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特許7010698急性呼吸促迫症候群(ARDS)のリスクスコアによって導かれる換気治療推薦のためのツール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】急性呼吸促迫症候群(ARDS)のリスクスコアによって導かれる換気治療推薦のためのツール
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/00 20060101AFI20220119BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A61M16/00 332A
A61B5/00 102A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017552478
(86)(22)【出願日】2016-03-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-17
(86)【国際出願番号】 IB2016051525
(87)【国際公開番号】W WO2016162769
(87)【国際公開日】2016-10-13
【審査請求日】2019-03-14
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】62/144,559
(32)【優先日】2015-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラヴァン スリニバサン
(72)【発明者】
【氏名】チバト ニコラス ワディヒ
(72)【発明者】
【氏名】チオフォロ カイトリン マリエ
【合議体】
【審判長】佐々木 一浩
【審判官】井上 哲男
【審判官】加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/121374(WO,A2)
【文献】林伸一,ALI/ARDSの疾患概念と定義,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌,日本,2014年8月,第24巻第2号,214-218頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性呼吸促迫症候群集中治療設定の治療ガイダンスツールであって、
表示デバイスと、
1つ以上のプロセッサと、
を含み、
前記1つ以上のプロセッサは、
患者の測定された生理的変数に基づいて、前記患者が急性呼吸促迫症候群を有するかどうかを示す急性呼吸促迫症候群(ARDS)スコアを計算し、
計算された前記ARDSスコアを受信者操作特性曲線解析に基づいて選択された閾値と比較し、(i)前記ARDSスコアが前記閾値を下回る場合は、従来換気設定の機械的換気を行う推薦を提供し、(ii)前記ARDSスコアが前記閾値を上回る場合は、ARDS発症前の予防的治療として保護換気設定の機械的換気を行う推薦を提供することによって、前記患者の換気戦略の推薦を生成し、
前記表示デバイス上に、換気治療の前記推薦の表現を表示する、治療ガイダンスツール。
【請求項2】
前記ARDSスコアは、
前記患者の複数の生理的変数の値を受信し、
前記患者の前記複数の生理的変数の受信した前記値に少なくとも基づいて、前記ARDSスコアを計算し、
前記表示デバイス上に、計算された前記ARDSスコアの表現が表示される、請求項1に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項3】
前記1つ以上のプロセッサは更に、前記ARDSスコアが前記閾値を上回ると前記患者はARDS発症のリスクが高いと決定される当該閾値を決定する、請求項1又は2に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項4】
前記従来換気戦略は、10ml/kg以上、15ml/kg以下の推薦1回換気量を含み、
前記保護換気戦略は、4ml/kg以上、8ml/kg以下の推薦1回換気量を含む、請求項1乃至3の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項5】
前記従来換気戦略は、5cmHO以上、12cmHO以下の推薦呼吸終末陽圧(PEEP)を含み、
前記保護換気戦略は、12cmHOより大きい推薦PEEPを含む、請求項1乃至4の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項6】
前記1つ以上のプロセッサは、前記表示デバイス上に、前記換気治療推薦の前記表現を、前記推薦の計画対象期間の指示と共に表示し、指示された前記計画対象期間は、2時間以下である、請求項1乃至5の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項7】
前記ARDSスコアは、範囲[0,1]内にあるか、又は、範囲[0%,100%]内の百分率であり、前記閾値は、少なくとも0.8又は80%の閾値を使用する、請求項1乃至6の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項8】
前記1つ以上のプロセッサは更に、前記ARDSスコアを、リアルタイムに連続的に計算する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項9】
前記ARDSスコアは、少なくとも心拍数、呼吸数及び血圧を含む前記患者の測定された生理的変数に基づいて計算される、請求項1乃至8の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項10】
前記1つ以上のプロセッサは、グラフィカルユーザインターフェースを使用して、前記表示デバイス上に、前記患者の換気戦略の前記推薦の前記表現を表示する、請求項1乃至9の何れか一項に記載の治療ガイダンスツール。
【請求項11】
急性呼吸促迫症候群集中治療設定の治療ガイダンスツールの作動方法であって、
前記治療ガイダンスツールのプロセッサが、前記患者の生理的変数をモニタリングするステップと、
前記プロセッサが、モニタリングされた前記生理的変数に基づいて、前記患者の急性呼吸促迫症候群(ARDS)スコアを計算するステップと、
前記プロセッサが、計算された前記ARDSスコアを受信者操作特性曲線解析に基づいて選択された閾値と比較し、(i)前記ARDSスコアが前記閾値を下回る場合は、従来換気設定の機械的換気を行う推薦を提供し、(ii)前記ARDSスコアが前記閾値を上回る場合は、ARDS発症前の予防的治療として保護換気設定の機械的換気を行う推薦を提供することによって、前記患者の機械的換気推薦を生成するステップと、
前記プロセッサが、表示デバイス上に、前記患者の前記機械的換気推薦を表示するステップと、
を含む、治療ガイダンスツールの作動方法。
【請求項12】
前記計算するステップは、前記プロセッサが、心拍数、呼吸数及び血圧を含むモニタリングされた前記生理的変数に基づいて、リアルタイムで前記ARDSスコアを計算するステップを含む、請求項11に記載の治療ガイダンスツールの作動方法。
【請求項13】
前記保護換気設定は、4ml/kg以上、8ml/kg以下の1回換気量を含む、請求項11又は12に記載の治療ガイダンスツールの作動方法。
【請求項14】
前記保護換気設定は、12cmHOより大きいPEEPを含む、請求項11乃至13の何れか一項に記載の治療ガイダンスツールの作動方法。
【請求項15】
前記ARDSスコアは、範囲[0,1]内にあるか、又は、範囲[0%,100%]内の百分率であり、前記閾値は、0.8又は80%である、請求項11乃至14の何れか一項に記載の治療ガイダンスツールの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下は、医用モニタリング技術、臨床決定支援システム技術、集中治療モニタリング及び患者評価技術、並びに、患者機械的換気技術等に関する。
【背景技術】
【0002】
急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、急性疾患の壊滅的な合併症であり、集中治療室(ICU)での複数臓器不全及び死亡の主要原因の1つである。急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、全ICU患者の間で7~10%の有病率であると推定され、また、退院後、40%以上という高死亡率を示す。しかし、ARDS患者のうち、ICU医師によって検出されるのは3分の1未満である。様々な実施形態のARDS検出が、2013年8月22日に公開されたVairavan他による国際特許公開WO2013/121374A2に記載されている。これは、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以下は、上記制限等を解決する改良された装置及び方法を検討する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様によれば、急性呼吸促迫症候群集中治療設定の治療ガイダンスツールは、治療を推薦するために、ARDSスコアをバイオマーカーとして使用する1つ以上のプロセッサを含む。
【0005】
別の態様によれば、急性呼吸促迫症候群集中治療設定をガイドする方法は、治療を推薦するために、ARDSスコアをバイオマーカーとして含む。
【0006】
別の態様によれば、急性呼吸促迫症候群のリスクにある患者の換気戦略を推薦する装置は、患者の生理的変数をモニタリングするベッドサイドモニタと、1つ以上のプロセッサとを含み、1つ以上のプロセッサは、所与の時間に分析されるARDSスコアに基づいて予測推論を計算し、計算された予測推論が、将来において起きる可能性のあるARDSを決定するように患者の現在のARDSスコアを連続的にモニタリングし、起きる可能性のあるARDSを決定後、アラートを生成する。
【0007】
1つの利点は、ARDSリスクのリアルタイムアラートにある。
【0008】
別の利点は、ARDSバイオマーカーの連続モニタリングにある。
【0009】
別の利点は、介入治療の人工呼吸器設定を提案することにある。
【0010】
多数の追加的な利点及びメリットは、以下の詳細な説明を読んだ後、当業者には明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本願は、様々なコンポーネント及びコンポーネントの構成、また、様々な処理動作及び処理動作の構成の形を取ってよい。図面は、好適な実施形態を例示することのみを目的とし、本願を限定するものと解釈されるべきではない。
【0012】
図1図1は、ベッドサイドモニタ及びナースステーションにおいて急性呼吸促迫症候群(ARDS)についてモニタリングされる集中治療室(ICU)内の患者を概略的に示す。ナースステーションでは、ICUにおける他の患者と共にモニタリングされる。
図2図2は、ARDS検出及び換気推薦アプローチを示す。
図3図3は、モニタリングされたARDSスコアと換気戦略の変更との相関関係を示す。
図4図4は、1回換気量設定を考慮したARDSスコアに関する従来換気戦略及び保護換気戦略の比較ボックスプロットを示す。
図5図5は、PEEP設定を考慮したARDSスコアに関する従来換気戦略及び保護換気戦略の比較ボックスプロットを示す。
図6図6は、ARDS換気戦略ツールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に開示される技術は、ARDS検出モデルによって出力されるARDSリスクの連続スコアを、ARDS発症のバイオマーカーとして使用する。本願は、様々な治療パターンとバイオマーカー自体(ARDSスコア)との相関関係に基づくバイオマーカー主導の治療推薦ツールを含む。バイオマーカーが、患者のARDSリスクが高いことを示すと、推薦ツールが、臨床実践に基づいて可能な治療手段を提案する。ARDS検出モデルの高いスコアは、肺保護換気戦略(低い1回換気量、高い呼吸終末陽圧(PEEP))とうまく相関するので、ツールは、肺保護治療が患者に適用されるべきであることを示す。高ARDSスコアは更に、実際の介入の数時間前に、当該治療を予測する能力を有する。このような情報は、治療推薦となるようにコンピュータ化されると、連続疾病モニタリングと、最適な臨床実践の採用を向上させることとを可能にすると同時に、予防的治療及び介入治療の計画において臨床医を支援する。
【0014】
図1を参照するに、患者8が、ベッドサイド患者モニタ10によってモニタリングされ、ベッドサイド患者モニタ10は、患者8の様々な生理的変数の傾向データを表示する。(本明細書では、「生理的変数」、「バイタルサイン」又は「バイタルズ」といった用語は、同義に使用される。)例えば例示的な心電図(ECG)電極12が、時間の関数として、心拍数及び任意選択的にフルECGトレースを適切にモニタリングする。例示的な例として、心拍数(HR)、呼吸数(RR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、吸入酸素比(FiO)、動脈血酸素分圧(PaO)、呼吸終末陽圧(PEEP)、血中ヘモグロビン(Hgb)等のうちの1つ以上といった実質的に医用関心のあるどの生理的変数がモニタリングされてもよい。図1には図示されていないが、患者8が人工呼吸器につながれていることも考えられる。
【0015】
患者モニタ10は、好適にはグラフィカルディスプレイであるディスプレイ14を含む。ディスプレイ上に、生理的変数及び任意選択的に他の患者データが、数値表現、グラフィカル表現、傾向線等を使用して表示される。患者モニタ10は更に、患者モニタ10の本体に取り付けられる例示的な制御部16、(このような構成では、適切には、タッチセンサーディスプレイである)ディスプレイ14に表示されるソフトキー18のセット、引き出し式キーボード、これらの様々な組み合わせ等といった1つ以上のユーザ入力デバイスを含む。ユーザ入力デバイスによって、看護師又は他の医療専門家は、(例えばモニタリング及び/又は表示される生理的変数又は他の患者データを選択するように)患者モニタ10を設定でき、また、アラーム設定を設定できる。明示的には示されていないが、患者モニタ10は、適切な場合、オーディオアラームを出力するスピーカ、視覚的アラームを出力するための1つ以上のLED又は他のタイプのランプ等といった他の特徴を含んでよい。
【0016】
患者モニタ10は、適切なメモリ及び他の補助電子機器(詳細は省略)に接続されるマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ等によって提供されるデータ処理能力を含むか、当該データ処理能力に動作可能に接続されている点で「インテリジェント」モニタである。幾つかの実施形態では、患者モニタ10は、患者モニタがモニタリングされた患者データの自律的処理を行うことができるように、内蔵型コンピュータ、マイクロプロセッサ等の形の内部データ処理能力を含む。他の実施形態では、患者モニタは、サーバ、又は、他のコンピュータ若しくは患者データの処理を行うデータ処理デバイスに接続される「ダム端末」である。データ処理能力の一部が、患者8に取り付けられる相互通信する身体装着型センサ又はデバイス間で分布すること(例えばメディカルボディエリアネットワーク(MBAN)の形)も考えられる。
【0017】
例示的な例では、患者8は、例えば医用ICU(MICU)、外科用ICU(SICU)、心疾患集中治療室(CCU)、トリアージICU(TRICU)等である集中治療室(ICU)の患者室内に配置される。このような環境では、患者は、通常、(例えば患者の病室内に)患者と共に置かれているベッドサイド患者モニタ10によって、また更には、ナースステーション24にある適切なディスプレイ22を有する電子モニタリングデバイス20(例えば専用モニタリングデバイス又は適切に設定されたコンピュータ)によってモニタリングされる。通常、ICUは、1つ以上の上記のようなナースステーションを有し、各ナースステーションは、特定のセットの患者(極端な状況ではわずか1人の患者でもよい)に割り当てられている。有線又は無線通信リンク(両矢印曲線26によって図示される)が、ベッドサイド患者モニタ10によって取得された患者データを、ナースステーション24における電子モニタリングデバイス20に運ぶ。通信リンク26は、例えば有線又は無線イーサネット(登録商標)(専用又は病院ネットワークの一部)、ブルートゥース(登録商標)接続等を含む。通信リンク26は、2方向性リンクであることが考えられる。即ち、データは、ナースステーション24からベッドサイドモニタ10にも転送可能である。
【0018】
ベッドサイド患者モニタ10は、患者モニタ10によってモニタリングされた少なくとも1つ又はそれ以上の生理的変数を含む情報に対して、本明細書に開示されるデータ処理を行うことによって急性呼吸促迫症候群(ARDS)を検出及び示す。ベッドサイド患者モニタ10のディスプレイ14は、以下に詳細に説明されるARDS換気ツール28を表示する。更に又は或いは、ナースステーション24における電子モニタリングデバイス20も、患者モニタ10によってモニタリングされた少なくとも1つ又はそれ以上の生理的変数を含む情報に対して、本明細書に開示されるデータ処理を行うことによってARDSを検出及び示し、ARDS換気ツール28を表示してもよい。なお、急性肺損傷(ALI)及び急性呼吸促迫症候群(ARDS)との用語は、本明細書では同義に使用される。有利に、本明細書に開示されるARDS検出は、患者モニタ10によってモニタリングされ、したがって、リアルタイムに入手可能である心拍数(HR)、呼吸数(RR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、吸入酸素比(FiO)、呼吸終末陽圧(PEEP)等といった生理的変数に基づいている。ラジオグラフィ報告及び検査所見(例えばPaO、Hgb等)といったより長い取得待ち時間を有する患者データは、使用されないか、又は、ARDSが示されているかどうかを評価する際の補助情報として使用される。本明細書に提示される例示的なARDSスコアリング例では、ARDSモデルに入力されるデータには、バイタルサイン、検査結果及び人工呼吸器設定が含まれる。
【0019】
様々な実施形態の連続ARDS検出が、2013年8月22日に公開されたVairavan他による国際特許公開WO2013/121374A2に記載されている。これは、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。例えばLempel-Ziv複雑性に基づいたARDS検出を採用した実施形態を使用することができる。図2を参照するに、患者8はICU(ブロック30によって示される)に入れられる。患者を安定させるために、様々な薬物/薬剤(「薬物」及び「薬剤」は、本明細書では同義に使用される)が患者8に投与されるシナリオがある(ブロック32によって示される)。機械的換気といった他の治療が施されてもよい。図2の例示的なARDS検出アプローチは、心拍数(HR)、収縮期動脈圧(SBP)及び拡張期動脈圧(DBP)並びに呼吸数(RR)を含むバイタルサインデータストリーム34を、患者8への1つ以上の異なる薬物の投与32のインスタンスを含む追加の患者データストリーム36と共に使用する。薬物投与データストリーム36は、バイナリデータストリーム(例えば値「1」によって示される薬物投与イベント中を除き(任意選択的に離散化された)時間の関数としての値「0」。例えば点滴である時間間隔に亘り投与される薬剤の場合、点滴が投与されないときは、値は「0」であり、点滴の投与中は「1」(又は別の値))といった様々な形を取ってよい。例えば初期投与から薬物が体から腎臓又は他の機構によって取り除かれるまでの患者内(又は関心臓器内)における期待動的薬物濃度をモデル化する時変値といった、他の、値-時間表現も考えられる。
【0020】
検出プロセッサ40は、データストリームから、ARDSスコアを連続的に計算する。検出プロセッサ40は、経時的なスコアのプロットの形で、ARDSスコアを経時的に出力することができる。検出プロセッサ40は、例えば2013年8月22日に公開された国際特許公開WO2013/121374A2に開示されているようなARDS(又はALI)アルゴリズムを採用する。例えばここでは、線形判別分析(LDA)又は投票システムが、バイタルサイン34及び任意選択的に他の情報(例えば例示的な薬物投与情報36、検査結果、人工呼吸器設定等)を集約し、ARDSスコアを生成する。本明細書に提示される例示的なARDSスコアは、バイタルサイン、検査結果及び人工呼吸器設定を含むデータが入力され、「確率タイプ」範囲[0,1]で出力する国際特許公開WO2013/121374A2のLDA集約モデルとして具体化される検出プロセッサ40を使用して生成されている。より一般的には、検出プロセッサ40は、患者が急性呼吸促迫症候群を有するか又は急性呼吸促迫症候群に向かう症状を有しているというリスクを示すスコアを生成する他のARDSスコアリングアプローチを使用することができる。幾つかの実施形態では、検出プロセッサ40は、[0,1]以外の範囲で出力する。例えば出力は、範囲0~100内の「百分率タイプ」の値である。推薦プロセッサ42は、所定閾値を考慮してARDSスコアをモニタリングし、モニタリングされたスコアに基づいて、例えば換気治療/設定である患者の介入治療を推薦する。推薦プロセッサ42が、患者8のARDSリスクが高いことを検出すると、推薦プロセッサ42は、最適な臨床実践に基づいて可能な治療手段を提案する。換気戦略は、従来型と保護型とに広く分類される。保護換気戦略は、ARDS患者の死亡率を減少させることが臨床研究において示されている。様々な換気戦略と関連付けられている値の範囲は、次の通りである。
【表1】
【0021】
図3乃至図5を参照するに、ARDS患者相関結果が示され、ARDSスコアは、人工呼吸器設定変更インスタンスを予測することを実証している。ARDSスコアの換気戦略(上記表に示される人工呼吸器設定による従来型又は保護型)との相関は、患者記録に亘るARDSスコアと人工呼吸器設定変更インスタンス(T=0hr)との両方の値を取ることによって評価された。換気戦略のARDSスコア(人工呼吸器設定変更の数時間前)との相関が評価されて、ARDSスコアの能力を決定して、人工呼吸器設定が予測される。調査期間は人工呼吸器設定変更の前のT=10、6、5、4、3、2及び1時間であった。
【0022】
図3を参照するに、ARDSスコア302が、人工呼吸器の1回換気量(VT)304によって表される換気戦略と比較される。図3では、人工呼吸器の1回換気量(VT)設定変更は、黒矢印を用いてマーク付けされている。矢印を囲むボックス306は、T=0時間(人工呼吸器設定変更)に対応するゾーンを示す。ボックス308は、T=-10時間におけるARDSスコア、即ち、(T=0時間における)VT設定変更の10時間前に対応するゾーンを表す。
【0023】
推薦プロセッサ42は、これらの結果に基づき、ARDSスコアの値を分析することによって、予測推論を適切に導出する。推薦プロセッサ42は、ARDSスコアを評価し、これにより、この分析がない場合に、医師が人工呼吸器設定変更を推薦するまでの数時間までの推薦人工呼吸器設定(又は、患者が既に人工呼吸器を付けている場合は、設定変更)を提供することができる。推薦プロセッサ42は、患者の現在のARDSスコアをモニタリングし、予測推論を使用して、換気戦略の変更が推薦されるべきかどうかが決定される。したがって、図3は、ARDSスコアが、ARDS患者の人工呼吸器設定を推薦するためのバイオマーカーとして使用できることを実証する。図3では、次の表記、即ち、VT:1回換気量、PPLAT:プラトー圧、PEEP:呼吸終末陽圧、FiO2:吸入酸素比、PaO2:血中酸素分圧が使用される。
【0024】
図4及び図5は、図3に示される様々な時間ゾーン306、308と、それらの間の時間ゾーンの間に取得されたARDSスコアのボックスプロットを示す。図4及び図5では、ボックスプロットは、25番目、50番目、75番目の百分位数とデータのはずれ値を提供する。
【0025】
図4を特に参照するに、ARDSスコア402と1回換気量設定との相関400が示される。図4の上部プロット402は、T=0時間における1回換気量設定変更に対する様々な時間における保護(P)及び従来(T)の1回換気量設定に対応するARDSスコアのボックスプロットを示す。閾値406は、受信者操作特性曲線(ROC)解析によって決定されたARDS検出の最適閾値を示す。中間プロット404は、様々な予測時間に対するROCの曲線の下の面積(AUC)を示す。下部プロットは、様々な瞬間における患者の総数を示す。図4では、保護換気戦略(P)は、4~8ml/kgの1回換気量を有するのに対し、従来換気戦略(T)は、10~15ml/kgの1回換気量を有する。
【0026】
図4に示されるように、ROCのAUC404の統計プロットは、2つの換気戦略間の分離の数量化を示す。時間は、プロットの最右端をT=0として、左端のT=-10時間に振り返る形で示される。ARDSスコア402は、所定のARDS閾値スコア406との関連でプロットされる。T=0において、保護及び従来1回換気量設定に対応するARDSスコアは、0.70のROCのAUCで分離可能である。図4に示される閾値406は、ROC解析に基づいたARDS検出の最適閾値である。保護戦略ボックスプロットにおける中央値412は、この閾値406よりも高い。これは、より高いARDSスコアが、保護1回換気量設定と相関されていることを示す。
【0027】
保護戦略ボックスプロットの中央値412は、従来戦略ボックスプロットの中央値414よりも常に高い。この関係は、すべての時間ゾーン(T=-10、…、0)に亘って観察される。閾値406は、保護戦略ボックスプロットの中央値412を、従来戦略ボックスプロットの中央値414から最適に離すように選択される。図4から更に見て取れるように、AUCは、すべての時間ゾーンに亘って保護1回換気量戦略と従来1回換気量戦略との間に優れた分離を示す。これらの結果は、ARDSスコアを使用して、保護1回換気量設定を推薦することができることを示す。保護1回換気量戦略と従来1回換気量戦略との間の分離は、早い期間では減少する傾向があるが、分離は、T=-2時間(AUC=0.69)まで強いままである。これは、ARDSスコア402が、ARDSスコアの予測力は早い期間については減少しつつ、T=0における換気介入までの2時間前まで予測能力を有することを示唆する。
【0028】
図4の結果に基づき、保護治療の通りに4~8ml/kgの1回換気量(ARDSスコアが閾値406を上回る場合は適切である)を推薦するかどうかを決定するために、0.81の閾値406が、推薦プロセッサ42によって適切に適用される。幾つかの実施形態では、アラーム疲労を防ぐために、換気治療は、ARDSスコアが高い場合にのみ推薦される。ARDSスコアが高い場合、保護換気治療が推薦される。
【0029】
図5を参照するに、ARDSスコア502とPEEP設定との相関500が示される。上部プロット502は、T=0時間における1回換気量設定変更に対する様々な時間における保護及び従来換気設定に対応するARDSスコアのボックスプロットを示す。閾値506は、ARDS検出の最適閾値を示す。中間プロット504は、様々な予測時間に対するROC曲線の曲線の下の面積(AUC)504を示す。下部プロットは、様々な瞬間における患者の総数を示す。図5では、P:保護換気戦略(PEEP>12cmHO)、T:従来換気戦略(PEEP=5~12cmHO)である。
【0030】
図5では、高いARDSスコアは、従来PEEP設定ではなく、保護PEEP設定に相関することが見て取れる。保護治療の中央値512は、従来治療の中央値514よりも高い。この傾向は、T=0時間から開始し、T=-10時間までの様々な期間に亘って観察可能である。しかし、2つの群(保護及び従来)間の分離は、人工呼吸器設定変更までの時間が増加するにつれて減少する傾向がある。したがって、人工呼吸器設定推薦に関するARDSスコアの予測性も減少する。
【0031】
要約するに、図4及び図5において実証されたように、高いARDSスコアは、低い1回換気量設定と相関し、更に、高いPEEP設定とも相関する。これらの設定は、肺保護換気の特徴的な設定である。したがって、図3乃至図5を参照して説明された結果は、ARDSスコアが、従来戦略又は保護戦略の何れかを使用して換気するための推薦を提供するのに適していることを実証し、この予測は、医師が通常そのような調整をする時よりも少なくとも2時間前に信頼性をもってすることができる。
【0032】
図6を参照するに、推薦プロセッサ42は、ARDSリスクが決定閾値を上回って増加するにつれて、肺保護換気の提案のためのグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を提供するARDS換気推薦ツール28を使用する。ARDSスコアの予測性によって、換気推薦ツール28は、ユーザに、低い1回換気量設定及び高いPEEP設定を、介護者が通常人工呼吸器設定を変更する2~3時間前に適用するように勧告することができる。上記解析は、輸液といった他の治療的介入、及び、プラトー圧、FiO等といった他の機械的換気設定に対して行われてもよいことが考えられる。
【0033】
パネル、即ち、ウィンドウは、現在のARDSスコアがハイライトされている各患者の選択可能なベッドディスプレイ602を表す。別のパネルは、ベッドディスプレイ602から選択された患者のプロフィール604を表す。ARDSスコア606(過去、現在及び将来の軌道)が、連続臓器不全評価(SOFA)スコア608と並列して表示される。
【0034】
ARDSスコア606が、所定閾値、即ち、ARDSスコア履歴のレトロスペクティブ分析に基づく最適閾値を上回ると、アラート610が、画面上に表示される。アラート610をクリックすると、ARDSのリスクを減少させるための肺保護換気設定の詳細な推薦と共に治療推薦612が開く。一実施形態では、アラート610は、介護者が治療推薦612を確認するとオフにされる。ARDSスコア606が、閾値を下回る値(例えばこの例示的な例では、75)から閾値よりも大きい値に変わる度に、次のアラートがポップアップする。
【0035】
図1を再び参照するに、ICU患者のARDS又は他の関心健康状態を予測する開示技術は、例示的なベッドサイドモニタ10及び/又は例示的なナースステーションの電子モニタリングデバイス20の内蔵型コンピュータ、マイクロプロセッサ等によって適切に実現される。当然ながら、開示技術は、開示された検出方法を行うように、このような電子データ処理デバイスによって実行可能な命令を格納する非一時的ストレージ媒体によって具体化されてよい。非一時的ストレージ媒体は、例えばハードディスク若しくは他の磁気ストレージ媒体、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、又は、別の電子ストレージ媒体、光学ディスク若しくは他の光学ストレージ媒体、又は、これらの組み合わせ等を含んでよい。
【0036】
本開示は、好適な実施形態を参照して説明されている。当然ながら、上記詳細な説明を読み、理解した者は、修正及び変更を想到するであろう。本願は、すべてのこれらの修正態様及び変更態様を、それらが添付の請求項又はそれらの等価物の範囲内に該当する限り、含むと解釈されることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6