(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】抗-TIGIT抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220119BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220119BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220119BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220119BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220119BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220119BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220119BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220119BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220119BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220119BHJP
A61K 45/08 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12P21/08
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K47/68
A61K45/08
(21)【出願番号】P 2020545179
(86)(22)【出願日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2019002440
(87)【国際公開番号】W WO2019168382
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】10-2018-0024822
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516006530
【氏名又は名称】ユハン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】YUHAN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イ クァンフン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ナレ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ウンジョン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨンポン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ナクホ
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム キホン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ソンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ビョンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュヤン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ムヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンソ
(72)【発明者】
【氏名】キム キュテ
(72)【発明者】
【氏名】コ ポングク
【審査官】原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号
1のアミノ酸配列を含む重鎖(heavy chain)CDR1、
配列番号
3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号
5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、
配列番号
7のアミノ酸配列を含む軽鎖(light chain)CDR1、
配列番号
9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号1
1のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域と、
を含むか、又は
(2)配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖(heavy chain)CDR1、
配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、
配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖(light chain)CDR1、
配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域と
を含む、抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号13又は14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15又は16の軽鎖可変領域とを含む、請求項1に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
単クローン抗体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗原結合断片は、前記抗-TIGIT抗体のscFv、(scFv)
2、scFv-Fc、Fab、Fab’及びF(ab’)
2からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1
~3のいずれか一項に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか一項に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む、癌又は腫瘍治療用医薬組成物。
【請求項6】
前記癌又は腫瘍は、皮膚癌、肝臓癌、肝細胞癌、胃癌、乳房癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽腔癌、喉頭癌、膵膓癌、膀胱癌、大膓癌、結腸癌、子宮頸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状線癌、腎臓癌、食道癌、胆管癌、精巣癌、直膓癌、頭頸部癌、頸椎癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫及び神経膠腫からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1
~4のいずれか一項に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片及び他の癌治療剤を含む癌又は腫瘍治療用併用投与組成物。
【請求項8】
前記癌治療剤は免疫チェックポイント抑制剤であることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記免疫チェックポイント抑制剤は、抗-CTLA-4抗体、抗-PD-1抗体又は抗-PD-L1抗体であることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1
~4のいずれか一項に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を含む、抗体-薬物接合体(antibody-drug conjugate)。
【請求項11】
請求項10に記載の抗体-薬物接合体を含む、癌又は腫瘍治療用組成物。
【請求項12】
請求項1
~4のいずれか一項に記載の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片をコードする、核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸を含む、組み換え発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載の組み換え発現ベクターで形質転換された、宿主細胞。
【請求項15】
動物細胞、植物細胞、酵母、大膓菌及び昆虫細胞からなる群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
サル腎臓細胞7(COS7:monkey kidney cells)細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:chinese hamster ovary)細胞、W138、ベビーハムスター腎臓(BHK:baby hamster kidney)細胞、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞、HEK293細胞、大膓菌、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus sp.)、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces sp.)及びニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の宿主細胞。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか一項に記載の宿主細胞を培養する段階を含む、抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍免疫抑制因子であるTIGIT(T cell immunoglobulin and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif[ITIM] domain)に特異的に結合する新規の抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含むベクター及び宿主細胞、前記抗体又はその抗原結合断片の製造方法、及び前記抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物とその用途に関するものである。
【0002】
本発明によるTIGITに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、又はこれを有効成分として含む医薬組成物は好ましくは癌又は腫瘍治療の用途に使うことができるが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0003】
我が身の免疫システム(immune system)は、外部から流入する病源菌やウイルス(抗原)及び癌細胞などの異常細胞を攻撃して我が身を保護する機能をする。すなわち、我が身の免疫システムの主要機能は、身体内の正常細胞と、外部侵入者及び癌細胞などの異常細胞を区分し、攻撃するか否かを決定する。我が身の免疫システムにおいて、癌細胞を区分し出すことができる代表的な兔疫細胞はT細胞であり、元気な人体で癌細胞が発生しても免疫反応によって効果的に癌細胞を死滅させることができる。したがって、癌の実施は免疫体系に異常があることを意味する。
【0004】
我が身の免疫システムは、T細胞の過多増殖による過多免疫反応を抑制するための免疫検問体系を有している。このような免疫検問体系を免疫チェックポイント(immune checkpoint)といい、免疫チェックポイントに関与するタンパク質を免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)と言う。
【0005】
根本的に免疫チェックポイントはT細胞の過活性化及び/又は過多増殖による過剰免疫反応を抑制する機能をするが、癌細胞はこのような免疫チェックポイントを悪用してT細胞が自身を攻撃することができないようにすることにより、免疫システムによる攻撃から脱するようになり、究極に癌が進行する結果をもたらす。
【0006】
このような免疫チェックポイントの抑制剤を用いて癌などの疾患を治療することができるというのはもう該当技術分野に知られており、現在免疫チェックポイントタンパク質を標的とする抗体医薬品が市販されており、多様な免疫チェックポイント抑制剤が開発されている。
【0007】
最初に開発された免疫チェックポイント抑制剤形態の治療剤は免疫チェックポイント受容体であるCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte associated antigen-4)に特異的な単クローン抗体であるイピリムマブ(ipilimumab)であり、転移性悪性黒色腫にその効果を現した。ついで、PD-1(programmed cell death-1)とPD-1に対するリガンドであるPD-L1(programmed death ligand-1)に特異的な単クローン抗体が開発されている。代表的なものとしては、ニボルマブ(nivolumab)、ペムブロリズマブ(pembrolizumab)、アベルマブ(avelumab)、アテゾリズマブ(atezolizumab)、デュルバルマブ(durvalumab)などがある。PD-1又はPD-L1抑制剤はその効果が悪性黒色腫だけではなく多様な腫瘍で現れる。
【0008】
TIGIT(T cell immunoglobulin and immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif[ITIM] domain)は主に活性化したT細胞及びNK(natural killer)細胞で発現する受容体であり、広い意味の免疫チェックポイントタンパク質に含まれる。
【0009】
TIGITは癌細胞表面のCD155、CD112などのリガンドと結合して兔疫細胞の活性化を阻害する。このようなTIGITを標的とする抗体は、PD-1/PD-L1遮断抗体とともにCD8+T細胞の活性化を誘導して腫瘍やウイルスを効果的に除去すると報告された。
【0010】
現在まで数種の抗-TIGIT抗体が報告されたが(US9,713,641B、US2016/0176963A、US9,499,596Bなど)、その具体的な機序に対する研究はまだ少ない実情であるのみならず、実際の治療剤として使用可能な程度の効力(efficacy)を有する抗体が開発されてはいない実情であり、依然として高水準の効力を有するTIGIT特異的抗体に対する要求は切実な状況である。
【0011】
したがって、本発明者は、TIGITに特異的に結合する新規の抗体を開発しようと鋭意努力した結果、癌細胞で過発現するTIGITに対する高い親和力を有する前記新規の抗-TIGIT抗体を発明し、本発明による抗体又はその抗原結合断片の効率的な坑癌治療剤としての可能性を確認して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国登録特許第9,713,641号公報
【文献】米国公開特許第2016/0176963号公報
【文献】米国登録特許第9,499,596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、TIGITに特異的に結合する新規の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物、特に免疫坑癌治療剤としての医薬組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を投与することを特徴とする癌又は腫瘍の治療方法、癌又は腫瘍の治療のための前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の用途及び癌又は腫瘍の治療用薬剤製造のための前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の用途を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片及び他の癌治療剤を含む癌又は腫瘍治療用併用投与組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含むベクター及び宿主細胞、これを用いた抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明はTIGITに特異的に結合する新規の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を提供する。
本発明による抗-TIGIT抗体、又は抗原結合断片は、
配列番号1又は2のアミノ酸配列を含む重鎖(heavy chain)CDR(complementarity determining region、相補性決定領域)1、
配列番号3又は4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号5又は6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、
配列番号7又は8のアミノ酸配列を含む軽鎖(light chain)CDR1、
配列番号9又は10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号11又は12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域とを含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明による抗-TIGIT抗体、又は抗原結合断片は配列番号13又は14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15又は配列番号16の軽鎖可変領域とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】初期選別された抗-TIGIT抗体の種間交差反応性(species crossre activity)を確認するために、ヒト(human)、マウス(mouse)及び赤毛猿(rhesus)のTIGIT抗原に対する抗-TIGIT抗体の結合を確認するためにELISAで測定した結果を示した図である。
【
図2】初期選別された抗-TIGIT抗体のTIGITスーパーファミリ(super-family)間の特異性を確認するために、TIGIT、CD96、CD155、CD112、CD113、CD226に対する結合を確認するためにELISAで測定した結果を示した図である。
【
図3】初期選別された抗-TIGIT抗体の細胞表面に発現したTIGIT抗原に対する結合を確認するために、蛍光柔細胞分析器を用いて測定した結果を示した図である。
【
図4】抗-TIGIT抗体とTIGITタンパク質の細胞表面での結合程度を蛍光柔細胞分析器で測定した結果を示した図である。
【
図5】抗-TIGIT抗体処理によるTIGITとCD155との間の結合を抑制する程度を示すブロッケード分析(blockade assay)結果を示した図である。
【
図6】TIGITが過発現したNK92細胞株とPVRが過発現したHeLa細胞株を共培養した条件で、抗-TIGIT抗体処理によるNK92細胞株に来由のIFN-g分泌量を測定して示した図である。
【
図7】TIGITが過発現したNK92細胞株とPVRが過発現したHeLa細胞株を共培養した条件で、抗-TIGIT抗体処理によるNK92細胞株のNKG2D発現を蛍光柔細胞分析器で測定した結果を示した図である。
【
図8】一実施例による抗-TIGIT抗体のin vivo効力を評価するために、評価試験の終了日の腫瘍容積を示したグラフであって、CT26腫瘍モデルでの効能を示す結果を示した図である。
【
図9】一実施例による抗-TIGIT抗体のin vivo容量別単独及び抗-PD-L1抗体との併用効力を評価するために、評価試験の終了日の腫瘍容積を示したグラフであって、CT26腫瘍モデルでの効能を示す結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
他に定義しない限り、本明細書で使用した全ての技術的及び科学的用語は本発明が属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるものと同じ意味を有する。一般に、この明細書で使用した命名法は当該技術分野でよく知られて通常的に使われるものである。
【0022】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、
配列番号1又は2のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号3又は4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び
配列番号5又は6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、
配列番号7又は8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号9又は10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び
配列番号11又は12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域とを含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、配列番号13又は14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号15又は配列番号16の軽鎖可変領域とを含むことを特徴とする。
【0024】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、
(1)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域、及び
配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域と、
(2)配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域、及び
配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域と、
(3)配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、
(4)配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び
配列番号16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、
を含むことを特徴とする。
【0025】
T細胞、NK細胞、樹枝状細胞のような免疫細胞の表面に発現するTIGITは癌細胞表面のPVR(poliovirus receptor、CD155)と結合して免疫細胞の活性を阻害する。本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片はTIGITのCD155結合部位に特異的に結合してTIGIT/CD155相互作用による信号伝逹を阻害し、免疫細胞の活性化を誘導し、腫瘍細胞の成長を阻害する機能を有する。CD155は、ヒト、猿、マウス、ラットなどの多様な哺乳動物の細胞表面で発現し、TIGITとの結合によって免疫細胞の活性化を抑制する信号を伝達する。
【0026】
すなわち、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片はTIGIT/CD155相互作用による信号伝逹を阻害し、これにより癌細胞による免疫細胞の抑制信号が相殺され、免疫反応の再活性化を誘導することにより効果的に癌細胞を攻撃するようにして坑癌効果を現すようになり、究極に腫瘍免疫抑制因子であるTIGITを標的とする免疫坑癌治療用途に使用可能である。特に、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片は癌を有する個体でTIGITの発現又は活性を減少させるか抑制させてT細胞やNK細胞の持続的な坑癌反応を誘導することによって癌を治療する効果を有する。
【0027】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の抗原として作用するTIGITタンパク質は免疫細胞の活性抑制に密接な関連があり、免疫細胞の表面に存在する膜タンパク質であり、免疫細胞の補助抑制受容体として作用する。前記TIGITは、ヒト、猿などの霊長類、マウス、ラットなどの齧歯類などの哺乳類から由来するものであり得る。
【0028】
本明細書で、用語“TIGIT”は細胞によって天然的に発現する、TIGITの任意の変異体、イソ型及び種同族体を総称する概念であり、好ましくはヒトのTIGITを意味するが、これに限定されるものではなく、他の動物などのTIGITを含む概念であり得る。
【0029】
本発明による抗-TIGIT抗体はヒトTIGIT(hTIGIT;配列番号21;NCBI accession No.NP_776160)のCD155結合部位又は結合を阻害する部位に特異的に結合することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の重鎖CDR及び軽鎖CDRのアミノ酸配列及び可変領域の配列は表1~表4に記載した通りである。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
一方、配列番号1又は2のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3又は4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5又は6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3とそれぞれ80%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは99%の配列相同性を有する配列を含む重鎖可変領域を含み、本発明によるTIGITと同じ特性を有する抗体又はその抗原結合断片も本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の権利範囲に含まれ、
配列番号13又は14のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と80%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは99%の配列相同性を有する配列を含み、本発明によるTIGITと同じ特性を有する抗体又はその抗原結合断片も本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の権利範囲に含まれる。
【0036】
また、配列番号7又は8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号9又は10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2,及び配列番号11又は12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3とそれぞれ80%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは99%の配列相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含み、本発明によるTIGITと同じ特性を有する抗体又はその抗原結合断片も本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の権利範囲に含まれ、
配列番号15又は16のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と80%以上の配列相同性、好ましくは90%以上の配列相同性、より好ましくは99%の配列相同性を有する配列を含む軽鎖可変領域を含み、本発明によるTIGITと同じ特性を有する抗体又はその抗原結合断片も本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の権利範囲に含まれる。
【0037】
また、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片には、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片において、同類置換によってアミノ酸配列の一部が置換された抗体又はその抗原結合断片も含まれる。
【0038】
本明細書で、“保存的置換”とは、1個以上のアミノ酸を該当ポリペプチドの生物学的又は生化学的機能の損失を引き起こさない類似生化学的特性を有するアミノ酸に置換することを含むポリペプチドの変形を意味する。“保存的アミノ酸置換”はアミノ酸残基を類似測鎖を有するアミノ酸残基に代替させる置換である。類似測鎖を有するアミノ酸残基部類は当該技術分野で規定されており、よく知られている。これら部類は、塩基性測鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性測鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、帯電されなかった極性測鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性測鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝測鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族測鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。本発明の抗体が保存的アミノ酸置換を有し、依然として活性を保有することができることが予想される。
【0039】
本明細書での用語“TIGIT特異的抗体”はTIGITに結合してTIGITの生物学的活性の抑制をもたらす抗体を意味し、“抗-TIGIT抗体”と混用される。
【0040】
本明細書での“抗-TIGIT抗体”は多クローン抗体(polyclonal antibody)及び単クローン抗体(monoclonal antibody)の両者を含む概念であり、好ましくは単クローン抗体であり、完全な全抗体(whole antibody)形態を有することができる。全抗体は2個の全長の軽鎖及び2個の全長の重鎖を有する構造であって、不変領域を含む構造であり、それぞれの軽鎖は重鎖とジスルフィド結合で連結されている。
【0041】
本発明による抗-TIGIT抗体の全抗体はIgA、IgD、IgE、IgM及びIgG形態を含む概念であり、IgGは亜類型(subtype)であり、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む。
【0042】
本発明による抗-TIGIT抗体はヒト抗体ライブラリ(human antibody library)から選別された完全ヒト抗体(fully human antibody)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0043】
本発明による抗-TIGIT抗体の“抗原結合断片”は抗-TIGIT抗体の抗原、すなわちTIGITと結合可能な機能を保有している断片を意味し、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv(scFv)2、scFv-Fc、及びFvなどを含む概念であり、本明細書では“抗体断片”と同じ意味で混用される。
【0044】
前記Fabは軽鎖及び重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域と重鎖の第1不変領域(CH1ドメイン)を有する構造であり、1個の抗原結合部位を有する。Fab’は重鎖CH1ドメインのC末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabとは違いがある。F(ab’)2抗体はFab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を成しながら生成される。
【0045】
前記Fv(variable fragment)は重鎖可変部位及び軽鎖可変部位のみを有している最小の抗体断片を意味する。二重鎖Fv(dsFv)はジスルフィド結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位が連結されており、単鎖Fv(scFv)は、一般的にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されている。このような抗体断片はタンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全抗体をパパインで制限切断すればFabを得ることができ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片を得ることができる)、遺伝子組み換え技術(例えば、抗体の重鎖又はその可変領域をコードするDNA及び軽鎖又はその可変領域をコードするDNAを鋳型とし、プライマー対を用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)法で増幅させ、ペプチドリンカーをコードするDNAと両末端がそれぞれ重鎖又はその可変領域及び軽鎖又はその可変領域と連結されるようにするプライマー対を組み合わせて増幅)によって製作することができる。
【0046】
本発明は他の観点で、本発明は抗-TIGIT抗体をコードする核酸に関するものである。本明細書で使われる核酸は、細胞、細胞溶解物(lysate)中に存在するか、又は部分的に精製された形態又は実質的に純粋な形態で存在することもできる。核酸はアルカリ/SDS処理、CsClバンド化(banding)、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動及び当該技術分野によく知られたその他のものを含む標準技術によって他の細胞成分又はその他の汚染物質、例えば他の細胞の核酸又はタンパク質から精製されて出る場合、“単離”されるか“実質的に純粋になった”ものである。本発明の核酸は、例えばDNA又はRNAであり得、イントロン配列を含むか含まないことができる。
【0047】
本発明は、さらに他の観点で、前記核酸を含むベクターに関するものである。本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の発現のために、部分的又は全長の軽鎖及び重鎖をコードするDNAを標準分子生物学技術(例えば、PCR増幅又は目的抗体を発現するハイブリドーマを用いたcDNAクローニング)で収得することができ、DNAが転写及び翻訳制御配列に“作動可能に結合”して発現ベクター内に挿入されることができる。
【0048】
本明細書で使われる用語“作動可能に結合”はベクター内の転写及び翻訳制御配列が抗体遺伝子の転写及び翻訳を調節する意図された機能をするように抗体をコードする遺伝子がベクター内にライゲーションされるということを意味することができる。
【0049】
発現ベクター及び発現制御配列は使われる発現用宿主細胞と親和性があるように選択される。抗体の軽鎖遺伝子及び抗体の重鎖遺伝子は別個のベクター内に挿入されるか、両遺伝子が共に同じ発現ベクター内に挿入される。抗体は標準方法(例えば、抗体遺伝子断片及びベクター上の相補性制限酵素部位のライゲーション、又は制限酵素部位が全然存在しない場合、ブラント(blunt)末端ライゲーション)で発現ベクター内に挿入される。場合によって、前記組み換え発現ベクターは宿主細胞からの抗体鎖の分泌を容易にする信号ペプチドをコードすることができる。抗体鎖遺伝子は、信号ペプチドがフレームに合わせて抗体鎖遺伝子のアミノ末端に結合するようにベクター内にクローニングされることができる。信号ペプチドは兔疫グロブリン信号ペプチド又は異種性信号ペプチド(すなわち、兔疫グロブリンの他のタンパク質来由の信号ペプチド)であり得る。また、前記組み換え発現ベクターは宿主細胞において抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を有する。“調節配列”は抗体鎖遺伝子の転写又は翻訳を制御するプローモーター、エンハンサー及びその他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化信号)を含むことができる。通常の技術者は、形質転換させる宿主細胞の選択、タンパク質の発現水準などの因子によって調節配列を異に選択して、発現ベクターのデザインが変わることができることを認識することができる。
【0050】
本発明は、さらに他の観点で、前記核酸又は前記ベクターを含む宿主細胞に関するものである。本発明による宿主細胞は、動物細胞、植物細胞、酵母、大膓菌及び昆虫細胞からなる群から選択されることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0051】
具体的には、本発明による宿主細胞は、大膓菌、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus sp.)のような原核細胞であり得る。また、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)のような真菌、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces sp.)及びニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のような酵母、その他の下等真核細胞、及び昆虫からの細胞のような高等真核生物の細胞のような真核細胞であり得る。
【0052】
また、植物又は哺乳動物から由来することができる。好ましくは、猿の腎臓細胞7(COS7:monkey kidney cells)細胞、NSO細胞、SP2/0、チャイニーズハムスター卵巣(CHO:chinese hamster ovary)細胞、W138、ベビーハムスター腎臓(BHK:baby hamster kidney)細胞、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞及びHEK293細胞などが利用可能であるが、これに限定されない。特に好ましくは、CHO細胞を使うことができる。
【0053】
前記核酸又は前記ベクターは宿主細胞に形質移入又はトランスフェクション(transfection)される。“形質移入”又は“トランスフェクション”させるために原核又は真核宿主細胞内に外因性核酸(DNA又はRNA)を導入するのに通常使われる多種の多様な技術、例えば電気泳動法、リン酸カルシウム沈澱法、DEAE-デキストラントランスフェクション又はリポフェクション(lipofection)などを使うことができる。本発明による抗-TIGIT抗体を発現させるために多様な発現宿主/ベクターの組合せを用いることができる。真核宿主に適した発現ベクターとしては、これらに限定されるものではないが、SV40、ウシ乳頭腫ウイルス、アデノウィルス、アデノ関連ウイルス(adeno-associated virus)、サイトメガロウイルス及びレトロウイルスから来由する発現調節配列が含まれる。細菌宿主に使用可能な発現ベクターには、pET、pRSET、pBluescript、pGEX2T、pUCベクター、col E1、pCR1、pBR322、pMB9及びこれらの誘導体のように大膓菌(Escherichia coli)から得られる細菌性プラスミド、RP4のようにより広い宿主範囲を有するプラスミド、λgt10、λgt11、NM989のような非常に多様なファージラムダ(phage lambda)誘導体として例示可能なファージDNA、及びM13とフィラメント性の単一本のDNAファージのようなその他のDNAファージが含まれる。酵母細胞に有用な発現ベクターは2℃プラスミド及びその誘導体である。昆虫細胞に有用なベクターはpVL941である。
【0054】
本発明は、さらに他の観点で、宿主細胞を培養して本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を発現させる段階を含む本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の製造方法に関するものである。
【0055】
前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を発現することができる組み換え発現ベクターが哺乳類宿主細胞内に導入される場合、抗体は宿主細胞で抗体が発現するのに十分な期間の間、又はより好ましくは宿主細胞が培養される培養培地内に抗体が分泌されるのに十分な期間の間に宿主細胞を培養することによって製造することができる。
【0056】
場合によって、発現した抗体は宿主細胞から分離して均一精製することができる。前記抗体の分離又は精製は、通常のタンパク質で使われている分離、精製方法、例えばクロマトグラフィーによって遂行することができる。前記クロマトグラフィーは、例えば、プロテインAカラム、プロテインGカラムを含む親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性クロマトグラフィーを含むことができる。前記クロマトグラフィーの他に、追加として濾過、限外濾過、塩析、透析などを組み合わせることにより抗体を分離及び精製することができる。
【0057】
本発明は、さらに他の観点で、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む癌又は腫瘍治療用薬学組成物に関するものである。
【0058】
本発明は、さらに他の観点で、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を予防又は治療の必要な患者に投与することを特徴とする癌又は腫瘍の治療方法に関するものである。
【0059】
本発明は、さらに他の観点で、癌又は腫瘍の治療のための前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の用途に関するものである。
【0060】
本発明は、さらに他の観点で、癌又は腫瘍の治療用薬剤製造のための前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の用途に関するものである。
【0061】
用語“癌”又は“腫瘍”は典型的に調節されなかった細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指称するか意味する。
【0062】
本発明の組成物で治療可能な癌又は癌腫は特に制限されず、固形癌及び血液癌のいずれも含む。このような癌の例としては、黒色腫などの皮膚癌、肝臓癌、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、胃癌、乳房癌、肺癌、卵巣癌、気管支癌、鼻咽腔癌、喉頭癌、膵膓癌、膀胱癌、大膓癌、結腸癌、子宮頸癌、脳癌、前立腺癌、骨癌、甲状腺癌、副甲状線癌、腎臓癌、食道癌、胆管癌、精巣癌、直膓癌、頭頸部癌、頸椎癌、尿管癌、骨肉腫、神経芽細胞腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫及び神経膠腫からなる群から選択されることができるが、これに限定されるものではない。好ましくは、本発明の組成物で治療可能な癌は、大膓癌、乳房癌、肺癌及び腎臓癌からなる群から選択されることを特徴とすることができる。
【0063】
本発明は、治療有効量の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片、及び製薬上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。“製薬上(薬学的に)許容される担体”は製剤を製剤化するか又は安定化させることを助けるために活性成分に加わることができる物質であり、患者に有意な有害毒性効果を引き起こさない。
【0064】
前記担体とは、患者を刺激しなく、投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体又は希釈剤を言う。液状溶液に製剤化する組成物において許容される薬学的担体としては、滅菌及び生体に適したものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分の中で1成分以上を混合して使うことができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤に製剤化することができる。他の担体は、例えば文献[Remington's Pharmaceutical Sciences (E. W. Martin)]に記載されている。このような組成物は、治療有効量の1種以上の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片を含むことができる。
【0065】
製薬上許容される担体は、滅菌注射可能な溶液剤又は分散液剤を即時投与用(extemporaneous)に製造するための滅菌水溶液又は分散液及び滅菌粉末を含む。製薬活性物質のためのこのような媒質及び作用剤の使用は当該技術分野に公知となっている。組成物は、好ましくは、非経口注射用に製剤化される。組成物は、溶液剤、マイクロエマルジョン剤、リポソーム剤、又は高薬物濃度に適したその他の注文された構造物に製剤化されることができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)及びこれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒質であり得る。ある場合には、組成物中に、等張化剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール又は塩化ナトリウムを含ませることができる。滅菌注射可能な溶液剤は所要量の活性化合物を必要によって前記記載の成分の中で1種又はこれらの組合せとともに適切な溶媒中に混入させた後、滅菌精密濾過を行って製造可能である。一般に、分散液剤は、活性化合物を基本的な分散媒質及び前記記載のものからのその他の必要な成分を含む滅菌ビークルに混入させることで製造される。滅菌注射可能な溶液剤を製造するための滅菌粉末の場合、ある製造方法は、活性成分及び任意の追加の所望成分の粉末をこれの予め滅菌濾過させた溶液から生成する真空乾燥及び冷凍乾燥(凍結乾燥)である。
【0066】
本発明による医薬組成物の投与量は特に限定されないが、患者の健康状態及び体重、疾患の重症度、薬剤の種類、投与経路及び投与時間を含む多様な要因によって変更可能である。本発明による医薬組成物は、一日に1回容量又は多数回容量でラット(rat)、マウス(mouse)、家畜、ヒトなどを含む哺乳類内に典型的に許容された経路、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与又は直腸内投与の形態で投与可能であるが、これに限定されるものではない。
【0067】
本発明による医薬組成物は、必要によってボーラスで又は連続注入で患者に投与されることができる。例えば、Fab断片として提示される本発明の抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片のボーラス投与は、0.01μg/kg体重~100mg/kg体重、好ましくは1μg/kg体重~10mg/kg体重の量であり得る。
【0068】
本明細書で、“治療有効量”は治療が必要な患者に生体内測定可能な利点を引き起こすのに要求される抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の組合せの量を意味する。正確な量は治療組成物の成分及び物理的特徴、意図する患者集団、個々の患者の考慮事項などによって異なるが、これに制限されない幾多の因子によって異なり、通常の技術者が容易に決定することができる。これらの要因を完全に考慮するとき、副作用なしに最大の効果を得るのに十分な最小量を投与することが重要であり、この服量は当該分野の専門家によって容易に決定されることができる。
【0069】
さらに他の側面で、本発明は、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片、又はこれを含む医薬組成物を治療の必要な個体に投与して癌を治療し、癌の成長を抑制する方法を提供する。
【0070】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片、又はこれを含む医薬組成物は、癌細胞又はそれらの転移を治療するために、又は癌の成長を抑制するために薬学的に効果的な量で投与されることができる。
【0071】
薬学的に効果的な量は、癌の種類、患者の年齢、体重、症状の特性及び程度、現在治療法の種類、治療回数、投与形態及び経路などの多様な要因によって変わることができ、当該分野の専門家によって容易に決定されることができる。本発明の組成物は前述した薬理学的又は生理学的成分を一緒に投与するか順次投与することができ、また従来の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤と順次又は同時に投与することができる。このような投与は単一又は多重投与であり得る。前記要素を全て考慮して副作用なしに最小量で最大効果を得ることができる量を投与することが重要であり、通常の技術者によって容易に決定されることができる。
【0072】
本発明で、“個体”は本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片、又はこれを含む医薬組成物を投与して軽減、抑制又は治療することができる状態や疾患を患っているかそのような危険がある哺乳動物を意味し、好ましくはヒトを意味する。
【0073】
本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片、及びこれを含む医薬組成物は従来の治療剤とともに使用する用途に使われることができる。
【0074】
したがって、本発明は、さらに他の観点で、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片及び他の癌治療剤を含む癌又は腫瘍治療のための併用投与組成物及びこれを用いた治療方法に関するものである。
【0075】
前記他の癌治療剤は、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片の他に、癌治療のために使用可能な全ての治療剤を意味する。
【0076】
本発明において、前記癌治療剤は免疫チェックポイント抑制剤であることを特徴とすることができるが、これに制限されるものではない。
【0077】
本発明において、前記免疫チェックポイント抑制剤はimmune checkpoint inhibitor又はcheckpoint inhibitorを意味し、抗-CTLA-4抗体、抗-PD-1抗体又は抗-PD-L1抗体であることを特徴とすることができるが、これに限定されるものではなく、具体的には、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)又はデュルバルマブ(Durvalumab)などが使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0078】
“併用”は、抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片と、他の癌治療剤のそれぞれが同時、順次、又は逆順に投与されることができることを意味し、通常の技術者の範囲内で適切な有効量の組合せで投与されることができる。
【0079】
本発明の一実施例で、抗-PD-L1抗体と本発明による抗-TIGIT抗体を併用投与した場合、腫瘍の成長をもっと抑制することを確認した。
【0080】
前記併用投与組成物は抗-TIGIT抗体を含み、これに係わる構成は前述した癌の予防又は治療用組成物に含まれた構成と同一であるので、各構成についての説明は併用投与用組成物にも同様に適用される。
【0081】
一側面で、本発明は、本発明による抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片に薬物が接合された抗体-薬物接合体及びこれを含む薬学組成物を提供する。また、本発明は、前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片に薬物が接合された抗体-薬物接合体及びこれを含む薬学組成物を用いて腫瘍を治療する方法を提供する。
【0082】
前記抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片はリンカーを介して薬物に結合されることができる。前記リンカーは抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片と薬物との間を連結する部位であり、例えば前記リンカーは細胞内の条件で切断可能な形態、すなわち細胞内の環境で抗体から薬物がリンカーの切断によって放出できるようにする。
【0083】
前記リンカーは、細胞内環境、例えばリソソーム又はエンドソームに存在する切断剤によって切断されることができ、例えば細胞内ペプチダーゼ又はプロテアーゼ酵素、例えばリソソーム又はエンドソームプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーであり得る。一般に、ペプチドリンカーは少なくとも2個以上のアミノ酸長さを有する。前記切断剤は、カテプシンB及びカテプシンD、プラスミンを含むことができ、ペプチドを加水分解して薬物を標的細胞内に放出するようにする。
【0084】
前記ペプチドリンカーはチオール依存性プロテアーゼカテプシン-Bによって切断されることができ、これは癌組職で過発現し、例えばPhe-Leu又はGly-Phe-Leu-Glyリンカーが使われることができる。また、前記ペプチドリンカーは、例えば細胞内プロテアーゼによって切断されることができるものであり、Val-CitリンカーであるかPhe-Lysリンカーであり得る。
【0085】
一実施例で、前記切断性リンカーはpH敏感性を有し、特定のpH値で加水分解に敏感であり得る。一般に、pH敏感性リンカーは酸性条件で加水分解することができることを示す。例えば、リソソームで加水分解することができる酸性不安定リンカー、例えばヒドラゾン、セミカルバゾン、チオカルバゾン、シスアコニティックアミド(cis-aconitic amide)、オルトエステル、アセタール、ケタールなどであり得る。
【0086】
他の実施例で、前記リンカーは還元条件で切断されることもでき、例えば二流化リンカーがこれに相当することができる。SATA(N-succinimidyl-S-acetylthioacetate)、SPDP(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate)、SPDB(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)butyrate)及びSMPT(N-succinimidyl-oxycarbonyl-alpha-methyl-alpha-(2-pyridyl-dithio)toluene)を使って多様な二流化結合を形成することができる。
【0087】
前記薬物及び/又は薬物-リンカーは抗体のリシンを介して無作為に接合されるか、二流化結合鎖を還元したときに露出されるシステインを介して接合されることができる。場合によって、遺伝工学的に製作されたタグ、例えばペプチド又はタンパク質に存在するシステインを介してリンカー-薬物が結合されることができる。前記遺伝工学的に製作されたタグ、例えばペプチド又はタンパク質は、例えばイソプレノイドトランスフェラーゼによって認識可能なアミノ酸モチーフを含むことができる。前記ペプチド又はタンパク質はペプチド又はタンパク質のカルボキシ末端で欠失(deletion)を有するか、ペプチド又はタンパク質のカルボキシ(C)末端にスペーサーユニットの共有結合による付加を有する。
【0088】
また、前記リンカーは、例えば非切断性リンカーであり得、抗体加水分解の一段階のみを介して薬物が放出され、例えばアミノ酸-リンカー-薬物複合体を生産する。このような類型のリンカーはチオエーテル基又はマレイミドカプロイル基(maleimidocaproyl)であり得、血液内安全性を維持することができる。
【0089】
前記抗体-薬物接合体における薬物は薬理学的効果を示す製剤であり、抗体に結合されることができ、具体的に化学療法剤、毒素、ミクロRNA(miRNA)、siRNA、shRNA又は放射性アイソトープであり得る。前記化学療法剤は、例えば細胞毒性製剤又は免疫抑制剤であり得る。具体的に、マイクロチューブリン抑制剤、類似分裂抑制剤、トポイソメラーゼ抑制剤、又はDNA挿入剤として機能することができる化学療法剤を含むことができる。また、免疫調節化合物、抗癌剤及び抗ウイルス剤、又はこれらの組合せを含むことができる。
【0090】
このような薬物には、例えば、メイタンシノイド、オーリスタチン(auristatin)、アミノプテリン、オクチノマイシン、ブレオマイシン、サリドマイド、カンプトセシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメチルスルホニルヒドラジド、エスペラマイシン、エトポシド、6-メルカプトプリン、ドラスタチン、トリコテセン、カリケアマイシン、タクソール(taxol)、タキサン、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、メトトレキサート、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドキソルビシン、メルファラン、クロラムブシル、デュオカルマイシン、L-アスパラギナーゼ(L-asparaginase)、メルカプトプリン(mercaptopurine)、チオグアニン(thioguanine)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、シタラビン(cytarabine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、ニトロソウレア(nitrosourea)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、マイトマイシン(mitomycin;マイトマイシンA、マイトマイシンC)、ダカルバジン(dacarbazine)、プロカルバジン(procarbazine)、トポテカン(topotecan)、ナイトロジェンマスタード(nitrogenmustard)、シトキサン(cytoxan)、エトポシド(etoposide)、5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)、CNU(bischloroethylnitrosourea)、イリノテカン(irinotecan)、カンプトテシン(camptothecin)、ブレオマイシン(bleomycin)、イダルビシン(idarubicin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、プリカマイシン(plicamycin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、アスパラギナーゼ(asparaginase)、ビノレルビン(vinorelbine)、クロラムブシル(chlorambucil)、メルファラン(melphalan)、カルムスチン(carmustine)、ロムスチン(lomustine)、ブスルファン(busulfan)、トレオスルファン(treosulfan)、デカルバジン(decarbazine)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、9-アミノカンプトテシン(9-aminocamptothecin)、クリスナトール(crisnatol)、トリメトレキサート(trimetrexate)、ミコフェノール酸(mycophenolic acid)、チアゾフリン(tiazofurin)、リバビリン(ribavirin)、EICAR(5-ethynyl-1-beta-Dribofuranosylimidazole-4-carboxamide)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、デフェロキサミン(deferoxamine)、フロクスウリジン(floxuridine)、ドキシフルリジン(doxifluridine)、ラルチトレキセド(raltitrexed)、シタラビン(cytarabine(araC))、シトシンアラビノシド(cytosinearabinoside)、フルダラビン(fludarabine)、タモキシフェン(tamoxifen)、ラロキシフェン(raloxifene)、メスゲストロール(megestrol)、ゴセレリン(goserelin)、ロイプロリドアセテート(leuprolide acetate)、フルタミド(flutamide)、ビカルタミド(bicalutamide)、EB1089、CB1093、KH1060、ベルテポルフィン(verteporfin)、フタロシアニン(phthalocyanine)、光線感作剤Pe4(photosensitizer Pe4)、デメトキシ-ヒポクレリンA(demethoxy-hypocrellin A)、インターフェロン-α(Interferon-α)、インターフェロン-γ(Interferon-γ)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor)、ゲムシタビン(Gemcitabine)、ベルケイド(velcade)、レブラミド(Revlimid)、サロミド(thalomid)、ロバスタチン(lovastatin)、1-メチル-4-フェニルピリジニウミオン(1-methyl-4-phenylpyridiniumion)、スタウロスポリン(staurosporine)、アクチノマイシンD(actinomycin D)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ブレオマイシンA2(bleomycin A2)、ブレオマイシンB2(bleomycin B2)、ペプロマイシン(peplomycin)、エピルビシン(epirubicin)、ピラルビシン(pirarubicin)、ゾルビシン(zorubicin)、ベラパミル(verapamil)及びタプシガルギン(thapsigargin)、核酸分解酵素及び細菌や動植物来由の毒素からなる群から選択された1種以上であり得るが、これに限定されるものではない。
【0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものに解釈されないというのは当該技術分野で通常の知識を有する者に自明であろう。
【0092】
実施例1.抗-TIGIT抗体の選別
1.1抗-TIGITヒト抗体scFvとFabクローン選別
【0093】
TIGITに特異的に結合する抗体はscFvとFabヒト抗体ライブラリを用いてファージディスプレイスクリーニング(phage display screening)方法で選別した。scFvライブラリは“Construction of a Large Synthetic Human scFvライブラリ with Six Diversified CDRs and High Functional Diversity(Yang HY et al Molecules and Cells 27, 225-235)”に開示された内容を参考して製造し、Fabライブラリは韓国登録特許第1694832号に開示された内容を参考して製造した。ファージディスプレイスクリーニング(Phage display screening)は総4次ラウンドまで実施し、ラウンド次数が進行する度に抗原量は減らし、水洗回数は増やす条件で実施した。1次と3次はヒトTIGIT-ECD-Fc抗原を、2次と4次はマウスTIGIT-ECD-Fc抗原を用いる抗原交差方式で実施した。PBS bufferに希釈したTIGIT抗原20μgを免疫チューブ(immune tube)に入れ、4℃で夜通しインキュベーションしてチューブの表面にコーティングした。TIGIT抗原がコーティングされた免疫チューブにPBS-T/BSA(5%)溶液を入れ、常温で1時間ブロッキング(blocking)した後、scFv又はFabヒト抗体ライブラリファージをそれぞれ4.7×1012と1.2×1013の量で入れ、常温で2時間インキュベーションしてTIGIT抗原と結合させた。PBST(pH7.4)溶液で水洗(wash)してTIGIT抗原に結合しないファージを除去した後、0.1Mグリシン(pH3.0)溶液を使ってファージを溶出(elution)し、1M Tris-HCl(pH8.0)溶液で中和させた。溶出されたファージはOD6000.5のER2537大腸菌で37℃で感染させた後、VCSM13ヘルパーファージを入れて増幅させ、次のスクリーニングラウンドに使った。各パニングスクリーニング(panning screening)ラウンドごとにファージの数を確認し、入れた総ファージ数と溶出したファージ数の比率を確認することにより、パニング次数が増えるのに従いTIGIT抗原に結合するファージの数が増えることを確認した。
【0094】
各パニングラウンドの結果物から得たファージクローンをER2537大腸菌ストレイン(strain)で感染させた後、アンピシリンプレートに塗抹してコロニー(colony)形態で得た後、ペリプラズム抽出物(periplasmic extract)を用いてTIGIT抗原に対する結合特異性を次のようなELISA方法で確認した。SB/カルベニシリン(50μg/mL)メディアを120μLずつ分株した96-wellプレートにコロニーを採集(picking)して接種した後、OD600が0.6になるまで37℃プレートシェーカー(plate shaker)の2speed条件で培養した。SB/カルベニシリン(50μg/mL)/IPTG5mメディアを30μLずつ入れ、37℃プレートシェーカーの2speedの条件で夜通しインキュベーションした。サンプルを3,000rpmで10分間遠心分離して上澄み液を除去した。生成されたペレットをBBS溶液(200mMホウ酸、150mM NaCl、1mM EDTA)100μLを入れてよく溶かした後、4℃で1時間インキュベーションした。3,000rpmで20分間遠心分離した後、上澄み液のみを分離してペリプラズム抽出物を得た。ペリプラズム抽出物80μLとTBST(5%BSA)80μLを交ぜた後、常温で1時間ブロッキングした。ヒトIgG、ヒトTIGIT-Fc、マウスTIGIT-Fc抗原がコーティングされた96-wellプレートにブロッキングさせたペリプラズム抽出物をwell当たり80μL入れた後、室温で1時間インキュベーションして抗体が抗原に結合するようにした。その後、TBSTで3回水洗した後anti-HA-HRP(Roche)を1:3,000に希釈したTBST(5%BSA)溶液をwell当たり30μLずつ入れ、室温で1時間インキュベーションした。TBSTで3回水洗した後、TMB溶液をwell当たり30μLずつ入れて発色した。1N H2SO4で反応を止めた後、450nmで吸光度を測定した。抗体ペリプラズム抽出物を用いたELISAスクリーニングによってTIGIT抗原に対する結合性がある抗体クローンでscFvライブラリでは14種(S02、S03、S04、S05、S06、S11、S12、S14、S19、S32、S39、S43、S62、S64)、Fabライブラリでは4種(F01、F02、F03、F04)をそれぞれ選別した。
【0095】
1.2選別されたscFv及びFabクローンのIgGクローニングと抗体の生産及び精製
【0096】
選別されたscFv及びFabクローンをIgG形態に生産するために、それぞれの可変部位遺伝子をIgG1抗体の不変部位遺伝子を含んでいる発現ベクターを用いて遺伝子クローニングを実施した。scFv及びFabクローンからPCR増幅された重鎖と軽鎖の可変部位遺伝子はそれぞれClaI(NEB)とNheI(NEB)そしてClaIとBsiWI(NEB)組合せの制限酵素をそれぞれ用いてクローニングすることによりIgG形態に発現することができるベクターを製作した。重鎖はpcDNA3.3(Invitrogen製)、軽鎖はpOptiVEC(Invitrogen製)ベクターを用いた。IgG形態の抗体生産は293F cell line(Invitrogen製)を用いて過渡(transient)トランスフェクション方法で実施した。IgG形態がクローニングされたpcDNA3.3とpOptiVECベクターDNAを293F cellにトランスフェクションした後、6日目に細胞培養液を採取(harvest)して精製に使った。抗体培養液で抗体を精製するために、タンパク質A樹脂を用いたFc精製を遂行した。1XPBS(pH7.4)で平衡(equilibration)させたMabSelect SuReタンパク質A樹脂(GE Healthcare製)に抗体培養液を1mL/minの速度で流してバインドさせた。抗体のバインドが完了した後、樹脂を1XPBS(pH7.4)で1次水洗し、0.1Mグリシン(pH5.5)溶液を使って2次水洗を実施した。最終抗体を得るために、0.1Mグリシン(pH3.5)溶液を使って溶出を実施し、1M Tris-HCl(pH8.0)溶液を用いて中和した。
【0097】
ファージディスプレイスクリーニングで選別された抗-TIGIT抗体の種交差反応性(species cross reactivity)を確認するために、ヒトTIGIT(R&D Systems製)、マウスTIGIT(R&D Systems製)、そして赤毛猿TIGIT抗原に対する結合可否をELISAで確認した。赤毛猿TIGIT抗原は赤毛猿 TIGIT遺伝子配列(NCBI accession No.XP_014985303.1)を参考して遺伝子合成によってFc-fusion形態に発現、精製して使った。PBSに1mg/mLの濃度に希釈された3種のTIGIT抗原をそれぞれ96-wellプレートにwell当たり30μLずつ入れ、4℃で夜通しインキュベーションしてコーティングした後、選別された抗体をそれぞれ30ngずつ処理してTIGIT抗原に結合させた。1:3,000に希釈したTBST(5%BSA)溶液をwell当たり30μLずつ入れ、常温で1時間インキュベーションした。TBSTで3回水洗した後、TMB溶液をwell当たり30μLずつ入れて発色した。1N H
2SO
4で反応を止めた後、吸光度450nmで発色程度を確認した。選別された抗体の3種TIGIT抗原に対する種交差反応性を確認した(
図1)。これにより試験に使用された抗体の大部分がヒトTIGITとマウスTIGITに全て結合することを確認した。
【0098】
ファージディスプレイスクリーニングで選別された抗-TIGIT抗体のTIGIT特異性を確認するために、TIGITのスーパーファミリー(super-family)であるCD96(Sinobiological製)、CD155(Sinobiological製)、CD112(R&D Systems製)、CD113(R&D Systems製)、CD226(R&D Systems製)抗原に対する結合をELISAで確認した。TIGITを含む抗原6種を96-wellプレートにwell当たり100ngずつコーティングした後、選別された抗体をそれぞれ30ngずつ処理して常温で1時間インキュベーションした。TBSTで3回水洗した後、抗ヒトFab-HRP二次抗体(Jackson)を1:3,000に希釈したTBST(5%BSA)溶液をwell当たり30μLずつ入れ、常温で1時間インキュベーションした。TBSTで3回水洗した後、TMB溶液をwell当たり30μLずつ入れて発色した。1N H
2SO
4で反応を止めた後、吸光度450nmで発色程度を確認した。選別された抗体の6種抗原に対する結合を測定した結果、全ての抗体がTIGIT抗原のみに特異的に結合することを確認した(
図2)。
【0099】
最後に、細胞表面に発現したTIGIT抗原に対する選別された抗体の結合を確認するために、人TIGITタンパク質を過発現するCHO-S細胞株(CHO-hTIGIT)を用いてFACS分析を実施した。CHO-hTIGIT細胞株はlentiviralベクターを用いて全長ヒトTIGIT遺伝子CHO-S細胞に形質導入(transduction)させた後、ブラストサイシン抗生剤でヒトTIGITを過発現するCHO細胞のみを選別する方法で製作した。製作されたCHO-hTIGIT細胞株を氷冷却PBSで水洗し、5×10
4個の細胞をチューブに移した後、IgG形態に備えた抗体をそれぞれ1μgずつ処理し、氷上で1時間インキュベーションした。その後、抗ヒトIgGFITC二次抗体(Invitrogen製)を1μgずつ処理し、氷上で1時間インキュベーションした。細胞を氷冷却PBSで水洗した後、FACS分析して細胞表面に発現した人TIGIT抗原に対する抗体の結合を確認した(
図3)。陽性対照群として使用した10A7抗体はハムスター来由の抗ヒト、マウス交差結合が可能な抗体であり、米国特許第2015/0216970号に記述された配列に基づいて可変領域をマウスIgG2aの定常領域を有する抗体の形態に遺伝子を製作して自体生産した。人TIGIT抗原に対して10A7抗体は結合するが、陰性対照群として使用したニボルメブ(nivolumab、anti-PD1抗体)は結合しないことからCHO-hTIGIT細胞が正常に製作されたことを確認した。選別された抗体はいずれもCHO-hTIGIT細胞に特異的に結合することを確認した。
【0100】
実施例2.抗-TIGIT抗体の最適化
2.1F04及びS64抗体の最適化
【0101】
前記抗体スクリーニング過程によって抗-TIGITヒト抗体としてF04及びS64の二つのクローンを最終に選別した。これら抗体の安全性を高めるために、F04及びS64抗体のアミノ酸配列を基にしてサブライブラリ(sub-library)を製作し、高温条件と拡張水洗方法を用いて安全性を高めるためのスクリーニングを実施した。F04抗体のサブライブラリはCDRH1とCDRH2を同時にシャッフリング(shuffling)したライブラリで1種をオーバーラップ(overlapping)方法で製作した。S64のサブライブラリはCDRH1とCDRH2を同時にシャッフリングしたものと、CDRL1、2、3を同時にシャッフリングしたものと、CDRH3を除いた残りのCDRを全てシャッフリングしたライブラリ形態の総3種のサブライブラリをオーバーラップ(overlapping)PCR方法で製作した。F04及びS64クローンの最適化のために、アミノ酸配列多様化したCDR領域を下記の表5(下線で表示した部分がCDR領域)に示した。
【0102】
【0103】
親クローンより安全性が向上したクローンを選別するために製作されたサブライブラリからファージをレスキュー(rescue)した後、抗原に結合させる前にファージを加熱することにより、安全性が落ちるクローンをまず除去する過程を経た。1次と2次ファージディスプレイスクリーニングでは60℃で、3次から6次までのスクリーニングでは80℃で10分間ファージを処理して実施した。また、ELISA段階では水洗時間を2時間に増やし、37℃に温度を高めた条件で親クローンに比べて安全性が向上したクローンを区別することができるように残留比(remaining ratio)を導出してスクリーニングを実施した。これに基づいて安全性が向上したクローンを選別し、その配列を分析した(表6及び表7)。
【0104】
【0105】
【0106】
最終的にF04サブライブラリを用いたスクリーニングではF04-10クローンを選別し、S64サブライブラリではS64-39クローンを最終に選別した。
【0107】
F04-10クローンによる抗体は配列番号13によるアミノ酸配列を重鎖可変領域として、配列番号15によるアミノ酸配列を軽鎖可変領域として含み、S64-39クローンによる抗体は配列番号14によるアミノ酸配列を重鎖可変領域として、配列番号16によるアミノ酸配列を軽鎖可変領域として含む。
【0108】
また、F04-10クローンによる抗体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域とを含み、
【0109】
S64-39クローンによる抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、配列番号4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0110】
2.2抗-TIGIT抗体の遺伝子クローニングと抗体精製
【0111】
F04-10-IgG1とS64-39-IgG1抗体の発現ベクターは前記実施例1.2のような方法で製作した。S64-39-IgG4抗体の重鎖発現ベクターは次のように製作した。S64-39-IgG1発現ベクターからNheIとXhoI(NEB)制限酵素を用いてIgG1不変部位に相当する遺伝子を除去し、これに抗PD-1抗体であるニボルマブの重鎖不変部位をNheIとXhoIで処理した遺伝子をサブクローニングして入れることにより、最終的にS64-39重鎖がIgG4形態に発現するように製作した。F04-10とS64-39抗体の軽鎖可変部位はそれぞれClaIとXhoI制限酵素を用いてpOptiVECベクターにサブクローニングした。
【0112】
IgG形態に製作された3種の抗体の生産と精製は前記実施例1.2のように293F細胞株を用いた一時的発現(transient expression)とMabSelect SuReタンパク質A樹脂を用いて実施した。
【0113】
実施例3.抗-TIGIT抗体の細胞表面のTIGIT結合確認試験
【0114】
前記実施例2で製造された3種の抗-TIGIT抗体の細胞表面に発現しているTIGITに対する結合能を確認するために、TIGITを過発現させたCHO細胞株(以下、CHO-TIGIT細胞株)に抗-TIGIT抗体を処理した後、蛍光柔細胞分析器を用いて細胞表面のTIGITに結合した抗-TIGIT抗体を探知した。
【0115】
具体的に、化学組成培地(CD FortiCHO化学的に組成された培地+8mM L-グルタミン+20μg/mLブラストサイシン+1%抗凝集剤)を使ってCHO-TIGIT細胞株を37℃で5%CO
2インキュベーターで48~72時間培養した。培養が完了したCHO-TIGIT細胞株は遠心分離によって収穫し、FACS溶液(PBS+5%FBS)に希釈した後、96-well丸底プレート(Corning製)にwell当たり1×10
5個ずつ分株した。その後、細胞表面に残っている化学組成培地を完全に除去するために、FACS溶液を添加し、2,000rpmで3分間遠心分離を実施した後、上澄み液を除去する洗浄作業を3回繰り返した。洗浄が完了したCHO-TIGIT細胞株はFACS溶液を100μLずつ添加して再浮遊させた。FACS溶液を用いて最終処理濃度の2倍濃度に希釈した各濃度別抗-TIGIT抗体をCHO-TIGIT細胞株が分株されている96-well丸底プレートに100μLずつ添加して4℃で1時間インキュベーションした。その後、細胞表面TIGITに結合せず、上澄み液に残っている抗-TIGIT抗体を除去するために、各wellにFACS溶液を添加し、2,000rpmで3分間遠心分離を実施した後、上澄み液を除去する洗浄作業を3回繰り返した。細胞表面TIGITに結合した抗-TIGIT抗体を探知するために、FACS溶液を用いてヤギ抗ヒトIgG(H+L)cross-adsorbed secondary antibody(Invitrogen製)を10μg/mL濃度に希釈して各wellに100μLずつ添加した後、4℃で1時間インキュベーションした。洗浄作業を3回繰り返した後、各サンプルを12×75mmのチューブ(BD Biosciences製)に移し、蛍光柔細胞分析器を用いて分析した。その結果、細胞表面TIGITに対する抗-TIGIT抗体の結合能(EC
50)は平均蛍光強度(MFI)値を基準に、F04-10-IgG1は16.41ng/mL、S64-39-IgG1は69.01ng/mL、S64-39-IgG4は80.78ng/mL、10A7は16.54ng/mLの水準とそれぞれ確認された(
図4)。
【0116】
実施例4.抗-TIGIT抗体のTIGIT/CD155結合阻害試験
【0117】
前記実施例2で製造された3種の抗-TIGIT抗体の活性を確認するために、TIGITとCD155との間の結合阻害試験を遂行した。
【0118】
具体的に、本試験はTIGIT/CD155ブロッケード分析キット(Promega製)を用いて、CD155発現aAPC/CHO-K1細胞株とTIGIT発現エフェクター(effector)細胞株の共培養システムで抗TIGIT抗体のTIGITとCD155に対する結合抑制能を確認した。
【0119】
CD155発現aAPC/CHO-K1細胞株を溶かして基本培地(10%FBSが含まれたF-12培地)14.5mLに希釈して準備し、96-wellプレート(Costar製)に100μL添加した後、37℃で5%CO
2インキュベーターで16~24時間保管した。抗-TIGIT抗体が含まれた濃縮物を分析用培地(10%FBSが含まれたRPMI1640培地)を用いて、F04-10-IgG1は処理濃度より2倍高い2mg/mLで4倍順次希釈し、S64-39-IgG1とS64-39-IgG4は3mg/mLで2倍順次希釈して準備した。対照物質として使用した10A7抗体は2.4mg/mLで3倍順次希釈して準備した。CD155発現aAPC/CHO-K1細胞株がある96-wellプレートの培地を全て除去した後、準備した抗-TIGIT抗体を各wellに40μLずつ添加して、実際濃度がF04-10-IgG1は1mg/mLで4倍順次希釈された試料を処理し、S64-39-IgG1とS64-39IgG4は1.5mg/mLで2倍順次希釈された試料を処理した。対照物質である10A7は1.2mg/mLで3倍順次希釈された試料を処理した。次に、TIGIT発現エフェクター細胞株を溶かした後、分析用培地6mLに希釈して各wellに40μLずつ添加した後、37℃で5%CO
2インキュベーターで6時間反応させた。Bio-Glo
TM基質(substrate)にBio-Glo
TMbufferを添加して作ったBio-Glo
TM試薬を各wellに80μLずつ処理して10分間常温で反応させた。発光(Luminescence)測定可能なマイクロプレートリーダー(microplate reader)(Molecular devices、SpectraMax L)で反応値(RLU)を測定し、抗-TIGIT抗体を処理しなかった反応値に対する抗体処理時の反応値の比(Fold response=RLU
Abdilution/RLU
noantibodycontrol)を計算したところ、その結果は次の通りである。抗-TIGIT抗体の結合抑制能(EC
50)は、F04-10-IgG1は23.89nM、S64-39-IgG1は0.581μM、S64-39-IgG4は1.08μM、10A7は0.752μMの水準と確認した(
図5)。
【0120】
実施例5.抗-TIGIT抗体のNK細胞活性化試験
【0121】
前記実施例2で製造された3種の抗-TIGIT抗体処理の際、NK92細胞株の活性を分析するために、TIGITが過発現したNK92細胞株とPVRが過発現したヒト来由卵巣癌細胞株であるHeLa細胞を共培養した条件でNK92細胞株のIFN-g分泌量測定と蛍光柔細胞分析器を用いたNKG2D発現確認試験を実施した。
【0122】
具体的に、TIGITが過発現したNK92細胞株を溶かして完全培地(Alpha-MEM+12.5%FBS+12.5%ウマ血清+0.1mM2-メルカプトエタノール+100U/mL IL-2)2×105/mLの濃度に希釈して準備した後、T25フラスコ(Corning製)に5mLの体積で37℃で5%CO2インキュベーターで16~24時間培養した。先立って培養が完了したNK92細胞株の過発現したTIGITを抑制するために、抗-TIGIT抗体を25μg/mLの濃度で処理した後、37℃で5%CO2インキュベーターで72時間培養した。NK92細胞株と抗-TIGIT抗体の培養が実施されるうちPVRが過発現したHeLa細胞株を溶かして完全培地(10%FBSが添加されたRPMI1640培地)に3×105/mLの濃度でT75フラスコ(Corning製)に15mLの体積で37℃で5%CO2インキュベーターで24~48時間培養した。その後、NK92細胞株とHeLa細胞株を1:10(1×105NK92:1×106HeLa)の比で12-wellプレート(Corning製)に1mLの体積で37℃で5%CO2インキュベーターで4~6時間共培養した。共培養が完了した後、培養上澄み液をIFN-gELISA試験を実施するために確保した後、-20℃で冷凍保管し、培養した細胞はPBS(Gibco製)に希釈して確保した。
【0123】
前記過程によって確保された培養上澄み液と細胞株を用いて、
【0124】
第一、培養上澄み液を用いてNK92細胞株から分泌するIFN-gの量を測定するためにELISA試験を実施した。この試験は、Human IFN-gamma Quantikine ELISA assay Kit(R&D systems製)を用いて実施した。前記試験で抗-TIGIT抗体処理の際、NK92cellから分泌するIFN-gの量を分析した結果、対照抗体処理グループに比べ、F04-10-IgG1、S64-39-IgG1抗体処理グループでIFN-g分泌の有意的な増加を確認することができ、S64-39-IgG4抗体処理グループでは対照抗体処理グループと同等な水準のIFN-g分泌量を確認することができた(
図6)。
【0125】
第二、前記共培養によって確保された細胞株に対するNK細胞活性マーカータンパク質の一つであるNKG2D発現を確認するために、蛍光柔細胞分析器で分析を実施した。細胞株に対する免疫染色のために、まずcell staining buffer(Biolegend製)に1×10
6/mLの濃度で細胞株を希釈し、NK92細胞のみ特異的に分離するためにeFluor-anti-CD56抗体(eBioscience製)染色及びPE-anti-NKG2D抗体(BD Biosciences製)染色を4℃で光を遮断した状態で20分間実施した。その後、染色を洗浄するために、cell staining bufferを1mLずつ添加し、2,000rpmで5分間遠心分離し、前記作業を3回繰り返し実施した。その後、各サンプルを12×75mmの蛍光柔細胞分析用チューブ(BD Biosciences製)に移し、蛍光柔細胞分析器を用いてCD56を発現する細胞株に対するNKG2D発現様相を確認した。その結果、対照抗体処理グループに比べ、F04-10-IgG1、S64-39-IgG1、S64-39-IgG4抗体処理グループの全てでNKG2D発現が有意的に増加したことを確認することができた(
図7)。
【0126】
実施例6.抗-TIGIT抗体のTIGIT抗原親和度測定試験
【0127】
前記実施例2で製造された3種の抗-TIGIT抗体のヒトTIGIT(rhTIGIT-Fc)とマウスTIGIT(rmTIGIT-Fc)に対する結合力を測定するために、BIAcore T200(GE Healthcare製)を用いた表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)方式を用いた。SPR方式はセンサーチップにコートされた物質の状態によってチップを通る光の屈折率が変化する原理を用いたものであり、チップに抗原又は抗体がコートされた状態で抗体又は抗原を流し、これら間の結合による屈折率の変化が発生し、これを測定した数値から親和度(affinity、KD)値を計算する。
【0128】
10mMアセテート溶液(pH4.0)とアミンカップリングキット(amine coupling kit)(GE Healthcare製)を用いて抗-TIGIT抗体を500RUレベルまでSeries S CM5センサーチップ(GE Healthcare製)に固定化させた。これにヒト又はマウスのTIGIT-Fc(R&D Systems製)タンパク質を40nM濃度からHBS-EPバッファー(0.01M HEPES、pH7.4、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% 界面活性剤P20)(GE Healthcare製)に順次2倍ずつ希釈させた後、それぞれ流す方法でセンサーチップに固定された抗体と結合(association)、分離(dissociation)、解離(regeneration)させながら抗原-抗体間の親和度を測定した。TIGIT-Fcタンパク質の結合は、30μL/min速度で600秒、分離は2,000秒間測定し、解離は10mMグリシン溶液(pH1.5)又は40mM NaOH溶液を100μL/min速度で25秒間流した。rhTIGIT-FcとrmTIGIT-Fcに対する結合力測定結果は下記の表8及び表9の通りである。
【0129】
【0130】
【0131】
実施例7.抗-TIGIT抗体の腫瘍成長阻害効果
【0132】
抗-TIGIT抗体の生体内活性を評価するために、マウス腫瘍モデル(syngeneic CT26 colorectal carcinoma model using BALB/c mice)を製作した。ここで、前記実施例2で製造された抗体3種(F04-10-IgG1、S64-39-IgG1、S64-39-IgG4)及び陽性対照抗体(10A7)を単独投与又は抗PD-L1抗体(10F.9G2-rat IgG2b)とともに投与して腫瘍成長阻害効果を比較評価した。
【0133】
まず、マウス腫瘍モデルを製作するために、培養したCT26腫瘍細胞をマウス当たり100μL(1×106cells)ずつ注入して皮下移植し(0日)、腫瘍が一定の大きさ以上に成長するように放置した。8日経過の後、腫瘍の容積が119mm3に到逹したとき(8日、投与開始日)、陰性対照物質(ラットIgG2b、10mg/kg容量)及び試験物質4種(25mg/kg容量)を単独又は項PD-L1抗体(10mg/kg容量)とともに3日の間隔で総3回腹腔投与した。その後、腫瘍容積及び体重を週2回の間隔で測定し、腫瘍成長阻害効果は生体内実験終了日(28日)に測定した腫瘍容積を次の公式に代入して算出したTGIで示した。
TGI rate(%)=100×(1-ΔT/ΔC)
ΔT=終了日に測定した試験物質投与群の平均腫瘍容積-投与開示日に測定した試験物質投与群の平均腫瘍容積
ΔC=終了日に測定した陰性対照物質投与群の平均腫瘍体-積投与開日に測定した陰性対照物質投与群の平均腫瘍容積
【0134】
腫瘍容積は、終了日を基準に、投与開始日に比べ、陰性対照物質投与群で約23倍増加した。このような陰性対照群に比べ、陽性対照抗体及び項PD-L1抗体は単独投与の際に少しの抗腫瘍効果を現し、この二つの併用は力強くて有意的な腫瘍抑制効果を現した(
図8)。抗-TIGIT抗体の場合、IgG1タイプの2種の抗体(S64-39-IgG1、F04-10-IgG1)が、単独投与の際、陽性対照抗体と類似の水準の薬効を示し、併用投与の際にはS64-39-IgG1が同等な水準の効果を現した。S64-39-IgG4抗体の場合はS64-39-IgG1に比べて単独及び併用投与で多少薬効が落ちることが現れた。
【0135】
結論的に、前記実施例2で製造された抗体3種(F04-10-IgG1、S64-39-IgG1、S64-39-IgG4)は単独又は抗PD-L1抗体とともに投与するとき、陰性対照物質投与群に比べて有意的な抗腫瘍効果を現し、特に、単独投与の際には2種(F04-10-IgG1、S64-39-IgG1)、併用投与の際には1種(S64-39-IgG1)の抗体が陽性対照抗体と同等な水準の腫瘍抑制効果を現した。
【0136】
図8の統計分析はGraphPad Prism 5を用いてダネットの多重比較(Dunnett’s multiple comparison)を実施し、陰性対照物質投与群との差に対する統計的有意性を次のように表記した。*:p<0.05、**:p<0.01及び***:p<0.001
【0137】
実施例9.抗-TIGIT抗体の容量及び併用による腫瘍成長阻害効果
【0138】
抗-TIGIT抗体の容量及び併用による生体内活性を評価するために、マウス腫瘍モデル(syngeneic CT26 colorectal carcinoma model using BALB/c mice)を製作した。ここで、前記実施例2で製造された抗体F04-10を容量別に単独投与又は抗-PD-L1抗体(10F.9G2-rat IgG2b)とともに投与して腫瘍成長阻害効果を比較評価した。
【0139】
まず、マウス腫瘍モデルを製作するために、培養したCT26腫瘍細胞をマウス当たり100μL(1×106cells)ずつ注入して皮下移植し(0日)、腫瘍が一定の大きさ以上に成長するように放置した。7日経過の後、腫瘍容積が80mm3に到逹したとき(7日、投与開始日)、各試験群の平均腫瘍容積が類似するように無作為に群分離し、陰性対照物質(ラットIgG2b 10mg/kgとヒトIgG1 25mg/kg併用)又はF04-10(5、10、25mg/kg)を単独又は抗-PD-L1抗体(10mg/kg容量)とともに3日の間隔で総3回腹腔投与した。その後、腫瘍容積及び体重を週2回の間隔で測定し、腫瘍成長阻害効果は生体内実験終了日(24日)に測定した腫瘍容積を次の公式に代入して算出したTGIで示した。
TGI rate(%)=100×(1-ΔT/ΔC)
ΔT=終了日に測定した試験物質投与群の平均腫瘍容積-投与開始日に測定した試験物質投与群の平均腫瘍容積
ΔC=終了日に測定した陰性対照物質投与群の平均腫瘍容積-投与開始日に測定した陰性対照物質投与群の平均腫瘍容積
【0140】
腫瘍容積は、終了日を基準に、投与開始日に比べ、陰性対照物質投与群で約16倍増加した反面、F04-10単独投与群の場合、3及び10mg/kg容量では微々たる抗腫瘍効果を、25mg/kgでは最大薬効に到逹し、力強い腫瘍成長抑制効果を示した。抗-PD-L1抗体10mg/kg単独投与群の場合、少しの腫瘍抑制効果を現し、これをF04-103及び10mg/kgとともに投与した場合、同じ容量のF04-10単独投与より腫瘍成長抑制効果が力強かった。一方、最大効果を現したF04-10 25mg/kgの場合、抗-PD-L1との併用による薬効増加は観察されなかった(
図9)。
【0141】
結論として、前記実施例2で製造された抗体F04-10は、単独投与の際、25mg/kgで有意的な最大腫瘍抑制効果を現し、これより低い3及び10mg/kg容量の場合、抗-PD-L1抗体との併用によってそれぞれの単独投与より薬効が増加する傾向を示した。
【0142】
図9の統計分析はGraphPad Prism 5を用いてダネットの多重比較(Dunnett’s multiple comparison)を実施したところ、陰性対照物質投与群との差に対する統計的有意性を次のように表記した。*:p<0.05
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明による抗-TIGIT抗体又は抗原結合断片は非常に特異的であり、力強くTIGITに結合し、既存の抗-TIGIT抗体に比べて非常に優れた治療効能を示すことが明かされた。したがって、本発明による抗-TIGIT抗体又は抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物は免疫細胞活性化による坑癌免疫治療剤として用いられることができる。
【0144】
また、本発明の抗-TIGIT抗体と抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物は化学医薬品及びその他の坑癌治療剤との併用治療法などに活用可能である。
【0145】
以上で本発明内容の特定部分を詳細に記述したが、当該分野の通常の知識を有する者にとってこのような具体的技術はただ好適な実施様態であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかであろう。よって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項とそれらの等価物によって定義されると言える。
【配列表】