(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】発光性曲面ガラス及び曲面デジタルサイネージ
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220203BHJP
G09F 13/20 20060101ALI20220203BHJP
G09F 19/18 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C03C27/12 N
G09F13/20 D
G09F19/18 F
(21)【出願番号】P 2018517653
(86)(22)【出願日】2018-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2018012422
(87)【国際公開番号】W WO2018181305
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2017066004
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 康之
(72)【発明者】
【氏名】中島 大輔
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3150304(JP,U)
【文献】特開2016-045374(JP,A)
【文献】特開2014-224012(JP,A)
【文献】特開2016-069216(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017825(WO,A1)
【文献】特開2011-213568(JP,A)
【文献】特表2016-519774(JP,A)
【文献】特開2010-013311(JP,A)
【文献】特開昭52-044838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0000168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
G09F 13/20
G09F 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を発する光源と、曲率半径が1000mm以下の透明板と発光シートとの積層体からなる発光性曲面ガラスとからなる曲面デジタルサイネージであって、
前記発光シートは、熱可塑性樹脂と、励起光によって波長380~750nmの可視光を発光する発光材料とを含有
し、
前記光源から励起光を照射することにより、前記発光性曲面ガラスが発光する
ことを特徴とする曲面デジタルサイネージ。
【請求項2】
発光性曲面ガラスは、一対の透明板の間に発光シートが積層されている積層体からなることを特徴とする請求項
1記載の曲面デジタルサイネージ。
【請求項3】
請求項
1又は
2記載の曲面デジタルサイネージを有する建築物。
【請求項4】
請求項
1又は
2記載の曲面デジタルサイネージを有する建築物の柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲率半径が小さい曲面状にもかかわらず、光線が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる発光性曲面ガラス、及び、該発光性曲面ガラスを用いた曲面デジタルサイネージに関する。
【背景技術】
【0002】
駅や空港等の公共施設やデパート等の商業施設には、ディスプレイに動画や静止画で種々の情報を表示するデジタルサイネージが設置されている。これらのデジタルサイネージにおいては、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイが用いられるのが一般的であるが(例えば、特許文献1等)、大型のデジタルサイネージに液晶ディスプレイ等を用いた場合、極めて高価なものとなる。
これに対して、特殊な加工を施したガラス等をスクリーンとして、映像プロジェクタから映像を投影する方法が採用されるようになってきている。
【0003】
しかしながら、近年では、より高い意匠性を発揮した、複雑な形状のデジタルサイネージが求められるようになってきている。また、建築物の柱を利用してデジタルサイネージのスクリーンを設置することも行われている。このような複雑な形状や柱状等の曲率半径の小さな曲面状のスクリーンに映像を投影した場合、スクリーンの全面において鮮明な表示を行うことが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、曲率半径が小さい曲面状にもかかわらず、光線が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる発光性曲面ガラス、及び、該発光性曲面ガラスを用いた曲面デジタルサイネージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、曲率半径が3000mm以下の透明板と発光シートとの積層体からなる発光性曲面ガラスであって、前記発光シートは、熱可塑性樹脂と、励起光によって波長380~750nmの可視光を発光する発光材料とを含有する発光性曲面ガラスである。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、熱可塑性樹脂と、励起光によって波長380~750nmの可視光を発光する発光材料とを含有する発光シートを透明板に積層した積層体に、該励起光を照射することにより、種々の画像を表示することができることを見出した。該画像は、映像プロジェクタから投影されたものではなく、積層体自体が発光することにより表示されるものである。従って、映像プロジェクタから投影する場合とは異なり、たとえ積層体が曲率半径の小さい曲面状であっても、全面において鮮明な表示を行うことができる。
【0008】
本発明の発光性曲面ガラスは、透明板と発光シートとの積層体からなる。
上記透明板は、本発明の発光性曲面ガラスに強度を付与し、取り扱い性を向上させる役割を有する。上記積層体としては、なかでも一対の透明板の間に上記発光シートが積層されている構造(合わせガラス構造)を採ることが好ましい。
【0009】
上記透明板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層が形成された紫外線遮蔽ガラスも用いることができるが、特定の波長の光線を照射する側とは反対のガラス板として用いることが好ましい。更に、上記透明板としてポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記透明板として、2種類以上の透明板を用いてもよい。また、上記透明板として、2種以上の厚さの異なる透明板を用いてもよい。
【0010】
上記透明板は、曲率半径が3000mm以下の曲面状である。曲率半径が3000mm以下であれば、意匠性の高い複雑な形状のデジタルサイネージや、建築物の柱を利用してデジタルサイネージに好適に用いることができる。上記透明板は、曲率半径が2000mm以下の曲面状であることが好ましく、曲率半径が1000mm以下の曲面状であることがより好ましい。
本発明の発光性曲面ガラスは、透明板の曲率半径が3000mmを超える場合であっても、励起光を照射することにより、種々の画像を表示することはできる。しかしながら、本発明は、曲率半径が3000mm以下の曲面状であっても、光線が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる点において大きな利点がある。
【0011】
上記透明板の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は1.5mm、好ましい上限は15mmである。上記透明板の厚みが上記範囲内であると、充分な強度と取り扱い性とを両立することができる。上記透明板の厚みのより好ましい下限は2.0mm、より好ましい上限は12mmである。
【0012】
上記発光シートは、熱可塑性樹脂と、励起光によって波長380~750nmの可視光を発光する発光材料とを含有する。このような発光シートを有する発光性曲面ガラスに励起光を照射することにより、発光性曲面ガラス自体が発光して、種々の画像を表示することができる。
【0013】
上記熱可塑性樹脂は特に限定されず、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂、硫黄元素を含有するポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。なかでも、可塑剤と併用することにより上記透明板に対して優れた接着性を発揮できることからポリビニルアセタール樹脂が好適である。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂であれば特に限定されないが、ポリビニルブチラールが好適である。また、必要に応じて2種以上のポリビニルアセタールを併用してもよい。
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は85モル%であり、より好ましい下限は60モル%、より好ましい上限は75モル%である。
【0015】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量の好ましい下限が15モル%、好ましい上限が35モル%である。水酸基量が15モル%以上であると、合わせガラス用中間膜の成形が容易になる。水酸基量が35モル%以下であると、得られる発光シートの取り扱いが容易になる。
なお、上記アセタール化度及び水酸基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0016】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度70~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
上記ポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は4000である。上記ポリビニルアルコールの重合度が500以上であると、得られる発光シートを用いた合わせガラスの耐貫通性が高くなる。上記ポリビニルアルコールの重合度が4000以下であると、発光シートの成形が容易になる。上記ポリビニルアルコールの重合度のより好ましい下限は1000、より好ましい上限は3600である。
【0017】
上記アルデヒドは特に限定されないが、一般には、炭素数が1~10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1~10のアルデヒドは特に限定されず、例えば、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、n-ブチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、n-バレルアルデヒドが好ましく、n-ブチルアルデヒドがより好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記発光材料は、励起光により波長380~750nmの可視光を発光する発光材料である。このような発光材料を用いることにより、発光性曲面ガラスに励起光を照射することにより、発光性曲面ガラス自体が発光して、種々の画像を表示することができる。
【0019】
上記発光材料としては励起光により波長380~750nmの可視光を発光するものであれば特に限定されず、従来公知の発光材料を用いることができる。発光材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、高い輝度で発光させることができることから、ハロゲン原子を含む多座配位子を有するランタノイド錯体や、テレフタル酸エステル構造を有する発光材料が好適である。
【0020】
ランタノイド錯体のなかでも、ハロゲン原子を含む多座配位子を有するランタノイド錯体は光線を照射することにより高い発光強度で発光する。上記ハロゲン原子を含む多座配位子を有するランタノイド錯体としては、ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む四座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む五座配位子を有するランタノイド錯体、ハロゲン原子を含む六座配位子を有するランタノイド錯体等が挙げられる。
【0021】
なかでも、ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、300~410nmの波長の光を照射することにより、580~780nmの波長の光を極めて高い発光強度で発光する。この発光は極めて高強度であることから、これを含有する発光シートは、ごく弱い励起光でも充分に発光して、「暈し発光」による極めて優れた美観を呈することができる。
しかも、上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、耐熱性にも優れる。従って、発光シートを太陽光の赤外線が照射される屋外で使用したときにも、高温によって発光材料が劣化してしまうのを防止することができる。
【0022】
本明細書においてランタノイドとは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムを含む。より一層高い発光強度が得られることから、ランタノイドは、ネオジム、ユーロピウム又はテルビウムが好ましく、ユーロピウム又はテルビウムがより好ましく、ユーロピウムが更に好ましい。
【0023】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体は、例えば、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)フェナントロリンユーロピウム、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンユーロピウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ジフェニルフェナントロリンユーロピウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)ビス(トリフェニルホスフィン)ユーロピウム、トリス(トリフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンユーロピウム、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトン)2,2’-ビピリジンユーロピウム等が挙げられる。
上記ハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、例えば、ターピリジントリフルオロアセチルアセトンユーロピウム、ターピリジンヘキサフルオロアセチルアセトンユーロピウム等が挙げられる。
【0024】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を用いることができる。なかでも、配位子の構造を安定化させることから、フッ素原子が好適である。
【0025】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体のなかでも、特に初期発光性に優れることから、ハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体が好適である。
上記ハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体は、例えば、Eu(TFA)3phen、Eu(TFA)3dpphen、Eu(HFA)3phen、[Eu(FOD)3]bpy、[Eu(TFA)3]tmphen、[Eu(FOD)3]phen等が挙げられる。これらのハロゲン原子を含むアセチルアセトン骨格を有する二座配位子を有するランタノイド錯体の構造を示す。
【0026】
【0027】
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体は、粒子状であることが好ましい。粒子状であることにより、上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体を発光シート中に微分散させることがより容易となる。
上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体が粒子状である場合、ランタノイド錯体の平均粒子径の好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は10μmであり、より好ましい下限は0.03μm、より好ましい上限は1μmである。
【0028】
上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料は、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物や下記一般式(2)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0029】
【0030】
上記一般式(1)中、R1は有機基を表し、xは1、2、3又は4である。
発光シートの透明性がより一層高くなることから、xは1又は2であることが好ましく、ベンゼン環の2位又は5位に水酸基を有することがより好ましく、ベンゼン環の2位及び5位に水酸基を有することが更に好ましい。
上記R1の有機基は炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。
上記炭化水素基の炭素数が10以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を発光シートに容易に分散させることができる。
上記炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(1)で表される構造を有する化合物として、例えば、ジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート、ジメチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート等が挙げられる。
なかでも、コントラストがより一層高い画像を表示できることから、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物はジエチル-2,5-ジヒドロキシルテレフタレート(Aldrich社製「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)であることが好ましい。
【0032】
上記一般式(2)中、R2は有機基を表し、R3及びR4は水素原子又は有機基を表し、yは1、2、3又は4である。
上記R2の有機基は炭化水素基であることが好ましく、炭素数が1~10の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数が1~5の炭化水素基であることが更に好ましく、炭素数が1~3の炭化水素基であることが特に好ましい。
上記炭化水素基の炭素数が上記上限以下であると、上記テレフタル酸エステル構造を有する発光材料を発光シートに容易に分散させることができる。
上記炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。
上記一般式(2)中、NR3R4はアミノ基である。
R3及びR4は、水素原子であることが好ましい。
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物のベンゼン環の水素原子のうち、一つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、二つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、三つの水素原子が上記アミノ基であってもよく、四つの水素原子が上記アミノ基であってもよい。
【0033】
上記一般式(2)で表される構造を有する化合物として、コントラストがより一層高い画像を表示できることから、ジエチル-2,5-ジアミノテレフタレート(Aldrich社製)が好ましい。
【0034】
上記発光シートにおける上記発光材料の含有量は、発光材料の種類に応じて適宜調整すればよいが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限は0.001重量部、好ましい上限は10重量部である。上記発光材料の含有量がこの範囲内であると、上記顔料と併用することにより優れた美観を呈することができる。上記発光材料の含有量のより好ましい下限は0.01重量部、より好ましい上限は8重量部、更に好ましい下限は0.1重量部、更に好ましい上限は5重量部である。
【0035】
上記発光シートは、更に、可塑剤を含有してもよい。
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。上記可塑剤は液状可塑剤であることが好ましい。
【0036】
上記一塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、グリコールと一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。上記グリコールとしては、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。上記一塩基性有機酸としては、例えば、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2-エチル酪酸、ヘプチル酸、n-オクチル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n-ノニル酸)、デシル酸等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ-n-オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0037】
上記多塩基性有機酸エステルは特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4~8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0038】
上記有機エステル可塑剤は特に限定されず、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ-n-オクタノエート、トリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,3-プロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、1,4-ブチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ-2-エチルブチレート、トリエチレングリコールジ-2-エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4~9のアルキルアルコール及び炭素数4~9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6~8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0039】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0040】
上記可塑剤のなかでも、ジヘキシルアジペート(DHA)、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(4GH)、テトラエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(4G7)及びトリエチレングリコールジ-n-ヘプタノエート(3G7)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
更に、上記可塑剤として、加水分解を起こしにくいため、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)を含有することが好ましい。テトラエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(4GO)、トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)を含有することがより好ましい。トリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエートを含有することが更に好ましい。
【0042】
上記発光シートにおける上記可塑剤の含有量は特に限定されないが、上記熱可塑性樹脂100重量部に対する好ましい下限が30重量部、好ましい上限が100重量部である。上記可塑剤の含有量がこの範囲内であると、発光シートの美観を損ねることなく、成形を容易にすることができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は35重量部、より好ましい上限は80重量部、更に好ましい下限は45重量部、更に好ましい上限は70重量部、特に好ましい下限は50重量部、特に好ましい上限は63重量部である。
【0043】
上記発光シートは接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2-エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。
【0044】
なお、上記発光シートには、上記接着力調整剤の他に、熱可塑性樹脂製造時に用いた中和剤等の原料に由来するカリウム、ナトリウム、マグネシウムが含まれ得る。これらの金属の含有量が多い場合には、発光材料の発光性が低下することがある。このような発光性の低下は、発光材料が上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体である場合に特に顕著である。
そこで、発光シートに含まれるカリウム、ナトリウム及びマグネシウムの合計の含有量は50ppm以下であることが好ましい。カリウム、ナトリウム及びマグネシウムの合計の含有量を50ppm以下とすることにより、発光材料の発光性が低下するのを防止することができる。
【0045】
上記発光シートは、更に分散剤を含有することが好ましい。分散剤を含有することにより、上記発光材料の凝集を抑制できる。
上記分散剤は、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸構造を有する化合物や、ジエステル化合物、リシノール酸アルキルエステル、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、リン酸エステル等のエステル構造を有する化合物や、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールやアルキルフェニル-ポリオキシエチレン-エーテル等のエーテル構造を有する化合物や、ポリカルボン酸等のカルボン酸構造を有する化合物や、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン、オレイルプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンの2級アミン、ポリオキシエチレンの3級アミン、ポリオキシエチレンのジアミン等のアミン構造を有する化合物や、ポリアルキレンポリアミンアルキレンオキシド等のポリアミン構造を有する化合物や、オレイン酸ジエタノールアミド、アルカノール脂肪酸アミド等のアミド構造を有する化合物や、ポリビニルピロリドン、ポリエステル酸アマイドアミン塩等の高分子量型アミド構造を有する化合物等の分散剤を用いることができる。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(塩)や高分子ポリカルボン酸、縮合リシノール酸エステル等の高分子量分散剤を用いてもよい。なお、高分子量分散剤とは、その分子量が1万以上である分散剤と定義される。
【0046】
上記発光材料が上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体である場合、上記発光シート中における発光材料100重量部に対する上記分散剤の含有量の好ましい下限は1重量部、好ましい上限は50重量部である。上記分散剤の含有量がこの範囲内であると、上記ハロゲン原子を含む二座配位子を有するランタノイド錯体又はハロゲン原子を含む三座配位子を有するランタノイド錯体を発光シート中に均一に分散させることができる。上記分散剤の含有量のより好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は30重量部であり、更に好ましい下限は5重量部、更に好ましい上限は25重量部である。
【0047】
上記発光シートは、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、青色顔料、青色染料、緑色顔料、緑色染料等の添加剤を含有してもよい。
【0048】
本発明の発光性曲面ガラスは、曲率半径が小さい曲面状にもかかわらず、上記発光材料の励起光が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる。従って、意匠性の高い複雑な形状のデジタルサイネージや、建築物の柱を利用してデジタルサイネージに好適に用いることができる。
光源と、本発明の発光性曲面ガラスとからなる曲面デジタルサイネージもまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、曲率半径が小さい曲面状にもかかわらず、光線が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる発光性曲面ガラス、及び、該発光性曲面ガラスを用いた曲面デジタルサイネージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施例、比較例の評価において文字情報を表示させる方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(1)Eu(TFA)3phenの調製
酢酸ユーロピウム(Eu(CH3COO)3)12.5mmolを50mLの蒸留水へ溶かし、トリフルオロアセチルアセトン(TFA、CH3COCH2COCF3)33.6mmolを加え、室温で3時間撹拌した。沈殿した固体を濾過、水洗後、メタノールと蒸留水で再結晶を行なってEu(TFA)3(H2O)2を得た。得られた錯体Eu(TFA)3(H2O)25.77gと1,10-フェナントロリン(phen)2.5gを100mLのメタノールに溶かし、12時間加熱還流を行なった。12時間後、メタノールを減圧留去により取り除き、白色生成物を得た。この粉末をトルエンで洗浄し、未反応の原料を吸引濾過により取り除いた後、トルエンを減圧留去し、紛体を得た。トルエン、ヘキサンの混合溶媒により再結晶を行なうことにより、Eu(TFA)3phenを得た。
【0053】
(2)発光シートの調製
可塑剤であるトリエチレングリコールジ-2-エチルヘキサノエート(3GO)40重量部に、発光材料としてEu(TFA)3phen0.2重量部と、接着力調整剤として最終的な濃度が0.036phrとなるようにアセチルアセトンマグネシウムを加え、発光性の可塑剤溶液を調製した。得られた可塑剤溶液の全量と、ポリビニルブチラール(PVB、重合度1700)100重量部とをミキシングロールで充分に混練して樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、押出機を用いて押出し、厚み760μmの発光シートを得た。
【0054】
(3)発光性曲面ガラスの製造
得られた発光シートを、縦30cm×横30cmの一対のクリアガラス(厚み2.5mm、曲率半径が3000mmの曲面状)の間に積層し、積層体を得た。得られた積層体を、真空ラミネーターにて90℃下、30分保持しつつ真空プレスを行い圧着した。圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、合わせガラス構造の発光性曲面ガラスを得た。
【0055】
(実施例2)
一対のクリアガラスとして厚み2.5mm、曲率半径2000mmのものを用いた以外は実施例1と同様にして発光シート、発光性曲面ガラスを製造した。
【0056】
(実施例3)
一対のクリアガラスとして厚み2.5mm、曲率半径1000mmのものを用いた以外は実施例1と同様にして発光シート、発光性曲面ガラスを製造した。
【0057】
(実施例4)
酢酸テリビウム(Tb(CH3COO)3)12.5mmolを50mLの蒸留水へ溶かし、トリフルオロアセチルアセトン(TFA、CH3COCH2COCF3)33.6mmolを加え、室温で3時間撹拌した。沈殿した固体を濾過、水洗後、メタノールと蒸留水で再結晶を行なってTb(TFA)3(H2O)2を得た。得られた錯体Tb(TFA)3(H2O)25.77gと1,10-フェナントロリン(phen)2.5gを100mLのメタノールに溶かし、12時間加熱還流を行なった。12時間後、メタノールを減圧留去により取り除き、白色生成物を得た。この粉末をトルエンで洗浄し、未反応の原料を吸引濾過により取り除いた後、トルエンを減圧留去し、紛体を得た。トルエン、ヘキサンの混合溶媒により再結晶を行なうことにより、Tb(TFA)3phenを得た。
Eu(TFA)3phenに代えてTb(TFA)3phenを用いた以外は実施例1と同様にして発光シート、発光性曲面ガラスを製造した。
【0058】
(実施例5)
Eu(TFA)3phenに代えてジエチル-2,5-ジヒドロキシテレフタレート(アルドリッチ社製、「2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル」)を用いた以外は実施例1と同様にして発光シート、発光性曲面ガラスを製造した。
【0059】
(比較例1)
発光材料を用いなかった以外は実施例1と同様にして樹脂シート、曲面ガラスを製造した。
【0060】
(評価)
実施例及び比較例で得られた発光性曲面ガラスについて、以下の方法で評価を行った。
結果を表1に示した。
【0061】
図1に示したように、実施例で得られた発光性曲面ガラスの曲面の中心点側から、映像プロジェクタ(OPUS社製、ePro-2000)を励起光源として波長405nm、出力1mWの光を照射して、発光材料を発光させることにより文字情報として「A」を9カ所に表示させた。
一方、比較例1で得られた曲面ガラスの曲面の中心点から、映像プロジェクタ(OPUS社製、ePro-2000)を用いて波長515nmの緑色光を照射して、文字情報として「A」を9カ所に表示させた。
目視にて各「A」を観察して、歪みが認められた「A」が5つ未満であった場合を「○」と、歪みが認められた「A」が5つ以上であった場合を「×」と評価した。
【0062】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、曲率半径が小さい曲面状にもかかわらず、光線が照射されることにより全面において鮮明な表示を行うことができる発光性曲面ガラス、及び、該発光性曲面ガラスを用いた曲面デジタルサイネージを提供できる。