(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】懸架装置用スプリング
(51)【国際特許分類】
F16F 1/12 20060101AFI20220119BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F16F1/12 K
F16F9/32 B
F16F1/12 N
(21)【出願番号】P 2018043060
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 浩之
(72)【発明者】
【氏名】野々 一義
(72)【発明者】
【氏名】山下 英生
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐一
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132926(WO,A1)
【文献】特開2015-190538(JP,A)
【文献】特開2014-199134(JP,A)
【文献】特開2005-171297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/12
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用懸架装置に用いられるスプリングにおいて、
コイル状の線材にて構成されたばね部であって、当該線材の表面に被覆層を有するばね部と、
前記ばね部の座巻部に接触するシート部であって、当該ばね部に作用する荷重を受けるゴム製のシート部とを備え、
前記座巻部の端部から0.55巻以上ずれた部位を可動部とし、前記ばね部に作用する荷重方向と直交する方向を幅方向としたとき、
前記シート部の
うち少なくとも前記可動部に対応する部位は、幅方向寸法が前記線材の直径寸法の1.25倍以下となる可動域支持部
、及び前記可動域支持部より下方側に設けられた当該可動域支持部より大きな幅方向寸法となる部位を有して段付き状に構成されている懸架装置用スプリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用懸架装置に用いられるスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の懸架装置用サスペンションでは、コイルばねと金属製のスプリングシートとの間にラバーシート、つまりゴム製のシート部が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シート部はゴム製であるので、当該シート部は、コイルばねに作用する荷重(以下、単に荷重という。)の大きさに応じて弾性変形する。このため、シート部のうちコイルばねと接触する部位が荷重の変動に応じて増減変動する。
【0005】
つまり、荷重が大きくなると、シート部とコイルばねとの接触面積が大きくなる。荷重が小さくなると、シート部とコイルばねとの接触面積が小さくなる。換言すれば、シート部には、常にコイルばねと接触している部位、及び荷重が増大したときのみコイルばねに接触する部位(以下、接触部という。)が発生する。
【0006】
接触部は、シート部が圧縮変形したときに大きな接触面圧でコイルばねと圧接し、シート部が復元したときに当該接触面圧が小さくなる。このため、接触部は、荷重変動に応じてコイルばねを擦るように当該コイルばねに接触する。
【0007】
したがって、荷重変動が経年的に繰り返されると、接触部によりコイルばねが擦られ、当該コイルばねの保護被覆が損傷し、コイルばねが早期に損傷してしまうおそれがある。
本開示は、上記点に鑑み、コイルばね等のばね部が早期に損傷してしまうことを抑制可能な車両用懸架装置用スプリングの一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
車両用懸架装置用スプリングは、コイル状の線材(2A)にて構成されたばね部(2)であって、当該線材(2A)の表面に被覆層を有するばね部(2)と、ばね部(2)の座巻部(2C)に接触するシート部(3)であって、当該ばね部(2)に作用する荷重を受けるゴム製のシート部(3)とを備える。
【0009】
ばね部(2)に作用する荷重方向と直交する方向を幅方向としたとき、シート部(3)の少なくとも一部には、例えば、幅方向寸法(Wo)が線材(2A)の直径寸法の1.25倍以下となる可動域支持部(Ao)が設けられていることが望ましい。
【0010】
これにより、当該シート部(3)では、実質的に接触部(B)が存在しない構成となる(
図3参照)。したがって、当該車両用懸架装置用スプリングでは、被覆層(2B)が接触部(B)により擦られることが抑制されるので、ばね部(2)が早期に損傷してしまうことを抑制され得る。
【0011】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るスプリングを示す図である。
【
図2】第1実施形態におけるシート部を示す図である。
【
図3】第1実施形態におけるシート部を示す図である。
【
図4】第1実施形態におけるシート部の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の「発明の実施形態」は、本開示の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0014】
なお、各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載されたものである。本明細書に記載された発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。
【0015】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。
【0016】
(第1実施形態)
1.懸架装置用スプリングの概要
本実施形態は、懸架装置用スプリングを車両の前輪用懸架装置に適用したものである。
図1に示される懸架装置用スプリング1(以下、スプリング1という。)は、ばね部2及びシート部3等を少なくとも備える。
【0017】
ばね部2は、金属製の線材2Aにより構成されたばねである。線材2Aの表面には、当該線材2A全体を覆う被覆層2Bが設けられている。なお、本実施形態に係るばね部2は、コイル状に成形されたコイルばねである。被覆層2Bは、熱硬化性樹脂等の樹脂にて形成された薄膜である。
【0018】
シート部3は、ばね部2に作用する荷重を受ける懸架装置用ラバーシートの一例である。当該シート部3は、ゴム等の弾性変形可能な樹脂にて構成されている。シート部3には、
図2に示されるように、線材2Aが嵌り込む溝部3Aが設けられている。
【0019】
溝部3Aは、座巻部2C(
図1参照)を構成する線材2Aが嵌り込む溝である。つまり、シート部3は、コイル状に構成されたばね部2の軸線方向一端に配置され、座巻部2Cに接触する。
【0020】
2.シート部の構成
図2に示されるように、シート部3には可動域支持部Aoが設けられている。可動域支持部Aoの位置は、座巻部2Cの可動部A(
図1参照)に対応する位置である。可動部Aは、少なくとも座巻部2Cの端部から0.55巻以上ずれた部位である。
【0021】
可動域支持部Aoでは、
図3に示されるように、幅方向寸法Woが座巻部2Cを構成する線材2Aの直径寸法Doの1.25倍以下となっている。幅方向とは、ばね部2に作用する荷重方向(
図3では、上下方向)と直交する方向をいう。
【0022】
3.本実施形態に係る懸架装置用スプリングの特徴
シート部3はゴム製であるので、当該シート部3は、座巻部2Cに作用する荷重(以下、単に荷重という。)の大きさに応じて弾性変形する。このため、シート部3のうち座巻部2Cと接触する部位が荷重の変動に応じて増減変動する。つまり、荷重が大きくなると、シート部3と座巻部2Cとの接触面積が大きくなる。荷重が小さくなると、シート部3と座巻部2Cとの接触面積が小さくなる。
【0023】
仮に、可動域支持部Aoが設けられていない構成、つまり
図3の二点鎖線で示される構成であると、シート部3には、荷重の有無に依らず常に座巻部2Cと接触している部位(溝部3Aの内壁)、及び荷重が増大したときのみ座巻部2Cに接触する部位(以下、接触部Bという。)が発生する。
【0024】
大きな荷重Fがシート部3に作用すると、接触部Bは、
図4に示されるように、大きく変形して座巻部2Cと圧接する。シート部3が復元すると(
図3参照)、接触部Bが座巻部3Cから離間してシート部3と座巻部2Cとの接触面圧が小さくなる。
【0025】
つまり仮に、可動域支持部Aoが設けられていない構成では、接触部Bは、荷重変動に応じて座巻部2Cを擦るように当該座巻部2Cに接触する。したがって、荷重変動が経年的に繰り返されると、接触部Bにより座巻部2Cが擦られ、当該座巻部2Cの保護被覆が損傷し、座巻部2Cが早期に損傷してしまうおそれがある。
【0026】
これに対して、本実施形態に係る車両用懸架装置用スプリング1では、幅方向寸法Woが座巻部2Cの直径寸法の1.25倍以下となる可動域支持部Aoが設けられている。このため、本実施形態に係るシート部3では、接触部Bが存在しない構成となる(
図3参照)。
【0027】
したがって、本実施形態に係る車両用懸架装置用スプリング1では、被覆層2Bが接触部Bにより擦られることが抑制されるので、ばね部2が早期に損傷してしまうことを抑制され得る。
【0028】
上記説明から明らかように、可動部Aは、座巻部2Cのうち荷重変動により大きく変位する部位である。このため、シート部3のうち可動部Aに対応する部位には接触部Bが発生する。
【0029】
換言すれば、可動域支持部Aoは、仮に、可動域支持部Aoが設けられていない構成であったならば、荷重変動に応じて座巻部2Cを擦る接触部Bが存在したであろう部位である。
【0030】
なお、発明者等は、シート部3を天然ゴム系ゴム製とし、荷重Fを1650N~5200Nの範囲で周期的に変動させる試験を実施した。当該試験によると、実用上、十分な効果が得られることが確認された。
【0031】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、座巻部2Cの端部から0.55巻以上ずれた部位に対応する位置に可動域支持部Aoが設けられていた。しかし、本明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、当該発明は、例えば、溝部3A全域に可動域支持部Aoが設けられた構成であってもよい。
【0032】
上述の実施形態に係るシート部3は天然ゴム系ゴム製であった。しかし、本明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、シート部3は、天然ゴム系ゴム以外のゴム製であってもよい。
【0033】
上述の実施形態に係るシート部3は、可動域支持部Aoより下方側の幅方向寸法が、当該可動域支持部Aoの幅方向寸法より大きい構成であった。しかし、本明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。すなわち、当該発明は、例えば、可動域支持部Aoより下方側の幅方向寸法が可動域支持部Aoの幅方向寸法と同一寸法、又は可動域支持部Aoより下方側の幅方向寸法が可動域支持部Aoの幅方向寸法未満であってもよい。
【0034】
上述の実施形態に係る可動域支持部Aoの幅方向寸法Woは、線材2Aの直径寸法の1.25倍以下の幅方向寸法であった。しかし、本明細書に開示された発明はこれに限定されるものではない。つまり、当該発明に係るシート部3は、接触部Bが存在しない構成であればよい。
【0035】
さらに、本開示は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1… 懸架装置用スプリング
2… ばね部
2A… 線材
2B… 被覆層
2C… 座巻部
3… シート部
3A… 溝部
3A… 座巻部
3C… 座巻部
Ao… 可動域支持部