せん断時の粘度は20mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0092】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは2.3μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは3.7μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0093】
容量維持率の評価はBであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0094】
[実施例5]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を36000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更して、さらに粒子をアルミナ粒子ではなく、ポリメチル尿素粒子(PMU粒子)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0095】
調製したスラリーの固形分濃度は13質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は140mPa・sであり、せん断時の粘度は15mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0096】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは2.1μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは3.9μmであった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0097】
容量維持率の評価はCであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0098】
[実施例6]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を180000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更して、さらにアルミナ粒子とPMU粒子とを体積比60:40で混合して添加したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0099】
調製したスラリーの固形分濃度は40質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は1000mPa・sであり、せん断時の粘度は300mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0100】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは4.5μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは0.5μmであった。
【0101】
容量維持率の評価はBであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0102】
[実施例7]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を180000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更して、さらにアルミナ粒子とPMU粒子とを体積比60:40で混合して添加したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0103】
調製したスラリーの固形分濃度は42質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は1500mPa・sであり、せん断時の粘度は450mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0104】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは4.8μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは0.3μmであった。
【0105】
容量維持率の評価はCであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。
【0106】
[実施例8]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を36000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0107】
調製したスラリーの固形分濃度は38質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は120mPa・sであり、せん断時の粘度は6mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0108】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは0.5μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは4.5μmであった。
【0109】
容量維持率の評価はBであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0110】
[実施例9]
実施例1において、絶縁粒子層を形成するCMCの分子量を36000に変更し、CMCの添加量を2質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、二次電池を製造し、その評価を行った。
【0111】
調製したスラリーの固形分濃度は35質量%であった。
調製したスラリーの静置時粘度は110mPa・sであり、せん断時の粘度は3mPa・sであった。スラリーはチクソ性を発揮した。
【0112】
形成した正極の一部を試料として切り出し、その厚さ方向の断面をSEMで観察した。その結果、正極活物質層の表面に高低差8μmの凹凸が多数存在した。前述した方法によって求めた、凹凸の頂部における絶縁粒子層の厚さは0.3μmであり、凹凸の谷部における絶縁粒子層の厚さは4.8μmであった。
【0113】
容量維持率の評価はCであった。
充放電1000サイクル後の二次電池を分解して絶縁粒子層を形成した電極活物質の状態をSEMで観察したところ、顕著な構造的な劣化は見当たらなかった。また、SEMで観察した多数の凹凸において、凹凸の谷部の真上に位置する領域の絶縁粒子層が、谷部側に凹んでいた。
【0114】
(まとめ)
実施例の正極を用いた二次電池において、正極活物質層はほとんど劣化せず、セル抵抗の上昇も起きなかった。実施例の負極を用いた二次電池において、負極活物質層の表面にリチウムデンドライトは発生せず、セル抵抗の上昇も起きなかった。実施例のリチウムイオン二次電池は、耐久性に優れ、良好な充放電特性を示した。
【符号の説明】
【0115】
1…電極集電体、2…電極活物質層、3…絶縁粒子層、10…電極、20…二次電池、21…正極、22…セパレータ、23…負極、24…外装体、11…正極集電体、12…正極活物質層、13…正極集電体露出部、14…絶縁粒子層、31…負極集電体、32…負極活物質層、33…負極集電体露出部、100…電極、101…電極集電体、102…電極活物質層、103…絶縁粒子層
図1
図2
図3