(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】電動機エミュレータ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220119BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2020562561
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 KR2018012093
(87)【国際公開番号】W WO2019146878
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2018-0008446
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0092939
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520274828
【氏名又は名称】プレッコ カンパニー リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ソル ソン-キ
(72)【発明者】
【氏名】クォン ヨン-チョル
(72)【発明者】
【氏名】イ ユン-ロ
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-86990(JP,A)
【文献】特表2017-520220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0105072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42- 7/98
H02P 21/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機駆動用インバータ(Inverter Under Test、IUT)のための電動機エミュレータ(Emulator)であって、
当該電動機エミュレータは、前記IUTの出力電圧を少なくとも部分的に相殺するための電圧追従インバータ、及び
前記IUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の推定電流に基づいて前記IUTの出力電流を制御する出力電流制御部を含
み、
前記電圧追従インバータは、前記出力電流制御部の出力部を介して、前記IUTの出力端子に接続され、
前記出力電流制御部は、前記出力電流制御部の出力部の電圧を制御することで、前記IUTの出力電流を制御し、
前記電圧追従インバータが前記IUTの出力電圧を少なくとも部分的に相殺することにより、前記IUTの出力電圧が少なくとも部分的に相殺された電圧が、前記出力電流制御部の出力部に印加される、電動機エミュレータ。
【請求項2】
前記電圧追従インバータは、
直流端子電圧源、
前記直流端子電圧源に並列接続されるとともに前記IUTの出力端子に電気的に接続された第1スイッチング部、及び
前記IUTの出力電圧と所定の閾値電圧に基づいて前記第1スイッチング部のスイッチングを制御する第1スイッチング制御部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電動機エミュレータ。
【請求項3】
前記第1スイッチング部は、直列接続された上相スイッチ及び下相スイッチを含み、
前記第1スイッチング制御部は、前記IUTの出力電圧と所定の閾値電圧とを比較して前記上相スイッチと下相スイッチとをスイッチすることを特徴とする、請求項2に記載の電動機エミュレータ。
【請求項4】
前記第1スイッチング制御部は、
前記IUTの出力電圧と前記所定の閾値電圧を入力される電子回路とで構成されたことを特徴とする、請求項3に記載の電動機エミュレータ。
【請求項5】
前記出力電流制御部は、
前記IUTの出力端子に電気的に接続されたスイッチング回路、及び
前記IUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の特性に基づいてエミュレーション対象電動機の電流を推定し、推定電流に基づいて前記スイッチング回路のスイッチングを制御する第2スイッチング制御部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電動機エミュレータ。
【請求項6】
前記スイッチング回路は、SiC MOSFETで構成されたことを特徴とする、請求項5に記載の電動機エミュレータ。
【請求項7】
前記スイッチング回路は、
フルブリッジ回路、ハーフブリッジ回路及び線形電力増幅器回路のうちの少なくとも一つで構成されたことを特徴とする、請求項5に記載の電動機エミュレータ。
【請求項8】
前記エミュレーション対象電動機の特性は、
電動機の鎖交磁束、磁気飽和及び空間高調波のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項5に記載の電動機エミュレータ。
【請求項9】
前記スイッチング回路に直流電圧を提供する独立の直流電圧源を更に含み、各相の独立の直流電圧源は互いに絶縁されたことを特徴とする、請求項5に記載の電動機エミュレータ。
【請求項10】
前記IUTの出力端子と前記電圧追従インバータとの間に配置されたフィルタ部を更に含み、
前記フィルタ部は、単相インダクタ、3相インダクタ及び零相フィルタ(Zero Sequence Filter)のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電動機エミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機エミュレータに係り、より具体的には、電動機駆動用インバータの出力電圧を相殺するインバータ及びエミュレーション対象電動機に対する電流を合成する回路で構成された電動機エミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リアルタイム電動機エミュレータ(Real-Time Motor Emulator)とは、電動機駆動用インバータ(IUT、Inverter Under Test)に結線されて実際の交流電動機の電流と類似の電流をインバータから出力させる装備である。
図1は、従来の電動機エミュレータを示す。
図1中の電動機エミュレータは、特許文献1(アメリカ登録特許 US8587322 B2)に開示されており、1次側直流電圧を昇圧して2次側に出力できるように設計されていた。このような構造では、1次側電圧の中性点と2次側電圧の中性点の電位を同一にすることができ、その結果、電動機エミュレータの電圧変調可能領域をより広く確保できる。しかし、電動機の高速運転領域をエミュレートするために2次側直流電圧を昇圧した場合、2次側電圧が過度に大きくなって電動機エミュレータに用いられる半導体素子の耐電圧が非常に大きくなり得る。
【0003】
電動機エミュレータによってエミュレートされる電流は、電動機の運転周波数帯域電流とスイッチング周波数帯域電流とに分けられる。エミュレーション対象電動機の基本波電気角周波数は、通常、最大1kHz程度であるが、第5、第7高調波電流も制御に影響を及ぼし得る。したがって、制御性能の正確なエミュレーションのためには、0Hz~7kHz程度の周波数帯域の電流をエミュレートする必要がある。
【0004】
スイッチング帯域を含む正確な電流エミュレーションのためには、次のような技術的な限界がある。
【0005】
-電動機エミュレータは、IUTのスイッチング周波数帯域(通常5~10kHz)の電流を合成するために十分に高いスイッチング周波数を有する必要がある。
【0006】
-実電動機の磁束の空間高調波(Spatial Harmonics)による高調波電流とIUTのスイッチング周波数電流とを合成するために適切な回路方式(Topology)及び高性能制御技法を用いる必要がある。
【0007】
しかし、既存の電動機エミュレータの場合、スイッチング周波数が20kHz前後と比較的低く、回路方式や制御技法の限界から、実質的な電流エミュレーション可能帯域が最大約4kHz程度に限定された。したがって、既存の電動機エミュレータの用途は、主にIUTの耐久性検証(Validation)程度に限定されており、電動機の高調波電流及び制御の過度応答エミュレーションには限界があった。
【0008】
20kHzのスイッチング周波数の限界は、最近のSiC(Silicon Carbide)素子技術の発展で克服された。高速スイッチングが可能な高電圧、大電流のSiC素子を電動機エミュレータに適用すれば、放熱条件によってはスイッチング周波数を100kHz以上に高められる。
【0009】
しかし、スイッチング素子を変えるとしても、既存の電動機エミュレータの技術的な問題は依然として存在する。電動機エミュレータの高周波電流エミュレーション性能のために、電動機エミュレータのインダクタンスはエミュレーション対象電動機のインダクタンスと類似の値(0.9pu~1.1pu)を用いた方がよいが、電動機エミュレータが合成しなければならない電圧指令の大きさは、インダクタンスが大きくなるにつれて大きくなる。したがって、中・高速の運転条件をエミュレートするためには、昇圧回路を介して直流端子電圧を更に大きくする必要がある。前述したように素子の耐電圧によって直流端子電圧の大きさが制限されるようになる。このように直流端子電圧が素子の耐電圧によって制限される場合、エミュレーション対象電動機の全ての運転条件をエミュレートできなくなる。
【0010】
電動機エミュレータのインダクタンスを小さく(0.1pu~0.3pu)すれば電圧不足の問題は解決されるものの、このときは、
図2に示すような問題が生じるようになる。
図2は、IUTの出力電圧がスイッチング(On-Off)するときの電動機エミュレータの電流と実電動機の電流を示す。
図2を参照すると、電動機エミュレータが電圧を合成するまでの間にデジタル信号処理によって2サンプル(sample)の時間遅延(Time delay)が生じ、該時間遅延の間は大きな電流リップルが発生する。該リップルの大きさがインダクタンスの大きさに反比例するため、電動機エミュレータのインダクタンスが小さくなるほど時間遅延による電流脈動は大きくなる。このような理由から、既存の回路方式を用いることによって電動機エミュレータのインダクタンスを低減することができず、これはエミュレーション可能な運転速度を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記の問題を克服するために、本発明では、電動機の中・高速の運転エミュレーションの際に直流端子電圧が不足することなく、デジタル制御により発生する電流脈動を低減させる方案を提案する。
【0012】
本発明の技術的課題は以上で言及したことなどに限定されず、言及していない他の技術的課題は以下の記載から当業者にとって明確に理解できるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施例に係る電動機駆動用インバータ(Inverter Under Test、IUT)のための電動機エミュレータ(Emulator)は、前記IUTの出力電圧を少なくとも部分的に相殺するための電圧追従インバータ、及び前記IUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の推定電流に基づいて前記IUTの出力電流を制御する出力電流制御部を含んでよい。
【0014】
好ましい一実施例において、前記電圧追従インバータは、直流端子電圧源、前記直流端子電圧源に並列接続されるとともに前記IUTの出力端子に電気的に接続された第1スイッチング部、及び前記IUTの出力電圧と所定の閾値電圧に基づいて前記スイッチング部のスイッチングを制御する第1スイッチング制御部を含んでよい。
【0015】
好ましい一実施例において、前記第1スイッチング部は、直列接続された上相スイッチ及び下相スイッチを含み、前記第1スイッチング制御部は、前記IUTの出力電圧と所定の閾値電圧とを比較して前記上相スイッチと下相スイッチとをスイッチしてよい。
【0016】
好ましい一実施例において、前記第1スイッチング制御部は、前記IUTの出力電圧と前記所定の閾値電圧を入力される電子回路で構成されてもよい。ここで、前記電子回路は、アナログ回路であってよい。
【0017】
好ましい一実施例において、前記出力電流制御部は、前記IUTの出力端子に電気的に接続されたスイッチング回路及び前記IUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の特性に基づいてエミュレーション対象電動機の電流を推定し、推定電流に基づいて前記スイッチング回路のスイッチングを制御する第2スイッチング制御部を含んでよい。
【0018】
好ましい一実施例において、前記スイッチング回路は、SiC MOSFETで構成されてもよい。
【0019】
好ましい一実施例において、前記スイッチング回路は、フルブリッジ回路、ハーフブリッジ回路及び線形電力増幅器回路のうちの少なくとも一つで構成されてもよい。
【0020】
好ましい一実施例において、前記エミュレーション対象電動機の特性は、電動機の鎖交磁束、磁気飽和及び空間高調波のうちの少なくとも一つを含んでよい。
【0021】
好ましい一実施例において、前記スイッチング回路に直流電圧を供給する独立の直流電圧源を更に含み、各相の独立の直流電圧源は互いに絶縁されたものであってよい。
【0022】
好ましい一実施例において、前記IUTの出力端子と前記電圧追従インバータとの間に配置されたフィルタ部を更に含み、前記フィルタ部は、単相インダクタ、3相インダクタ及び零相フィルタ(Zero Sequence Filter)のうちの少なくとも一つを含んでよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施例に係る電動機エミュレータによれば、同じ直流端子電圧で従来よりも広い電圧変調領域を確保でき、且つエミュレーション可能な運転速度を上げることができ、より高いスイッチング周波数領域の電流まで精度よいエミュレーションが可能であるという利点がある。
【0024】
これにより実現された電動機エミュレータは、電動機の可能な全ての運転条件を含む実験的に実現が危険であるか困難な動作条件でも、正常状態及び過度状態まで精度よくエミュレートすることができるので、IUTの耐久性検証だけではなく、IUTを用いた電動機制御性能、安全性検証にまで活用することができる。
【0025】
本発明の効果は以上で言及した効果などに制限されず、言及していない他の効果は特許請求の範囲の記載から当業者にとって明確に理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】
図2は、IUTの出力電圧がスイッチング(On-Off)するときの従来の電動機エミュレータの電流と実電動機の電流を示す。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る電動機駆動用インバータ(Inverter Under Test、IUT)のための電動機エミュレータのブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る電圧追従インバータを示す。
【
図5】
図5は、電圧追従インバータの任意の1つの相(x)でのゲート信号の生成の例を示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係る出力電流制御部の詳細な回路図を示す。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータの簡略な回路図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の一実施例に係る電圧追従インバータとIUTのスイッチング特性を示す。
【
図8B】
図8Bは、本発明の一実施例に係る電圧追従インバータとIUTのスイッチング特性を示す。
【
図9A】
図9Aは、エミュレーションに用いられた電動機の出力曲線を示す。
【
図9B】
図9Bは、エミュレーションに用いられた電動機の出力曲線を示す。
【
図10】
図10は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータのエミュレーション結果を示す。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータのエミュレーション結果を示す。
【
図12】
図12は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータのエミュレーション結果を示す。
【
図13】
図13は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータのエミュレーション結果を示す。
【
図14】
図14は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータのエミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において用いられた用語は、単に特定の実施例を説明するために用いられたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。単数形の表現は、文脈上、明らかに別異に解されない限り、複数形の表現をも含む。本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品、またはこれらの組み合わせが存在することを示すために用いたものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品、またはこれらの組み合わせたなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除するものではないと理解されるべきである。
【0028】
本明細書に記述された実施例は、全体的にハードウェアであるか、部分的にハードウェアで部分的にソフトウェアであるか、または全体的にソフトウェアである側面を有し得る。本明細書において「部(unit)」、「モジュール(module)」、「装置」または「システム」などは、ハードウェア、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせ、またはソフトウェアなどのコンピュータ関連エンティティー(entity)を指す。例えば、本明細書において部、モジュール、装置またはシステムなどは、実行中のプロセス、プロセッサ、オブジェクト(object)、実行ファイル(executable)、実行スレッド(thread of execution)、プログラム(program)、及び/またはコンピュータ(computer)であってよいが、これらに限定されるものではない。例えば、コンピュータで実行中のアプリケーション(application)及びコンピュータの両方とも、本明細書の部、モジュール、装置、システムなどに該当し得る。
【0029】
後述する本発明に係る詳細な説明は、本発明が実施できる特定の実施例を例示として示す添付の図面を参照する。これらの実施例は、当業者が本発明を実施できるようにする上で十分且つ詳細に説明されている。本発明の種々の実施例は、互いに異なるものの、相互排他的である必要はないことが理解されるべきである。例えば、ここに記載されている特定の形状、構造、及び特性は、一実施例に関連して本発明の精神や範囲を逸脱することなく他の実施例で実現され得る。
【0030】
また、各開示の実施例中の個々の構成要素の位置または配置は、本発明の精神や範囲を逸脱することなく変更されてよいことが理解されるべきである。したがって、後述する詳細な説明は、限定的な意味として捉えられるものではなく、また、本発明の範囲は、適切に説明されていれば、当該請求項で主張するのと均等な全ての範囲と共に添付の請求項だけによって限定される。図中の類似の参照符号は、種々の側面に亘って同一か類似の機能を指し示す。
【0031】
図3は、本発明の一実施例に係る電動機駆動用インバータ(Inverter Under Test、IUT)のための電動機エミュレータのブロック図である。
図1を参照すると、電動機エミュレータ1000は、IUTの出力電圧v
a、v
b、v
cを少なくとも部分的に相殺するための電圧追従インバータ100及びIUTの出力電圧v
a、v
b、v
cとエミュレーション対象電動機1000の推定電流に基づいてIUTの出力電流i
a、i
b、i
cを制御する出力電流制御部200を含んでよい。
【0032】
図3では、3相電動機と3相インバータを示しているが、本発明の電動機エミュレータが3相回路に制限されるものではなく、単相または他の多相(5相、6相、7相など)回路にも適用されてよい。
【0033】
図4及び
図5は、本発明の一実施例に係る電圧追従インバータ100を示す。具体的には、
図4は、各相の出力端子が接続された状態を示し、
図5は、ある1つの相に対する具体化された回路図を示す。
図5中のxは、abc相のうちのいずれか1つの相であってよい。
【0034】
電圧追従インバータ100は、IUTの出力電圧を少なくとも部分的に相殺することができる。
【0035】
一実施例において電圧追従インバータ100は、直流端子電圧源100(v2)及び直流端子電圧源100に並列接続されるとともに前記IUTの出力端子に電気的に接続された第1スイッチング部120(120a、120b,120c)、及びIUTの出力電圧と所定の閾値電圧に基づいて前記スイッチング部120のスイッチングを制御する第1スイッチング制御部130を含む。
【0036】
図4を参照すると、直流端子電圧源110は、IUTの直流端子電圧源v1と両端を共有する。第1スイッチング部120は、各相毎に2つのスイッチを含むスイッチ対120
a、120
b、120
cを含んでよい。本明細書において、各スイッチ対を構成する2つのスイッチは、上相スイッチ121
a、121
b、121
c及び下相スイッチ122
a、122
b、122
cで表す。
【0037】
図4に示したように、各相のスイッチ対120
a、120
b、120
cは、並列接続され、上相スイッチと下相スイッチとは直列接続されてよい。上相スイッチと下相スイッチとの間にIUTの各相の出力端子が接続されてよい。
【0038】
第1スイッチング制御部130は、IUTの出力電圧vxと所定の閾値電圧vthとを比較して上相スイッチ121xと下相スイッチ122xとをスイッチすることができる。
【0039】
図5を参照すると、IUTのx相出力電圧が、0~v1の間に設定された任意の閾値電圧v
thを超えると、スイッチ対のうちの上相スイッチ121
xはオンし、下相スイッチ122
xはオフする。逆に、IUTのx相出力電圧がv
thよりも小さくなると、上相スイッチ121
xはオフし、下相スイッチ122
xはオンする。このとき、電圧追従インバータ100とIUTが直流端子を共有しているため(スイッチングだけ同時になされると)、電圧追従インバータは、IUTの出力電圧を少なくとも部分的に相殺することができる。
【0040】
好ましい一実施例において、電圧追従インバータ100は、IUTの出力電圧を全て相殺するように動作することができるが、本発明がこれに限定されるものではなく、IUTの出力電圧の任意の比率分だけ相殺するように動作することもできる。該任意の比率は、出力電流制御部200の動作特性に応じて決められてもよい。例えば、電圧追従インバータ100がIUTの出力電圧の80%を相殺し、残りの20%は出力電流制御部200の動作によって相殺してもよい。
【0041】
図5に示すように、一実施例において、第1スイッチング制御部130はアナログ回路で構成されてもよいが、本発明がこれに限定されるものではない。なお、電動機エミュレータの性能において、電圧追従部100にスイッチング信号が伝送されるまでの間に発生する遅延時間を最小化することが重要である。したがって、電圧追従インバータ100のスイッチング信号はCPUやDSPの演算処理を介することなく、アナログ回路を介してデジタル遅延なしに伝送されることが好ましい。
【0042】
図8A及び
図8Bは、本発明の一実施例に係る電圧追従インバータ100とIUTのスイッチング特性を示す。
図8Aにおいて、IUTと電圧追従インバータ100の直流端子電圧は310Vであり、
図8Bは、
図8Aの時間軸を10倍拡大した図である。
【0043】
図8A及び
図8Bを参照すると、電圧追従インバータ100がIUTのスイッチングを400ns内で追従し、IUTの出力電圧を完全に相殺する。したがって、電圧追従インバータ100が正常に動作しているとすると、IUTがどのような電圧を合成したとしてもIUTの出力電流が受ける影響は無視できるほどの水準になるということを確認することができる。
【0044】
以上のように、電圧追従インバータ100がIUTの電圧を完全に相殺すると、IUTの出力電流は、出力電流制御部200が合成する電圧によって決められ得る。
【0045】
図6は、本発明の一実施例に係る出力電流制御部200の詳細な回路図を示す。出力電流制御部200は、エミュレーション対象電動機の電流を合成するものであって、IUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の推定電流に基づいて前記IUTの出力電流を制御することができる。
【0046】
図6を参照すると、出力電流制御部200は、IUTの出力端子に電気的に接続されたスイッチング回路210(210
a、210
b、210
c)及びIUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の特性に基づいてエミュレーション対象電動機の電流を推定し、推定電流と実際に測定した電流に基づいて前記スイッチング回路のスイッチングを制御する第2スイッチング制御部220を含んでよい。
【0047】
図6において、スイッチング回路210をフルブリッジ回路として図示したが、これは、本発明の種々の実施例の一つの例に過ぎず、スイッチング回路210としては、ハーフブリッジ回路または線形電力増幅器回路などの種々の回路が用いられてよい。以下では、スイッチング回路210がフルブリッジ回路で構成された場合を例に挙げて説明する。
【0048】
本発明の一実施例において、スイッチング回路210は、SiC MOSFETで構成されたものであってもよい。IUTスイッチング周波数の十倍である100kHzスイッチング周波数でスイッチング回路210を動作させると、出力電流制御部200は、10kHzのIUTスイッチング周波数帯域の電流まで合成することができる。また、電動機エミュレータ1000の回路方式において、実際に負荷に印加される電圧は、一般的な3レベルコンバータによるものと同一であるので、電動機エミュレータによるスイッチング電流リップルも極めて小さくなる。また、電動機エミュレータ1000の回路方式は、同一の直流端子電源を用いる一般的な3相コンバータに比べて約2~3倍の電圧変調領域を有するので、既存の回路方式に比べて遥かに広い速度範囲にて電動機をエミュレートすることができる。
【0049】
本発明の一実施例において、第2スイッチング制御部220は、スイッチング回路210及びIUTの出力電圧とエミュレーション対象電動機の特性に基づいてエミュレーション対象電動機の電流を推定し、推定電流と実際に測定した電流に基づいて前記スイッチング回路のスイッチングを制御することができる。ここで、エミュレーション対象電動機の特性は、鎖交磁束参照表(Look-Up Table:LUT)を含んでよい。鎖交磁束参照表は、電動機の磁気飽和、空間高調波などの電動機の磁気的な性質を含んでよい。
【0050】
例えば、第2スイッチング制御部220は、IUTの出力電圧測定値を電動機の状態観測器の入力として用いるとともに鎖交磁束参照表に適用して電動機の電流及びトルクを推定することができる。また、第2スイッチング制御部220は、実IUT電流が電動機モデルから推定した電流と同一になるように出力電流を制御することができる。また、第2スイッチング制御部220は、仮想の電動機のトルクと負荷トルクを用いて、慣性、摩擦係数、ねじり係数などによって決められる電動機の速度及び位置を推定することができる。
【0051】
図6を参照すると、出力電流制御部200は、各スイッチング回路210
a、210
b、210
cに直流電圧を提供する独立の直流電圧源230(v
3a、v
3b、v
3c)を含んでよい。ここで、独立の直流電圧源230(v
3a、v
3b、v
3c)は互いに絶縁される。
【0052】
図7は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータ100の簡略な回路図である。
図7を参照すると、独立の直流電圧源v
3a、v
3b、v
3cが高周波変圧器を用いたDC/DCコンバータで実現されたものが示されている。
【0053】
スイッチング回路210の出力端子から見た電動機エミュレータ100は、IUTの出力電圧と電圧追従インバータ100の出力電圧との差分(Difference)、すなわち、フィルタインダクタンス及び線路抵抗に印加される電圧が存在するが、電圧追従インバータ100が十分にIUTに追従している場合、両出力電圧の差分は極めて小さい。
【0054】
したがって、スイッチング回路210が電動機エミュレータ1000から消費する有効電力は極めて小さい。よって、前述した独立の直流電圧源が出力電流制御部に供給する有効電力は、電動機エミュレータがエミュレートする電動機の電力容量の数%に過ぎない。また、無効電力発生分は、スイッチング回路の直流端子コンデンサCが吸収するので、DC/DCコンバータは、スイッチングによるスイッチング回路の損失と電圧の差分によって生じる有効電力だけを供給すればよい。
【0055】
したがって、DC/DCコンバータの入出力電力は、電動機エミュレータの電力容量の数%未満であり且つDC/DCコンバータを介して回生される電力がないので、電動機エミュレータのDC/DCコンバータは単方向電力供給方式でも実現可能である。
【0056】
なお、
図7に示したコンバータの形態は例示に過ぎず、三つの絶縁された電圧源を安定して得ることができる種々の実施例がこれに含まれ得る。すなわち、本発明の実施例において、互いに絶縁された独立の直流電圧源v
3a、v
3b、v
3cは、種々の形態で実現されてもよい。一例として、簡単な商用電源を、変圧器を用いて絶縁して適切な大きさの交流電圧にした後、整流回路を介して直流端子電圧を得ることもできる。
【0057】
図3を再び参照すると、電動機エミュレータ1000は、前記IUTの出力端子と前記電圧追従インバータとの間に配置されたフィルタ部300を更に含んでよい。IUTの出力端子と電圧追従インバータ100との間にフィルタ部300が構成される場合、IUTの出力電流はフィルタ部300の影響も受けることがある。フィルタ部300は、単相インダクタ、3相インダクタ及び零相フィルタ(Zero Sequence Filter)のうちの少なくとも一つを含んでよいが、これらに限定されるものではない。なお、零相電流が流れ得ることから、フィルタ部300は、零相フィルタを含むことが好ましい。
【0058】
シミュレーション結果
本シミュレーションに用いられた電動機のハードウェア特性は下の表1の通りであり、出力曲線(Capability curve)及び動作電流は、
図9A及び
図9Bに示す通りである。
図10~
図14は、本発明の一実施例に係る電動機エミュレータ1000のシミュレーション結果を示す。
【0059】
本シミュレーションにおいて、直流端子電圧は310Vであり、IUTのスイッチング周波数は10kHzに選定され、電動機エミュレータ1000のシミュレーション条件でフィルタインダクタのインダクタンスは82μH(0.3pu)に選定し、電動機エミュレータ1000のスイッチング周波数は100kHzであり、サンプリングは200kHzのダブルサンプリングを適用した。
【0060】
【0061】
図10は、トルク制御状況のシミュレーション結果を示す図であって、電動機の速度は4200r/minであり、トルク指令は0、0.25、0.5、0.75、1(p.u.)と順次増加させている。本発明に係る電動機エミュレータを用いたとき、実電動機の駆動波形とほとんど差異がない程度に電動機が精度よくエミュレートできる。
【0062】
図11は、前記
図10の条件で実電動機と電動機エミュレータをそれぞれ駆動した場合における電流を示す。中間のグラフは、部分11aの拡大図であり、最後のグラフは、部分11bの拡大図である。本発明に係る電動機エミュレータによって高周波の電流脈動まで正確にエミュレートできることがわかる。
【0063】
図12は、速度制御状況のシミュレーション結果を示す図であって、負荷トルクが0.1p.u.であり、速度指令を0、1000、2000、3000、4000(r/min)と順次増加させた結果である。本発明に係る電動機エミュレータによって仮想の機械慣性システムも正確にシミュレートできることがわかる。
【0064】
図13は、信号注入センサレス状況のシミュレーション結果を示す図であって、電動機速度が200r/minであり、トルク指令を20pu/sスルーレート(slew rate)で0から3p.u.に増加させた結果である。本発明に係る電動機エミュレータによってセンサレス運転時における各推定性能と発散条件も正確にシミュレートできることがわかる。
【0065】
図14は、前記
図13の条件で実電動機と電動機エミュレータをそれぞれ駆動した場合における電流を示す。中間グラフは、部分14aの拡大図であり、最後のグラフは、部分14bの拡大図である。
【0066】
以上、本発明に関して、具体的な構成要素などのような特定事項と限定された実施例及び図面に基づいて説明してきたが、これらは本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものであるに過ぎず、本発明が前記実施例に限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常的な知識を有する者であれば、このような記載から種々な変更及び変形を図ることができる。
【0067】
したがって、本発明の思想は、前記説明された実施例に限定されず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等に又は等価的に変形されたあらゆるものが本発明の思想の範囲に属するといえる。
【符号の説明】
【0068】
1000 電動機エミュレータ
100 電圧追従インバータ
110 直流端子電圧源
120 第1スイッチング部
121 上相スイッチ
122 下相スイッチ
130 第1スイッチング制御部
200 出力電流制御部
210 スイッチング回路
220 第2スイッチング制御部
230 独立の直流電圧源