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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】構造体の製造方法、及び構造体
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/02 20060101AFI20220119BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20220119BHJP
   B23K 9/04 20060101ALI20220119BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20220119BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220119BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220119BHJP
【FI】
B22D19/02
B22D19/00 Z
B22D19/00 V
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018195265
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020062654
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-113610(JP,A)
【文献】特許第3784539(JP,B2)
【文献】特開2018-149570(JP,A)
【文献】特開昭49-074121(JP,A)
【文献】実開昭50-027110(JP,U)
【文献】押さえておきたい金属3Dプリンターの基礎知識~造形原理や原料からメリット・デメリットまでを簡単紹介~,2017年12月01日,https://minsaku.com/category01/post40/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00-19/16
B23K 9/00
B23K 26/00
B22F 10/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の製造方法であって、
溶加材を溶融及び凝固させたビードをベース上に積層し、前記構造体の外殻を積層造形する造形工程と、
前記外殻に補強部材を接合させる接合工程と、
前記外殻の内側空間に鋳湯を流し込み、前記外殻の内側に鋳物部を形成する鋳造工程と、
を有し、
前記接合工程は、前記外殻とは別体の前記補強部材を前記外殻の内側空間に溶接する工程を含む構造体の製造方法。
【請求項2】
前記補強部材は、前記外殻とは別体の少なくとも一方向に延びる板状体又は棒状体であり、
前記接合工程は、前記補強部材の長手方向を前記外殻に沿わせて、前記補強部材を前記外殻の外側に溶接する工程を含む請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記外殻は、互いに対面する一対の第1壁部と第2壁部とを有し、
前記造形工程と前記接合工程は、
前記第1壁部を積層造形する工程と、
前記補強部材を、前記第1壁部の前記第2壁部側となる内側面に溶接する工程と、
前記補強部材を前記第1壁部との間に挟んで前記第2壁部を積層造形する工程と、
を含む請求項に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記鋳造工程では、前記鋳湯を前記外殻の内側空間の下方から流し込んで前記鋳物部を形成し、
前記補強部材は、少なくとも一方向に延びる板状体又は棒状体であり、
前記接合工程では、前記補強部材の長手方向を前記内側空間に溜まる前記鋳湯の液位上昇方向に沿う方向にして、前記補強部材を前記外殻に溶接する請求項又はに記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記補強部材は、金属ブロック材である請求項1~のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項6】
前記外殻を、溶接可能な壁面に接続して、前記外殻と、前記外殻に接続された壁面とによって前記内側空間を画成する請求項1~のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
前記補強部材を前記外殻の複数箇所に設ける請求項1~のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項8】
前記ビードを、アークにより前記溶加材を溶融させて形成する請求項1~のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項9】
平面視で閉じられた連続する線状の層が積層された積層造形体であって、前記積層造形体の内側に閉空間となる内側空間を画成する外殻と、
前記外殻の内側に溶接され、少なくとも1つの金属ブロック材からなる補強部材と、
前記外殻の前記内側空間に形成された鋳物部と、
を有する構造体。
【請求項10】
前記外殻の外側に前記補強部材が溶接された請求項に記載の構造体。
【請求項11】
前記補強部材が複数箇所に設けられている請求項9又は10に記載の構造体。
【請求項12】
前記外殻の少なくとも一部が、前記外殻とは異なる剛性部材に接合され、前記外殻と前記剛性部材との間に前記鋳物部が形成されている請求項9~11のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項13】
前記外殻の内側に、平面視で閉じられた連続する線状の層が積層された内殻が設けられ、
記外殻と前記内殻との間に前記鋳物部が形成されている請求項9~12のいずれか一項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法、及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品の一製造方法である鋳造では、まず、製品の模型となる木型(金属、樹脂の場合もある)を製作し、その木型を基に砂型を造り、この砂型に溶融鋳鉄を流し込むことで、砂型のキャビティ内に鋳物品を形成する。しかし、このような鋳造においては、木型や砂型の製作に多くの工数を要し、完成品を得るまでのリードタイムが長くなる。さらに、少量生産の場合には、木型や砂型のコストが製品に付加されて製造コストが嵩む要因となっていた。
【0003】
一方、新規な生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザや電子ビーム、さらにはアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで造形物を作製する。
【0004】
このような溶融金属を積層して造形物を造形する技術として、溶接トーチから供給される溶加材によって形成されたビードを用いて金型を製造するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、金型の形状を表現する形状データを生成する工程と、生成された形状データに基づいて、金型を等高線に沿った積層体に分割する工程と、得られた積層体の形状データに基づいて、溶加材を供給する溶接トーチの移動経路を作成する工程と、を備える金型の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、金属積層造形法を用いて中空部を有する金属成形体を製造し、この金属成形体を鋳包んで中空部が外部と連通した鋳造品を製造する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3784539号公報
【文献】特開2014-113610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、機械部品を大量に生産するための金型の製造方法に関するものであり、機械部品の製造、特に、少量生産される機械部品の製造方法については記載されていない。特許文献2の技術によると、金属積層造形法によって形成された金属成形体を鋳包んで、中空部を有する鋳物品を製造するため、金属成形体を鋳包むための砂型や砂型を製作するための木型が不可欠であり、リードタイムが長くなる。また、少量生産時には、木型や砂型のコストについての課題が残る。
【0008】
また、上記のような鋳包まれた鋳物品を製造する場合、型内に鋳湯を流し込む注湯工程で、金属成形体は熱膨張によって変形する。そのため、下記の問題を生じることになる。
(1)金属成形体は、注湯により加熱されて熱膨張し、冷却後には残留変形が生じる。そのため、設計どおりの製品形状とならない。
(2)注湯中に金属形成体に一時的な熱変形が発生し、冷却後にその変形が元の形状に戻る場合であっても、金属形成体の弾性変形中に鋳湯が凝固した場合には、冷却後の鋳物部と金属成形体との界面に隙間が発生し、双方が完全に一体化されない。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、構造体を製造する際のリードタイムを短縮すると共に、鋳物部の注湯中及び注湯後に発生する外殻の熱変形を抑制して、製品品質を向上できる構造体の製造方法、及び構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
(1) 構造体の製造方法であって、
溶加材を溶融及び凝固させたビードをベース上に積層し、前記構造体の外殻を積層造形する造形工程と、
前記外殻に補強部材を接合させる接合工程と、
前記外殻の内側空間に鋳湯を流し込み、前記外殻の内側に鋳物部を形成する鋳造工程と、
を有し、
前記接合工程は、前記外殻とは別体の前記補強部材を前記外殻の内側空間に溶接する工程を含む構造体の製造方法。
(2) 平面視で閉じられた連続する線状の層が積層された積層造形体であって、その内側に閉空間となる内側空間を画成する外殻と、
前記外殻の内側に溶接され、少なくとも1つの金属ブロック材からなる補強部材と、
前記外殻の前記内側空間に形成された鋳物部と、
を有する構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造体を製造する際のリードタイムを短縮すると共に、鋳物部の注湯中及び注湯後に発生する外殻の熱変形を抑制して、製品品質を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の構造体の製造システムを模式的に示す概略構成図である。
図2】第1構成例の構造体の斜視図である。
図3】(A),(B)は、図2に示す構造体の外殻とリブの形成手順を示す工程説明図である。
図4】外殻の内側空間の鋳湯の凝固後における図2に示す構造体のA-A断面図である。
図5】外殻にリブを設けない場合を示す図4に対応する参考図である。
図6】環状に形成された構造体の模式的な構成図である。
図7】第2構成例の構造体の斜視図である。
図8】(A),(B),(C)は、図7に示す構造体の外殻と支持材の形成手順を示す工程説明図である。
図9】鋳造工程における外殻の概略的な一部断面図である。
図10】外殻の内側空間の鋳湯の凝固後における図7に示す構造体のB-B断面図である。
図11】第3構成例の構造体の図4図10に対応する断面図である。
図12】構造体の他の構成例を示す模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本発明の構造体は、構造体の外側壁となる外殻を、後述する積層造形により形成し、形成した外殻の内側に画成される内側空間に鋳湯を流し込み、外殻の内側に鋳物部を形成することで製造される。
【0014】
図1は本発明の構造体の製造システムを模式的に示す概略構成図である。
構造体の製造システム100は、積層造形装置11と、鋳造装置13と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。コントローラ15は、鋳造装置13を含めて制御するものであってもよい。
【0015】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部23とを有する。
【0016】
鋳造装置13は、不図示の加熱炉によって加熱された鋳湯25を貯留するるつぼ27を有し、不図示の注湯機構によって鋳湯25が所望の位置に供給可能となっている。これら積層造形装置11と鋳造装置13は、本構成においては、それぞれ既存の装置が用いられる。
【0017】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0018】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。溶接ロボット19は、多関節ロボットに限らず、例えば互いに直交する軸に沿ってヘッドが移動する直交ロボット等であってもよい。
【0019】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する構造体に応じて適宜選定される。
【0020】
例えば、消耗電極式の場合には、シールドノズルの内部にコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生させる。
【0021】
溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により溶加材供給部23からトーチ17に送給される。溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤが使用可能である。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0022】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。アークを用いる場合は、シールド性を確保しつつ、素材、構造によらずに簡単にビードを形成できる。電子ビームやレーザにより加熱する場合は、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0023】
CAD/CAM部31は、作製しようとする構造体の外殻となる積層造形体Wの形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0024】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。
【0025】
制御部37の駆動指令により、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベース41上に溶加材Mの溶融凝固体である線状のビード43が形成される。
【0026】
上記構成の構造体の製造システム100は、積層造形装置11により、上記した積層造形体Wをベース41上に造形する。即ち、溶加材Mを溶融及び凝固させたビード43を、板状のベース41上に形成し、平面視で閉じられた線状の形にする。このビード43を順次に積層することで、ビード43を隙間のない連続した状態で、閉じられた線状の層にして形成する。この線状の層を上下方向に隙間なく積層して、有底筒状の積層造形体Wを造形する。
【0027】
ベース41は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形体Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。また、ベース41は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状であってもよい。
【0028】
鋳造装置13は、造形された積層造形体Wの内側空間45に鋳湯25を流し込む。流し込んだ鋳湯25が凝固すると、積層造形体Wの内側空間45に鋳物部49が形成された構造体が得られる。
【0029】
<構造体の基本的な製造手順>
次に、構造体の製造システム100により積層造形体Wを造形し、更に鋳物部49を形成して構造体を得るまでの基本的な手順を説明する。
【0030】
まず、コントローラ15は、溶接ロボット19により積層造形体Wを造形させる駆動プログラムを作成する。
【0031】
CAD/CAM部31は、作製しようとする構造体の形状データが入力され、この構造体の形状データに応じて、構造体の外殻となる積層造形体Wの形状モデルを生成する。形状モデルは、1回のビード形成によって得られるビードの高さ毎の層形状データを生成する。
【0032】
つまり、ベース41から高さ毎の各層における、形状モデルの断面形状を表す層形状データを、形状データから解析的に求めて生成する。生成された各層の層形状データは、軌道演算部33に送られる。
【0033】
軌道演算部33は、入力された層形状データに応じたトーチ17の移動軌跡を演算する。移動軌跡は、例えば、始端点、終端点、及び始端点から終端点までの移動経路を含む座標データやベクトルデータとして求められる。軌道演算部33は、各層形状データから求めた移動軌跡に沿ってトーチ17を移動させるための溶接ロボット19の駆動プログラムを生成し、記憶部35に保存する。
【0034】
(外殻の造形工程)
制御部37は、生成された駆動プログラムに基づいて溶接ロボット19を駆動する。
制御部37は、溶接ロボット19を駆動して、トーチ17を1層目の移動軌跡に沿って移動させ、ベース41上に第1層目のビード43を形成する。続いて、トーチ17を2層目の移動軌跡に沿って移動させ、第2層目のビード43を形成する。この動作を繰り返し、最終的に第n層目のビード43を形成する。これにより、積層造形体W(以下、外殻と称する。)が造形される。
【0035】
(補強部材の接合工程)
次に、詳細は後述するが、外殻Wに、外殻Wとは別途に用意された補強部材を溶接する。
【0036】
(鋳造工程)
次に、るつぼ27を、不図示の注湯機構により外殻Wの位置まで移動させて、鋳湯25を、湯口46及び湯道47を介して外殻Wの内側空間45に流し込む。図1においては、湯口46及び湯道47の概略形状を単純化して示しているが、実際の湯口46及び湯道47は、鋳造型によって形成される。そして、外殻Wの内側空間45に流し込んだ鋳湯25を凝固させて、鋳物部49を形成する。
【0037】
この鋳造工程は、コントローラ15によらずに、人手を介して行うものであってもよい。その後、必要に応じてベース41をワイヤーソーやダイヤモンドカッター等による切断機で切り離す。
【0038】
以上の工程により、線状のビード層が積層された外殻Wと、この外殻Wに接合された補強部材と、外殻Wの内側空間に設けられた鋳物部49と、を備える構造体51が得られる。
【0039】
なお、ベース41として、第1層目の移動軌跡の形状と同じ外縁形状を有する板材を用い、第1層目のビード43をベース41の外縁に沿って形成してもよい。その場合、外殻Wからベース41が殆ど突出しないため、ベース41を切り離す工程を省略できる。
【0040】
また、外殻Wからのベース41の切り離しは、ベース41との界面ではなく、ベース41の近傍となる2,3層目のビード43を含めて切り離す工程としてもよい。ベース41の近傍では、ベース41からの抜熱効果が高いため、残留応力が大きくなる傾向がある。一方、3層目以降のビード43では、次層の積層により焼鈍されて残留応力が緩和される。そのため、ベース41近傍の数層のビード43を含めて切り離すことで、残留応力の影響を意識しなくて済む。
【0041】
上記したビード43の積層造形は、各層で環状に積層する例であるが、螺旋状に連続積層してもよい。即ち、前層のビード43の終端点と次層のビード43の始端点とを連続させて造形することで、トーチ17を停止させることなくビード43を連続形成できる。これによれば、タクト時間を短縮でき、均質なビード43で外殻Wを造形できる。
【0042】
以上の外殻Wの造形工程と、鋳物部の鋳造工程とによれば、構造体51の外殻Wがビード43で積層造形され、外殻Wの内側空間45が鋳物部で充填される。そのため、構造体51の全体を積層造形する場合と比較して、積層造形に必要となる工程を大幅に軽減できる。また、外殻Wを積層造形することにより、鋳造の型製作工程やそのための費用を不要にできる。このため、鋳造工程を簡略化でき、構造体を製造するリードタイムを短縮できる。
【0043】
そして、ビード43の積層によって外殻Wを任意形状に造形できるため、構造体の形状の設計自由度が向上する。よって、鋳造のみによって構造体を作製する場合に型の製作が煩雑となる、複雑な形状の構造体であっても、簡単に作製できる。例えば、構造体が、その高さ方向に形状が異なる中空形状やオーバーハング等を有する複雑な形状であっても、簡単に造形できる。また、外殻Wの内側空間45に、狭細な部位が存在しても、鋳湯25が流動可能であれば内側空間45に鋳湯25を隙間なく充填でき、意図した通りの鋳物部を確実に形成できる。
【0044】
更に、ビード43により造形される外殻Wの表面には、層単位の凹凸形状が形成されるため、鋳物部と外殻Wとの接合強度が向上し、構造体自体の機械的強度が高められる。
【0045】
そして、外殻Wの内側空間45に積層材料(溶加材M)より安価な材料を鋳込むことで、比較的高価な積層材料の使用が外殻Wのみで済む。そのため、構造体51の全てを積層材料で製作する場合と比較して、材料費を抑え、製造コストを低減できる。
【0046】
次に、上記した構造体の製造方法により作製される構造体の補強部材について、具体例に説明する。
<第1構成例>
図2は第1構成例の構造体51の斜視図である。
本構成の構造体51は、断面長方形で中空の外殻Wと、外殻Wの内側空間45に鋳湯を流し込んで凝固させた鋳物部49とを有する。以降の説明の図面においては、図1に示すベース41を省略、又は一部を省略した状態を図示している。
【0047】
図2に示す外殻Wは、互いに対面する第1壁部53Aと第2壁部53Bとを有する。第1壁部53A及び第2壁部33Bの外側には、補強部材としての一対のリブ61がそれぞれ溶接される。図2においては、第1壁部53Aに一対のリブ62を設けているが、リブ61の設置数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
【0048】
リブ61は、一方向に延びる板状の金属ブロック材(バルク材)である。リブ61は、第1壁部53Aの長手方向となるビード43の形成方向D1に長手方向を沿わせ、短手方向を第1壁部53Aから外側に向けて突出させて設けてある。一対のリブ61は、互いに平行に、且つ互いに離間して、第1壁部53の長手方向の一端部から他端部までの間に設けられる。また、第2壁部53Bにも、第1壁部53Aと同様の形態で少なくとも1つのリブが溶接される。なお、リブ61は、少なくとも一方の壁部(第1壁部53A)に形成されていればよい。
【0049】
リブ61の材質は、ビード43と線膨張係数が近く、溶接性及び耐荷重性に優れる鋼材等が好ましい。また、これに限らず、他の金属材料やセラミックス等であってもよい。リブ61がセラミックスの場合は、ブレージング等により外殻Wと接合することができる。
【0050】
リブ61は、長手方向に連続して形成されていてもよく、直線上で複数に分断されていてもよい。また、リブ61の配置位置は、矩形状の第1壁部53A(第2壁部53B)における一対の対向辺と平行にされ、この一対の対向辺の一端部から他端部までの間で、各対向辺から等間隔に配置されていてもよい。また、矩形状の対角線方向に配置されていてもよい。そして、複数のリブ61を“+”形や“×”形のように交差して配置してもよく、矩形、多角形、円形、楕円形等の環状にして配置してもよい。その場合には、外殻Wをその変形方向によらずに高強度な構成にでき、外殻Wの加熱や熱収縮による変形を効率よく抑制できる。
【0051】
図3の(A),(B)は、図2に示す構造体51の外殻Wとリブ61の形成手順を示す工程説明図である。
構造体51の外殻Wは、図3の(A)に示すように、図1に示す溶接ロボット19が、ベース14上にビード43を順次に積層造形することで積層造形される
【0052】
そして、図3の(B)に示すように、溶接ロボット19が、積層造形された外殻Wにリブ61を溶接する。この場合、リブ61の溶接を外殻Wの積層造形に使用する溶接ロボット19で行うことで、設備や工数の増加を低減できる。
【0053】
次に、鋳造装置13により、外殻Wの内側空間45に鋳湯25を流し込んで凝固させ、鋳物部49を形成する。鋳湯25は、図2に示す外殻Wの下側から矢印HMで示すように内側空間45へ流し込まれる。これにより、外殻Wの内側に鋳物部49が一体に構成された構造体51が得られる。
【0054】
図4は外殻Wの内側空間の鋳湯の凝固後における図2に示す構造体51のA-A断面図であり、図5は補強部材を設けない場合の図4に対応する参考図である。
図4に示すように、リブ61が接合された外殻Wは、鋳湯の凝固による熱収縮(矢印Pa)のために、第1壁部53Aと第2壁部53Bとが互いに接近する方向に応力が発生する。しかし、第1壁部53Aと第2壁部53Bは、リブ61によって補強されるため、各壁部の変形が抑制される。
【0055】
一方、図5に示すように、補強部材であるリブ61を外殻Wに設けない場合には、外殻Wは、鋳湯の熱収縮(矢印Pa)のために内側へ向けて大きく変形する。また、注湯中に外殻Wに一時的な熱変形が発生し、冷却後にその変形が元の形状に戻る途中で鋳湯が凝固した場合には、冷却後の鋳物部49と外殻Wの内側面との間に隙間60が発生しやすくなる。
【0056】
このように、本構成の構造体51によれば、リブ61による補強効果によって冷却後の残留変形が抑えられ、設計寸法からのずれを低減できる。また、外殻Wの変形が抑制されるため、外殻Wより先に鋳湯が凝固した場合でも外殻Wの弾性変形量が少なく、外殻Wと鋳物部49との間に隙間が生じにくくなる。これにより、構造体51の製品品質を向上できる。
【0057】
さらに、リブ61が構造体51の外側に突出して設けられるため、リブ61に更に他の部材を溶接や締結等により設けることができ、構造体51の設計自由度を向上できる。
【0058】
ここで、図2図4に示す外殻Wは、第1壁部53Aと第2壁部53Bと側壁55とを連続したビード43で形成している。これに対して、図6に示すように、構造体51Aが環状に形成される場合には、構造体51Aの内側の第1壁部53Aが内壁となり、外側の第2壁部53Bが外壁となり、側壁55が省略される。その場合でも、リブ61は、第1壁部53Aと第2壁部53Bの少なくとも一方に一つ又は複数設けることで、各壁部を補強して、外殻Wの変形を抑制できる。
【0059】
この環状の構造体51Aによれば、中央部に空間が形成される中空形状のため、構造体51Aの外形の大きさに対する重量を軽減できる。また、使用箇所や使用目的等に応じて構造体51Aの形状を多様に設計でき、構造体51Aの適用対象をより広げることができる。
【0060】
また、外殻Wに接合されたリブ61は、構造体51の冷却後に、除去してもよい。
【0061】
<第2構成例>
図7は第2構成例の構造体51Bの斜視図である。
本構成の構造体51Bは、前述したリブ61の代わりの補強部材として、外殻Wの内側空間45に、第1壁部53A及び第2壁部53Bとを接合する支持材65を設けてある。その他の構成は第1構成例と同様であるので、同一の部位や部材については、同一の符号を付与することで、その説明を省略、又は簡単化する。
【0062】
図7においては、外殻Wの内側空間45に一対の支持材65を設け、各支持材65を外殻Wと接合している。支持材65の設置数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。支持材65の設置数が増えるほど、発生する応力が分散され、応力集中が生じにくくなる。
【0063】
支持材65は、第1壁部53Aと第2壁部53Bとを連結して、各壁部からの互いに接近する方向の力を支持できる部材であればよい。支持材65の形状は、特に限定されないが、一方向に延びる板状体や棒状体等にすることができる。支持材65は、詳細を後述するように、第1壁部53Aと第2壁部53Bに溶接された後、鋳湯によって鋳包まれる。
【0064】
支持材65としては、ビード43と線膨張係数が近く、溶接性及び耐荷重性に優れる鋼材等の金属ブロック材(バルク材)を使用できる。また、これに限らず、他の金属材料やセラミックス等であってもよい。
【0065】
支持材65は、図7に示す構成では、矩形状の第1壁部53Aと第2壁部53Bの水平方向幅の中央で、上下方向に沿って互いに離間して一対が配置されている。一対の支持材65は、互いに平行に、且つ互いに離間して、直線状に設けられる。支持材65の配置形態は、これに限らず、例えば、対角線方向に沿って配置した形態や、規則的又はランダムに分散配置した形態であってもよい。
【0066】
図8の(A),(B),(C)は、図7に示す構造体51Bの外殻Wと支持材65の形成手順を示す工程説明図である。なお、図8図7の背面側から見た斜視図である。
まず、図1に示す溶接ロボット19がトーチ17を移動させて、図8の(A)に示すように、第1壁部53Aをビード43の積層によって積層造形する。
【0067】
そして、図8の(B)に示すように、溶接ロボット19により、積層造形した第1壁部53Aの、第2壁部側となる内側面に支持材65を溶接する。支持材65の溶接は、アークによる隅肉溶接や開先溶接等であってもよく、レーザ溶接等を用いてもよい。さらに、支持材63がセラミックスの場合は、ブレージングにより外殻Wと接合できる。
【0068】
次に、図8の(C)に示すように、溶接ロボット19により支持材65を第1壁部53Aとの間に挟んだ状態で、第2壁部53Bを積層造形する。これとともに、第1壁部53Aと第2壁部53Bとを接続する側壁55も積層造形する。このとき、溶接ロボット19は、支持材65が第2壁部53Bと溶接されるように第2壁部53Bを積層造形する。これにより、第1壁部53Aと第2壁部53Bとが、支持材65によって一体に接合された外殻Wが形成される。なお、外殻Wの底部は、図1に示すベース41により構成される。
【0069】
次に、外殻Wの内側空間45に鋳湯25を流し込んで凝固させ、鋳物部49を形成する。鋳湯25は、図7に示す外殻Wの下側から矢印HMで示すように内側空間45へ流し込まれる。これにより、外殻Wの内側に鋳物部49が一体に構成された構造体51Bが得られる。
【0070】
図9は鋳造工程における外殻Wの概略的な一部断面図である。
支持材65は、その長手方向D2を図7の上下方向に沿わせて外殻Wに接合されている。
【0071】
鋳造工程では、外殻Wの内側空間45の下方から鋳湯25が流し込まれる。したがって、内側空間45に溜まる鋳湯25の液位は、内側空間45の下方から徐々に上昇して、ついには、内側空間45の全てが鋳湯25で充填される。そのため、鋳湯25を内側空間45に流し込むと、鋳湯25の液位(液面)が上昇して支持材65の下端に到達する。その後、液位が支持材65の下端から上端に向けて上昇し、支持材65が徐々に鋳湯25内に埋められる。このとき、支持材65に鋳湯25を挟み込む凹部が備わった形状の場合、鋳湯25の液位の上昇に伴って凹部内に内側空間45内のガスが溜まり、このガスが抜けなくなる。鋳湯25の充填後にガス溜まりが残存すると、鋳湯25が凝固して形成される鋳物部49内に隙間(巣)を生じさせる。
【0072】
そこで、本構成の構造体51Bにおいては、支持材65が、その長手方向を内側空間45に溜まる鋳湯25の液位上昇方向D3に沿う方向(図7図8の上下方向)に向けて、外殻Wに溶接されている。これにより、鋳湯25の液位が上昇して、支持材65が鋳湯25内に埋まるときに、鋳湯25を、支持材65と鋳湯25との間に隙間を生じさせずに充填できる。
【0073】
そのため、支持材65の長手方向D2は、液位上昇方向D3との成す角θが±60°以内、好ましくは±30°以内、更に好ましくは±10°以内、より好ましくは±5°以内がよい。また、支持材65の下面65aは、水平方向から傾斜する傾斜面であることが好ましい。
【0074】
図10は外殻Wの内側空間の鋳湯の凝固後における図7に示す構造体51のB-B断面図である。
第1構成例の場合と同様に、本構成においても鋳湯の凝固による熱収縮(矢印Pa)のため、外殻Wの第1壁部53A,第2壁部53Bは互いに接近する方向に応力が発生する。しかし、第1壁部53Aと第2壁部53Bとの間は、支持材65によって補強されているため、各壁部の変形が抑制される。その結果、冷却後の残留変形が抑えられ、設計寸法からのずれを低減できる。また、外殻Wの変形が抑制されるため、外殻Wより先に鋳湯が凝固した場合でも外殻Wの弾性変形が小さく、外殻Wと鋳物部49との間に隙間が生じにくくなる。これにより、構造体51Bの製品品質を向上できる。
【0075】
ここで、図7図8においては、構造体51Bの外殻Wが、第1壁部53A、第2壁部53B、及び側壁55を連続したビード43で形成されているが、前述した図6に示す環状の構造体51のように、内側の第1壁部53Aを内壁、外側の第2壁部53Bを外壁として形成することもできる。
【0076】
<第3構成例>
図11は第3構成例の構造体51Cの図4図10に対応する断面図である。
本構成の構造体51Cは、前述した第1構成例のリブ61と、第2構成例の支持材65とを共に備える。
【0077】
本構成の構造体51Cによれば、リブ61と支持材65による相乗的な補強効果によって、鋳湯の凝固による外殻Wの変形が更に抑制され、製品品質を更に向上できる。
【0078】
<他の構成例>
上記の構造体51,51A,51Bにおいては、外殻Wの全体を、積層造形により形成されたた環状のビード43により構成していたが、これに限らない。
図12は構造体の他の構成例を示す模式的な一部断面図である。
構造体51Dは、外殻Wの一部(図12においては第2壁部53B)を、ビードの積層造形体に代えて剛性部材71の壁面71aで構成している。つまり、剛性部材71の壁面71aに、外殻Wを構成するビードが接続され、この外殻Wと、剛性部材71の壁面71aとによって囲まれた領域が、外殻Wの内側空間45となっている。剛性部材71は、鋼材等の金属ブロック、他の構造物の壁部等、外殻Wとは別部材で、外殻Wと溶接可能な材料であればよい。
【0079】
内側空間45には、鋳湯が充填された鋳物部49が形成される。また、図示はしていないが、本構成の構造体51Dには、第1構成例のリブ61(図2参照)、第2構成例の支持材63(図7参照)の少なくとも一方が設けられる。
【0080】
本構成の構造体51Dによれば、外殻Wの一部が剛性部材71により構成されるため、これに接続される外殻Wの剛性が向上し、加熱による熱変形や、鋳湯が凝固する際の熱収縮による歪みが生じにくくなる。これにより、構造体51Dの設計寸法からのずれが低減し、外殻Wと鋳物部49との間の隙間の発生が抑制される。
【0081】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0082】
また、上記の製造方法では、アーク放電により溶接ワイヤを溶解してビードを形成しており、エネルギー効率が高く、しかも低コストで構造体を積層造形できる。なお、ビードは、アーク放電とレーザとを併用した加熱方式を採用してもよい。その場合、加熱量を更に細かく制御でき、ビードの状態をより適正に維持して、積層造形体の更なる品質向上に寄与できる。
【0083】
さらに、上記の説明では、ビードを一つの閉じられた線状にした層を形成した構成を示しているが、ビードによる閉じられた線は、複数箇所に存在してもよい。また、閉じられた線状の層において、ビードによる線の外側や内側に更に延出するビード部分が存在してもよい。いずれの場合でも、閉じられた領域内にそれぞれ鋳湯を流し込むことで、より複雑な形状の構造体を作製できる。この場合の閉じられた領域とは、長方形に限らず、正方形や三角形、その他の多角形、円形、楕円形等の任意の形状にできる。
【0084】
また、上記の説明では、一本の線状のビードにより外殻となる積層造形体を造形しているが、ウィービング動作のようにトーチを揺動させながらビードを形成したり、円や三角等の軌跡を描かせながらトーチを移動させたりしてもよい。その場合、ビード幅を増加させて、外殻や内殻等の厚さを任意に調整できる。
【0085】
いずれの構造体も、外殻の底部をベースによって形成しているが、これに限らない。例えば、ベースに形成したビードを起点として、ベースから離れる方向に繰り返しビードを形成することで、ベースとは別途に外殻の底部を造形してもよい。
【0086】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 構造体の製造方法であって、
溶加材を溶融及び凝固させたビードをベース上に積層し、前記構造体の外殻を積層造形する造形工程と、
前記外殻に補強部材を接合させる接合工程と、
前記外殻の内側空間に鋳湯を流し込み、前記外殻の内側に鋳物部を形成する鋳造工程と、
を有する構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、構造体の外殻を形成するための木型等の製作が不要となり、型製作の工程及び費用を削減でき、リードタイムの短縮と製造コストの低減が図れる。さらに、外殻を補強する補強部材によって、鋳物部の注湯中及び注湯後に発生する外殻の熱変形が抑制され、冷却後の設計寸法からのずれを低減できる。また、外殻の変形が抑制されるため、外殻の熱変形が冷却によって戻る前に鋳湯が凝固した場合でも、外殻の弾性変形量は少ない。したがって、冷却後に外殻と鋳物部との間に隙間が生じにくくなり、構造体の製品品質が向上する。
【0087】
(2) 前記補強部材は、前記外殻とは別体の少なくとも一方向に延びる板状体又は棒状体であり、
前記接合工程は、前記補強部材の長手方向を前記外殻に沿わせて、前記補強部材を前記外殻の外側に溶接する工程を含む(1)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、鋳湯の収縮による外殻の変形を、外殻の外側の補強部材によって抑制できる。
【0088】
(3)前記接合工程は、前記外殻とは別体の前記補強部材を前記外殻の内側空間に溶接する工程を含む(1)又は(2)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、鋳湯の収縮による外殻の変形を、外殻の内側の補強部材によって抑制できる。
【0089】
(4) 前記外殻は、互いに対面する一対の第1壁部と第2壁部とを有し、
前記造形工程と前記接合工程は、
前記第1壁部を積層造形する工程と、
前記補強部材を、前記第1壁部の前記第2壁部側となる内側面に溶接する工程と、
前記補強部材を前記第1壁部との間に挟んで前記第2壁部を積層造形する工程と、
を含む(3)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、積層造形した第1壁部に補強部材を溶接した後に第2壁部を積層造形することにより、第1壁部と第2壁部との間に補強部材を接合した外殻を容易に作製できる。
【0090】
(5) 前記鋳造工程では、前記鋳湯を前記外殻の内側空間の下方から流し込んで前記鋳物部を形成し、
前記補強部材は、少なくとも一方向に延びる板状体又は棒状体であり、
前記接合工程では、前記補強部材の長手方向を前記内側空間に溜まる前記鋳湯の液位上昇方向に沿う方向にして、前記補強部材を前記外殻に溶接する(3)又は(4)に記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、鋳湯を内側空間に流し込む際に、補強部材の外面との間に隙間が生じることなく、補強部材の全体を確実に鋳包むことができる。
【0091】
(6) 前記補強部材は、金属ブロック材である(1)~(5)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、ビードの積層構造体とは異なる金属ブロック材により補強部材を形成することで、製造工程を簡略化でき、しかも、補強部材の材料選択の自由度を高められる。
【0092】
(7) 前記外殻を、溶接可能な壁面に接続して、前記外殻と、前記外殻に接続された壁面とによって前記内側空間を画成する(1)~(6)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、外殻の剛性が向上して、加熱による熱変形や鋳湯の凝固による熱収縮が生じにくくなる。これにより、構造体の設計寸法からのずれが低減され、外殻と鋳物部との間の隙間の発生が抑制される。
【0093】
(8) 前記補強部材を前記外殻の複数箇所に設ける(1)~(7)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、外殻の複数箇所でそれぞれ補強されるため、外殻の変形がより均一に低減される。
【0094】
(9) 前記ビードを、アークにより前記溶加材を溶融させて形成する(1)~(8)のいずれか一つに記載の構造体の製造方法。
この構造体の製造方法によれば、エネルギー効率を高めて、しかも低コストで構造体を積層造形できる。
【0095】
(10) 溶加材が溶融及び凝固したビードの積層造形体であって、その内側に閉空間となる内側空間を画成する外殻と、
前記外殻に接合され、少なくとも1つの金属ブロック材からなる補強部材と、
前記外殻の前記内側空間に形成された鋳物部と、
を有する構造体。
この構造体によれば、構造体が外殻と鋳物部により構成されるため、外殻の内側空間に積層材料より安価な材料を鋳込むことで、比較的高価な積層材料の使用が外殻のみで済む。そのため、構造体の全てを積層材料で製作する場合と比較して、材料費を抑え、製造コストを低減できる。また、ビードの積層造形体とは異なる金属ブロック材で補強部材が形成されるため、目的に応じた補強部材の材質変更が容易な構成にできる。
【0096】
(11) 前記外殻の外側に前記補強部材が溶接された(10)に記載の構造体。
この構造体によれば、補強部材によって外殻が補強された高強度な構成にできる。また、補強部材に、更に他の部材を設ける等、構造体の設計自由度を向上できる。
【0097】
(12) 前記外殻の内側に前記補強部材が溶接された(10)又は(11)に記載の構造体。
この構造体によれば、補強部材によって外殻が補強された高強度な構成にできる。
【0098】
(13) 前記補強部材が複数箇所に設けられている(10)~(12)のいずれか一つに記載の構造体。
この構造体によれば、補強部材を複数設けることで、負荷荷重が分散され、応力集中が生じにくくなる。
【0099】
(14) 前記外殻の少なくとも一部が、前記外殻とは異なる剛性部材に接合され、前記外殻と前記剛性部材との間に前記鋳物部が形成されている(10)~(13)のいずれか一つに記載の構造体。
この構造体によれば、鋳物部を形成するための壁の一部が外殻とは異なる剛性部材が用いられるため、外殻を積層造形する工程が軽減され、外殻の剛性が向上する。よって、加熱による熱変形や鋳湯の凝固による熱収縮が生じにくくなり、構造体の設計寸法からのずれが低減され、外殻と鋳物部との間の隙間の発生が抑制される。
【0100】
(15) 前記外殻の内側に、前記溶加材が溶融及び凝固したビードが積層造形された内殻が設けられ、
前記外殻と前記内殻は、前記ビードによる閉じられた線状の層が積層されており、
前記外殻と前記内殻との間に前記鋳物部が形成されている(10)~(14)のいずれか一つに記載の構造体。
この構造体によれば、使用箇所や使用目的等に応じて構造体の形状を多様に設定でき、構造体の適用対象をより広げることができる。
【符号の説明】
【0101】
11 積層造形装置
13 鋳造装置
15 コントローラ
17 トーチ
19 溶接ロボット
23 溶加材供給部
25 鋳湯
37 制御部
41 ベース
43 ビード
45 内側空間
49 鋳物部
51,51A,51B,51C,51D 構造体
53A 第1壁部
53B 第2壁部
61 リブ(補強部材)
65 支持材(補強部材)
71 剛性部材
71a 壁面
W 外殻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12