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特許7011061酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法
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  • 特許-酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/453 20060101AFI20220119BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20220119BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C04B35/453
C01G15/00 Z
C01G9/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020523147
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2019022358
(87)【国際公開番号】W WO2019235532
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018108845
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200301
【氏名又は名称】JFEミネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】中田 圭美
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】越前谷 木綿子
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-189369(JP,A)
【文献】特開2015-024944(JP,A)
【文献】特開2017-036244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/453
C01G 9/02
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、
X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~150nmであり、軽装かさ密度が0.40g/cm以上0.80g/cm以下であり、タップ密度が0.80g/cm以上1.60g/cm以下であり、
下記式(I)で表されるGa含有量が30モルppm以上、3000モルppm以下である、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
{nGa/(nZn+nGa)}×100 (I)
ただし、式(I)中、nGaは前記酸化亜鉛粉末中のGaの物質量を表し、nZnは前記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnGaの単位はいずれもモルである。
【請求項2】
ガリウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより得られる、請求項1に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
【請求項3】
前記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する、請求項2に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
4~6(CO1~3(OH)6~7・nHO (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xGaを表し、xは、3×10-5~0.03の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体。
【請求項5】
ガリウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより、請求項1に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を得る、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末の製造方法。
【請求項6】
前記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する、請求項5に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末の製造方法。
4~6(CO1~3(OH)6~7・nHO (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xGaを表し、xは、3×10-5~0.03の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末、または、請求項5または6の方法により得られた酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を焼成することにより、前記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した酸化亜鉛焼結体を得る、酸化亜鉛焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および酸化亜鉛焼結体、ならびに、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の方法により製造された酸化亜鉛粉末が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-269946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックスからなる部材は、一般的には、酸化亜鉛粉末などの粉末を成形し焼結することで得られる。
酸化亜鉛粉末は、酸化アルミニウムや酸化ジルコニウムなどの他の粉末と比較して、亜鉛の蒸気圧が高いことや、粒成長しやすいなどの特徴を有する。
酸化亜鉛粉末を焼結させて得られる酸化亜鉛焼結体については、焼結粒子サイズが大きいこと、導電性に優れること等が要求される場合がある。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、焼結粒子サイズが大きく、かつ、導電性に優れる酸化亜鉛焼結体が得られる酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体を提供することも目的とする。
また、本発明は、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および上記酸化亜鉛焼結体を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供する。
[1]酸化亜鉛焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、下記式(I)で表されるGa含有量が30モルppm以上、3モル%未満である、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
{nGa/(nZn+nGa)}×100 (I)
ただし、式(I)中、nGaは上記酸化亜鉛粉末中のGaの物質量を表し、nZnは上記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnGaの単位はいずれもモルである。
[2]ガリウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより得られる、上記[1]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
[3]上記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する、上記[2]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
4~6(CO1~3(OH)6~7・nHO (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xGaを表し、xは、3×10-5~0.03の数を表し、nは、0~2の数を表す。
[4]X線回折によって求められる結晶子サイズが20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径が20~150nmであり、軽装かさ密度が0.40g/cm以上であり、タップ密度が0.80g/cm以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体。
[6]ガリウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより、上記[1]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を得る、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末の製造方法。
[7]上記炭酸水和物が、下記式(1)で表される、塩基性炭酸亜鉛を含有する、上記[6]に記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末の製造方法。
4~6(CO1~3(OH)6~7・nHO (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xGaを表し、xは、3×10-5~0.03の数を表し、nは、0~2の数を表す。
[8]上記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末、または、上記[6]または[7]の方法により得られた酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を焼成することにより、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末が焼結した酸化亜鉛焼結体を得る、酸化亜鉛焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼結粒子サイズが大きく、かつ、導電性に優れる酸化亜鉛焼結体が得られる酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を提供することができる。
また、本発明によれば、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体を提供することもできる。
また、本発明によれば、上記酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末および上記酸化亜鉛焼結体を製造する方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】合成例1の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。
図2】合成例3の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。
図3】合成例1および合成例3について、酸化亜鉛粉末の結晶子サイズとタップ密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[酸化亜鉛粉末]
本発明の酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末(以下、単に「本発明の酸化亜鉛粉末」ともいう)は、酸化亜鉛焼結体の作製に用いる酸化亜鉛粉末であって、下記式(I)で表されるGa含有量が30モルppm以上、3モル%未満である、酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末である。
{nGa/(nZn+nGa)}×100 (I)
【0011】
ただし、式(I)中、nGaは上記酸化亜鉛粉末中のGaの物質量を表し、nZnは上記酸化亜鉛粉末中のZnの物質量を表し、nZnおよびnGaの単位はいずれもモルである。
【0012】
本発明の酸化亜鉛粉末は、微量成分として特定量のGaを含有する。
このような本発明の酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体は、焼結粒子サイズが大きく、かつ、導電性に優れる。
すなわち、Ga含有量が30モルppm以上であることにより、Ga含有量が30モルppm未満である場合よりも、焼結粒子サイズが大きい(後述する評価1を参照)。
また、Ga含有量が3モル%未満であることにより、Ga含有量が3モル%以上である場合よりも、体積抵抗率などの値が小さく、導電性に優れる(後述する評価1を参照)。
【0013】
また、本発明の酸化亜鉛粉末を用いて得られる酸化亜鉛焼結体は、焼結粒子サイズのばらつきが小さい(後述する評価1を参照)。
【0014】
上記Ga含有量は、焼結粒子サイズがより大きくなるという理由から、300モルppm以上、3000モルppm以下が好ましい。
なお、上記Ga含有量の値は、原子%を単位としたGa含有量と同じ値を示す。
【0015】
また、上記Ga含有量が30モルppm以上であることにより、得られる酸化亜鉛焼結体においては、Gaの固溶による明確な青緑色発色が見られる。なお、酸化亜鉛焼結体(以下、単に「焼結体」ともいう)は、白色から薄い黄色または薄いうぐいす色である。
一方、上記Ga含有量が3モル%未満(30000モルppm未満)であることにより、スピネル構造のZnGa、または、酸化物であるGaが形成されない、前駆体中の異相としての塩基性炭酸亜鉛ガリウム水和物が形成されない等の効果が得られる。
【0016】
本発明の酸化亜鉛粉末は、X線回折によって求められる結晶子サイズ(以下、単に「結晶子サイズ」ともいう)が20~100nmであり、BET法によって求められる粒子径(以下、「BET径」ともいう)が20~150nmであり、軽装かさ密度(以下、単に「かさ密度」ともいう)が0.40g/cm以上であり、タップ密度が0.80g/cm以上であることが好ましい。
軽装かさ密度の上限は、0.80g/cm以下が好ましい。
タップ密度は、1.00g/cm以上がより好ましく、1.20g/cm以上が更に好ましい。タップ密度の上限は、1.60g/cm以下が好ましい。
【0017】
軽装かさ密度は、JIS R 9301-2-3で定められた方法を用いて求める。すなわち、静置した容積100mLの容器中に、酸化亜鉛粉末を自由に落下させて集めた酸化亜鉛粉末の質量を求める。この質量を容器の体積で割った値を、軽装かさ密度とする。
【0018】
タップ密度は、次のように求める。まず、上記と同じ容器内に酸化亜鉛粉末を入れ、タッピング装置を用い、酸化亜鉛粉末の体積がそれ以上減少しないところまでタップする。酸化亜鉛粉末の質量を、タップ後の酸化亜鉛粉末の体積で除し、得られる値をタップ密度とする。
【0019】
<酸化亜鉛粉末の製造方法>
本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法は、限定されないが、例えば、ガリウム塩と、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、炭酸水和物であるガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛を、250℃以上の温度で熱処理することにより、本発明の酸化亜鉛粉末を得る方法(以下、便宜的に「本発明の粉末製造方法」ともいう)が好適に挙げられる。
【0020】
本発明の粉末製造方法により得られる酸化亜鉛粉末は、他の方法によって得られた酸化亜鉛粉末と比較して、Ga含有量が同じであれば、導電性に優れる。Gaを含有する塩基性炭酸亜鉛(前駆体)を経由する等の理由から、酸化亜鉛粉末の粒子内部にGaが均質に含まれ、これにより、上記のような効果が得られると推測される。
もっとも、酸化亜鉛粉末の個々の粒子は、非常に微小であることから、その内部に含まれるGaの状態を観察し、それを直接特定することは、実質的に不可能である。
また、Gaの状態に起因する、その他の構造または特性を特定することは、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要になるため、およそ実際的ではない。
【0021】
本発明の粉末製造方法において、ガリウム塩、亜鉛塩、炭酸塩およびアルカリは、いずれも、水溶液の態様で用いられることが好ましい。
【0022】
沈殿物生成反応は、具体的には、例えば、亜鉛塩の水溶液およびガリウム塩の水溶液(好ましくは、亜鉛塩およびガリウム塩の混合水溶液)を、炭酸塩の水溶液に滴下して行なうことが好ましい。この滴下中、炭酸塩の水溶液に、アルカリの水溶液を送液して、炭酸塩の水溶液のpHを一定値(例えば、pH6~8の間の値)に保つことが好ましい。
【0023】
沈殿物生成反応によって、炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、沈殿物の形態で得られる。沈殿物は、撹拌養生することが好ましい。
撹拌養生の時間は、1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上が更に好ましく、15時間以上が特に好ましい。撹拌養生の時間が長い場合、撹拌養生の時間が短い場合と比較して、Ga含有量が同じであれば、得られる酸化亜鉛粉末の軽装かさ密度およびタップ密度が高くなる(後述する評価2を参照)。また、得られる酸化亜鉛粉末を用いることにより、成形体および焼結体の密度が高くなる(後述する評価3および評価4を参照)。
撹拌養生の時間が短い場合、一次粒子どうしが、層状水酸化物の特徴的な形状であるフレーク状に連結しやすいと考えられる(後述する図2を参照)。これに対し、撹拌養生の時間が長くなることにより、一次粒子どうしが、撹拌によって衝突を繰り返してフレーク形状が消失し、顆粒状になりやすいと考えられる(後述する図1を参照)。
なお、撹拌養生の時間は、溶液の濃度や攪拌力によるが、上限は、特に限定されず、例えば、32時間以下であり、24時間以下が好ましい。
【0024】
沈殿物生成反応および攪拌養生において、炭酸塩の水溶液の温度は、45℃未満に保持することが好ましく、25℃以下に保持することがより好ましい。
【0025】
ガリウム塩としては、特に限定されず、例えば、硝酸ガリウム、塩化ガリウム、硫酸ガリウム、これらの水和物などが好適に挙げられる。
亜鉛塩としては、特に限定されず、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、これらの水和物などが好適に挙げられる。
アルカリとしては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが好適に挙げられる。水溶液の態様である場合、アンモニウム水であってもよい。
炭酸塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)などが挙げられるが、なかでも、得られる酸化亜鉛粉末の軽装かさ密度およびタップ密度が高くなるという理由から、炭酸アンモニウムが好ましい。
【0026】
沈殿物生成反応によって生成する炭酸水和物は、ガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛であることが好ましく、下記式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛を含有することがより好ましい。
4~6(CO1~3(OH)6~7・nHO (1)
ただし、式(1)中、Mは、Zn1-xGaを表し、xは、3×10-5~0.03の数を表し、nは、0~2の数を表す。
【0027】
上記式(1)で表される塩基性炭酸亜鉛は、ハイドロジンカイト(Zn(CO(OH)・2HO)の亜鉛の一部をガリウムで置き換え、分子サイズで均一にガリウムが添加された塩基性炭酸亜鉛であると言える。このような塩基性炭酸亜鉛も、以下では、便宜的に、ハイドロジンカイトと呼ぶ場合がある。
沈殿物生成反応によって生成する炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、このようなハイドロジンカイトを主成分とすることが好ましい。主成分とは、構成物質中最も多い成分をいい、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上の成分をいう。
【0028】
沈殿物生成反応により得られた炭酸水和物(塩基性炭酸亜鉛)は、250℃以上の温度で熱処理されることにより、脱炭酸、脱水され、酸化亜鉛粉末が得られる。
熱処理温度が低すぎると、後述する酸化亜鉛焼結体を得る際の焼成時の脱炭酸、脱水が多くなり、焼結が阻害される場合がある。
一方、熱処理温度が高すぎると、一次粒子が結合した連結粒が増えるおそれがある。大きな連結粒は、粒成長が早く、より大きな焼結粒子となることは、オストワルド成長として知られた現象であり、焼結体の粒子サイズが不均一になり得る。
このような観点から、熱処理温度は、350℃~420℃が好ましい。熱処理温度が高くなることにより、一次粒子のネッキングによって緻密な二次粒子が形成され、高い軽装かさ密度およびタップ密度が得られる。
【0029】
以上、本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法の好適態様として、本発明の粉末製造方法を説明した。
ただし、本発明の酸化亜鉛粉末を製造する方法は、上述した本発明の粉末製造方法に限定されず、例えば、他の方法によって製造され、必要に応じて、粉砕、分級、粒度分布調整などを経たものであっても、本発明の範囲内であれば、本発明の酸化亜鉛粉末であるものとする。
なお、「他の方法」としては、例えば、亜鉛塩、炭酸塩、およびアルカリとの沈殿物生成反応によって生成する、ガリウムを含有しない塩基性炭酸亜鉛を熱処理することにより、酸化亜鉛粉末を得て、これにガリウム塩水溶液などの態様でGaを添加することにより、Gaを含有する酸化亜鉛粉末を得る方法が挙げられる。
【0030】
[酸化亜鉛焼結体]
本発明の酸化亜鉛焼結体は、上述した本発明の酸化亜鉛粉末が焼結した、酸化亜鉛焼結体である。このため、本発明の酸化亜鉛焼結体は、Gaを含有する。Gaは固溶していることが好ましい。
【0031】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、上述した本発明の酸化亜鉛粉末を焼成することにより得られる。具体的には、例えば、上述した本発明の酸化亜鉛粉末を、そのまま、または、ビーズミルによる解砕、もしくは、スプレードライヤーによる造粒などを行なった後、成形し、得られた成形体を、焼成する。こうして、本発明の酸化亜鉛焼結体が得られる。
焼成温度は、例えば、800℃以上、1300℃以下である。
焼成温度は、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。また、焼成温度は、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下が更に好ましい。
【0032】
本発明の酸化亜鉛焼結体は、セラミックスからなる部材として用いられるが、具体的には、例えば、板状バルク材;厚膜焼成品;緻密さや粒子サイズの均一さが要求されるスパッターターゲット;ガスセンサーやフィルター(大腸菌などの増殖を防止する抗菌性フィルターなど)などのポーラスな部材;等として好適に使用できる。
【実施例
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
<合成例1(実施例1および比較例1)>
(合成)
亜鉛塩として硝酸亜鉛6水和物(キシダ化学社製)、ガリウム塩として硝酸ガリウム8水和物(キシダ化学社製)、炭酸塩として炭酸アンモニウム(キシダ化学社製)、および、アルカリとして30質量%水酸化ナトリウム(キシダ化学社製)を用いた。
純水1Lに、硝酸亜鉛および硝酸ガリウムの合計量が0.5モルとなるように秤量したものを溶解させて、硝酸亜鉛および硝酸ガリウムの混合水溶液を調製した。
2Lのビーカーに、0.4Mの炭酸アンモニウム水溶液0.5Lを準備した。
炭酸アンモニウム水溶液にはpHコントロール用pH電極を装入した。硝酸亜鉛および硝酸ガリウムの混合水溶液を、1L/hの速度で、700rpmに回転速度を設定した回転子によって攪拌されている炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
酸性である硝酸亜鉛および硝酸ガリウムの混合水溶液の滴下によって炭酸アンモニウム水溶液のpHが低下することを防ぐため、pHコントローラー(東興化学研究所社製 TDP-51)によってon/off制御する送液ポンプによって、30質量%水酸化ナトリウムを炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。これにより、炭酸アンモニウム水溶液のpHを、硝酸亜鉛および硝酸ガリウムの混合水溶液の滴下中、pH7.5の一定値に保った。こうして、沈殿物生成反応による沈殿物を生成させた。
沈殿物生成反応による沈殿物の生成が終了した後、沈殿物に対して、沈殿物生成反応中と同じ700rpmに回転速度を設定した回転子を用いて20時間の攪拌養生を行ない、ガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛のスラリーを得た。
沈殿物生成反応および攪拌養生の間、冷却装置を用いて、炭酸アンモニウム水溶液の温度は常に30℃未満となるようした。
撹拌養生後のスラリーは、吸引ろ過法にて固液分離し、固形分を得た。得られた固形分については、不用なナトリウムなどを除去するため、洗浄した。具体的には、固形分を適量の純水を用いてリスラリー化した後、得られたスラリーを吸引ろ過法にて固液分離した。この洗浄は4回繰り返した。
洗浄後の固形分について、真空乾燥機を用いて、30℃、20時間の真空乾燥を行なった。こうして、酸化亜鉛粉末の前駆体である、ガリウムを含有する塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。
【0035】
合成例1(実施例1および比較例1)では、ガリウムと亜鉛とのモル比(Ga/Zn)が0/100~10/90の範囲となるように合成した。
すなわち、上述した式(I)で表されるGa含有量を、実施例1では、30モルppm、300モルppm、および、3000モルppm(0.3モル%)とし、比較例1では、0モルppm、10モルppm、30000モルppm(3モル%)、50000モルppm(5モル%)、および、100000モルppm(10モル%)とした。
なお、Ga含有量が0モルppmの場合は、硝酸ガリウム8水和物を使用せずに、硝酸亜鉛水溶液を調製し、これを、炭酸アンモニウム水溶液に滴下した。
【0036】
得られた塩基性炭酸亜鉛については、X線回折装置(ブルッカー社製 D8ADVANCE)による鉱物相の同定、および、シェラー法による結晶子サイズの測定を行なった。
また、TG-DTA装置(日立ハイテクノロジーズ社製 TG/DTA6300)による熱減量の測定、分析装置(LECO CS844)を用いた燃焼法によるカーボン分析、および、ICP発光分析装置(島津製作所製 ICP-9000)によるZn、Naの分析を行なった。
X線回折、および、成分分析の結果から、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜鉛が得られたことが分かった。
なお、Ga含有量が10モル%である比較例1では、亜鉛およびガリウムの炭酸水酸化物水和物として同定された異相が支配的であった。
また、ろ液の分析をしたところ、沈殿物の歩留まりは99%であった。更に、脱炭酸、脱水による熱減量は、約600℃で終了することが分かった。
【0037】
(熱処理)
得られた塩基性炭酸亜鉛をアルミナるつぼに入れ、380℃、大気雰囲気にて、脱炭酸および脱水のための熱処理を行なった。昇温速度は2℃/min、380℃での保持時間は6時間、冷却は自然冷却とした。こうして、酸化亜鉛粉末を得た。
Ga含有量が3モル%以上では、酸化ガリウム、ならびに、亜鉛およびガリウムのスピネルとして同定された異相が支配的であった。
なお、熱処理温度は、上述したように、250℃以上であり、350℃~420℃が好ましく、酸化亜鉛焼結体の要求特性に応じて適宜選択できる。熱処理温度について、タップ密度等への影響を検討したが、検討結果は後述する。
【0038】
(成形体の作製)
得られた酸化亜鉛粉末を0.6mmの篩いを通して簡単な解砕を行ない、60MPaの圧力でプレス成形し、φ20mm×2mmの円板状の成形体、および、40×40×5mmの板状の成形体を作製した。各成形体はn=15で作製した。
このとき、合成条件による酸化亜鉛粉末の粉末特性の差異が成形体および焼結体に及ぼす影響が明確になると考え、スプレードライヤーなどを用いた造粒などは行なわなかった。ただし、実製品の製造に当たっては、この限りではない。
後述するように、円板状のものは、SEM(走査型電子顕微鏡)による観察、密度の測定、および、X線回折に用いるサンプルとし、板状のものは、電気抵抗の測定に用いるサンプルとした。
【0039】
(焼結体の作製)
作製した円板状および板状の成形体を、大気雰囲気中で焼成した。焼成温度は900~1200℃(100℃間隔)、焼成温度での保持時間は6時間、昇温速度は4℃/分、冷却は炉内放置とした。こうして、円板状および板状の焼結体を得た。
【0040】
<評価1>
得られた焼結体を用いて、各種評価を行なった。
円板状の焼結体について、SEMを用いて観察し、焼結粒子サイズ(単位:μm)を測定した。
また、板状の焼結体については、30mm×4mm×4mmの棒状に加工した後、四端子法により体積抵抗率(単位:Ω・cm)を測定した。
焼結粒子サイズおよび体積抵抗率は、それぞれ、15サンプルの平均値とした。焼結粒子サイズは、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表1および表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
上記表1に示すように、Ga含有量が30モルppm以上、30000モルppm未満(3モル%未満)である実施例1-1~実施例1-3は、いずれの焼成温度においても、Ga含有量が30モルppm未満である比較例1-1~比較例1-2と比較して、焼結粒子サイズが大きいことが分かった。このとき、焼成温度が高いほど、焼結粒子サイズが大きくなる傾向が見られた。
Ga含有量が30000モルppm以上(3モル%以上)である比較例1-3~比較例1-5では、酸化亜鉛でない異相が支配的となったため、焼結粒子サイズは測定不能であった。このため、上記表1には「-」を記載した。
また、実施例1-1~実施例1-3は、比較例1-1~比較例1-2と比較して、変動係数の値が小さい場合が多く、焼結粒子サイズのばらつきが小さい傾向が見られた。
【0043】
【表2】
【0044】
上記表2では、体積抵抗率を測定しなかった場合には「-」を記載している。
上記表2に示すように、Ga含有量が30モルppm以上、30000モルppm未満(3モル%未満)である実施例1-1~実施例1-3は、各焼成温度において、Ga含有量が30モルppm未満である比較例1-1~比較例1-2、および、Ga含有量が30000モルppm以上(3モル%以上)である比較例1-3~比較例1-5と比較して、体積抵抗率が小さく、導電性に優れていた。
【0045】
<合成例2(実施例2)>
合成例1で調製したGa無添加の酸化亜鉛粉末(比較例1-1の酸化亜鉛粉末)を、硝酸ガリウム水溶液に添加、混合し、200℃で乾燥させることによって、Ga含有量が300モルppmおよび3000モルppmである酸化亜鉛粉末を得た。得られた酸化亜鉛粉末においては、粉末粒子の表面にGaが無定形水酸化物として析出し、固定されていると考えられる。
【0046】
<合成例3(比較例3および実施例3)>
まず、沈殿物生成反応による沈殿物の生成が終了した後における攪拌養生の時間を10分間に変更した以外は、合成例1と同様にして、塩基性炭酸亜鉛の乾燥粉を得た。合成例1と同様に分析した結果、ハイドロジンカイトを主成分とする塩基性炭酸亜鉛が得られたことが分かった。また、ろ液の分析をしたところ、沈殿物の歩留まりはほぼ99%であった。
得られた塩基性炭酸亜鉛を用いて、合成例1と同様にして熱処理を行ない、酸化亜鉛粉末を得た。合成例3では、Ga含有量を、0モルppm、300モルppm、および、3000モルppmとした。
【0047】
<評価2:酸化亜鉛粉末の評価>
合成例1(比較例1および実施例1)および合成例3(比較例3および実施例3)の酸化亜鉛粉末について、X線回折装置(ブルッカー社製 D8ADVANCE)を用いてX線回折を行ない、結晶子サイズを求め、また、BET比表面積測定装置(カンタクロム社製 AUTOSORB-MP1)を用いてBET法による比表面積の測定を行ない、BET径を求めた。更に、上述した方法にしたがって、軽装かさ密度およびタップ密度を求めた。結果を下記表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
上記表3に示すように、合成例1の酸化亜鉛粉末は、合成例3の酸化亜鉛粉末よりも、軽装かさ密度およびタップ密度が高い値を示した。このため、合成例1の酸化亜鉛粉末は、成形して焼結体を得るに当たって、充填密度が高く、粒子どうしの接触点が多くなることによって、収縮が小さくなり、低温(例えば1000℃以下)でも緻密な焼結体が得られることが期待できる。
【0050】
更に、合成例1および合成例3について、塩基性炭酸亜鉛を熱処理する際の温度(熱処理温度)を、380℃だけでなく、350℃~420℃の範囲の温度に変えて、酸化亜鉛粉末を調製し、結晶子サイズおよびタップ密度を求めた。結果を図3のグラフに示す。
図3は、合成例1および合成例3について、酸化亜鉛粉末の結晶子サイズとタップ密度との関係を示すグラフである。
図3のグラフにおいて、Ga含有量が30モルppm~3000モルppmの合成例1(実施例1)は白抜き丸形のプロット、Ga無添加の合成例1は黒丸のプロット、Gaを含有させた合成例3は白抜き菱形のプロット、Ga無添加の合成例3は黒菱形のプロットで示した。各合成例のプロットは、熱処理温度の違いも含んでいる。
図3のグラフを見ると、合成例1では、合成例3と比較して、結晶子サイズが同程度である場合、約3倍のタップ密度が得られることが分かった。
【0051】
ここで、合成例1および合成例3の酸化亜鉛粉末(いずれもGa無添加)を、極低加速SEMを用いて、加速電圧3kVで観察した。
図1は、合成例1の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。図2は、合成例3の酸化亜鉛粉末を示すSEM写真である。合成例1(図1)では、酸化亜鉛粉末を構成する粒子どうしの凝集および連結が、合成例3(図2)よりも軽微であり、過剰な粒成長が抑制されていることが認められる。
【0052】
より詳細には、合成例3では、攪拌養生の時間を短くしたことによって、一次粒子どうしがフレーク状に連結したと考えられる。これに対して、合成例1では、撹拌養生の時間を長くしたことにより、一次粒子どうしが、撹拌によって衝突を繰り返してフレーク形状が消失し、顆粒状になったと考えられる。
合成例1の酸化亜鉛粉末のタップ密度が合成例3よりも高くなること(図3参照)の理由は、明確ではないが、酸化亜鉛粉末を構成する粒子どうしの凝集および連結が軽微であること(図1参照);適度な凝集によって二次粒子を形成すること;等が考えられる。
【0053】
<評価3:成形体の評価>
合成例3の酸化亜鉛粉末についても、合成例1と同様にして、プレス成形を行ない、φ20mm×2mmの円板状の成形体(n=15)を得た。
円板状の成形体について、密度(単位:g/cm)を求めた。
成形体密度は、15サンプルの平均値とし、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
上記表4に示すように、実施例1の成形体は、実施例3よりも、Ga含有量が同じである場合、高密度でばらつきも小さいことが分かった。このため、実施例1の酸化亜鉛粉末は、プレス成形に好適である。
【0056】
<評価4:焼結体の評価>
合成例3の酸化亜鉛粉末についても、合成例1と同様にして、プレス成形した後に焼成し、円板状の焼結体(n=15)を得た。
円板状の焼結体について、密度(単位:g/cm)を求めるとともに、SEMを用いて観察して焼結粒子サイズ(単位:μm)を測定した。
焼結体密度および焼結粒子サイズは、それぞれ、15サンプルの平均値とした。いずれも、標準偏差および変動係数(=(標準偏差/平均値)×100)も求めた。変動係数(単位:%)は、ばらつきの指標となる。結果を下記表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
上記表5に示すように、実施例1の焼結体は、実施例3よりも、Ga含有量が同じである場合、高密度でばらつきも小さいことが分かった。
以上のことから、実施例1の酸化亜鉛粉末は、上記表2に示した結果も踏まえると、導電性に優れ、かつ、緻密な焼結体を得るための酸化亜鉛焼結体作製用酸化亜鉛粉末として好適である。
図1
図2
図3