IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般社団法人日本人工大理石リサイクル協会の特許一覧 ▶ 昭和KDE株式会社の特許一覧

特許7011266フォーミング抑制剤及びフォーミング抑制剤の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】フォーミング抑制剤及びフォーミング抑制剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
C21C5/28 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019212399
(22)【出願日】2019-11-25
(62)【分割の表示】P 2018003119の分割
【原出願日】2018-01-12
(65)【公開番号】P2020023756
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2020-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成29年7月14日、日新製鋼株式会社呉製鉄所にて特許に係る物品の譲渡
(73)【特許権者】
【識別番号】518012515
【氏名又は名称】一般社団法人日本人工大理石リサイクル協会
(73)【特許権者】
【識別番号】591172526
【氏名又は名称】昭和KDE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182604
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 二美
(74)【代理人】
【識別番号】100110560
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 恵三
(72)【発明者】
【氏名】後内貴胤
(72)【発明者】
【氏名】三野良介
(72)【発明者】
【氏名】森脇雅文
(72)【発明者】
【氏名】仁井謙作
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128768(JP,A)
【文献】特開2014-047377(JP,A)
【文献】特開平09-310112(JP,A)
【文献】特開昭54-107820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグのフォーミングを抑制するフォーミング抑制剤であって、
水酸化アルミニウムを含有する樹脂からなる人工大理石の研磨塵であって、粒子直径500マイクロメートル以下の空気中に舞い上がる粒径の粉塵を含んだ人工大理石粉塵と、
ケイ酸アルミニウムを含む結合剤と、を有し、
ペレット状又は粒状に成形されていることを特徴とするスラグのフォーミング抑制剤。
【請求項2】
前記人工大理石粉塵が、重量比80%以上90%以下含まれていることを特徴とする請求項1に記載のスラグのフォーミング抑制剤。
【請求項3】
前記フォーミング抑制剤は、かさ比重が1立方センチメートルあたり1.2グラム以上1.5グラム以下であり且つ水分含有率が1%以上4%以下であることを特徴とする請求項2に記載のスラグのフォーミング抑制剤。
【請求項4】
水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵とケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と水とを混練する混練工程と、前記混練工程で得られた被混練物を押出成形機によって押出成形する成形工程と、前記成形工程で得られたペレット形状成形物をキルンに投入し、前記ペレット形状成形物自体の温度が摂氏100度前後となるように、前記キルン内で前記ペレット形状成形物に熱を加える加熱工程とを含むことを特徴とするスラグのフォーミング抑制剤の製造方法。
【請求項5】
水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵とケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と水とを混練する混練工程と、前記混練工程で得られた被混練物を押出成形機によって押出成形する成形工程と、前記成形工程で得られたペレット形状成形物をキルンに投入し、前記ペレット形状成形物自体の温度が摂氏100度前後となるように、前記キルンの設定温度を摂氏150度以上摂氏250度以下の範囲で設定して、前記キルン内で前記ペレット形状成形物に熱を加える加熱工程とを含むことを特徴とするスラグのフォーミング抑制剤の製造方法。
【請求項6】
水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵とケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と、前記人工大理石粉塵の重量に対し20%以上30%以下の水とを混練する混練工程と、前記混練工程で得られた被混練物を押出成形機によって押出成形する成形工程と、前記成形工程で得られたペレット形状成形物をキルンに投入し、前記ペレット形状成形物自体の温度が摂氏100度前後となるように、前記キルンの設定温度を摂氏150度以上摂氏250度以下の範囲で設定して、前記キルン内で前記ペレット形状成形物に熱を加える、加熱工程とを含み、前記加熱工程は、前記ペレット形状成形物の水分含有量を1%以上4%以下となるまで加熱することを特徴とするスラグのフォーミング抑制剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼の工程中、転炉工程で使用されるスラグのフォーミング抑制剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼において、転炉における精錬工程は、転炉内で、かたくてもろい銑鉄から不純物を取り除き、炭素を除去することによって、強靭な鋼鉄をつくりだす工程である。精錬工程前の溶鉱炉工程において、鉄鉱石を高温で溶解して取り出された銑鉄は、炭素分を約4%も含み、可塑性がなく、かたくてもろい性質をもつ。かたくてもろい銑鉄は、不純物を取り除き、脱炭することによって、可塑性をもち、強くてしなやかな鋼鉄となる。
【0003】
転炉での精錬工程では、銑鉄から不純物除去をする予備処理が行われる。この予備処理は、酸素ガスや酸化カルシウム等の予備処理剤を、溶解した高温の銑鉄の上に吹き込むものである。転炉内に吹き付けられた酸素は、溶銑中にある珪素(Si)や燐(P)などと反応して、二酸化ケイ素(SiO2) やリン酸イオン(H3PO4)を生成し、不純物を含んだスラグと交じり合い、溶鋼の上に浮かぶ。このスラグを除去すれば、不純物をまるごと除去できる。珪素(Si)や燐(P)を取り除いた溶銑に、さらに、スラグを足し、わずかに残った燐(P)の除去と脱炭処理を行う。脱炭処理は、転炉内の銑鉄に、空気や酸素を主体とするガスを吹き付けることによって、銑鉄に含まれる炭素を燃やし、溶鋼へと転換させる。
【0004】
このように、鋼中の不純物を取り除くために不可欠なスラグであるが、摂氏1600度を超える高温の転炉内で、予備処理剤である酸素ガス等を、ジェット噴射で内部深く噴射するため、噴射の圧力に押されて、周りは溶鋼とスラグが持ち上がった状態になる。さらに、スラグ内で、発生した一酸化炭素が泡となり、スラグは激しく膨張し、フォーミングと呼ばれる状態となる。スラグが泡立って膨張しすぎると、転炉から高温のスラグが噴出し、転炉の操業を阻害し、危険であり、フォーミングを抑制する必要がある。
【0005】
従来より、転炉スラグのフォーミングを抑制する用途で、様々なフォーミング抑制剤が提案されてきた。
特許文献1のフォーミング抑制剤は、合成樹脂を含有する人工大理石からなるフォーミング抑制剤である。特許文献2のフォーミング現象抑制剤は、生型用鋳物砂組成物廃材を水分調整をした上で混練し、圧縮成形して短円柱体に構成したものである。フォーミング抑制剤は、製鋼の工程で、常時、大量に必要となるものである。これまでのフォーミング抑制剤は、廃材を原料とするものが多く、廃材は時期により変動があるため排出量の予測が困難であった。特許文献1のフォーミング抑制剤は、合成樹脂を含有する人工大理石の廃材を原料とするが、人工大理石は、主に、キッチンの流し台や洗面台、風呂等に使用され、住居の取り壊しによって廃材が発生するが、発生する廃材の量は時期的な変動が大きい。特許文献2のフォーミング現象抑制剤は、生型用鋳物砂組成物廃材を使用するが、こちらも、排出量が時期によって変動するため、安定的な原料確保が困難な場合があった。また、排出量が少ない月は、廃材の売価が高くなるため、コストも不安定であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-128768号公報
【文献】特開2014-47377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、これまで使用用途がなく廃棄のための廃棄コストがかかっていた人工大理石加工工程及び廃棄工程で排出される粉塵を有効活用して、安定的に供給可能で、コストも安いフォーミング抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフォーミング抑制剤は、人工大理石の製造工程で生じる水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵と、ケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と、を混合し、ペレット状又は粒状に成形したことを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、人工大理石粉塵に含有される樹脂に含まれる水酸化アルミニウムが、溶銑中に投入された際に酸化アルミとなって水蒸気を発生させ、スラグの泡を破壊し、フォーミングを抑制する。また、ペレット状又は粒状に成形されていることで、投入された際に、フォーミング抑制剤がスラグの表面から内部まで、薄く、均等に分布して、スラグの泡を効率よく破壊しフォーミング抑制することができる。
【0010】
また、本発明のフォーミング抑制剤は、人工大理石の廃棄工程で生じる水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵と、ケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と、を混合し、ペレット状又は粒状に成形したことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、人工大理石粉塵に含有される樹脂に含まれる水酸化アルミニウムが、溶銑中に投入された際に酸化アルミとなって水蒸気を発生させ、スラグの泡を破壊し、フォーミングを抑制する。また、ペレット状又は粒状に成形されていることで、投入された際に、フォーミング抑制剤がスラグの表面から内部まで、薄く、均等に分布して、スラグの泡を効率よく破壊しフォーミング抑制することができる。
【0012】
また、本発明のフォーミング抑制剤の前記結合剤は、前記人工大理石粉塵の重量の10%以上20%未満であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、人工大理石粉塵に含有される樹脂に含まれる水酸化アルミニウムが、溶銑中に投入された際に酸化アルミとなって水蒸気を発生させ、スラグの泡を破壊し、フォーミングを抑制する。また、細長い円柱形であるペレット状又は粒状に成形されていることで、投入された際に、フォーミング抑制剤がスラグの表面から内部まで、薄く、均等に分布して、スラグの泡を効率よく破壊しフォーミング抑制することができる。
【0014】
また、本発明のフォーミング抑制剤は、前記人工大理石粉塵が、重量比50%以上となるように混合することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、人工大理石粉塵に含有される水酸化アルミニウムが、溶銑中に投入された際に酸化アルミとなって水蒸気を発生させ、スラグの泡を破壊し、フォーミングを抑制する。フォーミング抑制剤は、投入した際に、スラグ上面に浮いてしまっても、また、スラグを突き抜けて沈んでいってもスラグ泡を効率よく破壊することができない。効率よくスラグのフォーミングを抑制するためには、スラグ内部の程よい深さまでフォーミング抑制剤が到達する必要がある。本発明のフォーミング抑制剤は、前記人工大理石粉塵が、重量比50%以上となるように混合することで、スラグの泡を迅速に破壊し、フォーミングを抑制することができる。
【0016】
また、本発明のフォーミング抑制剤は、かさ比重1立方センチメートルあたり1.2グラム以上1.5グラム以下であり且つ水分含有量が1%以上4%以下であることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、細長い円柱形のペレット状又は粒状に成形されたフォーミング抑制剤のかさ比重は1立方センチメートルあたり1.2グラム以上1.5グラム以下なので、かさ比重が1立方センチメートルあたり2.3グラム以上3グラム以下であるスラグと、かさ比重が1立方センチメートルあたり7グラム程度の鉄の中に投入されたときに、フォーミング抑制剤がスラグ内の程よい深さまで到達し、スラグ泡を効率的に破壊することができる。
【0018】
また、本発明のフォーミング抑制剤の製造方法は、水酸化アルミニウムを含有する樹脂を含む人工大理石粉塵とケイ酸アルミニウム又は澱粉を含む結合剤と水とを混練する混練工程と、前記混練工程で得られた被混練物を押出成形機によって押出成形する成形工程と、前記成形工程で得られた被押出成形物に対し摂氏150度以上摂氏250度以下の熱を加える加熱工程とを有することを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、摂氏150度以上摂氏250度以下の加熱工程を経て成形されたことで、含有水分が少なく、硬度が高く、かさ比重が最適なフォーミング抑制剤を提供することができる。最適な硬度とかさ比重をもつことで、溶銑中に投入された際に、舞い上がってしまうことなく、スラグ上面に広がって、スラグの泡を効率よく沈静することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明を実施するための形態を説明する。この実施の形態のフォーミング抑制剤は、人工大理石を製造する際に排出される粉塵または人工大理石を廃棄する際に発生する粉塵と、粘土鉱物であるケイ酸アルミニウムを含んだ結合剤とを混合し、少量の酢酸ビニルを添加したのち水分を加えて混練し、押出成形後、加熱工程を経て製造される。
【0021】
人工大理石とは、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを含んだ合成樹脂を、大理石の外観となるよう着色し、型に流して固めたものである。本発明で使用する人工大理石粉塵は、人工大理石を製造する工程で発生するものと、人工大理石を廃棄する工程で発生するものとがある。
【0022】
人工大理石を製造する工程で発生する粉塵は、研磨の工程で主に発生する。人工大理石は、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の難燃剤を含む樹脂を型に入れて成形し、型から出したあと研磨大理石の外観をもつよう研磨してつやを出す。大理石製造における研磨工程は、大理石の質感により近づけるための重要な工程である。
【0023】
研磨工程は、グラインダー等で人工大理石表面を研磨するが、このとき、大量の粉塵が発生する。研磨工程で発生する粉塵は、粒子直径500マイクロメートル以下であり、空気中に舞い上がる。空気中の粉塵は、施設内で作業に従事する作業者が吸入すると呼吸器疾患の原因になり、労働環境を悪化させるものである。そのため、施設内で発生した粉塵は、集塵機その他の設備によって集められ、産業廃棄物として処理される。集塵機で集められたこれら粉塵が、本発明のフォーミング抑制剤に使用される人工大理石粉塵となる。
【0024】
本発明のフォーミング抑制剤に使用される人工大理石粉塵は、上述の人工大理石製造工程のほか、人工大理石の廃棄の工程でも発生する。人工大理石は、キッチンの流し台や洗面台、風呂等に用いられるが、廃棄されると、まず、リサイクル工場で分別にかけられる。人工大理石には、大きく分けて、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系がある。人工大理石のうち、アクリル系のものは、セラミック原料として使用可能であるので、必要とするセラミック業者に売価され、ポリエステル系及びエポキシ系の人工大理石は、廃棄するため廃棄業者に引き取ってもらうべく破砕施設に送られる。
【0025】
リサイクル用途のないポリエステル系人工大理石とエポキシ系人工大理石は、廃棄業者を経て、埋め立てに処されるが、埋め立てに先だって粉砕処理する必要がある。人工大理石廃棄の際の破砕工程で発生する粉塵は、粒子直径500マイクロメートル以下であって、空気中に舞い上がって施設内を浮遊する。研磨工程で発生する粉塵と同じく、当該粉塵は、廃棄処理施設内で作業に従事する労働者の呼吸器疾患の原因となるので、集塵機その他の設備によって集められ、産業廃棄物となる。集塵機で集められたこの粉塵も本発明のフォーミング抑制剤に使用される。
【0026】
研磨工程や破砕工程で発生するポリエステル系人工大理石及びエポキシ系人工大理石の粉塵は、従来、使用用途がなく、廃棄されていた。廃棄するにも、通常の埋め立て施設ではなく管理埋め立て施設に運んで処理する必要があるため、廃棄業者に引き取り料を支払う必要があり負担が重かった。本発明のフォーミング抑制剤は、研磨工程や粉砕工程で、使用用途のないポリエステル系人工大理石及びエポキシ系人工大理石の粉塵を、有効活用できるものである。
【0027】
人工大理石製造の際の研磨工程で排出される粉塵も、人工大理石廃棄の際の粉砕工程で排出される粉塵も、その成分は、空気中の塵を多少含んではいるが、人工大理石の成分が大部分を占める。当該粉塵は、人工大理石と同じく、水酸化アルミニウムを豊富に含んでいる。水酸化アルミニウムは、溶銑に投入されると水蒸気を発生させてスラグの泡を破壊し、フォーミング抑制する効果がある。また、人工大理石に含まれる炭酸カルシウムは、高温で加熱されると二酸化炭素として揮発するためスラグ泡を破泡し吸熱する効果がある。このように、人工大理石には、スラグのフォーミングを抑制できる成分が豊富に含有されているが、人工大理石粉塵は粒子直径が小さくまた比重も軽いため、溶銑中に投入すると空中に舞い上がってしまいスラグに到達せず、そのままでは、フォーミング抑制剤として使えない。
【0028】
本発明のフォーミング抑制剤の製造方法について説明する。まず、最初の工程は、人工大理石粉塵に、粘土鉱物または澱粉を含む結合剤を混練し、水を加えて、十分に攪拌する。結合剤は、粘土鉱物であるケイ酸アルミニウムを主成分としたベントナイト等が用いられる。結合剤は、ベントナイト等の粘土鉱物を含むもののほか、澱粉成分を含む結合剤を使用してもよい。また、セメントや生石灰を使用してもよい。
【0029】
人工大理石粉塵に、粉塵重量の10%以上20%未満の結合剤と、粉塵重量の20%以上30%未満の水を加えて十分に混練する。加える水の量は、押出機から押出成形できる程度の硬さになるよう、調整する。酢酸ビニルは、フォーミング抑制剤の硬度を上げるために、添加される。酢酸ビニルは、脂溶性の成分で、水に不溶であるが、水分と適度な温度を加えることで軟化し、水分を飛ばすと硬化するので、硬度を上げるための添加物として使用する。
【0030】
このとき、エマルジョンとして酢酸ビニルを添加すると、さらに、硬度の高いフォーミング抑制剤を製造できる。酢酸ビニルは、コストが高いので省略することも可能である。フォーミング抑制剤の硬度を上げるための添加剤としては、酢酸ビニルのほかに、各種合成樹脂エマルジョン(酢ビ/ベオバ系エマルジョン、酢ビ/エチレン系エマルジョン、酢ビ/アクリル系エマルジョン、アクリル系エマルジョン等)、フェノール樹脂、リグニン、セメント、生石灰等も用いることが可能である。
【0031】
また、人工大理石粉塵と一緒に、1mm以上5mm以下の目開きの篩を用いて選別した人工大理石粉砕物もフォーミング抑制剤の原料とすることが可能である。人工大理石粉砕物を使用する場合は、篩で選別した人工大理石粉砕物と、人工大理石粉塵を、混合したものに、該混合物重量の20%以上30%未満の水を加えて十分に混練したものを用いる。該混合物重量の1~3%の酢酸ビニルを添加すると、さらに硬度の高いフォーミング抑制剤とすることができる。人工大理石粉砕物を篩にかける際は、後の工程で使用する押出機に設けられた孔の直径にあわせた篩を使用して、押出成形機の孔よりも小さい直径の人工大理石粉砕物のみを選別すると良い。
【0032】
直径が1mmに満たない粉砕物は、篩で選別するより粉塵として集塵機で集めるほうが効率的であり、直径が5mmを超える粉砕物は、押出機の孔を通らないので、篩で選別する際は、使用する篩の目開きは、1mm以上5mm以下のものを用いるのがよい。細かすぎる目開きの篩は、目詰まりしやすく、作業効率が低くなるため、望ましくは4mm以上5mm以下の目開きの篩を用いて人工大理石粉砕物の選別を行うのが作業の効率化という面では望ましい。
【0033】
加える水の量は、人工大理石粉塵と人工大理石粉砕物の合計量の20~30%が望ましい。加える水の量は、人工大理石粉塵と粉砕物の比率に応じて、押出機から押出成形できる程度の硬さになるよう水分調整する。
【0034】
人工大理石粉塵と結合剤と水を十分攪拌したのち、押出機で押出成形する。本実施の形態では、押出機の10mm直径の孔から押出成形して、細長い円柱形であるペレット形状に成形する。押し出されたペレット形状の長さは10mm以上100mm以下であり、長さが一定ではないが、次の加熱工程で、ロータリーキルンで回転することによって短くなり、また、水分が飛ぶことで直径が小さくなり、最終的には、直径約5mm、長さ10mm以上30mm以下のペレット形状となる。加熱前の押出工程では、とくに切断工程は不要であり、押し出されたフォーミング抑制剤は、一定の長さまで押し出されると自らの重量で落下し、切れていき、細長いペレット形状となる。
【0035】
押出機で押し出されたフォーミング抑制剤は、次に、ロータリーキルンに入れられ、加熱処理される。ロータリーキルンでの温度設定は摂氏150度以上摂氏250度以下とし、キルンで回転させながら熱を加える。キルン内のフォーミング抑制剤は、加熱工程で、摂氏100度前後の温度となる。回転するキルン内で、フォーミング抑制剤は、上下動を繰り返し、短く、切断されていき、長さ10mm以上30mm以下の円柱形のペレット形状となる。
【0036】
フォーミング抑制剤の表面は、滑らかであって、角がなく丸みを帯びている。ペレット形状の表面に凹凸が多いと、ペレット同士でこすれて細かなカスが出てしまい、摂氏1000度以上の高温となっている溶銑中に投入する際、そのカスが舞い上がって作業の妨げとなってしまう。本発明のフォーミング抑制剤は、結合剤を加え水で練って人工大理石粉塵を固めているので、表面がなめらかであり、表面が削れてカスが発生しにくい。溶銑中に投入する際、ペレット同士がこすれても細かなカスや粉塵が出ないので、溶銑中に投入された後、周囲に細かいカスが舞い上がることがなく、ペレット形状のフォーミング抑制剤が、迅速にスラグまで到達し、効率よくスラグの泡立ちを抑制する。
【0037】
フォーミング抑制剤に含まれている水酸化アルミニウムは、摂氏200度を超えると分解がはじまり品質が劣化する。樹脂は、摂氏180度に達すると酸化がはじまり発火の危険がある。樹脂は、摂氏約180度に達すると酸化がはじまる。水酸化アルミニウムは、溶銑に投入されると水蒸気を発生させてスラグ泡を破泡するものであり、フォーミング抑制に重要な成分である。ロータリーキルン内のフォーミング抑制剤自体の温度が、摂氏100度前後に保たれることで、フォーミング抑制剤に含まれている水酸化アルミニウムや樹脂等の劣化が起こらず、水分だけを飛ばすことができる。
【0038】
加熱工程を経ることで、フォーミング抑制剤から水分が失われ、最適な硬度と、かさ比重を得ることができ、所定深さに迅速に達して効率的にスラグの泡を破壊するフォーミング抑制剤となる。本発明のフォーミング抑制剤は、最適なかさ比重となるよう、加熱工程でかける加熱時間を調整する。かさ比重が1立方センチメートルあたり1.2グラム以上1.5グラム以下の範囲が、最適なかさ比重である。このかさ比重となるよう、加熱工程の加熱時間を調整する。加熱温度を上げ過ぎると樹脂等の劣化が生じるため、かさ比重が足りない場合は、加熱時間を長くする。
【0039】
本発明のフォーミング抑制剤の水分含有量は、加熱工程の前では20~30%であるが、加熱工程を経て、完成品の水分含有量は1%以上4%以下となる。水分含有量が1~4%となるよう、かつ、かさ比重が1立方センチメートルあたり1.2グラム以上1.5グラム以下になるように、加熱時間を調整する。このような水分含有量とかさ比重とすることで、フォーミング抑制剤完成品の強度は、1立方センチメートルあたり10~20キログラムとなる。本発明のフォーミング抑制剤は、強度が1立方センチメートルあたり10キログラム以上あるので、運搬時に、型くずれしたり砕けてしまうことがなく、かつ、溶銑中に投入された際には、すみやかに分解しスラグ泡を破壊するフォーミング抑制剤とすることができる。かさ比重が高すぎると、強度が高いが重量が重くなり運搬コストが高くなる。かさ比重が低すぎると、運搬時に型崩れしたり、フォーミング抑制の効果が低くなる。また、水分含有量が1~4%と低いことで、重量が軽く、運搬や使用が容易なフォーミング抑制剤を提供することができる。
【0040】
本発明のフォーミング抑制剤の構成要素と製造工程は上述のとおりである。本発明のフォーミング抑制剤の成分は、Al、Si、Fe、Ti、Ca、Mg、K、Na、P、Zrである。本発明のフォーミング抑制剤は、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムを豊富に含んでいるため、揮発分が多い。揮発分が多いことが、スラグのフォーミング抑制効果を向上させていると考えられる。本発明のフォーミング抑制剤の揮発性物質の質量を示す強熱減量(Ig.Loss)は50以上60以下である。
【0041】
本発明のフォーミング抑制剤の製造において、人工大理石粉塵には上述のように人工大理石廃材の粉砕物を加えるほか、ペーパースラジ、プラスチック廃材の粉砕物を混合しても良い。人工大理石以外の廃材を加える場合は、人工大理石粉塵が、重量比50%以上となるように混合することが望ましい。