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特許7011135血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法及び発毛剤の製造方法、並びに血管内皮増殖因子産生促進剤及び発毛剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法及び発毛剤の製造方法、並びに血管内皮増殖因子産生促進剤及び発毛剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/475 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
C07K14/475
A61K35/50
A61P43/00 107
A61P9/14
A61P17/14
A61K47/10
C12N5/071
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017028556
(22)【出願日】2017-02-18
(65)【公開番号】P2017149710
(43)【公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2016030507
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594185352
【氏名又は名称】佳秀工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156959
【弁理士】
【氏名又は名称】原 信海
(72)【発明者】
【氏名】寺本 充寛
(72)【発明者】
【氏名】山川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】松木 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 孝治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀弥
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101703259(CN,A)
【文献】国際公開第2015/109329(WO,A1)
【文献】特開2015-034157(JP,A)
【文献】特開2012-136448(JP,A)
【文献】特開2001-039879(JP,A)
【文献】特開2002-226384(JP,A)
【文献】国際公開第2015/171142(WO,A1)
【文献】特開平08-073321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
A61K 35/00
A61P 43/00
A61P 9/00
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法であって、
哺乳動物から回収された胎盤を凍結する工程と、
凍結した胎盤を融解させる工程と、
融解させた胎盤から融解液を分取する分取工程と、
得られた融解液を濾過する工程と
をこの順に実施するに際し、
更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加する
ことによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得る
ことを特徴とする血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法。
【請求項2】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法であって、
哺乳動物から回収された胎盤を凍結する工程と、
凍結した胎盤を融解させる工程と、
融解させた胎盤から融解液を分取する分取工程と、
得られた融解液を濾過する工程と
をこの順に実施するに際し、
更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加する
ことによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得る
ことを特徴とする血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法。
【請求項3】
前記分取工程の後であって、前記エタノールを融解液に添加する前又は添加した後に、融解液を加熱する加熱工程を更に実施する請求項1又は2記載の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法。
【請求項4】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有する発毛剤を製造する方法であって、
請求項1から3のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法で製造された血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有させることを特徴とする発毛剤の製造方法。
【請求項5】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤であって、
哺乳動物から回収された胎盤を凍結し、凍結した胎盤を融解させ、融解させた胎盤から融解液を分取し、得られた融解液を濾過するに際し、更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加してなることを特徴とする血管内皮増殖因子産生促進剤
【請求項6】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤であって、
哺乳動物から回収された胎盤を凍結し、凍結した胎盤を融解させ、融解させた胎盤から融解液を分取し、得られた融解液を濾過するに際し、更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加してなることを特徴とする血管内皮増殖因子産生促進剤。
【請求項7】
分取した融解液について、前記エタノールを添加する前又は添加した後に加熱してある請求項5又は6記載の血管内皮増殖因子産生促進剤。
【請求項8】
血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有する発毛剤であって、
請求項5から7のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有することを特徴とする発毛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮増殖因子の産生を促進する血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法、及び該血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とする発毛剤を製造する方法、並びに血管内皮増殖因子産生促進剤及び該血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とする発毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の胎盤は母体と胎児を繋ぐ重要な器官であり、かかる胎盤から抽出した胎盤エキスには、生命の源となるアミノ酸やタンパク質、脂質及び糖質の三大栄養素以外にも、生理活性成分であるビタミン・ミネラル・核酸・酵素など胎児の生育に欠かせない多くの栄養素が含まれている。ここで、アミノ酸は身体の細胞をつくる原料となり、タンパク質・脂質・糖質は身体をつくる重要な栄養源となる。また、ビタミン・ミネラルには、身体の機能を正常に保つ役割がある。一方、核酸は遺伝子の修復、又は新陳代謝の調整等に作用する栄養素であり、酵素は免疫力の向上に欠かせない成分である。更に、胎盤エキスには、抗酸化力を向上させる活性ペプチド、細胞と細胞を繋いで健康な肌をつくるヒアルロン酸といったムコ多糖体、細胞内のミトコンドリア代謝活性を上昇させて細胞の新陳代謝を促す細胞賦活因子等も含まれている。
【0003】
このように胎盤エキスは多種のアミノ酸及びミネラル等の栄養成分を多量に含んでいるため、それらの栄養成分を毛母細胞に供給して育毛を促す育毛剤の成分として用いられている。
【0004】
一方、胎盤エキスは前述したように細胞賦活因子を含有しているため、後記する特許文献1にはかかる細胞賦活効果を利用した毛母細胞活性化剤が開示されている。
【0005】
すなわち、この毛母細胞活性化剤は、血行促進剤と細胞賦活剤とを少なくとも含む組成物Aと、水溶性高分子、及び、単糖類、二糖類及びオリゴ糖から選ばれる1種類以上の成分を含む組成物Bとから構成されており、前記組成物Aを毛母細胞に適用し、その1~36時間後に、組成物Bを毛母細胞に適用するようになっている。ここで、血行促進剤には、センブリエキス、ヒノキチオール及び/又はビタミンE促進体を用いることができ、細胞賦活剤にはD-パントテニルアルコール、D-パントテニルエチルエーテル及び/又は胎盤エキス(プラセンタエキス)を用いることができる。
【0006】
発毛周期には、毛母細胞が髪の毛製造の指令を受けて細胞分裂を始め活発に成長を続ける時期である「成長期」(髪全体の85%)、活動が止まり、毛根が短縮する時期である「移行期」、毛母細胞の活動が止まり休眠状態に入る時期である「休止期」(髪全体の15%)新しい髪の毛が生えてくることで休眠状態の古い髪が押し上げられて抜ける時期である「脱毛期」がこの順に現れるが、特許文献1に開示された毛母細胞活性化剤にあっては、前述した組成物Aによって毛母細胞への血行の促進及び毛母細胞の賦活化を行い、時間をおいて組成物Bを毛母細胞に適用することによって、発毛周期の休止期を打破して成長期に転換させることができ、これによって発毛効果が奏される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-73321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、そのような発毛効果を奏する従来の毛母細胞活性化剤にあっては、毛母細胞に血液を送る血管に詰まりといった障害が生じた場合、所望の発毛効果を得ることができないという問題があった。
【0009】
一方、そのような血管に生じた障害を改善し又は防止することによって、発毛を促進することができる。そのようなものとして、ミノキシジルを主成分とする発毛剤が開発されているが、ミノキシジルは血管拡張作用を有するため、心臓病患者及び高血圧患者、又は未成年者に重大な副作用を招来する虞があった。
【0010】
また、ミノキシジル以外にも血管に生じた障害を改善し又は防止し得る物質として、血管新生能を有する血管内皮増殖因子(以後、VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)ともいう。)が知られており、このVEGFを含有すると謳われた発毛剤が販売されている。しかし、かかる発毛剤にあっては、VEGFの含有量が不明であるため有効量のVEGFが含有されているかが明らかでない上に、VEGFは保存安定性が低いため、保存中にそのほとんどが不活化されているものと考えられ、発毛効果に対するVEGFの有効性に多大な疑義があった。
【0011】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、血管内皮増殖因子の産生を促進することによって、副作用の虞がほとんど無く、血管に生じた障害を改善し又は防止することができる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法、及び該血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とする発毛剤を製造する方法、並びに血管内皮増殖因子産生促進剤及び該血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とする発毛剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図13は髪及びその周囲の頭皮の模式的断面図であり、この図を用いて発毛機構を説明する。図13に示したように、髪はいわゆる髪の毛の毛幹部1と頭皮の中にある毛根部2とから構成されている。毛髪は毛根部2にある毛母細胞5で作られるが、それらの周囲は同じ毛母細胞5から作られる毛包3という組織によって囲繞されている。この毛包3は根元から毛穴付近まで広く髪の毛を取り囲んでおり、髪が育てられる過程で非常に大切な部分である。一方、毛母細胞5の中心には毛乳頭6が存在しており、毛乳頭6は毛細血管7を通して髪に必要な栄養成分及び酵素等を受け取り、それらを毛母細胞5へ与えるとともに、髪の毛を製造する指令等を与えている。そして、指令を受けた毛母細胞5は細胞分裂を行い、分裂した細胞が固い毛に角化していくことで髪の毛が生成され、それが毛穴から外に生えて髪となるのである。
【0013】
一方、毛乳頭6からVEGFが産生されることが知られているが、その産生量を向上させるべく、VEGFの産生を促進することができれば、毛乳頭6及び毛母細胞5の周囲の血管新生がより促進されて、毛乳頭6及び毛母細胞5への血流量がより増大され、その結果、発毛効果がより向上する。
【0014】
ところで、胎盤エキスには前述した種々の作用が認められているが、本発明が完成するに至るまで、毛乳頭に対するVEGF産生促進作用を有するという報告はなされていない。
【0015】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、胎盤を凍結融解して得られた融解液に、毛乳頭からのVEGFの産生を促進させる作用が存在し、更に、胎盤を凍結融解して得られた融解液にエタノールを添加することによって、VEGF産生促進作用を増大させることができるという知見を得て本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、(1)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法であって、哺乳動物から回収された胎盤を凍結する工程と、凍結した胎盤を融解させる工程と、融解させた胎盤から融解液を分取する分取工程と、得られた融解液を濾過する工程とをこの順に実施することによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得ることを特徴とする。
【0017】
ここで、胎盤回収される場合、衛生的な環境下、出産後できる限り迅速に胎盤回収されるのが良く、好ましくは出産後間もない新鮮な胎盤回収される。なお、胎盤の表面に血液その他の異物が付着している場合は、可及的に除去した後に清潔な袋等の保存容器内へ回収されておくとよい。回収された胎盤は低温下に保存し、凍結器内へ収納して凍結する。凍結温度は-20℃以下が好ましい。
【0018】
次に、凍結した胎盤を融解させる。これによって胎盤を構成する細胞が破壊され、細胞内物質が融解液となって細胞外へ放出される。このような凍結融解によって細胞内物質を抽出するため、負荷を加えることなく細胞内の水溶性物質を抽出することができる一方、脂溶性ホルモンといった脂溶性物質の混入を回避することができる。なお、融解方法はどのような方法であってもよいが、例えば10℃以下の水中で融解させた場合、雑菌等の繁殖を抑制することができるため好適である。
【0019】
胎盤は袋状の膜体でその表面が覆われているため、凍結融解後に残存する膜体及び前記細胞残渣等と融解液とを固液分離して、融解液を分取する。かかる分取工程を経て得られた融解液には細かい残渣が混入しているため、濾過によって当該残渣を除去することによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得る。なお、濾過には無菌濾過も含まれるが、膜又は中空繊維を用いる限外濾過というように、所定の分子量で濾別するものも含まれる。
【0020】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法にあっては、前述したように血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する場合、哺乳動物から回収された胎盤を凍結する工程と、凍結した胎盤を融解させる工程と、融解させた胎盤から融解液を分取する工程と、得られた融解液を濾過する工程とをこの順に実施することによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得ており、胎盤回収されてから融解液を分取するまでの間に、加熱、酵素処理、又は溶媒抽出等の処理を行っていない。従って、胎盤を構成する細胞に負荷をかけることなく水溶性物質を抽出し得、抽出された水溶性物質に分解・変性等が生じることを可及的に低減することができる。これによって、従来報告されていなかった血管内皮増殖因子産生促進作用を有する新規物質が胎盤から抽出されたものと考えられる。
【0021】
ところで、我が国では、ヒトの胎盤から抽出したエキスを主成分とし、肝硬変、更年期障害又は乳汁分泌不全等の治療に使用する薬剤が、医療機関にて永年に亘って使用されており、副作用がほとんど無い安全な薬剤として知られている。また、豚の胎盤由来のドリンク剤、豚・馬・羊その他の動物の胎盤由来のエキスは化粧品及び医薬部外品として永年使用されている。従って、胎盤を凍結融解して得られた融解液を主な成分とする血管内皮増殖因子産生促進剤にあっても、副作用を招来する虞が無いものと言える。
【0022】
一方このような血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、VEGFを産生する細胞に作用してその産生を促進させるため、当該細胞の周囲の血管に生じた障害を改善し又は防止することができる。
【0023】
本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、更に、分取して得られた前記融解液にエタノールを添加することを特徴とする。
【0024】
前述したように、本発明者らが更に検討した結果、分取して得られた融解液であって、濾過を行う前の融解液にエタノールを添加することによって、血管内皮増殖因子産生を促進させる作用が増大されるという知見が得られた。
【0025】
凍結融解させた胎盤から分取して得た融解液にエタノールを添加した場合、血管内皮増殖因子産生を促進させる作用がどのような機構によって増大されるかは明らかではないが、後述するように、胎盤を酵素処理してエキス成分を製造する工程でエタノールを添加した場合、血管内皮増殖因子産生が抑制されることを考慮すると、エタノールの添加によって、例えば融解液中、血管内皮増殖因子産生促進をマスクする物質を除去する、又は血管内皮増殖因子産生促進を補助する物質を遊離させる等々が生じているものと考えられる。このように、凍結融解させた胎盤から分取して得た融解液とエタノールとの間に相互作用が生じており、それによって血管内皮増殖因子産生を促進させる作用が増大されるものと考えられる。
【0026】
そして、本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加することを特徴とする。
【0027】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法にあっては、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加する。99.9容量%のエタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、前記エタノールの添加量が融解液の60質量%以上であると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、VEGFを産生する細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。
【0028】
なお、エタノールの添加量は、99.9容量%のエタノールを用いた場合について示しているが、他の濃度のエタノールを用いる場合は、上記の添加量を当該エタノール濃度に応じた添加量に換算すればよい。
【0029】
)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を製造する方法であって、哺乳動物から回収された胎盤を凍結する工程と、凍結した胎盤を融解させる工程と、融解させた胎盤から融解液を分取する分取工程と、得られた融解液を濾過する工程とをこの順に実施するに際し、更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加することによって血管内皮増殖因子産生促進剤を得ることを特徴とする。
【0030】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法にあっては、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加する。前記エタノールの添加量が融解液の10質量%以上50質量%以下である場合、VEGFを産生する細胞に負の影響を何ら与えることなく、VEGF産生率の増大及び毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大をより安定して得ることができるため好適である。
【0031】
)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、前記分取工程の後であって、前記エタノールを融解液に添加する前又は添加した後に、融解液を加熱する加熱工程を更に実施することを特徴とする。
【0032】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法にあっては、前述した分取工程の後であって、前記エタノールを融解液に添加する前、又は、エタノールを融解液に添加した後に、融解液を加熱する加熱工程を更に実施する。この熱処理によって、難溶性の物質及び血液に起因する赤色成分等を熱変性によって析出させ、またウィルスを不活化することができる。ここで、熱処理の温度が50℃未満である場合、十分に熱変性を生じさせることができず、また、熱処理の温度が80℃を超えると、必要な成分まで熱変性されてしまう虞がある。これに対して、熱処理の温度が50℃以上80℃以下である場合、過度な熱変性を招来することなく、不要な物質を析出し、また不活化することができるため好適である。
【0033】
)本発明に係る発毛剤の製造方法は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有する発毛剤を製造する方法であって、前記(1)から()のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法で製造された血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有させることを特徴とする。
【0034】
本発明の発毛剤の製造方法にあっては、前記(1)から()のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法で製造された血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有させるため、前述した如く、加熱、酵素処理、又は溶媒抽出等の処理を行わずに、胎盤を構成する細胞に負荷をかけることなく水溶性物質を抽出し得、抽出された水溶性物質に分解・変性等が生じることを可及的に低減することができ、これによって従来報告されていなかった血管内皮増殖因子産生促進剤が胎盤から抽出され、該血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分とする発毛剤を製造することができる。かかる発毛剤にあっては、前述した如く安全性が高い。
【0035】
また、凍結融解させた胎盤から分取して得た融解液にエタノールを添加する場合、例えば融解液中、血管内皮増殖因子産生促進をマスクする物質を除去する、又は血管内皮増殖因子産生促進を補助する物質を遊離させる等々、凍結融解して得た融解液とエタノールとの間に相互作用が生じ、それによって血管内皮増殖因子産生を促進させる作用が増大されるものと考えられる。
【0036】
ここで、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、前記エタノールの添加量が融解液の60質量%以上であると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、VEGFを産生する細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。
【0037】
)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤であって、哺乳動物から回収された胎盤を凍結し、凍結した胎盤を融解させ、融解させた胎盤から融解液を分取し、得られた融解液を濾過するに際し、更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加してなることを特徴とする。
【0038】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、哺乳動物から回収された胎盤を凍結し、凍結した胎盤を融解させ、融解させた胎盤から融解液を分取し、得られた融解液を濾過してなり、加熱、酵素処理、又は溶媒抽出等の処理を行わずに、胎盤を構成する細胞に負荷をかけることなく水溶性物質が抽出されており、抽出された水溶性物質に分解・変性等が生じることが可及的に低減され、これによって従来報告されていなかった血管内皮増殖因子産生促進剤が胎盤から得られている。また、かかる血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、前述した如く安全性が高い。
【0039】
なお、本発明は血管内皮増殖因子産生促進剤であるものの、製造方法的な記載によって発明が特定されている。ここで、胎盤から抽出される物質には非常に多くの種類の蛋白質、ペプチド、アミノ酸、ビタミン類、脂質、糖質、ミネラル、ホルモン、代謝産物等々の成分が含まれており、また未知の成分も数多く存在する。本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤を構成する物質は、胎盤から抽出される成分の内の1成分であるのか、或は複数成分の組み合わせであるのかも明らかでなく、従って、本発明を出願する時点において、前述したように無数の成分から特定の成分を分離、分析してその作用を検討するには、著しく過大な時間及び経済的支出を要することは明らかである。よって、出願時において、血管内皮増殖因子産生促進剤を構造又は特性により直接特定することが不可能、又はおよそ実際的でないという事情があるといえる。
【0040】
前記本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤は、更に、分取して得られた前記融解液にエタノールが添加してあることを特徴とする。
【0041】
前記本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、分取して得られた融解液にエタノールが添加してある。分取して得られた融解液にエタノールが添加された場合、例えば融解液中、血管内皮増殖因子産生促進をマスクする物質が除去される、又は血管内皮増殖因子産生促進を補助する物質が遊離される等々、凍結融解して得た融解液とエタノールとの間に相互作用が生じ、それによって血管内皮増殖因子産生を促進させる作用が増大されるものと考えられる。
【0042】
そして、本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤は、前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加してなることを特徴とする。
【0043】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールを、融解液に対して10質量%以上60質量%未満になるように添加してある。99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、前記エタノールの添加量が融解液の60質量%以上であると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、前記エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、VEGFを産生する細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。
【0044】
なお、エタノールの添加量は、99.9容量%のエタノールを用いた場合について示しているが、他の濃度のエタノールを用いる場合は、上記の添加量を当該エタノール濃度に応じた添加量に換算すればよい。
【0045】
)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤であって、哺乳動物から回収された胎盤を凍結し、凍結した胎盤を融解させ、融解させた胎盤から融解液を分取し、得られた融解液を濾過するに際し、更に、分取して得られた前記融解液に99.9容量%のエタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加してなることを特徴とする。
【0046】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールを、融解液に対して10質量%以上50質量%以下になるように添加してある。前記エタノールの添加量が融解液の10質量%以上50質量%以下である場合、VEGFを産生する細胞に負の影響を何ら与えることなく、VEGF産生率の増大及び毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大をより安定して得ることができるため好適である。
【0047】
)本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤は、分取した融解液について、前記エタノールを添加する前又は添加した後に加熱してあることを特徴とする。
【0048】
本発明の血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、前述したように分取した溶融液について、前記エタノールを融解液に添加する前、又は、エタノールを融解液に添加した後に、融解液を加熱してある。この熱処理によって、難溶性の物質及び血液に起因する赤色成分等を熱変性によって析出され、またウィルスが不活化されている。ここで、熱処理の温度が50℃未満である場合、十分に熱変性を生じさせることができず、また、熱処理の温度が80℃を超えると、必要な成分まで熱変性されてしまう虞がある。これに対して、熱処理の温度が50℃以上80℃以下である場合、過度な熱変性を招来することなく、不要な物質を析出し、また不活化することができるため好適である。
【0049】
)本発明に係る発毛剤は、血管内皮増殖因子を産生する細胞に作用して、その産生を促進させる血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有する発毛剤であって、前記()から()のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有することを特徴とする。
【0050】
本発明の発毛剤にあっては、前記()から()のいずれかに記載の血管内皮増殖因子産生促進剤を主な成分として含有するため、毛乳頭に血管内皮増殖因子の産生を促進させ、毛乳頭及び毛母細胞の周囲の血管新生がより促進されて、毛乳頭及び毛母細胞への血流量がより増大され、その結果、発毛効果がより向上する。かかる発毛剤にあっては、前述した如く安全性が高い。
【0051】
また、融解液にエタノールが添加してある場合、例えば融解液中、血管内皮増殖因子産生促進をマスクする物質が除去される、又は血管内皮増殖因子産生促進を補助する物質が遊離される等々、凍結融解して得た融解液とエタノールとの間に相互作用が生じ、それによって毛乳頭に血管内皮増殖因子産生を促進させる作用が増大されるものと考えられる。
【0052】
ここで、99.9容量%のエタノールを用い、該エタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、前記エタノールの添加量が融解液の60質量%以上であると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、前記エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、VEGFを産生する細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。
【0053】
なお、本発明は発毛剤であるものの、その一部は製造方法的な記載によって発明が特定されているが、前同様、本発明を出願する時点において、前述したように無数の成分から特定の成分を分離、分析してその作用を検討するには、著しく過大な時間及び経済的支出を要することは明らかである。よって、出願時において、血管内皮増殖因子産生促進剤を構造又は特性により直接特定することが不可能、又はおよそ実際的でないという事情があるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造手順を示すフローチャートである。
図2】第2の実施の形態に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造手順を示すフローチャートである。
図3】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図4】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図5】比較例の毛乳頭細胞の増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図6】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図7】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図8】比較例の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図9】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図10】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図11】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図12】本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。
図13】髪及びその周囲の頭皮の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
(第1の実施の形態)
本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法を図面に基づいて詳述する。
なお、本実施の形態で説明する血管内皮増殖因子産生促進剤の製造方法は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含むことはいうまでもない。
【0056】
図1は本発明に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造手順を示すフローチャートである。
【0057】
図1に示したように、出産した哺乳動物から胎盤を回収し(ステップS1)、回収した胎盤をビニール袋といった耐冷容器内に移して封止した後、それらを凍結器内へ格納して胎盤を凍結させる(ステップS2,S3)。ここで、胎盤の回収作業は、清潔な環境下で出産後可及的迅速に行うことが好ましい。また、回収した胎盤は低温下に保存し、凍結温度は-20℃程度以下が好ましい。なお、この胎盤は凍結した状態で数日間保存することができる。
【0058】
次に、凍結した胎盤を十分に融解させた(ステップS4)後、固液分離して融解液を得る(ステップS5)。ここで、凍結した胎盤の融解は10℃以下の温度環境で行うのが好ましい。これによって、雑菌の繁殖を抑制することができる。また、固液分離は、胎盤を構成する袋状の膜体から融解させた内容物を排出させることによって行う。なお、膜体から内容物を排出させる作業はプレス機及び/又は遠心分離機を用いる機械的操作、或は人的操作によって行うことができる。
【0059】
融解液が得られると、当該融解液を50℃以上80℃以下の適宜温度に昇温し、当該温度で1晩程度処理する熱処理を実施する(ステップS6)。かかる熱処理によって、難溶性の物質及び血液に起因する赤色成分等を熱変性によって析出させ、またウィルスを不活化することができる。ここで、熱処理の温度が50℃未満である場合、十分に熱変性を生じさせることができず、また、熱処理の温度が80℃を超えると、必要な成分まで熱変性されてしまう虞がある。これに対して、熱処理の温度が50℃以上80℃以下である場合、過度な熱変性を招来することなく、不要な物質を析出し、また不活化することができる。
【0060】
熱処理が終了すると、融解液を10℃以下の温度に冷却させた(ステップS7)後、99.9容量%のエタノールを融解液に対して10質量%以上60質量%未満、好ましくは10質量%以上50質量%以下となるように添加後(ステップS8)、十分な時間、静置する。これによって、熱処理にて析出した物質が沈殿するので、上清を採取する(ステップS9)。
【0061】
本発明者らが鋭意検討した結果、胎盤を凍結融解して得られた融解液にエタノールを添加することによって、毛乳頭にVEGF産生を促進させる効果を奏するという知見を得た。ここで、エタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、エタノールの添加量が融解液の60質量%以上であると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、毛乳頭細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。更に、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上50質量%以下である場合、VEGFを産生する細胞に負の影響を何ら与えることなく、VEGF産生率の増大及び毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大をより安定して得ることができるため好適である。
【0062】
なお、エタノールの添加量は前述した如く、99.9容量%のエタノールを用いた場合について示しているが、他の濃度のエタノールを用いる場合は、上記の添加量を当該エタノール濃度に応じた添加量に換算すればよい。
【0063】
なお、本実施の形態では、熱処理後にエタノールを添加した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、後述するように熱処理前にエタノールを添加してもよい。この場合、熱処理中にエタノールが気散することを防止すべく、例えば冷却器を連結した蓋付容器を用いるとよい。また、熱処理の前後に融解液のpHを3~6程度の酸性に調整してもよい。ヒトの皮膚は弱酸性であるため、融解液のpHを酸性側に調整しておくことによって、ヒトの皮膚に対する刺激を低減して、親和性を向上させることができる。
【0064】
そして、採取した上清を濾過して(ステップS10)、血管内皮増殖因子産生促進剤を得る。なお、得られた血管内皮増殖因子産生促進剤はその濃度を測定し、予め定めた濃度に調整する。ここで、濾過材としては化粧品又は食品等の製造工程で使用するものを用いることができる。更に、そのような濾過材を用いて濾過を行った後、無菌濾過を行ってもよい。一方、濾液の濃度は含有窒素濃度を基準にすることができる。通常、濾液の窒素濃度は予め定めた基準値より高い値であるので、純水にエタノールを添加して濾液のエタノール濃度と同じエタノール濃度になした希釈液を濾液に添加して濃度調整を実施する。
【0065】
ところで、本実施の形態では、熱処理を実施する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、限外濾過膜又は中空繊維等を用いた限外濾過又は逆浸透濾過等によってエタノールを添加した融解液を濾過することによって、熱処理を実施することなく、ウィルス及び微細残渣等を除去することもできる。この場合、化粧品又は食品等の製造工程で使用する濾過材を用いて、エタノールを添加した融解液を予備濾過しておくとよい。更に、前同様、エタノールを添加した融解液のpHを3~6程度の酸性に調整しておいてもよい。
【0066】
このようにして胎盤から得られた血管内皮増殖因子産生促進剤にあっては、毛乳頭に対してVEGFの産生を促進することができ、従って毛乳頭から産生されるVEGFの量が増大する。
【0067】
ここで、我が国では1950年代から、ヒトの胎盤エキスを主成分とする薬剤が医療機にて、肝硬変、更年期障害又は乳汁分泌不全等の治療に使用されており、副作用がほとんど無い安全な薬剤として永年に亘って知られている。また、豚の胎盤由来のドリンク剤、豚・馬・羊その他の動物の胎盤由来のエキスは化粧品及び医薬部外品として永年使用されている。従って、胎盤を凍結融解して得られた融解液を含む血管内皮増殖因子産生促進剤にあっても、副作用を招来する虞が無いものと言える。
【0068】
ところで、このような血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とした発毛剤を製造することができる。かかる発毛剤にあっては、前述した血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とするため、毛乳頭から産生されるVEGFの量が増大し、毛乳頭及び毛母細胞の周囲の血管新生がより促進されて、毛乳頭及び毛母細胞への血流量がより増大され、その結果、発毛効果がより向上する。
【0069】
発毛剤を構成する他の成分としては、pH調節剤及び薬効補助剤を含有させることができる。更に、血管内皮増殖因子産生を促進する効果を阻害しない限りにおいて任意の成分を配合することもできる。
【0070】
(pH調節剤)
発毛剤は、毛髪、頭皮及び肌への刺激性軽減という理由から、pH3~8の範囲にあることが好ましい。発毛剤のpHの調整は、塩基性物質又は酸性物質を添加することによって行うことができる。塩基性物質としては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等の無機塩基、トリエタノールアミン又はジイソプロパノールアミン等の有機アミン類、アルギニン、リジン又はオルニチン等の塩基性アミノ酸を用いることができる。一方、酸性物質としては、塩酸、硝酸、メタスルホン酸、硫酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸又はコハク酸等の無機酸又は有機酸を用いることができる。
【0071】
(薬効補助剤)
薬効補助剤としては、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等のビタミン類、若しくはこれらの促進体、グリチルリチン酸塩若しくはグリチルレチン酸等の抗炎症剤、ジフェニルイミダゾール、ジフェンヒドラミン若しくはその塩、又はマレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤、酢酸トコフェロール若しくはニコチン酸ベンジル等の血行促進剤、ニンジンエキス、アシタバエキス、ウメエキス、アルニカチンキ、オウバクエキス、サンシシエキス、セイヨウトチノキエキス、ロートエキス、ベラドンナエキス、トウキエキス、シコンエキス、サンショウエキス、センブリエキス若しくはトウガラシエキス等の生薬等を用いることができる。なお、これらの成分は、頭皮・毛髪に対するコンディショニング成分ともなりうる。
【0072】
(任意成分)
任意成分としては、油性成分、界面活性剤、高分子化合物、ポリオール類、セラミド類、キレート剤、香料、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、保湿剤、紫外線吸収剤、噴射剤、増粘剤、パール化剤等を用いることができる。また、ポリクオタニウム類、セラミド類、ステロール類、油剤、コラーゲン類、ジラウロイルグルタミン酸リシンNa等のコンディショニング剤を配合することもできる。
【0073】
(油性成分)
油性成分としては、炭化水素、多価アルコール、油脂、ロウ類、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルグリセリルエーテル、エステル類及び/又はシリコーン類等を用いることができる。ここで、炭化水素としては、α-オレフィンオリゴマー、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン及び/又はポリブテン等を用いることができる。また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール若しくはプロピレングリコール等のグリコール類、及び/又はグリセリン、ジグリセリン若しくはポリグリセリン等のグリセリン類等を用いることができる。
【0074】
また、前記油脂としては、オリーブ油、ローズヒップ油、ツバキ油、シア脂、マカダミアナッツ油、アーモンド油、茶実油、サザンカ油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、牛脂、カカオ脂、トウモロコシ油、落花生油、ナタネ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、小麦胚芽油、ハトムギ油、ブドウ種子油、アボカド油、カロット油、マカダミアナッツ油、ヒマシ油、アマニ油、ヤシ油、ミンク油及び/又は卵黄油等を用いることができる。前記ロウ類としては、ミツロウ(蜜蝋)、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ホホバ油、ラノリン、鯨ロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、パームロウ、モンタンロウ、綿ロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、カポックロウ及び/又はセラックロウ等を用いることができる。
【0075】
一方、前記高級アルコールとしては、2-オクチルドデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール(セタノール)、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、2-ヘキシルデカノール及び/又はイソステアリルアルコール等を用いることができる。また、前記高級脂肪酸としては、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ウンデシレン酸、リノール酸、リシノール酸及び/又はラノリン脂肪酸等を用いることができる。
【0076】
前記アルキルグリセリルエーテルとしては、モノステアリルグリセリルエーテル、モノセチルグリセリルエーテル、モノオレイルグリセリルエーテル及び/又はイソステアリルグリセリルエーテル等を用いることができる。また、前記エステル類としては、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル等のアジピン酸エステル、ミリスチン酸エステル、オクタン酸エステル、イソオクタン酸エステル、イソノナン酸エステル、セバシン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸イソプロピル等のパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、乳酸エステル及び/又は酢酸エステル等を用いることができる。
【0077】
更に、前記シリコーン類としては、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、平均重合度が650~10000の高重合シリコーン、ベタイン変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン及び/又はフッ素変性シリコーン等を用いることができる。
【0078】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤又は両性界面活性剤を用いることができる。
【0079】
前記ノニオン界面活性剤としては、脂肪酸ポリグリセリル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテルなど)、アルキルグリコシド及び/又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を用いることができる。また、前記カチオン性界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム(ステアルトリモニウムクロリド)、ココイルアルギニンエチルPCA、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム(5E.O.)、ポリクオタニウムー33、クオタニウム-91、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、N,N-ジ(アシロキシ),N-(ヒドロキシエチル),N-メチルアンモニウムメトサルフェート及び/又は酸中和型の第三級アミドアミン等を用いることができる。
【0080】
一方、前記アニオン界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、高級脂肪酸アルカノールアミド硫酸エステル塩、アシルイセチオン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル乳酸塩、N-アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩、N-アシルメチルアラニン塩、N-アシルメチルタウリン塩及び/又はN-アシルアスパラギン酸塩、ラウレス硫酸ナトリウム等を用いることができる。
【0081】
また、両性界面活性剤としては、スルホベタイン型両性界面活性剤、アミノプロピオン型両性界面活性剤、アミノ酢酸ベタイン型両性界面活性剤(ラウリン酸アミドプロピルベタイン等)、グリシン型両性界面活性剤、イミダゾリン型両性界面活性剤及び/又はジラウロイルグルタミン酸リシンNa等を用いることができる。
【0082】
(高分子化合物)
高分子化合物としては、カチオン化高分子、アニオン化高分子、両性イオン化高分子、ノニオン性高分子、天然ポリマー、及び/又はヒアルロン酸誘導体等を用いることができる。ここで、カチオン化高分子としては、ポリクオタニウム-4(塩化ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウム)、ポリクオタニウム-10(塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース)等のカチオン化セルロース、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ヒドロキシプロピルグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド等のカチオン化グアーガム及び/又はポリクオタニウム-7(ジアリル4級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合体)を用いることができる。
【0083】
また、前記アニオン化高分子としては、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)等を用いることができる。一方、両性イオン化高分子ポリマーとしては、ポリクオタニウム-39といったジアリル4級アンモニウム塩/アクリル酸共重合体等を用いることができる。また、ノニオン性高分子としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、PVP、PVP/VAコポリマー等のポリビニルピロリドン系高分子、及び/又はアルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子等を用いることができる。更に、前記天然ポリマーとしては、アラビアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、寒天等の植物性高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン類、カゼイン、ゼラチン等の動物性高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子等を用いることができる。
【0084】
更に、ノニオン界面活性剤以外の乳化剤、コンディショニング剤として、ステロール類、レシチン類、セラミド類、ジラウロイルグルタミン酸リシン塩等を、防腐剤として、フェノキシエタノール、エタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸ペンチル、パラオキシ安息香酸ベンジル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等を用いることができる。
【0085】
一方、ヒアルロン酸誘導体としては、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム、加水分解ヒアルロン酸アルキルグリセリン等を用いることができる。
【0086】
ところで、本発毛剤は、軟膏剤、ゲル剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、噴霧剤、溶液剤、懸濁液剤等の剤形とすることができ、また、ローション剤、シャンプー剤、リンス剤、コンディショナー剤、トリートメント剤、ミスト剤又はスタイリング剤の態様を取ることができる。
【0087】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の製造手順を示すフローチャートである。
【0088】
図2に示したように、出産した哺乳動物から胎盤を回収し(ステップS11)、回収した胎盤をビニール袋といった耐冷容器内に移して封止した後、それらを凍結器内へ格納して胎盤を凍結させる(ステップS12,S13)。前同様、胎盤の回収作業は、清潔な環境下で出産後可及的迅速に行い、また、回収した胎盤は低温下に保存し、凍結温度は-20℃程度以下が好ましい。
【0089】
凍結した胎盤を十分に融解させた(ステップS14)後、固液分離して融解液を得る(ステップS15)。前同様、凍結した胎盤の融解は10℃以下の温度環境で行うのが好ましく、また、固液分離は前述したステップS5で説明した操作と同様の操作で実施することができる。
【0090】
得られた融解液に、99.9容量%のエタノールを融解液に対して10質量%以上60質量%未満、好ましくは10質量%以上50質量%以下となるように添加した(ステップS16)後、それらを50℃以上80℃以下の適宜温度に昇温し、当該温度で1晩程度処理する熱処理を実施する(ステップS17)。この場合、前述した如く、例えば冷却器を連結した蓋付容器を用いて、熱処理中にエタノールが気散することを防止するようになすとよい。
【0091】
ここで、エタノールの添加量が融解液の10質量%未満である場合、保存安定性が低いため血管内皮増殖因子産生促進剤の保管管理及び流通に支障を来してしまう。また、エタノールの添加量が融解液の60質量%以上になると、毛乳頭細胞のVEGF産生に悪影響をもたらす。これに対して、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上60質量%未満である場合、毛乳頭細胞に悪影響をもたらすことなく、所要の保存安定性を得ることができる。更に、エタノールの添加量が融解液の10質量%以上50質量%以下である場合、VEGFを産生する細胞に負の影響を何ら与えることなく、VEGF産生率の増大及び毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大をより安定して得ることができるため好適である。
【0092】
なお、エタノールの添加量は前述した如く、99.9容量%のエタノールを用いた場合について示しているが、他の濃度のエタノールを用いる場合は、上記の添加量を当該エタノール濃度に応じた添加量に換算すればよい。
【0093】
前述した熱処理によって、難溶性の物質及び血液に起因する赤色成分等を熱変性によって析出させ、またウィルスを不活化することができる。ここで、熱処理の温度が50℃未満である場合、十分に熱変性を生じさせることができず、また、熱処理の温度が80℃を超えると、必要な成分まで熱変性されてしまう虞がある。これに対して、熱処理の温度が50℃以上80℃以下である場合、過度な熱変性を招来することなく、不要な物質を析出し、また不活化することができる。
【0094】
熱処理が終了すると、融解液を10℃以下の温度に冷却させた(ステップS18)後、十分な時間、静置する。これによって、熱処理にて析出した物質が沈殿するので、上清を採取する(ステップS19)。
【0095】
なお、熱処理の前後に融解液のpHを3~6程度の酸性に調整してもよい。ヒトの皮膚は弱酸性であるため、融解液のpHを酸性側に調整しておくことによって、ヒトの皮膚に対する刺激を低減して、親和性を向上させることができる。
【0096】
そして、採取した上清を濾過して(ステップS20)、血管内皮増殖因子産生促進剤を得る。なお、得られた血管内皮増殖因子産生促進剤はその濃度を測定し、予め定めた濃度に調整する。また、前同様、濾過材としては化粧品又は食品等の製造工程で使用するものを用いることができる。更に、そのような濾過材を用いて濾過を行った後、無菌濾過を行ってもよい。一方、濾液の濃度は含有窒素濃度を基準にすることができる。通常、濾液の窒素濃度は予め定めた基準値より高い値であるので、純水にエタノールを添加して濾液のエタノール濃度と同じエタノール濃度になした希釈液を濾液に添加して濃度調整を実施する。
【0097】
ところで、本実施の形態では、熱処理を実施する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、限外濾過膜又は中空繊維等を用いた限外濾過又は逆浸透濾過等によってエタノールを添加した融解液を濾過することによって、熱処理を実施することなく、ウィルス及び微細残渣等を除去することもできる。この場合、化粧品又は食品等の製造工程で使用する濾過材を用いて、エタノールを添加した融解液を予備濾過しておくとよい。更に、前同様、エタノールを添加した融解液のpHを3~6程度の酸性に調整しておいてもよい。
【0098】
このようにして胎盤から得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とした発毛剤を前同様にして製造することができる。かかる発毛剤にあっては、前述した血管内皮増殖因子産生促進剤を主成分とするため、毛乳頭から産生されるVEGFの量が増大し、毛乳頭及び毛母細胞の周囲の血管新生がより促進されて、毛乳頭及び毛母細胞への血流量がより増大され、その結果、発毛効果がより向上する。前同様、発毛剤を構成する他の成分としては、pH調節剤及び薬効補助剤を含有させることができ、また、血管内皮増殖因子産生を促進する効果を阻害しない限りにおいて任意の成分を配合することもできる。
【実施例
【0099】
(実施例1)
次に、比較試験を行った結果について説明する。
【0100】
図3及び図4は、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、図5は、比較例の毛乳頭細胞の増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。各図中、縦軸は細胞増殖率を示している。なお、いずれも原料にはわが国内の豚胎盤を用いた。
【0101】
ここで、図3中、本発明例1-10及び本発明例1-50は、図1に示した熱処理の前にエタノールを添加して、即ち図2に示したようにエタノールを添加した後に熱処理を行って得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を用いた場合を示しており、本発明例1-10は10質量%となるようにエタノールを添加し、本発明例1-50は50質量%となるようにエタノールを添加してある。なお、エタノールを添加しない以外は同様に操作して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を対照例1とした。
【0102】
また、図4中、本発明例2-10及び本発明例2-20は、図1に示した通り、熱処理後にエタノールを添加して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を用いた場合を示しており、本発明例2-10は10質量%となるようにエタノールを添加し、本発明例2-20は20質量%となるようにエタノールを添加してある。なお、エタノールを添加しない以外は同様に操作して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を対照例2とした。
【0103】
一方、比較例に用いた試料は次のようにして得た。すなわち、図1に示したように融解させた胎盤から融解液を分離して得られた残渣に蛋白質分解酵素である精製パパイン(三菱化学フーズ(株)製)及びコクラーゼP(三菱化学フーズ(株)製)をそれぞれ0.05質量%及び0.20質量%となるように振り掛け、60℃程度の温度環境下で一晩静置することによって、当該残渣を酵素分解した液状物を得、これに99.9%エタノールを予め定めた質量%になるように添加した後、図1に示した熱処理以降の各工程を施して試料とした。なお、図5中、比較例1-10は10質量%となるようにエタノールを添加し、比較例1-20は20質量%となるようにエタノールを添加し、比較例1-50は50質量%となるようにエタノールを添加してある。また、エタノールを添加しない以外は同様に操作して得られた試料を対照例3とした。
【0104】
なお、これら各本発明例の血管内皮増殖因子産生促進剤及び各比較例の試料の窒素濃度は以下のようであった。
【0105】
【表1】
【0106】
毛乳頭細胞の増殖は次のようにして試験した。すなわち、正常ヒト毛乳頭細胞(NHFDPC(Normal human follicle dermal papilla cell))(PromoCell社製)を3×10cells/mlとなるように増殖培地で調製し、48穴プレート(Corning社製)に0.5ml/wellずつ播種して37℃、5%COの環境下で一晩培養した後、増殖培地を破棄した。各穴内に0.5%ウシ胎仔血清を含むイーグルMEM培地(ニッスイ製)を添加するとともに、各試料を2容量%となるように各別の穴内にそれぞれ添加して、前同様の環境下で培養を行った。この培養を行ってから3日目に、各穴にそれぞれ20μlのCell counting kit-8(同仁化学)を添加し、更に1.5~2時間培養した。
【0107】
そして、各培養液について、吸光度測定装置(MultiskanFC;Thermo Scientific社製)を用いて450nm(測定波長)及び620nm(参照波長)の吸光度測定を行い、得られた結果に基づいて、対応する対象例の細胞数を100%としたときの本発明例及び比較例における細胞数の割合をそれぞれ求めた。
【0108】
図5から明らかなように、胎盤を酵素処理した原料を用いた比較例にあっては、エタノールを添加していない対照例3に細胞増殖作用が存在しており、エタノールを添加したいずれの比較例1-10、1-20、1-50にも、対照例3と同程度の細胞増殖作用が存在していた。また、このようにエタノールの添加有無に拘わらず同程度の細胞増殖作用の存在が認められたため、エタノールの添加量が少なくとも50質量%までは毛乳頭細胞の増殖に悪影響を及ぼしていないことが分かる。
【0109】
一方、図3及び図4から明らかなように、胎盤を凍結融解した原料を用いた本発明例にあっては、その添加タイミングに拘わらず、エタノールを添加したいずれの本発明例1-10、1-50及び本発明例2-10、2-20に、前述した比較例1-10、1-20、1-50と同程度又はそれより低い細胞増殖作用が存在していた。なお、前同様、本発明例にあっても、エタノールの添加量が少なくとも50質量%までは毛乳頭細胞の増殖に悪影響を及ぼしていないことが分かる。
【0110】
以上の結果を踏まえて、前述した各試料について血管内皮増殖因子産生促進作用の比較試験を行った。
【0111】
図6及び図7は、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、図8は、比較例の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムである。各図中、縦軸はVEGF産生率を示している。なお、図6図8中、本発明例1-10、1-50、本発明例2-10、2-20、比較例1-10、1-20、1-50、及び対照例1~3の各試料は、図3図5の対応する資料と同じものを用いている。
【0112】
ここで、産生されたVEGFの産生量は次のようにして検出した。すなわち、前同様、NHFDPC(PromoCell社製)を3×10cells/mlとなるように増殖培地で調製し、48穴プレート(Corning社製)に0.5ml/wellずつ播種して37℃、5%COの環境下で一晩培養した後、増殖培地を破棄した。各穴内に2%ウシ胎仔血清を含むイーグルMEM培地(ニッスイ製)を添加するとともに、各試料を2容量%となるように各別の穴内にそれぞれ添加して、前同様の環境下で培養を行った。この培養を行ってから3日目に、各穴から培地を回収し、培地中のVEGF濃度をヒトVEGF ELISA測定キット(Quantikine ELISA Human VEGF Immunoassay;R&D systems社製)で測定した。なお、測定方法は当該キットのプロトコールに従い、吸光度測定装置(MultiskanFC;Thermo Scientific社製)を用いて450nm(測定波長)及び540nm(参照波長)の吸光度測定を行い、得られた結果に基づいて、対応する対象例のVEGF産生量を100%としたときの本発明例及び比較例におけるVEGF産生比をそれぞれ求めた。
【0113】
図8から明らかなように、胎盤を酵素処理した原料を用いた比較例にあっては、エタノールを添加していない対照例3のVEGF産生比は、何も添加していない場合と同じであった。一方、エタノールを添加した比較例1-10、1-20、1-50にあっては、VEGF産生量が減少していた。
【0114】
以上の結果から、胎盤を酵素処理した原料を用いた場合、細胞増殖作用が存在するにも拘わらず、VEGF産生を促進させる作用は存在せず、エタノールを添加した場合、VEGF産生を抑制していた。
【0115】
これに対して、図6及び図7から明らかなように、胎盤を凍結融解した原料を用いた本発明例にあっては、エタノールを添加していない対照例1及び2のVEGF産生比がいずれも、何も添加していない場合より増大しており、従ってVEGF産生を促進させる作用が存在していた。
【0116】
更に、その添加タイミングに拘わらずエタノールを添加した場合、いずれの本発明例1-10、1-50及び本発明例2-10、2-20でも、それぞれ対応する対照例1及び対照例2よりVEGF産生比がいずれも増大していた。従って、胎盤を凍結融解した原料を用いた場合、エタノールを添加することによって、毛乳頭細胞のVEGF産生を更に促進させ得ることが分かる。
【0117】
なお、本発明例1-10、1-50、本発明例2-10、2-20、比較例1-10、1-20、1-50、及び対照例1~3について、エストラジオール及びプロゲステロンの含有量を検討したところ、いずれも検出されなかった。
【0118】
(実施例2)
次に、エタノールの添加量を更に変化させた場合の影響を検討した結果について説明する。
【0119】
図9は、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、エタノールの添加量を更に変化させてある。また、図10は同様に、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞増殖に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、エタノールの添加時期と加熱処理との関係を検討してある。一方、図11は、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、図9に対応するものである。また、図12は同様に、本発明例に係る血管内皮増殖因子産生促進剤の毛乳頭細胞VEGF産生に対する影響を試験した結果を示すヒストグラムであり、図10に対応するものである。
【0120】
なお、図9及び図10中、縦軸は細胞増殖率を示しており、図11及び図12中縦軸はVEGF産生率を示している。細胞増殖率及びVEGF産生率は前同様にして求めた。また、いずれも原料にはわが国内の豚胎盤を用いた。
【0121】
ここで、図9から図11において、本発明例3-10~本発明例3-80は、図2に示したように、熱処理前にエタノールを添加して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を用いた場合を示しており、本発明例3-10は10質量%となるように99.9容量%のエタノールを添加し、本発明例3-50は50質量%となるように同エタノールを添加し、本発明例3-60は60質量%となるように同エタノールを添加し、本発明例3-70は70質量%となるように同エタノールを添加し、本発明例3-80は80質量%となるように同エタノールを添加してある。
【0122】
一方、本発明例4-10及び本発明例4-50は、図2に示したように、熱処理前にエタノールを添加して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を用いた場合を示しており、また、本発明例5-10及び本発明例5-50は、図1に示したように、熱処理後にエタノールを添加して得られた血管内皮増殖因子産生促進剤を用いた場合を示している。なお、本発明例4-10は10質量%となるように99.9容量%のエタノールを添加し、本発明例4-50は50質量%となるように同エタノールを添加し、本発明例5-10は10質量%となるように同エタノールを添加し、本発明例5-50は50質量%となるように同エタノールを添加してある。
【0123】
なお、これら各本発明例の血管内皮増殖因子産生促進剤及び各比較例の試料の窒素濃度は以下のようであった。
【0124】
【表2】
【0125】
図9から明らかなように、毛乳頭細胞の細胞増殖率は、本発明例3-10~本発明例3-80のいずれにおいても120%を超えており、添加量が10質量%~80質量%において毛乳頭細胞に対する細胞増殖作用が認められた。これに対して、図11から明らかなように、VEGF産生率は、本発明例3-10~本発明例3-50にあっては120%以上であったが、本発明例3-60にあっては略100%の場合もあり、また本発明例3-70にあっては略100%であり、VEGF産生率の増大はあまり認められず、更に本発明例3-80にあってはVEGF産生率が低下していた。
【0126】
以上の結果より、エタノールの添加量が10質量%以上60質量%未満の範囲でVEGF産生率が増大するものと考えられ、更に毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大も認められる。従って、毛髪剤として顕著な効果を奏する。より好ましくは、エタノールの添加量を10質量%以上50質量%以下とするとよい。VEGF産生率の増大及び毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大のいずれも認められるからである。
【0127】
一方、図10及び図12に示した本発明例4-10及び本発明例4-50、並びに本発明例5-10及び本発明例5-50から明らかなように、エタノールを添加する前に熱処理を行った場合とエタノールを添加した後に熱処理を行った場合とにおいて、毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大量及びVEGF産生率の増大量にいずれも大きな差はなかった。
【0128】
一方、毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大量及びVEGF産生率の増大量は、エタノールの添加量が10質量%より50質量%の方が大きい値であった。従って、最も好ましいエタノールの添加量は、これまでに示した全ての結果及び本発明者らの経験より50質量%前後、例えば40質量%程度~55質量%程度とするとよいものと考えられる。毛乳頭細胞の細胞増殖率の増大量及びVEGF産生率の増大量が共に非常に大きく、またそのような増大を安定して得ることができるからである。
【符号の説明】
【0129】
1 毛幹部
2 毛根部
3 毛包
5 毛母細胞
6 毛乳頭
7 毛細血管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13