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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】アイロン
(51)【国際特許分類】
   D06F 75/14 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
D06F75/14 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017230271
(22)【出願日】2017-11-30
(65)【公開番号】P2019097751
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390010168
【氏名又は名称】東芝ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】栗林 正人
(72)【発明者】
【氏名】高木 均
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一也
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-262900(JP,A)
【文献】実開平01-168299(JP,U)
【文献】特開2007-089641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 75/00-85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留するタンクと、
前記タンクの流出口から流出した液体を気化させる気化室と、
スチームの噴出孔を有するベースと、をアイロン本体に備え、
前記ベースと共に前記気化室を加熱して、当該気化室で生成したスチームを前記噴出孔から噴出させるアイロンにおいて、
前記アイロン本体が垂直姿勢にあるときに、満液時における前記タンク内の液面が、前記流出口よりも高い位置となるように、前記タンクを形成し、
前記アイロン本体の姿勢変化に連動して、前記噴出孔からのスチームの噴出長を切替える切替え手段をさらに備え、
前記切替え手段は、前記気化室に連通する導液路に設けられて前記気化室に前記液体を滴下するノズルを複数に分岐させ、当該複数のノズルを前記アイロン本体の前後方向に直線状に配置した構成であり、
前記気化室は、前記複数のノズルにそれぞれ対応した複数の気化室に区画して形成されることを特徴とするアイロン。
【請求項2】
前記タンクの内外を連通する置換口を当該タンクに備え、
前記アイロン本体の姿勢を変化させたときに、満液時における前記タンク内の液面が、どの姿勢にあっても前記置換口よりも低い位置となるように、前記置換口を配置したことを特徴とする請求項1記載のアイロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースの掛け面を垂直姿勢にした状態で、スチーマーのように連続した蒸気を噴出するアイロンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のアイロンとして、例えば特許文献1には、ヒータで加熱したベースに2つの気化室を区画して設け、一方の気化室は、タンクから直接供給される水を利用してスチームを発生させる通常スチーム用とし、もう一方の気化室は、タンクからポンプ装置を介して供給される水を利用してスチームを発生させる増量スチーム用として、それぞれの気化室から複数の噴出孔を通して、衣類などの布地にスチームを噴出させるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-202812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すアイロンでは、予めタンクに液体となる水を入れ、タンクの底部に設けたノズル部から通常スチーム用の気化室に水を滴下させて、タンクや気化室やベースを備えた持ち運びの可能なアイロン本体から、スチーム噴出を行なう構成となっている。しかし、ポンプ装置を介さない通常スチームでは、ハンガーに吊るした衣類などに対し、ベースの掛け面が垂直に向い合うようにアイロン本体を垂直姿勢にしても、スチーム孔から衣類に向けてスチームを噴出できない問題があった。
【0005】
その理由を、図15図16に基づき説明する。図15は従来のコードレス式のアイロンとして、給電用の載置台(図示せず)に着脱自在に設けられたアイロン本体201を図示している。アイロン本体201は、底面に掛け面202Aを形成する金属製のベース202と、ベース202の上部を覆う樹脂製のカバー203と、カバー203の上方に固定して設けられる樹脂製の把手204と、液体となる水を貯留する樹脂製のタンク205と、を主な構成要素とする。タンク205は把手204に跨るようにして着脱可能に設けられ、その前面には注液口となる注水口206が開口形成される。注水口206には開閉可能な蓋207が設けられ、この蓋207を開けたときに、タンク205内に水を入れたり、タンク205内から不要水を排出したりすることができる。
【0006】
図16は、アイロン本体201から取り外したタンク205を起立させた状態で、その底面側から見た図である。同図において、タンク205の底面には置換口206とは別な流出口となる滴下口211が開口形成される。タンク205の内部には、滴下口211に臨んで弁装置(図示せず)が組み込まれており、タンク205の上部に設けたスチーム/ドライ切替ボタン212を押すと、ドライ設定となって弁装置が滴下口211を塞ぎ、逆にスチーム/ドライ切替ボタン212を押し上げると、スチーム設定となって弁装置が滴下口211より離れて、滴下口211を開く構成となっている。
【0007】
こうした従来のアイロンでは、前述のスチーム設定でベース202を加熱したときに、タンク205の滴下口211から滴下した水を気化させるための気化室(図示せず)が、ベース202と一体的に設けられる。そのため、アイロン本体201にタンク205を装着して、ベース202を気化室と共に加熱すると、図15に示すように、普段のアイロン掛けでベース202の掛け面202Aが水平となるように、アイロン本体201を水平姿勢に保持した場合には、タンク205の最下部に位置する滴下口211が水没して、滴下口211から気化室へ水が重力で自然に滴下してスチームが発生し、ベース202の掛け面202Aに開口形成した噴出孔(図示せず)から、通常量のスチームが連続して噴出する。
【0008】
ところが図16に示すように、ベース202の掛け面202Aが垂直となるように、タンク205と共にアイロン本体201を垂直姿勢に起立させると、タンク205内部の水Wが、タンク205の後方部へと移動して、滴下口211が満水時の水面WSよりも高い位置となる。そのため、この姿勢ではタンク205の滴下口211から気化室に水が滴下せず、ベース202の掛け面202Aから噴出孔を通してスチームを噴出することができない。
【0009】
引用文献1では、ポンプ装置を介さない通常スチームとは別に、ポンプ装置を介して噴出孔からスチームを噴出させる増量スチームの考えが示されている。しかしこれは、スチーム/ドライ切替ボタン212とは別のボタン(図15のアイロンでは、ショットボタン213)を押して、ポンプ装置を動作させたときにのみ、ベース202の掛け面202Aがどのような姿勢であっても、スチームを間欠的に強制噴出させるもので、スチームを連続して噴出させるには、ポンプ装置を手動から電動に切替える工夫が必要となる。ところがコードレス式のアイロンは、アイロン本体201を載置台から離脱して使用する関係で、アイロン本体201への通電が継続できず、結局はポンプ装置を電動にする工夫を施しても、アイロン本体201が垂直姿勢にあるときに、スチームを連続して噴射することはできなかった。
【0010】
また別な問題として、布団や枕などの寝具や、カーペットなどの敷物を含む織物類に向けて、アイロン本体201から高温のスチームを噴射すると、除菌や、殺虫や、脱臭の効果があることが知られている。しかし、そのためにアイロン本体201の温度設定を「高温」に切替えると、気化室のみならず掛け面202の温度も高温になり、耐熱温度の低い織物類の場合には、織物類から掛け面202をある程度離して、スチームを噴射せざるを得なくなる。そのため、織物類に対する除菌や、殺虫や、脱臭の効果が十分に得られない。
【0011】
さらに、スチームを噴射させながらアイロン掛けを行なうには、掛け面202の温度をある程度上げる必要が有り、例えばポリエステル100%の化学繊維で作られたスラックスやスカートなどでは、当て布をしても、縫い目やポケットの部分にてかりが付いてしまう。こうした耐熱温度の低い化学繊維は、誤ってアイロン本体201の温度設定が「高温」になっていると、アイロン掛けをした部分が溶けるなどの不都合も生じる。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑み、アイロン本体が垂直姿勢となるように起立させても、噴出孔からスチームを連続して噴出できるアイロンを提供することを第1の目的とする。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、気化室の温度を高温に保ちつつ、掛け面の温度を低温にすることが可能なアイロンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、液体を貯留するタンクと、前記タンクの流出口から流出した液体を気化させる気化室と、スチームの噴出孔を有するベースと、をアイロン本体に備え、前記ベースと共に前記気化室を加熱して、当該気化室で生成したスチームを前記噴出孔から噴出させるアイロンにおいて、前記アイロン本体が垂直姿勢にあるときに、満液時における前記タンク内の液面が、前記滴下口よりも高い位置となるように、前記タンクを形成し、前記アイロン本体の姿勢変化に連動して、前記噴出孔からのスチームの噴出長を切替える切替え手段をさらに備え、前記切替え手段は、前記気化室に連通する導液路に設けられて前記気化室に前記液体を滴下するノズルを複数に分岐させ、当該複数のノズルを前記アイロン本体の前後方向に直線状に配置した構成であり、前記気化室は、前記複数のノズルにそれぞれ対応した複数の気化室に区画して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、タンク内に液体を満液状態に入れてあれば、ハンガーにつるした布地に対して、アイロン本体が垂直姿勢となるように起立させても、タンクの滴下口を通して気化室に液体が自然滴下する。そのため、恰もスチーマーのように、噴出孔から布地にスチームを連続して噴出することが可能になる。また、例えばアイロン本体が水平姿勢にあるときには、掛け面全体から噴出孔を通して広範囲に短いスチームを噴出させる一方で、アイロン本体が垂直姿勢にあるときには、掛け面の一部から噴出孔を通して細く長いスチームを噴出させることができ、アイロン本体の姿勢に応じた最適な長さのスチーム噴出が可能となる。そして、アイロン本体1の姿勢変化による水の流れの違いを利用して、複数の気化室に選択的に水を送り込むことができ、さらに効果的なアイロン本体の姿勢に応じた最適な長さのスチーム噴出が可能となる
【0017】
請求項2の発明によれば、タンク内の液体が満液状態であったとしても、アイロン本体の姿勢を変化させる過程で、タンク内の液体が置換口より漏れ出す虞れがなく、噴出孔から布地に無駄なくスチームを噴出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の各実施形態に共通して、前提となる一般的なアイロンの構成を示すアイロン本体の平面図である。
図2】同上、アイロン本体の側面図である。
図3】同上、アイロン本体の側面側から見た縦断面図である。
図4】本発明の第一実施形態のアイロンについて、アイロン本体を模式的に示した斜視図である。
図5】同上、タンクを起立させた状態の底面図である。
図6】第一実施形態の変形例を示すアイロンの斜視図である。
図7】第一実施形態において、アイロン本体を水平姿勢にしたときに、スチームの噴出範囲と長さを示す図である。
図8】同上、アイロン本体を垂直姿勢にしたときに、スチームの噴出範囲と長さを示す図である。
図9】同上、アイロン本体を水平姿勢にしたときに、気化室の蒸気経路を示す要部平面図である。
図10】同上、アイロン本体を垂直姿勢にしたときに、気化室の蒸気経路を示した要部平面図である。
図11】本発明の第二実施形態のアイロンについて、アイロン本体下部の縦断面をあらわした要部斜視図である。
図12】同上、掛け面部材の上面側から見た全体平面図である。
図13】同上、基体の下面側から見た全体底面図である。
図14】本実施形態のアイロンと従来のアイロンについて、気化室から噴出孔に至る蒸気経路を示す要部の縦断面図である。
図15】従来のアイロン(アイロン本体)の斜視図である。
図16】従来のタンクを起立させた状態の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましいアイロンの実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。ここでは先ず、一般的なアイロンの構成を一通り説明した後、各実施形態の特徴部分について詳しく説明する。
【0024】
図1図3は、一般的なアイロンの構成を示したものである。これらの各図において、1はアイロン本体であり、このアイロン本体1は、図示しない給電用の載置台に着脱自在に載置される。アイロン本体1の後部には凹状の受電部2が設けられ、アイロン本体1を載置台に載置して、受電部2を載置台の給電部(図示せず)に嵌合させたときに、載置台からの電源電圧が受電部2を通してアイロン本体1に供給される。このような載置台を中継してアイロン本体1に給電を行なうコードレス式のアイロンに代わり、載置台を用いずに電源電圧をアイロン本体1に直接供給するコード付きのアイロンでも構わない。
【0025】
アイロン本体1は、加熱手段としてヒータ3を埋設した金属製のベース4を下部に備えている。ベース4は、ダイキャスト成形品による基体5の底面に、プレート状の掛け面部材6が具備された構成を有し、掛け面部材6に固着された締結部材7によって、基体5に掛け面部材6が密着固定される。ベース4の内部には、ヒータ3の近傍に位置して気化室8が形成され、この気化室8で生成したスチームを、アイロン本体1の外部に噴出するための複数の噴出孔9が、ベース4の下面をなす掛け面部材6に開口形成される。また、ベース4は金属板状の気化室蓋10を備え、基体5に取付け固定された気化室蓋10により、気化室8の上面が形成される。なお、気化室8はベース4に形成されずに、別体であってもよい。その場合も、気化室8で液体となる水を加熱気化させるために、ヒータ3若しくは別な加熱手段が設けられる。
【0026】
11は、ベース4の上部を覆うように設けられた樹脂製のカバーであり、12はカバー11の上方に固定して設けられ、側面から見て後端を開放した略U字状に形成された把手である。把手12の前方には、液体を貯留するタンクとなるタンク組立体13が、アイロン本体1に対して着脱可能に設けられる。アイロン本体1のタンクとなる容器状のタンク組立体13は、例えば合成樹脂で形成され、上面から見た形状が略U字状で、その両側部が把手11の前端部側から後端部側にかけて跨るように配置される。14は、タンク組立体13の前部に設けられた開閉自在な注水口蓋である。
【0027】
アイロン本体1に対するタンク組立体13のロック機構は、タンク組立体13の一側面にやや突出してタンクロック釦15を設け、タンク組立体13の内部で上下動する昇降体16が、弾性部材であるスプリング17により常時下方に付勢され、昇降体16の上部に突設したロック部18が、把手12の前部に形成した孔部19に係止することで構成される。これにより、スプリング17の付勢に抗してタンクロック釦15を押動操作すると、昇降体16が押し上げられてロック部18と孔部19との係止状態が解除され、アイロン本体1からタンク組立体13を離脱させることが可能になる。ここでは着脱式のタンク組立体13について説明しているが、アイロン本体1と一体の固定式のタンクであってもよい。
【0028】
タンク組立体13の前面には、注液口となる注水口21が開口形成され、この注水口21に臨んで、ヒンジ22を中心として回動する開閉可能な蓋14が設けられる。蓋14の上端部とタンク組立体13の前面との間には、蓋14を指で開けやすくするのに、凹状の指掛け部23が形成される。そして、この指掛け部23に指を差し入れて、ヒンジ22を中心として蓋14をタンク組立体13の前方に回動させると、開放した注水口21からタンク組立体13の内部に液体である水を収容したり、タンク組立体13内の不要水を廃棄したりすることが可能になる。また、蓋14を反対側に回動させると、蓋14が注水口21を密着状態で塞ぐことにより、注水口21からの水の漏出を防止する構成となっている。
【0029】
注水口21を塞ぐ蓋14の中央には、貫通孔となる置換口24が設けられる。置換口24は、タンク組立体13内部の水を気化室8に滴下させるために、タンク組立体13の内外を連通するΦ1mm程度の空気孔として開口形成される。
【0030】
25は、前記把手12と、把手12の上部に配置される把手カバー26との二部品からなるハンドルとしての握り部である。把手部に相当する棒状の握り部25は、アイロン本体1の腹部27との間に空洞28を有しており、握り部25の後部には、アイロン本体1の後部から空洞28に手を差し入れて、握り部25を手で握ることができるように、空洞28に連通する開口部29が開口形成される。つまり、ここでの握り部25は、その後部がアイロン本体1のどの部位にも連結せずに、開口部29を形成して開放した形状を有する。また、ここでいう腹部27とは、タンク組立体13の両側を除く握り部25に対向したアイロン本体1の平坦状の中央上面部を指すものであり、本実施形態では、カバー11上に取付けられる把手12の基部12Aとして形成される。把手12は、この基部12Aの他に、基部12Aの前側でU字状に立上がる連結部12Bと、連結部12Bより後側に延び、握り部25の下面部を形成する延設部12Cとからなり、延設部12Cを把手カバー26で覆うことで、アイロン本体1の握り部25が構成される。
【0031】
31は、タンク組立体13の上部に設けられた操作部で、これはスチーム/ドライ切替レバー31Aや、増量スチーム用のショットボタン31Bや、霧吹き用のミストボタン31Cにより構成される。これとは別に、把手カバー26にも、操作部31となる温度設定/切ボタン31Dが配設される。また、握り部25の上部前側には、表示部として複数のLEDを並べた温度表示ランプ32が設けられており、温度設定/切ボタン31Dによる設定温度や、温度検知手段(図示せず)で検知されるベース4の温度などが温度表示ランプ32で表示される。握り部25の内部には、ヒータ3を適宜通断電制御することにより、ベース4を所定の温度に維持するように制御する温度制御装置33が設けられる。
【0032】
タンク組立体13には、スチーム/ドライ切替レバー31Aに連動する弁装置36の他に、ここには図示しないが、ショットボタン31Bに連動するポンプ装置や、ミストボタン31Cに連動するミスト噴出装置が組み込まれる。注水口21の下方には、ミスト噴出装置の噴出口37が配置され、ミストボタン31Cを押動操作する毎に、タンク組立体13内の水が霧状のミストとして噴出口37から噴出される。またポンプ装置は、ショットボタン31Bの押動操作に連動して、一時的に多量の液体を気化室8へ送り込む液体供給装置として、タンク組立体13の内部に設けられる。
【0033】
タンク組立体13の内部には、注水口21からの水を収容する貯留室39と、温度設定/切ボタン31Dを除く操作部31やその可動機構を収容する機構可動室40とを上下に区画する仕切部材41が設けられる。液体の貯留空間となる貯留室39は、平面視で略U字状をなすタンクケース42と、このタンクケース42の下面開口を塞ぐ平板状のタンクベース43とにより形成され、タンク組立体13の前側で仕切部材41がタンクケース42と一体的に形成される。タンクケース42とタンクベース43は、貯留室39に入れられた水の量を容易に視認できるように、何れも透明な樹脂部材からなり、タンクケース42の左右両側には、非透明な樹脂部材からなる外郭部材44が取り付けられる。
【0034】
弁装置36は、スチーム/ドライ切替レバー31Aの操作に伴い、タンク組立体13の内部で仕切部材41を水密状態で貫通して鉛直方向に可動するニードル機構45と、ニードル機構45の下端に位置して、タンクベース43に装着されたバルブ46とを主な構成要素とする。バルブ46はタンク組立体13の底部に設けられていて、このバルブ46に開口形成した小孔状の流出口となる滴下口47を、開閉装置であるニードル機構45の開閉杆48により開閉し、気化室8への水の供給を制御する構成となっている。この開閉杆48は下端に弁体49を有し、スチーム/ドライ切替レバー31Aの操作と連携して滴下口47を開閉するように、仕切部材41に形成した筒状の支持体50に沿って上下動すると共に、ニードル機構45を構成するスチーム継手52とロックばね53により、上下に固定される。
【0035】
バルブ46の下方には、通常スチームの噴出時に、滴下口47を通過した水の流路となる第1の開口54が設けられる。これとは別に、前述のショットボタン31Bに連動するポンプ装置には、別な第2の開口(図示せず)が設けられ、これらの開口がタンク組立体13の内部に設けた合流部55に連通して、バルブ46とポンプ装置から流出する水を合流するように構成している。
【0036】
弁装置36の下部には、気化室8に連通する導液路たる通水継手58が設けられる。通水継手58はカバー11の上面側に配置され、通水継手58とベース4との間には、ベース4からの熱を遮断する遮熱板59が介在する。この遮熱板59の下方には、気化室8の上面開口部を覆う気化室蓋10が設けられる。61は、通水継手58の途中に設けられたノズルであり、このノズル61を開閉する開閉弁62が、前記遮熱板59と気化室蓋10に共通して設けられた開口部63より、ベース4の上面側に形成した凹状のバイメタル収納部64に向けて下方に突出している。バイメタル収納部64には、感熱応動体に相当する反転式のバイメタル65が収容され、バイメタル収納部64の近傍にある気化室8が所定温度に達すると、バイメタル65がバイメタル収納部64の内部で反転し、スプリング66の付勢に抗して開閉弁62を押し上げることにより、ノズル61を開く構成となっている。
【0037】
前述の通水継手58は、タンク組立体13内部の水を気化室8に導くために、ベース4とカバー11との間に配設されるもので、タンク組立体13をカバー11に装着したときに、タンク組立体13の合流部55と通水継手58が連通する。通水継手58の流入口には、開口した合流部55に密着当接する弾性部材としてのオートバルブ68を備える一方で、通水継手58の流出口には、気化室8に臨んでノズル61の下端開口となる水出口69を有する。
【0038】
ベース4の基体5には、加熱手段となるヒータ3が上面から見て略U字状に屈曲して埋設され、基体5の上面側には、スチームを発生させるための気化室8が、ヒータ3の近傍に形成される。気化室8は、基体5の上面に形成した凹部71の上部開口を、気化室蓋10で覆うことで密閉して形成される。気化室8の出口には、基体5と掛け面部材6との間の蒸気空間72に連通して、一乃至複数の蒸気排出孔(図示せず)が形成される。掛け面部材6の裏面側には、図示しない布地などに当接する水平で略平坦なベース4の掛け面73と、掛け面73の後端から上方に傾斜する傾斜面74が形成される。蒸気空間37に連通する噴出孔9は、掛け面73のほぼ全域に分散して、掛け面部材6に複数開口形成される。
【0039】
握り部25の内部に設けた温度制御装置33は、温度設定/切ボタン31Dを構成する設定釦76のスイッチ部77や、温度表示ランプ32に相当する複数の発光ダイオードすなわちLED78の他に、現在の設定温度を記憶保持し、設定釦76の設定を可能にするコンデンサなどの蓄電装置79などを、パターン配線を施した基板81の上面に実装して構成される。LED78の光は、握り部25の表面に貼付されたシート状の温度表示銘板82を透過し、現在の設定温度を表示する構成となっている。
【0040】
上記構成において、特にスチーム機能に関する作用を説明すると、蓋14を開閉して、注水口21より所定量の水をタンク組立体13の貯留室39に収容し、そのタンク組立体13をアイロン本体1の前方にセットする。続いて、アイロン本体1を載置台に載置し、アイロン本体1に電源電圧を供給している給電状態で、温度設定/切ボタン31Dを押動操作し、アイロン掛けの対象物となる布地に合わせた温度を設定する。これによりアイロン本体1の内部では、温度検知手段で検知されるベース4の温度が、温度設定/切ボタン31Dで設定した温度に近付くように、温度制御装置33がヒータ3を通断電制御して、気化室8を含むベース4を加熱する。
【0041】
ここで使用者がスチーム機能を利用する場合は、スチーム/ドライ切替レバー31Aを「スチーム」側に切替えると、それに連動して弁装置36のニードル機構45を構成する開閉杆48が上昇し、弁体49が滴下口47から離れて滴下口47を開く。このとき、気化室8が所定温度に達していれば、バイメタル65が反転してノズル61が開いた状態となり、タンク組立体13の貯留室39に収容した水が、滴下口47からノズル61を通して気化室8に滴下する。そのため、加熱した気化室8で水が気化されて、ベース4の掛け面73から噴出孔9を通して、通常量のスチーム(通常スチーム)を噴出させることができる。
【0042】
また、スチーム/ドライ切替レバー31Aを「ドライ」側に切替え操作すると、開閉杆48が下降して弁体49が滴下口47を閉塞し、タンク組立体13の貯留室39から気化室8への水の流通が遮断される。したがって、この場合は全ての噴出孔9からスチームが噴出しないドライアイロンとして、アイロン本体1を使用できる。
【0043】
なお、ヒータ3によりベース4への加熱を開始した直後は、ベース4が水の気化温度にまで到達せず、ベース4に装着されたバイメタル65は復帰状態にあって、ノズル61は開閉弁62により閉塞される。したがってこの場合は、スチーム/ドライ切替レバー31Aを「スチーム」側に切替えた状態でも、タンク組立体13内からの水の流通は通水継手58で遮断され、そこから先の噴出孔9から、アイロン掛け時などに気化されない湯滴が噴出するのを防止できる。
【0044】
スチームの噴出を一時的に増量させるいわゆるショット噴出を行なうには、前述の気化室8が所定温度に達している状態で、タンク組立体13の上部に突出したショットボタン31Bを押動操作する。ショットボタン31Bが押し上げられた状態では、タンク組立体13の内部で、貯留室39に貯留した水がポンプ装置の内部に吸込まれており、そこから使用者がショットボタン31Bを押動操作して、ポンプ装置を手動で動作させると、ポンプ装置の内部に貯えられた水が、合流部55を通して一気に気化室8に吐出される。これにより、加熱した気化室8でポンプ装置からの水が一度に気化され、ベース4の掛け面73から噴出孔9を通して、通常スチームよりも勢いのある多量のスチーム(増量スチーム)を噴出させることができる。
【0045】
次に、図4図5に基づき、本発明の第一実施形態におけるアイロンの構成を説明する。先ず、アイロン本体1の外観を模式的に示す図4において、ここでは、タンク組立体13の貯留室39に満水状態で水Wを入れた場合に、アイロン本体1を垂直姿勢に直立させても、貯留室39の底部に設けた滴下口47が水Wに浸されて冠水するように、タンク組立体13の前方部の容積を拡大させた膨出部101を形成している。膨出部101は外郭部材44の一部として、アイロン本体1の前方に向けて突き出すように、タンク組立体13の前端部からほぼ垂直に立ち上がる直立面102と、直立面102の上端から握り部25の上面に向けてほぼ同じ高さで水平に延びる天井面103と、直立面102および天井面103の左右端から垂直に伸びる側壁面104と、により囲まれて形成される。
【0046】
膨出部101の内部は、水Wを貯留する貯留室39として形成されており、直立面102には透明なスリット状の水位窓105が縦方向に形成される。また天井面103の前方には、貯留室39内の水を出し入れする注水口21が開口形成され、この注水口21を覆うように、ヒンジ(図示せず)を中心に回動する開閉可能な蓋14が設けられる。図4は、貯留室39に貯留する満水状態の水Wの水面WSが図示されているが、本実施形態では、膨出部101の直立面102に設けた水位窓105により、アイロン掛けの途中でもアイロン本体1を水平姿勢にしたまま、貯留室39内の水量を視認することができる。
【0047】
なお図4では、操作部31の一部(スチーム/ドライ切替レバー31Aや温度設定/切ボタン31D)や温度表示ランプ32などが省略されているが、本実施形態でも前述した一般的なアイロンと同等の構成や機能を有するものとする。
【0048】
図5は、アイロン本体1から取り外したタンク組立体13を起立させた状態で、その底面側から見た図である。タンク組立体13の底部には、貯留室39内の水Wを第1の開口54に導く滴下口47と、第1の開口54に連通して、タンク組立体13内部の水Wを通水継手58に排出する合流部55が、それぞれ配設される。合流部55は前述のように、第1の開口54のみならず、ショットボタン31Bに連動するポンプ装置に設けられた別な第2の開口にも連通する。図5に示すように、タンク組立体13と共にアイロン本体1を垂直姿勢にした状態では、滴下口47と合流部55がほぼ同じ高さに並んで配置される。
【0049】
そして本実施形態でも、アイロンを使用するには、予め注水口21より所定量の水をタンク組立体13の貯留室39に収容し、そのタンク組立体13をアイロン本体1の前方にセットする。続いて、アイロン本体1を図示しない載置台に載置し、温度設定/切ボタン31Dにより布地に合わせた温度を設定すると、その設定した温度にベース4の温度が近付くように、温度制御装置33がヒータ3を通断電制御して、気化室8を含むベース4が加熱される。ベース4が設定した温度に達すると、温度表示ランプ32がその旨を表示するので、握り部25を手で握って、アイロン本体1を載置台より離脱して使用することが可能になる。
【0050】
ここで使用者がスチーム機能を利用する場合は、スチーム/ドライ切替レバー31Aを「スチーム」側に切替えると、それに連動して弁体49が滴下口47から離れ、滴下口47は開状態となる。普段のアイロン掛けでは、図4に示すように、ベース4の掛け面73がほぼ水平となるように、アイロン本体1を水平姿勢に保持して使用するので、滴下口47は合流部55と共に自ずとタンク組立体13の最下部に位置し、貯留室39内の水Wの量に拘らず、その水Wに浸されて冠水する。そのため、アイロン本体1が水平姿勢である場合は、貯留室39内の水Wが滴下口47から合流部55を通して、気化室8へ重力で自然に滴下し、ベース4と共に加熱された気化室8で発生した通常量のスチームが、ベース4の掛け面73から噴出孔9を通して連続して噴出する。
【0051】
一方、例えばハンガーに吊るした衣類にスチームを噴射したい場合は、ベース4の掛け面73が衣類に対向して垂直となるように、タンク組立体13と共にアイロン本体1を垂直姿勢に起立保持させて使用する。このとき図5に示すように、貯留室39に連通する滴下口47は、タンク組立体13の最下部に位置していないが、タンク組立体13の前方部に設けた膨出部101により、貯留室39の容積を拡大させているので、貯留室39に満水状態の水Wが収容されていれば、その水面WSは滴下口47よりも高い位置にあって、滴下口47は貯留室39内の水Wに浸されて冠水し、貯留室39内の水Wが滴下口47を通って、ほぼ同じ高さの合流部55から気化室8へと重力で自然に滴下する。したがって、アイロン本体1を垂直姿勢に起立させても、引き続きベース4の掛け面73から噴出孔9を通して、気化室8で発生した通常量のスチームを連続して噴出させることができる。
【0052】
また、アイロン本体1を水平姿勢から垂直姿勢に変化させたときに、満水時における貯留室39内の水面WSが、どの姿勢にあっても置換口24よりも低い位置となるように、置換口24をタンク組立体13に配置するのが好ましい。つまり、置換口24がアイロン本体1の姿勢変化で冠水しない位置にあれば、貯留室39内の水Wが満たされた状態であっても、アイロン本体1の姿勢を変化させる際に、貯留室39内の水Wが置換口24より漏れ出す虞れがなく、噴出孔9から布地に無駄なくスチームを噴出することが可能になる。
【0053】
図6は、第1実施形態の変形例となるアイロンの全体斜視図である。同図において、ここではアイロン本体1の他に、給電用の載置台91が図示される。アイロン本体1は、載置台91に対し着脱可能に設けられる。また、タンク組立体13の前方部の容積を拡大させるために、ここでは円筒状の膨出部101が上方に延びて設けられる。膨出部101の上端は注水口21として開口形成され、この注水口21を覆うキャップ状の蓋14が、膨出部101に着脱可能に設けられる。その他の構成は、前述したアイロン本体1と共通する。
【0054】
図6に示すアイロン本体1は、図15で示した既存のアイロン本体201の注水口206に、蓋14付きの膨出部101を連結したものと言える。膨出部101は、アイロン本体1を水平姿勢にしたまま、貯留室39内の水量を視認できるようにするために、全体が透明な筒状樹脂部材で形成されるのが好ましい。
【0055】
そしてこの変形例でも、タンク組立体13の前方部に設けた膨出部101により、貯留室39の容積を拡大させているので、貯留室39に満水状態の水Wが収容されていれば、その水面WSは滴下口47よりも高い位置にあって、滴下口47は貯留室39内の水Wに浸されて冠水し、貯留室39内の水Wが滴下口47を通って、ほぼ同じ高さの合流部55から気化室8へと重力で自然に滴下する。したがって、アイロン本体1を垂直姿勢に起立させても、引き続きベース4の掛け面73から噴出孔9を通して、気化室8で発生した通常量のスチームを連続して噴出させることができる。
【0056】
本実施形態では、アイロン本体1を垂直姿勢にした状態で、恰もスチーマーのように噴出孔9から布地にスチームを連続して噴出できるコードレス式のアイロンを提供する。アイロン本体1の使用時には、載置台91からの給電が断たれるが、通常スチームの噴出時には、アイロン本体1を垂直姿勢にしても、貯留室39内の水Wが気化室8に自然に滴下するので、アイロン本体1に電動のポンプ装置を組み込まなくてもよい。つまり本実施形態における自然滴下式のアイロンは、電動ポンプレス構造でありながら、アイロン本体1を垂直姿勢にした状態で、ベース4の掛け面73から噴出孔9を通してスチームを連続して噴出できる。
【0057】
なお、アイロン本体1が垂直姿勢にあるときに、自然滴下で噴出孔9から連続してスチームを噴出させるには、満水時におけるタンク組立体13内の貯留室39における水面WSが、滴下口47よりも高い位置となるように、タンク組立体13の形状を工夫すればよい。これはタンク組立体13の前方部に設けた膨出部101だけでなく、タンク組立体13内の貯留室39全体の形状を見直すことでも達成できる。また、滴下口47の位置をタンク組立体13の後方寄りに設けてもよい。
【0058】
次に、図7図10に基づいて、アイロン本体1の姿勢変化に連動して、噴出孔9から噴出するスチームSの長さを切替える切替え手段111の構造を説明する。ここでは図7に示すように、アイロン本体1を水平姿勢にした場合には、ベース4の掛け面73全周から、広範囲に短いスチームSを噴出できるようにする(全周スチーム)一方で、図8に示すように、アイロン本体1を垂直姿勢にした場合には、ベース4の掛け面73の中央付近から、細く長いスチームSを噴出できるようにして(集中スチーム)、アイロン本体1の姿勢に応じた最適な長さのスチーム噴出が、自動的に実現できるようにする。
【0059】
そのために、本実施形態では図9図10に示すように、ベース4の凹部71と気化室蓋10とにより形成される気化室8を、第1気化室8Aと第2気化室8Bとに区画して形成し、第1気化室8Aは掛け面73の周囲領域に設けられる複数の第1噴出孔9Aに連通させ、第2気化室8Bは掛け面73の中央領域に設けられる複数の第2連通孔9Bに連通させる。これに対応して、通水継手58のノズル61も、合流部55を起点としてそこから第1ノズル61Aと第2ノズル61Bの二つに分岐させ、これらの第1ノズル61Aと第2ノズル61Bを、アイロン本体1の前後方向に直線状に配置することで、前述の切替え手段111を構成する。第1ノズル61Aの下端開口は、第1気化室8Aに臨む第1水出口69Aとして形成され、第2ノズル61Bの下端開口は、第1気化室8Aに臨む第2水出口69Bとして形成される。
【0060】
本実施形態の切替え手段111は、第1ノズル61Aと第2ノズル61Bだけの簡単な構成であり、アイロン本体1の姿勢変化による水の流れの違いを利用して、2つの気化室8A,8Bに選択的に水を送り込む構造となっている。具体的には図9に示すように、アイロン本体1を水平姿勢にすると、第1ノズル61Aと第2ノズル61Bがほぼ同じ高さに位置するので、合流部55から通水継手58に重力で滴下する水が、第1ノズル61Aと第2ノズル61Bの双方に均等に流れ込み、第1気化室8Aと第2気化室8Bにそれぞれ送り出される(図9の白抜き矢印を参照)。したがってこの場合は、第1噴出孔9Aと第2噴出孔9Bを通して、ベース4の掛け面73の全周から広範囲に短いスチームを噴出させることができる。
【0061】
一方、図10に示すように、ベース4の先端を上にして、アイロン本体1を垂直姿勢にすると、合流部55に対して第1ノズル61Aは上方に位置し、第2ノズル61Bは下方に位置するので、合流部55から通水継手58に流れ込む水は、重力で第2ノズル61Bにのみ滴下して流れ、第1ノズル61Aから先には流れない(図10の白抜き矢印を参照)。したがってこの場合は、第2気化室8Bにのみ水が送り出され、第2噴出孔9Bを通して、ベース4の中央部から細く長いスチームを噴出させることができる。
【0062】
このように本実施形態では、アイロン本体1の姿勢に応じて、切替え手段111がベース4の掛け面73から噴出するスチームの範囲と長さを自動的に切り替える。切替え手段111の構造そのものは、第1ノズル61Aと第2ノズル61Bを、アイロン本体1の前後方向に直線状に配置しただけのもので、ボール弁などが不要で部品点数が少なく、レバーなどの煩わしい手動切替えも伴わない。
【0063】
以上のように本実施形態では、液体となる水Wを内部の貯留室39に貯留するタンクとしてのタンク組立体13と、タンク組立体13の流出口となる滴下口47から流出した水Wを気化させる気化室8と、スチームの噴出孔9を掛け面73に有する金属製のベース4と、を持ち運び可能なアイロン本体1に備え、ベース4と共に気化室8を加熱して、その気化室8で生成したスチームを噴出孔9から噴出させるアイロンであって、アイロン本体1が垂直姿勢にあるときに、満液時におけるタンク組立体13内部の液面WSが、滴下口47よりも高い位置となって、滴下口47が水Wに浸された水没状態となるように、タンク組立体13に例えば膨出部101を形成している。
【0064】
この場合、タンク組立体13内部の貯留室39に水Wを満水状態に入れてあれば、ハンガーに吊るした布地に対して、アイロン本体1が垂直姿勢となるように起立させても、タンク組立体13の滴下口47を通して気化室8に水Wが自然滴下する。そのため、恰もスチーマーのように、噴出孔9から布地にスチームを連続して噴出することが可能になる。
【0065】
また本実施形態では、タンク組立体13の内外を連通する置換口24をタンク組立体13に備え、アイロン本体1の姿勢を変化させたときに、満水時におけるタンク組立体13内部の水面WSが、どの姿勢にあっても置換口24よりも低い位置となるように、置換口24を配置するのが好ましい。
【0066】
これにより、タンク組立体13内の水Wが満水状態であったとしても、アイロン本体1の姿勢を変化させる過程で、タンク組立体13内の水Wが置換口24より漏れ出す虞れがなく、噴出孔9から布地に無駄なくスチームを噴出することが可能になる。
【0067】
さらに本実施形態では、アイロン本体1の姿勢変化に連動して、噴出孔9からのスチームSの噴出長を切替える切替え手段111をさらに備えている。
【0068】
この場合、例えばアイロン本体1が水平姿勢にあるときには、掛け面73の全体から第1噴出孔9Aおよび第2噴出孔9Bを通して広範囲に短いスチームを噴出させる一方で、アイロン本体1が垂直姿勢にあるときには、掛け面73の一部から噴出孔9Bを通して細く長いスチームを噴出させることができ、アイロン本体1の姿勢に応じた最適な長さのスチーム噴出が可能となる。
【0069】
次に、図11図13に基づき、本発明の第二実施形態におけるアイロンの構成を説明する。これらの各図において、本実施形態では、ベース4を構成する基体5と掛け面部材6との間に、基体5から掛け面部材6への熱影響を緩和するための、スチームを通さない空気層121を形成している。この空気層121は、基体5の底面から下方に突設したリブ122に周辺を囲まれて、同じく基体5と掛け面部材6との間に形成された蒸気空間72と隔離されている。リブ122は、空気層121のみならず掛け面部材6の周囲にも設けられており、リブ122の上端を基体5との接着面として、基体5と掛け面部材6との接触を面ではなく線にすることで、ここでも掛け面部材6に対する基体5の温度影響を減らすようにしている。
【0070】
なお図12では、気化室8に連通して、掛け面部材6のほぼ全体に複数の噴出孔9を配設しているが、第1実施形態で説明したように、気化室8を第1気化室8Aと第2気化室8Bとに区画形成し、第1気化室8Aは掛け面73の周囲領域に設けられる複数の第1噴出孔9Aに連通させ、第2気化室8Bは掛け面73の中央領域に設けられる複数の第2連通孔9Bに連通させてもよい。
【0071】
本実施形態では、基体5と掛け面部材6との間に設けた空気層121により、基体5と掛け面部材6との間に温度差を持たせて、ベース4の掛け面73の温度(掛け面温度)は120℃程度の低い状態に保ちつつ、気化室8からは200℃以上の高温のスチームを発生させることができるアイロンを提供する。
【0072】
図14は、本実施形態のアイロンと従来のアイロンについて、気化室8から噴出孔9に至る蒸気経路を図示したものである。図中左側に示す従来のアイロンは、気化室8で発生したスチームSが、基体5と掛け面部材6との間に形成された蒸気空間72を通過し、そこから掛け面部材6に開口形成された噴出孔9を通って噴射される。しかしこれでは、高温のスチームが蒸気空間72に充満して掛け面部材6に当接するため、掛け面部材6の温度が上昇して、スチームを噴射していないときの掛け面73の温度と、スチーム噴射時における掛け面73の温度との差が大きくなってしまう。
【0073】
一方、本実施形態の対応策を施したアイロンは、気化室8で生成したスチームが、掛け面部材6に当たることなく噴出孔9から噴出するように、気化室8に連通するスチームの排出部131が、基体5の底面から噴出孔9に向けて、その開口下端が噴出孔9に達するまで凸状に延びて形成されており、基体5と掛け面部材6との間には、スチームが充満するような蒸気空間72は形成されない。そのため本実施形態では、気化室8で発生したスチームSが、排出部131の孔を通過すると、そのまま掛け面部材6に当たることなく、すぐに噴射孔9を通って噴射される。こうして気化室8から噴出孔9に至るスチームの経路を見直すことで、スチーム噴出時に高温のスチームが掛け面部材6に当たって、掛け面部材6の温度差が大きくなるのを防ぐことができ、掛け面73の温度は120℃程度の低い状態に保ちつつ、気化室8からは200℃以上の高温のスチームを発生させることが可能になる。
【0074】
本実施形態における高温のスチーム噴射と低温の掛け面73との組み合わせは、様々な訴求効果が得られる。例えば、耐熱温度の低い織物類であったとしても、その織物類に低温の掛け面73を近づけた状態で、噴出孔9から至近距離で高温のスチームを噴射することが可能になり、織物類に対する除菌、殺虫、脱臭を効果的に行なうことが可能になる。また、化学繊維へのダメージが少ない低温の掛け面73と、噴出孔9からの高温スチームとにより、スラックスやスカートなどの衣類をてからせることなく、衣類に掛け面73を当てながらアイロン掛けを行なうことができる。さらに本実施形態では、どのような布地であっても、掛け面73の温度設定を不要にして、高温のスチームでアイロン掛けを行なうことが可能となり、不意に高温の掛け面73でアイロン掛けが行われないようにすることができる。
【0075】
以上のように本実施形態では、液体となる水Wを気化させる気化室8と、スチームの噴出孔9を有するベース4と、を備え、ベース4と共に気化室8を加熱手段となるヒータ3で加熱して、気化室8で生成したスチームを噴出孔9から布地に向けて噴出させるアイロンにおいて、ベース8は、気化室8を有する基体5と、基体5の底面に固着され、噴出孔9を有する掛け面部材6とにより構成され、基体5と掛け面部材6との間に空気層121を設けている。
【0076】
この場合、空気層121により基体5から掛け面部材6への熱影響が緩和されるので、基体5と掛け面部材6との間に温度差を持たせて、気化室8を含む基体5の温度は高温に保ちつつ、掛け面73の温度を低温にすることができる。そのため、噴出9から噴出する高温(約200℃)のスチームを利用して、織物類への除菌、殺虫、脱臭を効果的に行なったり、化学繊維へのダメージが少ない低温の掛け面73と高温のスチームとにより、衣類をてからせることなくアイロン掛けを行なったり、どのような布地であっても温度設定を不要にして、不意に高温の掛け面73でアイロン掛けが行われる不都合を回避したりすることができる。
【0077】
また、本実施形態の基体5には、気化室8に連通するスチームの排出部131が設けられ、この排出部131は、気化室8で生成したスチームが掛け面部材6に当たることなく噴出孔9から噴出するように、噴出孔9に向けて凸状に形成される。
【0078】
この場合、気化室8で生成されたスチームが、基体5と掛け面部材6との間に充満することなく、すぐに噴出孔9から噴出されるように、ベース4におけるスチームの経路を見直すことで、スチーム噴出時に高温のスチームが掛け面部材6に当たって、掛け面部材6の温度差が大きくなるのを防ぐことができる。
【0079】
また本実施形態では、空気層121を区画形成するリブ122を、基体5に向けて掛け面部材6に配設し、リブ122を線接触で基体5に当接させている。
【0080】
この場合、空気層121を区画形成するリブ122を利用して、掛け面部材6と基体5との接触面を減らして線で接触させることで、掛け面部材6に対する基体5の温度影響を減らして、基体5を高温に維持することが可能になる。
【0081】
以上、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば、第一実施形態と第二実施形態の各特徴部分を組み合わせたアイロンとしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 アイロン本体
4 ベース
5 基体
6 掛け面部材
8 気化室
8A 第1気化室(気化室)
8B 第2気化室(気化室)
9 噴出孔
13 タンク組立体(タンク)
24 置換口
47 滴下口(流出口)
58 通水継手(導液路)
61A 第1ノズル(ノズル)
61B 第2ノズル(ノズル)
111 切替え手
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16