(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】運搬車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20220119BHJP
【FI】
G05D1/02 J
G05D1/02 P
(21)【出願番号】P 2020165476
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 大輝
(72)【発明者】
【氏名】金井 政樹
(72)【発明者】
【氏名】板東 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】魚津 信一
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165665(JP,A)
【文献】特開2019-144841(JP,A)
【文献】特開2011-107793(JP,A)
【文献】特開2013-196051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標経路
と該目標経路に対応する目標速度を含む制御目標に基づいて運搬車両を走行させる制御システムであって、
前記運搬車両が走行する走行通路の情報および該走行通路を分割した複数の走行区間の情報を含む地図情報と、
前記運搬車両の位置情報と、前記運搬車両の速度と、を取得して、前記運搬車両が走行している前記走行区間と、前記運搬車両が次に走行する前記走行区間である次走行区間を特定し、
前記地図情報に基づいて前記次走行区間が旋回経路を含むと判定した場合に、前記地図情報に基づいて前記次走行区間に含まれる複数のノードの制限速度の平均値を前記目標速度として算出し、
前記運搬車両の積載量と、
前記複数のノードのそれぞれのノードの滑りやすさを示す滑り指標と、
を取得し、
前記次走行区間を前記ノードごとの前記滑り指標に基づいて複数の小区間に分割し、
前記複数の小区間の各々への前記運搬車両の進入位置と進入方位を算出し、
前記目標速度、前記積載量、および前記滑り指標に基づいて前記各々の小区間における前記運搬車両の追従可能旋回半径を算出し、
前記進入位置と前記進入方位に基づいて前記各々の小区間における最大許容旋回半径を算出し、
前記各々の小区間において前記追従可能旋回半径が前記最大許容旋回半径より大である場合に、前記目標速度を低減させて新たに前記追従可能旋回半径を算出して、前記次走行区間のすべての前記小区間に対する前記追従可能旋回半径と前記目標速度を含む前記制御目標を生成
することで、
少なくとも一つの前記走行区間の
少なくとも一つの前記小区間の前記滑り指標が所定のしきい値未満である場合に、前記滑り指標が前記所定のしきい値以上である場合よりも当該走行区間の前記目標経路に含まれる旋回経路の旋回半径を拡大させる、
運搬車両の制御システム。
【請求項2】
前記滑り指標は、前記走行通路の摩擦係数に正の相関を有する、
請求項1に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項3】
前記滑り指標は、前記走行通路の水分量に負の相関を有する、
請求項1に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項4】
前記滑り指標に応じた最短時間で前記運搬車両が前記走行区間を通過する前記制御目標を生成する、
請求項1に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項5】
前記運搬車両が設定された時間で前記走行区間を通過する前記制御目標を生成する、
請求項4に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項6】
前記制御目標は、前記運搬車両が前記旋回経路へ進入する前に前記運搬車両を減速させ、前記運搬車両が前記旋回経路から退出した後に前記運搬車両を加速させる速度目標を含む、
請求項1に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項7】
前記運搬車両の位置情報を取得する位置センサと、前記運搬車両の積載量を取得する積載量センサと、前記運搬車両の速度を取得する速度センサと、前記運搬車両の加速度を取得する加速度センサと、をさらに備え、
前記位置情報に対応する前記積載量、前記速度、および前記加速度に基づいて、前記位置情報に対応する前記滑り指標を推定する、
請求項1に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項8】
複数の前記運搬車両は、各々の前記運搬車両において前記位置情報、前記積載量、前記速度、および前記加速度に基づいて推定した前記滑り指標を共有する、
請求項7に記載の運搬車両の制御システム。
【請求項9】
各々の前記運搬車両から前記滑り指標を受信して複数の前記運搬車両へ前記制御目標を送信する管制局をさらに備える、
請求項8に記載の運搬車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運搬車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から鉱山機械の運行を管理するシステムに関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。この鉱山機械の運行管理システムは、走行路情報と位置情報とに基づいて、鉱山機械が走行路情報に対応する走行路を走行する際の速度制限を変更する速度制限情報を生成する(同文献、第0007段落、請求項1、要約等)。なお、走行路情報は、鉱山で作業する鉱山機械が走行する走行路の水分量に関する情報を少なくとも含む。また、位置情報は、走行路情報に対応する走行路の位置に関する情報である。
【0003】
この鉱山機械の運行管理システムによれば、鉱山の走行路を走行する鉱山機械の滑りを抑制し、鉱山機械の燃費悪化を防ぐとともにタイヤの摩耗を抑制することができる(同文献、第0023段落等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の鉱山機械の運行管理システムにおいて、ダンプトラックなどの鉱山機械は、車載位置情報検出装置により自身の位置を逐次算出しながら、運行情報に含まれる走行路の地理的情報と自車位置情報とを比較する。そして、鉱山機械は、走行路を逸脱しないように、各走行路に対して設定された走行速度(速度制限)で走行する(同文献、第0054段落等)。そのため、走行路の水分量が増加して滑りやすい状態になったときに鉱山機械の走行速度が必要以上に低下するおそれがある。
【0006】
本開示は、運搬車両の走行速度の低下を抑制しながら運搬車両の滑りを抑制することができる運搬車両の制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、目標経路と該目標経路に対応する目標速度を含む制御目標に基づいて運搬車両を走行させる制御システムであって、前記運搬車両が走行する走行通路の情報および該走行通路を分割した複数の走行区間の情報を含む地図情報と、前記運搬車両の位置情報と、前記運搬車両の速度と、を取得して、前記運搬車両が走行している前記走行区間と、前記運搬車両が次に走行する前記走行区間である次走行区間を特定し、前記地図情報に基づいて前記次走行区間が旋回経路を含むと判定した場合に、前記地図情報に基づいて前記次走行区間に含まれる複数のノードの制限速度の平均値を前記目標速度として算出し、前記運搬車両の積載量と、前記複数のノードのそれぞれのノードの滑りやすさを示す滑り指標と、を取得し、前記次走行区間を前記ノードごとの前記滑り指標に基づいて複数の小区間に分割し、前記複数の小区間の各々への前記運搬車両の進入位置と進入方位を算出し、前記目標速度、前記積載量、および前記滑り指標に基づいて前記各々の小区間における前記運搬車両の追従可能旋回半径を算出し、前記進入位置と前記進入方位に基づいて前記各々の小区間における最大許容旋回半径を算出し、前記各々の小区間において前記追従可能旋回半径が前記最大許容旋回半径より大である場合に、前記目標速度を低減させて新たに前記追従可能旋回半径を算出して、前記次走行区間のすべての前記小区間に対する前記追従可能旋回半径と前記目標速度を含む前記制御目標を生成することで、少なくとも一つの前記走行区間の少なくとも一つの前記小区間の前記滑り指標が所定のしきい値未満である場合に、前記滑り指標が前記所定のしきい値以上である場合よりも当該走行区間の前記目標経路に含まれる旋回経路の旋回半径を拡大させる、運搬車両の制御システムである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の上記一態様によれば、運搬車両の走行速度の低下を抑制しながら運搬車両の滑りを抑制することができる運搬車両の制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の運搬車両の制御システムの実施形態を示す概略図。
【
図3】
図1に示す制御システムによる制御目標生成処理の流れを示すフロー図。
【
図4】
図1に示す運搬車両が走行する走行通路の一部を示す平面図。
【
図5】
図3に示す次走行区間を更新する処理のフロー図。
【
図6】次走行区画を複数の小区間に分割する方法の一例を示すグラフ。
【
図7】
図1に示す制御システムの変形例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示に係る運搬車両の制御システムの実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の制御システム1の概略図である。
図2は、
図1に示す運搬車両100の機能ブロック図である。
【0011】
本実施形態の制御システム1は、たとえば、露天掘りの鉱山や建設現場などの作業現場において未舗装の走行通路WPを走行する一台以上の運搬車両100を制御対象とする。制御システム1は、たとえば、オペレータまたは運転者が搭乗していない無人の運搬車両100を制御して自律走行させる。制御システム1は、たとえば、運搬車両100に搭載された制御装置110と通信装置120によって構成される。
【0012】
図1に示す例において、運搬車両100は、土砂や鉱石などを運搬するダンプトラックである。なお、制御システム1の制御対象は、ダンプトラックなどの運搬車両100に限定されず、たとえば、ホイールローダや油圧ショベルなどの他の作業機械であってもよい。
図2に示すように、運搬車両100は、たとえば、制御装置110と、通信装置120と、位置センサ130と、速度センサ140と、加速度センサ150と、積載量センサ160と、駆動系170と、アクチュエータ180と、を備えている。
【0013】
制御装置110は、たとえば、滑り指標推定部111と、記憶部112と、制御目標生成部113と、制御指令生成部114と、入出力部115とを有している。図示を省略するが、制御装置110は、たとえば、CPUなどの一以上の処理装置と、ROMやRAMなどの一以上の記憶装置とを含む、マイクロコントローラやファームウェアによって構成することができる。
図2に示す制御装置110の各部は、たとえば、処理装置によって記憶装置に記憶されたプログラムを実行することで実現される制御装置110の各機能を表している。
【0014】
通信装置120は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、無線通信回線RLを介して外部との通信を行う無線通信機である。より具体的には、通信装置120は、たとえば、
図2に示す運搬車両100と同様の構成を備えた他の運搬車両100の通信装置120との間で通信を行う。
【0015】
位置センサ130は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、運搬車両100の位置情報を取得して制御装置110へ出力する。位置センサ130は、たとえば、各々の運搬車両100に搭載された全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)の受信機によって構成することができる。
【0016】
速度センサ140は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、運搬車両100の速度を検知して制御装置110へ出力する。速度センサ140は、たとえば、車輪速センサによって構成することができる。また、速度センサ140は、位置センサ130によって取得された運搬車両100の位置情報の時間変化に基づいて、運搬車両100の速度を算出してもよい。
【0017】
加速度センサ150は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、運搬車両100の加速度を検知して制御装置110へ出力する。加速度センサ150は、たとえば、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)によって構成することができる。また、加速度センサ150は、位置センサ130によって取得された運搬車両100の位置情報の時間変化に基づいて、運搬車両100の加速度を算出してもよい。
【0018】
積載量センサ160は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、運搬車両100に積載された積載物の重量すなわち積載量を検知して制御装置110へ出力する。積載量センサ160は、たとえば、運搬車両100のサスペンションに作用する荷重や、油圧シリンダ内の作動油の圧力などを計測することで、運搬車両100の積載量を検知する。
【0019】
駆動系170は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、制御装置110から入力される制御指令に基づいて運搬車両100を走行させるための駆動力を発生する。駆動系170は、たとえば、運搬車両100に搭載されたエンジン、発電機、走行モータまたは油圧モータ、車輪または履帯などを含む。
【0020】
アクチュエータ180は、たとえば、入出力部115を介して制御装置110に接続され、制御装置110から入力される制御指令に基づいて、運搬車両100の運転支援を行い、または、運搬車両100を自律走行させる。アクチュエータ180は、たとえば、ブレーキ操作用アクチュエータ、アクセル操作用アクチュエータ、操舵用アクチュエータなどを含む。
【0021】
以下、
図3から
図6を参照して本実施形態の制御システム1の動作を説明する。
【0022】
図3は、本実施形態の制御システム1による制御目標生成処理の流れを示すフロー図である。制御システム1は、
図3に示す各処理を実行することで、各々の運搬車両100の制御装置110において、目標経路を含む制御目標を生成する。制御システム1は、まず、
図2に示す各々の運搬車両100に搭載された制御装置110において、記憶部112に記憶された地図情報MIを、制御目標生成部113によって取得する処理P1を実行する。
【0023】
図4は、運搬車両100が走行する走行通路WPの一部を示す平面図である。制御装置110の記憶部112に記憶された地図情報MIは、たとえば、運搬車両100が走行する走行通路WPの情報と、その走行通路WPを分割した複数の走行区間TSの情報を含む。走行通路WPは、たとえば、露天掘りの鉱山や建設現場などの作業現場において、運搬車両100が走行するための舗装されていない道路である。
【0024】
走行通路WPには、たとえば、運搬車両100の走行経路TRが規定されている。走行経路TRは、たとえば、走行通路WPの幅方向における中央またはその近傍を通り、走行通路WPに沿って延びる仮想的な線であり、円弧状または曲線状の旋回経路CRと、直線状の直進経路SRとを含む。また、走行経路TRは、複数のノードNDを有している。ノードNDは、たとえば走行経路TR上に等間隔に配置された仮想的な点である。
【0025】
走行経路TRに含まれる旋回経路CRと直進経路SRは、たとえば、あらかじめ設定された曲率のしきい値と、走行経路TRの曲率とに基づいて分類することができる。この場合、走行経路TRにおいて、曲率がしきい値以上の部分は旋回経路CRに分類され、曲率がしきい値未満の部分は直進経路SRに分類される。
【0026】
走行経路TRに含まれる旋回経路CRと直進経路SRは、たとえば、あらかじめ設定された横加速度のしきい値と、走行経路TRに沿って走行する運搬車両100に作用する横加速度とに基づいて分類することができる。この場合、走行経路TRにおいて、運搬車両100に作用する横加速度がしきい値以上となる部分が旋回経路CRに分類され、その横加速度がしきい値未満になる部分が直進経路SRに分類される。
【0027】
走行通路WPは、たとえば、複数の走行区間TSに分割される。走行通路WPは、たとえば、各々の走行区間TSが複数のノードNDを含むように分割される。この場合、各々の走行区間TSは、旋回経路CRと直進経路SRの少なくとも一方を含む。また、走行通路WPは、たとえば、旋回経路CRのみを含む走行区間TSと、直進経路SRのみを含む走行区間TSとに分割してもよい。各々の運搬車両100に搭載された制御装置110の記憶部112に記憶される地図情報MIの一例を、以下の表1に示す。
【0028】
【0029】
表1に示すように、地図情報MIは、たとえば、個々のノードIDに対する走行区間ID、ノード情報、制限速度、および旋回フラグを含む。ノードIDは、個々のノードNDに付与される識別番号である。走行区間IDは、たとえば、各々の走行区間TSに付与される識別番号である。なお、表1のn、mは、それぞれ、任意の自然数を表している。ノード情報は、たとえば、各ノードNDの位置座標である。制限速度は、たとえば、各々の走行区間TSにおける走行経路TRの曲率に基づいて決定される。旋回フラグは、ノードNDが直進経路SR上に位置する場合は「0」、ノードNDが旋回経路CR上に位置する場合は「1」となる。
【0030】
制御システム1は、
図3に示す処理P1において、
図2に示す各々の運搬車両100に搭載された制御装置110の制御目標生成部113により、その制御装置110の記憶部112から、表1に示すような地図情報MIを取得する。次に、制御システム1は、各々の運搬車両100の位置情報を取得する処理P2と、各々の運搬車両100の速度を取得する処理P3とを実行する。
【0031】
具体的には、処理P2において、各々の運搬車両100の制御装置110は、その運搬車両100に搭載された位置センサ130から、その運搬車両100の位置情報を取得する。また、処理P3において、各々の運搬車両100の制御装置110は、その運搬車両100に搭載された速度センサ140から、その運搬車両100の速度を取得する。
【0032】
次に、制御システム1は、各々の運搬車両100が走行している走行区間TSを特定する処理P4を実行する。具体的には、処理P4において、各々の運搬車両100の制御装置110は、前の処理P1,P2で取得した地図情報MIと運搬車両100の位置情報とに基づいて、走行区間IDを特定することで、その運搬車両100が走行している走行区間TSを特定する。
【0033】
次に、制御システム1は、各々の運搬車両100の次走行区間を特定する処理P5を実行する。具体的には、処理P5において、各々の運搬車両100の制御目標生成部113は、前の処理P1,P3,P4で取得した地図情報MI、速度、および現在走行中の走行区間TSに基づいて、その運搬車両100が次に走行する走行区間TSの走行区間IDを特定する。
【0034】
これにより、制御目標生成部113は、その運搬車両100が次に走行する走行区間TSである次走行区間を特定することができる。この次走行区間は、制御目標生成部113が制御目標を生成する対象となる。この処理P5において、各々の運搬車両100の制御目標生成部113は、たとえば、所定時間内にその運搬車両100が進入する一以上の次走行区間からなる領域を特定する。
【0035】
次に、制御システム1は、次走行区間が旋回経路CRを含むか否かを判定する処理P6を実行する。具体的には、処理P6において、制御システム1は、たとえば、各々の運搬車両100の制御目標生成部113により、記憶部112から次走行区間の地図情報MIを取得して、各々の運搬車両100が次に走行する走行区間TSに旋回経路CRが含まれるか否かを判定する。
【0036】
より詳細には、処理P6において、制御目標生成部113は、たとえば、取得した地図情報MIに基づいて、次走行区間である走行区間TSが、旋回フラグが「1」のノードNDを含むか否かを判定する。
【0037】
この処理P6において、制御目標生成部113は、次走行区間である走行区間TSが、旋回フラグが「1」のノードNDを含まない場合、次走行区間が旋回経路CRを含まない(NO)、すなわち、次走行区間が直進経路SRであると判定する。この場合、制御目標生成部113は、次走行区間を更新する処理P7を実行せず、次走行区間の地図情報MIから制御目標を生成する処理P8を実行する。この処理P8については後述する。
【0038】
一方、処理P6において、制御目標生成部113は、次走行区間である走行区間TSが、旋回フラグが「1」のノードNDを含む場合、次走行区間が旋回経路CRを含む(YES)と判定して、次走行区間を更新する処理P7を実行する。
【0039】
図5は、
図3に示す次走行区間を更新する処理P7のフロー図である。処理P7を開始すると、制御目標生成部113は、まず、次走行区間の目標速度の初期値を算出する処理P701を実行する。この処理P701において、制御目標生成部113は、地図情報MIに基づいて、次走行区間、すなわち、次に走行する走行区間TSに含まれる複数のノードNDの制限速度の平均値を、目標速度の初期値として算出する。
【0040】
次に、制御目標生成部113は、たとえば、入出力部115を介して積載量センサ160から運搬車両100の積載量、すなわち、運搬車両100に積載された積載物の重量を取得する処理P702を実行する。
【0041】
次に、各々の運搬車両100の制御装置110は、たとえば、走行通路WPの状態を取得する処理P703を実行する。この処理P703において、制御装置110の滑り指標推定部111は、たとえば、運搬車両100のタイヤまたは履帯などの接地部と走行通路WPとの間の摩擦係数、および走行通路WPの水分量のうち、少なくとも一方を、走行通路WPの状態として推定する。ここで、滑り指標推定部111は、たとえば、以下のいずれかの方法により上記摩擦係数と水分量の少なくとも一方を推定する。
【0042】
運搬車両100の接地部と走行通路WPとの間の摩擦係数は、走行中の運搬車両100の接地部が走行通路WPから受ける力の大きさに影響を与え、走行中の運搬車両100の運動を変化させる。そのため、この摩擦係数は、たとえば、速度センサ140、加速度センサ150、および積載量センサ160から運搬車両100の速度、加速度および積載量を取得し、積載量を含む運搬車両100の重量、速度および加速度を用いた運動方程式に基づいて、推定することが可能である。
【0043】
また、走行通路WPの水分量は、運搬車両100の接地部と走行通路WPとの間の摩擦係数に影響を与える。すなわち、走行通路WPの水分量が多くなると、走行通路WPが泥濘状態になり、運搬車両100の接地部と走行通路WPとの間の摩擦係数が低下する。そのため、走行通路WPの水分量は、たとえば摩擦係数と同様に、積載量を含む運搬車両100の重量、速度および加速度を用いた運動方程式に基づいて推定してもよい。
【0044】
また、走行通路WPの水分量は、たとえば、通信装置120を介して気象情報を取得し、その気象情報に含まれる降水量および湿度から推定してもよい。また、走行通路WPの水分量は、たとえば、通信装置120を介して走行通路WPへの散水量を取得し、その散水量に基づいて推定してもよい。これらの方法によれば、運搬車両100が速度センサ140、加速度センサ150、および積載量センサ160などのセンサを有しない場合でも、走行通路WPの水分量を推定することが可能になる。
【0045】
次に、各々の運搬車両100の制御装置110は、たとえば、滑り指標SIを推定する処理P704を実行する。滑り指標SIは、走行通路WPを走行する運搬車両100の滑りやすさを示す指標である。走行通路WPを走行する運搬車両100は、滑り指標SIが小さくなるほど滑りやすくなり、滑り指標SIが大きくなるほど滑りにくくなる。この処理P704において、制御装置110は、たとえば、滑り指標推定部111により、前の処理P703で取得した走行通路WPの状態に基づいて、複数のノードNDの滑り指標SIを推定する。
【0046】
より具体的には、滑り指標推定部111は、処理P704において、たとえば、前の処理P703で取得した運搬車両100の接地部と走行通路WPとの間の摩擦係数μを、滑り指標SIに設定する。この場合、滑り指標SIは、走行通路WPの摩擦係数μに正の相関を有する。また、滑り指標推定部111は、処理P704において、たとえば、前の処理P703で取得した走行通路WPの水分量の逆数を、滑り指標SIとして算出する。この場合、滑り指標SIは、走行通路WPの水分量に負の相関を有する。
【0047】
滑り指標推定部111は、たとえば、以下の表2に示すように、複数のノードNDに対応するノードIDごとに、処理P704で設定または算出した滑り指標SIを、その設定または算出した時刻とともに、記憶部112に記憶させる。
【0048】
【0049】
また、複数の運搬車両100は、それぞれの制御装置110の記憶部112に記憶された最新の滑り指標SIを共有する。滑り指標推定部111は、たとえば、入出力部115および通信装置120を介して、他の運搬車両100の制御装置110からノードIDごとの最新の時刻の滑り指標SIを取得する。滑り指標推定部111は、他の運搬車両100から取得した最新の時刻の滑り指標SIを、その時刻とともに記憶部112に記憶させる。
【0050】
次に、各々の運搬車両100の制御装置110は、たとえば、次走行区間を分割する処理P705を実行する。この処理P705において、制御装置110は、たとえば、制御目標生成部113により、次に走行する走行区間TSに含まれる複数のノードNDのそれぞれのノードIDに対応する滑り指標SIを、記憶部112から取得する。さらに、制御目標生成部113は、取得したノードIDごとの滑り指標SIに基づいて、次に走行する走行区間TSを複数の小区間に分割する。
【0051】
図6は、ノードIDごとの滑り指標SIに基づいて、次走行区画を複数の小区間に分割する方法の一例を示すグラフである。
図6に示すグラフにおいて、横軸に複数のノードNDのそれぞれのノードIDを取り、縦軸を滑り指標SIとする。そして、滑り指標SIがしきい値μtよりも小さいノードNDが連続する区間を「滑りやすい小区間TSs」とし、滑り指標SIがしきい値μt以上のノードNDが連続する区間を「滑りにくい小区間TSg」として、次走行区画である走行区間TSを複数の小区間に分割する。
【0052】
滑り指標SIのしきい値μtは、たとえば、あらかじめ設定した値を用いることができる。また、滑り指標SIのしきい値μtは、たとえば、次の第1の条件と第2の条件を同時に満たすように決定してもよい。第1の条件として、たとえば、滑りやすい小区間TSsにおける滑り指標SIの分散または標準偏差と、滑りにくい小区間TSgにおける滑り指標SIの分散または標準偏差との和が最小になるようにする。第2の条件として、滑りやすい小区間TSs全体の滑り指標SIの平均値と、滑りにくい小区間TSg全体の滑り指標SIの平均値との差が最大となるようにする。
【0053】
次に、各々の運搬車両100の制御装置110は、たとえば、次走行区間において運搬車両100が最初に進入する小区間TSgへの進入位置と進入方位を算出する処理P706を実行する。ここで、制御装置110の制御目標生成部113は、たとえば、
図4に示すように、運搬車両100が次に走行する走行区間TSの最初のノードNDの座標を、最初に進入する小区間TSgへの進入位置APとして取得する。さらに、制御目標生成部113は、たとえば、運搬車両100が走行中の走行区間TSの最後のノードNDから、次走行区間の進入位置APであるノードNDへの進入方位ADを、最初に進入する小区間TSgへの進入方位として算出する。
【0054】
次に、各々の運搬車両100において、制御装置110の制御目標生成部113は、たとえば、複数の小区間TSg,TSgのインデックスである変数kを1(k=1)に設定する処理P707を実行する。次に、制御目標生成部113は、1番目(k番目)の小区間TSgにおいて、運搬車両100が追従することが可能な走行経路TRの曲率半径、すなわち追従可能旋回半径Raを算出する処理P708を実行する。
【0055】
この処理P708において、制御目標生成部113は、前の処理P701,P702,P704で算出された目標速度、積載量、および滑り指標SIに基づいて、次走行区間のk番目の小区間TSg,TSsの追従可能旋回半径Raを算出する。より詳細には、たとえば、次走行区間の1番目の小区間TSgに含まれる複数のノードNDの滑り指標SIの平均値と、積載量を含む運搬車両100の重量から、運搬車両100の走行中の最大横加速度aを算出する。次に、最大横加速度aと目標速度Vとを用い、以下の式(1)に基づいて、追従可能旋回半径Raを算出する。
【0056】
Ra=V2/a ・・・(1)
【0057】
次に、制御目標生成部113は、1番目(k番目)の小区間TSgにおいて、運搬車両100が走行通路WP内で走行することが可能な走行経路TRの曲率半径の最大値、すなわち最大許容旋回半径Rmaxを算出する処理P709を実行する。制御目標生成部113は、たとえば、次のような手順で最大許容旋回半径Rmaxを算出する。
【0058】
まず、
図4に示すように、次走行区画の1番目の小区間TSgへの進入位置であるノードNDを通り、かつ進入方位ADに垂直な直線L1を算出する。その直線L1上で運搬車両100の旋回の内側に中心を有する円弧が、走行通路WPのカーブの外側の境界に接するように、円弧Cmaxの半径を算出する。この円弧Cmaxの半径を、1番目の小区間TSgの最大許容旋回半径Rmaxとして算出する。
【0059】
次に、制御目標生成部113は、1番目(k番目)の小区間TSgにおいて、追従可能旋回半径Raが最大許容旋回半径Rmax以下であるか否かを判定する処理P710を実行する。この処理P710において、制御目標生成部113は、たとえば、追従可能旋回半径Raが最大許容旋回半径Rmax以下であると判定すると、変数kが次走行区間の小区間TSs,TSgの全数Nと等しいか否かを判定する処理P711を実行する。
【0060】
この処理P711において、制御目標生成部113は、変数kが次走行区間の小区間TSs,TSgの全数Nと等しくない(NO)と判定すると、次の処理P712を実行する。この処理P712において、制御目標生成部113は、次小区間、すなわち、運搬車両100が次に走行する2番目(k+1番目)の小区間TSsへの運搬車両100の進入位置APと進入方位ADを算出する。
【0061】
この処理P712において、制御目標生成部113は、たとえば、
図4に示すように、1番目(k番目)の小区間TSgの進入位置APのノードNDを通り、この小区間TSgの進入方位ADに垂直な直線L1を取得する。さらに、制御目標生成部113は、1番目(k番目)の小区間TSgの進入位置APのノードNDを端点とし、直線L1上に中心を有し、1番目(k番目)の小区間TSgの追従可能旋回半径Raを半径とする円弧Caを取得する。
【0062】
さらに、制御目標生成部113は、直線L1との間に円弧Caの中心角θを有し、円弧Caの中心と2番目(k+1番目)の小区間TSsの最初のノードNDとを通る直線L2を取得する。そして、制御目標生成部113は、この直線L2と円弧Caとの交点を、2番目(k+1番目)の小区間TSsの進入位置APとし、この進入位置APにおける円弧Caの接線方向を2番目(k+1番目)の小区間TSsの進入方位ADとして算出する。
【0063】
次に、制御目標生成部113は、変数kをk=k+1に設定してインクリメントする処理P713を実行し、次小区間である2番目(k+1番目)の小区間TSsに対し、1番目(k番目)の小区間TSgと同様に、処理P708~P710を実行する。
【0064】
また、制御目標生成部113は、処理P710において、追従可能旋回半径Raが最大許容旋回半径Rmaxより大となり、追従可能旋回半径Raが最大許容旋回半径Rmax以下ではない(NO)と判定すると、目標速度を低減する処理P714を実行する。この処理P714において、制御目標生成部113は、たとえば、あらかじめ設定された割合で目標速度を低減させる。
【0065】
また、処理P714において、制御目標生成部113は、たとえば、最大許容旋回半径Rmaxと最大横加速度aとを用いて、以下の式(2)に基づいて、低減された目標速度Vを算出してもよい。
【0066】
V=(a・Rmax)1/2 ・・・(2)
【0067】
この目標速度Vを低減する処理P714は、処理P710の結果、追従可能旋回半径Raが最大許容旋回半径Rmax以下ではない(NO)と判定された場合に実行される。したがって、処理P714で算出された目標速度Vは、処理P708で追従可能旋回半径Raを算出したときの目標速度Vよりも小さくなる。制御目標生成部113は、処理P714の終了後、処理P707に戻る。これにより、制御目標生成部113は、新たな目標速度Vを用いて、再度、次走行区間の1番目からN番目の小区間TSg,TSsに対し、処理P708以降の処理を繰り返し実行する。
【0068】
制御目標生成部113は、次走行区間のN個の小区間TSg,TSsのすべてに対して、前述の処理P708以降の処理を終えると、処理P711において変数kがNと等しい(YES)と判定し、次走行区間の経路情報を生成する処理P715を実行する。この処理P715において、制御目標生成部113は、次走行区間の1番目からN番目までのすべての小区間TSg,TSsに対する追従可能旋回半径Raと目標速度Vとを含む、次走行区間の経路情報を生成する。
【0069】
この次走行区間の経路情報に含まれるすべての小区間TSg,TSsに対する追従可能旋回半径Raと目標速度Vは、前述のように、各々の小区間TSg,TSsの滑り指標SIに基づいて算出されている。そのため、制御目標生成部113は、走行区間TSのうち、たとえば、滑り指標SIが所定のしきい値μt未満である滑りやすい小区間TSsにおいて、滑り指標SIが所定のしきい値μt以上である滑りにくい小区間TSgよりも、目標経路に含まれる旋回経路CRの旋回半径を拡大させる。したがって、この次走行区間の経路情報に基づいて走行する運搬車両100は、滑りを防止可能な最大速度で次走行区間を通過することができる。
【0070】
この運搬車両100の滑りを防止した最大の目標速度を最大目標速度とすると、最大目標速度よりも小さい目標速度における各々の小区間TSg,TSsの追従可能旋回半径Raは、次のように算出することができる。最大目標速度よりも小さい目標速度は、各々の小区間TSg,TSsを走行する運搬車両100が滑りを生じない最大横加速度aに基づいて算出することができる。なお、各々の小区間TSg,TSsにおける最大横加速度aは、たとえば、運搬車両100の積載量を含む重量と、各々の小区間TSg,TSsにおける滑り指標SIの平均値とに基づいて決定される。
【0071】
目標速度が小さくなるほど、追従可能旋回半径Raは小さくなる。そのため、最小目標速度は、追従可能旋回半径Raに沿って走行する運搬車両100が走行通路WPのカーブの内側の境界に接し、かつ走行通路WPのカーブの内側の境界を超えないように設定することができる。制御目標生成部113は、たとえば、最小目標速度から最大目標速度までの範囲内で、目標速度と追従可能旋回半径Raとの組み合わせを含む経路情報を算出する。
【0072】
制御目標生成部113は、たとえば、算出した次走行区画の経路情報と、記憶部112から取得した地図情報MIに基づいて、次走行区画の各々の小区間TSg,TSsの走行経路TRの長さを円弧の長さとして算出する。さらに、制御目標生成部113は、たとえば、算出した各々の小区間TSg,TSsの走行経路TRの長さと目標速度から、各々の小区間TSg,TSsの通過時間を算出してそれらを合計することで、次走行区間の通過時間を算出する。
【0073】
以上のように、制御目標生成部113が処理P715で算出する次走行区間の経路情報は、運搬車両100が次走行区間を最短時間で通過する経路情報でもよいし、最短時間よりも長い、あらかじめ設定された通過時間で通過する経路情報でもよい。すなわち、制御目標生成部113は、滑り指標SIに応じた最短時間で運搬車両100が走行区間TSを通過する制御目標を生成することができる。また、制御目標生成部113は、運搬車両100が設定された時間で走行区間TSを通過する制御目標を生成することもできる。
【0074】
次に、制御目標生成部113は、地図情報MIと次走行区間の経路情報に基づいて、次走行区間の地図情報MIを更新する処理P716を実行する。制御目標生成部113は、たとえば、次走行区間の各々の小区間TSg,TSsに対して円弧を算出し、それらの円弧を接続した経路を次走行区間の新しい走行経路として、走行経路TRを更新する。制御目標生成部113は、更新した走行経路に基づいて、ノードNDの位置情報を更新し、更新したノードNDの位置情報に基づいて、次走行区間の地図情報MIを更新する。
【0075】
走行経路TRの更新に用いられる各々の小区間TSg,TSsの円弧は、たとえば、次のように算出される。各々の小区間TSg,TSsへの進入位置APを端点とし、各々の小区間TSg,TSsへの進入方位ADに垂直な直線上でかつ走行通路WPのカーブの内側に中心を有し、各々の小区間TSg,TSsの追従可能旋回半径Raを半径とする円弧を算出する。各々の小区間TSg,TSsの各円弧は、その小区間TSg,TSsの最初のノードNDと、次の小区間のTSg,TSsの最初のノードNDとの間に中心角θを有する。
【0076】
以上により、
図5に示す次走行区間を更新する処理P7が終了する。その後、制御目標生成部113は、
図3に示す制御目標を生成する処理P8を実行する。
【0077】
処理P8において、制御目標生成部113は、たとえば、次走行区間に含まれるノードNDの制限速度の平均値を目標速度とし、走行経路TRまたはノードNDの位置情報を目標経路として含む制御目標を生成する。
【0078】
また、次走行区間に旋回フラグが「1」のノードNDが含まれる場合、すなわち次走行区間が旋回経路CRを含む場合、制御目標生成部113は、処理P8において、たとえば、次のような制御目標を生成することができる。制御目標生成部113は、たとえば、運搬車両100が旋回経路CRに進入する前に運搬車両100を減速させ、運搬車両100が旋回経路CRを退出した後に加速する速度分布を有する目標速度を含む制御目標を生成する。これにより、旋回経路CRを走行する運搬車両100の速度を安定させ、旋回中の運搬車両100の前後方向の加速度を抑制し、より容易に運搬車両100を制御することが可能になる。
【0079】
以上により、
図3に示す制御目標生成処理が終了する。その後、
図2に示す制御指令生成部114は、前述の制御目標生成処理により、制御目標生成部113が生成した制御目標に基づいて、運搬車両100を自律走行させ、または、運搬車両100の運転支援を行うための制御指令を生成する。制御指令は、たとえば、アクチュエータ180のブレーキペダル操作量、アクセルペダル操作量、および操舵角操作量の少なくとも一つを含む。
【0080】
以下、本実施形態の運搬車両の制御システム1の作用を説明する。
【0081】
運搬車両100は、たとえば、オペレータや運転手が搭乗することなく、走行経路TRなどの与えられた目標経路に従って走行しており、運搬車両100が実際に走行した走行軌跡が目標経路から一定距離以上ずれると経路逸脱と判断して停止する。運搬車両100の停止は、稼働時間の減少につながり、生産性低下の要因となる。鉱山の走行通路WPのようなオフロードでは、泥濘などによって状態が悪化しやすく、走行通路WPの状態の悪化により運搬車両100が実際に走行した走行軌跡の目標経路に対する追従性が低下する。そのため、散水等で走行通路WPの状態が悪化した場合は、運搬車両100が目標経路から逸脱する回数が増加するおそれがある。
【0082】
これに対し、本実施形態の運搬車両の制御システム1は、前述のように、目標経路を含む制御目標に基づいて運搬車両100を走行させる。制御システム1は、運搬車両100が走行する走行通路WPの情報およびその走行通路WPを分割した複数の走行区間TSの情報を含む地図情報MIと、各々の走行区間TSにおける運搬車両100の積載量と、各々の走行区間TSにおける走行通路WPの滑りやすさを示す滑り指標SIと、に基づいて制御目標を生成する。そして、制御システム1は、少なくとも一つの走行区間TSの滑り指標SIが所定のしきい値μt未満である場合に、滑り指標SIが所定のしきい値μt以上である場合よりもその走行区間TSの目標経路に含まれる旋回経路CRの旋回半径を拡大させる。
【0083】
このような構成により、本実施形態の運搬車両の制御システム1によれば、運搬車両100の走行速度の低下を抑制しながら、運搬車両100の滑りを抑制することができる。より詳細には制御システム1は、地図情報MIと、運搬車両100の積載量と、滑り指標SIとに基づいて運搬車両100の制御目標を生成する際に、滑り指標SIに基づいて滑りやすい走行区間TSを特定することができる。そして、滑りやすい走行区間TSにおいて、その走行区間TSの目標経路に含まれる旋回経路CRの旋回半径を拡大させることで、運搬車両100に作用する横加速度を減少させ、運搬車両100の走行速度の低下を抑制しつつ滑りを抑制することができる。したがって、運搬車両100が走行経路TRから逸脱するのを防止して、運搬車両100の作業効率を向上させることが可能になる。
【0084】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1において、滑り指標SIは、走行通路WPの摩擦係数μに正の相関を有する。この構成により、滑り指標SIがしきい値μtよりも低い場合に、走行通路WPが滑りやすい状態であることを判定することができる。
【0085】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1において、滑り指標SIは、走行通路WPの水分量に負の相関を有する。この構成により、走行通路WPの水分量に基づいて、走行通路WPの滑りやすさを判定することができ、特殊なセンサを必要とせず、制御システム1の構成を簡略化することが可能になる。
【0086】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1において、制御目標は、目標経路に対応する目標速度をさらに含む。また、制御システム1は、滑り指標SIに応じた最短時間で運搬車両100が走行区間を通過する制御目標を生成することができる。この構成により、運搬車両100の速度低下をより効果的に抑制することが可能になる。
【0087】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1は、運搬車両100が設定された時間で走行区間TSを通過する制御目標を生成する。この構成により、運搬車両100の速度が必要以上に上昇することを防止して、運搬車両100をより安全に走行させることが可能になる。
【0088】
また、本実施形態の制御システム1において、制御目標は、運搬車両100が旋回経路CRへ進入する前に運搬車両100を減速させ、運搬車両100が旋回経路CRから退出した後に運搬車両100を加速させる速度目標を含むことができる。この構成により、運搬車両100をより安定して走行させることが可能になる。
【0089】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1は、運搬車両100の位置情報を取得する位置センサ130と、運搬車両100の積載量を取得する積載量センサ160と、運搬車両100の速度を取得する速度センサ140と、運搬車両100の加速度を取得する加速度センサ150と、をさらに備える。そして、制御システム1は、運搬車両100の位置情報に対応する積載量、速度、および加速度に基づいて、位置情報に対応する滑り指標SIを推定する。この構成により、走行通路WPの位置情報に対応する滑り指標SIの推定精度を向上させ、運搬車両100の滑りをより確実に抑制することが可能になる。
【0090】
また、本実施形態の運搬車両の制御システム1において、複数の運搬車両100は、各々の運搬車両100において位置情報、積載量、速度、および加速度に基づいて推定した滑り指標SIを共有する。この構成により、複数の運搬車両100が、それぞれ、走行通路WPの最新の滑り指標を用いて制御目標を生成することができ、より確実に運搬車両100の速度低下を防止して、より確実に運搬車両100の滑りを防止することが可能になる。
【0091】
図7は、前述の実施形態の運搬車両の制御システム1の変形例を示すブロック図である。この変形例において、制御システム1は、前述の構成に加え、各々の運搬車両100から滑り指標SIを受信して複数の運搬車両100へ制御目標を送信する管制局200をさらに備える。本変形例において、管制局200は、通信装置210と、制御目標生成部220とを備えている。制御目標生成部220は、たとえば、運搬車両100の制御装置110と同様に、マイクロコントローラなどのコンピュータによって構成することができる。
【0092】
管制局200は、たとえば、オペレータや運転手が搭乗しない複数の無人の運搬車両100の間での干渉を回避するために、各々の走行区間TSを排他的に一台の運搬車両100を割り当てる管制制御を行う。管制制御は、例えば、特許第6368259号に開示されているように、運搬車両100が存在する走行経路TRを閉塞状態とすることで、異なる運搬車両100が進入することを禁止し、運搬車両100の干渉を回避することができる。
【0093】
管制局200は、通信装置210により、無線通信回線RLを介して各々の運搬車両100から滑り指標SIを受信する。管制局200は、制御目標生成部220により、滑り指標SIに基づいた制御目標を生成し、生成した制御目標を各々の運搬車両100の制御装置110へ送信する。なお、本変形例では、運搬車両100の制御装置110において、制御目標生成部113を省略することができる。
【0094】
管制局200の制御目標生成部220は、運搬車両100に搭載するために電力および空間が制限された制御装置110よりも高負荷な計算が可能な計算機を利用できる。そのため、運搬車両100が積荷を積み込む場所と積荷を排出する場所とに基づいて取得できる全ての走行経路TRを用いて、複数の運搬車両100を対象として、走行通路WPの状態に基づいた最短時間で走行できる制御目標を生成することができる。これにより、複数の運搬車両100の発進から停車までの制御目標が生成されるため、時刻に対する各々の運搬車両100の位置を予想し、予想される運搬車両100の干渉を回避する管制制御が可能となる。
【0095】
本変形例によれば、管制局200の制御目標生成部220により、運搬車両100が積荷を積み込む場所と積荷を排出する場所に基づいて、複数の運搬車両100の制御目標を生成する。そして、走行通路WPの状態、すなわち滑り指標SIに基づいた最短時間で、複数の運搬車両100を安全に走行させることができる。
【0096】
以上、図面を用いて本開示に係る運搬車両の制御システムの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
1 制御システム
100 運搬車両
130 位置センサ
140 速度センサ
150 加速度センサ
160 積載量センサ
200 管制局
CR 旋回経路
MI 地図情報
SI 滑り指標
TS 走行区間
WP 走行通路
μ 摩擦係数
μt しきい値
【要約】
【課題】運搬車両の走行速度の低下を抑制しながら運搬車両の滑りを抑制することができる運搬車両の制御システムを提供する。
【解決手段】目標経路を含む制御目標に基づいて運搬車両100を走行させる制御システム。制御システムは、運搬車両100が走行する走行通路WPの情報および走行通路WPを分割した複数の走行区間TSの情報を含む地図情報と、各々の走行区間TSにおける運搬車両100の積載量と、各々の走行区間TSにおける走行通路WPの滑りやすさを示す滑り指標と、に基づいて制御目標を生成する。制御システムは、少なくとも一つの走行区間TSの滑り指標が所定のしきい値未満である場合に滑り指標が所定のしきい値以上である場合よりも走行区間TSの目標経路に含まれる旋回経路の旋回半径を拡大させる。
【選択図】
図4