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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】燃料タンク用弁装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20220119BHJP
   B60K 15/035 20060101ALI20220119BHJP
   F16K 24/00 20060101ALI20220119BHJP
   F16K 27/02 20060101ALI20220119BHJP
   F16K 31/22 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F02M37/00 301E
B60K15/035 A
F16K24/00 K
F16K27/02
F16K31/22
F02M37/00 311K
F02M37/00 311A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017200528
(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公開番号】P2019074022
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】三原 健太
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-079405(JP,A)
【文献】特開平11-037008(JP,A)
【文献】特開2006-200469(JP,A)
【文献】特開2007-177701(JP,A)
【文献】特開2007-176336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00
B60K 15/035
F16K 24/00 ー 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕切壁を介して、下方に燃料タンクに連通する弁室、上方に燃料蒸気排出口に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室を連通する開口が設けられた、ハウジングと、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記開口を開閉するフロート弁とを備え、
前記フロート弁は、フロート本体をなし、被係合部を有するロアー部材と、該ロアー部材の上方において、該ロアー部材に対して所定距離だけ昇降可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、
前記アッパー部材は、前記開口に接離する天井部と、該天井部の裏面から延出する外側壁と、前記ロアー部材の前記被係合部に係合する弾性係合片とを有しており、
前記弾性係合片は、前記天井部の裏面であって、且つ、前記外側壁の内側から延出されており、前記アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して前記被係合部に係合する構造とされており、
前記天井部には、前記天井部を貫通する抜け孔が設けられており、該抜け孔は、前記天井部が前記開口に当接した状態で、前記弁室内に露出するように配置されていることを特徴とする燃料タンク用弁装置。
【請求項2】
仕切壁を介して、下方に燃料タンクに連通する弁室、上方に燃料蒸気排出口に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室を連通する開口が設けられた、ハウジングと、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記開口を開閉するフロート弁とを備え、
前記フロート弁は、フロート本体をなし、被係合部を有するロアー部材と、該ロアー部材の上方において、該ロアー部材に対して所定距離だけ昇降可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、
前記アッパー部材は、前記開口に接離する天井部と、該天井部の裏面から延出する外側壁と、前記ロアー部材の前記被係合部に係合する弾性係合片とを有しており、
前記弾性係合片は、前記天井部の裏面であって、且つ、前記外側壁の内側から延出されており、前記アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して前記被係合部に係合する構造とされており、
前記天井部には、前記天井部を貫通する抜け孔が、前記弾性係合片に整合した位置に設けられており、
前記弾性係合片は、前記ロアー部材の被係合部が係合する係合孔を有しており、前記抜け孔は、前記弾性係合片の前記係合孔に連続するように形成されていることを特徴とする燃料タンク用弁装置。
【請求項3】
仕切壁を介して、下方に燃料タンクに連通する弁室、上方に燃料蒸気排出口に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室を連通する開口が設けられた、ハウジングと、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記開口を開閉するフロート弁とを備え、
前記フロート弁は、フロート本体をなし、被係合部を有するロアー部材と、該ロアー部材の上方において、該ロアー部材に対して所定距離だけ昇降可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、
前記アッパー部材は、前記開口に接離する天井部と、該天井部の裏面から延出する外側壁と、前記ロアー部材の前記被係合部に係合する弾性係合片とを有しており、
前記弾性係合片は、前記天井部の裏面であって、且つ、前記外側壁の内側から延出されており、前記アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して前記被係合部に係合する構造とされており、
前記天井部には、前記天井部を貫通する抜け孔が設けられており、前記弾性係合片は、前記アッパー部材の軸方向から見たときに、前記抜け孔を介して見える位置に設けられていることを特徴とする燃料タンク用弁装置。
【請求項4】
前記弾性係合片は、前記外側壁の延出方向先端部よりも突出するように延出されている請求項1~3のいずれか1つに記載の燃料タンク用弁装置。
【請求項5】
仕切壁を介して、下方に燃料タンクに連通する弁室、上方に燃料蒸気排出口に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室を連通する開口が設けられた、ハウジングと、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記開口を開閉するフロート弁とを備え、
前記フロート弁は、フロート本体をなし、被係合部を有するロアー部材と、該ロアー部材の上方において、該ロアー部材に対して所定距離だけ昇降可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、
前記アッパー部材は、前記開口に接離する天井部と、該天井部の裏面から延出する外側壁と、前記ロアー部材の前記被係合部に係合する弾性係合片とを有しており、
前記弾性係合片は、前記天井部の裏面であって、且つ、前記外側壁の内側から延出されており、前記アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して前記被係合部に係合する構造とされており、
前記天井部には、前記天井部を貫通する抜け孔が、前記弾性係合片に整合した位置に設けられており、
前記天井部には、その内径方向に向かって下降するような斜面が形成されており、前記弾性係合片は、前記天井部の、前記斜面の最も低い位置から延出されていることを特徴とする燃料タンク用弁装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料タンクに取付けられ、燃料流出防止弁や満タン規制弁等として用いられる、燃料タンク用弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料タンクには、燃料タンク内の液面が、予め設定された満タン液面よりも上昇しないように、燃料タンク内への過給油を防止する満タン規制弁や、自動車が旋回したり傾いたりしたときに、燃料タンク内の燃料が、燃料タンク外へ漏れるのを防止する燃料流出防止弁等が取付けられている。
【0003】
これらの弁装置は、一般的には、開口を有する仕切壁及び弁室を有するハウジングと、弁室内に昇降可能に配置され、前記開口を開閉するフロート弁とを有する構造となっている。また、フロート弁が斜めに上昇した場合には、開口とのシール性が低下するため、フロート上方に揺動可能なアッパー部材を設ける構造も採用されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、弁室及び接続孔を設けた天井壁を有するケーシング本体と、ケーシング本体の上部に固定された蓋体と、弁室内に配置され、接続孔を開閉するフロートとを備えた、燃料遮断弁が記載されている。フロートの上部には、弁支持部を介して上部弁体が揺動可能に装着されている。また、上部弁体は、ほぼ円筒状をなした第1弁本体、及び、その上部に取付けられたゴム製のシート部材からなる第1弁部と、該第1弁部の内側に組付けられると共に、フロート上部の弁支持部に外装される第2弁部とから構成されている。更に、円筒状の第1弁部の下端からは、スリットを介して撓み可能とされた、複数の係合片が垂設されており、各係合片には係合穴が形成されている。一方、第2弁部の下部外周には、前記係合穴に係合する抜止爪が複数形成されている。そして、第2弁部の複数の抜止爪に、第1弁部の係合片及び係合穴を整合させて、第2弁部に対して第1弁部を押し込むと、係合片が抜止爪に押圧されて外径方向に弾性変形し、抜止爪が係合穴に至ると、係合片が弾性復帰して、抜止爪が係合穴に係合して、第1弁部と第2弁部とが抜け止め状態で組付けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-68678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の燃料遮断弁の場合、上述したように、第1弁部と第2弁部とを組付ける際に、第1弁部側の係合片を弾性変形させる必要があるので、所定の長さが必要である。しかし、係合片を長くすると、第1弁部の高さが高くなってしまって、燃料タンク内へ供給される燃料の満タン位置を規定する、いわゆるロックポイント(すなわち、開口が弁体で閉塞されるときの燃料高さ)の位置を高くしにくい、という不都合があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、フロート弁全体の高さを低くして、燃料タンクのロックポイントの位置を高くすることができる、燃料タンク用弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る燃料タンク用弁装置は、仕切壁を介して、下方に燃料タンクに連通する弁室、上方に燃料蒸気排出口に連通する通気室が設けられ、前記仕切壁に前記弁室と前記通気室を連通する開口が設けられた、ハウジングと、前記弁室に昇降可能に収容され、前記開口を開閉するフロート弁とを備え、前記フロート弁は、フロート本体をなし、被係合部を有するロアー部材と、該ロアー部材の上方において、該ロアー部材に対して所定距離だけ昇降可能に組付けられるアッパー部材とを有しており、前記アッパー部材は、前記開口に接離する天井部と、該天井部の裏面から延出する外側壁と、前記ロアー部材の前記被係合部に係合する弾性係合片とを有しており、前記弾性係合片は、前記天井部の裏面であって、且つ、前記外側壁の内側から延出されており、前記アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して前記被係合部に係合する構造とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロアー部材にアッパー部材を組付ける際に、アッパー部材の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して、ロアー部材の被係合部に係合する構造とされた弾性係合片が、アッパー部材の天井部の裏面であって、且つ、外側壁の内側から延出されているので、弾性係合片の長さ(撓み代)を長く確保することができる。その結果、アッパー部材の全体的な高さを低くすることができるので、フロート弁全体の高さを低くすることができ、いわゆるロックポイントの位置を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る燃料タンク用弁装置の、一実施形態を示す分解斜視図である。
図2】同弁装置を構成するアッパー部材を示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)とは異なる方向から見た場合の斜視図である。
図3】同弁装置を構成するアッパー部材の平面図である。
図4】同弁装置を構成するフロート弁を組立てた状態の斜視図である。
図5】同弁装置を構成するフロート弁の、一部を破断した状態の斜視図である。
図6】同弁装置を構成するフロート弁の断面図である。
図7】同弁装置において、フロート弁が下降して、開口が開いた状態の断面図である。
図8】同弁装置において、フロート弁が上昇して、開口を閉じた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1~8を参照して、本発明に係る燃料タンク用弁装置の、一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「燃料」とは、液体の燃料(燃料の飛沫も含む)を意味し、「燃料蒸気」とは、蒸発した燃料を意味するものとする。
【0012】
図7に示すように、この実施形態における燃料タンク用弁装置10(以下、「弁装置10」という)は、略筒状をなし上方に仕切壁23を設けたハウジング本体20と、該ハウジング本体20の上方に装着される上カバー30と、前記ハウジング本体20の下方に装着される下キャップ35とを有する、ハウジング15を有している。
【0013】
そして、図7に示すように、ハウジング本体20の下方に下キャップ35が装着されることで、仕切壁23を介して、ハウジング下方に図示しない燃料タンクに連通する弁室Vが形成され、ハウジング本体20の上方に上カバー30が装着されることで、仕切壁23を介して、ハウジング上方に図示しない燃料蒸気排出口に連通する通気室Rが形成されるようになっている。
【0014】
図1に示すように、前記ハウジング本体20は、下方が開口した略円筒状をなし、下方側に通気溝21aが形成された周壁21を有している。この周壁21の外周の、上方寄りの位置に、複数の係止爪21bが突設され、更に周壁21の外周下縁部には、複数の係止爪21cが突設されている。また、周壁21の上方内周には、リング装着溝22が形成されており、このリング装着溝22の内側に、円板状をなした前記仕切壁23が配置されている。この仕切壁23の中央に、円形状の開口25が形成されている。また、図7及び図8に示すように、周壁21の内周であって、その高さ方向途中から前記仕切壁23に至る位置には、薄肉板状をなしたガイドリブ27が、複数形成されている。
【0015】
一方、上カバー30は、上方が閉塞した略ハット状をなしており、その周壁31の所定箇所から第1接続管32及び第2接続管33が外径方向に向けて延出している。第1接続管32は、燃料タンクの外部に配置される図示しないキャニスタに連結されるチューブが接続される。一方、第2接続管33には、図示しないチェックバルブやカットバルブ等に連結されるチューブが接続される。
【0016】
なお、第1接続管33は、周壁31に設けた図示しない燃料蒸気排出口から延出しており、第2接続管33は、周壁31に設けた連通孔31a(図7参照)から延出している。また、周壁31の下方からは、枠状の係止片34が延設されており、同係止片34をハウジング本体20の係止爪21bに係止させることで、ハウジング本体20の上方に上カバー30が装着される。なお、図7に示すように、リング装着溝22に装着されたシールリング17によって、上カバー30の周壁31の下縁部内周と、ハウジング本体20の仕切壁23の外周の周面との隙間がシールされる。
【0017】
更に図1に示すように、前記下キャップ35は、その周壁に複数の係止孔36が形成されており、該係止孔36に前記ハウジング本体20の係止爪21cが係止することで、ハウジング本体20の下方に下キャップ35が装着される。また、下キャップ35の底面側には、弁室Vに連通する通口37が複数形成されている(図1参照)。
【0018】
そして、前記弁室V内には、下キャップ35との間に、スプリング38を介して、前記ハウジング15の開口25を開閉するフロート弁40が昇降可能に配置されている。この実施形態のフロート弁40は、燃料浸漬時に浮力を発生させるフロート本体をなすロアー部材50と、該ロアー部材50の上方において、ロアー部材50に対して所定距離だけ昇降可能に、且つ、傾動可能に組付けられるアッパー部材70と、該アッパー部材70に装着されるシール部材90と、前記ロアー部材50及び前記アッパー部材70の間に配置される中間弁体60とから、主として構成されている。
【0019】
図1及び図6に示すように、前記ロアー部材50は、所定径の円筒状をなしたロアー本体51と、該ロアー本体51の上部中央から突出し、前記ロアー本体51の外径よりも小径のアッパー部材組付部53と、該アッパー部材組付部53の上部中央から突出し、アッパー部材組付部53の外径よりも小径の中間弁体組付部55とを有している。
【0020】
図5及び図6に示すように、アッパー部材組付部53は、円筒状の周壁57を有しており、その上方外周に、周方向に均等な間隔を空けて、複数の被係合部59が突設されている(ここでは4個)。各被係合部59は、その外面が、ロアー部材下方に向けて次第に突出量が大きくなるテーパ面59aをなしており、また、被係合部59の下面側に、ロアー部材50の軸心と直交する向きとなる、被係合面59bが形成されている。ただし、被係合部の個数は特に限定されず、また、被係合部の形状も、図2(b)や図5に示す、アッパー部材70に設けた弾性係合片80に係合可能であればよい。
【0021】
また、図1図6に示すように、前記中間弁体組付部55は、その上方外周から環状突部55aが突設され、上部中央から支持突部55bが突設された構造となっている。この中間弁体組付部55の外周には、中間弁体60が装着される。この中間弁体60は上方が閉塞し、その外周に枠状をなした複数の係止枠61を設けた、略ハット状をなしている。
【0022】
そして、中間弁体60の上方中央が、前記支持突部55bに支持され、複数の係止枠61の下端内側の爪部61a(図6参照)が、前記環状突部55aに係合可能とされており、中間弁体組付部55に対して中間弁体60が傾動可能に装着される。なお、この中間弁体60は、図7に示すように、常時はシール部材90の軸部91の下端に当接しており、図8に示すように、シール部材90が仕切壁23の開口25に当接して閉塞した状態で、ロアー部材50がガタついても、シール部材90の軸部91を常に支持することで、シール部材90に設けた後述のオリフィス孔91b(図6参照)に対するシール部材90のシール性低下を抑制可能となっている。
【0023】
次に、アッパー部材70について説明する。この実施形態のアッパー部材70は、図2図5、及び図6に示すように、仕切壁23の開口25に接離する天井部71と、この天井部71の裏面(下面)から延出する略円筒状をなした外側壁77と、天井部71の裏面であって、且つ、外側壁77の内側から延出された弾性係合片80とを有している。
【0024】
図2(a)に示すように、前記天井部71は略円板状をなしており、その外周縁部から内径方向中央に向かって、すり鉢状をなすように次第に下降する斜面72が形成されていると共に、径方向中央部がやや盛り上がった隆起部73をなしており、この隆起部73の中央に円形状の支持孔74が形成されている。
【0025】
図6に示すように、前記支持孔74には、シール部材90の軸部91が挿入される。このシール部材90は、先端外周に突部91aを設けた軸部91と、該軸部91の基端周縁から環状に広がったシールフランジ93とからなり、ゴムや弾性エラストマー等の弾性材料で一体形成されている(図6参照)。また、軸部91の下端中央部には、小径のオリフィス孔91bが形成されている。そして、軸部91を前記支持孔74の表側から挿入し、同支持孔74の裏側周縁に突部91aを係止させることで、天井部71の表面(上面)側にシールフランジ93が配置された状態で、アッパー部材70にシール部材90が装着される。
【0026】
また、図2(a)に示すように、天井部71には、天井部71を貫通する抜け孔75が、複数設けられている。この実施形態の抜け孔75は、天井部71の径方向中央に対して放射状をなすように均等な間隔をあけて、かつ、前記隆起部73の外周から天井部71の外周縁よりもやや手前側に至る長さで、短冊状に延びて形成されている。また、図2図3、及び、図5に示すように、抜け孔75は、弾性係合片80に整合した位置に設けられ、かつ、弾性係合片80に設けた係合孔85(図5参照)に連続するように形成されている。すなわち、図3に示すように、アッパー部材70の軸方向から見たときに、抜け孔75は、天井部71の周方向に対して整合し、かつ、天井部71の径方向に対しても整合し、弾性係合片80の、ロアー部材50側の被係合部59との係合面83a(後述する係合壁83の内面)が、抜け75を介して見える位置に設けられている。なお、抜け孔75としては、例えば、丸孔や角孔、天井部の周方向に沿って延びる長孔等であってもよく、形状は特に限定されず、また、その個数も特に限定されない。
【0027】
一方、図5図6に示すように、前記外側壁77は、略円板状をなした天井部71の裏面側の外周縁から、下方に向けて所定長さで延びる略円筒状をなしている。この外側壁77は、周壁21の内周に設けた複数のガイドリブ27に対して近接配置され、フロート弁昇降時におけるアッパー部材70の昇降ガイドとなっている。ただし、外側壁としては、上記のような筒状に限定されるものではなく、例えば、天井部71の裏面から下方に向けて、複数の柱状片を延出させて、これらを外側壁としてもよく、ハウジングの内周壁に対するガイド性を有するものであればよい。
【0028】
また、上記天井部71の裏面であって、且つ、外側壁77の内側から延出された前記弾性係合片80は、図5図6に示すように、天井部71の裏面の、抜け孔75に整合した位置であって、天井部71の斜面72の最も低い位置(ここでは隆起部73の外周位置)から延設されている。より具体的に説明すると、この実施形態の弾性係合片80は、図2図5に示すように、抜け孔75の裏面の両側縁部から、同抜け孔75を跨ぐようにして所定長さで延びる一対の延出壁81,81と、該一対の延出壁81,81の延出方向先端どうしを連結する係合壁83とからなる略U字枠状をなしている。また、係合壁83の内面は、前記被係合部59の被係合面59bに係合する、係合面83aとなっている。なお、図2(b)に示すように、隣接する弾性係合片80,80の、隣り合う延出壁81,81の基端どうしは、連結壁84により連結されており、それによって各延出壁81の変形が防止されて、強度が確保されるようになっている。
【0029】
そして、略U字枠状をなした弾性係合片80の内側に、前記抜け孔75に対して連続するように、所定長さで延びる長孔状をなした係合孔85が設けられている。また、各弾性係合片80は、前記外側壁77の延出方向先端部よりも突出するように延出されている。更に図5に示すように、複数の弾性係合片80は、それらの最小内径が、ロアー部材50のアッパー部材組付部53の周壁57の外径に適合する大きさとなっている。
【0030】
そして、前記係合孔85の内側に、前記ロアー部材50の突起状をなした被係合部59が入り込んで、ロアー部材50に対してアッパー部材70に所定距離だけ昇降可能に組付けられるようになっている。この実施形態では、ロアー部材50にアッパー部材70を組付けたときに、アッパー部材組付部53の周壁57の外周に、複数の弾性係合片80が配置されるため、これらの周壁57と複数の弾性係合片80とにより、アッパー部材70の昇降動作がガイドされる。なお、アッパー部材70は、ロアー部材50に対して傾動可能ともなっている。
【0031】
また、図6の仮想線に示すように、ロアー部材50のアッパー部材組付部53に、アッパー部材70を組付けるべく、ロアー部材50の被係合部59にアッパー部材70の弾性係合片80の係合孔85を整合させた状態で、アッパー部材組付部53の外周にアッパー部材70を配置し、ロアー部材50に対してアッパー部材70を押し込んでいくときに、弾性係合片80の延出方向先端が被係合部59に押圧されて、弾性係合片80がアッパー部材70の外径方向に撓み、同弾性係合片80の先端が被係合部59を乗り越えると、係合孔85内に被係合部59が入り込むと共に、弾性係合片80が弾性復帰して、被係合部59の被係合面59bに係合可能となっている。すなわち、弾性係合片80は、アッパー部材70の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して、被係合部59に係合する構造となっており、これによりロアー部材50に対してアッパー部材70が、抜け止めされた状態で組付けられる。また、上記のように、ロアー部材50の被係合部59が、弾性係合片80の内側の係合孔85に入り込むことで、ロアー部材50のアッパー部材組付部53に対して、アッパー部材70が回転規制される。
【0032】
なお、図2(b)や図6に示すように、各弾性係合片80の延出方向先端の内側面(係合壁83の先端内側面)には、所定曲率のR状面86が形成されている。このR状面86は、上述したように、アッパー部材組付部53へのアッパー部材70の組付け時に、アッパー部材70を押し込んで弾性係合片80を撓ませるときに、被係合部59のテーパ面59aに当接させやすくして、弾性係合片80を撓ませやすくする。また、各弾性係合片80の延出方向先端の両側面(延出壁81の先端外側面)には、所定角度でカットされた面取部87が形成されている。この面取部87は、ロアー部材50に対してアッパー部材70が傾動する際に、傾動させやすくする。
【0033】
次に、上記構成からなる本発明に係る弁装置10の作用効果について説明する。
【0034】
この弁装置10は、ロアー部材50にアッパー部材70を組付ける際に、弾性係合片80の撓み量を確保しつつ、フロート弁40全体の高さが低くなるようにしたものである。すなわち、ロアー部材50の被係合部59にアッパー部材70の係合孔85に整合させた状態で、アッパー部材組付部53の外周にアッパー部材70を配置し、ロアー部材50に対してアッパー部材70を押し込んでいく。すると、弾性係合片80の係合壁83のR状面86が、被係合部59のテーパ面59aに押圧されて、弾性係合片80がアッパー部材70の外径方向に撓む。その後、弾性係合片80の先端が被係合部59を乗り越えると、係合孔85内に被係合部59が入り込むと共に、弾性係合片80が弾性復帰して、弾性係合片80の係合壁83の係合面83aに、被係合部59の被係合面59bに係合可能となる。
【0035】
上記のように、弾性係合片80は、アッパー部材70の外径方向に撓んだ後に弾性復帰して、ロアー部材50の被係合部59に係合するので、その撓み量を確保するために、ある程度の長さが必要とされる。これに関して、この弁装置10においては、弾性係合片80が、アッパー部材70の天井部71の裏面であって、且つ、外側壁77の内側から延出されている。そのため、上記特許文献1のように、円筒状をなした第1弁部の下端から、係合片が延出した構造の場合と比べて、弾性係合片80の長さを確保しやすくなり、アッパー部材70の全体的な高さ(全高)を短くすることができる。
【0036】
ところで、図7には、図示しない燃料タンク内の燃料が少なく、フロート弁40に燃料による浮力が作用せず、仕切壁23の開口25が開口した状態が示されている。この状態から、燃料タンク内に燃料が給油されて、フロート弁40に燃料が浸漬すると、フロート弁40自体の浮力及びスプリング38の付勢力によって、フロート弁40が上昇して、図8に示すように、アッパー部材70に装着されたシール部材90のシールフランジ93が、仕切壁23の開口25の裏側周縁部に当接して、同開口25が閉塞されるようになっている。この際、図7に示すように、シール部材90のシールフランジ93が、開口25の裏側周縁部に押圧されて、シールフランジ93が略への字をなすようにやや撓み変形した状態で、開口25を閉塞する。その結果、燃料タンク内の圧力が上昇し、給油が停止されて、いわゆる満タン規制がなされることになる。
【0037】
フロート弁40の浮力は、主としてロアー部材50が燃料液面下に浸漬することによって得られるので、ロアー部材50に対するアッパー部材70の突出高さが、シール部材90が仕切壁23の開口25に到達するときの燃料液面の高さに影響する。すなわち、ロアー部材50に対してアッパー部材70が高く突き出ていると、フロート弁40のシール部材90が、仕切壁23の開口25に当接して開口25が閉塞されるタイミングが早くなり、燃料タンク内への燃料の給油量を規制する液面の高さ、いわゆるロックポイントが低くなるので、燃料タンク内への燃料供給量がその分だけ少なくなる。一方、アッパー部材70の高さを抑えて、ロアー部材50に対するアッパー部材70の突き出し量を低くすると、フロート弁40のシール部材90が、仕切壁23の開口25に当接して開口25が閉塞されるタイミングが遅くなり、ロックポイントが上昇して、燃料タンク内への燃料供給量がその分だけ多くなる。
【0038】
この弁装置10においては、上述したように、アッパー部材70の全体的な高さを低くすることができるので、フロート弁40の全体の高さを低くすることができると共に、ロアー部材50に対するアッパー部材70の突き出し量が低くなるので、上記ロックポイントを高くすることができ、燃料タンク内への燃料の供給量を高めることが可能となる。また、ロックポイントを高くすることができるので、燃料タンクの満タン検知液面をタンク上方に設定することができ、薄型タンク等にも適用しやすくなり、タンクレイアウト性を向上させることができる。
【0039】
なお、この記実施形態における弁装置10は、上述したように、燃料タンク内の液面が設定された満タン液面に達すると、開口25を閉塞して、それ以上の過給油を防止する、いわゆる満タン規制弁として機能するが、フロート弁40が、燃料の揺動等によって燃料タンク内の液面が異常に上昇したときに、開口25を閉塞して、燃料の外部漏出を防ぐ、いわゆる燃料流出防止弁として機能してもよい。
【0040】
例えば、車両が、カーブを曲がったり、凹凸のある道や坂道等を走行したり、或いは、事故によって転倒したり反転したりして、燃料タンク内の燃料が揺動して燃料液面が上昇すると、スプリング38の付勢力及びフロート弁40自体の浮力によって、フロート弁40が上昇して、シール部材90のシールフランジ93が開口25の裏側周縁部に当接して、同開口25を閉塞するので、燃料が開口25を通じて通気室R内に流入することが阻止されて、燃料タンク外部への燃料漏れを防止することができる。
【0041】
ところで、上述したように、車両がカーブを曲がったり、凹凸のある道や坂道等を走行して揺動すると、燃料タンク内の燃料も揺動して、ハウジング15の通気溝21aを介して弁室V内に流入して、アッパー部材70の天井部71の表面上に溜まってしまうことがあった。このような場合であっても、この実施形態における弁装置10の場合、アッパー部材70の天井部71には、天井部71を貫通する抜け孔75が、弾性係合片80に整合した位置に設けられているので、アッパー部材70の天井部71の表面上に溜まった燃料が、図8の矢印に示すように、抜け孔75から弾性係合片80を伝わって、ロアー部材50側に排出することができ、仕切壁23の開口25からの燃料漏れを抑制することができる。
【0042】
また、抜け孔75を設けたことによって、天井部71の表面と、シール部材90のシールフランジ93の裏面とが密着しにくくなるので、シールフランジ93が、天井部71の表面に貼り付くことを防止することができ、シールフランジ93の撓み変形能を維持することができる。このため、図8に示すように、シールフランジ93が撓み変形した状態で、仕切壁23の開口25の裏側周縁に当接させることができ、開口25とシールフランジ93とのシール性を維持することができる。
【0043】
更にこの実施形態においては、弾性係合片80は、ロアー部材50の被係合部59が係合する係合孔85を有しており、天井部71に設けた抜け孔75は、弾性係合片80の係合孔85に連続するように形成されている。そのため、抜け孔75を弾性係合片80に沿って速やかに落下させることができ、アッパー部材70の天井部71の表面上に溜まった燃料を、より迅速にロアー部材50側に排出することができる。また、弾性係合片80を撓みやすくさせて、その長さを短くすることができ、アッパー部材70の高さをより低くすることができる
【0044】
また、この実施形態においては、弾性係合片80は、アッパー部材70の外側壁77の延出方向先端部よりも突出するように延出されているので、外側壁77と弾性係合片80との間に燃料が溜まったとしても、この燃料を、弾性係合片80を伝わせて、外側壁77と弾性係合片80との間から確実に排出することができ、仕切壁23の開口25からの燃料漏れを抑制することができる。
【0045】
更に、この実施形態においては、アッパー部材70の天井部71には、その内径方向に向かって下降するような斜面72が形成されており、各弾性係合片80は、天井部71の、斜面72の最も低い位置から延出されているので、アッパー部材70の天井部71の表面上に溜まった燃料を、斜面72を介して抜け孔75の底部側へとスムーズに案内して、燃料をロアー部材50側に効率的に排出することができ、仕切壁23の開口25からの燃料漏れを、より確実に抑制することができる。
【0046】
また、この実施形態においては、外側壁77の内側に弾性係合片80が設けられているので、ロアー部材50にアッパー部材70を組付けるときに、外側壁77を把持しつつアッパー部材70を押し込んで、弾性係合片80を撓ませながら組付けることができ、組付け作業性を向上させることができる(外側壁77がない場合、例えば、撓み変形する弾性係合片を把持しつつ押し込む必要があるため、組付けしにくい)。更に、弾性係合片80の外側に外側壁77が位置するので、外力や衝撃力等によって、ロアー部材50の被係合部59から弾性係合片80が外径方向に撓もうとしても、その撓みが規制されるので、ロアー部材50からアッパー部材70を外れにくくすることができ、ロアー部材50にアッパー部材70をしっかりと抜け止め保持することができる。また、外側壁77が燃料により膨潤しても、その内側に位置する弾性係合片80には影響しにくく、弾性係合片80を膨潤しにくくして、アッパー部材70のガタツキ等を抑制することができる。更に、弾性係合片80は、外側壁77の内側に配置されており、弾性係合片80に設けた係合孔85は、先端側を除いて外側壁77によって覆われているので、衝撃力がアッパー部材70の外部から作用しても、同衝撃力はまず外側壁77に作用して、弾性係合片80に直接作用することを抑制することができる。
【0047】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 燃料タンク用弁装置(弁装置)
15 ハウジング
17 シールリング
20 ハウジング本体
23 仕切壁
25 開口
30 上カバー
35 下キャップ
38 スプリング
40 フロート弁
50 ロアー部材
59 被係合部
60 中間弁体
70 アッパー部材
71 天井部
72 斜面
75 抜け孔
77 外側壁
80 弾性係合片
85 係合孔
90 シール部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8