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特許7011098洗浄組成物、半導体基板の洗浄方法、および、半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】洗浄組成物、半導体基板の洗浄方法、および、半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220119BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20220119BHJP
   C11D 3/36 20060101ALI20220119BHJP
   C11D 1/12 20060101ALI20220119BHJP
   C11D 1/22 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
H01L21/304 647B
C11D3/20
C11D3/36
C11D1/12
C11D1/22
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021098707
(22)【出願日】2021-06-14
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591221097
【氏名又は名称】富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】室 祐継
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲也
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/195343(WO,A1)
【文献】特開2005-255983(JP,A)
【文献】特開2011-040722(JP,A)
【文献】特開2010-090226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304-21/308
C11D 1/00 - 7/60
H01L 21/02 -21/033
H01L 21/768
B08B 1/00 - 7/04
G03F 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸と、
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸と、
スルホン酸系界面活性剤と、
水と、を含み、
前記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が20~150であり、
前記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が70~1500であり、
pHが0.10~4.00である、洗浄組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸系界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、請求項1に記載の洗浄組成物。
【請求項3】
前記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤が、アルキル基の炭素数が8以上であるアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、請求項2に記載の洗浄組成物。
【請求項4】
前記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤が、アルキル基の炭素数が10~13であるアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、請求項2または3に記載の洗浄組成物。
【請求項5】
前記スルホン酸系界面活性剤が、
炭素数10のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤1と、
炭素数11のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤2と、
炭素数12のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤3と、
炭素数13のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤4と、を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項6】
前記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤1~4の合計質量に対する前記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤2の含有量が、20~50質量%である、請求項5に記載の洗浄組成物。
【請求項7】
前記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が30~100である、請求項1~6のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項8】
前記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が40~80である、請求項1~7のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項9】
前記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が50~60である、請求項1~8のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項10】
前記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が200~600である、請求項1~9のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項11】
前記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が300~500である、請求項1~10のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項12】
前記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する前記クエン酸の含有量の質量比が410~440である、請求項1~11のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項13】
洗浄組成物全質量に対する前記クエン酸の含有量が、0.1~35.0質量%である、請求項1~12のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項14】
洗浄組成物全質量に対する前記クエン酸の含有量が、1.0~35.0質量%である、請求項1~13のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項15】
洗浄組成物全質量に対する前記クエン酸の含有量が、20.0~35.0質量%である、請求項1~14のいずれか1項に記載の洗浄組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の洗浄組成物を用いて半導体基板を洗浄する、半導体基板の洗浄方法。
【請求項17】
請求項16に記載の半導体基板の洗浄方法を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野では、著しい高集積化および高性能化に伴い、ごく微量の不純物(コンタミネーション)や付着物(パーティクル)であっても、装置の性能、ひいては製品の歩留まりに大きく影響するようになってきた。半導体分野においては、製造に際して、コンタミネーションやパーティクルの影響を低減するため、洗浄液による洗浄を行うことが一般的である。
【0003】
半導体素子は、各製造工程において、多様なコンタミネーションやパーティクル(以下、残渣ともいう。)が発生し得る。例えば、フォトリソグラフィー工程、または、ドライエッチング工程による残渣、および、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)処理による残渣が挙げられる。
このような残渣を除去する洗浄液として、例えば、特許文献1には、架橋構造を有する有機重合体粒子、および、界面活性剤を有する洗浄液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-255983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、半導体素子においては、配線等に銅(Cu)が使用されることがある。残渣の洗浄を行う際、銅が表面に露出している場合もあり、洗浄液によって銅が腐食すると、製品の歩留まり低下を引き起こし得る。したがって、洗浄液に対しては、残渣の除去性が優れるとともに、銅の腐食が発生しないことが望まれている。特に、CMPを行った後の基板等に対して、上記要望があった。
【0006】
本発明者らは、特許文献1に開示されている洗浄液(洗浄組成物)を半導体基板の洗浄に用いたところ、残渣の除去性と、銅の防食性との両立が困難であることを知見した。
【0007】
そこで、本発明は、残渣(特にCMP後の残渣)の除去性に優れ、銅の防食性に優れる洗浄組成物の提供を課題とする。
また、本発明は、半導体基板の洗浄方法、および、半導体素子の製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
〔1〕 クエン酸と、
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸と、
スルホン酸系界面活性剤と、
水と、を含み、
上記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が20~150であり、
上記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が70~1500であり、
pHが0.10~4.00である、洗浄組成物。
〔2〕 上記スルホン酸系界面活性剤が、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、〔1〕に記載の洗浄組成物。
〔3〕 上記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤が、アルキル基の炭素数が8以上であるアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、〔2〕に記載の洗浄組成物。
〔4〕 上記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤が、アルキル基の炭素数が10~13であるアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤を含む、〔2〕または〔3〕に記載の洗浄組成物。
〔5〕 上記スルホン酸系界面活性剤が、
炭素数10のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤1と、
炭素数11のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤2と、
炭素数12のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤3と、
炭素数13のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤4と、を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔6〕 上記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤1~4の合計質量に対する上記アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤2の含有量が、20~50質量%である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔7〕 上記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が30~100である、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔8〕 上記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が40~80である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔9〕 上記1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が50~60である、〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔10〕 上記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が200~600である、〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔11〕 上記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が300~500である、〔1〕~〔10〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔12〕 上記スルホン酸系界面活性剤の含有量に対する上記クエン酸の含有量の質量比が410~440である、〔1〕~〔11〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔13〕 洗浄組成物全質量に対する上記クエン酸の含有量が、0.1~35.0質量%である、〔1〕~〔12〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔14〕 洗浄組成物全質量に対する上記クエン酸の含有量が、1.0~35.0質量%である、〔1〕~〔13〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔15〕 洗浄組成物全質量に対する上記クエン酸の含有量が、20.0~35.0質量%である、〔1〕~〔14〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物。
〔16〕 〔1〕~〔15〕のいずれか1つに記載の洗浄組成物を用いて半導体基板を洗浄する、半導体基板の洗浄方法。
〔17〕 〔16〕に記載の半導体基板の洗浄方法を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、残渣(特にCMP後の残渣)の除去性に優れ、銅の防食性に優れる洗浄組成物を提供できる。
また、本発明によれば、半導体基板の洗浄方法、および、半導体素子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0012】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書においてppmとは“parts per million”の略であり、10-6を意味する。また、本明細書においてppbとは“parts per billion”の略であり、10-9を意味する。
本明細書において、「psi」とは、“pound-force per square inch”、すなわち重量ポンド毎平方インチを意味し、1psi=6894.76Paを意味する。
本明細書に記載の化合物において、特段の断りがない限り、異性体(原子数が同じであるが構造が異なる化合物)、光学異性体および同位体が含まれていてもよい。また、異性体および同位体は、1種のみが含まれていてもよいし、複数種含まれていてもよい。
本明細書において、ある成分が2種以上存在する場合、その成分の「含有量」は、それら2種以上の成分の合計含有量を意味する。
【0013】
<洗浄組成物>
本発明の洗浄組成物は、クエン酸と、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(以下、「HEDPO」ともいう。)と、スルホン酸系界面活性剤と、水と、を含み、HEDPOの含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が20~150であり、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が70~1500であり、pHが0.10~4.00である。
【0014】
機序は必ずしも明らかではないが、洗浄組成物がクエン酸とHEDPOとを特定範囲の質量比で含むことで、適度な溶解能を発現し、さらに、洗浄組成物がスルホン酸系界面活性剤とクエン酸とを特定範囲の質量比で含むことで、残渣の除去性を向上していると推測される。結果として、本発明の洗浄組成物は、残渣の除去性に優れ、銅の防食性に優れると推測される。
以下、洗浄組成物が含む成分、洗浄組成物の性状、および、洗浄組成物の調製について詳述する。
【0015】
<洗浄組成物の成分>
本発明の洗浄組成物は、クエン酸と、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDPO)と、スルホン酸系界面活性剤と、水と、を含む。また、本発明の洗浄組成物は、後述するその他成分を含んでいてもよい。
以下、洗浄組成物が含む各成分、および、成分の含有質量比について詳述する。
【0016】
(クエン酸)
クエン酸は、不純物含有量が少ないことが好ましく、例えば、半導体グレードのものが好ましい。
洗浄組成物全質量に対するクエン酸の含有量は、残渣の除去性および銅の防食性がより優れる点で、0.1~35.0質量%が好ましく、1.0~35.0質量%がより好ましく、20.0~35.0質量%がさらに好ましい。
【0017】
(HEDPO)
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDPO)は、不純物含有量が少ないことが好ましく、例えば、半導体グレードのものが好ましい。
洗浄組成物全質量に対するHEDPOの含有量は、0.001~5.0質量%が好ましく、0.01~2.0質量%がより好ましく、0.1~1.0質量%がさらに好ましく、0.4~0.8質量%が特に好ましい。
【0018】
洗浄組成物において、HEDPOの含有量に対するクエン酸の含有量の質量比は、20~150である。上記質量比は、残渣の除去性および銅の防食性がより優れる点で、30~100が好ましく、40~80がより好ましく、50~60がさらに好ましい。
【0019】
(スルホン酸系界面活性剤)
スルホン酸系界面活性剤とは、界面活性剤分子が有する疎水基と親水基とのうち、親水基にスルホ基を含む界面活性剤である。
スルホン酸系界面活性剤における疎水基は特に制限されず、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、および、それらの組合せが挙げられる。疎水基の炭素数は、6以上が好ましく、10以上がより好ましい。疎水基の炭素数の上限は特に制限されないが、24以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0020】
上記スルホン酸系界面活性剤としては、例えば、アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤、アルキルナフタレンスルホン酸系界面活性剤)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸系界面活性剤、および、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル系界面活性剤が挙げられ、アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤が好ましい。すなわち、界面活性剤分子がアルキル基およびスルホ基を有し、界面活性剤分子が芳香族炭化水素環を分子中に含むスルホン酸系界面活性剤が好ましい。
アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤が有するアルキル基は直鎖状、および、分岐鎖状のどちらであってもよく、分岐鎖状が好ましい。上記アルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、8~20がより好ましく、10~13がさらに好ましい。
アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤が含む芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、および、ナフタレン環が挙げられる。
アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤が有するスルホ基は、芳香族炭化水素環に直接結合していることが好ましい。スルホ基は、カチオンと塩を形成していてもよい。
アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤としては、式(A)で表される界面活性剤が好ましい。
-Ar-SOH (A)
式(A)中、Rは、炭素数8以上のアルキル基を表す。Arは、アリーレン基を表す。
上記アルキル基の炭素数の好適範囲は、上述した通りである。
上記アリーレン基は、単環および多環のいずれであってもよい。アリーレン基の炭素数は、6~20が好ましく、6~15がより好ましい。
アリーレン基としては、フェニレン基またはナフチレン基が好ましい。
【0021】
上記スルホン酸系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤が好ましく挙げられる。すなわち、界面活性剤分子がアルキル基およびスルホ基を有し、界面活性剤分子がベンゼン環を分子中に含むスルホン酸系界面活性剤が好ましい。
なお、以下、アルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤のことを「ABS」ともいう。
ABSが有するアルキル基は直鎖状、および、分岐鎖状のどちらであってもよく、分岐鎖状が好ましい。ABSが有するアルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、8~20がより好ましく、10~13がさらに好ましい。
ABSとしては、式(A)中のArがフェニレン基である態様が挙げられる。
【0022】
ABSとしては、例えば、オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ヘキサデカンベンゼンスルホン酸、ヘプタデカンベンゼンスルホン酸、オクタデカンベンゼンスルホン酸、ノナデカンベンゼンスルホン酸、エイコシルベンゼンスルホン酸、デシルジフェニルオキサイドジスルホン酸、ウンデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸、ドデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸、および、トリデシルジフェニルオキサイドジスルホン酸、ならびに、これらのナトリウム塩、カリウム塩、および、アンモニウム塩が挙げられる。上記列挙したABSにおけるアルキル基は、直鎖状、および、分岐鎖状のいずれであってもよく、分岐鎖状が好ましい。また、アルキル基が分岐鎖状の場合、アルキル基におけるベンゼン環との結合位置は特に制限されない。
【0023】
上記スルホン酸系界面活性剤が、炭素数10のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤1(以下、「ABS1」ともいう。)と、炭素数11のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤2(以下、「ABS2」ともいう。)と、炭素数12のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性3(以下、「ABS3」ともいう。)と、炭素数13のアルキル基を含むアルキルベンゼンスルホン酸系界面活性剤4(以下、「ABS4」ともいう。)と、を含むことも好ましい。
ABS1としては、式(A)中のArがフェニレン基であり、Rが炭素数10のアルキル基である態様が挙げられる。ABS2としては、式(A)中のArがフェニレン基であり、Rが炭素数11のアルキル基である態様が挙げられる。ABS3としては、式(A)中のArがフェニレン基であり、Rが炭素数12のアルキル基である態様が挙げられる。ABS4としては、式(A)中のArがフェニレン基であり、Rが炭素数13のアルキル基である態様が挙げられる。
ABS1~4の合計質量に対するABS1の含有量は、特に制限されないが、5~50質量%が好ましい。
ABS1~4の合計質量に対するABS2の含有量は、特に制限されないが、20~50質量%が好ましい。
ABS1~4の合計質量に対するABS3の含有量は、特に制限されないが、20~50質量%が好ましい。
ABS1~4の合計質量に対するABS4の含有量は、特に制限されないが、20~50質量%が好ましい。
【0024】
洗浄組成物全質量に対するスルホン酸系界面活性剤の含有量は、0.0001~1.0質量%が好ましく、0.001~0.8質量%がより好ましく、0.02~0.2質量%がさらに好ましく、0.05~0.1質量%が特に好ましい。
【0025】
洗浄組成物において、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比は、70~1500である。上記質量比は、残渣の除去性および銅の防食性がより優れる点で、200~600が好ましく、300~500がより好ましく、410~440がさらに好ましい。
【0026】
洗浄組成物において、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するHEDPOの含有量の質量比は、0.5~30が好ましく、1~20がより好ましく、5~10がさらに好ましい。
【0027】
(水)
水としては、蒸留水、イオン交換水、および、超純水等の浄化処理を施された水が好ましく、半導体製造に使用される超純水がより好ましい。
洗浄組成物全質量に対する水の含有量は、50.00~99.99質量%が好ましく、60.00~98.00質量%がより好ましく、65.00~85.00質量%がさらに好ましく、68.00~75.00質量%が特に好ましい。
【0028】
(その他成分)
洗浄組成物が含んでいてもよいその他成分としては、例えば、金属イオン、リン酸イオン、無機粒子、有機粒子、アミン化合物、防食剤、および、pH調整剤が挙げられる。他にも、スルホン酸系界面活性剤以外の界面活性剤を含んでいてもよい。
【0029】
洗浄液は、金属イオンを含んでいてもよい。
洗浄組成物が金属イオンを含む場合、金属イオンの金属元素としては、Fe、Co、Na、Cu、Mg、Mn、Li、Al、Cr、Ni、Zn、Sn、および、Agが挙げられる。
洗浄組成物全質量に対する銅イオンの含有量は、0.5質量ppb以下が好ましい。下限は特に制限されないが、検出されないことが好ましい。
金属イオンの含有量は公知の方法で求めることができ、例えば、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)が挙げられる。本明細書において、金属イオンの含有量は、ICP-MSで測定して得られたものとする。
【0030】
洗浄組成物は、リン酸イオンを含んでいてもよい。リン酸イオンは、上記各成分の不純物として含まれ得る。
洗浄組成物がリン酸イオンを含む場合、洗浄組成物全質量に対するリン酸イオンの含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下がさらに好ましい。
洗浄組成物中においてリン酸イオンは検出されないことが好ましいが、洗浄組成物全質量に対するリン酸イオンの含有量は、0.001質量%以上の場合が多い。
リン酸イオンは公知の方法で求めることができ、例えば、イオンクロマトグラフィー、および、モリブデン酸アンモニウムを用いる比色法が挙げられる。
上記リン酸イオンの含有量を調整する方法としては、例えば、洗浄組成物中に含まれる成分および調整後の洗浄組成物を、蒸留およびイオン交換樹脂等を用いて精製する方法が挙げられる。
【0031】
洗浄組成物は、無機粒子および有機粒子の少なくとも一方を含んでいてもよい。
洗浄組成物が無機粒子および有機粒子の少なくとも一方を含む場合、洗浄組成物全質量に対する無機粒子および有機粒子の合計含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.1質量ppb以上が挙げられる。
洗浄組成物に含まれる無機粒子および有機粒子は、原料に不純物として含まれる有機固形物および無機固形物等の粒子、ならびに、洗浄組成物の調製中に汚染物として持ち込まれる有機固形物および無機固形物等の粒子であって、最終的に洗浄組成物中で溶解せずに粒子として存在するものが該当する。
洗浄組成物中に存在する無機粒子および有機粒子の含有量は、レーザを光源とした光散乱式液中粒子測定方式における市販の測定装置を利用して液相で測定できる。
無機粒子および有機粒子の除去方法としては、例えば、後述するフィルタリング等の精製処理が挙げられる。
【0032】
洗浄組成物は、アミン化合物を含んでいてもよい。
アミン化合物は、アミノ基を有する化合物である。上記アミン化合物が有するアミノ基は、第1級のアミノ基(-NH)、第2級のアミノ基(>NH)および第3級のアミノ基(>N-)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ基である。なお、アミン化合物が、複数の級数のアミノ基を有する場合、そのうち最も高級なアミノ基を有するアミン化合物に分類する。具体的には、第1級のアミノ基と、第2級のアミン基とを有するアミン化合物は、第2級のアミン基を有するアミン化合物とする。
アミン化合物としては、例えば、脂肪族アミンおよびアミノアルコール(ヒドロキシ基を有する脂肪族アミン)が挙げられる。上記アミン化合物は、鎖状(直鎖状または分岐鎖状)および環状のいずれであってもよい。
アミン化合物は、1種単独または2種以上で用いてもよい。
【0033】
洗浄組成物は、防食剤を含んでいてもよい。
防食剤としては、例えば、ヘテロ原子を有する化合物が挙げられ、複素環を有する化合物(複素環化合物)が好ましく、多環の複素環を有する化合物がより好ましい。
防食剤としては、プリン化合物、アゾール化合物または還元性硫黄化合物が好ましい。
防食剤は、洗浄組成物に含まれ得る上記化合物とは異なる化合物であることが好ましい。
防食剤は、1種単独または2種以上で用いてもよい。
洗浄組成物が防食剤を含む場合、洗浄組成物全質量に対する防食剤の含有量は、0.01~10.0質量%が好ましく、1.0~10.0質量%がより好ましく、5.0~8.0質量%が更に好ましい。
【0034】
洗浄組成物は、スルホン酸系界面活性剤とは異なる界面活性剤(以下、「他の界面活性剤」ともいう。)を含んでいてもよい。
他の界面活性剤としては、1分子中に親水基と疎水基(親油基)とを有する化合物であり、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。
洗浄組成物が他の界面活性剤を含む場合、金属膜の防食性能および研磨微粒子の除去性がより優れる。
他の界面活性剤としては、例えば、特開2015-158662号公報の段落[0092]~[0096]、特開2012-151273号公報の段落[0045]~[0046]および特開2009-147389号公報の段落[0014]~[0020]に記載の化合物も挙げられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
他の界面活性剤は、1種単独または2種以上で用いてもよい。
洗浄組成物が他の界面活性剤を含む場合、洗浄組成物全質量に対する他の界面活性剤の含有量は、0.001~8.0質量%が好ましく、0.005~5.0質量%がより好ましく、0.01~3.0質量%が更に好ましい。
【0035】
洗浄組成物は、洗浄組成物のpHを調整および維持するためにpH調整剤を含んでいてもよい。洗浄組成物は、pH調整剤によって後述するpHの範囲に調整してもよい。
pH調整剤は、洗浄組成物に含まれ得る上記化合物とは異なる、塩基性化合物または酸性化合物である。
pH調整剤としては、例えば、第4級アンモニウム化合物、塩基性化合物、および、酸性化合物が挙げられ、第4級アンモニウム化合物、硫酸、または、水酸化カリウムが好ましい。
上述した各成分の添加量を調整することで、洗浄組成物のpHを調整してもよい。
pH調整剤としては、例えば、国際公開第2019-151141号の段落[0053]および[0054]、ならびに、国際公開第2019-151001号の段落[0021]が挙げられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
pH調整剤は、1種単独または2種以上で用いてもよい。
洗浄組成物がpH調整剤を含む場合、洗浄組成物全質量に対するpH調整剤の含有量は、その他成分の種類および量に応じて選択でき、0.01~10.0質量%が好ましく、0.05~5.0質量%がより好ましく、0.05~3.0質量%が更に好ましい。
【0037】
<洗浄組成物の性状>
以下、本発明の洗浄組成物の性状を説明する。具体的には、pH、電気伝導度、および、粗大粒子について説明する。
【0038】
(pH)
本発明の洗浄組成物のpHは、0.10~4.00である。
洗浄組成物のpHは、銅の防食性がより優れる点で、0.50~3.00が好ましく、1.00~2.00がより好ましく、1.00~1.50がさらに好ましい。
本明細書において、洗浄組成物のpHは、25℃において、pHメーター(株式会社堀場製作所製、F-51(商品名))を用いて測定することにより得られる。
pHの調整方法としては、例えば、洗浄組成物に含まれ得る各成分の種類および含有量を調整する方法、ならびに、上述したpH調整剤を添加する方法が挙げられる。
【0039】
(電気伝導度)
洗浄組成物の電気伝導度は、0.05~11.0mS/cmが好ましい。
洗浄組成物の電気伝導度は、1.00~11.0mS/cmがより好ましく、4.00~11.0mS/cmがさらに好ましい。
本明細書において、洗浄組成物の電気伝導度は、25℃において、電気伝導率計(ポータブル型D-70/ES-70シリーズ、堀場製作所社製)を用いて測定することにより得られる。
上記電気伝導度を調整する方法としては、例えば、洗浄液に含まれ得る各成分の種類および含有量を調整する方法が挙げられる。
【0040】
<洗浄組成物の製造>
以下、本発明の洗浄組成物の製造に関して詳述する。具体的には、調液方法、精製処理、洗浄組成物を収容する容器、および、製造等を行う取り扱い環境について詳述する。
【0041】
(調液方法)
洗浄組成物の調液方法は特に制限されず、例えば、上述した各成分を混合することにより洗浄組成物を製造できる。上述した各成分を混合する順序、および/または、タイミングは特に制限されない。例えば、水に対して、クエン酸、HEDPO、スルホン酸系界面活性剤、および、その他成分を混合する方法、ならびに、クエン酸水溶液に対して、水、HEDPO、スルホン酸系界面活性剤、および、その他成分を混合する方法が挙げられる。
各成分を混合する際、各成分はそれぞれ一括して混合してもよく、複数回に分割して混合してもよい。
なお、混合する各成分は、固体を用いてもよく、水溶液を用いてもよい。
【0042】
洗浄組成物の混合に使用する撹拌装置および撹拌方法は、特に制限されず、公知の装置および方法を使用すればよい。撹拌機としては、例えば、工業用ミキサー、可搬型撹拌器、メカニカルスターラー、および、マグネチックスターラーが挙げられる。
【0043】
洗浄組成物の調液における各成分の混合、および、後述する精製処理、ならびに、製造された洗浄組成物の保管温度は、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。保管温度の下限は特に制限されないが、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0044】
(精製処理)
洗浄組成物を製造するための原料のいずれか1種以上に対して、事前に精製処理を行うことが好ましい。また、上記方法で製造した洗浄組成物に対して精製処理を行ってもよい。精製処理としては、特に制限されず、例えば、蒸留、イオン交換、および、ろ過等の公知の方法が挙げられる。
精製の程度としては、特に制限されないが、例えば、原料の純度が99質量%以上となるまで精製することが好ましく、原液の純度が99.9質量%以上となるまで精製することがより好ましい。
【0045】
精製処理の具体的な方法としては、例えば、原料をイオン交換樹脂またはRO膜(Reverse Osmosis Membrane)等に通液する方法、原料の蒸留、および、後述するフィルタリングが挙げられる。
精製処理として、上述した精製方法を複数組み合わせて実施してもよい。例えば、原料に対して、RO膜に通液する1次精製を行った後、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、または、混床型イオン交換樹脂からなる精製装置に通液する2次精製を実施してもよい。
また、精製処理は、複数回実施してもよい。
【0046】
フィルタリングに用いるフィルタとしては、従来からろ過用途等に用いられていれば特に制限されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ならびに、ポリエチレン、および、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂(高密度または超高分子量を含む)からなるフィルタが挙げられる。これらの材料の中でもポリエチレン、ポリプロピレン(高密度ポリプロピレンを含む)、フッ素系樹脂(PTFE、および、PFAを含む)、および、ポリアミド系樹脂(ナイロンを含む)からなる群から選択される材料が好ましく、フッ素系樹脂のフィルタがより好ましい。これらの材料により形成されたフィルタを使用して原料のろ過を行うことで、欠陥の原因となり易い極性の高い異物を効果的に除去できる。
【0047】
フィルタの臨界表面張力は、70~95mN/mが好ましく、75~85mN/mがより好ましい。なお、フィルタの臨界表面張力の値は、製造メーカーの公称値である。臨界表面張力が上記範囲のフィルタを使用することで、欠陥の原因となり易い極性の高い異物を効果的に除去できる。
【0048】
フィルタの孔径は、2~20nmが好ましく、2~15nmがより好ましい。フィルタの孔径を上記範囲とすることにより、ろ過詰まりを抑えつつ、原料中に含まれる不純物、および、凝集物等の微細な異物を確実に除去することが可能となる。ここでの孔径は、フィルタメーカーの公称値を参照できる。
【0049】
フィルタリングは1回のみであってもよいし、2回以上行ってもよい。フィルタリングを2回以上行う場合、用いるフィルタは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0050】
また、フィルタリングを行う際の温度は、室温(25℃)以下が好ましく、23℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。温度の下限は0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上がさらに好ましい。上記の温度範囲でフィルタリングを行うことにより、原料中に溶解する粒子性の異物、および、不純物の量を低減し、異物、および、不純物を効率的に除去できる。
【0051】
(容器)
洗浄組成物(後述する希釈洗浄組成物の態様を含む)は、腐食性等が問題とならない限り、任意の容器に充填して保管、運搬、および、使用できる。
【0052】
容器としては、半導体用途向けの容器内のクリーン度が高く、容器の収容部の内壁から洗浄組成物への不純物の溶出が抑制された容器が好ましい。そのような容器としては、半導体洗浄組成物用容器として市販されている各種容器が挙げられる。市販用機としては、例えば、アイセロ化学(株)製の「クリーンボトル」シリーズ、および、コダマ樹脂工業製の「ピュアボトル」等が挙げられるが、これらに制限されない。
洗浄組成物を収容する容器は、その収容部の内壁等の洗浄組成物との接液部が、フッ素系樹脂(パーフルオロ樹脂)で形成されたものであるか、防錆処理、および/または、金属溶出防止処理が施された金属で形成されたものが好ましい。
容器の内壁は、樹脂、または、防錆および金属溶出防止処理が施された金属から形成されることが好ましい。樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、および、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂、ならびに、後述するこれとは異なる樹脂が挙げられる。防錆、および、金属溶出防止処理が施される金属としては、ステンレス、ハステロイ、インコネル、および、モネル等が挙げられる。
【0053】
上記の異なる樹脂としては、フッ素系樹脂(パーフルオロ樹脂)が好ましい。内壁がフッ素系樹脂である容器を用いることで、内壁がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂である容器と比べて、エチレンまたはプロピレンのオリゴマーの溶出という不具合の発生を抑制できる。
このような内壁がフッ素系樹脂である容器の具体例としては、例えば、Entegris社製 FluoroPurePFA複合ドラム等が挙げられる。また、特表平3-502677号公報の第4頁、国際公開第2004/016526号明細書の第3頁、ならびに国際公開第99/46309号明細書の第9頁、および、16頁等に記載の容器も使用できる。
【0054】
また、容器の内壁には、上述したフッ素系樹脂の他に、石英、および、電解研磨された金属材料(すなわち、電解研磨済みの金属材料)も好ましく用いられる。
上記電解研磨された金属材料の製造に用いられる金属材料は、クロム、および、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1つを含み、クロム、および、ニッケルの含有量の合計が金属材料全質量に対して25質量%超である金属材料であることが好ましく、例えば、ステンレス鋼、および、ニッケル-クロム合金等が挙げられる。
金属材料におけるクロム、および、ニッケルの含有量の合計は、金属材料の全質量に対して30質量%以上がより好ましい。
なお、金属材料におけるクロム、および、ニッケルの含有量の合計の上限値としては特に制限されないが、90質量%以下が好ましい。
【0055】
金属材料を電解研磨する方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、特開2015-227501号公報の段落[0011]~[0014]、および、特開2008-264929号公報の段落[0036]~[0042]等に記載された方法を使用できる。
【0056】
これらの容器は、洗浄組成物を充填する前にその内部が洗浄されることが好ましい。洗浄に使用される液体は、その液中における金属不純物量が低減されていることが好ましい。洗浄組成物は、製造後にガロン瓶またはコート瓶等の容器にボトリングし、輸送、保管されてもよい。
【0057】
保管における洗浄組成物中の成分の変化を防ぐ目的で、容器内を純度99.99995体積%以上の不活性ガス(窒素、またはアルゴン等)で置換しておいてもよい。特に、含水率が少ないガスが好ましい。また、輸送、および、保管に際しては、常温でもよいが、変質を防ぐため、-20~20℃の範囲に温度制御してもよい。
【0058】
容器内における洗浄組成物以外の体積が占める割合、すなわち容器の空隙率は、1~30体積%が好ましく、3~20体積%がより好ましく、5~15体積%がさらに好ましい。
【0059】
(取り扱い環境)
洗浄組成物の製造、容器の開封、洗浄、および、洗浄組成物の充填等を含めた取り扱い、処理分析、ならびに、測定は、全てクリーンルームで行うことが好ましい。クリーンルームは、14644-1クリーンルーム基準を満たすことが好ましい。ISO(国際標準化機構)クラス1、ISOクラス2、ISOクラス3、および、ISOクラス4のいずれかを満たすことが好ましく、ISOクラス1またはISOクラス2を満たすことがより好ましく、ISOクラス1を満たすことがさらに好ましい。
【0060】
<洗浄組成物の用途および洗浄方法>
洗浄組成物の用途、洗浄対象物、洗浄方法、および、洗浄組成物の使用方法について以下に詳述する。
【0061】
(洗浄組成物の用途)
洗浄組成物は、半導体基板の製造プロセスにおける半導体基板を洗浄する工程に使用することが好ましい。なかでも、洗浄組成物は、化学機械研磨(CMP)処理が施された半導体基板を洗浄する洗浄工程に使用することが好ましい。他にも、洗浄組成物は、後述するようにバフ研磨処理にも使用できる。また、洗浄組成物は、半導体基板の製造プロセスに用いられる装置等の洗浄に使用できる。
後述する通り、半導体基板の洗浄には、洗浄組成物を希釈して得られる希釈洗浄組成物を使用してもよい。
以下、洗浄組成物が好ましく用いられる洗浄対象物について詳述する。
【0062】
(洗浄対象物)
洗浄組成物の洗浄対象物としては、例えば、半導体基板(より具体的には、金属含有物を有する半導体基板)が挙げられる。
洗浄対象物は、後述するCMP処理後の金属含有物を有する半導体基板、および、CMP処理後にバフ研磨を行った金属含有物を有する半導体基板が好ましい。
【0063】
金属含有物に含まれる金属は、例えば、銅(Cu)、コバルト(Co)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、オスミウム(Os)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ジルコニウム(Zr)、パラジウム(Pd)、ランタン(La)、および、イリジウム(Ir)からなる群から選択される少なくとも1つの金属Mが挙げられる。
【0064】
金属含有物は、金属(金属原子)を含む物質であればよく、例えば、金属Mの単体、金属Mを含む合金、金属Mの酸化物、金属Mの窒化物、および、金属Mの酸窒化物が挙げられる。
金属含有物は、これらの化合物のうちの2種以上を含む混合物であってもよい。
なお、上記酸化物、窒化物、および、酸窒化物は、金属を含む、複合酸化物、複合窒化物、および、複合酸窒化物のいずれであってもよい。
金属含有物中の金属原子の含有量は、金属含有物の全質量に対して、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。上限は、金属含有物が金属そのものであってもよいことから、100質量%以下が好ましい。
【0065】
半導体基板は、金属Mを含む金属含有物を有することが好ましく、Cu、Co、W、Mo、Ru、Al、Ti、および、Taからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属含有物を有することがより好ましく、Cu、Co、W、Mo、および、Ruからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属含有物を有することがさらに好ましく、Cuを含む金属含有物を有することが特に好ましい。
【0066】
洗浄組成物の洗浄対象物である半導体基板は、例えば、半導体基板を構成するウエハの表面に、金属配線膜、バリアメタル、および、絶縁膜を有する基板が挙げられる。
【0067】
半導体基板を構成するウエハの具体例としては、シリコン(Si)ウエハ、シリコンカーバイド(SiC)ウエハ、および、シリコンを含む樹脂系ウエハ(ガラスエポキシウエハ)等のシリコン系材料からなるウエハ、ガリウムリン(GaP)ウエハ、ガリウムヒ素(GaAs)ウエハ、ならびに、インジウムリン(InP)ウエハが挙げられる。
シリコンウエハとしては、シリコンウエハに5価の原子(例えば、リン(P)、ヒ素(As)、および、アンチモン(Sb)等)をドープしたn型シリコンウエハ、ならびに、シリコンウエハに3価の原子(例えば、ホウ素(B)、および、ガリウム(Ga)等)をドープしたp型シリコンウエハであってもよい。シリコンウエハのシリコンとしては、例えば、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン、および、ポリシリコンのいずれであってもよい。
【0068】
半導体基板は、上記したウエハに絶縁膜を有していてもよい。
絶縁膜の具体例としては、シリコン酸化膜(例えば、二酸化ケイ素(SiO)膜、および、オルトケイ酸テトラエチル(Si(OC)膜(TEOS膜)等)、シリコン窒化膜(例えば、窒化シリコン(Si)、および、窒化炭化シリコン(SiNC)等)、ならびに、低誘電率(Low-k)膜(例えば、炭素ドープ酸化ケイ素(SiOC)膜、および、シリコンカーバイド(SiC)膜等)が挙げられる。なかでも、低誘電率(Low-k)膜が好ましい。
【0069】
金属含有物は、金属を含む金属膜であることも好ましい。
半導体基板が有する金属膜としては、金属Mを含む金属膜が好ましく、Cu、Co、W、Mo、Ru、Al、Ti、および、Taからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属膜がより好ましく、Cu、Co、W、Mo、および、Ruからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属膜がさらに好ましく、Cuを含む金属膜が特に好ましい。
Cu、Co、W、Mo、および、Ruからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む金属膜としては、例えば、Cuを主成分とする膜(Cu含有膜)、Coを主成分とする膜(Co含有膜)、Wを主成分とする膜(W含有膜)、Moを主成分とする膜(Mo含有膜)、および、Ruを主成分とする膜(Ru含有膜)が挙げられる。
【0070】
Cu含有膜としては、例えば、金属Cuのみからなる配線膜(Cu配線膜)、および、金属Cuと他の金属とからなる合金製の配線膜(Cu合金配線膜)が挙げられる。
Cu合金配線膜としては、Al、Ti、Cr、Mn、Ta、および、Wから選ばれる1種以上の金属とCuとからなる合金製の配線膜が挙げられる。より具体的には、CuAl合金配線膜、CuTi合金配線膜、CuCr合金配線膜、CuMn合金配線膜、CuTa合金配線膜、および、CuW合金配線膜が挙げられる。
【0071】
Co含有膜としては、例えば、金属Coのみからなる金属膜(Co金属膜)、および、金属Coと他の金属とからなる合金製の金属膜(Co合金金属膜)が挙げられる。
Co合金金属膜としては、Ti、Cr、Fe、Ni、Mo、Pd、Ta、および、Wから選ばれる1種以上の金属とCoとからなる合金製の金属膜が挙げられる。より具体的には、CoTi合金金属膜、CoCr合金金属膜、CoFe合金金属膜、CoNi合金金属膜、CoMo合金金属膜、CoPd合金金属膜、CoTa合金金属膜、および、CoW合金金属膜が挙げられる。
Co含有膜のうち、Co金属膜は配線膜として使用されることが多く、Co合金金属膜はバリアメタルとして使用されることが多い。
【0072】
W含有膜(Wを主成分とする金属膜)としては、例えば、Wのみからなる金属膜(W金属膜)、および、Wと他の金属とからなる合金製の金属膜(W合金金属膜)が挙げられる。
W合金金属膜としては、例えば、WTi合金金属膜、および、WCo合金金属膜が挙げられる。
W含有膜は、例えば、バリアメタル、または、ビアと配線の接続部に使用される。
【0073】
Mo含有膜としては、例えば、金属Moのみからなる金属膜(Mo金属膜)、および、金属Moと他の金属とからなる合金製の金属膜(Mo合金金属膜)が挙げられる。
【0074】
Ru含有膜としては、例えば、金属Ruのみからなる金属膜(Ru金属膜)、および、金属Ruと他の金属とからなる合金製の金属膜(Ru合金金属膜)が挙げられる。Ru含有膜は、バリアメタルとして使用されることが多い。
【0075】
また、洗浄組成物を、半導体基板を構成するウエハの上部に、Cu含有配線膜と、金属Coのみから構成され、Cu含有配線膜のバリアメタルである金属膜(Coバリアメタル)とを有し、Cu含有配線膜とCoバリアメタルとが基板表面において接触している基板の洗浄に使用することが好ましい場合がある。
【0076】
半導体基板を構成するウエハ上に、上記の絶縁膜、Cu含有膜、Co含有膜、W含有膜、Mo含有膜、および、Ru含有膜を形成する方法としては、通常この分野で行われる方法であれば特に制限はない。
絶縁膜の形成方法としては、例えば、半導体基板を構成するウエハに対して、酸素ガス存在下で熱処理を行うことによりシリコン酸化膜を形成し、次いで、シランおよびアンモニアのガスを流入して、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によりシリコン窒化膜を形成する方法が挙げられる。
Cu含有膜、Co含有膜、W含有膜、Mo含有膜、および、Ru含有膜を形成する方法としては、例えば、上記の絶縁膜を有するウエハ上に、レジスト等の公知の方法で回路を形成し、次いで、鍍金およびCVD法等の方法により、Cu含有膜、Co含有膜、W含有膜、Mo含有膜、および、Ru含有膜を形成する方法が挙げられる。
【0077】
-CMP処理-
洗浄組成物の洗浄対象物としては、CMP処理後の金属膜を有する半導体基板が好ましい。
CMP処理は、例えば、金属配線膜、バリアメタル、および、絶縁膜を有する基板の表面を、研磨微粒子(砥粒)を含む研磨スラリーを用いて、化学的作用と機械的研磨の複合作用で平坦化する処理である。
CMP処理が施された半導体基板の表面には、CMP処理で使用した砥粒(例えば、シリカおよびアルミナ等)、研磨された金属配線膜、および、バリアメタルに由来する金属不純物(金属残渣。特に、Cu含有金属残渣)等の不純物が残存することがある。また、CMP処理の際に用いたCMP処理液に由来する有機残渣物が残存する場合もある。これらの不純物は、例えば、配線間を短絡させ、半導体基板の電気的特性を劣化させるおそれがあるため、CMP処理が施された半導体基板は、これらの不純物を表面から除去するための洗浄処理に供される。
CMP処理が施された半導体基板の具体例としては、精密工学会誌 Vol.84、No.3、2018に記載のCMP処理が施された基板が挙げられるが、これに制限されるものではない。
【0078】
-バフ研磨処理-
洗浄組成物の洗浄対象物である半導体基板の表面は、CMP処理が施された後、バフ研磨処理が施されていてもよい。
バフ研磨処理は、研磨パッドを用いて半導体基板の表面における不純物を低減する処理である。具体的には、CMP処理が施された半導体基板の表面と研磨パッドとを接触させて、その接触部分にバフ研磨用組成物を供給しながら半導体基板と研磨パッドとを相対摺動させる。その結果、半導体基板の表面の不純物が、研磨パッドによる摩擦力およびバフ研磨用組成物による化学的作用によって除去される。
【0079】
バフ研磨用組成物としては、半導体基板の種類、ならびに、除去対象とする不純物の種類および量に応じて、公知のバフ研磨用組成物を適宜使用できる。バフ研磨用組成物に含まれる成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、分散媒としての水、および、硝酸等の酸が挙げられる。
バフ研磨処理において使用する研磨装置および研磨条件等については、半導体基板の種類および除去対象物等に応じて、公知の装置および条件から適宜選択できる。バフ研磨処理としては、例えば、国際公開第2017/169539号の段落[0085]~[0088]に記載の処理が挙げられ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0080】
また、バフ研磨処理の一実施形態としては、バフ研磨用組成物として、上記の洗浄組成物を用いて半導体基板にバフ研磨処理を施すことも好ましい。すなわち、CMP処理後の金属膜を有する半導体基板を洗浄対象物として、洗浄組成物をバフ研磨に使用することも好ましい。
【0081】
(洗浄方法)
以下、洗浄組成物を用いた半導体基板の洗浄方法について説明する。洗浄方法の一態様として、CMP処理後の半導体基板の洗浄方法について説明する。
洗浄方法は以下に記載する態様に制限されず、例えば、上記用途に応じて適切な方法で実施されてもよい。
【0082】
洗浄組成物を用いた洗浄方法は、CMP処理が施された半導体基板を洗浄する洗浄工程を含むものであれば特に制限されない。半導体基板の洗浄方法は、上記の希釈工程で得られる希釈洗浄組成物を、CMP処理が施された半導体基板に適用して洗浄する工程を含むことが好ましい。
【0083】
洗浄組成物を用いて半導体基板を洗浄する洗浄工程は、CMP処理された半導体基板に対して行われる公知の方法であれば特に制限されず、半導体基板に洗浄組成物を供給しながらブラシ等の洗浄部材を半導体基板の表面に物理的に接触させて残渣物等を除去するスクラブ洗浄、洗浄組成物に半導体基板を浸漬する浸漬式、半導体基板を回転させながら洗浄組成物を滴下するスピン(滴下)式、および、洗浄組成物を噴霧する噴霧(スプレー)式等、通常この分野で行われる様式を適宜採用してもよい。浸漬式の洗浄では、半導体基板の表面に残存する不純物をより低減できる点で、半導体基板が浸漬している洗浄組成物に対して超音波処理を施すことが好ましい。
上記洗浄工程は、1回のみ実施してもよく、2回以上実施してもよい。2回以上洗浄する場合には同じ方法を繰り返してもよいし、異なる方法を組み合わせてもよい。
【0084】
半導体基板の洗浄方法としては、枚葉方式、および、バッチ方式のいずれを採用してもよい。枚葉方式とは、一般的に半導体基板を1枚ずつ処理する方式であり、バッチ方式とは、一般的に複数枚の半導体基板を同時に処理する方式である。
【0085】
半導体基板の洗浄に用いる洗浄組成物の温度は、通常この分野で行われる温度であれば特に制限はない。一般的には室温(約25℃)で洗浄が行われるが、洗浄性の向上や部材へのダメージを抑えるために、温度は任意に選択できる。例えば、洗浄組成物の温度としては、10~60℃が好ましく、15~50℃がより好ましい。
【0086】
半導体基板の洗浄における洗浄時間は、特に制限されないが、実用的な点で、10秒間~2分間が好ましく、20秒間~1分30秒間がより好ましく、30秒間~1分間がさらに好ましい。
【0087】
半導体基板の洗浄工程における洗浄組成物の供給量(供給速度)は特に制限されないが、50~5000mL/分が好ましく、500~2000mL/分がより好ましい。
【0088】
半導体基板の洗浄において、洗浄組成物の洗浄能力をより増進するために、機械的撹拌方法を用いてもよい。
機械的撹拌方法としては、例えば、半導体基板上で洗浄組成物を循環させる方法、半導体基板上で洗浄組成物を流過または噴霧させる方法、および、超音波またはメガソニックにて洗浄組成物を撹拌する方法等が挙げられる。
【0089】
上記の半導体基板の洗浄の後に、半導体基板を溶媒ですすいで清浄する工程(以下「リンス工程」と称する。)を行ってもよい。
リンス工程は、半導体基板の洗浄工程の後に連続して行われ、リンス溶媒(リンス液)を用いて5秒間~5分間にわたってすすぐ工程であることが好ましい。リンス工程は、上述の機械的撹拌方法を用いて行ってもよい。
【0090】
リンス液としては、例えば、水(好ましくは脱イオン水)、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリジノン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、乳酸エチル、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。また、pHが8.0超である水性リンス液(希釈した水性の水酸化アンモニウム等)を利用してもよい。
リンス液を半導体基板に接触させる方法としては、上述した洗浄組成物を半導体基板に接触させる方法を同様に適用できる。
【0091】
また、上記リンス工程の後に、半導体基板を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
乾燥方法としては、特に制限されず、例えば、スピン乾燥法、半導体基板上に乾性ガスを流過させる方法、ホットプレートまたは赤外線ランプのような加熱手段によって基板を加熱する方法、マランゴニ乾燥法、ロタゴニ乾燥法、IPA(イソプロピルアルコール)乾燥法、および、それらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0092】
(使用方法)
上記洗浄組成物は、水等の希釈剤を用いて希釈した後、希釈された洗浄組成物(希釈洗浄組成物)として半導体基板の洗浄に供されてもよい。
なお、希釈洗浄組成物も、本発明の要件を満たす限り、本発明の洗浄組成物の一形態である。
希釈洗浄組成物の希釈倍率は、各成分の種類および含有量、ならびに、洗浄対象である半導体基板等に応じて適宜調整すればよい。希釈前の洗浄組成物に対する希釈洗浄組成物の比率(希釈倍率)は、質量比または体積比(23℃における体積比)で、10~10000倍が好ましく、20~3000倍がより好ましく、50~1000倍がさらに好ましい。
また、欠陥が抑制できる点で、洗浄組成物は水で希釈されることが好ましい。
つまり、上記洗浄組成物に含まれ得る各成分(水は除く)の好適な含有量を、上記範囲の希釈倍率(例えば100)で除した量で各成分を含む洗浄組成物(希釈洗浄組成物)も好適に実用できる。
換言すると、希釈洗浄組成物の全質量に対する各成分(水は除く)の好適含有量は、例えば、洗浄組成物(希釈前の洗浄組成物)の全質量に対する各成分の好適含有量として説明した量を、上記範囲の希釈倍率(例えば100)で除した量である。
【0093】
洗浄組成物を希釈する希釈工程の具体的方法は、上記の洗浄組成物の調液方法に準じて行えばよい。希釈時に使用する撹拌装置および撹拌方法もまた、上記の洗浄組成物の調液方法において挙げた公知の撹拌装置を用いて行えばよい。
【0094】
希釈に用いる水に対しては、事前に精製処理を行うことが好ましい。また、希釈して得られた希釈洗浄組成物に対して、精製処理を行うことが好ましい。
精製処理としては、上記精製処理として記載した、イオン交換樹脂またはRO膜を用いたイオン成分低減処理、および、フィルタリングを用いた異物除去が挙げられる。これらのうち、いずれかの処理を行うことが好ましい。
【0095】
本発明の洗浄組成物を用いて半導体基板を洗浄する洗浄方法は、半導体素子を製造する際に好適に利用できる。つまり、本発明は、洗浄組成物を用いて半導体基板を洗浄する洗浄方法を含む、半導体素子の製造方法にも関する。
【実施例
【0096】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0097】
<洗浄組成物の製造>
実施例101については、クエン酸、HEDPO、スルホン酸系界面活性剤、および、水を表1の含有量となるように混合して混合液とした後、混合液を撹拌機によって十分に撹拌し、実施例101の洗浄組成物を得た。なお、スルホン酸界面活性剤は、表1に示す割合で各界面活性剤を混合し、表1に示す含有量となるように混合した。
表1または2にしたがって各成分の種類および量を変更した以外は、実施例101と同様の手順で、実施例102~121の組成物、実施例201~204の組成物、および、比較例1~4の組成物を製造した。
なお、組成物は、製造した後、組成物中に含まれる銅イオン濃度が組成物全質量に対して0.2質量ppb、組成物中に含まれるリン酸イオン濃度が組成物全質量に対して0.001質量%となるようにろ過処理を繰り返した。銅イオン濃度はICP-MS(Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS(半導体分析用、オプション#200))で確認した。具体的には、サンプル導入系としては石英のトーチ、同軸型PFAネブライザ(自吸用)及び白金インターフェースコーンを使用した。クールプラズマ条件の測定パラメータは以下の通りであった。
・ RF(Radio Frequency)出力(W):600
・ キャリアガス流量(L/分):0.7
・ メークアップガス流量(L/分):1
・ サンプリング深さ(mm):18
また、リン酸イオンの含有量は、イオン交換クロマトグラフィー(IC)を用いて測定した。
また、実施例および比較例の洗浄組成物の製造にあたって、容器の取り扱い、洗浄組成物の調液、充填、保管および分析測定は、全てISOクラス2以下を満たすレベルのクリーンルームで行った。
【0098】
<成分>
以下に、各組成物の調製に用いた各成分について示す。
【0099】
(クエン酸)
30質量%クエン酸水溶液
なお、表1および2に示すクエン酸含有量は、洗浄組成物全質量に対するクエン酸そのものの含有量であり、水溶液の水はクエン酸含有量に含めない。
【0100】
(HEDPO)
60質量%1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液
なお、表1および2に示すHEDPO含有量は、洗浄組成物全質量に対するHEDPOそのものの含有量であり、水溶液の水はHEDPO含有量に含めない。
【0101】
(スルホン酸系界面活性剤)
LAS-10:スルホン酸A
LAS-11:スルホン酸B
LAS-12:スルホン酸C
LAS-13:スルホン酸D
ANS-11:ANS
【0102】
【化1】
【0103】
(水)
超純水
【0104】
<評価>
各種評価方法について以下に詳述する。
【0105】
(pH)
洗浄組成物のpHは、25℃において、pHメーター(株式会社堀場製作所製、F-51(商品名))を用いて測定した。
【0106】
(電気伝導度)
洗浄組成物の電気伝導度は、25℃において、電気伝導率計(ポータブル型D-70/ES-70シリーズ、堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0107】
(残渣除去性)
上記製造した洗浄組成物を用いて、化学機械研磨(CMP)処理を施した金属膜を洗浄した際の洗浄性能(残渣除去性)を評価した。残渣除去性の評価は、以下の手順にしたがって行った。
まず、洗浄対象物となるCMP処理後の半導体基板を準備した。具体的には、以下の手順でCMP処理後の半導体基板を準備した。
銅からなる金属膜を表面に有するウエハ(直径8インチ)を、FREX300S-II(研磨装置、(株)荏原製作所製)を用いて研磨した。研磨液としてCSL9044C、および、BSL8176C(商品名、いずれも富士フイルムプラナーソリューションズ社製)をそれぞれ使用して研磨を行った。これにより、研磨液による洗浄性能評価のばらつきを抑えた。上記の各金属膜を表面に有するウエハに対するCMP処理において、研磨圧力は2.0psiであり、研磨液の供給速度は0.28mL/(分・cm)であった。研磨時間は60秒間であった。
その後、室温(23℃)に調整した各実施例および各比較例の洗浄組成物を用いて、CMP処理されたウエハを30秒間、スクラブ洗浄し、次いで、乾燥処理した。
乾燥処理後のウエハに対して、欠陥検出装置(AMAT社製、ComPlus-II)を用い、ウエハの研磨面において、長さが0.1μm以上である欠陥に対応する信号強度の検出数を計測し、下記の評価基準により洗浄組成物の残渣除去性を評価した。結果を表1および2に示す。
ウエハの研磨面において検出された残渣物による欠陥数が少ないほど、残渣除去性に優れると評価できる。なお、残渣除去性は、実用上、3以上が好ましい。
残渣除去性は、以下の基準にしたがって評価した。
【0108】
8 :ウエハあたりの欠陥数が280個未満
7 :ウエハあたりの欠陥数が280個以上320未満
6 :ウエハあたりの欠陥数が320個以上360未満
5 :ウエハあたりの欠陥数が360個以上400未満
4 :ウエハあたりの欠陥数が400個以上440未満
3 :ウエハあたりの欠陥数が440個以上480未満
2 :ウエハあたりの欠陥数が480個以上500未満
1 :ウエハあたりの欠陥数が500個以上
【0109】
(銅防食性)
銅からなる金属膜を表面に有するウエハ(直径12インチ)をカットし、2cm角のウエハクーポンをそれぞれ準備した。金属膜の厚さは200nmとした。
各実施例および各比較例の洗浄組成物(温度:23℃)中にウエハクーポンを浸漬し、スターラーの撹拌回転数を250rpmとし、3分間の浸漬処理を行った。浸漬処理前後で、洗浄組成物中の銅の含有量をICP-MS(Agilent 8800 トリプル四重極ICP-MS(半導体分析用、オプション#200))で測定した。詳細な測定条件は上記洗浄組成物中の銅イオンの測定と同様である。
得られた測定結果から単位時間当たりの腐食速度(単位:Å/分)を算出した。下記の評価基準により洗浄組成物の銅防食性を評価した。結果を表1および2に示す。
なお、腐食速度が低いほど、洗浄組成物の腐食防止性能が優れる。銅防食性は、実用上、4以上が好ましい。
【0110】
8 :腐食速度が1.1Å/分未満
7 :腐食速度が1.1Å/分以上、1.4Å/分未満
6 :腐食速度が1.4Å/分以上、1.7Å/分未満
5 :腐食速度が1.7Å/分以上、2.0Å/分未満
4 :腐食速度が2.0Å/分以上、2.3Å/分未満
3 :腐食速度が2.3Å/分以上、2.6Å/分未満
2 :腐食速度が2.6Å/分以上、3.0Å/分未満
1 :腐食速度が3.0Å/分以上
【0111】
表中、各表記は以下のとおりである。
表1および2中、「水」欄の「残部」の記載は、表中に記載した各組成物に含まれる各成分の合計量が100質量%になるように必要な量の水を使用したことを示す。
表1および2中、「クエン酸(A)wt%」欄は、洗浄組成物全質量に対するクエン酸の含有量(質量%)を表し、「HEDPO(B)wt%」欄は、洗浄組成物全質量に対するHEDPOの含有量(質量%)を表し、「スルホン酸系界面活性剤(C)」欄の「含有量(wt%)」欄は、洗浄組成物全質量に対するスルホン酸系界面活性剤の含有量(質量%)を表す。
表1中、「スルホン酸系界面活性剤(C)」欄の「比率」欄の「LAS-10(wt%)」欄は、スルホン酸系界面活性剤(スルホン酸A~D)の合計質量に対するLAS-10の含有量(質量%)を表し、「LAS-11(wt%)」欄は、スルホン酸系界面活性剤(スルホン酸A~D)の合計質量に対するLAS-11の含有量(質量%)を表し、「LAS-12(wt%)」欄は、スルホン酸系界面活性剤(スルホン酸A~D)の合計質量に対するLAS-12の含有量(質量%)を表し、「LAS-13(wt%)」欄は、スルホン酸系界面活性剤(スルホン酸A~D)の合計質量に対するLAS-13の含有量(質量%)を表す。
表1および2中、「A/B」の表記は、洗浄組成物中の、HEDPOの含有量に対するクエン酸の含有量の質量比を表す。
表1および2中、「A/C」の表記は、洗浄組成物中の、スルホン酸系界面活性剤の含有質量の合計量に対するクエン酸の含有量の質量比を表す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
実施例と比較例との比較から、本発明の洗浄組成物は、残渣の除去性、および、銅の防食性に優れることが確認された。
実施例105と実施例201~204との比較から、炭素数10のアルキル基を含むABS1と、炭素数11のアルキル基を含むABS2と、炭素数12のアルキル基を含むABS3と、炭素数13のアルキル基を含むABS4とを含むと、残渣の除去性、および、銅の防食性がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が30~100であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が40~80であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が50~60であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が200~600であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が300~500であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例101~116の結果から、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が410~440であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例105および117~121の結果から、洗浄組成物全質量に対するクエン酸の含有量が、0.1~35.0質量%であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例105および117~121の結果から、洗浄組成物全質量に対するクエン酸の含有量が、1.0~35.0質量%であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
実施例105および117~121の結果から、洗浄組成物全質量に対するクエン酸の含有量が、20.0~35.0質量%であると、残渣の除去性、および、銅の防食性の少なくともいずれか一方がより優れることが確認された。
【要約】
【課題】 残渣(特にCMP後の残渣)の除去性に優れ、銅の防食性に優れる洗浄組成物の提供、ならびに、半導体基板の洗浄方法、および、半導体素子の製造方法の提供。
【解決手段】 クエン酸と、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸と、スルホン酸系界面活性剤と、水と、を含み、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が20~150であり、スルホン酸系界面活性剤の含有量に対するクエン酸の含有量の質量比が70~1500であり、pHが0.10~4.00である、洗浄組成物。
【選択図】なし