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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】潤滑剤の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/30 20060101AFI20220119BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20220119BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G01N33/30
G01N11/00 B
G01N19/00 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017233213
(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公開番号】P2019100902
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 珠美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 謙一
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-058152(JP,A)
【文献】特開2012-013566(JP,A)
【文献】特開2012-163463(JP,A)
【文献】特開2015-028475(JP,A)
【文献】特開2008-003079(JP,A)
【文献】特開2004-301631(JP,A)
【文献】特開2014-089116(JP,A)
【文献】特開平11-183362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0166827(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/30
G01N 11/00
G01N 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃未満の温度を含む温度範囲で温度が変動する環境下で使用されるための潤滑剤の評価方法であって、
測定室の温度を0℃未満の第1の温度および0℃以上の第2の温度の一方から他方まで変化させながら、前記測定室に配置された潤滑剤の貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度を測定して前記潤滑剤の動的粘弾性を示すデータを取得し、
前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度は、複数種の潤滑剤のそれぞれに対して測定され、
前記複数種の潤滑剤のそれぞれの前記データにおける温度変化による前記貯蔵弾性率の変化量、前記損失弾性率の変化量、および前記粘度の変化量の積を比較することにより、前記環境下での前記潤滑剤の耐久性を評価する、潤滑剤の評価方法。
【請求項2】
前記データは、
前記第1の温度から前記第2の温度まで前記測定室の温度を上昇させながら前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度を測定することにより得られる第1のデータと、
前記第2の温度から前記第1の温度まで前記測定室の温度を下降させながら前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度を測定することにより得られる第2のデータと、を含む、請求項1に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項3】
前記第1の温度から前記第2の温度までの昇温速度は、一定であり、
前記第2の温度から前記第1の温度までの降温速度は、一定である、請求項2に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項4】
前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度は、動的粘弾性装置を用いて測定される、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項5】
前記動的粘弾性装置は、
前記測定室と、
前記測定室の温度を制御する温度制御器と、
前記測定室に設けられた第1のプレートと、
前記第1のプレートに重畳する第2のプレートと、
前記第2のプレートを移動させて前記第1のプレートと前記第2のプレートとの間に配置される潤滑剤の厚さを設定するための移動機構と、
回転方向を順回転および逆回転とで交互に切り替えながら前記第1のプレートを繰り返し回転させて前記潤滑剤に動的応力を与え、前記動的応力に応じて前記潤滑剤に動的ひずみを生じさせるための回転機構と、
前記動的応力を測定する第1のセンサと、
前記動的ひずみを測定する第2のセンサと、
前記動的応力および前記動的ひずみの少なくとも一つから前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度を算出する信号処理部と、を備える、請求項4に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項6】
前記第1の温度は、-15℃以下であり、
前記第2の温度は、15℃以上である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項7】
前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度は、前記潤滑剤が電路用開閉器に使用される前に測定される、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の潤滑剤の評価方法。
【請求項8】
前記貯蔵弾性率、前記損失弾性率、および前記粘度の一つ当たりの測定時間は、10分以下である、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の潤滑剤の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、潤滑剤の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電路用開閉器や機構構造物を構成する操作機構の摺動部や摺動通電部は、グリースや油等の潤滑剤により摩擦摩耗が抑制され、滑らかな動作を実現することができる。しかしながら、上記潤滑剤は装置の使用年数と共に、経年的および通電による酸化劣化や離油、設置環境中の腐食性ガスや環境紫外線、塵埃や砂塵の付着により性状が変化し、潤滑性能が低下する。例えば、グリースの劣化や離油、低温での使用により粘性が低下すると、潤滑部の駆動力に対する抵抗や摩擦力が増大し、機器の動作特性に影響を及ぼす。
【0003】
また、寒冷地で使用される遮断器等の開閉器では、グリースの硬化により開閉動作に遅延が起こりやすいため、低温環境下でも硬化しにくいグリースを使用する必要がある。低温特性が低いグリースを低温環境下で使用する場合、開閉器の起動時および回転時のトルクが大きくなる。グリースの低温特性は、増ちょう剤の種類や量だけでなく、主に基油の流動点(基油を45℃に加熱した後、かき混ぜないで、規定の方法で冷却した時、ベースオイルが流動する最低温度を表し、0℃を基点とし2.5℃の整数倍で表す)、動粘度によって変化する。このようなグリースの物性は、例えばJIS K 2220およびASTM D 1478グリースの低温トルク試験、JIS K 2269流動点等の評価試験により評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4956098号
【文献】特開2012-13566号公報
【文献】特開2012-163463号公報
【文献】特開2015-28475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
JIS法による評価試験は、グリースのみの特性評価法であるため、JIS法による評価試験で選定されたグリースを使用した開閉器で良好な開閉特性を示すとは限らないため、開閉器に塗布して低温開閉試験を行い、良好な開閉特性が得られるかどうか確認する必要がある。しかしながら、低温開閉試験は、専用の供試器の製造から低温試験終了まで1試料あたり約半年かかるため、評価に長い期間を要する。
【0006】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、より簡便な潤滑剤の評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
0℃未満の温度を含む温度範囲で温度が変動する環境下で使用されるための実施形態の潤滑剤の評価方法は、測定室の温度を0℃未満の第1の温度および0℃以上の第2の温度の一方から他方まで変化させながら、測定室に配置された潤滑剤の貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度からなる群より選ばれる少なくとも一つの物性値を測定して潤滑剤の動的粘弾性を示すデータを取得し、データにおける温度変化による物性値の変化量に基づいて、環境下での潤滑剤の耐久性を評価する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】潤滑剤の評価方法例を説明するための図である。
図2】動的粘弾性測定装置の構成例を示す図である。
図3】電路用開閉器の構成例を示す図である。
図4】潤滑剤(サンプル8)の貯蔵弾性率の測定結果を示す図である。
図5】潤滑剤(サンプル9)の貯蔵弾性率の測定結果を示す図である。
図6】潤滑剤(サンプル12)の貯蔵弾性率の測定結果を示す図である。
図7】潤滑剤(サンプル8)の損失弾性率の測定結果を示す図である。
図8】潤滑剤(サンプル9)の損失弾性率の測定結果を示す図である。
図9】潤滑剤(サンプル12)の損失弾性率の測定結果を示す図である。
図10】潤滑剤(サンプル8)の粘度の測定結果を示す図である。
図11】潤滑剤(サンプル9)の粘度の測定結果を示す図である。
図12】潤滑剤(サンプル12)の粘度の測定結果を示す図である。
図13】潤滑剤(サンプル1~サンプル19)の評価結果を示す図である。
図14】潤滑剤を使用した開閉器の低温開閉試験を説明するための図である。
図15】低温開閉試験結果を示す図である。
図16】低温開閉試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0010】
図1は、動的粘弾性測定装置を用いた潤滑剤の評価方法例を説明するための図である。横軸は時間(任意単位)を表し、縦軸は動的粘弾性測定装置の測定室の温度(℃)を表す。動的粘弾性測定装置を用いた潤滑剤の評価方法例は、図1に示すように、温度調整ステップ(S1)と、データ取得ステップ(S2)と、データ取得ステップ(S3)と、を具備する。なお、実施形態の評価方法例の各ステップの内容および順序は、必ずしも図1に示す内容および順序に限定されない。
【0011】
図2は、動的粘弾性測定装置の構成例を示す模式図である。図2に示す動的粘弾性測定装置は、測定室11と、温度制御器12と、プレート13と、プレート14と、移動機構15と、回転機構16と、センサ17と、センサ18と、信号処理部19と、を具備する。
【0012】
測定室11は、動的粘弾性を示す物性値を測定する空間である。温度制御器12は、測定室11の温度を制御する機能を有する。温度制御器12は、例えば測定室11を加熱する加熱器と、測定室11を冷却する冷却器と、を備えていてもよい。なお、温度制御器12は、測定室11と一体的に設けられていてもよい。
【0013】
プレート13は、潤滑剤である試料10を載置するための円板である。プレート14は、プレート13に平行に重畳する円板である。測定の際、試料10は、プレート13とプレート14との間に配置される。
【0014】
潤滑剤としては、例えばグリースが挙げられる。グリースの種類は、特に限定されないが、例えば合成油系のグリースやリチウム系のグリース等が挙げられる。グリースに限定されず、その他の粘稠性物質やその劣化した物質であってもよい。
【0015】
移動機構15は、プレート14を上下に移動させてプレート13とプレート14との間に配置される試料10の厚さを設定する機能を有する。移動機構15は、例えばアクチュエータを有し、外部からの制御信号により駆動する。
【0016】
回転機構16は、プレート13の回転方向を順回転および逆回転とで交互に切り替えながらプレート13を繰り返し回転(振動)させて試料10に動的応力を与え、動的応力に応じて試料10に動的ひずみを生じさせる機能を有する。回転機構16は、例えばモータを有する。
【0017】
センサ17は、試料10に生じる動的応力を測定する機能を有する。センサ17としては、例えばトルクセンサが挙げられる。なお、センサ17は、移動機構15に内蔵されていてもよい。
【0018】
センサ18は、試料10に生じる動的ひずみを測定する機能を有する。センサ18としては、例えばひずみセンサが挙げられる。なお、センサ18は、回転機構16に内蔵されていてもよい。
【0019】
信号処理部19は、動的応力および動的ひずみの少なくとも一つから動的粘弾性を示す物性値を算出する機能を有する。動的応力および動的ひずみは、正弦波で表され、両者の波形ピーク値と時間軸上における位相差との関係から試料10の粘性要素と弾性要素を算出することができる。動的粘弾性を示す物性値の例は、潤滑剤の貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)、および粘度(η)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。信号処理部19は、例えば信号を増幅するアンプを有していてもよい。
【0020】
温度制御器12、移動機構15、回転機構16、センサ17、センサ18、および信号処理部19の少なくとも一つは、例えば制御装置により制御されてもよい。制御装置は、例えばプロセッサ等を用いたハードウェアを用いて構成される。なお、各動作を動作プログラムとしてメモリ等のコンピュータ読み取りが可能な記録媒体に保存しておき、ハードウェアにより記録媒体に記憶された動作プログラムを適宜読み出すことで各動作を実行してもよい。
【0021】
温度調整ステップ(S1)では、温度制御器12により測定室11の温度を任意の温度TSから0℃未満の温度TLまで変化させる。温度TSは、例えば20℃である。温度TLは、例えば-15℃以下、さらには-50℃以下、さらには-60℃以下である。なお、温度調整ステップ(S1)の後に測定室11の状態を安定させるための保持ステップを設けてもよい。
【0022】
データ取得ステップ(S2)では、温度制御器12により温度TLから0℃以上の温度THまで温度を変化(上昇、昇温)させながら、測定室11に配置された試料10(潤滑剤)の貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度からなる群より選ばれる少なくとも一つの物性値を測定して温度変化による物性値の変化を表す第1のデータを取得する。温度THは、例えば15℃以上、さらには50℃以上、さらには60℃以上である。なお、データ取得ステップ(S2)の後に測定室11の状態を安定されるための保持ステップを設けてもよい。
【0023】
第1のデータの取得動作では、移動機構15によりプレート14を上下に移動させて試料10の厚さを設定した後、所定の周波数で、且つ一定の振幅でプレート13を回転機構16により回転方向を順回転および逆回転とで交互に切り替えながら繰り返し回転(振動)させる。このとき、プレート14には、回転機構16に抗して追従しようとする力が作用するため、試料10に動的応力が与えられ、動的応力に応じて試料10に動的ひずみが生じる。さらに、試料10に生じる動的応力および動的ひずみはセンサ17およびセンサ18により測定され、測定された動的応力および動的ひずみの少なくとも一つのデータから信号処理部19により潤滑剤の貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度からなる群より選ばれる少なくとも一つの物性値を算出する。
【0024】
データ取得ステップ(S3)では、温度制御器12により温度THから温度TLまで温度を変化(下降、降温)させながら、測定室11に配置された試料10(潤滑剤)の貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度からなる群より選ばれる少なくとも一つの物性値を測定して温度変化による物性値の変化を表す第2のデータを取得する。なお、データ取得ステップ(S3)において、温度THから温度TLよりも低い温度まで温度を変化させてもよい。なお、第2のデータ取得動作では、第1のデータの取得動作と同じ方法により潤滑剤の貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)、および粘度(η)からなる群より選ばれる少なくとも一つを算出することができる。
【0025】
温度TLから温度THまでの昇温速度は例えば一定である。温度THから温度TLまでの降温速度は例えば一定である。また、昇温速度の絶対値および降温速度の絶対値は、等しいことが好ましい。これにより、第1のデータと第2のデータとを比較しやすくすることができ、ヒステリシスの有無を確認することができる。
【0026】
上記評価方法例は、さらに耐久性評価ステップを具備する。耐久性評価ステップでは、第1のデータおよび第2のデータに基づいて、0℃未満の温度を含む温度範囲で変動する環境下での潤滑剤の耐久性を評価する。例えば、第1のデータおよび第2のデータにおける温度変化による物性値の変化量に基づいて潤滑剤の耐久性を評価することができる。0℃未満の温度を含む温度範囲は、例えば温度TLおよび温度THを含む温度範囲である。
【0027】
貯蔵弾性率、損失弾性率、粘度等の動的粘弾性を表す物性値は、特に0℃未満の温度において変化しやすい。実施形態の潤滑剤の評価方法では、0℃未満の温度まで測定室の温度を変化させながら上記物性値を測定することにより、0℃未満の温度を含む温度範囲で変動する環境下での潤滑剤の耐久性を評価することができる。
【0028】
さらに、貯蔵弾性率、損失弾性率、粘度等の動的粘弾性を表す物性値の温度変化による変化は、例えば同じ種類の潤滑剤を使用した開閉器の低温開閉試験における温度変化による投入時間および開極時間の変化と同等の挙動を示す。よって、開閉器に使用する前の潤滑剤を用いた場合であっても開閉器に使用中の潤滑剤と相関のある動的特性を得ることができる。また、電路用開閉器の低温開閉試験による潤滑剤の評価は、約半年と時間がかかるのに対し、実施形態の潤滑剤の評価方法では、物性値の一つ当たりの測定時間が短時間(約10分以下)であるため、選定のスピードアップを実現することができる。さらに、測定に必要な試料量が少量(最低2mg)である。
【0029】
データ取得ステップ(S2)およびデータ取得ステップ(S3)の順序は、逆であってもよい。このとき、温度調整ステップ(S1)において測定室11の温度をTHに調整した後、データ取得ステップ(S3)を実施して第2のデータを取得し、その後データ取得ステップ(S2)を実施して第1のデータを取得してもよい。また、第1のデータおよび第2のデータのいずれか一方のみに基づいて潤滑剤の耐久性を評価してもよい。
【0030】
0℃未満の温度まで温度を下げながら測定された第1のデータと0℃未満の温度から温度を上げながら測定された第2のデータとは、ヒステリシスを有する。よって、第1のデータおよび第2のデータの両方を取得することにより、潤滑剤の耐久性を精度良く評価することができる。
【0031】
上記評価方法例では、貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度の全てを測定することがより好ましい。動的粘弾性は、熱損失等により変化するため、弾性率および粘度の両方により評価することにより、より精度良く評価することができる。このとき、潤滑剤の耐久性は、貯蔵弾性率の変化量、損失弾性率の変化量、および粘度の変化量の積により評価することができる。これにより、潤滑剤の良否の差を顕著に示すことができる。積が小さいほど低温環境下における耐久性が優れていることを示す。また、複数種の潤滑剤から好ましい潤滑剤を選定する際に、評価が容易であるため著しく特性が悪い潤滑剤を排除しやすいため潤滑剤の絞り込みが容易であり、より多くの潤滑剤を容易に評価することができる。
【0032】
実施形態の潤滑剤の評価方法により選定された潤滑剤は、例えば遮断器等の開閉器等に使用することができる。図3は、電路用開閉器の構成例を示す模式図である。図3に示す電路用開閉器は、真空バルブ31と、操作機構部32と、摺動通電部33と、を具備する。
【0033】
真空バルブ31は、一対の接点310を有し、一対の接点310の接触および遮断により電路の開閉を行う機能を有する。
【0034】
操作機構部32は、一対の接点310の接触および遮断を制御する機能を有する。操作機構部32の操作機構としては、例えば手動ばね型の操作機構や電動ばね型の操作機構が挙げられる。操作機構部32では駆動レバーの一端を上下に移動させて駆動レバーの他端に接続された接点310の一方を上下させることにより真空バルブ31を開路状態または閉路状態にすることができる。操作機構部32の摺動部等に潤滑剤を用いることにより滑らかな動作を維持することができる。
【0035】
摺動通電部33は、開閉器と、電路すなわち主回路とを接続することができるフィンガー部を有する。フィンガー部を主回路側の接続導体を接続することにより通電状態となり、非接続にすることにより断路状態になる。接続導体は、フィンガー部と接続する際にフィンガー部の内側面上を摺動する。よって、上記摺動部分に潤滑剤を用いることにより滑らかな摺動動作を得ることができる。
【0036】
実施形態の評価方法により選定された潤滑剤は、電路用開閉器の操作機構部や摺動通電部に使用される。実施形態の評価方法では、電路用開閉器に潤滑剤を塗布する前に低温特性等を評価することできるため、開閉器を用いた低温開閉試験を行わなくても潤滑剤の評価を簡便に行うことができる。
【実施例
【0037】
(実施例1)
動的粘弾性測定装置を用いて、19種類の潤滑剤(サンプル1~サンプル19)における貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度を測定することにより各潤滑剤の耐久性を評価し、低温環境下での使用に適した潤滑剤を選定した。動的粘弾性測定装置としては株式会社ユービーエム製の動的粘弾性測定装置Rheosol-G5000を用い、移動機構および回転機構により駆動する2枚のプレートの径を8mmとし、試料の厚さを0.5mmとし、動的ひずみを0.1degとし、測定温度範囲を-60℃ないし60℃とし、昇温・降温速度を2℃/minとし、回転機構による測定周波数を1Hzとした。また、貯蔵弾性率、損失弾性率、および粘度のそれぞれのデータとして、昇温しながら測定された第1のデータ(DATA1)と降温しながら測定された第2のデータ(DATA2)の両方を取得した。第1のデータは例えば寒い季節から暖かい季節への移り変わりの際の潤滑剤の耐久性を想定し、第2のデータは暖かい季節から寒い季節への移り変わりの際の潤滑剤の耐久性を想定している。
【0038】
図4は潤滑剤(サンプル8)の貯蔵弾性率(G’)の測定結果を示す図であり、図5は潤滑剤(サンプル9)の貯蔵弾性率(G’)の測定結果を示す図であり、図6は潤滑剤(サンプル12)の貯蔵弾性率(G’)の測定結果を示す図である。サンプル8は、ジウレア-合成油系グリースであり、サンプル9は、リチウム-エステル系グリースであり、サンプル12は、リチウム系グリースである。図4から潤滑剤(サンプル8)の貯蔵弾性率は、0℃以上では変化が少ないが、0℃未満、特に-15℃以下において急激に変化していることからわかる。貯蔵弾性率の上昇は、潤滑剤の硬化を示している。また、図5から潤滑剤(サンプル9)の貯蔵弾性率は、-50℃から50℃においてほぼ一定であることがわかる。また、図6から潤滑剤(サンプル12)の貯蔵弾性率は、-50℃から50℃において徐々に変化していることがわかる。また、図4ないし図6から潤滑剤(サンプル9)の貯蔵弾性率の変化量は、潤滑剤(サンプル8)の貯蔵弾性率の変化量および潤滑剤(サンプル12)の貯蔵弾性率の変化量よりも少ないことがわかる。さらに、貯蔵弾性率は、第1のデータと第2のデータとの間でヒステリシスを有することがわかる。
【0039】
図7は潤滑剤(サンプル8)の損失弾性率(G’’)の測定結果を示す図であり、図8は潤滑剤(サンプル9)の損失弾性率(G’’)の測定結果を示す図であり、図9は潤滑剤(サンプル12)の損失弾性率(G’’)の測定結果を示す図である。図7から潤滑剤(サンプル8)の損失弾性率は、0℃以上では変化が少ないが、0℃未満、特に-15℃以下において急激に変化していることがわかる。損失弾性率の上昇は、潤滑剤の硬化を示している。また、図8から潤滑剤(サンプル9)の損失弾性率は、-50℃から50℃においてほぼ一定であることがわかる。また、図9から潤滑剤(サンプル12)の損失弾性率は、-50℃から50℃において徐々に変化していることがわかる。また、図7ないし図9から潤滑剤(サンプル9)の損失弾性率の変化量は、潤滑剤(サンプル8)の損失弾性率の変化量および潤滑剤(サンプル12)の損失弾性率の変化量よりも少ないことがわかる。さらに、損失弾性率は、第1のデータと第2のデータとの間でヒステリシスを有することがわかる。
【0040】
図10は潤滑剤(サンプル8)の粘度(η)の測定結果を示す図であり、図11は潤滑剤(サンプル9)の粘度(η)の測定結果を示す図であり、図12は潤滑剤(サンプル12)の粘度(η)の測定結果を示す図である。図10から潤滑剤(サンプル8)の粘度は、0℃以上では変化が少ないが、0℃未満、特に-15℃以下において急激に変化していることがわかる。粘度の上昇は、潤滑剤の硬化を示している。また、図11から潤滑剤(サンプル9)の粘度は、-50℃から50℃においてほぼ一定であることがわかる。また、図12から潤滑剤(サンプル12)の粘度は、-50℃から50℃において徐々に変化していることがわかる。また、図8ないし図12から潤滑剤(サンプル9)の粘度の変化量は、潤滑剤(サンプル8)の粘度の変化量および潤滑剤(サンプル12)の粘度の変化量よりも少ないことがわかる。さらに、粘度は、第1のデータと第2のデータとの間でヒステリシスを有することがわかる。
【0041】
以上より、0℃未満の温度を含む温度範囲で温度が変動する環境下では、潤滑剤(サンプル8)の耐久性および潤滑剤(サンプル12)の耐久性よりも潤滑剤(サンプル9)の耐久性が優れていると評価することができる。
【0042】
図13は、潤滑剤(サンプル1~19)のそれぞれの貯蔵弾性率の変化量(ΔG)、損失弾性率の変化量(ΔG’)、および粘度の変化量(Δη)の積を示す図である。変化量は、-50℃ないし50℃の温度範囲における物性値の最大値と最小値との差により定義される。また、各変化量の積は、(DATA1のΔGとDATA2のΔGとの和)×(DATA1のΔG’とDATA2のΔG’との和)×(DATA1のΔηとDATA2のΔηとの和)により定義される。図13において、上記積が最も小さい(粘性抵抗が小さい)潤滑剤(サンプル9)が最も耐久性が高いと評価される。このように、複数種の潤滑剤に対して上記測定を行い、取得したデータにおいて貯蔵弾性率の変化量、損失弾性率の変化量、および粘度の変化量の積を比較することにより、各潤滑剤の良否の差を顕著に示すことができる。
【0043】
(比較例1)
株式会社東芝製の開閉器VZ-10M40の摺動部に潤滑剤(サンプル8)または潤滑剤(サンプル9)を使用し、当該開閉器を温度制御可能な測定室に設置し、低温開閉試験を行った。
【0044】
図14は、低温開閉試験の例を説明するための図である。横軸は、時間(任意単位)を表し、縦軸は測定室の温度(℃)を表す。上記低温開閉試験は、開閉器を調整するステップ(S1)と、周囲温度20±5℃(TH)にて、開閉特性試験を実施するステップ(S2)と、開閉器を閉状態にして-40℃(TL)まで降温後24時間放置するステップ(S3)と、温度TLのまま開閉特性試験を実施して開閉が可能であることを確認するステップ(S4)と、温度TLのまま、開閉器を開状態にして24時間放置するステップ(S5)と、温度TLのまま50回開閉動作を3分間隔で実施して1回目の閉・開操作を低温動作特性とし、1時間に約10Kの比率で周囲温度(20℃)まで昇温し、昇温の間は閉状態→30分保持→開状態→30分保持→閉状態と開状態→30分保持→閉状態→30分保持→開状態の動作を実施するステップ(S6)と、周囲温度で安定後、開閉特性試験を実施し、ステップ(S2)の結果と比較するステップ(S7)と、を具備する。測定結果を図15および図16に示す。
【0045】
図15は、温度(℃)と投入時間(ms)との関係を示す図であり、図16は、温度(℃)と開極時間(ms)との関係を示す図である。図15からわかるとおり、潤滑剤(サンプル8)を使用した開閉器では、-40℃において投入時間が管理値外となり非常に長かったが、昇温とともに徐々に短くなり、-10℃辺りから管理値内に収まった。これは、低温領域での摺動抵抗の増加が原因と推定される。また、潤滑剤(サンプル9)を使用した開閉器では、温度変化による投入時間の変化がほとんどなく管理値内であった。また、潤滑剤(サンプル8)を使用した開閉器では、-40℃の開閉でギアの滑り(ワンウエイクラッチの空転)が発生し、何度も蓄勢出来ない状態になった。全体が硬化して動作しないことは無かったが、非常に遅く、投入時間のばらつきも大きかった。
【0046】
図16からわかるとおり、潤滑剤(サンプル8)の開極時間は、管理値内ではあったが-40℃では長く、昇温とともに徐々に短くなり、-15℃辺りから潤滑剤(サンプル9)と同等になった。また、潤滑剤(サンプル9)では、-40℃から20℃まで開極時間の変化はほとんどなかった。
【0047】
開閉特性および粘性変化が大きかった潤滑剤(サンプル8)で、低温開閉試験結果(図15図16)と動的粘弾性測定結果(図4図7図10)とを比較すると、投入時間は-10℃、開極時間は-15℃以下から変化しているのに対し、貯蔵弾性率、損失弾性率、おおよび粘度も-15℃以下から上昇し、開閉特性と粘度の変化が始まる温度が一致する。このことから動的粘弾性を示す物性値の温度変化は、開閉特性の変化が起こる温度で顕著な潤滑剤の粘性の変化を捉えていることがわかる。すなわち、比較例1の低温開閉試験結果および実施例1の潤滑剤の動的粘弾性の結果は相関を有するため、実施例1の潤滑剤の評価方法により、比較例1の低温開閉試験を行わなくても、0℃未満の温度を含む温度範囲で温度が変動する環境下で電路開閉器に使用されたときを想定した潤滑剤の耐久性を評価することができる。
【0048】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10…試料、11…測定室、12…温度制御器、13…プレート、14…プレート、15…移動機構、16…回転機構、17…センサ、18…センサ、19…信号処理部、31…真空バルブ、32…操作機構部、33…摺動通電部、310…接点。
図1
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