(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ペースト組成物、二次電池用電極材料、二次電池用電極および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220203BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220203BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220203BHJP
C08L 79/04 20060101ALI20220203BHJP
C08K 5/095 20060101ALI20220203BHJP
C07D 307/20 20060101ALN20220203BHJP
C07D 307/83 20060101ALN20220203BHJP
C07D 309/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08L79/04 Z
C08K5/095
C07D307/20
C07D307/83
C07D309/12
(21)【出願番号】P 2020505930
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2019035239
(87)【国際公開番号】W WO2020071056
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2018188082
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】山地 遼太
(72)【発明者】
【氏名】北川 知己
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-157652(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159064(WO,A1)
【文献】特開2015-143201(JP,A)
【文献】特開2016-166336(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052907(WO,A1)
【文献】特開2014-029802(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 4/13
C08L 79/04
C08K 5/095
C07D 307/20
C07D 307/83
C07D 309/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるヘミアセタールエステル誘導体と、式(2)で表されるポリアミンと、二次電池用活物質とを含む二次電池用電極材料
を有する、二次電池用電極。
【化1】
前記式(1)中、nは0または1であり、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよく、Xは4価の有機基である。
前記式(1)において、n=0であるとき、R
2とR
4またはR
4とR
5が、互いに結合して、置換基を有していてもよい芳香族炭素六員環を形成してもよい。
前記式(2)中、mは2以上の整数であり、Yはm価の有機基またはシロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基である。
【請求項2】
前記ヘミアセタールエステル誘導体が、式(1-1)で表される2,3-ジヒドロフラン誘導体、式(1-2)で表される3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体、および、式(1-3)で表される1-ベンゾフラン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項
1に記載の
二次電池用電極。
【化2】
前記式(1-1)中、R
1、R
2、R
4、R
5およびXは、それぞれ、前記式(1)中のR
1、R
2、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
前記式(1-2)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXは、それぞれ、前記式(1)中のR
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
前記式(1-3)中、R
1、R
2およびXは、それぞれ、前記式(1)中のR
1、R
2およびXと同じ意味である。前記式(1-3)中、R
6、R
7、R
8およびR
9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【請求項3】
前記ポリアミンが、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドおよびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であって、かつ、主鎖または側鎖が2個以上の第1級アミノ基により修飾されたものである、請求項
1または
2に記載の
二次電池用電極。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の二次電池用電極を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト組成物、二次電池用電極材料、二次電池用電極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、充電可能な二次電池系が重要視されるようになってきた。
特に、携帯型電子製品の広範な普及に伴い、軽量、高作動電圧、かつ、高エネルギー密度などの長所を有する二次電池に対する需要は、一層の高まりを見せている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に代表される二次電池は、軽量、高作動電圧、高エネルギー密度、かつ、長寿命という利点が認められ、自動車および航空機などの輸送機器への展開も期待されている。
現在では、省スペース、耐久性、高電圧、高エネルギー密度、および高い安全性など、要求が高度なものとなってきている。
【0004】
一方、リチウムイオン二次電池の特性向上が求められる多くの場合において、電解液として、可燃性の有機溶媒が使用されており、温度上昇の環境下では、高容量の正極活物質および負極活物質も介在することから、大量の熱が放出される。こうした熱が、電解液の発火につながり、爆発に至ることもある。
これらのリチウム二次電池においては、鋭利なものによる突き刺しまたは外力の衝撃などの物理的な破壊によって、内部ショートが起き、急速な発熱、熱暴走、または爆発などの現象が起こる懸念がある。
このため、リスクを回避することが、今後も重要視される。
【0005】
従来のリチウムイオン二次電池では、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)またはポリイミド樹脂が活物質の被覆素材として使用されてきた。これらを取り扱うための溶媒として多くの場合に使用されるのは、N-メチル-ピロリドン(NMP)などの有機溶媒である。ペースト組成物を集電体上に塗布して、電極を得るための乾燥工程では蒸発を伴うため、有機溶媒を安全に回収すべきであり、特別な設備や防護の装備も必要となる。法令による環境規制などにより、有機溶媒を使用できない場合も多く、水系の溶媒で使用可能な被覆樹脂が主流となっている。
【0006】
特許文献1には、「正極極板および負極極板;前記正極極板と前記負極極板との間に配置されて貯留領域を形成するセパレータ;ならびに前記貯留領域に充填された電解質溶液;を含むリチウム電池であって、 前記正極極板または前記負極極板の材料表面に熱作動保護膜が設けられ、前記リチウム電池の温度が前記熱作動保護膜の熱作動温度まで上昇すると、前記熱作動保護膜が架橋反応を行って熱暴走を阻止し、前記熱作動温度が80℃~280℃である、ことを特徴とするリチウム電池。」が記載されている(請求項1)。
このリチウム電池における熱作動保護膜は、ビスマレイミド由来のビニル基とバルビツール酸由来のアミノ基との熱架橋反応を利用するものであり、電池が熱を受けたときに、正極活物質または負極活物質を熱作動保護膜が覆うことで、熱暴走を阻止するとされている。また、電極極板ペースト組成物は有機溶剤を分散媒として用いることが前提となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、過熱に対する安全性の高い二次電池を製造することができる、ペースト組成物を提供することを課題とする。
本発明は、加熱に対する安全性の高い、二次電池用電極材料、二次電池用電極、および二次電池を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、特定のテトラカルボン酸エステルと、特定のポリアミンと、二次電池用活物質と、水性媒体とを含むペースト組成物は、水系の分散液であり、比較的短時間(数時間)で調製でき、かつ、過熱に対する安全性の高い二次電池を製造することができることを知得し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]である。
[1] 式(1)で表されるヘミアセタールエステル誘導体と、式(2)で表されるポリアミンと、二次電池用活物質と、水性媒体とを含むペースト組成物。
【化1】
上記式(1)中、nは0または1であり、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよく、Xは4価の有機基である。
上記式(1)において、n=0であるとき、R
2とR
4またはR
4とR
5が、互いに結合して、置換基を有していてもよい芳香族炭素六員環を形成してもよい。
上記式(2)中、mは2以上の整数であり、Yはm価の有機基またはシロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基である。
[2] 上記ヘミアセタールエステル誘導体が、式(1-1)で表される2,3-ジヒドロフラン誘導体、式(1-2)で表される3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体、および、式(1-3)で表される1-ベンゾフラン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載のペースト組成物。
【化2】
上記式(1-1)中、R
1、R
2、R
4、R
5およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
上記式(1-2)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
上記式(1-3)中、R
1、R
2およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2およびXと同じ意味である。上記式(1-3)中、R
6、R
7、R
8およびR
9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
[3] 上記ポリアミンが、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドおよびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載のペースト組成物。
[4] 式(1)で表されるヘミアセタールエステル誘導体と、式(2)で表されるポリアミンと、二次電池用活物質とを含む二次電池用電極材料。
【化3】
上記式(1)中、nは0または1であり、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよく、Xは4価の有機基である。
上記式(1)において、n=0であるとき、R
2とR
4またはR
4とR
5が、互いに結合して、置換基を有していてもよい芳香族炭素六員環を形成してもよい。
上記式(2)中、mは2以上の整数であり、Yはm価の有機基またはシロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基である。
[5] 上記ヘミアセタールエステル誘導体が、式(1-1)で表される2,3-ジヒドロフラン誘導体、式(1-2)で表される3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体、および、式(1-3)で表される1-ベンゾフラン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[4]に記載の二次電池用電極材料。
【化4】
上記式(1-1)中、R
1、R
2、R
4、R
5およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
上記式(1-2)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびXと同じ意味である。
上記式(1-3)中、R
1、R
2およびXは、それぞれ、上記式(1)中のR
1、R
2およびXと同じ意味である。上記式(1-3)中、R
6、R
7、R
8およびR
9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
[6] 上記ポリアミンが、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドおよびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[4]または[5]に記載の二次電池用電極材料。
[7] 上記[4]~[6]のいずれかに記載の二次電池用電極材料を有する二次電池用電極。
[8] 上記[7]に記載の二次電池用電極を有する二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系の分散液であり、比較的短時間(数時間)で調製でき、かつ、過熱に対する安全性の高い二次電池を製造することができる、ペースト組成物を提供できる。
【0012】
また、本発明は、加熱に対する安全性の高い、二次電池用電極材料、二次電池用電極、および二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例で用いた電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「~」を用いて表される範囲にはその範囲の両端を含むものとする。例えば、「A~B」と表される範囲には、AおよびBを含む。
【0015】
本発明のペースト組成物を用いて作製した電極では、通常の温度域では、ヘミアセタールエステル誘導体と、ポリアミンと、二次電池用活物質とは、混合物の状態となっており、二次電池用活物質は被覆されてはいない。
しかし、過熱温度域では、ヘミアセタールエステル誘導体からビニルエーテルが脱離し、テトラカルボン酸とポリアミンとが反応して、二次電池用活物質がポリイミドで被覆される。その結果、電極は破壊されず、二次電池の発火、爆発などが防止される。
【0016】
[ペースト組成物]
本発明のペースト組成物は、後述する式(1)で表されるヘミアセタールエステル誘導体(以下「ヘミアセタールエステル誘導体(1)」という場合がある。)と、式(2)で表されるポリアミン(以下「ポリアミン(2)」という場合がある。)と、二次電池用活物質と、水性媒体とを含む。
以下では、本発明のペースト組成物の各成分について詳細に説明する。
【0017】
〈ヘミアセタールエステル誘導体(1)〉
ヘミアセタールエステル誘導体(1)は、式(1)で表される化合物である。ヘミアセタールエステル誘導体(1)は、1種類または2種類以上を本発明のペースト組成物に含むことができる。
【0018】
【0019】
《各記号の説明》
式(1)中の各記号の意味は以下のとおりである。
【0020】
(n)
nは0または1である。
【0021】
(R1、R2、R3、R4およびR5)
R1、R2、R3、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基である。
【0022】
上記ハロゲン原子は、特に限定されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、フッ素原子であることがより好ましい。
【0023】
上記1価の有機基は、特に限定されず、1価の炭化水素基であることが好ましく、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基およびアリール基かなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アルキル基であることがさらに好ましく、炭素数1~3のアルキル基(C1-3アルキル基)であることがいっそう好ましく、メチル基であることがよりいっそう好ましい。
ここで、C1-3アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基(2-プロピル基)が挙げられる。
【0024】
上記1価の炭化水素基は、水素原子がハロゲン原子または水酸基によって置換されていてもよい。
ここで、ハロゲン原子は、特に限定されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、フッ素原子であることがより好ましい。
【0025】
さらに、上記1価の有機基は、アミノ基またはカルボキシ基と反応性を有する官能基を含まないことが好ましい。
ここで、アミノ基と反応性を有する基としては、例えば、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、カルボニル基、アルデヒド基およびハロゲノカルボニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
カルボキシ基と反応性を有する官能基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基およびビニルオキシ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
R1、R2、R3、R4およびR5は、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
ここで、環状構造は、特に限定されないが、例えば、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環または置換基を有していてもよい脂環式炭化水素環が挙げられる。特に、n=0であるとき、R2とR4またはR4とR5が、互いに結合して、置換基を有していてもよい芳香族炭素六員環を形成してもよい。
【0027】
(X)
Xは4価の有機基である。4価の有機基としては、例えば、エチレン、プロパン等の鎖式炭化水素を基本骨格に有する化合物;シクロヘキサン等の環式炭化水素を基本骨格に有する化合物;ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素を基本骨格に有する化合物;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン骨格を有する化合物;ジフェニルエーテル等のジフェニルエーテル骨格を有する化合物;ジフェニルスルホン等のジフェニルスルホン骨格を有する化合物;ビフェニル等のビフェニル骨格を有する化合物;などの化合物から任意の4個の水素原子を除去した基が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0028】
上記4価の有機基は、アミノ基と反応性を有する官能基を含まないことが好ましい。
ここで、アミノ基と反応性を有する基としては、例えば、カルボキシ基、カルボン酸無水物基、カルボニル基、アルデヒド基およびハロゲノカルボニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
《ペースト組成物中でのヘミアセタールエステル誘導体(1)の構造》
本発明のペースト組成物において、水性媒体中では、式(1)中のXに結合するカルボキシ基は電離してカルボキシラートアニオンとなっていてもよい。
この場合、本発明のペースト組成物中の式(1)で表されるヘミアセタールエステル誘導体のカルボキシラートアニオン部分(-COO-)と、ポリアミン(2)のアミニウムカチオン部分(-NH3
+)とを対とした下記式に示すような塩構造であってもよい。
【0030】
【0031】
上記式中、n、R1、R2、R3、R4、R5およびXは、それぞれ、式(1)中のn、R1、R2、R3、R4、R5およびXと同じ意味である。
【0032】
《ヘミアセタールエステル誘導体(1)の製造方法》
ヘミアセタールエステル誘導体(1)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、式(A)で表される環状不飽和エーテル化合物の炭素間不飽和結合に式(B)で表されるテトラカルボン酸のカルボキシ基を付加させる方法が挙げられる。
【0033】
【0034】
式(A)中のn、R1、R2、R3、R4およびR5、ならびに式(B)中のXは、それぞれ、式(1)中のn、R1、R2、R3、R4、R5およびXと同じ意味である。
【0035】
式(A)で表される環状不飽和エーテル化合物の炭素間不飽和結合に、式(B)で表されるテトラカルボン酸のカルボキシ基が付加することにより、下記式で表されるヘミアセタールエステル結合が形成される。
【0036】
【0037】
上記式中のR1は、式(1)中のR1と同じ意味である。
【0038】
このようにして形成されたヘミアセタールエステル結合は、加水分解への耐性を有し、カルボキシ基の保護基が脱離することによるカルボキシ基の脱保護が起きにくい。そのため、ヘミアセタールエステル誘導体(1)の水性媒体中での安定性が高く、結果として、本発明のペースト組成物の保存安定性が優れる。本発明のペースト組成物は電極用として好ましい。
【0039】
《ヘミアセタールエステル誘導体(1)の具体例》
以下に、ヘミアセタールエステル誘導体(1)の具体例について説明する。
ヘミアセタールエステル誘導体(1)としては、例えば、後述する式(1-1)で表される2,3-ジヒドロフラン誘導体、後述する式(1-2)で表される3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体、および、後述する式(1-3)で表される1-ベンゾフラン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に挙げられる。
ただし、ヘミアセタールエステル誘導体(1)は、以下に説明する具体例に限定されるものではない。
【0040】
(2,3-ジヒドロフラン誘導体)
ヘミアセタールエステル誘導体(1)の具体例の一つは、式(1-1)で表される2,3-ジヒドロフラン誘導体である。式(1-1)は、式(1)においてn=0である場合に該当する。
【0041】
【0042】
式(1-1)中、R1、R2、R4、R5およびXは、それぞれ、式(1)中のR1、R2、R4、R5およびXと同じ意味である。式(1-1)において、R1、R2、R4およびR5は、すべて水素原子であることが好ましい。
【0043】
(3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体)
ヘミアセタールエステル誘導体(1)の具体例の別の一つは、式(1-2)で表される3,4-ジヒドロ-2H-ピラン誘導体である。式(1-2)は、式(1)において、n=1である場合に該当する。
【0044】
【0045】
式(1-2)中、R1、R2、R3、R4、R5およびXは、それぞれ、式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5およびXと同じ意味である。式(1-2)において、R1、R2、R3、R4およびR5は、すべて水素原子であることが好ましい。
【0046】
(1-ベンゾフラン誘導体)
ヘミアセタールエステル誘導体(1)の具体例のまた別の一つは、式(1-3)で表される1-ベンゾフラン誘導体である。式(1-3)は、式(1)においてn=0であり、かつ、R4とR5が、互いに結合して、置換基を有していてもよい芳香族炭素六員環を形成した場合に該当する。
【0047】
【0048】
式(1-3)中、R1、R2およびXは、それぞれ、式(1)中のR1、R2およびXと同じ意味である。式(1-3)中、R6、R7、R8およびR9は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基であり、互いに結合して環状構造を形成してもよい。
ここで、ハロゲン原子、1価の有機基および環状構造は、R1およびR2について説明したとおりである。式(1-3)において、R1、R2、R6、R7、R8およびR9は、すべて水素原子であることが好ましい。
【0049】
〈ポリアミン(2)〉
ポリアミン(2)は、式(2)で表される化合物である。ポリアミン(2)は、1種類または2種類以上を本発明のペースト組成物に含むことができる。
【0050】
【0051】
式(2)中、mは2以上の整数であり、Yはm価の有機基またはシロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基である。式(2)において、第1級アミノ基は炭素原子に直接結合している。水性媒体中では、ポリアミン(2)のアミノ基(-NH2)はアミニウムカチオン(-NH3
+)となっていてもよい。
mの上限値は特に限定されないが、2000が好ましく、600がより好ましい。
mの下限値は、例えば2であり、8が好ましく、20がより好ましく、50がさらに好ましい。
【0052】
《有機ポリアミン》
本明細書において、ポリアミン(2)のうち、Yがm価の有機基であるポリアミン(2)を、特に、有機ポリアミンという。
【0053】
上記m価の有機基としては、例えば、エチレン、プロパン等の鎖式炭化水素を基本骨格に有する化合物;シクロヘキサン等の環式炭化水素を基本骨格に有する化合物;ベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素を基本骨格に有する化合物;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン骨格を有する化合物;ジフェニルエーテル等のジフェニルエーテル骨格を有する化合物;ジフェニルスルホン等のジフェニルスルホン骨格を有する化合物;ビフェニル等のビフェニル骨格を有する化合物;などの化合物から任意のm個の水素原子を除去した基などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0054】
上記m価の有機基は、カルボキシ基と反応性を有する基を含まないことが好ましい。
ここで、カルボキシ基と反応性を有する基としては、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ビニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
有機ポリアミンの具体例は、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3′-ジアミノジフェニルスルホン、3,4′-ジアミノジフェニルスルホン、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノベンゾフェノン、4,4′-ジアミノベンゾフェノン、3,4′-ジアミノベンゾフェノン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4′-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4′-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4′-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4′-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3′-ジアミノ-4,4′-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3′-ジアミノ-4,4′-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3′-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3′-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6′-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビインダン、6,6′-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3′,3′-テトラメチル-1,1′-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス[2-(アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、およびアジピン酸ジヒドラジドであるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
有機ポリアミンとしては、例示した有機ポリアミンの芳香環上の水素原子の一部または全部をフッ素原子、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基およびトリフルオロメトキシ基からなる群から選択される1種以上の置換基で置換したものを使用してもよい。
【0057】
さらに、有機ポリアミンとしては、例示した有機ポリアミンのほか、1分子中に2個以上の第1級アミノ基(-NH2)を有するポリマー(第1級アミノ基で、カルボキシ基と反応性を有する基を含むものを除く)を使用してもよい。
このような有機ポリアミンの例としては、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等の主鎖または側鎖が2個以上の第1級アミノ基により修飾されたものが挙げられる。これらのうち、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドおよびポリアミドイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
より具体的には、ポリマー側鎖のカルボキシ基とエチレンイミンとの反応性を利用して、アクリル酸系コポリマーの側鎖にポリエチレンイミンをグラフトした第1級アミノ基含有アクリル系ポリマー;テトラカルボン酸二無水物を過剰量のジアミンやトリアミンで伸長したポリアミック酸樹脂;ウレタンプレポリマーを過剰量のジアミンやトリアミンで伸長したポリウレタンウレア樹脂;エポキシ樹脂を過剰量のジアミンやトリアミンで伸長した変性エポキシ樹脂;などが挙げられる。
【0058】
上記1分子中に2個以上の第1級アミノ基を有するポリマーは、第1級アミノ基以外にカルボキシ基と反応性を有する基を含まないことが好ましい。
ここで、カルボキシ基と反応性を有する基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ビニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
有機ポリアミンは、さらに目的に応じ、ポリイミド生成後に架橋反応を行なう際の架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン-4′-イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、およびイソプロペニル基からなる群から選択される1種以上を、例示した有機ポリアミンの芳香環上水素原子の一部または全てに置換基として導入したものを使用してもよい。
【0060】
有機ポリアミンは、目的の物性によって適宜選択することができる。有機ポリアミンとしてp-フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いる場合、最終的に得られるポリイミドは低膨張率となることができる。
剛直な有機ジアミンとしては、例えば、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミン(芳香族ジアミン)が挙げられる。
このような芳香族ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2、6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、および1,4-ジアミノアントラセンが挙げられる。ポリアミンのデンドリマーを用いてもよい。
【0061】
さらに、有機ポリアミンとして、2つ以上の芳香環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香環上に直接または置換基の一部として結合している有機ポリアミンが挙げられる。
このような有機ポリアミンの具体例としては、ベンジジンおよびトルイジンが挙げられる。
【0062】
さらに、有機ポリアミンとして、ベンゼン環に置換基を有する有機ポリアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
このような有機ポリアミンの具体例としては、2,2′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、2,2′-ジトリフルオロメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジメトキシ-4,4′-ジアミノビフェニル、および3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノビフェニル、イソフタル酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0063】
上述した以外の有機ポリアミンとしては、例えば、アミノエチル化アクリルポリマー等を使用することができる。
アミノエチル化アクリルポリマーは、ポリエチレンイミンを側鎖にグラフトした第1級アミノ基を含有するアクリル系ポリマーであるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
アミノエチル化アクリルポリマーの主鎖は、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸を含むモノマーから形成される(メタ)アクリルポリマーである。
アミノエチル化アクリルポリマーは第1級アミノ基を複数有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
アミノエチル化アクリルポリマーの重量平均分子量は、5,000~100,000が好ましい。
【0064】
上記アミノエチル化アクリルポリマーは、ハロゲン化水素酸塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩等の塩を形成していてもよい。
アミノエチル化アクリルポリマーは水溶性であることが好ましい態様の1つとして挙げられる。水溶性を示すアミノエチル化アクリルポリマーの市販品としては、例えば、ポリメント(R)NK-100PM、ポリメント(R)NK-200PM(いずれも日本触媒社製)が挙げられる。
【0065】
《シロキサン系ポリアミン》
本明細書において、ヒドラジド化合物以外のポリアミノ化合物のうち、Yがシロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基であるポリアミノ化合物をシロキサン系ポリアミンという。
【0066】
シロキサン結合を含むm価の有機ケイ素基としては、例えば、下記式で表される有機ケイ素化合物の1価の炭化水素基の水素原子のうちm個を単結合に置換したものが挙げられる。
【0067】
【0068】
上記式中、kは1以上の整数であり、R11、R12、R13、R14、R21およびR22は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基を表し、k≧2であるとき、複数のR21は互いに同一であっても相違していてもよく、複数のR22は互いに同一であっても相違していてもよい。
【0069】
シロキサン系ポリアミンとしては、具体的には、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンが挙げられる。ただし、これのみに限定されるものではない。
【0070】
シロキサン系ポリアミンを用いると、本発明のペースト組成物を硬化したポリイミド樹脂の弾性率を低下させ、ガラス転移温度を調整することができる。
【0071】
《シロキサン系ポリアミンと併用しうる有機ポリアミン》
上記シロキサン系ポリアミンと併用しうる有機ポリアミンとしては、耐熱性の観点から芳香族ポリアミンが好ましく、芳香族ジアミンがより好ましい。芳香族ポリアミンは、1種類以上用いることもできる。さらに、目的の物性に応じて、芳香族ジアミン以外の有機ポリアミンを併用することができる。
このような有機ポリアミンとしては、脂肪族ポリアミンが好ましく、脂肪族ジアミンがより好ましい。脂肪族ジアミンは、1種類以上用いることもできる。
芳香族ポリアミンとそれ以外の有機ポリアミンを併用する場合、芳香族ポリアミン以外の有機ポリアミンの使用量は、有機ポリアミンの全量の60モル%を超えない範囲が好ましく、40モル%を超えない範囲がより好ましい。
【0072】
〈二次電池用活物質〉
二次電池用活物質としては、正極活物質および負極活物質が挙げられる。
【0073】
《正極活物質》
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、および導電性高分子が挙げられる。
上記リチウムと遷移金属との複合酸化物の具体例は、LiCoO2、LiNiO2、LiFePO4、LiMnO2およびLiMn2O4であるが、これらに限定されるものではない。
上記遷移金属酸化物の具体例は、MnO2およびV2O5であるが、これらに限定されるものではない。
上記遷移金属硫化物の具体例は、MoS2およびTiS2であるが、これらに限定されるものではない。
上記導電性高分子の具体例は、ポリアニリン、ポリフッ化ビニリデン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレンおよびポリカルバゾールであるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
《負極活物質》
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、黒鉛、アモルファス炭素、高分子化合物焼成体、コークス類、炭素繊維、導電性高分子、スズ、シリコン、および金属合金が挙げられる。
上記高分子化合物焼成体の具体例は、フェノール樹脂またはフラン樹脂を焼成して炭素化したものであるが、これらに限定されるものではない。
上記コークス類の具体例は、ピッチコークス、ニードルコークスおよび石油コークスであるが、これらに限定されるものではない。
上記導電性高分子の具体例は、ポリアセチレンおよびポリピロールであるが、これらに限定されるものではない。
上記金属合金の具体例は、リチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金およびリチウム-アルミニウム-マンガン合金であるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
負極活物質としては、黒鉛材料のほか、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料などが挙げられる。これらのうち、充放電特性に優れ、高い放電容量と電位平坦性とを示すことから、黒鉛材料が好ましい。
負極活物質として使用される黒鉛(黒鉛質粒子)としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛粒子;タール、ピッチを原料としたメソフェーズピッチやメソフェーズ小球体を熱処理して得られるバルクメソフェーズ黒鉛質粒子やメソフェーズ小球体黒鉛質粒子;粒子状や繊維状のメソフェーズピッチを酸化不融化した後に熱処理して得られるメソフェーズ黒鉛質粒子やメソフェーズ黒鉛質繊維;天然黒鉛や人造黒鉛をタール、ピッチなどで被覆した後に熱処理して得られる複合黒鉛質粒子;高結晶ニードルコークスを黒鉛化したもの;などが挙げられる。
【0076】
さらに、急速充放電特性やサイクル特性の向上を目的として、黒鉛質粒子に導電助剤を配合、複合することが検討されている。例えば、球状粒子よりなる黒鉛材料と炭素繊維とからなる複合炭素材;粒状黒鉛と石油ピッチ、鱗片状黒鉛を混合し造粒して複合化した負極材料;粒状黒鉛の表面に鱗片状黒鉛を付着させ粉砕して得られる負極材料;等が挙げられる。
【0077】
〈水性媒体〉
水性媒体は水を主成分とする媒体である。水は、イオン交換水、蒸留水、脱イオン蒸留水、RO(Reverse Osmosis;逆浸透)水等を使用することができる。
ここで、水を主成分とするとは、水を60質量%以上含むことをいい、75質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましい。水性媒体の使用は、環境負荷の低減に寄与することができる。
【0078】
水性媒体には、基材である集電体のペースト組成物(電極用ペースト)塗布面への濡れ性の付与、およびペースト組成物の防腐効果を目的に、環境負荷が小さく水の揮発性および乾燥性に悪影響を与えないアルコールまたはエーテルが含まれていてもよい。
アルコールの例としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセリン等が挙げられ、エーテルの例としては、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、および1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらのアルコールまたはエーテルは、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0079】
水性媒体にアルコールを添加する場合の水性媒体中のアルコールの含有率は、水性媒体の総質量に対して、1質量%以上40質量%以下とすることが好ましく、3質量%以上25質量%以下とすることがより好ましい。
アルコールの含有率が1質量%以上であると、ペースト組成物の基材に対する濡れ性の改善効果がより強く発揮され、基材上でのペースト組成物のハジキが抑制される。
アルコールの含有率が40質量%以下であると、ペースト組成物に結晶が析出したりせず、ペースト組成物を基材上に膜状に配することが容易となる。
アルコールの含有率が1質量%未満であると、アルコールを添加することによる改善効果が不十分となる場合がある。
アルコールの含有率が40質量%超であると、ペースト組成物に結晶が析出することがあり、ペースト組成物を基材上に膜状に配することが困難となるおそれがある。
【0080】
〈その他の成分〉
本発明のペースト組成物は、本発明の作用効果を妨げない限り、上記した成分以外のその他の成分を含んでもよい。
このようなその他の成分の例としては、揮発性アミン、ポリマー成分、添加剤、および有機溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
《揮発性アミン》
本発明のペースト組成物の安定性を向上させることを目的として、揮発性アミンを添加してもよい。
本発明のペースト組成物に含有させることができる揮発性アミンの種類は、特に限定されないが、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンおよびN-メチルモルホリンが挙げられる。これらの揮発性アミンは、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のペースト組成物に含有させることができる揮発性アミンの含有量は、特に限定されないが、環状不飽和エーテル化合物とテトラカルボン酸との付加反応に使用されないカルボキシ基のモル数を超えないことが好ましい。
【0082】
《ポリマー成分》
本発明のペースト組成物は、その特性を損なわない限り、ポリイミド以外のポリマー成分をさらに含有してもよい。例えば、現行の技術水準で一般使用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)水分散体を、その特性を損なわない比率で混合して使用できる。
ポリマー成分を本発明のペースト組成物に添加する場合は、例えば、各成分を、ロール混合、バンバリー混合、スクリュー混合、撹拌混合、自転公転型回転混合などの適宜の混合方法により配合することによって調製することができる。
【0083】
《添加剤》
本発明のペースト組成物は、必要に応じて、補強材、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、他の架橋遅延剤、可塑剤、防腐剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤および界面活性剤からなる群から選択される1種類以上の添加剤をさらに含有してもよい。
【0084】
《有機溶媒》
本発明のペースト組成物は、水性媒体に含まれるアルコール、エーテル等の有機溶媒、揮発性アミンに含まれる有機溶媒、および不可避的に混入する微量の有機溶媒を除き、有機溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。
ここで、「有機溶媒を実質的に含有しない」とは、本発明のペースト組成物中の有機溶媒の含有量が、ペースト組成物全体に対して、0.1質量%以下であることをいう。
実質的に含有しないことが好ましい有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、アセトン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等の環境負荷の高い有機溶媒が挙げられる。
【0085】
〈ペースト組成物の粘度〉
本発明のペースト組成物の粘度は特に限定されないが、B型粘度計、E型粘度計、ザーンカップなど一般的な粘度計を用いて定量的に把握し、基材や集電体への濡れ性に支障の出ない範囲を規定して使用してよい。
【0086】
〈ペースト組成物の調製方法〉
本発明のペースト組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。まず、二次電池用活物質を自転公転型混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態にする。この状態の二次電池用活物質に、ヘミアセタールエステル誘導体(1)、ポリアミン(2)および水性媒体の混合物を撹拌して調製した二次電池用活物質被覆用組成物を、1~90分かけて滴下混合する。所望により導電助剤を混合する。撹拌したまま50~150℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持する。
二次電池用活物質と二次電池用活物質被覆用組成物との配合比は、特に限定されないが、質量比で、二次電池用活物質:二次電池用活物質被覆用組成物=1:0.001~1:0.1であることが好ましい。
【0087】
[二次電池用電極材料]
本発明の二次電池用電極材料は、ヘミアセタールエステル誘導体(1)と、ポリアミン(2)と、二次電池用活物質とを含む。
ヘミアセタールエステル誘導体(1)、ポリアミン(2)、および二次電池用活物質は、上述したものである。
【0088】
本発明の二次電池用電極材料は、例えば、本発明のペースト組成物を乾燥させて水性媒体を除去することにより得られる。水性媒体の他に分散媒が含まれるときは、その分散媒も除去することが好ましい。
【0089】
[二次電池用電極]
本発明の二次電池用電極は、本発明の二次電池用電極材料を有する。
本発明の二次電池用電極の製造方法は、特に限定されない。例えば、本発明のペースト組成物を集電体にドクターブレード等の塗工装置を用いて塗布し、その後、乾燥して水性媒体を除去して、必要によりプレス機でプレスする。こうして、本発明の二次電池用電極が得られる。
【0090】
本発明の二次電池用電極として、多重層の塗工により所望の厚みを有した電極を作製してもよい。
具体的には、本発明の二次電池用電極の過熱に対する保護をセパレータ側で発現させることを目的として、セパレータ近傍のバインダー配合率を高めてもよい。
または、本発明の二次電池用電極の過熱に対する保護を集電体側で発現させることを目的として、集電体近傍のバインダー配合率を高めてもよい。
ここで、バインダーとは、本発明の二次電池用電極を構成する成分のうち、二次電池用活物質を除く、ヘミアセタールエステル誘導体(1)およびポリアミン(2)などの成分を意味する。
【0091】
本発明のペースト組成物が二次電池用活物質として正極活物質を含むときは、二次電池用の正極が得られ、負極活物質を含むときは、二次電池用の負極が得られる。
正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
導電剤としては、例えば、黒鉛化物およびカーボンブラックが挙げられる。
結着剤としては、例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレンおよびポリプロピレン等の高分子化合物が挙げられる。
【0092】
負極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結合剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
導電剤としては、例えば、黒鉛化物およびカーボンブラックが挙げられる。
結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定性を示すものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末;ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末;カルボキシメチルセルロース;等が挙げられる。
【0093】
[二次電池]
本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を有する。
すなわち、本発明の二次電池の構造は、正極および/または負極として、本発明の二次電池用電極を用いた点を除き、従来の二次電池と同様の構造となる。
【0094】
本発明の二次電池は、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することで得られる。
集電体の一方の面に正極を形成し、もう一方の面に負極を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも得られる。
正極および負極を共に本発明の二次電池用電極として二次電池としてもよい。
さらに、本発明の二次電池は、電解液が削減された、または、電解液を含有しない全固体電池または全樹脂電池であってもよい。
【0095】
〈セパレータ〉
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜;多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム;多孔性のポリイミド、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布;およびそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの;等が挙げられる。
【0096】
〈集電体〉
集電体としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子および導電性ガラス等が挙げられる。
【0097】
〈電解液〉
電解液としては、二次電池の製造に用いられる、電解質および非水溶媒を含有する電解液を使用することができる。
【0098】
《電解質》
電解質としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6もしくはLiClO4等の無機酸のリチウム塩、またはLiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2もしくはLiC(CF3SO2)3等の有機酸のリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、LiPF6が好ましい。
【0099】
《非水溶媒》
非水溶媒としては、通常の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状または鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状または鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等およびこれらの混合物を用いることができる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0100】
ラクトン化合物としては、例えば、5員環(γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトン等)および6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)を挙げることができる。
【0101】
環状炭酸エステルとしては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートおよびブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネートおよびジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0102】
鎖状カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルおよびプロピオン酸メチルが挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソランおよび1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタンおよび1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0103】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オンおよび2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オンが挙げられる。
【0104】
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリルが挙げられる。
アミド化合物としては、例えば、DMFが挙げられる。
スルホンとしては、例えば、ジメチルスルホンおよびジエチルスルホンが挙げられる。
【0105】
(好ましい非水溶媒)
非水溶媒のうち、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステルまたはリン酸エステルが好ましく、ラクトン化合物、環状炭酸エステルまたは鎖状炭酸エステルがより好ましく、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液がさらに好ましい。
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液が好ましい。
【実施例】
【0106】
以下では実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
1.ペースト組成物(負極合剤ペースト)の調製
撹拌機を備えたセパラブルフラスコ(300mL;筒型)に、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(11.1g)および水(45.9g)を入れ、25℃にて10分間撹拌混合した。その後、2,3-ジヒドロフラン(3.8g)を加え、さらに40℃にて90分間撹拌混合し、ジヒドロフラン誘導体の水分散液を得た。
【0108】
得られたジヒドロフラン誘導体の水分散液に、スチレンアクリル型ポリアミン(日本触媒社製,ポリメント(R)NK-200PM;不揮発残分 56質量%,アミン価 2.55mmol/g-solid;m=60)(71.6g)および水(72.4g)を加え、40℃にて3時間撹拌混合し、ジヒドロフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液を得た。
【0109】
負極材料粉末(メソフェーズ小球体の黒鉛化物、平均粒子径19μm、比表面積2.1m2/g)(98質量部)と、結合剤(カルボキシメチルセルロース)(1質量部)と、上述のとおり調製したジヒドロフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液(水性媒体を除いた固形分量で1質量部)とを水に入れ、5分間撹拌して負極合剤ペーストを調製した。負極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0110】
2.作用電極(負極)の作製
調製した負極合剤ペーストを、銅箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、負極合剤層を形成した。次に、負極合剤層をハンドプレスによって加圧した。さらに、銅箔および負極合剤層を直径15.5mmの円形状に打ち抜くことで、銅箔からなる集電体に密着した作用電極(負極)を作製した。電極密度は、負極の質量および厚さから求めた。
加熱温度が90℃であったことから、ヘミアセタールエステル誘導体とポリアミンとは反応せず、混合物の状態となっていた。
【0111】
3.対極(正極)の作製
リチウム金属箔をニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打ち抜いて、ニッケルネットからなる集電体に密着した、リチウム金属箔(厚さ:0.5mm)からなる対極(正極)を作製した。
【0112】
4.二次電池の作製
次に、
図1に示す評価用のコイン型二次電池(単に「評価電池」ともいう。)を作製した。
図1は、評価電池を示す断面図である。
評価電池においては、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、
図1に示すように、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、対極4、セパレータ5、作用電極(負極)2、および、集電体7bが積層されている。
このような評価電池は、次のように作製した。まず、電解液が含浸されたセパレータ5を、集電体7bに密着した作用電極2と、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した。その後、作用電極2を外装カップ1内に収容し、対極4を外装缶3内に収容した。外装カップ1と外装缶3とを合わせ、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ、密閉した。
電池作成時に使用する電解液とセパレータは、次の条件で作製したものを使用した。
・電解液、セパレータの作製
エチレンカーボネート(30体積%)とプロピレンカーボネート(70体積%)との混合溶媒に、LiPF
6を1mol/Lとなる濃度で溶解させ、非水電解液とした。調製した非水電解液をポリプロピレン多孔質体(厚さ:20μm)に含浸させ、電解液含浸セパレータを得た。
【0113】
5.充放電試験
作製した評価電池を用いて、充放電試験を以下のように行ない各種特性を評価した。
回路電圧が0mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行なった後、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるその間の通電量から充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、10分間休止した。次に、0.9mAの電流値で回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行ない、この間の通電量から放電容量(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。
次いで、充電電流を1C、放電電流を2Cとして、第1サイクルと同様に充放電を行なった。その後、充電電流を0.5C、放電電流を2.5Cとして第1サイクルと同様に充放電を行なった。
【0114】
不可逆容量(初回充放電ロス)(単位:mAh/g)は、下記式(1)から計算した。
不可逆容量=第1サイクルの充電容量-第1サイクルの放電容量・・・(1)
【0115】
1C充電率(単位:%)は、下記式(2)から計算した。
1C充電率=100×(1C電流値におけるCC部分の充電容量/第1サイクルの放電容量)・・・(2)
【0116】
2C放電率(単位:%)は、下記式(3)から計算した。
2C放電率=100×(2C電流値における放電容量/第1サイクルの放電容量)・・・(3)
【0117】
この充放電試験では、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵する過程を充電とし、負極活物質からリチウムイオンが脱離する過程を放電とした。
試験結果を下記表1に示す。
【0118】
6.電極膨張率の測定
上述した充放電試験を行なった後の評価電池を、放電状態にしてから解体し、負極を回収した。回収した負極の厚さを、マイクロメーターを用いて測定した。下記式に従い電極膨張率(単位:%)を求めた。結果を下記表1に示す。
電極膨張率=100×{(回収した負極の厚さ)-(銅箔の厚さ)}/{(充放電試験を開始する前の負極の厚さ)-(銅箔の厚さ)}
【0119】
7.電極の耐熱破壊試験
上述のとおり調製した負極合剤ペーストを、銅箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、負極合剤層を形成した。次に、負極合剤層をハンドプレスによって加圧した。さらに、銅箔および負極合剤層を5.0cm四方に切り取り、銅箔からなる集電体に密着した負極を作製した。
作製した、集電体に密着した負極を、ガラス板にポリイミドテープで固定し、あらかじめ350℃に設定したマッフル炉内で、20分間の加熱処理を施した。加熱処理後の電極(負極)の状態を、電極の破損、集電体の破損、および、電極と集電体との密着性の観点から評価した。評価基準は、以下のとおりとした。結果を下記表2に示す。
A:電極および集電体の破損は無く、電極と集電体との剥離も無かった。
B:電極および集電体の破損は無く、電極と集電体との剥離も無かった。ただし、電極に炭化の兆候が見られた。
C:電極の破損、集電体の破損、または、電極と集電体との剥離が有った。
【0120】
[実施例2]
1.ペースト組成物(負極合剤ペースト)の調製
撹拌機を備えたセパラブルフラスコ(300mL;筒型)に、2,3,3,4-ビフェニルテトラカルボン酸(8.7g)および水(105.0g)を入れ、25℃にて10分間撹拌混合した。その後、2,3-ベンゾフラン(3.0g)を加え、さらに25℃にて45分間撹拌混合し、ベンゾフラン誘導体の水分散液を得た。
【0121】
得られたベンゾフラン誘導体の水分散液に、スチレンアクリル型ポリアミン(日本触媒社製,ポリメント(R)NK-200PM;不揮発残分 56質量%,アミン価 2.55mmol/g-solid;m=60)(30.0g)およびイソフタル酸ジヒドラジド(1.5g)を加え、25℃にて2時間撹拌混合し、ベンゾフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液を得た。
【0122】
負極材料粉末(メソフェーズ小球体の黒鉛化物、平均粒子径19μm、比表面積2.1m2/g)(98質量部)と、結合剤(カルボキシメチルセルロース)(1質量部)と、上述のとおり調製したベンゾフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液(水性媒体を除いた固形分量で1質量部)とを水に入れ、5分間撹拌して負極合剤ペーストを調製した。負極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0123】
2.二次電池の作製
調製した負極合剤ペーストを用いて、実施例1と同様にして、コイン型二次電池(評価電池)を作製した。
【0124】
3.充放電試験および電極膨張率の測定
実施例1と同様にして、充放電試験および電極膨張率の測定を行なった。
試験結果を下記表1に示す。
【0125】
4.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表2に示す。
【0126】
[実施例3]
1.ペースト組成物(負極合剤ペースト)の調製
撹拌機を備えたセパラブルフラスコ(300mL;筒型)に、ジシクロヘキシルメタン4,4′-ジイソシアナート(23.7g:異性体混合物)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(49.0g:平均分子量2000)、および、ジメチロールブタン酸(5.9g)を入れ、90℃にて90分混合した。その後、水酸基含有アクリル原料として、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(3.4g)を添加し、さらに90分間撹拌して、ウレタン系ポリマーを得た。得られたウレタン系ポリマーにメタクリル酸ブチル(18.1g)を添加して、ウレタン系ポリマーとメタクリル酸ブチルとの混合物を得た。
【0127】
別のビーカーに、トリエチルアミン(4.2g)、アジピン酸ジヒドラジド(2.6g)、2,3,3,4-ビフェニルテトラカルボン酸(2.8g)、および、ジヒドロピラン(1.5g)を入れ、あらかじめ50℃に保温された温水を漏斗で添加しながら、90分間撹拌を行なった。ビーカー内の温度は50℃を維持するよう保温した。この結果、2,3,3,4-ビフェニルテトラカルボン酸とジヒドロピランとが反応したジヒドロピラン誘導体と、トリエチルアミンと、アジピン酸ジヒドラジドとの混合物を得た。
【0128】
上記ウレタン系ポリマーとメタクリル酸ブチルとの混合物と、ジヒドロピラン誘導体とトリエチルアミンとアジピン酸ジヒドラジドとの混合物とを混ぜ、温水を添加して、混合溶液を得た。混合溶液は、乾燥時の硬化残分が37質量%となるように調製した。
調製混合溶液に、重合開始剤として、2,2′-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを添加し、80℃まで昇温しながら120分撹拌を継続した。こうして、ウレタン系ポリマーと、メタクリル酸ブチルと、トリエチルアミンと、アジピン酸ジヒドラジドとを反応させて、アクリル共重合ウレタン系ポリアミン(m=10)水溶液を得た。得られた水溶液中にはジヒドロピラン誘導体も分散していた。
【0129】
負極材料粉末(メソフェーズ小球体の黒鉛化物、平均粒子径19μm、比表面積2.1m2/g)(98質量部)と、結合剤(カルボキシメチルセルロース)(1質量部)と、上述のとおり調製したジヒドロピラン誘導体が分散したアクリル共重合ウレタン系ポリアミン水溶液(水性媒体を除いた固形分量で1質量部)とを水に入れ、5分間撹拌して負極合剤ペーストを調製した。水の量は、負極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように調整した。
【0130】
2.二次電池の作製
調製した負極合剤ペーストを用いて、実施例1と同様にして、コイン型二次電池(評価電池)を作製した。
【0131】
3.充放電試験および電極膨張率の測定
実施例1と同様にして、充放電試験および電極膨張率の測定を行なった。
試験結果を下記表1に示す。
【0132】
4.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表2に示す。
【0133】
[比較例1]
1.ペースト組成物(負極合剤ペースト)の調製
負極材料粉末(メソフェーズ小球体の黒鉛化物、平均粒子径19μm、比表面積2.1m2/g)を98質量部と、結合剤(カルボキシメチルセルロース)を1質量部と、スチレンブタジエンゴム(EQ-Lib-SBR,米国MTI社製)を1質量部と、水を入れ、5分間撹拌して負極合剤ペーストを調製した。負極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0134】
2.二次電池の作製
上述した負極合剤ペーストを用いて、実施例1と同様にして評価用の二次電池を作製した。
【0135】
3.充放電試験および電極膨張率の測定
実施例1と同様にして、充放電試験および電極膨張率の測定を行なった。
試験結果を下記表1に示す。
【0136】
4.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表2に示す。
【0137】
【0138】
実施例1~実施例3および比較例1とも、電池特性は良好であった。
【0139】
【0140】
実施例1~実施例3の電極(負極)は350℃の加熱でも破壊されなかった。
一方、比較例1の電極は350℃の加熱により破壊された。
比較例1は、水性環境下で使用できる活物質被覆樹脂の代表的な素材として、広く使用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いたものであるが、温度上昇による電極の破壊を阻止することはできなかった。
【0141】
[実施例4]
1.ペースト組成物(正極合剤ペースト)の調製
正極材料粉末(カーボン被覆LiFePO4、BTR社製GN-198-S、平均粒子径4μm、比表面積11m2/g)(97質量部)と、実施例1で得られたジヒドロフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液(水性媒体を除いた固形分量で3質量部)とを水を入れ、5分間撹拌して正極合剤ペーストを調製した。正極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0142】
2.正極の作製
調製した正極合剤ペーストを、アルミニウム箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、正極合剤層を形成した。次に、正極合剤層をハンドプレスによって加圧した。こうして、アルミニウム箔からなる集電体に密着した正極を作製した。
【0143】
3.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表3に示す。
【0144】
[実施例5]
1.ペースト組成物(正極合剤ペースト)の調製
正極材料粉末(カーボン被覆LiFePO4、BTR社製GN-198-S、平均粒子径4μm、比表面積11m2/g)(97質量部)と、実施例2で得られたベンゾフラン誘導体およびポリアミンを含む水分散液(水性媒体を除いた固形分量で3質量部)とを水を入れ、5分間撹拌して正極合剤ペーストを調製した。正極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0145】
2.正極の作製
調製した正極合剤ペーストを、アルミニウム箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、正極合剤層を形成した。次に、正極合剤層をハンドプレスによって加圧した。こうして、アルミニウム箔からなる集電体に密着した正極を作製した。
【0146】
3.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表3に示す。
【0147】
[実施例6]
1.ペースト組成物(正極合剤ペースト)の調製
正極材料粉末(カーボン被覆LiFePO4、BTR社製GN-198-S、平均粒子径4μm、比表面積11m2/g)(97質量部)と、実施例3で得られたジヒドロピラン誘導体が分散したアクリル共重合ウレタン系ポリアミン水溶液(水性媒体を除いた固形分量で3質量部)と水を入れ、5分間撹拌して正極合剤ペーストを調製した。正極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0148】
2.正極の作製
調製した正極合剤ペーストを、アルミニウム箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、正極合剤層を形成した。次に、正極合剤層をハンドプレスによって加圧した。こうして、アルミニウム箔からなる集電体に密着した正極を作製した。
【0149】
3.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表3に示す。
【0150】
[比較例2]
1.ペースト組成物(正極合剤ペースト)の調製
正極材料粉末(カーボン被覆LiFePO4、BTR社製GN-198-S、平均粒子径4μm、比表面積11m2/g)(97質量部)と、スチレンブタジエンゴム(EQ-Lib-SBR,米国MTI社製)(3質量部)とを水に入れ、5分間撹拌して正極合剤ペーストを調製した。正極合剤ペースト中の固形分(溶質)の含有量が50質量%となるように水の量を調整した。
【0151】
2.正極の作製
調製した正極合剤ペーストを、アルミニウム箔上に均一な厚さになるように塗布し、真空中90℃で溶剤を揮発乾燥させ、正極合剤層を形成した。次に、正極合剤層をハンドプレスによって加圧した。こうして、アルミニウム箔からなる集電体に密着した正極を作製した。
【0152】
3.電極の耐熱破壊試験
実施例1と同様にして、電極の耐熱破壊試験を行なった。
試験結果を下記表3に示す。
【0153】
【0154】
実施例4~実施例6の電極(正極)は350℃の加熱でも破壊されなかった。
一方、比較例2の電極は350℃の加熱により破壊された。
比較例2は、水性環境下で使用できる活物質被覆樹脂の代表的な素材として、広く使用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いたものであるが、温度上昇による電極の破壊を阻止することはできなかった。
【符号の説明】
【0155】
1 外装カップ
2 作用電極(負極)
3 外装缶
4 対極
5 セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a 集電体
7b 集電体