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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】育苗用覆土材
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/15 20180101AFI20220119BHJP
   A01G 24/28 20180101ALI20220119BHJP
【FI】
A01G24/15
A01G24/28
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018071260
(22)【出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2019180255
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】596005964
【氏名又は名称】住化農業資材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】差波 武志
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-72609(JP,A)
【文献】特開2017-118844(JP,A)
【文献】特開2007-202423(JP,A)
【文献】特開平11-155309(JP,A)
【文献】特開2017-206463(JP,A)
【文献】特開平11-106305(JP,A)
【文献】特開2006-219531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に充填された育苗用培土の表面を覆う育苗用覆土材であって、
リン酸吸収係数が1200mg/100g以上で、
アンモニア態窒素が113mg/L以下である
ことを特徴とする育苗用覆土材。
【請求項2】
バーミキュライトの含有率が全体の50容積%以上90容積%以下である
請求項1記載の育苗用覆土材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は育苗用覆土材に関し、より詳細には育苗期間の長いネギ属の育苗用培土の上に覆土として好適に用いられる育苗用覆土材(以下、単に「覆土材」と記すことがある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から農園芸作業では、小容量の容器が多数個連結したペーパーポットやセルトレイなどの育苗用容器に培土を充填し、この培土に播種し、苗を集中生育させた後、この生育苗を機械を用いて移植する方法が広く行われている。
【0003】
ネギ、タマネギ、ニラ等のネギ属の苗の育成についても同様の方法が取られるが、ネギ属の育苗期間は、他の野菜と比べて長く、通常2ヶ月~3ヶ月にもなる。この間、肥切れが生じないようにするためには追肥を行う必要があり時間と労力がかかっていた。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、肥効の持続性や保水性・透水性などの改善を目的として、有機性肥料分を多く含んでいる浄水場発生土に、ゼオライト、植物質資材及び緩効性肥料を添加したネギ育苗用培地が提案されている。また特許文献2では、所定値以上の高陽イオン交換容量をもち、且つ所定値未満のpF値及び所定範囲のpF値の各水分量がそれぞれ所定範囲にある育苗培地が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-188946公号報
【文献】特開平9-65758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
育苗用培土に肥料を多く配合すれば肥効の持続性は改善されるものの、ペーパーポットやセルトレイなどの容器に多量の肥料を配合した培土を充填すると、培土表面に藻類やカビが発生しやすくなる。培土表面に藻類やカビが発生すると過湿になり、苗に病気が発生しやすくなる。また虫が発生することもある。そしてまた、培土表面の藻類によって培土への水の浸透が妨げられることがある。このような病気や虫の発生、透水性の悪化などによって苗の健全な育成が図れないことがしばしば生じる。
【0007】
本発明はこのような従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、多量の肥料が配合された培土に対する覆土材として用いた場合であっても、保肥性、保水性、透水性などを損なうことなく藻類の発生を抑制可能な覆土材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明に係る育苗用覆土材は、容器に充填された育苗用培土の表面を覆う育苗用覆土材であって、リン酸吸収係数が1200mg/100g以上で、アンモニア態窒素が113mg/L以下であることを特徴とする。
【0009】
なお、本明細書においてリン酸吸収係数とは、土壌に一定量のリン酸溶液を加えたときに、土壌100gに吸収されたリン酸(P)をmg単位で表したものをいい、具体的測定方法については後述する。またアンモニア態窒素とは、窒素成分のうちアンモニウム塩であるものをいい、アンモニア態窒素の測定方法についても後述する。
【0010】
前記構成の育苗用覆土材において、バーミキュライトの含有率が全体の50容積%以上90容積%以下である構成としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の育苗用覆土材によれば、育苗期間が長い場合であっても、保水性、透水性などを損なうことなく藻類の発生を抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る覆土材は、リン酸吸収係数が1200mg/100g以上であることが大きな特徴の一つである。リン酸吸収係数が1200mg/100g以上であることによって、育苗用培土表面の無駄なリンが吸収され、リンを栄養とする藻類の発生が効果的に抑制される。一方で、育苗用培土表面のリンのみが吸収されるので、育苗植物の生育自体には何らの影響を与えない。より好ましいリン酸吸収係数は1300mg/100g以上であり、さらに好ましいリン酸吸収係数は1500mg/100g以上である。
【0013】
本発明に係る覆土材ではアンモニア態窒素が113mg/L以下であることも重要である。後述の実施例で示すように、アンモニア態窒素が113mg/Lより大きいと本発明の効果すなわち藻類の発生を抑えることができない。
【0014】
このような本発明に係る覆土材は、基材として、例えば火山灰土壌やリン酸吸収剤、鉱物資材、植物系繊維資材などを用いることができ、これらの基材の種類及び配合比を調整することにより覆土材のリン酸吸収係数及びアンモニア態窒素を調整することができる。
【0015】
火山灰土壌としては、例えば、赤玉土や鹿沼土などが挙げられる。これらの中でも赤玉土が好適である。赤玉土は、八ヶ岳、浅間山、箱根、富士山などの噴出した火山噴出物の堆積土壌である。
【0016】
そしてまた、火山灰土壌の硬度を高くして割れや欠けを抑える観点から、火山灰土壌は温度600℃~900℃に加熱・焼成されたものでもよい。焼成によって火山灰土壌が焼き締まると共に殺菌などが図れる。
【0017】
リン酸吸収剤としては、浄水処理や水質浄化、アクアリウム、土壌改良などで用いられているもの全般を使用できる。
【0018】
鉱物資材としては、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト等が使用でき、これらの中でもバーミキュライトが好適に使用される。バーミキュライトを用いる場合、その含有率は全体の50容積%以上90容積%以下であることが好ましく、より好ましい含有率は全体の50容積%以上80容積%以下である。
【0019】
植物系繊維資材としては、ピートモス、ココナッツピート、ヤシガラピートモス、バカス、バーク等が使用でき、これらの中でもピートモスが好適に使用される。
【0020】
本発明の覆土材には、本発明の効果を害しない範囲において、界面活性剤、pH調整剤、固化剤などの従来公知の添加剤を添加してもよい。
【0021】
界面活性剤としては、例えば、石けん、硫酸化油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などのカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤;ベタイン、スルホベタインなどの両性界面活性剤など挙げることができる。
【0022】
pH調整剤としては、例えば、消石灰や生石灰、苦土石灰、炭酸カルシウムなどが挙げられる。pH調整剤などの添加剤は、界面活性剤及び固化剤と共に培土基材に添加すればよい。また、界面活性剤と固化剤とを混合して混合剤を予め作製する場合には、混合剤に添加するのがよい。
【0023】
固化剤としては、農業資材分野において通常用いられているような固化剤であれば特に限定されるものではないが、例えば、水溶性高分子化合物が好ましく、カルボキシメチルセルロース・メチルセルロース・キトサン等の糖鎖系高分子化合物、ポリビニルアルコール等のポリオール系高分子化合物、ポリ酢酸ビニル等の酢酸系高分子化合物、アラビアゴム等の天然ゴム類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸(塩)・2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(塩)・アクリルアミド等の単重合体又は共重合体であるアクリル系高分子化合物、キサンタンガム・アルギン酸等の天然高分子化合物等を挙げることができる。特に、アクリル酸(塩)とアクリルアミドとの共重合体が好ましく挙げられる。
【0024】
また、植物系繊維資材としてピートモスを用いる場合、ピートモスは、一般にpH3.5~5.5程度の酸性を有するため、消石灰や生石灰、苦土石灰、炭酸カルシウム等をさらに投入・混合してpH調整してもよい。
【0025】
2以上の資材を混合して本発明の覆土材とする場合、従来公知の混合装置を用いることができる。例えば、パドルミキサーやコンクリートミキサー、平型混合機等が挙げられる。混合条件としては、装置の種類や処理量などから適宜決定すればよい。
【0026】
本発明に係る覆土材の使用方法としては、育苗用容器に充填され播種された育苗用培土の表面に培土表面が露出しない程度に覆土材を覆い被せる。したがって、覆土材の使用量は育苗容器の大きさ(上面開口部の大きさ)によって変わる。本発明に係る覆土材が使用可能な育苗用容器の種類に限定はなく、セル、ポット、トレー、苗箱など従来公知のものに使用可能である。また、本発明の覆土材が表面を覆う育苗用培土の種類に限定はない。特に、ネギ、タマネギ、ニラなどの育苗期間の長い植物を育苗するために肥料の多く配合され藻類の繁殖しやすい育苗用培土に対しても本発明の覆土材は効果的に使用される。
【0027】
(リン酸吸収係数の測定方法)
本明細書におけるリン酸吸収係数は2.5%リン酸アンモニウム法で測定した値である。具体的にはリン酸吸収係数は次のようにして測定される。サンプルに接触試薬(pH7.0,2.5%(NH)HPO)が1:4となるよう混和し、24時間静置した後にNo.6ろ紙でろ過する。この接触ろ液を純水で希釈し、発色試薬(P-abc発色試薬)を添加し、10分間静置した後、土壌・作物体総合分析装置SFP-3(波長:420nm)で測定する。
【0028】
(アンモニア態窒素の測定方法)
本明細書におけるアンモニア態窒素は具体的には次のようにして測定される。300mL三角フラスコ(受器)に0.1N-HSO溶液10mL(A)を入れ、純水100mL、メチルレッド3~4滴を添加する。サンプル10gを1L三角フラスコにサンプル10gを取り分け、純水200mL、消泡剤を2~3滴添加し、NaOH約1gを入れる。直ちに2連トラップ球を取り付け、受器をセットし、ヒーターにかけて35~40分間蒸留する。受器を水中で冷却後、留出液を0.1N-NaOH(1mL=NH-N 1.4mgに相当)で滴定する(B)。赤色から黄色になったときを終点とする。
そして下記の計算式からアンモニア態窒素(NH-N濃度)を算出する。
サンプル中のNH-N濃度(mg/L)=((A)mL)-((B)mL)×1.4mg×100×嵩比重
メチルレッド(指示薬):0.1w/V%メチルレッドエタノール溶液(和光純薬工業社製)。
【実施例
【0029】
実施例1及び比較例1
基材としてのピートモスとバーミキュライトと赤玉土を表1に示す割合で混合し覆土材を作製した。作製した覆土材のリン酸吸収係数及びアンモニア態窒素を前記の測定方法で測定した。また作製した覆土材について下記の藻類発生程度評価を行った。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0030】
(藻類発生程度評価)
底に穴が5か所形成された容積50mL(高さ3cm)のプラスチック製の容器に、まずネギ用育苗培土(「N-800太」住化農業資材社製)を詰めて5回タッピングし37.5mL(高さ2.25cm)となるよう調整し、その上に実施例及び比較例で作製した覆土材を12.5mL(高さ0.75cm)かぶせ擦切り一杯とした。
そのように調整した容器を各試験区5個ずつハウスに置き、21日間潅水を行い、藻類発生程度を下記基準で点数化し、容器5個の平均点数を藻類発生程度の指標とした。平均点数の低い方が藻類の発生が少なく、平均点数の高い方が藻類の発生が多いことを意味する。なお、表1~表3に示す評価試験は各々異なる期間で行ったため、温度・湿度などの環境条件が異なっており、藻類発生程度評価の点数は同一表内でのみ比較可能である。
1点:無し
2点:少し
3点:中程度
4点:やや多い
5点:かなり多い
【0031】
【表1】
【0032】
表1から明らかなように、リン酸吸収係数が1342mg/100g、アンモニア態窒素が23mL/gである実施例1の覆土材では藻類発生程度は1.2であった。これに対してリン酸吸収係数が778mg/100gと低い比較例1の覆土材では藻類発生程度は2.6と実施例1の覆土材に比べて高く藻類の発生が多かった。
【0033】
実施例2及び比較例2
基材としてのピートモスとバーミキュライトと赤玉土を表2に示す割合で混合し、硝酸アンモニウムを表2に示す量を添加して覆土材を作製した。作製した覆土材のリン酸吸収係数及びアンモニア態窒素は前記の測定方法で測定した。また作製した覆土材について下記の藻類発生程度評価を行った。測定結果及び評価結果を表2に示す。
【0034】
(藻類発生程度評価)
底に穴が5か所形成された容積50mL(高さ3cm)のプラスチック製の容器に、まずネギ用育苗培土(「N-800太」住化農業資材社製)を詰めて5回タッピングし37.5mL(高さ2.25cm)となるよう調整し、その上に覆土としてサンプルを12.5mL(高さ0.75cm)かぶせ擦切り一杯とした。
そのように調整した容器を各試験区5個ずつハウスに置き、11日間潅水を行い、藻類発生程度を下記基準で点数化し、容器5個の平均点数を藻類発生程度の指標とした。平均点数の低い方が藻類の発生が少なく、平均点数の高い方が藻類の発生が多いことを意味する。
1点:無し
2点:少し
3点:中程度
4点:やや多い
5点:かなり多い
【0035】
【表2】
【0036】
表2から明らかなように、リン酸吸収係数が1676mg/100g、アンモニア態窒素が113mg/Lである実施例2の覆土材では藻類発生程度は2.8であった。これに対してアンモニア態窒素濃度が153mg/Lと高い比較例2の覆土材では藻類発生程度は4.0と実施例2の覆土材に比べて高く藻類の発生が多かった。
【0037】
実施例3~5及び比較例3
基材としてのピートモスとバーミキュライトと赤玉土を表3に示す割合で混合し覆土材を作製した。作製した覆土材のリン酸吸収係数及びアンモニア態窒素は前記の測定方法で測定した。また作製した覆土材について下記の藻類発生程度評価を行った。測定結果及び評価結果を表3に示す。
【0038】
(藻類発生程度評価)
底に穴が5か所形成された容積50mL(高さ3cm)のプラスチック製の容器に、まずネギ用育苗培土(「N-800太」住化農業資材社製)を詰めて5回タッピングし37.5mL(高さ2.25cm)となるよう調整し、その上に覆土としてサンプルを12.5mL(高さ0.75cm)かぶせ擦切り一杯とした。
そのように調整した容器を各試験区5個ずつハウスに置き、21日間潅水を行い、藻類発生程度を下記基準で点数化し、容器5個の平均点数を藻類発生程度の指標とした。平均点数の低い方が藻類の発生が少なく、平均点数の高い方が藻類の発生が多いことを意味する。
1点:無し
2点:少し
3点:中程度
4点:やや多い
5点:かなり多い
【0039】
【表3】
【0040】
表3から明らかなように、リン酸吸収係数が846mg/100gと低い比較例3の覆土材では藻類発生程度は3.0であった。これに対して、リン酸吸収係数及びアンモニア態窒素が本発明の規定範囲内である実施例3~5の覆土材では、藻類発生程度が2.6,1.0,1.2といずれも比較例3の覆土材よりも藻類発生程度が低かった。また、バーミキュライトが30容積%である実施例3の覆土材よりもバーミキュライトが50容積%及び80容積%と高い実施例4及び実施例5の覆土材の方が藻類発生程度はより低くかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の覆土材は、育苗期間が長い場合であっても保水性、透水性などを損なうことなく藻類の発生を抑制すること可能であり有用である。