(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ジャガイモタンパク質由来繊維状構造及びそれを含む食料品
(51)【国際特許分類】
A23J 3/28 20060101AFI20220203BHJP
A23J 3/14 20060101ALI20220203BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20220203BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20220203BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20220203BHJP
A21D 13/066 20170101ALI20220203BHJP
A23C 20/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A23J3/28
A23J3/14
A23J3/00 502
A23L13/00 A
A23L15/00 Z
A21D13/066
A23C20/00
(21)【出願番号】P 2020522910
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 NL2018050726
(87)【国際公開番号】W WO2019088834
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-04-23
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500561528
【氏名又は名称】コオペラティ・コーニンクレッカ・アヴェベ・ユー・エイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シコン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン・アン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】マルク・クリスティアーン・ラウス
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05104674(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170283(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0093994(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0118607(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0040591(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J
A23L 13/00
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用タンパク質由来繊維状構造の製造のための方法であって、繊維形成溶液を生成するために、
低分子量ジャガイモタンパク質単離物を含む非変性ジャガイモタンパク質の水溶液を
、少なくとも150,000ダルトン(Da)のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)と接触させる工程であ
って、
前記繊維形成溶液が、
1~
10%の範囲内の総乾物(TDM)含量
及び10mS/cm未満の導電率を有する、工程を含み、前記接触させる工程を、2~5のpH範囲で混合しながら行い、それによって、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を誘導する、方法。
【請求項2】
- 非変性ジャガイモタンパク質及び少なくとも150,000DaのMwを有するCMCを含む繊維形成溶液を準備する工程であ
って、前記繊維形成溶液が、
1~
10%の範囲内のTDM含量を有する、工
程、並びに
- 前記繊維形成溶液を混合しながら酸性化し、それによって、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を誘導する工
程
を含む
、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
-
1~
10%の範囲内のTDM含量を有する繊維形成溶液を調製するために、2~5のpH範囲を有する非変性ジャガイモタンパク質の水溶液を
、少なくとも150,000DaのMwを有するCMCと接触させる工程
を含み、前記接触させる工程を、混合しながら行い、それによって、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を誘導する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ジャガイモタンパク質単離物が、5.5を超え
る等電点、35kDa未
満の分子量(SDS-PAGEにより測定される)
、及び300ppm未満の糖アルカロイド濃度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記低分子量ジャガイモタンパク質単離物が、
- 凝集ジャガイモ塊茎絞汁を遠心分離し、それによって、上清を形成する工程
、
- 前記上清を、ジャガイモタンパク質に結合することができる混合モード吸着剤を使用して11未満のpH及び5~35℃の温度で操作する吸着クロマトグラフィーに供し、それによって、ネイティブジャガイモタンパク質を前記吸着剤に吸着させる工程
、並びに
- 前記低分子量ジャガイモタンパク質単離物を溶離する工
程
により得ることができる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記CMCが、少なくとも400,00
0のMwを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記繊維形成溶液が、非変性ジャガイモタンパク質及びCMCを
、3:1~15:
1の相対質量比で含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維形成溶液が
、8mS/cm未
満の導電率を有する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合が、0.6質量%以下のNaC
lの存在下で行われる、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記繊維形成溶液が
、油及びデンプンから選択され
る1つ又は複数の更なる成分を含む、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
低分子量ジャガイモタンパク質単離物を含む非変性ジャガイモタンパク質及び少なくとも150,000のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC
)、2~5の範囲内
のpH、
10mS/cm未満の導電率、並びに1~
10%の範囲内
の総乾物(TDM)含量を含む、繊維形成溶液。
【請求項12】
少なくとも150,000ダルトン(Da)のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)と複合体形成した低分子量ジャガイモタンパク質を含む食用
ジャガイモタンパク質由来繊維状構造
であって、前記繊維状構造が、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、繊維状構造。
【請求項13】
請求項
12に記載の食用
ジャガイモタンパク質由来繊維状構造を含む食料品
であって、好ましくは前記食料品がヴェジタリアン又はヴィーガン食料品である、食料品。
【請求項14】
肉代用品、グルテンフリーベーカリー製品、代用チーズ及び卵代用品からなる群から選択される、請求項
13に記載の食料品。
【請求項15】
食料品の製造における、請求項
11に記載の繊維形成溶液又は請求項
12に記載の食用
ジャガイモタンパク質由来繊維状構造の使用。
【請求項16】
前記食料品が、ヴェジタリアン又はヴィーガン食料品である、請求項
15に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品及び食品材料の製造に関する。より詳細には、本発明は、代用肉等のヴィーガン製品における使用のための植物由来繊維状構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市場に「ヴィーガン製品」が急増している。そのような製品は、ヴィーガン消費者のみならず、フレキシタリアン消費者の関心も引いている。ヴィーガン食で重要な役割を果たす代用肉は、大きな注目を集めている。
【0003】
大豆は多くの場合、主に植物由来食を消費する人にとって乳製品及び肉製品の一般的な代替品となる。大豆食品製品は、ヴィーガンに高品質のタンパク質源、並びに利用可能な鉄及びカルシウム源を提供する。現在の市場では、ほとんどの代用肉は、組織化大豆(texturized soy)に基づく。このような製品は通常、高温及び/又は高圧等の極限条件下で大豆タンパク質を再組織化する押し出し加工を受ける。それらは肉の食感に似た繊維状の食感を与えるが、重要な点は、大豆タンパク質がアレルゲン源及び潜在的GMO源であるという事実である。
【0004】
大豆は、「8大」アレルゲンを構成する牛乳、卵、ピーナッツ、堅果、小麦、魚類及び甲殻類と並んで、アレルギー患者が避けることが最も困難な製品の1つである。これらは、Cleveland Clinicによると、全ての食物アレルギーの90パーセントの原因である。大豆アレルギーは、身体の免疫系が大豆に見られる無害なタンパク質を侵入物と誤り、それらに対する抗体を産生するときに起こる。次に大豆製品が消費されると、免疫系は、身体を「保護する」ためにヒスタミン等の化学物質を放出する。これらの化学物質の放出は、アレルギー反応を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第3792175号
【文献】米国特許第4885179号
【文献】米国特許第3829587号
【文献】WO2008/069650
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gonzalezら(Food Hydrocolloids 第4巻5号 355~363頁、1991年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、本発明者らは、食料品、例えば代用肉における組織化剤としての使用に適切であって、アレルギーを誘発するリスクに悩まされない植物由来繊維状構造を提供することを示す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、非変性(ネイティブ)ジャガイモタンパク質単離物は、酸性条件下でCMCとの複合体において強靭な(即ち、肉様)繊維を形成し得ることが分かり、この繊維は、代用肉等の様々な食料品に適切に組み込まれる。ジャガイモは、世界中で栽培及び消費されており、それは、米、小麦及びトウモロコシに次いで世界で第4番目に重要な穀物である。ジャガイモタンパク質(又はジャガイモの他の構成成分)に対するアレルギーは、稀である。これにより、本発明は、公知の植物由来繊維状構造、特に大豆タンパク質に頼る植物由来繊維状構造の魅力的な代替品を提供する。
【0009】
本明細書で提供されるのは、食用タンパク質由来繊維状構造の製造のための方法であって、繊維形成溶液を生成するために、非変性ジャガイモタンパク質の水溶液を少なくとも150,000ダルトン(Da)のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)と接触させる工程であり、繊維形成溶液が、0.5~15%の範囲内の総乾物(TDM)含量を有する、工程を含み、前記接触させる工程を、2~5のpH範囲で混合しながら行って、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を可能にする/誘導する、方法である。本発明の方法は、様々な方法で実行することができることが分かった。例えば、中性のジャガイモタンパク質-CMC溶液の酸性化によって、繊維状構造を製造することができる。或いは、それは、酸性のジャガイモタンパク質溶液とCMC溶液とを混合する工程を含み得る。
【0010】
したがって、一実施形態において、本発明は、食用タンパク質由来繊維状構造の製造のための方法であって、
- 非変性ジャガイモタンパク質及び、少なくとも150,000ダルトン(Da)のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)(の溶液)を含み、総乾物(TDM)含量が、0.5~15%の範囲内である、繊維形成溶液を準備する工程と、
- 前記繊維形成溶液を混合しながら2~5の範囲内のpHに酸性化し、それによって、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を誘導する工程と
を含む、方法を提供する。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、食用タンパク質由来繊維状構造の製造のための方法であって、
- 0.5~15%の範囲内の総乾物(TDM)含量を有する繊維形成溶液を得るために、2~5の範囲内のpHを有する非変性ジャガイモタンパク質の水溶液を少なくとも150,000ダルトン(Da)のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)(の溶液)と接触させる工程
を含み、前記接触させる工程を、混合しながら行い、それによって、ジャガイモタンパク質由来食用繊維状構造の形成を誘導する、方法を提供する。
【0012】
また、本発明による方法によって得ることができる食用タンパク質由来繊維状構造、及び食料品におけるその使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で示される方法又は繊維状構造は、当該技術分野において公知でもなく、示唆もれていない。先行技術は、キサンタン、アルギネート及びペクチンが、乳清タンパク質、大豆タンパク質及び卵アルブミンを含むいくつかのタンパク質と共にフィブリル状又は繊維状構造を形成することができることを教示している。例えば、米国特許第3792175号、同第4885179号及び同第3829587号を参照されたい。しかしながら、ジャガイモタンパク質に基づいて形成された繊維状構造の開示はない。
【0014】
Gonzalezら(Food Hydrocolloids 第4巻5号 355~363頁、1991年)は、CMCとの複合体化によるジャガイモ植物廃液からのジャガイモタンパク質からの回収を報告した。しかしながら、(模擬)廃液の総乾物は、0.45%未満であるので、本発明による繊維状構造は観察されなかった。
【0015】
ジャガイモ塊茎タンパク質は、多くの様々な群に分類することができる。Lindnerら(1980年)は、ジャガイモタンパク質のただ2つの別々の群、即ち、酸可溶性及び酸凝固性ジャガイモタンパク質への分類を使用することを提案した。酸凝固性画分は、SDS-PAGE分析に基づく32~87kDaの範囲内の高分子量(HMW)タンパク質が優位を占めることがこの著者によって示された。同様に、酸可溶性タンパク質画分は、17~27kDaの範囲内のタンパク質である低分子量(LMW)タンパク質が優位を占めることが示された。酸可溶性及び酸凝固性タンパク質というこの分類は同時に、酸性タンパク質(酸凝固性/HMW)を塩基性タンパク質(酸可溶性/LMW)からグループ分けする(Ralet及びGueguen 2000年)。出願人は通常、混合モードクロマトグラフィーにより、非変性条件下で、Solanic 200及びSolanic 300と呼ばれるこれらの同じ2つのジャガイモタンパク質画分を生成する。しかしながら、重要なことに、一連の代替の精製方法は、これらのネイティブジャガイモタンパク質画分の少なくとも1つを得るために使用することができる。
【0016】
ネイティブタンパク質精製方法は、変性を避け、且つタンパク質の二次及び三次構造を概ね維持するために、穏やかな加工条件を使用する。これらの穏やかな条件は、タンパク質の可溶性を保持するために、極端なpH、温度及び他の変性条件の使用を避ける。特定のタンパク質画分の固有の生化学的特徴は、そのタンパク質がタンパク質単離プロセスにおける条件に感受性であるか、抵抗性であるかを概ね決定する。例えば、高分子量画分は、より熱感受性であり、30℃又はそれよりも高い温度で不溶性タンパク質凝集塊をもたらす。低分子量画分は、より温度抵抗性であり、45℃を超える温度に耐えることができる(Bartova 2008年)。同様に、高分子量画分は、3~5の範囲内のpH値で凝集塊及び沈殿するが、一方で、低分子量画分は、このpH範囲で概ね可溶性である。このことは、他のタンパク質のネイティブの特徴を維持しながら、1つのタンパク質画分を特異的に凝固させ、次いで沈殿させるための、pH若しくは温度又はそれらの組合せの使用を可能にする。
【0017】
ネイティブ酸可溶性/LMW/塩基性/Solanic 300精製方法の例(非限定的):
・HMWタンパク質の酸凝固、その後、可溶性LMWタンパク質の限外濾過及び透析濾過(Lindner 1980年)
・HMWタンパク質の画分化熱凝固、その後、可溶性LMWタンパク質の限外濾過及び透析濾過(例えば、pH6.0;50℃で30分間)
・特定のpH値での吸着クロマトグラフィー:
○ベントナイト型物質からの吸着/脱着(Ralla 2012年)
○SP-セファロース樹脂を使用したイオン交換クロマトグラフィー(Ralet及びGueguen 2000年)
○膜吸着クロマトグラフィー(Graf 2009年)
○拡張床吸着クロマトグラフィー(Lokra 2009年、WO2008/069650)
【0018】
本発明により、繊維形成剤としての使用のためのネイティブジャガイモタンパク質は、好ましくは低分子量ジャガイモタンパク質単離物を含む。一実施形態において、ネイティブジャガイモタンパク質単離物は、5.5を超える、好ましくは5.8を超える等電点、SDS-PAGEにより測定される35kDa未満、好ましくは4~30kDaの分子量及び300ppm未満の糖アルカロイド濃度を有する。
【0019】
一実施形態において、本発明における使用のための非変性ジャガイモタンパク質は、凝集ジャガイモ塊茎絞汁を遠心分離し、それによって、上清を形成する工程と;上清を、ジャガイモタンパク質に結合することができる混合モード吸着剤を使用して11未満のpH及び5~35℃の温度で操作する吸着クロマトグラフィーに供し、それによって、ネイティブジャガイモタンパク質を吸着剤に吸着させる工程と;低分子量ジャガイモタンパク質単離物を、一般的な酸性pH(例えば、pH1~3)で、又は5.8~12.0のpHで溶離する工程とにより得られる。詳細については、例えば、本出願人の名義のWO2008/069650を参照されたい。
【0020】
適切な低分子量ジャガイモタンパク質単離物は、凝集ジャガイモ塊茎絞汁を遠心分離し、それによって、上清を形成する工程と;上清を、ジャガイモタンパク質に結合することができる混合モード吸着剤を使用して11未満のpH及び5~35℃の温度で操作する吸着クロマトグラフィーに供し、それによって、ネイティブジャガイモタンパク質を吸着剤に吸着させる工程と;低分子量ジャガイモタンパク質単離物を溶離する工程とにより得ることができる。特定の態様において、ジャガイモタンパク質は、混合モードクロマトグラフィーによる非変性条件下で得たか、又は得られる画分、例えば、Solanic 200又はSolanic 300として当該技術分野で公知のタンパク質単離物である。
【0021】
本発明によると、繊維形成溶液は、非変性ジャガイモタンパク質及び少なくとも150,000Da、好ましくは少なくとも400,000DaのMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)を混合することによって形成される。CMCは、カルボキシメチルセルロースを表す。しかしながら、CMCは、より正確には、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩である。それは、化学反応により水溶性にされたセルロースに由来する。水溶性は、セルロース鎖に沿って、分子の水和を可能にするカルボキシメチル基を導入することによって達成される。CMCは、セルロース及びモノクロロ酢酸(MCA)から水酸化ナトリウム(NaOH)を第3の主成分として用いて生成される。CMC製品は、低分子量~高分子量ポリマーに及ぶ。溶液は、その結果、ほとんどニュートン性から次第に擬塑性のふるまいを示し、これは、様々な物理的力がそれに課された場合に粘性が変化することを意味する。粘性は、CMC分子の平均鎖長又は重合度に比例する。CMCグレードの分子量は、平均鎖長及び置換度によって決定される。粘性は、重合度が増大すると、急速に増大する。
【0022】
本発明の一実施形態において、使用されるCMCは、少なくとも150,000Da、好ましくは少なくとも400,000Da、より好ましくは少なくとも750,000DaのMwを有する。
【0023】
繊維形成溶液が、非変性ジャガイモタンパク質及びCMCを3:1~15:1、好ましくは8:1~12:1の相対質量比で含む場合、非常に優れた結果が得られる。繊維形成溶液の総乾物(TDM)含量は、0.5~15%、好ましくは1~10%の範囲内にある。
【0024】
また、非変性ジャガイモタンパク質及び少なくとも150,000Da、好ましくは400,000のMwを有するカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む本発明による繊維形成溶液が提供される。
【0025】
本発明の方法において、酸性化は、ジャガイモタンパク質-CMC繊維状構造の形成を得るために必要とされる。最も重要なことは、繊維形成溶液の最終pHが、2~5の範囲内であることである。これは、様々な方法で達成することができる。例えば、ジャガイモタンパク質及びCMCを含む繊維形成溶液のpHは中性(少なくともpH7)であり、その後その溶液は、混合しながら酸(例えば、鉱酸又は有機酸)の添加によって2~5の範囲内のpHに酸性化されて、ジャガイモタンパク質食用繊維状構造の形成を可能にする。他の例として、即時に繊維形成が起こるように、酸性のジャガイモタンパク質溶液がCMC溶液と混合される。
【0026】
特定の態様において、非変性ジャガイモタンパク質の繊維生成溶液の初期pHは、タンパク質の等電点を超える。例えば、Solanic300についての初期pHは、好ましくは7を超える。繊維生成溶液の最終pH(即ち、酸性化の後)は、とりわけ、初期繊維生成溶液のイオン強度、タンパク質含量、タンパク質-CMC比及び他に加えた成分により、pH2~pH5である。したがって、一実施形態において、前記酸性化は、5未満のpH、好ましくはpH2~5の範囲内、より好ましくはpH3未満まで行われる。タンパク質含量が低いほど、低い最終pHを必要とするように見えることが観察された。例えば、10:1の同じタンパク質/CMC比で、1%TDMの溶液は、2.2の最終pHを必要としたが、一方で、10%TDMの溶液は、最終pHとしてpH4.5しか必要としなかった。酸性化は、強酸、例えば塩酸、又は弱酸、例えば乳酸のいずれかを使用して適切に行われる。もちろん、使用される酸は、好ましくは食品グレードの酸である。
【0027】
混合スピードと酸性化スピードとの組合せは、異なる繊維構造に寄与することが分かった。2.5mL Combitips advanced(登録商標)とカップリングしたMultipette(登録商標)stream(Eppendorf社)を使用して分注スピードレベル1、5及び10で、3つのレベルの酸性化を試験した。磁気攪拌(IKAMAG(商標)RCT)で設定した3つのレベルの混合スピード:200、400及び1000rpmを試験した。高攪拌スピードでの遅い酸性化速度は、破断された弱い繊維を形成するようであり、一方で、遅い攪拌スピードでの速い酸性化速度は、粘液性繊維を生成し得る。中程度の酸性化スピード(分注レベル5、Multipette(登録商標) stream、Eppendorf社、2.5mL Combitips advanced(登録商標))及び中程度の混合スピード(400rpm、磁気攪拌、IKAMAG(商標)RCT)を選択して、全ての例において適用した。
【0028】
塩は、全ての高分子電解質複合体に対して解離効果を有することが公知である。また、本発明において、繊維形成溶液のイオン強度は、繊維形成において重要なパラメータである。本発明により、繊維形成ステップ(即ち、ジャガイモタンパク質-CMC複合体の形成)は、好ましくは10mS/cm未満、好ましくは8mS/cm未満、より好ましくは4.8mS/cm未満の導電率で行われる。特に、Gonzalezら(Food Hydrocolloids 第4巻5号 355~363頁、1991年)により使用されたジャガイモ植物廃液の導電率は、通常10mS/mを超え、このことは、タンパク質-ハイドロコロイド複合体を形成することによりジャガイモタンパク質を回収するために液をCMCと接触させたとき、繊維状構造がなぜ形成されなかったかを更に説明する。
【0029】
導電率に関連するのは、繊維形成溶液中の塩濃度である。一般的に言うと、NaClが多く存在すればするほど、強い繊維複合体を形成するために、より多くの酸が必要とされる。例えば、10:1のタンパク質/CMC比で、NaClの上限は、5%TDMの溶液について約0.8%である。1%NaClは、繊維を全くもたらさなかった。NaCl濃度は、好ましくは0.5%未満、好ましくは0.2%未満である。したがって、好ましい実施形態において、酸性化/繊維形成ステップは、0.6質量%以下のNaCl、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下のNaClの存在下で行われる。繊維形成溶液は、1つ又は複数の更なる成分、例えば、油、デンプン又はそれらの組合せを含み得る。
【0030】
また、本発明は、本発明による方法によって得ることができる食用タンパク質由来繊維状構造に関する。更なる態様は、食料品、好ましくはヴェジタリアン又はヴィーガン食料品の製造における、本発明による繊維形成溶液又は食用タンパク質由来繊維状構造の使用を提供する。
【0031】
また更に、本発明は、本明細書で開示される食用タンパク質由来繊維状構造を含む食料品を提供する。食料品は、ヴェジタリアン又はヴィーガン食料品であってもよいが、ヴェジタリアン又はヴィーガン食料品である必要はない。例えば、本明細書で提供される繊維状構造は、肉代用品、グルテンフリーベーカリー製品、代用チーズ又は卵代用品からなる群から選択される食料品に有利に組み込まれる。特定の実施形態において、食料品は、肉代用品、例えば鶏胸肉、鶏ささみ肉又は代用ソーセージである。また、本明細書で開示される繊維状構造は、肉増量材として天然食肉と共に使用され得ることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】様々なジャガイモタンパク質単離物及び様々な荷電多糖で形成された複合体の概観を示す図である。明らかに、ネイティブジャガイモタンパク質単離物とCMCとの間に最も優れた繊維状構造が形成されている。各写真において、バーのサイズは1cmである。詳細については、実施例4を参照されたい。
【
図2】代用鶏胸肉としての、本発明の蒸して調理した繊維状構造を含むチキンスープを示す図である。
【
図3】形成された繊維状構造の収率に対する繊維形成溶液中のNaCl濃度の効果を示すグラフである。実施例7も参照されたい。
【
図4】CMC-ジャガイモタンパク質複合体化についての先行技術例を再現した場合に形成された非繊維状沈降粒子を示す図である。実施例8を参照されたい。左右両方のパネルにおいて、黒色のバーのサイズは1cmである。
【実施例1】
【0033】
実験節
非変性ジャガイモタンパク質の単離
LMWジャガイモタンパク質単離方法
ジャガイモ液(PJ)400リットルを、Gasselternijveen、NLのAVEBEデンプン工場から得た。PJを、200L/時間の流量及び30分毎の排出で作動するWestfalia社SAMR 3036分離器を使用して、不溶性成分の大部分を除去することによって前処理した。浄化PJの不溶性成分の残留画分を、Laroxフィルター(Larox社タイプPF 0.1 H2)を使用して除去した。フィルターを、150グラムのDicalite 4158(Dicalite Europe社 NV)を再循環させることによって事前コーティングし、浄化PJを200L/時間で作動させた。全部で、250リットルの体積の濾過した絞汁を、撹拌機及び14℃の水を含む冷却ジャケットを備える500L Terlet容器に回収した。200ppmの量の重亜硫酸ナトリウム(Castor International社 BV)を加えた。33%NaOH(Brenntag社)を使用して、pHを6.0に調節した。
【0034】
12g/lのタンパク質含量を有する濾過したPJを、3カラム疑似移動床(SMB:Simulated Moving Bed)にロードした。各カスタムビルドPVCカラム(5.5x90cm)は、1.6リットルの樹脂体積に対応する65cmの高さの樹脂床を有する。樹脂は、安息香酸官能化メタクリレートクロマトグラフィー樹脂(Resindion社)からなっていた。3.5床体積(BV:Bed Volume)の量の濾過したPJ(pH6.0)を、連続した2つのカラムに15l/時間の下向き流速でロードした。通過分を、14℃に冷却したTerlet容器にLMW枯渇PJとして回収した。第1のカラムのPJを、1BVの水と共に第2及び第3のカラムに12l/時間の流速で移し、その後、2.6BVの溶離緩衝液(50mMリン酸(85%リン酸、Brenntag社から))によって吸着したタンパク質を溶離した。カラムの平衡化は、2.8BVの12mMクエン酸塩を使用してpH6.0で(クエン酸一水和物、RZBC社及び33%NaOH、Brenntag社から)行った。カラムの溶離及び平衡化は、23l/時間の流速で行った。UV280シグナル(UVis-920、GE Healthcare社)に基づいて、約2.7BVのピークを、LMWタンパク質を含有する溶離液として回収した。このプロセスは、250lのPJが完了するまで約22時間の期間行った。
【0035】
元の250リットルのPJは、0.8%のタンパク質含量を有する、190リットルの体積のLMWタンパク質溶離液をもたらした。6000ダルトンのカットオフのMicroza SIP-3013モジュールを含有するPall限外濾過(UF)ユニットを使用して、溶離液を10°ブリックスまで濃縮した。ユニットを、2.0バールの入口圧及び0.5バールの出口圧で作動させた。濃縮物体積の4倍体積の軟水を、透析濾過のために加えた。透析濾過中、タンパク質溶液のpHを、腐食剤の添加によってpH7.5に設定した。この物質を、20°ブリックス又は7リットルのUFの最小作業可能体積まで更に濃縮した。Anhydro Compact Spray乾燥器を使用して、濃縮物を乾燥させた。乾燥器にアトマイザーホイールを備え付けた。乾燥器を、175℃の空気入口温度及び75℃の空気出口温度で作動させた。最初の250リットルのPJから、1.1kgの量の低分子量非変性(ネイティブ)ジャガイモタンパク質単離物粉末(Solanic 300N)を得た。
【0036】
HMWジャガイモタンパク質単離方法:
250lの体積のLMWタンパク質枯渇PJ(6g/lタンパク質)を、塩酸でpH5.3に調節し、3カラム疑似移動床(SMB)にロードした。各カスタムビルドPVCカラム(5.5x90cm)は、1.6リットルの樹脂体積に対応する65cmの高さの樹脂床を有する。樹脂は、安息香酸官能化メタクリレートクロマトグラフィー樹脂(Resindion社)からなった。
【0037】
5.5床体積(BV)の量のLMW枯渇PJ(pH5.3)を、連続した2つのカラムに18l/時間の下向き流速でロードした。第1のカラムのPJを、1BVの12mMクエン酸塩(pH4.8)と共に第2及び第3のカラムに12l/時間で移し、その後、3.1BVの溶離緩衝液(100mMリン酸緩衝液 pH8、Boom BV社、NL)によって吸着したタンパク質を溶離し、その後、3.1BVの12mMクエン酸塩(クエン酸一水和物、RZBC社及び33%NaOH、Brenntag社)を使用してカラムを平衡化した。カラムの溶離及び平衡化は、17l/時間の流速で行った。UV280シグナル(UVis-920、GE Healthcare社)に基づいて、約3.1BVのピークを、HMWタンパク質を含有する溶離液として14℃で冷却したTerlet容器に回収した。このプロセスは、250lの枯渇PJが完了するまで約21時間の期間行った。
【0038】
元の250リットルのPJにより、0.5%のタンパク質含量を有する、140リットルの体積のHMWタンパク質溶離液を得た。6000ダルトンのカットオフのMicroza SIP-3013モジュールを含有するPall限外濾過(UF)ユニットを使用して、溶離液を20°ブリックスまで濃縮した。ユニットを、2.0バールの入口圧及び0.5バールの出口圧で作動させた。Anhydro Compact Spray乾燥器を使用して、濃縮物を乾燥させた。乾燥器にアトマイザーホイールを備え付けた。乾燥器を、175℃の空気入口温度及び75℃の空気出口温度で作動させた。最初の250リットルのLMWタンパク質枯渇PJから、0.6kgの量のHMW非変性(ネイティブ)ジャガイモタンパク質粉末を得た。
【0039】
変性ジャガイモタンパク質単離方法:
比較例の目的のために、変性ジャガイモタンパク質単離物、Solanic 100も、ジャガイモ絞汁から得た。ジャガイモ絞汁を、104℃の温度で熱凝固させて、12.9グラムの固形タンパク質粒子/懸濁液kgを得た。4000gでの2相デカンターによって、タンパク質粒子を絞汁から分離した。得られた凝固タンパク質は、34質量%の乾燥固形分を有した。凝固タンパク質を水中に再懸濁し、3.3のpHに達するまで硫酸を加えた。30分間の攪拌後、タンパク質懸濁液を排水し、真空ベルトフィルターによって洗浄した。凝固タンパク質を、洗浄水の導電率をモニターしながら洗浄した。使用前の洗浄水は、0.4mS/cmの導電率を有し、使用済み洗浄水の導電率が1mS/cm未満になるまで洗浄を続けた。それぞれ、170℃/80℃の入口/出口温度のフラッシュ乾燥器によって、フィルターケークを乾燥させた。乾燥後、含水量は、4.5質量%であった。
【実施例2】
【0040】
CMC-ジャガイモタンパク質繊維状構造形成
15グラムのネイティブジャガイモタンパク質単離物S300N(実施例1を参照のこと)を、従来の方法で85グラムの脱イオン水に懸濁する。Ultra-turrax(Silverson(登録商標)4R)を使用して1.5gのCMC 4000(Cekol(登録商標)、CP Kelco社)を98.5グラムの脱イオン水と混合することによって、CMC溶液を調製する。36.4グラムのジャガイモタンパク質溶液、36.4グラムのCMC 4000溶液及び7.3グラムの脱イオン水を完全に混合する。混合したCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液は、5%の総乾物含量及び10:1のタンパク質対CMC比を含有する。CMC-ジャガイモタンパク質溶液を、磁気攪拌(IKAMAG(商標)RCT)しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、かなりの量のCMC-ジャガイモタンパク質繊維を生成する。最終混合物は、4のpHを有した。1.00mmの孔を有するラボ試験用こし器(Endecolts LTD社、BS410/1986)を使用して、生成したCMC-タンパク質複合体を回収する。回収した複合体を流れている水道水で洗浄した。洗浄した複合体片を、手で圧縮して、過剰な水を絞り出した。形成された繊維状の塊は、繊維状の、噛みごたえのある、且つ弾性の「肉様」食感を有する。
【実施例3】
【0041】
CMCの選択
繊維状CMC-ジャガイモタンパク質繊維複合体を形成する能力に対する、様々なCMC分子量の効果を比較するために、4種のCMCを試験した。
【0042】
CMC-ジャガイモタンパク質複合体1
実施例2で説明したように、Ultra-turraxを使用して、10%ジャガイモタンパク質単離物溶液(S300N)及び1.5%CMC 30(Cekol(登録商標)、CP Kelco社)溶液を調製する。36.4グラムのジャガイモタンパク質溶液、36.4グラムのCMC 30溶液及び7.3グラムの脱イオン水を取り、共に完全に混合する。これによるCMC-ジャガイモタンパク質溶液を、攪拌しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0043】
CMC-ジャガイモタンパク質複合体2
実施例2で説明するように、Ultra-turraxを使用して、10%ジャガイモタンパク質単離物溶液及び5%CMC 150(Cekol(登録商標)、CP Kelco社)溶液を調製する。36.4グラムのジャガイモタンパク質溶液、36.4グラムのCMC 150溶液及び7.3グラムの脱イオン水を取り、共に完全に混合する。これによるCMC-ジャガイモタンパク質溶液を、攪拌しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0044】
CMC-ジャガイモタンパク質複合体3
実施例2で説明するのと同じ成分及びプロセス。
【0045】
CMC-ジャガイモタンパク質複合体4
実施例2で説明したように、Ultra-turraxを使用して、10%ジャガイモタンパク質単離物溶液及び0.5%CMC 30000(Cekol(登録商標)、CP Kelco社)溶液を調製する。20グラムのジャガイモタンパク質溶液、8グラムのCMC 30000溶液及び52グラムの脱イオン水を取り、共に完全に混合する。これによるCMC-ジャガイモタンパク質溶液を、攪拌しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0046】
複合体構造は、以下のTable1(表1)に示すように説明される。
【0047】
【0048】
これらのデータは、少なくとも150,000Daの分子量を有するCMCは、繊維状構造を有する複合体を形成することができることを示す。
【実施例4】
【0049】
他のハイドロコロイドとの複合体形成
様々なアニオン性ハイドロコロイドの、ジャガイモタンパク質と繊維状複合体を形成する能力を試験するために、キサンタンガム、CMC、アルギン酸ナトリウム、LM-ペクチン及びι-カラギーナンを試験した。そのうえ、様々なジャガイモタンパク質単離製品、例えば、S300N、S200(ネイティブ)及びS100(変性)を、試験及び比較した。
【0050】
試料1 キサンタンガムとジャガイモタンパク質(S300N)複合体
10%ジャガイモタンパク質(S300N)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%キサンタン(Keltrol(登録商標)AP-F、CP Kelco社)溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。その後、120グラムのタンパク質溶液、120グラムのキサンタン溶液及び120グラムの脱イオン水を、磁気攪拌器を使用して十分に混合した。2グラムの3mol/L乳酸を、混合溶液に攪拌しながら加えた。酸のほぼ直後に、短い破断繊維が形成された。全プロセスは全体で、約2~3分間かかった。
【0051】
試料2 CMCとジャガイモタンパク質(S300N)複合体
10%ジャガイモタンパク質(S300N)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%CMC 30000(CP Kelco社 CMC 30000)溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。その後、120グラムのタンパク質溶液、120グラムのCMC溶液及び120グラムの脱イオン水を、磁気攪拌器を使用して十分に混合した。2グラムの3mol/L乳酸を、混合溶液に攪拌しながら加えた。酸のほぼ直後に、長い弾性繊維状物質が形成された。全プロセスは全体で、約2~3分間かかった。
【0052】
試料3 アルギン酸ナトリウムとジャガイモタンパク質(S300N)複合体
5%ジャガイモタンパク質(S300N)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%アルギン酸ナトリウム(VWR Chemicals社、Prolabo(登録商標))溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。その後、40グラムのタンパク質溶液、40グラムのアルギン酸ナトリウム溶液を、磁気攪拌器を使用して十分に混合した。2グラムの3mol/L乳酸を、混合溶液に攪拌しながら加えた。酸のほぼ直後に、短い繊維状物質が形成された。全プロセスは全体で、約2~3分間かかった。
【0053】
試料4 LM-ペクチンとジャガイモタンパク質(S300N)複合体
5%ジャガイモタンパク質(S300N)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%LM-ペクチン(Genu(登録商標)ペクチンタイプLM-104AS-FS)溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。48グラムのタンパク質溶液を、32グラムのLM-ペクチン溶液と磁気攪拌器を使用して十分に混合する。タンパク質溶液をLM-ペクチン溶液と混合した後、系のpHは、約7.5である。2グラムの3mol/L乳酸を、混合溶液に攪拌しながら加えた。酸のほぼ直後に、沈降物が形成された。全プロセスは全体で、約2~3分間かかった。
【0054】
試料5 ι-カラギーナンとジャガイモタンパク質(S300N)
5%ジャガイモタンパク質(S300N)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%ι-カラギーナン(Sigma(登録商標)、ι-カラギーナン、市販グレード、タイプII)溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。48グラムのタンパク質溶液を、32グラムのι-カラギーナン溶液と磁気攪拌器を使用して十分に混合する。2グラムの3mol/L乳酸を、混合溶液に攪拌しながら加えた。酸のほぼ直後に、小さい白色複合体が形成された。全プロセスは全体で、約2~3分間かかった。
【0055】
試料6 キサンタンとジャガイモタンパク質(S200)複合体
10%ジャガイモタンパク質(S200)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%キサンタン溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0056】
試料7 CMCとジャガイモタンパク質(S200)複合体
10%ジャガイモタンパク質(S200)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%CMC 30000溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0057】
試料8 アルギン酸ナトリウムとジャガイモタンパク質(S200)複合体
5%ジャガイモタンパク質(S200)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%アルギン酸ナトリウム溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0058】
試料9 LM-ペクチンとジャガイモタンパク質(S200)
5%ジャガイモタンパク質(S200)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%LM-ペクチン溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0059】
試料10 ι-カラギーナンとジャガイモタンパク質(S200)
5%ジャガイモタンパク質(S200)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%ι-カラギーナン溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0060】
試料11 キサンタンとジャガイモタンパク質(変性、S100)
10%ジャガイモタンパク質(変性、S100)を、従来の方法を使用して分散させた。0.5%キサンタンを、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0061】
試料12 CMCとジャガイモタンパク質(変性、S100)
10%ジャガイモタンパク質(変性、S100)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%CMC 30000溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0062】
試料13 アルギン酸ナトリウムとジャガイモタンパク質(変性、S100)
5%ジャガイモタンパク質(変性、S100)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%アルギン酸ナトリウム溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下の表で説明するように、複合体が形成された。
【0063】
試料14 LM-ペクチンとジャガイモタンパク質(変性、S100)
5%ジャガイモタンパク質(変性、S100)溶液を、従来の方法を使用して調製した。0.5%LM-ペクチン溶液を、Ultra-turraxを使用して調製した。以下のTable 2(表2)で説明するように、複合体が形成された。
【0064】
【0065】
【0066】
図1は、様々なジャガイモタンパク質単離物及び様々な荷電多糖で形成された複合体の概観を示す。明らかに、最も優れた繊維状構造は、ネイティブジャガイモタンパク質単離物とCMCとの間で形成される。
【実施例5】
【0067】
酸性条件を必要とする繊維形成
本発明の方法において、ジャガイモタンパク質-CMC繊維状構造を形成するために、酸性条件が必要とされる。最も重要なことは、繊維形成溶液の最終pHが2~5の範囲内であることである。
【0068】
この実施例は、本発明の2つの実施形態間の直接比較を示す。実施形態1では、初期繊維形成溶液のpHは、中性であり(例えば、7より高く)、その後、それは、攪拌しながら鉱酸又は有機酸の添加によって2~5の範囲内のpHに酸性化されて、ジャガイモタンパク質食用繊維状構造の形成を可能にする。実施形態2では、5未満のpHを有する酸性ジャガイモタンパク質溶液をCMC溶液と混合することによって繊維形成溶液を調製して、ジャガイモタンパク質食用繊維状構造の形成を可能にする。
【0069】
その目的を達成するために、実施例2で説明したように、10質量%ジャガイモタンパク質単離物溶液(S300N)及び0.5%CMC 4000溶液を調製する。実施形態1:120gタンパク質溶液、120g CMC溶液及び120g脱イオン水を取り、完全に混合する。その後、4.5g乳酸溶液を攪拌しながら加えて、2.9の最終pHに到達させる。実施形態2では、120gのジャガイモタンパク質溶液を、乳酸を使用してpH3.4まで酸性化する。その後、タンパク質溶液及びCMC溶液を、120gの脱イオン水に少なくとも30秒間完全に混合しながら加える。即時の繊維形成が起こる。実施例2で説明したように、CMC-タンパク質複合体の回収を行った。
【0070】
2つの実施形態の技術的詳細及び得られた結果を、以下のTable 3(表3)に要約する。
【0071】
【実施例6】
【0072】
代用鶏胸肉を含有するチキンスープ
CMC 4000-ジャガイモタンパク質繊維状複合体を、実施例2で説明したのと同じように調製した。洗浄した繊維状構造を穏やかに圧縮して、過剰な水を除去し、次に5分間蒸した(Thermomix(登録商標)TM31)。蒸して調理した繊維状構造を、約1立方センチメートルのサイズの小片になるように切断した。
【0073】
5グラムのチキンスープ粉末(Hong Kong Gold Label Chicken Power、Knorr(登録商標)社)を、250gの水道水に加え、コンロで沸騰させた。切断した繊維状複合体を、「代用鶏胸肉」として沸騰させたチキンスープに加えた。このような加えた代用鶏胸肉は、従来の調理した鶏胸肉と同様の食感を有することが分かった。
図2は、チキンスープ中の「代用鶏胸肉」としてのCMC-ジャガイモタンパク質繊維状複合体を示す。
【実施例7】
【0074】
プロセスにおける塩化ナトリウム濃度の影響
この実施例では、NaCl濃度がどのようにCMC-ジャガイモタンパク質繊維状複合体の収率に影響し得るかを調査する。
【0075】
試料番号1
CMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液を、実施例2で説明したように調製し、これは、5%総乾物含量及び10:1のタンパク質対CMCを含有する。CMC-ジャガイモタンパク質溶液を攪拌しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0076】
試料番号2
追加で0.1%(w/w)塩化ナトリウムを加えた、実施例2で説明したのと同じCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液。CMC-ジャガイモタンパク質-NaCl溶液を、攪拌しながら0.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0077】
試料番号3
追加で0.3%(w/w)塩化ナトリウムを加えた、実施例2で説明したのと同じCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液。CMC-ジャガイモタンパク質-NaCl溶液を、攪拌しながら0.7ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0078】
試料番号4
追加で0.5%(w/w)塩化ナトリウムを加えた、実施例2で説明したのと同じCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液。CMC-ジャガイモタンパク質-NaCl溶液を、攪拌しながら0.9ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0079】
試料番号5
追加で0.8%(w/w)塩化ナトリウムを添加した、実施例2で説明したのと同じCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液。CMC-ジャガイモタンパク質-NaCl溶液を、攪拌しながら1.2ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0080】
試料番号6
追加で1%(w/w)塩化ナトリウムを加えた、実施例2で説明したのと同じCMC 4000-ジャガイモタンパク質溶液。CMC-ジャガイモタンパク質-NaCl溶液を、攪拌しながら1.5ミリリットルの4mol/L塩酸で酸性化して、CMC-ジャガイモタンパク質複合体を生成する。
【0081】
生成したCMC-タンパク質複合体を、1.00mmの孔を有するラボ試験用篩を使用して回収する。回収した複合体を流れている水道水で洗浄した。洗浄した複合体片を、圧縮して、過剰な水を絞り出し、50℃のオーブン内で一晩乾燥させた。オーブンで乾燥させた複合体の質量を測定し、収率を以下のように計算した:
【0082】
【0083】
溶液中に様々なNaCl濃度を有する上記6つの試料の収率を計算し、
図3にプロットする。
【0084】
結果は、塩の存在は、CMC及びジャガイモタンパク質からの繊維状構造の形成を阻害することを示す。塩は、最終レシピに必要とされる場合、繊維状構造の回収後に加えることが推奨される。
【実施例8】
【0085】
CMC-ジャガイモタンパク質複合体化の先行技術での再現
CMC-ジャガイモタンパク質複合体の複合体は、カルボキシメチルセルロースとの複合体化によるジャガイモ植物廃液からのタンパク質の回収に関連して、Gonzalezら(Food Hydrocolloids 第4巻5号 355~363頁、1991年)によって以前に報告された。
【0086】
この実施例は、Gonzalezらの方法を再現した場合、繊維状構造を有しないCMC-ジャガイモタンパク質複合体がもたらされることを実証する。
【0087】
新鮮なジャガイモを、地元のスーパーマーケットから購入した。文献で説明される通りに、新鮮なジャガイモ絞汁を製造した。500gのジャガイモを洗浄し、皮をむき、小さい立方体に切断し、500gの水と混合し、市販のブレンダー(Braun社、JB3060)で高速にて1分間スラリー化した。酵素褐変を制御するために、0.5gの重亜硫酸ナトリウムをスラリーに加えた。スラリーを最初に3500rpmで室温にて15分間遠心分離した(Mistral 6000、Beun de Ronde社)。その後、上清を15ml遠心分離管に回収し、4500rpmで室温にて15分間更に遠心分離して(Multifuge 1S-R)、残りのあらゆるデンプン又は粒子を除去した。上清を再び回収し、タンパク質濃度を、較正したSprint Protein分析器(CEM社)を使用して測定した。測定したタンパク質含量により、上清を1gタンパク質/lに希釈して、文献で使用されたタンパク質濃度に従った。
【0088】
希釈したジャガイモタンパク質絞汁は、1g/lジャガイモタンパク質を含有し、6.2の中性pHを有する。CMC 4000溶液を、ultraturrax(Silverson(登録商標)4R)を使用して、0.25%に調製した。8gのCMC 4000溶液を、200mlのジャガイモ絞汁に加えて、0.1のCMC/タンパク質比を得た。1M HClを、溶液のpHが3.5に降下するまで、磁気攪拌しながら溶液混合物に加えた。
【0089】
生成したCMC-ジャガイモタンパク質複合体は、
図4で示される粒子沈降物として見出された。このような複合体は、本発明において目的とされる繊維状構造を有しない。