(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ヒューズ素子
(51)【国際特許分類】
H01H 85/17 20060101AFI20220119BHJP
H01H 37/76 20060101ALI20220119BHJP
H01H 85/11 20060101ALI20220119BHJP
H01H 85/06 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01H85/17
H01H37/76 F
H01H85/11
H01H85/06
(21)【出願番号】P 2018001900
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】米田 吉弘
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062649(JP,A)
【文献】特開平10-255642(JP,A)
【文献】特開2014-220044(JP,A)
【文献】特開2017-147162(JP,A)
【文献】特開2015-065156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00 - 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒューズエレメントと、
上記ヒューズエレメントを収容するケースとを有し、
上記ケースは、上記ヒューズエレメントを収容する内部に面する内壁表面の少なくとも一部に、上記ヒューズエレメントの溶断に伴う熱により表面が溶融する樹脂部を有
し、
上記樹脂部は、ナイロン系又はフッ素系の樹脂材料を用いて形成されているヒューズ素子。
【請求項2】
ヒューズエレメントと、
上記ヒューズエレメントを収容するケースとを有し、
上記ケースは、上記ヒューズエレメントを収容する内部に面する内壁表面の少なくとも一部に、上記ヒューズエレメントの溶融飛散物を捕捉する樹脂部を有
し、
上記樹脂部は、ナイロン系又はフッ素系の樹脂材料を用いて形成されているヒューズ素子。
【請求項3】
上記樹脂部に捕捉された上記溶融飛散物は、不連続状態である請求項2に記載のヒューズ素子。
【請求項4】
上記ケースは、セラミック材により形成されている請求項1~
3のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項5】
上記樹脂部は、耐トラッキング性が250V以上である材料からなる請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項6】
上記樹脂部は、耐トラッキング性が600V以上である材料からなる請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項7】
上記樹脂部は、融点が400℃以下である材料からなる請求項1~3のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項8】
上記樹脂部は、熱伝導率が1W/m・K以下である材料からなる請求項1~3のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項9】
上記ケースは、上記ヒューズエレメントの通電方向に離間した2か所を支持し、当該支持された部位の間を中空で支持する請求項1~
8のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項10】
上記ケースは、上記内壁の上記支持された部位の間を、上記ヒューズエレメントの通電方向と直交する方向に遮るように、上記樹脂部が形成されている請求項
9に記載のヒューズ素子。
【請求項11】
上記樹脂部は、上記内壁表面の全面に形成されている請求項1~
10のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項12】
上記ヒューズエレメントは、内層を低融点金属層、外層を高融点金属層とする積層体である請求項1~
11のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【請求項13】
発熱体を備え、
上記ヒューズエレメントは、上記発熱体が通電することによる発熱により溶断される請求項1~
12のいずれか1項に記載のヒューズ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電流経路上に実装され、定格を超える電流が流れた時に自己発熱によりヒューズエレメントが溶断し当該電流経路を遮断するヒューズ素子に関し、特に高定格、大電流の用途に対応可能なヒューズ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定格を超える電流が流れた時に自己発熱により溶断し、当該電流経路を遮断するヒューズエレメントが用いられている。ヒューズエレメントとしては、例えば、ハンダをガラス管に封入したホルダー固定型ヒューズや、セラミック基板表面にAg電極を印刷したチップヒューズ、銅電極の一部を細らせてプラスチックケースに組み込んだねじ止め又は差し込み型ヒューズ等が多く用いられている。
【0003】
しかし、上記既存のヒューズエレメントにおいては、電流定格が低く、また大型化によって定格を上げると速断性に劣る、といった問題点が指摘されている。
【0004】
また、リフロー実装用の速断ヒューズ素子を想定した場合、リフローの熱によって溶融しないように、一般的には、ヒューズエレメントには融点が300℃以上のPb入り高融点ハンダが溶断特性上好ましい。しかしながら、RoHS指令等においては、Pb含有ハンダの使用は、限定的に認められているに過ぎず、今後Pbフリー化の要求は、強まるものと考えられる。
【0005】
すなわち、ヒューズエレメントとしては、定格を上げて大電流に対応可能であること、定格を超える過電流時には速やかに電流経路を遮断する速溶断性を備えることが求められる。
【0006】
そこで、第1、第2の電極を備えた絶縁基板上に、当該第1、第2の電極間にわたってヒューズエレメントを搭載したヒューズ素子が提案されている(文献1参照)。
【0007】
文献1に記載のヒューズ素子は、回路基板等に実装されると、ヒューズエレメントが第1、第2の電極間が電流経路の一部に組み込まれ、定格よりも高い値の電流が流れると自己発熱によりヒューズエレメントが溶融し、電流経路を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、この種のヒューズ素子の用途は電子機器から産業用機械、電動自転車、電動バイク、クルマ等の大電流且つ高電圧用途にまで広がっている。このため、搭載される電子機器やバッテリパック等の高容量化、高定格化に伴い、ヒューズ素子は、電流定格のさらなる向上が求められている。
【0010】
電流定格を上げるためには、ヒューズエレメントを大型化することで低抵抗化を図ることが有効である。しかし、ヒューズ素子の電流定格を上げるためには、ヒューズエレメントの導体抵抗の低減と、電流経路の遮断時における絶縁性能とのバランスを取る必要がある。すなわち、電流をより多く流すためには、導体抵抗を下げる必要があり、よってヒューズエレメントの断面積を大きくする必要がある。一方、
図15(A)(B)に示すように、電流経路の遮断の際には、発生するアーク放電によってヒューズエレメント80を構成する金属体80aが周囲に飛散し、新たに電流経路81が形成されるおそれがあり、ヒューズエレメントの断面積が大きくなるほど、そのリスクが高くなる。
【0011】
高電流定格のヒューズエレメント80を収容するケースの多くはセラミック材料が用いられているが、セラミック材料は熱伝導率が高くヒューズエレメント80の高熱の溶融飛散物を効率良く捕捉し(コールドトラップ)、その結果、ケース内壁に連続的な伝導パスが形成される為である。
【0012】
また、従来の高電圧対応の電流ヒューズにおいては、消弧剤の封入や螺旋ヒューズの製造といった、何れも複雑な材料や加工プロセスが必要とされ、ヒューズ素子の小型化や電流の高定格化といった面で不利である。
【0013】
以上のように、定格を向上させるために相当の大きさを備えたヒューズエレメントを用いつつ、絶縁性能を維持することができ、かつ簡易な構成で小型化、製造工程の簡素化も実現できるヒューズ素子の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本技術に係るヒューズ素子は、ヒューズエレメントと、上記ヒューズエレメントを収容するケースとを有し、上記ケースは、上記ヒューズエレメントを収容する内部に面する内壁表面の少なくとも一部に、上記ヒューズエレメントの溶断に伴う熱により表面が溶融する樹脂部を有し、上記樹脂部は、ナイロン系又はフッ素系の樹脂材料を用いて形成されているものである。
【0015】
また、本技術に係るヒューズ素子は、ヒューズエレメントと、上記ヒューズエレメントを収容するケースとを有し、上記ケースは、上記ヒューズエレメントを収容する内部に面する内壁表面の少なくとも一部に、上記ヒューズエレメントの溶融飛散物を捕捉する樹脂部を有し、上記樹脂部は、ナイロン系又はフッ素系の樹脂材料を用いて形成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本技術によれば、ヒューズエレメントを収容するケースの内壁表面の少なくとも一部に、ヒューズエレメントの溶融飛散物を捕捉する樹脂部を有するため、溶融飛散物が樹脂部に捕捉されることによりヒューズエレメントの通電方向の両端に至る内壁面に連続して付着することを防止することができる。したがって、本発明によれば、ヒューズエレメントの溶融飛散物がケース内壁表面に連続して付着することによって溶断されたヒューズエレメントの両端が短絡される事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本技術が適用されたヒューズ素子を示す断面図であり、(A)はヒューズエレメントの溶断前、(B)はヒューズエレメントの溶断後を示す。
【
図2】
図2(A)は樹脂部によって溶融飛散物を捕捉した状態を示す断面図であり、
図2(B)は樹脂部を設けずケースの内壁表面に溶融飛散物の堆積層が形成されている状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は本技術が適用されたヒューズ素子の変形例を示す断面図であり、(A)はヒューズエレメントの溶断前、(B)はヒューズエレメントの溶断後を示す。
【
図4】
図4(A)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースの内壁表面を写したSEM画像であり、
図4(B)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースにヒューズエレメントの溶融飛散物が付着した状態を写したSEM画像であり、
図4(C)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースにヒューズエレメントの溶融飛散物が付着した状態をさらに拡大して写したSEM画像である。
【
図5】
図5(A)はナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースの内壁表面を写したSEM画像であり、
図5(B)は、ナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースにヒューズエレメントの溶融飛散物が付着した状態を写したSEM画像であり、
図5(C)は、ナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースにヒューズエレメントの溶融飛散物が付着した状態をさらに拡大して写したSEM画像である。
【
図6】
図6(A)は低融点金属層の上下面に高融点金属層を積層させた積層構造としたヒューズエレメントを示す外観斜視図であり、
図6(B)は両端面より低融点金属層が露出し、外周が高融点金属層に被覆される被覆構造としたヒューズエレメントを示す外観斜視図である。
【
図7】
図7は、変形規制部を設けたヒューズエレメントを示す断面図である。
【
図8】
図8はヒューズ素子の回路構成を示す図であり、(A)はヒューズエレメントの溶断前、(B)はヒューズエレメントの溶断後を示す。
【
図9】
図9は本技術が適用されたヒューズ素子の変形例を示す図であり、(A)は外観斜視図、(B)は断面図である。
【
図10】
図10は
図9に示すヒューズ素子の変形例の溶断後を示す図であり、(A)はカバー部材を外した状態の外観斜視図であり、(B)は断面図である。
【
図11】
図11は、本技術が適用されたヒューズ素子の変形例を示す断面図である。
【
図12】
図12は、本技術が適用されたヒューズ素子の変形例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、本技術が適用されたヒューズ素子の変形例を示す図であり、(A)はヒューズエレメントが搭載された発熱体を有するベース部材を示す天面図であり、(B)は断面図である。
【
図14】
図14は、
図13に示すヒューズ素子の回路図であり、(A)はヒューズエレメントの溶断前、(B)はヒューズエレメントの溶断後を示す。
【
図15】
図15は、従来のヒューズ素子を示す断面図であり、(A)はヒューズエレメントの溶断前、(B)はヒューズエレメントの溶断後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術が適用されたヒューズ素子について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0019】
[ヒューズ素子]
本技術に係るヒューズ素子1は、小型且つ高定格のヒューズ素子を実現するものであり、平面寸法が3~5mm×5~10mm、高さが2~5mmと小型でありながら、抵抗値が0.2~1mΩ、50~150A定格と高定格化が図られている。なお、本発明は、あらゆるサイズ、抵抗値及び電流定格を備えるヒューズ素子に適用することができるのはもちろんである。
【0020】
本技術が適用されたヒューズ素子1は、
図1(A)(B)に示すように、ヒューズエレメント2と、ヒューズエレメント2を収容するケース3とを有する。ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント2の通電方向の両端部がケース3の導出口7より導出されている。ヒューズエレメント2は、導出口7より導出されている両端部が外方に延長され図示しない外部回路の接続電極と接続される端子部2a,2bとされている。ヒューズ素子1は、端子部2a,2bが、ヒューズ素子1が組み込まれる回路の端子に接続され、これにより当該回路の電流経路の一部を構成する。ヒューズエレメント2は、定格を超える電流が通電することによって自己発熱(ジュール熱)により溶断し、ヒューズ素子1が組み込まれた回路の電流経路を遮断する。
【0021】
なお、ヒューズエレメント2の端子部2a,2bと外部回路の接続電極とは、ハンダ接続等の公知の方法により行うことができる。また、ヒューズ素子1は、端子部2a,2bを大電流対応が可能な外部接続端子となる金属板に接続させてもよい。ヒューズエレメント2の端子部2a,2bと金属板との接続は、ハンダ等の接続材によって接続させてもよく、金属板と接続されたクランプ端子に端子部2a,2bを挟持させてもよく、あるいは端子部2a,2b又はクランプ端子を金属板に導通性を有するねじによりねじ止めすることにより行ってもよい。
【0022】
[ケース]
ケース3は、例えばエンジニアリングプラスチック、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって形成することができ、また、ケース3は、モールド成型、粉体成型等、材料に応じた製法によって製造される。
【0023】
また、
図1に示すように、ケース3は、収容するヒューズエレメント2の通電方向の両端部を導出する導出口7が設けられている。導出口7は、ケース3の相対向する壁部に形成され、ヒューズエレメント2の通電方向の両端部を支持するとともに、ケース3内の収納空間8において中空状に支持する。
【0024】
ここで、ケース3は、アルミナ等の熱伝導率が比較的高いセラミック材料により形成されることが好ましい。ケース3は、熱伝導性に優れるセラミック材料を用いることにより、ヒューズエレメント2が過電流により発熱した熱を効率的に外部に放熱し、中空で保持されたヒューズエレメント2を局所的に過熱、溶断させることができる。したがって、ヒューズエレメント2は、限られた部位だけで溶断し、溶融飛散物の量及び付着領域も限定的となる。
【0025】
[樹脂部]
ヒューズエレメント2を収容するケース3は、ヒューズエレメント2を収容する収納空間8を有し、ヒューズエレメント2に面する内壁表面8aの少なくとも一部に、ヒューズエレメント2が溶断する際に発生する溶融飛散物を捕捉する樹脂部4を有する。樹脂部4は、例えば内壁表面8aのケース3に収容されたヒューズエレメント2の通電方向の中間位置と対向する位置に、ヒューズエレメント2の通電方向と直交する方向にわたって、すなわち、ヒューズエレメント2の周囲を囲む内壁表面8aの全周にわたって形成されている。これにより、樹脂部4は、収納空間8内において、ヒューズエレメント2を中空で支持する一対の導出口7、7間に亘る内壁表面8aを、上記ヒューズエレメントの通電方向と直交する方向に遮るように形成される。
【0026】
樹脂部4は、ヒューズエレメント2の溶断時に高温の溶融飛散物11が付着すると、
図2(A)に示すように、当該溶融飛散物11を捕捉するとともに、溶断に伴う輻射熱や溶融飛散物11の高熱により溶融し、樹脂部4の内部に多数ある溶融飛散物11の一部が侵入する。
【0027】
また、樹脂部4の表面においては溶融飛散物11がセラミック材料に比べて冷却され難く、溶融飛散物11自体の熱やヒューズエレメント2の溶断に伴う輻射熱などにより溶融飛散物11が凝集し大型化する。更に、度重なる溶融飛散物11の飛散流にて捕捉された一部の溶融飛散物11は放出される。
【0028】
これにより、ケース3は、樹脂部4に溶融飛散物11が堆積して連続することがなく、樹脂部4によって導出口7から導出されているヒューズエレメント2の両端部間が、電気的に絶縁される。したがって、ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11がケース3の内壁表面8aに付着した場合にも、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11によってヒューズエレメント2の通電方向の両端が短絡される事態を防止することができ、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【0029】
樹脂部4は、高温の溶融飛散物11を捕捉し、且つ溶融飛散物11の高熱により溶融し、樹脂部4の内部に溶融飛散物11の一部が侵入する材料を用いて形成され、好ましくは融点が400℃以下、より好ましくはリフロー温度(例えば260℃)以上である材料を用いて形成され、又は、好ましくは熱伝導率が1W/m・K以下である材料を用いて形成される。
【0030】
樹脂部4の材料としては、例えばナイロン系(ナイロン46、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン4T、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン10T等)又はフッ素系(PTFE、PFA、FEP、ETFE、EFEP、CPT、PCTFE等)の樹脂材料を用いて形成することができる。
【0031】
また、樹脂部4は、ケース3の内壁表面8aに、材料に応じて塗布や印刷、蒸着、スパッタリング、その他の公知の樹脂膜や樹脂層の形成方法によって形成することができる。また、樹脂部4は、1種類の樹脂材料で形成してもよく、複数種類の樹脂材料を積層して形成してもよい。
【0032】
なお、樹脂部4は、
図1に示すように、ヒューズエレメント2の通電方向の中間位置と対向する位置に形成することにより、効率よく絶縁することができる。ヒューズエレメントは、定格を超える過電流が流れ自己発熱により溶断する際、ヒューズエレメント2の通電方向の両端を支持する導出口7から放熱されるため、導出口7から最も離れたヒューズエレメント2の通電方向の中間位置において過熱し、溶断しやすい。したがって、当該中間位置に対向する位置に樹脂部4を配置することにより、溶融飛散物11を確実に捕捉することができる。
【0033】
また、樹脂部4は、
図3(A)(B)に示すように、ケース3の内壁表面8aの全面にわたって形成してもよい。その他、ケース3の内壁表面8aに形成される樹脂部4の形成位置や形成パターンは任意に設計することができる。
【0034】
[耐トラッキング性]
ここで、ヒューズエレメント2は、電流定格の向上に伴い、過電流による自己発熱遮断時の発熱量も多くなることから、ケース3に対する熱影響も増してくる。例えば、ヒューズ素子の電流定格が100Aレベルに上昇し、且つ定格電圧が60Vレベルに上昇すると、電流遮断時のアーク放電によりケース3のヒューズエレメント2と対向する表面や樹脂部4が炭化して、リーク電流が流れて絶縁抵抗が低下したり、発火して素子筐体が破損し、あるいは搭載基板からズレたり、脱落したりする事象も懸念される。
【0035】
アーク放電を速やかに止めて回路を遮断する対策として、中空ケース内に消弧剤を詰めたものや、放熱材の周りにヒューズエレメントを螺旋状に巻きつけてタイムラグを発生させる高電圧対応の電流ヒューズも提案されている。しかし、従来の高電圧対応の電流ヒューズにおいては、消弧剤の封入や螺旋ヒューズの製造といった、何れも複雑な材料や加工プロセスが必要とされ、ヒューズ素子の小型化や電流の高定格化といった面で不利である。
【0036】
そこで、ヒューズ素子1は、樹脂部4を、耐トラッキング性が250V以上である材料により形成することが好ましい。これにより、電流定格の向上に伴う過電流による発熱遮断時におけるアーク放電の大規模化によっても、樹脂部4の炭化を防止し、リーク電流の発生による絶縁抵抗の低下や、発火によるケース3の破損を防止できる。
【0037】
樹脂部4を構成する耐トラッキング性を有する材料としては、ナイロン系材料が好ましい。ナイロン系のプラスチック材料を用いることにより、樹脂部4の耐トラッキング性を250V以上とすることができる。耐トラッキング性は、IEC60112に基づく試験により求めることができる。
【0038】
樹脂部4を構成するナイロン系のプラスチック材料の中でも、特にナイロン46やナイロン6T,ナイロン9Tを用いることが好ましい。これにより、樹脂部4は、耐トラッキング性を600V以上に高めることができる。
【0039】
[絶縁抵抗]
また、ケース3は、上述したように、中空で保持されたヒューズエレメント2を局所的に過熱、溶断させ、溶融飛散物の量及び付着領域を限定的なものに抑える点で、熱伝導性に優れるセラミック材料により形成されることが好ましい。一方で、セラミック材料からなるケース3は、熱伝導率に優れるがゆえに、ケース3の内壁表面8aに高熱の溶融飛散物11が付着すると急速に冷やされ、
図2(B)に示すように、溶融飛散物11の堆積層が形成されやすく、堆積した溶融飛散物11を介してヒューズエレメント2の端子部2a,2b間にわたるリーク電流が発生するおそれがある。
【0040】
このため、ヒューズ素子1は、樹脂部4を形成することにより、
図2(A)に示すように、溶融飛散物11を捕捉するとともに、樹脂部4が溶断に伴う輻射熱や溶融飛散物11の高熱により溶融飛散物11と共に溶融することにより、溶融飛散物11による堆積層の形成を抑制することができる。
【0041】
すなわち、ヒューズ素子1は、セラミック材料からなるケース3を用いることにより、中空で保持されたヒューズエレメント2を局所的に過熱、溶断させ、溶融飛散物の量及び付着領域を限定的なものに抑えるとともに、樹脂部4で溶融飛散物11を捕捉するとともに樹脂部4が溶融することにより、溶融飛散物11の堆積層の形成を防止し、リーク電流の発生を防止して高い絶縁抵抗(例えば1013kΩレベル)を維持することができる。
【0042】
[実施例]
図4(A)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースの内壁表面を写したSEM画像であり、
図4(B)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースにヒューズエレメント2の溶融飛散物11が付着した状態を写したSEM画像であり、
図4(C)はアルミナ(セラミック材料)からなるケースにヒューズエレメント2の溶融飛散物11が付着した状態をさらに拡大して写したSEM画像である。
図5(A)はナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースの内壁表面を写したSEM画像であり、
図5(B)は、ナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースにヒューズエレメント2の溶融飛散物11が付着した状態を写したSEM画像であり、
図5(C)は、ナイロン46(ナイロン系樹脂材料)からなるケースにヒューズエレメント2の溶融飛散物11が付着した状態をさらに拡大して写したSEM画像である。
【0043】
図4(B)(C)に示すように、アルミナ表面には溶融飛散物11が緻密に付着して堆積層を形成していることが分かる。
【0044】
一方、
図5(B)(C)に示すように、ナイロン46の表面にはヒューズエレメント2の溶融飛散物11が疎らに付着し、また溶断に伴う輻射熱や溶融飛散物11の熱によりナイロン46の表面が溶融してできた空隙が形成されていることが分かる。このように、樹脂材料の表面には溶融飛散物11が連続的に堆積することなく、また樹脂材料が陥没してできた空隙に溶融飛散物11が侵入することによりリーク電流の経路が形成されにくくなっている。
【0045】
これら
図4、
図5に示すケースの絶縁抵抗を測定したところ(遮断条件:300A/62V)、
図4に示すアルミナ製ケースの絶縁抵抗は80kΩまで落ちたのに対して、
図5に示すナイロン46製ケースの絶縁抵抗は1.8×10
13kΩであった。
【0046】
ナイロン46製ケースは優れた絶縁抵抗を有するが、ナイロン46等の樹脂は熱伝導性が低く、ヒューズエレメント2の発熱を効率よく放熱させることができず、ヒューズエレメント2の溶断エリアは広範囲となる。そのため、多量の溶融飛散物11が飛散し、また、ケース内面への付着領域も広範囲となった。そのため、高定格化に加え、ヒューズ素子の小型化を図る場合、高い絶縁抵抗を維持するためには、溶融飛散物11の量は最小限に抑え、ケース内面への付着領域も限定的に抑えることが望ましい。
【0047】
この点、上述したように、ヒューズ素子1は、セラミック材料からなるケース3を用いることにより、中空で保持されたヒューズエレメント2を局所的に過熱、溶断させ、溶融飛散物の量及び付着領域を限定的なものに抑えるとともに、樹脂部4で溶融飛散物11を捕捉するとともに樹脂部4が溶融することにより、溶融飛散物11の堆積層の形成を防止し、リーク電流の発生を防止して高い絶縁抵抗(例えば1013kΩレベル)を維持することができるため、有利となる。
【0048】
[ヒューズエレメント]
次いで、ヒューズエレメント2について説明する。ヒューズエレメント2は、ハンダ又はSnを主成分とするPbフリーハンダ等の低融点金属、若しくは低融点金属と高融点金属の積層体である。例えば
図6に示すように、ヒューズエレメント2は、内層と外層とからなる積層構造体であり、内層として低融点金属層9、低融点金属層9に積層された外層として高融点金属層10を有する。
【0049】
低融点金属層9は、好ましくは、Snを主成分とする金属であり、「Pbフリーハンダ」と一般的に呼ばれる材料である。低融点金属層9の融点は、必ずしもリフロー温度(例えば、260℃)よりも高い必要はなく、200℃程度で溶融してもよい。高融点金属層10は、低融点金属層9の表面に積層された金属層であり、例えば、Ag若しくはCu又はこれらのうちのいずれかを主成分とする金属からなり、ヒューズ素子1をリフロー炉によって外部回路基板上に実装する場合においても溶融しない高い融点を有する。
【0050】
ヒューズエレメント2は、内層となる低融点金属層9に、外層として高融点金属層10を積層することによって、リフロー温度が低融点金属層9の溶融温度を超えた場合であっても、ヒューズエレメント2として溶断するに至らない。したがって、ヒューズ素子1は、リフローによって効率よく実装することができる。
【0051】
また、ヒューズエレメント2は、所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、定格よりも高い値の電流が流れると、自己発熱によって低融点金属層9の融点から溶融を開始し、速やかに端子部2a,2b間の電流経路を遮断することができる。例えば、低融点金属層9をSn‐Bi系合金やIn‐Sn系合金などで構成した場合、ヒューズエレメント2は、140℃や120℃前後という低温から溶融を開始する。このとき、ヒューズエレメント2は、例えば低融点金属としてSnを40%以上含ませる合金を用いることで、溶融した低融点金属層9が高融点金属層10を溶食することにより、高融点金属層10が溶融温度よりも低い温度で溶融する。したがって、ヒューズエレメント2は、低融点金属層9による高融点金属層10の溶食作用を利用して短時間で溶断することができる。
【0052】
また、ヒューズエレメント2は、内層となる低融点金属層9に高融点金属層10が積層されて構成されているため、溶断温度を従来の高融点金属からなるチップヒューズ等よりも大幅に低減することができる。したがって、ヒューズエレメント2は、高融点金属エレメントに比して、幅広に形成するとともに通電方向を短く形成することにより電流定格を大幅に向上させながら小型化を図り、かつ回路基板との接続部位への熱の影響を抑えることができる。また、同じ電流定格をもつ従来のチップヒューズよりも小型化、薄型化を図ることができ、速溶断性にも優れる。
【0053】
また、ヒューズエレメント2は、ヒューズ素子1が組み込まれた電気系統に異常に高い電圧が瞬間的に印加されるサージへの耐性(耐パルス性)を向上することができる。すなわち、ヒューズエレメント2は、例えば100Aの電流が数msec流れたような場合にまで溶断してはならない。この点、極短時間に流れる大電流は導体の表層を流れることから(表皮効果)、ヒューズエレメント2は、外層として抵抗率の低いAgメッキ等の高融点金属層10が設けられているため、サージによって印加された電流を流しやすく、自己発熱による溶断を防止することができる。したがって、ヒューズエレメント2は、従来のハンダ合金からなるヒューズに比して、大幅にサージに対する耐性を向上させることができる。
【0054】
ヒューズエレメント2は、低融点金属層9の表面に高融点金属層10を電解メッキ法等の成膜技術を用いることにより製造できる。例えば、ヒューズエレメント2は、ハンダ箔や糸ハンダの表面にAgメッキを施すことにより効率よく製造できる。また、ヒューズエレメント2は、
図6(A)に示すように、低融点金属層9の上下面に高融点金属層10を積層させた積層構造としてもよく、
図6(B)に示すように、低融点金属層9に電解メッキ、無電解メッキ等の処理を施した後、所定の長さに切断することにより両端面より低融点金属層9が臨み外周が高融点金属層10に被覆される被覆構造としてもよい。なお、本技術において、ヒューズエレメント2の構造は
図6に示すものに限定されない。
【0055】
なお、ヒューズエレメント2は、低融点金属層9の体積を、高融点金属層10の体積よりも多く形成することが好ましい。ヒューズエレメント2は、自己発熱によって低融点金属が溶融することにより高融点金属を溶食し、これにより速やかに溶融、溶断することができる。したがって、ヒューズエレメント2は、低融点金属層9の体積を高融点金属層10の体積よりも多く形成することにより、この溶食作用を促進し、速やかに端子部2a,2b間を遮断することができる。
【0056】
[変形規制部]
また、
図7に示すように、ヒューズエレメント2は、溶融した低融点金属の流動を抑え、変形を規制する変形規制部6を設けてもよい。これにより大面積化することで高定格化、低抵抗化されたヒューズエレメント2においても、リフロー加熱時等において低融点金属の流動による変形を抑制し、溶断特性の変動を防止することができる。
【0057】
変形規制部6は、ヒューズエレメント2の表面に設けられ、
図7に示すように、低融点金属層9に設けられた1又は複数の孔12の側面の少なくとも一部が、高融点金属層10と連続する第2の高融点金属層14によって被覆されてなる。孔12は、例えば低融点金属層9に針等の先鋭体を突き刺し、或いは低融点金属層9に金型を用いてプレス加工を施す等により形成することができる。また、孔12の形状は、例えば楕円形、長方形、その他、任意の形状を採用することができる。また、孔12は、ヒューズエレメント2の溶断部となる中央部に形成してもよく、全面にわたって一様に形成してもよい。なお、孔12を溶断部に対応した位置に形成することで、溶断部における溶融金属量を減らすとともに高抵抗化させ、より速やかに過熱溶断させることができる。
【0058】
第2の高融点金属層14を構成する材料は、高融点金属層10を構成する材料と同様に、リフロー温度によっては溶融しない高い融点を有する。また、第2の高融点金属層14は、高融点金属層10と同じ材料で、高融点金属層10の形成工程において合わせて形成されることが製造効率上、好ましい。
【0059】
[フラックス]
なお、ヒューズ素子1は、高融点金属層10又は低融点金属層9の酸化防止と、溶断時の酸化物除去及びハンダの流動性向上のために、ヒューズエレメント2の表面や裏面に図示しないフラックスをコーティングしてもよい。
【0060】
フラックスをコーティングすることにより、外層の高融点金属層10の表面に、Snを主成分とするPbフリーハンダ等の酸化防止膜を形成した場合にも、当該酸化防止膜の酸化物を除去することができ、高融点金属層10の酸化を効果的に防止し、溶断特性を維持、向上することができる。
【0061】
[ヒューズ溶断]
このようなヒューズ素子1は、
図8(A)に示す回路構成を有する。ヒューズ素子1は、端子部2a,2bを介して外部回路に実装されることにより、当該外部回路の電流経路上に組み込まれる。ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント2に所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、ヒューズ素子1は、定格を超える過電流が通電するとヒューズエレメント2が自己発熱によってヒューズエレメント2がアーク放電の発生を伴って溶断し、端子部2a,2b間を遮断することにより、当該外部回路の電流経路を遮断する(
図8(B))。
【0062】
このとき、ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント2を収容するケース3の内壁表面8aの少なくとも一部に、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11を捕捉する樹脂部4を有するため、溶融飛散物11が樹脂部4に不連続状態で捕捉されることによりヒューズエレメント2の通電方向の両端に至る内壁表面8aに連続して付着することを防止することができる。したがって、ヒューズ素子1は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11がケース3の内壁表面8aに連続して付着することによって溶断されたヒューズエレメント2の両端が短絡される事態を防止することができる。
【0063】
[ヒューズ素子の変形例]
次いで、本技術が適用されたヒューズ素子の変形例について説明する。なお、以下の説明において、上述したヒューズ素子1と同一の構成については、同一の符号を付してその詳細を省略する。本発明が適用されたヒューズ素子20は、
図9(A)(B)に示すように、ベース部材21と、ベース部材21の表面21a上に実装されるヒューズエレメント2と、ヒューズエレメント2が実装されたベース部材21の表面21a上を覆い、ベース部材21とともにヒューズエレメント2を収容する素子筐体28を構成するカバー部材22とを備える。
【0064】
ヒューズ素子20は、ベース部材21とカバー部材22とにより構成される素子筐体28が、上述したヒューズエレメント2を収容するケース3に相当する。素子筐体28は、ベース部材21及びカバー部材22が接合されることによって形成される素子筐体28の外に一対の端子部2a,2bを導出する導出口7が形成される。ヒューズエレメント2は、導出口7より導出される端子部2a,2bを介して外部回路の接続電極と接続可能とされている。
【0065】
ベース部材21は、上述したケース3と同様の材料によって形成することができ、例えば、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチック、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって形成される。その他、ベース部材21は、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよい。
【0066】
カバー部材22は、ベース部材21と同様に、上述したケース3と同様の材料によって形成することができ、例えば、各種エンジニアリングプラスチック、セラミックス等の絶縁性を有する部材により形成することができる。また、カバー部材22は、例えば絶縁性の接着剤を介してベース部材21と接続され、あるいはベース部材21との間に嵌合機構を設けることにより接続されている。
【0067】
また、
図9(B)に示すように、ベース部材21は、ヒューズエレメント2が実装される表面21aに、溝部23が形成されている。また、カバー部材22も、溝部23と対向して溝部29が形成されている。
図10(A)(B)に示すように、溝部23,29は、ヒューズエレメント2が溶融、遮断する空間であり、ヒューズエレメント2は、溝部23,29に位置する部位が、熱伝導率の低い空気と触れることにより、ベース部材21及びカバー部材22と接する他の部位に比して相対的に温度が上がり、溶断される溶断部2cとなる。
【0068】
また、ベース部材21は溝部23の内壁表面の少なくとも一部に上述した樹脂部4が形成され、カバー部材22は溝部29の内壁表面の少なくとも一部に上述した樹脂部4が形成されている。ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2が溝部23,29によって覆われるため、過電流によるアーク放電の発生を伴う自己発熱遮断時においても、溶融金属が樹脂部4によって捕捉され、周囲への飛散を防止できる。また、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11が樹脂部4に不連続状態で捕捉されることによりヒューズエレメント2の通電方向の両端に至る内壁表面に連続して付着することを防止することができる。したがって、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11が溝部23,29の内壁表面に連続して付着することによって溶断されたヒューズエレメント2の両端が短絡される事態を防止することができる。
【0069】
樹脂部4は、溝部23,29の長手方向に沿って連続して形成され、ヒューズエレメント2の全幅にわたって対向するとともに、ヒューズエレメント2の全幅以上の長さを有する。また、樹脂部4は、溝部23,29の長手方向の全長にわたる底面及び底面と4辺において隣接する各側面にも形成されていることが好ましい。
【0070】
なお、ベース部材21とヒューズエレメント2との間には適宜導電性の接着剤やハンダを介在させてもよい。ヒューズ素子20は、接着剤あるいはハンダを介してベース部材21とヒューズエレメント2とが接続されることにより、相互の密着性が高まり、より効率よく熱をベース部材21に伝達させるとともに、相対的に溶断部2cを過熱、溶断させることができる。
【0071】
なお、ヒューズ素子20は、
図11に示すようにベース部材21に溝部23を設ける代わりに、ベース部材21の表面21a上に第1の電極24及び第2の電極25を設けてもよい。第1、第2の電極24,25は、それぞれ、AgやCu等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層を設けてもよい。
【0072】
第1及び第2の電極24,25は、接続用ハンダを介してヒューズエレメント2が接続されている。ヒューズエレメント2は、第1、第2の電極24,25に接続されることにより、溶断部2cを除く部位における放熱効果が上がり、より効果的に溶断部2cを過熱、溶断させることができる。
【0073】
図11に示す構成においても、ベース部材21及びカバー部材22には、樹脂部4が形成されている。このとき、樹脂部4とヒューズエレメント2との間には空隙が形成されていることが好ましいが、樹脂部4とヒューズエレメント2とが接する場合にも、樹脂部4は、第1、第2の電極24,25よりも熱伝導性が低いため、相対的に溶断部2cを過熱、溶断させることができる。なお、
図11に示す構成においても、ヒューズ素子20は、ベース部材21に溝部23を設け、カバー部材22に溝部29を設け、溝部23,29にそれぞれ樹脂部4を設けてもよい。
【0074】
また、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2に端子部2a,2bを設ける代わりに、あるいは
図12に示すように、端子部2a,2bとともに、ベース部材21の裏面21bに、第1、第2の電極24,25と電気的に接続される第1、第2の外部接続電極24a,25aを設けてもよい。第1、第2の電極24,25と第1、第2の外部接続電極24a,25aとは、ベース部材21を貫通するスルーホール26やキャスタレーション等を介して導通が図られている。第1、第2の外部接続電極24a,25aも、それぞれ、AgやCu等の導電パターンによって形成され、表面に適宜、酸化防止対策としてSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層を設けてもよい。ヒューズ素子20は、端子部2a,2bに代えて又は端子部2a,2bとともに、第1、第2の外部接続電極24a,25aを介して、外部回路基板の電流経路上に実装される。
【0075】
なお、
図11、
図12に示すヒューズ素子20においては、ヒューズエレメント2が、ベース部材21の表面21aから離間して実装されている。したがって、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2の溶融時にも溶融金属がベース部材21へ食い込むこともなく第1、第2の電極24,25間で溶断し、上述した樹脂部4の効果とも相まって、確実に端子部2a,2b間及び第1、第2の電極24,25間の絶縁抵抗を維持することができる。
【0076】
なお、ヒューズ素子20は、高融点金属層10又は低融点金属層9の酸化防止と、溶断時の酸化物除去及びハンダの流動性向上のために、ヒューズエレメント2の表面や裏面に図示しないフラックスをコーティングしてもよい。
【0077】
フラックスをコーティングすることにより、外層の高融点金属層10の表面に、Snを主成分とするPbフリーハンダ等の酸化防止膜を形成した場合にも、当該酸化防止膜の酸化物を除去することができ、高融点金属層10の酸化を効果的に防止し、溶断特性を維持、向上することができる。
【0078】
[端子部]
また、
図9に示すように、ヒューズ素子20は、ケース3の外部に導出されているヒューズエレメント2の端子部2a,2bを、ベース部材21の側面に沿うように屈折させてもよい。ヒューズエレメント2は、端子部2a,2bを屈折させることによりベース部材21の側面に嵌合されるとともに、端子部2a,2bがベース部材21の底面側へ向けられる。これにより、ヒューズ素子1は、ベース部材21の底面が実装面とされ、端子部2a,2bが外部回路基板の接続電極と接続されることにより、表面実装が可能となる。
【0079】
また、ヒューズ素子20は、ヒューズエレメント2に端子部2a,2bを形成することにより、ベース部材21のヒューズエレメント2が搭載される表面に電極を設けるとともにベース部材21の裏面に当該電極と接続された外部接続電極を設ける必要がなくなり、製造工程を簡素化することができ、またベース部材21の電極及び外部接続電極間の導通抵抗によって電流定格が律速されることなく、ヒューズエレメント2自体で電流定格を規定することができ、電流定格を向上させることができる。
【0080】
端子部2a,2bは、ベース部材21の表面に搭載されるヒューズエレメント2の端部をベース部材21の側面に沿うように折り曲げることにより形成され、適宜さらに外側もしくは内側に一又は複数回折り曲げられることにより形成される。これにより、ヒューズエレメント2は、略平坦な主面と折り曲げられた先の面との間に、屈曲部が形成される。
【0081】
そして、ヒューズ素子20は、端子部2a,2bが素子外部に臨まされ、外部回路基板に実装されると、端子部2a,2bが当該外部回路基板に形成された接続電極とハンダ等により接続され、これによりヒューズエレメント2が外部回路に組み込まれる。
【0082】
[発熱体]
また、本技術は、
図13(A)(B)に示すように、ベース部材21に発熱体41を設けたヒューズ素子40に適用することもできる。なお、以下の説明において、上述したヒューズ素子1,20と同一の部材については同一の符号を付してその詳細を省略する。本発明が適用されたヒューズ素子40は、ベース部材21と、ベース部材21に積層され、絶縁部材42に覆われた発熱体41と、ベース部材21の両端に形成された第1の電極24及び第2の電極25と、ベース部材21上に発熱体41と重畳するように積層され、発熱体41に電気的に接続された発熱体引出電極45と、両端が第1、第2の電極24,25にそれぞれ接続され、中央部が発熱体引出電極45に接続されたヒューズエレメント2とを備える。そして、ヒューズ素子40は、ベース部材21とカバー部材22とは、互いに接着もしくは嵌合することにより素子筐体28を構成する。また、カバー部材22は、上述したように、内壁表面の少なくとも一部に、上述した樹脂部4が形成されている。
【0083】
ベース部材21の表面21aには、相対向する両端部に、第1、第2の電極24,25が形成されている。第1、第2の電極24,25は、発熱体41が通電し発熱すると、溶融したヒューズエレメント2がその濡れ性により集まり、端子部2a,2b間を溶断させる。
【0084】
発熱体41は、通電すると発熱する導電性を有する部材であって、たとえばニクロム、W、Mo、Ru等又はこれらを含む材料からなる。発熱体41は、これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合してペースト状にしたものを、ベース部材21上にスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成することができる。
【0085】
また、ヒューズ素子40は、発熱体41が絶縁部材42によって被覆され、絶縁部材42を介して発熱体41と対向するように発熱体引出電極45が形成されている。発熱体引出電極45はヒューズエレメント2が接続され、これにより発熱体41は、絶縁部材42及び発熱体引出電極45を介してヒューズエレメント2と重畳される。絶縁部材42は、発熱体41の保護及び絶縁を図るとともに、発熱体41の熱を効率よくヒューズエレメント2へ伝えるために設けられ、例えばガラス層からなる。
【0086】
なお、発熱体41は、ベース部材21に積層された絶縁部材42の内部に形成してもよい。また、発熱体41は、第1、第2の電極24,25が形成されたベース部材21の表面21aと反対側の裏面21bに形成してもよく、あるいは、ベース部材21の表面21aに第1、第2の電極24,25と隣接して形成してもよい。また、発熱体41は、ベース部材21の内部に形成してもよい。
【0087】
また、発熱体41は、一端がベース部材21の表面21a上に形成された第1の発熱体電極48を介して発熱体引出電極45と接続され、他端がベース部材21の表面21a上に形成された第2の発熱体電極49と接続されている。発熱体引出電極45は、第1の発熱体電極48と接続されるとともに発熱体41と重畳して絶縁部材42上に積層され、ヒューズエレメント2と接続されている。これにより、発熱体41は、発熱体引出電極45を介してヒューズエレメント2と電気的に接続されている。なお、発熱体引出電極45は、絶縁部材42を介して発熱体41に重畳配置されることにより、ヒューズエレメント2を溶融させるとともに、溶融導体を凝集しやすくすることができる。
【0088】
また、第2の発熱体電極49は、ベース部材21の表面21a上に形成され、キャスタレーションを介してベース部材21の裏面21bに形成された発熱体給電電極49a(
図14(A)参照)と連続されている。
【0089】
ヒューズ素子40は、第1の電極24から発熱体引出電極45を介して第2の電極25に跨ってヒューズエレメント2が接続されている。ヒューズエレメント2は、接続用ハンダ等の接続材料を介して第1、第2の電極24,25及び発熱体引出電極45上に接続されている。
【0090】
[フラックス]
また、ヒューズ素子40は、高融点金属層10又は低融点金属層9の酸化及び硫化防止と、溶断時の酸化物及び硫化物除去及びハンダの流動性向上のために、ヒューズエレメント2の表面や裏面にフラックス47をコーティングしてもよい。フラックス47をコーティングすることにより、ヒューズ素子40の実使用時において、低融点金属層9(例えばハンダ)の濡れ性を高めるとともに、低融点金属が溶解している間の酸化物及び硫化物を除去し、高融点金属(例えばAg)への溶食作用を用いて溶断特性を向上させることができる。
【0091】
また、フラックス47をコーティングすることにより、最外層の高融点金属層10の表面に、Snを主成分とするPbフリーハンダ等の酸化防止膜を形成した場合にも、当該酸化防止膜の酸化物を除去することができ、高融点金属層10の酸化及び硫化を効果的に防止し、溶断特性を維持、向上することができる。
【0092】
なお、第1、第2の電極24,25、発熱体引出電極45及び第1、第2の発熱体電極48,49は、例えばAgやCu等の導電パターンによって形成され、適宜、表面にSnメッキ、Ni/Auメッキ、Ni/Pdメッキ、Ni/Pd/Auメッキ等の保護層が形成されていることが好ましい。これにより、表面の酸化及び硫化を防止するとともに、ヒューズエレメント2の接続用ハンダ等の接続材料による第1、第2の電極24,25及び発熱体引出電極45の溶食を抑制することができる。
【0093】
また、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2が発熱体引出電極45と接続されることにより、発熱体41への通電経路の一部を構成する。したがって、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2が溶融し、外部回路との接続が遮断されると、発熱体41への通電経路も遮断されるため、発熱を停止させることができる。
【0094】
[回路図]
本発明が適用されたヒューズ素子40は、
図14に示すような回路構成を有する。すなわち、ヒューズ素子40は、発熱体引出電極45を経て一対の端子部2a,2b間にわたって直列接続されたヒューズエレメント2と、ヒューズエレメント2の接続点を介して通電して発熱させることによってヒューズエレメント2を溶融する発熱体41とからなる回路構成である。そして、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2の両端部に設けられた端子部2a,2b及び第2の発熱体電極49と接続された発熱体給電電極49aが、外部回路基板に接続される。これにより、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2が端子部2a,2bを介して外部回路の電流経路上に直列接続され、発熱体41が発熱体給電電極49aを介して外部回路に設けられた電流制御素子と接続される。
【0095】
[ヒューズ溶断]
このような回路構成からなるヒューズ素子40は、外部回路の電流経路を遮断する必要が生じた場合に、外部回路に設けられた電流制御素子によって発熱体41が通電される。これにより、ヒューズ素子40は、発熱体41の発熱により、外部回路の電流経路上に組み込まれたヒューズエレメント2が溶融され、ヒューズエレメント2の溶融導体が、濡れ性の高い発熱体引出電極45及び第1、第2の電極24,25に引き寄せられることによりヒューズエレメント2が溶断される。これにより、ヒューズエレメント2は、確実に端子部2a~発熱体引出電極45~端子部2bの間で溶断され(
図14(B))、外部回路の電流経路を遮断することができる。また、ヒューズエレメント2が溶断することにより、発熱体41への給電も停止される。
【0096】
このとき、ヒューズエレメント2は、発熱体41の発熱により、高融点金属層10よりも融点の低い低融点金属層9の融点から溶融を開始し、高融点金属層10を溶食し始める。したがって、ヒューズエレメント2は、低融点金属層9による高融点金属層10の溶食作用を利用することにより、高融点金属層10が溶融温度よりも低い温度で溶融され、速やかに外部回路の電流経路を遮断することができる。
【0097】
また、上述したように、ヒューズ素子40は、カバー部材22の内壁表面の少なくとも一部に、樹脂部4が形成されている。ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2がカバー部材22によって覆われるため、過電流によるアーク放電の発生を伴う自己発熱遮断時においても、溶融金属がカバー部材22によって捕捉され、周囲への飛散を防止できる。また、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11が樹脂部4に不連続状態で捕捉されることによりヒューズエレメント2の通電方向の両端に至る内壁表面に連続して付着することを防止することができる。したがって、ヒューズ素子40は、ヒューズエレメント2の溶融飛散物11がカバー部材22の内壁表面に連続して付着することによって溶断されたヒューズエレメント2の両端が短絡される事態を防止することができる。
【0098】
なお、ヒューズ素子40は、ベース部材21の第1の電極24と絶縁部材42との間や、ベース部材21の第2の電極25と絶縁部材42との間にも、樹脂部4を形成してもよい。絶縁部材42と第1、第2の電極24,25との間に樹脂部4を形成することにより、当該領域にヒューズエレメント2の溶融飛散物11が付着した場合にも、樹脂部4によって捕捉することができる。
【0099】
なお、上述したヒューズ素子20,40は、ヒューズエレメント2の端子部2a,2bを外部回路基板に設けられた外部接続端子にハンダ等により接続することにより当該外部回路基板に表面実装させたが、本技術が適用されたヒューズ素子20,40は、表面実装以外の接続にも用いることができる。
【0100】
例えば、本技術が適用されたヒューズ素子20,40は、ヒューズエレメント2の端子部2a,2bを、大電流対応が可能な外部接続端子となる金属板に接続させてもよい。ヒューズエレメント2の端子部2a,2bと金属板との接続は、ハンダ等の接続材によって接続させてもよく、金属板と接続されたクランプ端子に端子部2a,2bを挟持させてもよく、あるいは端子部2a,2b又はクランプ端子を金属板に導通性を有するねじによりねじ止めすることにより行ってもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 ヒューズ素子、2 ヒューズエレメント、2a 端子部、2b 端子部、2c 溶断部、3 ケース、4 樹脂部、6 変形規制部、7 導出口、8 収納空間、8a 内壁表面、9 低融点金属層、10 高融点金属層、11 溶融飛散物、12 孔、14 第2の高融点金属層、20 ヒューズ素子、21 ベース部材、21a 表面、21b 裏面、22 カバー部材、23 溝部、24 第1の電極、24a 第1の外部接続電極、25 第2の電極、25a 第2の外部接続電極、26 スルーホール、28 素子筐体、29 溝部、40 ヒューズ素子、41 発熱体、42 絶縁部材、45 発熱体引出電極、47 フラックス、48 第1の発熱体電極、49 第2の発熱体電極、49a 発熱体給電電極