(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】感光性組成物、ホログラフィック回折格子記録層、ホログラフィック回折格子記録媒体、およびホログラフィックパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
G03H 1/02 20060101AFI20220119BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220119BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220119BHJP
C01B 32/25 20170101ALI20220119BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220119BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G03H1/02
B82Y30/00
B82Y40/00
C01B32/25
G02B5/18
G02B5/32
(21)【出願番号】P 2017158652
(22)【出願日】2017-08-21
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 康生
(72)【発明者】
【氏名】吉永 和夫
(72)【発明者】
【氏名】梅本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鄭 貴寛
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-250246(JP,A)
【文献】特開2013-037747(JP,A)
【文献】特開2016-044092(JP,A)
【文献】国際公開第2006/101003(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/175801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/02
G02B 5/32
G02B 5/18
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/25
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、
光重合開始剤と、
ナノダイヤモンドを含有する、
中性子ビーム制御のためのホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物。
【請求項2】
前記ナノダイヤモンドは、表面修飾ナノダイヤモンドであり、
前記表面修飾ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド粒子と、(メタ)アクリロイル基を含む有機鎖を有し且つ前記ナノダイヤモンド粒子に結合しているシランカップリング剤とを含む、請求項1に記載の感光性組成物。
【請求項3】
前記ナノダイヤモンド粒子は爆轟法ナノダイヤモンド粒子である、請求項2に記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の前記有機鎖は、アクリル酸プロピルおよび/またはメタクリル酸プロピルである、請求項2または3に記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記ナノダイヤモンドは1~100nmのメディアン径を有する、請求項1から4のいずれか一つに記載の感光性組成物。
【請求項6】
前記ナノダイヤモンドの含有量が、前記重合性化合物100質量部に対して0.1~290質量部である、請求項1から5のいずれか一つに記載の感光性組成物。
【請求項7】
前記重合性化合物はエチレン性不飽和結合含有化合物を含み、且つ、前記光重合開始剤は光ラジカル重合開始剤を含む、請求項1から6のいずれか一つに記載の感光性組成物。
【請求項8】
前記重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1から7のいずれか一つに記載の感光性組成物。
【請求項9】
前記重合性化合物はカチオン重合性化合物を含み、且つ、前記光重合開始剤は光酸発生剤を含む、請求項1から6のいずれか一つに記載の感光性組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一つに記載の感光性組成物の固化層である、
中性子ビーム制御のためのホログラフィック回折格子記録層。
【請求項11】
基材と、
保護材と、
請求項1から9のいずれか一つに記載の感光性組成物の固化層であり、且つ前記基材および前記保護材の間に位置する、ホログラフィック回折格子記録層と、を含む積層構造を有する
中性子ビーム制御のためのホログラフィック回折格子記録媒体。
【請求項12】
前記基材および/または前記保護材は透明フィルムである、請求項11に記載のホログラフィック回折格子記録媒体。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一つに記載の感光性組成物の固化層を基材上に形成する工程と、
前記固化層に対して干渉露光処理を施す工程とを含む、
中性子ビーム制御のための回折格子用ホログラフィックパターン
の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物、ホログラフィック回折格子の記録に係る記録層および記録媒体、並びに、ホログラフィックパターン形成方法に、関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中性子ビームは、粒子性と波動性とを兼ね備える量子波動である量子ビームとして、量子力学の基礎研究や物性研究など基礎物理学の分野での利用に加えて、生命科学や、医療、工学など、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
中性子は、陽子とほぼ同じ質量の電気的中性な複合粒子で、量子力学的には電子と同じフェルミ粒子であるので、ボーズ粒子である光子とは性質が異なる。中性子は、それが入射した物質を構成する原子の原子核との間で電磁相互作用は生じず原子核相互作用が生じ、その相互作用の強さは、当該原子の原子番号に対して単調な依存性を示さず、また、当該原子の同位体間で比較的に大きく異なる。このような中性子は、物質との電磁相互作用がないため優れた物質透過性を示す、軽元素に対しても比較的に高い感度を示す、物質の磁性に対して高い解析能力を示すなど、種々の特徴を有する。そのうえ、原子核反応により生成された単独状態の自由中性子は、複雑な原子核構造も電荷も持たない中性粒子の中では桁違いに寿命が長く(15分程度)、物質中での微弱な相互作用の精密測定に適している。
【0004】
中性子を発生させるには、原子核反応を利用する必要があることから、実験原子炉や加速器施設が使用される。また、これら中性子源から発生する中性子には種々のエネルギー(波長)のものが含まれ、中性子ビームの利用にあたって使用される特定範囲の波長の中性子ビームの輝度は、従来、各種レーザーや、エックス線、ガンマ線など電磁波ビームの輝度に比べて、桁違いに低い。中性子ビームの輝度向上の手法としては、中性子源自体の増強が挙げられるものの、それによると実験コストが巨額となる。そのため、中性子ビームの輝度については、ビームエネルギーの利用効率を向上させることによる実効的な増強が、試みられてきた。
【0005】
比較的に波長の長い冷中性子(波長1~5nm程度)や極冷中性子(波長5~10nm程度)に対して総称される低速中性子については、ビームエネルギー利用効率の高いビーム制御方法として、Ni薄膜とTi薄膜とを交互に積層化した多層膜(スーパーミラー)やホログラフィック回折格子でのBragg散乱を利用する手法が提案されている。特に後者の手法では、例えば、光重合性モノマーと、光重合開始剤と、非感光性ナノ粒子など非感光性物質とを含有する組成物から形成される組成物層ないしフィルムが用意される。そして、このフィルムに対して所定の光波での例えば二光束干渉露光が行われる。干渉露光を受けるフィルムには光強度の明暗のパターン(干渉縞)が生じ、フィルム内の明部では光重合性モノマーが重合反応を進めてポリマー化する。これに伴い、明部と暗部とでは光重合性モノマー密度に差が生じて当該モノマーが暗部(モノマー高密度部)から明部(モノマー低密度部)へと拡散する傾向が生ずる。これとともに、非感光性物質が明部から暗部へと逆方向に拡散する傾向も生ずる。その結果、時間の経過とともに、干渉縞の明部と暗部とでは、光重合性モノマー由来のポリマーと非感光性物質たる他成分との密度比の違いが大きくなる。フィルム各所での光波の屈折率は、フィルムを構成する各成分の屈折率およびその数密度により決定される。すべての光重合性モノマーが完全に重合した定常状態では、光重合性モノマー由来のポリマーの屈折率がナノ粒子など非感光物質のそれより低い場合には干渉縞の明部は暗部に比べて屈折率が低く、屈折率が周期的に変調された位相型ホログラフィック回折格子が形成されることとなる。例えば以上のようにして、上記のフィルムに対する干渉露光が行われることにより、当該フィルムにおいて、干渉露光面の面内方向に周期性を有する屈折率変調パターンが形成されて、位相型ホログラフィック回折格子が形成されることとなる。
【0006】
中性子に対する物質の屈折率(中性子屈折率)nは物質の原子数密度と中性子に対する相互作用の強さ(いわゆるコヒーレント散乱長)とにより決定される。上述のようにして光波により所定フィルムに形成される位相型ホログラフィック回折格子ないし屈折率変調パターンにおける中性子屈折率変調Δnは、例えば下記の非特許文献1に記載されているように下記の式(1a)で与えられる。ここで、λは中性子波長を表し、Δρは、屈折率変調パターン内の非感光性物質の原子数密度の空間的変調成分を表し、bcは、中性子に対する当該非感光性物質のコヒーレント散乱長を表す。また、式(1a)は、非感光性物質の原子数密度ρを用いて式(1b)のように書き換えられる。
【0007】
【0008】
また、所定の光波での二光束干渉露光によって形成される、中性子ビームに対するホログラフィック回折格子に対する、Bragg角θBでの入射光の回折効率ηは、透過型ホログラムの配置においては、下記の式(2)で与えられる(非特許文献1参照)。式(2)において、Lはホログラフィック回折格子の厚さを表す。
【0009】
【0010】
上式から理解できるように、π/2までの位相(πLΔn/λcosθB)の変調範囲でΔnを大きくするようなbcΔρを得ることは、中性子ビームの回折効率を増大するうえで好ましく、従って、ホログラフィック回折格子による中性子ビームの偏向や反射による制御を実現するうえで好ましい。また、式(1a)の中性子屈折率変調Δnに対し、光波の波長域に対する屈性率変調Δnoptは、Δρ(nn-np)(nnは当該光波に係る非光重合性物質の当該光波に係る屈折率,npは当該光波に係るマトリックスないしポリマーの屈折率)に比例しているので、nn≠npである場合には、二光束干渉露光によるホログラフィック回折格子の形成過程と、その定常状態での特性とについて、当該光波による評価が可能である。さらに、上記の式(1b)によると、与えられたρにおいて、二光束干渉露光によって生ずる組成物膜中の非感光性物質の原子数密度の空間的変調度Δρ/ρ(但し、0≦Δρ/ρ≦1)が十分大きい場合には、非感光性物質としてbcρの大きなものを組成物膜中に用いることにより、大きな中性子屈折率変調Δnの実現が見込めることが分かる。
【0011】
非特許文献2および非特許文献3には、上述のホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物における非感光性物質としてシリカナノ微粒子を用いる技術が、記載されている。非特許文献2に記載のホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物は、具体的には、光重合性メタクリレートモノマーと、光重合開始剤と、25体積%のシリカナノ微粒子(平均粒径13nm)とを含有する。この感光性組成物から厚さ203μmのフィルムが形成され、そのフィルムに対し、格子間隔500nmのホログラフィック回折格子が記録されるとされる。非特許文献2によると、このホログラフィック回折格子においては、波長2nmの冷中性子ビームに対して透過ビームと回折ビームとを50%ずつに分岐するハーフミラーの動作が実現される。非特許文献3に記載のホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物は、具体的には、光重合性メタクリレートモノマーと、光重合開始剤と、20体積%のシリカナノ微粒子(平均粒径13nm)とを含有する。この感光性組成物から厚さ100μmのフィルムが形成され、そのフィルムに対し、格子間隔500nmのホログラフィック回折格子が記録されるとされる。非特許文献3によると、このホログラフィック回折格子においては、フィルム面に平行な鉛直方向に対してBragg角に回転して設置したフィルムに入射する波長4nmの冷中性子ビームに対してフィルム面を鉛直方向に対して70°傾けることで、実効的な膜厚を増加させて回折効率90%のビーム偏向機能が実現される。
【0012】
しかしながら、シリカのbcρの値は3.64×10-14m-2であって有機物に比べて大きいものの、非特許文献2および非特許文献3の上記各感光性組成物では、中性子屈折率変調Δn(式(1b)で表される)が実用上は十分に大きくない場合があり、従って、回折効率η(式(2)で表される)が実用上は十分に大きくない場合がある。また、式(2)によると、Δnが小さい場合に大きな回折効率ηを実現するためには、ホログラフィック回折格子ないしそれが形成される組成物膜の厚さLを例えば100μm以上に設定することが考えられうるものの、厚さLがそのように厚い場合、ホログラフィック回折格子の作成にあたり、ホログラフィック回折格子の高回折効率化を阻むホログラフィック散乱が生じて、形成される回折格子が歪むことが知られている(非特許文献4参照)。
【0013】
一方、近年、ナノダイヤモンドと呼称される微粒子状のダイヤモンド材料の開発が進められている。ナノダイヤモンドについては、用途によっては、粒径が10nm以下のいわゆる一桁ナノダイヤモンドが求められる場合がある。そのようなナノダイヤモンドに関する技術については、例えば下記の特許文献1および特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】“Holographic gratings for slow-neutron optics”, Materials 5, p.2788~2815, 2012年
【文献】“Neutron optical beam splitter from holographically structured nanoparticle-polymer composites”, Phys. Rev. Lett. 105, p.123904-1~123904-4, 2010年
【文献】“Mirrors for slow neutrons from holographic nanoparticle-polymer free-standing film-gratings”, Appl. Phys. Lett. 100, p.214104-1~214104-3, 2012年
【文献】“Holographic scattering in SiO2 nanoparticle-dispersed photopolymer films”, Appl. Opt. 46, p.6809~6814, 2007年
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2005-001983号公報
【文献】特開2010-126669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであり、その目的は、中性子ビーム回折効率の高いホログラフィック回折格子を形成するのに適した感光性組成物、そのようなホログラフィック回折格子の記録に係る記録層および記録媒体、並びにホログラフィックパターン形成方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の側面によると、感光性組成物が提供される。この組成物は、ホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物であり、重合性化合物と、光重合開始剤と、ナノダイヤモンドとを含有する。重合性化合物は、本感光性組成物から形成される記録層にてナノダイヤモンドとともにホログラフィック格子を形成するための成分であり、光照射を受けた光重合開始剤によって開始される光重合反応を進行させる例えば硬化性のモノマーおよびオリゴマーを含む。ナノダイヤモンドは、本感光性組成物中に分散するナノ粒子であり、本感光性組成物中での良好な均一分散化のためには表面修飾の施されたナノダイヤモンドであるのが望ましい。本感光性組成物は、例えば所定の基材上に塗布された後、必要に応じて例えば溶媒除去のために乾燥され、光重合反応を経て固化することにより、ホログラフィック回折格子記録層としての固化層ないしフィルムを形成する材料である。ホログラフィック回折格子の形成においては、例えば、本感光性組成物由来の記録層に対して所定の光波での二光束干渉露光が行われる。二光束干渉露光を受ける記録層内には光強度の明暗のパターン(干渉縞)が生じ、記録層内の明部では重合性化合物が重合反応を進めてポリマー化する。これに伴い、明部と暗部とでは重合性化合物密度に差が生じて当該化合物が暗部から明部へと拡散する傾向が生ずる。すなわち、明部においてより多くの重合性化合物が消費され重合物となるにつれて重合性化合物の化学ポテンシャルが減少し、それを補うように暗部から明部への重合性化合物の移動(拡散)がもたらされる。一方、明部では、重合性化合物の減少とともに、光重合に実質的に関与しないナノダイヤモンドの化学ポテンシャルが増加するため、それを抑えるようにナノダイヤモンドは、明部から暗部への逆拡散(相互拡散)をする。こうした相互拡散過程は光重合反応が完了するまで継続し、時間の経過とともに、干渉縞の明部と暗部とでは、重合性化合物由来のポリマーとナノダイヤモンドとの密度比の違いが大きくなる。すべての重合性化合物が完全に重合した定常状態では、重合性化合物由来のポリマーの屈折率がナノダイヤモンドのそれより低い場合には、干渉縞の明部は暗部に比べて屈折率が低く、干渉露光面の面内方向に屈折率が周期的に変調された位相型ホログラフィック回折格子が形成されることとなる。
【0018】
本感光性組成物は、上述のようにナノダイヤモンドを含有する。ダイヤモンドは、中性子に対するコヒーレント散乱長(bc)と原子数密度(ρ)との積bcρの値が11.7×10-14m-2であることが知られている。この値は、シリカについてのbcρの値3.64×10-14m-2の3倍以上と大きい。感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子において大きな中性子屈折率変調Δnを実現するうえでは、当該感光性組成物中のナノ粒子としてナノダイヤモンドはシリカナノ微粒子よりも有利であることが、上記式(1b)から解る。そして、感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子において大きな回折効率ηを実現するうえでは、高い中性子屈折率変調Δnを実現するうえで有利なナノダイヤモンドは、シリカナノ微粒子よりも有利であることが、上記式(2)から解る。
【0019】
以上のように、本感光性組成物は、中性子ビーム回折効率の高いホログラフィック回折格子を形成するのに適する。本感光性組成物由来の固化層ないしフィルムに対する例えば二光束干渉露光によって形成される屈折率変調パターンの間隔は100~1000nmオーダーなので、当該屈折率変調パターンは、冷中性子(波長1~5nm程度)や極冷中性子(波長5~10nm程度)に対するBragg回折が可能である。そのため、本感光性組成物は、冷中性子や極冷中性子を総称した低速中性子ビームに対する高い回折効率を有するホログラフィック回折格子を形成するのに適する。一方、低速中性子よりも波長の短い熱中性子(波長は0.1nmオーダー)の制御のために用いられる格子定数0.543nmのシリコン完全結晶は、低速中性子に対してBragg回折条件を満たさない。これに対し、本感光性組成物は、その固化層(記録層)に光波によって形成される屈折率変調パターンの間隔について、シリコン完全結晶の格子定数よりも上記のように十分に長く設定するのに適し、従って、低速中性子に係る中性子ビームに対するBragg回折条件を満足して当該中性子ビームに対する回折効率の高いホログラフィック回折格子を形成するのに適する。
【0020】
本発明の第1の側面において、好ましくは、ナノダイヤモンドは、表面修飾ナノダイヤモンドであり、ナノダイヤモンド粒子と、(メタ)アクリロイル基を含む有機鎖を有し且つナノダイヤモンド粒子に結合しているシランカップリング剤とを含む。表面修飾ナノダイヤモンドのナノダイヤモンド粒子は、ナノダイヤモンドの一次粒子であってもよいし、ナノダイヤモンドの二次粒子であってもよい。ナノダイヤモンド一次粒子とは、粒径10nm以下のナノダイヤモンドをいうものとする。シランカップリング剤とは、無機材料との間で化学結合を生じることとなる、ケイ素を含む反応性基と、当該ケイ素に結合している有機鎖とを併有する有機ケイ素化合物である。本発明における表面修飾ナノダイヤモンドのシランカップリング剤は、その反応性基にてナノダイヤモンド粒子表面との間で共有結合を生じて当該粒子に結合している。また、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方または一方を意味するものとする。本感光性組成物におけるこのような好ましい構成は、感光性組成物中でナノダイヤモンドの高い分散安定性を実現するうえで好適である。その理由は次のとおりである。
【0021】
上述の好ましい構成の感光性組成物において、表面修飾ナノダイヤモンドは、(メタ)アクリロイル基を含む有機鎖を有するシランカップリング剤を、上述のように共有結合を介してナノダイヤモンド粒子に結合する表面修飾要素として、有する。当該シランカップリング剤における(メタ)アクリロイル基含有有機鎖は、表面修飾ナノダイヤモンドにおいてその周囲との界面の側に位置する。このような態様での表面修飾を伴うナノダイヤモンド粒子は、表面修飾を伴わないナノダイヤモンド粒子よりも、有機材料に対する親和性が高い。したがって、当該表面修飾ナノダイヤモンドは、それに加えて少なくとも重合性化合物と光重合開始剤を含有する感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する。
【0022】
加えて、表面修飾ナノダイヤモンドにおいては、その周囲との界面に位置する有機鎖中に重合性基たる(メタ)アクリロイル基が存在する。本組成物中の重合性化合物が重合する過程では、表面修飾ナノダイヤモンドの(メタ)アクリロイル基が重合性化合物と反応し得て、形成される樹脂層ないしフィルムにおいては、樹脂マトリックスに一部の表面修飾ナノダイヤモンドないしナノダイヤモンド粒子が取り込まれ得ることとなる。上述のように感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する表面修飾ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド粒子を樹脂マトリックスに分散させつつ取り込ませるのに適する。すなわち、感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する表面修飾ナノダイヤモンドの表面に、重合性基たる(メタ)アクリロイル基が存在することは、樹脂とそのマトリックス中に分散するナノダイヤモンド粒子とを含む本感光性組成物を光重合性ナノコンポジット材料として構成するのに適するのである。一方、光照射を受けて重合反応を進行させる重合性化合物に取り込まれる速度については、上記表面修飾ナノダイヤモンドは上記重合性化合物よりもサイズが大きいために非常に遅く、ホログラフィック回折格子形成過程では、当該表面修飾ナノダイヤモンドは実質的に非感光性ナノ粒子として振舞うと考えられる。その結果、樹脂マトリックスに一部の表面修飾ナノダイヤモンドが取り込まれ得るものの、重合性化合物およびナノダイヤモンドは上述のように相互拡散することとなる。
【0023】
好ましくは、ナノダイヤモンド粒子は、爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子(爆轟法ナノダイヤモンド粒子)である。爆轟法ナノダイヤモンド粒子の一次粒子径は一桁ナノメートルであるところ、このような構成は、感光性組成物から形成される樹脂層ないしフィルムについて可視光域での高い透明性を実現するうえで好適である。
【0024】
好ましくは、表面修飾ナノダイヤモンドにおけるシランカップリング剤の有機鎖は、アクリル酸プロピルおよびメタクリル酸プロピルの両方または一方である。このような構成は、感光性組成物から形成される樹脂層ないしフィルムについて高い透明性を実現するうえで好適である。
【0025】
ナノダイヤモンドないし表面修飾ナノダイヤモンドの粒径D50(メディアン径)は、好ましくは1~100nm、より好ましくは2~20nm、より好ましくは3~10nmである。このような構成は、感光性組成物から形成される樹脂層ないしフィルムについて高い透明性を実現するうえで好適である。
【0026】
本感光性組成物におけるナノダイヤモンドの含有割合は、重合性化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~290質量部、より好ましくは3~191質量部、より好ましくは14~160質量部である。このような構成は、ホログラフィック回折格子形成用の干渉露光時において、光散乱を抑制しつつナノダイヤモンドの干渉縞暗部への拡散を促進するうえで、好ましい。
【0027】
好ましくは、重合性化合物はエチレン性不飽和結合含有化合物を含み、且つ、光重合開始剤は光ラジカル重合開始剤を含む。或いは、重合性化合物はカチオン重合性化合物を含み、且つ、光重合開始剤は光酸発生剤を含んでもよい。
【0028】
好ましくは、重合性化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する。このような構成によると、感光性組成物が上述の表面修飾ナノダイヤモンドを含有する場合、表面有機鎖中に(メタ)アクリロイル基を有する当該表面修飾ナノダイヤモンドの分散安定化を図りやすい。また、本構成によると、感光性組成物中の重合性化合物が重合する過程において、表面修飾ナノダイヤモンドの表面有機鎖中の(メタ)アクリロイル基を重合性化合物と反応させやすい。
【0029】
本発明の第2の側面によると、ホログラフィック回折格子記録層が提供される。この記録層は、本発明の第1の側面に係る上述のホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物の固化層である。第1の側面に係る上述の感光性組成物から形成される本記録層は、中性子ビーム回折効率の高いホログラフィック回折格子を形成ないし記録するのに適する。
【0030】
本発明の第3の側面によると、ホログラフィック回折格子記録媒体が提供される。この記録媒体は、基材と、保護材と、これらの間にホログラフィック回折格子記録層とを含む積層構造を有する。ホログラフィック回折格子記録層は、本発明の第1の側面に係る上述の感光性組成物の固化層である。第1の側面に係る上述の感光性組成物から形成される記録層を有する本記録媒体は、中性子ビーム回折効率の高いホログラフィック回折格子を当該記録層にて形成ないし記録するのに適する。
【0031】
本発明の第3の側面において、好ましくは、基材および保護材の両方または一方は透明フィルムである。このような構成は、ホログラフィック記録媒体の記録層に記録されるホログラフィック回折格子の機械的強度の改善と外環境からの保護という観点から好適である。
【0032】
本発明の第4の側面によると、ホログラフィックパターン形成方法が提供される。このパターン形成方法は、次の第1工程および第2工程を含む。第1工程では、本発明の第1の側面に係る上述のホログラフィック回折格子形成用の感光性組成物の固化層が、基材上に形成される。第2工程では、当該固化層に対して干渉露光処理が施される。コヒーレント散乱長(bc)と原子数密度(ρ)との積bcρの値が大きなダイヤモンドのナノ粒子を重合性化合物および光重合開始剤とともに含有する本感光性組成物から形成される固化層ないしフィルムに対し、二光束干渉露光など干渉露光処理が施される(第2工程)という構成は、中性子ビーム回折効率の高いホログラフィック回折格子を形成するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一の実施形態に係るホログラフィック回折格子記録媒体の部分断面図である。
【
図2】本発明におけるホログラフィック回折格子形成過程を表す概念図である。(a)は、記録層部分平面におけるパターン露光の光強度分布を示す部分平面図であり、(b)は、重合性化合物の光重合反応の開始前にある記録層の部分断面図であり、(c)は、重合性化合物の光重合反応が定常状態に至った段階にある記録層の部分断面図である。
【
図3】ホログラフィック回折格子記録媒体に対して二光束干渉露光を行うための装置の概略構成図である。
【
図4】実施例1におけるホログラフィック回折格子記録媒体の回折効率について、露光時間変化を表すグラフである。
【
図5】実施例1におけるホログラフィック回折格子記録媒体の回折効率について、再生光入射角依存性を表すグラフである。
【
図6】実施例1のホログラフィック回折格子記録媒体の記録層に形成されたホログラフィック回折格子に対してそのBragg入射角θ
B付近の入射角方向から白色蛍光灯由来の白色光を通し、ホログラフィック回折格子を介して当該白色蛍光灯を観察した状態を示す写真である。
【
図7】実施例1における、ホログラフィック回折格子形成済みホログラフィック回折格子記録媒体を通して、文字を見た状態を示す写真である。
【
図8】実施例1におけるホログラフィック回折格子記録媒体中のホログラフィック露光後のナノダイヤモンド周期的分布(濃い部分)を示す透過顕微鏡写真である。
【
図9】比較例1における記録媒体の回折効率について、露光時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の感光性組成物は、重合性化合物と、光重合開始剤と、ナノダイヤモンドとを含有し、ホログラフィック回折格子をホログラムとして記録するための記録層を形成する材料である。
【0035】
本感光性組成物に含有される重合性化合物は、形成される記録層のポリマーマトリックスを形成し得る成分であり、光照射を受けた光重合開始剤によって開始される重合反応を進行させるモノマーおよびオリゴマーの両方または一方である。重合性化合物のモノマーやオリゴマーをなすためのモノマーとしては、複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートを用いることができる。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方または一方を意味する。「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方または一方を意味する。多官能(メタ)アクリレートとしては、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレート、および、四官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。二官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキンサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、EO変性イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、およびトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。三官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、およびEO変性イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレートが挙げられる。四官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。「EO変性」とは、ポリ(オキシエチレン)鎖を有する化合物であることを意味する。「PO変性」とは、ポリ(オキシプロピレン)鎖を有する化合物であることを意味する。重合性化合物たるモノマーや、重合性化合物たるオリゴマーをなすためのモノマーとしては、一種類の多官能(メタ)アクリレートを用いてもよいし、二種類以上の多官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。本実施形態においては、後述のナノダイヤモンドまたは表面修飾ナノダイヤモンドの本組成物中での分散安定性と形成樹脂膜ないしフィルム中での分散性との観点から、重合性化合物は、好ましくは、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートのオリゴマー、ペンタエリスリトールテトラアクリレートのオリゴマー、および、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートとのオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0036】
重合性化合物は、モノマーの形態で又はオリゴマー内モノマーユニットの形態で、(メタ)アクリロイル基を一つ有する単官能(メタ)アクリレートを多官能(メタ)アクリレートに加えて含んでもよい。単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、EO変性フェノール(メタ)アクリレート、EO変性ノニフェノール(メタ)アクリレート、およびEO変性2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。重合性化合物として、一種類の単官能(メタ)アクリレートを用いてもよいし、二種類以上の単官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。また、重合性化合物は、モノマーの形態で又はオリゴマー内モノマーユニットの形態で、ウレタン(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレートを多官能(メタ)アクリレートに加えて含んでもよい。
【0037】
本感光性組成物における重合性化合物とナノダイヤモンドの合計含有割合は、好ましくは34~97質量%、より好ましくは38~87質量%である。
【0038】
本感光性組成物に含有される光重合開始剤は、本感光性組成物から形成される樹脂膜ないしフィルムに対するパターン露光によって当該組成物中の重合性化合物の重合反応を開始させるためのものである。パターン露光の手法としては、例えば、フォトマスク露光、位相マスク露光、および干渉露光が挙げられる。本実施形態では、パターン露光として好ましくは干渉露光が採用される。干渉露光の光源としては、干渉性の高いレーザー光が好ましくは、例えば、アルゴンイオンレーザー(波長458nm,波長488nm,波長514.5nm)、クリプトンイオンレーザー(波長647.1nm)、Nd:YAGレーザー(波長532nm)、Nd:YVO4レーザー(波長532nm)、およびInGaNレーザー(波長405nm)が挙げられる。
【0039】
重合性化合物としてエチレン性不飽和結合を有する化合物が採用される場合、光重合開始剤としては、パターン露光時に活性ラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤を採用するのが好ましい。重合性化合物としてカチオン重合性化合物が採用される場合、光重合開始剤としては光酸発生剤を採用するのが好ましい。
【0040】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、チタノセン化合物、および有機チオール化合物が挙げられる。ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、および2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、および4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノンが挙げられる。α-ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、および1-[4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、例えば2-ナフタレンスルホニルクロライドが挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)-オキシムが挙げられる。ベンゾイン系光重合開始剤としては、例えばベンゾインが挙げられる。ベンジル系光重合開始剤としては、例えばベンジルが挙げられる。ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3'-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、およびポリビニルベンゾフェノンが挙げられる。ケタール系光重合開始剤としては、例えばベンジルジメチルケタールが挙げられる。チオキサントン系光重合開始剤としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、およびドデシルチオキサントンが挙げられる。チタノセン化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエニル-チタン-ジクロリド、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビスフェニル、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス(2,4,6-トリフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス(2,6-ジフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス(2,4-ジフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-チタン-ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-チタン-ビス(2,3,5,6-テトラフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)-チタン-ビス(2,6-ジフルオロフェニル)、および、ジシクロペンタジエニル-チタン-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル]が挙げられる。本感光性組成物においては、一種類の光重合開始剤を用いてもよいし、二種類以上の光重合開始剤を用いてもよい。
【0041】
光酸発生剤としては、例えば、トリアリールスルホニウム塩化合物、ジアリールヨードニウム塩化合物、オニウム塩化合物、および鉄アレーン錯体化合物を挙げることができる。トリアリールスルホニウム塩化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウムや、4-tert-ブチルトリフェニルスルホニウム、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウム、トリス(4-メトキシフェニル)スルホニウム、4-チオフェニルトリフェニルスルホニウムなどスルホニウムの、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、およびヘキサフルオロアンチモネートを挙げることができる。ジアリールヨードニウム塩化合物としては、例えば、ジフェニルヨードニウムや、4,4'-ジクロロジフェニルヨードニウム、4,4'-ジメトキシジフェニルヨードニウム、4,4'-ジ-tert-ブチルジフェニルヨードニウム、(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、3,3'-ジニトロフェニルヨードニウムなどヨードニウムの、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、およびヘキサフルオロアンチモネート挙げられる。オニウム塩化合物としては、例えばジアゾニウム塩化合物が挙げられる。鉄アレーン錯体化合物としては、例えば、ビスシクロペンタジエニル-(η6-イソプロピルベンゼン)-鉄(II)ヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。本感光性組成物においては、一種類の光酸発生剤を用いてもよいし、二種類以上の光酸発生剤を用いてもよい。
【0042】
本感光性組成物における光重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0043】
本感光性組成物に含有されるナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンドの一次粒子であってもよいし、ナノダイヤモンドの二次粒子であってもよい。また、本感光性組成物に含有されるナノダイヤモンドは、分散安定性の観点からは、好ましくは、表面修飾ナノダイヤモンドであり、ナノダイヤモンド粒子と、これに結合しているシランカップリング剤とを含む。表面修飾ナノダイヤモンドにおけるナノダイヤモンド粒子は、ナノダイヤモンドの一次粒子であってもよいし、ナノダイヤモンドの二次粒子であってもよい。ナノダイヤモンドが二次粒子より小さな一次粒子である構成は、本感光性組成物から形成されるフィルムについて高い透明性を実現するうえで好適である。ナノダイヤモンドは、好ましくは、後述のように爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子(爆轟法ナノダイヤモンド粒子)である。爆轟法ナノダイヤモンド粒子の一次粒子径は一桁ナノメートルであるところ、このような構成は、本感光性組成物から形成されるフィルムについて高い透明性を実現するうえで好適である。光波を用いた干渉露光において光散乱損失を低減させるという観点からは、ナノダイヤモンドのメディアン径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは40nm以下、より好ましくは10nm以下である。また、ナノダイヤモンドの粒径D50(メディアン径)は、例えば1nm以上である。ナノダイヤモンドの粒径D50は、透過型電子顕微鏡や動的光散乱法(非接触後方散乱法)で測定できる。
【0044】
表面修飾ナノダイヤモンドにおける表面のシランカップリング剤は、ナノダイヤモンドに結合している。シランカップリング剤とは、無機材料との間で化学結合を生じることとなる、ケイ素を含む反応性基と、当該ケイ素に結合している有機鎖とを併有する有機ケイ素化合物であるところ、シランカップリング剤は、その反応性基にてナノダイヤモンドの表面との間で共有結合を生じてナノダイヤモンドに結合している。ナノダイヤモンドに結合しているシランカップリング剤をなすこととなるシランカップリング剤の反応性基としては、シラノール基(-SOH)、および、シラノール基を生じ得る加水分解性基が挙げられる。そのような加水分解性基としては、例えば、ケイ素に結合しているメトキシ基やエトキシ基などアルコキシシリル基、ケイ素に結合している塩素や臭素などハロシリル基、および、ケイ素に結合しているアセトキシ基が挙げられる。これら加水分解性基は、加水分解反応を経てシラノール基を生じ得る。当該シランカップリング剤のシラノール基とナノダイヤモンド表面の例えば水酸基との間での脱水縮合反応を経て、当該シランカップリング剤とナノダイヤモンド表面との間に化学結合が生じ得る。
【0045】
表面修飾ナノダイヤモンドにおけるシランカップリング剤は、その有機鎖において、(メタ)アクリロイル基を含む。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方または一方を意味するものとする。シランカップリング剤における(メタ)アクリロイル基含有有機鎖は、好ましくは、アクリル酸プロピルおよびメタクリル酸プロピルの両方または一方である。このような構成によると、重合性化合物において、表面有機鎖中に(メタ)アクリロイル基を有する表面修飾ナノダイヤモンドの分散安定化を図りやすい。また、当該構成によると、上述の重合性化合物が重合する過程において、表面修飾ナノダイヤモンドの表面有機鎖中の(メタ)アクリロイル基を重合性化合物成分と反応させやすい。このようなシランカップリング剤をなすためのシランカップリング剤としては、例えば、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、メタクリル酸3-(メチルジメトキシシリル)プロピル、メタクリル酸3-(メチルジエトキシシリル)プロピル、およびメタクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピルが挙げられる。
【0046】
感光性組成物におけるナノダイヤモンド(表面修飾ナノダイヤモンドである場合を含む)の含有量は、重合性化合物100質量部に対し、好ましくは0.1~290質量部、より好ましくは3~191質量部、より好ましくは14~160質量部である。
【0047】
本感光性組成物が更に溶媒を含有する場合、当該溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシプロパノール、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、および2-ブタノールが挙げられる。本感光性組成物において一種類の溶媒が用いられてもよいし、二種類以上の溶媒が用いられてもよい。
【0048】
本発明の感光性組成物は、上述の成分の他、必要に応じて、重合禁止剤や、増感剤、連鎖移動剤、可塑剤などの添加剤を含有してもよい。また、本感光性組成物から形成されるフィルムの厚さについて均一性を確保して、当該フィルム中に形成されることとなるホログラムないしホログラフィック回折格子を安定に存在させるという観点からは、本感光性組成物は更に適量のバインダー樹脂を含有してもよい。
【0049】
重合禁止剤とは、重合反応を遅延または禁止させる機能を呈する化合物であり、ラジカル重合系にとっての重合禁止剤としては、例えば、フェノール、カテコール、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ヒンダードフェノール類、フェノチアジン、ヒンダードアミン類、TEMPOの様なヒドロキシアミン類、およびニトロソアミン類が挙げられる。カチオン重合系にとっての重合禁止剤としては、例えば有機アミン類が挙げられる。
【0050】
本感光性組成物に含有される上述の光重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いる場合、光を吸収する成分である増感剤と組み合わせて用いてもよい。そのような増感剤としては、例えば、ピロメテン錯体、キサンテン系色素、ケトチアゾリン系化合物、スチリル複素環化合物、フェニルブタジエニル複素環化合物、ナンスリル-((〔2,3,6,7〕テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ〔ij〕キノリジン-9-イル)-1-エテン-2-イル)ケトン、アミノフェニル不飽和ケトン化合物、およびポリフィリン類が挙げられる。ピロメテン錯体としては、例えば、2,6-ジエチル-1,3,5,7,8-ペンタメチルピロメテン-BF2錯体、および1,3,5,7,8-ペンタメチルピロメテン-BF2錯体が挙げられる。キサンテン系色素としては、例えば、エオシン、エチルエオシン、エリスロシン、フルオレセイン、およびロ-ズベンガルが挙げられる。ケトチアゾリン系化合物としては、例えば、1-(1-メチルナフト〔1,2-d〕チアゾ-ル-2(1H)-イリデン-4-(2,3,6,7)テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ〔ij〕キノリジン-9-イル)-3-ブテン-2-オン、および、1-(3-メチルベンゾチアゾ-ル-2(3H)-イリデン-4-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-ブテン-2-オンが挙げられる。スチリル複素環化合物としては、例えば2-(p-ジメチルアミノスチリル)-ナフト〔1,2-d〕チアゾールが挙げられる。フェニルブタジエニル複素環化合物としては、例えば2-〔4-(p-ジメチルアミノフェニル)-1,3-ブタジエニル〕-ナフト〔1,2-d〕チアゾールが挙げられる。ナンスリル-((〔2,3,6,7〕テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ〔ij〕キノリジン-9-イル)-1-エテン-2-イル)ケトンとしては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-1,3,5-トリアジン、および、2,4-ジフェニル-6-((〔2,3,6,7〕テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ〔ij〕キノリジン-9-イル)-1-エテン-2-イル)-1,3,5-トリアゾンが挙げられる。アミノフェニル不飽和ケトン化合物としては、例えば2,5-ビス(p-ジメチルアミノシンナミリデン)シクロペンタノンが挙げられる。ポリフィリン類としては、例えば、5,10,15,20テトラフェニルポルフィリン、およびヘマトポリフィリンが挙げられる。これらのうち、特にピロメテン錯体が好ましい。
【0051】
また、光ラジカル重合開始剤として上記のチタノセン化合物を用いる場合、増感剤としては、好ましくは、ベンゾフェノン類、ビスクマリン、ビスイミダゾール化合物、またはピロメテン化合物が用いられる。また、水素供与体であるチオールや、アルキルアミン類、アミノ酸類を用いることにより、更に光ラジカル重合開始剤の高感度化を図ることも可能である。そのようなチオールとしては、例えば、2-ベンゾオキサゾールチオールおよび2-ベンゾチアゾールチオールが挙げられる。そのようなアミノ酸類としては、例えば、N-フェニルグリシンおよび4-シアノ-N-フェニルグリシンが挙げられる。
【0052】
本感光性組成物に含有される上述の光重合開始剤として光酸発生剤ないし光カチオン重合開始剤を用いる場合、光を吸収する成分である増感剤と組み合わせて用いてもよい。そのような増感剤としては、例えば、カルバゾール誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、クリセン誘導体、およびフェナントレン誘導体が挙げられる。カルバゾール誘導体としては、例えば、カルバゾール、N-エチルカルバゾール、N-ビニルカルバゾール、およびN-フェニルカルバゾールが挙げられる。ナフタレン誘導体としては、例えば、1-ナフトール、2-ナフトール、1-メトキシナフタレン、1-ステアリルオキシナフタレン、2-メトキシナフタレン、2-ドデシルオキシナフタレン、4-メトキシ-1-ナフトール、グリシジル-1-ナフチルエーテル、2-(2-ナフトキシ)エチルビニルエーテル、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジメトキシナフタレン、1,1'-チオビス(2-ナフトール)、1,1'-ビ-2-ナフトール、1,5-ナフチルジグリシジルエーテル、2,7-ジ(2-ビニルオキシエチル)ナフチルエーテル、4-メトキシ-1-ナフトール、および、ナフトール誘導体とホルマリンとの縮合体が挙げられる。アントラセン誘導体としては、例えば、9,10-ジメトキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジメトキシアントラセン、2,3-ジメチル-9,10-ジメトキシアントラセン、9-メトキシ-10-メチルアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジエトキシアントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジエトキシアントラセン、2,3-ジメチル-9,10-ジエトキシアントラセン、9-エトキシ-10-メチルアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジプロポキシアントラセン、2-tブチル-9,10-ジプロポキシアントラセン、2,3-ジメチル-9,10-ジプロポキシアントラセン、9-イソプロポキシ-10-メチルアントラセン、9,10-ジベンジルオキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジベンジルオキシアントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジベンジルオキシアントラセン、2,3-ジメチル-9,10-ジベンジルオキシアントラセン、9-ベンジルオキシ-10-メチルアントラセン、9,10-ジ-α-メチルベンジルオキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジ-α-メチルベンジルオキシアントラセン、2-tert-ブチル-9,10-ジ-α-メチルベンジルオキシアントラセン、2,3-ジメチル-9,10-ジ-α-メチルベンジルオキシアントラセン、9-(α-メチルベンジルオキシ)-10-メチルアントラセン、9,10-ジ(2-ヒドロキシエトキシ)アントラセン、および、2-エチル-9,10-ジ(2-カルボキシエトキシ)アントラセンが挙げられる。クリセン誘導体としては、例えば、1,4-ジメトキシクリセン、1,4-ジエトキシクリセン、1,4-ジプロポキシクリセン、1,4-ジベンジルオキシクリセン、1,4-ジ-α-メチルベンジルオキシクリセンが挙げられる。フェナントレン誘導体としては、例えば、9-ヒドロキシフェナントレン、9,10-ジメトキシフェナントレン、9,10-ジエトキシフェナントレンが挙げられる。これら誘導体のうち、特に、炭素数1~4のアルキル基を置換基として有していてもよい9,10-ジアルコキシアントラセン誘導体が好ましい。そのアルコキシ基としては、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。また、チオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン2-クロロチオキサントン等のチオキサントン誘導体も挙げられる。
【0053】
上述のラジカル重合開始剤のうち、例えばジシクロペンタジエニル-チタン系化合物等のチタノセン化合物は、光酸発生剤の増感剤として作用し得る。このような増感剤としてのラジカル重合開始剤および光酸発生剤の組み合わせ、または、光酸発生剤、その増感剤としてのラジカル重合開始剤、およびラジカル重合開始剤用の増感剤の組み合わせを、本感光性組成物においては採用してもよい。
【0054】
本感光性組成物における増感剤の含有量は、光重合開始剤100質量部に対し、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0055】
バインダー樹脂としては、重合性化合物と相溶性の良いものが好ましい。そのようなバインダー樹脂としては、例えば、塩化ビニルとアクリロニトリルとの共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカルバゾール、エチルセルロース、および、アセチルセルロースが挙げられる。当該バインダー樹脂としては、塩素化ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、またはメチルメタクリレートと、他の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体も挙げられる。
【0056】
本感光性組成物は、上述の重合性化合物と、上述の光重合開始剤と、上述のナノダイヤモンドと、必要に応じて添加される他の成分とを混合することによって、作製することができる。ナノダイヤモンドは、例えば以下のような生成工程、精製工程、および乾燥工程を経て作製することができる。表面修飾ナノダイヤモンドは、更に修飾工程を経ることによって作製することができる。
【0057】
生成工程では、爆轟法が行われてナノダイヤモンドが生成する。まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5~40m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲とされる。爆薬の使用量は、例えば0.05~2.0kgである。生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。ナノダイヤモンドは、爆轟法により得られる生成物にて先ずは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体をなす。生成工程では、次に、室温での例えば24時間の放置により、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上述のようにして生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体および煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収する。以上のような爆轟法によって、ナノダイヤモンド粒子の粗生成物を得ることができる。また、以上のような生成工程を必要回数行うことによって、所望量のナノダイヤモンド粗生成物を取得することが可能である。
【0058】
精製工程は、本実施形態では、原料たるナノダイヤモンド粗生成物に例えば水溶媒中で強酸を作用させる酸処理を含む。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物には金属酸化物が含まれやすいところ、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器等に由来するFe,Co,Ni等の酸化物である。例えば水溶媒中で所定の強酸を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理に用いられる強酸としては、鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および王水が挙げられる。酸処理では、一種類の強酸を用いてもよいし、二種類以上の強酸を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1~50質量%である。酸処理温度は例えば70~150℃である。酸処理時間は例えば0.1~24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。沈殿液のpHが例えば2~3に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。精製工程は、本実施形態では、酸化剤を用いてナノダイヤモンド粗生成物(精製終了前のナノダイヤモンド凝着体)からグラファイトを除去するための酸化処理を含む。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれているところ、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちナノダイヤモンド結晶を形成しなかった炭素に由来する。例えば上記の酸処理を経た後に、例えば水溶媒中で所定の酸化剤を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物からグラファイトを除去することができる(酸化処理)。この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、及びこれらの塩が挙げられる。酸化処理では、一種類の酸化剤を用いてもよいし、二種類以上の酸化剤を用いてもよい。酸化処理で使用される酸化剤の濃度は例えば3~50質量%である。酸化処理における酸化剤の使用量は、酸化処理に付されるナノダイヤモンド粗生成物100質量部に対して例えば300~500質量部である。酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。また、酸化処理は、グラファイトの除去効率向上の観点から、鉱酸の共存下で行うのが好ましい。鉱酸としては、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および王水が挙げられる。酸化処理に鉱酸を用いる場合、鉱酸の濃度は例えば5~80質量%である。このような酸化処理の後、例えばデカンテーションまたは遠心沈降法により、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行う。水洗当初の上清液は着色しているところ、上清液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。水洗を繰り返すことにより、不純物である電解質(NaCl等)が低減ないし除去される。電解質濃度が低いことは、本方法によって得られるナノダイヤモンド粒子について高い分散性および高い分散安定性を実現するうえで好適である。
【0059】
乾燥工程では、例えば、ナノダイヤモンド含有溶液からエバポレーターを使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、ナノダイヤモンド凝着体の粉体が得られる。
【0060】
表面修飾ナノダイヤモンドを作製するには、例えば次のような修飾工程を更に行う。まず、まず、例えば上述のようにして得られる乾燥ナノダイヤモンド(ナノダイヤモンド凝着体)と、シランカップリング剤と、溶媒とを含む混合溶液を、反応容器内で撹拌する。次に、反応容器内の混合溶液に対し、解砕メディアとしてのジルコニアビーズを添加する。ジルコニアビーズの直径は例えば15~500μmである。次に、超音波を発振し得る振動子を備える超音波発生装置を使用して、当該溶液中のナノダイヤモンドについて修飾処理を行う。具体的には、超音波発生装置の振動子の先端を反応容器内に挿入して前記の溶液に浸け、当該振動子から超音波を発生させる。本修飾処理は、処理に付される溶液を例えば氷水で冷却しつつ行うのが好ましい。本修飾処理の処理時間は例えば4~10時間である。本処理に供される溶液において、ナノダイヤモンドの含有割合は例えば0.5~5質量%であり、シランカップリング剤の濃度は例えば5~40質量%である。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、1-メトキシプロパノール、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、または2-ブタノールが用いられる。また、溶液中のナノダイヤモンドとシランカップリング剤との比率(質量比)は例えば2:1~1:10である。本修飾処理においては、超音波照射を受ける溶液内に音響効果に基づきキャビテーションが発生し、そのキャビテーション(微小気泡)崩壊時に生じるジェット噴流によって溶液内のジルコニアビーズが極めて大きな運動エネルギーを獲得する。そして、当該ジルコニアビーズが同一溶液内のナノダイヤモンド凝着体に衝撃エネルギーを与えることにより、ナノダイヤモンド凝着体からナノダイヤモンド粒子が解かれ(解砕)、解離状態にあるナノダイヤモンド粒子にシランカップリング剤が作用して結合する。この結合は、例えば、シランカップリング剤側のシラノール基とナノダイヤモンド粒子側の表面水酸基との間での脱水縮合反応を経て生ずる共有結合である。シランカップリング剤が加水分解性基を有する場合、当該反応系に含まれるわずかな水分によっても当該加水分解性基からシラノール基が生じ得る。以上のような修飾工程により、ナノダイヤモンド粒子とこれに結合したシランカップリング剤を含む表面修飾ナノダイヤモンドを作製することができる。本工程を経た溶液中に未反応ナノダイヤモンド凝着体が存在する場合には、当該溶液を静置した後にその上清液を採取することにより、未反応ナノダイヤモンド凝着体の含有量の低減された表面修飾ナノダイヤモンド分散液を得ることができる。また、表面修飾ナノダイヤモンド分散液については、修飾工程で用いた上記の溶媒を他の溶媒に変えるための溶媒置換操作を行ってもよい。
【0061】
図1は、本発明の一の実施形態に係る記録媒体Xの部分断面図である。記録媒体Xは、ホログラフィック回折格子記録媒体であり、基材11と、保護材12と、これらの間の記録層13とを含む積層構造を有する。
【0062】
基材11は、記録媒体Xの支持体として機能する要素である。基材11をなす構成材料としては、例えば、アクリル板、透明なガラス板、および透明な樹脂フィルムが挙げられる。透明な樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムおよびポリエチレンフィルムが挙げられる。基材11の厚さは例えば100~2000μmである。
【0063】
保護材12は、記録層13について酸素による感度低下や保存安定性の劣化などを防止するための要素である。保護材12の構成材料としては、例えば、アクリル板、透明なガラス板、および、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンフィルムなどの透明な樹脂フィルムが、挙げられる。保護材12の構成材料としては、水溶性ポリマー等の塗布によって形成される樹脂フィルムも挙げられる。保護材12の厚さは例えば10~1000μmである。
【0064】
記録層13は、上述の感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子記録層である。記録層13の厚さは例えば1~1000μmである。
【0065】
このような構成の記録媒体Xは、例えば次のようにして製造することができる。まず、上述の感光性組成物、即ち、上述の重合性化合物と、上述の光重合開始剤と、上述のナノダイヤモンドと、必要に応じて添加される上述の他の成分と、必要な場合には溶剤とを含有する感光性組成物を、基材11上に塗布する。塗布の手法としては、直接滴下する塗布方法の他、例えば、回転塗布、ワイヤーバー塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、ブレード塗布、およびカーテン塗布が挙げられる。溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソブルアセテート、酢酸エチル、1,4-ジオキサン、1,2-ジクロルエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびこれらの混合物が挙げられる。溶剤の使用量は、重合性化合物と光重合開始剤とナノダイヤモンドの合計質量に対して例えば0.5~100倍の質量である。基材11上の塗膜は、必要に応じて乾燥され、固化される。これにより、基材11上にホログラフィック回折格子記録層である記録層13形成される。この後、記録層13が保護材12で被覆される。以上のようにして、ホログラフィック回折格子記録媒体である記録媒体Xを製造することができる。
【0066】
記録媒体Xの記録層13、即ち、上述の感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子記録層、に対するホログラフィック回折格子の形成においては、回折格子形成用のパターン露光が行われる。パターン露光としては、二光束干渉露光が好ましい。二光束干渉露光では、記録層13に対し、二つの互いにコヒーレントなレーザー光が同時に照射される。具体的な照射態様は、例えば、実施例に関して後記するとおりである。パターン露光としては、回折格子パターンに相当するパターン形状を伴うマスクを介して露光する方法(フォトマスク露光,位相マスク露光等)も挙げられる。
【0067】
記録層13に対して、実施例に関して
図3の概略構成図を参照して後述するのと同様に所定の光波での二光束干渉露光などパターン露光が行われると、
図2(a)に模式的に示すように記録層13には光強度の明暗のパターン(干渉縞)が生じる。
図2(a)は、記録層13の部分平面におけるパターン露光の光強度分布を示し、
図2(a)では、干渉縞の暗部に縦線ハッチングを付して暗部と明部を模式的に区別している。そして、当初は
図2(b)に模式的に示すように重合性化合物MとナノダイヤモンドNとが空間的に均一な分散状態にある記録層13内の明部では、重合性化合物Mが重合反応を進めてポリマー化する。これに伴い、明部と暗部とでは重合性化合物密度に差が生じて重合性化合物Mが暗部から明部へと拡散する傾向が生ずる。すなわち、明部においてより多くの重合性化合物Mが消費され重合物となるにつれて重合性化合物Mの化学ポテンシャルが減少し、それを補うように暗部から明部への重合性化合物Mの移動(拡散)がもたらされる。一方、明部では、重合性化合物Mの減少とともに、光重合に実質的に関与しないナノダイヤモンドNの化学ポテンシャルが増加するため、それを抑えるようにナノダイヤモンドNは、明部から暗部への逆拡散をする。こうした相互拡散過程は光重合反応が完了するまで継続し、時間の経過とともに、干渉縞の明部と暗部とでは、重合性化合物由来のポリマーPとナノダイヤモンドNとの密度比の違いが大きくなる。すべての重合性化合物Mが完全に重合した定常状態では、記録層13内のポリマーPとナノダイヤモンドNの空間分布が固定される。
図2(c)は、記録層13内でポリマーPとナノダイヤモンドNの空間分布が固定された状態を模式的に表す。記録層13内のポリマーPとナノダイヤモンドNの空間分布が固定されている定常状態では、光波に対するナノダイヤモンドNの屈折率がポリマーPのそれより高いので、干渉縞の暗部は明部に比べて屈折率が高い。このようにして、パターン露光面の面内方向に屈折率が周期的に変調された位相型ホログラフィック回折格子が形成されることとなる。記録層13においてこのようなホログラフィック回折格子が記録された領域に所定波長の光波を照射すると、ホログラフィック回折格子の屈折率変調パターンに対応した回折現象が生じ、これを入射ビームの偏向制御素子として利用することが可能である。
【0068】
記録層13の形成材料である感光性組成物は、上述のようにナノダイヤモンドを含有する。ダイヤモンドは、中性子に対するコヒーレント散乱長(bc)と原子数密度(ρ)との積bcρの値が11.7×10-14m-2であることが知られている。この値は、シリカについてのbcρの値3.64×10-14m-2の3倍以上と大きい。感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子において大きな中性子屈折率変調Δnを実現するうえでは、当該感光性組成物中のナノ微粒子としてナノダイヤモンドはシリカナノ微粒子よりも有利であることが、上記式(1b)から解る。そして、感光性組成物から形成されるホログラフィック回折格子において大きな回折効率ηを実現するうえでは、大きな中性子屈折率変調Δnを実現するうえで有利なナノダイヤモンドは、シリカナノ微粒子よりも有利であることが、上記式(2)から解る。
【0069】
以上のように、本感光性組成物は、中性子ビームに対する高い回折効率を有するホログラフィック回折格子を形成するのに適する。本感光性組成物由来の固化層ないしフィルムに対する二光束干渉露光などパターン露光によって形成される屈折率変調パターンの間隔は100~1000nmオーダーなので、当該屈折率変調パターンは、低速中性子の比較的に長い波長に対してBragg回折条件を満足し、従って、本感光性組成物は、低速中性子ビームに対する高い回折効率を有するホログラフィック回折格子を形成するのに適する。
【0070】
また、上記式(1a)の中性子屈折率変調Δnに対し、光波の波長域に対する屈性率変調Δnoptは、Δρ(nn-np)(nnはナノ粒子の当該光波に係る屈折率,npはマトリックスないしポリマーの当該光波に係る屈折率)に比例し、ナノダイヤモンドのnnの値は2以上であってシリカナノ微粒子のnnの値1.46より大きく、且つ、当該ナノダイヤモンドのnnの値は、通常1.4~1.6程度のnpよりも大きい。そのため、ナノダイヤモンドは、シリカナノ微粒子よりも、ポリマーとの間で大きな屈折率差nn-npを得るうえで好適である。したがって、ナノダイヤモンド含有感光性組成物から形成される固化層(記録層)に形成されるホログラフィック回折格子においては、光波長域でも大きなΔnoptの実現を見込めることが分かる。
【0071】
上述のようにして形成される体積位相型ホログラムの光波に対する屈折率変調は、概ね、フィルム中に分散しているナノダイヤモンドの干渉縞明暗部での体積分率差と、上記重合性化合物由来の重合物およびナノダイヤモンドの屈折率差との積によって決定される。したがって、本発明の感光性組成物においては、重合性化合物の移動量とナノダイヤモンドの移動量とが、光波ビームおよび中性子ビームに対する大きな屈折率変調を実現するうえで重要な因子であるといえる。感光性組成物中に分散しうる量に現実的には限界のあるナノダイヤモンドについて、感光性組成物における含有量を確保しつつ、その十分な上記移動量をも確保するという観点からは、本感光性組成物におけるナノダイヤモンドの含有割合は、重合性化合物100質量部に対して、好ましくは0.1~290質量部、より好ましくは3~191質量部、より好ましくは14~160質量部である。
【0072】
本感光性組成物に含有されるナノダイヤモンドは、好ましくは、表面修飾ナノダイヤモンドであり、ナノダイヤモンド粒子と、(メタ)アクリロイル基を含む有機鎖を有し且つナノダイヤモンド粒子に結合しているシランカップリング剤とを含む。この表面修飾ナノダイヤモンドは、(メタ)アクリロイル基を含む有機鎖を有するシランカップリング剤を、上述のように共有結合を介してナノダイヤモンド粒子に結合する表面修飾要素として、有するものである。当該シランカップリング剤における(メタ)アクリロイル基含有有機鎖は、表面修飾ナノダイヤモンドにおいてその周囲との界面の側に位置する。このような態様での表面修飾を伴うナノダイヤモンド粒子は、表面修飾を伴わないナノダイヤモンド粒子よりも、有機材料に対する親和性が高い。したがって、当該表面修飾ナノダイヤモンドは、それに加えて少なくとも重合性化合物と光重合開始剤を含有する感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する。加えて、表面修飾ナノダイヤモンドにおいては、その周囲との界面に位置する有機鎖中に重合性基たる(メタ)アクリロイル基が存在する。本感光性組成物中の重合性化合物が重合する過程では、表面修飾ナノダイヤモンドの(メタ)アクリロイル基が重合性化合物と反応し得て、形成される樹脂層ないしフィルムにおいては、樹脂マトリックスに表面修飾ナノダイヤモンドないしナノダイヤモンド粒子が取り込まれることとなる。上述のように感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する表面修飾ナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンド粒子を樹脂マトリックスに分散させつつ取り込ませるのに適する。すなわち、感光性組成物中での高い分散安定性を実現するのに適する表面修飾ナノダイヤモンドの表面に、重合性基たる(メタ)アクリロイル基が存在するという構成は、樹脂とそのマトリックス中に分散するナノダイヤモンド粒子とを含むナノコンポジット材料を感光性組成物から形成するのに適するのである。一方、光照射を受けて重合反応を進行させる重合性化合物に取り込まれる重合速度については、上記表面修飾ナノダイヤモンドは、上記重合性化合物よりもサイズが大きいために非常に遅いため、ホログラフィック回折格子形成過程では、当該表面修飾ナノダイヤモンドは実質的に非感光性ナノ粒子として振舞うと考えられ、その結果、樹脂マトリックスに一部の表面修飾ナノダイヤモンドが取り込まれ得るものの重合性化合物とナノダイヤモンドは上述のように相互拡散することとなる。
【0073】
本感光性組成物中の重合性化合物は、上述のように、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する。このような構成によると、感光性組成物が上述の表面修飾ナノダイヤモンドを含有する場合、表面有機鎖中に(メタ)アクリロイル基を有する当該表面修飾ナノダイヤモンドの分散安定化を図りやすい。また、本構成によると、感光性組成物中の重合性化合物が重合する過程において、表面修飾ナノダイヤモンドの表面有機鎖中の(メタ)アクリロイル基を重合性化合物と反応させやすい。
【実施例】
【0074】
〈表面修飾ナノダイヤモンド分散液の作製〉
以下のような一連の過程を経て、表面修飾ナノダイヤモンド分散液を作製した。
【0075】
まず、爆轟法によるナノダイヤモンドの生成工程を行った。本工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。当該爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた(爆轟法によるナノダイヤモンドの生成)。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。
【0076】
次に、上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対して酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85~100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0077】
次に、酸化処理を行った。具体的には、酸処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)に、6Lの98質量%硫酸水溶液と1Lの69質量%硝酸水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で48時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は140~160℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0078】
次に、酸化処理後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ナノダイヤモンド凝着体を含む)について乾燥処理に付して乾燥粉体を得た(乾燥工程)。乾燥処理の手法としては、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固を採用した。
【0079】
次に、修飾工程を行った。具体的には、まず、上述の乾燥工程を経て得られたナノダイヤモンド粉体0.30gを50mlサンプル瓶に量り取り、当該ナノダイヤモンド粉体と、溶媒であるメチルイソブチルケトン(MIBK)14gと、シランカップリング剤であるアクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(東京化成工業株式会社製)1.5gとを混合した溶液を、10分間、撹拌した。次に、当該溶液に対し、ジルコニアビーズ(商品名「YTZ」,直径30μm,東ソー株式会社製)34gを添加した。次に、超音波発生装置たるホモジナイザー(商品名「超音波分散機 UH-600S」,株式会社エスエムテー製)を使用して、前記の混合溶液を修飾処理に付した。具体的には、超音波発生装置の振動子の先端を反応容器内に挿入して前記の溶液に浸けた状態で当該振動子から超音波を発生させ、反応容器を氷水で冷やしながら当該反応容器内の前記混合溶液を8時間の超音波処理ないし修飾処理に付した。本処理において、当初は灰濁色であった溶液は、次第に、黒色化しつつ透明性を増した。これは、ナノダイヤモンド凝着体から順次にナノダイヤモンド粒子が解かれ(解砕)、解離状態にあるナノダイヤモンド粒子にシランカップリング剤が作用して結合し、そのように表面修飾のなされたナノダイヤモンド粒子がMIBK溶媒中で分散安定化したためであると考えられる。8時間の修飾処理後の表面修飾ナノダイヤモンドの粒径D50(メディアン径)を後記のように動的光散乱法によって測定したところ、16nmであった。
【0080】
次に精製工程を行った。具体的には、以上のようにして得られた表面修飾ナノダイヤモンド粗生成液を一昼夜静置した後、上清液(黒色透明)を採取した。次に、トルエン16mlとヘキサン4mlとの混合溶媒に対して当該上清液を滴下した。上清液の総滴下量は10mlである。滴下により、黒色透明であった上清液が混合溶媒中で灰濁色に変化した。この滴下後の混合溶媒を、遠心分離機を使用した遠心分離処理に付し、これによって沈降した固形分(表面修飾ナノダイヤモンド粒子)を回収した。この遠心分離処理においては、遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分間とした。回収した表面修飾ナノダイヤモンド粒子の湿潤状態を保ちつつ、表面修飾ナノダイヤモンドの固形分量が2質量%となるようにMIBKを添加し、当該粒子を再び分散させた。再分散後の表面修飾ナノダイヤモンド粒子の粒径D50(メディアン径)は15nmであった。
【0081】
〈粒径D50〉
ナノダイヤモンド分散液中に含まれるナノダイヤモンド粒子の粒径D50(メディアン径)は、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して動的光散乱法(非接触後方散乱法)によって測定されたナノダイヤモンド粒度分布から得られた積算値50%での粒径である。
【0082】
〔実施例1〕
〈感光性組成物の調製〉
メチルイソブチルケトン(MIBK)4.1gに対し、固形分濃度2.0質量%の上記表面修飾ナノダイヤモンド分散液5g(固形分量0.1g)と、重合性化合物であるトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(商品名「NKエステルDCP」,新中村化学工業株式会社製)0.739gとを加えて混合した後、当該混合溶液に、光重合開始剤であるジシクロペンタジエニル-チタン-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル](商品名「Irgacure784」,チバスペシャリティケミカル社製)0.018gを溶解させ、そしてMIBKを蒸発除去することによって、実施例1の感光性組成物を調製した。
【0083】
波長589nmの光に対する屈折率は、ナノダイヤモンドが2.14であり、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートから得られる重合体が1.53であり、両屈折率の差は0.61であった。トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の屈折率は、アッベ屈折計を使用して測定した。測定サンプルの作製においては、まず、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(商品名「NKエステルDCP」,新中村化学工業株式会社製)100質量部と光重合開始剤であるジシクロペンタジエニル-チタン-ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル](商品名「Irgacure784」,チバスペシャリティケミカル社製)1質量部とを含む組成物を調製した。次に、この組成物を、予め両端部にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)がスペーサとして貼り付けられたスライドガラスの中央領域(スペーサに挟まれた領域)に滴下し、滴下された組成物を覆うように別のスライドガラスを積層した。次に、当該組成物において、波長532nmのNd:YVO4レーザーを一様に露光することによって重合反応を生じさせて、スライドガラス間にてフィルムを形成した。この露光処理において、露光パワー密度は100mW/cm2とし、露光時間は5分間とした。こうして得られたフィルムを、スライドガラスから剥離した後、アッベ屈折計(商品名「DR-M4型」,干渉フィルター589nm,株式会社アタゴ製)を使用して行う屈折率測定に付した。
【0084】
ナノダイヤモンドの密度は3.1g/cm3であることから、実施例1の感光性組成物におけるナノダイヤモンドの体積は0.0323cm3(=0.1g÷3.1g/cm3)と算出される。トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の密度は1.16g/cm3であることから、実施例1の感光性組成物における当該重合体の体積は0.637cm3(=0.739g÷1.16g/cm3)と算出される。したがって、実施例1の感光性組成物において、ナノダイヤモンドとトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合状態に占めるナノダイヤモンドの体積割合は、0.0323/(0.0323+0.637)=0.05、即ち5体積%であった。
【0085】
〈ホログラフィック回折格子記録媒体の作製〉
スライドガラスの中央領域に本実施例の感光性組成物を滴下し、そして当該感光性組成物を乾燥させて、体積位相型のホログラフィック回折格子記録層(厚さ約18μm)を形成した。この乾燥には、オーブンを使用し、加熱温度は80℃とし、加熱時間は約25分間とした。この後、当該記録層を覆うように別のスライドガラスを積層した。以上のようにして、必要数の、体積位相型のホログラフィック回折格子記録媒体を作製した。この記録媒体は、「基材としてのスライドガラス/記録層(厚さ約18μm)/保護材としてのスライドガラス」の積層構造を有する。
【0086】
〈回折効率の測定〉
上述のようにして作製した記録媒体に対し、
図3に光学系配置の概略構成を示す装置を使用して二光束干渉露光を行い、ホログラフィック回折格子の記録を行った。
図3に示す構成は、ホログラフィック回折格子記録媒体21と、Nd:YVO
4レーザー22と、ミラー23,24,25,26,27,28と、半波長板29と、偏光プリズム30,31と、ビームエキスパンダ32と、ハーフミラー33と、ヘリウムネオン(He-Ne)レーザー34と、光検出器35,36とを含む。具体的に、本測定においては、波長532nmのNd:YVO
4レーザー21の露光パワー密度を100mW/cm
2として、格子間隔1μmの二光束干渉露光を行った。Nd:YVO
4レーザー21から出射した光は、ミラー23,24、半波長板29、偏光プリズム30、ビームエキスパンダ32、ミラー25を経た後、ハーフミラー33にて二本に分割され、一方の光はミラー26を経て、他方の光はミラー27を経て、ホログラフィック回折格子記録媒体21ないしその記録層に照射される。このような二光束干渉露光により、ホログラフィック回折格子記録媒体21の記録層において、両光の干渉縞が記録されてホログラフィック回折格子が形成されることとなる。そして、このような二光束干渉露光と同時に、ホログラフィック回折格子記録媒体21の記録層が感光しない波長632.8nmのHe-Neレーザー14を当該記録層にBragg角θ
Bで照射してその回折光を光検出器15,16で検出することによってホログラフィック回折格子形成過程をモニターし、回折効率(=(透過光パワー+1次回折光パワー)/透過光パワー)を評価した。透過光パワーは光検出器35で検出され、1次回折光パワーは光検出器36で検出される。
【0087】
図4は、本測定によって得られた、回折効率ηの露光時間による変化を表すグラフである。
図4のグラフに表れているように、実施例1の感光性組成物から形成されたホログラフィック回折格子記録層に係る回折効率ηは、露光時間とともに増加し、500秒で約2%に達し、定常状態においては3.2%が維持された。
図5は、その定常状態での回折効率ηの再生光入射角依存性を表すグラフである。
図5のグラフでは、再生光のBragg入射角θ
Bからの入射角変化Δθ
B依存性の測定結果を白丸で示す。同グラフにおける実線は、Kogelnik理論によるフィッティング曲線であり、測定結果とよく一致しており、体積位相型ホログラムとしてホログラフィック回折格子が膜厚方向に均一に永続的に形成されていることを確認することができた。
図6は、実施例1のホログラフィック回折格子記録媒体の記録層に形成されたホログラフィック回折格子に対してそのBragg入射角θ
B付近の入射角方向から白色蛍光灯を通し、ホログラフィック回折格子を介して当該白色蛍光灯を観察した状態を示す写真である。ホログラフィック回折格子が記録されている部分(写真中、丸の内側にある)において、白色蛍光灯に含まれる可視波長成分が回折されていることを確認することができた。
図7は、実施例1における、ホログラフィック回折格子形成済みホログラフィック回折格子記録媒体を通して、文字を見た状態を示す写真である。観察方向がBragg入射角θ
Bからは大きく外れているためにホログラフィック回折格子が記録されている部分(写真中、丸の内側にある)からの回折光が生じずに背後の文字が透けて見えることが分かる。以上のように、実施例1の感光性組成物から形成されたホログラフィック回折格子記録媒体ないしその記録層には、透明な体積位相型ホログラムとしてホログラフィック回折格子が永続的に形成されていることを確認することができた。
【0088】
〈透過型電子顕微鏡での観測〉
実施例1の上述の感光性組成物から記録層が形成されて上述のようにしてホログラフィック回折格子の形成されたホログラフィック回折格子記録媒体の当該記録層から、ミクロトーム法によって、記録層の面内方向に広がる観測用のサンプル片(厚さは数10nm程度)を切り出した。この薄片サンプルについて、透過型電子顕微鏡(商品名「JEM-1400Plus」,日本電子株式会社製)を使用して観測した。その結果を
図8に示す。図中の黒い箇所はナノダイヤモンドが多く分布している場所を表し、ナノダイヤモンドが上述のホログラフィック露光を経て周期的に再分布していることを確認することができた。
【0089】
〔比較例1〕
〈回折効率の測定〉
上述の表面修飾ナノダイヤモンドを含有しないこと以外は実施例1と同様にして感光性組成物を調製した。この感光性組成物をナノダイヤモンド含有感光性組成物の代わりに用いること以外は実施例1と同様にして記録層を形成し、記録媒体(但し、厚さは約20μm)を作製し、当該媒体に対し、実施例1に関して上述したのと同様に二光束干渉露光を行ってホログラフィック回折格子の記録を試みた。そして、実施例1におけるのと同様に、二光束干渉露光と同時に記録媒体の回折効率をモニターした。
図9は、このような比較例1の記録媒体における回折効率ηの露光時間変化を表すグラフである。
図9のグラフに表れているように、回折効率ηは、一旦上昇するものの、ピークの後は時間の経過とともに低下する。その回折効率ηは、最終的にはほとんど検知できなくなる。これは、実質的に重合性化合物の単一成分よりなる比較例1における記録層では、干渉縞の明暗部ともにほぼ重合性化合物のみが存在しているので、露光中に暗部においても光散乱などの影響で光重合が生じ、光重合が十分進行した状態では明暗部ともに重合性化合物がポリマー化して明暗部での屈折率変調が消失するためである。
【符号の説明】
【0090】
X 記録媒体
11 基材
12 保護材
13 記録層