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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】バテライト型炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20220203BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 35/618 20150101ALI20220203BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 33/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20220203BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q1/00
A61K35/618
A61P17/00
A61K33/10
A61K8/98
C01F11/18 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017075774
(22)【出願日】2017-04-06
(65)【公開番号】P2017206498
(43)【公開日】2017-11-24
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2016097775
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 要
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-063062(JP,A)
【文献】特開2007-277036(JP,A)
【文献】特開平08-012527(JP,A)
【文献】真珠貝殻を原料とした高機能性製品の開発(第1報), 愛媛県産業技術研究所研究報告, 2010, no.48, p.21-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C01F 1/00-17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠および/またはアコヤガイ貝殻から得た真珠層に酸を加え、炭酸カルシウムを溶解したのち、不溶性成分を除去し、炭酸塩水溶液を加えたのち、リン酸化合物水溶液を加えて得られる、ナクレイン及びN16タンパク質を含有するバテライト型炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記ナクレイン及びN16タンパク質を含有するバテライト型炭酸カルシウムが皮膚外用剤に配合されるものであることを特徴とする、請求項1に記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法
【請求項3】
前記ナクレイン及びN16タンパク質を含有するバテライト型炭酸カルシウムがメイクアップ化粧料に配合されるものであることを特徴とする、請求項1に記載のバテライト型炭酸カルシウムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真珠やアコヤガイ貝殻の有効利用に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠やアコヤガイ貝殻の真珠層は装飾品として高い利用価値があり、さらには漢方薬としても利用されている。
真珠やアコヤガイ貝殻の真珠層の中にコンキオリンをはじめとする有機物質が含まれ、化粧品原料として広く利用されている。
しかしこれらの有機物質を利用する場合多くは塩酸を加え、炭酸カルシウムを塩化カルシウムに変え、水に可溶化して廃棄している。
この廃棄しているカルシウムにより、例えば排水処理施設への負担といった問題が懸念されていた。
バテライト型炭酸カルシウムの製法はいくつかの方法が知られている。(特許文献1~3)
【0003】
【文献】特開平03-5317号公報
【文献】特開平04-238812号公報
【文献】特開平06-16417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は化粧品に有用な原料を作り出し、資源をより有効に利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、真珠やアコヤガイ貝殻からバテライト型の炭酸カルシウムを作り出すことによって、上記の課題を解決し、真珠やアコヤガイ貝殻に含まれる成分によって生成するバテライト型の炭酸カルシウムの平均粒子径は、他の原料を起源とする場合に比較して小さくなることがわかり、より化粧品原料としての有効性が高いことがわかった。
また、これは粒度(反応速度)を調整するためにいろいろな添加物を加える必要がなく、効率的にバテライト型の炭酸カルシウムを得ることができる。
さらに真珠やアコヤガイ貝殻より作り出されたバテライト型の炭酸カルシウムは他の物質を起源とするバテライト型の炭酸カルシウムにはないタンパク質が含まれ、その1つであるナクレイン、N16の存在を確認した。
ナクレインについては、これを表皮角化細胞に作用したところ、表皮の分化と関連の深いS100A7の遺伝子発現が非常に強く誘導されることが判明している(特開2011-162469)。
S100A7はコーニファイドエンベローブの成分であるから皮膚の角化とともにコーニファイドエンベローブの成分として生成されることが知られており、皮膚のバリア機能が改善される。また、S100A7は抗菌作用を有することが知られているため、本発明の皮膚角化促進剤を用いれば、皮膚の抗菌作用が増強され、バリア機能が増大する。
上述したようにナクレイン等を含む本発明の真珠および/またはアコヤガイ貝殻より得られるバテライト型炭酸カルシウムを配合した皮膚外用剤は皮膚の抗菌作用が増強され、皮膚のバリア機能を強化し、他の物質を起源とするバテライト型炭酸カルシウムとは異なる有効性を有する。
以下に具体的な製造方法について記載する。
【0006】
真珠は必要に応じて核を除き、またアコヤガイの貝殻は表面の付着物を取り除き、さらには必要に応じて稜柱層を除いて真珠層とし、さらに以下の反応がスムーズにいくように必要に応じた大きさに粉砕する。
次に粉砕した真珠層を脱灰する。
脱灰の方法として以下に1例を挙げる。
真珠層50gを約5倍の重量の水に分散しつつ、塩酸100gを加えて撹拌する。これにより炭酸カルシウムを水に可溶な塩化カルシウムに変える。
脱灰時間は、貝殻等の粉砕の程度によって変化するが、1時間~数日を要する。
次に、必要に応じて、遠心分離、濾過、デカンテーション等の手段を用いて不溶物を取り除き、塩化カルシウムを含む溶液が得られる。
なお、ここで分離される不溶物はコンキオリン等の真珠タンパク質を含んでおり、更に加工することにより加水分解コンキオリン等の化粧品原料となる。
塩化カルシウムを含むろ液に対してバテライト型の炭酸カルシウムが生成するような条件を与えたらよい。
一例として、炭酸塩および/または炭酸水素塩を加えて反応させることによってバテライト型の炭酸カルシウムを得ることができる。
さらにはリン酸化合物を加えることで球状のバテライト型の炭酸カルシウムの生成割合が増すことがわかった。
【0007】
炭酸塩、炭酸水素塩は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが例示でき、リン酸化合物はオルトリン酸、オルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸カリウム、ピロリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸、トリメタリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、テトラメタリン酸、テトラメタリン酸カリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウムが例示できる。
これらの1種又は2種以上を用いてバテライト型の炭酸カルシウムを得る。
これらの配合量は塩化カルシウム1モルに対して、炭酸塩および/または炭酸水素塩は0.5~5.0モルがよい。
また、リン酸化合物は塩化カルシウムの0.2~30重量%、より好ましくは0.3~20重量%である。
反応温度、反応時間は特に制限はないが反応温度は0~50℃、反応時間は5分~2時間程度である。
反応後水洗し、濾過、遠心分離等で不溶物を集め、この不溶物を水洗したのち、乾燥して目的のバテライト型の炭酸カルシウムを得る。
【0008】
実施例-1
操作1.粉砕したアコヤガイ貝殻50gに濃塩酸100g撹拌しつつ2日溶解した後、遠心分離やろ過にて不溶性成分を除去した。
この液の固形分を測定した後、水で希釈して5重量%水溶液に調製した。
操作2.調製した5(W/W)%水溶液100gを撹拌しながら、17.5(W/W)%炭酸ナトリウム水溶液100gを加えた後、10分間撹拌した。
操作3.更に0.5(W/W)%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液10gを添加して、30分間撹拌した。
操作4.沈殿をろ過にてろ紙上に回収し、これを水に分散・ろ過にて回収することで水洗した。この水洗を更に2回繰り返した後、ろ紙上に残った沈殿物を105℃、2時間乾燥して白色の粉体3.2gを得た。
【0009】
比較例-1
アコヤガイ貝殻の代わりに試薬の塩化カルシウムを用いて実施例-1の操作2以下を行った。
【0010】
実施例-1と実施例の原料であるアコヤガイ貝殻の微粉砕物のX線回折を測定した。
測定には試料水平型多目的X線回析装置(Ultima4株式会社リガク社)を用いた。
その結果、図1のように実施例の原料であるアコヤガイ貝殻の微粉砕物は結晶構造がアラゴナイトとカルサイトであるが、図2に示した実施例-1はバテライトが主な結晶構造であり一部がカルサイトであることがわかった。
【0011】
また、実施例-1と比較例-1の電子顕微鏡写真を図3(実施例-1)と図4(比較例-1)に示す。
実施例-1は比較例-1と比較して粒子径の小さいより真球上の形態を示した。
また、実施例-1と比較例-1の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3100株式会社島津製作所)で測定した結果を図5(実施例-1)と図6(比較例-1)に示す。
平均粒子径(μm)は実施例-1は2.695ミクロンに対して比較例-1は6.453ミクロンであり、実施例-1の2倍以上あることがわかった。
【0012】
さらに実施例-1に関してのアコヤガイ貝殻由来タンパク質の確認を行った。
実施例-1、10gを水に分散した後塩酸を加え、再度脱灰した。この脱灰液を中和後、分子量5,000の限外ろ過装置に供して脱塩と濃縮を行ない、最終の液量を500μlに調製した。
得られたサンプルをLowry法(DCプロテインアッセイTM BIO RAD社製)にてタンパク質の定量を行なった。検量線を作成するスタンダードにはBSAを用いた。
その結果、濃縮液中のタンパク質はBSA換算で628μg/mlであることが分かった。 このことから実施例-1の10g中にアコヤガイ真珠層由来タンパク質は628μg存在することが確認された。
また、限外濃縮液に含まれるタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。電気泳動は15%アクリルアミドのプレキャストゲル(スーパーセップ エース 和光純薬工業株式会社)を使用し、電気泳動装置(イージーセパレーター、和光純薬工業株式会社)を用いて行った。分子量マーカーとして、ワイドビュー プレステインタンパク質サイズマーカー3を用いた。電気泳動終了後、Quick-CBB PLUS 和光純薬工業株式会社のプロトコールに従って染色を行った。結果を第7図に示す。
この結果により、実施例-1のバテライトに含まれる主なタンパク質がナクレイン、N16であることが示された。
【0013】
さらに化粧料、特にメイクアップ化粧料に利用した場合の利点について試験した。
1つはすべり・摩擦測定を以下の手順で行った。
1.同じ重量の試験品をそれぞれ同型のマヨネーズ瓶に入れ、同一部位に穴をあけた蓋で栓をした。パフを蓋の上に置き、パフと瓶を一緒に、一度上下逆にして、パフに試験品を付着させた。
2.試験品を付着させたパフを肌模型No.10C(20代)に10回パッティングした。
3.摩擦感テスター(KES-SE-STPカトーテック社)で肌模型を測定した。(条件設定 SPEED:1mm/sec、SENSE:High、荷重:25g)
4.肌模型をクレンジングフォームで洗浄し水分をしっかり拭き取り乾燥させた。
5.1つの試験品につき、1~4を5回繰り返した。(5回測定を行っている間はパフの洗浄をしなかった)
測定結果を図8図9に示す。
図8は平均摩擦係数(MIU)で実施例-1は元の貝殻微粉砕物と比較して平均摩擦係数が有意に低下しており、すべりがよい粉体になっていることがわかった。
なお、今回用いた貝殻微粉砕物の平均粒子径は1.873ミクロンである。
また、図9は平均摩擦係数の変動(MIU)を示し、実施例-1は元の貝殻微粉砕物と比較して平均摩擦係数の変動が有意に少なく、ザラツキが少ないことがわかった。
【0014】
さらに実施例-1と貝殻微粉砕物の変角光度計による測定を行った。
測定方法は
1.試験品0.02gを厚紙に貼り付けた3×11cm幅のテープの上にのせ、ブラシで均一に広げた。
2.変角光度計の入射角を45°に設定、厚紙を試料台にセットし、下記の測定を行った。
・試験品毎にパネルメーターを1700に設定して測定
なお、変角光度計は村上色彩技術研究所のGP-5を用いた。
その結果を図10に示す。
実施例-1は貝殻微粉砕物に比較して再帰反射光が強くなる傾向があり、メイクアップ化粧料に用いた場合、毛穴、シワ、キメの粗さといった肌の凹凸を目立たなくし、また貝殻微粉砕物を肌に塗布したときの白浮きのような現象も起こらず、自然な仕上がりにすることができる。
【0015】
以上のように真珠および/またはアコヤガイ貝殻より得られるバテライト型炭酸カルシウムは他のカルシウムを起源として作成した場合に比較して、平均粒子径が大幅に小さくなり、すべりがよく、ザラツキの少ない、テカリのない粉体が得られることがわかった。
さらに真珠および/またはアコヤガイ貝殻より得られるバテライト型炭酸カルシウムにはナクレイン等の真珠やアコヤガイ貝殻由来タンパク質が含まれ、皮膚のバリア機能の強化や抗菌性を有することも判明した。
また、真珠および/またはアコヤガイ貝殻からコンキオリン或いは加水分解コンキオリンの製造において廃棄している部分よりバテライト型炭酸カルシウムが得られることもわかった。
このように他の物質を起源とするバテライト型炭酸カルシウムに比較して、多くの有用性があることがわかった。
【0016】
メイクアップ化粧料や皮膚外用剤とする場合、水の配合が多いとバテライト型結晶構造が維持できないため、水の配合が少ない製剤に利用した方がよい。
これ以外に特に利用できる原料は制限はないので任意に組み合わせて、メイクアップ化粧料の場合ファンデーション、白粉、口紅、サンスクリーン等に利用できる。
また、メイクアップ化粧料の場合も近年、皮膚への有効性が期待されているものもあるので本願発明の真珠および/またはアコヤガイ貝殻より得られるバテライト型炭酸カルシウムはより有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アコヤガイ貝殻の微粉砕物のX線回折測定結果。 測定は試料水平型多目的X線回析装置(Ultima4株式会社リガク社)を用いた。
図2】実施例-1X線回折測定結果。
図3】実施例-1の電子顕微鏡写真。
図4】比較例-1の電子顕微鏡写真。
図5】実施例-1の粒度分布。
図6】比較例-1の粒度分布。
図7】実施例-1のアコヤガイ貝殻由来タンパク質の確認試験の電気泳動
図8】平均摩擦係数の比較。
図9】平均摩擦係数の変動の比較。
図10】変角光度計による反射光強度の比較。
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