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特許7010949ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの乾燥方法およびナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの乾燥方法およびナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/19 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 15/28 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 15/60 20060101ALI20220203BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K9/19
A61K9/06
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/26
A61L15/28
A61L15/60
A61L15/42
A61P17/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019532068
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 FI2017050899
(87)【国際公開番号】W WO2018109281
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】16397537.8
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】アウヴィネン,ヴィリ-ヴェリ
(72)【発明者】
【氏名】パウッコネン,ヘリ
(72)【発明者】
【氏名】ユリペルッツラ,マルヨ
(72)【発明者】
【氏名】ウルッティ,アルト
(72)【発明者】
【氏名】ハッカライネン,ティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ラウレン,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】クンナリ,ミッコ
(72)【発明者】
【氏名】ラークソネン,ティモ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ミングウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-529479(JP,A)
【文献】特開2013-082650(JP,A)
【文献】特表2013-538224(JP,A)
【文献】特表2014-533296(JP,A)
【文献】特開2013-253137(JP,A)
【文献】特開2015-105453(JP,A)
【文献】特表2016-524900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 8/00
A61L 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを乾燥させる方法であって、
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することと、
ポリエチレングリコールを提供することと、
トレハロースを提供することと、
ヒドロゲルと、ポリエチレングリコールと、トレハロースとを混合して、混合物を得ることと、
混合物を凍結乾燥し、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを得ることとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
混合物は、当該混合物の総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコール、および/または0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%の濃度(w/w)および10rpmで測定されたとき、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.5~10%、たとえば2~8%、たとえば3~7%の範囲内にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン未変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
凍結乾燥は、乾燥ヒドロゲルが10%以下、好ましくは2~10%(w/w)、たとえば2~5%(w/w)の範囲内にある水分含有量を有するまで継続されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
凍結乾燥は、最初に、混合物の温度を少なくとも-20℃まで、たとえば少なくとも-30℃まで、たとえば少なくとも-40℃まで低下させることと、
その後、圧力を下げて混合物から水を除去することとを含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1つ以上の治療薬、または細胞、または体液を提供することと、当該治療薬、細胞、または体液を、ヒドロゲル、ポリエチレングリコール、およびトレハロースと混合することとを含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ナノフィブリルセルロース、1種以上の治療薬、細胞または体液、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含む乾燥医療用ヒドロゲルであって、ヒドロゲルの水分含有量が、10%以下、好ましくは2~10%(w/w)、たとえば2~8%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項10】
乾燥ヒドロゲル中の、1種以上の治療薬、細胞または体液の含有量は、0.1~65%(w/w)の範囲内、たとえば0.1~50%(w/w)の範囲内、たとえば1~25%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項9に記載の乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項11】
乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は1~10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は0.5~50%(w/w)の範囲内にあることを特徴とする請求項9または10に記載の乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項12】
ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・s、たとえば少なくとも10000mP・sのブルックフィールド粘度をもたらすことを特徴とする請求項9~11のいずれか1項に記載の乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項13】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン変性ナノフィブリルセルロース、カチオン未変性ナノフィブリルセルロース、およびTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択されることを特徴とする請求項9~12のいずれか1項に記載の乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項14】
治療薬は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸、もしくはそれらの断片、好ましくは単離されたもの、抗生物質、鎮痛剤、ニコチン、オピオイド、ホルモン、ニトログリセリン、スコポラミン、クロニジン、抗うつ薬、ADHD治療薬、ビタミン、5-ヒドロキシトリプトファン、アルツハイマー病治療薬、にきび治療薬、抗乾癬剤、グルココルチコイド、抗菌剤、麻酔薬、鎮痛薬、抗炎症化合物もしくは抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、ベータブロッカー、成長因子、免疫調節剤、または皮膚の疾患もしくは障害を治療するための薬から選択されることを特徴とする請求項9~13のいずれかに1項に記載の乾燥医療用ヒドロゲル。
【請求項15】
ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコールおよびトレハロース、ならびに任意に1つ以上の治療薬を含むヒドロゲルであって、好ましくは、当該ヒドロゲルは、当該ヒドロゲルの総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコール、および0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含むことを特徴とする、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用途において医療製品として使用することができる、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル、およびそのようなヒドロゲルを調製および乾燥するための方法に関する。医学的用途は治療物質の送達を含む。
【背景技術】
【0002】
ナノフィブリルセルロースは、単離されたセルロース小繊維、またはセルロース原料に由来する小繊維束を表す。ナノフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在する天然ポリマーに基づく。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性のヒドロゲルを形成する性質を有する。
【0003】
ナノフィブリルセルロース製造方法は、パルプ繊維の水性分散液の粉砕に基づく。分散液中のナノフィブリルセルロースの濃度は、典型的には非常に低く、通常約0.3~5%である。粉砕または均質化処理後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希釈された粘弾性ヒドロゲルである。
【0004】
ナノフィブリルセルロースは、そのナノスケール構造が原因で、従来のセルロースでは提供することができない機能を有効にする独特の特性を有する。しかしながら、同様の理由で、ナノフィブリルセルロースは、魅力的な材料である。たとえば、ナノフィブリルセルロースの、脱水または取扱いは、困難であろう。さらに、脱水後、脱水または乾燥前の元のナノフィブリルセルロースと等しい特性を有する材料を得るために、乾燥材料を再水和または再ゲル化することは、一般的に困難である。特に困難な脱水処理は、凍結乾燥である。
【発明の概要】
【0005】
実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを乾燥する方法を提供し、その方法は、
‐ ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供し、
‐ ポリエチレングリコールを提供し、
‐ トレハロースを提供し、
‐ ヒドロゲル、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを混合して混合物を得、そして
‐ 混合物を凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを得ることを含む。
【0006】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含む凍結乾燥可能なヒドロゲルを提供する。
【0007】
一実施形態は、この方法で得られたナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを提供する。
【0008】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、1種または複数種の治療薬と、ポリエチレングリコールと、トレハロースとを含む乾燥医療用ヒドロゲルであって、ヒドロゲルの含水量は10%以下、好ましくは2~10%(w/w)の範囲にある、たとえば2~8%(w/w)である乾燥医療用ヒドロゲルを提供する。
【0009】
主な実施形態は、独立請求項において特徴付けられている。様々な実施形態は、従属請求項に開示されている。従属請求項および実施形態に記載された実施形態は、特に明記しない限り互いに自由に組み合わせることができる。
【0010】
驚くべきことに、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの凍結乾燥プロセスにおいて、凍結防止剤としてポリエチレングリコールとトレハロースとの両方を組み合わせて使用すると、乾燥した製品を得ることが可能であり、その乾燥した製品は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの元来の特性を回復する形態に、再水和または再分散されることが可能であり、すなわち乾燥生成物は、再ゲル化されることができる。元来の特性には、たとえば、ゲル特性および活性医薬成分の制御放出が含まれる。 ポリエチレングリコールとトレハロースの両方を含有する、ナノフィブリルセルロースを含む凍結乾燥ヒドロゲルは、凍結乾燥前と同様の均質なヒドロゲルに再ゲル化されたが、ポリエチレングリコールまたはトレハロースの一方のみを含有する類似の凍結乾燥ヒドロゲルは、細い顆粒状に再ゲル化された。選択された抗凍結剤の存在は、ゲルからの薬剤の放出プロファイルに影響を及ぼさなかった。ヒドロゲルを乾燥させることによって、医療製品のための非常に長い貯蔵寿命を得ることが可能である。特に、加水分解に敏感なたんぱく質や薬剤などの、湿った状態で不安定な治療用または化粧品用薬剤などの活性物質を含むゲルは、水分をほとんど含まないか実質的に含まず、よって長期にわたり安定であり保存性のある形態に凍結乾燥することができる。このような凍結乾燥医療製品は、室温でも貯蔵することができ、そして使用前に水または食塩水のような液体を加えることによって、再ゲル化することができる。さらに、ポリエチレングリコールとトレハロースの組み合わせは、溶液または分散液中のナノフィブリルセルロースの沈殿または沈降を防ぎ、この効果はこれら抗凍結剤単独では得られなかった。
【0011】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルは、たとえば、活性治療薬または化粧用薬剤として作用し得る多種多様な様々な分子の制御可能な放出を提供する材料として作用し得ることもまた見出された。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、活性剤の長期放出を提供することができ、その効果は様々な医療用途および化粧用途に適用することができる。この効果は、広範囲のヒドロゲル濃度に沿って、異なるサイズおよび種類の広範囲の放出可能な分子について得られた。
【0012】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの特定の有利な特性には、柔軟性、弾力性および再成形性が含まれる。ヒドロゲルは、大量の水を含むので、分子の良好な透過性も示す。これらの特性は、ヒドロゲルが創傷を治療するための覆いとして使用される場合、または他の医療用途、たとえば治療薬もしくは美容用薬剤を送達するために使用される場合に有用である。
【0013】
柔軟性は、多くの用途、たとえば医療用途において望まれる特徴である。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルを含む可撓性貼付剤および包帯は、たとえば、創傷および他の損傷、または火傷などの外傷を覆うために皮膚に適用するために有用である。
【0014】
また、実施形態のヒドロゲルは、高い保水容量および分子拡散特性速度を提供し、この特性は、医療用途、たとえば創傷治癒などにおいて望ましい。大きなヒドロゲルは、広い面積を覆うために使用することができるように作製および/または成形されてもよい。
【0015】
本明細書に記載のヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織に接触している医療用途に有用である。ナノフィブリルセルロースが、たとえば皮膚上または損傷領域上に適用されると、独特な特性をもたらすことが見出された。本明細書に記載されたナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体組織との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果をもたらす。いかなる特定の理論にも縛られないが、非常に高い比表面積を有し、したがって高い保水能力を有する非常に親水性の高いナノフィブリルセルロースは、皮膚または他の組織に対して適用した場合、組織または創傷とナノフィブリルセルロースとの間に好ましい湿潤環境を提供すると考えられる。ナノフィブリルセルロース中の大量の遊離ヒドロキシル基は、ナノフィブリルセルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノフィブリルセルロースのゲル形成、および高い保水能力をもたらす。ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の大量の水が原因で、水のみが組織に接触していると考えられ、皮膚または創傷からヒドロゲルへ、またはヒドロゲルから皮膚または創傷への流体および/または薬剤の移動を可能にする。
【0016】
ヒドロゲルが、たとえば、それ自体、または他の製品の一部、たとえば、石膏、包帯、医療用貼付剤、または石膏、貼付剤、もしくは包帯の一部として、創傷または他の損傷もしくは外傷を覆うために使用される場合、いくつかの効果がもたらされる。損傷を受けることなく、たとえば引き裂かれることなく製品を容易に適用および除去することができるので、製品の使いやすさは良好である。創傷を覆うために使用された場合、ヒドロゲルは、創傷を感染から保護し、創傷が治癒されるように湿潤環境を保つ。ヒドロゲルは、治癒領域を損傷することなく除去することが非常に困難である従来材料のように、損傷を受けた皮膚または創傷に不可逆的に付着することはない。製品と皮膚との間の状態は、損傷領域の治癒を促進する。
【0017】
実施形態の医療用ヒドロゲルは、皮膚移植片などの移植片の治療において特に有利である。ヒドロゲルはグラフト領域を覆うために使用されてもよく、それは保護層として作用する。
【0018】
ヒドロゲルはまた、たとえば経皮経路によってまたは他の経路によって、治療薬または化粧品薬などの薬剤を制御可能かつ効果的に患者または使用者などの被験体に放出および送達するために使用され得る。制御放出とは、たとえば、薬剤の、ある期間にわたる所望の、放出速度および/またはプロフィールを得ることを言い、それは、ゲルの選択、たとえばゲルの百分率またはゲルの厚さによって、放出可能な薬剤の濃度または形態によって、任意の補助剤の存在によって、または放出可能な薬剤の放出速度および/または活性に影響を与えるpH、温度などの他の条件によって影響され得る。前述したように、組織とヒドロゲルとの間の特別な条件と放出特性との組み合わせ効果は、生体組織への物質の効率的な送達を提供する。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、非毒性、生体適合性、そしてまた生分解性である親水性マトリックスを提供する。たとえば、マトリックスは酵素的に分解され得る。他方、ヒドロゲルは生理学的条件で安定である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
実施形態は、添付の図面を参照して以下に説明される。
図1】メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェン、BSA、リゾチームおよび4kDaのFITC-デキストランの放出に対するNFCヒドロゲル濃度および凍結乾燥の効果を示す。製剤は、a)メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェン、BSA、リゾチーム、または4kDaのFITC-デキストランと組み合わせた3%NFCヒドロゲルと、b)凍結乾燥の前後に、メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェン、またはBSAと組み合わせた、トレハロースとPFG6000とを含む3%NFCヒドロゲルと、 c)凍結乾燥の前後に、メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェン、BSA、リゾチーム、または4kDa FITC-デキストランとを組み合わせた6.5%NFCヒドロゲルと、d)凍結乾燥の前後に、メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェン、またはBSAとを組み合わされた、トレハロースとPFG6000と含む6.5%NFCヒドロゲルとを含んでいた。各曲線は3回の分析の平均±標準偏差である。
図2】凍結乾燥した高多孔質NFCエアロゲルのSEM顕微鏡写真を示す。3%および6.5%のNFCは、トレハロースおよびPEG6000の存在下および非存在下で凍結乾燥した。スケールバーは、最上列(表面)については200μm、そして下列(断面)については50μmである。
図3】左から右に、1%BSA、2%メトロニダゾール(MZ)、3.4%ケトプロフェン(KETO)、および1.7%ナドロール(NAD)を含有する凍結乾燥した3%NFCエアロゲルのSEM顕微鏡写真を示す。スケールバーは、最上列(表面)については200μm、そして下列(断面)については50μmである。
図4】(FD)凍結乾燥前後の異なる製剤(3%および6.5%)のせん断速度粘度を示し:A)賦形剤なし、B)賦形剤(PEGおよびトレハロース)あり、C)BSAおよび賦形剤あり、D)メトロニダゾールおよび賦形剤あり、E)ナドロールおよび賦形剤あり、F)ケトプロフェンおよび賦形剤あり、である。
図5】2つの注射器を接続することによるゲル混合を示す。各ゲルを10分間混合した。
図6】A)パラフィルムで保護された凍結乾燥ナドロールゲル、およびB)凍結乾燥ナドロールゲルのSEM画像を示す。
図7】室温で一晩放置した後の再分散NFCヒドロゲルを示し:A)ポリエチレングリコールおよびトレハロースあり、B)ポリエチレングリコールおよびトレハロースなし、である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルとも称される、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供する。ヒドロゲルは、他の物質または他の要素、たとえば、補強材料、被覆材料、活性剤、塩などをも含み得る製品として提供されてもよい。また、ヒドロゲルは、医療用ヒドロゲルまたは医療用製品として提供されてもよく、または呼ばれてもよい。
【0021】
用語「医療用」は、製品、すなわち実施形態のヒドロゲルを含む製品が使用されるか、または医療目的に適している、製品または使用を表す。医療用製品は、滅菌されてもよく、またはたとえば、温度、圧力、湿気、化学物質、放射線もしくはそれらの組み合わせを用いることによって滅菌可能である。製品は、たとえば、オートクレーブ処理することができ、または高温を用いる他の方法を使用することができ、その場合、製品は、100℃を超える高温、たとえば、少なくとも121℃または134℃に耐えるべきである。一実施例では、製品は、121℃で15分間オートクレーブされるまた、医療用製品は、発熱物質を含まず、望ましくないタンパク質残基などを含まないことが望ましい。医療用製品は、好ましくは標的に対して毒性を示さない。紫外線殺菌も使用することができる。医療用製品は、たとえば、化粧用途にも適し得る。
【0022】
アニオン性NFCヒドロゲルなどの、実施形態のナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲルは、特に温度およびpHが一定である場合、時間の関数として、治療薬などの活性剤、たとえば医薬成分を制御可能に放出することができる。NFCヒドロゲルは特定の賦形剤と共に凍結乾燥されてもなお再ゲル化され得ることが見出された。 NFCヒドロゲルの凍結乾燥が、他の点では同一である、非凍結乾燥試料と、凍結乾燥および再ゲル化試料との間の薬物放出プロファイルに何らかの影響を与えるかどうかを調べるために研究を行った。その結果が、抗凍結剤として、PEGとトレハロースとを一緒に用いた凍結乾燥方法が、アニオン性ヒドロゲルのような使用済みNFCヒドロゲルの放出能力に実質的に影響を及ぼさないことを実証している。アニオン性ヒドロゲルは多くの用途に好ましい。たとえば、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、他のグレードとは異なり、容易に沈殿しない。アニコニックグレードはまた、ある種の活性剤を放出するのに特に適している。
【0023】
本明細書において、パーセンテージ値は、他に具体的に示されない限り、重量(w/w)に基づいている。数値範囲が提供されている場合、その範囲には上限値および下限値も含まれる。
【0024】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含む凍結乾燥可能なヒドロゲルを提供する。ポリエチレングリコールおよびトレハロースは凍結保護剤として作用して、相乗効果をもたらし、それにより、凍結乾燥前のヒドロゲルと実質的に同一の特性を有する凍結乾燥製品が得られるように、ナノフィブリルヒドロゲルを凍結乾燥させることができる。ポリエチレングリコールまたはトレハロースを単独で使用した場合には、それらは、それらがナノフィブリルセルロースヒドロゲルのための抗凍結剤として有効であること、またはたとえばナノフィブリルセルロースの沈殿を防止することを示すことができるような顕著な抗凍結効果を示さなかった。好ましくは、凍結乾燥可能なヒドロゲルは、ヒドロゲルの全質量から計算して0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコールおよび0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含有する。
【0025】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを乾燥するための方法であって、
- ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供し、
- ポリエチレングリコールを提供し、
‐ トレハロースを提供し、
- ヒドロゲル、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを混合して混合物を得て、
- 混合物を凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを得ることを含むヒドロゲルを乾燥するための方法を提供する。
【0026】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、1種以上の治療薬および/または化粧品薬とを含む医療用ヒドロゲルを提供する。医療用ヒドロゲルは、薬剤を対象に投与するために使用されてもよい。医療用ヒドロゲルはまた、本明細書中に記載されるように、ポリエチレングリコールおよびトレハロースなどの他の成分を含み得る。被験体は、ヒトまたは動物などの、薬剤を必要とする患者または他の任意の被験体であればよい。
【0027】
よって、主な出発材料は、サブミクロン範囲内の直径を有するセルロースフィブリルを含むか、または当該セルロースフィブリルからなるナノフィブリルセルロースを含む。ナノフィブリルセルロースは、低濃度でも自己組織化ヒドロゲルネットワークを形成する。ナノフィブリルセルロースのこれらのゲルは、天然では高せん断減粘性および擬塑性である。
【0028】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。
【0029】
ナノフィブリルセルロースは、好ましくは植物材料から作製される。一実施例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、二次細胞壁から得られてもよい。そのようなセルロース小繊維のある豊富な供給源は、木質繊維である。ナノフィブリルセルロースは、木材由来の繊維原料を均質化することによって作製される。繊維原料は、化学パルプであってもよい。セルロース繊維は、数ナノメートルしかない直径を有する小繊維を製造するために分解されてもよく、直径は、最大で50nm、たとえば、1~50μmの範囲内にあり、小繊維の分散水溶液をもたらす。小繊維は、大部分の小繊維の直径がわずか2~20nmの範囲内にあるサイズに縮小することができる。二次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有する場合がある。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、さらに困難である場合がある。
【0030】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2~12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1~50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2~500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5~100nmの範囲内、たとえば10~50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、他の少量の木質成分、たとえばヘミセルロースまたはリグニンを含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0031】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さ、および直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非修飾)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前修飾とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10~100nm、または10~50nmの範囲内にある)、化学的に変性されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2~20nmの範囲内にある)。また、分布は、変性されたグレードについて狭い。特定の変性、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0032】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプに対する針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから作製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。変性されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから作製される。それらの変性されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に変性される。おそらく、変性は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに変性される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、変性された生成物は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0033】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度で形成される。NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0034】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性、または擬塑性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定された定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分けるので、グレードの分類を可能にする。
【0035】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナ、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ-ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0036】
一実施例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度で、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度とで回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0037】
ロータ-ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0038】
分解に適した装置の別の例は、ピンミル、たとえばマルチペリフェラルピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0039】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0040】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維は、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、様々な効果、たとえば、粉砕、破砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きに基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg、MWh/ton、またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0041】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表してもよく、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0042】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、前記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。比粘度は、本明細書に記載されたように、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースから区別する。
【0043】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合される。低い回転速度10rpmが使用される。
【0044】
本方法において出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定された、少なくとも2000mPa・s、たとえば少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)および10rpmの濃度において測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。水に分散したとき、前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度範囲の例は、0.8%(w/w)および10rpmにおいて測定された、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、および15000~30000mPa・sを含む。
【0045】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、非変性ナノフィブリルセルロースである。非変性ナノフィブリルセルロースのドレナージは、たとえばアニオン性グレードよりも顕著に速いことが見出された。非変性ナノフィブリルセルロースは一般的に、0.8%(w/w)および10rpmの濃度で測定された、2000~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0046】
分解された繊維性セルロース原料は、変性された繊維性原料であってもよい。変性された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。変性は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0047】
繊維に対する変性処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的変性において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的変性は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的変性において、アニオン性物質、カチオン性物質、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。変性処理は、酵素的であってもよい。
【0048】
繊維中のセルロースは、特に、変性後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的変性または物理的変性によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、変性後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を作製するための、最も一般的に使用される化学的変性方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、カチオン性基、たとえば4級アンモニウム基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0049】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、またはカチオン変性ナノフィブリルセルロースなどの化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。化学変性ナノフィブリルセルロースは、特定の活性剤の放出特性に影響を与えるために使用されてもよい。たとえば、アニオン性グレードは、延長された放出速度(a prolonged release rate)を得るために、カチオン性荷電分子を放出するために使用されてもよく、またはその反対であってもよい。
【0050】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO」と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化の程度が低ければ十分に効果的にフィブリル化されず、酸化の程度が高ければ機械的な破壊処理後にセルロースの分解をもたらすという知見について、セルロースは、電気伝導度滴定によって測定された、0.6~1.4mmol COOH/g パルプ、または0.8~1.2mmol COOH/g パルプ、好ましくは1.0~1.2mmol/g パルプの範囲内で酸化セルロースにおけるカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化されてもよい。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3~5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されたブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000~30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0051】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体、または任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく、同様に適用することに関する、全ての測定および操作を示すことが明らかである。
【0052】
一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施形態では、そのような化学変性ナノフィブリルセルロースは、水中に分散したときに、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。使用されたアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s、または18000~20000mPa・s、さらには25000mPa・sまでの範囲内のブルックフィールド粘度を有する。
【0053】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、低濃度で高い粘度、たとえば、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも20000mPa・s、さらには少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。一実施例では、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、20000~30000mPa・s、たとえば25000~30000mPa・sの範囲内である。
【0054】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、そのような化学的に変性されていないナノフィブリルセルロースは、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度をもたらす。
【0055】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、または粘度および平均径、たとえばブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度によって特徴付けられてもよい。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2~15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0056】
小繊維の直径は、顕微鏡などの様々な技術を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、たとえば低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0057】
一実施例において、ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、狭ギャップベーン形状(直径28mm、長さ42mm)を直径30mmの円筒形サンプルカップ内に備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments,UK)を用いて22℃で測定される。試料をレオメータに装填した後、測定を開始する前に試料を5分間放置する。定常状態の粘度は、徐々に増加するせん断応力(印加トルクに比例する)で測定され、せん断速度(角速度に比例する)が測定される。特定のせん断応力における報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)は、一定のせん断速度に達した後、または最大2分後に記録される。1000s-1のせん断速度を超えると、測定は停止される。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用されてもよい。
【0058】
一実施例では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散されると、水性媒体中で0.5重量%(w/w)の濃度において回転式レオメータによって測定された、1000~100000Pa・sの範囲内、たとえば5000~50000Pa・sの範囲内のゼロせん断粘度(「小さなせん断応力における一定粘度の「プラトー」」)と、1~50Paの範囲内、たとえば3~15Paの範囲内の降伏応力とをもたらす。
【0059】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光が水の試料カラムを通るときの光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0060】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0061】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0062】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0063】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、90NTU未満、たとえば、5~60NTU、たとえば8~40NTUのような3~90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、200NTUを超えてもよく、たとえば10~220NTU、たとえば20~200NTU、たとえば50~200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、たとえば、少なくとも2000mPa・s、少なくとも3000mPa・s、少なくとも5000mPa・s、たとえば10000mPa・s、たとえば15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0064】
調製方法のための出発材料は通常、上記の繊維状原料のいくつかの崩壊から直接得られ、崩壊条件のために水中に均一に分布した比較的低い濃度で存在するナノフィブリルセルロースである。出発材料は、0.2~10%の濃度の水性ゲルであってもよい。
【0065】
一実施形態では、凍結乾燥前のヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、10%(w/w)以下、または10%(w/w)未満、たとえば、0.5~10%、1~10%、たとえば2~8%または1~7%の範囲内である。ほとんどの用途に有用な好ましい範囲は、3~7%、4~7%または4~8%である。試験では、3%および6.5%の濃度がこれらの範囲の終わり近くの濃度を表すために選択された。凍結乾燥ゲルから凍結乾燥後に同じ濃度のヒドロゲルを回復することができる。より具体的には、乾燥ゲルは水中に再分散可能であり、水中に再分散させると、たとえば、0.1~10%(w/w)の範囲内、たとえば、0.5~2.0%(w/w)、または2~8%(w/w)、または3~7%(w/w)の範囲内の分散濃度、それが元々同じ分散濃度で有していた粘度特性と等しいか、または実質的に等しい粘度特性で得られる。
【0066】
ポリエチレングリコール
ポリエチレングリコール(PEG)は、その分子量に応じて、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られるポリエーテル化合物である。PEGの構造は一般に、H-(O-CH-CH-OHとして表される。一般にポリエチレングリコールは、エチレンオキシドの重合によって作製され、300g/mol~10000000g/molの広い範囲の分子量にわたって市販されている。ポリエチレングリコールは、水溶性であり、それは低い毒性を有する。
【0067】
一実施形態では、ポリエチレングリコールは、100~10000kDa、たとえば1000~10000kDaの範囲内の分子量を有する。一実施形態では、ポリエチレングリコールは、3000~8000kDa、たとえば5000~7000kDaの範囲内、たとえば約6000kDaの分子量を有する。本開示で使用される「分子量」は、数平均モル質量を表してもよい。一般に、重合体の数平均分子量は、たとえば、ゲル浸透クロマトグラフィー、(Mark-Houwinkの式)による粘度測定、蒸気圧浸透圧法のような併合法、末端基定量法、またはプロトンNMRによって測定することができる。
【0068】
α,α-トレハロース;としても知られるトレハロース;α-D-グルコピラノシル-(1→1)-α-D-グルコピラノシド、ミオースまたはトレマロースは、2つのα-グルコースユニット間のα,α-1,1-グルコシド結合によって形成された天然のα-結合二糖である。トレハロースは、栄養的にはグルコースと同等である。なぜなら、酵素トレハラーゼによって急速にグルコースに分解されるからである。トレハロースは、無水物または二水和物として存在する場合がある。一実施形態では、トレハロースは、D(+)-トレハロース二水和物であり、ナノフィブリルセルロースと共用することができる。一実施例では、トレハロースは、D-(+)-トレハロース二水和物である。トレハロースは、固体として、または水性媒体、たとえば水に溶解して提供されてもよい。
【0069】
凍結乾燥品の調製
本方法は、成分ナノフィブリルセルロースを、一般に水性懸濁液またはヒドロゲルとして、ポリエチレングリコールおよびトレハロースに提供することを含む。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中またはヒドロゲル中の唯一のセルロース系材料である。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水性懸濁液中またはヒドロゲル中の唯一の高分子ゲル形成材料である。一実施例では、水性懸濁液またはヒドロゲルは、ある量の別の繊維材料、たとえば非ナノフィブリルセルロースを、たとえば繊維材料の乾燥重量の乾燥ヒドロゲル(w/w)の量で含む。
【0070】
本方法は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供することを含む。ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースの濃度は、0.1~10%(w/w)、0.5~10%(w/w)、または1~10%(w/w)、たとえば2~8%(w/w)の範囲内であってもよい。大部分の用途に有用な好ましい範囲は、3~6.5%(w/w)、2.5~7%(w/w)、3~7%(w/w)、4~7%(w/w)または4~8%(w/w)である。
【0071】
本方法は、ヒドロゲル、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを混合して混合物を得ることをさらに含む。成分を任意の順序で混合して、ナノフィブリルセルロース、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含有する水性混合物を得ることができる。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.1~2%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.05~1.0%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.2~2%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.1~0.5%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.5~1.5%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.1~0.5%(w/w)のトレハロースを含む。一実施形態では、混合物は、混合物の総質量から計算して、0.5~1.5%(w/w)のポリエチレングリコールおよび/または0.3~0.4%(w/w)のトレハロースを含む。混合物は、ヒドロゲルの形態であり、ヒドロゲルと称される場合があり、より具体的には、ナノフィブリルセルロースと、好ましくは他の成分、たとえば、ポリエチレングリコール、トレハロースおよび/または他の成分、たとえば、活性剤とを含むヒドロゲルとも称される場合がある。一実施形態では、トレハロースは、5~100mmol、たとえば10~50mmolの範囲内で混合物中に存在する。混合は、任意の適切なミキサもしくはホモジナイザを使用して実施することができ、または実験室規模で実施された実験で行ったように、混合物を含有する2つの注射器を接続して注射器間に混合物を繰り返し注入して、混合および/または均質化することによって成分を混合してもよい。
【0072】
ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースと凍結防止剤との比(重量でNFC:PEG:トレハロース)は、たとえば、約9.5:3:1から20:3:1であってもよく、この範囲が実験で使用された。いくつかの実施例では、ゲル中の乾燥ナノフィブリルセルロースと凍結防止剤との比(NFC:PEG:トレハロース)は、重量で5~40:2~6:1、重量で9~22:2~6:1、または重量で9.5~20:2~5:1、または重量で9~22:2~4:1、または重量で9.5~20:2~4:1の範囲内にあり、たとえば、重量で約10:5:1または重量で10:5:1、重量で約15:5:1、重量で約10:3:1、重量で約15:3:1、または重量で約20:3:1である。
【0073】
得られた混合物は、凍結乾燥可能であり、すなわち凍結乾燥処理は、乾燥ナノフィブリルゲルの物理的性質に顕著な影響を及ぼさない。混合物は、凍結乾燥可能なヒドロゲルと称されてもよい。そのような物理的性質の一例は、ヒドロゲルからの薬剤、たとえば、小分子または高分子、たとえば、治療薬剤もしくは化粧薬剤の放出特性である。比較的小さな有機分子、ならびにより大きなタンパク質を含む、様々な分子量を有する様々な分子が、同様の放出特性で制御されてヒドロゲルから放出され得ることが見出された。有用な分子量範囲は、非常に広く、たとえば、試験においては約170~70000g/mol(ダルトン)の範囲内の分子量を有する分子を制御可能に放出することができた。しかしながら、高分子量を有する分子は、低分子量を有する分子よりもゆっくりと放出された。
【0074】
一実施形態では、本方法は、1種以上の治療薬を提供することと、当該薬剤と、ヒドロゲル、ポリエチレングリコール、およびトレハロースとを混合することと、すなわち、薬剤を混合物に添加することとをさらに含む。治療薬は、ポリエチレングリコール、および/もしくはトレハロースと同時に添加することができ、または治療薬はその前後に添加されてもよい。
【0075】
一実施形態では、本方法は、1種以上の化粧用薬剤を提供することと、当該薬剤を、ヒドロゲル、ポリエチレングリコール、およびトレハロースに混合すること、すなわち薬剤を混合物に添加することとをさらに含む。化粧用薬剤は、ポリエチレングリコールおよび/もしくはトレハロースと同時に添加されてもよく、または化粧用薬剤は、ポリエチレングリコールおよび/もしくはトレハロースの添加前もしくは後に添加されてもよい。治療薬および化粧用薬剤の組み合わせも使用されてもよい。
【0076】
混合物が得られた後、それを凍結乾燥して、ナノフィブリルセルロースを含む乾燥ヒドロゲルを得る。任意の適切な凍結乾燥方法を使用することができる。真空凍結乾燥(lyophilisation)とも称される凍結乾燥(freeze drying)は、急速冷却を用いて系内で熱力学的不安定性を生じさせ、相分離を引き起こす方法である。溶媒は、続いて、真空下で昇華させることによって除去され、以前に占めていた領域に空隙が残る。昇華とは、中間液相を通過せずに固体から気相に直接物質が転移することをいう。昇華は、物質の相図における三重点より低い温度および圧力で起こる吸熱相転移である。
【0077】
一実施形態では、たとえば、液体窒素を用いたとき、および混合物から水を除去するために、低い圧力を加えた後、凍結乾燥は、最初に混合物の温度を、少なくとも-30℃まで、たとえば少なくとも-40℃まで、たとえば-30~-100℃の範囲内まで、または-40~-100℃の範囲内まで、または約-200℃以下まで低下させることを含む。一般的に、混合物は、低い圧力を加える前に凍結されるべきである。一実施形態では、より低い圧力を加える間、および最も低い圧力を加えた後に温度が上昇し、たとえば、温度は、約-20℃、またはさらには約-10℃まで上昇する。温度は、低圧が加えられる前に高められてもよく、または低圧を加えている間に高められてもよい。
【0078】
一実施例では、凍結乾燥は、混合物を液体窒素で凍結することによって行われる。たとえば、混合物を含むバイアルを混合物が凍結するまで液体窒素に浸す。この後、混合物から水を除去するために混合物に低圧が加えられる。低圧は、水の昇華を得るために必要とされる真空を意味してもよい。水の昇華は、三重点の下で起こるので、必要とされる真空圧力は使用される温度に依存する。
【0079】
本明細書で使用される「乾燥」は、一般的に脱水を意味し、この用語は互換的に使用されてもよく、水はヒドロゲルから除去され、乾燥または脱水ヒドロゲルが得られる。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが所望の水分含有量を有するまで継続されるか、または凍結乾燥が最小水分含有量、好ましくは20%未満、またはより好ましくは10%未満、またはさらには5%未満、たとえば、1~20%、2~20%、または2~10%(w/w)の範囲内の水分含有量まで継続される。一実施形態では、凍結乾燥は、ヒドロゲルが、2~8%、2~6%、2~5%、または1~5%(w/w)の範囲内の水分含有量を有するまで継続される。一般的に、2%未満の水分含有量を得ることは困難である。低い水分 含有量が得られた後、乾燥製品は、真空中または保護ガス中で梱包されてもよい。これは、乾燥したヒドロゲルが周囲の水分を吸収するのを防ぎ、水分含有量が、たとえば、4~8%、または5~7%(w/w)の範囲内になる可能性がある。得られた乾燥ヒドロゲルは、水性液体、たとえば水を添加し、乾燥生成物を懸濁することによって再ゲル化することができる。再ゲル化または再懸濁されたヒドロゲルが得られ、当該ヒドロゲルは、乾燥前と同じ濃度および水分含有量を有し得る。このヒドロゲルは、乾燥前の元のヒドロゲルの特徴と実質的に等しい特徴を提供する。
【0080】
1種以上の治療薬を含むナノフィブリルセルロースを含む最終乾燥ヒドロゲル、より具体的には凍結乾燥ヒドロゲルは、本明細書に開示される実施形態の凍結乾燥方法で得られる。
【0081】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロース、1種以上の治療薬、ポリエチレングリコールおよびトレハロースを含む凍結乾燥医療用ヒドロゲルを提供し、ここで、ヒドロゲルの含水量は、10%以下(w/w)、好ましくは、前述のように、2~8%(w/w)のように、2~10%の範囲にある。
【0082】
凍結乾燥ヒドロゲルは、エアロゲル、より具体的には凍結乾燥エアロゲルと称されてもよい。ある定義によれば、エアロゲルは、ゲルに由来する多孔性の超軽量材料であり、ゲルの液体成分が気体に置き換えられている。その名称にもかかわらず、エアロゲルは、それらの物理的性質においてゲルとは似ていない固体の、堅い、乾燥材料である。その名称は、エアロゲルがゲルから作製されるという事実から来ている。
【0083】
一実施形態は、凍結乾燥医療用ヒドロゲルを提供し、ここで、乾燥ヒドロゲル中の1種以上の治療薬の含有量は、0.1~65%(w/w)の範囲、または、たとえば、1~25%(w/w)、もしくは1~20%(w/w)、1~10%(w/w)、1~5%(w/w)の範囲内などの0.1~50%(w/w)の範囲であり、または20~65%(w/w)、10~65%(w/w)、5~65%(w/w)、10~50%(w/w)、5~50%(w/w)、5~25%(w/w)、5~20%(w/w)、または5~15%(w/w)である。
【0084】
一実施形態において、乾燥ヒドロゲル中において、ポリエチレングリコールの含有量は、1~10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、0.5~8%(w/w)の範囲内にある。一実施形態において、乾燥ヒドロゲル中におけるポリエチレングリコールの含有量は、5~10%(w/w)の範囲内にあり、および/またはトレハロースの含有量は、3~4%(w/w)の範囲内にある。
【0085】
乾燥ヒドロゲルは、一般に所望の医療用途に好適な、シート、ブロック、または他の形状もしくは形態として提供されてもよく、続いて、使用前に再度濡らされ、標的、たとえば創傷に適用可能な医療用ゲルを得てもよい。乾燥ヒドロゲルは、粉末、または他の粉砕された形態として提供されてもよい。そのような場合において、製品の作製方法は、たとえば、凍結乾燥製品を粉砕または破砕することによって、粉末を形成する工程を含んでもよい。
【0086】
得られたヒドロゲルは、乾燥前後に、またはより好ましくは再ゲル化後に、様々な用途、たとえば本明細書に記載された用途、たとえば物質を被検体に送達する方法において使用されてもよい。ヒドロゲルは、たとえば、医療用製品として提供されてもよい。
【0087】
医療用製品
ヒドロゲルを含む医療用製品は、いくつかの用途において使用されてもよい。ある特定の分野は、医療用途であり、材料は、生きている組織、たとえば皮膚に適用される。材料は、医療用製品、たとえば、貼付剤、包帯、絆創膏、フィルタなどにおいて使用されてもよい。また、医療用製品は、治療用製品、たとえば、薬剤を含む、治療用貼付剤またはゲルであってもよい。一般的に、ナノフィブリルセルロースを含む製品の表面は、使用中に皮膚に接触するであろう。ナノフィブリルセルロースの表面は、皮膚と直接接触するとき、有利な効果をもたらし得る。たとえば、皮膚の創傷または他の損傷の治癒を促進するか、または医療用製品から皮膚への物質の送達を促進することができる。
【0088】
本明細書において使用される用語「創傷」は、開放性創傷、または閉鎖性創傷を含む、皮膚などの組織の任意の、損傷、外傷、疾病、障害などを表し、創傷の治癒が望まれ、創傷の治癒は本明細書に記載された製品によって促進することができる。創傷は、清潔であってもよく、汚染、感染、またはコロニー化していてもよく、特に、後者の場合、抗菌薬などの治療薬が投与されてもよい。開放性創傷の例は、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を含む。閉鎖性創傷の例は、血腫、挫滅傷、縫合傷、移植片、および任意の皮膚の状態、疾病、または障害を含む。皮膚の、状態、疾病または障害の例は、ざ瘡、感染症、小水泡性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎および湿疹、疱疹、蕁麻疹(hives)、狼瘡、丘疹鱗屑性疾患、蕁麻疹(urticaria)および紅斑症、乾癬、酒さ(rosacea)、放射線関連障害、色素沈着、ムチン沈着症、角化症、潰瘍、委縮症および類壊死、血管炎、白斑症、疣贅、好中球疾患および好酸球疾患、先天性、腫瘍および癌、たとえば、表皮もしくは真皮のメラノーマおよび腫瘍、または表皮および真皮の他の疾病もしくは障害を含む。
【0089】
治療薬を含む医療用製品であって、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルが、1種以上の治療薬、たとえば、生物活性剤、活性剤、薬剤、または薬物を含む医療用製品を提供することができる。また、医薬品との用語は、治療薬との用語の代わりに互換的に使用されてもよい。そのような薬剤は通常、有効量で存在する、活性剤または有効剤である。治療薬は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、配合体、活性代謝産物、異性体、フラグメント、アナログなどの形態で提供されてもよい。治療薬は、被検体において全身作用、または局所作用をもたらしてもよい。そのような薬剤は、所定量で提供されてもよく、たとえば、所定の期間にわたって所望の薬剤量がもたらされるように構成された量、および/または、標的、たとえば、皮膚もしくは他の組織に所望の影響を与えるように構成された量で提供されてもよい。製品内の治療薬の含有量は、たとえば0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内であってもよい。一実施形態において、製品内の治療薬の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば0.1~3%(w/w)、0.5~3.5%(w/w)、または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。 特に、治療薬が含まれる場合、薬剤の、制御された、持続性の、または長期の放出をもたらすことができる。そのような場合において、ナノフィブリルセルロースは、薬剤の透過を可能にするためにある程度の水分を含んでもよい。治療薬は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくは乳濁液、または他の適切な形態で存在してもよい。
【0090】
本明細書に記載された医療用製品を用いることによって投与され得る治療薬または生物活性剤の例は、好ましくは単離された、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸、もしくはそれらのフラグメント;抗菌薬、リドカインなどの鎮痛剤;オピオイド、たとえば、フェンタニルもしくはブプレノルフィン;ニコチン;ホルモン、たとえば、エストロゲン、避妊薬、もしくはアンドロゲン、たとえばテストステロン;ニトログリセリン;スコポラミン;クロニジン;抗うつ剤、たとえばセレギリン;ADHD薬、たとえばメチルフェデニデート;ビタミン、たとえばB12もしくはシアノコバラミン;5-ヒドロキシトリプトファン;アルツハイマー薬、たとえばリバスチグミン;ざ瘡薬;抗乾癬薬、グルココルチコイド、たとえばヒドロコルチゾン;抗アンドロゲン薬、たとえば、ビフルラノル(bifluranol)、シオクトール(cyoctol)、シプロテロン、デルマジノンアセテート、フルチミド、ニルタミド、およびオキセンドロン;抗エストロゲン剤、たとえば、デルマジノンアセテート、エタモキシトリフェトール、タモキシフェン、およびトレミフェン;抗菌薬;麻酔薬;鎮痛薬;抗炎症性化合物もしくは剤;抗ヒスタミン剤;ベータ阻害薬;成長因子;免疫調節薬;または皮膚の疾病もしくは疾患を治療するための薬剤をさらに含む。治療薬が、たとえば、数時間にわたって、6、12、24、もしくは48時間にわたって、貼付剤からの治療薬の、長期、持続性、または延長した放出をもたらすために、たとえば、健康な皮膚、もしくは損傷した皮膚に使用される医療用貼付剤中に使用されてもよい。生物活性剤は、生体、組織または細胞に影響を与える薬剤である。
【0091】
「徐放」は、持続放出、持効性放出、または徐放性放出とも称され、長期間にわたって一回分の用量の薬物を送達するように設計された、薬物、または薬物を含浸させた担体に関連する。目的は、最大または所望の期間にわたって薬物濃度を治療濃度域内に維持することである。この用語は、一般的に経口投与製剤に関連して使用される。丸剤、カプセル剤および注射用薬物担体(追加の放出機能を有することが多い)に加えて、制御放出薬剤の形態には、ゲル、インプラントおよび装置、ならびに経皮吸収貼付剤が含まれる。欧州薬局方の定義は、次のように記載されている。「徐放製剤は、同じ経路で投与される従来の放出製剤よりもゆっくりとした活性物質の放出を示す放出調節製剤である。徐放は、特別な製剤設計および/または製造方法によって達成される。同義語:持続放出製剤」も使用されてもよい。
【0092】
一実施形態は、抗菌薬を含む医療用製品を提供する。そのような製品は、創傷の治療に特に適しており、創傷治療特性は、創傷内の有害な微生物に起因する感染を防ぐ抗菌特性と組み合わされる。好適な抗菌薬の例は、特に、局所的抗菌薬、たとえば、バシトラシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシン、ムピロシン、テトラサイクリン、メクロサイクリン、スルファセタミド(ナトリウム)、過酸化ベンゾイル、およびアゼライン酸、ならびにそれらの組み合わせを含む。また、別の種類の抗菌薬、たとえば、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、およびアモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬;セファクロル、およびセファドロキシルなどのセファロスポリン系抗菌薬;テトラサイクリン、ドキシサイクリン、およびリメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬;ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬;エリスロマイシン、アジスロマイシン、およびクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬;クリンダマイシン;スルホンアミドおよびトリメトプリム;メトロニダゾールおよびチニダゾール;シプロフロキサン、レボフロキサン、およびノルフロキサンなどのキノロン系抗菌薬などの全身抗菌薬が提供される。
【0093】
アンドロゲンの例は、ボルデノン、フルオキシメステロン、メスタノロン、メステロロン、メタンドロステロン、17-メチルテストステロン、17-アルファ-メチルテストステロン 3-シクロペンチルエノールエーテル、ノルエタンドロン、ノルメタンドロン、オキサンドロロン、オキシメステロン、オキシメトロン、プラステロン、スタンロロン、スタノゾロール、テストステロン、テストステロン17-クロラールヘミアセタール、テストステロン17-ベータ-シピオネート、テストステロンエナント酸、テストステロンニコチン酸、テストステロンフェニルアセテート、テストステロンプロピオネート、およびチオメステロンを含む。
【0094】
ヒドロゲルに含まれてもよい抗生物質の例は、アミノグリコシド(たとえば、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ネオマイシン、エリスロマイシンエストレート/エチルスクシナート、グルセプテート/ラクトビオネート/ステアレート)、βラクタム、たとえばペニシリン(たとえば、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、シクロオキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、カルベニシリン、メズロシリン、アズロシリン、およびピペラシリン)、セファロスポリン(たとえば、セファロチン、セファゾリン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフロキシム、セフォニシド、セフメタゾール、セフォテタン、セフプロジル、ロラカルベフ、セフェタメト、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフェピム、セフィキシム、セフポドキシム、およびセフスロジン)、フルオロキノロン(たとえば、シプロフロキサシン)、カルバペネム(たとえば、イミペネム)、テトラサイクリン(たとえば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン)、マクロライド(たとえば、エリスロマイシン、およびクラリスロマイシン)、モノバクタム(たとえば、アズトレオナム)、キノロン(たとえば、フレロキサシン、ナリジキシン酸、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシンおよびシノキサシン)、グリコペプチド(たとえば、バンコマイシン、テイコプラミン)、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ニトロフラントイン、リファンピンおよびムピロシン、ならびにポリミキシン、たとえば、PMB、オキサゾリジノン、イミダゾール(たとえば、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、オモコナゾール、ビフォナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾールおよびチオコナゾール)、トリアゾール(たとえば、フルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール、およびアルバコナゾール)、チアゾール(たとえば、アバフンギン)、ならびにアリルアミン(たとえば、テルビナフィン、ナフチフィン、およびブテナフィン)、エキノカンジン(たとえば、アニデュラファンギン、カスポファンギン、およびミカファンギン)を含んでもよい。他の抗生物質は、ポリゴジアル、安息香酸、シクロピロクス、トルナフテート、ウンデシレン酸、フルシトシン、または5-フルオロシトシン、グリセオフルビン、およびハロプロジンを含んでもよい。
【0095】
抗菌薬は、ざ瘡を治療するために使用されてもよく、たとえば、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどである。また、他の薬剤、たとえば、過酸化ベンゾイル、サリチル酸、局所的レチノイド薬、たとえば、トレチノイン、アダパレン、もしくはタザロテン、アゼライン酸、またはアンドロゲン阻害剤、たとえばスピロラクトンが使用されてもよい。乾癬は、ステロイド薬、たとえば、コルチコステロイド、保湿用クリーム、カルシポトリオール、コールタール、ビタミンD、レチノイド、タザロテン、アントラリン、サリチル酸、メトトレキサート、またはシクロスポリンによって治療されてもよい。虫刺され、またはツタウルシ暴露は、薬剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、エミューオイル、アーモンドオイル、アンモニア、ビサボロール、パパイン、ジフェニルヒドラミン、ツリフネソウ抽出物、またはカラミンで治療されてもよい。これらの治療薬、または他の治療薬のいくつかは、化粧用薬剤として分類されてもよい。
【0096】
ヒドロゲルに含まれてもよい抗菌剤の例は、銀粒子、特に銀ナノ粒子、銀イオンを放出する薬剤または化合物、グルコン酸クロルヘキシジン、およびポリヘキサメチレンビグアニドを含んでもよい。
【0097】
ヒドロゲル中に含めることができる麻酔薬の例は、プロカイン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメチオカイン、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、リドカイン、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、およびトリメカインを含んでもよい。 いくつかの実施形態では、麻酔薬は、リドカインとプリロカインとの組み合わせである。
【0098】
ヒドロゲルに含まれ得る鎮痛薬の例は、アヘン剤およびその類似体を含む。例示的なアヘン剤は、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロモルヒネ、ペチジン、ブプレノルフィン、トラマドール、フェンタニルおよびベンラファキシンを含む。
【0099】
ヒドロゲルに含めることができる抗炎症性化合物の例は、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、メドリソン、プレドニゾロン、フルランドレノニド、プレドニゾン、ホルシノニド、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ハルシノニド、フルドロコルチゾン、コルチコステロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、フルルビプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム、アセトサリチル酸、サリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸メチル、フェニルブタゾン、スリンダク、メフェナム酸、メクロフェナム酸ナトリウム、およびトルメチンを含んでもよい。
【0100】
ヒドロゲルに含まれ得る抗ヒスタミン薬の例は、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、ペルフェナジン、トリプロリジン、ピリラミン、クロルシクリジン、プロメタジン、カルビノキサミン、トリペレンナミン、ブロムフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、メクリジン、クロルプレナリン、テルフェナジン、およびクロルフェニラミンを含んでもよい。
【0101】
ヒドロゲル中に含まれ得る増殖因子の例は、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、NGF-ベータなどの神経増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子、たとえば、aFGFおよびbFGF、上皮成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子、腫瘍壊死因子、トランスフォーミング成長因子(TGF)、とりわけTGF-αおよびTGF-β、たとえば、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、またはTGF-β5、インスリン様成長因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ならびに脳由来神経栄養因子(BDNF)を含んでもよい。
【0102】
組成物に含まれ得る免疫調節剤の例は、シクロスポリンA、グアニルヒドラゾン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドおよびタクロリムスを含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、細胞または体液がヒドロゲルに含まれる。ナノフィブリルセルロースは細胞に対して毒性ではないので、細胞を、たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で増殖、移動、乾燥および/または凍結させることができる。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースおよび1つ以上の細胞または細胞型、好ましくは単離された細胞を含む医療用ヒドロゲルを提供する。一実施形態は、ナノフィブリルセルロースと、1種以上の単離体液などの体液とを含む医療用ヒドロゲルを提供する。
【0104】
細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。たとえば、細菌細胞または酵母細胞などの微生物細胞が含まれてもよい。真核細胞は、植物細胞または動物細胞であり得る。細胞は、培養細胞でもよい。真核細胞の例には、幹細胞、たとえば全能性、多能性、多分化能、オリゴ能性または単能性細胞などの移植可能細胞が含まれる。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は寄託された細胞株由来のものでも、受精していない卵、すなわち「単為生殖」卵もしくは単為生殖的に活性化された卵子由来のものでもよい。細胞はヒドロゲル中で培養されてもよく、それらはまたその中で凍結乾燥されてもよい。細胞は、動物またはヒトをベースとする化学物質が細胞の外側から発生することなく、ヒドロゲル上またはヒドロゲル内で維持および増殖することができる。細胞はヒドロゲル上またはヒドロゲル内に均一に分散していてもよい。
【0105】
細胞の例には、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、ならびに完全分化細胞およびそれらの組み合わせが含まれる。いくつかの例において、細胞は、角化細胞、角化細胞、線維芽細胞、上皮細胞およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細胞型を含む。いくつかの例では、細胞は、幹細胞、前駆細胞、前駆細胞、結合組織細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、間質細胞、間葉系細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0106】
体液または体液とも呼ばれることがある体液は、生物、たとえばヒトまたは動物の体の内部から生じる液体である。それらは体から排泄されるか、または分泌される体液、そして通常そうではない体水分を含む。体液の例としては、羊水、房水および硝子体液、胆汁、血清、母乳、脳脊髄液、耳垢(耳垢)、乳び、チャイム、内リンパおよび外リンパ、滲出液、糞便、女性射精液、胃液、胃液、リンパ液、鼻水や痰などの粘液、心膜液、腹水、胸水、膿、リウマチ、唾液、皮脂(皮脂)、漿液、精液、スメグマ、痰、滑液、汗、涙、尿、膣分泌物および嘔吐が挙げられる。それらはまた、細胞内液および細胞外液、たとえば血管内液、間質液、リンパ液、および経細胞液に分けられ得る。植物滲出液などの植物液も含まれ得る。
【0107】
一実施形態は、本明細書に記載されたヒドロゲルを含む医療用製品、たとえば、包帯、貼付剤、またはフィルタを提供する。
【0108】
本明細書に記載された凍結乾燥ヒドロゲルは、インプラント、または被検体、たとえば、患者もしくはそれを必要とする任意の他の被検体の体に、導入されるように、もしくは埋め込まれるように構成された任意の他の適切な医療用装置、たとえば、送達装置として提供されてもよい。凍結乾燥医療用ヒドロゲルを含むインプラントは、ヒドロゲルが体液もしくは他の水性環境にさらされるように、組織内、体腔内、または他の位置に導入されてもよい。インプラントは、10~1000mmの範囲内、たとえば300~600mmの範囲内の表面積を有してもよい。インプラントは、適切な寸法および形態、たとえば円筒形状を有してもよい。一実施例において、円筒状インプラントの長さは、5~60mmの範囲内にあり、直径は、1.5~5mmの範囲内にある。インプラントは、埋め込み前に、水和もしくは湿らされるか、または埋め込み後、体内で水和されるように構成されてもよい。
【0109】
一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するために、および/または覆うために使用されるヒドロゲルを提供する。一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するための、および/または覆うための、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤内のそのようなヒドロゲルを提供する。
【0110】
一実施形態は、皮下軟組織損傷、たとえば、創傷、他の損傷、または手術によって生じた皮下組織損傷を治療するため、および/または覆うために使用されるヒドロゲルを提供する。
【0111】
一実施形態は、皮膚の創傷を、移植片、たとえば皮膚移植片によって、治療するため、および/または覆うために使用される、ヒドロゲルを提供する。一実施形態は、移植片、たとえば皮膚移植片によって覆われた皮膚創傷を、治療するため、および/または覆うために、包帯、もしくは貼付剤として使用するための、または包帯もしくは貼付剤中において使用するためのヒドロゲルを提供する。
【0112】
一実施形態は、治療薬、より具体的には1種以上の治療薬を投与するために使用されるヒドロゲルを提供する。一実施例において、ヒドロゲルは、それ自体で、または貼付剤中に提供されてもよい。一実施例において、ヒドロゲルは、注入可能な形態で提供されてもよい。本明細書に記載されたヒドロゲル中に1種以上の治療薬が含まれてもよく、たとえば含浸されてもよく、患者への投与は、たとえば、経皮、経皮膚性、または皮膚下であってもよい。
【0113】
一実施形態は、ヒドロゲルを含む化粧品、たとえば、包帯、マスクまたは貼付剤を提供する。このような製品は、化粧品と称されてもよい。製品は、様々な形状で提供されてもよく、たとえば、マスクは、顔の上、たとえば、目の下、または顎、鼻もしくは額の上にフィットするように設計されてもよい。一実施形態は、化粧品として使用するためのヒドロゲルを提供する。製品は、1以上の化粧用薬剤を使用者、たとえば使用者の皮膚に放出するために使用されてもよい。そのような化粧品は、1以上の化粧用薬剤を含んでもよい。化粧用薬剤は、そこから放出または送達される製品中に含まれてもよく、たとえば含浸されてもよい。製品中の化粧用薬剤の含有量は、たとえば、0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内にあってもよい。一実施形態では、製品中の化粧用薬剤の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば、0.1~3%(w/w)または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。化粧用薬剤は、治療剤について上記で説明したのと同様に製品中に存在してもよく、または提供されてもよく、その逆も同様である。化粧用途は、本明細書に記載された医療用途、特に治療薬の投与に類似し得る。化粧用薬剤は、皮膚の疾患または障害、たとえば本明細書に記載されている疾患または障害を化粧的に治療するために使用されてもよい。そのような化粧品は、たとえば、にきび、にきび肌、褐色斑、しわ、油性肌、乾燥肌、老化肌、くも状静脈、日焼け後の紅斑、黒丸などを治療するために使用されてもよい。化粧用貼付剤の例は、皮膚クレンザ、たとえば、毛穴クレンザ、ブラックヘッドリムーバ、ストレッチストライプ、マスク様短期貼付剤、短期処理貼付剤、および一晩処置貼付剤を含む。
【0114】
化粧用薬剤の例は、ビタミンの形態およびその前駆体、たとえば、ビタミンA;たとえば、レチンアルデヒド(レチナール)、レチノイン酸、パルミチン酸レチニル、ならびにレチノイン酸レチニル、アスコルビン酸、グリコール酸および乳酸などのα-ヒドロキシ酸などのレチノイド;グリコール;バイオテクノロジー製品;角質溶解薬;アミノ酸;抗菌薬;保湿用クリーム;顔料;抗酸化剤;植物抽出物;クレンジング剤またはメーキャップ除去剤;カフェイン、カルニチン、イチョウ、およびトチノキなどの抗セルライト剤;コンディショナー;アロマセラピー薬および香水などの芳香剤;尿素、ヒアルロン酸、乳酸、およびグリセリンなどの湿潤剤;ラノリン、トリグリセリド、および脂肪酸エステルなどの軟化剤;アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、トコフェロール(ビタミンE)、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビリルビン、リポ酸、尿酸、酵素擬態薬、イデベノン、ポリフェノール、セレニウム、フェニルブチルニトロン(PBN)などのスピントラップ剤、タンパク質メチオニン基、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、セレニウムペロキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼなどの、FR捕捉剤、一重項酸素捕捉剤、超酸化物捕捉剤、もしくは過酸化水素捕捉剤、またはそれらの組み合わせを含む。化粧用薬剤は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくはエマルジョン、または別の好適な形態で存在してもよい。
【0115】
本明細書に記載された医療用または化粧用ヒドロゲルは、装着用装置、たとえば、所望量のヒドロゲルを含む、注射器、アプリケータ、ポンプ、またはチューブ、たとえば、0.5ml~200ml、もしくはそれ以上のサイズの注射器に組み込まれるか、または詰め込まれるように提供されてもよい。装置は、所望の厚さおよび幅および幾何学的形状でヒドロゲルの一定の流れを提供するためのマウスピースまたはノズルを含んでもよい。一実施例において、ヒドロゲルは、たとえば、針を通して、または注射器のマウスピースもしくはノズルを通して注入を可能にするような範囲の濃度および粘度を有する注入可能な形態である。凍結乾燥ヒドロゲルは、密封パッケージ、たとえば、真空パッケージもしくは保護気体を含むパッケージに包まれて提供されてもよい。ヒドロゲルは、特に凍結乾燥形態で、たとえば、医療用カプセルなどであるインプラントの形態であってもよい。ヒドロゲルは、シートなどの形態であってもよい。これらの「すぐに使える」装置は、包装され、殺菌され、貯蔵され、所望の時に使用される。これらの装着用装置は、すぐに使えるキットに組み込まれてもよい。凍結乾燥ヒドロゲル、またはそれを含む製品、たとえば、治療用薬剤を含む製品の水分含有量は、1~10%(w/w)、たとえば、2~8%(w/w)、1~5%(w/w)、2~5%(w/w)、または5~7%(w/w)の範囲内にあってもよい。一実施例において、たとえばパッケージは、本明細書に記載されたように、ゲルを所望の水分含有量に再水和するように構成された所定量の液体、たとえば、水、生理食塩水、緩衝溶液などの水性液体を含む別の容器を備える。液体は、たとえば、注射器などのアプリケータで提供されてもよく、またはパッケージは、乾燥ヒドロゲルを含む別の区画に接続され得る液体用の別個の区画を含んでもよく、たとえば、パッケージを押圧することによってシールなどを破り、液体と乾燥ゲルとを互いに接触させてもよい。液体は、他の方法、たとえば、液体を含む容器中に乾燥ゲルを浸すことによって、付与することが可能である。乾燥ゲルに液体を付与した後、ナノフィブリルセルロースと、ポリエチレングリコールと、トレハロースと、そして場合によっては治療用および/または化粧品用薬剤と含む再ゲル化ヒドロゲルが得られる。
【0116】
一実施例は、皮膚を化粧的に治療する方法であって、本明細書に記載の医療用製品、または化粧用製品を皮膚に塗布することを含む方法を提供する。
【0117】
一実施形態は、別の包装に包装された、本明細書に記載の、医療用製品または化粧用製品を提供する。別の充填物は、一連の充填物として提供されてもよい。そのような包装製品は通常、滅菌済みとして提供される。
【0118】
一実施形態は、本明細書に記載の医療用製品または化粧用製品を含むキット、たとえば包装製品を提供し、当該キットは、1種以上の包装製品を含んでもよい。また、キットは、他の材料または機器、たとえば、使用前に製品を前処理するための、水または他の水溶液、たとえば生理食塩水など、たとえば、再ゲル化製品の所望の水分含有量を得るための、所定量の水または他の水溶液を含む容器を含んでもよい。
【0119】
一実施例は、被検体に物質を送達または投与するための方法であって、1種以上の物質、たとえば治療用物質または化粧用物質または薬剤とを含む実施形態において記載されているような医療用ヒドロゲルを提供し、ヒドロゲルを被検体の皮膚に適用することを含む方法を提供する。被験体は、患者、または前記物質を必要とする他の任意の被験体、たとえば、ヒトまたは動物であってもよい。ヒドロゲルを皮膚に適用することによって、前記物質は、経皮的に、好ましくは、制御された、および/または延長された放出速度で送達される。
【0120】
一実施例は、被検体に物質を送達するための方法であって、実施形態に記載されたような医療用ヒドロゲルを提供することと、1種以上の物質、たとえば、治療用物質、または、化粧用物質、または薬剤とを含むことと、ヒドロゲルを被検体に注入することとを含む方法を提供する。注入、またはより正確には投与経路は、皮下または筋肉内であってもよい。
【0121】
一実施例は、皮膚の創傷、または他の損傷もしくは外傷を治療するための方法であって、創傷、損傷、または外傷に本明細書に記載された医療用製品を適用することを含む方法を提供する。ある特定の実施例は、移植片、たとえば皮膚移植片、たとえば、メッシュグラフトまたは全層移植片で覆われた皮膚の創傷を治療する方法であって、本明細書に記載された医療用製品を移植片に適用することを含む方法を提供する。
【0122】
移植は、組織自身の血液供給を体にもたらすことなく、体のある部位から別の部位に組織を移動させるか、または別の人間から組織を移動させるための外科的処置を表す。これに代えて、組織が置かれた後、新しい血液供給が増える。自家移植片および同系同種移植片は通常、外来物とはみなされないので、拒絶反応は誘発されない。同種異系移植片および異種移植片は、臓器受容者によって外来物と認識され、拒絶される。
【0123】
皮膚移植片は、多くの場合、創傷、火傷、感染、または外科的処置による皮膚の損失を治療するために使用される。損傷した皮膚の場合、その皮膚は取り除かれ、新たな皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、処置期間および必要な入院期間を短縮し、機能および外見を向上することもできる。皮膚移植片の2つの種類は、分層皮膚移植片(表皮+真皮の一部)と、全層皮膚移植片(表皮+真皮の全層)とである。
【0124】
メッシュグラフトは、排液および膨張のために開口部を設けられた、皮膚の、全層、または分層のシートである。メッシュグラフトは、体の多くの場所において有用である。なぜなら、メッシュグラフトは、平らでない表面に適合するからである。メッシュグラフトは、過度に動く場所に置くことができる。なぜなら、メッシュグラフトは、根底にある創傷床を縫合することができるからである。また、造窓術は、移植片の真下に集まり得る流体の排出口を提供し、排出口は、緊張と感染の危険との低下、ならびに移植片の血管新生の向上を促進する。
【0125】
皮膚上に医療用製品を適用する前に、製品は、前処理、たとえば、一般的には水溶液を用いて、湿らされるか、または濡らされてもよい。加湿または湿潤は、たとえば、水、または通常、約308mOsm/lの浸透圧を有する0.90% w/wのNaCl溶液である、通常の生理食塩水溶液を用いることによって実施されてもよい。他の種類の水溶液、たとえば、異なる濃度を有する生理食塩水が使用されてもよい。材料の加湿または湿潤は、皮膚との接触と、材料シートの成形性とを向上させる。
【実施例
【0126】
医薬品有効成分(API)を含むナノフィブリルセルロースヒドロゲルの凍結乾燥と再ゲル化
【0127】
以下の実施例から明らかなように、凍結乾燥工程は、NFCヒドロゲルの薬物放出特性に影響を及ぼさないことが判明した。 したがって、APIは、元のNFCヒドロゲルからの場合と同様のプロファイルを有する凍結乾燥(および再ゲル化)NFCヒドロゲルから放出される。
【0128】
実験のために選択されたAPIは、それらの異なる生理化学的特性のために、メトロニダゾール、ナドロール、BSA(ウシ血清アルブミン)、およびケトプロフェンであった。 各APIおよびNFCヒドロゲル混合物に使用された手順は同じであった。
【0129】
API、抗凍結剤およびNFCゲルの秤量量を表1に示す。
【表1】
【0130】
試料を凍結乾燥し、凍結乾燥試料の構造を顕微鏡で調べた。乾燥した材料を再ゲル化し、得られた再ゲル化ヒドロゲルの拡散特性を調べた。
【0131】
アニオン性NFCヒドロゲルからの小分子およびタンパク質サイズモデル化合物の放出
研究目的と研究の背景
目的は、NFCヒドロゲル濃度および加工度が、ヒドロゲル製剤からの、異なる電荷を有する、異なる分子量のFITC-デキストラン、タンパク質および小分子の放出プロファイルにどのように影響するかを研究することであった。仮説によれば、NFC繊維の量および加工度は、ヒドロゲルからの高分子量(> 1kDA)を有する化合物の放出プロファイルを変えるはずである。小分子の場合、目的は、モデル化合物の異なる電荷が放出プロファイルに影響を与えるかどうかを調べることであった。拡散試験において、モデル化合物を用いてTEMPO酸化NFCヒドロゲルの2つの異なるヒドロゲルグレードを試験した。具体的には、処理度3の3.0%および6.5%のTEMPO酸化NFCヒドロゲル濃度を使用した。
【0132】
放出試験におけるモデル化合物は、500M未満の分子量を有する小分子、メトロニダゾール、ナドロールおよびケトプロフェンを含んでいた。これらの分子はpH 7.4では異なる電荷を持つ。4kDaのFITC-デキストラン、リゾチームおよびウシ血清アルブミン(BSA)は、我々の研究において高分子量化合物を表す。 FITC-デキストランおよびタンパク質は、化合物の流体力学的半径に関して可能な直線性を有するより大きな分子の拡散を実証するためにそれらの分子量に基づいて選択された。
【0133】
ヒドロゲルを介した小分子およびタンパク質の透過は、それらのサイズ、形状、電荷および相対的な親水性および疎水性の特徴によって影響を受ける。ヒドロゲルの孔径、孔径分布および孔の相互接続に加えて、溶質分子を水和および溶解するための遊離水分子の利用可能性もまた、ヒドロゲルを通る分子の拡散速度に影響を及ぼす。ヒドロゲルからの小分子およびタンパク質の主な放出機構は、Fickian拡散によって特徴付けることができる。溶質の拡散速度は、ヒドロゲルポリマーネットワークと溶質との間の静電的、疎水的および水素結合などの弱い相互作用によって影響を受ける可能性がある。
【0134】
本研究の第2部における、さらなる目的は、製剤の性能に対するNFCヒドロゲルの凍結乾燥の効果を研究することであった。選択されたモデル化合物の溶解プロファイルは、賦形剤による凍結乾燥の前後に評価された。溶解試験の前に元のヒドロゲル構造を形成するために、凍結乾燥エアロゲル製剤を水和し、それらの元の濃度に分散させた。製剤成分の相溶性および残留水分含量を評価するために、示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)を用いて凍結乾燥エアロゲル製剤に対して熱分析を行った。ヒドロゲル製剤のレオロジー特性に対する凍結乾燥の効果を評価するために、凍結乾燥の前後に製剤の粘度測定も行った。再凝集および角化は、NFCの乾燥工程中の典型的な不利益である。1つの目的は、製剤中に抗凍結剤賦形剤、トレハロースおよびPEG6000を添加することによってこれらの現象を最小限に抑えることであった。エアロゲルの形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価した。共焦点顕微鏡を水和NFCヒドロゲルの画像化に使用した。
【0135】
材料
TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースヒドロゲル3.0%および6.5%が、UPMによって提供され、受け取ったまま使用した。全てのモデル化合物および試薬は、分析用グレードのものであった。Bio-Rad Protein Assay試薬は、Bio-Rad、USAから購入した。4kDaのFITC-デキストランは、Sigma-Aldrich、Swedenから購入した。D-(+)-トレハロース二水和物は、Sigma-Aldrich、USAから購入した。メトロニダゾールは、Sigma-Aldrich、Chinaから購入した。ナドロールは、Sigma-Aldrich,Finlandから購入した。ケトプロフェンは、Orion pharma,Finlandから購入した。鶏卵卵白由来のリゾチームは、Roche、Germanyから購入した。ポリエチレングリコール6000は、Fluka,Switzerlandから購入した。カルシウムおよびマグネシウムを含まないダルベッコのリン酸緩衝食塩水(10×)濃縮物は、Gibco, UKから購入した。アセトニトリルは分析グレードのものであった。
【0136】
方法
酸化NFCヒドロゲルおよびモデル化合物を含む製剤の調製:
NFCヒドロゲル製剤を含むモデル化合物を、注射器内で10分間均質化混合しながら10mlの注射器中で調製した(図5)。4kDaのFITC-デキストランを、NFCヒドロゲル中の1%の最終濃度のFITC-デキストランと共に、1mg/mlのストック溶液からNFCヒドロゲルに添加した。メトロニダゾール、ナドロールおよびケトプロフェンを乾燥粉末としてNFCヒドロゲル中に、メトロニダゾールについては2%、ナドロールについては1.7%、およびケトプロフェンについては3.4%の最終濃度で添加した。BSAおよびリゾチームもまた、乾燥粉末として1%BSAおよび0.5%リゾチームの最終濃度でNFCヒドロゲルに添加した。メトロニダゾール、ナドロールおよびケトプロフェンについては、pH7での溶解度に関して過剰量の薬物を使用したので、薬物含有NFCヒドロゲル製剤はモノリシック分散体であった。4kDaのFITC-デキストランと共に、BSAおよびリゾチーム製剤をNFCヒドロゲルを用いて調製した。ここで、薬物の量はpH7における溶解限度を超えず、したがってこれらの製剤はモノリシック溶液であった。
【0137】
インビトロ放出試験:
インビトロ薬物放出試験は、1.33cmの一定の平らな表面積を有する、1.07gの製剤で充填された改変型内在性溶解ディスクを用いて行われた。ディスクをホルダー上部の150mlアンバーガラス容器に入れた。容器をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(1×DPBS)で70mlの最終容量まで満たし、そして多位置磁気スターラー、IKA RT10(IKA-Werke GmbH & Co KG, Germany)上で、一定の磁気撹拌(400rpm)下で37℃に保った。1.5mlのサンプルを容器から集め、そして1、2、4、6、24、30、48、72および144時間で新鮮な緩衝液と交換した。全ての実験は3回行った。
【0138】
インビトロ放出サンプルからのモデル化合物の定量化
インビトロ放出サンプルからのケトプロフェンおよびナドロール濃度を、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)機器、Acquity UPLC(Waters,USA)を用いて分析した。ケトプロフェンについては、使用したカラムは、30℃で、HSS-C18 1.8μm(2.1×50mm)(Waters,USA)であった。流速は0.5ml/分とし、注入量は5μlとした。ケトプロフェン検出は255nmの波長で実施した。グラジエントランの間、移動相は、アセトニトリルと15mMリン酸緩衝液pH 2との、0~3分で25:75の比の混合物からなっていた。3分後、移動相組成を75:25の比に変えた。ケトプロフェンの保持時間は、1.69分であった。ケトプロフェンの線状濃度は、0.1~25μg/mlの範囲内に設定され、ケトプロフェンのLOQは、0.03μg/mlであった。ナドロールについては、使用したカラムは、30℃で、HSS-T3 1.8μm(2.1×50mm)(Waters,USA)であった。流速は0.5ml/分とし、注入量は5μlとした。ナドロール検出は215nmの波長で行った。グラジエントラン中、移動相は、アセトニトリルと15mMリン酸緩衝液pH2との、0~3分で10:90の比の混合物からなっていた。 3分後、移動相組成を50:50の比に変えた。ナドロールの保持時間は0.92分であった。ナドロールの線形濃度は、0.1~50μg / mlの範囲で確立され、ナドロールのLOQは0.1μg/mlであった。
【0139】
自動マルチモードプレートリーダー、Varioskan Flash(Thermo Fisher Scientific,Finland)を用いて、FITC-デキストラン定量化を蛍光強度測定によって行った。200μlのサンプルを、96ウェルOptiPlateプレート(PerkinElmer、Finland)のウェルにピペットで入れた。励起波長490nm、発光波長520nmおよび12nm帯域幅を使用した。FITC-デキストラン較正曲線について確立された線形範囲は、0.005~0.15g/mlであり、相関係数の平方は0.99より上であった(R> 0.99)。
【0140】
メトロニダゾールおよびリゾチームの定量化は、Cary 100 UV-Vis分光光度計(Varian Inc.,USA)を用いた分光光度分析によって行った。メトロニダゾールについては、ブランクに対して12nmの帯域幅で、320nmで、1cmセルにおいて吸光度を測定した。メトロニダゾール較正曲線について確立された線形範囲は、3~35g/mlであり、相関係数の平方は0.99を超えた(R> 0.99)。リゾチームについては、ブランクに対して12nmのバンド幅で、280nmで、1cmのセルにおいて吸光度を測定した。リゾチーム検量線について確立された線形範囲は、1~17μg/mlであり、相関係数の平方は0.99(R> 0.99)を超えた。
【0141】
BSA定量化は、Bradford色素結合法に基づく、比色Bio-Radタンパク質アッセイによって行われた。手短に言えば、150μlの各BSA標準試料およびBSA試料を、別々のマイクロタイターウェルプレートに3通りにピペッティングし、50μlの希釈したBradford色素試薬を添加した。サンプルと試薬をマルチチャンネルピペットで完全に混合し、吸光度測定の前に室温で20分間インキュベートした。吸光度は、ウェルプレートリーダー、Varioskan Flash(Thermo Fisher Scientific、Fi nland)を用いて、470nmおよび595nmで、5nmの帯域幅で測定された。BSA較正曲線について確立された線形範囲は、1~40μg/mlであり、相関係数の平方は0.99(R> 0.99)より上であった。アッセイの線形化を使用して精度および感度を改善した。
【0142】
結果
異なるNFCヒドロゲル処方物からのモデル化合物の累積インビトロ放出プロフィールを、図1に示す。表2は、モデル化合物の物理化学的パラメータ、水溶性値および拡散係数を要約している。数学的方程式を、装置の構造、初期の薬物濃度対薬物溶解度の比、および装置の幾何学的形状を考慮に入れた拡散制御薬物放出のモデリングのために使用した。 拡散係数は、これらの系が、モノリシック分散として記述できると仮定して、小分子について樋口の式(1)によって計算された(下記の式1および2)。大分子(1> kDa)方程式に対して、我々はフィックの拡散の第二法則と拡散係数(2)を、これらのシステムがモノリシック解として記述できると仮定して解くために使用した(図2)。
【数1】
【数2】
【表2】
【0143】
小分子のメトロニダゾール、ケトプロフェン、およびナドロールでは、電荷の影響は、pH7.4の累積放出プロファイルに弱い影響を与えているように思われる(図1)。メトロニダゾールは中性型であり、そして最も高い拡散係数値を有し、次いでカチオン性ナドロールおよびアニオン性ケトプロフェンが続いた(表2)。親水性メトロニダゾールおよびナドロールについては、カチオン性ナドロールと比較した場合に、中性メトロニダゾールが、NFCヒドロゲルからより速く拡散したので、分子の電荷が、薬物放出プロファイルに影響を及ぼし得ることが見出された。TEMPO酸化NFCの表面は、負に帯電しているので、カチオン性ナドロールとの静電相互作用は、中性メトロニダゾールよりも顕著であり、それ故、より遅い薬物放出をもたらす。さらに、化合物の溶解度は、分子の電荷よりも大きな程度で薬物放出プロファイルに影響を及ぼした可能性がある。この現象は、単独電荷に基づくと、カチオン性ナドロールよりも速い薬物放出速度を有するはずであったアニオン性ケトプロフェンの長期薬物放出速度として観察された。NFCヒドロゲル濃度は、累積放出プロファイルおよびすべての小分子の拡散係数に影響を及ぼした。全体として、NFCヒドロゲルの加工度は、小型モデル化合物の累積薬物放出プロファイルに最小限の影響しか及ぼさなかった。小分子については、より高いNFC繊維含有量が製剤中に存在する場合、拡散係数はわずかに小さく、これは製剤中のNFC繊維の量が、薬物放出速度を制御するために使用できることを示している。製剤中のNFC繊維の濃度は、加工度よりもモデル化合物の放出プロファイルに大きな影響を与えた。
【0144】
大きなモデル化合物では、BSA、リゾチーム、およびFITC-デキストランの電荷が、pH7.4の累積放出プロファイルに大きな影響を与えた(図1)。中性のFITC-デキストランが、最も高い拡散係数値を有し、アニオン性BSAおよびカチオン性リゾチームがそれに続いた(表2)。これらの結果は、大きな分子では、分子の電荷が、累積放出プロファイルへの影響について、モル質量よりも有意であることを示している。カチオン性リゾチームは、最小の拡散係数値および全体的に最も長期の放出プロファイルを有した。対照的に、アニオン性BSAはより高い拡散係数値を有していた。BSAのモル質量は、リゾチームのモル質量より大きいので、これらの分子の電荷は、拡散速度に対する分子サイズの影響よりも大きい程度で、累積放出プロファイルに明らかに影響を及ぼした。NFCヒドロゲル濃度は、すべての大型モデル化合物の累積放出プロファイルおよび拡散係数に影響を及ぼした。全体として、NFCヒドロゲルの加工度は、大型モデル化合物の累積放出プロファイルに最小限の影響しか及ぼさなかった。大きな分子については、より高いNFC繊維含有量が製剤中に存在するときに拡散係数は有意に小さく、これは、その量の、製剤中のNFC繊維が、薬物放出速度の制御のために使用できることを示している。製剤中のNFC繊維の濃度は、加工度よりも大きなモデル化合物の放出プロファイルに大きな影響を与えた。
【0145】
まとめ
結果に基づいて、分子放出の効果、および結果として生じる負に帯電したTEMPO酸化NFC繊維の表面との分子の静電相互作用は、インビトロ放出試験において、大きな(> 1kDa)モデル化合物について明らかに観察された。小分子の場合、放出プロファイルに対する分子電荷の影響は、大モデル化合物の場合ほど顕著ではなかった。それ故、NFCヒドロゲルからの拡散速度を評価すると、小分子については分子の電荷が大分子ほどには有意ではないことが判明した。
全体として、溶解度の影響が最小限である場合、NFCヒドロゲルからの小分子の拡散は、大型モデル化合物の拡散よりも速かった。大きなモデル化合物については、NFCヒドロゲルネットワークからの拡散速度は、小分子と比較した場合、これらの化合物のサイズおよび電荷のために遅くなった。NFCヒドロゲル濃度は、小分子ならびに大きなモデル化合物の放出プロファイルに影響を及ぼした。したがって、ヒドロゲル中のNFC繊維濃度は、小分子サイズおよび大分子サイズの医薬化合物の放出速度を制御するために使用することができる。しかし、大分子サイズの化合物の放出速度に対するNFC濃度の影響は、小分子の場合よりも影響を受ける。最後に、製剤中のNFC繊維の濃度が、加工度よりもモデル化合物の放出プロファイルに対してより高い影響を有することが観察された。
【0146】
NFCヒドロゲル製剤の凍結乾燥
本研究の一部は、下記のNFCヒドロゲル製剤の凍結乾燥に焦点を合わせている。凍結乾燥エアロゲルの形態、残留水分含量および熱的挙動を評価した。凍結乾燥工程前後の薬物放出特性を評価した。凍結乾燥前後のレオロジー特性を下記のように評価した。
【0147】
ポリエチレングリコールおよびトレハロースが凍結防止剤として選択された。なぜなら、特に再分散段階で相乗効果が検出されたからである。凍結防止剤として、ポリエチレングリコールのみ、トレハロースのみ、およびポリエチレングリコールとトレハロースとの両方を含むNFCヒドロゲルを作製し、凍結乾燥した。同様の方法で全ての試料に水を添加したが、ポリエチレングリコールとトレハロースの両方を含むヒドロゲルのみが、適切なゲル形態、すなわち凍結乾燥前と同様の形態に再ゲル化した。これは、目視検査によって直ちに検出することができた。ヒドロゲルの沈降は、検出されなかった。ポリエチレングリコールのみまたはトレハロースのみを含むヒドロゲル試料は、均質なゲル形態に再ゲル化しなかったが、結果物は、薄片状および粒状であり、さらなる研究には適した材料ではなかった。さらに、試料をガラス瓶に一晩放置すると、凍結防止剤を含まないか、またはポリエチレングリコールのみ、もしくはトレハロースのみを含むボトル中でヒドロゲルが沈降してはっきりと見える水相が分離されたが、ポリエチレングリコールおよびトレハロースの両方を含むものでは分離されなかった。
【0148】
図7は、ガラス瓶中で、室温で一晩インキュベートした後の、凍結防止剤ポリエチレングリコールおよびトレハロースの再分散NFCヒドロゲルに対する効果を示す(A)。 ポリエチレングリコールおよびトレハロース(B)なしでは、NFCヒドロゲルは、瓶の底に完全に沈降した。ポリエチレングリコールのみまたはトレハロースのみを使用した場合にも同様の沈降が観察された。
【0149】
この研究の主たる結果は、次のことを示している。
【0150】
制御された薬物放出用途について、3%および6.5%の高濃度での、TEMPO酸化NFCヒドロゲルの可能性を評価した。ほとんどの製剤研究は、以前はより希薄なNFCグレードの使用に焦点を当てていた。これに関して高濃度のNFCヒドロゲルを使用することは新規であると考えることができる。
【0151】
TEMPO酸化NFCヒドロゲルがうまく凍結乾燥され、ヒドロゲル形態に再分散され得ることが見出され、示された。使用された凍結防止剤、PEG6000およびトレハロースは共に、これらの凍結防止剤を含まない製剤とは対照的に、凍結乾燥後の再水和および再分散NFCヒドロゲルの貯蔵弾性率および損失弾性率を著しく改善した。賦形剤を含む凍結乾燥NFCヒドロゲルの粘度も再水和時に保存された。
【0152】
これらの知見は、凍結防止剤が凍結乾燥処理中にNFC繊維の構造を保つのを支援したことを示している。NFCエアロゲルの作製は、したがってレオロジー特性を著しく変えなかった。さらに、薬物の生物活性物質放出特性は、凍結乾燥前後で同様であった。これはAPIにとって非常に望ましい特徴である。なぜなら、製品の有効期間は、加水分解に感受性のAPI以外の場合にはエアロゲルの乾燥状態によって増加させることができるからである。エアロゲルは、必要に応じて容易に再水和し投与することができる。
【0153】
材料および方法
2.1.材料
3.0%および6.5%のTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、UPM-Kymmene Corporation,Finlandによって提供された。全てのモデル化合物および試薬は分析用グレードのものであった。Bio-Rad Protein Assay試薬は、Bio-Rad、USAから購入した。4kDaのFITC-デキストランは、Sigma-Aldrich、Swedenから購入した。D-(+)-トレハロース二水和物は、Sigma-Aldrich、USAから購入した。メトロニダゾールは、Sigma-Aldrich、Chinaから購入した。ナドロールは、Sigma-Aldrich,Finlandから購入した。ケトプロフェンは、Orion Pharma,Finlandから購入した。鶏卵卵白由来のリゾチームは、Roche、Germanyから購入した。ポリエチレングリコール6000は、Fluka,Switzerlandから購入した。カルシウムおよびマグネシウムを含まないダルベッコのリン酸緩衝食塩水(10×)濃縮物は、Gibco, UKから購入した。アセトニトリルは分析用グレードのもの、Sigma-Aldrich,Germanyのものであった。
【0154】
2.2 方法 - フェーズI - III
NFCヒドロゲル製剤の調製
注射器中で、10分間均質化混合しながら、NFCヒドロゲル製剤を10ml注射器中にて調製した(図5)。表3は、NFCヒドロゲルおよびモデル化合物の物理的混合物の配合組成を含む。4kDaのFITC-デキストランを、NFCヒドロゲル中の1%の最終濃度のFITC-デキストランと共に、1mg/mlのストック溶液からNFCヒドロゲルに添加した。メトロニダゾール、ナドロールおよびケトプロフェンを乾燥粉末としてNFCヒドロゲル中に、メトロニダゾールについては2%、ナドロールについては1.7%、およびケトプロフェンについては3.4%の最終濃度で添加した。BSAおよびリゾチームを、乾燥粉末として、1%BSAおよび0.5%リゾチームの最終濃度でNFCヒドロゲルに添加した。メトロニダゾール、ナドロールおよびケトプロフェンについては、pH7での溶解度に関して過剰量の薬物を使用したので、薬物含有NFCヒドロゲル製剤は、モノリシック分散体であった。4kDaのFITC-デキストラン、BSAおよびリゾチームを用いて、本発明者らは、薬物の量がpH7における溶解限度を超えないNFCヒドロゲルを含む製剤を調製し、したがってこれらの製剤はモノリシック溶液であった。
【表3】
【0155】
メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェンおよびBSAのNFCヒドロゲル製剤を、PEG6000およびトレハロースを用いて調製した(表4)。これらの製剤は、製剤の凍結乾燥前後の薬物放出特性を評価するために調製された。PEG6000およびトレハロースを製剤に添加して、NFCの角化および再凝集に対する抗凍結剤として機能させた。メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェンおよびBSA含有製剤の凍結乾燥エアロゲルを重量法で再水和した。次いで、これらのヒドロゲルを、注射器中で10分間均質化混合することによって再分散させた。
【表4】
【0156】
凍結乾燥プロトコル
モデル化合物および抗凍結剤を含むNFCヒドロゲルおよびNFCヒドロゲル製剤を、凍結乾燥法を用いたエアロゲル調製に使用した。2.5mlの各タイプのNFCヒドロゲルおよびヒドロゲル製剤を10mlの注射器内に入れ、その後これらのヒドロゲルを、ヒドロゲルを液体窒素に1分間浸漬することによって急速に凍結させた。凍結試料を直ちに凍結乾燥機(FreeZone 2.5、LabConco、USA)に移し、真空下(70 mTorr)で-52℃の昇華温度で29時間凍結乾燥した。最終凍結乾燥サンプルを注射器に密封し、使用するまでシリカデシケーター内に保存した。図6Aは、パラフィルムによって保護された凍結乾燥ナドロールゲルを示す。
【0157】
走査型電子顕微鏡(SEM)
凍結乾燥エアロゲルの形態を走査型電子顕微鏡、Quanta FEG250(SEM,FEI,USA)を用いて画像化した。エアロゲルは、内部エアロゲル構造の分析のために手動で破砕されるか、またはエアロゲル表面構造の分析のためにメスで切断された。エアロゲルの断面および表面構造の顕微鏡写真を得た。画像化の前に、サンプルを両面カーボンテープ上に固定し、Agarスパッタ装置(Agar Scientific Ltd.,UK)を用いて、25秒間白金でスパッタした。SEM画像を図2、3、および6Bに提示する。図2は、ゲル表面および横断面(CS)上の、トレハロースおよびPEG6000を含むか、または含まない凍結乾燥された高多孔質3%および6.5%NFCエアロゲルのSEM顕微鏡写真を示す。図3は、1%PEG6000および0.3%トレハロースを含み、左から右に、1%BSA、2%メトロニダゾール(MZ)、3.4%ケトプロフェン(KETO)および1.7%ナドロール(NAD)を含む、凍結乾燥した3%NFCエアロゲルの同様のSEM顕微鏡写真を示す。
【0158】
熱重量分析(TGA)
エアロゲルの残留水分含量は、TGA(TGA 850, Mettler - Toledo, Switzerland)を使用して決定した。試料を窒素(40ml/分)雰囲気中で、10℃/分の加熱速度で、25から240℃に加熱した。エアロゲルの残留含水量は、蒸発水の質量損失(%)として決定された。
【0159】
示差走査熱量測定(DSC) - 補足データ
凍結乾燥NFCエアロゲルおよびモデル化合物の熱分析は、示差走査熱量計、Mettler Toledo DSC 823e(Mettler Toledo, Giessen, Germany)を使用して実施した。試料を密閉蓋付きの密封アルミニウム皿に入れ、窒素雰囲気中で25~200℃の間で、10℃/分の走査速度で加熱した。データをSTAReソフトウェア(Mettler-Toledo、Giessen、Germany)で分析した。
【0160】
レオロジー測定
レオロジー測定は、温度制御用のペルチェシステムを備えた、HAAKE ViscotesteriQレオメータ(Thermo Fisher Scientific、Karlsruhe, Germany)を用いて37℃で行った。結果を、HAAKE RheoWin 4.0ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific)で分析した。全ての測定において、直径35mmの平行な鋼板とプレートの幾何学的形状を、1mmの間隔で使用した。各測定の前に、サンプルを37℃で5分間静置した。制御された応力振幅掃引を実施して、異なるNFCヒドロゲル製剤についての線形粘弾性領域を決定した。すべての振幅掃引において、一定角周波数ω= 1Hzおよび0.0001~500Paの間の振動応力を用いた。周波数掃引用に選択された振動応力は、τ=50Pa(3%NFCヒドロゲル)、τ=80Pa(5.7%NFCヒドロゲル)、およびτ=100Pa(6.5%NFCヒドロゲル)であり、角周波数範囲は0.6~125.7ラジアン-1であった。断速度は、せん断速度を0.1から1000 1/sに増加させることによって測定した。
【0161】
レオロジー測定で使用された設定は以下の通りであった。
振幅:CSモード
- せん断応力振幅掃引、37℃,t=300s保持→オシンプ掃引、
-log,16ステップ
周波数:CSモード
一定のせん断応力による37℃、t=300秒の保持時間、
- τ=50Pa(3.2%)、τ=80Pa(5.7%)、τ=100Pa(6.8%)
- f=0.1Hz - 20Hz(eli ω=0.6283 rad/s - 125.7rad/s)
- ログ,16ステップ
粘度:CRモード
- せん断速度(1/s)=0.1~1000
【0162】
インビトロ放出試験:
インビトロ薬物放出試験は、1.33cmの一定の平らな表面積を有する1.07gの製剤で充填された改変型内在性溶解ディスクを用いて行われた。ディスクをホルダー上部の150mlアンバーガラス容器に入れた。容器をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(1×DPBS)で70mlの最終容量まで満たし、そして多位置磁気スターラーIKA RT10(IKA-Werke GmbH&Co KG,Germany)の上で一定の磁気撹拌(400rpm)下で37℃に保った。1.5mlのサンプルを容器から集め、そして1、2、4、6、24、30、48、72および144時間で新鮮な緩衝液と交換した。全ての実験は3回行った。
【0163】
インビトロ放出試料からのモデル化合物の定量
インビトロ放出サンプルからのケトプロフェンおよびナドロール濃度を、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)機器、Acquity UPLC(Waters, USA)を用いて分析した。ケトプロフェンについては、使用したカラムは、30℃で、HSS-C18 1.8μm(2.1×50mm)(Waters, USA)であった。流速は、0.5ml/分とし、注入量は5μlとした。ケトプロフェン検出は、255nmの波長で実施した。グラジエントランの間、移動相は、アセトニトリルと15mMリン酸緩衝液pH 2との、0~3分で25:75比の混合物からなっていた。3分後、移動相組成を75:25の比に変えた。ケトプロフェンの保持時間は1.69分であった。ケトプロフェンの線状濃度は、0.1~25μg/mlの範囲内に設定され、ケトプロフェンのLOQは、0.03μg/mlであった。ナドロールについては、使用したカラムは、30℃でHSS-T3 1.8μm(2.1×50mm)(Waters, USA)であった。流速は0.5ml/分とし、注入量は5μlとした。ナドロール検出は215nmの波長で行った。グラジエントラン中、移動相は、アセトニトリルと15mMリン酸緩衝液pH 2との10:90の比で0~3分の混合物からなっていた。3分後、移動相組成を50:50の比に変えた。ナドロールの保持時間は、0.92分であった。ナドロールの線形濃度は、0.1~50μg/mlの範囲内に設定され、ナドロールのLOQは0.1μg/mlであった。
【0164】
FITC-デキストラン定量化を、自動マルチモードプレートリーダー、Varioskan Flash(Thermo Fisher Scientific, Finland)を用いて蛍光強度測定によって行った。200μlのサンプルを、96ウェルOptiPlateプレート(PerkinElmer、Finland)のウェルにピペットで入れた。励起波長490nm、発光波長520nm、および12nm帯域幅を使用した。FITC-デキストラン較正曲線について確立された線形範囲は、0.005~0.15g/mlであり、相関係数の平方は0.99より上であった(R>0.99)。
【0165】
メトロニダゾールおよびリゾチームの定量化は、Cary 100 UV-Vis分光光度計(Varian Inc.、USA)を用いた分光光度分析によって行った。メトロニダゾールについては、ブランクに対して12nmの帯域幅で、320nmで1cmセルにおいて吸光度を測定した。メトロニダゾール較正曲線について確立された線形範囲は、3~35g/mlであり、相関係数の平方は、0.99を超えた(R> 0.99)。リゾチームについては、ブランクに対して12nmのバンド幅で、280nmで1cmのセルにおいて吸光度を測定した。リゾチーム検量線について確立された線形範囲は、1~17μg/mlであり、相関係数の平方は0.99(R>0.99)を超えた。
【0166】
BSA定量化は、Bradford色素結合法に基づく比色Bio-Radタンパク質アッセイによって行われた。手短に言えば、150μlの各BSA標準試料およびBSA試料を別々のマイクロタイターウェルプレートに3通りにピペッティングし、50μlの希釈したBradford色素試薬を添加した。サンプルと試薬を、マルチチャンネルピペットで完全に混合し、吸光度測定の前に室温で20分間インキュベートした。吸光度は、ウェルプレートリーダー、Varioskan Flash(Thermo Fisher Scientific,Finland)を用いて、470nmおよび595nmで、5nmの帯域幅で測定された。BSA(R>0.99)精度および感度を改善するためにアッセイの線形化を使用した。
【0167】
熱重量分析(TGA)
熱重量分析からの結果を表5に示す。
【表5】
【0168】
示差走査熱量測定
示差走査熱量測定の結果を表6に示す。
【表6】
【表7】
【0169】
レオロジー測定
レオロジー測定からの結果を図4(凍結乾燥前後の異なる製剤のせん断速度粘度)および図1(メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェンの放出に対するNFCヒドロゲル濃度および凍結乾燥の効果)に示す。製剤は、メトロニダゾール、ナドロール、ケトプロフェンと組み合わせた3%NFCヒドロゲル、またはBSA、リゾチーム、またはPEG6000を含む3%NFCヒドロゲル、およびメトロニダゾールと組み合わせたトレハロース、ナドロールを含有した。凍結乾燥前後のケトプロフェンまたはBSA(b)、メトロニダゾールと組み合わせた6.5%NFCヒドロゲル、ナドロール、ケトプロフェン、BSA、リゾチームまたは4kDa FITC-デキストラン(c)、PEG6000と組み合わせた6.5%NFCヒドロゲルおよびメトロニダゾールと組み合わせたトレハロース。凍結乾燥前後のナドロール、ケトプロフェンまたはBSA各曲線は3回の分析の平均±標準偏差である。結果を表8および9にも示す。
【0170】
両方の等級のNFCは、0.1~40(1/s)の範囲のせん断速度でそれらのそれぞれの再水和試料より約2.5倍高い粘度を示した。賦形剤の存在は、凍結乾燥試料の粘度を増加させ、そして、プレーンヒドロゲル粘度を低下させることによって、特に6.5%ヒドロゲルについて低下させることによって、曲線間のギャップを約1.3に減少させた。モデル化合物の添加は、凍結乾燥前後の賦形剤を含有するNFCヒドロゲルと比較したときに粘度曲線を有意に変化させなかった。従って、凍結乾燥の粘度低下効果は減少した(すなわち、賦形剤による安定化は失われなかった)。しかしながらBSAとMZについては、粘度曲線間のギャップは、賦形剤のみを含有するNFCヒドロゲルよりも凍結乾燥の前後でわずかに広く、NADとKETOについては、ギャップはより狭かった。全てのサンプルは、せん断速度の増加と共に粘度の着実な減少を示した。凍結乾燥は再水和後のせん断減粘に影響を及ぼさず、結果は凍結乾燥工程の前後の構造的類似性を示している。
【表8】
【表9】
【0171】
小分子の電荷は、拡散係数に有意な影響を与えなかった。非荷電メトロニダゾールは、試験した全てのNFCヒドロゲル製剤を通して最高の拡散係数を有していた。3%NFCを通した拡散は、6.5%NFCヒドロゲルからの拡散よりも速かったので、NFCヒドロゲル濃度は小分子の拡散に影響を及ぼした。これらの製剤の凍結乾燥は、薬物放出プロファイルに最小限の影響しか及ぼさなかった。
【0172】
より大きな分子では、小さな分子とは対照的に有意に低い拡散定数値が観察された。分子量はNFCヒドロゲルを介した拡散に影響を及ぼし、ヒドロゲル中の異なる繊維濃度は、拡散に対する有意な制御を提供した。4kDaでは、拡散速度は、3.5%NFCヒドロゲルの3%NFCヒドロゲルを通して1.5倍速かった。同様に、14.7kDaのリゾチームの拡散は、6.5%のヒドロゲルよりも3%のNFCヒドロゲルからの方が2倍速かった。さらに、リゾチームのカチオン電荷は、アニオン性NFC繊維ネットワークを介した拡散を延長した。これはおそらく静電相互作用によるものと考えられる。66.5kDaのBSAについては、拡散係数は3%および6.5%のNFCヒドロゲルにおいて同様であった。これは、おそらくより大きなサイズのBSAに起因すると考えられ、ヒドロゲルを通る大きなタンパク質の拡散が、ヒドロゲル中の繊維含有量に加えて、それらのサイズのためにより大きく制限されていることを示した。アニオン性66.5kDa BSAの拡散は14.7kDaリゾチームの場合ほど制限されていなかったが、BSAの放出は4kDa FITC-デキストランの場合よりもまだ遅かった。それ故、NFCヒドロゲルを通る大きな分子の拡散は、大きさと電荷の影響を受けることが分かった。
【0173】
凍結乾燥用のモデルタンパク質化合物として使用するためにBSAを選択した。BSAの拡散係数は、PEG6000およびトレハロースの添加ならびに凍結乾燥によって影響を受けた。賦形剤の添加は、賦形剤を含まないヒドロゲルとは対照的に、より高い拡散定数に起因し得るヒドロゲルの粘度をわずかに減少させた。3%NFCヒドロゲルの凍結乾燥はBSAの放出を有意に変えなかった。対照的に、拡散は、凍結乾燥後の凍結乾燥された6.5%NFCヒドロゲルよりも約2倍遅かった。NFCは脱水時に不可逆的な角化を起こすことが知られている。NFC繊維の構造は、BSAのような大きな分子の拡散に影響を与える程度まで凍結乾燥中にわずかに修正されているかもしれない。この現象は他のモデル化合物では観察されなかった。66.5kDa未満のモデル化合物の放出特性は凍結乾燥中も維持されることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7