(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ポリマー含浸基材樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20220119BHJP
C08J 7/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08J7/00 A CER
C08J7/02 Z CEZ
(21)【出願番号】P 2017095755
(22)【出願日】2017-05-12
【審査請求日】2019-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 敬二
(72)【発明者】
【氏名】松野 寿生
(72)【発明者】
【氏名】平田 豊章
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-179403(JP,A)
【文献】特開昭59-179533(JP,A)
【文献】特開平10-001552(JP,A)
【文献】特開2005-272668(JP,A)
【文献】特開平11-255925(JP,A)
【文献】特表平08-506612(JP,A)
【文献】米国特許第05340614(US,A)
【文献】特開2014-050581(JP,A)
【文献】特開平08-024327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
C08J 7/00- 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂に、該基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程と
、
ポリマー溶液に用いた溶媒
と同種の溶媒で洗浄する工程とを含むポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項2】
ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、及びポリメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項3】
基材樹脂は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、スチレン樹脂、及びポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の素材で構成されるものである請求項1又は2記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項4】
ポリマー溶液の溶媒は、少なくとも1種のアルコールを含むものである請求項1~3のいずれかに記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項5】
ポリマー含浸基材樹脂におけるポリマー含浸層の膜厚は、2~50nmである請求項1~4のいずれかに記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項6】
基材樹脂に、該基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程と
、
ポリマー溶液に用いた溶媒
と同種の溶媒で洗浄する工程とを含み、
前記基材樹脂は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、スチレン樹脂、及びポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の素材で構成されるものであり、
前記ポリマーは、ポリ2-メトキシエチルアクリレートであり、
ポリマー含浸層の膜厚は、2~50nmであるポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項7】
ポリマー溶液は、メタノール/1-プロパノール混合溶媒を含み、
基材樹脂は、スチレン樹脂で構成されるものである
請求項6記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【請求項8】
ポリマー溶液は、THF溶媒を含み、
基材樹脂は、ポリウレタン樹脂で構成されるものである
請求項6記載のポリマー含浸基材樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー含浸基材樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療・医用分野などにおいて使用される医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ等は、使用時に体内・体外で血液に接することに起因して、それらの表面に血小板等の血球細胞や、タンパク質が接着・吸着し、本来の機能が損なわれるという問題がある。
【0003】
一方、特許文献1~2には、親水性モノマーを重合したポリマーを医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ表面にコーティングする技術が提案されているが、他の技術の提供も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-516736号公報
【文献】特表2005-523981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、優れたタンパク質や、血小板等の血球細胞の低吸着性を付与できるポリマー含浸基材樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材樹脂に、該基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材樹脂の製造方法に関する。
【0007】
前記製造方法は、含浸後にポリマー溶液の溶媒を除去した後、ポリマー溶液に用いた溶媒で洗浄するものであることが好ましい。
【0008】
前記ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、及びポリメタクリルアミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
前記基材樹脂は、アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、及びスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の素材で構成されるものであることが好ましい。
前記ポリマー溶液の溶媒は、少なくとも1種のアルコールを含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、基材樹脂に、該基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材樹脂の製造方法である。従って、該製造方法により得られたポリマー含浸基材樹脂は、基材樹脂にポリマーが含浸、固定(主に物理的に)されたものであるため、洗浄等でポリマーが洗い流されることが抑制できる。よって、ポリマー含浸基材樹脂を繰り返し使用しても、所望の性能を維持できる。また、タンパク質や、血小板等の血球細胞の吸着を抑制できるため、これらの低吸着性を良好に付与することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明により、ポリマー含浸基材樹脂を製造する工程を示す模式図の一例。
【
図2】医療用検査装置におけるチャンバー部を備えた流路部の模式図の一例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材樹脂に、該基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を含浸する工程を含むポリマー含浸基材樹脂(ポリマーが含浸した基材樹脂)の製造方法である。
【0013】
基材樹脂への膨潤性を持つ溶媒を用いたポリマー溶液を、浸漬等により基材樹脂に含浸させると、ポリマーが溶媒とともに基材樹脂中に浸透し、その後溶媒を除去すると、含浸・固定された(主に物理的に固定化された)ポリマー含浸基材樹脂が作製される。そして、そのポリマー含浸基材樹脂に血液等の体液や、タンパク質を接触させた場合、血小板、赤血球等の血球細胞や、タンパク質の吸着、接着を抑制できる。
【0014】
従って、例えば、ポリマー含浸基材樹脂と血液等の体液を接触させた状態で、体液を排出(除去)した場合に、ポリマー含浸基材樹脂の表面に対する血球細胞の吸着、接着を充分に抑制できる。
【0015】
基材樹脂としては、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等のアクリル樹脂(ポリアクリル樹脂)、シクロオレフィン樹脂(ポリシクロオレフィン)、カーボネート樹脂(ポリカーボネート)、スチレン樹脂(ポリスチレン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0016】
本発明では、基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒が使用される。本発明において、膨潤性とは、基材樹脂が70℃以下で溶解はしないが、基材樹脂に浸透していく性質を意味する。このとき、基材樹脂は、溶媒の浸透により、若干体積が増加する。
【0017】
前記ポリマーとしては、例えば、各種モノマーの単独重合体、共重合体が挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等が挙げられる。ポリマーとしては、親水性を有する親水性ポリマーが好適であり、例えば、1種又は2種以上の親水性モノマーの単独重合体及び共重合体、1種又は2種以上の親水性モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0018】
親水性モノマー等のモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリルアミド、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体((メタ)アクリロイルモルホリン等)、などが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-メトキシエチルアクリレートが特に好ましい。
【0019】
他のモノマーは、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば特に限定されないが、ベタイン系モノマー、潮解性モノマー等を好適に使用できる。ベタイン系モノマーとしては、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタインなどが挙げられる。潮解性モノマー(空気中の水分(水蒸気)を取り込んで自発的に水溶液になる性質を持つモノマー)としては、アルカリ金属含有モノマー(分子中にアルカリ金属を含むモノマー)等が挙げられ、なかでも、3-スルホプロピル(メタ)アクリレートアルカリ金属塩が好ましく、3-スルホプロピルメタクリル酸カリウムが特に好ましい。
【0020】
ポリマー溶液(ポリマーを溶媒に溶解した溶液)における溶媒としては、ポリマーを溶解可能な水や有機溶剤等であれば特に限定されず、アルコール(メタノール、エタノール等)、アセトン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、THFなどが挙げられる。なかでも、少なくとも1種のアルコールを含む溶媒が好ましく、例えば、1種又は2種以上のアルコール溶媒、アルコールと非極性溶媒の混合溶媒、等が挙げられる。
【0021】
本発明では、基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒として、基材樹脂を膨潤させる一方で、該基材樹脂を溶解せず、ポリマーを溶解させることができる溶媒を使用することが好ましい。この場合、医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ等として過酷な状態(速い流れ場中での使用、酸・アルカリ又はアルコール等の溶液中での使用(ポリマーが溶解しない溶媒で、前記ポリマー溶液の溶媒とは異なるか、前記ポリマー溶液の溶媒の場合は含浸温度と異なる温度での使用等)、又は、繰り返し使用、等)でもポリマーが離脱せず、かつ血球細胞やタンパク質の吸着、接着を顕著に抑制することが可能となる。
【0022】
本発明では、基材樹脂に前記ポリマー溶液を含浸する工程が行われる。本発明において、含浸とは、ポリマーを基材樹脂中に浸透させることを意味する。含浸方法としては、ポリマーが基材樹脂中に浸透する方法であれば特に限定されず、適用可能であり、例えば、基材樹脂へのポリマー溶液の塗布や吹き付け、ポリマー溶液中への基材樹脂の浸漬などが挙げられる。
【0023】
本発明では、基材樹脂へのポリマー溶液を用いたポリマーの含浸後、適宜、乾燥等により溶媒を除去することで、ポリマーが基材樹脂中に含浸・固定(主に物理固定)した基材樹脂(ポリマー含浸基材樹脂)が得られる。なお、含浸後にポリマー溶液の溶媒を除去した後、ポリマー溶液に用いた溶媒で洗浄する方法や、該洗浄後に更に未含浸ポリマーを除去する方法、等を採用してもよい。
【0024】
図1は、本発明の製造方法により、ポリマー含浸基材樹脂を製造する工程を示す模式図の一例である。基材樹脂11に、該基材樹脂11に対する膨潤性を有する溶媒12にポリマー13を溶解させたポリマー溶液を含浸させると、溶媒12及びポリマー13が基材樹脂11中に侵入する。次いで、乾燥等を施すと、溶媒12は除去される一方で、ポリマー13は基材樹脂11中に残存、固定化され、ポリマー13が基材樹脂11中に固定化されたポリマー含浸基材樹脂(ポリマー含浸層の膜厚14)が作製される。
【0025】
ポリマー含浸基材樹脂におけるポリマー含浸層の膜厚は、2~200nm、好ましくは2~100nm、より好ましくは2~50nm、更に好ましくは2~30nmである。上記範囲内であると、良好なタンパク質や血球細胞に対する低吸着性が得られる傾向がある。
【0026】
本発明の製造方法により得られるポリマー含浸基材樹脂は、医療用検査装置等(医療・医用分野などに使用される医療・医用基盤、フィルター、流路、チューブ等)に適用できる。例えば、チャンバー部を含む流路部を有し、かつ該流路部の少なくとも一部がポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂で構成された医療用検査装置が挙げられる。このような装置では、洗浄等でポリマーが洗い流されることを防止できる。また、流路部内面に対する血小板等の血球細胞やタンパク質の低吸着性を実現できる。
【0027】
以下、医療用検査装置の実施形態の一例を、図を用いて説明する。
図2は、医療用検査装置2の模式図の一例である。医療用検査装置2は、流路部21を備え、該流路部21内にチャンバー部22を有している。流路部21の内面の全部又は一部は、ポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂(図示せず)で構成されている。また、チャンバー部22の内面の全部又は一部(好ましくは全部)もがポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂で構成されていることが好ましい。
【0028】
流路部21内に、血液や体液を導入しても血小板、赤血球等の吸着が抑制される。流路部21の長さL21(流れ方向)、チャンバー部22以外の流路部21の幅R21(平均)は、導入するものに応じて適宜設定すれば良い。例えば、R21は、0.1~5mmが好ましく、0.2~3mmがより好ましい。
【0029】
チャンバー部22の形状(三次元形状、略二次元形状(袋状)、等)、大きさ等は、導入するものに応じて適宜設定すれば良い。
【0030】
医療用検査装置は、例えば、
図2で示される流路部21の内面の全部又は一部がポリマーポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂で構成された流路部を作製し、更に必要に応じて他の部材(部品)を付加することにより、製造できる。
【0031】
具体的には、(1)基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒を用いたポリマー溶液を、流路部の内部に注入し、所定時間保持する方法、(2)該ポリマー溶液を流路部の内面に塗工(噴霧)する方法、等、公知の手法により、流路部の内面の全部又は一部にポリマー溶液を含浸することで、ポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂からなる流路部が作製される。そして、得られた流路部に、必要に応じて他の部品を追加することで、医療用検査装置を製造できる。
【0032】
注入方法、塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
(1)、(2)の保持時間は、流路部の大きさ、導入する液種、等により適宜設定すれば良いが、5分~10時間が好ましく、10分~5時間がより好ましく、15分~2時間が更に好ましい。保持後、適宜、余分なポリマー溶液を排出し、乾燥してもよい。
【0033】
なお、医療用検査装置におけるチャンバー部は、マイクロチャンバーでもよい。マイクロチャンバーの場合、チャンバー部の幅は20~200μmが好ましく、チャンバー部の個数は100~50万個が好ましい。
【0034】
医療用検査装置において、流路部の内面の少なくとも一部は、水の接触角が25~90度であることが好ましい。所定の水の接触角を有する場合、本発明の効果が良好に得られる。
【0035】
医療用検査装置は、更に、細胞選別用フィルター構造、ピラー構造又はディッシュ構造(皿状のへこみ構造)を有するものが好ましい。フィルター、ピラーとしては、当該技術分野において公知のものを適宜使用可能である。
【0036】
本発明の製造方法で得られたポリマー含浸基材樹脂を用いて血液又は体液を検査できる。具体的には、前記のとおり、ポリマー含浸層を有するポリマー含浸基材樹脂を用いた
図2の医療用検査装置を使用することで、血液又は体液中の血球細胞やタンパク質の粘着・接着を抑制できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を用いて、2-メトキシエチルアクリレートを80℃で6時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した(分子量Mn:約15000、Mw:約50000)。
シリコン基板の上にPMMAのトルエン溶液を3000rpmでスピンコートして基材を作製した(PMMA基板)。この基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.5%wtメタノール溶液に23℃で2時間浸漬後、メタノールで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸PMMA基板(基材樹脂:PMMA、ポリマー:PMEA)を作成した。
【0039】
(参考例1)
市販ポリウレタンシートをポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.5wt%THF溶液に23℃で2時間浸漬後、メタノールで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸PU基板(基材樹脂:PU、ポリマー:PMEA)を作成した。
【0040】
(実施例3)
市販のPMMA基板(厚さ1mm)を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの2.5wt%メタノール溶液に23℃で2時間浸漬後、メタノールで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸市販PMMA基板(基材樹脂:PMMA、ポリマー:PMEA)を作成した。
【0041】
(参考例2)
シリコン基板の上にPS(ポリスチレン)のトルエン溶液を3000rpmでスピンコートして基材を作製した(PS基板)。この基板を上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの0.25wt%メタノール/1-プロパノール(=50/50)溶液に50℃で2時間浸漬後、メタノールで洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸PS基板(基材樹脂:PS、ポリマー:PMEA)を作成した。
【0042】
(実施例5)
市販のPMMAチャンバー(
図2)に上記ポリ2-メトキシエチルアクリレートの2.5wt%メタノール溶液を注入し、23℃で2時間浸漬後、液をピペットで吸出した。次いで、メタノールを注入、吸出しを行って洗浄し、真空乾燥してPMEA含浸市販PMMAチャンバー(基材樹脂:PMMA、ポリマー:PMEA)を作成した。
【0043】
なお、使用した流路の流路部の長さL21及び内径(幅)R21、チャンバー部の長さL22及び内径(幅)R22は、以下のとおりである。
L21:60mm
R21:1mm
L22:42mm
R22:9mm
【0044】
(比較例1)
シリコン基板の上にPMMAのトルエン溶液を3000rpmでスピンコートしただけの基材を作製した(PMMA基板)。
【0045】
(比較例2)
市販ポリウレタンシートをそのまま用いた(PU基板)。
【0046】
(比較例3)
市販のPMMA基板(厚さ1mm)をそのまま用いた(市販PMMA基板)。
【0047】
(比較例4)
シリコン基板の上にPS(ポリスチレン)のトルエン溶液を3000rpmでスピンコートしただけの基材を作製した(PS基板)。
【0048】
実施例、比較例で作製した基板、医療用検査装置(流路部)を以下の方法で評価した。
【0049】
(ポリマー含浸層の膜厚)
ポリマー含浸層の膜厚は、ポリマー含浸層が形成された基板の断面を、TEMを使用し、加速電圧15kV、10000倍で測定(撮影)した。
【0050】
(血小板粘着量)
実施例、比較例で作製した基板表面又は医療用検査装置(流路部)の内部に、血漿に血小板を混合し、血小板濃度(播種密度)を4×107cells/cm2に調整した液を滴下又は注入し、37℃で1時間静置した。表面又は内部をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、1%グルタルアルデヒドで固定した(37℃で2時間放置)。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水及び蒸留水で洗浄した。
このサンプルをSEMで観察し、吸着した血小板の数を数えた。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。
【0051】
(水の接触角)
基板表面又は流路部の内面に蒸留水1μlを滴下し、1秒後の接触角をθ/2法(室温)で測定した。
【0052】
(たんぱく質吸着量)
基板表面に、リン酸緩衝生理食塩水にフルオレセインイソチオシアネートでラベリングした牛血清アルブミンを10mg/mLで混合した液を滴下し、37℃で1時間静置した。表面をリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄した。
このサンプルを蛍光顕微鏡で観察し、535nmの蛍光強度を測定した。なお、比較例1の数を1として、相対値で比較した。数字が小さいほど、たんぱく質吸着量が少ないことを示す。
【0053】
【0054】
ポリマー含浸層を持つ実施例の基板表面は、比較例に比べ、血小板粘着量、たんぱく質吸着量が共に少なく、低血小板吸着量、低たんぱく質吸着量が得られた。
【0055】
ポリ2-メトキシエチルアクリレート以外の他の親水性ポリマーを用いた場合でも、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0056】
11 基材樹脂
12 基材樹脂に対する膨潤性を有する溶媒
13 ポリマー
14 ポリマー含浸層の膜厚
2 医療用検査装置
21 流路部
22 チャンバー部
L21 流路部の長さ
L22 チャンバー部の長さ
R21 チャンバー部以外の流路部21の幅
R22 チャンバー部の幅