(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20220119BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/00 N
(21)【出願番号】P 2020141319
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019198111
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
(72)【発明者】
【氏名】内山 未有
(72)【発明者】
【氏名】宮本 陽子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】飯國 恒之
(72)【発明者】
【氏名】森本 喜久
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-157040(JP,A)
【文献】特開2009-203090(JP,A)
【文献】特開2016-155731(JP,A)
【文献】特開平09-157044(JP,A)
【文献】特開平11-310474(JP,A)
【文献】特開平05-194044(JP,A)
【文献】特開2015-189640(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103787678(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量%、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉を2~20質量%、および、耐火原料を65~97質量%含有することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物。
【請求項2】
前記耐火原料は、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびSiCを含む耐火原料であることを特徴とする、請求項1に記載の黒鉛含有キャスタブル耐火物。
【請求項3】
前記耐火原料は、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびマグネシアを含む耐火原料であることを特徴とする、請求項1に記載の黒鉛含有キャスタブル耐火物。
【請求項4】
前記耐火原料は、前記粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびスピネルを含む耐火原料であることを特徴とする、請求項1に記載の黒鉛含有キャスタブル耐火物。
【請求項5】
平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、SiCを1~20質量部と、アルミナを40~80質量部と、その他耐火原料を1~54質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項6】
平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、マグネシアを1~20質量部と、アルミナを60~90質量部と、その他耐火原料を1~38質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項7】
平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、スピネルを4~50質量部と、アルミナを40~85質量部と、その他耐火原料を1~50質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低水分で流し込み施工性に優れた黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄所で使用される耐火物に占める不定形耐火物の比率が増大している。不定形耐火物の1つであるキャスタブル耐火物は、高温で安定な金属酸化物のみで構成される場合が多い。キャスタブル耐火物は、水を添加して混練した後に型枠へ流し込み乾燥、焼成するという工程を必要とする。そのため、キャスタブル耐火物については、疎水性を有する炭化物や黒鉛などのカーボン原料などの使用を控えることが好ましい。その理由は、黒鉛含有キャスタブル耐火物の場合、型枠への流し込みを容易にする程度に流動性を与えるためには、必要な添加水量が多くなり、乾燥、焼成して黒鉛含有キャスタブル耐火物硬化体を形成した状態では見かけ気孔率の増大や耐食性の低下の原因になるからである。
【0003】
一方、高炉用樋材として使用する場合では、高温の溶銑やスラグと接触するために、カーボンを含有させることで溶銑やスラグとの濡れ性を低減させることができ有効である。そのため、該樋材としては、炭化物やカーボン原料を含むAl2O3-SiC-C質や、SiC-C質のキャスタブル耐火物などが使用されている。このとき高炉用樋材で使用されているカーボン原料は、ピッチ、カーボンブラックである。ピッチは、残炭率が50~90質量%となっており、使用時に加熱されて揮発成分がなくなった跡が気孔として残るので、見かけ気孔率の増大や耐食性の低下の原因になる。また、カーボンブラックは、粒子径が20~120nmと極めて小さく、酸化しやすいという問題がある。これらの欠点は、定型れんがで使用されている、熱伝導率や耐酸化性に優れる黒鉛を用いることで解決できると考えられる。
【0004】
しかしながら、黒鉛は、カーボン原料の中でも疎水性が非常に高いことが知られている。そのため、水を用いて施工するキャスタブル耐火物に黒鉛を適用すると、十分な施工性(流動性)を与えるためには添加水量が多くなり、施工後に乾燥させたときに水分が抜けて気孔として残る。その結果、黒鉛をキャスタブル耐火物に適用した場合、見掛気孔率の増大や耐食性の低下といった問題が発生し、黒鉛をキャスタブル耐火物に使用することが困難であった。
【0005】
上記の問題点を解決するために、黒鉛の表面に親水性であるアルミナなどの金属酸化物小粒子を固着させて、黒鉛の親水性を向上させることが提案されている。特許文献1には、メタノールなどの溶媒にフェノール樹脂やタールピッチなどの結合剤を希釈し、これにアルミナなどの微粉体を加えてスラリーを作製し、このスラリーを点滴、噴霧し、黒鉛の表面にコーティングすることで、黒鉛表面にアルミナなどの微粉体を固着させる技術が開示されている。また、特許文献2には、黒鉛粒子とアルミナなどの小粒子とを衝撃処理することで、黒鉛表面にアルミナなどの小粒子を固着させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-310474号公報
【文献】特許第3217864号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された技術では、エタノール等の有機溶媒で希釈されたフェノール樹脂やタールピッチなどの結合剤を用いて、アルミナなどの微粉体を黒鉛の表面に固着させているが、有機溶媒を用いているので、人体への影響が懸念され、作業に当たって換気対策が必要になるという問題があった。また、特許文献2に開示された技術においては、黒鉛の表面にアルミナまたはシリカを固着させる場合、粒径:0.2~0.6μmの小粒子を高速気流処理装置に投入して乾式処理している。このように、特許文献2では、粒径が細かい小粒子は人体への影響が懸念されるので、防塵対策が必要になるという問題があった。さらに、特許文献1および特許文献2に開示された技術では、処理費用が不定形耐火物の原料コストを増加させるという、経済性の面でも問題があった。
【0008】
本発明の目的は、高価な原料を使用することなく、また環境への影響が少なく、安価に低水分量で流し込み施工に優れた黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来技術が抱えている前述の課題を解決し、前記の目的を実現するために鋭意研究した結果、発明者らは、以下に述べる新規な黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法を開発するに到った。
【0010】
即ち、本発明は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量%、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉を2~20質量%、および、耐火原料を65~97質量%含有することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物である。
【0011】
また、本発明は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、SiCを1~20質量部と、アルミナを40~80質量部と、その他耐火原料を1~54質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、マグネシアを1~20質量部と、アルミナを60~90質量部と、その他耐火原料を1~38質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法である。
【0013】
さらにまた、本発明は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、スピネルを4~50質量部と、アルミナを40~85質量部と、その他耐火原料を1~50質量部とを、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるように配合し、混合することを特徴とする黒鉛含有キャスタブル耐火物の製造方法である。
【0014】
なお、前記のように構成される本発明に係る黒鉛含有キャスタブル耐火物においては、
(1)前記耐火原料は、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびSiCを含む耐火原料であること、
(2)前記耐火原料は、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびマグネシアを含む耐火原料であること、
(3)前記耐火原料は、前記粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉以外のアルミナおよびスピネルを含む耐火原料であること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【0015】
本発明において「粒径」とはJIS Z 8801に準拠した公称目開きの篩を用いて篩分けされた粒径であり、例えば公称目開き20μmの篩で篩った篩上を20μm以上、篩下を20μm未満と呼ぶこととする。また、「平均粒径」とは、JIS Z 8801に準拠した公称目開きの篩を用いて目開き1.00mm以上、1.00mm-850μm、850μm-710μm、710μm-600μm、600μm-500μm、500μm-425μm、425μm-300μm、300μm-180μm、180μm-100μm、100μm未満に篩分けしたのち、各粒子群の重量比率と代表粒径から算出した質量基準の加重平均である。ここで代表粒径は、それぞれを1.05mm、925μm、780μm、655μm、550μm、462.5μm、362.5μm、240μm、140μm、50μmとして計算する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法によれば、耐火原料に所定粒径の鱗状黒鉛およびアルミナ微粉を所定の割合で添加することによって、高価な特殊カーボン原料を使用することなく、低水分で流し込み施工性に優れる黒鉛含有キャスタブル耐火物を得ることができる。また、本発明によれば、黒鉛含有キャスタブル耐火物を流し込み施工する際に低水分で施工でき、見掛気孔率が減少するため、従来の耐火れんが並みに優れた、耐酸化性、耐スポーリング性、耐溶損性を示す黒鉛含有キャスタブル耐火物硬化体を確実に製造することができるという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において用いられる黒鉛含有キャスタブル耐火物は、鱗状黒鉛およびアルミナ微粉の他、耐火原料を添加して製造される。以下、そのキャスタブル耐火物の構成物質について順次説明していく。
【0018】
本発明に係る鱗状黒鉛は、平均粒径が100~900μmのものである。一般に、キャスタブル耐火物の施工性確保に必要な添加水量は、鱗状黒鉛の平均粒径に依存し、平均粒径が小さいものほど多量の水を必要とし、平均粒径が大きいものほど少量となる。例えば、鱗状黒鉛の平均粒径が100μm未満の場合は、施工確保に必要な水量が増加し、同時に耐酸化性が低下する。また、鱗状黒鉛の平均粒径が900μmを超える場合は、含有した鱗状黒鉛が偏在し、耐スポーリング性改善の効果が小さくなると同時に、入手が困難で経済的に好ましくない。なお、鱗状黒鉛の平均粒径のより好ましい範囲は、500~900μmである。
【0019】
次に、前記鱗状黒鉛の含有量は、1~15質量%である。鱗状黒鉛の含有量が1質量%未満であると、鱗状黒鉛添加の効果が小さく、十分な耐スポーリング性、耐溶損性を得ることができない。一方、鱗状黒鉛の含有量が15質量%を超えると、施工性確保のために必要な添加水量が増加し、耐用性を損ねる。なお、鱗状黒鉛の含有量の好ましい範囲は、3~11質量%である。特に、結晶性が高く疎水性が高い鱗状黒鉛を使用する場合には、本件発明の構成とすることによる効果が大きいことから、本発明で対象とする黒鉛は鱗状黒鉛に限定した。なお、鱗状黒鉛のうち、特に薄片状の黒鉛を鱗片状黒鉛と呼ぶが、本発明における鱗状黒鉛は鱗片状黒鉛を含むものとする。
【0020】
本発明に係る黒鉛含有キャスタブル耐火物では、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉を2~20質量%含有する。前記鱗状黒鉛だけでは、低水分で十分な流し込み施工性を得ることができない。平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛に対し、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉を組み合わせることにより、低水分化が可能となる。そのために、アルミナ微粉は2~20質量%の含有量とする。
【0021】
粒径が100μm以上のアルミナ粉は、施工性確保に必要な添加水量の低減効果は小さく、低水分化に寄与しない。一方、粒径が20μm未満のアルミナ微粉は、吸水してダマになることがあり、鱗状黒鉛と組み合わせたときの低水分化の効果が小さい。したがって、アルミナ微粉の粒径を20μm以上かつ100μm未満にしたものが、鱗状黒鉛と組み合わせたときに低水分化に効果がある。
【0022】
鱗状黒鉛含有量が1~15質量%の範囲では、アルミナ微粉の添加量が20質量%を超えても、鱗状黒鉛添加により必要となる添加水量の低減効果は変わらず、かえって配合原料中の微粉量が多くなるために施工性確保に必要な添加水量が増加し、キャスタブル耐火物の耐溶損性が低下する。一方、アルミナ微粉の添加量が2質量%未満であると、鱗状黒鉛含有量に対するアルミナ微粉の量が少なく、キャスタブル耐火物の流し込み施工性の改善の効果が十分に得られない。したがって、粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉の添加量を、2~20質量%の範囲内とする。なお、好ましいアルミナ微粉の添加量は、5~15質量%である。
【0023】
上記鱗状黒鉛およびアルミナ微粉以外の耐火原料を、65~97質量%添加する。その他の耐火原料として、100μmを超える粒径のアルミナ、10μm未満の粒径のアルミナ超微粉、SiO2、SiC、マグネシア、スピネル、ピッチ、カーボンブラック、アルミナ・セメント、粘土などがある。これらの原料は、必要とされる特性に応じて適量を配合すれば良い。
【0024】
アルミナおよびSiCを含む黒鉛含有キャスタブル耐火物を製造する際は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、SiCを1~20質量部と、アルミナを40~80質量部と、その他耐火原料を1~54質量部とを、配合し混合する。このとき、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるようにする。配合するアルミナから一部サンプリングし、篩分けにより粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉の含有割合を予め求めておけば、混合後の黒鉛含有キャスタブル耐火物中のアルミナ微粉の含有率が2~20質量部となるように配合できる。
【0025】
また、アルミナおよびマグネシアを含む黒鉛含有キャスタブル耐火物を製造する際は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、マグネシアを1~20質量部と、アルミナを60~90質量部と、その他耐火原料を1~38質量部とを、配合し混合する。このとき、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるようにする。配合するアルミナから一部サンプリングし、篩分けにより粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉の含有割合を予め求めておけば、混合後の黒鉛含有キャスタブル耐火物中のアルミナ微粉の含有率が2~20質量部となるように配合できる。
【0026】
さらに、アルミナおよびスピネルを含む黒鉛含有キャスタブル耐火物を製造する際は、平均粒径100~900μmの鱗状黒鉛を1~15質量部と、スピネルを4~50質量部と、アルミナを40~85質量部と、その他耐火原料を1~50質量部とを、配合し混合する。このとき、前記アルミナ中の粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉が2~20質量部となるようにする。配合するアルミナから一部サンプリングし、篩分けにより粒径20μm以上かつ100μm未満のアルミナ微粉の含有割合を予め求めておけば、混合後の黒鉛含有キャスタブル耐火物中のアルミナ微粉の含有率が2~20質量部となるように配合できる。
【実施例】
【0027】
<実施例1>
アルミナ、SiCを含む高炉鍋用キャスタブル耐火物に適用した実施例を以下の表1に、比較例を以下の表2に示す。黒鉛として鱗状黒鉛、人造黒鉛、土壌黒鉛を使用し、アルミナ微粉の他、耐火原料として0.3~10mmの電融アルミナに、SiO2を4質量%、SiCを15質量%、ピッチ粉末を2質量%、カーボンブラックを1重量%、アルミナ・セメント2質量%を、表1および表2に示す割合で混合し、種々のキャスタブル耐火物(実施例1~14、比較例1~13)を形成した。
【0028】
これらのキャスタブル耐火物に分散剤(例えば、メタクリル酸系ポリマー)を外掛けで0.1質量%添加し、フローテーブルを使用してテーブル・テストを行い、流動性を評価した。テーブル・テストはJIS R 5201に規定されており、流動性の指標である15回タッピング・フローを測定した。
【0029】
その後、各キャスタブル耐火物を40×40×160mmの角柱状金型に流し込み、24時間養生後に脱枠し、110℃で24時間乾燥した。その後、コークスブリーズ中温度1400℃で3時間保持して焼成し、焼成した各キャスタブル耐火物に対し、常温曲げ強度測定、スポーリング試験および気孔率測定を行った。この常温曲げ強度測定は、JIS R 2553に規定されたキャスタブル耐火物の強さ試験方法に準じて行った。また、スポーリング試験は、JIS R 2657に規定された耐火れんが及び耐火断熱れんがのスポーリング試験の方法に準じて行った。さらに、気孔率測定は、JIS R 2205に規定された耐火れんがの見掛気孔率測定の方法に準じて行った。
【0030】
なお、酸化試験は以下に示す方法で行った。
各キャスタブル耐火物を40×40×40mmの角柱状金型に流し込み、24時間養生後に脱枠し、110℃で24時間乾燥した。それを試験サンプルに用いた。酸化試験条件は、800℃下3時間および1400℃下3時間の2条件とした。酸化試験後、接地面に対して垂直に切断し、試験片中の酸化層の厚みを測定した。比較品として、高炉鍋用れんが(アルミナ-5質量%SiC-10質量%鱗状黒鉛)を用い、これの酸化厚みを100としてサンプル厚みを算出した。
【0031】
また、流動性を有する配合に関しては、実験室で溶融スラグに対する溶損試験を行った。溶損試験用の試験片は、台形形状の金型に流し込み、24時間養生後に脱枠し、110℃で24時間乾燥した後、コークスブリーズ中1400℃で3時間保持して焼成し、作製した。溶損試験は、8枚の試験片でるつぼを組み、内部に溶銑を挿入し、窒素気流中で1550℃まで昇温後、高炉スラグを1時間毎に投入し、掻き出しを行いつつ、合計3時間保持し、冷却後に鉛直に(溶銑と接触する面と垂直)に切断し、溶損の最大深さ(溶銑とスラグの界面)を標準試料(高炉鍋用れんが(アルミナ-5質量%SiC-10質量%鱗状黒鉛))と比較した。
【0032】
【0033】
【0034】
上述した表1および表2の実施例1の結果から、以下の評価結果がわかる。
【0035】
比較例1-1より、鱗状黒鉛の平均粒径が20μmであると、施工確保に必要な添加水量は10質量%以上となる。一方で、実施例1-1~1-4より、鱗状黒鉛の平均粒径が100~900μmであると、施工確保に必要な添加水量は7.6質量%以下となる。
【0036】
比較例1-2より、鱗状黒鉛の添加量を20質量%にすると、施工性確保のために必要な添加水量は12質量%以上必要となる。また、比較例1-3および1-4より、鱗状黒鉛の添加量が1質量%未満であると、鱗状黒鉛添加の効果が小さく、溶損指数は340以上となる。一方で、実施例1-1および1-5~1-8より、鱗状黒鉛の添加量が1~15質量%であると、施工性確保のために必要な添加水量は8.5質量%以下であり、溶損指数は126以下となる。
【0037】
さらに、比較例1-5より、アルミナ微粉の粒径が20μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は10質量%と大きく、同時に耐火物の耐用性が低下している。また、比較例1-6より、アルミナ微粉の粒径が100μm以上である場合においても、添加水量は10質量%と大きい。一方で、実施例1-1、1-9および1-10より、鱗状黒鉛の添加量が6質量%と同量の際、アルミナ微粉の粒径が20μm以上かつ100μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は7質量%以下となる。
【0038】
比較例1-7および1-8より、アルミナ微粉の添加量が2質量%未満であると、施工性確保に必要な添加水量は9質量%とアルミナ微粉を添加していない時の添加水量と同量であり、流し込み施工性の改善の効果は得られない。また、比較例1-9より、アルミナ微粉の添加量が22質量%であると、施工性確保に必要な添加水量は10質量%となり、アルミナ微粉を添加していない時に比べ1質量%増加している。一方で、実施例1および11~14より、アルミナ微粉の添加量が2~20質量%の際、施工性確保に必要な添加水量は7.6質量%以下となる。
【0039】
比較例1-10および1-11は、実施例1-1の鱗状黒鉛をそれぞれ人造黒鉛と土壌黒鉛に変えたものである。人造黒鉛と土壌黒鉛を使用するとタップフローが低下し十分な流動性が得られない。流動性を得るために添加水量を増やした配合が、比較例1-12および1-13である。添加水量を増やすことにより、タップフローが大きくなり流動性が向上するものの、見掛気孔率が大きくなり、また溶損指数や耐酸化性が悪化する。
【0040】
<実施例2>
次に、アルミナ、マグネシアを含む取鍋用キャスタブル耐火物に適用した実施例を以下の表3に、比較例を以下の表4に示す。前記鱗状黒鉛およびアルミナ微粉の他、耐火原料として電融アルミナ0.3-8mmに、10μm以下のアルミナ超微粉を11質量%、マグネシアを9質量%、粘土を1質量%、アルミナ・セメント9質量%を、表3および表4に示す割合で混合し、種々のキャスタブル耐火物(実施例2-1~2-11、比較例2-1~2-13)を形成した。
【0041】
これらのキャスタブル耐火物に分散剤(例えば、メタクリル酸系ポリマー)を外掛けで0.1質量%添加した。評価方法については、実施例1で示した高炉鍋用キャスタブル耐火物に適用した例と同様である。耐溶損性を示す溶損指数に関しては、工程品(92質量%Al2O3-5質量%MgOキャスタブル)の溶損指数を100とした。
【0042】
【0043】
【0044】
上述した表3および表4の実施例2の結果から、以下の評価結果がわかる。
【0045】
比較例2-1より、鱗状黒鉛の平均粒径が20μmであると、施工確保に必要な添加水量は11質量%以上となる。一方で、実施例2-1~2-3より、鱗状黒鉛の平均粒径が100~900μmであると、施工確保に必要な添加水量は6.8質量%以下となる。
【0046】
比較例2-2より、鱗状黒鉛の添加量を16質量%にすると、施工性確保のために必要な添加水量は14質量%以上必要となる。また、比較例2-3および2-4より、鱗状黒鉛の添加量が1質量%未満であると、弾性率比は0.13以下となり、耐スポーリング性が悪くなる。
【0047】
一方で、実施例2-1および2-4~2-7より、鱗状黒鉛の添加量が1~15質量%であると、施工性確保のために必要な添加水量は6.8質量%以下であり、さらに弾性率比0.55以上となり、低水分かつ高い耐スポーリング性を示す。
【0048】
さらに、比較例2-5より、アルミナ微粉の粒径が20μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は11質量%と大きく、同時に耐火物の耐用性が低下している。また、比較例2-6より、アルミナ微粉の粒径が100μm以上である場合においても、添加水量は11質量%と大きい。一方で、実施例2-1、2-8および2-9より、鱗状黒鉛の添加量が5質量%と同量の際、アルミナ微粉の粒径が20μm以上かつ100μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は6.2質量%以下となる。
【0049】
比較例2-7および2-8より、アルミナ微粉の添加量が2質量%未満であると、施工性確保に必要な添加水量は12質量%とアルミナ微粉を添加していない時の添加水量と同量であり、流し込み施工性の改善の効果は得られない。また、比較例2-9より、アルミナ微粉の添加量が20質量%を超えると、施工性確保に必要な添加水量は13.2質量%となり、アルミナ微粉を添加していない時に比べ1.2質量%増加している。一方で、実施例2-1、2-10および2-11より、アルミナ微粉の添加量が2~20質量%の際、施工性確保に必要な添加水量は6.4質量%以下となる。
【0050】
比較例2-10および2-11は、実施例2-1の鱗状黒鉛をそれぞれ人造黒鉛と土壌黒鉛に変えたものである。人造黒鉛と土壌黒鉛を使用すると流動性がまったく得られず試験体作製ができなかった。流動性を得るために添加水量を増やした配合が、比較例2-12および2-13である。添加水量を増やすことにより、流動性が得られるものの、見掛気孔率が大きくなり、また溶損指数や耐スポーリング性が悪化する。
【0051】
<実施例3>
次に、アルミナ、スピネルを含む取鍋用キャスタブル耐火物に適用した実施例を以下の表5に、比較例を以下の表6に示す。前記鱗状黒鉛およびアルミナ微粉の他、耐火原料として電融アルミナ0.3-8mmに、10μm以下のアルミナ超微粉を11質量%、スピネルを25質量%、粘土を1質量%、アルミナ・セメント7質量%を、表5および表6に示す割合で混合し、種々のキャスタブル耐火物(実施例3-1~3-11、比較例3-1~3-13)を形成した。
【0052】
これらのキャスタブル耐火物に分散剤(例えば、メタクリル酸系ポリマー)を外掛けで0.1質量%添加した。評価方法については、実施例1で示した高炉鍋用キャスタブル耐火物に適用した例と同様である。耐溶損性を示す溶損指数に関しては、工程品(92質量%Al2O3-5質量%MgOキャスタブル)の溶損指数を100とした。
【0053】
【0054】
【0055】
上述した表5および表6の実施例3の結果から、以下の評価結果がわかる。
【0056】
比較例3-1より、鱗状黒鉛の平均粒径が20μmであると、施工確保に必要な添加水量は11質量%以上となる。一方で、実施例3-1~3-3より、鱗状黒鉛の平均粒径が100~900μmであると、施工確保に必要な添加水量は6.8質量%以下となる。
【0057】
比較例3-2より、鱗状黒鉛の添加量を16質量%にすると、施工性確保のために必要な添加水量は14質量%以上必要となる。また、比較例3-3および3-4より、鱗状黒鉛の添加量が1質量%未満であると、弾性率比は0.15以下となり、耐スポーリング性が悪くなる。
【0058】
一方で、実施例3-1および3-4~3-7より、鱗状黒鉛の添加量が1~15質量%であると、施工性確保のために必要な添加水量は6.8質量%以下であり、さらに弾性率比0.51以上となり、低水分かつ高い耐スポーリング性を示す。
【0059】
さらに、比較例3-5より、アルミナ微粉の粒径が20μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は11質量%と大きく、同時に耐火物の耐用性が低下している。また、比較例3-6より、アルミナ微粉の粒径が100μm以上である場合においても、添加水量は11質量%と大きい。一方で、実施例3-1、3-8および3-9より、鱗状黒鉛の添加量が5質量%と同量の際、アルミナ微粉の粒径が20μm以上かつ100μm未満であると、施工性確保に必要な添加水量は6.2質量%以下となる。
【0060】
比較例3-7および3-8より、アルミナ微粉の添加量が2質量%未満であると、施工性確保に必要な添加水量は11質量%とアルミナ微粉を添加していない時の添加水量と同量であり、流し込み施工性の改善の効果は得られない。また、比較例3-9より、アルミナ微粉の添加量が20質量%を超えると、施工性確保に必要な添加水量は12.5質量%となり、アルミナ微粉を添加していない時に比べ1.5質量%増加している。一方で、実施例3-1、3-10および3-11より、アルミナ微粉の添加量が2~20質量%の際、施工性確保に必要な添加水量は6.4質量%以下となる。
【0061】
比較例3-10および3-11は、実施例3-1の鱗状黒鉛をそれぞれ人造黒鉛と土壌黒鉛に変えたものである。人造黒鉛と土壌黒鉛を使用すると流動性がまったく得られず試験体作製ができなかった。流動性を得るために添加水量を増やした配合が、比較例3-12および3-13である。添加水量を増やすことにより、流動性が得られるものの、見掛気孔率が大きくなり、また溶損指数や耐スポーリング性が悪化する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る黒鉛含有キャスタブル耐火物およびその製造方法は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲において種々の応用を加えることが可能であり、黒鉛を含有するキャスタブル耐火物全てにおいて応用が可能である。