(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-17
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】層状複水酸化物およびその製造方法、ならびに、該層状複水酸化物を用いた空気極および金属空気二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220203BHJP
B01J 23/847 20060101ALI20220203BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220203BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220203BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220203BHJP
H01M 50/434 20210101ALN20220203BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C01G53/00 A
B01J23/847 M
H01M12/08 K
H01M4/90 X
H01M4/86 Z
H01M50/434
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2021537076
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2021001794
(87)【国際公開番号】W WO2021176869
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2020034624
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】加納 大空
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直美
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】櫻山 友香莉
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/150898(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110760879(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
B01J 23/847
H01M 12/08
H01M 4/90
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される、層状複水酸化物:
Ni
2+
1-(x+y+z)Fe
3+
xV
3+
yCo
3+
z(OH)
2A
n-
(x+y+z)/n・mH
2O ・・・(I)
前記式(I)において、(x+y+z)が0.2~0.5であり、xが0を超えて0.3以下であり、yが0.04~0.49であり、zが0を超えて0.2以下であり、
前記式(I)において、A
n-
は陰イオンであり、nは1以上の整数であり、mは0を超える実数である。
【請求項2】
請求項
1に記載の層状複水酸化物の製造方法であって、
Ni、Fe、VおよびCoの塩をそれぞれ所定のモル比で水性媒体に溶解し、溶液を調製すること;
該溶液の調製時または調製後にアセチルアセトンを添加すること;
該アセチルアセトンを添加した溶液に酸化プロピレンを添加すること;
該酸化プロピレンを添加した溶液を所定時間放置し、Ni、Fe、VおよびCoの複合体を含むゲルを形成すること;および
該ゲルを所定時間放置して解凝集し、前記式(I)で表される層状複水酸化物の微細粒子を含むゾルを形成すること;
を含む、方法。
【請求項3】
前記塩が塩化物である、請求項
2に記載の層状複水酸化物の製造方法。
【請求項4】
多孔性集電体と;
該多孔性集電体の少なくとも一部を覆う、請求項
1に記載の層状複水酸化物で構成された触媒層と;
を有する、空気極。
【請求項5】
請求項
4に記載の空気極と、水酸化物イオン伝導緻密セパレータと、電解液と、金属負極と、を有し、
該電解液が、該水酸化物イオン伝導緻密セパレータにより該空気極と隔離されている、
金属空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物およびその製造方法、ならびに、該層状複水酸化物を用いた空気極および金属空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
革新電池候補の一つとして金属空気二次電池が挙げられる。金属空気二次電池は、負極に金属を、正極に空気中の酸素および/または水を活物質として使用する二次電池である。空気二次電池の正極(空気極)では、放電時は水酸化物イオンが生成し(酸素還元反応、以下「ORR」)、充電時は酸素が発生する(酸素発生反応、以下「OER」)電気化学反応が起きる。このORR/OERの反応を促進するためには高活性な触媒が必要となる。このような空気極の触媒として、層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide:LDH)が注目されている。LDHは水酸化物の層間に交換可能なアニオン層を有する物質群であり、OER側触媒としての機能を有し、水酸化物イオンを伝導する機能も有する。近年OER触媒としてNi-Fe系LDH、Ni-Co系LDH等の2元系LDHの実用化が進められているが、LDHには触媒として多くの改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた酸素発生触媒機能を有する層状複水酸化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による層状複水酸化物は、以下の式(I)で表される:
Ni2+
1-(x+y+z)Fe3+
xV3+
yCo3+
z(OH)2An-
(x+y+z)/n・mH2O ・・・(I)。
1つの実施形態においては、上記式(I)において、(x+y+z)は0.2~0.5であり、xは0を超えて0.3以下であり、yは0.04~0.49であり、zは0を超えて0.2以下である。
本発明の別の局面によれば、上記の層状複水酸化物の製造方法が提供される。この製造方法は、Ni、Fe、VおよびCoの塩をそれぞれ所定のモル比で水性媒体に溶解し、溶液を調製すること;該溶液の調製時または調製後にアセチルアセトンを添加すること;該アセチルアセトンを添加した溶液に酸化プロピレンを添加すること;該酸化プロピレンを添加した溶液を所定時間放置し、Ni、Fe、VおよびCoの複合体を含むゲルを形成すること;および、該ゲルを所定時間放置して解凝集し、上記式(I)で表される層状複水酸化物の微細粒子を含むゾルを形成すること;を含む。
1つの実施形態においては、上記塩は塩化物である。
本発明のさらに別の局面によれば、空気極が提供される。この空気極は、多孔性集電体と;該多孔性集電体の少なくとも一部を覆う、上記の層状複水酸化物で構成された触媒層と;を有する。
本発明のさらに別の局面によれば、金属空気二次電池が提供される。この金属空気二次電池は、上記の空気極と、水酸化物イオン伝導緻密セパレータと、電解液と、金属負極と、を有し、該電解液は、該水酸化物イオン伝導緻密セパレータにより該空気極と隔離されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、層状複水酸化物をNi、Fe、VおよびCoの4元素の複合体とすることにより、従来の層状複水酸化物に比べて顕著に優れた酸素発生触媒機能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】Niを所定の組成比に固定した時に所定の電流密度において特に良好な電位が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す組成図である。
【
図1B】Niを所定の組成比に固定した時に特に良好な立ち上がり電位が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す組成図である。
【
図1C】Niを所定の組成比に固定した時に所定の電流密度において特に良好な電位および特に良好な立ち上がり電位の両方が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す組成図である。
【
図2A】本発明の1つの実施形態による空気極を説明する概略断面図である。
【
図2B】本発明の別の実施形態による空気極を説明する概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に用いられ得る水酸化物イオン伝導緻密セパレータを概念的に示す概略断面図である。
【
図4】水素電極に対する電位と電流密度との関係について、実施例10、比較例1および比較例5を比較して示すグラフである。
【
図5】実施例4のLDHの元素マッピングを示す透過型電子顕微鏡画像である。
【
図6】実施例10のLDHの元素マッピングを示す透過型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.層状複水酸化物
本発明の実施形態による層状複水酸化物(LDH)は、以下の式(I)で表される:
Ni2+
1-(x+y+z)Fe3+
xV3+
yCo3+
z(OH)2An-
(x+y+z)/n・mH2O ・・・(I)
すなわち、LDHは、Ni、Fe、VおよびCoの4元素を単に含有するのではなく(例えば、これらの4元素のそれぞれの塩が単に混合されたのではなく)、これらの4元素が複合化したものである(4元系LDH)。LDHをNi、Fe、VおよびCoの4元素を含む複合体とすることにより、従来の層状複水酸化物に比べて顕著に優れた酸素発生触媒機能を実現することができる。これは、構成成分が増大することによって活性点の数および/または密度が増大し、かつ、構成成分の数が多いことに起因してそのような活性点同士の相互作用が増大することによると推定され得る。なお、本明細書における効果およびメカニズムに関する推定は本発明を限定するものではなく、かつ、このような推定により本発明を拘束するものではない。
【0010】
式(I)において、(x+y+z)は、好ましくは0.2~0.5であり、より好ましくは0.25~0.45であり、さらに好ましくは0.3~0.4である。xは、好ましくは0を超えて0.3以下であり、より好ましくは0.005~0.25であり、さらに好ましくは0.01~0.2である。yは、好ましくは0.04~0.49であり、より好ましくは0.06~0.35であり、さらに好ましくは0.07~0.3である。zは、好ましくは0を超えて0.2以下であり、より好ましくは0.005~0.18であり、さらに好ましくは0.01~0.17である。x、yおよびz(すなわち、Ni、Fe、VおよびCoの組成比)がこのような範囲であれば、さらに優れた酸素発生触媒機能を実現することができる。より詳細には、4元系LDHを金属空気二次電池の空気極の触媒として用いる場合に、立ち上がり電位(on-set potential)を低くすることができ、および/または、同一電流密度においては従来のLDH(例えば、2元系LDH)に比べて低電位(低抵抗)とすることができる。x、yおよびzは、数学的な矛盾がない限りにおいて、それぞれ独立して上記好適範囲内の値をとり得る。
【0011】
x、yおよびz(Ni、Fe、VおよびCoの組成比)について、より詳細に説明する。
図1Aは、所定の電流密度において特に良好な電位が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す4元系の組成図であり;
図1Bは、特に良好な立ち上がり電位が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す4元系の組成図であり;
図1Cは、所定の電流密度において特に良好な電位および特に良好な立ち上がり電位の両方が得られるFe、VおよびCoの組成比を示す4元系の組成図である。
図1Aおよび
図1Bにおける3角形の平面組成図は、
図1Aおよび
図1Bの左上に示すように、Niを12.5mmolとしたときのFe、VおよびCoの組成図である。なお、Niの12.5mmolは、Fe、VおよびCoの使用量(モル数)を調整して、4元素の合計に対して60%~70%(すなわち、式(I)において「x+y+z」が0.3~0.4)となるように調整されている。
図1Aにおいては、電流密度が2mA/cm
2である場合に特に良好な電位が得られるFe、VおよびCoの組成が、網掛けで示されている。
図1Bにおいては、特に良好な立ち上がり電位が得られるFe、VおよびCoの組成が、網掛けで示されている。
図1Cは、電流密度が2mA/cm
2である場合に特に良好な電位および特に良好な立ち上がり電位の両方が得られるFe、VおよびCoの組成が、
図1Aおよび
図1Bの網掛け部分の重ね合わせとして示されている。
図1Cから理解されるとおり、主成分(過半量)のNiと比較的多量のVと比較的少量のFeおよびCoとを複合化することにより、所定の電流密度において特に良好な電位および特に良好な立ち上がり電位の両方を実現することができる。これは、2~5の幅広い原子価をとり得るVを比較的多量に含有することにより、上記の活性点同士の相互作用がさらに増大することによると推定され得る。
【0012】
式(I)において、An-は、任意の適切な陰イオンである。具体例としては、NO3
-、CO3
2-、SO4
2-、OH-、Cl-が挙げられる。好ましくは、CO3
2-、OH-、Cl-である。An-は、単一の陰イオンであってもよく、複数の陰イオンの組み合わせであってもよい。nは1以上の整数であり、好ましくは1~3である。mは任意の適切な実数であり、好ましくは0を超える実数であり、より好ましくは1以上の実数または整数である。
【0013】
LDHは、例えば、板状の微細粒子であり得る。LDHは、任意の適切な平面視形状を有し得る。具体例としては、円形、楕円形、矩形、三角形、多角形、不定形が挙げられる。LDHのサイズは例えば1nm~2μmであり、厚みは例えば0.5nm~50nmである。「LDHのサイズ」とは、LDHの平面視形状の大きさをいい、例えば円形の場合には直径、楕円形の場合には長径、矩形の場合には長辺の長さをいう。
【0014】
B.層状複水酸化物の製造方法
LDHは、1つの実施形態においては、いわゆるゾル-ゲル法により作製され得る。ゾル-ゲル法によるLDHの製造方法は、代表的には、Ni、Fe、VおよびCoの塩をそれぞれ所定のモル比で水性媒体に溶解し、溶液を調製すること;該溶液の調製時または調製後にアセチルアセトンを添加すること;該アセチルアセトンを添加した溶液に酸化プロピレンを添加すること;該酸化プロピレンを添加した溶液を所定時間放置し、Ni、Fe、VおよびCoの複合体を含むゲルを形成すること;および、該ゲルを所定時間放置して解凝集し、上記式(I)で表される層状複水酸化物の微細粒子を含むゾルを形成すること;を含む。以下、ゾル-ゲル法における各工程および各工程に用いられる材料等を具体的に説明する。なお、各工程は、室温(23℃付近)で行われ得る。
【0015】
まず、Ni、Fe、VおよびCoの塩を水性媒体に溶解し、溶液を調製する。当該塩としては、アニオン部分が式(I)のAn-を形成し得る任意の適切な塩が挙げられる。塩の具体例としては、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、水酸化物、ハロゲン化物(塩化物、ヨウ化物、臭化物、フッ化物)が挙げられる。1つの実施形態においては、塩化物である。塩化物は、安価かつ入手容易で、水に対する溶解性が高い。Ni、Fe、VおよびCoの塩は、それぞれが同種の塩(例えば、塩化物)であってもよく、異なる種類の塩であってもよい。塩のモル比は、式(I)のx、yおよびzが所望の値をとるように設定され得る。例えば、NiCl2を12.5mmol、FeCl3を3.12mmol、VCl3を1.56mmol、およびCoCl2を1.56mmol用いる場合には、式(I)においてxが約0.17、yが約0.08、zが約0.08、{1-(x+y+z)}が約0.67である4元系LDHが得られ得る。4元系LDHにおけるNi、Fe、VおよびCoの原子価は、原料(例えば、塩化物)におけるNi、Fe、VおよびCoの原子価と異なるものであり得る。例えば上記のとおり、CoCl2からLDHにおいてCo3+が形成され得る。また例えば、NiCl3からLDHにおいてNi2+が形成され得る。
【0016】
水性媒体は、代表的には水を含む。水としては、水道水、イオン交換水、純水、超純水が挙げられる。好ましくは、超純水である。超純水は不純物がきわめて少ないので、反応に対する影響がきわめて小さく、かつ、不純物のきわめて少ないLDHを得ることができる。水性媒体は、親水性有機溶媒を含んでいてもよい。親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール等のアルコールが挙げられる。親水性有機溶媒は、水100重量部に対して、好ましくは100重量部~200重量部の範囲で用いられ得る。
【0017】
必要に応じて、調製した溶液を攪拌する。攪拌を行うことにより、均一かつ設計値にきわめて近い組成のLDHを得ることができる。攪拌時間は、例えば5分~30分であり得る。
【0018】
次に、上記で調製した溶液にアセチルアセトンを添加する。アセチルアセトンは、溶液の調製時に添加してもよく溶液の調製後に添加してもよい。アセチルアセトンを添加することにより、後述の自発的なゲル化およびそれに続く自発的な解凝集を実現することができ、その結果、LDHの微細粒子を良好に(すなわち、凝集および/または沈降させることなく)作製することができる。すなわち、トレードオフの関係にあるLDH(微細粒子)の成長と安定化とを両立することができる。アセチルアセトンの添加量は、4元素の合計量に対して、好ましくは0.008%~0.036%(モル比)であり、より好ましくは0.016%~0.018%(モル比)である。アセチルアセトンの添加量がこのような範囲であれば、不純物のきわめて少ないLDHを得ることができる。
【0019】
必要に応じて、アセチルアセトンが添加された溶液を攪拌する。攪拌時間は、例えば15分~60分であり得る。
【0020】
次に、アセチルアセトンを添加した溶液に酸化プロピレンを添加する。酸化プロピレンは、エポキシ酸素のプロトン化およびそれに続く共役塩基の求核置換反応による開環を通してプロトン補足剤(スカベンジャー)として機能し得る。このようなプロトン化および開環により溶液のpHが増大し、共沈によるLDHの結晶化(板状微細粒子化)を促進し得る。酸化プロピレンの添加量は、4元素の合計量に対して、好ましくは0.12%~0.48%(モル比)であり、より好ましくは0.23%~0.25%(モル比)である。
【0021】
次に、酸化プロピレンを添加した溶液を所定時間放置する。これにより、Ni、Fe、VおよびCoの複合体を含むゲルが形成される。実質的には、この時点で複合体としてのLDHが形成されており、当該LDHが凝集してゲルが形成されていると推定される。放置時間は、例えば2時間~6時間であり、好ましくは2時間~4時間である。必要に応じて、放置する前に(すなわち、酸化プロピレンを添加した直後に)、溶液を短時間(例えば、30秒~2分)攪拌してもよい。
【0022】
最後に、上記で形成されたゲルを所定時間放置する。これにより、ゲルが解凝集して、LDHの板状微細粒子を含むゾルが形成される。
【0023】
1つの実施形態においては、上記のゾル-ゲル法は、多孔性シートの存在下で行われる。例えば、水性媒体に多孔性シートを浸漬した状態で上記のゾル-ゲル法が行われ得る。このような構成であれば、LDHが多孔性シートの表面に直接形成され得る。多孔性シートは、C項で後述する空気極の多孔性集電体に対応し得る。したがって、本実施形態は、空気極の製造方法でもあり得る。本実施形態においては、LDHの生成および触媒層としての当該LDHの多孔性集電体への結合および/または付着が同時に行われ得る。
【0024】
以上のようにして、LDHが作製され得る。なお、上記のゾル-ゲル法は、ACS Nano 2016, 10, 5550-5559に記載の方法に準じて行われ得る。当該文献の記載は本明細書に参考として援用される。
【0025】
LDHは、別の実施形態においては、共沈法により作製され得る。共沈法は、代表的には、Ni、Fe、VおよびCoを含む原料水溶液を、例えばNa2CO3水溶液に滴下し、NaOH水溶液で所定のpHに調整することで、Ni-Fe-V-Co系LDH粒子を析出させることを含む。析出したLDH粒子は、必要に応じて、所定時間の攪拌により成長させられる。さらに、LDH粒子を解砕することにより、LDH粉末が得られ得る。
【0026】
本発明の実施形態によるLDHは、Ni、Fe、VおよびCoの4元素を含む複合体(4元系LDH)とすることにより、製造方法によらず(例えばゾル-ゲル法であっても共沈法であっても)、優れた酸素発生触媒機能を実現することができる。
【0027】
C.空気極
C-1.単一層としての空気極
図2Aは、本発明の1つの実施形態による空気極を説明する概略断面図であり;
図2Bは、本発明の別の実施形態による空気極を説明する概略断面図である。空気極20は、
図2Aのように単一シートとして提供されてもよく、
図2Bに示すように空気極20と水酸化物イオン伝導緻密セパレータ12との積層体として提供されてもよい。図示例の空気極20は、多孔性集電体20aと、多孔性集電体20aの少なくとも一部を覆うLDHで構成された触媒層20bと、を有する。LDHは、上記A項およびB項に記載の本発明の実施形態によるLDHである。多孔性集電体20aとしては、金属空気二次電池の空気極に適用可能な任意の適切な構成が採用され得る。多孔性集電体20aは、代表的には、ガス拡散性を有する導電性材料で構成され得る。このような導電性材料の具体例としては、カーボン、ニッケル、ステンレス、チタン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくはカーボンである。多孔性集電体20aの具体的な構成としては、カーボンペーパー、ニッケルフォーム、ステンレス製不織布、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくはカーボンペーパーである。多孔性集電体として、市販の多孔質材料を用いてもよい。多孔性集電体の厚みは、好ましくは0.1mm~1mmであり、より好ましくは0.1mm~0.5mmであり、さらに好ましくは0.1mm~0.3mmである。厚みがこのような範囲であれば、反応領域、すなわちイオン伝導相(LDH20b)と電子伝導相(多孔性集電体20a)と気相(空気)とからなる三相界面を広く確保することができる。多孔性集電体(実質的には、空気極)の気孔率は、好ましくは60%~95%である。多孔性集電体がカーボンペーパーである場合、気孔率は、さらに好ましくは60%~90%である。気孔率がこのような範囲であれば、優れたガス拡散性を確保し、かつ、反応領域を広く確保することができる。また、気孔(空隙)部分が多くなるので、生成した水で目詰まりが生じにくくなる。気孔率の測定は、水銀圧入法により行うことができる。
【0028】
LDHは、上記のとおり板状微細粒子である。空気極においては、多数のLDH(板状微細粒子)が多孔性集電体の表面に結合および/または付着して触媒層20bを構成している。LDHは、多孔性集電体の全体に結合等していてもよく(結果として、多孔性集電体全体を覆っていてもよく)、多孔性集電体の一部に結合等していてもよい(結果として、多孔性集電体の一部を覆っていてもよい)。LDH(板状微細粒子)は、1つの実施形態においては、その主面が多孔性集電体の表面に対して垂直または斜め方向となるように結合等している。また、1つの実施形態においては、LDH(板状微細粒子)は互いに連結している。このような構成であれば、反応抵抗を低減することができる。なお、LDHは、空気極において触媒(触媒層)のみならず水酸化物イオン伝導材料としても機能し得る。
【0029】
触媒層20bを構成するLDHは、単一の(すなわち、板状微細粒子すべてが同じ組成を有する)LDHであってもよく、異なる組成の2種以上のLDHの混合物であってもよい。触媒層が異なる組成の2種以上のLDHの混合物で構成される場合、それぞれの組成のLDH(板状微細粒子)のサイズは、代表的には互いに異なっている。このような構成であれば、多孔性集電体に対する担持強度を確保することができる。さらに、1つの実施形態においては、サイズが大きい方のLDH(板状微細粒子)は、その主面が多孔性集電体20aの表面に対して垂直または斜め方向となるように結合等している。このような構成であれば、多孔性集電体20aへの酸素の拡散を促進でき、かつ、LDHの担持量を増大させることができる。
【0030】
空気極は、LDH以外の空気極触媒および/または水酸化物イオン伝導材料をさらに含んでいてもよい。LDH以外の触媒の具体例としては、金属酸化物、金属ナノ粒子、炭素材料、およびそれらの組合せが挙げられる。また、空気層は、水分量を調整可能な材料をさらに含んでいてもよい。1つの実施形態においては、LDHがそのような材料として機能し得る。LDH以外の材料の具体例としては、ゼオライト、水酸化カルシウム、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0031】
C-2.外部層と内部層とを有する空気極
空気極20は、上記のように単一層として構成されてもよく、外部層と内部層とを有していてもよい。空気極が外部層と内部層とを有する場合、外部層は、代表的には、単一層として上記で説明した構成を有し得る。内部層は、代表的には、多孔性集電体の内側(後述する水酸化物イオン伝導緻密セパレータ側)の厚み方向の所定の部分が、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、空気極触媒(本発明の実施形態による4元系LDH以外の空気極触媒)、および有機高分子を含む混合物で充填されている。
【0032】
水酸化物イオン伝導材料としては、水酸化物イオン伝導性を有する任意の適切な材料を用いることができる。好ましくは、LDHである。LDHは、上記A項に記載の本発明の実施形態によるLDH(4元系LDH)に限られず、任意の適切なLDH(例えば、2元系LDH、3元系LDH)を用いることができる。LDHの具体例としては、Mg-Al系LDH、遷移金属を含むLDH(例えば、Ni-Fe系LDH、Co-Fe系LDH)が挙げられる。なお、本発明の実施形態による4元系LDH以外のLDHは、代表的には以下の式で表される。
M2+
1-xM3+
x(OH)2An-・mH2O
式中、M2+は少なくとも1種の2価の陽イオンであり、M3+は少なくとも1種の3価の陽イオンであり、xは0.1~0.4であり、An-およびmは式(I)に関して上記A項で説明したとおりである。M2+の具体例としては、Ni2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+が挙げられる。M3+の具体例としては、Fe3+、Al3+、Co3+、Cr3+、In3+、V3+が挙げられる。水酸化物イオン伝導材料は空気極触媒と同一材料であってもよい。
【0033】
導電性材料としては、例えば、導電性セラミックス、炭素材料、およびそれらの組合せが挙げられる。導電性セラミックスの具体例としては、LaNiO3、LaSr3Fe3O10が挙げられる。炭素材料の具体例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、およびそれらの組合せが挙げられる。導電性材料もまた、空気極触媒と同一材料であってもよい。
【0034】
空気極触媒としては、本発明の実施形態による4元系LDH以外のLDHおよびその他の金属水酸化物、金属酸化物、金属ナノ粒子、炭素材料、窒化物、ならびにそれらの組合せが挙げられる。好ましくは、LDH、金属酸化物、金属ナノ粒子、炭素材料、ならびにそれらの組合せである。LDHについては水酸化物イオン伝導材料について上述したとおりである。金属水酸化物の具体例としては、Ni-Fe-OH、Ni-Co-OH、およびそれらの組合せが挙げられる。これらは、第3の金属元素をさらに含んでいてもよい。金属酸化物の具体例としては、Co3O4、LaNiO3、LaSr3Fe3O10、およびそれらの組合せが挙げられる。金属ナノ粒子は、代表的には粒径2nm~30nmの金属粒子である。金属ナノ粒子の具体例としては、Pt、Ni-Fe合金が挙げられる。炭素材料の具体例としては、上記のとおり、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、およびそれらの組合せが挙げられる。炭素材料は、金属元素、および/または窒素、ホウ素、リン、硫黄等の他の元素をさらに含んでいてもよい。このような構成であれば、炭素材料の触媒性能が向上し得る。窒化物としては、例えばTiNが挙げられる。
【0035】
有機高分子としては、任意の適切なバインダー樹脂を用いることができる。有機高分子の具体例としては、ブチラール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、セルロース類、ビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ブチラール系樹脂である。
【0036】
C-3.空気極と水酸化物イオン伝導緻密セパレータとの積層体
空気極は、上記のとおり、
図2Bに示すように空気極20と水酸化物イオン伝導緻密セパレータ12との積層体として提供されてもよい。空気極は、上記C-1項に記載のように単一層であってもよく、上記C-2項に記載のように外部層と内部層とを有していてもよい。水酸化物イオン伝導緻密セパレータ12としては、代表的には、LDHセパレータを用いることができる。LDHセパレータは代表的には金属空気二次電池に用いられるところ、そのような金属空気二次電池には、金属デンドライトによる正負極間の短絡および二酸化炭素の混入の両方を防止できるという優れた利点がある。また、LDHセパレータの緻密性により、電解液に含まれる水分の蒸発を抑制できるという利点もある。一方で、LDHセパレータは空気極への電解液の浸透を阻止するので、空気極には電解液が存在しないこととなり、その結果、空気極への電解液の浸透を許容する一般的なセパレータ(例えば、多孔高分子セパレータ)を用いた金属空気二次電池と比較して、水酸化物イオン伝導性が低くなる傾向があり、充放電性能が低下する傾向にある。本発明の実施形態による空気極とLDHセパレータとの積層体を用いることにより、LDHセパレータの上記優れた利点を維持しつつ、このような不都合を解消することができる。なお、以下の説明においてLDHセパレータに関して言及される内容は、技術的な整合性を損なわないかぎりにおいて、LDHセパレータ以外の水酸化物イオン伝導緻密セパレータにも同様に当てはまるものとする。すなわち、以下の記載において、技術的な整合性を損なわないかぎりにおいて、LDHセパレータは水酸化物イオン伝導緻密セパレータと読み替え可能である。
【0037】
LDHセパレータとしては、任意の適切な構成を採用することができる。例えば、LDHセパレータとして、国際公開第2013/073292号、国際公開第2016/076047号、国際公開第2016/067884号、国際公開第2015/146671号、国際公開第2018/163353号に記載の構成を採用することができる。これらの公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0038】
1つの実施形態においては、LDHセパレータは、多孔質基材と、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物とを含んでもよい。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物(LDHおよびLDH様化合物をまとめて水酸化物イオン伝導層状化合物と総称し得る)を含むセパレータであって、専ら水酸化物イオン伝導層状化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。また、本明細書において「LDH様化合物」は、厳密にはLDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。
【0039】
LDH様化合物は、好ましくは、MgおよびTiと、必要に応じてY及び/又はAlとを含む。このように、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、少なくともMg及びTiを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータを提供することができる。したがって、好ましいLDH様化合物は、MgおよびTiと、必要に応じてY及び/又はAlとを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、より好ましいLDH様化合物は、Mg、Ti、Y及びAlを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよい。1つの実施形態においては、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0040】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータは、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH2Oが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11°~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883nm~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883nm~1.3nmである。
【0041】
エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表し得る。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、LDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0042】
LDHセパレータ12は、好ましくは、
図3に概念的に示されるように、高分子材料製の多孔質基材12aと、多孔質基材の孔Pを塞ぐLDH12bとを含む。実質的には、多孔質基材12aの孔は完全に塞がれている必要はなく、残留気孔Pがわずかに存在し得る。高分子多孔質基材を含むことにより、加圧されても撓むことができ割れにくいので、電池容器内に収容して他の電池要素(負極等)とともに各電池要素を互いに密着させる方向に加圧することができる。このような加圧は、複数枚の空気極/セパレータ積層体を複数枚の金属負極とともに交互に電池容器内に組み込んで積層電池を構成する場合に特に有利となる。同様に、複数個の積層電池を1つのモジュール容器に収容して電池モジュールを構成する場合にも有利となる。例えば金属空気二次電池を加圧することで、負極とLDHセパレータとの間における金属デンドライトの成長を許容する隙間を最小化し(好ましくは隙間を無くし)、それにより金属デンドライト成長のより効果的な防止が期待できる。さらに、高分子多孔質基材の孔をLDHで塞いで高度に緻密化することにより、金属デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータを提供することができる。なお、
図3においてLDHセパレータ12の上面と下面の間でLDH12bの領域が繋がっていないように描かれているが、これは断面として二次元的に描かれているためであり、実際のLDHセパレータにおいては上面と下面の間でLDH12bの領域が繋がっており、それによりLDHセパレータ12の水酸化物イオン伝導性が確保されている。
【0043】
LDHセパレータ12は、上記のとおり高分子多孔質基材12aを含む。高分子多孔質基材には、1)可撓性を有する(したがって、薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるので)、4)製造およびハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子多孔質基材を含むLDHセパレータを簡単に折り曲げるまたは封止接合することができるという利点もある。高分子材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、およびそれらの組合せが挙げられる。好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、およびそれらの組合せが挙げられる。これらの材料はいずれも、電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有する。より好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性および耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、特に好ましくはポリプロピレンまたはポリエチレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、LDHが多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば、多孔質基材内部の大半またはほぼ全部の孔がLDHで埋まっている)ことが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を用いることができる。以上のように、LDHセパレータ12は、セラミック材料であるLDHの硬さおよび脆さ等を高分子多孔質基材の可撓性および靭性等で相殺または低減することにより、LDHに起因する優れた特性を維持しつつ、上記のような優れた加圧耐性および加工性・組み立て性を実現することができる。
【0044】
LDH12bとしては、高分子多孔質基材の孔を塞いでLDHセパレータを緻密化し得る限りにおいて、任意の適切なLDHを用いることができる。すなわち、LDHとして、本発明の実施形態による4元系LDHを用いてもよく、本発明の実施形態以外の任意のLDHを用いてもよい。4元系LDHについては上記A項に記載のとおりである。それ以外のLDHについては、例えば、上記C-2項に記載のLDHを用いてもよく、本明細書に援用される上記の国際公開公報に記載のLDHを用いてもよい。
【0045】
LDHセパレータ12は、残留気孔P(LDHで塞がれていない気孔)が少ないほど好ましい。LDHセパレータの残留気孔Pに起因する平均気孔率は、例えば0.03%以上1.0%未満であり、好ましくは0.05%~0.95%であり、より好ましくは0.05%~0.9%であり、さらに好ましくは0.05%~0.8%であり、特に好ましくは0.05%~0.5%である。平均気孔率がこのような範囲であれば、多孔質基材12aの孔がLDH12bで十分に塞がれて極めて高度な緻密性を実現でき、その結果、金属デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。また、有意に高いイオン伝導率を実現することができ、LDHセパレータ12が水酸化物イオン伝導緻密セパレータとしての十分な機能を発揮することができる。平均気孔率は、a)クロスセクションポリッシャ(CP)によりLDHセパレータを断面研磨し、b)FE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)により50,000倍の倍率で機能層の断面イメージを2視野取得し、c)取得した断面イメージの画像データをもとに画像検査ソフト(例えばHDevelop、MVTecSoftware製)を用いて2視野それぞれの気孔率を算出し、得られた気孔率の平均値を求めることにより得ることができる。
【0046】
LDHセパレータ12は、代表的には、ガス不透過性および/または水不透過性を有する。言い換えれば、LDHセパレータ12は、ガス不透過性および/または水不透過性を有するほどに緻密化されている。本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。これにより、LDHセパレータ12は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を発揮することができる。さらに、充電時に生成する金属デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータは水酸化物イオン伝導性を有するので、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板および負極板における充放電反応を実現することができる。
【0047】
LDHセパレータ12は、単位面積あたりのHe透過度が好ましくは3.0cm/min・atm以下であり、より好ましくは2.0cm/min・atm以下であり、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度がこのような範囲であれば、電解液中において金属イオンの透過を極めて効果的に抑制することができる。その結果、金属空気二次電池に用いた場合に金属デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導緻密セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、およびHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出される。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に、金属デンドライト成長を引き起こす金属イオン)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成し得る原子または分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。一方、水素ガスはH2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH2ガスは可燃性ガスであるため危険である。このように、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが金属空気二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。
【0048】
LDHセパレータ12の厚みは、例えば5μm~200μmであり得る。
【0049】
D.金属空気二次電池
本発明の実施形態による金属空気二次電池は、上記C-1項またはC-2項に記載の空気極と、水酸化物イオン伝導緻密セパレータと、電解液と、金属負極と、を有する。本実施形態の水酸化物イオン伝導緻密セパレータは、上記C-3項に記載されている。本発明の別の実施形態による金属空気二次電池は、上記C-3項に記載の空気極(空気極および水酸化物イオン伝導緻密セパレータの積層体)と、電解液と、金属負極と、を有する。いずれの実施形態においても、電解液は、水酸化物イオン伝導緻密セパレータにより空気極と隔離されている。上記C-1項~C-3項に記載の空気極と水酸化物イオン伝導緻密セパレータとを組み合わせて用いることにより、金属空気二次電池は、(i)金属デンドライトによる正負極間の短絡および二酸化炭素の混入の両方を防止できる、(ii)電解液に含まれる水分の蒸発を抑制できる、(iii)優れた充放電性能を有する、という利点を同時に満足することができる。金属空気二次電池は、1つの実施形態においては、負極の金属が亜鉛である亜鉛空気二次電池である。金属空気二次電池については、業界で慣用されている構成が採用され得るので、詳細な構成の説明は省略する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
超純水を45重量%およびエタノールを55重量%含む水性媒体を調製した。この水性媒体に、NiCl2 12.5mmol([1-(x+y+z)]=0.67)、FeCl3 2.08mmol(x=0.11)、VCl3 2.08mmol(y=0.11)、およびCoCl2 2.08mmol(x=0.11)を溶解し、10分間攪拌して、溶液を調製した。この溶液にアセチルアセトンを添加した。アセチルアセトンの添加量は、Ni、Fe、VおよびCo元素の合計量に対して、0.017%(モル比)であった。この溶液を30分間攪拌し、次いで、酸化プロピレンを添加した。酸化プロピレンの添加量は、Ni、Fe、VおよびCo元素の合計量に対して、0.24%(モル比)であった。この溶液を1分間攪拌し、次いで、3時間静置した。その結果、溶液は自発的にゲル化した。得られたゲルをさらに24時間静置したところ、自発的にゾル化した。なお、一連の操作は室温で行った。このようにして、Ni-Fe-V-Co系LDHを得た。得られたLDHの触媒活性を下記のようにして評価した。
【0052】
得られたLDHの触媒活性について、回転リングディスク電極(RRDE:Rotating Ring Disk Electrodes)測定法を用いて、OER側触媒としての性能を評価した。測定装置としてBAS社製の製品名「回転リングディスク電極装置」を用いた。電極としてBAS社製の白金リング-GCディスク電極を用いた。電解液として0.1MのKOHを用いた。一方、上記で得られたLDH 4mg、エタノール1500μL、およびイオン交換材料(Sigma-Aldrich社製、製品名「Nafion(登録商標)」)500μLを超音波で1時間混合し、測定用液を得た。この測定用液6μLをディスク電極にキャストし、回転数1600rpm、チラー温度25℃、酸素雰囲気下で対流ボルタンメトリー測定を行い、水素電極に対する電位と電流密度との関係から立ち上がり電位および電流密度2mA/cm2における電位を求めた。なお、立ち上がり電位は、ΔA/ΔVが3となるときの電位とした。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例2~21および比較例1~8>
表1に示す組成比としたこと以外は実施例1と同様にしてLDHを作製した。得られたLDHを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。さらに、実施例10、比較例1および比較例5について、水素電極に対する電位と電流密度との関係を比較するグラフを
図4に示す。加えて、実施例4および10のLDHについて、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)により、元素マッピングを行った。実施例4の結果を
図5に、実施例10の結果を
図6に示す。
【0054】
<実施例22>
Ni(NO3)2・6H2O 18.0mmol([1-(x+y+z)]=0.58)、Fe(NO3)3・9H2O 6.20mmol(x=0.20)、VCl3 6.20mmol(x=0.20)、およびCo(NO3)2・6H2O 0.60mmol(x=0.02)をイオン交換水に溶解し、10分間攪拌して、100mlの原料水溶液を得た。この原料水溶液を100mlの0.1MのNa2CO3水溶液100mlに攪拌しながら滴下した。このとき、原料水溶液のpHが常に10になるように2MのNaOH水溶液を原料水溶液に随時滴下した。こうして得られた反応溶液を室温で24時間攪拌してNi-Fe-V-Co系LDH粒子を成長させた。こうして得られたLDH粒子を吸引濾過により分離して、水での洗浄およびエタノールでの洗浄を施して硝酸塩及びナトリウムを除去した。こうして洗浄された粒子を室温で乾燥させた後、乳鉢で解砕してLDH粉末を得た。得られたLDHを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1および
図4から明らかなように、本発明の実施例の4元系LDHは、比較例の2元系LDHおよび3元系LDHに比べて立ち上がり電位および電流密度2mA/cm
2における電位が小さく、触媒活性に優れていることがわかる。さらに、
図5および
図6から明らかなように、本発明の実施例のLDHは、Ni、Fe、VおよびCoのマッピング形状が実質的に同一である(すなわち、これらの元素がほぼ同一の位置に存在する)ので、これらの元素が単に混合されたのではなく複合化されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の層状複水酸化物は、金属空気二次電池の空気極の触媒として好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0058】
20 空気極
20a 多孔性集電体
20b 層状複水酸化物