(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 1/09 20060101AFI20220119BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20220119BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20220119BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220119BHJP
H05K 3/38 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H05K1/09 C
B23K1/00 330E
H01L23/12 C
H05K1/03 610D
H05K1/03 610E
H05K3/38 C
(21)【出願番号】P 2019532831
(86)(22)【出願日】2018-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2018027882
(87)【国際公開番号】W WO2019022133
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017143417
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 周平
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】柴垣 宙央
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-165001(JP,A)
【文献】特開2009-256207(JP,A)
【文献】特開2005-268821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H05K 3/38
H05K 1/03
H01L 23/12
B23K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ、
回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、
ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含み、
はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である、セラミックス回路基板。
【請求項2】
はみ出し部の厚みが8~30μmであり、長さが40μm~150μmである、請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
セラミックス基板が、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化珪素、及びほう化ランタンから選択される、請求項1又は2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
回路パターンが銅を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板の製造方法であって、
セラミックス基板の両主面にろう材を用いて銅板を接合する工程を有し、
ろう材が、Agを85.0~95.0質量部、Cuを5.0~13.0質量部、SnまたはInを0.4~2.0質量部、及び、TiをAg、Cu及び、SnまたはInの合計100質量部に対して1.5~5.0質量部、含有し、
真空中または、不活性雰囲気中で、接合温度が770℃~900℃であり、保持時間が10~60分で接合する、製造方法。
【請求項6】
ろう材が、Ag粉末、Cu粉末、及び、Sn粉末又はIn粉末を用いてなり、Ag粉末の比表面積が0.1~0.6m
2/gである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Cu粉末の表面積が0.1~1.0m
2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8~8.0μmである、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
Sn粉末又はIn粉末の比表面積が0.1~1.0m
2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8~10.0μmある、請求項5から7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーター、車両、ハイブリッドカー等といったパワーモジュール用途には、アルミナ、ベリリア、窒化珪素、窒化アルミニウム等のセラミックス基板の表面に、金属回路板をろう材で接合し、更に金属回路板の所定の位置に半導体素子を搭載したセラミックス回路基板が用いられる。
【0003】
近年では、半導体素子の高出力化、高集積化に伴い、半導体素子からの発熱量は増加の一途をたどっている。この発熱を効率よく放散させるため、高絶縁性、高熱伝導性を有する窒化アルミニウム焼結体や窒化珪素焼結体のセラミックス基板が使用されている。
【0004】
しかし、セラミックス基板と金属板は熱膨張率が大きく異なるため、繰り返しの冷熱サイクルの負荷によりセラミックス基板と金属板の接合界面に熱膨張率差に起因する熱応力が発生する。特に、接合部付近のセラミックス基板側に圧縮と引張りの残留応力が作用することで、セラミックス基板にクラックが発生し、接合不良又は熱抵抗不良を招き、電子機器としての動作信頼性が低下してしまう等の問題を有する。
【0005】
そこで、特許文献1には金属板の底面からはみ出すろう材の長さが30μmより長く且つ250μm以下、好ましくは50μm乃至200μmに制御することで、セラミックス回路基板の熱サイクル特性を向上させる構造が提案されている。
【0006】
特許文献2には、セラミックス回路基板のろう材層のはみ出し組織をAgリッチ相がCuリッチ相よりも多く占めるように制御することで、エッチングによるろう材はみ出し部の溶解を抑制し、ろう材層はみ出し部の応力緩和効果が低下することを防止する方法が提案されている。
【0007】
特許文献3には、ろう材層をある一定の比率で、厚みと長さを制御してはみ出させることで、セラミックス回路基板の熱サイクル特性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003―112980号公報
【文献】特開2005-268821号公報
【文献】国際公開第2107/056360号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
最近の電気自動車に搭載されるパワーモジュールは、さらなる高出力化、高集積化が急激に進行し、セラミックス回路基板にかかる熱応力がより増大する傾向にある。そのため、機能安全性を保障するために、これまでの-40℃での冷却15分、室温での保持15分及び125℃における加熱を15分、室温での保持15分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとする熱サイクル試験から、これまでの-55℃での冷却15分、室温での保持15分及び175℃における加熱を15分、室温での保持15分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとする厳しい熱サイクル条件での耐久性が要求されている。特に冷却温度が低温化することで、セラミックス部に発生する引張応力が増大し、セラミックス回路基板にクラックが発生しやすくなる課題がある。この点で、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に記載されているろう材層はみ出しの長さ、距離、比率、組織を制御することで、熱応力の緩和効果は期待できる。しかし、より厳しくなった熱サイクルテストの条件では、銅回路パターン部の外縁下のろう材層はみ出し部により大きな熱応力が集中し、ろう材はみ出し部の付け根付近にあるAgリッチ相とCuリッチ相の界面が割れてしまう場合がある。その場合はろう材はみ出し部が短くなり、応力緩和効果を得ることができず、セラミックス回路基板にクラックが発生するという問題がある。
【0010】
本願発明は、高い接合性及び優れた耐熱サイクル特性を有するセラミックス回路基板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意努力した結果、セラミックス回路基板のろう材はみ出し部外縁から回路パターン側にAgリッチ相を連続化し、Agリッチ相とCuリッチ相の界面を減らすことで、セラミックス回路基板の耐熱サイクル特性が向上することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、以下に関する。
[1]セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ、回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含み、はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である、セラミックス回路基板。
[2]はみ出し部の厚みが8~30μmであり、長さが40μm~150μmである、[1]に記載のセラミックス回路基板。
[3]セラミックス基板が、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化珪素、及びほう化ランタンから選択される、[1]又は[2]に記載のセラミックス回路基板。
[4]回路パターンが銅を含む、[1]から[3]のいずれかに記載のセラミックス回路基板。
[5][1]から[4]のいずれかに記載のセラミックス回路基板の製造方法であって、セラミックス基板の両主面にろう材を用いて銅板を接合する工程を有し、ろう材が、Agを85.0~95.0質量部、Cuを5.0~13.0質量部、SnまたはInを0.4~2.0質量部、及び、TiをAg、Cu及び、SnまたはInの合計100質量部に対して1.5~5.0質量部、含有し、真空中または、不活性雰囲気中で、接合温度が770℃~900℃であり、保持時間が10~60分で接合する、製造方法。
[6]ろう材が、Ag粉末、Cu粉末、及び、Sn粉末又はIn粉末を用いてなり、Ag粉末の比表面積が0.1~0.6m2/gである、[5]に記載の方法。
[7]Cu粉末の表面積が0.1~1.0m2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8~8.0μmである、[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8]Sn粉末又はIn粉末の比表面積が0.1~1.0m2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8~10.0μmある、[5]から[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い接合性及び優れた耐熱サイクル特性を有するセラミックス回路基板及びその製造方法を提供することができる。詳しくは、接合ボイド率1.0%以下であり、-55℃から175℃の熱サイクル試験2500サイクルにおいてクラック率2.0%未満のセラミックス回路基板及びその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ろう材層によるはみ出し部外縁から回路パターン内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続しているセラミックス回路基板の断面写真の一例である。
【
図2】Agリッチ相及びCuリッチ相について説明するための拡大写真である。
【
図3】ろう材層によるはみ出し部外縁から回路パターン内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続していないセラミックス回路基板の断面写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
[セラミックス回路基板]
本実施形態に係るセラミックス回路基板は、回路パターンの外縁からはみ出したAg、Cu及びTiとSnまたはInを含むろう材層によるはみ出し部が形成されたセラミックス回路基板の断面の接合界面において、前記ろう材層によるはみ出し部外縁から回路パターン内側にAgリッチ相が300μm以上連続しており、接合ボイド率が1.0%以下であることを特徴とするセラミックス回路基板である。以下、詳しく述べる。
【0017】
(セラミックス基板)
セラミックス回路基板は、セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられている。実施形態に係るセラミックス基板としては、特に限定されるものではなく、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等を使用できる。但し、金属板を活性金属法でセラミックス基板に接合するため、窒化アルミニウム、窒化珪素素等の非酸化物系セラミックスが好適であり、更に、優れた機械強度、破壊靱性の観点より、窒化珪素基板が好ましい。
【0018】
セラミックス基板の厚みは、特に限定されないが、0.1~3.0mm程度のものが一般的であり、特に、回路基板全体放熱特性及び熱抵抗率低減を考慮すると、0.2~1.2mm以下が好ましく、より好ましくは0.25~1.0mm以下である。
【0019】
(ろう材層)
ろう材層は、セラミックス回路基板における優れた耐熱サイクル特性を達成するために、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含むろう材で構成される。ろう材は、Ag粉末、Cu粉末、及び、Sn粉末又はIn粉末を用いて形成することができる。ろう材配合であるAg/Cu比は、AgとCuの共晶組成である72質量%:28質量%よりAg粉末の配合比を高めることで、Cuリッチ相の粗大化を防止し、Agリッチ相が連続したろう材層組織を形成することができる。また、Ag粉末の配合量が多く、Cu粉末の配合量が少ないと接合時にAg粉末が溶解しきれずに接合ボイドとして残る。さらに、ろう材粉末中に含有するSnまたはInは、セラミックス基板に対するろう材の接触角を小さくし、ろう材の濡れ性を改善するための成分であり、少なくすぎるとセラミックス基板との濡れ性が低下し、接合不良につながる可能性があり、多すぎるとろう材層中のAgリッチ相がCuリッチ相により不連続化しろう材が割れる起点になり、セラミックス回路基板の熱サイクル特性を低下させる可能性がある。
よってAg粉末と、Cu粉末、及び、Sn粉末またはIn粉末の配合比は、Ag粉末:85.0~95.0質量部、好ましくは、88.0~92.0質量部、より好ましくは、88.5~91.0質量部、Cu粉末:5.0~13.0質量部、好ましくは、6.0~12.0質量部、より好ましくは、7.0~11.0質量部、Sn粉末またはIn粉末:0.4~2.0質量部、好ましくは、0.5~1.5質量部が挙げられる。
【0020】
前記Ag粉末としては、比表面積が0.1~0.6m2/g、好ましくは、0.3~0.5m2/gのAg粉末を使用するとよい。比表面積を0.6m2/g以下とすることで、比表面積の大きいAg粉末を使用することにより生じることがある凝集の発生や酸素濃度が高くなることを防いで、接合不良が生じることを防ぐことができる。また、比表面積を0.1m2/g以上とすることで、小さい比表面積を有するAg粉末を使用することにより生じることがあるAg粉末が溶解しきれずにセラミックス回路基板に接合ボイドが形成されることを抑制することができる。その結果、より高い接合性を有するセラミックス回路基板にすることができる。比表面積の測定は、ガス吸着法を用いることで測定することができる。前記Ag粉末の製法は、アトマイズ法や湿式還元法などにより作製されたものが一般的である。Ag粉末のレーザー回折法により測定した個数基準の粒度分布における平均粒子径D50は、1.0~10.0μmであることが好ましく、2.0~4.0μmであることがより好ましい。
【0021】
上記、ろう材粉末中に含有するCu粉末は、Agリッチ相を連続化させるために、比表面積が0.1~1.0m2/g、好ましくは0.2~0.5m2/gであり、及び/又はレーザー回折法により測定した体積基準の粒度分布における平均粒子径D50が0.8~8.0μm、好ましくは、2.0~4.0μmのCu粉末を使用するとよい。比表面積を1.0m2/g以下、または平均粒子径D50を0.8μm以上とすることで、微細なCu粉末を使用することにより生じることがあるCu粉末の酸素量が高くなることを防いで接合不良が生じることを防ぐことができる。また、比表面積を0.1m2/g以上、または平均粒子径D50を8.0μm以下とすることで、大きいCu粉末を使用することにより生じることがあるろう材層中のAgリッチ相がCuリッチ相により不連続化することを防ぐことができる。その結果、Agリッチ層が不連続となった箇所がろう材が割れる起点となってセラミックス回路基板の熱サイクル特性を低下させることを抑制することができ、より優れた耐熱サイクル特性を有するセラミックス回路基板にすることができる。
【0022】
上記Sn粉末またはIn粉末としては、比表面積が0.1~1.0m2/g及び/又は平均粒子径D50が0.8~10.0μmの粉末を使用するとよい。比表面積を1.0m2/g以下、または平均粒子径D50を0.8μm以上にすることで、微細な粉末を使用することにより生じることがあるSn粉末の酸素量が高くなることを防いで接合不良が生じることを防ぐことができる。また、比表面積を0.1m2/g以上、または平均粒子径D50を8.0μm以上にすることで、大きいSn粉末またはIn粉末を使用することにより生じることがある、接合工程における昇温中にAg粉末にSn粉末またはIn粉末が溶解してSn粉末またはIn粉末が存在していた一部に粗大な接合ボイドが発生することを防ぐことができる。その結果、より高い接合性を有するセラミックス回路基板にすることができる。なお、上記の比表面積は、ガス吸着法により測定した値とする。
【0023】
上記ろう材配合に添加する活性金属は、窒化アルミニウム基板や、窒化珪素基板との反応性が高く、接合強度を非常に高くできるため、本実施形態ではチタンを用いている。Tiの添加量は、Ag粉末と、Cu粉末と、Sn粉末またはIn粉末の合計100質量部に対して、1.5~5.0質量部であることが好ましく、2.0~4.0質量部であることがより好ましい。活性金属の含有量を1.5質量部以上とすることで、セラミックス基板とろう材の濡れ性を高めて、接合不良の発生をより抑制することができる。Tiの含有量を5.0質量部以下とすることで、未反応のTiが多く残ることにより生じることがある、Agリッチ相が不連続化してろう材層が割れる起点になりセラミックス回路基板の熱サイクル特性を低下させることを防ぐことができる。その結果、熱サイクル特性をより高めることができる。
【0024】
ろう材原料を混合する方法としては、金属粉末及び有機溶剤、バインダーを配合し、らいかい機、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、3本ロール等を使って混合し、ペースト状にすることが好ましい。一般的に、有機溶剤としては、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、イソホロン、トルエン、酢酸エチル、テレピネオール、ジエチレンングリコール・モノブチルエーテル、テキサノール等が用いられ、バインダーとしては、ポリイソブチルメタクリレート、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂等の高分子化合物が用いられる。
【0025】
ろう材ペーストをセラミックス基板の両面に塗布する方法としては、ロールコーター法、スクリーン印刷法、転写法などがあるが、ろう材を均一に塗布するためには、スクリーン印刷法が好ましい。スクリーン印刷法で、ろう材ペーストを均一に塗布するためには、ろう材ペーストの粘度を5~20Pa・sに制御することが好ましい。ろう材ペースト中の有機溶剤量を5~17質量%、バインダー量を2~8質量%の範囲で配合することにより印刷性に優れたろう材ペーストを得ることができる。
【0026】
(回路パターン)
回路パターンは、特に限定されるものではなく、例えば、銅板で形成することができる。銅板に使用する材質は、純銅が好ましい。銅板の厚みは特に限定されないが、0.1~1.5mmのものが一般的であり、特に、放熱性の観点から、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上である。
【0027】
回路パターンは、セラミックス基板上にろう材を用いて金属板(例えば銅板)を接合した後、エッチングマスクを形成してエッチング処理を行うことにより形成することができる。
セラミックス基板と金属板との接合は、真空中または窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中、770~900℃の温度且つ10~60分の時間で接合することが好ましく、790~900℃の温度且つ10~60分の時間で接合することがより好ましい。また、770~900℃の温度且つ10~40分の時間で接合することも好ましい。775~820℃の温度且つ10~30分の時間で接合することもできる。接合温度を770℃以上及び保持時間を10分以上にすることで、金属板からのCuの溶け込みが不足することを防ぐことができ、セラミックス基板と金属板の接合性を高めることができる。また、接合温度を900℃以下、及び保持時間を60分以下にすることで、Agリッチ相の連続性を高めることができるとともに、接合時の熱膨張率差に由来する熱ストレスが増加することを防ぐことができるため、セラミックス回路基板の信頼性をより向上させることができる。
【0028】
回路基板に回路パターンを形成するためのエッチングマスクを形成する方法として、写真現像法(フォトレジスト法)やスクリーン印刷法、インクジェット印刷法など、一般的なプロセスを採用することができる。
【0029】
回路パターンを形成するために銅板のエッチング処理を行う。エッチング液に関しても特に制限はなく、銅回路をエッチングするエッチング液は、一般に使用されている塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水等が使用できるが、好ましいものとして、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液が挙げられる。エッチング時間を調整することで、銅回路の側面を傾斜させてもよい。
【0030】
エッチングによって不要な銅回路部分を除去したセラミックス回路基板には、塗布したろう材、その合金層、窒化物層等が残っており、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いて、それらを除去するのが一般的である。エッチング時間や温度、スプレー圧などの条件を調整することで、ろう材はみ出し部の長さ及び厚みを調整することができる。
【0031】
回路形成後エッチングマスクの剥離方法については、特に限定されずアルカリ水溶液に浸漬させる方法などが一般的である。
【0032】
セラミックス接合回路基板の表面の回路パターンとなる銅板の耐候性を向上させるとともに、半田濡れ性などの経時変化を防止するために、Niメッキ、Ni合金メッキ、Auメッキまたは防錆処理を行うことが好ましい。めっき工程は、例えば、脱脂、化学研磨、Pd活性化の薬液による前処理工程を経て、Ni-P無電解めっき液として次亜リン酸塩を含有する薬液を使用する通常の無電解めっきの方法、あるいは電極をパターンに接触させて電気めっきを行う方法などによりで行う。なお、防錆処理はベンゾトリアゾール系化合物により行うことが好ましい
【0033】
(はみ出し部)
セラミックス回路基板は、回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されている。はみ出し部について、
図1,2を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るセラミックス回路基板の一例における接合断面の拡大写真である。このセラミックス回路基板は、セラミックス基板(窒化珪素基板)2上に、ろう材層7を介して回路パターン(銅回路部)1が形成されている。ろう材層7の一部は、回路パターン1の外縁からはみ出してはみ出し部4を形成している。
【0034】
前記セラミックス回路基板において、ろう材はみ出し厚みが8μm~30μm、長さが40μm~150μmであり、好ましくはろう材はみ出し厚み13μm~23μm、はみ出し長さ50μm~100μmである。ろう材はみ出し厚みを8μm以上とし長さを40μm以上にすることで、ろう材層による応力緩和効果を十分に発揮することができ、熱サイクル特性をより高めることができる。また、ろう材厚みを30μm以下にすることで、熱応力が大きく発生してしまうことを防いで熱サイクル特性が低下することを抑制することができる。ろう材はみ出し長さを150μm以下にすることで、近年の著しい軽薄短小が求められる市場動向においても、基板の外形寸法も設計上許容可能な大きさにすることができる。
【0035】
(Agリッチ相及びCuリッチ相)
ろう材層は、はみ出し部の外縁から、セラミックス基板と回路パターン1の接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上、好ましくは400μm以上連続して形成されている。「Agリッチ相」とは、Ag固溶体で形成されている相を意味しており、主としてAgを含んでいる。「主として」とは、電子線励起X線分析装置(EPMA)における定量分析として80%以上であることを意味している。Agリッチ相には、Sn又はInとTiとが含有されており、Cuが固溶していることがある。本実施形態では、走査型電子顕微鏡で観察した場合に白色で観察される相を「Agリッチ相」とし、黒色で観察される相を「Cuリッチ相」という。「Agリッチ相が300μm以上連続して形成されている」とは、走査型電子顕微鏡で観察した場合に白色で観察される相が、ろう材はみ出し部外縁から300μmに亘って連続的に(切れ目なく)形成されていることを意味している。
図2を参照して説明すると、ろう材層7は、白色のAgリッチ相3と黒色のCuリッチ相6とで構成されている。Agリッチ相3中には黒色のCuリッチ相6が含まれることがあるが、白色部分が途切れて分離されていない限り、「連続して形成されている」ことを意味している。
【0036】
図1,3を参照して説明する。
図1のセラミックス回路基板では、白色のAgリッチ相3が、少なくとも300μmに亘って切れ目なく形成されている。
図1では、白色のAgリッチ相中に微小な黒色が観察されるが、白色のAgリッチ相は途切れて分離されることなく連続して形成されている。これに対して、
図3のセラミックス回路基板では、ろう材はみ出し部外縁5から、100μm未満の箇所で白色のAgリッチ相が途切れて分断され、Cuリッチ相6のみで構成されている箇所が出現している(Agリッチ相途切れ部)。
【0037】
本実施形態では、Agリッチ相3がろう材はみ出し部外縁5から300μm以上連続して形成されているので、より厳しくなった熱サイクルテストの条件においても、ろう材はみ出し部付近(はみ出し部外縁5から300μm以下の範囲)でAgリッチ相とCuリッチ相の界面が割れてしまうことがない。その結果、優れた耐熱サイクル特性を有するセラミックス回路基板にすることができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
厚み0.32mmの窒化珪素基板の両主面に、Ag粉末(福田金属箔粉工業(株)製:Ag-HWQ、平均粒子径D50:2.5μm、比表面積0.4m2/g)89.5質量部、Cu粉末(福田金属箔粉工業(株)製:Cu-HWQ 平均粒子径D50:3.0μm比表面積0.4m2/g、)9.5質量部、Sn粉末(福田金属箔粉工業(株)製:Sn-HPN、平均粒子径D50:3μm、比表面積0.1m2/g)1.0質量部の合計100質量部に対して、水素化チタン粉末(トーホーテック(株)製:TCH-100)を3.5質量部含む活性金属ろう材を塗布量8mg/cm2となるようにスクリーン印刷法で塗布した。
その後、窒化珪素基板の一方の面に回路形成用金属板を、他方の面に放熱板形成用金属板(いずれも厚さ0.8mm、純度99.60%のC1020無酸素銅板)を重ね、1.0×10-3Pa以下の真空中にて830℃且つ30分の条件で接合した。接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二鉄溶液でエッチングして回路パターンを形成した。さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去し、ろう材はみ出し長さ29μm、厚み5μmのはみ出し部を形成した。めっき工程は、脱脂、化学研磨による前処理工程を経て、ベンゾトリアゾール系化合物により防錆処理を行った。
【0040】
<接合ボイド率>
セラミックス回路基板の接合ボイド率は、超音波探傷装置((株)日立パワーソリューション製:ES5000)で観察される接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して算出した。
【0041】
<ろう材層部のAgリッチ相の連続性判定>
セラミックス回路基板のろう材はみ出し部外縁から回路パターン内側の断面の接合組織を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製SU6600形)で反射電子像にて観察し、ろう材層中において、白色で観察される相をAgリッチ相、黒色で観察される相をCuリッチ相と定義した。観察においては、ろう材はみ出し部外縁から回路パターン内側を、200倍の倍率、縦400μm×横600μmの視野で4視野分観察し、Agリッチ相の連続性について確認を行った。Agリッチ相がすべて連続しているものを「良」、Agリッチ相が1視野でも連続していないものを「不良」とした。このときのろう材はみ出し部外縁とは、Agリッチ相とセラミックスとの接合最外縁部と定義した。
【0042】
<ろう材層の厚みと長さの測定>
セラミックス回路基板の回路パターン角部の断面のろう材はみ出し部を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製SU6600形)で反射電子像にて200倍の倍率、縦400μm×横600μmの視野で、5視野分観察した。ろう材層の厚みについては、それぞれの視野毎の最大厚みと最小厚みの平均を求め、5視野分の平均値をろう材層の厚みとした。ろう材はみ出し部の長さについては、それぞれの視野毎の銅回路パターン外縁からろう材はみ出し部外縁間の距離を求め、5視野分の平均値をろう材層の長さとした。
【0043】
<耐熱サイクル性の評価>
作製したセラミックス回路基板を-55℃にて15分、25℃にて15分、175℃にて15分、25℃にて15分を1サイクルとする耐熱サイクル試験にて、2500サイクル繰り返し試験を行った後、塩化鉄及びフッ化アンモニウム/過酸化水素エッチングで金属板及びろう材層を剥離し、セラミックス基板の表面に発生したクラック面積をスキャナーにより600dpi×600dpiの解像度で取り込み、画像解析ソフトGIMP2(閾値140)にて二値化し算出した後、クラック面積を算出し、銅回路パターン面積で除してクラック率を求めた。
【0044】
<総合判定の基準>
接合ボイド率が1.0%以下で且つクラック率が0.0~1.0%のものを4、接合ボイド率が1.0%以下で且つクラック率が1.1~1.5%のものを3、接合ボイド率が1.0%以下で且つクラック率が1.6~2.0%のものを2、接合ボイド率が1.0%より大きいものまたはクラック率が2.0%より大きいものを1とした。結果を表3に表す。
【0045】
[実施例2~4]
ろう材の配合及び接合条件を表1に記載のとおりとし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとした以外は、実施例1と同様にセラミックス回路基板を作製した。また、実施例1と同様に、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に表す。
【0046】
[実施例5]
接合に使用するろう材に、Sn粉末の代わりにIn粉末(アトマイズ法特級試薬)を使用して表1に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとしたこと以外、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0047】
[実施例6~10]
ろう材の配合及び接合条件を表1に記載のとおりとし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に表す。
【0048】
[実施例11]
ろう材の配合及び接合条件を表1に記載のとおりとし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとした以外は、実施例5と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に表す。
【0049】
[実施例12~14]
ろう材の配合及び接合条件を表1に記載のとおりとし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に表す。
【0050】
[実施例15]
ろう材の配合及び接合条件を表1に記載のとおりとし、はみ出し部の長さ及び厚みを表3のとおりとした以外は、実施例5と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表3に表す。
【0051】
[比較例1]
接合に使用するろう材に、Sn粉末をせず、表2に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表4のとおりとしたこと以外、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表4に示す。
【0052】
[比較例2]
表2に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表4のとおりとした以外は、実施例5と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表4に表す。
【0053】
[比較例3]
表2に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表4のとおりとした以外は、実施例5と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表4に表す。
【0054】
[比較例4~8]
表2,4に変更を示した部分以外は、実施例1と同様に行った。結果を表4に表す。
【0055】
[比較例9]
表2に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表4のとおりとした以外は、実施例5と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表4に表す。
【0056】
[比較例10~14]
表2に記載のろう材配合及び接合条件とし、はみ出し部の長さ及び厚みを表4のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得、各種の測定及び評価を行った。結果を表4に表す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表3に示す通り、ろう材中の含有量が、Aがg85.0~95.0質量部、Cuが5.0~13.0質量部、Tiが1.5~5.0質量部、SnまたはInが0.4~2.0質量部で、接合温度770℃~900℃、保持時間10~60分で作製した接合体では、ろう材層によるはみ出し部外縁から回路パターン内側にAgリッチ相が300μm以上連続しており、熱サイクル試験後のクラック率が2.0%以下であった。さらにろう材はみ出し部の厚みを8~30μm、長さを40μm~150μmのどちらかを満たすことで、クラック率1.5%以下に、両方満たすことで、クラック率1.0%以下になることを確認した。
【符号の説明】
【0061】
1 回路パターン
2 セラミックス基板
3 Agリッチ相
4 ろう材はみ出し部
5 ろう材はみ出し部外縁
6 Cuリッチ相
7 ろう材層