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特許7010644ガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20220119BHJP
   C03B 35/14 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C03B17/06
C03B35/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017189616
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064846
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508271425
【氏名又は名称】安瀚視特股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AvanStrate Taiwan Inc.
【住所又は居所原語表記】NO.8,Industry III Road,Annan,Tainan,709 Taiwan,Province of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宇夫方 孝顕
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306340(JP,A)
【文献】特開2016-117623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00-35/26
C03B 40/00-40/04
C03B 7/00-7/22
C03B 9/00-17/06
C03B 19/00-19/10
C03B 21/00-21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形体からオーバーフローさせて成形し、ガラス板を形成する成形工程と、
前記ガラス板の幅方向の両側の領域を、前記ガラス板の搬送方向に設けられた複数の搬送ローラ対で挟持しつつ、前記ガラス板を下方向に搬送する搬送工程と、を有し、
前記搬送ローラ対は、前記ガラス板の温度が歪点以下となる温度領域に配置され、前記搬送ローラ対のそれぞれは、第1ローラと、前記ガラス板を挟んで前記第1ローラに圧接される第2ローラと、を有し、
前記搬送ローラ対のうち、第1搬送ローラ対の下方に配置された第2搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第1搬送ローラの第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記成形体から鉛直下方に延びる直線から遠ざかる側に位置していることで、前記搬送工程において、前記両側の領域を、前記両側の領域の間の中央領域に対して前記直線から遠ざかる側にずらして、前記ガラス板が凸曲面を有するよう前記ガラス板を湾曲させて搬送する、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記搬送ローラ対のうち、前記第2搬送ローラ対の下方に配置された第3搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記直線から遠ざかる側に位置している、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記直線から遠ざかる方向に沿った、前記第3搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置と、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置との距離D2は、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置と、前記直線から遠ざかる方向に沿った、前記第1搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置との距離D1より大きい、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
溶融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形体からオーバーフローさせて成形し、ガラス板を形成する成形装置を備え、
前記成形装置は、前記ガラス板の温度が歪点以下となる温度領域に、前記ガラス板の搬送方向に間隔をあけて設けられ、前記ガラス板の幅方向の両側の領域を挟持しつつ、前記ガラス板を下方向に搬送する複数の搬送ローラ対を有し、
前記搬送ローラ対のそれぞれは、第1ローラと、前記ガラス板を挟んで前記第1ローラに圧接される第2ローラと、を有し、
前記搬送ローラ対のうち、第1搬送ローラ対の下方に配置された第2搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第1搬送ローラの第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記成形体から鉛直下方に延びる直線から遠ざかる側に位置していることで、前記搬送ローラ対は、前記両側の領域を、前記両側の領域の間の中央領域に対して前記直線から遠ざかる側にずらして、前記ガラス板が凸曲面を有するよう前記ガラス板を湾曲させて搬送する、ことを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウンドロー法を用いてガラス板(シートガラス)を製造する方法が知られている。ダウンドロー法により成形されるシートガラスは、板厚がほぼ一定の幅方向の中央領域と、中央領域の幅方向外側に位置し、中央領域より板厚が厚い端部(耳部)と、を有している。中央領域は、製品領域である。ダウンドロー法では、成形されたシートガラスを下方向に安定して搬送するために、シートガラスの中央領域と端部との境界に位置する領域(挟持領域)を搬送ローラにより挟持している。シートガラスは、徐冷炉内を下方向に搬送されながら、冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-212987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートガラスが搬送されるとき、シートガラスの厚み方向の両側には、シートガラスによって暖められた空気が上方に向かって流れる気流が生じている。この気流の影響で、例えば、シートガラスの流れ方向と直交する断面において、シートガラスが、一方の側に凸になるよう、あるいは、凹むようシートガラスが湾曲する場合がある。湾曲したシートガラスには、シートガラスを両側から挟む断熱部材等に接触して、シートガラスに傷や割れが生じる場合がある。また、シートガラスが一方の側に凸になることと、凹むこととが切り替わる反転や、反転を繰り返すハンチング等の現象が発生することによっても、シートガラスの割れが生じる場合がある。また、反転、ハンチングによってシートガラスに発生した応力が、シートガラスの温度が歪点以上となる領域に伝わるとシートガラスに歪が形成される場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、搬送中のガラス板の形状の変化を抑制することができるガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法であって、
溶融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形体からオーバーフローさせて成形し、ガラス板を形成する成形工程と、
前記ガラス板の幅方向の両側の領域を、前記ガラス板の搬送方向に設けられた複数の搬送ローラ対で挟持しつつ、前記ガラス板を下方向に搬送する搬送工程と、を有し、
前記搬送ローラ対は、前記ガラス板の温度が歪点以下となる温度領域に配置され、前記搬送ローラ対のそれぞれは、第1ローラと、前記ガラス板を挟んで前記第1ローラに圧接される第2ローラと、を有し、
前記搬送ローラ対のうち、第1搬送ローラ対の下方に配置された第2搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第1搬送ローラの第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記成形体から鉛直下方に延びる直線から遠ざかる側に位置していることで、前記搬送工程において、前記両側の領域を、前記両側の領域の間の中央領域に対して前記直線から遠ざかる側にずらして、前記ガラス板が凸曲面を有するよう前記ガラス板を湾曲させて搬送する、ことを特徴とする。
【0007】
前記搬送ローラ対のうち、前記第2搬送ローラ対の下方に配置された第3搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記直線から遠ざかる側に位置していることが好ましい。
【0008】
前記直線から遠ざかる方向に沿った、前記第3搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置と、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置との距離D2は、前記直線から遠ざかる方向に沿った、前記第2搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置と、前記第1搬送ローラ対の第1ローラの回転軸中心の位置との距離D1より大きいことが好ましい。
【0009】
本発明の別の一態様は、ガラス基板製造装置であって、
溶融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形体からオーバーフローさせて成形し、ガラス板を形成する成形装置を備え、
前記成形装置は、前記ガラス板の温度が歪点以下となる温度領域に、前記ガラス板の搬送方向に間隔をあけて設けられ、前記ガラス板の幅方向の両側の領域を挟持しつつ、前記ガラス板を下方向に搬送する複数の搬送ローラ対を有し、
前記搬送ローラ対のそれぞれは、第1ローラと、前記ガラス板を挟んで前記第1ローラに圧接される第2ローラと、を有し、
前記搬送ローラ対のうち、第1搬送ローラ対の下方に配置された第2搬送ローラ対に関して、第1ローラの回転軸中心の位置が、前記第1搬送ローラの第1ローラの回転軸中心の位置に対して、前記成形体から鉛直下方に延びる直線から遠ざかる側に位置していることで、前記搬送ローラ対は、前記両側の領域を、前記両側の領域の間の中央領域に対して前記直線から遠ざかる側にずらして、前記ガラス板が凸曲面を有するよう前記ガラス板を湾曲させて搬送する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、搬送中のガラス板の形状の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るガラス板の製造方法のフローチャートである。
図2】ガラス板の製造方法で用いられるガラス板の製造装置を示す模式図である。
図3】成形装置の概略の概略図(断面図)である。
図4】成形装置の概略の概略図(側面図)である。
図5】制御装置の制御ブロック図である。
図6】第1の搬送ローラ対及び第2の搬送ローラ対を示す側面図である。
図7】搬送されるガラス板の流れ方向と直交する断面を示す図である。
図8】一実施形態による第1~3の搬送ローラ対を示す図である。
図9】一実施形態による第1~3の搬送ローラ対を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係るガラス基板の製造方法では、例えばTFTディスプレイ用のガラス基板を製造する。ガラス板は、オーバーフローダウンドロー法を用いて製造される。以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るガラス基板の製造方法について説明する。
【0013】
(1)ガラス基板の製造方法の概要
まず、図1および図2を参照して、ガラス基板の製造方法に含まれる複数の工程および複数の工程に用いられるガラス基板の製造装置100を説明する。ガラス基板の製造方法は、図1に示すように、主として、溶融工程S1と、清澄工程S2と、成形工程S3と、冷却工程S4と、切断工程S5とを含む。
【0014】
溶融工程S1は、ガラスの原料が溶融される工程である。ガラスの原料は、所望の組成になるように調合された後、上流に配置された溶融装置11に投入される。ガラス原料は、例えば、SiO,Al,B,CaO,SrO,BaO等の組成からなる。具体的には、歪点が660℃以上となるガラス原料を用いる。ガラスの原料は、溶融装置11で溶融されて、溶融ガラスFG(図3及び図4参照)になる。溶融温度は、ガラスの種類に応じて調整される。本実施形態では、ガラス原料が1500℃~1650℃で溶融される。溶融ガラスFGは、上流パイプ23を通って清澄装置12に送られる。
【0015】
清澄工程S2は、溶融ガラスFG中の気泡の除去を行う工程である。清澄装置12内で気泡が除去された溶融ガラスFGは、その後、下流パイプ24を通って、成形装置40へと送られる。
【0016】
成形工程S3は、溶融ガラスFGをシート状のガラス(シートガラス)SGに成形する工程である。具体的に、溶融ガラスFGは、成形装置40に含まれる成形体41(図3及び図4参照)に連続的に供給された後、成形体41からオーバーフローする。オーバーフローした溶融ガラスFGは、成形体41の表面に沿って流下する。溶融ガラスFGは、その後、成形体41の下端部41a(図3及び図4参照)で合流してシートガラスSGへと成形される。シートガラスSGは、幅方向の端に位置する側部(耳部、端部)と、側部に挟まれた幅方向の中央領域と、を有する。シートガラスSGの側部の板厚は、中央領域の板厚と比べて厚く成形される。シートガラスSGの中央領域は、一定の板厚からなるガラス基板の製品となる領域である。シートガラスSGの中央領域の板厚は、例えば0.4mm以下の薄板に成形される。なお、シートガラスSGの幅方向は、シートガラスSGが流下する方向(流れ方向、搬送方向)及びシートガラスSGの厚み方向、と直交する方向である。
【0017】
冷却工程S4は、シートガラスSGの幅方向の両側の領域を、シートガラスSGの搬送方向に設けられた、後述する引下げローラで挟持しつつ、シートガラスSGを下方向に搬送させて冷却(徐冷)する工程である。引下げローラによって挟持される領域は、中央領域と側部との境界に位置する挟持領域である。シートガラスSGは、冷却工程S4を経て室温に近い温度へと冷却される。なお、冷却工程S4における、冷却の状態に応じて、ガラス基板の厚み(板厚)、ガラス基板の反り量、およびガラス基板の歪量が決まる。
【0018】
切断工程S5は、室温に近い温度になったシートガラスSGを、所定の大きさに切断する工程である。
【0019】
なお、所定の大きさに切断されたシートガラスSGは、その後、端面加工等の工程を経て、ガラス基板となる。
【0020】
次に、図3図5を参照して、ガラス基板の製造装置100に含まれる成形装置40の構成を説明する。
【0021】
(2)成形装置の構成
図3および図4に、成形装置40の概略構成を示す。図3は、成形装置40の断面図である。図4は、成形装置40の側面図である。
【0022】
成形装置40は、シートガラスSGが通過する通路と、通路を取り囲む空間とを有する。通路を取り囲む空間は、オーバーフローチャンバー20、フォーミングチャンバー30、および冷却チャンバー80で構成されている。
【0023】
オーバーフローチャンバー20は、清澄装置12から送られる溶融ガラスFGをシートガラスSGに成形する空間である。溶融ガラスFGは、成形体41の表面に沿って流下し、成形体41の下端部41aで合流してシートガラスSGへと成形される。
【0024】
フォーミングチャンバー30は、オーバーフローチャンバー20の下方に配置され、シートガラスSGの厚みおよび反り量を調整するための空間である。フォーミングチャンバー30では、冷却工程ST4の一部が実行される。シートガラスSGの温度は、成形体41の下端部41aより下流において徐々に下げられる。
【0025】
冷却チャンバー80は、オーバーフローチャンバー20の下方に配置され、シートガラスSGの歪量を調整するための空間である。具体的に、冷却チャンバー80では、フォーミングチャンバー30内を通過したシートガラスSGが、徐冷点、歪点を経て、室温近傍の温度まで冷却される。なお、冷却チャンバー80の内部は、シートガラスSGの搬送方向に間隔をあけて配置された複数の断熱部材80bによって、複数の空間に区分けされている。
【0026】
また、成形装置40は、主として、成形体41と、仕切り部材50と、冷却ローラ51と、冷却ユニット60と、引下げローラ(搬送ローラ)81a~81gと、ヒータ82a~82gと、切断装置90と、から構成されている。さらに、成形装置40は、制御装置500を備える(図5参照)。制御装置500は、成形装置40に含まれる各構成の駆動部を制御する。
【0027】
以下、成形装置40に含まれる各構成について詳細に説明する。
【0028】
(2-1)成形体
成形体41は、オーバーフローチャンバー20内に設けられる。成形体41は、溶融ガラスFGをオーバーフローさせることによって、溶融ガラスFGをシートガラスSGへと成形する。
【0029】
図3に示すように、成形体41は、断面形状で略5角形の形状(楔形に類似する形状)を有する。略5角形の先端は、成形体41の下端部41aに相当する。
【0030】
また、成形体41は、第1端部に流入口42(図4参照)を有する。流入口42は、上述の下流パイプ24と接続されており、清澄装置12から流れ出た溶融ガラスFGは、流入口42から成形体41に流し込まれる。成形体41には、溝43が形成されている。溝43は、成形体41の長手方向(図4の左右方向)に延びている。具体的には、溝43は、第1端部から、第1端部の反対側の第2端部に延びている。溝43は、流入口42近傍において最も深く、第2端部に近づくにつれて徐々に浅くなるように形成されている。成形体41に流し込まれた溶融ガラスFGは、成形体41の一対の頂部41b,41bからオーバーフローし、成形体41の一対の側面(表面)41c,41cに沿って流下する。その後、溶融ガラスFGは、成形体41の下端部41aで合流してシートガラスSGになる。
【0031】
このとき、成形体41の下端部41aでのシートガラスSGの液相温度は1100℃以上であり、液相粘度は2.5×10poise以上であり、より好ましくは、液相温度は1160℃以上であり、液相粘度は1.2×10poise以上である。また、成形体41の下端部41aでのシートガラスSGの側部(耳部、端部)の粘度は105.7Poise未満である。
【0032】
(2-2)仕切り部材
仕切り部材50は、オーバーフローチャンバー20からフォーミングチャンバー30への熱の移動を遮断する部材である。仕切り部材50は、溶融ガラスFGの合流ポイントの近傍に配置されている。また、図3に示すように、仕切り部材50は、合流ポイントで合流した溶融ガラスFG(シートガラスSG)の厚み方向両側に配置される。仕切り部材50は、溶融ガラスFGの合流ポイントの上側雰囲気および下側雰囲気を仕切ることにより、仕切り部材50の上側から下側への熱の移動を遮断する。
【0033】
(2-3)冷却ローラ
冷却ローラ51は、フォーミングチャンバー30内に設けられる。より具体的に、冷却ローラ51は、仕切り部材50の直下に配置されている。また、冷却ローラ51は、シートガラスSGの厚み方向両側、及び、シートガラスSGの幅方向両側に配置される。シートガラスSGの厚み方向両側に配置された冷却ローラ51は対で動作する。すなわち、シートガラスSGの両側の領域のうち挟持領域が、二対の冷却ローラ51,51,・・・によって挟み込まれる。
【0034】
冷却ローラ51は、内部に通された空冷管により空冷されている。冷却ローラ51は、シートガラスSGの側部(耳部、端部)R,Lに接触し、熱伝導によりシートガラスSGの側部(耳部、端部)R,Lを急冷する(急冷工程)。冷却ローラ51に接触したシートガラスSGの側部R,Lの粘度は、所定値(具体的には、109.0poise)以上である。
【0035】
冷却ローラ51は、冷却ローラ駆動モータ390(図5を参照)により回転駆動される。冷却ローラ51は、シートガラスSGの側部R,Lを冷却すると共に、シートガラスSGを下方に引き下げる機能も有する。
【0036】
(2-4)冷却ユニット
冷却ユニット60は、オーバーフローチャンバー20内及びフォーミングチャンバー30内に設けられ、シートガラスSGを徐冷点近傍まで冷却するユニットである。徐冷点は、粘度が1013ポワズとなるときのシートガラスSGの温度であり、ここでは、715.0℃である。冷却ユニット60は、複数の冷却要素61~65を有する。図4において、冷却ユニット60はフォーミングチャンバー30内にのみ示されている。複数の冷却要素61~65は、シートガラスSGの幅方向及びシートガラスSGの流れ方向に沿って配置されている。具体的に、複数の冷却要素61~65には、中央領域冷却要素61~63と、側部冷却要素64,65とが含まれる。
中央領域冷却要素61~63は、空冷され、シートガラスSGの中央領域CAを冷却する。ここで、シートガラスSGの中央領域とは、シートガラスSGの幅方向中央部分であって、シートガラスSGの有効幅およびその近傍を含む領域である。言い換えると、シートガラスSGの中央領域は、シートガラスSGの両側部(両耳部、両端部)の間に位置する領域である。中央領域冷却要素61~63は、シートガラスSGの中央領域CAの表面と対向する位置に、流れ方向に沿って配置される。中央領域冷却要素61~63に含まれる各ユニットは、独立して制御可能である。
また、側部冷却要素64,65は、水冷され、シートガラスSGの側部(耳部、端部)R,Lを冷却する。側部冷却要素64,65は、シートガラスSGの側部R,L(幅方向の両端部)の表面と対向する位置に、流れ方向に沿って配置される。側部冷却要素64,65に含まれる各ユニットは、独立して制御可能である。
【0037】
(2-5)引下げローラ(搬送ローラ)
引下げローラ81a~81gは、冷却チャンバー80内に設けられ、フォーミングチャンバー30内を通過したシートガラスSGを、シートガラスSGの流れ方向へ引き下げ、シートガラスSGの搬送を行う。引下げローラ81a~81gは、冷却チャンバー80の内部で、流れ方向に沿って間隔をあけて配置される。図3及び図4に示される例において、引下げローラ81a~81gは、断熱部材80bによって仕切られた空間ごとに配置されている。なお、引下げローラ81a~81gは、少なくとも一部が、シートガラスSGの温度が歪以下となる、冷却チャンバー80内の領域に配置されている。シートガラスSGの温度が歪点以下となる領域とは、シートガラスSGの幅方向全域の温度が歪点以下となる領域をいう。歪点は、粘度が1014.5PoiseとなるときのシートガラスSGの温度である。図3及び図4に示す例において、シートガラスSGの温度が歪点となる位置は、例えば、引下げローラ81cと、引下げローラ81dとの搬送方向の間にある。
引下げローラ81a~81gは、それぞれ、シートガラスSGの厚み方向両側(図3参照)、および、シートガラスSGの幅方向両側(図4参照)配置されている。これにより、引下げローラ81a~81gは、シートガラスSGの幅方向の両側部(両耳部、両端部)R,Lの、シートガラスSGの厚み方向の両側の表面に接触しながらシートガラスSGを下方に引き下げる。シートガラスSGの厚み方向両側に配置された引下げローラ81a~81gは、対で動作し、対の引下げローラ(搬送ローラ対)81a,81a,・・・が、シートガラスSGを下方向に引き下げる。
【0038】
引下げローラ81a~81gは、引下げローラ駆動モータ391(図5参照)によって駆動される。また、引下げローラ81a~81gは、それぞれ、上流側の部分がシートガラスSGに近づく方向に回転する。
【0039】
(2-6)ヒータ
ヒータ82(82a~82g)は、冷却チャンバー80の内部に設けられ、冷却チャンバー80の内部空間の温度を調整する。具体的に、ヒータ82a~82gは、シートガラスSGの流れ方向およびシートガラスSGの幅方向に複数配置される。図3及び図4に示す例では、シートガラスSGの流れ方向に、7つのヒータ82a~82gが間隔をあけて配置され、断熱部材80bによって仕切られた空間ごとに配置されている。各空間に配置されたヒータは、例えば7つのヒータ要素(図示せず)がシートガラスの幅方向に並ぶよう配置されて構成される。ヒータ要素は、シートガラスSGの両側の領域及び両側の領域の間の領域と対向する位置に配置される。ヒータ82は、引下げローラ81a~81gよりも、シートガラスSGから離れて配置されている。
【0040】
ヒータ82a~82gは、後述する制御装置500によって出力が制御される。これにより、冷却チャンバー80内部を通過するシートガラスSGの近傍の雰囲気温度が制御され、シートガラスSGの温度制御が行われる。これによって、シートガラスSGの温度が搬送方向に沿って順次下がるよう、シートガラスSGは冷却される。この温度制御により、シートガラスSGは、粘性域から粘弾性域を経て弾性域へと推移する。冷却チャンバー80では、ヒータ82a~82gの制御により、シートガラスSGの温度が、徐冷点近傍の温度から室温近傍の温度まで冷却される。
【0041】
ヒータ要素は、制御装置500によって出力が独立して制御され、シートガラスSGにおいて、予め設計された温度プロファイルが実現されるよう、シートガラスSG近傍の雰囲気温度を調整する。温度プロファイルは、具体的に、シートガラスSGの温度が幅方向に均一になるよう設計されている。ここで、温度が均一であるとは、少なくとも挟持領域及び中央領域における幅方向の温度分布をなす温度が、挟持領域及び中央領域の平均温度に対して±20℃の範囲内にあることをいう。シートガラスSGの温度が幅方向に均一になるよう冷却されることで、シートガラスSGの挟持領域、及び、挟持領域に隣接する領域において歪が発生することが抑制される。
【0042】
各ヒータ82a~82gの近傍には、雰囲気温度を検出する手段として、例えば、熱電対380が設けられている。具体的には、複数の熱電対380が、シートガラスSGの流れ方向およびシートガラスSGの幅方向に間隔をあけて配置されている。熱電対380は、シートガラスSGの中心部Cの温度と、シートガラスSGの側部R,Lの温度とをそれぞれ検出する。ヒータ82a~82gの出力は、熱電対380によって検出される雰囲気温度に基づいて制御される。
【0043】
(2-7)切断装置
切断装置90は、冷却チャンバー80内で室温近傍の温度まで冷却されたシートガラスSGを、所定のサイズに切断する。切断装置90は、所定の時間間隔でシートガラスSGを切断する。これにより、シートガラスSGは、複数のガラス板になる。切断装置90は、切断装置駆動モータ392(図5を参照)によって駆動される。
【0044】
このように、ガラス基板の製造装置100でガラス板を製造するとき、溶融ガラスFGからオーバーフローダウンドロー法を用いてシートガラスSGを成形する成形工程と、ガラス板の幅方向の両側の領域を、シートガラスSGの搬送方向に設けられた複数の搬送ローラ対で挟持しつつ、シートガラスSGを下方向に搬送させる搬送工程を行う。本実施形態では、搬送工程においてシートガラスの冷却が行われる。
【0045】
(2-8)制御装置
制御装置500は、CPU、RAM、ROM、およびハードディスク等から構成されており、ガラス基板の製造装置100に含まれる種々の機器の制御を行う。図5は、一実施形態における制御装置500の構成の一例を示すブロック図である。
【0046】
具体的には、図5に示すように、制御装置500は、ガラス基板の製造装置100に含まれる各種のセンサ(例えば、熱電対380、ローラ圧力センサ382)やスイッチ(例えば、主電源スイッチ381)等による信号を受けて、冷却ユニット60、ヒータ82a~82g、冷却ローラ駆動モータ390、引下げローラ駆動モータ391、切断装置駆動モータ392、引下げローラ位置制御用モータ394a~394g、等の制御を行う。引下げローラ位置制御用モータ394a~394gは、後述する引下げローラ81a~81gの位置制御を行うために引下げローラ81a~81gの位置を移動させるモータである。なお、ローラ圧力センサ382は、引下げローラ81a~81gがシートガラスSGを押圧する力を計測するセンサである。ローラ圧力センサ382は、引下げローラ81a~81gのそれぞれの位置に設けられている。
制御装置500は、さらに、搬送工程において、引下げローラ位置制御用モータ394a~394gを用いて引下げローラ81a~81gの位置制御を行う。以下、搬送工程について説明する。
【0047】
(3)搬送工程
搬送工程において、制御装置500は、ローラ圧力センサ382の計測結果に基づいて、引下げローラ81a~81gは、位置制御される。具体的に、引下げローラ81a~81gの各対をなす第1ローラと第2ローラのうち、第2ローラが、第1ローラに対してシートガラスSGを挟んで一定の力で押圧するように、第2ローラの第1ローラに対する相対位置を制御する。
【0048】
以降の説明では、引下げローラ81a~81gのうち、シートガラスSGが歪点以下となる領域に配置された引下げローラの各対を、第1ローラA1と第2ローラB1の対、及び、第1ローラA2と第2ローラB2の対、あるいはさらに、第1ローラA3と第2ローラB3の対、として記載する。図6は、第1の搬送ローラ対及び第2の搬送ローラ対として、第1ローラA1と第2ローラB1の対、及び、第1ローラA2と第2ローラB2の対を示す側面図である。
本実施形態では、シートガラスSGの温度が歪点以下となる領域に配置された搬送ローラ対のうち、第1ローラA1と第2ローラB1の対(第1搬送ローラ対)と、この対の下方に配置された第1ローラA2と第2ローラB2の対(第2搬送ローラ対)に関して、第1ローラA2の回転軸中心の位置が、図6に示されるように、第1ローラA1の回転軸中心の位置に対して、成形体41から鉛直下方に延びる仮想直線Sから距離D、遠ざかる側(図6において右側)に位置している。このように、第1ローラA2の回転軸中心が第1ローラA1の回転軸中心に対して位置ずれしていることで、搬送工程では、シートガラスSGの両側の領域が、図7に示すように、両側の領域の間の中央領域に対して、上記仮想直線Sから遠ざかる側にずれて、シートガラスSGが凸曲面SG1を有するように湾曲した状態で搬送される。
【0049】
図7は、搬送されるシートガラスSGの流れ方向と直交する断面を、上流側から見て示す図である。図7では、第1ローラA1と第2ローラB1の対よりも、流れ方向の上流側におけるシートガラスSGの部分の断面を、一点鎖線で示す。第1ローラA1と第2ローラB1の対より上流側において、シートガラスSGの搬送経路は、仮想直線Sに沿って直線状に延びている。本実施形態では、シートガラスSGが、第1ローラA1と第2ローラB1の対を通過すると、第1ローラA2と第2ローラB2の対が、第1ローラA2の回転軸中心が第1ローラA1の回転軸中心に対して、上述したように位置ずれしていることで、シートガラスSGの両側の側部L,Rは、仮想直線Sから遠ざかる側にずれる。これに対して、中央領域CAは、シートガラスSGの自重が大きく作用するため、両側の側部L,Rと比べ、仮想直線Sから遠ざかる側へのずれ量が少ない。この結果、シートガラスSGは、図7において実線で示すように、凸曲面SG1を有するように湾曲する。本実施形態では、シートガラスSGをこのように湾曲させた状態で搬送することで、シートガラスSG近傍を流れる気流の影響を受けて形状が変化することが抑制される。これにより、搬送中に、シートガラスSGが断熱部材80b等に接触して、シートガラスSGに傷や割れが生じることが抑制される。また、シートガラスSGを湾曲させた状態で搬送することで、シートガラスSGが厚み方向の一方の側に凸になることと、凹むこととが切り替わる反転や、反転を繰り返すハンチング等の現象が発生することが抑制され、これらの現象が起きることでシートガラスの割れが生じることが抑制される。また、反転、ハンチングによって発生した応力が、シートガラスSGの温度が歪点以上となるシートガラスSGの領域に伝わるとシートガラスSGに歪が形成される。ハンチング等の現象の発生を抑制することにより、シートガラスSGに形成される歪が抑制される。
【0050】
一実施形態によれば、図8に示されるように、搬送ローラ対のうち、第2搬送ローラ対の下方に配置された第3搬送ローラ対に関して、第1ローラA3の回転軸中心の位置が、第2搬送ローラ対の第1ローラA2の回転軸中心の位置に対して、仮想直線Sから遠ざかる側に位置していることが好ましい。言い換えると、第1ローラA1、A2、A3の回転軸中心の位置は、下流側に進むに連れて、仮想直線Sに対して同じ側に遠ざかるよう位置していることが好ましい。これにより、シートガラスSGを湾曲させた状態を安定させることができ、シートガラスSGの形状が搬送中に変化し難くなる効果が増す。図8は、一実施形態による第1~3の搬送ローラ対を示す図である。
これに対し、第3搬送ローラ対が、第2搬送ローラ対に対して、仮想直線Sに接近する側に位置している場合は、シートガラスSGは、第2搬送ローラ対を通過した後、両側の側部L,Rが仮想直線Sに接近する側にずれ、図7に実線で示した例とは反対側(図7において左側)に突出した凸曲面を有するように湾曲する。このように、搬送経路の途中で、シートガラスSGの凸曲面が突出する側が切り替わると、シートガラスSGは、搬送方向の一部の領域において幅方向に平坦になる。幅方向に平坦なシートガラスSGは、気流の影響を受けやすく、容易に形状が変化する。
上述したように、第1ローラA1、A2、A3の回転軸中心の位置が、下流側に進むに連れて、仮想直線Sに対して同じ側に遠ざかるよう位置している場合は、搬送経路の途中で、シートガラスSGが幅方向に平坦になる部分が生じないため、シートガラスSGの形状は気流の影響による変化を受け難い。
【0051】
この場合、さらに、図9に示されるように、仮想直線Sから遠ざかる方向に沿った、第1ローラA3の回転軸中心の位置と、第1ローラA2の回転軸中心の位置との距離D2は、仮想直線Sから遠ざかる方向に沿った、第1ローラA2の回転軸中心の位置と、第1ローラA1の回転軸中心の位置との距離D1より大きいことが好ましい。距離D2が距離D1より大きいことで、シートガラスSGを湾曲させた状態をより安定させて搬送することができ、シートガラスSGの形状が搬送中に変化し難くなる効果がさらに増す。図9は、一実施形態による第1~3の搬送ローラ対を示す図である。
一方で、距離Dが過度に大きくなると、シートガラスSGの湾曲の程度が大きくなりすぎ、シートガラスSGを搬送し難くなる場合がある。また、下流側に位置する搬送ローラ対を通過するときのシートガラスSGの傾斜が大きくなるため、これに起因して、割れが発生する場合がある。このため、一実施形態によれば、搬送方向に隣り合う搬送ローラ対の間隔Lに対する距離Dの比D/Lが、0.001~0.02となるよう、距離Dが間隔Lに対して設定されることが好ましい。シートガラスSGは、搬送ローラ対によって挟持され、幅方向に引っ張られながら下方向に搬送されるため、比D/Lが上記した小さい範囲に設定されていても、シートガラスSGの湾曲した状態を安定させることができる。比D/Lは、下流側に進むに連れて、大きくなっていることが好ましいが、一方で、小さくなっていてもよい。
【0052】
上述した、上流側の搬送ローラ対の第1ローラに対する下流側の搬送ローラ対の第1ローラの位置ずれは、シートガラスSGの温度が歪点以下となる領域に配置された複数の搬送ローラ対のいずれにおいても設定されていることが好ましいが、複数の搬送ローラ対のうち少なくとも1つにおいて設定されていてもよい。
【0053】
一実施形態によれば、断熱部材80bとシートガラスSGとの間の水平方向の隙間のうちの最短長さ(凸曲面SG1と対向する断熱部材80bの部分と、凸曲面SG1との隙間)に関して、第2搬送ローラ対の下方に位置する断熱部材80bとシートガラスSGとの間の隙間が、第2搬送ローラ対の上方に位置する断熱部材80bとシートガラスSGとの間の隙間よりも大きくなるよう、シートガラスSGに接近して配置される断熱部材80bの端部の位置が調節されていることが好ましい。これにより、上側から下側への熱の移動を遮断しつつ、シートガラスSGの断熱部材80bとの接触を抑制することができる。
この場合において、上記距離D2が上記距離D1より大きい場合は、さらに、第3搬送ローラ対の下方に位置する断熱部材80bとシートガラスSGとの間の隙間が、第2搬送ローラ対と第3搬送ローラ対の搬送方向の間に位置する断熱部材80bとシートガラスSGとの間の隙間よりも大きくなるよう、シートガラスSGに接近して配置される断熱部材80bの端部の位置が調節されていることが好ましい。
【0054】
本実施形態によれば、シートガラスSGを湾曲させた状態で搬送することで、シートガラスSG近傍を流れる気流の影響を受けて形状が変化することが抑制される。これにより、搬送中に、シートガラスSGが断熱部材80b等に接触して、シートガラスSGに傷や割れが生じることが抑制される。
【0055】
以上、本実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、上記の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、引下げローラ81a~81gは、搬送方向に等間隔に配置されていてもよいが、搬送方向に異なる間隔で配置されていてもよい。例えば、搬送方向に隣り合う引下げローラ81a~81gの間隔は、下流側に位置するものであるほど、大きくてもよい。
【符号の説明】
【0056】
11 溶解装置
12 清澄装置
40 成形装置
41 成形体
51 冷却ローラ
60 冷却ユニット
81a~81g 引下げローラ
82a~82g ヒータ
90 切断装置
100 ガラス基板製造装置
500 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9