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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】電気泳動を利用したマイクロ流体センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20220203BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N37/00 101
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019504040
(86)(22)【出願日】2017-07-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 US2017043959
(87)【国際公開番号】W WO2018022758
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】62/366,831
(32)【優先日】2016-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/368,261
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517090646
【氏名又は名称】コーボ ユーエス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】セイン エル.エドワーズ
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-517661(JP,A)
【文献】米国特許第06955787(US,B1)
【文献】特開2009-250706(JP,A)
【文献】特開2006-214792(JP,A)
【文献】特開2007-121246(JP,A)
【文献】特表2013-502577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00-9/36
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作可能に電源に接続すると、間に電界をもたらすよう構成される第一電極及び第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に位置する第一誘電体層と第二誘電体層であって、互いに離間し、その間に少なくとも部分的にマイクロ流体通路を画定し、前記マイクロ流体通路が前記電界に垂直な長さに沿って伸びる第一誘電体層と第二誘電体層と、
前記第一電極と前記通路の外側に位置する駆動電極との間に配置される圧電部からなるバルク弾性波(BAW)共振子であって、前記共振子に電力を与えるために、前記第一電極と前記駆動電極とは動作可能に発振回路に接続されるバルク弾性波共振子と、を備える装置。
【請求項2】
前記第一電極と前記第二電極とが動作可能にコントローラに接続され、前記コントローラは、前記電界を生成するために前記電極に対して電位を与えるよう構成される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コントローラは一定又はパルスの電界をもたらすよう構成される請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記マイクロ流体通路の流体に存在するゼロではないゼータ電位を有する標的物質を活性化し前記共振子に向けて移動させるために前記電位を与えるよう構成される請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記電界を反転するよう構成され、前記マイクロ流体通路の流体に存在するゼロではないゼータ電位を有する非標的物質を活性化し前記共振子よりも遠方に移動させる請求項2から4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記コントローラは、濃度、質量、又はその両方を決定するよう構成される請求項2から5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記第一誘電体層は、標的物質を結合する結合物質から構成される請求項1から6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記誘電体層と第一電極と第二電極は、前記共振子表面を超えて前記マイクロ流体通路長さに沿って延在する請求項1から7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記マイクロ流体通路はマイクロ流体カートリッジの上流ポートと下流ポートとの間に延在し、前記誘電体層と第一電極と第二電極は、少なくとも前記共振子と前記上流ポートとの間に配置される請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記マイクロ流体通路の前記上流ポートは感知プラットフォームのサンプル導入部に流体接続される請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記マイクロ流体通路に沿って配置される複数共振子により構成される請求項1から10の何れか一項に記載の装置。
【請求項12】
第一電極と第二電極に電位を与え、バルク弾性波(BAW)共振子に隣接して配置されるマイクロ流体通路の長さに垂直の電界を生成することと、
前記共振子を超えて前記マイクロ流体通路に流体を流すことと、
前記共振子の特徴に基づき前記流体内の標的物質量を決定することと、からなる方法。
【請求項13】
さらに前記電界にパルスを発するために前記電位を変化させることからなる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
さらに前記標的物質量を決定する前に前記電界を反転させるために前記電位を逆転させることからなる請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
さらに前記標的物質量を決定する前に前記共振子を超えて洗浄液を流すことからなる請求項12から14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記標的物質はゼロではないゼータ電位を有するバイオ粒子である請求項12から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
さらに前記標的物質量を決定する前、後、又は前後に前記流体のpHを調整することからなる請求項12から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
決定される前記標的物質は、少なくとも濃度、質量のいずれか、又はその両方からなる請求項12から17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記流体は、緩衝液又は複合マトリクスからなる請求項12から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記電界はマイクロ流体カートリッジに配置される前記マイクロ流体通路の50%から100%長さに沿って生成される請求項12から19の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、電気泳動を利用し、生物学的感知又は生化学感知アプリケーションに適する弾性波センサとマイクロ流体装置とを含む音響共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願
【0003】
本出願は、2016年7月26日に出願した米国仮特許出願第62/366831号明細書と、2016年7月29日に出願した米国仮特許出願62/368261号明細書を基礎として優先権主張した出願であり、本開示に抵触しない範囲で、当該出願に記載されたすべての記載を援用する。
【0004】
背景
医学的、獣医学的、環境、生体有害、生物テロ、農業的、及び食品安全目的のための物質の診断検査用の装置及び測定技術が数多く存在する。従来、診断検査においては、有意なデータを得るまでにかなりの応答時間を要し、高価で、遠隔操作で、あるいは複雑な実験装置を含み、サンプルサイズも大きいものを必要とし、多様な試薬を用い、しっかり訓練されたユーザの需要と、莫大な直接的及び間接的費用を巻き込むものである。例えば、人及び動物の診断マーケットでは、患者からサンプルを収集し、それから研究機関に送るのに多くの試験を必要とし、そこでは、結果は数時間あるいは数日間利用はできない。結果として、患者を処置するのに治療者は待機しなければならない。
【0005】
診断検査及び分析のためのユースポイント(Point of use)(あるいは、人又は獣医学について議論するときの臨床)解決策では、大抵の注意すべき難点は解決することができるが、いくらかは限界が残る。利用可能ないくつかのユースポイント解決策には、臨床診断と比較すると感知性能と再現性の点で限界がある。さらに、別のユースポイント検証のために別途システムを必要とするので、しばしば莫大な費用がかかる場合がある。
【0006】
バルク弾性波(BAW)センサがバイオセンサとしての使用のために説明される。サンプル内の被検物の存在を検知するためのBAWセンサを有する流体デバイスは、しばしばレセプタなどの抗体や他のプロテインのみならず、表面に添付されるポリ核酸、ポリアミノ酸などのバイオ粒子を有している。被検物をセンサ表面に付与するバイオ粒子に結合させることができ、センサに結合させる質量を増大させてもよい。質量を増大させることで、センサにおける波の伝搬特性(例えば、大きさ、周波数、フェーズなど)を変化させる。被検物結合による伝搬特性の変化は、表面に結合される被検物量とサンプル内の被検物バルク量で補正することができる。
【0007】
イントロダクション
BAWセンサを用いるバイオセンサ装置は、物理的サイズを小さくしてサンプルの迅速な分析を行うのに役立ち、使用デバイスとして適したものということができる。高い感知特性と物理的サイズが小さいという特性により、BAWセンサ装置は、検知用BAWセンサ表面を超えて少量の流体サンプルを流体通路に流すマイクロ流体通路を使用することができる。
【0008】
BAWセンサは表面にある被検物を検知し、層流を示すマイクロ流体通路を使用するので、被検物がBAWセンサ表面に接触しないことが理由で、サンプル内の被検物の多くをBAWセンサでは検知することができない可能性がある。したがって、BAWセンサの表面に結合する被検物量とセンサを超えてマイクロ流体通路を流れるサンプル内の被検物量とを相互に関連づけることには課題が生じる可能性がある。加えて、被検物検知の再現性又はBAWセンサを使用するときのサンプル内の被検物量の決定は、サンプル内の被検物濃度が低い場合には難しい可能性がある。
【0009】
高い感知特性及び再現性を有して検証用に使用するBAWバイオセンサプラットフォームを提供することが望ましい。また、表面結合と層流に関する固有の問題を減らすBAWセンサを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0010】
概要
全体として、本開示の実施態様は、電気泳動を利用するマイクロ流体通路を有するセンサであって、サンプル流体中の標的物質、又は被検物の測定感度を高めるセンサに関する。センサは、通路の両サイドに配置される電極を含み、標的物質を感知共振子近くに集中させる。
【0011】
一態様において、本開示は装置に関する。装置は、動作可能に電源に接続すると、間に電界をもたらすよう構成される第一電極及び第二電極を含む。装置は、また前記第一電極と前記第二電極との間に位置する第一誘電体層と第二誘電体層を含む。誘電体層は、互いに離間し、その間に少なくとも部分的にマイクロ流体通路を画定する。マイクロ流体通路は前記電界に垂直な長さに沿って伸びる。装置は、さらに、前記第一電極と駆動電極との間に配置される圧電部を有するバルク弾性波(BAW)共振子を含む。駆動電極は前記通路の外側に位置する。共振子に電力を与えるために、前記第一電極と前記駆動電極とは動作可能に発振回路に接続される。
【0012】
前記第一電極と前記第二電極とが動作可能にコントローラに接続されてもよく、コントローラは、前記電界を生成するために前記電極に対して電位を与えるよう構成されてもよい。
【0013】
前記コントローラは一定又はパルスの電界をもたらすよう構成されてもよい。
【0014】
前記コントローラは、前記マイクロ流体通路の流体に存在するゼロではないゼータ電位を有する標的物質を活性化し前記共振子に向けて移動させるために前記電位を与えるよう構成されてもよい。
【0015】
前記コントローラは、前記電界を反転するよう構成されてもよく、前記マイクロ流体通路の流体に存在するゼロではないゼータ電位を有する非標的物質を活性化し前記共振子よりも遠方に移動させる。
【0016】
前記コントローラは、濃度、質量、又はその両方を決定するよう構成されてもよい。
【0017】
前記第一誘電体層は、標的物質を結合する結合物質を含んでもよい。
【0018】
前記誘電体層と第一電極と第二電極は、前記共振子表面を超えて前記マイクロ流体通路長さに沿って延びてもよい。
【0019】
前記マイクロ流体通路はマイクロ流体カートリッジの上流ポートと下流ポートとの間に延びてもよく、前記誘電体層と第一電極と第二電極は、少なくとも前記共振子と前記上流ポートとの間に配置されてもよい。
【0020】
前記マイクロ流体通路の前記上流ポートは感知プラットフォームのサンプル導入部に流体接続させることができる。
【0021】
複数共振子が前記マイクロ流体通路に沿って配置される。
【0022】
別の態様では、本開示は方法に関する。方法は、第一電極と第二電極に電位を与え、バルク弾性波(BAW)共振子に隣接して配置されるマイクロ流体通路の長さに垂直の電界を生成することを含む。方法は、また前記共振子を超えて前記マイクロ流体通路に流体を流すことを含む。方法は、さらに前記共振子の特徴に基づき前記流体内の標的物質量を決定することを含む。
【0023】
方法は、さらに前記電界にパルスを発するために前記電位を変化させることを含んでもよい。
【0024】
方法は、さらに前記標的物質量を決定する前に前記電界を反転させるために前記電位を逆転させることを含んでもよい。
【0025】
方法は、前記標的物質量を決定する前に前記共振子を超えて洗浄液を流すことを含んでもよい。
【0026】
方法において、ゼロではないゼータ電位を有するバイオ粒子である標的物質が包含してもよい。
【0027】
方法は、前記標的物質量を決定する前、後、又は前後に前記流体のpHを調整することを含んでもよい。
【0028】
方法において、標的物質の決定は、少なくとも濃度、質量のいずれか、又はその両方を含んでもよい。
【0029】
方法において、緩衝液又は複合マトリクスを備える流体を含んでもよい。
【0030】
方法において、マイクロ流体カートリッジに配置される前記マイクロ流体通路の約50%から約100%長さに沿って生成される前記電界を含んでもよい。
【0031】
本開示は、添付の図面と関連付けながら様々な実施態様に係る下記の詳細な説明を考慮することでより具体的に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】カートリッジを含むセンサの斜視図である。
図2】マイクロ流体通路と少なくとも1の共振子を含む図1のカートリッジの斜視図である。
図3】マイクロ流体通路を示す図2のライン3-3に沿ったカートリッジの断面図である。
図4】付与される様々な電界で感知共振子の予測される出力に関するグラフを示す。
図5】時間経過後の感知共振子とリファレンス共振子との間の違いについての周波数変動のグラフを示す。
図6】時間経過後の感知共振子とリファレンス共振子との間の違いについての周波数変動を測定したグラフを示す。
図7】様々な種類の電界がベースライン補正された状態で通路に付与されたときの時間の経過による様々な共振子の周波数変動に関するベースライン補正測定のグラフを示す。
図8】ベースライン補正なしの図7のグラフの生の測定グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
下記の詳細な説明では、いくつかの具体的な実施態様の参考が示される。他の実施態様は本開示の範囲又は趣旨から逸脱することなく考慮されるものと理解すべきである。したがって、以下の詳細な説明は、限定して捉えるべきではない。
【0034】
本開示は、泳動、特に生物学的感知又は生化学感知アプリケーション用であって電気泳動を利用するマイクロ流体通路を備えるセンサに関する。標的物質について電気的に荷電する粒子の電気泳動は、センサ表面におけるターゲットの濃度を高めるために使用される。他の様々なアプリケーションは本開示により利益を得る当業者には明白である。
【0035】
正確に、及び直接的に、特に生物学的感知又は生化学感知アプリケーションにおいて1又はそれ以上の共振子の周波数変動を一定時間経過とともに測定するためのセンサを提供することには利点がある。特に、センサ応答に対する相関集中を維持しながら測定及び流体内の標的物質の濃度測定の感度を向上させることには利点がある。
【0036】
本開示はマイクロ流体通路及びマイクロ流体通路の両サイドに通路を横切る、又は垂直の電界を生成する電極を備えたセンサを提供する。電界は、荷電粒子、特に、電極の一方に向けてあるいは離れてマイクロ流体通路の流体に浮遊する物質の粒子を移動させるのに使用することができる。電界により、標的物質が、電界が存在しない場合と比較して、より感度良くその濃度又は質量を計測するのに使用される音響共振子に近くに集中する効果を得ることができる。電界は調整することができ、物質が継続的にマイクロ流体通路を流れることになり、非標的物質を取り除き、又は、他の標的物質を測定することができる。
【0037】
複合粒子(例えば、プロテインやDNAのような生物製剤)は、陽電気を荷電したもの、陰電気を荷電したもの、あるいは中性のものを混合することができる。荷電のいくらかは結合粒子の内部に埋め込むことができ、部分的に、すなわち、少し、粒子の全体的な荷電(すなわち、シールド)に貢献する。複合粒子の全体的な荷電は、表面に現れるペプチドや溶液のpHなどのようないくつかのファクタに依存することができ、ζ(ゼータ)電位(シールド効果を含みうる)に関する実効荷電となりうる。
【0038】
電気泳動は、電界の影響下で流体又はゲル内の荷電粒子の動きについて言及する。荷電粒子の電気泳動の移動度μeは、粒子サイズ、粒子のゼータ電位(又は電荷)、溶剤のイオン強度及び電界強度に依存しうる。電界が共振子表面に対して垂直に付与されたら、マイクロ流体通路の流体の荷電粒子は、共振子に向けて又は共振子から離れて移動することができる。例えば、陰のゼータ電位では、陰の荷電粒子(陰のゼータ電位)を通路内の共振子に向けて移動させるために、共振子に近接する電極は、マイクロ流体通路の反対側に近接する電極に対して陽に保つことができる。ここで“電荷(チャージ)”という用語は、粒子のゼータ電位を言及するのに使用することができる。荷電粒子は大きさと極性を有することができる。極性は、陽、陰、又は中性(0のゼータ電位)である。
【0039】
バイオセンサ(又は生物学的センサ)は生物学的要素と生物学的応答を電気信号に変換する変換器を含む分析装置である。特定のバイオセンサは、特異的結合物質(例えば、抗体、受容体、リガンド(配位子)など)と標的種(例えば、粒子、プロテイン、DNA、ウィルス、バクテリアなど)との間の選択的な生化学反応をさせるものであり、この高い特殊反応の産物は、トランスデューサ(変換器)により測定可能な量に変換される。他のセンサは、粒子の多種タイプやクラスを結合することが可能な非特異的結合物質を使用することができ、また、サンプル中に存在しそうにない他の成分は化学感知アプリケーションで利用することができる。「結合物質」すなわち「機能化物質」という用語は、ここでは全体として特異的、非特異的、両方の結合物質を示す。変換方法は、電気化学、光学、電気、音響などの様々な原理に基づくものであるということができる。これらの中で、音響変換は、リアルタイムであり、無標識で低コスト、さらには高い感知特性を見せるという様々な利点を提示する。
【0040】
弾性波装置は圧電物質表面上あるいはその中を伝播する弾性波を用いることができ、これにより伝播通路特性への変更が波の速度及び/又は振幅に影響する。弾性波装置の駆動領域に沿ってある特異的結合物質に組み込まれる機能化物質の存在により、特定の被検物を特異的結合物質に結合させることができ、弾性波により振動する集合体及び波伝播特性(例えば、速度、これによって変化する共振周波数)を変化させることができる。速度変化は、周波数、大きさ、センサのフェーズ特性(例えば、周波数変動)を測定することにより監視することができ、測定物理量を補正することが可能となる。
【0041】
圧電水晶共振子の場合、弾性波として、圧電物質表面を伝播するバルク弾性波(BAW)、又は、圧電物質表面を伝播する弾性表面波(SAW)のいずれかを含むことができる。弾性表面波(SAW)装置は、約1波長の浸透長に留まる波で、圧電物質表面に沿う櫛形電極を用いて弾性波(一般的に二次元のレイリー波を含む)の変換を行う。BAW装置では、3の波動モード、すなわち、1の縦モード(圧縮波/外延波などの縦波)と2の剪断モード(横波と呼ばれる剪断波)は、粒子の動きと波伝搬の方向とが平行か垂直である振動を示す縦及び剪断モードで伝播してもよい。縦モードは、伝搬方向に圧縮及び延長することが特徴となり得、剪断モードはボリュームに局所変化のない伝搬方向に垂直の動作から構成されてもよい。縦及び剪断モードは、異なる速度で伝搬することができる。実際に、これらのモードは粒子振動として単一モードとしなくてもよく、又、極性は、伝搬方向に対してただ平行あるいはただ垂直としなくてもよい。各々のモードの伝搬特性は、物質特性と結晶軸の向きに対する伝搬方向に依存しうる。剪断波では液体に対する浸透長がとても小さいので、剪断モードが単一あるいは優位である装置は(大きな伝搬損失を見せる液体の中を通すことができる縦波と比較して)大きな放射損失なしに液体の中で作動することができる。剪断モード振動は、剪断波が大きなエネルギを流体に伝えないので流体(例えば、液体)とともに弾性波装置の作動に有益でありうる。
【0042】
窒化アルミニウム(AIN)や酸化亜鉛(ZnO)(限定はしない)を含めた六方晶系構造の圧電物質などの圧電薄膜フィルムは、縦及び剪断モード共振の両方を励振させることができる。電極間に配置される圧電物質を用いて剪断モードを含む波を励振させるために、圧電薄膜フィルム内の極性軸はフィルム面に対して非垂直とすることができる。窒化アルミニウム(AIN)や酸化亜鉛(ZnO)などの六方晶系構造の圧電物質は、極性軸(例えば、c軸)をフィルム面に対して垂直に展開させる傾向があるが、公知技術(例えば、高周波マグネトロンスパッタリング)により結晶(例えば、少なくとも小領域を越えて)を、主に基板面に垂直で平行ではない方位分布を有するc-軸で産出することができる。液体媒質を含む生物学的感知アプリケーションでは、共振子の剪断構成を使用することができる。このようなアプリケーションでは、圧電物質は下層基板面に対して垂直ではないc-軸方位分布で成長しBAW共振構造により電極を横切って流れる信号を変換するアプリケーション上で顕著な剪断応答を示すことができる。
【0043】
BAW装置は、微小電気機械システム(MEMS)製造技術により製造することができ、高周波作動を容易にするのに適した微小規模(マイクロスケール)特徴を提供することができる。バイオセンサでは、機能化物質(例えば、生物活性プローブや化学物質として知られる特異的結合物質)は、マイクロアレイスポッティング(又はマイクロアレイ印刷として知られる)のような様々な技術によりセンサ表面に沈着させることができる。非特異的結合による有効性(例えば、様々なタイプあるいは種類の粒子を結合させること)をもたらす機能化物質は、化学感知などの特定の状況下においても使用することができる。
【0044】
バイオケミカルセンサは、1以上の特異的結合物質を含む1以上の感知領域(選択的に1次元配列あるいは2次元配列)のみならず特異的結合物質のない少なくとも1のリファレンス領域に、複数の共振子を含むことができる。音響共振子は液体に接触すると腐食の影響を受けやすい反応金属(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金)から構成される電極を利用することができる。流体と音響共振子の接着パッドの意図しない接触により、結果的に頂部金属部に損傷を与え、あるいは信頼度を減少させることになる。
【0045】
図1は、マイクロ流体通路14を収納するカートリッジ12を備えるセンサ10を示す。カートリッジ12は、センサプラットフォームに接続することができ、通路14をセンサプラットフォーム150に収納される流体流動路140に流体接続させることができる。流体流動路140はサンプルポート142から排気チャンバ148まで延ばすことができる。サンプル流体は、流体流動路140に沿ってサンプル貯蔵器144と流体接続した状態でサンプルポート142に注入することができる。サンプル流体は標的物質(被検物)を含むことができる。サンプル貯蔵器144は親水性表面を有することができ、サンプル流体を貯蔵器に引き込む。緩衝液や複合マトリクスのようなサンプル処置流体は、サンプル貯蔵器144と流体接続する処置流体ポート146に注入することができる。サンプル処置流体は、サンプル流体を、サンプル貯蔵器144を通して、カートリッジ12の通路14に対して押し出すのに使用することができる。サンプル流体は通路14から排気チャンバ148に流れうる。サンプル流体はカートリッジ12の通路14の中を通り、又は通路14に留まるので、サンプル流体内で標的物質の存在を測定することができる。カートリッジ12はさらに測定データを分析するために作動可能に外部検知プラットフォーム(図示しない)に接続されうる。複合マトリクスは、尿、血液、漿液、プラズマ、又は唾液などの生物学上の流体を含めることができる。
【0046】
図2はマイクロ流体通路14に収納されるカートリッジ12と通路に沿って配置される複数の共振子26を示す。共振子26は、通路14に沿って直列、並列、又はその両方を組み合わせて配置することができる。共振子26は通路14に対してさらすことができ、通路内のどのような流体も共振子を超えて流すことができる。1以上の共振子26は、標的物質を結合するために表面に特異的結合物質を含む感知共振子とすることができる。1以上の共振子26はリファレンス共振子とすることができる。リファレンス共振子は非特異的結合物質を表面に含むことができる。非特異的結合物質は、特異的結合物質(例えば、抗体)と同様であるが、サンプル流体内では確認できそうにない非標的物質に結合させることができる。非特異的結合物質は、標的物質の粒子サイズと同様である非特異的結合物質に結合される非標的物質の粒子サイズに基づき選択することができる。リファレンス共振子は、シランのようなサンプル流体内の物質とはいずれも結合しない非機能化結合物質を含むことができる。
【0047】
カートリッジ12は遠隔リファレンス共振子27を含めることができる。遠隔リファレンス共振子27はサンプル流体とは異なる種類の流体に音響的に接続することができる。例えば、遠隔リファレンス共振子27は空気に接続することができる。
【0048】
マイクロ流体通路14の壁は、選択的に1以上の自己接着面(例えば、接着テープ)を含む、薄い重合体物質及び/又は薄層物質の例えばレーザカットステンシル層などのいずれかの好適物質から形成することができる。選択的にではあるが、このような壁は、自己組織化単分子膜(SAM)、機能化物質、及び/又は、ブロック層を堆積する前に形成することができる。壁はSU-8ネガティブエポキシ抵抗物質又は他のフォトレジスト物質で生成することができる。ある実施態様では、カバー又はキャップ層を一体的に1以上の壁で形成することができ(例えば、鋳造又は別の適するプロセスを通じて)、少なくとも1の流体通路の上部境界の部分のみならず側面の境界を画定し、一体的に形成される部分的被覆壁構造は少なくとも1の流体通路を囲むために適用することができる(例えば、接着する、あるいは結合する)。
【0049】
通路14は、近位端部(例えば、上流ポート160)から先端部162(例えば、下流
ポート162)に向けて延ばすことができる。全体として、サンプル流体は通路14に上流ポート160で入ることができ、下流ポート162で通路を出ることができる。しかしながら、流体流れは調整することができ、例えば、いくつかのケースでは失速又は反転する。カートリッジ12が感知プラットフォーム150に接続されると(図1)、上流ポート160はサンプルポート142(図1)と流体接続させることができ、下流ポート162は排気チャンバ148(図1)に流体接続させることができる。通路14は平面に平行に延び又は平行に記載することができる。通路14はU字型としてもよい。
【0050】
カートリッジ12は1以上の電極を含むことができる。いくつかの実施態様では、少なくとも1の電極が通路14上部に配置され、少なくとも1の電極が通路14下部に配置される。電極は通路14の幅の少なくともいくらか又は全体を覆うことができる。電極は少なくとも通路14の長さに部分的に沿って延ばすことができる。電極は通路長さに沿って少なくとも1以上の共振子26と上流ポート160との間に配置することができる。電極は1以上の共振子26の表面を超えて延長することができる。電極は1以上の共振子26の表面を超えて延長することができる。実施態様の中には、1以上の電極が通路14の全長を超えるものもある。
【0051】
いくつかの実施態様では、電極は通路14の長さに沿った電界をもたらすことができる。電界は通路14の少なくとも約25%、約33%、約50%、約66%、約75%、約90%、約95%、又は約100%長さに沿って生成し、又は付与することができる。電界は、通路14の、最大で約95%、約90%、約75%、約66%、約50%、約33%、又は約25%長さに沿って付与することができる。好ましくは、電界は通路14の約50%から約100%長さに沿って付与される。
【0052】
電界は通路14全体に対して付与することができる。電界は通路14の一部のみに付与することができる。電界は共振子26全体に付与することができる。電界は共振子26のいくつかにのみ付与することができる。電界は1以上の駆動電極と一致する通路14の部分には付与することはできない。
【0053】
好ましくは、電界は1以上の共振子26の直上流の通路14の少なくとも一部に付与され、標的物質が共振子表面を超えて流動する前に共振子表面に向けて移動させる。
【0054】
図3は、図2のライン3-3でのカートリッジ12の部分断面図を示す。図示するように、マイクロ流体通路14の一部の方向は頁左から右に向かう流体流れ16である。カートリッジ12は、1以上の第1電極18、第2電極20、第1誘電体層22、第2誘電体層24、少なくとも圧電層28の一部を含む共振子26、駆動電極30、発振回路32と電圧源のような電源34を含むコントローラ40を備える。電界42は電極18、20によってもたらすことができる。共振子26は、通路14にさらされる表面44を含むことができる。駆動電極30は、第一電極18の隣に、あるいは近接して、設けることができる。駆動電極30は、第一電極18と同一層に形成することができる。電界42は駆動電極30によってはもたらすことはできない。
【0055】
第一誘電体層22及び第二誘電体層24は互いに離間して配置することができ、その間に少なくとも部分的に通路14を画定する。誘電体層22、24の各々は、第一電極18と第二電極20のうち一方の隣にあるいは近接して配置することができる。誘電体層22、24は第一電極18と第二電極20との間に配置することができる。誘電体層22、24の表面は、流体流れ16の向きに平行して設けることができ互いに平行に並べることができる。通路14の長さは、誘電体層22、24の表面に平行に延長することができる。
【0056】
誘電体層22、24は、通路14内のイオン流体の存在と電界42の影響による腐食、特に電気化学エッチングから電極18、20の各々を保護することができる。いくつかの実施態様では、誘電体層22、24はできる限り薄くし、誘電体層の存在による電界42の低下を最小限に抑えることができる。
【0057】
誘電体層22、24はいずれかの好ましい誘電体物質で形成することができる。いくつかの実施態様では、1以上の誘電体層22、24が二酸化ケイ素で形成される。いくつかの実施態様では、結合物質を、二酸化ケイ素で形成される誘電体層22、24に付着することができる。例えば、加水分解によって二酸化ケイ素に結合させることができるシラン基を含む(又は含んでもよい)ように結合物質を修飾することができる。もちろん、他の好適な化学反応を利用して結合物質を誘電体層表面に共有結合的に付着させることができる。
【0058】
電極18、20表面は流体流れ16の方向に平行に並べることができ、互いに平行に並べることができる。生成電界42は、電力を、通路14長に対して垂直向き、流体流れ16の方向に対して垂直向き、あるいはその両方である荷電粒子に供給することができる。
【0059】
通路14は標的物質及び非標的物質を含む流体を受け取ることができる。標的物質、非標的物質、あるいはその両方は粒子状態で流体内を浮遊する。標的物質、非標的物質、あるいはその両方は、プロテイン、DNAなどのバイオ粒子、又は他の複合粒子とすることができる。物質の粒子は陽のゼータ電位(陽電荷)、負のゼータ電位(負電荷)、あるいは、0ゼータ電位(陽、陰どちらでもない中性の電荷)を有することができる。好ましくは、いくつかの実施態様では、標的物質はバイオ粒子であって0ではないゼータ電位を有する。
【0060】
流体は、緩衝液のような液体であってpH値を有することができる。pH値は調整することが可能で、標的物質、非標的物質、あるいはその両方のゼータ電位を変更するものである。pH値は、流体が通路14にさらされる前、その間、後で調整することができる。粒子サイズ、極性、あるいはその両方は、pH値を調整することにより変更することができる。好ましくはpHを調整して、標的物質を0ではないゼータ電位を有するようにする。センサは抗体などの選択可能な結合物質を採用することができ、標的物質は公知である。したがって、用いられる緩衝液のpHは、標的物質が0ではないゼータ電位を有するのを確実なものとするよう制御され得、したがって、電界42により影響を受けることになる。
【0061】
いくつかの実施態様では、緩衝液は、塩化合物粒子のイオン化により電界42を低下させることができる塩化合物を含むことができる。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、他の同様の溶剤などの一般的な生物学上の緩衝液は塩化合物を含んでもよく、流体として用いて、サンプルをここで記載する装置の通路に運搬することができる。好ましくは、サンプルを運搬するのに用いる流体はイオン強度が低く電界42の低下を和らげるものがよい。
【0062】
共振子26はバルク弾性波(BAW)共振子とすることができる。共振子26は圧電層28の一部を含めることができ、電気エネルギに応答して物理的移動を引き起こすことができる。共振子26は、通路14の隣、あるいは、近接した位置に設けることができる。共振子26は表面44を含むことができる。表面44は通路14にさらされる第一誘電体層22の表面の一部とすることができる。表面44は標的物質を表面44に結合させるための結合物質を含むことができる。
【0063】
表面44上の結合物質は、結合物質に接触する、あるいは結合物質を捕獲できるほど近位の位置にある通路14に浮遊する標的物質に結合させることができる。
【0064】
圧電層28内の共振子26の一部は少なくとも部分的に第一電極18と駆動電極30との間に配置することができる。共振子26は、少なくとも第一電極18の一部と少なくとも駆動電極30の一部を含むよう考慮されてもよい。コントローラ40は、動作可能に第一電極18と駆動電極30に接続され、共振子26に電力を供給し、又は、駆動させることができる。特に、第一電極18と駆動電極30は動作可能にコントローラ40の発振回路32に接続され、共振子26に電力を供給することができる。
【0065】
コントローラ40は動作可能に第一電極18及び第二電極20に接続することができる。コントローラ40の電源34は、電極18、20に電位を付与することができ、電界42をもたらすことができる。
【0066】
電界42は、静的又は動的とすることができる。いくつかの実施態様では、電界42は流体が通路14を流れるとき一定とすることができる。いくつかの実施態様では、電界42を、時間の経過とともに、少なくとも第一構成と第二構成との間で切り替えることができる。
【0067】
異なる構成は、通路において荷電粒子を制御するのに役立ち、より感知力の高い測定を提供することができる。電界42は通路14の流体に存在する標的物質を活性化させ共振子26に対して移動させるために使用することができる。また、電界42は反転させることができ、標的物質と同様の電荷を帯びる通路14に存在する非標的物質を活性化し、共振子26から離れて移動させることができる。例えば、第一期間を経て、第一電極18に対する負の電荷と第二電極20に対する陽の電荷を使用することができ、電界42の第一構成をもたらすことができる。第二期間を経て、第一電極18に対する陽の電荷と第二電極20に対する陰の電荷を使用して、電界42を反転させ、第二構成をもたらすことができる。第一構成では、通路14において陽の荷電粒子11を、陰で電荷される第一電極18に向けた通路の底部に対して活性化することができる。第二構成では、通路14において陰の荷電粒子13を、陽で電荷される第一電極18に向けた通路の底部に対して活性化することができる。
【0068】
一般的な作動条件では、通路14の流れは層流でもよい。電界42の影響下で通路14に荷電される標的物質粒子の速度は、層流38の特性があるため遅くすることができる。層流38の特性は、通路14を流れる流体速度が、通路の中央領域付近の流体速度と比較した場合、通路の端領域付近(例えば、頂部と底部)では低速にさせうることにある。こうして、より低いゼータ電位である非荷電粒子又は荷電粒子は、通路が電界42にさらされると、端部近くを流れるより高いゼータ電位の荷電粒子と比較した場合、通路14の中心のより近くを流れることができる。
【0069】
同様に、電界が付与されないと、より多くの荷電粒子11、13は中心のより近くを流れることになる。したがって、ここで記載する電界42が存在しないとき、サンプル流体内の多くの標的物質が共振子26の表面44と相互作用することはない。したがって、サンプル流体内の標的物質濃度を決定することは難しい。このような決定は、特に標的物質粒子濃度が低いサンプル流体により困難となる場合がある。したがって、ここで記載される電界42の影響下で荷電される標的物質粒子を共振子26の表面44に向けて移動させることによって、層流及び表面結合に関するいくつかの難点を緩和することができる。
【0070】
いくつかの実施態様では、電界42はパルス発振とし、又は、第一構成及び第二構成間で交替させることができる。コントローラ40は、電極18、20に付与される電位を変化させることができ、電界42をパルス発振とすることができる。強電界42の存在において、特に電界が通路14の約50%から約100%長さまで延びると、標的物質粒子は通路端部(例えば、底部)に密集する。端部に近い荷電粒子速度は0にまで到達することができる。標的物質粒子のいくらかは通路14を流れず、適切な時間枠で共振子26に到達することができる。より多くの荷電粒子が通路14の端部で0又は速度の遅い端部から離れて移動し下流に流れることができるよう、電界42はパルス発振とし、より小さな振幅の電界とし、あるいは反対の極性電界とする。電界42がない状態で、パルス発振により、荷電粒子は通路14のより速度の速い領域に向けて拡散でき、又は、反転した電界の存在により、粒子が活性化するので通路端部から遠ざけることができる。より多くの荷電粒子、好ましくは、標的物質粒子は、結合及び測定のため共振子26に到達することができる。
【0071】
パルスは断続又は継続のいずれかの適したパターンとすることができる。電界42のパルスは、電極18、20に付与される電位により表現することができる。いくつかの実施態様では、電極18、20に付与される電位は矩形波の形式としてもよい。一例では、電界42を第一構成とゼロの構成(例えば、無電界)との間で交替させることができ、オン状態(陽又は陰の電位)とオフ状態(ゼロ電位又はより小さな振幅の電位)を交替させる電極18、20に電位を付与することにより電界を生成することができる。別の例では、電界42は第一構成と第二構成との間で交替させることができ、ノーマル状態(陽又は陰の電位)と反転状態(極性が逆の電位)との間で交替させる電極18、20に電位を付与することにより電界を生成することができる。いくつかの実施態様では、反転状態での電位マグニチュード(絶対振幅)はノーマル状態の電位の振幅より小さいものとすることができる。
【0072】
実施態様に示すように、荷電粒子11、13の濃度は、電界42の影響下での勾配(グラディエント)として表現することができる。例えば、第一構成では、陽の荷電粒子11の通路14での濃度は、電界42による影響を受け得、陽に電荷された第二電極20(通路頂部)付近の濃度と比べて、陰に電荷された第一電極18(通路底部)付近に、より集中させることができる。
【0073】
さらに、流体流れ16の方向では、濃度は上流よりも下流でより高くなりうる。例えば、第一構成では、陽の荷電粒子11は、頁の右側(通路14のより下流)で陽に荷電された第一電極18付近により多く集中しうる。
【0074】
通路14での、共振子26、特に感知共振子の表面44のサンプル濃度と電気泳動前のバルク濃度との関係は次のように表すことができる。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
【0077】
【数3】
【0078】
“D”は溶剤の種の拡散係数であり、“U”はゼータ電位と大きさに比例した種の電気泳動の流動であり、“w”は通路14の高さ(例えば、誘電体層22と24の間の高さ)であり、“y”はWより低いあるいは等しい通路14における位置であり(例えば、“y”は第一電極18から第二電極20に延びる軸に沿い、流体流れ16方向又は通路14の長さに直交するものとしてもよく)、“λ”は影響下における種により占められる通路の断片幅であり、“C(y)”は、平衡状態での(たとえばpg/mol又はmmol/mlユニットでの)通路における高さ位置“y”での種の濃度であり、“C”は均衡状態に到達した後の共振子26の表面44での種の濃度であり、“Cbulk”は電界付与前の種のバルク濃度である(例えば、バルク濃度は通路14でのすべての空間次元において均等なものとすることができる)。式1、2、3は“Cbulk”を解くために使用し、標的物質の通路流体での濃度を示すということができる。
【0079】
流体流れ16がない場合、荷電粒子11、13は、通路14を通してより均等に分配することができる。言い換えると、充分な時間が経過した後は、電界42が通路14に付与されても、層流流れ38の効果なしで、荷電粒子11、13の濃度は通路14の下流位置と上流位置とで同様としてもよい。
【0080】
いくつかの実施態様では、電界42は標的物質量を決定する前に反転させることができ、非標的物質粒子を活性化させ、同じ“陽”又は“陰”の電荷を標的物質粒子で共有でき、共振子26の表面から遠ざけることができる。いくつかの実施態様では、洗浄液は共振子26を超えて流してもよく、例えば、電界42を反転させた後であって、標的物質量を決定する前に非標的物質粒子を洗い流してもよい。
【0081】
コントローラ40は、1以上の共振子26に動作可能につなぐことができる。共振子26はコントローラ40に動作可能に平行につなぐことができ(例えば、一斉に)、あるいは直列に(例えば、一度に一つずつ)、あるいは両方を組み合わせる形で(例えば、一度で幾らか)つなぐことができる。
【0082】
コントローラ40は、例えば、濃度、質量、又はその両方についての標的物質量を共振子の性質に基づき決定できる。決定は、少なくともコントローラ40の部分で行うことができ、カートリッジ12をオンオフすることができる(例えば、外部により決定する)。特性は、周波数、フェーズ、あるいは関連パラメータとすることができる。特性は少なくとも標的物質の濃度、質量のいずれか、又はその両方に対応させることができる。本開示によりメリットを得る当業者は、標的物質量を決定するために、1以上の共振特性に基づき好適な公知技術を選択することができる。
【0083】
ここに記載されるコントローラ40のような1以上のコントローラは、中央処理装置(CPU)などの処理装置、コンピュータ、ロジック配列、又はエアロゾル生成装置内外にデータを入出力できる他の装置を備えることができる。いくつかの実施態様では、コントローラはメモリ、処理、及び通信ハードウェアを有する1以上の処理装置を備える。コントローラ機能はハードウェアにより実行されてもよく、及び/又は非一時的コンピュータ可読記録媒体に対するコンピュータ指示として実行されてもよい。
【0084】
コントローラについての処理装置は1以上のマイクロプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、デジタル信号処理装置(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(field-programmable gate array)(FPGA)、及び/又は、等価分散あるいは論理集積回路を含むことができる。いくつかの例では、処理装置は1以上のマイクロプロセッサ、1以上のコントローラ、1以上のDSP、1以上のASIC、及び/又は、1以上のFPGA、又は他の分散あるいは論理集積回路などの多数要素を含むことができる。ここで記載されるコントローラや処理装置についての機能は、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェアやこれらいずれかの組合せとして具現化することができる。ここでは、プロセッサを基本としたシステムについて記載しているが、代替のコントローラは、望ましい結果を得るために、リレー(継電器)やタイマのような他の要素を、これらのみか又はマイクロプロセッサを基本とするシステムと組み合わせる形で、使用することができる。
【0085】
1以上の実施態様で、例示的なシステム、方法、及びインターフェースは、1以上の処理装置及び/又はメモリを備えるコンピュータ装置を使用した1以上のコンピュータプログラムを使用して実装することができる。ここで記載されるプログラムコード及び/又はロジックはデータ/情報を入力するために付与されてもよく、ここで記載した機能を実行し、望ましい出力データ/情報を生成することができる。出力データ/情報はインプットとして1以上の他の装置に与えることができ、及び/又は、ここに記載される方法は公知の方法に当てはめることができる。上記に照らして、ここで記載するコントローラ機能は当業者が理解できる方法で実施できるものであることは直ちに明らかとなる。
【0086】
図4は、マイクロ流体通路を通じて標的物質を緩衝液内に流し、様々な電界をそこに付与するときの感知共振子の「応答-時間」の結果から予測される電位のグラフ50である。カートリッジ12(図3)のようなカートリッジを設けることができる。カートリッジは通路長さに垂直の電界を付与することができる。複数の共振子を設けることができる。少なくとも1の共振子を、神経成長因子(NGF)などの標的物質の粒子と結合させることのできる選択的抗体のような結合物質でコーティングを施した感知共振子とすることができる。
【0087】
全体としてここで使用される“陽”及び“陰”という用語は逆極性を意味する。図4で記載して使用するように、特に、陽の電界は、感知共振子の隣、あるいは近接した電極上の陰の電荷を意味し、そして通路の反対側の電極上の陽の電荷を意味する。言い換えると、通路における陽の荷電粒子は、感知共振子に対して活性化することができる。したがって、陰の電界は電極上の逆の電荷を意味し感知共振子から離れた陽の荷電粒子を活性化させることができる。
【0088】
適切な緩衝液条件でのNGF(神経成長因子)はpH7.4で約+11.4Vのゼータ電位を有し、図4で予測される結果を生み出すものと推測される。陽の電界では、NGFは感知共振子表面に向けて移動することが予測され、陰の電界のもとでは、NGFは感知共振子表面から離れて移動することが予測される。
【0089】
感知共振子の応答は、共振周波数の観点から特徴づけることができる。感知共振子の共振周波数は、電界極性と相関し、例えば、感知共振子表面の隣の粒子質量や粘度の変更により反相関とすることができる。すなわち、感知共振子表面近くの粘度を変化させる、あるいは感知共振子と結合する、あるいは単に接触する荷電粒子の質量を変化させる荷電粒子上の電界に垂直の力が働くため、相関するならば陽として、あるいは、反相関なら陰として、陽電界は感知共振子の出力を相殺することができる。相関する感知共振子52の出力と反相関の感知共振子54の出力が示される。
【0090】
実施態様で記載するように、T0とT1との間では、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)が通路を流れるが、通路に電界は付与されない。予想される感知共振子の出力は、T0におけるベースライン振幅で始動すると、T0とT1との間の期間で変化させなくてもよい。予想される感知共振子の出力は電界なしでは相殺することはできない。
【0091】
T1とT2との間では、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は通路を流れるが、陽の電界はT1を始点として付与される。ベースライン振幅と比較して、予想される感知共振子の出力は、T1を始点とした陽電界に対して相関すれば陽方向で、又は反相関ならば陰方向で相殺することができる。
【0092】
感知応答の相殺の振幅は、感知共振子表面における、又はその近くの荷電粒子に比例してもよく、感知共振子表面における粘度又は質量の変化により、例えば、共振周波数などのセンサ応答を変化させることができる。
【0093】
T2とT3との間では、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は通路を流れるが、陰の電荷はT2を始点として通路に付与される。ベースライン振幅と比較して、予想される感知共振子の出力は、T2を始点として相関すれば陰方向で、又は、反相関ならば陽方向で相殺することができる。
【0094】
T3とT4との間では、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は通路を流れるが、電界は通路に対して繰り返し付与されない。予想される感知共振子の出力はベースライン振幅に戻ることができる。予想される感知共振子の出力はもはや相殺できない。
【0095】
T4とT5との間では、NGF(神経成長因子)を含めるPBS(リン酸緩衝生理食塩水)は通路を流れ、電界は通路に付与されない。PBSのNGFは陽のゼータ電位を有することができる。予想される感知共振子の出力は電界なしには相殺することはできない。NGF標的物質は感知共振子上の結合物質と公称結合速度で結合することができる。ベースライン振幅と比べて、予想される感知共振子の出力は結合に応答して減少し始めるかもしれない。減少は、公称結合速度に対応して公称結合スロープとして記載することができる。公称結合スロープは、感知共振子表面近くを通る通路内における標的物質の断片濃度を表現することができる。
【0096】
図示するように、ここに記載されるスロープは直線上である。いくつかの実施態様では、スロープは非直線上とすることができる。
【0097】
T5とT6との間では、PBSとNGFは通路を流れ、陽の電界がT5を始点として通路に付与される。予想される感知共振子の出力は、T5を始点として相関するならば陽方向で相殺することができ、反相関ならば陰方向で相殺することができる。NGF標的物質は感知共振子において、公称結合速度よりも速い結合速度で結合物質を結合することができる。結合に応答する感知共振子の予想される出力の減少は、速い結合速度と対応して急な結合スロープとして記載することができる。急な結合スロープは、電界の存在による、感知共振子表面近くの通路における標的物質の濃度断片を表現することができる。
【0098】
T6とT7との間では、PBSとNGFは通路を流れ、陰の電界はT6を始点として通路に付与される。予想される感知共振子の出力は、T6を始点として、相関するならば陰の方向で相殺することができ、反相関ならば陽の方向で相殺することができる。標的物質と同じ電荷を有する非標的物質(例えば、陽の荷電粒子)を活性化して感知共振子の表面から離れるよう促進すること。加えて、静電気の力により共振子表面に存在する抗体のような特異的結合物質と結合しないいずれの標的物質も、活性化されて感知共振子表面から離れるよう促進することができる。予想される感知共振子の出力は増やすことができる。この増加はカットスロープとして表現することができる。カットスロープは、感知共振子の表面から非標的物質質量を取り除くことを表現するものではあるが、その一方で、すでに感知共振子の結合物質と結合したNGF標的物質は結合状態のままである。
【0099】
T7とT8との間では、PBSとNGFは通路を流れ、T7を始点として通路に電界は付与しない。予想される感知共振子の出力は電界なしに相殺することはできない。NGF標的物質は公称結合速度で結合物質と結合することができる。公称結合スロープによれば、予想される感知共振子の出力は、NGF結合として表面に対して加えられる増加する質量が要因で減少する。
【0100】
T8を始点とし及びT8を超えて、PBSは通路を流れ、T8において電界は付与されない。予想される感知共振子の出力は電界なしでは相殺できない。標的物質が通路を流れたあと、標的物質、非標的物質、あるいはその両方なしでPBSを導入するが、これを洗浄ステップと表現することができる。
【0101】
本開示は限定されるものではなく、特定の例及び下記で提供される実施態様により様々な側面の理解がなされ、より精度のよい機構及び腐食特性に合金を提供する。例や実施態様の様々な変形例のみならず、本開示の追加実施態様はここに明白となる。
【0102】
例1
一例では、感知共振子の周波数変動に対する電界極性の影響は、静止状態の溶剤を用いて説明された。マイクロ流体通路を有するセンサにおいて2つの共振子が提供された(Qorvo(オレゴン州ベンド)製)。45μmの高さと500μmの幅を有する流体流れの方向と直交した断面をマイクロ流体通路は有した。NGFに対する抗体を含む結合物質(Sinoバイオロジカル(中国北京)製)は第一共振子(感知共振子)にもたらされ、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンに対する抗体を含む非結合物質(R&D亜システムズ(ミネソタ州ミネアポリス)製)は、第二共振子(リファレンス共振子)にもたらされた。PBSの緩衝液(シグマ-アルドリッチ(ミズーリ州セントマカオ)製)は175mMのイオン強度を有して提供された。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンは、リファレンス抗体として選択されたが、非特異的結合(実際の共有結合ではない)を除いて、NGFサイズと同じ粒子と結合することができるが、NGFそれ自体ではない。
【0103】
NGF粒子(Sinoバイオロジカル(中国北京)製)の等電点(0に等しいゼータ電位)はpH10.1と対応するよう決定された。pH7.4では、NGF粒子のゼータ電位は+11.4Vとして決定された。ウシ血清アルブミン粒子(シグマ-アルドリッチ(ミズーリ州セントマカオ)製)の等電点は、pH5.7に対応して決定された。このpHはpHメータとプローブを用いて測定された。pH7.4では、BSA粒子のゼータ電位は、-28.4となるよう決定された。BSA粒子は、制御としてのNGF又は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンとは結合しないように選択された。
【0104】
2つの電極が通路の両側に対向して設けられ、通路と電気的に絶縁された。1の電極は、共振子の隣、又は近接してあり、他方の電極は、通路の反対側(例えば、頂上側)に設けられた。電極は上流ポート及び下流ポートとして記載される端部以外の通路全体長さを覆った。時間の経過とともに、電位差が連続的に0mV、+100mV、-100mVとなる電極を用いて電界は選択的に供給された。時間を経た感知出力とリファレンス共振子出力との違いである周波数変動は、様々な電界にさらされるとき、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定された。
【0105】
図5は、時間を経た感知(NGF)共振子とリファレンス(TSH)共振子との違いである周波数変動62のグラフ60を示す。感知共振子とリファレンス共振子との間の違いのおかげで、例えばBSA又は感知共振子との他の物質の非共有結合である非特異的結合あるいは感知共振子との接触により、周波数変動を取り除くことができる。センサはT0からT3まで図4に示すパターンに従い、約36.5分間、温度が平衡状態であった。約36.5分と約39.8分との間である期間64では、全PBSが1%の濃度(10mg/mL)において、PBSとBSAすべてが1ng/mLの濃度であるNGFを有して、溶剤がマイクロ流体通路に加えられた。測定中、溶剤は能動的に通路を流れず、通路における溶剤速度は約0と推定された。期間64では、電界は通路に付与されなかった(0mV電位)。期間64で決定される周波数変動62は、最小二乗法を用いて約-1.57kHz/分のスロープを有するラインに適合させた。
【0106】
期間66では、約40.2分と約44.6分との間で、陽電界が通路に付与された(+100mV電位)。感知共振子に近い電極に、通路反対側の電極と比較して陰の電荷が与えられた。期間66において決定される周波数変動62は約-4.3kMHZ/分のスロープを有するラインに適合させた。
【0107】
期間68では、約45.4分と約49.8分の間で陰電界が通路に付与された(-100mV電位)。感知共振子に近い電極に、通路の反対側の電極と比較して陰の電荷が与えられた。期間68において決定される周波数変動62は、約1.53kMz/分のスロープを有するラインに適合させた。
【0108】
説明される例では、電界のない状況と比べると、時間の経過とともに、より大きな周波数変動を示して、流体に浮遊する標的物質を含む通路に陽電界を与えることが少なくとも示された。一方、通路に付与される陰電界は、時間の経過とともに、電界のない状態での周波数変動とは逆の周波数変動を示した。
【0109】
例2
別の例では、感知共振子の表面に集中する様々な電界の振幅効果は、マイクロ流体通路を流れる溶剤を使用して説明された。ここで異なった記載がされない限り、例1で記載される物質を用いており、2つの共振子がマイクロ流体通路を有するセンサに設けられた。NGF用の抗体を備える結合物質は、第一共振子(感知共振子)に設けられ、TSH用の抗体を備える非結合物質は、第二共振子(リファレンス共振子)に設けられた。PBSの緩衝液はイオン強度175mMを有して設けられた。
【0110】
2つの電極が通路の両側に対向して設けられ、通路とは電気的に絶縁された。1の電極は共振子の隣に、又は近接して設けられ、他の電極は通路の反対側(例えば、頂部)に設けられた。電界は、選択的に、時間の経過とともに、電位差が連続して0mV、+100mV、+500mVである電極を用いてもたらされた。時間を経た感知出力とリファレンス共振子出力との違いである周波数変動は、様々な電界にさらされると、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定された。
【0111】
図6は、時間を経た感知共振子とリファレンス共振子との間の違いである周波数変動72により得られるポイント測定のグラフ70を示す。期間74では、約0分と約13.5分の間、全PBSの濃度1%(10mg/mL)であるBSAを含む溶液が、50μL/分で通路に導入された。期間74において約10分、PBSの濃度約250pg/mLであるNGFが溶液に対して付与された。
【0112】
期間76において、約13.5分と約20分の間で、電界は付与しないが周波数変動72のスロープでの変化は約13.5分で始まるよう決定された。期間76において決定される周波数変動72のデータポイントは、下記式4により記載される物理モデルに従ってライン77に適合させた。標的物質(NGF)のこのライン適合に従う濃度は、約250pg/mLとなるよう決定された。
【0113】
【数4】
【0114】
“t”は、実験を始めたときの始動時間t=0から経過した時間であり、“f(t)”は時間“t”での共振子の周波数であり、“f(0)”はt=0での共振子の周波数であり、“Fmax”は抗体に対する充填型モデルに基づく共振子の最大周波数変動であり(両結合部を利用することができ標的物質が集まる)、“kon”はアンチゲン(aq)+抗体→アンチゲン-抗体の反応率であり(例えば、アンチゲンは標的物質であり、抗体は結合物質である)、“koff”は、アンチゲン-抗体→アンチゲン(aq)+抗体の反応率であり、“C”はちょうど共振子表面の上にあるアンチゲン濃度である。
【0115】
期間78において、約20分と約25分との間で、陽の電界(+100mV電位)が通路に付与された。期間78において決定される周波数変動72のデータポイントは物理モデルに従いライン79に適合させた。このライン適合に従う標的物質(NGF)の濃度は、約490pg/mLとなるよう決定された、又は、電界なしで期間76において決定される濃度の約2倍であった。
【0116】
期間80において、約25分と約31分との間で、より大きな陽電界(+500mV電位)が通路に付与された。期間78において決定される周波数変動72のデータポイントは物理モデルに従いライン81に適合させた。このライン適合に従う標的物質(NGF)濃度は、約1100pg/mLとなるよう決定された、又は、電界なしで期間76において決定される濃度の約4.4倍であった。
【0117】
この例により説明されたのは、少なくとも、電界振幅が感知共振子表面において標的物質の濃度を増やすことである。特に、感知共振子表面における標的物質の濃度は、通路に付与される電界振幅に比例して大きくなった。電界振幅が大きくなればなるほど(例えば、電極に付与される電位)、感知共振子表面で測定される濃度も大きなものとなった。
【0118】
例3
また別の例では、異なる共振子の周波数変動における電界の異なる種類の効果が、マイクロ流体通路を流れる溶剤を使用して説明された。例1に記載される物質を使用するとき、ここで別途記載しない限り、2の共振子がマイクロ流体通路を備えるセンサに用いられた。NGF用の抗体を含む結合物質が第一共振子(感知共振子)に用いられ、TSH用の抗体を含む非結合物質が第二共振子(リファレンス共振子)に用いられた。PBSの緩衝液は175mMのイオン強度を有してもたらされた。
【0119】
2の電極が通路の反対側に設けられ、通路とは電気的に絶縁された。1の電極は共振子に隣接する、又は近接し、他方電極は通路反対側に設けられた(例えば、頂部)。時間の経過とともに、電位差が連続して約0V、約2.5V、約-0.25Vとなる電極を利用して、電界が選択的にもたらされた。感知共振子とリファレンス共振子との時間を経た出力の違いである周波数変動は、様々な電界にさらされるとき、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定された。
【0120】
図7は、様々なタイプの電界がベースライン補正された状態で通路に付与されたときの時間95、96、97、98を超えた様々な共振子の周波数変動のグラフ90を示す。図8は、ベースライン補正なしのグラフ90の生データのグラフ100を示す。約t=0分と約t=10分との間において、BSA1%である(10mg/mL)PBS流れと、約37℃にコントロールされた温度は平衡状態であった。約t=10分では、サンプルループからのサンプル(BSA1%(10mg/mLにおける1xPBSでのNGF250pg/ml)あるいは供給は、ストリーム(流れ)に向けて噴射され、約t=13分で時間91におけるセンサに到達した。NGFのセンサへの結合はこの期間において観察することができた。時間92では、約t=30分において陽の2.5VDCが電極に対して付与された。反応率の増加はこの期間において観察することができた。時間93では、約t=50分において、デューティサイクル50%である約+2.5Vとデューティサイクル50%の約-0.25Vの振幅の矩形波信号が付与された。反応率は先の期間に対して減少した。時間94を始点として、約t=57分で、t=65分まで、矩形波デューティサイクルは約2.5V振幅で90%に、そして、約-0.25V振幅においては10%に調節された。この率は、再び、先の期間における率と比較して増大した。約t=60分で、サンプルループはスイッチが切られ、サンプルは、約65分、時間99で激減した。この期間は、サンプルが存在する先の期間に比べて明らかに反応率が減少した。
【0121】
こうして、「電気泳動を用いるマイクロ流体センサ」に関する様々な実施態様が開示される。ここでの参照は本開示の部分を形成する図面を伴うものであるが、少なくとも当業者であれば、ここで記載される実施態様の様々な適用例及び変形例が、本開示の範囲及び趣旨を逸脱しないものであることを理解する。例えば、ここで記載される実施態様は、互いに様々な方法で組み合わせることができる。したがって、添付される特許請求の範囲内においてクレームされる発明は、ここに明示した記載以外にも実施することができる。
【0122】
ここで使用される科学及び技術的用語は、特段逆の記載がなければ、技術分野において使用される共通の意味を持つ。ここでもたらされる定義は、しばしは使用される特定用語の理解を容易にするものであって、本開示範囲の限定を意味するものではない。
【0123】
逆の指示がなければ、この明細書及び特許請求の範囲で用いられる特徴サイズ、量、物理特性を示すすべての番号には、「約」という用語によって、すべての例で変更があるものとして理解されるべきである。したがって、逆の指示がなければ、明細書及び添付の特許請求の範囲で設定される数字上のパラメータは近似値であって、ここに記載される開示を利用して当業者によって得られるべき望ましい特性・属性によって変化するものである。
【0124】
エンドポイントによる数字範囲の列挙はこの範囲内に組み込まれるすべての数字を含み(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4と5)、この範囲内のいずれかの域のものである。ここで、ある数字(例えば、50まで)「~まで」又は「以下」という用語は、数字(例えば、50)を含み、数字について「以上」(例えば、5以上)という用語は、例えば“5”という数字を含むものとする。
【0125】
別の記載がなければ、物質のすべての部分、パーセント、率等は、重量/体積によるものとする。
【0126】
「接続する」という用語は互いに“直接に”(互いに直接に接触)又は“間接に”(2の要素間及びこれらに取付けられる1以上の要素を有する)取付けられる要素を示す。
【0127】
向きに関する用語、例えば、「頂上」「底部」「中心」「端」「左」「右」「端部」「近位」及び「遠方」は、要素の関連位置を記載するのに用いられ、実施態様の向きを限定する意味でない。例えば、「頂上」「底部」を有して記載される実施態様は、また、逆の意味での明確な記載がなければ、これら位置について、様々な方向に回転する実施態様を包含する。
【0128】
「実施態様」に関して、「1つの実施態様」、「ある実施態様」、又は「いくつかの実施態様」などを参照すると、実施態様に関して記載される特定の特徴、構成、構造、又は特性は、本開示の少なくとも1の実施態様に含まれるものである。したがって、全体を通して、様々な場所でのこのようなフレーズは、本開示の実施態様と同様のものについて言及する必要は必ずしもない。さらに、特定の特徴、構成、構造、又は、特性は、好ましい方法で1以上の実施態様において組み合わせることができる。
【0129】
「好ましい」及び「好ましくは」という言葉は、本開示の実施態様で言及され、特定の状況下で、特定の利益を受けることができる。しかしながら、他の実施態様でもまた、同様又は他の状況下でも、好ましいものとすることができる。さらには、1以上の好ましい実施態様の列挙は、他の実施態様が役に立たないことを示すものではなく、他の実施態様を本開示の範囲から排除する意図ではない。
【0130】
この明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるものについて、別途記載がなければ、単数形“a”“an”“the”は複数形の指示対象を有する実施態様を包含する。本明細書と添付の特許請求の範囲で使用されるが、別途記載がなければ、“or”という用語は全体を通して“and/or”を含めた意味として用いるものである。
【0131】
ここで使用される“have”“having”“include”“comprise”“comprising”あるいはそのようなものは、制限のない意味で用いられるものであって、全体を通して“including”を意味するが、これに限定はされない。“必須的に構成される=consisting essentially of”“consisting of”やそのようなものは“comprising”やそのようなものに組み込まれる。
【0132】
リストに従う“少なくとも1の”“少なくとも1の~からなる”や“1以上の”という語句は、リストのうちいずれかの項目のうち1つ、及びリストの中の2以上の項目のいずれかの組合せを言及するものである。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8