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特許7010967セラミックス、プローブ案内部品、プローブカードおよびパッケージ検査用ソケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】セラミックス、プローブ案内部品、プローブカードおよびパッケージ検査用ソケット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20220119BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20220119BHJP
   G01R 1/073 20060101ALI20220119BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20220119BHJP
【FI】
C04B35/488
C04B35/596
G01R1/073 E
G01R31/26 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019552346
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041330
(87)【国際公開番号】W WO2019093370
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017217700
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591034280
【氏名又は名称】株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】山岸 航
(72)【発明者】
【氏名】森 一政
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 俊一
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-005975(JP,A)
【文献】特開平11-118968(JP,A)
【文献】特開2013-209244(JP,A)
【文献】特開2005-119941(JP,A)
【文献】特開昭64-033072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/488
C04B 35/596
G01R 1/073
G01R 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Si:21.0~60.0%と、
ZrO:25.0~70.0%と、
MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上:5.0~15.0%とを含有し、
ZrOの結晶相が、正方晶であるか、正方晶および単斜晶であるか、立方晶であるか、立方晶および正方晶であるか、立方晶および単斜晶であり、
-50~500℃における熱膨張係数が3.0×10 -6 ~6.0×10 -6 /℃であり、かつ3点曲げ強度が700MPa以上である、
セラミックス。
【請求項2】
質量%で、
MgO、Y、CeO、CaOおよびHfOから選択される1種類以上と、
TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上とを含有する、
請求項1に記載のセラミックス。
【請求項3】
ZrOが立方晶である、
請求項1または2に記載のセラミックス。
【請求項4】
プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、
質量%で、
Si :21.0~60.0%と、
ZrO :25.0~70.0%と、
MgO、Y 、CeO 、CaO、HfO 、TiO 、Al 、SiO 、MoO 、CrO、CoO、ZnO、Ga 、Ta 、NiOおよびV から選択される1種類以上:5.0~15.0%とを含有し、
ZrO の結晶相が、正方晶であるか、正方晶および単斜晶であるか、立方晶であるか、立方晶および正方晶であるか、立方晶および単斜晶であるセラミックスを用いた板状の本体部と、
前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔および/またはスリットとを備え、
前記複数の貫通孔内面および/または前記スリット内面の表面粗さが、Raで0.25μm以下である、
プローブ案内部品。
【請求項5】
複数のプローブと、
請求項4に記載のプローブ案内部品とを備える、
プローブカード。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれかに記載のセラミックスを用いた、
パッケージ検査用ソケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス、プローブ案内部品、プローブカードおよびパッケージ検査用ソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ICチップの検査工程においては、プローブカードが用いられる。図1には、プローブカードの構成を例示した断面図を示し、図2には、プローブガイドの構成を例示した上面図を示す。図1および図2に示すように、プローブカード10は、針状のプローブ11と、各プローブ11を挿通させるための複数の貫通孔12aを有するプローブガイド(プローブ案内部品)12を備える検査治具である。そして、ICチップ14の検査は、複数のプローブ11をシリコンウエハ13上に形成されたICチップ14に接触させることにより行われる。
【0003】
特許文献1には、窒化珪素25~60質量%と窒化硼素40~75質量%との混合物を主原料とするセラミックスが例示されている。また、特許文献2には、主成分が窒化硼素30~50質量%、およびジルコニア50~70質量%からなることを特徴とする快削性セラミックスに関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-226031号公報
【文献】国際公開第2002/082592号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のデバイスの微細化や高性能化に伴い、その検査装置に用いられるプローブガイドには、シリコンウエハ13と同程度の熱膨張率を有すること、プローブ荷重に耐えられる機械的強度(曲げ強度)を有すること、微小プローブを通す穴を高精度に多数加工できることなどが求められる。
【0006】
例えば、ICチップの検査工程の検査効率は、ICチップに同時に接触できるプローブの本数に依存する。このため、近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により、数万本の微小なプローブを高密度に立設したプローブカードが実用化されつつある。前掲の図2に示すように、プローブガイド12には、プローブカード10の各プローブ11に対応する位置に貫通孔12aを設ける必要がある。プローブカード10のプローブ11の設置位置や形状などは、その検査装置の仕様によって様々であり、それに応じて、貫通孔12aの設置位置や形状なども様々である。例えば、プローブ11がピン形状の場合は、貫通孔12aとしては円形の穴が採用されるが、プローブ11の形状に応じて、様々な形状の貫通孔12aを形成する必要がある。
【0007】
穴の内径や穴のピッチもプローブ11の種類や配置によるが、例えば、直径50μmの貫通孔を60μmピッチ(貫通孔間の壁厚は10μm程度)で設ける場合がある。このような小さな貫通孔を数万個設ける必要がある。このため、精密な加工がしやすい材料であることが求められる。特に、プローブガイド12の貫通孔12aがプローブ11に接触した場合にパーティクルが発生するとデバイスへのダメージや検査不良、プローブカード10のメンテナンス回数の増加を引き起こすことがある。よって、プローブガイド12の貫通孔12a内表面の粗さが小さいこと、すなわち、加工表面が滑らかであることも求められる。
【0008】
ここで、ICチップの配線微細化に伴い、プローブ数の増加およびプローブを接触させるパッド間距離(ピッチ)が狭くなるとともに、プローブの位置精度の更なる向上も要求されている。この狭ピッチに対応するため、プローブの小型化が進められており、また、様々な形状のプローブが使われ始めている。一方、プローブガイドに用いられる材料においても、プローブ位置精度の向上を目的として、厚みの低減、プローブの形状変化に対応した微細穴の形成などの必要が生じている。
【0009】
しかし、プローブガイド用材料の厚みを低減すると部材の強度が低下し、プローブ荷重に耐えられずに変形し、その結果、プローブの位置精度が低下する。また、場合によってはプローブガイド用材料が破損することがある。これらの要求に対応するため、プローブガイドには、極めて優れた機械的特性を有することが求められる。
【0010】
以上、主として、プローブガイドについて説明したが、同様の性能が求められる用途としては、パッケージ検査用ソケットなどの検査用ソケットがある。
【0011】
ここで、特許文献1および2に記載されるセラミックスは、シリコンと同程度の熱膨張係数を有し、一定の機械的強度と、快削性を有するものであるが、加工表面の滑らかさについては全く考慮されていない。
【0012】
本発明は、シリコンと同程度の熱膨張係数と、優れた機械的強度とを有し、高精度に細密な加工ができ、且つ加工表面が滑らかであり、使用時のパーティクルの発生を抑止できるセラミックス、そのセラミックスを用いたプローブ案内部品、プローブカードおよび検査用ソケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく、高強度セラミックスのSiに、高膨張セラミックスのZrOを複合することで、シリコンウエハと同程度の熱膨張率を有し、かつ高強度のセラミックスを得ることを基本として鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
【0014】
(a)SiにZrOを複合したセラミックス材料は、極めて硬い材料であるため機械加工での微細穴形成は困難である。そこで、レーザ加工で微細穴を作製してプローブガイド板を得ることが好ましい。
【0015】
(b)しかし、単にレーザ加工を行うだけでは、加工表面(例えば、プローブガイドの貫通孔内表面)を滑らかにすることが困難である。そこで、酸化物を所定量含有させる。酸化物としては、MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVなどが例示される。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の発明を要旨とする。
【0017】
(1)質量%で、
Si:20.0~60.0%と、
ZrO:25.0~70.0%と、
MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上:5.0~15.0%とを含有する、
セラミックス。
【0018】
(2)質量%で、
MgO、Y、CeO、CaOおよびHfOから選択される1種類以上と、
TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上とを含有する、
上記(1)のセラミックス。
【0019】
(3)ZrOの結晶相が、正方晶であるか、正方晶および単斜晶であるか、立方晶であるか、立方晶および正方晶であるか、立方晶および単斜晶である、
上記(1)または(2)のセラミックス。
【0020】
(4)ZrOの結晶相が立方晶である、
上記(1)~(3)のいずれかのセラミックス。
【0021】
(5)-50~500℃における熱膨張係数が3.0×10-6~6.0×10-6/℃であり、かつ3点曲げ強度が700MPa以上である、
上記(1)~(4)のいずれかのセラミックス。
【0022】
(6)プローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品であって、
上記(1)~(5)のいずれかのセラミックスを用いた板状の本体部と、
前記本体部に、前記プローブを挿通する複数の貫通孔および/またはスリットとを備える、
プローブ案内部品。
【0023】
(7)前記複数の貫通孔内面および/または前記スリット内面の表面粗さが、Raで0.25μm以下である、
上記(6)のプローブ案内部品。
【0024】
(8)複数のプローブと、
上記(6)または(7)のプローブ案内部品とを備える、
プローブカード。
【0025】
(9)上記(1)~(5)のいずれかのセラミックスを用いた、
パッケージ検査用ソケット。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シリコンと同程度の熱膨張係数と、優れた機械的強度とを有し、高精度に細密な加工ができ、且つ加工表面が滑らかであり、使用時のパーティクルの発生を抑止できるセラミックスを得ることができるので、プローブ案内部品、プローブカードおよび検査用ソケットとして特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、プローブカードの構成を例示した断面図である。
図2図2は、プローブガイドの構成を例示した上面図である。
図3図3は、実施例6の微細加工後の穴を上方から撮影した写真である。
図4図4は、比較例3の微細加工後の穴を上方から撮影した写真である。
図5図5は、比較例4の微細加工後の穴を上方から撮影した写真である。
図6図6は、実施例6の微細加工後の穴の内面から撮影した写真である。
図7図7は、比較例5の微細加工後の穴の内面から撮影した写真である。
図8図8は、レーザ加工時の状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.セラミックス
本発明に係るセラミックスは、質量%で、Si:20.0~60.0%と、ZrO:25.0~70.0%と、MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上:5.0~15.0%とを含有する。以下、含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0029】
Si:20.0~60.0%
Siは、セラミックスに高い強度を付与するのに有効であり、700MPa以上という高い曲げ強度を得るためには、20.0%以上含有させる必要がある。しかし、Siの含有量が60.0%を超えると、シリコンウエハと同程度の熱膨張率を得ること、すなわち、-50~500℃における熱膨張係数を3.0×10-6/℃以上することが困難となる。よって、Siの含有量は、20.0~60.0%とする。下限は25.0%とするのが好ましく、30.0%とするのがより好ましい。上限は、55.0%とするのが好ましく、50.0%とするのがより好ましい。
【0030】
ZrO:25.0~70.0%
ZrOは、セラミックスに高い熱膨張率を付与するのに有効であり、25.0%以上含有させる必要がある。しかし、ZrOの含有量が70.0%を超えると、熱膨張率が高くなりすぎて、シリコンウエハと同程度の熱膨張率を得ること、すなわち、-50~500℃における熱膨張係数を6.0×10-6/℃以下にすることが困難となる。よって、ZrOの含有量は、25.0~70.0%とする。下限は30.0%とするのが好ましく、35.0%とするのがより好ましい。上限は、65.0%とするのが好ましく、60.0%とするのがより好ましい。
【0031】
なお、ZrOとしては、単斜晶、正方晶または立方晶の結晶構造を有するものがある。一般的に、ZrOセラミックスに高い強度を付与するためには、酸化物を数%固溶させた正方晶ZrOが好んで使用される。しかし、この正方晶ZrOは、低温(200℃未満)であっても長時間曝されると、単斜晶に相転移し、この相転移の際にセラミックスの寸法を変化させる。この相転移は、例えば、40℃以上で進行し、150℃以上でより顕著に進行する。したがって、このようなセラミックスをプローブカードのプローブを案内するプローブ案内部品に使用した場合、室温においてはプローブ案内部品としての機能を果たすものの、使用する温度域が高くなるに伴い、プローブを挿通する複数の貫通孔および/またはスリットの位置がずれ、プローブの挿通を阻害することがある。よって、使用温度で相転移しない、すなわち寸法変化しない立方晶ZrOを用いることがより好ましい。なお、立方晶ZrOには、3mol%程度のYなどの元素が含まれるが、ZrOの含有量にはこれらの元素の量も含まれる。ただし、単斜晶ZrOは正方晶または立方晶ZrOより強度が低いため、結晶構造として単斜晶を含む場合でも、その割合は50%以下とするのがよく、より好ましくは10%以下とするのがよく、0%でもよい。
【0032】
MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上:5.0~15.0%
本発明に係るセラミックスを様々な用途に用いる場合には、微細な加工を行う必要がある。例えば、プローブ案内部品として使用するためには、複数の貫通孔および/またはスリットを形成する必要がある。しかし、本発明に係るセラミックスは、SiおよびZrOを主成分とする高硬度材料であるので、この微細加工を機械的加工で行うことは困難である。このため、加工表面(例えば、プローブガイドの貫通孔内表面)が粗くなり、そのような加工を施した部材の使用時に、パーティクルが発生し、各種デバイスへのダメージや検査不良を招く。このため、このセラミックスへの微細な加工は、レーザ加工により行うのが好ましいが、レーザ加工によっても、加工表面(例えば、プローブガイドの貫通孔内表面)を滑らかにすることが困難であり、使用時のパーティクルの発生を完全に防止することは困難である。
【0033】
そこで、本発明に係るセラミックスにおいては、適量の酸化物を含有させる。すなわち、MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上を5.0%以上含有させる必要がある。一方、これらの酸化物の含有量が過剰な場合には曲げ強度の低下を招くので、これらの酸化物の一種以上の含有量は15.0%以下とする。よって、MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上の含有量は、5.0~15.0%とする。下限は7.0%とするのが好ましく、9.0%とするのがより好ましい。上限は、13.0%とするのが好ましく、11.0%とするのがより好ましい。
【0034】
特に、MgO、Y、CeO、CaOおよびHfOは、上記の効果に加え、焼結助剤としての働きをし、さらに、ZrOの結晶構造を立方晶として安定するのにも有効である。また、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVは、上記の効果に加え、焼結助剤としての働きもする。よって、MgO、Y、CeO、CaOおよびHfOから選択される1種類以上と、TiO、Al、SiO、MoO、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上とを含有させることが好ましい。
なお、各成分の含有量(質量%)は、ICP発光分光分析法により測定することができる。また、上記で挙げた成分以外の残部は、特に制約はないが、極力少ないことが好ましく、残部の含有量は10.0%以下が好ましく、5.0%以下がより好ましく、0%でもよい。残部としては、BN、AlN、SiCなどが例示される。
【0035】
-50~500℃における熱膨張係数:3.0×10-6~6.0×10-6/℃
本発明に係るセラミックスをプローブガイドに用いる場合には、各ICチップが搭載されるシリコンウエハの熱膨張係数と同程度であることが求められる。これは、検査時の温度が変化したときに、シリコンウエハの熱膨張に従ってICチップの位置が変動する。このとき、プローブガイドが、シリコンウエハと同程度の熱膨張係数を有しておれば、シリコンウエハの膨張、収縮に同調して移動するので、高精度な検査を維持することができる。この点、本発明に係るセラミックスが検査用ソケットに用いられる場合も同様である。よって、-50~500℃における熱膨張係数は、3.0×10-6~6.0×10-6/℃であることを基準とする。
【0036】
曲げ強度:600MPa以上
本発明に係るセラミックスは、プローブガイドに使用したときには、検査時にプローブなどとの接触や荷重に耐えうるように、十分な機械的特性を有していることが求められる。特に、プローブガイドの小型化、薄肉化の要請に答えるべく、従来にも増して高い曲げ強度が求められる。この点、本発明に係るセラミックスが検査用ソケットに用いられる場合も同様である。このため、曲げ強度は、600MPa以上であることを基準とし、より好ましくは700MPa以上とする。
【0037】
微細加工性
微細加工性は、パルスレーザ加工によって、厚み0.3mmのセラミックス材料に50μm角の貫通孔を9個形成したときの加工精度を、画像測定機(例えば(株)ミツトヨ製クイックビジョン)でレーザの抜け側から穴形状(加工精度が±2μm以下の場合を良好と判断する。)を観察することにより評価する。
【0038】
加工表面の粗さ
加工表面の粗さは、パルスレーザ加工によって、厚み0.3mmのセラミックス材料に50μm角の貫通孔を9個形成したときの加工穴内面を、レーザ共焦点顕微鏡(キーエンス製VK-X150)で、任意の5視野を、長さ100μm以上を測定し、傾き補正を行ってRaを算出し、その平均値を評価する。Raは、0.25μm以下を良好とする。
【0039】
150℃熱処理後のクラック発生有無
150℃熱処理後のクラック発生有無は、厚み0.3mmのセラミックス材料を、5℃/分で室温から150℃まで昇温し、150℃で100時間保持したのち、室温で自然放冷して、セラミックスが室温に達してからさらに5時間静置した後、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-6000)を用いて、観察倍率200倍で5視野以上を撮影し、撮影画像からクラックの発生有無を評価する。クラックの発生がない場合○、クラックの発生がある場合を×とする。
【0040】
2.セラミックスの製造方法
以下、本発明に係るセラミックスの製造方法の例について説明する。
【0041】
Si粉末と、ZrO粉末と、MgO、Y、CeO、CaO、HfO、TiO、Al、SiO、HMoO(焼結後にMoOとなる)、CrO、CoO、ZnO、Ga、Ta、NiOおよびVから選択される1種類以上の酸化物粉末とを、ボールミルなどの公知の方法で混合する。すなわち、容器内で各粉末とともに、溶媒と、セラミックス製または鉄心入りの樹脂製ボールとともに混合してスラリー化する。この際、溶媒には水またはアルコールを用いることができる。更には、必要に応じ分散剤やバインダーなどの添加物を用いてもよい。
【0042】
得られたスラリーをスプレードライや減圧エバポレーターなどの公知の方法で造粒する。すなわちスプレードライヤーで噴霧乾燥して顆粒化あるいは、減圧エバポレーターで乾燥して粉末化する。
【0043】
得られた粉末を高温高圧下で、例えばホットプレスまたはHIP(熱間等方圧加圧法)などの公知の方法で焼結して、セラミックス焼結体を得る。ホットプレスの場合、窒素雰囲気中で焼成してよい。また焼成温度は1300~1800℃の範囲がよい。温度が低すぎると焼結が不十分になり、高すぎると酸化物成分の溶出などの問題が発生する。
【0044】
加圧力は10~50MPaの範囲が適当である。また加圧力持続時間は温度や寸法によるが通常1~4時間程度である。またHIPの場合においても、温度や加圧力などの焼成条件を適宜設定すればよい。このほか、常圧焼成法や雰囲気加圧焼成法などの公知の焼成方法を採用してもよい。
【実施例
【0045】
本発明の効果を確認するべく、配合比を変化させた、Si粉末と、ZrO粉末と、MgO、Y、Al、SiO、CeO、TiOおよびHMoO(焼結後にMoOとなる)から選択される1種類以上の酸化物粉末とを、水、分散剤、樹脂、セラミックス製のボールとともに混合し、得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥して顆粒状にした。得られた顆粒を黒鉛製のダイス(型)に充填し、窒素雰囲気中30MPaの圧力を加えながら1700℃で2時間ホットプレス焼成を行って、縦150×横150×厚さ30mmの試験材を得た。
【0046】
得られた試験材から試験片を採取して、各種の試験を行なった。
【0047】
<熱膨張率>
上記試験材の-50~500℃における熱膨張係数をJIS R1618に従って求めた。
【0048】
<曲げ強度>
上記の試験材の三点曲げ強度をJIS R1601に従って求めた。曲げ強度は、600MPa以上である場合を良好とする。
【0049】
<相対密度>
上記の試験材の嵩密度をJIS C2141に従って求め、求めた嵩密度を理論密度で除して相対密度を求めた。相対密度は、90%以上である場合を良好とする。
【0050】
<ヤング率>
上記の試験材のヤング率をJIS R1602に従って求めた。ヤング率は、230GPa以上である場合を良好とする。
【0051】
<微細加工性>
微細加工性は、パルスレーザ加工によって、厚み0.3mmのセラミックス材料に50μm角の貫通孔を9個形成したときの加工精度を、画像測定機(例えば、ミツトヨ製クイックビジョン)でレーザの抜け側から穴形状(加工精度が±2μm以下の場合を良好と判断する。)を観察することにより評価した。加工精度が±2μm以下の穴の形成ができた場合を「○」、それ以外の場合(材料の残りがあった場合、形状歪があった場合など)を「×」とする。なお、図8は、レーザ加工時の状態の概略図を示している。図8に示すように、セラミックスにおいて、レーザ光を照射する側を、レーザ照射側とし、レーザ照射側の反対側をレーザ抜け側とする。
【0052】
<加工表面の粗さ>
加工表面の粗さは、パルスレーザ加工によって、厚み0.3mmのセラミックス材料に50μm角の貫通孔を9個形成したときの加工穴内面を、レーザ共焦点顕微鏡(キーエンス製VK-X150)で、任意の5視野を、長さ100μm以上を測定し、傾き補正を行ってRaを算出し、その平均値を評価した。Raは、0.25μm以下を良好とした。なお、加工表面の粗さは、セラミックス材料の厚さ方向に平行な断面について、穴内面の厚さ中心部を含む領域(具体的には、図8の長方形で囲った部分)を観察する。
【0053】
【表1】
【0054】
図3には、実施例6の微細加工後の穴を上方から撮影した写真を示し、図4には、比較例3の微細加工後の穴を上方から撮影した写真を示し、図5には、比較例4の微細加工後の穴を上方から撮影した写真を示している。また、図6には、実施例6の微細加工後の穴の内面を撮影した写真を示し、図7には、比較例5の微細加工後の穴の内面を撮影した写真を示している。
【0055】
表1に示すように、比較例1および7は、Siが多すぎ、ZrOが少なすぎるため、熱膨張率が低くなった。比較例2および3は、Siが少なすぎ、ZrOが多すぎるために、熱膨張率高くなり、また、微細加工性が悪化した。比較例4は、Yが多すぎるため、熱膨張率が高くなり、また曲げ強度および微細加工性が悪化した。比較例5、6は、主成分としてBNを含むが、SiまたはZrOが本発明の範囲外であるために、曲げ強度が悪化した。比較例8は、主成分としてAlNを含むが、SiまたはZrOが本発明の範囲外であるために、曲げ強度が悪化した。比較例9は、ZrOのみで構成したものであり、曲げ強度等の性能に優れるが、熱膨張率が高くなりすぎ、また微細加工性が悪化した。
【0056】
これに対して、実施例1~17は、熱膨張率および曲げ強度ともに良好な範囲であり、微細加工性および加工表面の粗さにおいても優れていた。特に、図3~5に示すように、微細加工後に、比較例3では材料残りが生じ、比較例4では穴形状に歪みが生じたのに対して、実施例6では精密な穴を形成することができた。また、図6および図7に示すように、比較例5では穴内部の表面粗さが粗い(表1に示すように、Ra:0.33)が、実施例6では穴内部の表面粗さが滑らか(表1に示すように、Ra:0.16)であった。実施例14、実施例15は、求められる性能は満たしているものの、正方晶のZrOを含んでいたため、150℃の熱処理後にクラックの発生が認められた。これらのセラミックスは、常温での使用には支障がないが、加熱条件での使用には不向きである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、シリコンと同程度の熱膨張係数と、優れた機械的強度とを有し、高精度に細密な加工ができ、且つ加工表面が滑らかであり、使用時のパーティクルの発生を抑止できるセラミックスを得ることができるので、プローブ案内部品、プローブカードおよび検査用ソケットとして特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8