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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】除草剤耐性を有する形質転換植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20220203BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/20 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/54 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/06 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/02 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/50 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/74 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/14 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20220203BHJP
   A01H 6/60 20180101ALI20220203BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A01H5/00 A
A01H1/00 A ZNA
A01H6/46
A01H6/20
A01H6/54
A01H6/06
A01H6/02
A01H6/50
A01H6/74
A01H6/14
A01H6/82
A01H6/60
C12N15/54
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018526385
(86)(22)【出願日】2017-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2017024421
(87)【国際公開番号】W WO2018008617
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2016132689
(32)【優先日】2016-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】種谷 良貴
(72)【発明者】
【氏名】河合 清
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/014337(WO,A2)
【文献】特開昭62-296882(JP,A)
【文献】特表2016-507240(JP,A)
【文献】J. Pestic.Sci., 2013, Vol.38, No.3, pp.152-156
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入した形質転換植物をイソキサゾリン誘導体の存在下に栽培することを特徴とする形質転換植物の栽培方法。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項2】
上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
【請求項3】
上記形質転換植物は、上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物由来であることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
【請求項4】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする請求項3記載の栽培方法。
【請求項5】
上記イネ科植物はイネであることを特徴とする請求項4記載の栽培方法。
【請求項6】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする請求項3記載の栽培方法。
【請求項7】
上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする請求項6記載の栽培方法。
【請求項8】
イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物に対して、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入することを特徴とするイソキサゾリン誘導体に対する耐性付与方法。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項9】
上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする請求項8記載の耐性付与方法。
【請求項10】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする請求項8記載の耐性付与方法。
【請求項11】
上記イネ科植物はイネであることを特徴とする請求項10記載の耐性付与方法。
【請求項12】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする請求項8記載の耐性付与方法。
【請求項13】
上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする請求項12記載の耐性付与方法。
【請求項14】
植物に対して、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入することを特徴とする高温ストレスに対する耐性付与方法。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項15】
上記植物は、イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物であることを特徴とする請求項14記載の耐性付与方法。
【請求項16】
上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする請求項15記載の耐性付与方法。
【請求項17】
上記植物は、イネ科植物であることを特徴とする請求項14記載の耐性付与方法。
【請求項18】
上記イネ科植物はイネであることを特徴とする請求項17記載の耐性付与方法。
【請求項19】
上記植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする請求項14記載の耐性付与方法。
【請求項20】
上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする請求項19記載の耐性付与方法。
【請求項21】
以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入した、イソキサゾリン誘導体に対する耐性及び/又は高温ストレスに対する耐性を有する形質転換植物。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【請求項22】
イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物に対して上記核酸を導入したものであることを特徴とする請求項21記載の形質転換植物。
【請求項23】
上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする請求項21又は22記載の形質転換植物。
【請求項24】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする請求項22記載の形質転換植物。
【請求項25】
上記イネ科植物はイネであることを特徴とする請求項24記載の形質転換植物。
【請求項26】
上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする請求項22記載の形質転換植物。
【請求項27】
上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする請求項26記載の形質転換植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロキサスルホン及びフェノキサスルホンといったイソキサゾリン誘導体に対する耐性を有する形質転換植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
イソキサゾリン骨格を有する化合物(イソキサゾリン誘導体)は除草剤活性を有することが知られている。なお、イソキサゾリン骨格はイソオキサゾリン骨格とも称される。イソキサゾリン誘導体としては、非特許文献1に記載されるように、優れた除草効果と作物・雑草間の選択性を有すものとしてピロキサスルホン等の化合物が開発されている。ピロキサスルホンは、植物クチクラのワックス層や細胞膜のスフィンゴ脂質の主成分である超長鎖脂肪酸の生合成を触媒する超長鎖脂肪酸伸長酵素(VLCFAE:very-long-chain fatty acid elongase)を作用点とする除草剤である。
【0003】
ピロキサスルホンについては、イネ科雑草や広葉雑草だけでなく、既存の抵抗性雑草に対しても高い除草効果を示す畑作用除草剤であることが知られている(非特許文献1)。すなわち、ピロキサスルホンは、コムギなどの作物に安全性を有している。一方、セイヨウアブラナ、オオムギ、イネ等は、ピロキサスルホンに対する感受性が高いことが知られている(非特許文献1及び2)。よって、セイヨウアブラナ、オオムギ、イネ等に対してピロキサスルホンは除草剤としての農薬登録が行われていない。
【0004】
また、ピロキサスルホンについては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)による薬剤代謝が、コムギにおける耐性(コムギ選択性)に関与している可能性が示されている(非特許文献3)。一般に、農薬のグルタチオン抱合による代謝・解毒については多く報告されている(非特許文献4~7)。特に、グルタチオン抱合による代謝・解毒については、ピロキサスルホンと同様、VLCFAE阻害型除草剤であるクロロアセトアミド系化合物の作物雑草間の選択性への関与も知られている(非特許文献8~10)。
【0005】
ここで、GSTは、一つの植物に複数の分子種が存在していることが知られている。そして、非特許文献11には、トウモロコシ由来GST(GSTI、ZmM16901)はクロロアセトアミド系のアラクロールに対して高い抱合活性を示すのに対して、構造が非常に類似したメトラクロールに抱合活性を有していないことが開示されている。さらに、非特許文献12には、ZmGSTIに最も相同性の高い(アミノ酸配列の相同性は約56%)ZmGST8(ZmQ9FQD1)はアラクロールに対して抱合活性を示さないことが開示されている。以上のように、GSTの基質特異性は高いことから、特定の薬剤を代謝するGSTの分子種を同定することは、当該薬剤に類似する化合物を基質とするGSTが公知であったとしても非常に困難である。
【0006】
なお、植物GSTは直接的に酸化ストレスを減少させ(非特許文献13)、塩、乾燥、温度、除草剤等のさまざまなストレスに耐性を付与することが知られているが(非特許文献14)、除草剤耐性と高温耐性を同時に付与する遺伝子に関する報告例はない。また、GSTとGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)の両方を導入することで植物に高温耐性を付与する報告例は存在するが(非特許文献15)、GST単独で高温耐性を付与する報告例は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Y. Tanetaniら Pestic. Biochem. Physiol. 95, 47-55 (2009)
【文献】Y. Tanetaniら J. Pestic. Sci. 36, 221-228 (2011)
【文献】Y. Tanetaniら J. Pestic. Sci. 38, 152-156 (2013)
【文献】E. Boylandら Adv. Enzymol. Relat. Areas. Mol. Biol. 32, 173-219 (1969).
【文献】B. Mannervik Adv. Enzymol. Relat. Areas. Mol. Biol. 57, 357-417 (1985).
【文献】P. J. Hattonら Pestic. Sci. 46, 267-275 (1996).
【文献】D. P. Dixonら Genome Biol. 3, 1-10 (2002)
【文献】G. L. Lamoureuxら J. Agric. Food Chem. 19, 346-350 (1971).
【文献】J. R. C. Leavittら J. Agric. Food. Chem. 27, 533-536 (1979).
【文献】T. Mozerら Biochemistry 22, 1068-1072 (1983).
【文献】M. Karavangeliら Biomolecular Engineering 22, 121-128 (2005).
【文献】I. Cumminsら Plant Mol. Biol. 52, 591-603 (2003).
【文献】I. Cumminsら Plant J. 18, 285-292 (1999).
【文献】R Edwars & DP Dixson Methods Enzymol. 401, 169-186 (2005).
【文献】VP Roxasら Plant Cell Physiol. 41, 1229-1234 (2000).
【特許文献】
【0008】
【文献】US Patent, US 6730828
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ピロキサスルホン等のイソキサゾリン誘導体に対する代謝・解毒活性を示すグルタチオン-S-トランスフェラーゼを特定し、当該グルタチオン-S-トランスフェラーゼを利用してイソキサゾリン誘導体に対する耐性を有する形質転換植物を提供するとともに、当該グルタチオン-S-トランスフェラーゼを発現する植物に対してイソキサゾリン誘導体を除草剤として利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するため本発明者らが鋭意検討した結果、ピロキサスルホン等のイソキサゾリン誘導体に対する代謝・解毒活性を示す、コムギに存在するグルタチオン-S-トランスフェラーゼを同定することに成功するとともに、当該グルタチオン-S-トランスフェラーゼのイソキサゾリン誘導体に対する基質特異性が極めて高いこと、更に驚くべきことに当該グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を導入した形質転換植物が優れたストレス耐性を獲得することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下を包含する。
【0012】
(1)以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入した形質転換植物をイソキサゾリン誘導体の存在下に栽培することを特徴とする形質転換植物の栽培方法。
【0013】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(2)上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする(1)記載の栽培方法。
【0014】
(3)上記形質転換植物は、上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物由来であることを特徴とする(1)記載の栽培方法。
【0015】
(4)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする(3)記載の栽培方法。
【0016】
(5)上記イネ科植物はイネであることを特徴とする(4)記載の栽培方法。
【0017】
(6)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする(3)記載の栽培方法。
【0018】
(7)上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする(6)記載の栽培方法。
【0019】
(8)イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物に対して、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入することを特徴とするイソキサゾリン誘導体に対する耐性付与方法。
【0020】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(9)上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする(8)記載の耐性付与方法。
【0021】
(10)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする(8)記載の耐性付与方法。
【0022】
(11)上記イネ科植物はイネであることを特徴とする(10)記載の耐性付与方法。
【0023】
(12)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする(8)記載の耐性付与方法。
【0024】
(13)上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする(12)記載の耐性付与方法。
【0025】
(14)植物に対して、以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入することを特徴とする環境ストレスに対する耐性付与方法。
【0026】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(15)上記環境ストレスは、高温ストレスであることを特徴とする(14)記載の耐性付与方法。
【0027】
(16)上記植物は、イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物であることを特徴とする(14)記載の耐性付与方法。
【0028】
(17)上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする(16)記載の耐性付与方法。
【0029】
(18)上記植物は、イネ科植物であることを特徴とする(14)記載の耐性付与方法。
【0030】
(19)上記イネ科植物はイネであることを特徴とする(18)記載の耐性付与方法。
【0031】
(20)上記植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする(14)記載の耐性付与方法。
【0032】
(21)上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする(20)記載の耐性付与方法。
【0033】
(22)以下(a)又は(b)のタンパク質をコードする核酸を導入した形質転換植物。
【0034】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(23)イソキサゾリン誘導体に対する耐性及び/又は環境ストレスに対する耐性を有することを特徴とする(22)記載の形質転換植物。
【0035】
(24)イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物に対して上記核酸を導入したものであることを特徴とする(22)記載の形質転換植物。
【0036】
(25)上記イソキサゾリン誘導体はピロキサスルホン及び/又はフェノキサスルホンであることを特徴とする(23)又は(24)記載の形質転換植物。
【0037】
(26)上記環境ストレスは、高温ストレスであることを特徴とする(23)記載の形質転換植物。
【0038】
(27)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、イネ科植物であることを特徴とする(24)記載の形質転換植物。
【0039】
(28)上記イネ科植物はイネであることを特徴とする(27)記載の形質転換植物。
【0040】
(29)上記イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物は、アブラナ科、マメ科、セリ科、ヒユ科、シソ科、アカザ科、バラ科、キク科、ナス科又はアオイ科植物であることを特徴とする(24)記載の形質転換植物。
【0041】
(30)上記アブラナ科植物はセイヨウアブラナ(Brassica napus)又はシロイヌナズナであることを特徴とする(29)記載の形質転換植物。
【0042】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-132689号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、ピロキサスルホン及びフェノキサスルホンといったイソキサゾリン誘導体に対する耐性及び/又は高温ストレスといった環境ストレス耐性を獲得した形質転換植物を提供することができる。言い換えると、本発明によれば、当該イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物に対して当該イソキサゾリン誘導体耐性を付与することができ、また、植物に対して環境ストレス耐性を付与することができる。
【0044】
したがって、本発明に係る形質転換植物は、当該イソキサゾリン誘導体の存在下においても生育可能であるため、イソキサゾリン誘導体を利用することで安定的な栽培・生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】TaQ8GTC0タンパク質の大腸菌発現コンストラクトを示す概略構成図である。
図2】TaQ8GTC0タンパク質を確認する電気泳動写真である。
図3】グルタチオン抱合活性試験に供試したVLCFAE阻害型除草剤の化学式である。
図4】ピロキサスルホンとグルタチオンとの抱合反応、及びVLCFAE阻害型除草剤としてピロキサスルホンを使用したときのHPLCチャートを示す特性図である。
図5】TaQ8GTC0遺伝子のイネ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図6】TaQ8GTC0遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜して培養した状態を示す写真である。
図7-1】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図7-2】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図7-3】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図7-4】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図7-5】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図7-6】#3-13系統及び野生型イネについて、VLCFAE阻害型除草剤存在下で栽培したときの状態を示す特性図である。
図8】TaQ8GTC0遺伝子のシロイヌナズナ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図9】TaQ8GTC0遺伝子を導入したシロイヌナズナ植物体から採取した種子を栽培した状態を示す写真である。
図10】シロイヌナズナに導入されたTaQ8GTC0遺伝子を確認した電気泳動写真である。
図11】野生型シロイヌナズナ(Columbia-0)についてピロキサスルホン感受性試験した結果を示す特性図である。
図12】TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナについてピロキサスルホン感受性試験した結果を示す特性図である。
図13】TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナについてVLCFAE阻害型除草剤に対する薬剤感受性を試験した結果を示す特性図である。
図14】TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナについてVLCFAE阻害型除草剤に対する薬剤感受性を試験した結果を示す特性図である。
図15】TaQ8GTC0遺伝子導入イネについて高温ストレス耐性試験した結果を示す特性図である。
図16】TaQ8GTC0と当該TaQ8GTC0と高い相同性を有するGSTとを含む分枝系統樹である。
図17】各種GSTを発現するためのイネ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図18】ピロキサスルホン含有培地で液体培養した2種類の植物GST遺伝子導入イネ培養細胞及びControlイネ培養細胞、並びに薬剤無処理のControlイネ培養細胞中の脂肪酸含有量を測定した結果を示す特性図である。
図19】ピロキサスルホン含有培地で液体培養した3種類の植物GST遺伝子導入イネ培養細胞及びControlイネ培養細胞、並びに薬剤無処理のControlイネ培養細胞中の脂肪酸含有量を測定した結果を示す特性図である。
図20】ピロキサスルホン含有培地で液体培養した2種類の植物GST遺伝子導入イネ培養細胞及びControlイネ培養細胞中の脂肪酸含有量を測定した結果を示す特性図である。
図21】トウモロコシGST遺伝子を発現するイネ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図22】トウモロコシGST遺伝子を導入したイネ培養細胞を示す写真である。
図23】トウモロコシGST遺伝子を導入したイネ培養細胞についてピロキサスルホンに対する耐性を試験した結果を示す写真である。
図24】TaQ8GTC1-R遺伝子のクローニングを示す概略構成図である。
図25】本実験で決定したTaQ8GTC1-R遺伝子の塩基配列(上段、配列番号31)とデータベースに登録されているTaQ8GTC1遺伝子の塩基配列(下段、配列番号33)とを比較した結果を示す特性図である。
図26】本実験で決定したTaQ8GTC1-R遺伝子がコードするアミノ酸配列(上段、配列番号32)とデータベースに登録されているTaQ8GTC1遺伝子がコードするアミノ酸配列(下段、配列番号34)とを比較した結果を示す特性図である。
図27】TaQ8GTC1-Rタンパク質の大腸菌発現コンストラクトを示す概略構成図である。
図28】TaQ8GTC1-Rタンパク質を確認する電気泳動写真である。
図29】ピロキサスルホンとグルタチオンとの抱合反応、及びVLCFAE阻害型除草剤としてピロキサスルホンを使用したときのHPLCチャートを示す特性図である。
図30】各種植物GSTアミノ酸配列のマルチプルアライメントにより比較した結果を示す特性図である。1行目:AtGSTF2(配列番号37)、2行目:PttGSTF1(配列番号38)、3行目:ZmGSTF1(配列番号39)、4行目:TaGSTF1(配列番号40)、5行目:TaGSTF2-R(配列番号32)、6行目:TaGSTF3(配列番号2)、7行目:TaGSTF4(配列番号41)、8行目:TaGSTF5(配列番号42)及び9行目:TaGSTF6(配列番号43)
図31】TaQ8GTC1-R遺伝子のイネ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図32】TaQ8GTC1-R遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜して培養した状態を示す写真である。
図33】TaQ8GTC1-R遺伝子導入イネのピロキサスルホンに対する耐性試験の結果を示す写真である。
図34】TaQ8GTC0遺伝子のセイヨウアブラナ形質転換用ベクターを示す概略構成図である。
図35】TaQ8GTC0遺伝子が導入されたセイヨウアブラナ培養細胞を選抜して培養した状態を示す写真である。
図36】TaQ8GTC0遺伝子が導入された組換えセイヨウアブラナであるかPCRにより確認した結果を示す電気泳動図の写真である。
図37】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについてピロキサスルホンの発芽前土壌処理試験の結果を示す写真である。
図38】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについてピロキサスルホンの発芽前土壌処理試験の結果を示す写真である。
図39】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについてピロキサスルホンの発芽前土壌処理試験の結果を示す写真である。
図40】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについて寒天培地での生育阻害試験の結果を示す写真である。
図41】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについて寒天培地での生育阻害試験の結果を示す写真である。
図42】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについて寒天培地での生育阻害試験の結果を示す写真である。
図43】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについて寒天培地での生育阻害試験の結果を示す特性図である。
図44】野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナについて寒天培地での高温耐性試験の結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔本発明に係るグルタチオン-S-トランスフェラーゼ〕
本発明に係るグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下、GSTと略称する場合がある)は、以下の(a)又は(b)のタンパク質として規定することができる。
【0047】
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
ここで、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質は、コムギ(Triticum aestivum)由来のGSTのうちGST F3とも呼称されるものであり、アクセッションコード:Q8GTC0として特定されるものである。また、配列番号2のアミノ酸配列については、アクセッション番号:AJ440792_1としてCDS配列(配列番号1)とともに特定されている。
【0048】
ただし、本発明において使用可能なGSTは、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、上記(b)に記載するように、配列番号2のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質であっても良い。
【0049】
なお、アミノ酸配列間の同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の割合として算出される。
【0050】
また、本発明において使用可能なGSTは、配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質に限定されず、配列番号2のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質であっても良い。ここで、数個とは、例えば、2~30個、好ましくは2~20個、より好ましくは2~15個、更に好ましくは2~10個、更に好ましくは2~5個である。
【0051】
さらに、本発明おいて使用可能なGSTは、配列番号1の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされ、且つ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質であっても良い。「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25~500mM、好ましくは25~300mMであり、温度が42~68℃、好ましくは42~65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0052】
特に、本発明において使用可能なGSTは、詳細を後述するイソキサゾリン誘導体に対するグルタチオン抱合活性を有している。すなわち、本発明において使用可能なGSTは、イソキサゾリン誘導体とグルタチオンとを結合する活性を有する。
【0053】
更に詳細には、本発明において使用可能なGSTは、植物内にて発現すると、イソキサゾリン誘導体に対するグルタチオン抱合を促進し、イソキサゾリン誘導体による超長鎖脂肪酸伸長酵素阻害を低減できる。したがって、本発明において使用可能なGSTは、植物内にて発現すると、当該植物に対してイソキサゾリン誘導体耐性を付与することができる。
【0054】
すなわち、上述したグルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性とは、イソキサゾリン誘導体に対するグルタチオン抱合活性、或いはイソキサゾリン誘導体に対してグルタチオンを結合する活性と言い換えることができる。
【0055】
また、上述したように、配列番号2のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含むタンパク質であっても、本発明において使用可能なGSTは、上述したグルタチオン-S-トランスフェラーゼ活性に加えて、イソキサゾリン誘導体による超長鎖脂肪酸伸長酵素阻害を低減する作用を有するGST、更には、植物に対してイソキサゾリン誘導体耐性を付与するGSTということもできる。
【0056】
〔形質転換植物〕
本発明に係る形質転換植物は、所定の植物(植物体、植物細胞)に上述したGSTをコードする遺伝子を発現可能に導入したものである。本発明に係る形質転換植物は、上述したGSTをコードする遺伝子を発現することで、詳細を後述するイソキサゾリン誘導体に対する耐性及び環境ストレスに対する耐性を獲得する。
【0057】
ここで、イソキサゾリン誘導体に対する耐性を獲得するとは、上述したGSTを導入する前の植物におけるイソキサゾリン誘導体に対する感受性と比較して、上述したGSTを導入した後の植物におけるイソキサゾリン誘導体に対する感受性が統計的に有意に低下することを意味する。言い換えると、イソキサゾリン誘導体に対する耐性を獲得するとは、上述したGSTを導入した後の植物に対するイソキサゾリン誘導体による阻害効果が、当該GSTを導入する前の植物における同阻害効果と比較して統計的に有意に低くなることを意味する。なお、イソキサゾリン誘導体による阻害効果としては、いわゆる50%阻害濃度等の指標を用いて評価することができる。
【0058】
また、環境ストレス耐性を獲得するとは、上述したGSTを導入する前の植物における環境ストレスに対する感受性と比較して、上述したGSTを導入した後の植物における同環境ストレスに対する感受性が統計的に有意に低下することを意味する。言い換えると、環境ストレス耐性を獲得するとは、所定の環境ストレスを負荷した条件で上述したGSTを導入した後の植物及び同GSTを導入する前の植物を栽培したときに、GSTを導入した後の植物の成長速度が統計的に有意に早いことを意味する。なお、植物の成長速度は、例えば草丈の長さ、根重量等の指標を用いて評価することができる。
【0059】
ここで環境ストレスとしては、特に限定されないが、高温ストレス、高塩濃度ストレス、乾燥ストレス及び低温ストレスを挙げることができる。これら各種環境ストレスのなかでも、本発明に係る形質転換植物は、特に高温ストレスに対する耐性に優れる。
【0060】
ところで、上述したGSTを導入する対象の植物は、特に限定されず、如何なる植物であってもよい。如何なる植物であっても、上述したGSTを導入することによって、高温ストレス耐性といった環境ストレス耐性を獲得することができる。特に、上述したGSTを導入する対象の植物としては、詳細を後述するイソキサゾリン誘導体に対する感受性を有する植物とすることが好ましい。イソキサゾリン誘導体に対する感受性を有する植物に上述したGSTを導入することによって、当該植物は、イソキサゾリン誘導体に対する耐性を獲得することができる。
【0061】
ここで、イソキサゾリン誘導体に対する感受性を有する植物とは、イソキサゾリン誘導体を除草剤として使用する際の至適濃度範囲において生育が阻害される植物を意味する。例えば、イソキサゾリン誘導体としてピロキサスルホンに関する50%阻害濃度が200nM以下、好ましくは100nM以下、より好ましくは50nM以下である場合、ピロキサスルホンに対して感受性を有する植物とすることができる。
【0062】
より具体的に、イソキサゾリン誘導体に対して感受性を有する植物としては、特に限定されないが、イネ、オオムギ、ソルガム、オーツムギ、デュラムコムギ、トウモロコシといったイネ科植物;アブラナ(Brassica rapa)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、キャベツ、カノーラ、ケール、シロガラシ、カブ、シロイヌナズナといったアブラナ科植物;アルファルファ、インゲンマメ、ダイズ、アズキ、リョクトウ、シロツメクサといったマメ科植物;イノンド、ウィキョウ、パセリといったセリ科植物、ホウレンソウ、テンサイといったヒユ科植物、バジルといったシソ科植物、フダンソウといったアカザ科植物、セイヨウスモモといったバラ科植物、レタスといったキク科植物、トマトといったナス科植物、ワタといったアオイ科植物を挙げることができる。
【0063】
これら具体的に例示列挙した植物に対して上述したGSTを導入することによって、当該植物に対してイソキサゾリン誘導体に対する耐性を付与することができ、且つ、環境ストレス耐性を向上させることができる。
【0064】
特に、上述したGSTは、VLCFAE阻害型の除草剤の中でもイソキサゾリン誘導体に対する抱合活性が高く、I. Cumminsら Plant Mol. Biol. 52, 591-603 (2003) にて報告されているメトラクロールに対する抱合活性と比較しても統計的有意に高い。このため、上述したGSTを導入した形質転換植物は、VLCFAE阻害型の除草剤の中でイソキサゾリン誘導体を除草剤として使用して栽培することができる。
【0065】
また、上述したGSTを導入した形質転換植物は、環境ストレス耐性に優れるため、従来は環境ストレスにより生育不良を生じていたような環境下においても栽培することができる。特に、上述したGSTを導入した形質転換植物は、環境ストレスのなかでも高温ストレスに対して優れた耐性を示す。よって、上述したGSTを導入した形質転換植物は、従来は気温が高くて生育に不適な土地や時期において栽培することができる。
【0066】
なお、本発明に係る形質転換植物の作製方法は、特に限定されず、概略、上述したGSTをコードする核酸を発現ベクターに組み込み、得られた発現ベクターを植物に導入するといった方法により、上述したGSTを発現する形質転換植物を作製することができる。
【0067】
発現ベクターは、植物内で発現を可能とするプロモーターと、上述したGSTをコードする核酸とを含むように構築する。発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121等を挙げることができる。
【0068】
プロモーターは、植物体内で上記GSTをコードする核酸を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。特に、プロモーターとしては、植物体内において下流の遺伝子を恒常的に発現させる恒常発現プロモーターを使用することが好ましい。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチン遺伝子プロモーター又はユビキチン遺伝子プロモーターをより好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0069】
また、プロモーターとしては、植物における部位特異的に発現させる機能を有するものを使用することもできる。このようなプロモーターとしては、従来公知の如何なるプロモーターを使用することができる。このようなプロモーターを使用して、上記GSTを部位特異的に発現させることができる。
【0070】
なお、発現ベクターは、プロモーター及び上記GSTをコードする核酸に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0071】
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。上記発現ベクターにおいては、転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成させるといった現象の発生を防止することができる。
【0072】
形質転換体選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。また、形質転換体選別マーカーとしては、所定の薬剤に対して抵抗性を付与する変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子を使用することもできる。
【0073】
発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター及び上記GSTをコードする核酸並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、上記GSTをコードする核酸とプロモーター(必要に応じて転写ターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記GSTをコードする核酸、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0074】
また、上記発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0075】
上述した発現ベクターは、一般的な形質転換方法によって対象の植物内に導入される。発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、植物細胞に応じた適切な従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0076】
また、DNAを直接植物細胞に導入する方法を採るなら、対象とする遺伝子の発現に必要な転写ユニット、例えばプロモーターや転写ターミネーターと、上記GSTをコードする核酸を含んだDNAであれば十分であり、ベクター機能は必須ではない。さらに、転写ユニットを有さない、上記GSTのコード領域のみを含むDNAであっても、宿主の転写ユニット内にインテグレートし、対象となるGSTを発現することができればよい。
【0077】
上記発現ベクターや、発現ベクターを含まず対象となるGSTをコードする核酸を含んだ発現カセットが導入される植物細胞としては、例えば、花、葉、根等の植物器官における各組織の細胞、カルス、懸濁培養細胞等を挙げることができる。ここで、発現ベクターは、生産しようとする種類の植物体に合わせて適切なものを適宜構築してもよいが、汎用的な発現ベクターを予め構築しておき、それを植物細胞に導入してもよい。
【0078】
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。
【0079】
再生方法としては、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類、濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法が採用される。使用する培地としては、LS培地、MS培地などが例示される。
【0080】
また、本発明に係る形質転換植物は、上述したGSTをコードする核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換植物細胞を得て、該形質転換植物細胞から形質転換植物体を再生し、得られた形質転換植物体から植物種子を得て、該植物種子から得られる後代の植物も含む意味である。形質転換植物体から植物種子を得るには、例えば、形質転換植物体を発根培地から採取し、水を含んだ土を入れたポットに移植し、一定温度下で生育させて、花を形成させ、最終的に種子を形成させる。また、種子から植物体を生産するには、例えば、形質転換植物体上で形成された種子が成熟したところで、単離して、水を含んだ土に播種し、一定温度、照度下で生育させることにより、植物体を生産する。このようにして生産された植物は、上述したGSTを発現するため、イソキサゾリン誘導体に対する耐性及び環境ストレスに対する耐性を示す。
【0081】
〔イソキサゾリン誘導体〕
本発明において、イソキサゾリン誘導体とは、イソキサゾリン骨格を有する化合物及びその塩を含む意味である。イソキサゾリン誘導体の除草活性については、例えば、特開平8-225548号公報、特開平9-328477号公報及び特開平9-328483号公報等に報告されている。すなわち、これら既報のイソキサゾリン誘導体は除草剤として使用することができる。
【0082】
また、特許第4465133号公報には、イソキサゾリン誘導体のなかでも特に、除草効果と作物・雑草間の選択性を有する一群の化合物が開示されている。特許第4465133号公報に開示されたイソキサゾリン誘導体は、ピロキサスルホン(化合物名:3-[5-(ジフルオロメトキシ)-1-メチル-3-(トリフルオロメチル)ピラゾール-4-イルメチルスルホニル]-4,5-ジヒドロ-5,5-ジメチル-1,2-オキサゾール)を含んでいる。
【0083】
詳細に、特許第4465133号公報には以下(1)~(17)に示されるイソオキサゾリン誘導体が開示されている。
(1)一般式[I]を有するイソオキサゾリン誘導体又はその薬理上許容される塩:
【0084】
【化1】
【0085】
式中、
1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、C1~C10アルキル基、C3~C8シクロアルキル基又はC3~C8シクロアルキルC1~C3アルキル基を示すか、或いはR1とR2とが一緒になって、これらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を示し、
3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、C1~C10アルキル基又はC3~C8シクロアルキル基を示すか、或いはR3とR4とが一緒になって、これらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を示し、さらにR1、R2、R3及びR4はこれらの結合した炭素原子と共に5~8員環を形成することもでき、
5及びR6は、同一又は相異なって、水素原子又はC1~C10アルキル基を示し、
Yは窒素原子、酸素原子及び硫黄原子より選択される任意のヘテロ原子を有する5~6員の芳香族ヘテロ環基又は芳香族ヘテロ縮合環基を示し、これらのヘテロ環基は置換基群αより選択される、0~6個の同一又は相異なる基で置換されていてもよく、又、隣接したアルキル基同士、アルコキシ基同士、アルキル基とアルコキシ基、アルキル基とアルキルチオ基、アルキル基とアルキルスルホニル基、アルキル基とモノアルキルアミノ基又はアルキル基とジアルキルアミノ基が2個結合して1~4個のハロゲン原子で置換されてもよい5~8員環を形成されていてもよく、又、これらのヘテロ環基のヘテロ原子が窒素原子の時は酸化されてN-オキシドになってもよく、
nは0~2の整数を示し、
以下の置換基群中の「置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいフェノキシ基、置換されていてもよいフェニルチオ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環オキシ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環チオ基、置換されていてもよいフェニルスルフィニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環スルホニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、置換されていてもよいベンジルオキシカルボニル基、置換されていてもよいフェノキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニルオキシ基、置換されていてもよいベンゾイルオキシ基」における「置換されていてもよい」は、当該置換基がハロゲン原子、C1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C1~C10アルコキシアルキル基、C1~C10アルコキシ基、C1~C10アルキルチオ基、C1~C10アルキルスルホニル基、アシル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、シアノ基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基で置換されていてもよい)、ニトロ基、又はアミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、C1~C10アルキルスルホニル基、又はC1~C4ハロアルキルスルホニル基で置換されていてもよい)で置換されていてもよいことを示す。
「置換基群α」
水酸基、チオール基、ハロゲン原子、C1~C10アルキル基、置換基群βより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C1~C10アルコキシ基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルコキシ基、C1~C4ハロアルコキシ基、C3~C8シクロアルキルオキシ基、C3~C8シクロアルキルC1~C3アルキルオキシ基、C1~C10アルキルチオ基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルチオ基、C1~C4ハロアルキルチオ基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルケニルオキシ基、C2~C6アルキニル基、C2~C6アルキニルオキシ基、C1~C10アルキルスルフィニル基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルスルフィニル基、C1~C10アルキルスルホニル基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルフィニル基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルスルホニルオキシ基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、C1~C10アルキルスルホニルオキシ基、C1~C4ハロアルキルスルホニルオキシ基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいフェノキシ基、置換されていてもよいフェニルチオ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環オキシ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環チオ基、置換されていてもよいフェニルスルフィニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環スルホニル基、置換されていてもよいフェニルスルホニルオキシ基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、カルボキシル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジルオキシカルボニル基、置換されていてもよいフェノキシカルボニル基、シアノ基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基又は置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい。)、C1~C6アシルオキシ基、C1~C4ハロアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよいベンジルカルボニルオキシ基、置換されていてもよいベンゾイルオキシ基、ニトロ基、アミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいベンジルスルホニル基又は置換されていてもよいフェニルスルホニル基で置換されていてもよい。)。
「置換基群β」
水酸基、C3~C8シクロアルキル基(該基はハロゲン原子又はアルキル基で置換されてもよい)、C1~C10アルコキシ基、C1~C10アルキルチオ基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、C2~C6ハロアルケニル基、アミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基で置換されていてもよい)、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基で置換されていてもよい)、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、C1~C10アルコキシイミノ基、シアノ基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいフェノキシ基。
「置換基群γ」
C1~C10アルコキシカルボニル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、シアノ基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基で置換されていてもよい。)。
(2)0~6個の同一又は相異なる基で置換されていてもよいヘテロ環上の置換基群αが水酸基、ハロゲン原子、C1~C10アルキル基、置換基群βより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C1~C10アルコキシ基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルコキシ基、C1~C4ハロアルコキシ基、C3~C8シクロアルキルオキシ基、C3~C8シクロアルキルC1~C3アルキルオキシ基、C1~C10アルキルチオ基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルチオ基、C1~C4ハロアルキルチオ基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルケニルオキシ基、C2~C6アルキニル基、C2~C6アルキニルオキシ基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいフェノキシ基、置換されていてもよいフェニルチオ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環オキシ基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環チオ基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環スルホニル基、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、カルボキシル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、シアノ基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基又は置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい。)、ニトロ基、アミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、C1~C6アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいベンジルスルホニル基又は置換されていてもよいフェニルスルホニル基で置換されていてもよい。)であるか、或いは隣接したアルキル基同士、アルコキシ基同士、アルキル基とアルコキシ基、アルキル基とアルキルチオ基、アルキル基とアルキルスルホニル基、アルキル基とモノアルキルアミノ基又はアルキル基とジアルキルアミノ基が2個結合して1~4個のハロゲン原子で置換されてもよい5~8員環を形成されていてもよい上記(1)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(3)0~6個の同一又は相異なる基で置換されていてもよいヘテロ環上の置換基群αがハロゲン原子、C1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C1~C10アルコキシC1~C3アルキル基、C3~C8シクロアルキル基(該基はハロゲン原子又はアルキル基で置換されてもよい)、C1~C10アルコキシ基、C1~C4ハロアルコキシ基、C3~C8シクロアルキルC1~C3アルキルオキシ基、置換されていてもよいフェノキシ基、C1~C10アルキルチオ基、C1~C10アルキルスルホニル基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、シアノ基又はカルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なってC1~C10アルキル基で置換されていてもよい)である上記(2)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(4)R1及びR2が、同一又は異なってメチル基もしくはエチル基、R3、R4、R5及びR6が水素原子である上記(1)、(2)又は(3)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(5)Yが窒素原子、酸素原子及び硫黄原子より選択される任意のヘテロ原子を有する5員環又は6員環の芳香族ヘテロ環基である上記(1)、(2)、(3)又は(4)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(6)Yがチエニル基、ピラゾリル基、イソキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基又はピリミジニル基である上記(5)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(7)Yがチオフェン-3-イル基、ピラゾール-4-イル基、ピラゾール-5-イル基、イソオキサゾール-4-イル基、イソチアゾール-4-イル基、ピリジン-3-イル基又はピリミジン-5-イル基である上記(6)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(8)Yがチオフェン-3-イル基で、置換基群αがチオフェン環の2及び4位に必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(9)Yがピラゾール-4-イル基で、置換基群αがピラゾール環の3及び5位に、さらに1位に水素原子、C1~C10アルキル基、置換基群βより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルキニル基、C1~C10アルキルスルフィニル基、C1~C10アルキルスルホニル基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環スルホニル基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジルオキシカルボニル基、置換されていてもよいフェノキシカルボニル基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基又は置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい)、アミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいベンジルスルホニル基又は置換されていてもよいフェニルスルホニル基で置換されていてもよい)が必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(10)Yがピラゾール-5-イル基で、置換基群αがピラゾール環の4位に、さらに1位に水素原子、C1~C10アルキル基、置換基群βより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキル基、C1~C4ハロアルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルキニル基、C1~C10アルキルスルフィニル基、C1~C10アルキルスルホニル基、置換基群γより選択される任意の基でモノ置換されたC1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、置換されていてもよいフェニルスルホニル基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環スルホニル基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルコキシカルボニル基、置換されていてもよいベンジルオキシカルボニル基、置換されていてもよいフェノキシカルボニル基、カルバモイル基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基又は置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい)、アミノ基(該基の窒素原子は同一又は異なって、C1~C10アルキル基、置換されていてもよいフェニル基、アシル基、C1~C4ハロアルキルカルボニル基、置換されていてもよいベンジルカルボニル基、置換されていてもよいベンゾイル基、C1~C10アルキルスルホニル基、C1~C4ハロアルキルスルホニル基、置換されていてもよいベンジルスルホニル基又は置換されていてもよいフェニルスルホニル基で置換されていてもよい)が必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(11)Yがイソオキサゾール-4-イル基で、置換基群αがイソオキサゾール環の3位及び5位に必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(12)Yがイソチアゾール-4-イル基で、置換基群αがイソチアゾール環の3位及び5位に必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(13)Yがピリジン-3-イル基で、置換基群αがピリジン環の2位及び4位に必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(14)Yがピリミジン-5-イル基で、置換基群αがピリミジン環の4位及び6位に必ず置換した上記(7)記載のイソオキサゾリン誘導体。
(15)nが2の整数である上記(1)~(14)いずれかに記載のイソオキサゾリン誘導体。
(16)nが1の整数である上記(1)~(14)いずれかに記載のイソオキサゾリン誘導体。
(17)nが0の整数である上記(1)~(14)いずれかに記載のイソオキサゾリン誘導体。
【0086】
さらに、特許第4299483号公報にもまた、イソキサゾリン誘導体のなかでも特に、除草効果と作物・雑草間の選択性を有する一群の化合物が開示されている。特許第4299483号公報に開示されたイソキサゾリン誘導体は、フェノキサスルホン(化合物名:3-[(2,5-ジクロロ-4-エトキシベンジル)スルホニル]-4,5-ジヒドロ-5,5-ジメチル-1,2-オキサゾール)を含んでいる。
【0087】
詳細に、特許第4299483号公報には以下(18)~(20)に示されるイソオキサゾリン誘導体及びその塩が開示されている。
【0088】
(18) 一般式[I]
【0089】
【化2】
【0090】
{式中、Qは基-S(O)n-(CR5R6)m-を表し、nは0~2の整数を表し、mは1~3の整数を表し、R5及びR6は互いに独立して、水素原子、シアノ基、アルコキシカルボニル基又はC1~C6アルキル基を表し、
R1及びR2は水素原子、[C3~C8シクロアルキル基、C1~C6アルコキシ基、C1~C6アルキルカルボニル基、C1~C6アルキルチオ基、C1~C6アルキルスルフィニル基、C1~C6アルキルスルホニル基、C1~C6アルキルアミノ基、ジ(C1~C6アルキル)アミノ基、シアノ基、C1~C6アルコキシカルボニル基、C1~C6アルキルアミノカルボニル基、ジ(C1~C6アルキル)アミノカルボニル基、(C1~C6アルキルチオ)カルボニル基、カルボキシル基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)ベンジルオキシ基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェノキシ基若しくは(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェニル基で置換されていてもよい]C1~C8アルキル基、C3~C8シクロアルキル基、C1~C6アルコキシカルボニル基、C1~C6アルキルアミノカルボニル基、ジ(C1~C6アルキル)アミノカルボニル基、(C1~C6アルキルチオ)カルボニル基、カルボキシル基又は(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェニル基を表し、或いはR1及びR2はこれらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を形成してもよく、
但しR1とR2が同時に水素原子であることはなく、
R3及びR4は水素原子、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C3~C8シクロアルキル基又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C8アルキル基又はC3~C8シクロアルキル基を表し、R3及びR4はこれらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を形成してもよく、或いはR1、R2、R3及びR4はこれらの結合した炭素原子と共に5~8員環を形成してもよく、
Yは水素原子、C1~C6アルコキシカルボニル基、C2~C6アルケニル基、[同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C1~C6アルコキシ基、C2~C6アルケニルオキシ基、C2~C6アルキニルオキシ基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)ベンジルオキシ基、C1~C6アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、水酸基又はホルミル基で置換されていてもよい]C1~C10アルキル基或いは(1~5個の同一若しくは相異なるR7で置換された)フェニル基を表し、
R7は水素原子、[同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C1~C6アルコキシ基、水酸基、C1~C6アルキルチオ基、C1~C6アルキルスルフィニル基、C1~C6アルキルスルホニル基、C1~C6アルキルアミノ基、ジ(C1~C6)アルキルアミノ基、シアノ基又は(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェノキシで置換されていてもよい]C1~C6アルキル基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C1~C6アルコキシ基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルキニル基、C1~C6アルコキシカルボニル基、C1~C6アルキルカルボニル基又はC3~C8シクロアルキル基で置換されていてもよい)C1~C6アルコキシ基、C2~C6アルケニル基、C3~C8シクロアルキルオキシ基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C6アルキルチオ基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C6アルキルスルフィニル基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C6アルキルスルホニル基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)ベンジルオキシ基、(C1~C6アルキル基、C1~C6アルキルスルホニル基、C1~C6アルキルカルボニル(C1~C6アルキル)基又はC1~C6アルキルスルホニル(C1~C6アルキル)基で置換されていてもよい)アミノ基、ジ(C1~C6アルキル)アミノ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、C1~C6アルコキシカルボニル基、C3~C8シクロアルキルオキシカルボニル基、カルボキシル基、C2~C6アルケニルオキシカルボニル基、C2~C6アルキニルオキシカルボニル基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)ベンジルオキシカルボニル基、(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェノキシカルボニル基或いはC1~C6アルキルカルボニルオキシ基を表す。}で示されるイソオキサゾリン誘導体及びその塩。
(19)上記(18)における一般式[I]で、
{式中、Qは基-S(O)n-(CR5R6)m-を表し、nは0~2の整数を表し、mは1を表し、R5及びR6は水素原子を表し、
R1及びR2は水素原子、(C3~C8シクロアルキル基若しくはC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C8アルキル基又はC3~C8シクロアルキル基を表し、或いはR1及びR2はこれらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を形成してもよく、
但しR1とR2が同時に水素原子であることはなく、
R3及びR4は水素原子又は(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C3~C8シクロアルキル基又はC1~C6アルコキシ基で置換されてもよい)C1~C8アルキル基を表し、R3及びR4はこれらの結合した炭素原子と共にC3~C7のスピロ環を形成してもよく、或いはR1、R2、R3及びR4はこれらの結合した炭素原子と共に5~8員環を形成してもよく、
Yは(1~5個の同一若しくは相異なるR7で置換された)フェニル基を表し、
R7は水素原子、[同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C1~C6アルコキシ基、水酸基、C1~C6アルキルチオ基、C1~C6アルキルスルフィニル基、C1~C6アルキルスルホニル基、C1~C6アルキルアミノ基、ジ(C1~C6)アルキルアミノ基、シアノ基又は(ハロゲン原子、C1~C6アルキル基又はC1~C6アルコキシ基が1~5個置換されていてもよい)フェノキシで置換されていてもよい]C1~C6アルキル基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子、C1~C6アルコキシ基、C2~C6アルケニル基、C2~C6アルキニル基、C1~C6アルコキシカルボニル基、C1~C6アルキルカルボニル基又はC3~C8シクロアルキル基で置換されていてもよい)C1~C6アルコキシ基、C3~C8シクロアルキルオキシ基或いはハロゲン原子を表す。}で示されるイソオキサゾリン誘導体及びその塩。
(20)上記(18)における一般式[I]で、
{式中、Qは基-S(O)n-(CR5R6)m-を表し、nは0~2の整数を表し、mは1を表し、R5及びR6は水素原子を表し、
R1及びR2はC1~C8アルキル基を表し、
R3及びR4は水素原子を表し、
Yは(1~5個の同一又は相異なるR7で置換された)フェニル基を表し、
R7は水素原子、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C6アルキル基、(同一若しくは相異なる1~3個のハロゲン原子又はC1~C6アルコキシ基で置換されていてもよい)C1~C6アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。}で示されるイソオキサゾリン誘導体及びその塩。
【0091】
上述したGSTは、これら既報のイソキサゾリン誘導体に対する抱合活性を有する。よって、上述したGSTを導入してなる形質転換植物は、これら既報のイソキサゾリン誘導体に対する耐性を有することとなる。
【0092】
なかでも、上述したGSTは、特許第4465133号公報に開示されたイソキサゾリン誘導体(詳細には上記(1)~(17)のイソキサゾリン誘導体)及び特許第4299483号公報に開示されたイソキサゾリン誘導体(詳細には上記(18)~(20)のイソキサゾリン誘導体)に対して優れた抱合活性を有する。よって、上述したGSTを導入してなる形質転換植物は、特許第4465133号公報に開示されたイソキサゾリン誘導体及び特許第4299483号に開示されたイソキサゾリン誘導体に対して、更に優れた耐性を有することとなる。
【0093】
さらにまた、上述したGSTは、ピロキサスルホン及びフェノキサスルホンに対して更に優れた抱合活性を有する。よって、上述したGSTを導入してなる形質転換植物は、ピロキサスルホン及びフェノキサスルホンに対して、更に優れた耐性を有することとなる。
【0094】
上述したイソキサゾリン誘導体を除草剤として使用する場合、上述したGSTを導入した形質転換植物を除く種々の雑草の生育を防除することができる。このような雑草としては、特に限定されないが、例えばイヌビエ、メヒシバ、エノコログサ、スズメノカタビラ、ジョンソングラス、ノスズメノテッポウ、野生エンバク等のイネ科雑草をはじめ、オオイヌタデ、アオビユ、シロザ、ハコベ、イチビ、アメリカキンゴジカ、アメリカツノクサネム、ブタクサ、アサガオの広葉雑草、ハマスゲ、キハマスゲ、ヒメクグ、カヤツリグサ、コゴメガヤツリ等の多年生および1年生カヤツリグサ科雑草を挙げることができる。さらに、イソキサゾリン誘導体を除草剤として水田に使用する場合、タイヌビエ、タマガヤツリ、コナギ、アゼナ等の一年生雑草及びミズガヤツリ、クログワイ、ホタルイ等の多年生雑草についても発芽前から生育期の広い範囲にわたって低薬量で防除することができる。
【実施例
【0095】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
本実施例では、コムギにおけるGSTのうちアクセッションコード:Q8GTC0として特定されるGST(本実施例ではTaQ8GTC0と称する)について、VLCFAE阻害型の除草剤に対するグルタチオン抱合活性を解析した。
【0096】
<TaQ8GTC0タンパク質の大腸菌発現コンストラクトの構築>
図1にTaQ8GTC0タンパク質の大腸菌発現コンストラクトを構築する構成を示した。先ず、コムギ(農林61号)茎葉部から調製したRNAを鋳型として逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型にしてTaQ8GTC0-H(配列番号3)及びTaQ8GTC0-D(配列番号4)のプライマーセットでPCRを行い、5’末端にNdeI認識部位、3’末端にBamHI認識部位を付加したTaQ8GTC0遺伝子の遺伝子断片を得た。
【0097】
次に、得られたTaQ8GTC0遺伝子断片をNdeI及びBamHI処理し、処理後のTaQ8GTC0遺伝子断片をインサートとし、同様にNdeI及びBamHI処理したpET22b(+)をベクターとした。これらインサート及びベクターを用いてライゲーション反応を行った。ライゲーション反応後の反応液を用いて、反応液に含まれるベクターを大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。シークエンス解析によりNdeI及びBamHI切断サイトの間に存在するTaQ8GTC0遺伝子の塩基配列にPCRによるエラーがないことを確認した。得られたプラスミドを大腸菌BL21(DE3)株に導入し、TaQ8GTC0タンパク質を発現する大腸菌発現コンストラクトを構築した(KLB-606)。
【0098】
<TaQ8GTC0タンパク質の調製>
作製した大腸菌BL21(DE3)株(KLB-606)を用いてTaQ8GTC0タンパク質の発現を行った。シングルコロニーを50ppmアンピシリン含有LB液体培地に植菌した後、一晩試験管で振とう培養した溶液を前培養液として用いた。2.5mlの前培養液を250 mLの50ppmアンピシリン含有LB液体培地(1 L容三角フラスコ) に添加し、37℃、200rpmでOD600 = 0.5~0.6になるまで培養した。続いて、氷上で5分間冷却した後、IPTGを最終1mMとなるように添加し、27℃、200rpmで21時間TaQ8GTC0タンパク質の発現誘導を行った後、集菌 (4℃、6000×gで10分間遠心) し、菌体を-80℃で保存した。フリーズストックした菌体(0.5L培養分)に30 mL のPBSバッファー (0.14 M NaCl、2.7 mM KCl、10 mM Na2HPO4、1.8 mM KH2PO4, pH7.3)を加え、超音波処理 (TAITEC VP-30S、マイクロチップ、アウトプット 3、15秒コンスタント×7~8回) した後、4℃、15,000×gで20分間遠心して上清を得た。その粗酵素溶液をPBSバッファーで平衡化したGSTrap 4Bカラム (bed vol. 1 mL)に流速1 mL/minでロードし、20ml以上のPBSバッファーでグルタチオンアフィニティーカラムを洗浄した後、2 mLの溶出バッファー (50 mM Tris-HCl、10 mM 還元型グルタチオン、pH8.0) をカラムに注入し、TaQ8GTC0タンパク質を溶出させた(図2)。このタンパク溶液をNanosep (10 K)を用いた限外ろ過によりPBSバッファーに置換し、-80℃で保存した。なお、タンパク質の濃度測定はBradfordの方法で、TaKaRa Bradford Protein Assay Kit (Takara)のマニュアルに従い行った。なお、図2中、Mは分子量マーカーである。また、図2の結果において、粗酵素及び素通り画分のレーンには総タンパク質8.0μgをアプライした。なお、粗酵素は菌体を超音波処理後、遠心した上清であり、素通りは粗酵素液のアフィニティーカラムへのロード中に採取した溶液である。
【0099】
<VLCFAE阻害型除草剤に対するグルタチオン抱合活性の解析>
本実施例で使用した全てのVLCFAE阻害型除草剤はアセトン溶液として反応系に添加した。VLCFAE阻害型除草剤に対する抱合反応は50μlの100mM リン酸カリウムバッファー(pH 6.8)、10μlの1mM VLCFAE阻害型除草剤、20μlの10mM 還元型グルタチオン(pH 7.0)、6μlのTaQ8GTC0タンパク質(全378 ng、PBSバッファー溶液)、114μlのPBSバッファーを含む全200μlの系で行い、30℃で15分反応させた後、0.2μmのフィルターを用いて濾過した溶液50μlをHPLCにインジェクトした。以下にHPLC分析条件を示した。
装置:Agilent 1100 series
カラム:CAPCELL PAK C18 AQ 4.6mmI.D.×250mm (SHISEIDO)
移動相:アセトニトリル/ 水 = 5/95 (5min hold) → (4 min) → 40/60 (4min hold) → (4min) → 90/10 (8min hold)→(1min)→5/95(4min hold) (各溶媒0.5%酢酸を含む)
温度:35℃
流速:1.0 mL/min
検出:254 nm
【0100】
<結果と考察>
TaQ8GTC0タンパク質のグルタチオン抱合活性試験に供試したVLCFAE阻害型除草剤を図3に示した。各VLCFAE阻害型除草剤に対するグルタチオン抱合活性を解析する際には、反応液中のVLCFAE阻害型除草剤の減少量からグルタチオン抱合体(GS抱合体)の生成量を求めた。各VLCFAE阻害型除草剤に対するTaQ8GTC0タンパク質のグルタチオン抱合活性を表1に示した。
【0101】
【表1】
【0102】
a) 酵素活性はピロキサスルホンでは7連、その他の薬剤では4連の平均±標準偏差で示した。
b) 検出限界以下
なお、一例としてピロキサスルホンとグルタチオンとの抱合反応、及びVLCFAE阻害型除草剤としてピロキサスルホンを使用したときのHPLCチャートを図4に示した。なお、図4に示すHPLCチャートのうち上段はTaQ8GTC0タンパク質を含むグルタチオン抱合活性試験の結果、中段はTaQ8GTC0タンパク質を含まないグルタチオン抱合活性試験の結果、及び下段はTaQ8GTC0タンパク質及びグルタチオンを含まないグルタチオン抱合活性試験の結果を示している。
【0103】
表1に示すように、TaQ8GTC0タンパク質は、VLCFAE阻害型除草剤のなかでもイソキサゾリン骨格を有するピロキサスルホン及びフェノキサスルホンに対する抱合活性が特異的に高いことが明らかとなった。これに対して、イソキサゾリン骨格以外の構造を有するVLCFAE阻害型除草剤に対しては、TaQ8GTC0タンパク質によるグルタチオン抱合活性が著しく低いことが明らかとなった。また、図4に示すように、ピロキサスルホンを使用した系では、酵素添加区において、ピロキサスルホンのGS抱合体(M-15)のピークが確認された。これは、反応系に添加したピロキサスルホンの全量10nmolの内、4.81nmolに相当量がGS抱合体となったことを示している。
【0104】
なお、本実施例において、カフェンストロールに対する抱合活性は本剤のグルタチオン抱合により遊離する化合物を定量することで求めた。また、8剤(メトラクロール、アラクロール、フルフェナセット、メフェナセット、フェントラザミド、インダノファン、アニロホス、ピペロホス) のグルタチオン抱合体のピークが不明であったことから、これらの薬剤のグルタチオン抱合活性を解析する際には、最初に反応条件を変えて(反応系に添加する酵素量を多くする、あるいは反応時間を長くする)、グルタチオン抱合体(GS抱合体)を生成させ、LC/MSでピークの同定を行った。
【0105】
〔実施例2〕
本実施例では、TaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換イネを作出し、当該形質転換イネにおけるVLCFAE阻害型除草剤に対する感受性を試験した。
【0106】
<形質転換イネの作出>
本実施例では、図5に示すように、TaQ8GTC0遺伝子のイネ形質転換用ベクター(R-5-TaQ8GTC0)を作製した。
【0107】
具体的には、先ず、コムギ(農林61号)茎葉部から調製したRNAを鋳型として逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型にしてTaQ8GTC0-M(配列番号5)、TaQ8GTC0-N(配列番号6)のプライマーセットでPCRを行い、5’末端にSalI認識部位、3’末端にNotI認識部位を付加したTaQ8GTC0遺伝子の遺伝子断片を得た。
【0108】
次に、得られたTaQ8GTC0遺伝子断片をSalI及びNotI処理し、処理後のTaQ8GTC0遺伝子断片をインサートとし、同様にSalI及びNotI処理したpENTR-1A(Thermo Fisher Scientific Inc.)をベクターとした。これらインサート及びベクターを用いてライゲーション反応を行った。これにより作製したエントリークローン(pENTR1A-TaQ8GTC0)を形質転換により大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。シークエンス解析によりSalI及びNotI切断サイトの間に存在するTaQ8GTC0遺伝子の塩基配列にPCRによるエラーがないことを確認した。
【0109】
続いて、作製したエントリークローン(pENTR1A-TaQ8GTC0)(KLB-649)とデスティネーションベクターであるPalSelect R-5((株)インプランタイノベーションズ)とのLR反応を行い、作製した発現ベクター(PalSelect R-5のattB配列間にTaQ8GTC0遺伝子を挿入したイネ形質転換用ベクター)を形質転換により大腸菌HST02株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製してシークエンス解析によりattB配列間に挿入したTaQ8GTC0遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した(KLB-650)。
【0110】
<形質転換によるTaQ8GTC0遺伝子のイネへの導入>
作製したイネ形質転換用ベクターKLB-650 (PalSelect R-5-TaQ8GTC0)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(EHA105)に導入した(KLB-654)。続いて、アグロバクテリウム法(S. Toki Plant Mol. Biol. Rep. 15 16-21(1997))によりTaQ8GTC0遺伝子をイネ培養細胞に導入した後、ビスピリバックナトリウム塩(BS)で選抜した。
【0111】
TaQ8GTC0遺伝子を形質転換によりイネに導入して1ヶ月間、0.25μMのビスピリバックナトリウム塩(BS)でTaQ8GTC0遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜すると、選抜培地で増殖する組換えイネ培養細胞がKLB-279(TaQ8GTC0遺伝子の代わりにGFP遺伝子が導入された陽性対照)と同様に確認された(図6)。そこで、これらの形質転換イネ培養細胞を薬剤無添加の再分化培地に移植した後、得られた植物体に関しては、順次隔離温室での栽培を行った。隔離温室での栽培開始から平均2ヶ月で全ての植物体で出穂が確認され、これらの植物体から後代種子(T1)を採種した。
【0112】
<TaQ8GTC0遺伝子導入イネのピロキサスルホン耐性>
18系統について、ゲランガムを培地とする発芽生育阻害試験によりピロキサスルホンに対する耐性を調べた。
【0113】
ホグラントmixと3 gのゲランガムを1 Lの蒸留水に懸濁させた後、電子レンジで温め十分に溶解させた。その15 mlを冷めないうちに管ビンに注入した(プレートには30mlを注入)。薬剤を練り込む際には、管ビンあるいはプレートへの注入時に同時添加してよく混ぜた。イネもみを50 倍希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)(Wako)中で20分ほど浸した後、よく水洗いした。滅菌処理した種子を蒸留水中に浸し、27℃で催芽するまで静置した(約2日間)。催芽種子を芽の方を上にして、0.25μMのBSを含むゲランガム培地(プレート)に軽く埋め込んだ。これらと蒸留水を入れたビーカーを一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をして27℃、蛍光灯照明下 (明期14 時間、暗期10 時間) で2日間生育させた。その後、根部の伸長を指標にBS耐性を有していると判断されたイネ種子をピロキサスルホン(最終濃度10-8、10-7、10-6、10-5M)含有ゲランガム培地(管ビン)に移植した。続いて、これらと蒸留水を入れたビーカーを一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をして27℃、蛍光灯照明下 (明期14 時間、暗期10 時間) で4~5日間生育させた後に草丈を測定した。薬剤の阻害は草丈を指標に薬剤無添加区に対する生育阻害率を算出し、生育阻害50%濃度(I50値)はProbit法により求めた。
【0114】
上述したTaQ8GTC0遺伝子導入イネのピロキサスルホンに対する耐性試験の結果を表2に示した。
【0115】
【表2】
【0116】
表2中、1)はI50(組換えイネ)/I50(野生型イネ)の値である。表2に示すように、試験に供試した18系統の内、16系統が野生型に比べてピロキサスルホンに対して10倍以上の耐性を示し、最も強い系統(#3-13)では約350倍の耐性が認められた。
【0117】
<野生型イネの生育を阻害するVLCFAE阻害型除草剤の最小濃度の決定>
TaQ8GTC0遺伝子導入イネの薬剤耐性の有無は、野生型イネとの感受性差を指標に判断することから、グルタチオン抱合活性試験に供試したVLCFAE阻害型除草剤に対する野生型イネ(日本晴)の感受性試験を以下の方法で行った。
【0118】
ゲランガムを培地とする発芽生育阻害試験を行った。ホグラントmixと3 gのゲランガムを1 Lの蒸留水に懸濁させた後、電子レンジで温め十分に溶解させた。その15 mlを冷めないうちに管ビンに注入した。薬剤(アセトン溶液)を練り込む際には、管ビンへの注入時に同時添加してよく混ぜた(最終アセトン濃度は0.1%)。イネもみを50 倍希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)(Wako)中で20分ほど浸した後、よく水洗いした。滅菌処理した種子を蒸留水中に浸し、27℃で催芽するまで静置した(約2日間)。催芽種子を芽の方を上にして薬剤含有ゲランガム培地(管ビン)に移植した。続いて、これらと蒸留水を入れたビーカーを一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をして27℃、蛍光灯照明下 (明期14 時間、暗期10 時間) で1週間生育させた後に植物体をサンプリングして草丈を測定した。薬剤の阻害は草丈を指標に薬剤無添加区に対する生育阻害率を算出し、生育阻害50%濃度(I50値)はProbit法により求めた。
【0119】
グルタチオン抱合活性試験に供試したVLCFAE阻害型除草剤に対する野生型イネ(日本晴)の感受性試験を行った。試験結果から明らかとなった各薬剤の野生型イネの生育に対するI50値及び生育を阻害する最小濃度を表3に示した。
【0120】
【表3】
【0121】
<TaQ8GTC0遺伝子導入イネのVLCFAE阻害型除草剤に対する耐性試験>
TaQ8GTC0遺伝子導入イネのVLCFAE阻害型除草剤に対する耐性試験を上述したピロキサスルホン耐性試験と同様な方法で行った。本例では、表4に示すように、野生型イネ植物体(日本晴)の生育を完全に阻害する最小濃度(×1)、最小濃度の4倍濃度(×4)、最小濃度の16倍濃度(×16)の全3濃度でVLCFAE阻害型除草剤に対する耐性試験を行った。
【0122】
【表4】
【0123】
表4中、a)は野生型イネ(日本晴)の生育を阻害する最小濃度を示し、b)は a)の4倍濃度を示し、c)はa)の16倍濃度を示している。
【0124】
本例では、日本晴を比較対照とし、ピロキサスルホンに強い耐性を示した#3-13系統TaQ8GTC0遺伝子導入イネを使用した。結果を図7-1~図7-6に示した。なお、図7-1~図7-6において、左から順に、薬剤濃度0μM、表4の最小濃度(×1)、表4の最小濃度の4倍濃度(×4)、表4の最小濃度の16倍濃度(×16)を示している。
【0125】
ピロキサスルホン及びフェノキサスルホン処理区では(図7-1)、試験の最高濃度(最小濃度の16倍濃度)でもTaQ8GTC0遺伝子導入イネの生育に影響は見られず強い耐性を示したのに対して、6剤(フルフェナセット、アニロホス、ピペロホス、カフェンストロール、インダノファン、フェントラザミド)の処理区では(図7-2~図7-4)、最小濃度でも生育が阻害されており、これらの剤に対してTaQ8GTC0遺伝子導入イネは耐性を示さなかった。また、3剤(メトラクロール、アラクロール、メフェナセット)に関しては、最小濃度では生育への影響は見られなかったものの、最小濃度の4倍濃度(×4)では生育が阻害されていることから、これらの3薬剤に対するTaQ8GTC0遺伝子導入イネの耐性は実用レベルに達していない極めて弱いものであった(図7-5及び図7-6)。
【0126】
なお、データは開示しないが、ピロキサスルホンに対して#3-13系統と同等の強い耐性を示した#4-7系統についても、各種薬剤に対する感受性の強さは#3-13と同じであった。
【0127】
以上のように、TaQ8GTC0遺伝子導入イネは、VLCFAE阻害型除草剤の中でイソキサゾリン系除草剤に対して特異的に耐性を示すことが明かとなった。また、本組換えイネの薬剤耐性はTaQ8GTC0タンパク質のグルタチオン抱合活性とほぼ相関していた。
【0128】
〔実施例3〕
本実施例では、TaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナを作出し、当該形質転換シロイヌナズナにおけるVLCFAE阻害型除草剤に対する感受性を試験した。
【0129】
<形質転換シロイヌナズナの作出>
先ず、図8に示すように、TaQ8GTC0遺伝子を有するシロイヌナズナ形質転換用ベクター(A-3-TaQ8GTC0)を作製した。詳細には、pENTR-1A(Thermo Fisher Scientific Inc.)のattL1とattL2の間にTaQ8GTC0遺伝子(ORF)を挿入したエントリークローン(pENTR1A-TaQ8GTC0, KLB-649)とデスティネーションベクターであるPalSelect A-3((株)インプランタイノベーションズ)とのLR反応を行うことで、シロイヌナズナ形質転換用ベクターを作製した。このシロイヌナズナ形質転換用ベクターは、PalSelect A-3のattB配列間にTaQ8GTC0遺伝子を挿入したものである。次に、作製したシロイヌナズナ形質転換用ベクターを形質転換により大腸菌HST02株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製してシークエンス解析によりattB配列間に挿入したTaQ8GTC0遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した(KLB-707)。
【0130】
<形質転換によるTaQ8GTC0遺伝子のシロイヌナズナへの導入>
上述のように作製したシロイヌナズナ形質転換用ベクター(PalSelect A-3-TaQ8GTC0)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(EHA105)に導入した(KLB-718)。続いて、Floral dip法(S. J. CloughらPlant J. 16 735-743(1998))によりTaQ8GTC0遺伝子をシロイヌナズナに導入した後、ビスピリバックナトリウム塩(BS)で選抜した。
【0131】
<形質転換シロイヌナズナへの遺伝子導入確認>
上述のように得られた形質転換シロイヌナズナ植物体からAmpdirect Plusサンプル溶解液(Shimadzu) [20mM Tris-HCl (pH8.0)、5mM EDTA、400mM NaCl、0.3% SDS、200μg/ml Proteinase K]を用いて簡易的にゲノムDNAを調製した。これらを鋳型とし、KAPA 3G DNA Polymerase (KAPA BIOSYSTEMS)を用いて以下の条件でPCRにより遺伝子導入を確認した。
【0132】
PCRは全50μlの反応系(0.4μl template、0.3μl 50μMセンスプライマー(Sequence(TaQ8GTC0)-2:配列番号7)、0.3μl 50μMアンチセンスプライマー(NOSter-13:配列番号8)、25μl KAPA Plant PCR Buffer、0.4μl KAPA 3G DNA Polymerase、23.6μl滅菌水)で行った。PCRは初期 denature: 95℃で20 sec、denature: 95℃で20 sec、annealing: 58℃で15 sec、elongation: 72℃で30 sec (40 cycles)、最終 elongation: 72℃で4 min で行った。
【0133】
そして、シロイヌナズナ形質転換用ベクター(PalSelect A-3-TaQ8GTC0)を導入したアグロバクテリウム(KLB-718)を用いて、形質転換によりシロイヌナズナへTaQ8GTC0遺伝子を導入した。その後、形質転換を行ったシロイヌナズナ植物体から採取した種子(全部で約50,000粒)を0.1μMのBSを含む選抜培地に播種し、選抜マーカー(W574L/S653I変異型シロイヌナズナALS)の有無を指標に形質転換体を選抜した。その結果、全30個体が生育してきた(図9)。なお、図9に示す写真は、播種してから14日後の様子を示しており、選抜培地で生育してきた全30個体の形質転換体の内の3個体を示している。そして、これらの中で10個体を選び、それらの葉から簡易抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、目的とするコムギGST遺伝子の導入が確認された(図10)。なお、図10において、レーン1~10は、選抜培地で生育してきた全30個体から10個体を選び、各個体から簡易抽出したゲノムDNAを鋳型にしたPCRの結果を示している。PCRでは上述したSequence(TaQ8GTC0)-2とNoster-13のプライマーセットで領域Aを(563bp)増幅した。また、図10の電気泳動写真において左端のレーンは100bp DNA ladderである。
【0134】
<TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナのピロキサスルホン耐性試験>
TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナのピロキサスルホン耐性を調べるため、以下のように培地を作製した。まず、Murashige-Skoog (MS) media(1袋)、Thiamin hydrochloride (3mg)、Nicotinic acid (5mg)、Pyridoxin hydrochloride (0.5mg)、Sucrose (10g) を1Lビーカーに加え、pHを5.7に調製して1Lにメスアップした後、8g(0.8%)のAgarを加えた。これをオートクレーブした後、室温まで冷やしてピロキサスルホン(アセトン溶液)を添加した。これを角2プレートに30ml分注し、所定濃度のピロキサスルホンを含むMS培地を準備した。
【0135】
これらの培地を用いて、形質転換シロイヌナズナのピロキサスルホン感受性試験を以下の方法で行った。必要量のシロイヌナズナの乾燥種子を70%エタノール中で2分、次亜塩素酸(0.02% Triton-X-100)中で15分攪拌し、滅菌水で10回洗浄した。続いて、種子をオートクレーブした0.1%寒天溶液1mlに懸濁させ、この溶液をよく混合して均一にし、培地表面に1粒ずつ全30粒を置床した。サージカルテープでシールして、4℃で2日間放置した後、22℃に移して発芽させた。
【0136】
野生型シロイヌナズナ(Columbia-0)について試験した結果を図11に示し、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナについて試験した結果を図12に示した。なお、図11及び12に示した写真は22℃で14日間生育させた後に撮影した写真である。
【0137】
図11に示すように、野生型シロイヌナズナは、ピロキサスルホン濃度が100nMで生育がやや阻害され、1μM以上でほぼ完全に阻害されている。これに対して、図12に示すように、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナは、ピロキサスルホン濃度が1μMにおいて薬剤無添加区(Control)と同様に生育しているだけでなく、10μMでも1μMに比べてやや生育抑制は認められるが十分に生育しており、ピロキサスルホンに対して強い耐性を示していることが分かる。本例で供試した全7系統のTaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナは、野生型(Columbia-0)と比べて少なくとも10倍のピロキサスルホン耐性を示した。なお、図12には、特に強い耐性を示した形質転換シロイヌナズナ(KLB-718 1-1-5)の結果を示している。これらの結果から、コムギGST(TaQ8GTC0)はシロイヌナズナでも機能し、ピロキサスルホンに耐性を付与することが明らかとなった。
【0138】
<シロイヌナズナ植物体のVLCFAE阻害型除草剤に対する感受性試験>
本例においても、野生型シロイヌナズナにおけるVLCFAE阻害型除草剤に対する感受性試験を、上述したTaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナのピロキサスルホン耐性試験と同様な手法で行った。
【0139】
先ず、野生型シロイヌナズナの生育が強く阻害されるVLCFAE阻害型除草剤濃度を決定した結果を表5に示した。
【0140】
【表5】
【0141】
次に、これらの試験濃度を採用し、VLCFAE阻害型除草剤に対するTaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナの薬剤感受性を調べた。結果を図13及び14に示した。なお、図13及び14に示した写真は22℃で14日間生育させた後に撮影した写真である。図13及び14から判るように、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナ(最も耐性の強いKLB-718 1-1-5を供試)においては、イソキサゾリン系のピロキサスルホン及びフェノキサスルホンに対して強い耐性を示した(図13)。一方、他の9剤に関しては、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナの生育は野生型と同様に強く阻害されていた(図13及び14)。
【0142】
以上の結果から、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナは、イソキサゾリン系除草剤に対して特異的な耐性を示すことが明かとなった。また、TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナの薬剤耐性は、TaQ8GTC0タンパク質の薬剤に対するグルタチオン抱合活性とほぼ相関していた。
【0143】
〔実施例4〕
本実施例では、TaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換イネにおける高温ストレスに対する耐性を試験した。
【0144】
先ず、TaQ8GTC0遺伝子導入イネのピロキサスルホン耐性試験と同様な方法により、ゲランガム培地(プレート)での根部の伸長からBS耐性を有していると判断されたTaQ8GTC0遺伝子導入イネ種子をプラスチックカップに移植した(日本晴はBS無添加のゲランガム培地で生育した個体をプラスチックカップに移植した)。隔離温室で1週間生育させた後、高温処理(50℃、2時間半)し、さらに隔離温室で1週間生育させ、イネの草丈及び根重を測定した。なお、本実施例では、実施例2で作出したTaQ8GTC0遺伝子導入イネのうち#4-7及び#3-13を用いた。
【0145】
全3回の試験で同様の結果が得られたため、その内の1回の試験結果を図15に示した。試験の結果、草丈及び根重共に日本晴に比べてTaQ8GTC0遺伝子導入イネの方が高温処理によって受ける影響は小さく、作出したTaQ8GTC0遺伝子導入イネは高温ストレス耐性を有していることが明かとなった。
【0146】
〔比較例1〕
本比較例では、実施例1~4においてイソキサゾリン誘導体に対する耐性及び高温ストレスに対する耐性に関与するTaQ8GTC0に高い相同性を有する他の植物GSTについて、ピロキサスルホン代謝活性を解析した。
【0147】
具体的に、図16にはTaQ8GTC0と、当該TaQ8GTC0と高い相同性を有する、コムギ及びトウモロコシ由来GSTの11分子種、同じ作用性のメトラクロールに代謝活性を持つイネ由来GSTの3分子種(I. Cumminsら Plant Mol. Biol. 52, 591-603 (2003)、B. McGonigleら Plant Physiol. 124, 1105-1120 (2000)、H. Y. Choら Pestic. Biochem. Physiol. 83, 29-36 (2005)、H. Y. Choら Pestic. Biochem. Physiol. 86, 110-115 (2006)及びH. Y. ChoらJ. Biochem. Mol. Biol. 40, 511-516 (2007))の全14個の植物GSTを示している。本例では、これら植物GST遺伝子をそれぞれ導入したイネ培養細胞を作出し、ピロキサスルホンに対する耐性の有無を検証した。なお、図16において、括弧内の数字はコムギGST(TaQ8GTC0)のアミノ酸配列に対する相同性を示している。
【0148】
具体的には7遺伝子についてはピロキサスルホン含有培地で液体培養したイネ培養細胞の脂肪酸含有量、2遺伝子については薬剤含有プレートでのイネ培養細胞の増殖を指標に代謝活性の有無を解析した。
【0149】
<イネ培養細胞中の脂肪酸含有量を指標にしたピロキサスルホン代謝活性の解析>
先ず、図17に示すように、イネ形質転換用ベクターを作製した。本例では、イネ(日本晴)、コムギ(農林61号)およびトウモロコシ(パイオニア32K61)茎葉部から調製したRNAの逆転写反応によりcDNAをそれぞれ調製した。得られたcDNAを鋳型とし、PCRによって5’末端にXbaI、3’末端にAflIIの制限酵素サイトを付与した各GST遺伝子全長を増幅した。その後、それらの3’末端をAflII処理してT4DNAポリメラーゼにより平滑化し、5’末端をXbaI処理した。続いて、PalSelect R-4((株)インプランタイノベーションズ)のMCSの領域にCSP(イネカルス特異的プロモーター:Gene Locus Os10g0207500)::GUS::NOStのコンストラクトが導入されたKLB-224をSacI処理後、T4DNAポリメラーゼにより平滑化してXbaI処理し、ベクター断片とした。
【0150】
上記のGST遺伝子断片とベクター断片をライゲーションし、作製したベクターを形質転換により大腸菌(HST-02株)に導入した。形質転換反応液の一部を50ppmスペクチノマイシン含有LB固体培地に塗布して37℃、オーバーナイトで培養し、生育した複数のコロニーを鋳型としたPCRにより、目的とするベクターが導入されたコロニーを選んだ。該当するコロニーを50ppmスペクチノマイシン含有YM液体培地に植菌して37℃、オーバーナイトで培養し、菌体から、プラスミドを調製した。引き続き、シークエンス反応を行ってベクターに挿入した目的遺伝子の全配列と5’、3’の両末端部分の塩基配列を解析した。以下に、各GST遺伝子を挿入したイネ形質転換用ベクター作製の際に用いたプライマーの塩基配列を示した。
【0151】
イネ由来のOsGSTF5に対して以下のプライマーセットを使用した。
OsGSTF5-1:5'-AAAAAATCTAGAAAAGTGCAGGGCAAATTC-3' (sense:配列番号9)
OsGSTF5-2:5'-AAAAAACTTAAGCTATGGTATGTTCCCACT-3' (antisense:配列番号10)
イネ由来のOsGSTU5に対して以下のプライマーセットを使用した。
OsGSTU5-1:5'-AAAAAATCTAGAATCTTCTTCTCCGACGAG-3' (sense:配列番号11)
OsGSTU5-2:5'-AAAAAACTTAAGCTACTTGGCGCCAAACTT-3' (antisense:配列番号12)
コムギ由来のTaQ8GTB9に対して以下のプライマーセットを使用した。
TaQ8GTB9(GSTF4)-1:5'-AAAAAATCTAGAATGGAGCCTATGAAGGTG-3' (sense:配列番号13)
TaQ8GTB9(GSTF4)-2:5'-AAAAAACTTAAGTCATGGTATTCTCCCGCT-3' (antisense:配列番号14)
トウモロコシ由来のZmB6T8R4に対して以下のプライマーセットを使用した。
ZmB6T8R4(Corn)-3:5'-AAAAAATCTAGATCGTTTCGAGGCCGAT-3' (sense:配列番号15)
ZmB6T8R4(Corn)-2:5'-AAAAAACTTAAGTCACTTGGCCCCGAACTT-3' (antisense:配列番号16)
【0152】
トウモロコシ由来のZmQ9ZP61に対して以下のプライマーセットを使用した。
ZmQ9ZP61(GST6)-3:5'-AAAAAATCTAGATACCAGCCACGTCGCTT-3' (sense:配列番号17)
ZmQ9ZP61(GST6)-2:5'-AAAAAACTTAAGTCACTTGGCCCCGAACTT-3' (antisense:配列番号18)
【0153】
トウモロコシ由来のZmM16901に対して以下のプライマーセットを使用した。
M16901(GSTI)-3:5'-AAAAAATCTAGAGTTGGGTCTGGGACAC-3' (sense:配列番号19)
M16901(GSTI)-2:5'-AAAAAACTTAAGTCAAGCAGATGGCTTCAT-3' (antisense:配列番号20)
トウモロコシ由来のZmY12862に対して以下のプライマーセットを使用した。
ZmY12862(GST5)-1:5'-AAAAAATCTAGAATGGCCGAGGAGAAGAAG-3' (sense:配列番号21)
ZmY12862(GST5)-2:5'-AAAAAACTTAAGCTACTCGATGCCCAGCCT-3' (antisense:配列番号22)
【0154】
すなわち、図16に示した全14遺伝子の内、7遺伝子について、それぞれイネ形質転換用ベクター(PalSelect R-4-GST)を作製した。なお、幾つかの遺伝子に関しては、ベクターに挿入した配列がデータベース上の配列とは異なっていた。これらの違いを表6に示した。
【0155】
【表6】
【0156】
なお、表6において「-」はアミノ酸配列上の相違がないことを意味している。また、OsGSTF5、OsGSTU5、ZmQ9ZP61に関しては、データベース上の配列と完全に一致していた。
【0157】
<形質転換によるGST遺伝子のイネへの導入>
上述のように作製した各種GST遺伝子を有するイネ形質転換用ベクター(PalSelect R-4-GST)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(EHA105)に導入した。続いて、アグロバクテリウム法(S. Toki Plant Mol. Biol. Rep. 15 16-21(1997))によりGST遺伝子をイネ培養細胞に導入した後、ビスピリバックナトリウム塩(BS)で選抜した。
【0158】
<イネ形質転換培養細胞の液体培養>
上述のように作製したイネ形質転換培養細胞をピロキサスルホンの存在下に液体培養した。ピロキサスルホンはアセトン溶液として液体培地に添加した。最終アセトン濃度は0.1%とした。液体培養する際には、KLB-279(PalSelect R-4のMCS部分にAct1p(イネアクチン1プロモーター)::sGFP::NOStを組み込んだプラスミド)で形質転換したイネ培養細胞をControlとした。以下の方法で液体培養を行った。
【0159】
ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類 (MS無機塩)を1袋、10 mg/mlのチアミン塩酸塩を1 ml、5 mg/mlのニコチン酸を1 ml、10 mg/mlのピリドキシン塩酸塩を1 ml、2 mg/mlのグリシンを1 ml、0.2 mg/mlの2,4-Dを1 ml、30 gのショ糖(スクロース)、50 mg/mlのmyo-イノシトール1 mlを1 Lのビーカーに入れ、pHを5.7に合わせて蒸留水で正確に1000mlにした後、オートクレーブした。この液体培地を50 ml入れた200 mlの三角フラスコにピロキサスルホンを0.05 ml添加した後、上記と同じ組成で3 gのゲランガム及び0.25μM BSを含む固体培地で増殖したControlイネ培養細胞及び上述のように作製したイネ形質転換培養細胞を約0.5 g添加して14~17日間培養した。培養後に液体培地を除去し、イネ培養細胞を回収した。
【0160】
形質転換して1ヶ月間、0.25μMのビスピリバックナトリウム塩(BS)でGST遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜した。続いて、選抜培地で増殖した新鮮なイネ培養細胞を約1ヶ月間コニカルビーカーにて大量培養した後、ピロキサスルホン含有培地での液体培養に供試した。液体培養する際の薬剤濃度に関しては、イネ培養細胞中の脂肪酸含有量にピロキサスルホンが影響を及ぼす10-7Mあるいは10-6Mとした(Y. Tanetaniら Pestic. Biochem. Physiol. 95, 47-55 (2009))。なお、変異型ALSがイネ培養細胞で機能した場合に脂肪酸含有量に影響が及ぶ可能性を考え、比較対照(control)としてKLB-279(PalSelect R-4のMCS部分にAct1p::sGFP::NOStを組み込んだプラスミド)で形質転換したイネ培養細胞を用いた。
【0161】
<イネ培養細胞中の脂肪酸含有量を指標にしたピロキサスルホン代謝活性の解析>
脂肪酸の抽出はウンデセン酸(C11:1)を内部標準物質として行った。分析標準品として、C14:0、C16:0、C16:1、C18:0、C18:1、C18:2、C18:3、C20:0、C22:0、C22:1、C24:0を含むSupelco社のFAME mix及びその他の脂肪酸メチルエステル(C11:1, C15:0, C20:1, C26:0)を用い、各々の検量線を作成して定量した。各脂肪酸メチルエステルの同定はガスクロマトグラフィー(GC)の保持時間とマススペクトルから判断した。なお、定量及び定性はメチルエステル体で行ったが、定量する際には分子量を基に脂肪酸量に換算した。
【0162】
培養細胞1 gに対し、水10 ml、メタノール25 ml、 クロロホルム12.5 ml加え、マイクロテック・ニチオン社のヒスコトロンで培養細胞を破砕した。この際、クロロホルムに溶解した内部標準[10-ウンデセン酸(C11:1)]を0.1 mg加えた。破砕した溶液を吸引濾過後、分液ロートに入れ、40 mlのクロロホルム及び50 mlの飽和硫酸アンモニウム水溶液を加えた後、充分に脂肪酸・脂質の抽出を行う為に30分程放置し、さらにクロロホルムによる脂質の抽出操作を2回(全3回)繰り返し行った。回収したクロロホルム層を分液ロートに入れ、水で洗浄した後、クロロホルム層をナスフラスコに回収してエバポレーターで濃縮した。減圧乾固させた容器に6 mlの25%水酸化カリウム、9 mlのエタノールを加え、65℃で1時間加熱した後、室温に戻して10%塩酸を加えて酸性(pH 2程度)にした。その溶液を分液ロートに入れ、50 mlのヘキサンを加えてよく攪拌し、有機層を回収する操作を2回繰り返した後、固体の無水硫酸マグネシウムにより脱水して回収した。そのヘキサン層をエバポレーターで濃縮した後、2 mlの混合溶媒(トルエン/メタノール=4/1, v/v)に溶解させ、数滴の濃硫酸を反応系に滴下し、80℃で1時間反応させた。反応終了後、室温に戻して飽和重曹水で中和したことをpH試験紙にて確認後、有機層を回収した。その有機層をフィルター付きのエッペンドルフチューブに200μl注入し、遠心後の溶液の2μlをGCに供試した。以下にGC分析条件を示した。
Apparatus: Agilent 6890 Series GC System
Column: Supelco, Omegawax250 (30m long, 0.25mm I.d., film thickness 0.25μm)
Injection Temp: 250℃
Initial Temp: 100℃
Initial Time: 5min
Rate: 4℃/min
Final Temp: 220℃
Final Time: 25 min
Detector: FID
Detector Temp: 250℃
【0163】
分析の結果として、ピロキサスルホン含有培地で液体培養した7種類の植物GST遺伝子導入イネ培養細胞及びControlイネ培養細胞、並びに薬剤無処理のControlイネ培養細胞中の脂肪酸含有量を図18~20に示した。なお、図18~20に示すデータは、全て一連のデータである。また、図18~20には、各GST遺伝子について2系統(系統1、系統2)のイネ培養細胞について脂肪酸分析を行った結果を示している。
【0164】
ピロキサスルホンを含む液体培地で培養したイネ培養細胞では、ピロキサスルホンのVLCFAE阻害作用により、超長鎖脂肪酸(VLCFA)含有量が大幅に減少するのに対して、C15:0(ペンタデカン酸)含有量が顕著に蓄積する(Y. Tanetaniら Pestic. Biochem. Physiol. 95, 47-55 (2009))。この知見を元に各GSTのピロキサスルホン代謝活性の有無を判断した。その結果、7種類の植物GST(TaQ8GTB9、ZmM16901、ZmB6T8R4、ZmQ9ZP61、ZmY12862、OsGSTF5、OsGSTU5)遺伝子をそれぞれ導入したイネ培養細胞中のC15:0及びVLCFA含有量は全て薬剤処理区のcontrolイネ培養細胞と同様であり、これらのGSTはピロキサスルホン代謝活性を有していないと判断された。なお、2種類のOsGST遺伝子(F5、U5)導入イネ培養細胞に関しては、10-6M処理区での結果であり、薬剤無処理のControlイネ培養細胞のデータは無いが、VLCFA及びC15:0含有量から、両GST共に代謝活性は無いと判断した。
【0165】
<イネ培養細胞の培地での増殖を指標にしたピロキサスルホン代謝活性の解析>
次に、図21に示すように、トウモロコシGST遺伝子を有するイネ形質転換用ベクターを作製した。なお、本例では、2種類のトウモロコシGST遺伝子(ZmQ9FQD1及びZmB8A3K0)についてそれぞれイネ形質転換用ベクターを作製したが、作製プロトコールは同一であるため、以下、ZmQ9FQD1遺伝子についてイネ形質転換用ベクターの作製手順を記載する。
【0166】
トウモロコシ(パイオニア32K61)茎葉部から調製したRNAの逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAを鋳型にしてZmQ9FQD1-X、ZmQ9FQD1-YのプライマーセットでPCRを行い、ZmQ9FQD1遺伝子断片を得た。次に、ZmQ9FQD1遺伝子断片をSalI及びNotI処理し、処理後のZmQ9FQD1遺伝子断片をインサートとし、同様にSalI及びNotI処理したpENTR-1Aをベクターとした。これらインサート及びベクターを用いてライゲーション反応を行った。このように作製したエントリークローン(pENTR1A-ZmQ9FQD1)を大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。シークエンス解析により挿入したZmQ9FQD1遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した。
【0167】
続いて、作製したエントリークローン(pENTR1A-ZmQ9FQD1)とデスティネーションベクターであるPalSelect R-5((株)インプランタイノベーションズ)とのLR反応を行い、発現ベクター(PalSelect R-5-ZmQ9FQD1)を作製した。この発現ベクター(PalSelect R-5-ZmQ9FQD1)を形質転換により大腸菌HST02株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。シークエンス解析により挿入したZmQ9FQD1遺伝子の塩基配列を確認した。なお、2遺伝子ともにPalSelect R-5に挿入した配列がデータベース上の配列とは異なっていたことから、これらの違いを表7に示した。
【0168】
【表7】
【0169】
なお、表7において「-」はアミノ酸配列上の相違がないことを意味している。
【0170】
また、以下に、PCRで用いたプライマーセットを示した。
ZmB8A3K0-X:5'-AAAAAAGTCGACATGGCGGCGGCGGCGGAG-3' (sense:配列番号23)
ZmB8A3K0-Y:5'-AAAAAAGCGGCCGCTCACTTGGCCCCGAACTTG-3' (antisense:配列番号24)
ZmQ9FQD1-X:5'-AAAAAAGTCGACATGGCGCCGCCGATGAAG-3' (sense:配列番号25)
ZmQ9FQD1-Y:5'-AAAAAAGCGGCCGCCTATGGTATGTTCCCGCTG-3' (antisense:配列番号26)
【0171】
<形質転換によるGST遺伝子のイネへの導入>
上述のように作製した2種類のトウモロコシ由来GST遺伝子に関する、イネ形質転換用ベクター(PalSelect R-5-ZmGST)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(EHA105)に導入した。続いて、アグロバクテリウム法(S. Toki Plant Mol. Biol. Rep. 15 16-21(1997))によりTaQ8GTC0遺伝子をイネ培養細胞に導入した後、ビスピリバックナトリウム塩(BS)で選抜した。
【0172】
2種類のトウモロコシGST遺伝子を形質転換によりイネにそれぞれ導入して1ヶ月間、0.25μMのビスピリバックナトリウム塩(BS)でGST遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜した。その結果、KLB-279(TaQ8GTC0遺伝子の代わりにGFP遺伝子が導入された陽性対照)と同様に選抜培地において活発に増殖する個体が確認されたことから、2系統のトウモロコシGST遺伝子導入イネ培養細胞を作出できたと判断した(図22)。
【0173】
<イネ培養細胞の培地での増殖を指標にしたピロキサスルホン代謝活性の解析>
上述のようにして得られた2系統のトウモロコシGST遺伝子導入イネ培養細胞及びKLB-279形質転換イネ培養細胞(比較対照)をN6D培地に置床して2週間後、各イネ培養細胞の増殖を指標にしてピロキサスルホンに対する耐性を調べた。ピロキサスルホンはアセトン溶液として供試し、培地に添加する際の最終アセトン濃度は1%、薬剤の最終濃度は10-4Mとした。
【0174】
結果を図23に示した。図23に示した写真は、100μM(10-4M)のピロキサスルホン含有培地でのイネ形質転換培養細胞の増殖の様子である。図23から、置床して2週間後、2系統のGST遺伝子イネ培養細胞は比較対照と同様に肥大化しているのみであった。このように、ZmB8A3K0遺伝子導入イネ培養細胞、ZmQ9FQD1遺伝子導入イネ培養細胞は比較対照と同様に増殖しておらず、ピロキサスルホンに耐性を示さなかった。従って、本例の結果から、2種類のトウモロコシ由来のGSTはピロキサスルホン代謝活性を有していないと判断された。
【0175】
以上、本比較例の結果から、ピロキサスルホンと同じ作用機構の薬剤代謝に関与することが知られているイネGSTやTaQ8GTC0と相同性の高いコムギ及びトウモロコシGSTがピロキサスルホン代謝活性を有していないことが明らかとなった。したがって、実施例1~4に示した、TaQ8GTC0のピロキサスルホンに対する代謝活性は公知情報からは容易に想定できない特異的なものであることが明かとなった。
【0176】
〔比較例2〕
本比較例では、TaQ8GTC0に最もアミノ酸の相同性が高いコムギGST(TaQ8GTC1)(品種:Hunter、Accession No.:AJ440791、相同性は78%)について、グルタチオン抱合活性の解析を行った。
【0177】
<TaQ8GTC1遺伝子のクローニング(図24)>
本比較例では、ゆめかおり、ハナマンテン、ユメセイキ、農林61号、Apache及びGatalinaの6品種のコムギを用いた。これら6品種のコムギのそれぞれについて、茎葉部から調製したRNAの逆転写反応により合成したcDNAを鋳型とし、PCRによって5’末端にXbaI認識部位、3’末端にEcoRI認識部位を付加したTaQ8GTC1遺伝子のORFを得た。その遺伝子断片をXbaI及びEcoRI処理したTaQ8GTC1遺伝子をインサートとし、同制限酵素処理したpBI121をベクターとした。それらのインサート及びベクターを用いてライゲーションを行い、その反応液を用いて作製したベクターを形質転換により大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。引き続き、シークエンス反応を行ってベクターに挿入した目的遺伝子の塩基配列を解析した。
【0178】
以下に、PCRで用いたプライマーセットを示した。
TaQ8GTC1-3:5'-AAAAAATCTAGAGATCTTCAAGAAGCGGAA-3' (sense:配列番号27)
TaQ8GTC1-4:5'-AAAAAAGAATTCTCACTTCTCTGCCTTCTTTCCGA-3'(antisense:配列番号28)
以下に、シークエンス解析で用いたプライマーセットを示した。
Sequence (TaQ8GTC1)-2:5'-GACCTCACCATCTTCGAGTC-3' (sense:配列番号29)
Sequence (TaQ8GTC1)-3:5'-CTCGTACACGTCGAACAG-3' (antisense:配列番号30)
上記6品種から得られたTaQ8GTC1遺伝子は、全て同一の塩基配列であったが、データベースに登録された配列とは異なっていた。具体的に、本実験で決定した塩基配列とデータベースに登録されている塩基配列とは、ORFを構成する675bpの内、25塩基が異なっていた。そのうち13箇所がアミノ酸変異を伴う相違であった。以下、本実験で決定した塩基配列の遺伝子をTAQ8GTC1-R遺伝子と記載する。
【0179】
本実験で決定した塩基配列とデータベースに登録されている塩基配列とを比較した結果を図25に示し、アミノ酸配列で比較した結果を図26に示した。図25においてTaQ8GTC1-R(上段)とデータベース上のTaQ8GTC1の塩基配列(下段)の間で異なる25塩基を四角で囲んだ。図26において、シークエンス解析により明らかとなったTaQ8GTC1-R(上段)とデータベース上のTaQ8GTC1のアミノ酸配列(下段)の間で異なる13アミノ酸を四角で囲んだ。また、本実験で決定した塩基配列とデータベースに登録されている塩基配列との相違を表8に纏めた。なお、表8において「-」は塩基配列の違いがあってもアミノ酸残基は同じであることを意味する。
【0180】
【表8】
【0181】
なお、本実験で決定した塩基配列(すなわちTaQ8GTC1-R遺伝子の塩基配列)及び当該塩基配列でコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号31及び32に示した。また、データベースに登録されているTaQ8GTC1遺伝子の塩基配列及び当該塩基配列でコードされるアミノ酸配列をそれぞれ配列番号33及び34に示した。
【0182】
<TaQ8GTC1-Rタンパク質の大腸菌発現コンストラクトの構築(図27)>
コムギ(農林61号)茎葉部から調製したRNAの逆転写反応により合成したcDNAを鋳型にして、TaQ8GTC1-Z及びTaQ8GTC1-4のプライマーセット(下記参照)でPCRを行い、5’末端にNdeI認識部位、3’末端にEcoRI認識部位を付加したTaQ8GTC1-R遺伝子のORFを得た。本断片をNdeI及びEcoRI処理したTaQ8GTC1-R遺伝子をインサートとし、同制限酵素処理したpET22b(+)をベクターとした。それらのインサート及びベクターを用いてライゲーションを行い、その反応液を用いて作製したベクターを形質転換により大腸菌JM109株に導入した。
【0183】
その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製した。シークエンス解析によりNdeI及びEcoRI切断サイトの間に挿入したTaQ8GTC1-R遺伝子の塩基配列にPCRによるエラーがないことを確認し、そのプラスミドを大腸菌BL21(DE3)株に導入してTaQ8GTC1-Rタンパク質の大腸菌発現系を構築した(KLB-862)。以下に、PCRで用いたプライマーセットを示した。
TaQ8GTC1-Z:5'-AAAAAACATATGGCGGCGCCGGCGGTGAAGGTG-3' (sense:配列番号35)
TaQ8GTC1-4:5'-AAAAAAGAATTCTCACTTCTCTGCCTTCTTTCCGA-3'(antisense:配列番号36)
【0184】
<TaQ8GTC1-Rタンパク質の調製>
作製した大腸菌BL21(DE3)株(KLB-862)を用いてTaQ8GTC1-Rタンパク質の発現を行った。シングルコロニーを50ppmのアンピシリンを含む液体LB培地に植菌した後、一晩試験管で振とう培養した溶液を前培養液として用いた。2.5mlの前培養液を50ppmのアンピシリンを含む250mLの液体LB培地(1L容三角フラスコ) に添加し、37℃、200rpmでOD600=0.5~0.6になるまで培養した。続いて、氷上で5分間冷却した後、IPTGを最終1mMとなるように添加し、27℃、200rpmで21時間 TaQ8GTC1-Rタンパク質の発現誘導を行い、集菌 (4oC、6000×gで10分間遠心) して菌体を-80oCで保存した。フリーズストックした菌体(0.5L培養分)に30mLのPBSバッファー (0.14M NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4、pH7.3)を加え、超音波処理 (TAITEC VP-30S、マイクロチップ、アウトプット 3、15秒コンスタント×7~8回) した後、4℃、15,000×gで20分間遠心して上清を得た。その粗酵素溶液をPBSバッファーで平衡化したGSTrap FFカラム及びGSTrap 4Bカラム (共にbed vol. 1mL)に流速1mL/minでロードし、20ml以上のPBSバッファーで両グルタチオンアフィニティーカラムを洗浄した後、2mLの溶出バッファー (50mM Tris-HCl、10mM 還元型グルタチオン、pH8.0) をカラムに注入し、TaQ8GTC1-Rタンパク質を溶出させた(図28)。このタンパク溶液をNanosep (10K)を用いた限外ろ過によりPBSバッファーに置換し、-80℃で保存した。なお、タンパク質の濃度測定はBradfordの方法で、TaKaRa Bradford Protein Assay Kit (Takara)のマニュアルに従い行った。
【0185】
<TaQ8GTC1-Rタンパク質のグルタチオン抱合活性の解析>
本実験では、精製したTaQ8GTC1-Rタンパク質のCDNB(2,4-dinitrochlorobenzene)及びピロキサスルホンに対するグルタチオン抱合反応を解析した。
【0186】
CDNBに対する活性測定は、634μlの100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.6)、300μlの3.3mM 還元型グルタチオン、33μlの精製酵素 (20%グリセロールを含むPBS溶液)、33μlの30mM CDNB(エタノール溶液)を含む全1mlの反応系で行った。CDNBを除く反応系を調製した後、最後に30mM CDNBを添加して酵素反応を開始し、340nmの吸光度を30℃で測定した。活性は分子吸光係数9.6mM-1cm-1により算出した。酵素の代わりに20%グリセロールを含むPBSを添加した反応系を陰性対照区(非酵素反応区)として、本反応系での生成量を非酵素的生成量とした。
【0187】
ピロキサスルホンに対する活性測定は、50μlの100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8)、10μlの1mM ピロキサスルホン(アセトン溶液)、20μlの10mM 還元型グルタチオン(pH7.0)、120μlのTaQ8GTC1-Rタンパク質(20%グリセロールを含むPBS溶液)を含む全200μlの系で行い、30℃で1時間反応させた後、0.2μmのフィルターを用いて濾過した溶液50μlをHPLCにinjectした。酵素無添加区(TaQ8GTC1-Rタンパク質の代わりに20%グリセロールを含むPBSを添加)と酵素及びグルタチオン無添加区(TaQ8GTC1-Rタンパク質の代わりに20%グリセロールを含むPBS、グルタチオンの代わりに滅菌水を添加)を対照区とした。下述したHPLC条件でのリテンションタイムはピロキサスルホン、M-15 (ピロキサスルホンのグルタチオン抱合体)のグルタチオン抱合体)の順に19.0分、11.0分であった。
装置:Agilent 1100 series
カラム:CAPCELL PAK C18 AQ 4.6mmI.D.×250mm (SHISEIDO)
移動相:アセトニトリル/水=5/95 (5min hold)→(4 min)→40/60 (4min hold)→(4min)→90/10 (8min hold)→(1min)→5/95(4min hold) (各溶媒0.5%酢酸を含む)
温度:35℃
流速:1.0mL/min
検出:254nm
<結果と考察>
先ず、本実験で精製したTaQ8GTC1-Rタンパク質がGST活性を有しているかを調べるため、標準基質のCDNB (1-chloro-2,4-dinitrobenzene)に対するグルタチオン抱合活性を調べた。その結果、CDNBに対する活性は2.17μmol/min/mg protein (n=2)となり、精製酵素はGST活性を有していることが明らかとなった。
【0188】
続いて、TaQ8GTC1-Rタンパク質のピロキサスルホンに対する抱合活性を調べた。抱合活性試験は、酵素添加区(酵素的、非酵素的にグルタチオン抱合体が生成)、酵素無添加区(非酵素的にグルタチオン抱合体が生成)、酵素及びグルタチオン無添加区(親化合物として残存)の3つの反応系で行った。酵素添加区に添加するタンパク量に関しては、約400ngのTaQ8GTC0(実施例1参照)の抱合活性を同条件で調べた場合、添加した除草剤の全10nmolの内、約50%がグルタチオン抱合体に変換されたことを踏まえ、500ngとした。
【0189】
TaQ8GTC1-Rタンパク質による抱合活性試験の結果、ピロキサスルホンを基質とした場合には酵素添加区及び酵素無添加区で生成したグルタチオン抱合体は同等であった(反応系に添加したピロキサスルホンの約3%がM-15へ変換)(図29)。このように、酵素添加区と酵素無添加区でのグルタチオン抱合体の生成量に有意な差は無いことから、本例で精製したTaQ8GTC1-Rタンパク質はピロキサスルホンに対して抱合活性を有していないことが示された。実施例1等に示したように、TaQ8GTC1-Rと約80%のアミノ酸相同性を有するTaQ8GTC0はVLCFAE阻害剤の中で、ピロキサスルホンに対して特に高い抱合活性を示したのに対して、TaQ8GTC1-Rタンパク質は活性を示さなかった。
【0190】
このように、比較的に類似度の高いGSTにおいてさえピロキサスルホンに対する抱合活性がなかったことから、実施例1~3で示したTaQ8GTC0におけるピロキサスルホン抱合活性は特異性の高いものと考えられた。
【0191】
一方、実施例1~3で示したコムギ由来GSTでピロキサスルホン代謝活性を有するTaQ8GTC0(TaGSTF3)と同じPhiクラスに分類された植物GSTの基質認識に関与するアミノ酸残基に関しては、基質とGST複合体のX線結晶構造解析によって明らかにされている(P Reinemerら J. Mol. Biol. 255, 289-309 (1996)、T. Neuefeindら J. Mol. Biol. 274, 446-453 (1997)、H. Pegeotら flontiers in Plant Science 5, 1-15 (2014)及びT. Neuefeindら J. Mol. Biol. 274, 446-453 (1997))。各種植物GSTアミノ酸配列のマルチプルアライメントにおいて推定基質認識部位を図30に示し、上記論文にて明らかにされた基質認識部位を形成するアミノ酸を表9に纏めた。なお、図30において、2箇所の推定基質認識部位を四角で囲み、推定基質認識部位を構成するアミノ酸を太字(下線付き)で示した。
【0192】
なお、図30に示した、シロイヌナズナ由来のAtGSTF2のアミノ酸配列を配列番号37に示し、ポプラ由来のPttGSTF1のアミノ酸配列を配列番号38に示し、トウモロコシ由来のZmGSTF1のアミノ酸配列を配列番号39に示し、コムギ由来のTaGSTF1のアミノ酸配列を配列番号40に示し、コムギ由来のTaGSTF4のアミノ酸配列を配列番号41に示し、コムギ由来のTaGSTF5のアミノ酸配列を配列番号42に示し、コムギ由来のTaGSTF6のアミノ酸配列を配列番号43に示した。なお、図30におけるコムギ由来のTaGSTF2-Rのアミノ酸配列は配列番号32に示ており、コムギ由来のTaGSTF3のアミノ酸配列は配列番号2に示ている。
【0193】
【表9】
【0194】
表9において1)はStructure 6, 1445-1452 (1998)、2)はJ. Mol. Biol. 255, 289-309 (1996)、3)はJ. Mol. Biol. 274, 446-453 (1997)及び4)はFlontiers in Plant Science 5, 1-15 (2014)である。図30及び表9から、基質認識に関わるアミノ酸(TaGSTF3(TaQ8GTC0)のアミノ酸配列に対応)は主にGSTの5~15番目付近の領域1と115~125番目付近の領域2に分布していることが分かる。そこで、これらの2つの領域をGSTの基質認識部位と推定し、各領域(領域1は10アミノ酸、領域2は12アミノ酸)について、TaGSTF3(TaQ8GTC0)のアミノ酸配列との相同性を調べた。
【0195】
その結果、領域1については、TaGSTF3(TaQ8GTC0)と、TaGSTF1、TaGSTF2-R、TaGSTF4、TaGSTF5及びTaGSTF6との間の相同性がそれぞれ40%、80%、80%。40%及び50%であった。また、領域2については、TaGSTF3(TaQ8GTC0)と、TaGSTF1、TaGSTF2-R、TaGSTF4、TaGSTF5及びTaGSTF6との間の相同性がそれぞれ45%、64%、55%。45%及び18%であった。なお、TaGSTF1、TaGSTF2-R、TaGSTF3(TaQ8GTC0)、TaGSTF4、TaGSTF5及びTaGSTF6は、I. Cumminsら Plant Mol. Biol. 52, 591-603 (2003)において、Phiクラスに分類されるコムギ由来GSTとして開示されたものである。
【0196】
領域1及び2ともに、TaQ8GTC0(TaGSTF3)に対するアミノ酸相同性が最も高いのはTaGSTF2-R(TaQ8GTC1-R)であることが分かる。TaGSTF2-R(TaQ8GTC1-R)がピロキサスルホン代謝活性を示さないことを踏まえると、実施例1~3で示したTaGSTF3(TaQ8GTC0)がピロキサスルホンを代謝することは非常に特異的であると考えられた。
【0197】
〔比較例3〕
本比較例では、比較例2でクローニングしたTaQ8GTC1-R遺伝子を導入した組換えイネの作出及び当該組換えイネに関する薬剤耐性の解析を行った。
【0198】
<TaQ8GTC1-R遺伝子のイネ形質転換用ベクター(R-5-TaQ8GTC1-R)の作製(図31)>
コムギ(農林61号)茎葉部から調製したRNAの逆転写反応により合成したcDNAを鋳型にしてTaQ8GTC1-X、TaQ8GTC1-YのプライマーセットでPCRを行い、TaQ8GTC1-R遺伝子(ORF)を得た。本断片の5’末端をSalI処理、3’末端をNotI処理したTaQ8GTC1-R遺伝子断片をインサートとし、同制限酵素処理したpENTR-1Aをベクターとした。それらのインサート及びベクターを用いてライゲーションを行い、作製したエントリークローン(pENTR1A-TaQ8GTC1-R)を形質転換により大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製してシークエンス解析によりSalI及びNotI切断サイトの間に挿入したTaQ8GTC1-R遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した。
【0199】
続いて、作製したエントリークローン(pENTR1A-TaQ8GTC1-R)とデスティネーションベクターであるR-5(PalSelect pSTARA)とのLR反応を行い、作製した発現ベクター(R-5のattB配列間にTaQ8GTC1-R遺伝子を挿入したイネ形質転換用ベクター)を形質転換により大腸菌HST02株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製してシークエンス解析によりattB配列間に挿入したTaQ8GTC1-R遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した。以下に、PCRで用いたプライマーセットを示した。
TaQ8GTC1-X:5'-AAAAAAGTCGACATGGCGGCGCCGGCGGTGAAGG-3' (sense:配列番号44)
TaQ8GTC1-Y:5'-AAAAAAGCGGCCGCTCACTTCTCTGCCTTCTT-3' (antisense:配列番号45)
【0200】
<形質転換によるTaQ8GTC1-R遺伝子のイネへの導入>
作製したTaQ8GTC1-R遺伝子をPalSelect R-5に挿入したイネ形質転換用ベクター(PalSelect R-5-TaQ8GTC1-R)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(EHA105)に導入した(KLB-872)。続いて、アグロバクテリウム法によりTaQ8GTC1-R遺伝子をイネ培養細胞に導入した後、ビスピリバックナトリウム塩(BS)で選抜した。
【0201】
TaQ8GTC1-R遺伝子を形質転換によりイネに導入して1ヶ月間、0.25μMのビスピリバックナトリウム塩(BS)でTaQ8GTC1-R遺伝子が導入されたイネ培養細胞を選抜すると、選抜培地で増殖する組換えイネ培養細胞が確認された(図32)。そこで、これらの形質転換イネ培養細胞を薬剤無添加の再分化培地に移植した後、得られた植物体に関しては、順次隔離温室での栽培を行った。隔離温室での栽培開始から平均2ヶ月で全ての植物体で出穂が確認され、これらの植物体から後代種子(T1)を採種した。
【0202】
<TaQ8GTC1-R遺伝子導入イネのピロキサスルホンに対する感受性試験>
2系統(KLB-872#3-11及びKLB-872#2-4)について、ゲランガムを培地とする発芽生育阻害試験によりピロキサスルホンに対する耐性を調べた。先ず、ホグラントmixと3gのゲランガムを1Lの蒸留水に懸濁させた後、電子レンジで温め十分に溶解させた。その15mlを冷めないうちに管ビンに注入した(プレートには30mlを注入)。薬剤を練り込む際には、管ビンあるいはプレートへの注入時に同時添加してよく混ぜた。イネもみを50倍希釈した次亜塩素酸ナトリウム溶液(アンチホルミン)(Wako)中で20分ほど浸した後、よく水洗いした。滅菌処理した種子を蒸留水中に浸し、27℃で催芽するまで静置した(約2日間)。催芽種子を芽の方を上にして、0.25μMのBSを含むゲランガム培地(プレート)に軽く埋め込んだ。これらと蒸留水を入れたビーカーを一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をして27℃、蛍光灯照明下 (明期14時間、暗期10時間) で2日間生育させた。その後、根部の伸長を指標にBS耐性を有していると判断されたイネ種子をピロキサスルホン(最終濃度10-8、10-7、10-6、10-5)含有ゲランガム培地(管ビン)に移植した。続いて、これらと蒸留水を入れたビーカーを一緒に透明なケースに入れ、ラップで蓋をして27℃、蛍光灯照明下 (明期14時間、暗期10時間) で4~5日間生育させた後に草丈を測定した。薬剤の阻害は草丈を指標に薬剤無添加区に対する生育阻害率を算出し、生育阻害50%濃度(I50値)はProbit法により求めた。
【0203】
<結果と考察>
上述したTaQ8GTC1-R遺伝子導入イネ(KLB-872#3-11及びKLB-872#2-4)のピロキサスルホンに対する耐性試験の結果を図33に示した。試験に供試した2系統共にピロキサスルホン感受性は野生型と同等であった。この結果から、TaQ8GTC1-R遺伝子導入イネはピロキサスルホンに耐性を示さないことが推察された。
【0204】
〔実施例5〕
本実施例では、実施例1~3においてピロキサスルホンに対する抱合活性を有することが示されたTaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換セイヨウアブラナ(Brassica napus)を作出し、当該形質転換セイヨウアブラナにおけるピロキサスルホンに対する感受性を試験した。
【0205】
<TaQ8GTC0遺伝子のセイヨウアブラナ形質転換用ベクターの作製(図34)>
コムギ(農林61号)茎葉部から調製したRNAの逆転写反応により合成したcDNAを鋳型にしてTaQ8GTC0-IF-Blunt End(XbaI)、TaQ8GTC0-IF-Blunt End(SacI)のプライマーセットでPCRを行い、TaQ8GTC0遺伝子のORFを得た。本遺伝子断片とXbaI及びSacI処理した後に、T4 DNA Polymeraseで平滑化したpBI121を用いてIn-Fusion反応を行い、作成したセイヨウアブラナ形質転換用プラスミド(TaQ8GTC0 in pBI121)を形質転換により大腸菌JM109株に導入した。その後、コロニーPCRにより目的プラスミドの導入を確認したコロニーからプラスミドを調製してシークエンス解析によりXbaI及びSacI切断サイトの間に挿入したTaQ8GTC0遺伝子の塩基配列が正しいことを確認した。以下にPCRで用いたプライマーを記載した。
TaQ8GTC0-IF-Blunt End(XbaI):
5'-CACGGGGGACTCTAGATGGCGCCGGCGGTGAAGGT-3' (sense:配列番号46)
TaQ8GTC0-IF-Blunt End(SacI):
5'-GATCGGGGAAATTCGCTACTCTGCTTTCTTTCCAA-3' (antisense:配列番号47)
【0206】
<形質転換によるTaQ8GTC0遺伝子のセイヨウアブラナへの導入>
作製したTaQ8GTC0遺伝子をpBI121に挿入したセイヨウアブラナ形質転換用ベクター(pBI121-TaQ8GTC0)をエレクトロポレーション法でアグロバクテリウム(GV3101)に導入した(KLB-858)。続いて、アグロバクテリウム法によりTaQ8GTC0遺伝子をセイヨウアブラナに導入した後、カナマイシンで選抜した。
【0207】
<形質転換セイヨウアブラナへの遺伝子導入確認>
DNeasy Plant Mini Kitを用いて組換えセイヨウアブラナのゲノムDNAを調製した。その後、本ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより目的コンストラクトの導入を確認した。PCRは全25μlの反応系(2μlの鋳型、0.25μlの50μMセンスプライマー、0.25μlの50μMアンチセンスプライマー、2.5μlの2mM dNTP mixture、5μlのPhire Reaction Buffer、0.5μlのPhire Hot Start DNA Polymerase、14.5μlの滅菌水)で行った。PCRは初期denature:98℃で20sec、denature:98℃で20sec、annealing:58℃で15sec、elongation:72℃で30sec (40cycles)、最終elongation:72で4minで行った。また、T-DNA領域の導入を確認する際に使用したプライマーの塩基配列を以下に示す。
NOSP-2:5'-CGCCTAAGGTCACTATCAGCTAGC-3' (antisense:配列番号48)
Linker (pBI121)-2:5'-GAACTCCAGCATGAGATC-3' (antisense:配列番号49)
CAM35S-1:5'-AGAGGACCTAACAGAACTCGCC-3' (sense:配列番号50)
TaQ8GTC0-2:5'-AAAAAACTTAAGCTACTCTGCTTTCTTTCC-3' (antisense:配列番号51)
【0208】
次に、カナマイシンを選抜試薬とするpBI121にTaQ8GTC0遺伝子を導入したセイヨウアブラナ形質転換用ベクターをエレクトロポレーションにより導入したアグロバクテリウムGV3101株(KLB-858)を用いて、形質転換によりセイヨウアブラナへTaQ8GTC0遺伝子の導入を行った。その結果、目的の形質転換体と思われる1個体が得られた(図35。図中、得られた1個体を四角で囲んだ)。そこで、本組換えセイヨウアブラナから抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った結果、T-DNA領域に含まれる2つのコンストラクト(PNOS::NPTII::TNOS、P35S::TaQ8GTC0::TNOS)が導入されており、得られた個体は目的とする組換えセイヨウアブラナであることが明らかとなった(図36)。本組換えセイヨウアブラナに関しては、ファイトトロンでの栽培を継続し、T1種子を採取した。
【0209】
<TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナのピロキサスルホン感受性試験>
〔セイヨウアブラナ感受性試験1(播種後出芽前土壌処理)〕
セイヨウアブラナ感受性試験1には、野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びコムギGST遺伝子導入セイヨウアブラナを供試し、試験規模は角白プラスチックポット(長さ8cm、幅8cm、高さ6cm)、供試土壌はフジノ土(砂壌土)、1ポットにつき野生型セイヨウアブラナ種子を4粒、組換えセイヨウアブラナ種子8粒を播種した(播種深度1cm)。薬剤として、50%のピロキサスルホンを含む顆粒水和剤を供試し、1、4、16、63、250 g a.i./haの5薬量で3反復とした。処理直後に降雨装置にて約1mmの降雨を人工的に行った後、ポット下方より水を給水させた。その後はポット表面が乾燥した時点で適宜ポット下方より給水させた。
【0210】
〔結果と考察〕
ピロキサスルホンの発芽前土壌処理試験(温度22℃、蛍光灯)を行い、草丈と作用症状及び子葉の生育の観点からコムギGST組換えセイヨウアブラナのピロキサスルホン耐性の有無を解析した。具体的には、セイヨウアブラナ種子の播種及び薬剤散布の2週間後に各処理区で生育した植物体の草丈を測定し、セイヨウアブラナ生育に対する阻害率を算出した(n=4~12)。試験結果を図37図39に示した。図37図39において「TaGST」はTaQ8GTC0遺伝子組換えセイヨウアブラナを意味する。図38に示した表の数値は平均±標準偏差(n=4~12)を意味する。
【0211】
明らかとなった野生型及び組換えセイヨウアブラナの草丈に対する阻害率から、処理薬量が4~63 g a.i./ha、特に16 g a.i./haで組換えセイヨウアブラナに対するピロキサスルホンの生育阻害率は野生型セイヨウアブラナに比べて低かった(組換え体、野生型の順に48.2%、61.9%)。また、作用症状を指標にした場合、野生型セイヨウアブラナでは16 g a.i./ha以上で子葉が濃緑化しているのに対して、組換えセイヨウアブラナではこの症状は確認されなかった。子葉の生育に関しても、野生型セイヨウアブラナでは16 g a.i./ha以上でほぼ完全に阻害されているのに対して、組換えセイヨウアブラナでは250 g a.i./haでも相応に生育していた(図39)。
【0212】
以上の結果を総合すると、ピロキサスルホンの播種後出芽前土壌処理試験(22℃、蛍光灯)において、セイヨウアブラナ草丈と作用症状及び子葉の生育の観点から、作出したTaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナは野生型セイヨウアブラナと比較してピロキサスルホンに耐性を有していることが明らかとなった。
【0213】
〔セイヨウアブラナ感受性試験2(寒天培地)〕
上述した播種後発芽前土壌処理試験の結果から、TaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナがピロキサスルホンに耐性を示すことが明らかとなった。そこで、このTaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナが何倍程度の耐性を有しているかを調べるため、薬剤の影響を直接的に解析できる寒天培地でのセイヨウアブラナ生育阻害試験を行った。野生型セイヨウアブラナ(品種:Westar)及びTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナを供試して寒天培地での生育阻害試験を行い、ピロキサスルホンに対する耐性を調べた。
【0214】
この試験において培地の組成(1L)は、1X Murashige-Skoog (MS) media(1袋)、Thiamin hydrochloride (3μg/ml)、Nicotinic acid (5μg/ml)、Pyridoxin hydrochloride (0.5μg/ml)、1% (w/v) Sucroseとした。1Lビーカーに前述した組成を加えてpHを5.7に調製し、1Lにメスアップして8g(0.8%)のAgarを加えた。その後、オートクレーブして室温まで冷やし、所定濃度のピロキサスルホン(アセトン溶液)を添加した。この溶液をプラントボックスに50mlずつ分注した(この際には薬剤無添加の溶液30mlを分注したプレートも作製した)。
【0215】
セイヨウアブラナの感受性試験を行う際には、必要量のセイヨウアブラナ乾燥種子を70%エタノール中で2分、次亜塩素酸(0.02% Triton-X-100)中で15分攪拌し、滅菌水で10回洗浄した。これらの種子を作製した薬剤無添加プレートの培地表面に30粒程度を置床して22℃で2~3日後、発芽した幼苗をそれぞれの培地(プラントボックス)に5粒ずつ埋め込んだ。その後、22℃で2週間生育させた後、データを取得した。
【0216】
〔結果と考察〕
複数濃度(0.1μM、1μM、10μM、100μM)のピロキサスルホンを含む寒天培地でセイヨウアブラナの感受性試験を行った。試験結果を図40図43に示した。図40は野生型セイヨウアブラナを用いた結果であり、表に示す数値は平均±標準偏差(n=4~5)である。図41~43はTaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナ(図中TaGSTと記載)を用いた結果である。図41及び42の表に示す数値は均±標準偏差(n=4~5)である。図43に示す数値は平均値(n=4~5)である。
【0217】
明らかとなったセイヨウアブラナに対する草丈阻害率及び本葉の生育阻害率から、0.1μM添加区での野生型セイヨウアブラナに対する阻害率(草丈阻害率、本葉の生育阻害率の順に8.9±2.8%、8.4±1.4%)と10μM添加区でのコムギGST組換えセイヨウアブラナに対する阻害率(草丈阻害率、本葉の生育阻害率の順に7.8±5.9%、1.2±2.7%)が同等であった。従って、TaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナは野生型に比べ、約100倍のピロキサスルホン耐性を有していることが明らかとなった。
【0218】
以上、TaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナのピロキサスルホンに対する感受性試験(播種後出芽前土壌処理、寒天培地)の結果から、TaG8QGTC0遺伝子導入セイヨウアブラナは野生型セイヨウアブラナに比べてピロキサスルホンに耐性を有しており、その耐性は約100倍程度と推察された。このように、実施例1~3においてピロキサスルホン代謝活性を有することが明らかとなったTaQ8GTC0は、セイヨウアブラナにおいても機能し、ピロキサスルホンに耐性を付与することが明らかとなった。
【0219】
〔実施例6〕
本実施例では、TaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(実施例3参照)における高温ストレスに対する耐性を試験した。
【0220】
<TaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナの高温ストレス耐性試験>
実施例3で作出したTaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナにおける高温耐性を調べるための培地は以下のように作製した。先ず、Murashige-Skoog (MS) media(1袋)、Thiamin hydrochloride (3mg)、Nicotinic acid (5mg)、Pyridoxin hydrochloride (0.5mg)、Sucrose (10g) を1Lビーカーに加え、pHを5.7に調製して1Lにメスアップした後、8g(0.8%)のAgarを加えた。これをオートクレーブした後、室温まで冷やし、これをプレートに30ml分注した。
【0221】
これらの培地を用いて、実施例3で作出した形質転換シロイヌナズナの高温ストレス耐性試験を以下の方法で行った。必要量のシロイヌナズナの乾燥種子を70%エタノール中で2分、次亜塩素酸(0.02% Triton-X-100)中で15分攪拌し、滅菌水で10回洗浄した。続いて、種子をオートクレーブした0.1%寒天溶液1mlに懸濁させ、この懸濁液を培地表面に置床していくことにより、プレート当り30粒程度を播種した。サージカルテープでシールして、4℃で2日間放置した。22℃に移して11日間生育させた後、高温処理(50℃、40分)し、さらに6日間生育させた。
【0222】
〔結果と考察〕
野生型シロイヌナズナ(Columbia-0)を比較対照として高温ストレス処理した後、植物体の表現型を指標にしてTaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナの高温耐性の有無を調べた。試験には、野生型及び3系統の組換えシロイヌナズナ(1-1-3、1-1-5、1-2-12)を供試した。その結果、高温処理により白化(完全枯死)した植物体の割合は野生型では74%(26/35)であるのに対して、TaQ8GTC0遺伝子導入組換え体では1-1-3、1-1-5、1-2-12の順に0%(0/11)、24%(8/34)、26%(10/38)となった(括弧内は白化した個体数/試験に供試した個体数)。これらの結果から、TaQ8GTC0遺伝子導入導入シロイヌナズナは野生型に比べて高温処理により受ける影響が小さく、作出したTaQ8GTC0遺伝子導入シロイヌナズナは高温ストレス耐性を有していることが明らかとなった。従って、実施例4に示したようにTaQ8GTC0遺伝子導入イネが高温耐性を有していることを踏まえると、TaQ8GTC0遺伝子は単子葉から双子葉まで幅広い植物で機能し、除草剤耐性だけでなく高温ストレス耐性も付与することが示された。
【0223】
〔実施例7〕
本実施例では、実施例5で作出したTaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換セイヨウアブラナ(Brassica napus)について、高温耐性の有無を試験した。
【0224】
<TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナの高温ストレス耐性試験>
実施例5で作出したTaQ8GTC0遺伝子を導入した形質転換セイヨウアブラナの高温耐性を調べるための培地は以下のように作製した。先ず、Murashige-Skoog (MS) media(1袋)、Thiamin hydrochloride (3mg)、Nicotinic acid (5mg)、Pyridoxin hydrochloride (0.5mg)、Sucrose (10g) を1Lビーカーに加え、pHを5.7に調製して1Lにメスアップした後、8g(0.8%)のAgarを加えた。これをオートクレーブした後、室温まで冷やし、これをプラントボックスに70ml分注した。
【0225】
これらの培地を用いて、実施例5で作出した形質転換セイヨウアブラナの高温ストレス耐性試験を以下の方法で行った。必要量のセイヨウアブラナの乾燥種子を70%エタノール中で2分、次亜塩素酸(0.02% Triton-X-100)中で15分攪拌し、滅菌水で10回洗浄した。続いて、種子を上記で作製した培地表面に5粒程度を置床した。パラフィルムでシールして、22℃で4日間生育させた後、高温処理(50℃で1時間又は50℃で2時間半)し、さらに隔離温室で4日間生育させた。
【0226】
〔結果と考察〕
野生型セイヨウアブラナ(Westar)を比較対照として高温ストレス処理した後、TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナの高温耐性の有無を調べた。その結果、試験1(50℃で1時間処理)では、TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナの草丈が野生型に比べて有意に大きかった(図44)。なお、図44に示した表の値は、平均±標準偏差(n=3~7)を示している。また、試験2(50℃で2時間半処理)では、白化(完全枯死)した個体の割合は野生型セイヨウアブラナ、TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナの順に75%(3/4)、20%(1/5)となり、TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナの白化する割合は野生型セイヨウアブラナに比べて有意に小さかった(括弧内は白化した個体数/試験に供試した個体数)。これらの結果から、2つの試験でそれぞれ草丈、白化した個体の割合を指標にすると、TaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナは野生型セイヨウアブラナに比べて高温処理により受ける影響が小さく、実施例5で作出したTaQ8GTC0遺伝子導入セイヨウアブラナは高温ストレス耐性を有していることが明らかとなった。従って、コムギ由来のTaQ8GTC0遺伝子はセイヨウアブラナでも機能し、除草剤耐性だけでなく高温ストレス耐性も付与することが示された。
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