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特許7011245構造体の施工方法および自動溶接システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】構造体の施工方法および自動溶接システム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20220203BHJP
   E01D 19/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021120636
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2021-08-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517133552
【氏名又は名称】MKエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長坂 康史
(72)【発明者】
【氏名】川原 桂史
(72)【発明者】
【氏名】竹渕 敏郎
【審査官】山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-009412(JP,A)
【文献】特開2007-197962(JP,A)
【文献】特開2007-211416(JP,A)
【文献】特開2007-032056(JP,A)
【文献】特開2021-092082(JP,A)
【文献】特開2017-071958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体を構成するトラフリブにスタッドを打設する工程と、
前記スタッドに固定することにより、前記トラフリブにガイドレールを取り付ける工程と、
前記トラフリブに取り付けられた前記ガイドレールに切削機械を取り付ける工程と、
前記切削機械で前記トラフリブを切断し、前記トラフリブの最下部の底面部の少なくとも一部を撤去する工程と、
前記撤去する工程の後、前記トラフリブの内側から、前記トラフリブの上端部を前記構造体を構成する溶接対象物に溶接する工程とを備える、構造体の施工方法。
【請求項2】
前記トラフリブは、1対の側面部と、前記底面部とを含み、
前記トラフリブは、前記1対の側面部から前記底面部まで湾曲形状を有し、
前記打設する工程は、前記トラフリブの前記湾曲形状に沿う形状を有するマーキング治具が用いられ、
前記マーキング治具は、前記トラフリブの延在方向に交差する方向に互いに間隔をあけて4点のローラーアセンブリを含み、前記4点のローラーアセンブリは前記底面部の両側に2点、前記1対の側面部のそれぞれに1点ずつ配置され、
前記4点のローラーアセンブリを前記トラフリブに沿わせて前記トラフリブの延在方向に移動させ、前記マーキング治具の中央に備えられた罫書針により底面部中央に連続的に罫書を可能とする、請求項1に記載の構造体の施工方法。
【請求項3】
前記打設する工程において、前記スタッドは、前記撤去する工程において撤去されるべき前記トラフリブの前記底面部中央に打設され、
前記ガイドレールは、前記スタッドを介して前記トラフリブに取り付けられる、請求項2に記載の構造体の施工方法。
【請求項4】
前記切削機械を取り付ける工程においては、前記トラフリブに取り付けられた前記ガイドレールに、車輪を含む接続台車を介して前記切削機械のチップソーが取り付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体の施工方法。
【請求項5】
前記撤去する工程においては、前記車輪を含む接続台車を介して前記ガイドレールに取り付けられた前記チップソーが、前記ガイドレールの延在方向に沿って移動する、請求項4に記載の構造体の施工方法。
【請求項6】
前記撤去する工程においては、前記トラフリブの1対の下端コーナー部に挟まれる前記底面部が切断される、請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体の施工方法。
【請求項7】
前記トラフリブは、1対の側面部と、前記底面部とを含み、
前記撤去する工程においては、前記ガイドレールの延在方向に沿って前記トラフリブが切断される第1工程と、前記第1工程の後に前記ガイドレールの延在方向に交差する方向に前記トラフリブが切断される第2工程とがなされ、
前記第1工程による前記底面部の切断部が、前記トラフリブの前記1対の側面部にマグネットで固定される落下防止治具で支えられる、請求項1に記載の構造体の施工方法。
【請求項8】
前記撤去する工程の後、前記溶接する工程の前に、前記トラフリブの内側に自動溶接機を取り付ける工程を備え、
前記自動溶接機は、溶接を行なう溶接トーチと、前記溶接トーチの移動すべき方向に沿って延在する走行レールと、前記走行レールを前記トラフリブに固定可能な固定治具と、前記溶接トーチを取り付ける移動台車とを備え、
前記取り付ける工程においては、前記溶接トーチが、前記構造体を構成する前記トラフリブと前記溶接対象物とが溶接されるべき位置を向くことが可能な状態となるように設置され、
前記固定治具により、前記走行レールが前記溶接されるべき位置に沿って延在するように前記トラフリブに固定される、請求項1~7のいずれか1項に記載の構造体の施工方法。
【請求項9】
前記溶接する工程においては、前記トラフリブの内側において、前記溶接トーチの先端が、前記トラフリブと前記溶接対象物とが溶接されるべき前記位置である前記上端部を狙う状態を維持しながら、前記溶接トーチの先端を前記移動台車により前記走行レールの延在方向に沿って自動で移動させる、請求項8に記載の構造体の施工方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の構造体の施工方法を実施するための自動溶接システムであって、複数の溶接手法が可能となる設備を備える、自動溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は構造体の施工方法および自動溶接システムに関し、特に鋼床版のデッキプレートに接合されるトラフリブの切断と溶接とを行なう施工方法、およびそれを実施するための自動溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造体としての、橋梁の鋼床版は、トラフリブと、これに溶接されるデッキプレートとを備える。トラフリブは、デッキプレートの下面に溶接される。デッキプレートは、下面が桁部材により支持される。デッキプレートの上面に舗装が施され、その面上を車両等が走行する。
【0003】
デッキプレートとトラフリブとの溶接部分には、大型車両等が通過する毎に生じる局部ひずみにより上記溶接部分に疲労き裂が生じることがある。たとえば特開2017-89110号公報(特許文献1)および特開2019-126855号公報(特許文献2)には、き裂が生じた溶接部分が切断され、切断されたトラフリブの部分とデッキプレートとを接続する補強板を取り付ける工程が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-89110号公報
【文献】特開2019-126855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2017-89110号公報および特開2019-126855号公報のいずれも、溶接部分が、トラフリブの延在する水平方向に沿って切断され、切断された箇所には補強板が取り付けられる。この工法では橋梁の交通規制を伴うことなく施工可能である。しかしこの工法では、橋梁下での振動により溶接品質が低下する可能性がある。このため、溶接による補強を回避し、補強板をボルトで取り付ける方法が採用されている。また、トラフリブはデッキプレートとの接合により閉塞断面となる。このことから、デッキプレートとの溶接は外側のみに施されている。デッキプレートとトラフリブとの溶接部分では、この接合方法を要因とする疲労き裂を生じさせる可能性がある。よって、デッキプレートとトラフリブとの接合部の内側からの溶接による補強する方法が望まれるが、未だこの観点からの検討は行なわれていない。これは、特開2017-89110号公報および特開2019-126855号公報においても同様である。
【0006】
本開示は上記の課題に鑑みなされるものである。本開示の目的は、鋼床版特有の疲労き裂の発生部位に対しトラフリブの内側からの溶接により容易に補強可能な、構造体の施工方法および自動溶接システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従った構造体の施工方法は、構造体を構成するトラフリブにスタッドが打設される。スタッドに固定することにより、トラフリブにガイドレールが取り付けられる。トラフリブに取り付けられたガイドレールに切削機械が取り付けられる。切削機械でトラフリブが切断され、トラフリブの最下部の底面部の少なくとも一部が撤去される。上記撤去する工程の後、トラフリブの内側から、前記トラフリブの上端部が前記構造体を構成する溶接対象物に溶接される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、トラフリブの内側からの溶接により、鋼床版特有の疲労き裂の発生部位に対し容易に補強可能な構造体の施工方法および自動溶接システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る構造体としての鋼床版の概略斜視図である。
図2】実施の形態1におけるトラフリブとデッキプレートとの溶接による施工方法を示すフローチャートである。
図3図2の切断用のガイド孔あけ(S10)におけるガイド孔の形成位置を示す概略図である。
図4図2のスタッド打設(S20)に用いられるマーキング治具の模式図である。
図5図2のマーキング(S21)がなされる態様を示す模式図である。
図6】トラフリブにスタッドが打設された態様を示す模式図である。
図7】実施の形態1においてガイドレールが取り付けられた態様を示す模式図である。
図8】実施の形態1においてガイドレールに切削機械が取り付けられた態様を示す模式図である。
図9図8におけるガイドレールと、切削機械の車輪との位置関係を示す模式図である。
図10】トラフリブを撤去する第1工程および第2工程により形成される切断部を示す模式図である。
図11】落下防止治具の模式図である。
図12】落下防止治具が切断部の落下を防止するように下側から支える態様を示す模式図である。
図13】トラフリブの内側に自動溶接機が取り付けられる態様を示す模式図である。
図14図13のうち走行レールがトラフリブに固定される部分を拡大して示す模式図である。
図15図13のうち移動台車および溶接トーチと、トラフリブの開口との位置関係を拡大して示す模式図である。
図16】実施の形態2に係る構造体としての鋼製橋脚の概略斜視図である。
図17】実施の形態2における橋脚に取り付けられたカバープレートの撤去方法を示すフローチャートである。
図18図17の工程(S10)から工程(S40)および工程(S51)を説明するための概略図である。
図19図18を矢印で示す方向XIXから見た態様を示す概略平面図である。
図20図17の2度目の工程(S30)から工程(S40)および工程(S52)を説明するための概略図である。
図21図20を矢印で示す方向XXIから見た態様を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本実施の形態について説明する。なお、説明の便宜のため、互いに直交するX方向、Y方向、Z方向が導入されている。
【0011】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る構造体としての鋼床版の概略斜視図である。図1を参照して、本実施の形態における補強すなわち疲労き裂が生じる可能性のある部分の溶接補強を必要とする構造体は、たとえば鋼材で構成される鋼床版1である。鋼床版1は、橋梁において通行する自動車および人などを支え、その荷重を主桁などの構造部材に伝達する。
【0012】
鋼床版1は、主にデッキプレート2と、トラフリブ3とで構成される。デッキプレート2の上面2AはZ方向の上側を向き、上面2A上に舗装が施され、自動車および人などが通行する。下面2BはZ方向の下側を向き、下面2BのX方向にはいくつかのトラフリブ3が溶接されている。
【0013】
トラフリブ3は、1対の側面部3Aと、底面部3Bとを含む。トラフリブ3は、1枚の鋼板により構成されている。トラフリブ3は、Y方向について互いに間隔をあけて複数配置されている。
【0014】
トラフリブ3の最上部(上端)、すなわち1対の側面部3Aのそれぞれの最上部に近い位置には、上端部3Cが形成されている。これによりトラフリブ3の最上部は開口している。後述するように、上端部3Cは、トラフリブ3のうちデッキプレート2と接触し溶接される部分(溶接部4)であり、X方向に沿って延びている。
【0015】
トラフリブ3の最下部(下端)、すなわち1対の側面部3Aのそれぞれの最下部に近い位置には、下端コーナー部3Dが形成されている。トラフリブ3は、1対の下端コーナー部3Dに挟まれる領域に、底面部3Bを有している。
【0016】
下端コーナー部3Dの曲面形状により、トラフリブ3は1対の側面部3Aから底面部3Bまで湾曲形状を有する。より詳しくは、トラフリブ3は、1対のうち一方の側面部3Aから、底面部3Bを経由し、1対のうち他方の側面部3Aまで、湾曲形状を有する。下端コーナー部3Dは断面が曲線状でもよいが、断面が直線状に折れ曲がった屈曲形状であってもよい。ここでは上記双方の場合を含めてトラフリブ3が湾曲形状と表記する。
【0017】
疲労き裂が生じるなどの損傷対策として、デッキプレート2とトラフリブ3とを溶接すべき部分の内側から溶接を施し、当該部分に溶接部4を形成することで補強する。次に図2図15を用いて、当該溶接による補強方法、すなわちトラフリブ3およびデッキプレート2からなる鋼床版1の施工方法について説明する。
【0018】
図2は、実施の形態1におけるトラフリブとデッキプレートとの溶接による施工方法を示すフローチャートである。図2を参照して、切断用のガイド孔が形成される(S10)。鋼床版1の溶接部4の補強工程においては、トラフリブ3が部分的に切断される。工程(S10)では、トラフリブ3が切断される位置を決めるためのガイド孔が形成される。
【0019】
図3は、図2の切断用のガイド孔あけ(S10)におけるガイド孔の形成位置を示す概略図である。図3を参照して、工程(S10)においては、底面部3Bにガイド孔が形成される。より具体的には、後述のトラフリブ3を切断(撤去)する工程では、たとえば底面部3Bの一部の領域に、X方向に沿って延びる切断部111と、Y方向に沿って延びる切断部111とが2本ずつ形成されるよう、底面部3Bが切断される。このことを可能とするために、ガイド孔としては、X方向に沿って延びる2本の切断部111のそれぞれの切断の始終点におけるガイド孔11A,11B,11C,11Dが形成される。ガイド孔11A,11B,11C,11Dは、Y方向に沿って延びる2本の切断部111のそれぞれの切断の始終点でもある。
【0020】
切断部111が長く延びる場合、たとえば始終点以外の、X方向に長く延びる2本の切断部111のそれぞれの中央付近の位置に、ガイド孔11Eおよびガイド孔11Fが形成されてもよい。また、ガイド孔11Eおよびガイド孔11Fは切断部111の中央以外の位置に形成されてもよい。ガイド孔11A~11Fはたとえば磁気ボール盤を用いて形成される。4本の切断部111により、図3中に点線で示す矩形が形成される。この矩形は、底面部3BのY方向(トラフリブ3の延在方向に交差する幅方向)の中央を通る中央線CTRに対して対称となるように形成されることが好ましい。ガイド孔11Eおよびガイド孔11Fを有すれば、これらを有さない場合に比べて、X方向について切断部111を形成すべき(切断すべき)領域を短くできるため、切断工程を簡素化できる。
【0021】
再度図2を参照して、トラフリブ3にスタッドが打設される(S20)。トラフリブ3にスタッドを打設する工程(S20)として、まず、マーキング(S21)がなされる。マーキング(S21)は、スタッドが打設されるべき位置を精確に特定するための工程である。図4は、図2のスタッド打設(S20)に用いられるマーキング治具の模式図である。図4を参照して、工程(S20)において用いられるマーキング治具120は、トラフリブ3の1対の側面部3Aから底面部3Bまでの湾曲形状に沿うように、湾曲部125を有している。湾曲部125は、トラフリブ3の1対の側面部3Aから底面部3Bまでの湾曲形状に沿うように接触させることが可能な、下に凸の形状である。
【0022】
マーキング治具120は、4点のローラーアセンブリ121,122,123,124を含む。マーキング治具120がトラフリブ3の湾曲形状に沿うように設置された際のY方向に対し、ローラーアセンブリ123、ローラーアセンブリ121、ローラーアセンブリ122、ローラーアセンブリ124の順に並んでいる。なお以下では、マーキング治具120がトラフリブ3の湾曲形状に沿うように設置された際に湾曲部125がY方向に沿って延びることから、湾曲部125の延在方向(図4の概ね左右方向)をマーキング治具120のY方向と記す。
【0023】
ローラーアセンブリ121およびローラーアセンブリ122は、底面部3Bの両側に配置することが可能である。ローラーアセンブリ121およびローラーアセンブリ122は、マーキング治具120のY方向における中心より外側に1つずつ、互いに間隔をあけて配置されている。
【0024】
ローラーアセンブリ123,124は、1対の側面部3Aのそれぞれに1点ずつ配置される。ローラーアセンブリ123は、マーキング治具120のトラフリブ3への設置時において、トラフリブ3の1対の側面部3AのうちY方向についての一方の側面部3Aに接触可能となる位置に配置される。ローラーアセンブリ124は、マーキング治具120のトラフリブ3への設置時において、トラフリブ3の1対の側面部3AのうちY方向についての一方の側面部3Aと反対側の他方の側面部3Aに接触可能となる位置に配置される。
【0025】
ローラーアセンブリ121とローラーアセンブリ122とは、マーキング治具120のY方向の中央に対して互いに対称となる位置に配置される。同様に、ローラーアセンブリ123とローラーアセンブリ124とは、マーキング治具120のY方向の中央に対して互いに対称となる位置に配置される。また湾曲部125がマーキング治具120のY方向の中央に対して互いに対称となる位置に配置可能である。
【0026】
ローラーアセンブリ121,122,123,124のそれぞれには、ガイドローラー121A,122A,123A,124Aが設けられる。ガイドローラー121A~124Aはマーキング治具120のX方向に互いに間隔をあけて2つずつ設けられてもよい。しかしこれに限らず、ガイドローラー121A~124Aは、ローラーアセンブリ121~124のそれぞれに1つずつ、あるいは3つ以上ずつ設けられてもよい。
【0027】
マーキング治具120には、トラフリブ3への設置時にトラフリブ3側を向く凹形状の湾曲部125の表面のY方向中央部に、罫書針126が設けられる。罫書針126は、マーキング治具120全体のY方向中央部、すなわちローラーアセンブリ121とローラーアセンブリ122との中央部に設けられる。罫書針126は、尖った先端が、マーキング治具120のトラフリブ3への設置時においてトラフリブ3側を向く。
【0028】
図5は、図2のマーキング(S21)がなされる態様を示す模式図である。図5を参照して、マーキングの際には、マーキング治具120がトラフリブ3に設置される。マーキング治具120のトラフリブ3への設置時には、罫書針126の尖った先端が、底面部3Bに接触する。4点のローラーアセンブリ121~124がトラフリブ3の表面に沿った状態を保ちながら、マーキング治具120をX方向に沿って移動させる。罫書針126の先端はX方向に沿って底面部3Bの表面上に直線を描く。当該直線は、底面部中央、すなわちY方向についての底面部3Bの中央(図2中の中央線CTRとほぼ重なる位置)に連続的に形成される。
【0029】
なお罫書針126内にはバネ127が収納されている。このバネ127がZ方向に沿って伸縮することにより、罫書針126の先端が、底面部3Bの表面に常時接触するように調整可能である。
【0030】
再度図2を参照して、スタッド打設部の剥離(S22)がなされる。具体的には、次に打設されるスタッドの高い品質を確保するために、スタッドが打設されるべき位置の底面部3Bの表面を剥離する工程である。マーキング(S21)により罫書がなされた部分は表面にバリなどが多数付着している。このバリなどを剥離により除去しておくことで、次にスタッドを打設した際に、当該スタッドを底面部3Bの表面に強固に溶接できる。
【0031】
再度図2を参照して、次にスタッドの打設(S23)がなされる。工程(S23)は、マーキング(S21)および剥離(S22)により打設位置が準備された後に、実際にスタッドが打設される工程である。スタッドは、たとえばスタッドガンを用いた溶接により打設される。図2に示すように、スタッドは、後に撤去されるべき底面部3Bの切断部111に囲まれた矩形の内部の領域に打設されてもよい。スタッドは、特に上記の後に撤去されるべき底面部3Bの領域内の、Y方向の中央(中央線CTR上)に打設されてもよい。
【0032】
図6は、トラフリブにスタッドが打設された態様を示す模式図である。図6を参照して、底面部3B上に打設されたスタッド130は雄ねじが形成されている。これに螺合するように、雌ねじを有するナット131が仮付けされる。ナット131は、底面部3Bとの間にZ方向の間隔が確保されるように、スタッド130に締結される。以上によりスタッド130がトラフリブ3に打設される。
【0033】
再度図2を参照して、ガイド孔あけ(S10)と、トラフリブにスタッド打設(S20)とは、行なわれる順序は不問である。つまり工程(S20)が工程(S10)よりも先になされてもよい。
【0034】
次に、ガイドレールが取り付けられる(S30)。図7は、実施の形態1においてガイドレールが取り付けられた態様を示す模式図である。図7を参照して、底面部3Bに打設されたスタッド130にガイドレール132が固定される。具体的には、延在方向に長く延びる、一般公知の鋼材またはアルミニウム材からなるガイドレール132に、屈曲形状を有する取付治具133が、一般公知のボルト134により固定される。取付治具133にはたとえば図7の右端部から左側へ延びる、図示されない切欠きが形成されている。この切欠きが、たとえば底面部3Bとナット131との間の、Z方向にスタッド130が延びる部分に引っ掛けるように挿入される。その後、たとえばナット131を締め付けることで、取付治具133がナット131と底面部3Bとの双方から応力を受けるように固定される。以上により、トラフリブ3にガイドレール132が取り付けられる。このように、ガイドレール132は、スタッド130を介して、トラフリブ3に取り付けられる。ガイドレール132は、トラフリブ3の延びるX方向に沿って延びるように取り付けられる。
【0035】
再度図2を参照して、次に、トラフリブ3に取り付けられたガイドレール132に切削機械が取り付けられる(S40)。図8は、実施の形態1においてガイドレールに切削機械が取り付けられた態様を示す模式図である。図8を参照して、切削機械140は、切削機本体であるチップソー141と、接続台車142とを備える。チップソー141には切削刃141Aが含まれる。接続台車142にはその本体のたとえばZ方向上側に配置される車輪143が含まれる。チップソー141の切削刃141Aの刃先は、Y方向の位置がガイド孔11A~11FのY方向の最外部の位置とほぼ等しくなるように設置される。
【0036】
図9は、図8におけるガイドレールと、切削機械の車輪との位置関係を示す模式図である。図9を参照して、ガイドレール132は側面132sと下面132dとを含んでいる。側面132sは車輪143の形状(特に側面の形状)に合せた形状を有している。車輪143は、その側面がガイドレール132のX方向に延びる側面132sに接触する状態を保ちながら、切削機械140のX方向の移動に伴い回転する態様である。なおガイドレール132の側面132sが凸形状であるのに対し、車輪143の側面は凹形状であることから、車輪143のガイドレール132のZ方向上側への脱輪を防ぐ構成であってもよい。
【0037】
このように、切削機械140を取り付ける工程においては、トラフリブ3に取り付けられたガイドレール132に、車輪143を含む接続台車142を介して切削機械140のチップソー141が取り付けられる。これにより、ガイドレール132に対して摺動可能な切削機械140を容易に設置できる。
【0038】
再度図2を参照して、次にトラフリブ3の一部が撤去される(S50)。図9のように車輪143がガイドレール132の側面132sに接触する。このため車輪143の回転により、ガイドレール132に取り付けられた切削機械140のチップソー141は、ガイドレール132の延在方向に沿って移動可能である。切削刃141Aは、底面部3Bの下側の表面上に押し当てられた状態を保ちながら、ガイドレール132の延びるX方向に沿って移動する。これにより切削刃141Aの刃先は、これに接触する底面部3Bを切削する。このように、撤去する工程(S50)においては底面部3Bが切断される。底面部3Bでは、切断後において構成部材に必要な強度が確保できる領域(面積)を残すように切断部111が決定される。
【0039】
トラフリブ3の底面部3Bの一部を撤去する工程は、第1工程(S51)と、第2工程(S52)とを有する。ここで図10は、トラフリブを撤去する第1工程および第2工程により形成される切断部を示す模式図である。図10を参照して、第1工程(S51)は、切削機械140により、ガイドレール132の延在するX方向に沿ってトラフリブ3が切断される工程である。図10に示すように、ガイド孔11Aからガイド孔11CまでX方向に沿って延びる切断部111が形成され、ガイド孔11Bからガイド孔11DまでX方向に沿って延びる切断部111が形成される。
【0040】
第1工程(S51)の後に、ガイドレール132の延在する方向に交差するY方向にトラフリブ3が切断される第2工程(S52)がなされる。ここでは図10におけるガイド孔11Aからガイド孔11BまでY方向に沿って延びる切断部111が形成され、ガイド孔11Cからガイド孔11DまでY方向に沿って延びる切断部111が形成される。
【0041】
なお切断部111は、ガイド孔11A~11Dの中心を隅部とする矩形の外側にてガイド孔11A,11Cの双方に接する直線部分と、ガイド孔11B,11Dの双方に接する直線部分と、ガイド孔11A,11Bの双方に接する直線部分と、ガイド孔11C,11Dの双方に接する直線部分とを有する。これら4つの直線部分は、接するガイド孔の円弧形状の一部(円周の1/4)と繋がっている。以上により、概ね矩形であるが4つの隅部が円周の1/4ずつの円弧形状である矩形形状の切断部111が得られる。以降において始終点の4つのガイド孔を合わせた切断部111の形状を単に矩形と述べる場合がある。
【0042】
第2工程(S52)の際に形成されるY方向に沿う切断部111と、先に第1工程(S51)にて形成されたX方向に沿う切断部111とにより、底面部3Bに切断部111の矩形が形成され、当該矩形の部分が落下する可能性がある。この落下を防ぐ観点から、第1工程(S51)の後、第2工程(S52)の前に、あらかじめ、第1工程(S51)により形成されたX方向に延びる底面部3Bの切断部111が、落下防止治具150で支えられる。
【0043】
図11は、落下防止治具の模式図である。図12は、落下防止治具が切断部の落下を防止するように下側から支える態様を示す模式図である。図11および図12を参照して、落下防止治具150は、ベース部151と、マグネット152と、取手部153とを有している。ベース部151は、落下防止治具150が取り付けられるトラフリブ3の側面部3Aから底面部3Bまでの湾曲形状に沿う形状を有している。ベース部151は、トラフリブ3の1対の側面部3Aのうち一方の側面部3Aに対向し、かつ底面部3Bに接触することが可能となるよう湾曲した形状を有している。
【0044】
マグネット152は、落下防止治具150のトラフリブ3への設置時に、ベース部151が側面部3Aに対向する部分に設けられる。これにより図12に示すように、落下防止治具150はトラフリブ3への設置時に、1対のうちいずれかの側面部3Aに、マグネット152で、吸着するように固定される。
【0045】
図12においては2つの落下防止治具150がトラフリブ3に設置されている。このうち図12の手前側のマグネット152は、1対のうち左側の側面部3Aに固定されており、図12の奥側のマグネット152は、1対のうち右側の側面部3Aに固定されている。ベース部151の一部、つまりマグネット152が取り付けられない領域の少なくとも一部は、底面部3Bの特に最終的に切断部111により撤去されるべき部分に接触する。これにより一方の側面部3A側の切断部111と他方の側面部3A側の切断部111とが、落下防止治具150により均等に支持される。落下防止治具150は、トラフリブ3の撤去されるべき部分と撤去されるべき部分以外の部分とを跨ぐように設置される。
【0046】
この状態でベース部151が底面部3Bに接触する領域は、底面部3Bの一部が切断部111により矩形状に切り取られトラフリブ3から脱落可能な状態となっても、その切り取られた部分が落下しないように下方から支えられる。
【0047】
取手部153は、たとえばベース部151が底面部3Bに接触する領域の、底面部3Bと接触する側と反対側の(Z方向下側の)面上に形成されている。取手部153は、トラフリブ3に取り付けられた(吸着された)落下防止治具150を、トラフリブ3から取り外すために用いられる。図示されないが、第2工程(S52)においては、ガイド孔11A~11Dのいずれかの孔からレシプロソーなどを挿入し、レシプロソーの切削刃により図10のY方向に沿う切断部111が形成される。
【0048】
図10に示すように底面部3BにX方向に延びる切断部111とY方向に延びる切断部111とが2本ずつ形成され矩形が形成されれば、この部分が底面部3Bから撤去可能となる。この部分を撤去することにより、切断部111の矩形を境界とする開口112(図13参照)が形成される。
【0049】
再度図2を参照して、底面部3Bの一部が撤去された後、自動溶接機が取り付けられる(S60)。具体的には、トラフリブ3の内側に自動溶接機が取り付けられる工程である。
【0050】
図13は、トラフリブの内側に自動溶接機が取り付けられる態様を示す模式図である。図14は、図13のうち走行レールがトラフリブに固定される部分を拡大して示す模式図である。図15は、図13のうち移動台車および溶接トーチと、トラフリブの開口との位置関係を拡大して示す模式図である。図13図15を参照して、自動溶接機160は、溶接トーチ161と、走行レール162と、固定治具163と、移動台車164と、狙い位置調整治具165とを備えている。溶接トーチ161は、溶接を行なうためにアークを発生させる道具である。走行レール162は、溶接トーチ161による溶接工程中に溶接トーチ161が移動すべき方向、すなわちX方向に沿って延在するレールである。固定治具163は、走行レール162をトラフリブ3に固定可能な治具である。移動台車164は、溶接トーチ161を取り付け、溶接トーチ161を走行レール162に沿って移動させるための架台である。狙い位置調整治具165は、溶接トーチ161の先端が溶接工程において溶接すべき位置を高精度に狙うことを可能にすべく、その先端の向く方向を調整する機構である。
【0051】
図13に示すように、溶接されるべき位置を向くことが可能な状態となるように、溶接トーチ161が設置される。つまり溶接トーチ161は、溶接部4または溶接部4となるべき位置である、トラフリブ3の内側の上端部3C(トラフリブ3がデッキプレート2と接触する部分)を向くことが可能となるように取り付けられる。補強後の溶接部4はトラフリブ3の外側および内側の双方に隅肉溶接される。溶接トーチ161は走行レール162に沿って移動可能なため、溶接トーチ161を取り付ける移動台車164が、走行レール162に取り付けられる。移動台車164はたとえばラックアンドピニオン式の機構により、走行レール162に取り付けられるとともに、走行レール162に対する走行速度が調整される。ただしこのような構成に限られず、移動台車164は他の手段により走行レール162に取り付けられてもよい。
【0052】
図14に示すように、走行レール162は延在方向に長く延びる。また図13に示すように、トラフリブ3の内側であるトラフリブ内部3Eに、固定治具163としてのたとえば万力により、走行レール162が固定される。走行レール162の延在部分からは走行レール突起部162aが突出するように外側に延びている。この走行レール突起部162aと、底面部3Bに形成された開口112の縁部とが、固定治具163である万力により挟まれることで、走行レール162がトラフリブ3に固定される。走行レール162はその延びる方向が、トラフリブ3の延びるX方向に沿うように、トラフリブ内部3Eに固定される。上端部3Cは、X方向に沿って延びる(図2参照)。このため上記のようにすれば、走行レール162は溶接されるべき位置に沿って延在するように、トラフリブ内部3Eに固定される。
【0053】
なお固定治具163は万力に限らず、たとえば走行レール162の延びるX方向に沿って延び、トラフリブ3の内壁面に固定された(トラフリブ3の内壁面上に沿って配置された)レール形状の部材であってもよい。
【0054】
図15に示すように、溶接トーチ161は、移動台車164に含まれるトーチホルダーにより、移動台車164に固定される。移動台車164に含まれるトーチホルダーは、要求されるトーチ角度、溶接の狙い位置の固定を可能とする機能を有する。ただしこのような構成に限られず、溶接トーチ161は他の手段により移動台車164に取り付けられてもよい。移動台車164はその一部が開口112よりもトラフリブ内部3Eに配置され、他の一部が開口112の外側に配置されてもよい。溶接トーチ161は、その少なくとも一部は、トラフリブ3の内部における溶接すべき位置(上端部3C)を向くことを可能にすべく、トラフリブ内部3Eに配置される。
【0055】
再度図2を参照して、自動溶接機を取り付ける工程(S60)の後に、トラフリブ3の内側から、上端部3Cにおいて、トラフリブ3とデッキプレート2とが溶接され(S70)、溶接部4が形成される。これにより、補強された鋼床版1が形成される。
【0056】
狙い位置調整治具165のダイヤル165aを回しながら、溶接トーチ161の先端が向く方向が調節される。これにより溶接トーチ161の先端が溶接すべき位置を向くように設定できれば、道路供用中の部材振動下においても溶接の狙い位置がずれることなく、必要とされる適正な溶接品質を確保できる。適正な溶接品質とは、オーバーラップ、アンダーカット、ビード外観などの溶接欠陥がなく、応力伝達に問題のない溶接品質を意味する。
【0057】
この状態で、溶接トーチ161の先端を、移動台車164により走行レール162の延在するX方向に沿って自動で移動させる。自動で移動させるとは、人の手で溶接トーチ161が保持されていない状態のまま、溶接トーチ161が移動可能であることを意味する。移動台車164は、溶接速度に対し無段階調節機構を有する走行台車であることにより、自動でX方向に沿って移動可能である。これにより、トラフリブ3とデッキプレート2との内側からの溶接部4が補強された鋼床版1が得られる。
【0058】
トラフリブ3の溶接工程(S70)においては、たとえばX方向よりも寸法が短いY方向に延びる走行レールを設置できない場合には、Y方向に延びる溶接されるべき部分は手動で溶接されてもよい。ただしY方向に延びる部分についても、可能であれば走行レールに移動台車を設置し、溶接トーチで自動溶接されてもよい。
【0059】
以上の自動溶接機160は、鋼床版1の自動での溶接による施工方法を実施するための自動溶接システムである。当該自動溶接システムは、複数の溶接手法が可能となる設備を備える。ここでの複数の溶接手法は、MAG(Metal Active Gas)溶接およびTIG(Tungsten Inert Gas)溶接である。これらは溶接速度が大きく異なるため、通常の自動溶接機ではこれら双方の溶接手法を用いることができない。しかし本実施の形態の自動溶接機160は、移動台車164に溶接トーチ161を設置している。移動台車164は速度の無段階調整機能により、取り付けられた溶接トーチ161の溶接速度を無段階に変更できる。つまり移動台車164は、MAG溶接の溶接速度と、TIG溶接の溶接速度との間の溶接速度において、その速度を無段階すなわち徐々に(連続的に)変化するよう微調整できる。これにより移動台車164は、MAG溶接とTIG溶接とのいずれの溶接手法を行なう場合にも使用することができる。
【0060】
MAG溶接およびTIG溶接はいずれも、溶接金属を空気から遮断するためのシールドガス中におけるアーク放電を利用する。MAG溶接を用いる場合と、TIG溶接とを用いる場合とでは、自動溶接機160のうちの溶接トーチ161は異なるものとなる。MAG溶接を行なう場合とTIG溶接を行なう場合との間では溶接トーチ161のみ交換されるが、他の自動溶接機160の構成部材(走行レール162および移動台車164など)はいずれの溶接方法を用いる場合にも同一のものを兼用できる。このため当該自動溶接システムは、複数種類の溶接工程に使用することができる。
【0061】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0062】
本実施の形態に係る構造体としてのたとえば鋼床版1の施工方法では、トラフリブ3に取り付けられたガイドレール132に切削機械140が取り付けられる。切削機械140でトラフリブ3を切断し、トラフリブ3の最下部の底面部3Bの少なくとも一部が撤去される。これにより、簡便かつ精確に、整った形で切断部111の開口112を形成できる。つまり整った開口112が形成可能である。
【0063】
また、トラフリブ3の底面部3Bが部分的に撤去される工程の後に、形成された開口112からトラフリブ3の内側に溶接トーチ161を導入し、トラフリブ3の内側から上端部3Cが溶接される。これにより、溶接部4において疲労き裂の発生に伴い疲労強度の低下が懸念される場合に、外側からの補強溶接のみならず内側からの補強溶接がなされる。このため、溶接部4の疲労耐久性の向上が期待できる。
【0064】
上記施工方法において、スタッド130を打設する工程(S20)は、マーキング治具120が用いられる。マーキング治具120は、トラフリブ3の延在方向に交差する方向に互いに間隔をあけて4点のローラーアセンブリ121~124を含む。4点のローラーアセンブリ121~124は底面部3Bの両側に2点、1対の側面部3Aのそれぞれに1点ずつ配置される。4点のローラーアセンブリ121~124をトラフリブ3に沿わせてトラフリブ3の延在方向に移動させ、マーキング治具120の中央に備えられた罫書針126により底面部中央(中央線CTR)に連続的に罫書を可能とする。以上の構成を有してもよい。このようなマーキング治具120の利用により、湾曲したトラフリブ3の中央線CTRを描く煩雑さがなくなり、中央線CTRの罫書が容易になる。
【0065】
上記施工方法のスタッド130を打設する工程(S20)において、スタッド130は、底面部3Bの少なくとも一部を撤去する工程(S50)において撤去されるべきトラフリブ3の上記底面部中央に打設される。ガイドレール132は、スタッド130を介してトラフリブ3に取り付けられる。以上の構成を有してもよい。このようにすれば、開口112の形成によりガイドレール132が撤去されるため、ガイドレール132を底面部3Bから撤去する工程が不要となる。このためガイドレール132を別途撤去する場合に比べて工程数を削減できる。
【0066】
上記施工方法の底面部3Bを撤去する工程(S50)においては、上記車輪143を含む接続台車142を介してガイドレール132に取り付けられた切削機械140のチップソー141が、ガイドレール132の延在方向(X方向)に沿って移動してもよい。これにより、ガイドレール132に対して摺動可能な切削機械140を容易に設置できる。その結果、切削機械140の切削刃141Aは、ガイドレール132を利用することでX方向に沿った直線状に精確な切断部111(開口112)が形成できる。
【0067】
上記施工方法の底面部3Bを撤去する工程(S50)においては、トラフリブ3の1対の下端コーナー部3Dに挟まれる底面部3Bが切断されてもよい。底面部3Bが切断および撤去されることにより形成された開口112を用いて、トラフリブ3の下側からトラフリブ内部3Eへ、容易に自動溶接機160が設置できる。
【0068】
上記施工方法での底面部3Bを撤去する工程(S50)においては、第1工程(S51)による底面部3Bの切断部111が、トラフリブ3の1対の側面部3Aにマグネット152で固定される落下防止治具150で支えられてもよい。マグネット式の落下防止治具150により、切断部111の自由落下を防止できる。
【0069】
上記施工方法において、底面部3Bを撤去する工程(S50)の後、溶接する工程(S70)の前に、トラフリブ3の内側(トラフリブ内部3E)に自動溶接機160が取り付けられる(S60)。自動溶接機160を取り付ける工程(S60)においては、溶接トーチ161が、上記構造体を構成するトラフリブ3と溶接対象物(デッキプレート2)とが溶接されるべき位置を向くことが可能な状態となるように設置されてもよい。なお固定治具163はトラフリブ3の内壁面上に沿って配置されてもよい。走行レール162の装着により自動溶接が可能となる。
【0070】
上記施工方法のトラフリブ3を溶接する工程(S70)においては、トラフリブ3の内側(トラフリブ内部3E)において、溶接トーチ161の先端が、トラフリブ3とデッキプレート2とが溶接されるべき位置である上端部3Cを狙う状態を維持しながら、溶接トーチ161の先端を移動台車164により走行レール162の延在方向に沿って自動で移動させてもよい。
【0071】
トラフリブ内部3Eに固定された走行レール162に沿って移動台車164が自動で移動し、移動台車164に取り付けられた溶接トーチ161が走行レール162に沿って自動で移動可能である。これにより本開示によれば、走行レール162に沿って溶接トーチ161をまっすぐ自動で走行させ、溶接部4をまっすぐきれいに形成できる。自動溶接機160により自動で溶接させれば、橋梁下のように走行する車両により振動する場所における溶接を高い精度で行なえる。このため自動溶接により、直線的で整った、高品質な溶接形状の溶接部4を確保できる。
【0072】
本実施の形態によれば、疲労き裂の発生により疲労強度の低下の可能性がある溶接部位に対し、自動化した溶接がされるため、適切な補強溶接ができる。
【0073】
(実施の形態2)
図16は、実施の形態2に係る構造体としての鋼製橋脚の概略斜視図である。図16を参照して、本実施の形態における対象となる構造体としての橋脚6は、梁部7と、柱部8とを主に備える。梁部7は水平方向(XY平面)に沿って拡がり、その上に橋桁が配置される。柱部8は梁部7を下方から支持すべく鉛直方向(Z方向)に延びている。
【0074】
橋脚6は、梁部7と柱部8との境界である隅角に、景観に配慮したカバープレート9が溶接にて設置されている。カバープレート9は、梁部7のXY平面に沿う面上と、柱部8のZ方向に延びる面上との双方に接するように、梁部7に接合される領域と柱部8に接合される領域との間で、湾曲した平面形状を有している。当該湾曲した平面形状は、橋脚6を外側から見たときに凹形状を有している。図16ではカバープレート9と梁部7の下面とが溶接される部分が溶接部9Aであり、カバープレート9と柱部8の側面とが溶接される部分が溶接部9Bである。橋脚6からのカバープレート9の撤去に関し、構造体の施工方法の工程(切断工程および溶接工程)のうちトラフリブの切断工程の技術が代用できる。次に図17図21を用いて、本実施の形態の構造体の施工方法としての、橋脚6からのカバープレート9の撤去方法(カバープレート9と梁部7および柱部8との撤去方法)について説明する。
【0075】
図17は、実施の形態2における橋脚に取り付けられたカバープレートの撤去方法を示すフローチャートである。図17を参照して、橋脚6に溶接されたカバープレート9にスタッドが打設される(S10)。図18は、図17の工程(S10)から工程(S40)および工程(S51)を説明するための概略図である。図19は、図18を矢印で示す方向XIXから見た態様を示す概略平面図である。図18および図19を参照して、カバープレート9の曲面(球面の一部のような)形状である曲面部9C上に、その外側からスタッド130が打設される。特に図19に示すように、上下方向に沿ってある間隔をあけて、複数のスタッド130が打設される。曲面部9C上を上下方向に沿って間隔をあけて並ぶ複数のスタッド130は、水平方向に複数列設けられてもよい。スタッド130の打設方法は実施の形態1と同様である。底面部3B上に打設されたスタッド130は雄ねじが形成されている。これに螺合するように、雌ねじを有するナット131が仮付けされてもよい。
【0076】
再度図17を参照して、切断用のガイド孔が形成される(S20)。橋脚6からのカバープレート9の撤去工程においては、カバープレート9が切断される。カバープレート9が切断される位置を決めるためのガイド孔が形成される。
【0077】
水平方向に沿って直線状に延びる切断部と、上下方向に沿って(曲面部9Cに沿う曲線状に)延びる切断部とがたとえば2本ずつ形成され矩形状を形成することで、当該矩形状の部分が撤去される。このことを可能とするために、再度図19を参照して、ガイド孔としては、曲面部9C上を上下方向に沿って延びる2本の切断部のそれぞれの切断の始点におけるガイド孔11Aおよびガイド孔11Bが形成される。またガイド孔としては、上下方向に沿って延びる2本の切断部のそれぞれの切断の終点におけるガイド孔11Cおよびガイド孔11Dが形成される。切断部は上下方向に長く延びる。このため上下方向について、ガイド孔11Aとガイド孔11Cとの中央付近の位置にガイド孔11Eが形成されてもよく、ガイド孔11Bとガイド孔11Dとの中央付近の位置にガイド孔11Fが形成されてもよい。
【0078】
再度図17を参照して、カバープレートにスタッドを打設する工程(S10)と、切断用のガイドを孔あけする工程(S20)とは、行なわれる順序は不問である。つまり工程(S20)が工程(S10)よりも先になされてもよい。
【0079】
次に、ガイドレールが取り付けられる(S30)。再度図18および図19を参照して、曲面部9Cに打設されたスタッド130にガイドレール132が固定される。具体的には、延在方向、すなわち曲面部9Cの表面に沿い上下方向に長く延びる、一般公知の鋼材またはアルミニウム材からなる曲線状のガイドレール132が準備される。ガイドレール132に、たとえば図7と同様の屈曲形状を有する取付治具133が、一般公知のボルト134により固定される。これによりカバープレート9の曲面部9Cにガイドレール132が取り付けられる。
【0080】
再度図17を参照して、次に、カバープレート9に取り付けられたガイドレール132に切削機械が取り付けられる(S40)。工程(S30)にてカバープレート9に取り付けられた曲線形状のガイドレール132に対し、たとえば図8と同様の切削機械140が取り付けられる。つまり切削機械140は、切削機本体であるチップソー141と、接続台車142とを備える。接続台車142には車輪143が含まれる(図8参照)。
【0081】
本実施の形態においても、たとえば図9と同様に、ガイドレール132は側面132sと下面132dとを含んでいる。側面132sは車輪143の形状(特に側面の形状)に合せた形状を有している。車輪143は、その側面がガイドレール132のX方向に延びる側面132sに接触する状態を保ちながら、切削機械140のX方向の移動に伴い回転する態様である。なおガイドレール132の側面132sが凸形状であるのに対し、車輪143の側面は凹形状であることから車輪143の脱輪を防ぐ構成であってもよい。
【0082】
次にカバープレート9の曲面部9Cが撤去される(S50)。工程(S50)は、上下方向切断(S51)と、水平方向切断(S52)と、水平方向溶接部切削(S53)とを有する。工程(S51)においては、ガイドレール132の延在する、曲面部9Cに沿う上下方向に、切削機械140が移動する。具体的には、切削刃141A(図8参照)は、曲面部9Cの外側を向く表面上に押し当てられた状態を保ちながら、ガイドレール132の延びる上下方向に沿うように進むように移動する。これにより切削刃141Aは、これに接触する曲面部9Cを、たとえばガイド孔11Aからガイド孔11Cまで切削する。また切削刃141Aは、ガイド孔11Bからガイド孔11Dまで切削する。
【0083】
カバープレート9の上下方向切断(S51)の後に、カバープレート9の水平方向切断(S52)がなされる。工程(S52)を行なうために、工程(S51)の後、再度工程(S30)~(S40)が繰り返される。なお工程(S51)用の上下方向に延びるガイドレール132を設置するためのスタッド130およびガイド孔11A~11Fとは異なるスタッドおよびガイド孔を工程(S52)にて用いる場合には、工程(S51)の後、再度工程(S10)~(S20)が繰り返されてもよい。ここでは工程(S51)用のスタッド130およびガイド孔11A~11Fが工程(S52)にて流用される(つまり工程(S30)~(S40)が繰り返される)ことを前提に説明を進める。
【0084】
図20は、図17の2度目の工程(S30)から工程(S40)および工程(S52)を説明するための概略図である。図21は、図20を矢印で示す方向XXIから見た態様を示す概略平面図である。図20および図21を参照して、工程(S51)の後の2度目のガイドレール取り付け工程(S30)では、延在方向、すなわち曲面部9Cの表面に沿い水平方向に長く延びる、一般公知の鋼材またはアルミニウム材からなる曲線状のガイドレール132が準備され、曲面部9Cに固定される。図21に示すように、たとえば図19のガイド孔11A,11Bに沿うように左右方向に延びるガイドレール132が取り付けられ、ガイド孔11E,11Fに沿うように左右方向に延びるガイドレール132が取り付けられる。図示されないが、ガイド孔11C,11Dに沿うように左右方向に延びるガイドレール132が取り付けられてもよい。
【0085】
再度図17を参照して、2度目の工程(S40)では、1度目の工程(S40)と同様に切削機械が取り付けられる。
【0086】
次に、水平方向切断(S52)においては、ガイドレール132の延在する、曲面部9Cに沿う水平方向に、切削機械140が移動する。具体的には、切削刃141A(図8参照)は、曲面部9Cの外側を向く表面上に押し当てられた状態を保ちながら、ガイドレール132の延びる水平方向に沿うように進むように移動する。これにより切削刃141Aは、これに接触する曲面部9Cを、たとえばガイド孔11Aからガイド孔11Bまで切削する。また切削刃141Aは、ガイド孔11Eからガイド孔11Fまで切削する。あるいは切削刃141Aは、ガイド孔11Cからガイド孔11Dまで切削する。以上により、切断部がたとえば矩形状に形成されれば、この部分がカバープレート9から撤去可能となる。
【0087】
カバープレート9の上下方向切断(S51)および水平方向切断(S52)においては、カバープレート9と梁部7、柱部8との溶接部9A,9Bを残し、カバープレート9の当該溶接部9A,9B以外の部分が切断される。つまり工程(S51)および工程(S52)では、切削機械140でカバープレート9が切断され、曲面部9Cの少なくとも一部が撤去される。工程(S51)および工程(S52)の後に、水平方向溶接部切削(S53)がなされる。具体的には、たとえば高周波グラインダーを用いて、カバープレート9の水平方向について曲面部9Cが切削される。ただし高周波グラインダーの代わりに、ピースカッターが用いられてもよい。ここではカバープレート9のうち、梁部7および柱部8との溶接部9A,9Bに隣接する領域が切削される。この切削される領域が仮に工程(S51)と同様に切削機械140(チップソー)で切断されれば、梁部7および柱部8の母材を傷つける恐れがある。このため工程(S53)では、狭い部分の仕上げ作業に有効な高周波グラインダーが用いられることが好ましい。工程(S53)により、カバープレート9は、梁部7および柱部8との溶接部に隣接する領域まで、その大部分が工程(S50)において撤去される。
【0088】
以上のカバープレート9の曲面部9Cを撤去する工程(S50)の後、カバープレート9のコーナー部が撤去される(S60)。工程(S60)は、コーナー部の孔あけ(S61)と、コーナー部の取外し(S62)とを有する。
【0089】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0090】
本実施の形態に係る構造体としてのたとえば橋脚6の施工方法(撤去方法)では、カバープレート9に取り付けられたガイドレール132に切削機械140が取り付けられるため、切削機械140がガイドレール132に沿って移動しながらトラフリブ3が切断される。これにより、簡便かつ精確に、整った形で切断部の開口を形成できる。つまり直線状の(まっすぐな形状でありきれいな)開口が形成可能である。
【0091】
上記施工方法の切削機械140を取り付ける工程(S40)においては、曲面部9Cに取り付けられたガイドレール132に、車輪143を含む接続台車142を介して切削機械140のチップソー141が取り付けられてもよい。これにより、ガイドレール132に対して摺動可能な切削機械140を容易に設置できる。
【0092】
上記施工方法のカバープレート9を撤去する工程(S50)においては、上記車輪143を含む接続台車142を介してガイドレール132に取り付けられたチップソー141が、ガイドレール132の延在方向(曲面部9Cに沿う上下方向または水平方向)に沿って移動してもよい。これにより、ガイドレール132に対して摺動可能な切削機械140を容易に設置できる。その結果、切削機械140の切削刃141Aは、ガイドレール132の延在方向(曲面部9Cに沿う上下方向または水平方向)に沿う方向に延びるように、直線状でありきれいな形状の切断部(開口)を形成できる。
【0093】
以上に示すように、本実施の形態によれば、実施の形態1のトラフリブ3の切断工程と同様の手法を、曲面部9Cを有するカバープレート9の切断工程に適用できる。
【0094】
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 鋼床版、2 デッキプレート、2A 上面、2B,132d 下面、3 トラフリブ、3A 側面部、3B 底面部、3C 上端部、3D 下端コーナー部、3E トラフリブ内部、4,9A,9B 溶接部、6 橋脚、7 梁部、8 柱部、9 カバープレート、9C 曲面部、11A,11B,11C,11D,11E,11F ガイド孔、111 切断部、112 開口、120 マーキング治具、121,122,123,124 ローラーアセンブリ、121A,122A,123A,124A ガイドローラー、125 湾曲部、126 罫書針、127 バネ、130 スタッド、131 ナット、132 ガイドレール、132s 側面、133 取付治具、134 ボルト、140 切削機械、141 チップソー、141A 切削刃、142 接続台車、143 車輪、150 落下防止治具、151 ベース部、152 マグネット、153 取手部、160 自動溶接機、161 溶接トーチ、162 走行レール、162a 走行レール突起部、163 固定治具、164 移動台車、165 狙い位置調整治具、165a ダイヤル。
【要約】
【課題】鋼床版特有の疲労き裂の発生部位に対しトラフリブの内側からの溶接により容易に補強可能な、構造体の施工方法および自動溶接システムを提供する。
【解決手段】構造体を構成するトラフリブ3にスタッドが打設される。スタッドに固定することにより、トラフリブ3にガイドレールが取り付けられる。トラフリブ3に取り付けられたガイドレールに切削機械が取り付けられる。切削機械でトラフリブ3が切断され、トラフリブ3の最下部の底面部3Bの少なくとも一部が撤去される。上記撤去する工程の後、トラフリブ3の内側から、上端部3Cが溶接される。
【選択図】図13
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図21