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特許7010648回転研削工具、その製造方法およびそれを用いた素地調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】回転研削工具、その製造方法およびそれを用いた素地調整方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20220119BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20220119BHJP
   B24D 3/28 20060101ALI20220119BHJP
   B24D 7/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B24D3/00 310F
B24D3/00 320B
B24D5/00 P
B24D3/00 340
B24D3/28
B24D7/02 B
B24D3/00 310C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017195748
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019069482
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000227261
【氏名又は名称】日鉄防食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】今井 篤実
(72)【発明者】
【氏名】橋本 凌平
(72)【発明者】
【氏名】落部 圭史
(72)【発明者】
【氏名】佐野 大樹
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-053672(JP,A)
【文献】実開昭56-176159(JP,U)
【文献】特開2003-305652(JP,A)
【文献】特開平09-216165(JP,A)
【文献】特開2007-307701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
B24D 5/00
B24D 3/28
B24D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
さび除去および素地調整のために利用可能な棒状の回転研削工具であって、
長手方向が回転軸と平行であり、
長手方向の一方端部に研削部を有し、他方端部に回転駆動装置の回転軸と取付け可能な取付部を有し、
前記研削部は長手方向の端面および前記端面と繋がる側面を含み、その端面および側面にはモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付け接合されていて研削面を構成しており、前記側面において前記硬質粒子が螺旋状に接合されていて、前記側面から見た場合に前記硬質粒子からなる直線の間隔(β)が2~6mmである、回転研削工具。
【請求項2】
前記研削部が、長手方向に垂直な方向に溝部を有する、請求項1に記載の回転研削工具。
【請求項3】
前記研削面の前記側面において前記硬質粒子が20個/cm2以上の面密度となるように接合されている、請求項1または2に記載の回転研削工具。
【請求項4】
前記研削面の前記端面における外周から中心側へ3~5mmまでのリング状領域に、前記硬質粒子が20個/cm2以上の面密度となるように接合されている、請求項1~3のいずれかに記載の回転研削工具。
【請求項5】
前記側面における前記研削面の長手方向における長さが20~50mmである、請求項1~4のいずれかに記載の回転研削工具。
【請求項6】
棒状の金属部材の長手方向における端面および前記端面と繋がる側面の一部に、前記硬質粒子の平均粒子径の20~60%の厚さとなるように、有機バインダーを混ぜた蝋材粉末を塗布し、その上に前記硬質粒子を付与し、10-4Torr以下の減圧下で、1000~1040℃の温度で10~50分保持することで前記研削面を形成する工程を備え、
請求項1~5のいずれかに記載の回転研削工具が得られる、回転研削工具の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の回転研削工具を用いて、モース硬度10未満の物質の研削を行う、素地調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転研削工具、その製造方法およびそれを用いた素地調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、プラント、船舶、建築物等の鋼構造物は、時間の経過とともに錆が生じる。例えば、橋梁等の鋼構造物の部材等として、近年、腐食速度の遅い耐候性鋼等の耐食性合金鋼が用いられているが、曝される環境条件によっては、厚く、緻密で、密着性が高い層状錆やうろこ状錆等が形成される。このような錆が生じると鋼構造物は劣化するので、錆を除去して母鋼材に塗装を施し延命化を図る必要がある。特に錆が厚くなっている場合、できるだけ早急に厚い錆を除去し塗装しなければ、鋼構造物の使用において、安全上の問題が生じる可能性がある。
【0003】
また、例えば製鉄工程では、生産計画の都合により、大量の鋼鋳片が屋外に長期保管される場合があるが、製鉄所は通常、臨海地域に存するので飛来塩分等の影響を受け、当該鋼鋳片には厚い錆が形成され得る。このような場合、熱延工程で処理する前に厚い錆を除去する必要がある。製品の表面に疵やヘゲが入り、商品価値を落としてしまうからである。
【0004】
しかしながら、上記鋼構造物や鋼鋳片などに形成された錆を完全に除去することは、技術的に非常に困難である。
【0005】
例えば、従来、鋼材上に発生した錆を除去するためには、アルミナ系やシリコンカーバイド系の砥石グラインダーやペーパーグラインダーが用いられてきたが、錆が厚く、緻密で密着性が高い場合、研削材であるアルミナやシリコンカーバイドよりも、錆の方が高硬度であるため、これを用いて研削することはできない。
また、ジェットタガネ等の動力工具を用いて、厚く強固な錆を除去する方法が考えられるが、この場合、荒く研削することはできたとしても、細部まで研削する作業、すなわち、鋼材表面に薄く密着した錆までも除去して、塗装下地処理として十分な鋼材表面の露出状態とすることは困難である。
また、ブラスト法によって除去することが考えられるが、装置が大掛かりで、高コストになる難点がある。
【0006】
上記のような課題を解決するものとして、特許文献1に記載の回転研削工具が提案された。特許文献1には、橋梁等の大面積を有する鋼構造物に形成された厚く、固着力の強い錆を簡単かつ高速に、効率的かつ効果的に、しかも低コストでありながら安全で作業性が良く、錆の除去から鋼面露出までを一気に行える、さび除去および素地調整に優れた回転研削工具が記載されている。この回転研削工具は、金属回転盤の研削面に、特定面密度となるように、特定硬度の硬質粒子を特定量露出するように配置したものである。
【0007】
また、このような回転研削工具に関連したものとして、特許文献2では、ディスクの研削機能面にダイヤモンド粒片を複数個固着した研削用ダイヤディスクにおいて、共通の回転軌跡上にあって回転方向において前後するダイヤモンド粒片間の離隔距離を、径方向において隣り合う回転軌跡上にあって近接するダイヤモンド粒片との離隔距離より長く設定したことを特徴とする研削用ダイヤディスクが提案されている。特許文献2には、このような研削用ダイヤディスクによって、従来の市販製品と何ら変わることなく使用でき、しかも全てのダイヤモンド粒片が有効に且つ均等に研削作業に寄与せしめることができ、長時間使用しても各ダイヤモンド粒片に磨耗むらが生じにくく、さらに、ディスク面の中央部位から外周縁への研削屑の排出性が良好な、研削用ダイヤディスクを提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-307701号公報
【文献】特開2009-6478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば特許文献1に記載の回転研削工具は、平面部(ボルトなどが無い部分)に対しては研削能が高い。しかし、添接板のボルト自体やボルトの周辺部およびそれに類する狭隘部(例えば、ウェブ立ち上がりに形成された狭隘部)における素地調整を効果的に行うことはできない。
しかし、ボルト部や狭隘部についても、さび等を効果的に除去する素地調整が可能な工具が求められている。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、ボルト部や狭隘部についても、さび等を効果的に除去する素地調整が可能な回転研削工具を提供することである。また、その製造方法を提供することである。さらにその回転研削工具を用いた素地調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は次の(1)~(7)である。
(1)さび除去および素地調整のために利用可能な棒状の回転研削工具であって、
長手方向が回転軸と平行であり、
長手方向の一方端部に研削部を有し、他方端部に回転駆動装置の回転軸と取付け可能な取付部を有し、
前記研削部は長手方向の端面および前記端面と繋がる側面を含み、その端面および側面にはモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付け接合されていて研削面を構成しており、前記側面において前記硬質粒子が螺旋状に接合されている、回転研削工具。
(2)前記研削部が、長手方向と平行ではない方向に溝部を有する、上記(1)に記載の回転研削工具。
(3)前記研削面の前記側面において前記硬質粒子が20個/cm2以上の面密度となるように接合されている、上記(1)または(2)に記載の回転研削工具。
(4)前記研削面の前記端面における外周から中心側へ3~5mmまでのリング状領域に、前記硬質粒子が20個/cm2以上の面密度となるように接合されている、上記(1)~(3)のいずれかに記載の回転研削工具。
(5)前記側面における前記研削面の長手方向における長さが20~50mmである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の回転研削工具。
(6)棒状の金属部材の長手方向における端面および前記端面と繋がる側面の一部に、前記硬質粒子の平均粒子径の20~60%の厚さとなるように、有機バインダーを混ぜた蝋材粉末を塗布し、その上に前記硬質粒子を付与し、10-4Torr以下の減圧下で、1000~1040℃の温度で10~50分保持することで前記研削面を形成する工程を備え、
上記(1)~(5)のいずれかに記載の回転研削工具が得られる、回転研削工具の製造方法。
(7)上記(1)~(5)のいずれかに記載の回転研削工具を用いて、モース硬度10未満の物質の研削を行う、素地調整方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ボルト部や狭隘部についても、さび等を効果的に除去する素地調整が可能な回転研削工具を提供することができる。また、その製造方法を提供することができる。さらにその回転研削工具を用いた素地調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ボルト部の研削に適している本発明の工具1を一方端面側から見た概略斜視図である。
図2】ボルト部の研削に適している本発明の工具1を他方端面側から見た概略斜視図である。
図3】ボルト部の研削に適している本発明の工具1の側面の概略図である。
図4】ボルト部の研削に適している別の本発明の工具1の側面の概略図である。
図5】ボルト部の研削に適している本発明の工具1の一方端面の概略図である。
図6】狭隘部の研削に適している本発明の工具1を一方端面側から見た概略斜視図である。
図7】狭隘部の研削に適している本発明の工具1を他方端面側から見た概略斜視図である。
図8】狭隘部の研削に適している本発明の工具1の側面の概略図である。
図9】狭隘部の研削に適している別の本発明の工具1の側面の概略図である。
図10】狭隘部の研削に適している本発明の工具1の一方端面の概略図である。
図11】狭隘部の研削に適している本発明の工具の他方端部を回転駆動装置の回転軸と取付けた状態を示す画像である。
図12図12(a)は特定間隔でボルトおよびナットA~Mが付いている研削対象物のフランジ面を表しており、図12(b)はその側面図である。
図13図13(a)は供試体の端面の概略図、図13(b)は供試体の側面の概略図であり、図13(c)は供試体の一部を拡大した画像、図13(d)はさらに拡大した画像である。
図14図14(a)は供試体の斜視画像、図14(b)はボルトおよびナットの上面図(概略図)である。
図15】研創前後におけるナットおよびボルトのさび厚を比較するグラフである。
図16】研創前後におけるナット周辺のフランジ部のさび厚を比較するグラフである。
図17】研創前後におけるナット径を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について説明する。
本発明は、さび除去および素地調整のために利用可能な棒状の回転研削工具であって、長手方向が回転軸と平行であり、長手方向の一方端部に研削部を有し、他方端部に回転駆動装置の回転軸と取付け可能な取付部を有し、前記研削部は長手方向の端面および前記端面と繋がる側面を含み、その端面および側面にはモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付け接合されていて研削面を構成しており、前記側面において前記硬質粒子が螺旋状に接合されている、回転研削工具である。
このような回転研削工具を、以下では「本発明の工具」ともいう。
【0015】
本発明の工具は、図13図15に示すような、鋼構造物のボルト部(ボルト、ナットおよびそれらの周辺)や、通常の工具は挿入し難い狭い空間である狭隘部を研削し、さび等を除去して素地調整する際に利用することができる。図13図14において、フランジ部とウェブとの境界付近が狭隘部である。
本発明の工具を用いてボルトの側面を研削すると、ボルト周辺部(フランジ表面やウェブ表面)も同時に研削することができる。
【0016】
本発明の工具について図を用いて説明する。
図1図5は、ボルト部の研削に適している本発明の工具の例を示す概略図である。
図1は一方端面側から見た本発明の工具1の概略斜視図であり、図2は他方端面側から見た本発明の工具1の概略斜視図であり、図3は本発明の工具1の側面図(概略図)であり、図5は本発明の工具1の一方端面の概略図である。
【0017】
図6図10は、狭隘部の研削に適している本発明の工具の例を示す概略図である。
図6は一方端面側から見た本発明の工具1の概略斜視図であり、図7は他方端面側から見た本発明の工具1の概略斜視図であり、図8は本発明の工具1の側面図(概略図)であり、図10は本発明の工具1の一方端面の概略図である。
【0018】
そして、図11は、狭隘部の研削に適している本発明の工具の他方端部を回転駆動装置の回転軸と取付けた状態を示す画像である。
【0019】
図1図5に示したボルト部の研削に適している本発明の工具と、図6図10に示した狭隘部の研削に適している本発明の工具とは、断面の直径が異なるが、その他は同一または類似しており、いずれの態様も、本発明の工具に含まれている。
【0020】
本発明の工具1は、図1~10に示すように棒状であり、その長手方向が、回転軸Xと平行をなす。
大きさ等は特に限定されないが、長手方向の長さは50~100mm程度であることが好ましく、65~80mmであることがより好ましい。
太さ等も特に限定されず、それも図1~10に示すように均一な太さでなくて構わない。例えば、研削部3の端面31は略円形であるが、その直径は10~40mm程度であることが好ましく、14~28mmであることがより好ましい。
材質等も特に限定されないが、本発明の工具(研削部の端面および側面に付いている硬質粒子および蝋を除く)はステンレス鋼からなることが好ましい。その他、ニッケル基合金、合金鋼、鋼(普通鋼等)からなるものであってもよい。
【0021】
本発明の工具1は、長手方向の一方端部に研削部3を有する。
研削部3は長手方向の端面31および端面31と繋がる側面33を含む。そして、その端面31および側面33にはモース硬度9を超える硬質粒子7が蝋付け接合されていて研削面を構成しており、側面33において硬質粒子7が螺旋状に接合されている。
側面33において硬質粒子7が螺旋状に接合されていると、研削対象物の表面に形成されたさびへの衝撃力が高まり、研削対象物のさびによる目詰まりが軽減され、研削効率が上がるためである。
【0022】
ここで螺旋状とは、図1~4および図6~9に示すように、側面33上において複数の直線をなすように硬質粒子7が並べられて付けられており、図3、4、8および9に示すような側面図において、その直線は長手方向に平行でも、垂直でもない状態を意味するものとする。
【0023】
ここで、本発明の工具1を側面から見た場合に、硬質粒子7からなる直線と回転軸Xとがなす角度、すなわち、図3、4、8および9にαで示す角度は15~45度であることが好ましく、20~40度であることがより好ましく、30度程度であることがさらに好ましい。
このような角度(α)であると、研削対象物の表面に形成されたさびへの衝撃力が高まり、研削対象物のさびによる目詰まりが軽減され、研削効率が上がるためである。
また、本発明の工具1を側面から見た場合に、硬質粒子7からなる直線の間隔、すなわち、図3、4、8および9にβで示す間隔は1~8mmであることが好ましく、2~6mmであることがより好ましく、4mm程度であることがさらに好ましい。
このような間隔(β)であると、研削対象物の表面に形成されたさびへの衝撃力が高まり、研削対象物のさびによる目詰まりが軽減され、研削効率が上がるためである。
【0024】
硬質粒子7からなる複数の直線は、図1~4および図6~9に示すように、略等間隔で形成されていることが好ましい。
【0025】
研削部3の端面31にも硬質粒子7が蝋付け接合されている。その態様は特に限定されないが、図1図5図6図10に示すように、円形の端面31の外周側に密に硬質粒子7が蝋付けされていることが好ましい。具体的には円形の端面31の外周から中心側へ3~5mm程度までの領域(リング状領域)に30個/cm2~60個/cm2程度となるように硬質粒子が蝋付けされていることが好ましい。
【0026】
さらに、図5に示すように、円形の端面31の外周側以外の部分には、放射線状に硬質粒子が蝋付けされていることが好ましい。
このように端面31に放射線状に硬質粒子が蝋付けされていると、研削対象物の表面に形成されたさびへの衝撃力が高まり、研削対象物のさびによる目詰まりが軽減され、研削効率が上がるためである。
【0027】
また、図4図9に示すように、研削部3が、長手方向と平行ではない方向に溝部9を有することが好ましい。図4図9に示すように、溝部は長手方向に略垂直方向に形成されていることが好ましい。また、図4図9に示すように、研削部3の長手方向における中央部に溝部が形成されていることが好ましい。さらに、長手方向における溝部9の幅は1~5mmであることが好ましい。研削対象物のさびによる目詰まりがより軽減され、研削効率がより上がるためである。
【0028】
硬質粒子の蝋付け接合について説明する。
本発明の工具では、研削部の端面および側面の一部にモース強度9を超える硬質粒子を蝋付け接合されている。
【0029】
ここで研削面の側面において硬質粒子が20個/cm2以上の面密度となるように接合されていることが好ましい。
このような面密度であると、作業中に硬質粒子の一部が脱落しても研削することができるので、大面積の作業であっても長い時間使用に耐えられるからである。30個/cm2以上の面密度でモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付け接合されることが好ましい。作業の効率が高まるからである。一方、60個/cm2以上の面密度とするためにはコストアップとなり、100個/cm2以上の面密度とするのは空間的に困難である。したがって、30個/cm2~60個/cm2程度がより好ましい。
なお、この面密度は、任意の10mm×10mmの範囲内に存在する硬質粒子の数を測定することにより求めることができる。
【0030】
本発明の工具において、その表面にモース強度9を超える硬質粒子を蝋付け接合するのは、固着錆の硬度がモース硬度9を超えているため、モース硬度9のコランダムやアルミナでは、固着錆に研削材が研磨されてしまい、固着錆を除去するのは困難であるからである。
【0031】
硬質粒子は、モース硬度が9を超えるものであれば特に限定しないが、固着錆を効率的に除去する点からは、ダイヤモンドまたはキュービックボロンナイトライドが好ましい。
【0032】
また、硬質粒子は平均粒子径200μm以上1000μm以下のものであることが好ましい。200μm以上であると目詰まりを起こし難く、研削性能が低下し難いからである。また、1000μm以下であると面密度を上昇させ易く、長時間の使用性能が高まるからである。また、粒子径が大きくなると工業用ダイヤモンドのコストが高くなることにも配慮した。種々試した結果、平均粒子径は300μmから950μmの範囲がさらに望ましく、650μmから900μmの間に分布する粒子径の工業用ダイヤモンドまたはキュービックボロンナイトライドを用いて工具を作成するのが製造上も効率的である。なお、キュービックボロンナイトライドは粒子の破壊が工業用ダイヤモンドより起こりやすく、後者の方が長時間の使用に耐え作業性が良い。
なお、硬質粒子の平均粒子径は、蝋付け前の硬質粒子を任意に50個採取し、その直径をノギスにより測定して得た値を単純平均して求めた値とする。
【0033】
また、硬質粒子を蝋付けするための接合材(蝋材)は、モース硬度9超の硬質粒子と棒状の金属部材の表面との両者に対して十分な接合性を発揮できる特性を有するものであれば、特に限定するものではなく、硬質粒子および金属部材の材質に応じて、適切な接合材(蝋材)を選定することができる。例えば、JIS Z 3265に規格のニッケルろう、JIS Z 3261に規格する各種の銀ろう、JIS Z 3262に規格する各種の銅および黄銅ろう、JIS Z 3263に規格する各種アルミニウム合金ろうおよびブレージングシート、JIS Z 3264に規格された各種りん銅ろう、JIS Z 3266に規格された金ろう、JIS Z 3267に規格された各種パラジウムろう、JIS Z 3268に規格された各種の真空用金属ろう、さらにはJIS Z 3282に規格された各種のはんだ、などからベースとなる成分系を選ぶことができる。
その中で、融点なども考慮してニッケルベースの蝋材(例えば、BNi-1,BNi-1A,BNi-2,BNi-5,BNi-7など)を好ましく用いることができる。ダイヤモンドあるいはキュービックボロンナイトライドなどの硬質粒子と接合性を向上させるために、チタン、クロムおよびジルコニウムの1種以上を0.5質量%以上添加した蝋材を用いることが好ましい。
また、蝋材にチタン、クロムおよびジルコニウムのうち1種以上を0.5質量%以上含有する蝋材を用い、金属部材の材質にステンレス鋼を用いると、金属部材へのモース硬度9以上の硬質粒子の接合強度が高まる。これは、硬質粒子、金属部材および蝋材の各接合界面において冶金学的反応が起こり、中間相が形成するためである。この材料的組み合わせは、後述するモース硬度9以上の硬質粒子のシェア強度として20N/個以上を実現するのに有効に作用する。チタン、クロム、ジルコニウムの1種以上を含有するニッケル蝋材を用いてダイヤモンドまたはキュービックボロンナイトライドの硬質粒子を堅牢に接合するためには、蝋材と金属部材との接合強度も高める必要があるがチタン、クロムおよびジルコニウムの1種以上を含有するニッケル蝋材は、ステンレス鋼との相性がよく、合金化して堅牢な接合が得られる。金属部材の材質にSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を用いると、接合の堅牢性も上がり、さらに、厚い錆を除去する作業は、塩害環境におかれた鋼材上でおこなわれることが多いので、工具自体の耐食性を確保する点からも有利である。
【0034】
本発明の工具は、このような接合材(蝋材)を用いて前記硬質粒子を前記金属部材の一方端部に蝋付けしたものである。具体的には後述するように、硬質粒子の平均粒径の20~60%の厚さとなるように接合材を金属部材の表面に塗布し、その上に硬質粒子を付与する。したがって、本発明の工具の研削面では、硬質粒子の一部分が露出しており、残部は接合材(蝋材)の中に埋没している。
【0035】
また、硬質粒子の平均シェア強度が20N/個以上となるように、硬質粒子と蝋材とが接合されることが好ましい。被削鋼材面に例えばモース硬度10のダイヤモンドが高速で衝突すると、ダイヤモンドが熱疲労で破壊を起こすことが多いが、従来はこの対策が十分ではなく、硬質粒子(砥粒)が根こそぎ脱離してしまうため、鋼面への作業を行うと短寿命となってしまっていた。しかしながら、硬質粒子の平均シェア強度20N/個とすれば、硬質粒子が熱疲労破壊しても接合部に硬質粒子(ダイヤモンド)が脱離せず、研削作業を継続することができる。すなわち、このシェア強度は硬質粒子と蝋材との接合強度を評価するものである。シェア強度の測定は、硬質粒子が蝋付けされた金属部材をステージ上に保持し、ロードセルに接続された超硬のつめ状ツールを用いて硬質粒子の露出部を保持し、ステージに横方向から荷重をかけて、硬質粒子が離脱した時の荷重を求めることによって行われる。例えば、測定装置として、レスカ社製ボンディングテスタを用いればシェア強度の測定が行える。
本発明において、平均シェア強度は、10mm×10mm(1cm2)の範囲の存在する任意の20個以上の硬質粒子について、上述の方法で各硬質粒子の硬質粒子のシェア強度を測定し、それらの平均したものとする。
【0036】
このように平均20N/個以上の高い平均シェア強度を実現するためには、前述のように、チタン、クロムまたはジルコニウムのうち1種以上を0.5質量%以上含む合金を蝋材として用いることが好ましい。例えば、70質量%Ag-28質量%Cu-2質量%Ti合金、74質量%Ni-14質量%Cr-3質量%B-4質量%Si-4.3質量%Fe-0.7質量%C合金、83質量%Ni-7質量%Cr-3質量%B-4質量%Si-3質量%Fe合金、71質量%Ni-19質量%Cr-10質量%Si合金、77質量%Ni-10質量%P-13質量%Cr合金などの蝋材(接合材)を用いることが好ましい。
【0037】
図3、4、8、9に示す、側面31における研削面3の長手方向における長さLは、20~50mmであることが好ましい。
【0038】
また、本発明の工具がボルト部の研削用である場合、研削部3の略円形をなす端面31の直径が26~38mm(好ましくは36mm程度)であり、かつ、図3、4、8、9に示す、側面31における研削面3の長手方向における長さLが20~50mm(より好ましくは25~40mm、さらに好ましくは30mm程度)であることが好ましい。
このような直径および長さLを備えるものであると、図12に示すように、ボルトおよびナットAの側面(ボルトの側面は露出していないため、厳密にはナットAの側面)を本発明の工具の研削面における側面によって研削すると、同時に、本発明の工具の研削面における端面によって、ボルトおよびナットAとフランジ表面におけるAの付け根領域aをも研削することでき、同様にしてボルトおよびナットB~Mの側面を研削すると、同時に付け根領域b~mを研削したうえで、フランジ面のすべての研削を完了することができる。これは鋼道路橋の場合、ボルトおよびナットの大きさおよび間隔が指定されているためである。
なお、図12(a)は特定間隔でボルトおよびナットA~Mが付いている研削対象物のフランジ面を表しており、図12(b)はその側面図である。aはボルトおよびナットAの側面(ボルトの側面は露出していないため、厳密にはナットAの側面)を研削したときに同時に研削できるフランジ面の領域を示している。b~mについても同様である。この領域が全ての隣り合うもの同士、重なっていれば(例えば1mm程度は重なることが好ましい)、ボルトおよびナットA~Mの側面を研削すると同時に、付け根領域a~mを研削することで、フランジ面のすべての研削を完了することができる。
【0039】
本発明の工具は、図1図4および図6図9に示すように、他方端部に回転駆動装置の回転軸と取付け可能な取付部5を有する。
取付部5は図11に示すように回転研削装置の回転軸と取付ることができるものであれば、その態様は限定されないが、多くの場合、回転研削装置の回転軸の先端は雄ネジであるため、取付部5は図2および図7に示すように雌ネジを含むことが好ましい。
【0040】
本発明の工具の製造方法について説明する。
本発明の工具の製造方法は特に限定されないが、棒状の金属部材の長手方向における端面および前記端面と繋がる側面の一部に、前記硬質粒子の平均粒子径の20~60%の厚さとなるように、有機バインダーを混ぜた蝋材粉末を塗布し、その上に前記硬質粒子を20個/cm2以上の面密度となるように付与し、10-4Torr以下の減圧下で、1000~1040℃の温度で10~50分保持することで前記研削面を形成する工程を備える製造方法であることが好ましい。
【0041】
また、好ましい製造条件は、平均粒子径の25~35%の厚さとなるように蝋粉末を塗布し、10-5Torr以下で、1010~1030℃に25~35分保持することである。
【実施例
【0042】
図13に供試体の概略を示す。図13(a)は供試体の端面の概略図、図13(b)は供試体の側面の概略図であり、図13(c)は供試体の一部を拡大した画像、図13(d)はさらに拡大した画像である。なお、図13中の数値の単位はミリメートルである。
供試体は、M22のボルトを付けたH鋼(材質:SMA490)に3wt%-NaCl水溶液を週5日間(1回/日)、約2年間、スプレー散布することで、さびを形成させたものである。
このような供試体における、フランジ部のボルトからからウェブ立ち上がりを通したボルト1体目までを、本試験における研創対象範囲とした。なお、フランジ部とウェブとの境界付近が狭隘部である。
【0043】
<ボルト用ダイヤツールを用いた試験>
試験は、次に示す6種類の工具を用いて研創対象範囲を研削し、さびの除去の程度を比較するものである。なお、[6]の電動グラインダー(ボルト部用ダイヤツール)が、本発明に相当する。
[1]日東工器社製、電動多針タガネ、EJC-32A
[2]マキタ社製、電動ケレン、HK1810
[3]電気ディスクグラインダー(ディスクペーパー装着)
[4]電気ディスクグラインダー(有限会社大野精機製、ケレンマイスターを装着)
[5]電気ディスクグラインダー(大塚刷毛製造株式会社製、弾だんホイール鋼板用ミニを装着)
[6]電動グラインダー(ボルト部用ダイヤツール)
【0044】
各工具の研削能は、各工具による、さびの除去の程度によって評価した。
具体的に説明する。
初めに、工具によって研削する前に、供試体のナットおよびボルトのさび厚、ならびに、ナット周辺のフランジ部のさび厚、ならびにナット径を測定した。
【0045】
ここでナットおよびボルトのさび厚は、図14(b)に示すように、ナットの6つの側面の各々におけるさび厚およびボルト頭のさび厚の合計7箇所におけるさび厚を測定し、これらの平均値として求めた。
【0046】
また、ナット周辺のフランジ部のさび厚は、図14(a)、(b)に示すように、ボルト周辺の4箇所(A~D)においてさび厚を測定し、これらの平均値として求めた。
【0047】
さらにナット径は、ナット頭の六角形が内接する円の直径を測定することで求めた。すなわち、ナット頭における6つの角のうち、1つの角とそれに対向する角との距離がその円の直径に該当するため、1つの角とそれに対向する角との距離の組合せ全て(3つ)についてその距離を測定し、これらの平均値を求め、これをナット径とした。
【0048】
次に、各々の工具によって供試体を約10分間研削し、さびを除去し、その後、供試体のナットおよびボルトのさび厚、ナット周辺のフランジ部のさび厚、ならびにナット径を測定した。
ここでナットおよびボルトのさび厚、ならびに、ナット周辺のフランジ部のさび厚、ならびにナット径は、工具によって研削する前の場合と同じ方法で測定した。
【0049】
このようにして各々の工具によって供試体を研削する前および後における供試体のナットおよびボルトのさび厚、ナット周辺のフランジ部のさび厚、ならびにナット径を測定し、これらを対比することで、工具ごとの研削能を求めた。
結果を図15図17に示す。
【0050】
図15は、研創前後におけるナットおよびボルトのさび厚を示している。また、図16は、研創前後におけるナット周辺のフランジ部のさび厚を示している。さらに、図17は、研創前後におけるナット径を示している。
図15図17より、本発明に該当する、[6]電動グラインダー(ボルト部用ダイヤツール)の研削能が最も優れていることが確認できる。
【0051】
<狭隘部用ダイヤツールを用いた試験>
上記[1]~[5]の工具と、本発明に該当する[6´]電動グラインダー(狭隘部用ダイヤツール)を用いて、供試体の狭隘部について研削を行った。
その結果、狭隘部に対する研創が可能であったのは、[6´]電動グラインダー(狭隘部用ダイヤツール)のみであった。その他[1]~[5]の工具は、ウェブ側とフランジ側のボルト部が干渉して取り回しが難しく、十分な研創は不可能であった。
【0052】
以上より、ナット、ナット周辺部、狭隘部の全てにおいて研創可能であったのは、本発明に該当する電動グラインダー(ボルト部用ダイヤツールおよび狭隘部用ダイヤツール)のみであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17