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特許7011051有効又は無効流路を特定する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】有効又は無効流路を特定する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20220119BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G01N15/08 C
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020515329
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016488
(87)【国際公開番号】W WO2019207629
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】惣川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岡 柚希
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146498(WO,A1)
【文献】特開2016-199450(JP,A)
【文献】特開2010-138770(JP,A)
【文献】特開2011-079732(JP,A)
【文献】特開2015-193496(JP,A)
【文献】越智 文洋 他,すすの堆積を考慮した多孔体内の流れ解析,ながれ,2005年,Vol.24,535-541頁
【文献】RERNSDORF Jorg 他,格子ボルツマン法の化学工学/医療物理への応用,計算工学,日本,日本計算工学会,2009年,Vol.14,No.3,2124-2129頁
【文献】YAMAMOTO Kazuhiro et al.,SIMULATION OF FLOW AND HEAT TRANSFER IN DIESEL PARTICULATE FILTER,2008 Second International Conference on Thermal Issues in Emerging Technologies,2008年12月17日,pp.231-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/08
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成する工程と、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて前記流入面から前記流出面に前記流体を流す有効流路を特定する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記有効流路は、前記流路における前記流体の流れ方向に沿って異なる圧力値を有する複数の等圧面に基づいて特定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記等圧面に基づいて前記有効流路の断面積が決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記等圧面に基づいて前記有効流路の容積が決定される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記有効流路の部分容積は、少なくとも、前記流体の流れ方向における第1等圧面と第2等圧面の離間距離と、前記第1及び/又は第2等圧面の面積に基づいて決定される、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔体のある断面に含まれる気孔の個別の断面積の合計値に対する前記多孔体の前記断面における前記有効流路の個別の断面積の合計値の比を決定する工程を更に含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記多孔体に含まれる気孔の合計容積に対する前記有効流路の容積の比を決定する工程を更に含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記多孔体のある断面における気孔及びセラミックス部の両方の断面積の合計値に対する前記多孔体の前記断面に含まれる前記有効流路の断面積の合計値の比を決定する工程を更に含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔体の体積に対する前記有効流路の容積の比を決定する工程を更に含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記等圧面の面積と周囲長に基づいて前記等圧面の等価直径を決定する工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記等価直径の分布を決定する工程を更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
同一又は同一範囲内の等価直径の前記等圧面の個数の分布を決定する工程を更に含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記データは、前記流路に流れる流体の流速分布も示し、
前記有効流路において前記流体の流れ方向に交差する態様で等しい圧力値が分布した等圧面の面積と前記データが示す流速に基づいて単位時間に前記等圧面を通過する前記流体の流量を決定する工程を更に含む、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
各等圧面に関して決定される前記流量の合算に基づいて前記多孔体に含まれる一部又は全ての有効流路に流れる流量を決定する工程を更に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記等圧面に関して決定される前記流量に基づいて前記等圧面に対してフィルター特性に関する評価値を決定する工程を更に含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記構造データは、デジタル値を有するボクセルの3次元集合である、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記構造データに対して格子点を設定する工程を更に含み、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って異なる圧力値を有する等圧面の離間距離は、前記構造データにおける格子間隔未満である離間距離を含む、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成し、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて前記流入面から前記流出面に前記流体を流す有効流路を特定するように構成された装置。
【請求項19】
流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成する工程と、
前記流路における前記流体の流動を示さない所定範囲内の圧力値の集合に基づいて、前記流入面から前記流出面に前記流体を流さない無効流路を特定する工程を含む、方法。
【請求項20】
流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成し、
前記流路における前記流体の流動を示さない所定範囲内の圧力値の集合に基づいて、前記流入面から前記流出面に前記流体を流さない無効流路を特定するように構成された装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有効又は無効流路を特定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、多孔質体の気孔率を小さくすることと、多孔質体の透過性を高くすることを両立するため、仮多孔質体データに基づいて流体解析を行い、空間ボクセル毎の流速に関する情報を導出することを開示する。特許文献1は、流速が低い空間ボクセルを優先的に物体ボクセルに置換し、これにより気孔率を目標値にすることを開示する。
【0003】
特許文献2は、ウォールフロー型排ガス浄化フィルターに関してSEM画像に基づいて孔径を観察することを開示する(特許文献2の図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-189666号公報
【文献】特開2013-53589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、流入面から流出面に流体を流す有効流路とそれ以外の流路を区別することで多孔体の性能をより正確に評価することが可能になる意義を新たに見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る方法は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成する工程と、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて前記流入面から前記流出面に前記流体を流す有効流路を特定する工程を含む。
【0007】
幾つかの場合、前記有効流路は、前記流路における前記流体の流れ方向に沿って異なる圧力値を有する複数の等圧面に基づいて特定される。
【0008】
幾つかの場合、前記等圧面に基づいて前記有効流路の断面積が決定される。
【0009】
幾つかの場合、前記等圧面に基づいて前記有効流路の容積が決定される。
【0010】
幾つかの場合、前記有効流路の部分容積は、少なくとも、前記流体の流れ方向における第1等圧面と第2等圧面の離間距離と、前記第1及び/又は第2等圧面の面積に基づいて決定される。
【0011】
幾つかの場合、方法は、前記多孔体のある断面に含まれる気孔の個別の断面積の合計値に対する前記多孔体の前記断面における前記有効流路の個別の断面積の合計値の比を決定する工程を更に含む。
【0012】
幾つかの場合、方法は、前記多孔体に含まれる気孔の合計容積に対する前記有効流路の容積の比を決定する工程を更に含む。
【0013】
幾つかの場合、方法は、前記多孔体のある断面における気孔及びセラミックス部の両方の断面積の合計値に対する前記多孔体の前記断面に含まれる前記有効流路の断面積の合計値の比を決定する工程を更に含む。
【0014】
幾つかの場合、方法は、前記多孔体の体積に対する前記有効流路の容積の比を決定する工程を更に含む。
【0015】
幾つかの場合、方法は、前記等圧面の面積と周囲長に基づいて前記等圧面の等価直径を決定する工程を更に含む。
【0016】
幾つかの場合、方法は、前記等価直径の分布を決定する工程を更に含む。
【0017】
幾つかの場合、方法は、同一又は同一範囲内の等価直径の前記等圧面の個数の分布を決定する工程を更に含む。
【0018】
幾つかの場合、前記データは、前記流路に流れる流体の流速分布も示し、
前記有効流路において前記流体の流れ方向に交差する態様で等しい圧力値が分布した等圧面の面積と前記データが示す流速に基づいて単位時間に前記等圧面を通過する前記流体の流量を決定する工程を更に含む。
【0019】
幾つかの場合、方法は、各等圧面に関して決定される前記流量の合算に基づいて前記多孔体に含まれる一部又は全ての有効流路に流れる流量を決定する工程を更に含む。
【0020】
幾つかの場合、方法は、前記等圧面に関して決定される前記流量に基づいて前記等圧面に対してフィルター特性に関する評価値を決定する工程を更に含む。
【0021】
幾つかの場合、前記構造データは、デジタル値を有するボクセルの3次元集合である。
【0022】
幾つかの場合、方法は、前記構造データに対して格子点を設定する工程を更に含み、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って異なる圧力値を有する等圧面の離間距離は、前記構造データにおける格子間隔未満である離間距離を含む。
【0023】
本開示の一態様に係る装置は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成し、
前記流路における前記流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて前記流入面から前記流出面に前記流体を流す有効流路を特定するように構成される。
【0024】
本開示の一態様に係る方法は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成する工程と、
前記流路における前記流体の流動を示さない所定範囲内の圧力値の集合に基づいて、前記流入面から前記流出面に前記流体を流さない無効流路を特定する工程を含む。
【0025】
本開示の一態様に係る装置は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて前記多孔体について流体解析を行い、少なくとも前記多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成し、
前記流路における前記流体の流動を示さない所定範囲内の圧力値の集合に基づいて、前記流入面から前記流出面に前記流体を流さない無効流路を特定するように構成される。
【発明の効果】
【0026】
本開示の一態様によれば、流入面から流出面に流体を流す有効流路、及び/又は、流入面から流出面に流体を流さない無効流路を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示の一態様に係るセラミックスフィルターの概略的な斜視図である。
図2】本開示の一態様に係るセラミックスフィルターに含まれるセグメントの概略的な斜視図である。
図3図2の平面PL3におけるセグメントの概略的な断面を示す模式図である。多孔質の隔壁により画定された開口セルを有するハニカム構造体の第1端部と第2端部において複数の封止部により開口セルが相補的に封止される。開口セルを画定する多孔質の隔壁を介して隣接する開口セル間を流体が移動可能である。
図4】本開示の方法を実施するためのシステムの概略的なブロック図である。
図5】X線CT装置で取得した構造データが示す多孔体の概略的な斜視図である。
図6図5に示した多孔体の概略的な部分断面を示す模式図であり、実線により囲まれた部分が気孔を示す。
図7】簡略化した流路について行った流体解析の結果を示す模式図である。
図8図7に示した等圧面における圧力値の変化を示すグラフである。
図9】多孔体に含まれる流路を主に示す概略模式図である。
図10図9の断面V-Vにおいて有効流路と無効流路の境界を模式的に示す参考図である。
図11図5に示した多孔体の概略的な部分断面を示す模式図であり、実線が有効流路の部分空間である気孔を示し、点線が無効流路の部分空間である気孔を示す。
図12】本開示の有効流路を特定する方法に関する概略的なフローチャートである。
図13】本開示の無効流路を特定する方法に関する概略的なフローチャートである。
図14】セラミックス部、有効気孔、及び無効気孔の割合を示すグラフである。
図15】等圧面の間隔を決定づける圧力値の差ΔPがより小さい場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1乃至図15を参照しつつ、本発明の非限定の実施形態について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各実施形態に含まれる個別の特徴を組み合わせることができる。また、当業者は、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている場合がある。「幾つかの場合」という表現により明示される個別の特徴は、例えば、本開示の方法及び/又は装置にのみ有効であるものではなく、他の様々な方法及び/又は装置にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0029】
図1に示すセラミックスフィルター90は、気体、液体、粉体又はこれらの任意の組み合わせの混合物といった流体をろ過する機能部品である。セラミックスフィルター90に流れる流体は、典型的には、エンジンから排気される排ガスである。セラミックスフィルター90は、必ずしもこの限りではないが、ガソリンエンジン及びディーゼルエンジンといったエンジンから排気される排ガスを浄化するために用いられる。具体的には、セラミックスフィルター90が排ガス中の粒子状物質(PM)を捕集する。捕集された粒子状物質がセラミックスフィルター90において燃焼して除去される。
【0030】
セラミックスフィルター90は、流入面91と流入面91の反対側の流出面92を有する円柱体である。セラミックスフィルター90は、必ずしも円柱体に限らず、他の形状を取ることができる。セラミックスフィルター90は、複数のセグメント80から構築されるが、これに限られるものではない。セラミックスフィルター90がモノリシック体である場合も想定される。限定の意図なくセラミックスフィルター90が複数のセグメント80から構築される場合について述べれば、セグメント80の個数は、セラミックスフィルター90のサイズに依存して増減する。セグメント80の間にはセラミックス中間層93が形成され、これによりセグメント80の一体化が促進される。なお、セグメント80からセラミックスフィルター90を構築する方法は、本技術分野において周知であり、詳細説明は省略する。
【0031】
セラミックスフィルター90が複数のセグメント80から構築される場合、図2及び図3に示すように、セグメント80は、流入面81と流出面82を有する角柱体である。セグメント80は、必ずしも角柱体に限らず、他の形状を取ることができる。セグメント80は、流体が流れる開口セル85を画定する多孔質の隔壁86と、多孔質の隔壁86を介して隣接する開口セル85間で流体が流れるように設けられた封止部87を有する。図3から良く分かるように、セグメント80の流入面81側における封止部87の配置パターンと、セグメント80の流出面82側における封止部87の配置パターンが相補的である。換言すれば、流入面81側の開口端が封止部87により封止されない開口セル85は、封止部87により封止される流出面82側の開口端を有する。流入面81側の開口端が封止部87により封止された開口セル85は、封止部87により封止されない流出面82側の開口端を有する。かかる封止部87の配置によって図3に模式的に示すような多孔質の隔壁86を介した流体の移動が生じる。このように多孔質の隔壁86を介して流体が移動する観点から、セラミックスフィルター90又はセグメント80は、ウォールフロー型と呼ばれる。
【0032】
セラミックスフィルター90又はそこに含まれ得るセグメント80は、炭化ケイ素(SiC)、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)といったセラミックス材料から成る。炭化ケイ素(SiC)の結合は、Si結合、SiC結合、コージェライト結合等であり得る。開口セル85の開口形状は、矩形状に限らず、六角形状といった他の多角形状を取ることができる。隔壁86の厚みや開口セル85のセル密度は、用途や要求される性能に応じて適切に設定される。セグメント80の製造方法は、本技術分野において周知であり、詳細説明は省略する。
【0033】
流体は、上述の多孔質の隔壁86(具体的には、その部分)を介して、隣接した開口セル85間を流動する。具体的には、図3に示すように、開口セル85kに流入した排ガスは、多孔質の隔壁86hを介して開口セル85jに流入する。多孔質の隔壁86hは、流入面861と流入面861の反対側の流出面862を有する。多孔質の隔壁86には流入面861から流出面862まで排ガスを流す有効流路が含まれる。流入面861から隔壁86に流入した排ガスは、この有効流路を介して流出面862まで到達する。なお、排ガスに含まれる粒子状物質は、隔壁86の有効流路内に付着して燃焼され得る。以下、多孔質の隔壁86が、単に多孔体と呼ばれる場合がある。
【0034】
多孔質の隔壁86である多孔体について本開示に係る有効又は無効流路の特定方法が行われ、多孔体に含まれる有効又は無効流路が特定される。しかしながら、本開示に係る有効又は無効流路の特定方法は、上述したセラミックスフィルター90に含まれるセグメント80の多孔質の隔壁86の多孔体に限定されず、他の様々な製品に組み込まれ、或いは、他の様々な用途に用いられる多孔体に利用可能であることに留意されたい。幾つかの場合、多孔体は、セグメント構造ではなく一体型のコージェライト製のハニカム構造体における隔壁であり、特開2016-175045号公報、発明の名称:目封止ハニカム構造体、出願日:2015年3月20日の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。本開示に係る有効又は無効流路の特定方法の対象となる多孔体は、フィルターに限らず、支持基板、断熱材、整流板、選択的透過層、及び熱交換材といった様々な用途に用いられる。
【0035】
本開示に係る有効又は無効流路の特定方法は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて行われる。多孔体の3次元構造を示す構造データは、様々な手法により取得可能である。多孔体の構造をより高精度で解明するため、より高分解能の構造データを用いることが推奨される。かかる観点から、多孔体の3次元構造を示す構造データは、必ずしもこの限りではないが、X線CT(Computed Tomography)装置61で生成される。X線CT装置61で生成された構造データがコンピューター62により用いられる(図4参照)。繰り返すが、X線CT装置を用いる方法以外の方法で多孔体の3次元構造を示す構造データが生成される形態も想定される。
【0036】
図5は、X線CT装置で取得した構造データが示す多孔体の概略的な斜視図である。図6は、図5に示した多孔体の概略的な部分断面を示す模式図であり、実線により囲まれた部分が気孔を示す。図6から良く分かるように、多孔体10の断面には様々な断面形状の気孔が存在する。本願発明者らは、幾つかの気孔は、多孔体10の流入面10aから流出面10bに流体を流す有効流路の部分空間であるが、全気孔が有効流路の部分空間ではないと予測する。つまり、気孔の中には、有効流路に空間的に接続されていない独立した気孔も含まれることが予測される。また、流体が部分的又は全体的に流入するものの、流体の流れが生じない無効流路の部分空間である気孔も含まれることが予測される。有効流路と無効流路は、流入面10aから流出面10bに流体を流すことに貢献する流路であるか否かという観点から区別される。多孔体10に含まれる有効流路を選択的に特定することにより、より高い次元における又は別の観点から多孔体10の評価を行うことができる。多孔体10のかかる評価結果は、将来の多孔体10の開発や製造に貢献する貴重な情報になる。
【0037】
X線CT装置61は、ワークである多孔体に対してX線を照射し、多孔体を透過したX線の強度を観察する。ワークである多孔体が、X線源とX線検出器の間で回転する。或いは、X線源とX線検出器それぞれが、多孔体の外周を旋回する。X線検出器で得られたX線強度分布を示す画像に基づく再構成が行われ、多孔体の3次元構造を示す構造データが生成される。幾つかの場合、構造データは、X線の吸収率を示すボクセル値(デジタル値)を有するボクセル(voxel)の3次元集合である。多孔体がセラミックス部と気孔のみから成る場合、セラミックス部に対応するボクセル(以下、セラミックスボクセル)のボクセル値と、気孔に対応するボクセル(以下、気孔ボクセル)のボクセル値は、大きく異なる。セラミックス部は、セラミックス材料の有体物がある部分である。気孔は、気体が存在する部分である。構造データのデータ形式やデータ構造は様々なものが検討でき、特定の種類に限定されるべきではない。
【0038】
なお、多孔体は、セラミックス部と気孔に加えて、セグメント80の製造過程で発生する残炭分(炭素)を有する場合がある。或いは、多孔体は、排気ガス中のPMに由来する炭素分を有する場合がある。或いは、多孔体は、燃料やエンジンオイル由来の灰(ash)の炭素分を有する場合がある。或いは、多孔体は、セラミックス部と気孔に加えて、セグメント80、具体的には、隔壁86により担持される触媒を有する場合がある。これらの残炭分や触媒は、セラミックス部や気孔とは異なるX線吸収係数を有すると想定される。従って、これらに対応するボクセルのボクセル値は、セラミックス又は気孔ボクセルのボクセル値とは異なる値を有すると考えられる。なお、X線CT装置61として、新旧の様々な装置構成のX線CT装置が採用可能である。例えば、X線CT装置61は、ノンヘリカルスキャンタイプ又はヘリカルスキャンタイプである。
【0039】
コンピューター62は、流入面10aと流出面10bを有するべき多孔体10の3次元構造を示す構造データに基づいて多孔体10について流体解析を行い、少なくとも多孔体10に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成する。流体解析は、コンピューター62が流体の運動に関する方程式を解くことにより行われるシミュレーションである。差分法、有限体積法、有限要素法、粒子法、格子ボルツマン法といった様々な流体解析法が採用可能である。格子ボルツマン法といった格子法を用いる場合、構造データに対して計算格子(グリッド又はメッシュとも呼ばれる)を設定する。なお、粒子法では計算格子を設定しないが、後述と同様に圧力分布を算出することができる。コンピューター62は、各ボクセルに対して個別に格子点を設定する。格子点は、例えば、ボクセルの中心に位置付けられる。ボクセルに対して設定される格子点は、例えば、xyz座標により示される(図5参照)。ボクセルの集合に含まれる全ボクセルに対して個別に格子点を設けることは必須ではない。コンピューター62が負担する計算コストの低減のため、ボクセル数未満の格子点数が設定されることも想定される。或いは、多孔体10のより精密な観察のため、ボクセル数よりも多い格子点数が設定されることも想定される。なお、図5に含まれる部分拡大図は、y軸に沿う格子間隔を模式的に表す。x軸に沿う格子間隔=y軸に沿う格子間隔=z軸に沿う格子間隔を満足するが、必ずしもこの限りではない。
【0040】
格子ボルツマン法といった流体解析自体は、コンピューター62にインストールされたアプリケーション(ソフトウェアプログラム)により行われ、従って、この流体解析の具体的手法に関する詳細な説明は省略する。格子ボルツマン法といった流体解析の結果として、(格子点が設定される場合には)格子点毎に、流速値、圧力値、及び密度が算出される。流速値、圧力値、及び流体密度の1以上が選択的に算出される形態も想定される。
【0041】
流体解析の結果として得られる流体の圧力分布を示すデータは、圧力値の集合データである。計算格子が設定される場合、流体解析の結果として得られる流体の圧力分布を示すデータは、格子点毎の圧力値の集合データである。セラミックスボクセルに対応する格子点には流体が流れないため、その格子点の圧力値は、値無しであるか、ゼロであるか、或いは、流体解析過程で発生するエラー値(例えば、流入面における流体の初期の圧力値といった明らかに誤った値)である。有効流路の部分空間である気孔ボクセルに対応する格子点は、所定の圧力値を有する。無効流路の部分空間である気孔ボクセルに対応する格子点も、所定の圧力値を有する。流体が流入しない気孔ボクセルに対応する格子点は、ゼロ又はエラー値を示す圧力値を有する。エラー値は、閾値を用いて簡単に除去できる。
【0042】
続いて、コンピューター62は、多孔体10の流路における流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて流入面10aから流出面10bに流体を流す有効流路を特定する。流入面10aから流出面10bに流体を流す有効流路に流体が流れる時、流路を規定する壁面から抵抗を受け、圧力値が連続的に減少する。圧力値の勾配は、空間的に隣接する2以上の格子点の個別の圧力値を比較することにより特定することができる。1つの最小格子間隔を空けて隣り合う格子点の圧力値を比較することに限られないことに留意されたい。流体の流れ方向に沿って連続的に変化する圧力値の集合、又は、そのような圧力値を有する格子点の集合が有効流路(又はその一部)に対応する。他方、流体の流れ方向に沿って連続的に変化しない圧力値の集合、又は、そのような圧力値を有する格子点の集合が無効流路(又はその一部)に対応する。流体の流れ方向は、流入面861及び流出面862に直交する方向に限られないことに留意されたい。なお、流体の流れ方向に沿って連続的に変化しない圧力値の集合は、流体の流動を示さない一定の圧力値の集合と読み替えることができる。
【0043】
図7は、簡略化した流路について行った流体解析の結果を示す模式図である。図8は、図7に示した等圧面における圧力値の変化を示すグラフである。必ずしもこの限りではないが、幾つかの場合、有効流路は、流路における流体の流れ方向に沿って異なる圧力値を有する複数の等圧面に基づいて特定される。複数の等圧面は、流路における流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に従って配置される。等圧面は、流体解析のアプリケーションの処理により、圧力勾配に基づいて特定された個別の等しい圧力値を有する面である。例えば、アプリケーションにおいて、圧力値の差ΔPに基づいて等圧面が設定される。等圧面は、流体の流れ方向(図7のX方向)に交差する態様で等しい圧力値が分布した面である。等圧面は、流体の流れ方向に直交する平坦面であり、或いは、流体の流れ方向に交差する部分的又は全体的に湾曲した面であり得るが、これらに限定されるべきものではない。
【0044】
等圧面の間隔は、圧力値の差ΔPに基づいて設定され、従って、流路における流体の流れ方向に沿って隣接する等圧面の距離は、流路を流れる流体の圧力値の勾配の斜度に依存して変化する。流体の圧力値の勾配が緩慢な流路では隣接する等圧面の間に複数の格子点が存在することも想定される。他方、等圧面の間隔を決定づける圧力値の差ΔPに関するアプリケーションの設定や、流体の圧力値の勾配によっては、隣接する等圧面の間の距離は、構造データにおける格子間隔未満になることも想定される。
【0045】
図7及び図8の場合、等圧面s1の圧力値p1>等圧面s2の圧力値p2>等圧面s3の圧力値p3>等圧面s4の圧力値p4>等圧面s5の圧力値p5>等圧面s6の圧力値p6>等圧面s7の圧力値p7>等圧面s8の圧力値p8>等圧面s9の圧力値p9>等圧面s10の圧力値p10>等圧面s11の圧力値p11>等圧面s12の圧力値p12>等圧面s13の圧力値p13>等圧面s14の圧力値p14を満足する。なお、Δp1-p2=Δp2-p3=Δp3-p4=Δp4-p5=Δp5-p6=Δp6-p7=Δp7-p8=Δp8-p9=Δp9-p10=Δp10-p11=Δp11-p12=Δp12-p13=Δp13-p14を満足する。
【0046】
図7に示した流路51は、流路における流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に従って位置する複数の等圧面に基づいて特定される有効流路である。一点破線の円C1により特定された無効流路においては、有効流路とは異なり、複数の等圧面が無効流路に沿って配置されない。従って、一点破線の円C1により特定された無効流路が除外される。
【0047】
図7に示した流路52は、流体が存在するが、流体の流れが生じない無効流路である。この無効流路の位置及び範囲は、所定範囲内の圧力値の集合に基づいて特定することができる。端的には、図7において斜線で示される、等圧面の間隔を決定付ける圧力値の差ΔPの範囲に属する圧力値の集合に基づいて特定することができる。なお、この圧力値の集合には、図7の二点鎖線の円C2で指し示される有効流路の部分が含まれることも想定される。この誤差は、等圧面の間隔を決定付ける圧力値の差ΔPの範囲をより小さくして円C2で指し示される有効流路の部分を小さくすることで低減可能である(図15参照)。追加又は代替として、流速パターンに基づいて有効流路を特定し、無効流路と有効流路の重畳部分を除外することもできる。
【0048】
図9は、多孔体に含まれる流路を主に示す概略模式図である。図10は、図9の断面V-Vにおいて有効流路と無効流路の境界を模式的に示す参考図である。図9から分かるように多孔体10には複数の合流点及び複数の分流点を有するように複数の流路が形成される。図9は、流路の2次元描写であるが、流路は、3次元空間にて形成されるものと理解される。第1流路11は、図7及び図8と同様、等圧面s1~s6により特定することができる。第2流路12、第3流路13についても同様である。第2流路12は、サブ流路121とサブ流路122に分岐し、前者が第1流路11に合流し、後者が第3流路13に合流する。第3流路13は、サブ流路131とサブ流路132に分岐する。
【0049】
第1流路11に空間的に連通した流路21は、図7及び図8と同様、等しい圧力値(又はその範囲)に基づいて無効流路と特定することができる。第3流路13の分岐点の近傍に位置する気孔22は、流体が流入しない独立した気孔であり、圧力値=0であり、又は圧力値がエラー値を示す。第1流路11とサブ流路131の間の流路23は、参考までに図示したものである。流路23は、第1流路11側の流路端に位置する格子点の圧力値とサブ流路131側の流路端に位置する格子点の圧力値に差があれば有効流路となる。流路23は、第1流路11側の流路端に位置する格子点の圧力値とサブ流路131側の流路端に位置する格子点の圧力値に差がなければ無効流路となる。
【0050】
等圧面に基づいて有効流路を特定することにより、3次元空間において連続性を有する有効流路の特定が促進され、つまり、3次元空間における有効流路の位置又は範囲又は分布を率直に特定することが促進される。等圧面に基づいて有効流路を特定する場合、図9及び図10に示すように等圧面s3と等圧面s4の間において第1流路11と流路21の境界s7が仮想的に定まる。
【0051】
図11は、図5に示した多孔体の概略的な部分断面を示す模式図であり、実線が新たに特定された有効流路の部分空間である気孔(以下、有効気孔と呼ぶ)を示し、点線が新たに特定された無効流路の部分空間である気孔(以下、無効気孔と呼ぶ)を示す。上述の本開示に係る方法によれば、図11から分かるように、有効流路を特定することができ、追加的又は代替的に無効流路を特定することができる。有効気孔と無効気孔を区別することなく多孔体10のある断面における気孔率を算出することの追加又は代替として、多孔体10のある断面における有効気孔又は無効気孔の気孔率を算出することができる。有効気孔と無効気孔を区別せずに算出された気孔率では見いだせなかった多孔体10の新たな特性の解明が期待される。
【0052】
図12は、本開示の有効流路を特定する方法に関する概略的なフローチャートである。ステップS1で、構造データを生成する。ステップS2で、構造データに基づく流体解析により圧力分布を示すデータを生成する。ステップS3で、流路における流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて有効流路を特定する。上述のように、これらのステップは、1以上のコンピューター62により実行されるが、必ずしもこの限りではない。
【0053】
コンピューター62は、流入面と流出面を有するべき多孔体の3次元構造を示す構造データに基づいて多孔体について流体解析を行い、少なくとも多孔体に含まれる流路における流体の圧力分布を示すデータを生成し、流路における流体の流れ方向に沿って生じる圧力値の勾配に基づいて流入面から流出面に流体を流す有効流路を特定するように構成された装置である。
【0054】
コンピューター62は、CPU(central processing unit)と記憶部を含み、記憶部に記憶されたプログラムをCPUで実行する。記憶部は、メモリー、ハードドライブ、磁気情報記録媒体、及び光学情報記録媒体のいずれか一つ又は2以上の組み合わせである。CPUに記憶部が組み込まれ、又は両者が通信バスを介して接続される。コンピューター62は、GPU(graphics processing unit)、ネットワークインターフェイス、I/Oといった他の様々な機能部品を有することができる。
【0055】
上述の装置が複数のコンピューターから構成されることも想定される。例えば、コンピューター62が実行する処理の一部は、ネットワークを介して接続されたサーバーにより実行される。ある具体例においては、ステップS2とステップS3は、ネットワークを介して接続されたサーバーにより実行される。格子法においては構造データに設定される格子点数が大きければ大きいほどコンピューターにとっての計算コストが大きくなる。このような観点から、ネットワークを介して接続した他のコンピューター(サーバー)の計算資源が用いられることも想定される。
【0056】
繰り返すが、有効流路を特定することの追加又は代替として無効流路を特定することもできる。コンピューター62は、流体の流れ方向に沿って連続的に変化しない圧力値の集合、又は、流体の流動を示さない一定の圧力値の集合(又は、その範囲)に基づいて流入面10aから流出面10bに流体を流さない無効流路を特定することができる。なお、一定の圧力値の代替として一定又は所定範囲内の圧力値の集合を用いることができる。
【0057】
無効流路を特定することにより、多孔体10のある断面における無効流路の気孔率や、多孔体10における無効流路の容積を算出することが可能になる。なお、有効流路の部分空間である有効気孔と無効流路の部分空間である無効気孔を区別することなく、X線CT装置で生成された構造データが示す多孔体の断面の画像解析に基づいて、多孔体10のある断面の気孔率を求めることができる。また、X線CT装置で生成された構造データが示す多孔体の気孔ボクセルの容積の積算により、多孔体10に含まれる気孔の容積を求めることができる。従って、X線CT装置で生成された構造データに基づいて算出された多孔体10のある断面の気孔率から多孔体10のある断面における無効流路の気孔率を減算することにより、多孔体10のある断面における有効流路の気孔率を算出することができる。多孔体10の有効流路の容積についても同様に算出することができる。
【0058】
図13は、本開示の無効流路を特定する方法に関する概略的なフローチャートである。ステップS1で、構造データを生成する。ステップS2で、構造データに基づく流体解析により圧力分布を示すデータを生成する。ステップS3で、流路における所定範囲内の圧力値の集合に基づいて無効流路を特定する。上述のように、これらのステップは、1以上のコンピューター62により実行されるが、必ずしもこの限りではない。
【0059】
コンピューター62は、等圧面に基づいて有効流路の断面積を決定することができる。等圧面は、図11から分かるように非常に複雑な断面形状を有する可能性があるが、コンピューター62は、アプリケーションによる演算によって等圧面の面積又はその近似値を算出することができる。算出された等圧面の面積又はその近似値が有効流路の断面積と決定することができる。
【0060】
コンピューター62は、上述のように特定した有効流路の一部又は全体の容積を算出することができる。コンピューター62は、等圧面に基づいて有効流路の容積を決定することができる。有効流路の部分容積は、少なくとも、流体の流れ方向における第1等圧面と第2等圧面の離間距離と、第1及び/又は第2等圧面の面積に基づいて決定することができる。有効流路の部分容積を積算することにより多孔体10の一部又は全体における有効流路の容積を算出することができる。
【0061】
コンピューター62は、多孔体のある断面に含まれる気孔の個別の断面積の合計値に対する前記多孔体の前記断面における有効流路の個別の断面積の合計値の比を決定することができる。多孔体のある断面に含まれる気孔の個別の断面積の合計値は、構造データを用いて決定することができる。例えば、多孔体のある断面に含まれる気孔の個別の断面積の合計値は、セラミックスボクセルのボクセル値と気孔ボクセルのボクセル値を一つの閾値で二値化し、気孔ボクセルに対応する面積を算出することにより求められる。セラミックスボクセルのボクセル値と気孔ボクセルのボクセル値を閾値で二値化することは本開示の様々な計算処理において有用であるものと理解される。
【0062】
コンピューター62は、多孔体に含まれる気孔の合計容積に対する有効流路の容積の比を決定することができる。多孔体に含まれる気孔の合計容積は、気孔ボクセルの容積の積算といった適切なアプリケーションによる構造データの処理に基づいて決定することができる。有効流路の容積の算出方法は、上述のとおりである。
【0063】
コンピューター62は、多孔体のある断面における気孔及びセラミックス部の両方の断面積の合計値に対する多孔体の断面に含まれる有効流路の断面積の合計値の比を決定することができる。多孔体のある断面における気孔及びセラミックス部の両方の断面積の合計値は、例えば、図6に示される一点鎖線の枠である。有効流路の断面積の合計値は、上述の開示から理解されるように決定される。
【0064】
コンピューター62は、多孔体の体積に対する有効流路の容積の比を決定することができる。多孔体の体積は、構造データから定まり、又は初期値としてコンピューターに入力される。
【0065】
コンピューター62は、等圧面の面積と周囲長に基づいて等圧面の等価直径を決定することができる。等圧面の面積をSとし、周囲長をLとし、等価直径をdとする時、等価直径dは、次式により表される。
d=(4S/L)
【0066】
図6から推測されるように等圧面の外形は、複雑な形状を取り得る。この複雑な形状は、しかし、等圧面の面積と周囲長というパラメーターに基づいて一つの等価直径に置き換えることができる。コンピューター62は、続いて、等価直径の分布を決定することができる。また、コンピューター62は、同一又は同一範囲内の等価直径の等圧面の個数の分布を決定することができる。
【0067】
上述したように、流体解析の結果として得られる流体の圧力分布を示すデータは、流路に流れる流体の流速分布も示すことができる。上述したように、格子ボルツマン法といった流体解析の結果として、(格子点が設定される場合には)格子点毎に、流速値、圧力値、及び密度が算出される。コンピューター62は、有効流路において流体の流れ方向に交差する態様で等しい圧力値が分布した等圧面の面積とデータが示す流速に基づいて単位時間に等圧面を通過する流体の流量を決定することができる。また、コンピューター62は、各等圧面に関して決定される流量の合算に基づいて多孔体に含まれる一部又は全ての有効流路に流れる流量を決定することができる。
【0068】
なお、流量Q(m/s)は、流速v(m/s)と断面積(m)の掛け算により計算される。
Q=v×A
【0069】
コンピューター62は、等圧面に関して決定される流量に基づいて等圧面に対してフィルター特性に関する評価値を決定することができる。一般的には、流路径の大きい流路に流れるガス量は大きく、流路径が小さい流路に流れるガス量は小さい。しかし、複雑に流路が形成された多孔体10においては、この関係が必ずしも成立しない。流量に基づいて評価値を決定することにより、流路の使われ方を定量的に評価することができる。例えば、流量が大きい等圧面に対して付与される評価値は低い。流量が小さい等圧面に対して付与される評価値は高い。評価値の分布を求めることによりフィルター用途における多孔体の性能を検討又は評価することができる。
【0070】
[実施例]
セラミックスフィルター用のSiC製のセグメントの多孔質の隔壁についてX線CTで構造データを生成した。構造データが示す多孔体のある断面についてコンピューターによる画像解析により気孔率を算出した。具体的には、2値化処理によりセラミックス部と気孔を区別した。次に、ある断面における気孔の気孔率を画像解析により求めた。この気孔率は、有効気孔と無効気孔を区別しないものである。この処理を多孔体の流入面から流出面に向かう方向における多数の断面について連続的に行った。図14のM1は、無効気孔の割合を示し、M2は、有効気孔の割合を示し、M3は、セラミックス部の割合を示す。
【0071】
上述の構造データに基づいて構造データが示す多孔体について格子ボルツマン法による流体解析を行い、格子点毎の圧力値を算出した。この圧力値の勾配に基づいて、端的には、圧力値の勾配に沿って配列される複数の等圧面に基づいて有効流路を特定した。構造データが示す多孔体のある断面についてコンピューターによる画像解析により有効流路の気孔率を算出した。この処理を多孔体の流入面から流出面に向かう方向における多数の断面について行った。図14の黒色四角形は、算出された有効気孔の気孔率の変化を示す。有効気孔の気孔率は、予想よりも低いものと言える。
【0072】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 多孔体
10a 流入面
10b 流出面
61 X線CT装置
62 コンピューター
80 セグメント
90 セラミックスフィルター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15