(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】フィルタ位相進み分を利用した振動変位推定プログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20220119BHJP
G09G 5/38 20060101ALI20220119BHJP
G09G 5/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G09G5/38 Z
G09G5/00 550C
(21)【出願番号】P 2018232277
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【氏名又は名称】早原 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】若松 大作
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116134(JP,A)
【文献】特開2008-160277(JP,A)
【文献】特開2018-137083(JP,A)
【文献】特開2016-080892(JP,A)
【文献】特開2015-052776(JP,A)
【文献】特開2011-145354(JP,A)
【文献】特開2018-101149(JP,A)
【文献】特開平08-247796(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0179218(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G09G 5/00- 5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定
し、当該振動変位に基づき自ら実施する処理の処理結果出力における当該振動の影響を抑制可能な装置に搭載されたコンピュータを機能させる振動変位推定プログラムであって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出する補償量決定手段と、
当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて振動変位を決定する振動変位決定手段と
してコンピュータを機能させ
、
前記積分近似フィルタ手段は、前記補償量決定手段によって算出される位相進み分であって、当該処理結果出力に影響を及ぼす当該振動に係る周波数について算出される位相進み分の値が、前記装置の当該処理における当該処理結果出力までの遅延時間に相当する値又は該相当する値から所定範囲内にある値となるように、当該積分近似フィルタ処理におけるパラメータを調整して、当該積分近似フィルタ処理を実施する
ことを特徴とする振動変位推定プログラム。
【請求項2】
前記補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量におけるゲイン変動分も算出し、
前記振動変位決定手段は、当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、当該ゲイン変動分に係る補正を行うことによって振動変位を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項3】
前記振動変位推定プログラムは、当該積分近似フィルタ処理の前及び/又は後に、当該測定量に対し、低周波成分を除去する低周波除去フィルタ処理を施す低周波除去フィルタ手段としてコンピュータを更に機能させ、
前記補償量決定手段は、当該低周波除去フィルタ処理及び当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項4】
前記装置は、振動の加速度に係る測定量から振動変位を推定
する装置であり、
前記積分近似フィルタ手段は、当該加速度に係る測定量に対し、位相の進む二階積分相当の積分近似フィルタ処理を施す
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項5】
前記振動変位推定プログラムは、当該測定量における瞬時又は準瞬時周波数を決定する周波数決定手段としてコンピュータを更に機能させ、
前記補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における当該瞬時又は準瞬時周波数での位相進み分を算出する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項6】
前記振動変位決定手段は、当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、振動変位推定の不要な低周波数領域での振動変位をゼロ又は微小量にすべく、周波数について単調増加を示す所定の関数値を乗算した量に基づいて振動変位を決定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項7】
前記装置は、決定された振動変位に基づいて、該装置の画像処理による処理結果出力としての画像表示における画像の表示位置を補正することを特徴とする請求項
1から6のいずれか1項に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項8】
振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定可能な装置に搭載されたコンピュータを機能させる振動変位推定プログラムであって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該測定量における瞬時又は準瞬時周波数を決定する周波数決定手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における
当該瞬時又は準瞬時周波数での位相進み分を算出する補償量決定手段と、
振動変位推定時点から見て、算出された当該位相進み分に相当する
だけ前
となる時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて
、当該振動変位推定時点での振動変位を決定する振動変位決定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする振動変位推定プログラム。
【請求項9】
前記補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における
当該瞬時又は準瞬時周波数でのゲイン変動分も算出し、
前記振動変位決定手段は、
当該振動変位推定時点から見て当該位相進み分に相当する
だけ前
となる時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、当該ゲイン変動分に係る補正を行うことによって
当該振動変位推定時点での振動変位を決定する
ことを特徴とする請求項
8に記載の振動変位推定プログラム。
【請求項10】
振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定
し、当該振動変位に基づき自ら実施する処理の処理結果出力における当該振動の影響を抑制可能な振動変位推定装置であって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出する補償量決定手段と、
当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて振動変位を決定する振動変位決定手段と
を有
し、
前記積分近似フィルタ手段は、前記補償量決定手段によって算出される位相進み分であって、当該処理結果出力に影響を及ぼす当該振動に係る周波数について算出される位相進み分の値が、前記装置の当該処理における当該処理結果出力までの遅延時間に相当する値又は該相当する値から所定範囲内にある値となるように、当該積分近似フィルタ処理におけるパラメータを調整して、当該積分近似フィルタ処理を実施する
ことを特徴とする振動変位推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動に係る測定データから振動変位を求める技術に関し、特にデジタルフィルタを用いて振動変位を導出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車や電車、船舶等の移動体に乗り込んだユーザが、スマートフォンやタブレット型コンピュータ等の端末を使用して様々なサービスを享受することは、いたって日常的なこととなっている。
【0003】
この際、ユーザは多くの場合、端末画面に表示された画像を見て所望の情報を得るのであるが、移動体の移動に伴う振動によって画像が揺れ、非常に見づらい思いをすることも少なくない。また、このように揺れる画像を見続けることによって、目が疲れたり乗り物酔いの症状が出たりすることも問題となっている。
【0004】
このような揺れる環境で表示された画像の視認性を向上させるための方策として、例えば特許文献1には、画像を表示するタッチパネル107と、装置の移動を検知する加速度センサ303と、検知された装置の移動に基づいてタッチパネル107に表示する画像の移動量を算出するCPU301とを備え、タッチパネル107は、CPU301から算出された移動量Lに基づいて画像の表示位置を移動させることを特徴とする携帯電話100が開示されている。
【0005】
ここで、CPU301は、移動中の携帯電話100の加速度を加速度センサ303の出力値から検出し、この検出した加速度から携帯電話100の移動量Lを算出する。この移動量Lは、たとえば、CPU301が、加速度を時間で2回積分することにより求められる。次に、CPU301は、算出された移動量Lに基づいて、タッチパネル107の画面上に携帯電話の移動前に表示されていた画像601を画面内で移動させるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように従来、移動端末(特許文献1では携帯電話100)は、振動変位(移動量L)を直接計測することができず、そのため例えば加速度センサを用いて測定した加速度データに対し、二階積分(2回の積分)フィルタ処理を施すことによって振動変位を導出している。
【0008】
次いで、移動端末は、導出した振動変位に基づいて画像の表示位置を画面内で移動させ、画像表示が当該振動の影響を受けないように調整するのである。
【0009】
しかしながら、上述したような従来技術では、振動変位の導出処理及び表示画像の調整処理等に時間を要し、表示位置の調整された画像表示時点における加速度測定時点からの遅れ分である遅延時間(レイテンシ,latency)の存在が大きな問題となる。すなわち、移動端末が受けた振動をリアルタイムで画像表示に反映させるためには、この遅延時間分の未来における振動変位を予測する必要が生じてしまうのである。
【0010】
ここで、振動変位を導出するために通常、各種のフィルタを利用するが、一般にフィルタ毎に出力信号における位相の周波数特性が大きく異なっており、その結果、広い周波数帯域で発生する振動において、予測される変位の位相に差が生じ、画像位置調整に適当となる振動変位の予測量を決定することが非常に困難となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、未来時間での変位予測に依らずに、振動変位を推定することが可能な振動変位推定プログラム、装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定し、当該振動変位に基づき自ら実施する処理の処理結果出力における当該振動の影響を抑制可能な装置に搭載されたコンピュータを機能させる振動変位推定プログラムであって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出する補償量決定手段と、
当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて振動変位を決定する振動変位決定手段と
してコンピュータを機能させ、
積分近似フィルタ手段は、補償量決定手段によって算出される位相進み分であって、当該処理結果出力に影響を及ぼす当該振動に係る周波数について算出される位相進み分の値が、本装置の当該処理における当該処理結果出力までの遅延時間に相当する値又はこの相当する値から所定範囲内にある値となるように、当該積分近似フィルタ処理におけるパラメータを調整して、当該積分近似フィルタ処理を実施する
ことを特徴とする振動変位推定プログラムが提供される。
【0013】
また、この本発明による振動変位推定プログラムにおいて、補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量におけるゲイン変動分も算出し、
振動変位決定手段は、当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、当該ゲイン変動分に係る補正を行うことによって振動変位を決定することも好ましい。
【0014】
さらに、本発明による振動変位推定プログラムの一実施形態として、本振動変位推定プログラムは、当該積分近似フィルタ処理の前及び/又は後に、当該測定量に対し、低周波成分を除去する低周波除去フィルタ処理を施す低周波除去フィルタ手段としてコンピュータを更に機能させ、
補償量決定手段は、当該低周波除去フィルタ処理及び当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出することも好ましい。
【0015】
また、本発明による振動変位推定プログラムにおいて、上記の装置は、振動の加速度に係る測定量から振動変位を推定する装置であり、
積分近似フィルタ手段は、当該加速度に係る測定量に対し、位相の進む二階積分相当の積分近似フィルタ処理を施すことも好ましい。
【0016】
さらに、本発明による振動変位推定プログラムの他の実施形態として、本振動変位推定プログラムは、当該測定量における瞬時又は準瞬時周波数を決定する周波数決定手段としてコンピュータを更に機能させ、
補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における当該瞬時又は準瞬時周波数での位相進み分を算出することも好ましい。
【0017】
また、本発明による振動変位推定プログラムの更なる他の実施形態として、振動変位決定手段は、当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、振動変位推定の不要な低周波数領域での振動変位をゼロ又は微小量にすべく、周波数について単調増加を示す所定の関数値を乗算した量に基づいて振動変位を決定することも好ましい。
【0019】
また、上記の更なる他の実施形態の具体的な応用例として、上記の装置は、決定された振動変位に基づいて、この装置の画像処理による処理結果出力としての画像表示における画像の表示位置を補正することも好ましい。
【0020】
本発明によれば、また、振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定し、当該振動変位に基づき自ら実施する処理の処理結果出力における当該振動の影響を抑制可能な振動変位推定装置であって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における位相進み分を算出する補償量決定手段と、
当該位相進み分に相当する前時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて振動変位を決定する振動変位決定手段と
を有し、
積分近似フィルタ手段は、補償量決定手段によって算出される位相進み分であって、当該処理結果出力に影響を及ぼす当該振動に係る周波数について算出される位相進み分の値が、本装置の当該処理における当該処理結果出力までの遅延時間に相当する値又はこの相当する値から所定範囲内にある値となるように、当該積分近似フィルタ処理におけるパラメータを調整して、当該積分近似フィルタ処理を実施する
ことを特徴とする振動変位推定装置が提供される。
【0021】
本発明によれば、さらに、振動の加速度又は速度に係る測定量から振動変位を推定可能な装置に搭載されたコンピュータを機能させる振動変位推定プログラムであって、
当該測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の積分近似フィルタ処理を施す積分近似フィルタ手段と、
当該測定量における瞬時又は準瞬時周波数を決定する周波数決定手段と、
当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における当該瞬時又は準瞬時周波数での位相進み分を算出する補償量決定手段と、
振動変位推定時点から見て、算出された当該位相進み分に相当するだけ前となる時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に基づいて、当該振動変位推定時点での振動変位を決定する振動変位決定手段と
してコンピュータを機能させる振動変位推定プログラムが提供される。
この本発明による振動変位推定プログラムにおいて、補償量決定手段は、当該積分近似フィルタ処理を施された測定量における当該瞬時又は準瞬時周波数でのゲイン変動分も算出し、
振動変位決定手段は、当該振動変位推定時点から見て当該位相進み分に相当するだけ前となる時点における当該積分近似フィルタ処理を施された測定量に対し、当該ゲイン変動分に係る補正を行うことによって当該振動変位推定時点での振動変位を決定することも好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、未来時間での変位予測に依らずに、振動変位を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による振動変位推定装置の一実施形態における機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】本発明に係るプレフィルタ部、積分近似フィルタ部及びポストフィルタ部におけるフィルタリングパラメータの調整を説明するためのグラフである。
【
図3】本発明に係る推定された振動変位をもって、スマートフォンにおける表示画像位置の補正を行った具体例を示す模式図である。
【
図4】本発明による振動変位推定方法の一実施形態を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
[振動変位推定装置]
図1は、本発明による振動変位推定装置の一実施形態における機能構成を示す機能ブロック図である。
【0026】
図1に示した実施形態によれば、本発明による振動変位推定装置であるスマートフォン1は、画像を表示可能な画像表示部(タッチパネル・ディスプレイ103)を有する画像表示装置となっている。また、このスマートフォン1を保持したユーザは、移動体としての自動車2の内部で又は自動車2に乗った状態で、スマートフォン1のタッチパネル・ディスプレイ103に表示された(動画像を含む)画像を閲覧・視聴している。
【0027】
ここで、自動車2は走行中であって様々な周波数の振動をスマートフォン1に与え、その結果このままでは、ユーザは揺れた表示画像を見続けなければならず、非常に見づらい。特に、数ヘルツ(Hz)以上の高い周波数の振動によって、表示画像が刻々とブレたり残像を伴ったりし、視認性が大幅に低下してしまう。
【0028】
これに対し、本実施形態のスマートフォン1は、具備した加速度センサ101等によって刻々と取得される加速度測定データに基づき、自身の受けている振動の振動変位を推定し、さらに推定した振動変位に基づいて、タッチパネル・ディスプレイ103に表示される画像の表示位置を変化させて、表示画像の視認性を向上させているのである。
【0029】
ここで、スマートフォン1は、装置内処理のレイテンシ(遅延時間)を考慮して振動変を推定することよって、より適切な画像表示位置の補正・調整を実現している。すなわち、よりリアルタイムな振動変位推定処理を実施することを大きな特徴としている。
【0030】
ちなみに、本実施形態における振動変位推定装置(兼画像表示装置)は当然に、スマートフォンに限定されるものではなく、例えばタブレット型・ノート型コンピュータ等のハンドヘルド型端末若しくは携帯端末や、さらには腕時計型端末やHMD(Head Mounted Display)等のウェアラブル端末であってもよい。また、移動体内に持ち込まれたパーソナルコンピュータ(PC)とすることも可能である。さらには、移動体内に設置された、シートバックモニタ装置等のモニタ専用装置や、カーナビゲーション装置であってもよい。
【0031】
同じく
図1において、スマートフォン1は、振動変位推定装置としての特徴として具体的に、
(A)振動の加速度に係る測定量に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の「積分近似フィルタ処理」を施す積分近似フィルタ部112と、
(B)「積分近似フィルタ処理」を施された測定量における「位相進み分」を算出する補償量決定部115と、
(C)「位相進み分」に相当する前時点における「積分近似フィルタ処理」を施された測定量に基づいて振動変位を決定する振動変位決定部116と
を有している。
【0032】
ここで、上記構成(A)の「積分近似フィルタ処理」は、単純な積分フィルタ処理よりも出力信号における位相が進むタイプの積分相当のデジタルフィルタ処理である。その具体的な形は後に詳細に説明を行う。なお、上記構成(A)のように、振動の加速度に係る測定量を処理する場合、「積分近似フィルタ処理」は、単純な二階積分(2回の積分)フィルタ処理よりも位相の進む二階積分相当のフィルタ処理となる。
【0033】
これに対し、スマートフォン1が振動における速度に係る測定量を取得可能な場合、この速度に係る測定量に対する「積分近似フィルタ処理」は、単純な一階積分(1回の積分)フィルタ処理よりも位相の進む一階積分相当のフィルタ処理とすることができる。例えば、ジャイロセンサ102を用いて、後に説明する表示画面座標系におけるZ軸を回転軸とする回転振動の振動角速度に係る測定量を取得した場合、上記構成(A)の「積分近似フィルタ処理」を一階積分相当の処理とし、振動角を推定することも可能となる。
【0034】
以上説明したように、スマートフォン1は、算出した「位相進み分」に相当する前時点における「積分近似フィルタ処理」を施された測定量に基づいて振動変位を決定することができる。具体的には、当該測定量に対するフィルタ処理の出力が(位相に係る)時間軸上で先に進む分だけ遡ってフィルタ処理出力を選び、この選んだ(よりリアルタイムの)フィルタ処理出力に基づくことによって、振動変位をよりリアルタイムに推定することが可能となる。
【0035】
すなわち、スマートフォン1によれば、装置処理にレイテンシが存在する場合でも、未来時間での変位予測に依らずに、加速度センサ101やジャイロセンサ102からの出力信号のみを用いてスマートフォン1の振動変位を推定することができるのである。
【0036】
ちなみに、スマートフォン1(を所持したユーザ)が乗り込む移動体は当然、自動車2に限定されるものではない。例えば、バスやトラック等の大型車や、リニアカーを含む鉄道車両、モノレール、船舶、エレベータ、さらには飛行船等を含む航空機、メガフロート、潜水艇、宇宙船や、宇宙ステーション等、その内部で又はそれに乗ってスマートフォン1が使用可能であるならば、種々のものが該当するのである。
【0037】
[装置機能構成,振動変位推定プログラム]
以下、同じく
図1に示す機能ブロック図を用いて、本実施形態におけるスマートフォン1の機能構成を詳しく説明する。同機能ブロック図によれば、スマートフォン1は、加速度センサ101と、ジャイロセンサ102と、タッチパネル・ディスプレイ103と、解析結果蓄積部104と、通信インタフェース部105と、プロセッサ・メモリとを有する。ちなみに
図1には、スマートフォン1における振動変位推定機能に関係する機能構成のみが示されている。
【0038】
ここで、このプロセッサ・メモリは、本発明による振動変位推定プログラムの一実施形態を保存しており、また、コンピュータ機能を有していて、この振動変位推定プログラムを実行することによって、振動変位推定処理を実施する。なお、本発明による振動変位推定装置は当然、スマートフォンに限定されるものではなく、本発明による振動変位推定プログラムを搭載したコンピュータを含む装置であれば種々の形態のものが、当該振動変位推定装置として採用可能である。
【0039】
さらに、プロセッサ・メモリは、パラメータ調整部111pを含むプレフィルタ部111と、パラメータ調整部112pを含む積分近似フィルタ部112と、パラメータ調整部113pを含むポストフィルタ部113と、準瞬時周波数決定部114と、補償量決定部115と、シグモイド関数調整部116sを含む振動変位決定部116と、画像表示制御部117gを含む入出力制御部117と、センサ統合部121と、アプリケーション部122とを有する。
【0040】
なお、これらの機能構成部は、プロセッサ・メモリに保存された振動変位推定プログラムの機能と捉えることができる。また、
図1におけるスマートフォン1の機能構成部間を矢印で接続して示した処理の流れは、本発明による振動変位推定方法の一実施形態としても理解される。
【0041】
同じく
図1の機能ブロック図において、加速度センサ101は、スマートフォン1自体が受ける加速度を測定し、当該加速度に係る測定量を出力する測定手段であり、例えば公知の3軸加速度センサとすることができる。また、ジャイロセンサ102は、スマートフォン1の装置向き変化分としての角速度(又は角加速度)を測定し、当該角速度に係る測定量を出力する測定手段であり、例えば公知の3軸ジャイロスコープであってもよい。
【0042】
ここで本実施形態では、タッチパネル・ディスプレイ103の表示画面座標系として、表示画面における横方向のX軸と縦方向のY軸と奥行き方向のZ軸を備えたXYZ直交座標系が設定されている。これに対し、加速度センサ101及びジャイロセンサ102の測定軸をこれらXYZの3軸とし、最終的にX軸及びY軸方向の振動変位を算出できるように設定することも好ましい。
【0043】
また、センサ統合部121は、加速度センサ101及びジャイロセンサ102から、それぞれ加速度に係る測定量及び角速度に係る測定量を入力し、公知のセンサヒュージョン処理を用いて、角速度に係る測定量やZ軸方向の加速度に係る測定量に基づき、X軸方向の加速度に係る測定量、及びY軸方向の加速度に係る測定量の補正を行い、より精度の高いX及びY軸方向の加速度に係る測定量を、プレフィルタ部111へ出力する。またその際、同じく公知のセンサヒュージョン処理によって角速度に係る測定量の精度を向上させて用いてもよい。
【0044】
ここで、センサ統合部121から出力された測定量には、重力加速度や、自動車2の加減速時の加速度及びカーブ進行時の遠心加速度等、表示位置補正対象となる振動とは異なる超低周波の加速度成分が混入している。
【0045】
そこで、プレフィルタ部111は、センサ統合部121から入力した測定量に対し、後述する積分近似フィルタ処理の前処理として超低周波成分を除去する低周波除去フィルタ処理を実施する。具体的には本実施形態において、DCカットフィルタ処理によってこれらの超低周波成分を除去する。このDCカットフィルタ処理は、次式に示す処理とすることができる。
(1) 漸化式:y[i]=x[i]-x[i-1]+r1*y[i-1]
(2) 伝達関数:h(z)=y(z)/x(z)=(1-z-1)/(1-r1*z-1)
y(z)=x(z)-z-1*x(z)+r1*z-1*y(z)
【0046】
ここで上式(1)において、x[i]はi番目のフィルタ入力信号サンプルであって、x[i-1]はi番目より1つ前の時点のフィルタ入力信号サンプルであり、また、y[i]はi番目のフィルタ出力信号サンプルであって、y[i-1]はi番目より1つ前の時点のフィルタ出力信号サンプルである。さらに、r1は0から1までの値をとるフィルタリングパラメータである。また、上式(2)において、x(z)及びy(z)はそれぞれ、入力信号サンプルx[i]及び出力信号サンプルy[i]のZ変換結果である(x(z)=Z(x[i]),y(z)=Z(y[i]))。さらに、上式を含め以下の数式における「*」は、乗算を表している。
【0047】
このDCカットフィルタ処理はハイパスフィルタ処理の一種であり、出力信号の位相を進ませる処理となっている。プレフィルタ部111のパラメータ調整部111pは、上記のパラメータr1の値を調整し、本DCカットフィルタ処理の出力信号における位相の進み分を制御することができる。また、プレフィルタ部111は、後述する準瞬時周波数の決定のため、例えば過去1秒間分の出力信号(DCカットフィルタ処理済みの測定量)を時系列信号として蓄積しておくことも好ましい。
【0048】
同じく
図1の機能ブロック図において、積分近似フィルタ部112は、プレフィルタ部111から入力したDCカットフィルタ処理済の測定量(プレフィルタ部111の出力信号)に対し、積分フィルタ処理よりも位相の進む積分相当の「積分近似フィルタ処理」を実施する。本実施形態では、プレフィルタ部111の出力信号は加速度に係る測定量であるので、「積分近似フィルタ処理」は、変位相当量への変換を行うべく、位相の進む二階積分(2回の積分)相当のフィルタ処理となっている。
【0049】
具体的に、本実施形態の積分近似フィルタ処理は、次式に示すようなフィルタ処理を2回実施するものとすることができる。
(3) 漸化式:y[i]=r2*y[i-1]+x[i]
(4) 伝達関数:h(z)=y(z)/x(z)=1/(1-r2*z-1)
y(z)=x(z)+r2*z-1*y(z)
【0050】
ここで、上式(3)及び(4)におけるr2は、0から1までの値をとるフィルタリングパラメータである。本積分近似フィルタ処理では、このパラメータr2を導入することによって、単純な積分フィルタ処理(y[i]=y[i-1]+x[i]))よりも出力信号における位相を進めることが可能となっている。ここで、積分近似フィルタ部112のパラメータ調整部112pは、このパラメータr2の値を調整し、本積分近似フィルタ処理の出力信号における位相の進み分を制御することができる。
【0051】
さらに、このパラメータr2を導入することで、フィルタ処理を発散させず安定した方向に維持することも可能となっている。実際、単純な積分フィルタ処理(y[i]=y[i-1]+x[i]))を単に2回実施して二階積分を行うと、出力信号としての変位が発散してしまう場合も生じていたが、二階積分相当の本積分近似フィルタ処理によれば、r2の調整によってそのような発散を軽減することが可能となる。
【0052】
また、本発明に係る「積分近似フィルタ処理」は、以上に述べたフィルタ処理に限定されるものではなく、単純な積分フィルタ処理よりも位相の進む(二階)積分相当のフィルタ処理であれば種々のものが「積分近似フィルタ処理」として採用可能である。
【0053】
例えば、次式に示すようなフィルタ処理を2回実施する処理を採用してもよい。
(5) 漸化式:y[i]=r2*y[i-1]+(x[i]-p*x[i-1])
(6) 伝達関数:h(z)=y(z)/x(z)=(1-p*z-1)/(1-r2*z-1)
y(z)=(x(z)-p*z-1*(z))+r2*z-1*y(z)
【0054】
ここで上式(5)及び(6)におけるr2及びpはいずれも、0から1までの値をとるフィルタリングパラメータとなっている。ちなみに、上式(5)及び(6)で示されるフィルタ処理は、上式(3)及び(4)で示されるフィルタ処理に対し、ハイパスフィルタの要素(-p*x[i-1])を追加したものとなっている(P=0とすれば上式(3)及び(4)のフィルタ処理と一致する)。
【0055】
また、上式(5)及び(6)を2回実施する積分近似フィルタ処理を採用する場合、パラメータ調整部112pは、これらのパラメータr2及びpの値を調整し、本積分近似フィルタ処理の出力信号における位相の進み分を制御するのである。
【0056】
ここで、積分近似フィルタ部112から出力された出力信号(変位に相当する二階積分処理後の測定量)には、2回の積分相当処理によってDC成分が蓄積し残存する場合がある。そこで次に、ポストフィルタ部113は、積分近似フィルタ処理済みの測定量(積分近似フィルタ部112の出力信号)に対し、超低周波成分を除去する低周波除去フィルタ処理を施す。
【0057】
具体的には本実施形態において、ポストフィルタ部113はDCカットフィルタ処理によってDC成分を除去する。このDCカットフィルタ処理は、上式(1)及び(2)と同形である次式に示した処理とすることができる。
(7) 漸化式:y[i]=x[i]-x[i-1]+r3*y[i-1]
(8) 伝達関数:h(z)=y(z)/x(z)=(1-z-1)/(1-r3*z-1)
y(z)=x(z)-z-1*x(z)+r3*z-1*y(z)
【0058】
上式(7)及び(8)において、r3もr1と同様、0から1までの値をとるフィルタリングパラメータである。また、ポストフィルタ部113のパラメータ調整部113pも、このパラメータr3の値を調整し、本DCカットフィルタ処理の出力信号における位相の進み分を制御することができる。
【0059】
ちなみに本実施形態において、ポストフィルタ部113は、ポストフィルタ処理後の出力信号を常時、過去N(Nは十分な大きさの自然数)サンプル分だけ保存している。のちに説明するように、振動変位決定部116は、補償位相分を勘案してこれらNサンプルのうちの1つを選択し、この選択した出力信号サンプルに基づいて推定される振動変位を決定するのである。
【0060】
準瞬時周波数決定部114は、振動変位推定対象である測定量における「瞬時」又は「準瞬時」周波数を決定する。このうち「瞬時」周波数は、複素信号処理を用いた公知の手法で算出されるが、本実施形態では処理遅延をできるだけ抑えるため、準瞬時周波数決定部114は、「準瞬時」周波数を算出する。ちなみにこの後、補償量決定部115は、ここで決定された準瞬時周波数における(ポストフィルタ処理までを施された)信号の位相進み分及び振幅のゲイン変動分を算出するのである。
【0061】
具体的に、準瞬時周波数決定部114は、プレフィルタ部111から出力された時系列信号(DCカットフィルタ処理済みの測定量)において、(時間軸での)ゼロクロス判定用の正負閾値を用い、過去となる直近のゼロクロス点を2つ検出して、これらの点から信号の半周期に相当するサンプル数を算出し、サンプリング周波数を用いて準瞬時周波数を決定するのである。ここで、プレフィルタ部111の出力信号は、積分近似フィルタ部112の出力信号やその後段のポストフィルタ部113の出力信号と比較して、ゼロクロスしやすく、これにより安定した結果(準瞬時周波数)が得られ易いので、準瞬時周波数の算出により適しているのである。
【0062】
ここで、このように決定された準瞬時周波数は、対象となる時系列信号が複雑な振動に係る信号である場合、短時間で大きく変化してしまう傾向にある。そこで、ある程度安定した準瞬時周波数を取得できるように、準瞬時周波数決定処理の前に、時系列信号に対してローパスフィルタ処理を施すことも好ましい。
【0063】
また、入力加速度波形から導出される周波数推定誤差にバイアスが生じてしまう場合、フィルタ処理においてそれを取り除くような係数を設定し、当該係数値を調整することも好ましい。また以上に述べた場合とは異なり、複数の周波数の振動が混ざっていない単純な振動に係る時系列信号が得られる実施環境の場合、プレフィルタ部111へ入力される計測量における加速度波形から準瞬時周波数を決定することも好ましい。勿論、積分後補正波形と加速度波形とのそれぞれから周波数を推定し、それらの所定の平均をもって準瞬時周波数としてもよい。
【0064】
またより好適な手法として、自己相関法による周波数推定等のロバスト性が高い(波形崩れに強い)手法を用いて準瞬時周波数を推定することも可能である。
【0065】
同じく
図1の機能ブロック図において、補償量決定部115は、ポストフィルタ部113の出力信号(ポストフィルタ処理済みの測定量)における
(a)決定された準瞬時周波数での位相進み分である「補償位相分(補償位相サンプル数)」と、
(b)決定された準瞬時周波数での振幅のゲイン変動分である「補償ゲイン」と
を算出する。ここで、補償量決定部115へ入力される信号は本実施形態において、プレフィルタ処理、(二階積分相当の)積分近似フィルタ処理及びポストフィルタ処理を施された時系列信号となっている。
【0066】
具体的に、補償量決定部115は、実施された上記3つのフィルタ処理の各々につき、その伝達関数に基づいて、準瞬時周波数におけるフィルタ入力信号に対するフィルタ出力信号の位相進み分を計算し、これらの位相進み分を加算した上でサンプル数に変換して「補償位相サンプル数」を算出する。また、各フィルタの入出力信号の比であるゲインを計算し、これらのゲインを乗算して「補償ゲイン」を算出する。
【0067】
最初に、プレフィルタ部111で実施されるDCカットフィルタの補償位相サンプル数p_preの計算を示す。上式(1)に示した時間領域での漸化式(y[i]=x[i]-x[i-1]+r1*y[i-1])をZ領域へ変換することによって、上式(2)に示した伝達関数(h(z)=(1-z-1)/(1-r1*z-1))が算出されるのであるが、この伝達関数を周波数(ω)領域に変換すると、次式
(9) h(ω)=(1-exp(-jωT))/(1-r1*exp(-jωT)) (jは虚数単位)
が得られる。ここで、Tはサンプリング周波数FS(Hz)の逆数(T=1/FS)である。
【0068】
次いで上式(9)を用いることにより、プレフィルタ処理での補償位相サンプル数p_preは、次式をもって算出することができる。
(10) p_pre=FS*delay (単位はサンプル数)
delay=(2πf)-1*henkaku (単位は秒)
henkaku=Arg((1-exp(-j*2πfT))/(1-r1*exp(-j*2πfT))) (単位はrad)
ここで、fは準瞬時周波数(Hz)であり、Arg(CN)は、複素数CNの偏角を返す関数である。
【0069】
また、プレフィルタ処理での補償ゲインg_pre(比)は、次式をもって算出することができる。
(11) g_pre=1/Mod((1-exp(-j*2πfT))/(1-r1*exp(-j*2πfT)))
ここで、Mod(CN)は、複素数CNの絶対値(動径)を返す関数である。
【0070】
ちなみに、同じくDCカットフィルタを用いたポストフィルタ処理における補償位相サンプル数p_post及び補償ゲインg_postも、それぞれ上式(10)及び(11)においてr1をr3に置換した式で算出されるのである。
【0071】
次に、積分近似フィルタ部112で実施される積分近似フィルタの補償位相サンプル数p_midの計算を示す。上式(3)に示した時間領域での漸化式(y[i]=r2*y[i-1]+x[i])をZ領域へ変換することによって、上式(4)に示した伝達関数(h(z)=1/(1-r2*z-1))が算出されるのであるが、この伝達関数を周波数(ω)領域に変換すると、次式
(12) h(ω)=1/(1-r2*exp(-jωT)) (jは虚数単位,T=1/FS)
が得られる。
【0072】
次いで上式(12)を用いることにより、二階積分相当である積分近似フィルタ処理での補償位相サンプル数p_midは、次式をもって算出することができる。
(13) p_mid=2*FS*delay (単位はサンプル数,計数2は2回処理による)
delay=(2πf)-1*henkaku (単位は秒)
henkaku=Arg(1/(1-r2*exp(-j*2πfT))) (単位はrad,fは準瞬時周波数)
【0073】
また、プレフィルタ処理での補償ゲインg_mid(比)は、次式をもって算出することができる。
(14) g_mid=1/(Mod(1/(1-r2*exp(-j*2πfT))))2 (分母の二乗は2回処理による)
【0074】
ちなみに、積分近似フィルタ処理の変更態様として上式(5)及び(6)を用いた場合、二階積分相当である積分近似フィルタ処理での補償位相サンプル数p_mid及び補償ゲインg_mid(比)は、それぞれ次式(15)及び(16)をもって算出することができる。
(15) p_mid=2*FS*delay (単位はサンプル数,計数2は2回処理による)
delay=(2πf)-1*henkaku (単位は秒)
henkaku=Arg((1-p*exp(-j*2πfT))/(1-r2*exp(-j*2πfT))) (単位はrad,fは準瞬時周波数)
(16) g_mid=1/(Mod((1-r2*exp(-j*2πfT))/(1-r2*exp(-j*2πfT))))2 (分母の二乗は2回処理による)
【0075】
以上示したように算出された補償位相サンプル数p_pre、p_mid及びp_postから、全てのフィルタ処理に係る全補償位相サンプル数p_allは、次式
(17) p_all=p_pre+p_mid+p_post
によって算出される。また、補償ゲインg_pre、g_mid及びg_postから、全てのフィルタ処理に係る全補償ゲインg_allは、次式
(18) g_all=g_pre*g_mid*g_post
によって算出される。
【0076】
同じく
図1の機能ブロック図において、振動変位決定部116は、全補償位相サンプル数(位相進み分)p_allに相当する前時点(以前の時点)におけるポストフィルタ部113の出力信号(積分近似フィルタ処理及びポストフィルタ処理を施された測定量)に基づいて振動変位を決定する。
【0077】
具体的に振動変位決定部116は、ポストフィルタ部113の出力時系列信号を蓄積しておき、蓄積した過去Nサンプルのうちの1つのサンプル位置を、補償位相分を勘案して選択し、ここで選択した出力信号サンプルに対し、全補償ゲイン(ゲイン変動分)g_allに係る補正を行うことによって振動変位を決定するのである。このことを数式を用いて表すと以下の通りとなる。なお以下、表示画面のX軸方向での加速度に係る測定量を取り扱い、X軸方向の振動変位を算出しているが、当然Y軸方向についても同様の処理を行うことになる。
【0078】
最初に、振動変位決定部116には、ポストフィルタ部113の出力時系列信号として、
(19) x_post[i0],x_post[i0-1],x_post[i0-2],・・・,x_post[i0-N]
が保存されている。上式(19)では、振動変位を推定する時点(現時点)をi0としている。振動変位決定部116は、これらの信号サンプルから、この時点i0での準瞬時周波数f[i0]について計算される補償位相サンプル数p_all分だけ過去の信号サンプルであるx_post[i0-p_all]を時点i0の出力信号サンプルとして選択する。ここで、p_allが整数ではない場合、p_allサンプル位置の前後の信号サンプルの値から内挿して得られた値を出力信号サンプルとしてもよく、または、p_allを四捨五入して得られた整数値I(p_all)に対応するx_post[i0-I(p_all)]を出力信号サンプルとして選択することもできる。
【0079】
振動変位決定部116は次いで、選択したx_post[i0-p_all]に対し、同じく準瞬時周波数f[i0]について計算される補償ゲインg_allを乗算し、次式
(20) X_out[i0]=g_all*x_post[i0-p_all]
によって、時点i0で推定される振動変位X_out[i0]を決定するのである。
【0080】
このようにして本実施形態によれば、時点i0において未来時間での変位予測に依らずに、加速度センサ101からの加速度に係る測定量の入力に対する因果性を保ったまま、振動変位X_out[i0]を推定することができる。また、この振動変位推定処理は、従来よりも広い周波数帯域の振動に対応可能となっているのである。
【0081】
ちなみに、補償量決定部115で決定された各種補償量や、振動変位決定部116で決定(推定)された振動変位は、解析結果蓄積部104に一先ず保存されて適宜、読み出されることも好ましい。また、これらの各種補償量や推定振動変位は、入出力制御部117から通信インタフェース部105を介して外部の情報処理装置、例えば自動車2内に設置されたシートバックモニタ装置に送信され、当該装置において利用されてもよい。
【0082】
ここで以下、振動変位を推定し、タッチパネル・ディスプレイ103の画面における画像表示位置の補正(表示画面揺れ補正)を行う好適な実施形態を説明する。
【0083】
本実施形態において、振動変位決定部116のシグモイド関数調整部116sは、時点i0で推定される振動変位X_out[i0]に対し、補正の必要性が低い低周波数領域での推定精度の問題に対処すべく、周波数について単調増加を示す所定の関数(本実施形態ではシグモイド関数)値を乗算することも好ましい。この場合、振動変位決定部116は、この乗算した量に基づいて振動変位を決定することになる。
【0084】
実際、低周波の振動の場合には画像が見辛くならないので(目が画像の動きに容易についていくことができるので)、画像表示位置の補正処理は概ね不要となる。また一方で、上記の手法で決定された準瞬時周波数は低周波数領域で不安定となることが少なくなく、さらに、上述したDCカットフィルタ処理や積分近似フィルタ処理の出力信号に位相やゲインは、低周波数領域で大きな変動を示す傾向にある。
【0085】
そこで、上述したようなシグモイド関数値の乗算処理を行うことによって、画像表示位置補正において振動変位推定が概ね不要となる低周波数領域での振動変位をゼロ又は微小量に調整することが可能となるのである。なお、シグモイド(Sigmoid)関数は、神経細胞の信号伝達モデルにも使用される周知の関数であり、0~1の間の値をとる周波数の単調増加関数である。
【0086】
ここで具体的に、以上に述べた補正周波数帯域設定処理を数式を用いて説明すると、補正後の推定される振動変位XC_out[i0]は、次式
(21) XC_out[i0]=X_out[i0]*(1/(1+exp(-g_gg*(f[i0]-g_gc))))
=g_all*x_post[i0-p_all] *(1/(1+exp(-g_gg*(f[i0]-g_gc))))
で表される。ここで、g_ggは、シグモイド関数の勾配であり例えば4に設定される。また、g_gcは、シグモイド関数が中央値(0.5)をとる周波数であり例えば2.5(Hz)に設定される。さらに、f[i0]は、時点i0での準瞬時周波数である。
【0087】
なお、対象となる振動の最高周波数f_maxよりも高い周波数の振動については、システムのレイテンシに起因して、推定変位と実振動変位との間で位相を合わせることができない。そこで、設計値であるf_maxよりも高い周波数の振動が発生する条件においては、値1からシグモイド関数値分を減算した単調減少関数(準瞬時周波数の入力に対し計算出力結果が1から0まで変化する関数)を採用することができる。この場合、シグモイド関数ではg_gcをf_maxとするか、又はf_maxよりも少し高い周波数に設定し、さらにg_ggを急峻なものに設定する。これにより、最高周波数f_maxよりも高い周波数の振動に対しては、振動変位を推定しない設定が可能となる。
【0088】
次いで、上記の補正された推定振動変位をもって、スマートフォン1における表示画像位置の補正を行う具体例を説明する。
【0089】
ここで、スマートフォン1のアプリケーション部122において、所定のアプリケーションプログラムが実行されてから、当該実行に係る画像が、入出力制御部117の画像表示制御部117gを介してタッチパネル・ディスプレイ103の画面に表示されるまで、概ね50ミリ秒(msec)のレイテンシが発生する状況を考える。また、当該アプリケーションプログラムの実行周期FSは、5msec(すなわち周波数が200Hz)であるとする。このような場合、出力信号サンプルに関し概ね10(=50/5)サンプル分だけ画像表示が遅延することになる。
【0090】
そこで、プレフィルタ部111、積分近似フィルタ部112及びポストフィルタ部113は、
・スマートフォン1(の加速度センサ101)が受ける振動における最高周波数f_maxに対する補償位相サンプル数p_all(f_max)
が、上記のレイテンシ(50msec)に相当する10サンプル分となるように(又は例えば10プラスマイナス1サンプル分の間となるように)、それぞれパラメータr1、パラメータr2(及びp)並びにパラメータr3を調整することも好ましい。
【0091】
ちなみに、上記の最高周波数f_maxも、アプリケーションプログラムの実行内容・実行状況等を勘案し、対応可能な周波数最高値に予め設定される。
【0092】
図2は、プレフィルタ部111、積分近似フィルタ部112及びポストフィルタ部113におけるフィルタリングパラメータの調整を説明するためのグラフである。ここで、このグラフは、各フィルタ処理における移動変化分(単位はサンプル数)の周波数依存性を示すグラフとなっている。また、最高周波数f_maxは10Hzに設定されている。
【0093】
図2によれば、プレフィルタ処理、積分近似フィルタ処理、及びポストフィルタ処理のいずれも、移動変化分(サンプル数)は、超低周波数領域で非常に大きな値となっており、また周波数が高くなるにつれて速やかに小さくなり、それぞれ所定値に漸近する傾向を示す。
【0094】
ここで、本例では、各フィルタ処理におけるパラメータ(r1、r2(及びp)並びにr3)を調整することによって、これらのフィルタ処理結果としての移動変化分(サンプル数)の最高周波数f_max(10Hz)での合計値を、スマートフォン1での処理のレイテンシ(50msec,10サンプル)と一致させているのである。これにより、スマートフォン1における表示画像位置の補正に用いる振動変位を、スマートフォン1での処理のレイテンシを考慮し、より現状に即した形で推定することが可能となる。
【0095】
ちなみに、ポストフィルタ部113において、ポストフィルタ処理後の出力信号が常時、過去Nサンプル分だけ保存されることを説明したが、このN値は、
図2における3つのフィルタ処理の位相変化分の合計値のグラフから決定することが可能である。
【0096】
ここで、例えば振動変位の推定対象周波数を2~10Hzとすると、
図2における当該位相変化分の合計値は、この周波数範囲では2Hzにおいて最大値88(サンプル数)を示す。したがって、ポストフィルタ処理後の出力信号は、例えば過去90サンプル分(N=90)だけ保存しておけばよいと判断することが可能となる。
【0097】
なお、各パラメータの調整においては、これらのパラメータの値次第では振動変位の推定値そのものの誤差が増大し得ることも考慮し、当該誤差を所定以上に増大させないようにパラメータ調整を行うことも好ましい。また、変位推定対象の振動が正弦波から大きく外れた振動である場合にも当該誤差が増大する傾向にあることも考慮し、当該誤差をできるだけ抑制するようにパラメータ調整を行うことも好ましい。
【0098】
さらに、振動変位推定対象の振動がインパルス状ではなく連続波形で示される場合、裏打ちで振動を補正・制御しても問題が生じない場合がほとんどである。また、推定した振動変位の波形の正負を逆転させると、位相がいわば180°進んだ振動変位になる。したがって、このように振動変位波形の正負逆転処理を行うことによって、対応する振動における最高周波数f_maxの半周期分だけ、レイテンシを補うことも可能となる。
【0099】
図3は、上記の推定された振動変位をもって、スマートフォン1における表示画像位置の補正を行った具体例を示す模式図である。
【0100】
図3によれば、スマートフォン1は振動を受け、時点t
0(サンプル位置では時点i
0)においてX軸プラス向きにDだけ変位している。これに対し、
(a)準瞬時周波数決定部114は、プレフィルタ部111の出力時系列信号(当該振動の加速度に係る測定量)についてその準瞬時周波数f[i
0]を決定し、
(b)補償量決定部115は、準瞬時周波数f[i
0]における全補償位相サンプル数p_all及び全補償ゲインg_allを算出する。
ここで、全補償位相サンプル数p_allは、スマートフォン1での処理のレイテンシに相当する値となっている。次いで、
(c)振動変位決定部116は、算出されたp_all及びg_allを用い、時点t
0における準瞬時周波数f[i
0]についての振動変位X
C_out[i
0](上式(21))を算出・決定する。
【0101】
ここで、上記(c)の振動変位XC_out[i0]は、振動変位算出処理における位相(時間)の進み分だけ過去の時点において算出された振動変位x_post[i0-p_all]を利用して決定されており、実際の振動変位Dと概ね一致しているのである。
【0102】
画像表示制御部117gは、タッチパネル・ディスプレイ103に表示される画像を、このような振動変位XC_out[i0]の向き(X軸プラス向き)とは逆向き(X軸マイナス向き)に、XC_out[i0]の絶対値分だけ変位させて表示させる。
【0103】
以上に説明したような表示画像位置の補正処理を、各サンプル時点で、X軸方向だけではなくY軸方向についても実施することによって、ユーザは、スマートフォン1が揺れているにもかかわらず、その揺れの影響を概ね受けていない画像表示を享受することが可能となるのである。
【0104】
[振動変位推定方法]
図4は、本発明による振動変位推定方法の一実施形態を概略的に示すフローチャートである。ちなみに、本実施形態は、X軸方向又はY軸方向の振動に対する振動変位推定方法となっているが、他の実施形態としてZ軸回転による変位の推定も可能である。この場合、
図4のフローチャートとは異なり、ジャイロセンサからの「角速度に係る測定量」に対し1階積分フィルタ処理を実施することで回転変位が算出される。
【0105】
(S101)加速度センサ101及びジャイロセンサ102の出力信号(測定量)を取得する。
(S102)取得した出力信号に対し公知のセンサヒュージョン処理を実施し、ノイズの除去された精度の向上した加速度測定量を生成する。
(S103)生成された加速度測定量に対しプレフィルタ処理を実施し、重力加速度や遠心加速度等のノイズとなる超低周波加速度成分を除去する。また、このプレフィルタ処理後の加速度測定量を、後に準瞬時周波数決定用に使用すべく時系列信号として蓄積する。
【0106】
(S104)プレフィルタ処理を施された加速度測定量に対し、2階積分相当の積分近似フィルタ処理を実施し、「変位に係る推定量」を生成する。
(S105)生成された「変位に係る推定量」に対しポストフィルタ処理を実施して、積分相当処理によって蓄積・残存したDC成分を除去し、時系列信号として蓄積する。
【0107】
(S106)プレフィルタ処理を施された加速度測定量の時系列信号を用いて、変位推定対象である振動における準瞬時周波数を決定する。
(S107)準瞬時周波数での補償位相サンプル数(位相進み分)及び補償ゲインを算出し、ポストフィルタ処理を施された「変位に係る推定量」の時系列信号から補償位相サンプル数に基づいて1つの信号サンプルを選択して、補償ゲインを考慮した振動変位を決定する。
【0108】
(S108)決定した振動変位に対しシグモイド関数乗算処理を施し、画像表示位置の補正に使用される調整済みの振動変位を決定する。
(S109,S110)決定した調整済みの振動変位に基づいて表示位置を補正した画像をタッチパネル・ディスプレイ103に表示させる。
【0109】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、算出した「位相進み分」に相当する前時点における「積分近似フィルタ処理」を施された測定量に基づいて振動変位を決定することができる。具体的には、当該測定量に対するフィルタ処理の出力が(位相に係る)時間軸上で先に進む分だけ遡ってフィルタ処理出力を選び、この選んだ(よりリアルタイムの)フィルタ処理出力に基づくことによって、振動変位をよりリアルタイムに推定することが可能となる。
【0110】
すなわち、本発明によれば、装置処理にレイテンシが存在する場合でも、未来時間での変位予測に依らずに、振動変位を推定することができるのである。
【0111】
ちなみに、今後、自動車や電車等の交通機関のみならず、自転車や二輪車の他、種々の移動体において、また海上・海中(海底)や、さらには大気中や宇宙空間といった様々な環境下を航行する移動体において、装置に表示された画像を視聴・閲覧する機会は更に増大することが予想される。本発明は、そのような場面においても、視認性のより向上した見やすい画像表示の実現に大いに貢献するものと考えられる。
【0112】
また、本発明による振動変位推定処理の応用先は、移動体で使用する画像表示装置の画像表示における振動(揺れ)補正だけにとどまるものではない。例えば、ウェアラブルカメラ等の携帯可能なカメラにおける撮影画像に対する振動(揺れ)補正や、移動体における駆動系から発生する振動の抑制処理、さらには電動機などの動力を有する機械における制振制御に適用することが可能となっている。
【0113】
以上に述べた本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。以上に述べた説明はあくまで例であって、何ら本発明を制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0114】
1 スマートフォン(振動変位推定装置)
101 加速度センサ
102 ジャイロセンサ
103 タッチパネル・ディスプレイ
104 解析結果蓄積部
105 通信インタフェース部
111 プレフィルタ部
111p、112p、113p パラメータ調整部
112 積分近似フィルタ部
113 ポストフィルタ部
114 準瞬時周波数決定部
115 補償量決定部
116 振動変位決定部
116s シグモイド関数調整部
117 入出力制御部
117g 画像表示制御部
121 センサ統合部
122 アプリケーション部
2 自動車(移動体)