(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】木質バイオマス炭化物副生タール中有用成分分離のための前処理方法、木質バイオマス炭化物ブリケット化用バインダー利用方法
(51)【国際特許分類】
C10C 1/18 20060101AFI20220203BHJP
C10L 5/44 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C10C1/18
C10L5/44
(21)【出願番号】P 2018063085
(22)【出願日】2018-03-12
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517035522
【氏名又は名称】株式会社バイオ燃料研究所
(72)【発明者】
【氏名】小木 知子
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-071747(JP,A)
【文献】小木知子、中西正和,スギの低温改質時副生タールからの効率的ジテルペン類回収,第13回バイオマス科学会議発表論文集,2018年01月,7-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 1/00,5/00
C10L 5/44
C10B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
請求項1の前処理
方法により分離回収したヘキサン溶液から、カラムクロマトグラフィー等により分離したフェノール類を含むヘキサン溶液と、請求項1の前処理
方法により分離回収した糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液との混合溶液の、木質バイオマス炭化物をブリケット化しやすくするために添加する、バインダーとしての利用
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化処理により炭化物を製造する際に副生するタールに含まれるジテルペン類・ステロイド類等の有用成分の、カラムクロマトグラフィー等による分離・回収を可能にするために、タールから糖類・フラン類・アルコール類等を分離・回収する前処理方法と、炭化物をブリケット化しやすくするために、前記前処理方法により分離した糖類・フラン類・アルコール類と、前処理後カラムクロマトグラフィー等により分離・回収したフェノール類とのバインダー利用方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
木質バイオマスエネルギー利用の効率向上を目的として、木質バイオマスを炭化処理して単位重量当たりの発熱量を向上する試みが行われている。
木質バイオマスの炭化処理としては、例えば、外熱式熱分解炉を用いて、木質バイオマスを低酸素雰囲気中で、200℃から700℃の温度で、間接加熱により、単位重量当たりの発熱量を向上させる炭化処理が知られている。
木質バイオマスを炭化処理した後の製造物を木質バイオマス炭化物または炭化物と称する。
【0003】
炭化処理により、木質バイオマスに含まれる揮発性成分は揮発する。
炭化処理により、木質バイオマスに含まれる分解しやすい成分は分解して揮発する。分解しやすい成分を易分解物と称する。
揮発性成分が揮発して生成したガスと、易分解物が分解・揮発して生成したガスを、熱分解ガスと総称する。
常温でガスの成分、例えば、一酸化炭素や二酸化炭素等も、熱分解ガスに含まれる。
熱分解ガスのうち、常温で液体に凝縮する成分を、タールと総称する。
【0004】
木質バイオマス中の揮発性成分に、木自身が合成し含有するジテルペン類及びステロイド類が含まれる。ジテルペン類及びステロイド類は、木自身が黴等から身を守るために合成する有用成分であり、抗菌作用等の生理活性を有する。
【0005】
[非特許文献1][非特許文献2]に報告されているように、高濃度のジテルペン類・ステロイド類が、タールに含まれる。
[非特許文献1][非特許文献2]に報告されているように、易分解物からの分解生成物である、フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類も、タールに含まれる。
【0006】
前記のように、タールは、ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類等、多種類の有機物の混合物である。
多種類の有機物の混合物から、各有機物を分離する方法として、例えば、カラムクロマトグラフィーが知られている。
カラムクロマトグラフィーは、クロマトグラフィーの一種である。筒状の容器にシリカゲル等の充填剤を詰め、充填剤の上に混合物を置き、上部から溶媒を流す。用いる溶媒を展開溶媒と称する。
最初に極性の低い展開溶媒を流す。各有機物が展開溶媒に溶けて充填剤を通過する。各有機物と充填剤との親和性の違いまたは分子の大きさの違いにより各有機物が充填剤を通過する時間が異なるため、各有機物が分離されてカラムクロマトグラフィー下部から回収される。次に極性の少し高い展開溶媒を流して、同様に各有機物を分離・回収する。これを繰り返して各有機物を分離・回収する。
【0007】
発明者は、有用成分であるジテルペン類・ステロイド類のタールからの分離・回収を目的として、カラムクロマトグラフィーを用いてタールからの各有機物の分離・回収を試みた。
最初に極性の低い展開溶媒であるヘキサンまたはベンゼンを流したところ、タールに含まれる糖類が縮重合して不溶性の膜を生成した。膜を一旦生成すると、極性の高い展開溶媒であるアセトン等を流しても膜の一部が溶けなかった。この膜が筒状の容器を閉塞し、展開溶液がカラムクロマトグラフィーを流れなかったため、各有機物を分離・回収できなかった。
【0008】
前記の様に、炭化処理により、木質バイオマス中の揮発性成分が揮発し、木質バイオマス中の易分解物が分解して揮発する。
炭化物は、無数の細かい穴が空いた、多孔性である。炭化物密度は0.15グラム/立方センチメートル(g/cm3)程度と低い。単位重量当たりの体積が大きく、貯蔵コスト及び輸送コストが高い。
【0009】
貯蔵コスト及び輸送コスト低減のため、圧密処理により、炭化物を圧縮固化して塊に加工し、密度を0.6g/cm3以上に高めて、体積を減らす試みが行われている。圧密処理により固化して塊に加工することを、ブリケット化と称する。
例えば、木質バイオマス用に開発されたブリケット製造機を用いて、ブリケット化が試みられている。
【0010】
ブリケット製造機は、ピストンを用いて木質バイオマスを、180℃程度に加熱したダイへ押し込む。ダイ形状は円錐台状であり、入口側が広く出口側が狭い。ピストンにより押し込まれた木質バイオマスは、ダイを通過する間に、圧密される。
ダイからの熱伝導と、木質バイオマス同士が擦れ合って発生する摩擦熱及び木質バイオマスとダイが擦れ合って発生する摩擦熱により、木質バイオマスは200℃程度以上に加熱される。
200℃程度以上に加熱されると、木質バイオマス中の易分解物は軟化する。軟化した易分解物が糊の役目を果たし、木質バイオマスはブリケット化される。
【0011】
前記のように、木質バイオマスから炭化物を製造する際、炭化処理により易分解物が分解して揮発するので、木質バイオマスに含まれる易分解物に比べて、炭化物に含まれる易分解物は少ない。
圧密処理時に糊の役目を果たす易分解物が少ないので、木質バイオマスのブリケット化条件では、炭化物をブリケット化できない。
【0012】
ダイを230℃程度以上に加熱すれば、易分解物が軟化するので、炭化物をブリケット化できるが、圧密処理中または処理後に、炭化物が発火する危険性がある。
【0013】
木質バイオマスをブリケット化する際に押し込む木質バイオマス量より、多量の炭化物をダイに押し込むと、摩擦熱が増えて温度が上がり、易分解物が軟化するので、炭化物をブリケット化できるが、圧密処理中または処理後に炭化物が発火する危険性がある。
押し込む炭化物量が増えると、ブリケットの密度が高くなり、硬くなる。硬くなり過ぎると、ブリケットが円錐台状のダイを通過できなくなり、ブリケット化できない。
【0014】
ブリケット化しにくい原料に、軟化しやすい成分(例えば、スターチ等)を添加して、ブリケット化しやすくすることは、良く行われている。ブリケット化を容易にするための添加物をバインダーと称する。
【先行技術文献】
【0015】
【文献】題名:スギの低温改質/炭化時に副生するタールからの高付加価値物質回収の試み 著者:小木知子、中西正和 掲載誌:第12回バイオマス科学会議発表論文集 発表年月日:平成29年1月18日 発行者:一般社団法人日本エネルギー学会
【文献】題名:スギの低温改質時副生タールからの効率的ジテルペン類回収 著者:小木知子、中西正和 掲載誌:第13回バイオマス科学会議発表論文集 発表年月日:平成30年1月17日 発行者:一般社団法人日本エネルギー学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
タールに含まれる糖類が縮重合して膜状になり容器を閉塞するため、従来は、カラムクロマトグラフィー等を用いて、タール中の各有機物を分離・回収できなかった、有用成分であるジテルペン類・ステロイド類を分離・回収できなかった。
【0017】
炭化物をブリケット化するために、従来は、ダイを高温にする、または多量の炭化物を押し込む等を行なっていたので、炭化物が発火する、またはブリケットがダイを通過できない等の問題が発生しやすかった。
【0018】
バインダー(スターチ等)添加すれば、炭化物をブリケット化しやすくなるものの、バインダー購入費用が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
木質バイオマスを炭化処理すると、タールが副生する。タールは、ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類等の混合物である。
前処理によりタールに含まれる糖類・フラン類・アルコール類等を分離・回収して、カラムクロマトグラフィー等による有用成分であるジテルペン類・ステロイド類の分離・回収を可能にする。
【0020】
フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類は、木質バイオマス中の易分解物からの分解生成物である。フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類の軟化温度は、木質バイオマス中の易分解物の軟化温度よりも低い。フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類は常温でも粘稠で、加熱するとさらに粘稠になる。
タールからフェノール類・糖類・フラン類・アルコール類を分離して、バインダーとして炭化物に添加することにより、炭化物をブリケット化しやすくする。
【発明の効果】
【0021】
アセトンは、有機溶媒の一種で、最も単純なケトンである。20℃での密度は0.79g/cm3である。アセトンは、水・アルコール類・エーテル類・ほとんどの油脂を溶かす。
タールに含まれる、ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類・糖類・フラン類・アルコール類等の多種多様な全ての有機物がアセトンに溶けることを、実験により確認した。
【0022】
ヘキサンは、有機溶媒の一種で、直鎖状アルカンである。20℃での密度は0.65g/cm3である。水溶性は非常に低い。
タールに含まれるジテルペン類・ステロイド類・フェノール類がヘキサンに溶けることを、実験により確認した。ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類は親油性であり、親水性でない。
タールに含まれる糖類・フラン類・アルコール類がヘキサンに溶けないことを、実験により確認した。糖類・フラン類・アルコール類は親水性であり、親油性でない。
【0023】
前記の様に、タールにアセトンを加えると、タール全量がアセトンに溶けた。
このアセトン溶液にヘキサンを加え、良く撹拌してアセトン+ヘキサン混合溶液を生成した。
その後アセトン+ヘキサン混合溶液を24時間以上放置したところ、二層に分離した。
上層は密度が低いヘキサン溶液で、親油性のジテルペン類・ステロイド類・フェノール類を含む。
下層は密度が高いアセトン溶液で。親水性の糖類・フラン類・アルコール類を含む。
【0024】
二層に分離したアセトン+ヘキサン混合溶液から、ピペットを用いてヘキサン溶液を取り出し、ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類を含むヘキサン溶液と、糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液とを、それぞれ分離・回収した。
【0025】
カラムクロマトグラフィー及び展開溶液にヘキサンを用いて、各有機物と充填剤との親和性の違いを利用して、ジテルペン類・ステロイド類・フェノール類を含むヘキサン溶液と、ジテルペン類を含むヘキサン溶液と、ステロイド類を含むヘキサン溶液と、フェノール類を含むヘキサン溶液とを、それぞれ分離・回収した。
【0026】
約40ニュートン/平方ミリメートル(N/mm2)の圧力を加えて炭化物を圧密処理して、ブリケット化した。形状は、直径12ミリメートル(mm)、高10mmの円柱状である。
複数のブリケットを製造した。これらのブリケットを、ブリケット群Aと称する。
【0027】
ブリケット群Aをプレスして、高さ5mm以下へ潰すのに必要な力を計測した。必要な力は、最小0.4ニュートン(N)、最大0.6N、平均0.5Nであった。
【0028】
前記のフェノール類を含むヘキサン溶液と、前記の糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液の混合溶液とを炭化物に添加した後、約40N/mm2の圧力を加えて圧密処理し、ブリケット化した。形状は、直径12mm、高10mmの円柱状である。
複数のブリケットを製造した。これらのブリケットをブリケット群Bと称する。
【0029】
ブリケット群Bをプレスして、高さ5mm以下へ潰すのに必要な力を計測した。必要な力は、最小5.0N、最大6.9N、平均5.8Nであった。
【0030】
ブリケット群Bを高さ5以下mmへ潰すのに必要な力は、ブリケット群Aを高さ5mm以下へ潰すのに必要な力の10倍以上であった。
前記前処理により分離した糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液と、前期前処理の後カラムクロマトグラフィー等により分離したフェノール類を含むヘキサン溶液との混合溶液は、炭化物をブリケット化しやすくする、バインダーとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】 木質バイオマス炭化処理時に副生するタール全量がアセトンに溶けた状態。
【
図2】
図1に示すアセトン溶液に、ヘキサンを加え、24時間
以上放置した後。親油性のジテルペン類・ステロイド類・フェノール類を含むヘキサン溶液(上層:透明)と、親水性の糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液(下層:黒色)の二層に分かれた状態。
【
図3】 木質バイオマス炭化処理時副生タールから、ジテルペン類を含むヘキサン溶液と、ステロイド類を含むヘキサン溶液と、フェノール類を含むヘキサン溶液と、糖類・フラン類・アルコール類を含むアセトン溶液を分離回収する一連の工程と、各工程により生成する溶液を示す。点線内の工程が前処理
方法である。