(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/655 20140101AFI20220119BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20220119BHJP
H01M 10/617 20140101ALI20220119BHJP
H01M 10/643 20140101ALI20220119BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20220119BHJP
H01M 10/6557 20140101ALI20220119BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20220119BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20220119BHJP
H01M 50/30 20210101ALI20220119BHJP
H01M 50/50 20210101ALI20220119BHJP
H01M 50/572 20210101ALI20220119BHJP
【FI】
H01M10/655
H01M10/613
H01M10/617
H01M10/643
H01M10/647
H01M10/6557
H01M10/658
H01M50/20
H01M50/30
H01M50/50
H01M50/572
(21)【出願番号】P 2017219943
(22)【出願日】2017-11-15
【審査請求日】2020-09-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517400166
【氏名又は名称】スカッドエレクトロニクスジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 正一
(72)【発明者】
【氏名】郭 泉増
(72)【発明者】
【氏名】董 澤海
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/125985(WO,A1)
【文献】特開2014-110138(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017586(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/130260(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/068946(WO,A1)
【文献】特開2015-018706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/60 -10/667
H01M 50/20
H01M 50/572
H01M 50/50
H01M 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルがそれぞれ互いに空間的に分離された複数のセル収容部に収容されてなるセルユニットを備え、
前記セルユニットの前記セル収容部のそれぞれが共通の断熱性シートを隔てて共通の排気路に面しており、
前記断熱性シートは前記複数のセル収容部のそれぞれと前記排気路との間に介在する部分に切込みを備え、
熱暴走の発生した前記電池セルから高温ガスが噴出して当該電池セルを収容する前記セル収容部内の圧力が上昇したときに、前記断熱性シートの当該セル収容部と前記排気路との間に介在する部分に設けられている前記切込みが破断して当該セル収容部と前記排気路とを連通させ、前記高温ガスが前記排気路を通じて外部へ排気されるように構成されている、リチウムイオン電池モジュール。
【請求項2】
前記排気路をなす壁面の一部が熱伝導性材料からなる放熱板により構成されている、請求項
1に記載のリチウムイオン電池モジュール。
【請求項3】
前記セルユニットは、複数の電池セルが同じ方向を向いて互いに平行に同一平面内に配列された状態で共通のセルボックス内に収容され、当該セルユニットの少なくとも一方の面側が絶縁性カバーで覆われているものであり、
前記絶縁性カバーは、前記電池セルのそれぞれの一端に対応する位置に前記電池セルの前記一端をそれぞれ露出させる開口部をもち、
前記断熱性シートは、前記絶縁性カバーの上面を覆って前記開口部を封止しており、
前記断熱性シートの前記開口部のそれぞれに対応する位置に前記切込みが設けられている、請求項
1又は
2に記載のリチウムイオン電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池モジュールの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやスマートフォンといった製品の電力供給源としてリチウムイオン電池モジュールがよく利用されているが、電池モジュールからの発火による事故が問題となっている。電池モジュールからの発火は、主に電池モジュールの電池セル内で陽極と陰極が短絡し、それによって電池セルの異常温度上昇を経て熱暴走が発生することが原因となっている。
【0003】
そこで、電池セルの熱暴走を抑制するために種々の対策が提案されている(特許文献1を参照。)。しかし、電池セルの内部構造の改善等によって熱暴走を確実に防止することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電池セルの内部短絡に起因した熱暴走、又は熱暴走の連鎖や発火を抑制することができる構造を有するリチウムイオン電池モジュールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リチウムイオン電池モジュールの熱暴走、又は熱暴走の連鎖や発火を抑制するための形態として2つの形態を有する。第1の形態は、電池セルの熱暴走を抑制するという観点からなされたものであり、第2の形態は、リチウムイオン電池モジュール内の一部の電池セルで熱暴走が発生してもその熱暴走が他の電池セルに連鎖することを抑制するという観点からなされたものである。
【0007】
本発明に係るリチウムイオン電池モジュールの第1の形態は、複数の電池セルが同一方向を向いて互いに平行に同一平面内に配列された状態で共通の熱伝導性のセルボックス内に収容されてなるセルユニットを備えたものであって、前記セルボックスは前記電池セルのそれぞれを個別に収容するセル収容部を有し、それぞれの前記電池セルの熱が前記セルボックスに伝達されるように前記セル収容部の内面が前記電池セルのセルボディと接している。ここで、「熱伝導性のセルボックス」とは、例えばアルミニウムなど、熱伝導率の良好な素材で構成されたセルボックスであることを意味する。
【0008】
すなわち、本発明の上記第1の形態では、熱伝導性のセルボックスに複数の電池セルを収容して電池セルよりも大きな熱容量をもつ一体のセルユニットとし、セルユニット内の一部の電池セルの温度が上昇したときにセルボックスでその熱を吸収し、一部の電池セルの急激な温度上昇を抑制する。
【0009】
ところで、一部の電池セルの温度が上昇した場合、その電池セルの近傍に収容されている電池セルがその熱の影響を受けて熱暴走する可能性も考えられる。そこで、上記第1の形態では、前記セルユニットにおいて互いに隣り合う前記電池セルのセルボディの間に、それらの前記電池セルのセルボディ間の熱伝達効率を低下させるための空気層又は断熱層が形成されていてもよい。そうすれば、特定の電池セルの温度が上昇したときに、その電池セルと隣り合う電池セルがその熱の影響を受けて熱暴走することが抑制される。
【0010】
上記第1の形態では、隣り合う前記セルユニットの互いの前記電池セルの向きが逆になるように複数の前記セルユニットが同一平面内に配列されており、互いに隣り合う2つの前記セルユニットのすべての前記電池セルを電気的に接続するための接点板が設けられ、前記接点板により、同一の前記セルユニットのすべての前記電池セルが互いに並列に接続され、隣り合う2つの前記セルユニットの前記電池セルが互いに直列に接続されているようにしてもよい。そうすれば、複数のセルユニットを平面的に配列しながらそれらのセルユニットを直列に接続して、用途に応じた電圧供給能力を提供することが可能になる。
【0011】
上記の場合の好ましい実施態様では、前記セルユニットの少なくとも一方の面側が絶縁性カバーで覆われており、前記絶縁性カバーは、前記電池セルのそれぞれの一端に対応する位置に前記電池セルの前記一端をそれぞれ露出させる開口部をもち、隣り合う前記セルユニットの前記セルボックスの外面同士が互いに接触しないように構成されている。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池モジュールの第2の形態は、複数の電池セルがそれぞれ互いに空間的に分離された複数のセル収容部に収容されてなるセルユニットを備え、前記セルユニットの前記セル収容部のそれぞれが開口部を有する接点板、断熱性の封止部材を隔てて共通の排気路に面しており、熱暴走の発生した前記電池セルから高温ガスが噴出して当該電池セルを収容する前記セル収容部内の圧力が上昇したときに、当該セル収容部と前記排気路との間に介在する前記封止部材が開口して当該セル収容部と前記排気路とを連通させるように構成され、前記高温ガスが前記排気路を通じて外部へ排気されるように構成されている。
【0013】
すなわち、本発明の上記第2の形態では、セル収容部のそれぞれが開口部を有する接点板、断熱性の封止部材を隔てて共通の排気路に面するようにし、熱暴走の発生した電池セルから高温ガスが噴出して当該電池セルを収容するセル収容部内の圧力が上昇したときにそのセル収容部と排気路との間に介在する封止部材が開口し、セル収容部内の高温ガスが排気路を通じて外部へ排気される。このとき、他のセル収容部と排気路との間には断熱性の封止部材が開口することなく介在しており、排気路を流れる高温ガスによる影響が他のセル収容部内に収容されている電池セルに及ばないように構成されている。
【0014】
上記第2の形態では、前記排気路をなす壁面、又は壁面の一部が熱伝導性材料からなる放熱板により構成されていることが好ましい。そうすれば、排気路を流れる高温ガスの熱を放熱板によって冷却することができ、発火のリスクを下げる事ができる。更には、放熱板の端部を折り曲げるなどして排気通路を狭くし、モジュール外部からの酸素流入を制限する事で、発火のリスクを下げる事ができる。
【0015】
また、前記セルユニットが、複数の電池セルが同一方向を向いて互いに平行に同一平面内に配列された状態で共通のセルボックス内に収容され、当該セルユニットの一方の面側が絶縁性カバーで覆われているものである場合、前記絶縁性カバーにおいて前記電池セルのそれぞれの一端に対応する位置に前記電池セルの前記一端をそれぞれ露出させる開口部を設け、前記絶縁性カバーの上面を覆って前記開口部を封止する断熱性シートを前記封止部材として用い、前記断熱性シートの前記開口部のそれぞれに対応する位置に、前記セル収容部内の圧力が上昇したときに破断する切込みを設けることによって、上記第2の形態を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記第1の形態では、熱伝導性のセルボックスに複数の電池セルを収容して電池セルよりも大きな熱容量をもつ一体のセルユニットとし、一部の電池セルの温度が上昇したときにセルボックスでその熱を吸収することで、一部の電池セルの急激な温度上昇が抑制されるので、電池セルの熱暴走の発生が抑制される。
【0017】
本発明の上記第2の形態では、熱暴走の発生した電池セルから高温ガスが噴出して当該電池セルを収容するセル収容部内の圧力が上昇したときにそのセル収容部と排気路との間に介在する封止部材が開口し、セル収容部内の高温ガスが排気路を通じて外部へ排気される一方で、他のセル収容部と排気路との間には断熱性の封止部材が開口することなく介在し、排気路を流れる高温ガスによる影響が他のセル収容部内に収容されている電池セルに及ばないように構成されているので、一部の電池セルで熱暴走が発生しても他の電池セルで連鎖的に熱暴走が発生することが抑制される。さらに、前記排気路をなす壁面、又は壁面の一部を熱伝導性材料からなる放熱板により構成する事で、発火のリスクを下げる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】電池セルの熱暴走を抑制する構造を有するセルユニットの一実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のX-X位置における断面図である。
【
図2】同実施例のセルユニットのセルボックスを示す図であり、(A)は斜視図、(B)は(A)のY-Y位置における断面図、(C)は裏面側の斜視図である。
【
図3】セルボックスの構造の他の例を示すための図であり、(A)は溝によって形成される空気層を示す断面図であり、(B)及び(C)はそれぞれ異なるセル収容部の配置に対する溝の位置を示す平面図である。
【
図4】セルボックスの構造のさらに他の例を示すための図であり、(A)は孔によって形成される空気層(断熱層)を示す断面図であり、(B)及び(C)はそれぞれ異なるセル収容部の配置に対する孔の位置を示す平面図である。
【
図5】2つのセルユニットを平面的に配置して直列接続する実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【
図6】多数のセルユニットを平面的に配置して直列接続する実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)はそれによって実現される電池モジュール内の回路構成図である。
【
図7】電池セルの熱暴走の連鎖を抑制する構造を有するリチウムイオン電池モジュールの一実施例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【
図10】同実施例により熱暴走の連鎖が抑制される概念を説明するための概念図である。
【
図11】同実施例の断熱性シートの切り込みの他の例を示す図であり、(A)は断熱性シートの平面図、(B)は開口した断熱性シートからの高温ガスの流れ方向を示す概念図である。
【
図12】角型の電池セルを用いて熱暴走の連鎖を抑制する構造のリチウムイオン電池モジュールを構成する概念を説明するための図であり、(A)は角型の電池セルの斜視図であり、(B)、(C)はリチウムイオン電池モジュールを構成する途中の段階を示す斜視図である。
【
図13】(A)は
図12(B)、(C)によって構成されたセルユニットの構造を示す斜視図であり、(B)はその構造によって熱暴走の連鎖が抑制される概念を説明するための図である。
【
図14】ポリマー電池セルを用いて熱暴走の連鎖を抑制する構造のリチウムイオン電池モジュールを構成する概念を説明するための図であり、(A)はポリマー電池セルの斜視図であり、(B)はリチウムイオン電池モジュールを構成する途中の段階を示す斜視図であり、(C)はその構造によって熱暴走の連鎖が抑制される概念を説明するための図である。
【
図15】直列に接続したセルユニットの構造の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池モジュールの実施形態について説明する。
【0020】
図1及び
図2に、リチウムイオン電池モジュールを構成するセルユニットの構造の一例を示す。
【0021】
セルユニット1は複数のセル収容部4を有するセルボックス2と、各セルボックス2内にそれぞれ収容された複数の電池セル10と、セルボックス2の外面の一部を覆うようにセルボックス2に取り付けられた絶縁性カバー14と、を備えている。
【0022】
セルボックス2のセル収容部4は、セルボックス2の一方の面側に電池セル10を挿し込むための開口をもつ凹部である。セル収容部4の底面には、セル収容部4の内径よりも小さい内径の開口部8が設けられている。電池セル10は一端に陽極12を有する円柱型セルであり、各電池セル10は陽極12がセル収容部4の開口側(
図1(B)において上側)を向くようにして、セル収容部4内に嵌め込まれている。開口部8は各電池セル10の陰極を露出させるためのものである。
【0023】
絶縁性カバー14は、セルボックス2の外面のうちセル収容部4の開口が設けられている面側、すなわち電池セル10の陽極側を覆うように、セルボックス2に取り付けられている。以下では、セルユニット1のうち、絶縁性カバー14で覆われている側を「陽極側」、絶縁性カバー14からセルボックス2が露出している側を「陰極側」と称する。
【0024】
絶縁性カバー14には、電池セル10の陽極を露出させるための開口部16が設けられている。開口部16の内径はセル収容部4の内径よりも小さく設計されている。
【0025】
セルボックス2は、例えばアルミニウムなど良好な熱伝導性を有する金属材料により構成されている。絶縁性カバー14は、例えばシリカなどの絶縁性材料により構成されている。
【0026】
セルボックス2のセル収容部4の内径は電池セル10のセルボディの外径と略同一に設計されており、電池セル10とセルボックス2との間で良好に熱伝達がなされるように構成されている。これにより、一部の電池セル10の温度が上昇したときに、その電池セル10の熱をセルボックス2の全体で吸収し、一部の電池セル10が突出して温度上昇することが抑制される。これにより、電池セル10の熱暴走が抑制される。
【0027】
また、
図3に示されているように、セル収容部4の内周面のうち隣接するセル収容部4との間に介在する壁面に溝22を設け、互いに隣り合うセル収容部4に収容された電池セル10の間に空気層が形成されるようにしてもよい。これにより、一部の電池セル10の温度が上昇したときにその近傍の電池セル10への影響を小さくすることができる。
【0028】
図3の構造と同様の効果は、
図4に示されているように、互いに隣接するセル収容部4の間の隔壁に穴24を設けることによっても得られる。そのような穴24内に断熱性材料を充填するなどして、互いに隣り合うセル収容部4に収容された電池セル10の間に断熱層が形成されるようにしてもよい。
【0029】
この実施例のリチウムイオン電池モジュールは、
図5に示されているように、2つのセルユニット1を互いに陽極側と陰極側の向きが互いに反対になるようにして同一平面上に並べ、一方のセルユニット1の陽極側の面に開口部16を介して露出した電池セル10の陽極と他方のセルユニット1の陰極側の面に開口部8を通じて露出した電池セル10の陰極とを、一枚の平板状の接点板26を用いて導通させることで、複数の電池セル10の並列接続からなる2つのセルユニット1を直列に接続することができる。接点26の各開口部8、16に相当する位置には、電池セル10の陽極12又は陰極と接点をとるための接点端子28が設けられている。
【0030】
図5のように平面的に並べられたセルユニット1のうち一方のセルユニット1のセルボックス2が露出している部分には他方のセルユニット1の絶縁性カバー14が当接するようになっており、互いのセルボックス2同士が接触して電気的に導通することがないように構成されている。
【0031】
上記の配列及び接続方法を用いれば、
図6に示されているように、より多数のセルユニット1を平面的に並べて直列に接続することができる。平面的に配列されるセルユニット1の個数は、必要とされる供給電圧の大きさによって決定されるものである。
【0032】
なお、以上において説明した実施例では、セルユニット1の陽極側にのみ絶縁性カバー14が設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、
図15に示されているように、陰極側にも絶縁性カバー14’を設けてもよい。この場合、絶縁性カバー14’に、電池セル10の陰極を露出させるための開口部16’を設けることが好ましい。
【0033】
次に、電池セル10の熱暴走の連鎖を抑制する構造を有するリチウムイオン電池モジュールの一実施例について説明する。
【0034】
図7に示されているように、この実施例のリチウムイオン電池モジュール100は、
図6のように、平面的に配列されて互いに直列に接続された複数のセルユニット1が外枠102と2枚の放熱板104からなる筐体内に収容されている。なお、セルユニット1の個数はいくらでもよく、1つのみであってもよい。
【0035】
図8に示されているように、セルユニット1の陽極側の面及び陰極側の面に断熱性シート106が封止部材として貼られている。セルユニット1の陽極側の面と陰極側の面のそれぞれに設けられた開口部16及び8は断熱性シート106によって封止されている。断熱性シート106としては、500~600℃以上の耐熱性を有するシート状の部材、例えばシリカエアロゲルと繊維で構成されたシート状の素材であるNASBIS(パナソニック株式会社の製品)を用いることができる。この他、シリカクロス、グラスウール、グラスファイバーからなる部材を用いることもできる。
【0036】
図9に示されているように、このリチウムイオン電池モジュール100は、陽極側の面及び陰極側の面に断熱性シート106が貼られ外枠102の内側にはめ込まれたセルユニット1の陽極側と陰極側に2枚の放熱板104を固定して構成されている。
【0037】
図7に示されているように、セルユニット1の陽極側の面及び陰極側の面に貼られた断熱性シート106と放熱板104との間には僅かな隙間が形成され、この隙間が外枠102と放熱板104との間に設けられた隙間(図示は省略)を介して筐体の外部へ通じる排気路108を構成する。排気路108を構成する隙間の間隔は、筐体の外部から空気が流入しにくいような寸法、例えば10mm以下に設定されている。すなわち、セルユニット1に設けられた各セル収容部4は、断熱性シート106を隔てて排気路108に面している。
【0038】
断熱性シート106は、セルユニット1の陽極側の面の開口部16と排気路108との間の位置に切り込み110を備えている。切り込み110は、
図10に示されているように、熱暴走の発生した電池セル10から噴出する高温ガスによってその電池セル10を収容するセル収容部4内の圧力が上昇したときに断熱性シート106を開口させるためのものである。熱暴走の発生した電池セル10を収容するセル収容部4の位置で断熱性シート106が開口すると、電池セル10から噴出した高温ガスが排気路108を通じて筐体の外部へ排出される。他のセル収容部4は依然として断熱性シート106によって封止されているので、熱暴走の発生していない電池セル10が高温ガスに曝されることが防止され、熱暴走の連鎖が抑制される。
【0039】
断熱性シート106は、例えば、接着剤によって接点板26に接着することができる。この場合、セル収容部4内の圧力の上昇によって断熱性シート106を開口させやすくするために、切り込み110が設けられている部分は接着剤による接着がなされないことが好ましい。ただし、断熱性シート106は必ずしも接点板26に接着されている必要はなく、セルユニット1の陽極側の面及び陰極側の面の開口部8,16を封止するように設けられていればいかなる態様であってもよい。例えば、断熱性シート106は、陽極側の絶縁性カバー14に(陰極側カバー14’が設けられている場合は陰極側カバー14’にも)固定されていてもよい。
【0040】
なお、
図8及び
図9では、断熱性シート106には十字型の切り込み110が設けられているが、切り込み110の形状は特に限定されない。また、
図11に示されているように、電池セル10で熱暴走が発生したときにセル収容部4から流出する高温ガスがなるべくセル収容部4の設けられていない方向へ誘導する向きに断熱性シート106が開口するように、切り込み110の形状を工夫してもよい。
【0041】
なお、
図7から
図10に示した実施例では、
図1から
図6を用いて説明したセルユニット1が用いられているが、本発明に係るリチウムイオン電池モジュールは、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、セルユニットを構成するセルボックスは高熱伝導性でなくてもよい。
【0042】
また、本発明による、熱暴走の連鎖を抑制するためのリチウムイオン電池モジュールの構造は、
図12(A)に示されているような角型の電池セル200に対しても適用することができる。例えば、複数の電池セル200を断熱性材料からなる包装容器202内に入れた状態で(
図12(B)を参照)、共通のセルボックス204に同じ向きに収容してセルユニットを構成する(
図12(C)を参照)。
【0043】
この実施例では、包装容器202がセル収容部及び封止部材を構成する。包装容器202の素材としては、500~600℃以上の耐熱性を有するシート状の部材、例えばシリカエアロゲルと繊維で構成されたシート状の素材であるNASBIS(パナソニック株式会社の製品)を用いることができる。この他、シリカクロス、グラスウール、グラスファイバーからなる部材を用いることもできる。
【0044】
電池セル200は一端側に電極や防爆弁が設けられており、電池セル200内で熱暴走が発生したときは一端側の防爆弁から高温ガスが噴出する。そこで、
図13(A)に示されているように、包装容器202の電池セル200の一端側を例えば熱溶着などによって封止し、熱暴走の発生した電池セル200からの高温ガスによって包装容器202内の圧力が急激に上昇したときに封止部分202aが破断して包装容器202が開口するように構成する。
【0045】
包装容器202の封止部分202aと対向するように電池セル200の配列方向に沿って放熱板212を配置して排気路を形成しておくことで、熱暴走の発生した電池セル200からの高温ガスが排気路を通じて外部へ排出され、他の電池セル200は断熱性の放送容器202によって高温ガスから保護される。これにより、電池セル200の熱暴走の連鎖が抑制される。なお、
図13において、206は各電池セル200の電極間を接続するためのケーブルであり、208,210はそのケーブル206の端部に設けられた端子である。
【0046】
さらに、本発明による、熱暴走の連鎖を抑制するためのリチウムイオン電池モジュールの構造は、
図14(A)に示されているような平板型のポリマー電池セル300に対しても適用することができる。例えば、
図14(B)、(C)に示されているように、複数の電池セル300を複数のセル収容部を有するセルボックス302内に個別に格納してセルユニットを構成する。セルユニットの各セル収容部の開口を断熱性シート304によって封止し、さらにその断熱性シート304と対向するように放熱板308を配置する。
【0047】
断熱性シート304のセル収容部の開口の位置に切り込み306を設け、熱暴走の発生した電池セル300からの高温ガスによってセル収容部内の圧力が上昇したときにその位置の断熱性シート304が開口するように構成する。断熱性シート304と放熱板308との間には僅かな隙間を空けておき、断熱性シート304の開口から流出した高温ガスを外部へ排気するための排気路を形成する。これにより、一部の電池セル300で熱暴走が発生しても、他の電池セル300が断熱性シート304によって高温ガスから保護され、熱暴走の連鎖が発生することが抑制される。
【0048】
なお、断熱性シート304の素材として、500~600℃以上の耐熱性を有するシート状の部材、例えばシリカエアロゲルと繊維で構成されたシート状の素材であるNASBIS(パナソニック株式会社の製品)を用いることができる。この他、シリカクロス、グラスウール、グラスファイバーからなる部材を用いることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 セルユニット
2,204,302 セルボックス
4 セル収容部
8,16 開口部
10,200,300 電池セル
12 陽極
14 絶縁性カバー
22 溝(空気層又は断熱層)
24 孔(空気層又は断熱層)
26 接点板
28 接点端子
100 リチウムイオン電池モジュール
102 外枠
104,212,308 放熱板
106,304 断熱シート(封止部材)
108 排気路
110,306 切り込み
202 包装容器(封止部材)