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特許7010941DNA編集に用いられるシステムおよびその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】DNA編集に用いられるシステムおよびその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220203BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220203BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/55
C12N15/31
A01H1/00 A
A01K67/027
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019523070
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2018088105
(87)【国際公開番号】W WO2018223843
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2019-07-24
(31)【優先権主張番号】201710413147.7
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517225754
【氏名又は名称】クワンチョウ リボバイオ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU RIBOBIO CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ピーリャン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/004261(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/123230(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/100951(WO,A2)
【文献】PNAS,2015年,E7110-E7117
【文献】IOVS,2016年,vol.57, no.13, p.5490-5497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA編集に用いられるシステムであって、システムは甲または乙を含み、
甲は、以下のN1)およびN2):
N1)名称がRNA-2であるRNAまたはRNA-2に関連する生物材料;
N2)名称がRNA-1であるRNAまたはRNA-1に関連する生物材料
を含み、
RNA-2は式Iに示されるRNAであり、
式I: Nx-ncrRNA
式中、NxはCRISPR-Casシステムにおけるスペーサー配列、
ncrRNAは以下の配列またはその修飾物の中の何れか一つ:
a1) SEQ ID NO.1、SEQ ID NO.2、SEQ ID NO.3、SEQ ID NO.4
a2) 配列表におけるSEQ ID NO.1に示されるRNAの修飾物
であり、
RNA-2に関連する生物材料は以下のA1)~A5)の中の何れか一つ:
A1) RNA-2をコードするDNA分子;
A2) A1)のDNA分子を含有する発現カセット;
A3) A1)のDNA分子を含有する組換えベクター、またはA2)の発現カセットを含有する組換えベクター;
A4) A1)のDNA分子を含有する組換え微生物、またはA2)の発現カセットを含有する組換え微生物、またはA3)の組換えベクターを含有する組換え微生物;
A5) A1)のDNA分子を含有する細胞株、またはA2)の発現カセットを含有する細胞株
であり、
RNA-1は以下の配列又はその修飾物の中の何れか一つ:
b1) SEQ ID NO.5、SEQ ID NO.6、SEQ ID NO.7、SEQ ID NO.8
b2) 配列表におけるSEQ ID NO.5に示されるRNAの修飾物
であり、
RNA-1に関連する生物材料は以下のB1)~B5)の中の何れか一つ:
B1) RNA-1をコードするDNA分子;
B2) B1)のDNA分子を含有する発現カセット;
B3) B1)のDNA分子を含有する組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含有する組換えベクター;
B4) B1)のDNA分子を含有する組換え微生物、またはB2)の発現カセットを含有する組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含有する組換え微生物;
B5) B1)のDNA分子を含有する細胞株、またはB2)の発現カセットを含有する細胞株
であり、
ncrRNAとRNA-1とは一部の断片にて相補し、
乙は、RNA-2であり、
細胞または目的DNAの影響を受けることなくDNAの編集を実現できる、
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって
飾物は、SEQ ID NO.1、SEQ ID NO.2、SEQ ID NO.3、もしくはSEQ ID NO.4、またはSEQ ID NO.5、SEQ ID NO.6、SEQ ID NO.7、もしくはSEQ ID NO.8における少なくとも1個のヌクレオチドに対してリボース、リン酸骨格および/または塩基において修飾して得られる物質であり、
修飾は2′-O-メチル修飾、2′-脱酸素修飾、2′-フッ素修飾またはコレステロール修飾である、
ことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシステムであって、
NxがVEGFA遺伝子に由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.9-12、SEQ ID NO.28およびSEQ ID NO.29の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
NxがOct4遺伝子に由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.13-15の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
NxがEMX1遺伝子に由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.16-19の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
Nxがβサラセミア遺伝子に由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.20-22の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
NxがTP53遺伝子に由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.23および/または24に示されるRNAであり、
NxがTP53遺伝子のプロモーターに由来する場合、RNA-2はSEQ ID NO.25-27の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAである、
ことを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1からの何れか一項に記載のシステムであって、
システムはCas9ヌクレアーゼをさらに含む
ことを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項に記載のシステムであって、Cas9ヌクレアーゼはR1)またはR2):
R1) 細菌;
R2) レンサ球菌属、ブドウ球菌属、ロシア(Rothia)菌属、髄膜炎菌属、パービバキュラム(Parvibaculum)菌属、または乳酸桿菌属
に由来する
ことを特徴とするシステム。
【請求項6】
以下の何れか一つのキット:
X3 請求項1からの何れか一項に記載のシステムと、ncrRNAとを含む、DNA編集製品の製造のためのキット;
X6 請求項1または2に記載のシステムと、RNA-1またはRNA-1に関連する生物材料とを含む、DNA編集製品の製造のためのキット;
X9 請求項1からの何れか一項に記載のシステムと、RNA-2またはRNA-2に関連する生物材料とを含む、DNA編集製品の製造のためのキット;
X10 請求項1からの何れか一項に記載のシステムを含む、DNA編集のためのキット;
X11 請求項1からの何れか一項に記載のシステムを含む、生体内または生体外遺伝子発現の干渉のためのキット;
X12 請求項1からの何れか一項に記載のシステムを含む、DNA編集発生の動物、植物または細胞モデルの構築のためのキット。
【請求項7】
生体外DNAを編集する方法であって、請求項1からの何れか一項に記載のシステムを使用してDNAを処理してDNAの編集を実現することを含む方法。
【請求項8】
請求項1からの何れか一項に記載のシステムの製造方法であって、システム中の各物質のそれぞれを別々に包装することを含む製造方法。
【請求項9】
請求項1からの何れか一項に記載のシステムを用いることを含む、DNA編集製品の製造方法。
【請求項10】
請求項1からの何れか一項に記載のシステムを用いることを含む、DNA編集発生の非ヒト動物、植物または細胞モデルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術の分野における、DNA編集に用いられるシステムおよびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR-Casシステムは、細菌と古細菌において長期な進化の過程で形成された獲得免疫防御機構であり、侵入したウイルスおよび外因性DNAの対抗に利用可能である。機能的エレメントによって、CRISPR-CasシステムはI型、II型とIII型のシステムに分類することができる。これら三型のシステムはさらにCasタンパク質をコードする遺伝子によってもっと多くのサブ型に分類することができる。I型およびIII型のCRISPR-CasシステムはcrRNAおよびCasタンパク質という2つのエレメントだけの関与が必要であるが、II型CRISPR-CasシステムはcrRNA、tracrRNAおよびCasタンパク質という3つのエレメントを含む。
【0003】
CRISPR-Cas9システムは、侵入したファージとプラスミドDNAのフラグメントをCRISPRに組み入れ、相応するCRISPR RNAs(crRNAs)によってホモロジー配列の分解を誘導することにより、免疫性を提供するものである。当該システムの動作原理は以下の如くである。crRNA(CRISPR由来RNA)が塩基ペアリングによってtracrRNA(トランス活性化RNA)と結合してtracrRNA-crRNA複合体を形成して、この複合体が、Cas9ヌクレアーゼ(Cas9タンパク質)がcrRNAとペアリングの標的部位にて二本鎖DNAを切断することを誘導する。
【0004】
Cas9にHNHとRuvCという二つの重大なドメインがあり、それぞれがDNA二本鎖の中の一つの一本鎖を切断する。DNA二本鎖切断(DSB)が発生し、細胞の修復機構が起動する。細胞は、非相同末端結合(NHEJ)という精密でない修復法によって遺伝子部位特異的変異を誘発させることもでき、相同組換え(HR)法によって修復し精密な遺伝子部位特異的変異導入または遺伝子置換えを実現することもできる。Cas9は、細菌、ヒト細胞、ゼブラフィッシュやマウスにおいて、すでに成功的にゲノム工程研究が行われた。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、DNA編集に用いられるCRISPR-Casシステムを提供することである。
【0006】
本発明は、まず、DNA編集用のシステムを提供し、当該システムはCRISPR-Casシステムであって、甲または乙を含み、
甲は、以下のN1)およびN2):
N1) 名称がRNA-2であるRNAまたはRNA-2に関連する生物材料;
N2) 名称がRNA-1であるRNAまたはRNA-1に関連する生物材料であり、
RNA-2は式Iに示されるRNAであり、
式I: Nx-ncrRNA
式中、NxはCRISPR-Casシステムにおけるスーサー配列であり、
ncrRNAは以下のa1)~a4)の中の何れか一つであり:
a1) 配列表におけるSEQ ID NO.1に示されるRNA;
a2) a1)の5′端および/または3′端に1個または複数個のヌクレオチドを添加して得られるRNA;
a3) a1)またはa2)において限定したRNAと85%以上の同一性を有するRNA;
a4) 配列表におけるSEQ ID NO.1に示されるRNAの修飾物であり、
RNA-2に関連する生物材料は以下のA1)~A5)の中の何れか一つであり:
A1) RNA-2をコードするDNA分子;
A2) A1)のDNA分子を含有する発現カセット;
A3) A1)のDNA分子を含有する組換えベクター、またはA2)の発現カセットを含有する組換えベクター;
A4) A1)のDNA分子を含有する組換え微生物、またはA2)の発現カセットを含有する組換え微生物、またはA3)の組換えベクターを含有する組換え微生物;
A5) A1)のDNA分子を含有する細胞株、またはA2)の発現カセットを含有する細胞株であり、
RNA-1は以下のb1)~b4)の中の何れか一つであり:
b1) 配列表におけるSEQ ID NO.5に示されるRNA;
b2) b1)の5′端および/または3′端に1個または複数個のヌクレオチドを添加して得られるRNA;
b3) b1)またはb2)において限定したRNAと85%以上の同一性を有するRNA;
b4) 配列表におけるSEQ ID NO.5に示されるRNAの修飾物であり、
RNA-1に関連する生物材料は以下のB1)~B5)の中の何れか一つであり:
B1) RNA-1をコードするDNA分子;
B2) B1)のDNA分子を含有する発現カセット;
B3) B1)のDNA分子を含有する組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含有する組換えベクター;
B4) B1)のDNA分子を含有する組換え微生物、またはB2)の発現カセットを含有する組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含有する組換え微生物;
B5) B1)のDNA分子を含有する細胞株、またはB2)の発現カセットを含有する細胞株であり、
ncrRNAとRNA-1とは一部のフラグメントにて相補して茎領域と環領域を含む構造を構成しており、
乙は、RNA-2である。
【0007】
RNA-2のNx部分が5′端に位置し、RNA-2のncrRNA部分が3′端に位置し、両部分はヌクレオシド結合を介して連結される。NxはRNA配列であって、編集される目的DNAのフラグメントに相補し、CRISPR-Casシステム中のスーサー配列の要求に満足する。
【0008】
Nはリボースヌクレオチドまたはリボースヌクレオチド修飾物であり得、xはNの個数である。
ただし、xは非ゼロの自然数である。xは具体的に以下のe1)~e3)の中の何れか一つである:
e1) 15~22の何れか一つの整数;
e2) 19~21の何れか一つの整数;
e3) 20。
【0009】
RNA-2はncrRNAを介してRNA-1の一部のフラグメントと複合体を形成することができ、CRISPR-Casシステム中のCasタンパク質(即ちCasヌクレアーゼ)は当該複合体と結合してDNAの編集を実現することができる。
【0010】
1個または複数個のヌクレオチドを添加するとは、具体的に1個から10個のヌクレオチドを添加することができる。
【0011】
ここで「同一性」という用語は、天然核酸配列との配列相似性を指す。「同一性」とは、本発明のSEQ ID NO.1またはSEQ ID NO.5に示されるヌクレオチド配列と85%またはそれ以上、または90%またはそれ以上、または95%またはそれ以上の同一性を有するヌクレオチド配列を含むことを意図する。同一性は、人目やコンピュータソフトウェアで評価することが可能である。コンピュータソフトウェアを使用する場合、二つまたは複数個の配列の間の同一性は、パーセント(%)にて表示でき、それは関連配列間の同一性の評価に用いられる。
【0012】
ストリンジェントな条件は、2×SSC、0.1%SDS溶液で68℃でハイブリダイズして、二回(毎回5min)洗浄して、そして、0.5×SSC、0.1%SDS溶液で68℃でハイブリダイズし、二回(毎回15min)洗浄すること、または、0.1×SSPE(または0.1×SSC)、0.1%SDS溶液で65℃でハイブリダイズして洗浄することである。
【0013】
85%以上の同一性は、85%、90%または95%以上の同一性であり得る。
【0014】
当業者が、特に容易に既知の方法、例えば定向進化や点変異誘発の方法によって、本発明のSEQ ID NO.1またはSEQ ID NO.5を変異誘発することができる。それら人工修飾された、本発明のSEQ ID NO.1またはSEQ ID NO.5のヌクレオチド配列と75%またはそれ以上の同一性を有するヌクレオチドは、相同な機能を有していれば、すべて本発明のヌクレオチド配列から由来し且つ本発明と同等の配列である。
【0015】
細胞株は繁殖材料を含まない。
【0016】
上記システムにおいて、
a2) RNAは以下のa21)~a23)の中の何れか一つであり得る:
a21) 長さが12-14ntのRNA;
a22) 長さが12-16ntのRNA;
a23) 長さが12-18ntのRNA。
b2) RNAは以下のb21)~b24)の中の何れか一つであり得る:
b21) 長さが64-66ntのRNA;
b22) 長さが64-68ntのRNA;
b23) 長さが64-70ntのRNA;
b24) 長さが64-86ntのRNA。
【0017】
リボヌクレオチドはA、U、CまたはGであり得る。リボヌクレオチド修飾物は、A、U、CまたはGに対してリボース、リン酸骨格および/または塩基において修飾して得られる物質であり得、
修飾物は、RNA中の少なくとも1個のヌクレオチドに対してリボース、リン酸骨格および/または塩基において修飾して得られる物質である。
【0018】
修飾は、2′-O-メチル修飾、2′-脱酸素修飾、2′-フッ素修飾またはコレステロール修飾であり得る。
【0019】
DNAは、以下のM1)~M5)の中の何れか一つであり得る:
M1) 真核生物のDNA;
M2) 動物のDNA;
M3) 哺乳類動物のDNA;
M4) ヒトのDNA;
M5) マウスのDNA。
【0020】
上記システムにおいて、
a21) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.2に示されるRNAであり得、
a22) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.3に示されるRNAであり得、
a23) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.4に示されるRNAであり得る。
b21) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.6に示されるRNAであり得、
b22) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.7に示されるRNAであり得、
b23) RNAは配列表におけるSEQ ID NO.8に示されるRNAであり得る。
【0021】
修飾は2′-O-メチル修飾、2′-脱酸素修飾、2′-フッ素修飾またはコレステロール修飾であり得る。
【0022】
DNAはVEGFA(Vascular endothelial growth factor A)遺伝子、EMX1(Empty spiracles homeobox 1)遺伝子、Oct4(organic cation/carnitine transporter 4)遺伝子、βサラセミア遺伝子、TP53(tumor protein p53)遺伝子またはTP53遺伝子のプロモーターであり得る。
【0023】
上記システムにおいて、RNA-2はSEQ ID NO.9-29の中の何れか一つの配列に示されるRNAであり得る。
【0024】
DNAがVEGFA遺伝子である場合、RNA-2はSEQ ID NO.9-12、SEQ ID NO.28およびSEQ ID NO.29の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
DNAがOct4遺伝子である場合、RNA-2はSEQ ID NO.13-15の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
DNAがEMX1遺伝子である場合、RNA-2はSEQ ID NO.16-19の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAであり、
DNAがβサラセミア遺伝子である場合、RNA-2はSEQ ID NO.20-22に示されるRNAであり、
DNAがTP53遺伝子である場合、RNA-2はSEQ ID NO.23および/または24に示されるRNAであり、
DNAがTP53遺伝子のプロモーターである場合、RNA-2はSEQ ID NO.25-27の中の少なくとも1個の配列に示されるRNAである。
【0025】
上記システムはCRISPR-Casシステムであり得、具体的に、II型のCRISPR-Casシステム、例えばCRISPR-Cas9システムであり得る。
【0026】
上記システムは、さらにN3)を含み得、N3)はCas9ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼに関連する生物材料であり、
Cas9ヌクレアーゼに関連する生物材料は以下のC1)~C7)の中の何れか一つである:
C1) Cas9ヌクレアーゼをコードする核酸分子;
C2) C1)の核酸分子を含有する発現カセット;
C3) C1)の核酸分子を含有する組換えベクター、またはC2)の発現カセットを含有する組換えベクター;
C4) C1)の核酸分子を含有する組換え微生物、またはC2)の発現カセットを含有する組換え微生物、またはC3)の組換えベクターを含有する組換え微生物;
C5) C1)の核酸分子を含有する細胞株、またはC2)の発現カセットを含有する細胞株。
【0027】
上記システムにおいて、Cas9ヌクレアーゼはR1)またはR2)に由来する:
R1) 細菌;
R2) レンサ球菌属、ブドウ球菌属、ロシア(Rothia)菌属、髄膜炎菌属、パービバキュラム(Parvibaculum)菌属、または乳酸桿菌。
【0028】
レンサ球菌属細菌は具体的に化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)であり得る。ブドウ球菌属細菌は具体的に黄色ブドウ球菌であり得る。Cas9ヌクレアーゼは具体的にGenbank ID:AQM52323.1に示されるタンパク質であり得る。
【0029】
上記システムはさらにCRISPR-Casシステム9のDNA編集方法によるDNA編集においてcrRNA、tracrRNAおよびCas9ヌクレアーゼ以外に必要となる他の試薬および/または器具を含む。
【0030】
上記システムがRNA-2とRNA-1を含有する場合、RNA-1とRNA-2のモル比は1:(1-1.5)であり得る。
【0031】
上記システムがCas9、tracrRNAとcrRNAを含有する場合、Cas9とtracrRNAとcrRNAのモル比は1:(1-20):(1:20)であり得、具体的に1:(1-8):(1:8)であり得、さらに1:(1-4):(1:4)であり得、またさらに1:(2-4):(2-4)であり得る。
【0032】
RNA-2が少なくとも2個のRNAである場合、上記モル比におけるRNA-2は複数個のRNAの総濃度をもって計算する。
【0033】
具体的に、上記システムは、RNA-2のみであることもでき、N1)とN2)から構成されることもでき、N1)、N2)とN3)から構成されることもできる。
【0034】
本発明は、さらに以下のO1)またはO2)を提供する:
O1) RNA-2またはRNA-2に関連する生物材料;
O2) RNA-1またはRNA-1に関連する生物材料。
【0035】
本発明は、さらに以下の何れか一つの応用を提供する:
X1 ncrRNAのcrRNAの製造への応用;
X2 ncrRNAのDNA編集への応用;
X3 ncrRNAのDNA編集製品の製造への応用;
X4 RNA-1のtracrRNAとしての応用;
X5 RNA-1またはRNA-1に関連する生物材料のDNA編集への応用;
X6 RNA-1またはRNA-1に関連する生物材料のDNA編集製品の製造への応用;
X7 RNA-2のcrRNAとしての応用;
X8 RNA-2またはRNA-2に関連する生物材料のDNA編集への応用;
X9 RNA-2またはRNA-2に関連する生物材料のDNA編集製品の製造への応用;
X10 システムのDNA編集への応用;
X11 システムの、生体内(in vivo)または生体外(in vitro)遺伝子発現の干渉への応用;
X12 システムの、DNA編集発生の動物、植物または細胞モデルの構築への応用。
【0036】
上記製品はCRISPR-Casシステムであり得、具体的に、II型のCRISPR-Casシステム、例えばCRISPR-Cas9システムであり得る。
【0037】
本発明はさらにDNAを編集する方法を提供しており、当該方法は上記システムによってDNAを処理してDNAの編集を実現することを含む。
【0038】
上記システムによってDNA編集をする体系において、上記システムがRNA-2を含有する場合、RNA-2の濃度は100-800nMであり得、具体的に200-400nMであり得る。上記システムがRNA-1を含有する場合、RNA-1の濃度は100-800nMであり得、具体的に200-400nMであり得る。CRISPR-Cas9システムはさらにCas9ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼに関連する生物材料を含有することができる。
【0039】
上記システムにCas9ヌクレアーゼを含有するときに、Cas9ヌクレアーゼの濃度が20-400nMであり得、具体的には、100-400nM,さらに100-200nMであり得る。上記システムにCas9ヌクレアーゼをコードする遺伝子を含有するベクターを含むとき、上記ベクターの使用量が1-200μgであり得、さらに20-100μg,よりさらに30-50μgあるいは1-5μgであり得る。上記ベクターの使用量が好ましく3μgである。
【0040】
CRISPR-Cas9システムによって細胞中の遺伝子を編集する場合、上記体系における細胞とRNA-2の比率は0.5万-6万の細胞:100nM RNA-2であり得、さらに0.75万-4万の細胞:100nM RNA-2であり得、またさらに1-1.25万の細胞:100nM RNA-2であり得る。
【0041】
上記細胞は真核細胞であり得る。上記細胞はさらに哺乳類動物細胞であり得、例えば293T細胞、HeLa細胞、THP1細胞、HUVEC細胞またはC2C12マウス筋芽細胞であり得る。
【0042】
本発明はさらに上記システムの製造方法を提供しており、当該方法は上記システムにおける各物質のそれぞれを別々包装することを含む。
【0043】
上記システムの製造方法は、上記システムの各RNAを合成することを含み得る。上記合成は化学法によって合成し得る。
【0044】
本発明では、上記DNAはすべて以下のM1)~M5)の中の何れか一つであり得る:
M1) 真核生物のDNA;
M2) 動物のDNA;
M3) 哺乳類動物のDNA;
M4) ヒトのDNA;
M5) マウスのDNA。
【0045】
編集の効率は、少なくとも1%或いは1%以上であり、例えば2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%または90%である。
【0046】
本発明において、各配列の1番目はすべてその配列の5′末端である。
【0047】
上記DNA編集はDNAに対する切断であり得る。
【0048】
実験の証明において、本発明のDNA編集に用いられるシステムはCRISPR-Cas9システムとしてDNA編集に用いることができ、ここでは、crRNAであるRNA-2中のncrRNA部分の長さが14ntとする場合(即ちncrRNA2の場合)、Cas9の酵素消化効率が最高となり、生体外の酵素消化効果が89.2%、細胞内の酵素消化効果が29.4%となる。tracrRNAであるRNA-1の長さが66ntとする場合、Cas9の酵素消化効果が最適となり、生体外の酵素消化効果が90.7%、細胞内の酵素消化効果が29.8%となる。また、RNA-2が修飾された後、CRISPR-Cas9システム中のCas9の酵素消化効果は明らかな変化がない。RNA-2およびRNA-1は何れもCRISPR-Cas9システムエレメントがCRISPR-Cas9システムによって目的DNAを編集するときに用いることができる場合、DNAの編集が細胞および目的DNAの影響を受けなく、何れもDNAの編集を実現でき、しかも、当該システムによって直接に動物生体内のDNAを編集することもできる。当該CRISPR-Cas9システムによってDNAを編集するときに、さらに、複数個の配列が異なるRNA-2によって編集の効率をあげることができ、Cas9を安定に発現する細胞によってDNA編集の効率を向上できる。本発明のRNA-2およびRNA-1の配列が短く、化学合成による獲得が容易で、RNAの純度および生産規模の上昇に役たち、そして、CRISPR-Cas9システムの製造と応用を簡単化させる。また化学合成したRNAエレメントはプラスミド発現が必要でなく、プラスミド構築の問題(例えばプラスミド適合性、プラスミドベクターのキャパシティ、複数個のプラスミドからなる系の構築困難等)を回避でき、しかも、化学修飾はより容易にでき、生体内応用に適宜である。上記から、本発明のRNA-2およびRNA-1はCRISPR-Cas9システム中のcrRNAおよびtracrRNAエレメントとして目的DNAの編集に用いることが可能であると分かった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は異なるcrRNAの場合のCas9の生体外酵素消化効果である。
図2図2は異なるcrRNAの場合のCas9の細胞内酵素消化効果である。
図3図3は異なるtracrRNAの場合のCas9の生体外酵素消化効果である。
図4図4は異なるtracrRNAの場合のCas9の細胞内酵素消化効果である。
図5図5はcrRNAの修飾の、Cas9の生体外酵素消化効果への影響である。
図6図6はcrRNAの修飾の、Cas9の細胞内酵素消化効果への影響である。
図7図7はVEGFA遺伝子に関して異なる細胞株におけるCas9ヌクレアーゼの切断効果である。
図8図8は異なるOct4-E-T1-crRNA濃度のCas9ヌクレアーゼの切断効果である。ここで、800、400と200はすべてOct4-E-T1-crRNAの濃度であり、単位は共にnMである。
図9図9は異なるcrRNAの場合のCas9ヌクレアーゼのEMX1遺伝子のDNAモジュールに対する生体外切断効果である。ここで、E1R、E7F、Ee3FとE2FはそれぞれE1R-crRNA、E7F-crRNA、Ee3F-crRNAとE2F-crRNAを示す。
図10図10は異なるcrRNAの場合のCas9ヌクレアーゼの生体外切断効果である。ここで、Beta-3-T1、Beta-3-T3とBeta-5-T3はそれぞれBeta-3-T1-crRNA、Beta-3-T3-crRNAとBeta-5-T3-crRNAを示す。
図11図11は異なるcrRNAの場合のOct4遺伝子の細胞内切断効果である。ここで、E-T1、E-T2とE-T3はそれぞれOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAとOct4-E-T3-crRNAを示す。
図12図12は異なるEe3F-crRNA用量の場合のCas9ヌクレアーゼのEMX1遺伝子に対する細胞内切断効果である。ここで、400、200、100および50はすべてEe3F-crRNAの用量であり、単位は共にngである。
図13図13は異なるcrRNAの場合のヌクレアーゼの遺伝子に対する細胞内切断効果である。ここで、Beta-3-T1、Beta-3-T3とBeta-5-T3はそれぞれBeta-3-T1-crRNA、Beta-3-T3-crRNAとBeta-5-T3-crRNAを示す。
図14図14はマウス細胞(C2C12)とマウス生体内(in vivo)のVEGFA遺伝子切断効果である。
図15図15はTP53フラグメントのプロモーターおよびエキソン領域の細胞内切断効果である。
図16図16はTP53フラグメントのプロモーターおよびエキソン領域の生体外切断効果である。
図17図17は複数個のcrRNAの場合のCas9ヌクレアーゼのOct4遺伝子に対する生体外切断効果である。ここで、MixはOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAとOct4-E-T3-crRNAの共通実験結果を示し、ET2はOct4-E-T2-crRNAを示す。
図18図18は複数個のcrRNAの場合のCas9ヌクレアーゼのOct4遺伝子に対する細胞内切断効果である。ここで、MixはOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAとOct4-E-T3-crRNAの共通実験結果を示し、ET2はOct4-E-T2-crRNAを示す。
図19図19は異なるCas9ドナーの場合の酵素消化効果である。
図20図20は異なるCas9濃度の場合の酵素消化効果である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、具体的な実施の形態を組み合わせて本発明のさらなる詳細な説明を行う。挙げられる実施例は、本発明を説明するために用いられるもので、本発明の範囲を限定する意図がない。以下の実施例における実験方法は、特別な説明がない限り、すべて通常の方法である。以下の実施例に用いられる材料、試薬、機器等は、特別な説明がない限り、すべて商業的に得られる。以下の実施例中の定量試験は、すべて三回の重複な実験が設置され、その結果は平均値を取る。
【0051】
【0052】
ここで、Cas9ヌクレアーゼの配列はNCBIにおけるGenbank ID:AQM52323.1に示される配列である。当該タンパク質は化膿性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に由来する。
以下の実施例におけるCas9-293T細胞、Cas9-HeLa細胞、Cas9-THP-1細胞およびCas9-HUVEC細胞は、広州易錦生物技術有限公司のGenome-TALER(商標)&Genome-CRISPR(商標)ヒトAAVS1 Safe Harbor遺伝子を試薬カセット(Catalog#SH-AVS-K100)にノックインして、293T細胞、HeLa細胞、THP-1細胞およびHUVEC細胞のそれぞれにCas9のコーディング遺伝子を導入して得られる細胞である。
【0053】
【実施例
【0054】
実施例1
DNA編集に用いられるCRISPR-Cas9システムエレメントの製造。
【0055】
本実施例におけるDNA編集に用いられるCRISPR-Cas9システムエレメントはcrRNAおよびtracrRNAである。
crRNAは式Iに示されるRNAである。
式I: Nx-ncrRNA
ただし、Nはリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチド修飾物の中の何れか一つであり、リボヌクレオチドはA、U、CおよびGの中の何れか一つであり、リボヌクレオチド修飾物はA、U、CまたはGに対して2′-O-メチル修飾またはコレステロール修飾して得られる物質であり、
xはNの個数であって、20であり、
ncrRNAはncrRNA1、ncrRNA2、ncrRNA2y、ncrRNA3およびncrRNA4の中の何れか一つであり、
ncrRNA1は配列表におけるSEQ ID NO.1に示されるRNAであり、
ncrRNA2は配列表におけるSEQ ID NO.2に示されるRNAであり、
ncrRNA2yはそれぞれncrRNA2の5′の開始端の第10、第11および第13位のヌクレオチドに対して2′-O-メチル修飾して得られる物質であり、
ncrRNA3は配列表におけるSEQ ID NO.3に示されるRNAであり、
ncrRNA4は配列表におけるSEQ ID NO.4に示されるRNAである。
tracrRNAはtracrRNA1、tracrRNA2、tracrRNA3とtracrRNA4であり、
tracrRNA1は配列表におけるSEQ ID NO.5に示されるRNAであり、
tracrRNA2は配列表におけるSEQ ID NO.6に示されるRNAであり、
tracrRNA3は配列表におけるSEQ ID NO.7に示されるRNAであり、
tracrRNA4は配列表におけるSEQ ID NO.8に示されるRNAである。
配列表における各配列の1番目は共に同配列の5′末端である。
【0056】
実施例2
異なるncrRNAの長さのDNA編集効率への影響
一 生体外酵素消化の測定
1 DNAテンプレートの製造
293T細胞ゲノムDNAをテンプレートとして、Phusion酵素(即ちPhusion High-Fidelity DNA Polymerase)を用いて2回のPCRによる増幅してVEGFA(Vascular endothelial growth factor A)標的遺伝子断片、即ちDNAテンプレートを得た。1回目のPCRによる増幅に用いられるプライマーはVEGFA-F1・VEGFA-R1とし、2回目のPCRによる増幅は1回目のPCRによる増幅の生成物をテンプレートとしてプライマーVEGFA-F3・VEGFA-R3を使用して増幅した。2回目のPCRによる増幅生成物(即ちDNAテンプレート)の長さが485bpであった。
【0057】
2 Cas9の生体外酵素消化
Cas9ヌクレアーゼ、10×Cas9Buffer、crRNA、tracrRNAとHOを均一に混ぜて、37℃で15minインキュベートして、それから、工程1におけるDNAテンプレートを入れて均一に混ぜて、そして37℃で70minインキュベートした。反応系は具体的に表3に示される。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。ここでは、crRNAはVEGFA-crRNA1、VEGFA-crRNA2、VEGFA-crRNA3およびVEGFA-crRNA4とした。各反応系においてある1種類のcrRNAとした。VEGFA-crRNA1、VEGFA-crRNA2、VEGFA-crRNA3およびVEGFA-crRNA4の構造式は実施例1の式Iの通りに示されており、Nx部分は同様で、ncrRNAはそれぞれ実施例1のncrRNA1、ncrRNA2、ncrRNA3およびncrRNA4とする。Nxの配列は共に5′-CCACAGGGAAGCUGGGUGAA-3′であり、当該配列はVEGFA遺伝子の一部の配列に相補し、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。
【0058】
【0059】
3 磁気ビーズによる精製
1) 30μlの工程2における酵素消化生成物をEP管中に移した。
2) 2倍体積分の磁気ビーズをEP管中におけるサンプルとボルテックスシェイクして充分に均一に混ぜて、5-10min放置した。
3) EP管を磁力ラックに置いて、すべての磁気ビーズを側壁に吸着させたときに、上澄みを吸い上げた。
4) EP管中に200μlの80%(体積パーセント)のエタノール水溶液を入れて、磁気ビーズを洗浄して脱離させた。
5) 上澄み液を吸い取り、室温で3-5min放置し、壁に付けられる磁気ビーズに皹が発生したときに、20μlの水を入れて溶解させた。
6) 水を入れた後のEP管を磁力ラックから外して、3-5min放置した。
7) EP管を磁力ラックに置き戻して、上澄みはサイクルのサンプルとした。
【0060】
4 Agilent(アジレント)2200核酸自動電気泳動システムによる測定
1-2μlのサンプルおよびそれと等体積の染料を取って同システムにより測定した。
【0061】
5 酵素消化の結果
(1) 計算方法
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によってDNA断片の分布と濃度結果を得て、数式によって酵素消化効率が得られた。
f(cut)=(b+c)/(a+b+c);
ただし、aは切断されなかった断片のモル濃度(pmol/l)であり、b、cはそれぞれ切断された断片のモル濃度(pmol/l)である。
【0062】
(2) 結果解析
図1から、crRNAの長さが32nt(VEGFA-crRNA1)、34nt(VEGFA-crRNA2)、36nt(VEGFA-crRNA3)および38nt(VEGFA-crRNA4)とする場合、crRNA、tracrRNA、Cas9を含む生体外酵素消化系が485bpのDNAテンプレートを切断することができると分かった。crRNAの長さが34ntとする場合、Cas9酵素消化効果は最適(Indel%は89.2%)となり、即ちncrRNA部分の長さが14ntとする場合(即ちncrRNA2の場合)、Cas9酵素消化効率が最大となる。
【0063】
二 Cas9細胞内酵素消化の測定
1 細胞トランスフェクション
(1) Cas9-293T細胞は37℃で5%のCO2を培養条件とし、10%のウシ胎児血清を含有するDMEM培地を用いてインキュベーター内で培養された。ここで、Cas9-293T細胞は遺伝子編集によってCas9ヌクレアーゼをコーディングする遺伝子が安定的に導入され、Cas9ヌクレアーゼが発現できる(配列はNCBIにおけるGenbank ID:AQM52323.1に示す配列である)。
【0064】
(2) トランスフェクションの前日に、Cas9ヌクレアーゼを安定的に発現するCas9-293T細胞を24ウェルプレート中にプレーティングした。
【0065】
(3) 細胞密度を4×10-5×10個/mL程度に調整して、Lipo2000(Lipofectamine2000)を用いてcrRNAおよびtracrRNAをトランスフェクションした。ここで、crRNAは工程1におけるVEGFA-crRNA1、VEGFA-crRNA2、VEGFA-crRNA3およびVEGFA-crRNA4とした。各反応系においてある1種類のcrRNAとした。tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。具体的な方法は以下の通りである。
A 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管に置いて、1μlのLipo2000を入れて、静かに均一に混ぜて、室温で5min放置した。
B 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管において、200ngのcrRNAと300ngのtracrRNAを入れて、充分に均一に混ぜた。
C AおよびBで得られる溶液を混合して、室温で20min放置した。
D (1)の24ウェル培養プレートにおける培地を一部吸い出し、ウェル中における培地の残量が300μl程度になり、Cで得られる溶液を培養ウェルに添加して均一に混ぜた。
E 3-6h後に培養ウェルに10%のウシ胎児血清を含有するDMEM培地を1mlまで補充して、細胞をインキュベーターに置き戻して48h培養した後、細胞ゲノムDNAを抽出した。
【0066】
2 細胞ゲノムDNAの抽出
(1)TIANGEN血液・組織・細胞ゲノムDNA抽出キットのプロトコールに基づいてDNAを抽出した。
(2) アガロースゲル電気泳動によってDNAの抽出効果を測定し、またDNA濃度および純度を測定した。
【0067】
3 ネステッドPCRによる目的DNA断片の増幅
(1)ネステッドPCRによる増幅
Phusion酵素を用いてVEGFA標的遺伝子を増幅した。1回目のPCRによる増幅に用いられるプライマーはVEGFA-F1・VEGFA-R1とし、2回目のPCRによる増幅は1回目のPCRによる増幅生成物をテンプレートとしてプライマーVEGFA-F3・VEGFA-R3を用いて増幅した。
【0068】
(2)工程(1)で得られる2回目のPCR生成物をアニールして、アニール生成物を直接に次の工程の酵素消化に用いた。
【0069】
アニール系は以下の通りである。ここで、Buffer(バッファー)2はT7 Endonuclease(エンドヌクレアーゼ)I(NEB Art. No. : M0302L)とする。
【0070】
PCR装置でアニール反応した。アニール条件は以下の通りである。
【0071】
4 T7EI酵素消化効率の測定
NEB T7のエンドヌクレアーゼI(T7EI)によって工程3のアニール生成物を酵素で消化し、37℃で40minインキュベートした後、1μlのプロテアーゼKを入れて、37℃で5minインキュベートした。
【0072】
酵素消化系(20μl):
【0073】
5 電気泳動による測定
酵素消化サンプルはAgilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定に供した。
【0074】
6 酵素消化の結果
(1) 計算方法は工程一と同様である。
(2) 解析
結果が図2に示される。結果から、crRNA長さが32nt(VEGFA-crRNA1)、34nt(VEGFA-crRNA2)、36nt(VEGFA-crRNA3)および38nt(VEGFA-crRNA4)としたいずれの場合でも、Casが485bpの目的DNAの目的断片を切断できると分かった。crRNA長さが34ntとした場合、Cas9酵素消化効果が最適(Indel%は29.4%)となり、即ちncrRNA部分の長さが14ntとした場合(即ちncrRNA2の場合)、Cas9酵素消化効率が最大となった。
【0075】
実施例3
異なるtracrRNA長さのDNA編集効率への影響
一 生体外酵素消化の測定
1 方法
実施例2の工程一の方法に従い、crRNAがVEGFA-crRNA5とし、tracrRNAがそれぞれ実施例1のtracrRNA1、tracrRNA2、tracrRNA3およびtracrRNA4とする場合のcrRNA、tracrRNA、Cas9を含む生体外酵素消化系の酵素消化効率をそれぞれ測定した。各種類の反応系ごとに、ある1種類のtracrRNAとして、また、tracrRNAを代えて水を用いてネガティブコントロール(neg.)としている。
【0076】
ここで、VEGFA-crRNA5の配列はUGACUGCCGUCUGCACACCC GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.28)である。
【0077】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度の結果(図3)から、tracrRNA長さが64nt(tracrRNA1)、66nt(tracrRNA2)、68nt(tracrRNA3)および70nt(tracrRNA4)とした何れの場合でも、Cas9が485bpのDNAテンプレートを切断できるという結論が得られる。Indel%の結果から、tracrRNA長さが66ntとした場合(即ちtracrRNA2の場合)、Cas9の酵素消化効果が最適となり、Indel%が90.7%であったと分かった。
【0078】
二 細胞内酵素消化の測定
1 方法
実施例2の工程二の方法に従い、crRNAが工程一におけるVEGFA-crRNA5とし、tracrRNAがそれぞれ実施例1のtracrRNA1、tracrRNA2、tracrRNA3およびtracrRNA4とした場合のCas9の酵素消化効率をそれぞれ測定した。各種類の反応系ごとに、ある1種類のtracrRNAとして、また、tracrRNAを代えて水を用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0079】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果(図4)から、tracrRNA長さが64nt(tracrRNA1)、66nt(tracrRNA2)、68nt(tracrRNA3)および70nt(tracrRNA4)としたいずれの場合でも、Cas9が485bpの目的断片を切断できるという結論が得られる。Indel%の結果から、tracrRNA長さが66ntとした場合(即ちtracrRNA2の場合)、Cas9の酵素消化効果が最適となり、Indel%が29.8%であったと分かった。
【0080】
実施例4
異なる修飾の酵素消化測定
一 生体外酵素消化の測定
1 方法
293T細胞ゲノムをテンプレートとして、標的遺伝子VEGFA断片を増幅する。具体的な方法は実施例1と同様である。
【0081】
実施例2の工程一の方法に従い、crRNAがそれぞれVEGFA-crRNA2-1およびVEGFA-crRNA2-2とし、tracrRNAが実施例1のtracrRNA2とした場合の、crRNA、tracrRNA、Cas9を含む生体外酵素消化系の酵素消化効率を測定した。各反応系ごとにある1種類のcrRNAとした。実施例2のVEGFA-crRNA2をコントロールとし、tracrRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0082】
ここでは、VEGFA-crRNA2-1は実施例3のcrRNA5の2番目、30番目、31番目および33番目の位置に対して2′-O-メチルにより修飾して得られる物質であり、具体的に以下である:
UGmACUGCCGUCUGCACACCCGUUUUAGAGCmUmAUmG mは2′-O-メチル修飾を示す。
VEGFA-crRNA2-2はcrRNA2に対してコレステロールにより修飾して得られる物質であり、具体的に以下である:
Chol-UGACUGCCGUCUGCACACCCGUUUUAGAGCUAUGCholはコレステロールによる修飾を示す。
【0083】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果である図5から、crRNAに対して化学修飾(メチル化修飾VEGFA-crRNA2-1、コレステロール修飾VEGFA-crRNA2-2)した後、いずれの場合もCas9ヌクレアーゼが485bpの目的断片を切断でき、VEGFA-crRNA2と比べて酵素消化効率は明らかな変化がないと分かった。
【0084】
二 細胞内酵素消化の測定
1 方法
実施例2の工程二の方法に従い、crRNAがそれぞれ工程一におけるVEGFA-crRNA2-1とVEGFA-crRNA2-2とし、tracrRNAが実施例1のtracrRNA2とした場合のCas9の酵素消化効率をそれぞれ測定した。各反応系ごとにある1種類のcrRNAとした。実施例2のVEGFA-crRNA2をコントロールとして、crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0085】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果である図6から、crRNAに対して化学修飾(メチル化修飾VEGFA-crRNA2-1、コレステロール修飾VEGFA-crRNA2-2)した後、いずれの場合も485bpの目的断片を切断でき、VEGFA-crRNA2と比べて酵素消化効率は明らかな変化がないと分かった。
【0086】
実施例5
異なる細胞株の酵素消化測定
1 方法
実施例2の工程二の方法に従い、Cas9-293T細胞をCas9-HeLa細胞、Cas9-THP-1細胞とCas9-HUVEC細胞にそれぞれ替えて、他の工程が変わらなく、異なる細胞株のCas9酵素消化効率への影響を測定した。各反応系ごとにある1種類の細胞とした。用いられるcrRNAは実施例2のVEGFA-crRNA2とし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とする。tracrRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0087】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度の結果である図7から、異なるタイプの細胞株において、crRNAおよびtracrRNAをトランスフェクションした後、いずれの場合もCas9ヌクレアーゼが目的断片を切断できると分かられ、且つ各ネガティブコントロールの結果からも、いずれの場合もネガティブコントロールの酵素消化効率が0となると示される。
【0088】
実施例6
異なる遺伝子の酵素消化効率の測定
標的遺伝子はOct4(organiccation/carnitine transporter 4)遺伝子、EMX1(Empty spiracles homeobox 1)遺伝子、Beta-3遺伝子およびBeta-5遺伝子とした。ここで、Beta-3およびBeta-5共はβサラセミア遺伝子であり、Beta-3遺伝子はβサラセミア遺伝子変異誘発位点CD17(HBB:c.52A>T)を含有し、Beta-5遺伝子はβサラセミア遺伝子変異誘発位点CD17(HBB:c.52A>T)を含有する。
【0089】
Oct4遺伝子に用いられるcrRNAはOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAおよびOct4-E-T3-crRNAとし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAの構成は実施例1の式Iに示されるように、各crRNAのncrRNA部分は同様で、すべて実施例1のncrRNA2としたが、Nx部分は異なる。各crRNAの配列は以下である。
Oct4-E-T1-crRNA: GGUUAUUUCUAGAAGUUAGG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.13)
Oct4-E-T2-crRNA: CUUCUACAGACUAUUCCUUG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.14)
Oct4-E-T3-crRNA: GGAAAGGGGAGAUUGAUAAC GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.15)
【0090】
EMX1遺伝子に用いられるcrRNAはE1R-crRNA、E7F-crRNA、Ee3F-crRNAおよびE2F-crRNAとし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAの構成は実施例1の式Iに示されるように、各crRNAのncrRNA部分は同様で、すべて実施例1のncrRNA2としたが、Nx部分は異なる。各crRNAの配列は以下である。
E1R-crRNA: AAGGCCGUGCGGAUCCGCUU GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.16)
E7F-crRNA: AGGUCCGACGUGUUGGAGUG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.17)
Ee3F-crRNA: CGAUGUCACCUCCAAUGACU GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.18)
E2F-crRNA: UCUCGCCCUCGCAGCUGCUG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.19)
【0091】
Beta-3遺伝子に用いられるcrRNAはBeta-3-T1-crRNAおよびBeta-3-T3-crRNAとし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAの構成は実施例1の式Iに示されるように、各crRNAのncrRNA部分は同様で、すべて実施例1のncrRNA2としたが、Nx部分は異なる。各crRNAの配列は以下である。
Beta-3-T1-crRNA: GUGUGGCAAAGGUGCCCUUG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.20)
Beta-3-T3-crRNA: ACCAAUAGAAACUGGGCAUG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.21)
Beta-5遺伝子に用いられるcrRNAはBeta-5-T3-crRNAとし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAの構成は実施例1の式Iに示され、配列は以下である。
Beta-5-T3-crRNA: CGUAAAUACACUUGCAAAGG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.22)
【0092】
一 生体外酵素消化の測定
1 DNAテンプレートの製造
293T細胞ゲノムをテンプレートとして、標的遺伝子であるOct4遺伝子、EMX1遺伝子、Beta-3遺伝子およびBeta-5遺伝子の断片、即ちDNAテンプレートを増幅する。
【0093】
Oct4遺伝子のDNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはOct4-outer-F1およびOct4-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーはOct4-inner-F1およびOct4-inner-R1とした。
【0094】
EMX1遺伝子のDNAテンプレートはEMX1-E2F、EMX1-E1R、EMX1-E7FおよびEMX1-Ee3Fとし、各テンプレートに用いられるプライマーは以下の通りである。
EMX1-E2F: DNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはE1-1R/2F-WF/NFおよびE1-1R/2F-WRとし、2回目の増幅に用いられるプライマーはE1-1R/2F-WF/NFおよびE1-1R/2F-NRとした。
EMX1-E1R: DNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはE1-1R/2F-WF・NFおよびE1-1R・2F-WRとし、2回目の増幅に用いられるプライマーはE1-1R・2F-WF・NFおよびE1-1R・2F-NRとした。
EMX1-E7F: DNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはE1-7-F-WFおよびE1-7-F-WRとし、2回目の増幅に用いられるプライマーはE1-7-F-NFおよびE1-7-F-NRとした。
EMX1-Ee3F: DNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはE1-e3F-WFおよびE1-e3F-WRとし、2回目の増幅に用いられるプライマーはE1-e3F-NFおよびE1-e3F-NRとした。
Beta-3遺伝子のDNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはBeta-outer-F1およびBeta-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーはBeta3-inner-F1およびBeta3-inner-R1とした。
Beta-5遺伝子のDNAテンプレートの1回目の増幅に用いられるプライマーはBeta-outer-F1およびBeta-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーはBeta5-inner-F1およびBeta5-inner-R1とした。
【0095】
2 Cas9の生体外酵素消化
実施例2の工程一における2~5の方法に従い、crRNA、tracrRNAおよびCas9を含有する生体外酵素消化系を用いて工程1の各DNAテンプレートを酵素で消化して、各反応系ごとにある1種類のcrRNAとした。tcrRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0096】
2ー1 Oct4遺伝子
Oct4-E-T1-crRNAが異なる濃度(200nM、400nMおよび800nM)とする場合のCas9の生体外酵素消化系の酵素消化効率を測定した。各系におけるtracrRNAの濃度はcrRNAの濃度によって違って、同一の反応系においてtracrRNAの濃度とcrRNA濃度とが同じであるように維持するが、他の物質の濃度はすべて表3に示される。
【0097】
結果から、Oct4-E-T1-crRNAの濃度が200nM、400nMおよび800nMとするいずれの場合でも、Cas9がOct4遺伝子のDNAテンプレートを切断できる(図8)と分かった。
【0098】
2ー2 EMX1遺伝子
異なるcrRNA(E1R-crRNA、E7F-crRNA、Ee3F-crRNAおよびE2F-crRNA)のCas9によるEMX1遺伝子のDNAテンプレートの生体外酵素消化の酵素消化効率を測定する。EMX1遺伝子のDNAテンプレートであるEMX1-E2F、EMX1-E1R、EMX1-E7FおよびEMX1-Ee3Fに対応するcrRNAhはそれぞれE2F-crRNA、E1R-crRNA、E7F-crRNAおよびEe3F-crRNAであり、各系は何れも表3に示される。
【0099】
結果から、異なるcrRNAは何れもEMX1遺伝子のDNAテンプレートを切断できる(図9)と分かった。
【0100】
2ー3 Beta-3遺伝子およびBeta-5遺伝子
Beta-3-T1-crRNAおよびBeta-3-T3-crRNAが存在した場合のCas9によるBeta-3遺伝子のDNAテンプレートの生体外酵素消化の酵素消化効率、以およびBeta-5-T3-crRNAが存在した場合のCas9によるBeta-5遺伝子のDNAテンプレートの生体外酵素消化の酵素消化効率を測定した。
【0101】
結果から、Beta-3-T1-crRNAおよびBeta-3-T3-crRNAが存在したいずれの場合でもCas9がBeta-3遺伝子のDNAテンプレートを切断でき、Beta-5-T3-crRNAが存在した場合、Cas9がBeta-5遺伝子のDNAテンプレートを切断できる(図10)と分かった。
【0102】
二 細胞内酵素消化の測定
実施例2の工程二の方法に従い、Cas9ヌクレアーゼのOct4遺伝子、EMX1遺伝子、Beta-3遺伝子およびBeta-5遺伝子に対する酵素消化効率を測定した。各反応系ごとにある1種類のcrRNAとした。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0103】
Oct4遺伝子に用いられるcrRNAはOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAおよびOct4-E-T3-crRNAとし、方法は何れも実施例2の工程二と同様であった。ネステッドPCRによる目的DNA断片の増幅において、Oct4遺伝子に用いられるプライマーは、1回目の増幅に用いられるプライマーをOct4-outer-F1およびOct4-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーをOct4-inner-F1およびOct4-inner-R1とした。結果から、異なるcrRNAが存在する何れの場合でも、Cas9ヌクレアーゼがOct4遺伝子を切断できる(図11)と分かった。
【0104】
EMX1遺伝子に用いられるcrRNAはEe3F-crRNAとし、Ee3F-crRNAの用量はそれぞれ50ng、100ng、200ng、400ngとした。同一の反応系においてtracrRNAの濃度とcrRNA濃度とが同じであるように維持して、他の物質の用量および方法はいずれも実施例2の工程二と同様であった。ネステッドPCRによる目的DNA断片の増幅において、EMX1遺伝子に用いられるプライマーは、1回目の増幅に用いられるプライマーをE1-e3F-WFおよびE1-e3F-WRとし、2回目の増幅に用いられるプライマーをE1-e3F-NFおよびE1-e3F-NRとした。結果から、異なる用量のcrRNAの何れの場合でも、Cas9ヌクレアーゼがEMX1遺伝子を切断できる(図12)と分かった。
【0105】
Beta-3遺伝子に用いられるcrRNAはBeta-3-T1-crRNAおよびBeta-3-T3-crRNAとし、Beta-5遺伝子に用いられるcrRNAはBeta-5-T3-crRNAとした。方法は何れも実施例2の工程二と同様であった。ネステッドPCRによる目的DNA断片の増幅において、Beta-3遺伝子に用いられるプライマーは、1回目の増幅に用いられるプライマーをBeta-outer-F1およびBeta-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーをBeta3-inner-F1およびBeta3-inner-R1とし、また、Beta-5遺伝子に用いられるプライマーは、1回目の増幅に用いられるプライマーをBeta-outer-F1およびBeta-outer-R1とし、2回目の増幅に用いられるプライマーをBeta5-inner-F1およびBeta5-inner-R1とした。結果から、Beta-3-T1-crRNAおよびBeta-3-T3-crRNAが存在する何れの場合でもCas9ヌクレアーゼがBeta-3遺伝子を切断でき、Beta-5-T3-crRNAが存在する場合、Cas9ヌクレアーゼがBeta-5遺伝子を切断できる(図13)と分かった。
【0106】
実施例7
マウスゲノムVEGF遺伝子の酵素消化の測定
一 細胞内酵素消化の測定
実施例2の工程二の方法に従い、Cas9-293T細胞を、Cas9を含有するC2C12マウス筋芽細胞に替えて、他の工程が変わらなく、Cas9を含有するC2C12マウス筋芽細胞においてCas9のVEGFA遺伝子酵素消化効率への影響を測定した。用いられるcrRNAは修飾されたVEGFA-crRNA6、即ちVEGFA-crRNA6-1とし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0107】
VEGFA-crRNA6: AAGAGGAGAGGGGGCCGCAG GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.29)
VEGFA-crRNA6-1はVEGFA-crRNA6の2番目、30番目、31番目および33番目の位置に対して2′-O-メチルで修飾して得られる物質であり、具体的に以下である。
AAmGAGGAGAGGGGGCCGCAG GUUUUAGAGCmUmAUmG
mは2′-O-メチル修飾を示す。
【0108】
Cas9を含有するC2C12マウス筋芽細胞の製造方法は以下の通りである。
1 Lipo2000によるプラスミドPX260のトランスフェクション
(1) 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管に置いて、1μlのLipo2000を入れて、均一に混ぜた後、室温で5min放置した。
(2) 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管に置いて、1μμgのPX260プラスミドを入れて、均一に混ぜた。
(3) (1)および(2)で得られる溶液を混合して、室温で20min放置した。
(4) C2C12マウス筋芽細胞を培養した24ウェル培養プレートにおける培地を一部吸い出し、ウェル中における培地残量が300-500μl程度になり、(3)で得られたサンプルを培養ウェルに入れて、3-6h後に培養ウェルに10%のウシ胎児血清を含有するDMEM培地を1mlまで補充して、細胞をインキュベーターに置き戻して培養した。
【0109】
2 プラスミドのトランスフェクションの24h後に、Lipo2000によってcrRNAおよびtracrRNAをトランスフェクションした。トランスフェクションの方法は実施例2の工程一における1の(3)と同様である。
【0110】
二 C57bl/6マウス生体内(in vivo)の酵素消化の測定
1 C57bl/6マウス生体内のトランスフェクション
(1) C57BL/6マウス(北京維通利華実験動物有限公司)にペントバルビタールナトリウムを注射して麻酔させた。30mg/kg静脈または腹腔注射である。
【0111】
(2) 製剤混合
5μgのCas9プラスミド(即ちPX260)、4μMのcrRNA(20μl)および4μMのtracrRNA(20μl)を200μlの生理食塩水に溶解させて、振動して均一に混ぜた。6μlのトランスフェクション試薬(即ちTurboFect in vivo Transfection Reagent)を入れて充分に混合させた。上記混合液を室温で15-20分間放置して、トランスフェクション製剤として筋肉に注射した。用いられるcrRNAは修飾されたVEGFA-crRNA6、即ちVEGFA-crRNA6-1とし、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。
【0112】
2ー2 マウス筋肉内注射
マウス大腿二頭筋に対して200μlの工程2ー1のトランスフェクション製剤を注射した。
【0113】
2ー3 マウス筋肉組織のゲノムDNAの抽出
トランスフェクション後の7日目に、血液・組織・細胞ゲノム抽出キットによって大腿二頭筋ゲノムDNAを抽出した。
【0114】
2ー4 ネステッドPCRによる目的DNA断片の増幅
方法は実施例2の工程二における3と同様であった。用いられるプライマーはVEGFA-outer-F1(マウス)、VEGFA-outer-R1(マウス)、VEGFA-inner-F1(マウス)およびVEGFA-inner-R1(マウス)とした。
【0115】
2ー5 T7EIの酵素消化効率の測定
NEB T7エンドヌクレアーゼI(T7EI)を用いて消化した。具体的な方法は実施例2の工程二における4と同様であった。
【0116】
2ー6 電気泳動による測定
酵素消化サンプルをAgilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定に供した。
【0117】
3 結果解析
計算方法は実施例2と同様であった。
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度の結果から、マウスにおいて、crRNA、tracrRNAおよびCas9プラスミドをマウス細胞またはマウス体内に導入した場合では、526bpの目的DNAの目的断片を2個のDNA鎖に切断できる(図14)と分かった。
【0118】
実施例8
プロモーター、エキソンの酵素消化の測定
TP53(tumor protein p53)遺伝子およびエキソンの酵素消化効率を測定した。用いられるcrRNAはそれぞれTP53-P-T1、TP53-P-T2、TP53-E-T1、TP53-E-T2およびTP53-E-T3とした。各反応系においてある1種類のcrRNAとした。用いられるtracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。用いられるcrRNAの配列は以下である。
TP53-P-T1: CAAUUCUGCCCUCACAGCUC GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.23)
TP53-P-T2: CCCCAAAAUGUUAGUAUCUA GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.24)
TP53-E-T1: CCCUCCCAUGUGCUCAAGAC GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.25)
TP53-E-T2: UGGGAGCGUGCUUUCCACGA GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.26)
TP53-E-T3: CCAGUCUUGAGCACAUGGGA GUUUUAGAGCUAUG (SEQ ID NO.27)
(Pはプロモーターを、Eはエキソンを示す)
【0119】
一 生体外酵素消化の測定
1 DNAテンプレートの製造
293T細胞ゲノムをテンプレートとして、標的遺伝子TP53断片、即ちDNAテンプレートを増幅した。
【0120】
1回目の増幅に用いられるプライマーはTP53-outer-FPおよびTP53-outer-RPとし、2回目の増幅に用いられるプライマーはTP53-inner-FPおよびTP53-inner-RPとした。
【0121】
2 Cas9の生体外酵素消化
実施例2の工程一における2-5の方法に従い、crRNA、tracrRNAおよびCas9を含有する生体外酵素消化系により工程1のDNAテンプレートを消化した。
【0122】
二 細胞内酵素消化の測定
実施例2の工程二の方法に従い、Cas9ヌクレアーゼのTP53断片に対する酵素消化効率を測定した。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。
【0123】
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果である図15図16から、crRNA・tracrRNA・Cas9ヌクレアーゼシステムはTP53断片のプロモーターおよびエキソン領域を切断できると分かった。
【0124】
実施例9
複数個のcrRNAの酵素消化の測定
一 生体外酵素消化の測定
1 Cas9の生体外酵素消化
Cas9ヌクレアーゼ、10×Cas9Buffer、crRNA、tracrRNAとHOを均一に混ぜて、37℃で15minインキュベートして、それからDNAテンプレートを入れて、均一に混ぜてから、37℃で70minインキュベートした。crRNAを代えてHOを用いてネガティブコントロール(neg.)とした。DNAテンプレートは実施例6のOct4遺伝子のDNAテンプレートとし、用いられるcrRNAはOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAおよびOct4-E-T3-crRNAとして、tracrRNAは実施例1のtracrRNA2とした。Cas9の生体外酵素消化系は以下の通りである。当該系では、3種類のcrRNA、即ちOct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAおよびOct4-E-T3-crRNAが含まれている。
【0125】
crRNAとしてOct4-E-T2-crRNAを単独的に用いて実験した。対照的に、Oct4-E-T2-crRNAの濃度は400nMとした。
【0126】
2 磁気ビーズによる精製
実施例2の工程一における3と同様である。
【0127】
3 Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定
実施例2の工程一における4と同様である。
【0128】
二 細胞内酵素消化の測定
実施例2の工程二の方法に従い、Oct4-E-T1-crRNA、Oct4-E-T2-crRNAおよびOct4-E-T3-crRNAならびに実施例1のtracrRNA2を用いて一緒にトランスフェクションした。crRNA6の用量は何れも66.7ngとし、tracrRNA2の用量は300ngとした。crRNAとしてOct4-E-T2-crRNAを単独的に用いて実験し、対照として、Oct4-E-T2-crRNAの用量は200ngとした。
【0129】
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果である図17図18から、crRNAの用量が一致した場合、Oct4遺伝子に関する複数個のcrRNAの酵素消化効率は1個のcrRNAより高く、生体外と細胞においてはそれぞれ1倍と2倍以上向上した。
【0130】
実施例10
異なるCas9ドナーの細胞酵素消化の測定
一 Cas9を安定に発現する細胞
Cas9ドナーはCas9を安定に発現する293T細胞、即ちCas9-293Tとした。具体的な方法は実施例2における工程一と同様である。用いられるcrRNAおよびTracRNAはそれぞれ実施例2のcrRNA2および実施例1のtracrRNA2とした。
【0131】
2 Cas9プラスミド
Cas9ドナーはCas9プラスミド(即ちPX260)とした。
2ー1 Lipo2000によるプラスミドPX260のトランスフェクション
(1) 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管に置いて、1μlのLipo2000を入れて、均一に混ぜてから、室温で5min放置した。
(2) 50μlのopti-MEM培地を1.5mlのEP管に置いて、1μgのPX260のプラスミドを入れて、均一に混ぜた。
(3) (1)および(2)で得られる溶液を混合して、室温で20min放置した。
(4) 293T細胞を培養した24ウェル培養プレートにおける培地を一部吸い出し、ウェル中における培地残量が300-500μl程度になり、(3)で得られたサンプルを培養ウェル中に添加して、3-6h後に培養ウェル中にウシ胎児血清を10%含有するDMEM培地を1mlまで補充して、細胞をインキュベーターに置き戻して培養した。
【0132】
2ー2 プラスミドトを24hランスフェクションした後、Lipo2000によってcrRNAおよびTracrRNAをトランスフェクションした。トランスフェクションの方法は実施例2の工程一における1の(3)と同様である。用いられるcrRNAおよびTracRNAはそれぞれ実施例2のcrRNA2および実施例1のtracrRNA2とした。
【0133】
実施例の工程二における2―6の方法に従い、Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果である図19から、正常の293T細胞においてトランスフェクションされたプラスミドがCas9を発現して、さらにcrRNAおよびTracrRNAをトランスフェクションしたから、同じく目的DNA断片を酵素消化することが可能で、効率はCas9が安定的にトランスフェクションされた細胞(Cas9-293T)より低いと分かった。
【0134】
実施例11
異なるCas9濃度の生体外酵素消化の測定
1 方法
実施例2の工程一の方法に従い、crRNA、tracrRNA、および異なる濃度のCas9を含む生体外酵素消化系の酵素消化効率をそれぞれ測定した。Cas9の濃度はそれぞれ20nM、100nM、200nM、400nMとし、他の成分含有量は実施例2の工程一と同様である。
【0135】
用いられるcrRNAおよびTracRNAはそれぞれ実施例2のVEGFA-crRNA2および実施例1のtracrRNA2とした。
【0136】
2 結果
Agilent2200核酸自動電気泳動システムによる測定によって得られるDNA断片の分布と濃度結果(図20)から、タンパク質濃度が20-400nMとした場合は、酵素消化効率が50%以上となり、タンパク質濃度が100-400nMとした場合は、酵素消化効率が80%以上となり、タンパク質濃度が100-200nMとした場合は、酵素消化効率が85%以上となるという結論が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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